収量・品質安定のための...
TRANSCRIPT
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~現場でよくある事例~
発行:空知南西部地区農業推進対策協議会
編集:空知南西部地区農業改良普及センター
30℃~32℃
水稲育苗の心得水稲育苗の心得水稲育苗の心得収量・品質安定のための収量・品質安定のための収量・品質安定のための
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健苗育苗から ‥‥‥‥‥‥‥1
苗素質別に生育調査した結果は ‥‥‥‥‥‥‥ 2
ずんぐりした苗づくり ‥‥‥‥‥‥‥ 4
育苗の温度・水管理 ‥‥‥‥‥‥‥ 4
育苗緩効性肥料(ロング肥料)のススメ ‥‥‥‥‥‥‥ 6
適正な一株本数と栽植密度 ‥‥‥‥‥‥‥ 8
成苗ポットの「ほしのゆめ」「ななつぼし」の育苗 ‥‥‥‥‥‥‥ 9
縁苗防止 ‥‥‥‥‥‥‥ 10
苗床砕土性不良と密着不足 ‥‥‥‥‥‥‥ 11
床土づくり‥‥‥‥‥‥‥ 13
温湯消毒について ‥‥‥‥‥‥‥ 14
CONTENTS
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米づくりは、昔から「苗半作」と言われており、育苗の失敗は精神的・経済的にも大きなダメージになります。初期生育の不良地帯では、苗の良否が収量・品質に大きく影響します。
健苗育成から
軟弱苗 初期生育不良 収量・品質の低下
●苗の発根調査
苗の充実度により、発根力に大きな差がでます。
苗の根を切り水中に
12日後
苗によって発根量に大きな差
軟弱苗:発根量が極端に少ない
健全苗:発根量・長さとも非常に多い
こんなに根の量に差がでるとはね
管理をしっかりやらないと後がたいへん!
軟弱苗:乾物重が軽く、弱々しい苗健全苗:乾物重が重く、ずんぐりした苗
悪い 良い
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苗素質別に生育調査した結果は苗の善し悪しで収量・品質にどれくらい差がでるか同じほ場で生育調査を行いました(2005年 空知南西部FC)。
発根調査で大きな差が!
軟弱苗は活着が遅れ、根量も少なかった。
340
258
100
200
300
400
健全苗 軟弱苗
(本/㎡)
初期生育
移植後
2週間
健全苗 軟弱苗
健全・軟弱苗を5月24日に移植
6月6日
6月25日
初期生
育は
分げつ3本
健全苗 軟弱苗
分げつ5本
3
45
34
5
2 1葉分げつ
軟弱苗は分げつ本数が2本少ない
発根調査12日後
健全苗 軟弱苗
健全苗 軟弱苗
●移植時の苗を発根調査
ほ場での根の差は
軟弱苗は初期茎数で少ない
分げつは
●根の状態は
●分げつ本数は
-
491
548
6.6
7.0
400
450
500
550
600
650
健全苗 軟弱苗5.5
6
6.5
7収量蛋白値
(kg/10a) (%)
収量・蛋白値
軟弱苗は出穂期で3日遅れ
収量・
品質は
693
641
500
600
700
健全苗 軟弱苗
(本/㎡)
穂数は
収量で57kg減、蛋白値は0.4%高かった
軟弱苗は穂数も少ない
出穂期は
3葉からの高温管理に気をつけよう
荒い耕起は、生育不良の原因に
水やりは、午前中に終わらせよう
ご苦労様の一言で夫婦円満
透かして、ハウスの中は適温に
3
ア
ミ
ゴ
ス
育苗の心得は、家族仲良く(3アミゴス)仕事することが大事ですね!
家族で仕事するから「ゴ」が大事だね~
苗の差
軟弱苗
活着不良
初期生育不良
収量・品質低下
8月2日
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ずんぐりした健全苗づくり
ずんぐり苗(太くて草丈の短い苗)
初生葉は緑色
2.5cm以下
茎は太く葉色は濃い
腰の太い苗づくり出芽から1葉展開までの「3日間」の温度管理で腰の太い苗が決まる。ハウス適温白い芽が70%見えたら被覆資材を除去します。1葉までハウス適温は22~25℃で25℃以上にならないように換気する(徒長苗に注意する)。根の発根を高める1~2葉ぐらいまでの間は、かん水を控えめにし、根の発育をはかる。2.5葉期以降栄養向上適湿に保ち、栄養不足にさせない。初生葉や第1葉が黄化したら栄養不足です。マット・ポットとも追肥を的確に行う。
ずんぐりした太い苗は、でんぷんが蓄積され、移植時のショックに耐えられます。また、短い苗は葉数の展開が早いため、移植後速やかに活着根が伸び、分げつが始まります。
1葉
2葉
3葉4葉
第一分げつ
育苗の温度・水管理
出芽揃いまで
籾位置30℃~32℃
ハウス温度35℃以下
30℃~32℃
温度計は葉先の近くで測定する
生育ステージによって最適な温度・水管理に心がけましょう。
育苗様式草丈
(cm)葉令
(葉)乾物重
(100本/g)
成苗ポット 10~12 3.6~4.3 3.0以上
2.0以上中苗マット 10~13 3.1~3.8
移植時の苗の目標
管理の要点:二重被覆で保温、適水分を保つ。
出芽期に低温日照不足が続く場合は、シルバーポリ
は昼間所期する。
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昼間 夜間
18℃~22℃ 10℃以上
晴天時は早朝より肩・裾換気
出芽揃い~1.5葉期
昼間 夜間
20℃~25℃ 10℃以上
肩換気が基本、高温時は裾換気
極端な低温管理は後半の草丈が伸びない
1.5葉~3.0葉期
管理の要点:過湿にしない、適乾燥化で根を伸ばす。
高温・過湿管理はしない(立枯病、褐条病防止)。
かん水は早朝、葉先に水滴が少ない場合、たっぷりやる。
管理の要点:高温を避けて、徒長防止に努める。
早生品種はバカ穂になる事があるため、2.5葉期以降は25℃以上高温にしない。
3.0葉期~移植まで
かん水管理
昼間 夜間
18℃~外気温
管理の要点:昼夜とも肩・裾を大きく開放し外気温に苗を馴らす。
この時期は箱内を適湿に保ち乾燥させない。
苗の栄養向上のため追肥を行う。
①早朝、葉先に水滴が少なくなった時。日中、葉身の展開が悪くなった時。
②晴天日の早朝に、一度に十分かん水し床土全体を浸透させる。少量で回
数が多いと過湿を招き、逆効果。
③午前10時頃までに終らせるのがベスト。その後地温上昇が期待できる。
夜間も開放。霜の恐れのある日は閉める
1回目 1.0~1.52回目 2.0~2.5
3回目 移植直前
中苗マットの追肥時期
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育苗緩効性肥料(ロング肥料)の効果
中苗マットで緩効性肥料(エコロング424-100日タイプ)の施用は一部で行われていますが、混和作業を行わない生産者にはほとんど普及していない状況でした。近年、播種と同時に散布できる機械が提供できるようになったため、ここで紹介いたします。
機械散布が可能に! 箱当たり50g施用
慣行区:追肥のタイミングが遅れ、窒素不足
ロング区:葉色は濃く充実している 左(ロング):発根が早い
●H17年の試験結果は!
苗乾物重
2.42.42.5
3.03.0 3.13.33.33.5
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
A B C
慣行ロング
●苗質の向上ロング肥料施用で、苗の乾物重が重くなり発根も早くなりました。
●注意点草丈が伸びる傾向があるので、温度管理には注意が必要です。
●中苗マット
●メリット○追肥不要○早期活着○初期生育向上●デメリット○コスト高(400円/10a)
●苗質は
(100本/g)
-
471 475454
509
434454
350
400
450
500
550
A B C
慣行ロング
7.16.9
7.47.1
8.88.6
6.5
7.0
7.5
8.0
8.5
9.0
A B C
慣行ロング
収量 蛋白値
●収量・蛋白値は!
ロング肥料施用で、苗の乾物重が重く、発根も早くなりました。さらに、収量も増加・蛋白値も低下傾向でした。安定生産技術としては非常に有効な技術です。機械の経費がかかりますが、是非導入を考えて見てください。
緩効性肥料(マイクロロング424-80日タイプ)はまだ試験段階です。中苗マットと同様な結果が期待できますが、マットよりコスト高(1240円/10a)です。
●成苗ポット
ロング 慣行 ロング 慣行 ロング 慣行
3.43.4 3.5
4.44.4 4.5 4.54.54.6
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
A B C
慣行ロング
485
523
485 485
407425
350
400
450
500
550
A B C
慣行ロング
8.3
7.7 7.67.4 7.4 7.3
6.5
7.0
7.5
8.0
8.5
9.0
A B C
慣行ロング
収量 蛋白値苗乾物重
苗質向上 初期生育向上活着良好
概ね、良い結果がでましたが、一部で肥料焼け症状が発生し、苗のバラツキが出たため、普及できる段階まで試験を継続していきます。
(kg/10a) (%)
(%)(kg/10a)(100本/g)
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適正な一株本数と栽植密度について
一株本数(粒数)と栽植密度の見直しで収量・品質を安定させましょう。
469
505
536558
400
450
500
550
600
3本 4本 3本 4本
●一株本数:4本●栽植密度:13cm(77株/坪)
14cm 13cm(71株/坪) (77株/坪)
461
497518
538
400
450
500
550
600
4本 5本 4本 5本
最適な栽植密度により●初期茎数の確保●幼穂形成期(7月3日頃)まで600本/㎡確保(成苗ポット25.7本/株、中苗マット23.7本/株)●収量・品質安定
一株本数 株間 本数/ ㎡
3本植 14cm(71株/坪) 65本
4本植 14cm(71株/坪) 87本
3本植 13cm(77株/坪) 70本
4本植 13cm(77株/坪) 93本
一株本数 株間 本数/ ㎡
4本植 12.5cm(80株/坪) 70本
5本植 12.5cm(80株/坪) 121本
4本植 11.5cm(85株/坪) 105本
5本植 11.5cm(85株/坪) 132本
(kg/10a) (kg/10a)成苗ポット 中苗マット
密植で収量が増えるわよ!
※一株本数=粒数
●一株本数:5本●栽植密度:11.5cm(85株/坪)
12.5cm 11.5cm(80株/坪) (85株/坪)
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成苗ポットの「ほしのゆめ・ななつぼし」育苗●育苗の注意点
14.5
16.616.2
10.0
12.5
15.0
17.5
20.0
きらら397 ほしのゆめ ななつぼし
草丈を伸ばさない
徒 長 苗●分げつ発生が遅い●植傷みしやすい●深植になりやすい
ほしのゆめ
きらら397
0
2
4
6
35日 40日 45日
きらら397ほしのゆめ
バカ穂をださない
バ カ 穂●穂数が極端に減る●穂揃いが悪い●着色粒になる
●若苗移植のススメ
458450
441
388
350
400
450
500
3.6 4.1 4.3 4.6
移植時の葉令と収量
若 苗 移 植●活着早い●初期生育向上●収量・品質安定
●対策過かん水しない朝・夕の換気を徹底
●対策2.5葉期以降25℃以上にしない高温時には軽いかん水で温度低下
(cm) (%)
若苗を移植することで活着・初期生育の向上により、収量・品質が安定します。「きらら397」よりは5日程度育苗日数を短縮しましょう。
●3.6葉で移植を開始する●活着根が出る4.3葉までに移植を終える●育苗日数は35~40日が目安
ななつぼし
葉令
(kg/10a)
品種:ほしのゆめ
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縁苗防止「縁苗」の生育不良や葉令不足は地温低下よる出芽遅延が主な要因であることから、次の対策を参考にしてください。
●ビニールハウスの裾二重被覆
いらなくなった透明ポリを下から30cm程度内側からはわします。外からの風を防止し、温度低下を防ぎます。
●縁苗育成ネット
箱設置後、ハウス縁側を被覆します。かん水時は除去する必要はありません。保水・保温効果はあり、縁苗ができにくいです。
縁苗:葉色は淡く、徒長中央部:しっかりした苗
●縁側の砕土性と鎮圧の向上
砕土性と鎮圧の不備により、生育が不揃いになる事例も多く見受けられます。鎮圧をしっかり行うことで、縁苗がまったくでなかった事例もあります。
注意点
除去が遅れると軟弱苗になりやすため、早めに(2.5葉頃)に除去が必要。
縁苗部分がよく締まっている生育良
縁苗部分の密着が悪いため縁苗は生育不良
風防止 温度低下防止
鎮圧不備 生育不良
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苗床の砕土性不良と密着不足成苗ポットで一番多い生育不良の原因は砕土性不良と密着不足が上げられます。床土が乾かないまま砕土するとゴロゴロのままでポットを並べるため、隙間ができ1.5葉期以降、急激に生育停滞します。
生育不良 砕土性不良
●砕土性不良
●密着不足
鎮圧をしっかり行うことで、生育にバラツキがなくなります。
70kg鎮圧 150kg鎮圧
ボコボコ大きい ボコボコ小さい
お父さんにしっかり踏ませないと!
焦らないで乾いてから起こさないとね。
●砕土性が同じでも鎮圧の重量で密着度は大きく差がでます。
●踏み込み板を箱の大きさより小さい方が体重がかかりやすい。
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●砕土性不良の対策
1.5葉期以降に不規則的に生育停滞します。根が床土にしっかり入らないため、水分・栄養不足になり枯死する場合もあります。
●応急的な対策
水分補給
栄養補給
生育が停滞した部分にかん水を多めにやることです。特に晴天になった日は、苗の様子を観ながら午後でもかん水が必要な場合があります。
約5日間隔で追肥を行います。また、植物活性剤と併用することで効果が倍増します。
●長期的な対策
砕土性改善
有機物補給
しっかりと床土が乾いてから、耕起することが大事です。そのためには●育苗後に心破、●ハウスとの間に明きょ、 ●融雪を早くすることが必要です。
毎年、有機物を投入し床土をフカフカしていきます。
肥料名(施肥量/箱)●NP(7g)●硫安(5g)●育苗液肥(200倍液 500ml)
無散布 植物活性剤散布
植物活性剤追 肥
心破で手入れ育苗後
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床土づくり床土づくりは、健苗育成にはかかせません。時間がかかりますが、少しづつ改善していきましょう。
●保水力が高く排水のフカフカな土を作りましょう
時 期:6月上旬(田植後早めに
播種量:90坪当たり5kg程度(全面まき)
覆 土:1~1.5cm程度
※鋤込みは水稲防除の前にしましょう。
●エン麦の播種
●砕土が悪い場合は堆肥を施用
散布量:300坪当たり1~2トン
床土が乾いた状態で均一に散布
散布後にロータリー耕起
●pH測定は秋まで必ず実施しましょう。
土の採り方
10cmハウス内通路を除いた3ヵ所から作土10cmを採り、土は混ぜて乾燥させる。
下げるための量土量 土性
0.1 0.5 1.0
90 180
210
240
105
120
18
壌 土 21
埴壌土 24
砂壌土一坪当り
作土
10cm
●pHが高い場合:イオウ粉の施用 ● pHが低い場合:タンカルの施用
1400
1120
840
1.0
700
560
420
0.50.1
140埴壌土
112壌 土
84
上がるための量
砂壌土一坪当り
作土
10cm
土性土量
表面を少し削る
ハウス内
通路
正常 リン酸過剰
-
温湯消毒について安全で環境にやさしい米づくりには「温湯消毒」が欠かせなくなりました。ここでは、初めて作業を行う方に作業の流れを紹介します。
袋詰め
熱湯消毒YSー500L
冷却
浸種・催芽へ
60℃まで温度を上げるまで1時間以上時間がかかるので事前準備が必要
60℃、10分間熱湯殺菌
平らになるように入れる
揺らしながらセット
終了のブザーが鳴ったら素早く籾を冷やす
通常の浸種催芽作業へ移行する
発芽率の低下の原因●濡れた籾●冷却の遅れ(時間がオーバー)●割籾が極端に多い籾
●作業の流れ
YSー500L場合:乾籾8kg×2袋種籾をアミ袋に入れすぎないようにする(16kg以下)
-
75
80
85
90
95
100
ほしのゆめ あやひめ
熱湯時間が及ぼす影響
●熱湯時間が伸びると発芽率は低下●薬剤使用で発芽率は低下する
●処理温度が発芽率に及ぼす影響
84
88
92
96
100
割籾 非割籾
割籾が及ぼす影響
●割籾は発芽率が低下傾向
無処理
品種:ほしのゆめ
●熱湯時間は60℃、10分間を厳守●良質な種籾を使用(塩水選を行う)
●各種種子が伝染性病害に対する効果
処理温度・時間・対照薬剤 いもち病 ばか苗病 褐条病 苗立枯細菌病
85.1 99.6
99.8
96.4
80.9
95.0
100
100
100
60℃10分(%) 99.8
60℃15分(%) 99.8
対)モミガードC水和剤(%) 99.1
(平成15年普及奨励ならびに指導参考事項より抜粋)
●いもち病・ばか苗病・苗立枯細菌病は薬剤処理と同等の効果●褐条病は薬剤処理と比べて低い~無い
60℃
15分
60℃
10分
無処理
(平成15年普及奨励ならびに指導参考事項より抜粋)
60℃
15分
(%) (%)
-
For your success
参考文献
・水稲育苗マニュアル育苗Eye’s 上川中央地区農業改良普及センター
・美唄の低蛋白米作り JAびばい
・平成15年普及奨励ならびに指導参考事項 北海道農政部