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河川形態の違いによるサクラマスの越冬環境 Cherry Salmon Wintering Environments According to Differences in River Morphology 森田 茂雄 桑原 誠 ** 山下 彰司 *** 山田 孝治 **** Shigeo MORITA, Makoto KUWAHARA, Shoji YAMASHITA  Kouji YAMADA 積雪寒冷地域における魚の生息環境を考える場合、越冬場所の保全、創出は非常に重要な問題であ る。河川性サケ科魚類のサクラマスは、河川渓流域に遡上し産卵する。その後、約1年間以上は河川 生活を送るため、他のサケ科魚類に比べ、河川環境に影響を受けやすい魚種である。本研究では、河 川形態の違いによる越冬場所の特徴を整理した。さらに、河道内における河川物理環境とサクラマス の越冬環境との関係について考察した。その結果、河川形態の異なる下流域と中上流域では、越冬場 所の特徴が異なることを明らかにした。河川物理環境における相対流速と生息密度の関係においては、 この値が小さくなるに伴い、生息密度が増加することを明らかにした。また、カバーと生息密度の関 係においては、流速の低減効果を伴うカバーについては、生息密度が大幅に増加することを明らかに した。 ≪キーワード : 河川形態、サクラマス、越冬環境、相対流速、カバー≫ When considering fish habitats in cold, snowy regions, the conservation and creation of wintering places are very important issues. The cherry salmon, a stream-dwelling salmonid, swims up to river areas to spawn. Since it remains in the river for more than a year afterward, the species is more affected by river environments than other salmonids. In this study, the characteristics of wintering places were summarized according to differences in river morphology. In addition the relationship between physical river environments and the wintering environments of the cherry salmon in river channel conditions was also examined. The results indicated that the characteristics of wintering places differed between the lower and middle/upper reaches due to differences in river morphology. It was revealed that, in physical river environments, the habitat density increased with lower values of relative flow velocity. Looking at the relationship between coverage and habitat density, a significant increase in the latter was also observed under covered areas with a flow velocity reduction effect. 《Keywords: river morphology, cherry salmon, wintering environment, relative flow velocity, coverage》 報 文 2 寒地土木研究所月報 №664 2008年9月

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河川形態の違いによるサクラマスの越冬環境

Cherry Salmon Wintering Environments According to Differences in River Morphology

森田 茂雄*  桑原 誠**  山下 彰司*** 山田 孝治****

Shigeo MORITA, Makoto KUWAHARA, Shoji YAMASHITA  Kouji YAMADA

 積雪寒冷地域における魚の生息環境を考える場合、越冬場所の保全、創出は非常に重要な問題である。河川性サケ科魚類のサクラマスは、河川渓流域に遡上し産卵する。その後、約1年間以上は河川生活を送るため、他のサケ科魚類に比べ、河川環境に影響を受けやすい魚種である。本研究では、河川形態の違いによる越冬場所の特徴を整理した。さらに、河道内における河川物理環境とサクラマスの越冬環境との関係について考察した。その結果、河川形態の異なる下流域と中上流域では、越冬場所の特徴が異なることを明らかにした。河川物理環境における相対流速と生息密度の関係においては、この値が小さくなるに伴い、生息密度が増加することを明らかにした。また、カバーと生息密度の関係においては、流速の低減効果を伴うカバーについては、生息密度が大幅に増加することを明らかにした。≪キーワード : 河川形態、サクラマス、越冬環境、相対流速、カバー≫

 When considering fish habitats in cold, snowy regions, the conservation and creation of wintering places are very important issues. The cherry salmon, a stream-dwelling salmonid, swims up to river areas to spawn. Since it remains in the river for more than a year afterward, the species is more affected by river environments than other salmonids. In this study, the characteristics of wintering places were summarized according to differences in river morphology. In addition the relationship between physical river environments and the wintering environments of the cherry salmon in river channel conditions was also examined. The results indicated that the characteristics of wintering places differed between the lower and middle/upper reaches due to differences in river morphology. It was revealed that, in physical river environments, the habitat density increased with lower values of relative flow velocity. Looking at the relationship between coverage and habitat density, a significant increase in the latter was also observed under covered areas with a flow velocity reduction effect. 《Keywords: river morphology, cherry salmon, wintering environment, relative flow velocity, coverage》

報 文

2 寒地土木研究所月報 №664 2008年9月

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1.はじめに

 魚が生活を全うするためには、種々の生態に応じてどのような場が必要なのかを知る必要がある1)。積雪寒冷地域における魚の生息環境を考える場合、越冬場所の保全、創出は非常に重要な問題である。河川性サケ科魚類のサクラマスは、寒冷地域の代表的な魚種であり、河川渓流域に遡上し産卵する。その後、約1年間以上は河川生活を送るため、他のサケ科魚類に比べ、河川環境の影響を受けやすい魚種である。特に、河川環境の変化に伴う越冬場所の減少は、越冬期の移動を引き起こし、その結果として、死亡率の増大につながることは容易に想像される2)。 従来のサクラマスの越冬環境に関する研究は、河川物理環境(水深、流速等)に着目して、中里ら3)、鈴木ら4)が実施している。これによると、越冬場所の好適な物理環境は、流速が緩やかで、被覆度の高い環境であると指摘している。また、渡辺ら5)は、いくつかの瀬や淵を含む区間(Reach)に着目して、流速が緩やかで、被覆度の高い環境に加えて、その周辺のフルード数の小さな空間の重要性を指摘している。一方、真山2)は、サクラマス幼魚の越冬場所は、低流速で隠れ場のあるところが越冬場所の条件で、河川形態により越冬場所も多様であり、詳細に検討することが望ましいと指摘している。しかしながら、河川形態の違いによる越冬場所の特徴を検討している事例はない。 サクラマスの越冬環境に関する研究の河川事業への適用事例としては、積雪寒冷地域の河川改修への反映が考えられる。この場合、生息場所の環境に加えて、その地点の河川形態を考慮し、河川物理環境を評価することが重要となる。 これらを踏まえ、本研究では、河川形態の違いによる越冬場所の特徴を整理し、生息場所の環境に加えて、河道内における河川物理環境とサクラマスの越冬場所との関係について考察した。

2. 河川形態区分と河川縦断地形

 可児や水野6)は、河川形態は河川勾配に関係し、一つの蛇行区間に多くの瀬と淵が出現する上流部の地形的特徴をA型、一つの蛇行区間に一つの瀬と淵が出現する中下流域の地形的特徴をB型としている。また、淵への流れこみが、落ちこむ流れを a型、落ちこまずに、波立つ流れを b型としている。典型的な河川では、Aa 型は上流域に、Bb 型は中流域に見られるとしている。さらに、瀬を平瀬と早瀬に分け、淵・平瀬・早瀬を川の構成要素であるとし、水生昆虫や付着藻類については、構成要素内の生息状態を知ることによって、その付近の全体的な生息状態を把握できると述べている。

3.調査概要

3.1 調査地点

 調査は、越冬期の2007年12月上旬に実施した。調査地点は、後志利別川水系メップ川の支川である左股川で行った(図-1)。左股川は流路延長11.7㎞の中小河川で、保護水面に指定されており、すべての水産動植物の採捕が禁止され、サクラマスの生息密度は非常に高い水準にある。 今回の調査では、メップ川の合流点から約4.0kmまでの区間において、それぞれ河川形態が異なる下流区間(NO1、NO2)、中流区間(NO3、NO4)、上流区間(NO5、NO6)を設定した。 本調査における下流区間は Bb型、中流区間はAa-Bb 移行型、上流区間はAa 型の河川形態である。各区間の特徴として、下流区間は、一部護岸工が施工さ

(a)

左股川(調査区間)

(a)後志利別川水系 

メップ川 

後志利別川

海本日

図-1 調査地点位置図

寒地土木研究所月報 №664 2008年9月 3

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れている地点(NO1)、河道内に倒木が複数存在している地点(NO2)、中流区間(NO3、NO4)は、河道内に巨石が点在し、流れが部分的に落ち込む地点、上流区間は、河道内に横断的に巨石が点在し、流れが落ち込む地点(NO5)、河道内に横断的に巨石が点在し、ステッププールが連続する地点(NO6)である。調査対象区間の概要、状況は、表-1、写真-1~6、に示す。

3.2 調査方法

(1) 河川物理環境調査

 各調査区間において、12.5m毎に横断測量を実施し、この測線上において、水面幅を6等分する計5箇所を計測個所とし、水深、流速を計測した。流速の測定は、

電磁式流速計(アレック電子、ACM100-D)を用いて6割水深で実施した。また、水面を流心部、河岸部に区分し、これを1単位のユニットとし(図-2)、6点ないしは4点の平均値を用いてユニットごとの流速を算出した。また、植生カバーについては、水中及び水面より50㎝までのものをカバーとし、流速の低減効果に着目し、流速の低減効果が期待できる倒木カバー、植生カバーに巨石等が組み合わさったもの、流速の低減効果がない植生カバーのみの場合、カバーなしの4つに区分し、ユニットごとに整理した。

(2) 河床地形の区分

 淵・平瀬・早瀬の区分は、既往の文献より、急流の礫河川においては、川幅程度の縦断間隔データにおけ

写真-1 Bb型の河川形態で、流れが波立つ流れ(護岸工が施工)下流区間NO1

写真-3 Aa-Bb 移行型の河川形態で、流れが部分的に落込む(巨石が点在)中流区間NO3

写真-5 Aa型の河川形態で、流れが落込む(横断的に巨石が点在する)上流区間NO5

写真-2 Bb型の河川形態で、流れが波立つ流れ(倒木が複数存在する)下流区間NO2

写真-4 Aa-Bb 移行型の河川形態で、流れが部分的に落込む(巨石が点在)中流区間NO4

写真-6 Aa型の河川形態で、ステッププールが連続する(横断的に巨石が点在する)上流区間NO6

表-1 調査対象区間の概要

区       間  下流区間  中流区間  上流区間 

延       長  0‑550  550‑1800  1800‑4000 

平均水面幅(m)  10  11  8 

区間平均水面勾配(iwa)             1/103              1/48              1/22 

河川形態  Bb型  Aa‑Bb移行型  Aa型 

調 査 地 点  NO1  NO2  NO3  NO4  NO5  NO6 

調査地点SP  100‑175  275‑350  800‑875  1500‑1575  2725‑2800  3700‑3775 

調査区間延長(m)  75  75  75  75  75  75 

調査区間の特徴 

河岸に護岸工

が施工されて

いる 

倒木が複数存

在している 

巨石が点在し、流

れが部分的に落

ち込む 

巨石が点在し、流

れが部分的に落

ち込む 

横断的に巨石が

点在し、流れが落

ち込む 

横断的に巨石が

点在し、ステップ

プールを形成 

4 寒地土木研究所月報 №664 2008年9月

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る相対的な水面勾配を用いることで、概ね区分できることが示されている7)8)。ここでは、既往の文献に基づき、12.5m毎に縦横断測量を実施し、測線ごとの水面勾配を iw、各区間(下流区間、中流区間、上流区間)の平均水面勾配を iwa(表-1)として、iw/iwa を用いて以下のように区分した。

  iw/iwa<0.17     (淵)  0.17<iw/iwa<1.00  (平瀬)  1.00<iw/iwa     (早瀬)

 調査区間は、淵・平瀬・早瀬を含む延長75mの区間

を設定した。ただし、上流区間の NO6においては、ステッププールが連続する区間であり(写真-6)、河

図-3 調査地点の状況及び河床地形による区分

ユニット          ×  流速計測箇所(6割水深)

河岸部のユニット

流心部のユニット 

図-2 河川物理環境調査概略図

寒地土木研究所月報 №664 2008年9月 5

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川縦断から平瀬地形は区分できなかった(図-3)。

(3) サクラマスの採補調査

 サクラマスの採補は、2007年12月上旬に実施した。調査時の水温は、0℃であった。採補は、サデ網、タモ網、電機ショッカー(SMITH-ROOT社製、LR-24型、出力電圧:50 ~ 90VDC)を用いて実施し、採補場所の水深、流速、採補尾数、尾叉長を記録し、ユニットとの関係で整理した。

4.調査結果

4. 1 採補調査の結果

 採補調査の結果、全体で2魚種、111尾が確認された。内訳は、サクラマスが85%(N=94尾)、アメマスが15%(N=17尾)であった。各調査地点における生息密度は、NO2を除き、概ね同程度の値であった。NO2において生息密度が高くなったのは、調査区間の河道内に複数の倒木個所が存在したためである。また、上流の調査地点において、尾叉長が大きくなる傾向が見られた(図-4)。 サクラマスの生息は、32箇所で確認され、越冬場所と流速との関係を比較すると、越冬場所の大部分が流速10㎝ /s 以下で、生息数の多い場所では流速5㎝ /s以下であった(図-5)。また、一部において、流速が速い場所を越冬場所として利用していることが確認されたが、これについては、水深が深い場所であり、底部における流速の遅い部分を越冬場所として利用していると考えられる。

4.2 河川形態の違いによる越冬場所の特徴

(1) 下流区間(Bb 型の河川形態)における越冬場所

の特徴

 下流区間では、河道内において越冬場所が少なく、倒木の背後、護岸下流端の淀んだ部分などが越冬場所として利用されていた(図-6)。また、これらが確認されたユニットを除き、残りを淵・平瀬・早瀬で区分すると、淵・平瀬に区分されるユニットにおいて、それぞれ1箇所で生息が確認され、早瀬に区分されるユニットにおいては、生息が確認されなかった(図-6)。越冬場所1箇所当たりの生息密度は、平瀬に区分されるユニットを除いて高い値である(図-7)。 このことより、下流区間の越冬場所の特徴として、河道内において越冬場所が少なく、倒木の背後、護岸下流端の淀んだ部分などに限定的されており、そのため越冬場所1箇所当たりの生息密度が高くなる傾向にある。また、早瀬に区分されるユニットにおいては生息が確認されない。

(2) 中流区間(Aa-Bb 移行型の河川形態)における越

冬場所の特徴

 中流区間では、河道内において越冬場所が多く、巨石の背後、倒木の背後などが利用されていた(図-6)。また、これらが確認されたユニットを除き、残りを淵・平瀬・早瀬で区分すると、淵に区分されるユニットにおいて、1箇所生息が確認され、平瀬・早瀬に区分されるユニットにおいては、生息が確認されなかった(図

-6)。越冬場所1箇所当たりの生息密度は、下流区間に比べ低い値である(図-7)。 次に、河床地形から区分される、淵・平瀬・早瀬の出現パターンが同様の、NO2と NO4の河道内におけるユニットの流速分布を比較すると、NO2に比べ、NO4は低い階級の流速が河道内に点在して分布する

(図-8)。また、中流区間においては、下流区間では生息が見られない流心部のユニットにおいても、生息が確認された(図-9)。これは、河道内に巨石が点在することで、流心部においても流速の遅い部分が部分的に創出されたために生じたものと考えられる。 このことより、中流区間の越冬場所の特徴として、河道内に巨石が点在することで、流速の遅い部分が河道内に創出され、巨石の背後などの新たな越冬場所が多数創出される。これにより、流心部においても生息が確認される。また、早瀬に区分されるユニットにおいては生息が確認されない。

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

NO1 NO2 NO3 NO4 NO5 NO6

調査地点

m0

01

/尾

(度

密息

生2)

0

40

80

120

160

)m

m(

長叉

尾均

生息密度 平均尾叉長 I分布範囲

0

5

10

15

20

25

30

0 2 4 6 8 10

生息数(尾)

)s/mc

(速

図-4 調査地点における生息密度と平均尾叉長

図-5 越冬場所の流速

6 寒地土木研究所月報 №664 2008年9月

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(3) 上流区間(Aa 型の河川形態)における越冬場所

の特徴

 上流区間では、河道内において越冬場所が多く、巨石の背後が利用されていた(図-6)。また、これらが確認されたユニットを除き、残りを淵・平瀬・早瀬で区分すると、淵・平瀬に区分されるユニットにおいて、生息が確認され、早瀬に区分されるユニットにおいては、生息が確認されなかった(図-6)。越冬場所1箇所当たりの生息密度は、下流区間に比べ低い値である

(図-7)。 次に、河床地形から区分される、淵・平瀬・早瀬の出現パターンが同様の、NO2と NO5の河道内におけるユニットの流速分布を比較すると、NO2に比べ、NO5は低い階級の流速が横断的に分布する(図-8)。また、上流区間においては、下流区間では生息が見られない、流心部のユニットにおいても、生息が多く確認された(図-9)。これは、河道内に巨石が横断的に点在することで、流心部においても流速が遅い部分が創出されたためと考えられる。このことより、上流区間の越冬場所の特徴として、河道内に巨石が点在することで、流速の遅い部分が河道内に横断的に創出され、巨石の背後などの新たな越冬場所が多数創出される。

4.3 河川物理環境と越冬場所の関係

(1) 流速

 河川の流速は、同一地点においても流量が同じでも、河床形状が変われば変化する。また、河川の上下流においても異なることから、ここでは、各ユニットの流速をV、調査地点(NO1 ~ NO6)の各ユニットの平均流速をVaとして、相対流速(V/Va)により評価する。 各調査地点において、ユニットごとのV/Va と、生息尾数の関係で整理したものを図-10に示す。下流区間においては、V/Va<0.8、1.2<V/Va の領域において生息が確認された。しかしながら、これについては明瞭な関係は示されない。これは、河道内に越冬場所が少なく、限定された場所(倒木の背後、護岸下流端の淀んだ部分)を越冬場所として利用しているため、ユニットの流速に影響されないためであると考えられる。一方、中流区間、上流区間においては、V/Va<0.8、0.8<V/Va<1.2の領域において、生息尾数が多く、1.2<V/Va の領域においては、生息尾数はごく少数である。これは、河道内で巨石が点在することで、

0

2

4

6

8

10

12

淵 瀬平

瀬早

後背

の木

後背

の岸

後背

の石

淵 瀬平

瀬早

後背

の木

後背

の岸

後背

の石

淵 瀬平

瀬早

後背

の木

後背

の岸

後背

の石

下流区間 中流区間 上流区間

越冬場所の環境条件

)所

個(

数所

場冬

*  *  * *

* については環境が存在しない 

0

2

4

6

8

10

淵 瀬平

瀬早

後背

の木

後背

の岸

後背

の石

淵 瀬平

瀬早

後背

の木

後背

の岸

後背

の石

淵 瀬平

瀬早

後背

の木

後背

の岸

後背

の石

下流区間 中流区間 上流区間

越冬場所の環境条件

)所

個/尾

(度

密息

生の

りた

当所

箇1

所場

冬越

* については環境が存在しない

*** * 

図-6 越冬場所数と環境条件

図-7 越冬場所の生息密度と環境条件

図-8 ユニットの流速分布(NO2、NO4、NO5)

����

����

����

������������������������������������������

�����������������������������������������

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��������

���

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���

���� ����������������������

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

NO1 NO2 NO3 NO4 NO5 NO6

調査地点

m0

01/

尾(

度密

息生

2)

図-9 流心部のユニットにおける生息密度

これにより、流心部においても生息が多く確認される。また、早瀬に区分されるユニットにおいては生息が確認されない。

寒地土木研究所月報 №664 2008年9月 7

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巨石の背後などに越冬場所が創出されることにより、その周辺の流速がより遅いエリアを越冬場所として利用しているために生じていると考えられる。また、ユニットごとのV/Va と、生息密度との関係についてもほぼ同様の結果であった。(図-11)。

5.まとめ

 本研究で得られた、サクラマスの越冬環境に関する主な知見を以下にまとめる。1) 越冬場所と流速との関係を比較すると、越冬場所の大部分が流速10㎝ /s 以下で、生息数の多い場所では流速5㎝ /s 以下であった。

2) 河川形態の違いによる越冬場所の特徴として、下流区間(Bb 型の河川形態)では、倒木の背後や、護岸下流端の淀んだ部分などの限られた部分が越冬場所として利用される。 

  中流区間(Aa-Bb 移行型の河川形態)及び上流区間(Aa 型の河川形態)では、共に河道内に巨石が点在することで流速の遅い部分が河道内に創出され、巨石の背後などの新たな越冬場所が多数創出される。これにより、流心部においても生息が確認される。

3) 河川物理環境と越冬場所の関係を比較すると、流速との関係においては、中流区間(Aa-Bb 移行型の河川形態)及び上流区間(Aa 型の河川形態)では、共に河道内に巨石が点在することで巨石の背後などの新たな越冬場所が創出されることにより、その周辺の流速がより遅いエリアを越冬場所として利用している。

  また、植生カバーとの関係においては、流速の低減効果がある倒木カバー、植生カバーに巨石等が組み合わさったものについて、生息密度が大きくなることが確認された。また、植生カバーのみの場合については、カバーなしと同程度の値である。

 これらの知見を積雪寒冷地域における魚類の越冬環境の保全・創出手法として、河川改修への反映を考える場合、河道内に流速の遅い箇所を創出することが重要であり、工事に伴い発生する巨石等は可能な限り河道内に存置させることが必要である。 今後の課題については、以下にまとめる。

図-10 流速により区分した生息尾数の頻度分布

図-11 流速により区分した生息密度

0%

20%

40%

60%

80%

100%

NO1 NO2 NO3 NO4 NO5 NO6

下流区間 中流区間 上流区間

調査地点

布分

度頻

の数

尾息

V/Va<0.8 V/Va=0.8‑1.2 1.2<V/Va

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

NO1 NO2 NO3 NO4 NO5 NO6

下流区間 中流区間 上流区間

調査地点

m001

/尾

(度

密息

生2)

V/Va<0.8 V/Va=0.8‑1.2 1.2<V/Va

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

① ② ③ ④

カバーの区分

m00

1/

尾(

度密

息生

2)

①倒木カバー 

②植生カバー+巨石 

③植生カバーのみ 

④カバーなし 

図-12 カバーの区分による生息密度

(2) 植生カバー

 植生カバーについては、それぞれのユニットを、流速の低減効果がある倒木カバー、植生カバーに巨石等が組み合わさったもの、流速の低減効果がない植生カバーのみの場合、カバーなしの4つに区分し、各区分における生息密度についてまとめたものを図-12に示す。流速の低減効果がある倒木カバー、植生カバーに巨石等が組み合わさったものについては、生息密度が大きい。一方、カバーが無い場合や、植生カバーのみの場合は、生息密度は大幅に減少する。また、植生カバーのみの場合と、カバーなしの場合の値は同程度であった。これは、越冬場所が流速に大きく影響されるため(図-5)に生じたものと考えられる。また、これらは、植生カバーのみでは越冬環境の改善にはならなく、流速の低減効果を加えることが重要であることを意味している。

8 寒地土木研究所月報 №664 2008年9月

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1) 今回実施した調査は、単年度の調査であり、データの蓄積が必要である。

2) 今回実施した調査では、河道内の巨石の重要性が示されたが、これを定量的に評価するため、越冬前後における移動行動についても把握することが必要である。 

参考文献

1) 魚がのぼりやすい川づくりの手引き:国土交通省河川局、155pages、2005

2) 真山 紘:サクラマスの淡水域の生活および資源培養に関する研究、北海道さけ・ますふ化場研究報告、46、1-156、1992

3) 中里享史・巻口範人・渡辺康玄:越冬期におけるサクラマス幼魚の好適物理環境条件、河川技術論文、vol10、441-446、2004

4) 鈴木研一、永田光博、中島美由紀、大森始:北海道北部河川におけるサクラマス幼魚の越冬時の微生息場所とその物理環境、北海道立水産孵化場研究報告54号、7-14、2003.3

5) 渡辺恵三、中村太士、小林美樹、柳井清治、米田隆夫、渡辺康玄、丸岡昇、北谷啓幸:河川の階層構造に着目したサクラマス幼魚の越冬環境、応用生態工学、9(2)、151-165、2006

6) 水野信彦、御勢久右衛門:河川の生態学補訂版、築地書館、1993

7) 野上毅、渡辺康玄、長谷川和義:急流河川における生息場としての河床地形区分、水工学論文集、第46巻、1127-1132、2002

8) 野上毅、渡辺康玄:急流河川におけるハビタットの定量区分、北海道開発局技術研究発表会発表概要集、第46回、59-66、2003

森田 茂雄*

Shigeo MORITA

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ水環境保全チーム研究員

山下 彰司***

Shouji YAMASITA

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ水環境保全チーム上席研究員

桑原 誠**

Makoto KUWAHAWA

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ水環境保全チーム総括主任研究員

山田 孝治****

Kouji YAMADA

寒地土木研究所技術開発調整監寒地技術推進室道南支所支所長

寒地土木研究所月報 №664 2008年9月 9