導電性インク複合機を用いたマルチタッチパターン生成手法 ·...

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情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 導電性インク複合機を用いたマルチタッチパターン生成手法 加藤 邦拓 1 宮下 芳明 1,2 概要:本稿では,導電性インク複合機を用いたマルチタッチパターン生成手法を提案する.複数の導電部 を印刷したインタフェースを静電容量式タッチパネルに押さえつけることで,マルチタッチイベントを発 生させる.ユーザは印刷された複数の導電部の内,1 箇所以上に触れることで,全ての箇所で同時にタッ チイベントを発生させることができる.導電部同士を繋ぐ線を極力細く印刷することで,任意の箇所での みタッチイベントを発生させることを可能とした.また,印刷した導電部の幅や大きさと認識精度につい ての実験を行い,本提案手法を応用したシステム (スマートフォンのコピーによる制作,ファックスによる 伝送,折り紙インタフェースなど) を実装した. Generating Technique of Multi-Touch Pattern Using the All-in-One Inkjet Printer with Conductive Ink Kunihiro Kato 1 Homei Miyashita 1,2 Abstract: In this paper, we describe the generating technique of multi-touch pattern using the all-in-one inkjet printer with conductive ink. This technique enables users to generate multi-touch events against a capacitive multi-touch display; they use paper cards that are printed a number of points with conductive ink. The user, by touching one or more areas within the touch points, can make their touch detectable by all the touch points. By making the line linking the touch points as thin as possible, the touch can be made detectable only on the touch points and not the lines. Furthermore, we experimented on the recognition ac- curacy of the interface that are painted conductive points. And, we implement the system that was applied our technique. 1. はじめに 近年,タブレット端末やテーブルトップ環境などディス プレイ平面上において,実物体を用いたインタフェースの 研究が盛んに行われている.これらの研究の中には,静電 容量式マルチタッチディスプレイを使用し,静電容量の変 化によって物理インタフェースの認識を行っているものが ある.こうした研究で使用される物理インタフェースは, アクリルなどを加工した物を使用したり,認識のためにイ ンタフェース自体に金属箔を貼り付けたりと,作成する ことに手間がかかってしまうことがある.実物体を加工・ 1 明治大学大学院理工学研究科新領域創造専攻ディジタルコンテン ツ系 Program in Digital Contents Studies, Programs in Fron- tier Science and Innovation, Graduate School of Science and Technology, Meiji University 2 独立行政法人科学技術振興機構, CREST JST, CREST 制作する手段として,レーザーカッターや 3D プリンタと いったラピッドプロトタイピングに用いられる機器の使用 が挙げられる.しかし,これらの機器は高額な物が多く, 現在でも広く一般に普及しているとは言えない. ラピッドプロトタイピングに用いられる手段として今 日,導電性インクが注目を集めている.導電性インクは一 般的な家庭用のプリンタに導入して使用可能であるという 利点があり,印刷によって容易に回路を作成可能なことか ら,基板やセンサなどのプロトタイピングとして使用され ることが多い. 本稿では,導電性インクによるラピッドプロトタイピン グに着目し,導電性インク複合機を用いたマルチタッチパ ターン生成手法を提案する.静電容量式マルチタッチディ スプレイ上で使用可能なインタフェースを印刷するだけで 容易に作成することができる (1).ユーザは複数のタッ c 2014 Information Processing Society of Japan 1

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Page 1: 導電性インク複合機を用いたマルチタッチパターン生成手法 · するマルチタッチパターンとして,2 箇所のタッチ入力部 とそれらを繋ぐ接続部の幅0.5~4.0mm(0.5mm

情報処理学会研究報告IPSJ SIG Technical Report

導電性インク複合機を用いたマルチタッチパターン生成手法

加藤 邦拓1 宮下 芳明1,2

概要:本稿では,導電性インク複合機を用いたマルチタッチパターン生成手法を提案する.複数の導電部を印刷したインタフェースを静電容量式タッチパネルに押さえつけることで,マルチタッチイベントを発

生させる.ユーザは印刷された複数の導電部の内,1箇所以上に触れることで,全ての箇所で同時にタッ

チイベントを発生させることができる.導電部同士を繋ぐ線を極力細く印刷することで,任意の箇所での

みタッチイベントを発生させることを可能とした.また,印刷した導電部の幅や大きさと認識精度につい

ての実験を行い,本提案手法を応用したシステム (スマートフォンのコピーによる制作,ファックスによる

伝送,折り紙インタフェースなど)を実装した.

Generating Technique of Multi-Touch PatternUsing the All-in-One Inkjet Printer with Conductive Ink

Kunihiro Kato1 Homei Miyashita1,2

Abstract: In this paper, we describe the generating technique of multi-touch pattern using the all-in-oneinkjet printer with conductive ink. This technique enables users to generate multi-touch events against acapacitive multi-touch display; they use paper cards that are printed a number of points with conductiveink. The user, by touching one or more areas within the touch points, can make their touch detectable byall the touch points. By making the line linking the touch points as thin as possible, the touch can be madedetectable only on the touch points and not the lines. Furthermore, we experimented on the recognition ac-curacy of the interface that are painted conductive points. And, we implement the system that was appliedour technique.

1. はじめに

近年,タブレット端末やテーブルトップ環境などディス

プレイ平面上において,実物体を用いたインタフェースの

研究が盛んに行われている.これらの研究の中には,静電

容量式マルチタッチディスプレイを使用し,静電容量の変

化によって物理インタフェースの認識を行っているものが

ある.こうした研究で使用される物理インタフェースは,

アクリルなどを加工した物を使用したり,認識のためにイ

ンタフェース自体に金属箔を貼り付けたりと,作成する

ことに手間がかかってしまうことがある.実物体を加工・

1 明治大学大学院理工学研究科新領域創造専攻ディジタルコンテンツ系Program in Digital Contents Studies, Programs in Fron-tier Science and Innovation, Graduate School of Science andTechnology, Meiji University

2 独立行政法人科学技術振興機構, CREST JST, CREST

制作する手段として,レーザーカッターや 3Dプリンタと

いったラピッドプロトタイピングに用いられる機器の使用

が挙げられる.しかし,これらの機器は高額な物が多く,

現在でも広く一般に普及しているとは言えない.

ラピッドプロトタイピングに用いられる手段として今

日,導電性インクが注目を集めている.導電性インクは一

般的な家庭用のプリンタに導入して使用可能であるという

利点があり,印刷によって容易に回路を作成可能なことか

ら,基板やセンサなどのプロトタイピングとして使用され

ることが多い.

本稿では,導電性インクによるラピッドプロトタイピン

グに着目し,導電性インク複合機を用いたマルチタッチパ

ターン生成手法を提案する.静電容量式マルチタッチディ

スプレイ上で使用可能なインタフェースを印刷するだけで

容易に作成することができる (図 1).ユーザは複数のタッ

c⃝ 2014 Information Processing Society of Japan 1

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チポイントを印刷したインタフェースを静電容量式タッチ

ディスプレイ上に押さえつけることでマルチタッチを発生

させる.この際ユーザは印刷されたタッチポイントの内 1

箇所以上に触れることで,全ての箇所においてタッチイベ

ントを発生させることができる.また複合機を用いること

で,作成したマルチタッチパターンをスキャナで複製する

など様々な応用例が考えられる.

以下,2 章で提案手法について述べる.3 章で提案手法

の評価実験について述べる.4 章で提案手法の応用例につ

いて述べ,5 章でまとめと展望について述べる.6 章で関

連研究について述べる.

図 1 複合機を用いたマルチタッチインタフェースの印刷

2. 提案手法

本提案手法では,導電性インク複合機を用いることで,印

刷用紙に導電部を印刷しインタフェースを作成する.ユー

ザは静電容量式マルチタッチディスプレイ上に印刷したイ

ンタフェースを接触させ,マルチタッチを発生させる.

2.1 導電性インクによるインタフェースの印刷

導電性インクを導入したインクジェットプリンタ複合

機によって印刷しインタフェースを作成する.導電性イ

ンク複合機の環境構築は,Kawahara らの Instant Inkjet

Circuitsを参考に行った [1].導電性インクには三菱製紙社

製 銀ナノ粒子インク (NBSIJ-MU01)を使用する.本研究

では,複合機には Brotherインクジェット複合機 (PRIVIO

DCP-J540N) を使用しているが,詰め替え用の空カート

リッジが使用可能であれば,他機種のプリンタでも使用可

能であると考えられる.印刷に使用する用紙は,フォト用

紙などのような光沢紙や光沢フィルムを使用する必要があ

る.印刷の設定や紙の品質によっては導電性が得られない

場合もあるため,印刷の際には高品質設定で印刷をするこ

とが望ましい.また,原理は確認できていないが,導電性

が得られなかった際,印刷直後に印刷面全体を強くこする

ことで導電性が得られる場合があることを確認した.

2.2 マルチタッチパターンの生成

印刷した導電部は,タッチイベントを発生させる部分

(以後,タッチ入力部)と,それら同士を接続する部分 (以

後,接続部) からなる (図 2左).ユーザは,印刷したインタ

フェースを印刷面を上にして静電容量式マルチタッチディ

スプレイに乗せて使用する.ディスプレイ上に置いた状態

では,導電部は接地されないためタッチイベントは発生し

ない.ユーザがタッチ入力部のいずれか 1点以上に触れる

ことで導電部が接地され,全てのタッチ入力部において同

時にタッチイベントを発生させることができる (図 2右).

印刷したタッチ入力部の配置パターンによって使用され

ているインタフェースの識別を行う.パターンごとに異

なった機能のシステムを割り当て,インタフェースをディ

スプレイに押さえつけることで,それらの機能を呼び出す

ことができる.

図 2 擬似的なマルチタッチの生成

2.3 タッチイベント発生箇所の制御

紙のように薄い素材であれば,ディスプレイに重ねた上

からタッチした場合でもタッチイベントを発生させること

ができる.これを利用し,本提案手法ではインタフェース

の印刷面を直接ディスプレイに接触させずにタッチイベン

トを発生させることができる.また,印刷する導電部の大

きさを変えることによって,タッチイベントを発生させる

箇所を制御することができる.接続部をできる限り細くす

ることで,タッチ入力部でのみタッチイベントを発生させ

ることが可能となる (図 3).

3. 実験

印刷した導電部における接続部の幅と,タッチ入力部の

大きさの違いによる認識精度を評価する実験を行った.

3.1 実験 1: 接続部の幅について

まず始めに,接続部においてタッチイベントを発生させ

ないために必要な幅についての調査を行った.実験に使用

するマルチタッチパターンとして,2箇所のタッチ入力部

とそれらを繋ぐ接続部の幅 0.5~4.0mm(0.5mm刻み合計

8パターン)を印刷したインタフェースを用意した.

被験者に各パターンのタッチ入力部の内 1箇所をタッ

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図 3 タッチイベント発生箇所の制御

チさせ,誤認識の発生の有無を記録する.試行回数は各パ

ターンにつき 20回ずつとする.認識の判定は,2点以上

もしくはそれ以下のタッチ入力数が認識された場合を誤認

識とする (図 4).

被験者は大学生および大学院生の 3名,実験環境には

Microsoft Surfaceを用いた.カードの 2箇所のタッチ入力

部は,人間の指程度の大きさとして直径 10.0mmに設定し

た.全てのカードにおいて確実に導電性を持つマルチタッ

チパターンを印刷するため,印刷用紙には三菱製紙製 銀

ナノ粒子インク専用紙 (NB-TP-3GU100)を用いた.また,

印刷した導電部がディスプレイから浮かないようにするた

め,カードの両端を平らな物体で押さえつけた状態で実験

を行った.

図 4 マルチタッチパターンの正常認識 (左) と誤認識 (右)

実験結果

実験結果から,接続部の幅ごとの認識精度を求めた.接

続部の幅が広くなるに連れ,認識精度が低くなっているこ

とが分かる (図 5).幅 0.5mmでは誤認識は一度も発生して

おらず,1.0mmでも 90%以上の精度となった.幅 0.5mm

未満であっても,誤認識を起こさずにインタフェースの使

用が可能であると考えられるが,プリンタの精度や,印刷

用紙の質によっては導電性が得られなくなる可能性がある

ため,本手法においては 0.5~1.0mm程度の幅が適切であ

ると考えられる.

図 5 実験 1 接続部の幅による認識率

3.2 実験 2: タッチ入力部の大きさについて

次に,タッチ入力部の大きさによる認識率の調査を行っ

た.実験に使用するマルチタッチパターンとして,6箇所

のタッチ入力部と,それらを繋ぐ接続部を印刷したイン

タフェースを用意する (図 6).タッチ入力部の大きさ直径

3.0~10.0mm(0.5mm刻み合計 15パターン)とした.

被験者は,印刷されたタッチ入力部を 1 箇所ずつ順に

タッチしていく.この際に,被験者が指で直接触れたタッ

チ入力部以外の箇所で,タッチ入力を認識した数を記録す

る.試行回数は各パターンにつき 20回ずつとし,認識の

判定はユーザが指で触れている箇所を除いた 5箇所全てで

同時にタッチ入力を認識した場合を認識成功とする.

実験環境,被験者は実験 1と同様であり,接続部の幅は

実験 1の結果から最も精度の高かった 0.5mmに設定し実

験を行った.

図 6 実験 2 で使用したマルチタッチパターン

実験結果

実験結果から,各タッチ入力部の大きさごとのタッチ入

力認識箇所数の平均を求めた (図 7).タッチ入力部の大き

さが直径 6.0mm以上であれば,高い精度でマルチタッチ

を認識でき,直径 8.0mm以上であればほぼ確実に全ての

点でマルチタッチを発生させることができることが分かる.

実験を行った全てのパターンにおいて,最低一度以上はマ

ルチタッチを発生できており,直径 6.0mm未満であって

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も,精度は良くないがマルチタッチを発生させることは可

能であるという結果となった.これは,タッチ入力部の大

きさが小さいほどインタフェースのゆがみ等の影響によっ

てディスプレイに接触する箇所が少なくなってしまうこと

が原因であると考えられる.

図 7 実験 2 タッチ入力部の大きさごとの認識個数

4. 応用例

本提案手法を用いることで,印刷したマルチタッチパ

ターンを複数用意し,それらに対しそれぞれ異なった機能

を持たせることができる.また,応用例としてタッチ入力

部を接続したマルチタッチパターンの他に,接続を行わず

独立したタッチ入力部を一つのインタフェース内に印刷

し,機能の拡張をすることが可能である.接続されたマル

チタッチパターンによってカードの識別を行い,残りの接

続されていない箇所を追加でタッチすることで,複数の機

能を使い分けるなどといった使用法が考えられる.

4.1 システム応用例

システム応用例として,カードインタフェースを用いた

複数コンピュータ間コピー&ペーストシステムを試作した.

本システムは,7箇所のタッチ入力部を持つカードを使用

する.このタッチ入力部の内,4箇所を接続部によって繋

ぎ,残り 3箇所は繋がずにおく.接続された 4箇所の配置

パターンによってカードの識別を行う.ユーザはコピーし

たい情報を選択した状態で,接続された 4箇所の内 1箇所

以上を抑えながらカードを使用する.ユーザは接続されて

いない残りの 3箇所をタッチすることで情報を操作する機

能をコピー,カット,ペーストの中からを選択することが

できる (図 8).また,カード中央の枠内に,現在クリップ

ボード内に記録されている情報を表示する.異なるマルチ

タッチパターンが印刷されたカードはそれぞれが異なるク

リップボードとして機能し,カードの枚数分情報を保持す

ることができる.

本システムの関連研究として,池松らの記憶の石があ

る [2].この研究では,複数の指で触れる動作によって複数

コンピュータ間での情報移動を実現している.マルチタッ

チのパターンによって情報を記録し,コンピュータ間で移

動する原理は記憶の石と同様であるが,本システムではマ

ルチタッチパターンを印刷してあるため,一度コピーを

行ってしまえば,後から何度でも使用することができる.

また,同じ形状パターンのインタフェースであれば,同じ

情報を呼び出すことができるため,インタフェース自体を

複製し,配布することで他ユーザとの情報共有も可能で

ある.

図 8 コピー&ペーストシステム概観

4.2 複合機を用いた応用

印刷したインタフェースは,複合機のスキャナを用い

ることで容易に複製することができる.現在,実験やシ

ステムで使用しているマルチタッチパターンは,Adobe

Illustrator を用いて作成している.パターン描画アプリ

ケーションなどを実装することで,スマートフォン端末で

作成したパターンをスキャンし印刷するといったことも可

能となり,より容易にマルチタッチパターンを生成するこ

とができる (図 9).他にもユーザ自身が手書きで作成した

パターンなど複合機のスキャナを用いた様々なマルチタッ

チパターン生成手法が考えられる (図 10).また,これらの

手法で作成したマルチタッチパターンは,ファックス複合

機を用いることで,PCを介さずに離れたユーザに対して

送信することもできると考えられる.

図 9 スマートフォンからマルチタッチパターンを作成

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図 10 手書きからマルチタッチパターンを作成

4.3 立体的なインタフェースの作成

導電部を印刷した用紙を折り曲げることで立体的な折り

紙インタフェースの作成も可能である (図 11).ユーザが

作成した折り紙をインタフェースとしたタッチディスプレ

イ上でのインタラクションへの応用ができると考えられ

る.また,ラベルシール印刷用紙にマルチタッチパターン

を印刷し貼り付けることで,身の回りにある物から,イン

タフェースを作成することも可能である.

図 11 折り紙インタフェース例

5. まとめ

本稿では,導電性インク複合機を用いたマルチタッチパ

ターン生成手法を提案した.導電性インクを用いること

で,複数のタッチ入力部を印刷しインタフェースを作成す

る.ユーザは複数印刷されたタッチ入力部の内,1箇所以

上をタッチすることで,擬似的にマルチタッチを生成する

ことができる.また,印刷した接続部とタッチ入力部の幅

や大きさによる,マルチタッチパターンの認識率を調査す

る実験を行い,提案手法を応用したアプリケーションを試

作した.

今後の展望として,実験で得られた知見を元に提案手法

の応用例を今後も検討していく.今回行った実験では,印

刷用紙や実験環境など特定の条件下で行ったが,印刷に使

用する用紙の素材や厚さ,タッチパネルディスプレイの性

質による認識精度の変化についても調査を行う予定であ

る.また,提案手法を用いたシステムのユーザビリティに

ついての評価も行っていきたい.

6. 関連研究

実物体を用いたインタフェースの研究は数多くなされて

いる.Rekimotoらは,平面ディスプレイ上に無線タグを

埋め込んだ透明なタイルを配置し,それぞれのタイルが異

なったインタフェースとして使用できる DataTilesを提案

している [3].複数種類のタイルを用いることで,個々のタ

イルの機能を組み合わせた複雑な操作を実現している.こ

れらのタイルには操作ガイドとして溝が掘られたものがあ

り,ユーザは溝に沿ってペンデバイスを動かし操作ができ

る.また,同じく Rekimotoは,ユーザが触れた箇所の静

電容量の変化によってマルチタッチ操作を認識するセンサ

である SmartSkinを提案しており,金属箔を貼り付けるこ

とによる物理オブジェクトを用いた操作も行っている [4].

Manuelaらは,ARマーカを取り付けた透明なタイルを

用いたテーブルトップインタフェース Tangible Tilesを提

案している [5].Shaunらは,穴の空いたアクリル製のプ

レートをディスプレイ上に乗せ,その穴を通してディスプ

レイを操作可能な Touchplatesを提案している [6].Malte

らは半透明なシリコン製のキーボードやスライダなどの

物理インタフェースをテーブルトップのタッチスクリー

ン上に乗せることで,それぞれに応じた操作が可能なシス

テムである SLAPを提案している [7][8].同じくMalteら

は,磁力を用いたテーブルトップインタフェースである

Madgetを提案している [9].テーブルトップディスプレイ

背面に電磁石と光ファイバケーブルを敷き詰めており,磁

石が置かれた際,その箇所にある光ファイバケーブルを点

灯させる.その光をカメラで認識することで,位置の検出

を行っている.物理インタフェースを入力に用いる他に,

テーブルトップディスプレイ背面に敷き詰められた電磁石

によって,デバイス自体を自動で動作させたり,LEDを

点灯させたりといった出力も可能となっている.同様に,

磁力を用いた物理インタフェースとして Rong-Haoらは,

GaussBitsを提案をしている [10].ディスプレイ背面に S,

N極を判別可能な磁気センサを敷き詰めることで,磁石を

取り付けた物理インタフェースの認識を行っている.S,N

極の強さから磁石とディスプレイとの距離や回転角,傾き

を取得することで,ディスプレイから浮かせた状態での使

用も可能となっている.

Neng-Haoらは,複数の導電部を配置することで,静電容

量式マルチタッチディスプレイ上で認識可能な物理インタ

フェース TUICを提案している [11].また,TUICでは特

定の箇所に一定の周期でタッチ入力を与え続け,その周波

数の違いによって物理インタフェースを認識する TUIC-f

も提案している.同じく Neng-Hao らは,スマートフォ

ンやタブレット端末の物理インタフェースとして Clip-on

Gadgetsを提案している [12].ボタンやキーボードなどを

持つクリップを端末に取り付けることで,それぞれの入力

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インタフェースを使用することができる.このシステムで

は,端末に取り付けたクリップに導電性ゴムが配置されて

おり,端末の画面端に接触している.ユーザがボタンなど

を押した際の静電容量の変化を利用し,入力を判定してい

る.青木らは,円形の物理オブジェクトを用いたタブレッ

ト操作手法として,くるみるを提案している [13].複数導

電部を持つ物理オブジェクをタブレットに乗せ,それを回

す操作によって情報の拡大・縮小などの操作を行うことが

できる.岩島らは,タブレット端末上に乗せて操作するこ

とのできるつまみ型インタフェースを提案している [14].

このインタフェースによって実世界の LEDライトの輝度

を調整するアプリケーションを実装している.

Yvonneらは,タブレット端末を用いた大型ディスプレ

イ作業時のインタフェースとして Tangible Remote Con-

trollersを提案している [15].ボタン,スライダ,ダイヤル

の三種類の物理インタフェースを実装しており,それらを

乗せたタブレット端末自体をコントローラとして,大型ディ

スプレイでの作業に用いることができる.Liweiらはタブ

レット操作に用いる物理インタフェースとして,CapStones

を提案している [16].この研究では,文献 [15]と同様に静

電容量タッチディスプレイ上に乗せるスライダやダイヤル

のインタフェースを実装しているが,これらの複数の物理

インタフェース同士を重ねることで,異なった操作を実現

している.CapStonesには 2*2マスまたは, 3*3マスに複

数の導電部が配置されている.物理インタフェースを一つ

重ねる毎にユーザが触れる導電部から,一番下の物理イン

タフェースとディスプレイとが接触する導電部まで通電す

る箇所が増える構造となっている.

一般的なコンピュータ環境における研究として,小林ら

は Spinnerを提案している [17].物理コントローラをディ

スプレイに乗せ,コンピュータ上での仮想コントローラに

対応させるシステムとなっている.このシステムでは物理

コントローラの操作認識にタッチディスプレイによる静電

容量の変化を用いておらず,物理コントローラ裏に取り付

けられたフォト ICセンサによってディスプレイ輝度を読

み取ることで認識を行っている.

参考文献

[1] Yoshihiro Kawahara, Steve Hodges, Benjamin S. Cook,Cheng Zhang, and Gregory D. Abowd: Instant InkjetCircuits: Lab-based Inkjet Printing to Support RapidPrototyping of UbiComp Devices. Proceedings of Ubi-Comp’13, pp.363-372, 2013.

[2] 池松香,椎尾一郎: 記憶の石: マルチタッチを用いた複数計算機間情報移動,インタラクション 2013論文集, pp.80-86,2013.

[3] Jun Rekimoto, Brygg Ullner, Haruo Oba: DataTiles:AModular Platform for Mixed Physical and GraphicalInteractions, Proceedings of CHI’01, pp.269-276, 2001.

[4] Jun Rekimoto: SmartSkin: An Infrastructure for Free-hand Manipulation on Interactive Surfaces, Proceedings

of CHI’02, pp.113-120, 2002.

[5] Manuela Waldner, Jorg Hauber, Jurgen Zauner, MichaelHaller, Mark Billinghurst: Tangible Tiles: Design andEvaluation of a Tangible User Interface in a Collabora-tive Tabletop Setup, Proceedings of OZCHI’06, pp.151-158, 2006.

[6] Shaun K.Kane, Meredith Ringel Morris, Jacob O. Wob-brock: Touchplates: Low-Cost Tactile Overlays for Vi-sually Impaired Touch Screen Users, Proceedings of AS-SET’13, 2013.

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[8] Malte Weiss, Julie Wagner, Roger Jennings, YvonneJansen, Ramsin Khoshabeh, James D.Hollan, and JanBorchers: SLAP widgets: bridging the gap between vir-tual and physical controls on tabletops, Proceedings ofCHI’09, pp.481-490, 2009.

[9] Malte Weiss, Florian Schwarz, Simon Jakubowski, JanBorchers: Madgets: Actuating Widgets on InteractiveTabletops, Proceedings of UIST’10, pp.293-302, 2010.

[10] Rong-Hao Liang, Kai-Yin Cheng, Liwei Chan, Chuan-Xhyuan Peng, Mike Y. Chen, Rung-Huei Liang, De-Nian Yang, Bing-Yu Chen: GaussBits: Magnetic Tan-gible Bits for Portable and Occlusion-Free Near-SurfaceInteractions, Proceedings of CHI’13, pp.1391-1400, 2013.

[11] Neng-Hao Yu, Li-Wei Chan, Seng-Yong Lau, Sung-Sheng Tsai, I-Chun Hsiao, Dian-Je Tsai,   Lung-PanCheng, Fang-I Hsiao, Mike Y. Chen, Polly Huang, Yi-Ping: TUIC: Enabling Tangible Interaction on Ca-pacitive Multi-touch Display, Proceedings of CHI’11,pp.2995-3004, 2011.

[12] Neng-Hao Yu, Sung-Sheng Tsai, I-Chun Hsiao, Dian-Je Tsai, Meng-Han Lee, Mike Y. Chen, Yi-Ping Hung:Clip-on Gadgets: Expanding Multi-touch InteractionArea with Unpowered Tactile Controls, Proceedings ofUIST’11, pp.367-372, 2011.

[13] 青木 良輔, 宮下 広夢, 井原 雅行, 大野 健彦, 千明 裕, 小林 稔, 鏡 慎吾: くるみる: 複数導電部をもつ枠型物理オブジェクトを用いたタブレット操作, 情報処理学会研究報告 HCI, ヒューマンコンピュータインタラクション研究会報告 HCI-144, pp.1-8, 2011.

[14] 岩島 伊織, 赤羽 亨, 小林 茂, 鈴木 宣也: タッチパネル上にのせる触知認知可能なコントロールインタフェースの提案とプロトタイプ「つかみどころ」の制作, インタラクション 2012論文集, pp.989-993, 2012.

[15] Yvonne Jansen, Pierre Dragicevic, Jean-Daniel Fekete:Tangible Remote Controllers for Wall-Size Displays, Pro-ceedings of CHI’12, pp.2865-2847, 2012.

[16] Liwei Chun, Stefanie Muller, Anne Roudaut, PatrickBaudisch: CapStones and ZebraWidgets: Sensing Stacksof Building Blocks, Dials and Sliders on CapacitiveTouch Screens, Proceedings of CHI’12, pp.2189-2192,2012.

[17] 小林 茂, 赤松 正行: Spinner: 再構成可能なユーザインタフェースへのシンプルなアプローチ, 情報処理学会研究報告. [音楽情報科学], pp.1-6, 2005.

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