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- 68 - 東京成徳大学臨床心理学研究,17号,2017,68-77 原著 聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について 石井 琴子 新井 邦二郎 本研究の目的は,聴く・話すという,コミュニケーションスキルのうち,訓練によって身に着け やすいような行動面に焦点を当てた聴き方・話し方スキル尺度を作成し,それらのスキルと外的適 応,内的適応との関係について検討することであった。首都圏の3つの大学生男女計451名(有効 回答414名)を対象とし,質問紙調査を行った。その結果,主に以下のような結果が得られた。 ①聴き方スキル2因子,話し方スキル4因子から成る尺度が作成され,それぞれ信頼性と妥当性 が確認された。②聴き方スキル・話し方スキルと適応との関係では,「話し手が話し易くなるよう な雰囲気や動作を伴った聴き方」と「話の内容にマッチした表情やジェスチャーを使った話し方」 が外的な適応を意味する,良い友人関係を保つ要因の一つになっていた。③また,「話の内容にマッ チした表情やジェスチャーを使った話し方」は,自己の生活に対する満足感や人生に対する前向き な気持ちを表す内的な適応としての,主観的な幸福感も高める要因となっていた。④ネガティブな 外的適応を表す対人的なストレスに関して,聴き方スキルでは,「話し手が話し易くなるような雰 囲気や動作を伴った聴き方」が,話し方スキルでは,「聴き手との関係や聴き手の聴き易さに配慮 した話し方」が対人関係に起因するストレスの度合いを下げたことが明らかになった。⑤ネガティ ブな内的適応を表す対人的疎外感に関しては,「話の内容にマッチした表情やジェスチャーを使っ た話し方」が,社会や周囲の人との関係の中で生じる疎外感や孤独感を低減することが示された。 以上から,聴き方・話し方スキルの一部が,外的適応・内的適応に影響していることが明らかになっ た。 キーワード:聴き方スキル,話し方スキル,コミュニケーションタイプ,外的適応,内的適応 問題と目的 話を聴くことは対人コミュニケーションにおける重 要な手段の一つであると考えられる。 例えば相川(2000)は,社会的スキルの一つには 聴くスキルがあり,人の話を聴くスキルは,人間関係 を形成するためのもっとも初歩的で,同時に最終的な スキルであると述べている。実際には,コミュニケー ションの基盤としての聴くスキルはさまざまな分野に おいて重要視されている。地域援助の分野では,デイ ケアなどにおける傾聴ボランティアの活動が積極的に 行われている(鈴木,2004)。医療分野では看護の場 における聴く姿勢が重要視されている(吉村,2009)。 産業領域においても,職場のメンタルヘルス対策の一 つとして,管理監督者を対象とした部下に対する積 極的傾聴の研修が行われている(三島・久保田・永田, 2003)。 以上のように聴くスキルは重要視されている。しか し福田(2006)が,聴くことは話すことであり,話す と聴くは一対の関係で結ばれていると述べているよう に,対人コミュニケーションは聴くことだけでは成り 立たない。つまり,聴いて話すことによって対話は成 り立ち,人間関係が成立すると考えられる。人間関係 は人が社会で生きるためには避けて通れないものであ り,多田(2003)も,話す行為・聴く行為は,人が社 会の中で多様な他者と相互に啓発し合い,共創してよ り良い結論を生み出したり,相互理解を深め,良好で 創造的な関係を築いたりするためのコミュニケーショ ンの基盤であると述べている。このように,人間関係 を成立させるために必要なコミュニケーションの基盤 に,聴くスキルと話すスキルがあるということがいえ るであろう。 ここで聴くこと・話すことをそれぞれスキルという 観点から見てみると,この2つのスキルの組み合わせ により,4つのコミュニケーションタイプが抽出でき るのではないかと考えられる。すなわち,「聴き上手・ 話し上手」,「聴き上手・話し下手」,「聴き下手・話し 上手」「聴き下手・話し上手」という4つのタイプが 存在すると仮定できる。また,人は社会で他者とコミュ ニケーションをとりながら生活しているので,これら 4種類のコミュニケーションタイプによって,外的適 応や内的適応に違いの出る可能性も考えられる。 そもそも聴くことと話すことは,コミュニケーショ ンの二大構成要素である。このコミュニケーションの プロセスの中で聴くことと話すことは分かち難く,相 東京成徳大学大学院心理学研究科 東京成徳大学

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Page 1: 聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適 …...- 69 - 聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について

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石井 琴子  新井 邦二郎東京成徳大学臨床心理学研究,17号,2017,68-77  原著

聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について

石井 琴子1  新井 邦二郎2

 本研究の目的は,聴く・話すという,コミュニケーションスキルのうち,訓練によって身に着け

やすいような行動面に焦点を当てた聴き方・話し方スキル尺度を作成し,それらのスキルと外的適

応,内的適応との関係について検討することであった。首都圏の3つの大学生男女計451名(有効

回答414名)を対象とし,質問紙調査を行った。その結果,主に以下のような結果が得られた。

 ①聴き方スキル2因子,話し方スキル4因子から成る尺度が作成され,それぞれ信頼性と妥当性

が確認された。②聴き方スキル・話し方スキルと適応との関係では,「話し手が話し易くなるよう

な雰囲気や動作を伴った聴き方」と「話の内容にマッチした表情やジェスチャーを使った話し方」

が外的な適応を意味する,良い友人関係を保つ要因の一つになっていた。③また,「話の内容にマッ

チした表情やジェスチャーを使った話し方」は,自己の生活に対する満足感や人生に対する前向き

な気持ちを表す内的な適応としての,主観的な幸福感も高める要因となっていた。④ネガティブな

外的適応を表す対人的なストレスに関して,聴き方スキルでは,「話し手が話し易くなるような雰

囲気や動作を伴った聴き方」が,話し方スキルでは,「聴き手との関係や聴き手の聴き易さに配慮

した話し方」が対人関係に起因するストレスの度合いを下げたことが明らかになった。⑤ネガティ

ブな内的適応を表す対人的疎外感に関しては,「話の内容にマッチした表情やジェスチャーを使っ

た話し方」が,社会や周囲の人との関係の中で生じる疎外感や孤独感を低減することが示された。

以上から,聴き方・話し方スキルの一部が,外的適応・内的適応に影響していることが明らかになっ

た。

 キーワード:聴き方スキル,話し方スキル,コミュニケーションタイプ,外的適応,内的適応

問題と目的

 話を聴くことは対人コミュニケーションにおける重

要な手段の一つであると考えられる。

 例えば相川(2000)は,社会的スキルの一つには

聴くスキルがあり,人の話を聴くスキルは,人間関係

を形成するためのもっとも初歩的で,同時に最終的な

スキルであると述べている。実際には,コミュニケー

ションの基盤としての聴くスキルはさまざまな分野に

おいて重要視されている。地域援助の分野では,デイ

ケアなどにおける傾聴ボランティアの活動が積極的に

行われている(鈴木,2004)。医療分野では看護の場

における聴く姿勢が重要視されている(吉村,2009)。

産業領域においても,職場のメンタルヘルス対策の一

つとして,管理監督者を対象とした部下に対する積

極的傾聴の研修が行われている(三島・久保田・永田,

2003)。

 以上のように聴くスキルは重要視されている。しか

し福田(2006)が,聴くことは話すことであり,話す

と聴くは一対の関係で結ばれていると述べているよう

に,対人コミュニケーションは聴くことだけでは成り

立たない。つまり,聴いて話すことによって対話は成

り立ち,人間関係が成立すると考えられる。人間関係

は人が社会で生きるためには避けて通れないものであ

り,多田(2003)も,話す行為・聴く行為は,人が社

会の中で多様な他者と相互に啓発し合い,共創してよ

り良い結論を生み出したり,相互理解を深め,良好で

創造的な関係を築いたりするためのコミュニケーショ

ンの基盤であると述べている。このように,人間関係

を成立させるために必要なコミュニケーションの基盤

に,聴くスキルと話すスキルがあるということがいえ

るであろう。

 ここで聴くこと・話すことをそれぞれスキルという

観点から見てみると,この2つのスキルの組み合わせ

により,4つのコミュニケーションタイプが抽出でき

るのではないかと考えられる。すなわち,「聴き上手・

話し上手」,「聴き上手・話し下手」,「聴き下手・話し

上手」「聴き下手・話し上手」という4つのタイプが

存在すると仮定できる。また,人は社会で他者とコミュ

ニケーションをとりながら生活しているので,これら

4種類のコミュニケーションタイプによって,外的適

応や内的適応に違いの出る可能性も考えられる。

 そもそも聴くことと話すことは,コミュニケーショ

ンの二大構成要素である。このコミュニケーションの

プロセスの中で聴くことと話すことは分かち難く,相

1 東京成徳大学大学院心理学研究科

2 東京成徳大学

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聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について

互に連関し合い重なり合っている。しかし,スキルと

いう観点から,聴くことと話すことを敢えて分離する

ことは可能と思われる。事実これまでも,聴くスキ

ルや話すスキルについてそれぞれ研究が行われてい

る。例えば(Mishima・Kubota・Nagata,2000;磯,

2001;久木山,2006;藤原・濱口,2011a,2011b)な

どがある。しかしこれらの研究は,聴くスキルと話す

スキルのどちらかを取り上げて研究したものである。

そこで,本研究では,これらのスキルを2つとも取り

上げ,まず始めに聴き方スキル・話し方スキルを測定

する心理尺度を開発する。そして測定結果を元に,ど

ちらかのスキルが高くてもう一方のスキルが低い人,

どちらのスキルも高い人,さらにはどちらのスキルも

低い人という4群に分類し,それぞれの特徴に該当す

る人たちの間における適応の違いを見ることにする。

 ここで,なぜスキルに注目したのかについて述べて

おきたい。スキルとは,訓練や経験などによって身に

つけられた技能,ある人が有している力量や技術,腕

前,または熟練のことである(松村,2006)。心理学

は行動と心的過程について考える学問であり,行動と

その基礎にある心を記述し,説明すること(星・山口・

青木,2006)といえる。人の行動や心をある目的に沿っ

て測定し,その結果からより適応した状態に導こうと

考えた時,扱いやすいのは目に見える行動である。行

動はスキルを身に着けることにより変えることができ

る。そこで,本研究では,訓練によって身に着けやす

いような行動的なスキルに注目することにした。

 次に,聴くスキル・話すスキルの概念について明確

にしておきたい。まず,聴くこととは,相手の伝えた

いことを的確に受けとめ,批判,疑問,反発,共感な

どを生起させ,それらを自分自身に問いかけ,自己の

内側から新たなものを生み出し,反応することにより

創造を促し,さらには相手への理解を深め,協調しな

がら共に生きていくための基盤を形成していく能動

的・積極的行為であると考えられる(多田,2003)。

以上から,本研究では,聴くスキルを,相手の話を的

確かつ誠実に受けとめ,反応することにより,相手へ

の理解を深める言語的・非言語的行動や態度であると

定義する。他方,話すこととは,自分の内部にある思

考や実感,体験などを他者に伝えるためにさまざまな

方法によって自己表現することであると考えられる

(多田,2003)。このことから,本研究では,話すスキ

ルを,自分の考えや感情,あるいは自分自身や自分の

体験について相手に適切な形で話し伝える言語的・非

言語的行動や態度であると定義する。

 以上から,聴くスキルと話すスキルはコミュニケー

ションスキルの一部であるといえるが,コミュニケー

ションスキルと似た概念に社会的スキルという概念も

ある。この社会的スキルは広く理解され,コミュニケー

ションスキルもその一部であると理解されることもあ

るが(恩田・伊藤,2009),本研究では,社会的スキル

の基礎にコミュニケーションスキルがあると考えてい

く。つまり,話すスキルや聴くスキルがコミュニケー

ションスキルを構成し,その上に立って社会的スキル

が発揮されるという位置関係を想定する。

 これまで,聴くスキルの研究としては,例えば藤原

ら(2011 a)が高校生の聴くスキル尺度を作成し,さ

らに聴くスキルと親和動機・学校生活満足感との関連

を検討している。その結果,親和傾向が聴くスキルと

主張性スキルを高めていた。また,主張性スキルは学

校生活満足感尺度のなかの承認と,聴くスキルは被侵

害とそれぞれ関連を有しており,ここでは各スキルが

果たす適応に対する機能の差異が明らかにされてい

る。藤原の聴くスキル尺度は認知的側面と行動的側面

に分けられている。これは藤原が尺度作成の土台に

用いたBrownell(2009)のHURIERモデルが,「反応」

という行動スキルと,「聴き取り」「理解」「記憶の保持」

「解釈」「評価」という認知スキル尺度に分かれていた

ことによる。この研究では,聴く認知スキル尺度の因

子は4因子(会話への集中,共感,記憶の保持,理解)

から成り立っており,聴く行動スキル尺度の因子は5

因子(相手への応答,手をとめて聴く,話を遮らない,

寄り掛からない,前傾)から成り立っていた。これら

の尺度の信頼性・妥当性についてはおおむね十分な値

が示されている。大学生を対象とした研究でも,ほぼ

同様の結果が得られている(藤原ら,2011 b)。大学

生版の聴くスキルに関する研究では,聴くスキル尺度

と共感性や全般的社会的スキルとの相関が検討されて

いる。その結果,聴くスキルと共感性,全般的社会的

スキルの間には正の相関があることが明らかにされて

いる。 

 久木山(2006)は,大学生を対象に聴くスキル尺度

の作成および対人関係との関連の検討において,55項

目から構成された聴くスキル尺度を作成している。信

頼性,妥当性については十分に検証されている。久木

山の尺度は8因子(雰囲気作り,共感,アドバイス,

表情読解,無関心,目を見る,追随,自然体)から成

り立っている。因子の内容を見てみると,久木山の因

子も,雰囲気作り,目を見る,追随,自然体などの行

動的なスキルと,共感,アドバイス,表情読解,無関

心などの認知的なスキルに分かれていることが分か

る。久木山は,さらに聴くスキル尺度と対人適応尺度

(関係開始スキル,関係調整スキル)との関係を検討し,

両尺度の間にはおおむね正の相関があることを明らか

にした。

 Mishimaら(2000)は,社会人向けの積極的傾聴

態度評定尺度を開発している。この尺度は,ロジャー

ズの人間中心アプローチ理論で扱われる積極的傾聴法

を土台にして作成された尺度である。尺度は3因子(傾

聴態度,傾聴スキル,会話の機会),計47項目で構成

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石井 琴子  新井 邦二郎

されている。信頼性・妥当性については十分に確認さ

れている。

 他方,話すスキルの尺度作成や研究はあまり見当た

らないが,磯(2001)は,大学生を対象にした,話し

手の非言語的行動が「話しの上手さ」認知に与える影

響の研究の中で,「話の上手さ」に関わる評定尺度を

作成している。作成された評定尺度は,言語的行動に

関する23項目(4因子),非言語的行動に関する23項

目(4因子)から成っている。信頼性と妥当性の確認

はまだされていないようである。

 以上のように,聴くスキルと話すスキルの先行研究

を見てきたが,ここで本研究のポイントに触れておき

たい。まず,聴くスキルのうち,訓練目標として設定

するのはやや難しいと思われる認知的側面をできるだ

け取り除いた形で聴くスキルの尺度を作りたい。それ

ゆえ,聴くスキルを聴き方スキルと改める。話すスキ

ルについても同様に,認知的側面をできるだけ取り除

く形で尺度を作りたいので,話し方スキルと表記する。

 以上,本研究は,聴き方スキルと話し方スキル尺度

を新たに作成し,それらのスキルの高低による外的適

応と内的適応の違いについて明らかにすることを目的

とする。

方  法

1.調査協力者

 関東地方の大学生1~4年生男女451名に対して質

問紙調査を行った。そのうち不適切と思われる回答37

名を除外した414名(男性162名,女性252名)を有効

回答とし,分析を行った。平均年齢は19.14歳(SD=1.76)

であった。

2.調査の時期ならびに手続き

 2016年4月から7月にかけて行った。調査は,無記

名式質問紙を講義時間内に配布,実施,即時回収する

ことにより行われた。質問紙には①回答により個人が

特定されることはないこと,②回答した内容が外部に

漏れることはないこと,③調査に同意して頂けなくて

も不利益は一切生じないこと,④調査への回答はいつ

でも中断する自由があることを明記した。なお,この

調査は東京成徳大学大学院心理学研究科の研究倫理審

査において承認されている(承認番号16-1-5)。

3.質問紙構成と調査内容

 質問紙はA3版用紙1枚で構成された(A3用紙2

つ折り,4ページ)。フェイスシートには日常生活に

おける友人との対話やその時の気持ちなどについて尋

ねる旨を示し,倫理的配慮を記載し,年齢・性別・学

科・学年の回答欄を設けた。2ページ以降は,以下の

尺度をその順番に掲載した。

聴き方スキルと話し方スキルの測定

①聴き方スキル・話し方スキル質問紙

 磯(2001)の「『話の上手さ』に関わる評定尺度」,

多田(2003)の「地球時代の言語表現」,福田(2006)

の「人は『話し方』で9割変わる」,Mishimaら(2000)

の「Active Listening Attitude Scale(ALAS)」 等 を

参考に,心理学を専門とする大学教員1名と大学院生

1名が協議し,聴き方スキル・話し方スキル尺度を作

成した。聴き方スキル・話し方スキル尺度項目作成に

あたっては,認知的な側面は極力除外し,外から観察

することが可能で,かつ訓練も可能な行動面に焦点を

当てた。聴き方スキルは,「相手の話は最後まで聴く

ことができる」などの17項目から成り,話し方スキル

は「自分の話の内容にマッチした表情で話すことがで

きる」などの17項目から成る(Table2,3参照)。そ

れぞれの項目について,「まったく当てはまらない~

よくあてはまる」の5件法で回答を求めた。

ポジティブな外的適応と内的適応の測定

②友人関係測定尺度

 ポジティブな外的適応度を測定するため,吉岡

(2001)の「友人関係測定尺度」,親密因子の項目の表

現を一部修正し,採用した。本尺度は,「友人と電話

などでよく話す」など5項目から成り,「全然当ては

まらない~非常に当てはまる」の4件法で実施した。

得点が高いほど友人との親密度が高い状態を表す。

③主観的幸福感尺度

 ポジティブな内的適応度を測定するため,伊藤・相

良・池田・川浦(2003)の「主観的幸福感尺度」の人

生に対する前向きな気持ち因子から「あなたは人生が

面白いと思いますか」などの3項目,人生に対する失

望感のなさ因子から「自分の人生は退屈だとか面白く

ないと感じていますか」などの2項目を採用し,それ

ぞれ4択で回答を求めた。得点が高いほど,幸福感も

高いことを示す。

ネガティブな外的適応と内的適応の測定

④対人ストレスイベント尺度

 ネガティブな外的適応を測定するため,橋本(1997)

の「対人ストレスイベント尺度」の対人葛藤因子,知

人に無理な要求をされたなどの7項目の表現を一部修

正し,採用した。回答は「全くなかった~しばしばあっ

た」の4件法。得点が高いほど,対人ストレスも高い

ことを示す。

⑤対人的疎外感尺度

 ネガティブな内的適応を測定するため,杉浦(2000)

の「対人的疎外感尺度」の項目から,「自分の居場所

がないように感じる」など,6項目を採用した。回答

は「あてはまらない~あてはまる」の5件法。得点が

高いほど,対人的疎外感が強いことを示す。

妥当性を検証する尺度

⑥コミュニケーション・スキル尺度ENDCOREs

 話し方スキル・聴き方スキル」質問紙の妥当性を測

るため,藤本・大坊(2007)のコミュニケーション・

スキル尺度ENDCOREsの表現力因子から「自分の

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聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について

考えを言葉でうまく表現する」などの4項目,読解力

因子から「相手の考えを発言から正しく読み取る」な

どの4項目を採用した。回答は「かなり苦手~かなり

得意」の7件法。それぞれの得点が高いほど,各々の

表現力,または読解力の高いことを示す。

結果と考察

1.各質問紙・各尺度の記述統計量

 使用した各尺度の記述統計量はTable1の通りであ

る。各尺度項目のα 係数は.72 ~ .93であったことか

ら,すべての尺度に内的整合性がみられた。男女差を

t検定にて確認したところ,一部の尺度に男女差がみ

られたが,(友人関係測定尺度:男<女,対人ストレス

イベント尺度:男>女)その他の尺度に男女差はみられ

なかった。このように,聴き方スキルならびに話し方

スキル尺度にも男女差は見られなかったため,分析は,

男女の区別をしないで一緒に行うこととした。

2.聴き方スキル質問紙の因子構造

 聴き方スキル質問紙各21項目の平均点と標準偏差を

確認したところ,1つの質問項目に天井効果が見られ

たが,聴き方スキル尺度という概念を測定する上では

不可欠な項目であると考えられたため,ここでは項目

を除外せず,全ての質問項目について主因子法による

因子分析を行った。結果,因子負荷量の低い項目を除

外し,最終的にTable2 のような結果を得た。第1因

子は14項目で構成されており,「相手の話は最後まで

Table 1 各質問紙(尺度)の記述統計量α係数,性差

Table 2 聴き方スキル尺度の因子分析結果

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石井 琴子  新井 邦二郎

聴くことができる」「人の話をじっくり聴くことがで

きる」「自然な笑顔で聴くことができる」など,話し

手が話しやすくなるような態度を特徴とする項目に高

い負荷量を示していた。そこで,「話し手が話し易く

なるような雰囲気や動作を伴った聴き方」と命名した。

第2因子は3項目で構成されており,「相手が言葉に

つまったときには,『例えば,こんなことですか』ときっ

かけを作って聴くことができる」「相手の話の内容を

時々言葉で整理してあげながら聴くことができる」な

ど,話し手に配慮した聴き方を特徴とする項目に高い

負荷量を示していた。そこで,「話し手の話を促進し

たり確認したりする聴き方」と命名した。

3.話し方スキル質問紙の因子構造

 次に,話し方スキル質問紙各23項目の平均点と標準

偏差を確認したところ,特にフロアー効果と天井効果

は見られなかった。そのため,そのまま全ての質問項

目について主因子法による因子分析を行った。結果,

因子負荷量の低い項目を除外し,最終的にTable3の

ような結果を得た。第1因子は6項目で構成されてお

り,「自分の話の内容にマッチした表情で話すことが

できる」「自然な笑顔で話すことができる」「身構えず,

リラックスして話すことができる」など,話の内容に

マッチした表情やジェスチャーを使った話し方を特徴

とする項目に高い負荷量を示していた。そこで,「話

の内容にマッチした表情やジェスチャーを使った話し

方」と命名した。第2因子は4項目で構成されており,

「簡潔に話をすることができる」「焦らずに話すことが

できる」など,簡潔でテンポの良い話し方を特徴とす

る項目に高い負荷量を示していた。そこで,「簡潔で

テンポの良い話し方」と命名した。第3因子は5項目

で構成されており,「意見が異なるときでも,相手に

攻撃的な言動をすることはない」「『感謝』や『お詫び』

などを入れて話すことができる」など,聴き手に配慮

した話し方を特徴とする項目に高い負荷量を示してい

た。そこで,「聴き手との関係や聴き手の聴き易さに

配慮した話し方」と命名した。第4因子は2項目で,

「自分自身のことや個人的経験について話すことがで

きる」「身近な例を取り上げて話をすることができる」

から構成されていたことから,「自分の経験や身近な

例をあげて話しかける話し方」と命名した。

4.聴き方スキル・話し方スキル質問紙の信頼性の検

 聴き方スキル尺度17項目の内的一貫性を検討したと

ころ,十分な信頼性(α=.92)が確認されたため,17

項目の得点を合計し,聴き方スキル尺度得点を算出し

た。また,下位尺度の内的一貫性を検討したところ,「話

し手が話し易くなるような雰囲気や動作を伴った聴き

方」でα=.91,「話し手の話を促進したり確認したり

する聴き方」でα=.81と,それぞれ十分な信頼性が確

認された。

Table 3 話し方スキル尺度の因子分析結果

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聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について

 他方,話し方スキル尺度17項目の内的一貫性を検討

したところ,十分な信頼性(α=.90)が確認されたた

め,17項目の得点を合計し,話し方スキル尺度得点を

算出した。また,下位尺度の内的一貫性を検討したと

ころ,「話の内容にマッチした表情やジェスチャーを

使った話し方」でα=.85,「簡潔でテンポの良い話し方」

でα=.83,「聴き手との関係や聴き手の聴き易さに配

慮した話し方」でα=.72,「自分の経験や身近な例を

あげて話しかける話し方」でα=.65と,こちらもおお

むね十分な信頼性が確認された。

5.聴き方スキル・話し方スキル質問紙の妥当性の検

 聴き方スキル質問紙17項目の妥当性を検討するた

め,藤本・大坊(2007)のコミュニケーションスキル

尺度ENDOCOREsの読解力因子4項目との間で相関

を求めた。結果,両者の間に有意な正の相関(r=.50,

p<.01)が見られた。さらに,話し方スキル尺度17項

目の妥当性を検討するため,藤本・大坊(2007)のコミュ

ニケーションスキル尺度ENDOCOREsの表現力因子

4項目との間で相関を求めた。結果,両者の間に有意

な正の相関(r=.64, p<.01)が見られた。これらにより,

聴き方スキル・話し方スキル両尺度の妥当性が確認さ

れた。

 以上のように,聴き方スキル・話し方スキル質問紙

に信頼性・妥当性が得られたので,以後,尺度として

扱うことにした。

6.聴き方スキルと話し方スキルが外的適応と内的適

応に及ぼす影響

 まず,聴き方スキル・話し方スキルを,それぞれ平

均値を基準に,聴き方高・話し方高群(HH群),聴き

方高・話し方低群(HL群),聴き方低・話し方高群(LH

群),聴き方低・話し方低群(LL群)の4群を作り,こ

れを独立変数として,外的適応・内的適応尺度の各得

点を従属変数とする一要因の分散分析を行った。その

結果をTalbe4に示す。対人ストレスイベント尺度を

除く友人関係測定尺度,主観的幸福感尺度,そして

対人的疎外感尺度との間に有意な群間差が見られた

(それぞれF(3,410)=25.61,F(3,410)=14.36,F(3,410)

=24.88, ともにp<.001)。

 次に,TurkyのHSD法(5%)による多重比較を

行ったところ,Fig.1に示すように,友人関係では,

HH>HL,HH,LH,HL>LLという結果が得られた。こ

の結果から,聴き上手・話し上手(HH)が,聴き下

手・話し下手(LL)よりも友人との親密度が高いこと,

また,聴き上手の中では,話し上手(HH)が話し下

手(HL)よりも友人との親密度が高いことが分かっ

た。また,聴き下手の中でも,話し上手(LH)な方が,

話し下手(LL)よりも友人との親密度が高くなった。

他方,話し下手の中では,聴き上手(HL)が聴き下

手(LL)よりも友人との親密度が高くなった。以上

から,友人関係尺度では,聴き方・話し方スキルの両

方が影響していると思われるが,どちらかと言えば,

話し方スキルの影響が大きいと考えられる。

 Fig.2に示すように,主観的幸福感では,HH>LLと

いう結果が得られた。この結果から,聴き上手・話し

上手(HH)が,聴き下手・話し下手(LL)よりも主

観的幸福感が高いことが分かった。以上から,主観的

幸福感においては,聴き方スキルと話し方スキルとが

共に相まって影響していると考えられる。

 Fig.3に示すように,対人ストレスイベントでは有

意な群間差は見られなかった。以上から,対人ストレ

スイベント尺度においては,聴き方・話し方スキルの

影響は少ないと考えられる。

 Fig.4に 示 す よ う に, 対 人 的 疎 外 感 で は,

HH,LH<LL,HH,LH<HLという結果が見られた。こ

の結果から,聴き下手・話し下手(LL)が,聴き上手・

話し上手(HH)よりも対人的疎外感の度合いが高い

ということ,また,聴き下手の中では,話し下手(LL)

Table 4 聴き方スキル高(H)低(L)群・話し方スキル高(H)低(L)群の4群による1要因の分散分析結果と多重比較の結果

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石井 琴子  新井 邦二郎

聴き下手で話し上手(LH)よりも対人疎外感の度合

いが高くなっていた。このような結果から,対人疎外

感においても,聴き方・話し方スキルの両方が影響し

ていることは確かであるが,どちらかと言えば,話し

方スキルの影響が大きいと考えられる。

 さらに,聴き方スキルの2下位尺度及び話し方スキ

ルの4下位尺度が外的適応と内的適応に及ぼす影響を

検討するため,計6つの下位尺度の得点を独立(説明)

変数とし,友人関係測定尺度,主観的幸福感尺度,対

人ストレスイベント尺度,そして対人的疎外感尺度を

従属(目的)変数とする重回帰分析を行った。その結

果をFig.5に示す。

 Fig.5が示すように,友人関係には,聴き方スキル

のうち「話し手が話し易くなるような雰囲気や動作を

伴った聴き方」が,話し方スキルの中では「話の内容

にマッチした表情やジェスチャーを使った話し方」の,

2つが有意な正の影響を与えていることが分かった。

このことから,相手が話し易くなるような聴き方や,

表情やジェスチャーを上手に使って自分の気持ちや考

えを素直に表現する話し方が,外的な適応を意味する,

良い友人関係を作ったり,保ったりする要因の一つに

が話し上手(LH)よりも対人的疎外感の度合いが高

いことが分かった。さらに,聴き上手の中でも,話し

下手(HL)が話し上手(HH)よりも対人疎外感の

度合いが高かった。他方,聴き上手・話し下手(HL)が,

Fig 1 友人関係測定得点の4群比較 Fig 4 対人疎外感得点の4群比較

Fig 2 主観的幸福感得点の4群比較

Fig 5 聴き方・話し方スキル下位尺度による重回帰分析

Fig 3 対人ストレスイベント得点の4群比較

Page 8: 聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適 …...- 69 - 聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について

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聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について

なっているということが示された。

 主観的幸福感には,話し方スキルのうち,「話の内

容にマッチした表情やジェスチャーを使った話し方」

が有意な正の影響を与えていることが分かった。話し

方は,喜怒哀楽などをその場の状況に合わせて表しな

がら,身振り手振りも交えて積極的に話しかけていく

態度を含んでいるが,こうした積極的な自己表明の度

合いが,自己の生活に対する満足感や人生に対する前

向きな気持ちを表す内的な適応としての,主観的幸福

感を高める要因になっていることが示された。鈴木・

新井(2014)も,主張性の一つである自己表明と主観

的幸福感の関連性について検討しており,自己表明の

度合いが高いほど,内的適応の指標としての主観的幸

福感が高くなることが明らかになっている。一方,今

回の一要因の分散分析の結果からは,同時に聴くスキ

ルも主観的幸福感の向上に影響していることが分かっ

た。門田・寺崎(2005)は,パーソナリティが,対人

相互作用において使用されたソーシャル・スキルを媒

介して,主観的幸福感に及ぼす影響について明らかに

する中で,外向者ほどソーシャル・スキルが高く,そ

のことが主観的幸福感の高さをもたらしていることを

示している。ここでのソーシャルスキルは,本研究に

おける聴くスキルと重なる部分がある反応性スキル

と,話すスキルと重なる部分がある主張性スキルの両

者から成っている。このことから,主観的幸福感には,

話すスキルのみならず,聴くスキルも同時に関係して

いると考えることができる。

 対人ストレスイベントは,一要因の分散分析の結果

では,聴き方スキルも話し方スキルも有意な影響は見

られなかったが,重回帰分析では,聴き方スキルのう

ち「話し手が話し易くなるような雰囲気や動作を伴っ

た聴き方」が有意な負の影響を与え,話し方スキルの

中では「聴き手との関係や聴き手の聴き易さに配慮し

た話し方」が有意な負の影響を与えていた。このよう

に,聴き方スキルのなかでは,「話し手が話し易くな

るような雰囲気や動作を伴った聴き方」が対人ストレ

スを低減する影響を及ぼしていたが,この聴き方は,

相手の話は最後まで聴くことができる,人の話をじっ

くり聴くことができる,自然な笑顔で聴くことができ

る,などの項目から構成されている。こうした相手に

ストレスを与えないような,相手を思いやる聴き方が,

対人関係に起因するストレス,対人葛藤の度合いを下

げることが明らかになった。このことから,相手を思

いやる話の聴き方を身に着けることで対人トラブルが

減り,それが対人関係のトラブルに起因するストレス

を減らすのではないかということが推測された。ま

た,話し方スキルのなかでは,「聴き手との関係や聴

き手の聴き易さに配慮した話し方」が,同時に対人ス

トレスを低減する影響を及ぼしていたことも明らかに

なった。この話し方も,相手にストレスを与えないよ

うな相手を思いやった話し方の項目から構成されてい

ることから,こうした聴き方・話し方が対人関係に起

因するストレスを低減する可能性があることが理解さ

れる。

 対人疎外感には,話し方スキルのうち「話の内容に

マッチした表情やジェスチャーを使った話し方」が有

意な負の影響を与えていることが分かった。このよう

に,「話の内容にマッチした表情やジェスチャーを使っ

た話し方」が対人的疎外感を有意に低減する影響を与

えていることが明らかになったことは,表情やジェス

チャーを使って自分の気持ちや考えを素直に表現する

話し方が,社会や周囲の人との関係の中で生じる疎外

感や孤独感を低減する可能性を示している。相川・藤

田(2005)は,ソーシャルスキルのうち,話し方ス

キルと関係があると思われる関係開始因子と主張性因

子,そして記号化因子のそれぞれと孤独感との間には

負の相関があることを明らかにしている。また,渡部

(2008)は,主張性と精神的適応との関連を検討して

おり,主張性4要件のうち,考えや感情を素直に表現

する「素直な表現」が社会的情報処理過程の目標設定

ステップにおける主張性目標を高め,ひいてはそれが

孤独感を低減させていたことを明らかにしている。本

研究の結果は,相川や渡部の研究結果と符合している

と考えることができるだろう。

今後の課題

 本研究の目的は,聴く・話すという,人間関係形成

の基盤となるスキルのうち,訓練によって身に着けや

すいような行動面に焦点を当てた聴き方・話し方スキ

ル尺度を作成し,それらのスキルと外的適応,内的適

応との関係について検討することであった。その結

果,聴き方スキル2因子,話し方スキル4因子から成

る尺度が作成され,それぞれ信頼性と妥当性も確認さ

れた。作成された尺度と適応との関係については,自

分の気持ちや考えを素直に表現する手段として,表情

やジェスチャーを上手に使って表現することが,外的

な適応を意味する,良い友人関係を保つ要因の一つに

なるとともに,自己の生活に対する満足感や人生に対

する前向きな気持ちを表す内的な適応としての,主観

的な幸福感をも高める要因の一つにもなっているとい

うことが示された。他方,ネガティブな外的適応とし

ての対人的なストレスに関しては,聴き方では,話し

手が話し易くなるような雰囲気や動作を伴った聴き方

が,話し方では聴き手との関係や聴き手の聴き易さに

配慮した話し方が,対人関係に起因するストレスの度

合いを下げたことが明らかになった。以上の結果から

は,相手を思いやる雰囲気や動作を伴った聴き方・話

し方を身に着けることで,対人トラブルが減り,ひい

てはそれが対人関係のトラブルに起因するストレスを

減らすことにつながるということが理解された。また,

Page 9: 聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適 …...- 69 - 聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について

-  76  -

石井 琴子  新井 邦二郎

ネガティブな内的適応を表す対人的疎外感に関して

は,話の内容に合った表情をしたり,ジェスチャーを

上手に使って,自分の気持ちや考えを素直に話すこと

で,社会や周囲の人との関係の中で生じる疎外感や孤

独感が低減されることが示された。今回作成した聴き

方・話し方スキル尺度が訓練しやすい行動面に焦点を

当てて作成された点と,以上の結果から,聴き方・話

し方と適応との関係について再考すると,表情やジェ

スチャーなどの非言語的なコミュニケーションの要素

が適応に及ぼす影響は,決して小さくないと考えられ

た。調査後の訓練のことを考えた時,行動面に焦点を

当てたトレーニングは,その効果が第三者に見えやす

い分,認知面に焦点を当てたトレーニングよりも取り

掛かりやすいと推測される。トレーニングの手順とし

ては,まずは非言語コミュニケーションの中心になる

表情に注目し,表情筋を柔軟にするトレーニングから

始め,最終的には話の内容にマッチした表情やジェス

チャーを使った聴き方・話し方ができるような訓練方

法を開発することができればと考えている。

 また,今回の尺度作成にあたっては,訓練し易いと

思われる,行動面に焦点を当てた聴き方・話し方スキ

ルの作成を目指し,出来るだけ認知面を取り除いた尺

度を作ろうとしたが,認知面を完全に削除した尺度を

作成することには限界があった。聴くことと話すこと

は認知の働きを無視しては語れないことが大きな理由

の一つであり,これまで先行研究に行動面に焦点を当

てた聴き方・話し方スキルがなかったことも,今回の

研究を通して改めて理解することができた。

 さらに,今回の質問紙が自記式の質問紙であり,第

三者の評定が入らない尺度であったことも,本研究の

課題として挙げておきたい。自記式の質問紙であった

ことから,今回の回答は回答者の主観に頼るものと

なった。そのため,今後は他者評定による聴き方・話

し方スキル尺度を検討する必要があると思われる。

謝  辞

 今回の質問紙調査の実施にあたり,東京聖栄大学岡

田弘先生,日本医科大学樫村正美先生,東京成徳大学

阿部宏徳先生,田村節子先生に多大なるご協力を頂き

ました。この場を借りて心より御礼申し上げます。最

後に,調査にご協力いただいた調査協力者の皆様に御

礼申し上げます。

文  献

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聴き方スキル・話し方スキル尺度の作成ならびに適応との関係について

Construction of scales for listening and speaking skills and

their relation to external and internal adaptation

Kotoko ISHII (Master Program in Psychology, Tokyo Seitoku University)

Kunijiro ARAI (Tokyo Seitoku University)

  This study constructed scales for listening and speaking skills focusing on the behavioral 

phase. It also clarified the relation between listening and speaking skills and external and 

internal adaptation. A total of 451 college students (number of valid responses: 414) completed 

a questionnaire. The main results were as follows.

① Exploratory factor analysis  indicated that the  listening skill scale was composed of 

two factors, and the speaking skill scale was composed of four factors. The reliability and the 

validity of these scales were confirmed.

② “The listening factor of using gestures and creating an atmosphere to encourage the 

person speaking” and “the speaking factor of using expressions and gestures that match the 

content of the conversation” had positive effects on friendship with others.

③ “The speaking factor of using expressions and gestures that match the content of the 

conversation” had positive effects on subjective well-being.

④ With reference to interpersonal stress events, “the listening factor of using gestures 

and creating an atmosphere to encourage the person speaking” and “the speaking factor of 

considering the relation to listener and catching the listener’s attention” had negative effects 

on stress levels.

⑤ “The speaking factor of using expressions and gestures that match the content of the 

conversation” had negative effects on the sense of alienation and desolation.

  Certain factors of listening skills and speaking skills were found to have effects on external 

and internal adaptation.

Key words:  listening skills, speaking skills,  types of communication, external adaptation, 

internal adaptation

Bulletin of Clinical Psychology, Tokyo Seitoku University

2017, Vol. 17, pp. 68-77

-2017. 1.29受稿,2017. 3. 1受理-

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