子どもの豊かな感性・協調性を育む との を にする ツアー 実施レ … ·...

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Copyright© 2013Ecosystem Conservation Society-Japan All Rights Reserved 子ども豊かな感性・協調性育む 自然とのふれあい大切にする園づくりツアー2013 実施レポート 2013 年 8 月 18 日(日) ~23 日(金)の6日間 視察地 オーストラリア ビクトリア州 ニューサウスウェールズ州 参加者 13 名 (保育所・幼稚園の施設長、 保育者、大学の研究者等) 乳幼児期の子どもは、生活や遊びを通じ て、感性や創造性を育みます。また、国際 社会が求める、持続可能な社会に向けて望 ましい態度を身に付けていきます。 そのために、日常生活の大半を過ごす保育 所や幼稚園は、こうした子どもたちの発育 を効果的に促す生活環境を整える必要が あります。 本ツアーでは、オーストラリアで取り組ま れている、豊かな感性や協調性、命・もの・ 自然を大切にする心を育む園づくりの先 進事例を視察しました。 視察企画 (公財)日本生態系協会 (社福)日本保育協会、(公社)全国私立保育園連盟、 (NPO 法人)全国認定こども園協会、日本ビオトープ管理士会 (株)ジャクエツ、(株)チャイルド本社、ひかりのくに(株)、 (株)メイト

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子どもの豊かな感性・協調性を育む

自然とのふれあいを大切にする園づくりツアー2013

- 実施レポート -

日 程 2013 年 8 月 18 日(日)

~23 日(金)の6日間

視察地 オーストラリア

ビクトリア州

ニューサウスウェールズ州

参加者 13 名

(保育所・幼稚園の施設長、

保育者、大学の研究者等)

乳幼児期の子どもは、生活や遊びを通じ

て、感性や創造性を育みます。また、国際

社会が求める、持続可能な社会に向けて望

ましい態度を身に付けていきます。

そのために、日常生活の大半を過ごす保育

所や幼稚園は、こうした子どもたちの発育

を効果的に促す生活環境を整える必要が

あります。

本ツアーでは、オーストラリアで取り組ま

れている、豊かな感性や協調性、命・もの・

自然を大切にする心を育む園づくりの先

進事例を視察しました。

視察企画 (公財)日本生態系協会

後 援 (社福)日本保育協会、(公社)全国私立保育園連盟、

(NPO 法人)全国認定こども園協会、日本ビオトープ管理士会

協 力 (株)ジャクエツ、(株)チャイルド本社、ひかりのくに(株)、

(株)メイト

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サステイナビリティ・ビクトリア

サステイナビリティ・ビクトリアは、ビクトリ

ア州政府の機関。将来の人々のことを思いやり、

持続可能な社会づくりに貢献できる子どもたちを

育てるため「AuSSi Vic/Australia sustainable school

initiative Victoria」を実施しています。

このプログラムは、州内の小中高

等学校を対象としています。参加校

では、児童生徒や教職員、地域の方々が協働して、①生物多様性、②ゴミ、

③エネルギー、④水の各項目について、校内の現況把握と課題抽出→課題解

決の計画づくり→実行→評価→周知に取り組みます。

ビクトリア州では、このプログラムの考え方を活かして、2013 年 10 月

より州内の保育所や幼稚園を対象としたパイロット事業を始めます。

オーストラリアカソリック大学

スー・エリオット先生の講義

エリオット先生からは、以下の①~③について

お話しがありました。

① 低年齢の子どもの様々な能力の発達を考えた

ときに、日常的に自然の中で遊ぶことがとても大

切であること。

② 2011 年に改訂した「The National Quality

Standard(全国の保育の質の基準)」に、持続可能な将

来に向けた保育が明記されたこと(下表枠内)。この改訂により、国内の全ての園で、運営面

や管理面で環境に負荷をかけない工夫と、子どもたちが、持続可能な将来に向けた取り組

みを理解するよう促すことが必須となったこと。

③ オーストラリアでも、ヨーロッパと同様に、「森のようちえん」あるいは「浜辺のよう

ちえん」といった、地域の自然を生かした保育が始まっていること。

表 The National Quality Standard(2011)より抜粋

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イザベル・ヘンダーソン幼稚園

『人工的な遊具は持ち込まず、枝や葉っぱ、野生の生

きものなど、そこにある自然のものと、五感を使い、

遊びを創造する空間をつくりたかった。』

こうした理由で、この園では園庭の一画に、在来

の植物を植えて、自然のエリアを設けました。自然

のエリアで遊ぶときには、その前に保育者が子ども

たちに話をします。話の中で、見えるもの、匂い、

音、手触りに敏感になるように、そこにある命を大

切に扱うように促します。

この園では、こうした生物多様性を高める取り組

みの他にも、ミミズのコンポスト

を設置したり、保護者と連携して

お弁当のときのゴミを減らすなど、

持続可能な社会に向けた取り組み

を熱心に進めています。

ノックス市「野生生物のための園庭」

プログラム 『子どもたちの自然体験の機会をもっと増やしたい。

先住民アボリジニが暮らしていた頃の地域本来の自然

を、絵本で見せるだけではなく、体感させたい。』

こうしたことを目的に、ノックス市では、市の全

ての園を対象に、「野生生物のための園庭

(KinderGardens for Wildlife)」プログラムを展開してい

ます。具体的には、園にアボリジニが利用していた

在来の植物を提供したり、植栽や管理にあたっての

指導や助言をしています。

また、このプログラムを確実に進めるために、市

では、在来の植物を安定的に供給する仕組みをつく

りました。地元の環境 NPO と連

携し、市内の自然保護区(右写真)

から在来の植物の種子を定期的に

採取し、育苗しています。育てら

れた苗は、園に提供される他、市内のマーケットにも安く卸され、市

民による「野生生物のための庭づくり」にも利用されています。

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レディ・ハンティングフィールド

保育所

『子どもたちと環境のために、プラスチックの遊具は

購入しないことにした。遊具は、自然の素材で、子ど

もの創造力によって幾通りもの遊びができるものが望

ましいと考えている。』

この園では、子どもたちの豊かな感性や創造性を

育むために、そして持続可能な社会にむけてゴミを

減らすために、遊具の選定の仕方を決めました。

その他にも、古タイヤを再利用した在来の植物に

よる花壇づくりや雨水の利用など、資源の有効活用

に取り組んでいました。

園舎の入口付近には、園と

して持続可能な将来に向けて

の取り組みが、保護者等に向

けて掲示されていました(右写

真)。

ウエストガース幼稚園の

ブッシュキンダー 『子どもの心身の発達に、自然とのふれあいは不可欠。

私たちは、子どもたちから、自然の中のリスクをやみ

くもに遠ざけることはしない。子どもたちには、リス

クを考えさせている。』

現在、オーストラリアには、14 のブッシュキン

ダー(森のようちえん)があります。ここは、そのうち

の一つ。公共の公園の一画をフィールドに、子ども

たちは、週に一度、雨が降ってもレインコートを着

て、ここで遊びます。子どもたちは、このフィール

ドで遊ぶために、ヘビに出会ったときの行動や、木

の枝で遊ぶときのルールなど、いろいろなことを教

わります。

開始当初は、事故を心配す

る声もたくさんありましたが、

最近はリスク管理のあり方について高い評価を受けるようになりま

した。ちなみに、大きな怪我をした子どもは、今まで一人もいませ

ん。

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KU ラシュカッターズ・ベイ幼稚園

『子どもたちを、地域の自然の中で頻繁に遊ばせた

い。しかし、都市部にある私たちの園では、そうし

た場所を見つけるのが難しい。地域に自然がないの

であれば、時間をかけて敷地内を森にしていく。』

この園では、子どもたちが木の枝や実、草、石

などで遊ぶことを推奨しています。

以前は、衛生面や安全面から自

然のもので遊ぶことに後ろ向き

だったニューサウスウェールズ

州政府も、今は違います。

また、この園では、子どもた

ちが、生活の中で環境を考えながら行動ができる

ように、様々な仕掛けをしています。例えば、雨

水を有効利用するために雨水タンクを設置しまし

た。子どもたちは水遊びのときに、このタンクの

水を使います。タンクの水がなくなったら、水遊びは次に雨が降るまでお預け。子どもた

ちは、生活しながら水の循環と大切さを学んでいます。

KU ピーターパン・ラ・ペルーズ

幼稚園 『環境のために、国内で生産されたものを購入する

ようにしている。就学前から、こうした持続可能な

社会に必要な生き方を身に付けることが大切。ここ

で身に付けた態度や考えは、大人になっても継続し

ていく。』

この園では、普段の生活の中で、自然と共存し

てきた先住民アボリジニの文化を取り入れたり、

ものの大切さや循環に気が付くように工夫したり

しています。

例えば、食べたお弁当を片付けるとき、子ども

たちは果物の皮など鶏が食べられる

ものを分けて捨てます(右写真)。子ど

もたちは、それらを鶏に食べてもら

うことで、やがて卵ができることを

知っています。こうした活動を通じて、子どもたちは、ものの循環とゴミ

を減らす工夫を学んでいます。

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視察を終えて

ツアー中の意見交換、またアンケートで、参加されたみなさまから様々なご感想をいた

だきました。

「保育現場そして行政において、『持続可能な社会に向けて、子どもたちの

態度を培う保育』の必要性が浸透していた。」

「自然を題材にした多様な遊びを促すために、園庭のつくり方にいろいろな

工夫がされていた。園庭で遊ぶ時間も十分に確保されていた。」

「子どもたちの豊かな感性や創造性を育むために、これからは在来の植物の

植栽にこだわっていきたい。」

「保護者や地域、自然の専門家など、いろいろな方々と共に保育を行う体制

ができているからこそ、このような取り組みが展開できると感じた。」

乳幼児期は、人間形成にとって、とても重要な時期です。この時期の主体的な遊びや環

境にやさしい生活体験を通じて、子どもの豊かな感性や創造性、命・もの・自然を大切に

する心が育まれます。今回視察した各園では、園内あるいは地域の自然を有効に活用して、

これから生きていくために必要な能力や態度を育んでいました。また、そうした取り組み

を、行政が積極的に後押ししていました。

今後も、私たちの協会では、自然と文化が共存する美しいまちづくりのシンクタンクと

して、自然を生かした保育の充実を支援してまいります。研修会の講師派遣、自然を生か

した園づくりのコーディネート、そして個別の海外視察ツアーの企画など、みなさまのご

要望に応じて対応いたします。お気軽にご相談ください。

参加者のみなさんとブッシュキンダーの保育者