都市構造の違いからみるスマートグリッドによる余剰電力の街区...

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.12, 2014 2 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.12, February, 2014 * 非会員 筑波大学大学院 システム情報工学研究科(University of Tsukuba) **正会員 国立環境研究所 社会環境システム研究センター(National Institute for Environmental Studies) ***正会員 筑波大学 システム情報系(University of Tsukuba) 都市構造の違いからみるスマートグリッドによる余剰電力の街区間融通効果 The surplus electric power interchange effect among residential blocks by the smart grid judging from urban form 中川喜夫*・松橋啓介**・谷口守*** Yoshio Nakagawa*Keisuke Matsuhashi**Mamoru Taniguchi*** To make effective use of solar power, studies of the interchange effect of surplus electric power through a smart grid have attracted attention recently. However, the interchange effect among existing blocks that vary in their characteristics has not been sufficiently clarified. Therefore, this study analyzed the interchange effect among residential blocks related to urban form and existing blocks. Results show the following: 1) urban sprawl forms with low-density population give little room for interchange among blocks; 2) an urban form including less-used land mixed with a dense population, with the housing type and population density differing markedly on each block, interchange of surplus electric power can be done efficiently among blocks; 3) the interchange effect is small in a compact urban form. Keywords: smart grid, block scale, urban form, power interchange スマートグリッド,街区,都市構造,電力融通 1. はじめに 環境問題への対応や,原子力発電に依存したエネルギー供給 が見直され,環境への負荷が少なく安全なエネルギーである再生 可能エネルギーの普及が世界的に拡大している 1) .そして,自然 条件に依存する発電量の変動性や余剰電力の大量発生による逆 潮流問題への対策として, IT (情報技術)を活用して電力需給を 自動制御する技術であるスマートグリッド 2) が注目されている. 我が国においても近年では自治体レベルで再生可能エネルギー による電力の自給を目指す動き 3) も活発化しており,地域で発電 した電力を地域内で有効活用するために,スマートグリッドによ る余剰電力の融通活用は今後のまちづくりにおいて必要不可欠 な要素となることが予想される.しかし,我が国におけるスマー トグリッドの現状をみると,北九州市など4 都市で始まった実証 実験や,震災復興の一環としたスマートコミュニティ導入促進事 業に加え,近年ようやく街単位で電力需給を把握する動き 4)5) が見られ始めている.しかし,依然としてそれらは大規模な再開 発や人口が密集した一部の居住地に留まっている.そのため,一 般的な家庭への太陽光発電の普及が加速している状況下では,既 存の住宅地へのスマートグリッド導入による電力融通効果を把 握することは,今後のスマートグリッド導入を効率的に進める上 で重要だと考えられる.更に,電気自動車(EV) がスマートグリッ ドの重要な構成要素とされている 6) ことから,EV の活用可能性 に大きく影響する居住者の交通行動とも連携した議論が必要と される. ここで,既存の都市へのスマートグリッドの導入を想定した研 7) 8) によれば,住宅地での太陽光発電で発生する余剰電力の電 力融通を行う場合,まず街区レベルでは都心の高層住宅が密集し ているような街区に比べ,戸建や集合住宅,マンションなどが混 在している街区の方が効率的に電力融通を行えることが示され ている.また市区町村レベルではベッドタウンのような都市にお いて余剰電力を有効に活用した電力自給が期待出来ることが明 らかにされている.しかし,既存の研究では特徴の異なる複数街 区間における融通効果については明らかにされておらず,スマー トグリッドを街区から市区町村レベルへ効果的に導入する際の 検討材料が不足している. 以上を踏まえ,本報告ではスマートグリッドを住宅用太陽光発 電と EV で構成される電力融通技術と定義する.そして,スマー トグリッドの既存住宅地への効率的な導入を進めることを念頭 におき,都市構造のコンパクト化やスプロール化,市街地の拡散 等が電力融通効果に与える影響を明らかにすることを目的とす る.具体的には,都市圏を広くカバーするために地方中心都市に 相当する都市規模を対象に,まず街区レベルから余剰電力の融通 効果を算出する.そして,人口密度や交通行動,住宅建方等の特 徴の異なる街区間における余剰電力の融通効果について,都市構 造と関連させた分析を行う.その際,本報告では都市を都心,都 心周辺,郊外の3 エリアに区切り,各エリアにおける人口密度等 の違いを街区の組合せで表すことで,特徴の異なる都市構造を想 定する.そして,都市構造のコンパクト化やスプロール化,市街 地の拡散等が電力融通効果にどの様な影響を与えるのかを明ら かにする 2. 使用データと分析方法 複数街区間における余剰電力の融通効果は,各世帯の太陽光発 電量と家庭内消費電力,更に EV が普及した際の活用可能性を含 む交通行動の 3 つから電力需給状況を時間帯別に把握した上で 行う.そこで,平成 17 年全国都市交通特性調査を主な使用デー タとして用いた.この調査は全国 70 都市からそれぞれ約 30 街区 をランダムサンプリングし,居住者の時刻別の基礎的な交通行動 や世帯情報が把握可能である.更に,この調査で対象となってい る街区を,都市規模別に自動車利用行動や土地利用規制等から特 - 164 -

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Page 1: 都市構造の違いからみるスマートグリッドによる余剰電力の街区 …tj330/Labo/taniguchi/member/pd… · や運行目的,トリップ時間等から,走行に必要な電力量や充電量,

公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.12, 2014 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.12, February, 2014

* 非会員 筑波大学大学院 システム情報工学研究科(University of Tsukuba)

**正会員 国立環境研究所 社会環境システム研究センター(National Institute for Environmental Studies)

***正会員 筑波大学 システム情報系(University of Tsukuba)

都市構造の違いからみるスマートグリッドによる余剰電力の街区間融通効果

The surplus electric power interchange effect among residential blocks by the smart grid judging

from urban form

中川喜夫*・松橋啓介**・谷口守***

Yoshio Nakagawa*・Keisuke Matsuhashi**・Mamoru Taniguchi***

To make effective use of solar power, studies of the interchange effect of surplus electric power through a smart grid have attracted

attention recently. However, the interchange effect among existing blocks that vary in their characteristics has not been sufficiently

clarified. Therefore, this study analyzed the interchange effect among residential blocks related to urban form and existing blocks.

Results show the following: 1) urban sprawl forms with low-density population give little room for interchange among blocks; 2) an

urban form including less-used land mixed with a dense population, with the housing type and population density differing markedly

on each block, interchange of surplus electric power can be done efficiently among blocks; 3) the interchange effect is small in a

compact urban form.

Keywords: smart grid, block scale, urban form, power interchange

スマートグリッド,街区,都市構造,電力融通

1.はじめに

環境問題への対応や,原子力発電に依存したエネルギー供給

が見直され,環境への負荷が少なく安全なエネルギーである再生

可能エネルギーの普及が世界的に拡大している 1).そして,自然

条件に依存する発電量の変動性や余剰電力の大量発生による逆

潮流問題への対策として,IT(情報技術)を活用して電力需給を

自動制御する技術であるスマートグリッド 2)が注目されている.

我が国においても近年では自治体レベルで再生可能エネルギー

による電力の自給を目指す動き 3)も活発化しており,地域で発電

した電力を地域内で有効活用するために,スマートグリッドによ

る余剰電力の融通活用は今後のまちづくりにおいて必要不可欠

な要素となることが予想される.しかし,我が国におけるスマー

トグリッドの現状をみると,北九州市など4都市で始まった実証

実験や,震災復興の一環としたスマートコミュニティ導入促進事

業に加え,近年ようやく街単位で電力需給を把握する動き 4),5)

が見られ始めている.しかし,依然としてそれらは大規模な再開

発や人口が密集した一部の居住地に留まっている.そのため,一

般的な家庭への太陽光発電の普及が加速している状況下では,既

存の住宅地へのスマートグリッド導入による電力融通効果を把

握することは,今後のスマートグリッド導入を効率的に進める上

で重要だと考えられる.更に,電気自動車(EV)がスマートグリッ

ドの重要な構成要素とされている 6)ことから,EVの活用可能性

に大きく影響する居住者の交通行動とも連携した議論が必要と

される.

ここで,既存の都市へのスマートグリッドの導入を想定した研

究 7),8)によれば,住宅地での太陽光発電で発生する余剰電力の電

力融通を行う場合,まず街区レベルでは都心の高層住宅が密集し

ているような街区に比べ,戸建や集合住宅,マンションなどが混

在している街区の方が効率的に電力融通を行えることが示され

ている.また市区町村レベルではベッドタウンのような都市にお

いて余剰電力を有効に活用した電力自給が期待出来ることが明

らかにされている.しかし,既存の研究では特徴の異なる複数街

区間における融通効果については明らかにされておらず,スマー

トグリッドを街区から市区町村レベルへ効果的に導入する際の

検討材料が不足している.

以上を踏まえ,本報告ではスマートグリッドを住宅用太陽光発

電とEVで構成される電力融通技術と定義する.そして,スマー

トグリッドの既存住宅地への効率的な導入を進めることを念頭

におき,都市構造のコンパクト化やスプロール化,市街地の拡散

等が電力融通効果に与える影響を明らかにすることを目的とす

る.具体的には,都市圏を広くカバーするために地方中心都市に

相当する都市規模を対象に,まず街区レベルから余剰電力の融通

効果を算出する.そして,人口密度や交通行動,住宅建方等の特

徴の異なる街区間における余剰電力の融通効果について,都市構

造と関連させた分析を行う.その際,本報告では都市を都心,都

心周辺,郊外の3エリアに区切り,各エリアにおける人口密度等

の違いを街区の組合せで表すことで,特徴の異なる都市構造を想

定する.そして,都市構造のコンパクト化やスプロール化,市街

地の拡散等が電力融通効果にどの様な影響を与えるのかを明ら

かにする.

2. 使用データと分析方法

複数街区間における余剰電力の融通効果は,各世帯の太陽光発

電量と家庭内消費電力,更にEVが普及した際の活用可能性を含

む交通行動の 3 つから電力需給状況を時間帯別に把握した上で

行う.そこで,平成17年全国都市交通特性調査を主な使用デー

タとして用いた.この調査は全国70都市からそれぞれ約30街区

をランダムサンプリングし,居住者の時刻別の基礎的な交通行動

や世帯情報が把握可能である.更に,この調査で対象となってい

る街区を,都市規模別に自動車利用行動や土地利用規制等から特

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Page 2: 都市構造の違いからみるスマートグリッドによる余剰電力の街区 …tj330/Labo/taniguchi/member/pd… · や運行目的,トリップ時間等から,走行に必要な電力量や充電量,

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性の似た街区で類型化した先行研究 9)のデータも使用する.

2-1. 電力需給状況の算出

太陽光発電量の算出においては,全住宅に太陽光パネルが既に

普及した前提の元,発電される電力量を算出した.日射量データ

については実際の1時間ごとの日射量を観測した気象官署・アメ

ダスにおけるデータベースより,分析対象都市に最も近い地点の

日射量を抽出し,街区単位での分析を行うためにそれらの平均値

を使用した.また,戸建と集合住宅では世帯当たりの屋根面積が

異なる.そこで,対象街区の現地調査を踏まえた既存研究 9)から

各街区の建物階数を設定し,発電量を建物階数で除することで,

その違いを考慮している.

家庭内消費電力の算出では,基本となる1世帯当たりの1日の

家庭内消費電力量については全国の平均値を用いている.その上

で,街区特性や居住者特性を反映させるために,世帯人員別の電

気代 10)や世帯の職業構成等を踏まえて 1 日の電力消費パターン

を設定することで,居住者特性を考慮した分析を可能としている.

スマートグリッドの構成要素として想定する EV の活用可能

性については,低公害者ガイドブック2012における基本性能を

基に,平成 17 年全国都市交通特性調査より,1 日合計走行距離

や運行目的,トリップ時間等から,走行に必要な電力量や充電量,

充電時間,充電可能な時間帯などを把握している.ただし,EV

の普及可能性に関しては,1 日の走行距離が 100km を超える場

合と1日のEV使用電力に対して充電時間が不足する場合の2つ

の判断基準を設けている.そして1つでも該当する交通行動を行

っている自動車はEV不適合とし,それ以外の自動車は全てEV

に置き換わる前提のもと,世帯ごとにEV保有台数の算出を行っ

ている.

3. 余剰電力融通効果の評価方法と街区間融通シナリオの概要

3-1. 余剰電力融通効果の評価方法の概要

スマートグリッドによる余剰電力融通の概念について説明す

る.図-1 は,太陽光発電量と家庭内消費電力量の時間帯別需給

量について,左に戸建て住宅,右に集合住宅世帯の需給状況を示

している.戸建て住宅で発生している余剰電力を有効に活用する

方法として,例えばEVへ蓄電して太陽光発電量が不足する時間

帯の電源として活用する世帯内での電力融通が考えられる.他に

も,集合住宅など発電量の少ない世帯への電力融通等の活用方法

が考えられる.そこで本報告では余剰電力の融通効果について,

個人,世帯,街区,街区間と活用段階のPhaseを重ねながら検討

図-1 スマートグリッドによる電力融通イメージ

図-2 余剰電力活用量の算出フロー

表-1 分析対象街区の概要

エリア 記号 土地利用規制人口密度(人/ha)

戸建住宅割合

EV保有台数(台/世帯)

商c-1 商業地域60%~ 100~150 67% 0.48商c-2 商業地域60%~ 50~100 57% 0.48近商c 近隣商業地域60%~ - 84% 1.35住c 住居地域60%~ 150~ 78% 0.53

商f 商業地域60%~ ~50 75% 0.69商混 商業系混在 - 36% 0.33中f-1 中高層住宅専用地域90%~ 100~150 59% 0.61中f-2 中高層住宅専用地域90%~ ~50 72% 0.81中f-3 中高層住宅専用地域60~90% 150~ 66% 0.56中f-4 中高層住宅専用地域60~90% 50~100 85% 0.89中f-5 中高層住宅専用地域60~90% 50~100 79% 1.03中f-6 中高層住宅専用地域60~90% 50~100 71% 0.86住f-1 住居地域60%~ 150~ 35% 0.43住f-2 住居地域60%~ 50~100 79% 1.04住f-3 住居地域60%~ 50~100 69% 0.80住f-4 住居地域60%~ ~50 72% 0.98低f-1 低層住宅専用地域90%~ - 91% 0.87低f-2 低層住宅専用地域60~90% 150~ 58% 1.03低f-3 低層住宅専用地域60~90% 50~100 72% 0.82低f-4 低層住宅専用地域60~90% 50~100 80% 1.06住商f 近隣商業地域60%~ - 75% 0.57住混f 住宅系混在 100~150 57% 0.69調f-1 市街化調整区域25~50% 100~150 66% 0.53調f-2 市街化調整区域25~50% ~50 73% 0.94工業f 工業・工業専用地域60%~ - 84% 0.93工混f 準工業地域60%~ - 39% 0.63準工f 工業系混在 - 56% 0.79

中s 中高層住宅専用地域60~90% ~50 75% 1.08住s 住居地域60%~ ~50 73% 1.05低s 低層住宅専用地域60~90% ~50 85% 0.76住混s 住宅系混在 ~50 67% 0.90調s-1 市街化調整区域75%~ - 76% 1.09調s-2 市街化調整区域50~75% 100~150 70% 1.04調s-3 市街化調整区域50~75% ~50 75% 0.90調s-4 市街化調整区域50~75% ~50 72% 0.62調s-5 市街化調整区域25~50% ~50 93% 0.64

都心(~1.6km)

都心周辺(1.6km~5km)

郊外(5km~)

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していく.各Phaseについて,図-2に算出フローを示し,以下で

解説する.まず,各世帯に太陽光パネルが設置され,余剰電力が

発生している状態から,Phase0ではEVの走行に必要な電力を自

宅で充電した際の余剰電力活用量について.そしてPhasse1では

EV走行に必要な電力を余剰電力から充電出来る様に,買い物時

間と EV 充電時間を余剰電力発生時間帯に合わせて変更した場

合の活用量について算出し,この2つを個人レベルでの電力融通

とする.次に,Phase2ではEVを蓄電池として利用し発電量が不

足している時間帯に電源として利用するなど,世帯レベルでの電

力融通による活用量を算出する.その次の Phase3-a では各世帯

で活用しきれなかった余剰電力を街区内の家庭内消費電力とし

て融通した場合,Phase4-aでは更に余剰分を街区内のEVへ蓄電

した場合の活用量を算出する.これら2つを街区レベルの電力融

通とし,合わせて Flow-a とする.次に,電力融通を街区単位か

ら複数街区間で行った場合の街区間レベルの電力融通を Flow-b

とし,Phase3-bは家庭内消費電力として,Phase4-bではEVへの

蓄電を行った場合の余剰電力活用量を算出する.

ここで,太陽光発電量をP,家庭内消費電力量をD,余剰電力

量をSx,余剰電力の活用段階を Ix,余剰電力活用量をUxとする

と,Uxは数式(1),(2)で表される.

3-2. 分析対象街区の概要

分析対象街区については都市圏を広くカバーできることを考

慮し,先行研究 9)で地方中心都市(県庁所在地または人口15万人

以上の都市規模)に分類される 40 街区に着目した.更にその 40

街区から,平成17年全国都市交通特性調査のサンプル数を考慮

して36街区を分析対象とした.なお,本報告における街区とは

町丁目と等しいスケールを想定している.これらの街区の概要を

表-1 に示す.次に,各街区の活用段階別の余剰電力活用量の算

出結果について,用途地域別に活用量の多い街区順で図-3 に示

す.都心エリアに位置する街区の余剰活用量が低く,同じ用途地

域であっても戸建割合や EV 普及台数等の違いの影響で活用量

には大きな差が生じる傾向が示されている.なお,本報告では街

区間融通効果に着目しているため街区単位での余剰電力活用可

能性に関する考察は他稿 7)を参照されたい.以上の街区単位のデ

ータを踏まえ,以降で街区間融通効果について分析を行う.

3-3. 街区間融通効果と都市構造の概要

街区間融通による余剰電力活用効果について,街区の組合せと

都市構造とを関連させて把握する.本報告では,都市構造を考え

る上で地方中心都市に該当する規模を対象としている.そこで,

都市構造については中心を都心エリア(1 街区分)とし,その周囲

を都心周辺エリア(8街区分),更にその外側を郊外エリア(16街区

分)が取り囲む形の,5×5 の計 25 街区分で都心から郊外を特徴

付けて表現する.これにより,特徴の異なる都市構造を少ない街

区でシンプルに表現することができ,街区間融通と都市構造との

0 1 2 3 4 5 6

商c-1

商c-2

近商c

住c

商f

商混

中f-3

中f-4

中f-5

中f-1

中f-6

中f-2

住f-4住f-2

住f-3

住f-1

低f-1

低f-3

低f-2

低f-4

住商f

住混f

調f-2

調f-1

工業f

工混f

準工f

中s

住s

低s

住混s

調s-2

調s-3

調s-1

調s-4

調s-5

4-a3-a21Phase0 未活用余剰電力量 (kwh/世帯・日)

図-3 街区単位の活用段階別余剰電力活用量

図-4 BaU型都市構造の概要

写真-1 稠密スプロール構

造の街区の例(中 f-2)

(1)

(2)

写真-2 稠密スプロール構

造の街区の例(住 f-1)

都心

都心周辺

郊外

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関連性を分析する上で有効だと考えられる.ここで,人口密度が

都心から郊外にかけて徐々に低下していく都市構造を分析にお

ける地方中心都市のBusiness as Usual(BaU)として想定し,図-4に

その概要を示す.左上には都心エリアに街区「商c-1」,その周囲

の都心周辺エリアに「中 f-4」「住 f-2」「住混 f」,その外周に「住

混 s」「調 s-4」「調 s-5」の街区で特徴付けられる都市構造を表し

ている.その下のグラフは縦軸に各エリアの人口密度をとり,中

心は都心,その両脇に都心周辺,外側が郊外に該当し,グラフの

上端には各エリアの戸建・集合住宅割合やEV普及状況,低未利

用地状況等,都市構造のコンパクト化やスプロール化を視覚的に

判別し易い様に示している.そして,このBaU型の都市構造を

ベースに,まず都心周辺の人口密度が増加した都市構造をコンパ

クト型とする.次に都心周辺エリアで写真-1 の様に大型マンシ

ョンの隣が低未利用地となっている街区や,写真-2 の様に住宅

が密集している街区などが混在している都市構造を稠密スプロ

ール型,そして都市全体の人口密度が低密で,各街区単位で低未

利用地も散見される様な都市構造を低密スプロール型として設

定し,その概要を図-5~図-7に示す.ここで,都市を構成する街

区を i,Flow-bにおける余剰電力量をSflow-b,Flow-aにおける余剰

電力量をSflow-a,街区間融通による余剰電力活用量をUflow-bとする

と次式(3),(4)で表される.

𝑆𝑓𝑙𝑜𝑤 −𝑏 = � (𝑃𝑖 −𝐷𝑖 − 𝐼𝑖𝑓𝑙𝑜𝑤 −𝑏)

25

𝑖=1

𝑃𝑖>𝐷𝑖+𝐼𝑖𝑓𝑙𝑜𝑤 −𝑏

𝑈𝑓𝑙𝑜𝑤−𝑏 = 𝑆𝑓𝑙𝑜𝑤−𝑎 − 𝑆𝑓𝑙𝑜𝑤−𝑏

更に,街区間融通による世帯当たりの余剰電力活用量増加率を

Rflow-bとすると,Rflow-bは次の式(5)表される.

𝑅𝑓𝑙𝑜𝑤−𝑏 =𝑈𝑓𝑙𝑜𝑤 −𝑏

�𝑈𝑝ℎ𝑎𝑠𝑒0~2 + 𝑈𝑓𝑙𝑜𝑤−𝑎 − 1

4. 街区間融通効果の算出結果

4 つの都市構造別の街区間融通効果の分析結果について,図-8

に街区間融通による余剰電力活用量の変化,図-9 に都心,都心周

辺,郊外のエリア別の,街区単位の融通量に対する街区間融通に

よる活用量の変化を示し,以下に考察を述べる.

(1)まず,図-8 において,街区間融通による余剰電力活用量の増加

率をみると,稠密スプロール構造の都市で 30.3%と最も高い値を

示した.高い増加率が示された要因として,街区単位での余剰電

力活用可能量が影響していると考えられる.稠密スプロール型で

は,写真-1,2 に示した様に,街区単位で戸建・集合住宅割合や

EV 普及,低未利用地の状況等の特徴が大きく異なっている.そ

の一方で,街区内の各世帯における電力需給やEV利用等は比

較的類似した傾向にあり,街区単位の融通量である U0~2と Uflow-a

の合計量は少ない.その為,街区間融通を行うことで,特徴の異

なる街区間で余剰電力が有効に活用される構造となり,最も高い

増加率が示されたと考えられる.

図-5 コンパクト型の都市構造

図-6 稠密スプロール型の都市構造

図-7 低密スプロール型の都市構造

0

0.5

1

1.5

2

2.5

1 2 3 4

(kWh/世帯)

増加率

19.4% 7.0% 30.3% 7.7%

(Phase0~2)

(Phase3-a,4-a)

(Phase3-b,4-b)

BaU型 コンパクト型 稠密スプロール型 低密スプロール型

図-8 複数街区間融通による余剰電力活用量と増加率

(kWh/エリア)

-10

-5

0

5

10

15

20

BaU型 コンパクト型 稠密スプロール型 低密スプロール型

都心エリア

都心周辺エリア郊外エリア

BaU型 コンパクト型 稠密スプロール型 低密スプロール型

図-9 エリア別の余剰電力活用量の変化

(3)

(4)

(5)

- 167 -

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(2)この構造に対し,低密スプロール型の都市構造では,各街区に

おいてEV保有台数が高い傾向にあり,更に戸建・集合住宅が混

在しているため,街区内における電力融通の段階で既に高い活

用量となっている.よって街区間融通によって余剰電力を活用す

る余地が殆ど残されていないため,増加率は 7.7%と低い一方で

最終的な余剰電力活用量は最も大きい結果となった.

(3) 以上から,スプロール型の都市構造においては街区単位でみ

ると余剰電力の活用量に大きな違いが見られる場合があるが,そ

の差は街区間融通による最終的な余剰電力活用量では縮小す

る傾向にあることが明らかとなった.

(4)また,コンパクト型の都市構造では,街区単位での活用量は

BaU型と殆ど等しいが,街区間融通による増加率では差が生じる

結果となっている.これは,都心周辺の各街区に集合住宅が一

定量存在することにより,街区内での電力融通量は確保されるも

のの,集合住宅の割合が高いことで電力需給の総量が少なく,

更にEV普及状況が他の都市構造に比べ低いことにより,街区間

融通量の増加率は少なくなったと考えられる.

(5)次に,図-9 のエリア別の街区単位の融通量に対する街区間融通

による活用量の変化について.まず,全ての都市構造において

街区間融通を行うことにより,郊外エリアの余剰電力の活用量が

大きく増加している.その一方で低密スプロール型を除く都心周

辺エリアにおいては活用量が低下している.これらの要因として,

まず郊外エリアでみられるスプロール型の特徴を有する街区に

おいて,街区間融通効果が高い傾向にあることが影響していると

考えられる.そして,戸建住宅の割合が高い郊外エリアで発生す

る大量の余剰電力は郊外エリアのみでは活用しきれないため,

都心周辺や都心エリアに流れ込み,都心周辺や都心で発生して

いる余剰電力の活用機会を大きく奪う構造になっていることが考

えられる.

(6)また,低密スプロール型の都市構造では都心周辺エリアの余剰

活用量は増加し,都心エリアの活用量のみが低下している.この

要因としては都心周辺,郊外エリアでの街区単位の余剰電力活

用量が多いことにより,街区間融通に回される余剰電力が比較的

少ないため,都心周辺エリアの余剰電力活用量は増加したと考

えられる.その一方で今度は郊外,都心周辺エリアで活用しきれ

ない余剰電力が都心へ流れ込むこととなり,都心エリアの余剰電

力活用量を低下させる要因となっていると考えられる.

5. おわりに

本報告では,地方中心都市を対象にスマートグリッドによる余

剰電力融通効果に関し,街区単位から複数街区間へ融通範囲を広

げた際の効果について都市構造と関連させて分析を行った.その

結果,都市全体でみると街区単位で融通していた場合と比較し,

都市構造の違いによる街区単位での活用量の差は縮小する傾向

が確認された.しかし,その融通内容を詳しくみると居住環境と

しては望ましいコンパクトな都市構造では融通効果が小さいこ

とや,郊外エリアの余剰電力を都心周辺エリア等で負担する構造

になっている.よって今後スマートグリッドによる余剰電力融通

を検討する際には,例えば都市のエリア別で余剰電力に付加価値

を設けるなど,都市構造や居住環境等も考慮しながら導入を進め

ることで,スマートグリッドの導入意義が更に向上すると共に,

余剰電力の融通効果を都市の一部ではなく全体で得ることが可

能になると考えられる.

参考文献

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2) 経済産業省低炭素電力供給システムに関する研究会,2009,低

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7) 例えば,谷口守・落合淳太,2011住宅街区特性から見たスマー

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8) 例えば,落合淳太,中川喜夫,松橋啓介,谷口守,2013,全国の

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能性 -居住地でのスマートグリッド導入を踏まえ-,土木学会

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9) 谷口守,松中亮治,中道久美子,2007,ありふれたまちかど図鑑

‐住宅地から考えるコンパクトなまちづくり‐,技報堂出版

10) 統計局ホームページ,平成17年家計調査 世帯人員別電気代

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