蒸気タービン車室・弁き裂進展解析手法の開発 - energia...ch1 ch2 ch3 ch4 ch5 ch6...

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試験結果を縦軸da/dN,横軸ΔJcパラメーターで整 理したものを図2に示す。Factor of 2の範囲内にあり 破壊力学パラメーターとして最適である。また100分 保持の中途止め時(t/tr=0. 7)のき裂先端は図2のよ うに先端にクリープボイドが連結してき裂になってい ることが確認でき,酸化の影響は少ないことが判った。 (3)有限要素法による熱流動解析,熱応力解析 蒸気タービンの車室と,弁の外表面に熱電対各々10 箇所貼り付け,起動停止時の温度を計測した。また入 口と出口の蒸気温度,蒸気圧力および各温度ごとの熱 伝導率を入力して,蒸気の熱流動解析を行い,温度分 布を算出した。さらに熱応力解析により起動・運転・ 停止時の内表面の応力分布を求めた。(図3参照) (4)クリープき裂進展解析 き裂周りの応力・ひずみ分布からクリープ破壊力学 パラメーターΔJを算出し,図2のda/dNを求め,き 裂を進展させ,ΔJを再計算した(詳細解析法)。ま たクリープ寄与率(全寿命のうちのクリープ損傷が占 める割合)ごとの弾性破壊力学パラメーターΔKから da/dNを求め,き裂を進展させ,ΔKを再計算しさら にき裂を進展させる方法(簡易解析法)も同時に行っ た。 弁切欠き部の詳細解析法によるき裂進展結果を図4 に示す。K1は切欠き部のうち比較的滑らかなR部表 面を,K2は切欠き部のうち急勾配な表面を進むき裂, K3は切欠き部の肉厚内部に進むき裂であり,K3につ いては,詳細解析法と簡易解析法の2種類の結果を併 記した。実機のき裂深さも同時に表示した。 上記の詳細解析法と簡易解析法を弁のR部や車室に 適用して,実機のき裂深さと比較した結果,ほぼ一致 していることを確認した。 あとがき 実機のレーザーによる形状計測,実機を模擬したき 裂進展試験,有限要素法による熱流動解析,熱応力解 析,ΔJを使ったクリープき裂進展解析(詳細解析) およびクリープ寄与率を導入したΔKを使ったクリー プき裂進展解析(簡易解析)により実機のき裂進展挙 動を把握できた。今後はさらに実機のき裂データを集 めて精度確認を行っていく予定である。 3 まえがき 最近のエネルギー事情から火力発電が主体となり運 転時間が増え蒸気タービンも経年化が進んできてい る。しかし蒸気タービン車室や弁の余寿命診断は,ボ イラのように定期事業者検査時期を延長する場合に使 用される余寿命診断に関する指針がなく,各電力会社 の独自判断にゆだねられている。 大半の判断は,き裂が発生すれば全域削り取るが, この方法では,き裂が発生・成長する部位はほぼ決まっ ているので肉厚が少しずつ減ってくる。経年化ととも に設計最小肉厚(Tsr)に近づき,Tsrに達すると溶 接補修が困難なため,一式取り替えているのが現状で ある。そこで,き裂を削らないで監視のみをする方法 に変えれば,長寿命化につながると考えられる。その ためき裂進展挙動をより正確に把握する必要があり, 試験片の長時間き裂進展試験,蒸気タービン車室・弁 形状のレーザー計測,および,計算機による熱流体・ 構造解析の3つの最先端技術を融合した手法を考案し た。また同時にクリープ寄与率という新たな概念を導 入して現場で簡易にかつ高精度にき裂進展予測できる 方法を開発したので報告する。 概  要 (1) レーザーによる形状計測 蒸気タービンの外観計測には土木工事等で使用され る高精度3Dレーザー測距器を用い,内部は,ハンデ イタイプの3Dレーザーを使った(図1参照)。外観は 2mm程度の誤差を設計図から,また,内部はノギス をレーザーで計測して精度比較を行い,0. 1mm程度 の誤差を確認した。 (2) 実機模擬き裂進展試験 経年化したバルブの廃却材から切り出した1Cr1 Mo0. 2V鋳鋼(累積運転時間186, 000hr,起動停止回 数440回 ) と1Cr1MO鋳 鋼(229, 000hr,456回 ) を1分,10分,100分,1000分負荷を掛けて保持し, 実機の起動停止を模擬した負荷を掛け,き裂進展速度 を計測した。 試験片形状は幅20mm×平行部長さ20mm×厚み 5mmで初期き裂は2mmを導入した。き裂計測は, 20倍の読み取り顕微鏡による目視観察とした。負荷 は140MPa,90MPaを一定時間保持し,試験温度は, 550℃一定とした。 1 2 研究テーマ紹介 蒸気タービン車室・弁き裂進展解析手法の開発 エネルギア総合研究所 発電・材料担当 西田 秀高 Page 6 エネルギア総研レビュー No.30

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Page 1: 蒸気タービン車室・弁き裂進展解析手法の開発 - energia...CH1 CH2 CH3 CH4 CH5 CH6 CH7 CH8 CH9 CH10 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 600 500 400 300 200 100 0 長距離用

 試験結果を縦軸da/dN,横軸ΔJcパラメーターで整理したものを図2に示す。Factor of 2の範囲内にあり破壊力学パラメーターとして最適である。また100分保持の中途止め時(t/tr=0.7)のき裂先端は図2のように先端にクリープボイドが連結してき裂になっていることが確認でき,酸化の影響は少ないことが判った。

(3)有限要素法による熱流動解析,熱応力解析 蒸気タービンの車室と,弁の外表面に熱電対各々10箇所貼り付け,起動停止時の温度を計測した。また入口と出口の蒸気温度,蒸気圧力および各温度ごとの熱伝導率を入力して,蒸気の熱流動解析を行い,温度分布を算出した。さらに熱応力解析により起動・運転・停止時の内表面の応力分布を求めた。(図3参照)

(4)クリープき裂進展解析 き裂周りの応力・ひずみ分布からクリープ破壊力学パラメーターΔJCを算出し,図2のda/dNを求め,き裂を進展させ,ΔJCを再計算した(詳細解析法)。またクリープ寄与率(全寿命のうちのクリープ損傷が占める割合)ごとの弾性破壊力学パラメーターΔKからda/dNを求め,き裂を進展させ,ΔKを再計算しさらにき裂を進展させる方法(簡易解析法)も同時に行った。 弁切欠き部の詳細解析法によるき裂進展結果を図4に示す。K1は切欠き部のうち比較的滑らかなR部表面を,K2は切欠き部のうち急勾配な表面を進むき裂,K3は切欠き部の肉厚内部に進むき裂であり,K3については,詳細解析法と簡易解析法の2種類の結果を併記した。実機のき裂深さも同時に表示した。 上記の詳細解析法と簡易解析法を弁のR部や車室に適用して,実機のき裂深さと比較した結果,ほぼ一致していることを確認した。

あとがき

 実機のレーザーによる形状計測,実機を模擬したき裂進展試験,有限要素法による熱流動解析,熱応力解析,ΔJCを使ったクリープき裂進展解析(詳細解析)およびクリープ寄与率を導入したΔKを使ったクリープき裂進展解析(簡易解析)により実機のき裂進展挙動を把握できた。今後はさらに実機のき裂データを集めて精度確認を行っていく予定である。

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まえがき

 最近のエネルギー事情から火力発電が主体となり運転時間が増え蒸気タービンも経年化が進んできている。しかし蒸気タービン車室や弁の余寿命診断は,ボイラのように定期事業者検査時期を延長する場合に使用される余寿命診断に関する指針がなく,各電力会社の独自判断にゆだねられている。 大半の判断は,き裂が発生すれば全域削り取るが,この方法では,き裂が発生・成長する部位はほぼ決まっているので肉厚が少しずつ減ってくる。経年化とともに設計最小肉厚(Tsr)に近づき,Tsrに達すると溶接補修が困難なため,一式取り替えているのが現状である。そこで,き裂を削らないで監視のみをする方法に変えれば,長寿命化につながると考えられる。そのためき裂進展挙動をより正確に把握する必要があり,試験片の長時間き裂進展試験,蒸気タービン車室・弁形状のレーザー計測,および,計算機による熱流体・構造解析の3つの最先端技術を融合した手法を考案した。また同時にクリープ寄与率という新たな概念を導入して現場で簡易にかつ高精度にき裂進展予測できる方法を開発したので報告する。

概  要

(1) レーザーによる形状計測 蒸気タービンの外観計測には土木工事等で使用される高精度3Dレーザー測距器を用い,内部は,ハンデイタイプの3Dレーザーを使った(図1参照)。外観は2mm程度の誤差を設計図から,また,内部はノギスをレーザーで計測して精度比較を行い,0.1mm程度の誤差を確認した。

(2) 実機模擬き裂進展試験 経年化したバルブの廃却材から切り出した1Cr1 Mo0.2V鋳鋼(累積運転時間186,000hr,起動停止回数440回)と1Cr1MO鋳鋼(229,000hr,456回)を1分,10分,100分,1000分負荷を掛けて保持し,実機の起動停止を模擬した負荷を掛け,き裂進展速度を計測した。 試験片形状は幅20mm×平行部長さ20mm×厚み5mmで初期き裂は2mmを導入した。き裂計測は,20倍の読み取り顕微鏡による目視観察とした。負荷は140MPa,90MPaを一定時間保持し,試験温度は,550℃一定とした。

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研究テーマ紹介

蒸気タービン車室・弁き裂進展解析手法の開発エネルギア総合研究所 発電・材料担当 西田 秀高

Page 6 エネルギア総研レビュー No.30

総研レ�ュー30号CS3.indd 6 12.11.15 9:06:43 AM

Page 2: 蒸気タービン車室・弁き裂進展解析手法の開発 - energia...CH1 CH2 CH3 CH4 CH5 CH6 CH7 CH8 CH9 CH10 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 600 500 400 300 200 100 0 長距離用

CH1CH2CH3CH4CH5CH6CH7CH8CH9CH10

300025002000150010005000

600

500

400

300

200

100

0

長距離用

ボイドクラック先端

100分保持 t/tr=0.7 50μm

短距離用

外部車室温度分布

K1R部表面K2切欠き表面K3内部き裂深さK3内部き裂(ΔK簡易解析)

拡大

間隙有

1分保持10分保持100分保持1000分保持

da/dN= (ΔJc)1.19

材質;Cr-Mo-V鋳鋼温度;550℃応力;σ=±220MPa

da/dN

ΔJC

Factor of 2

弁表面応力

応力

0MPa

起動からの時間(h)

き裂長さ・深さ

50040030020010050起動1回:実機き裂深さ

蒸 気 タ ー ビ ン 車 室 ・ 弁 き 裂 進 展 解 析 手 法 の 開 発

図1 3Dレーザー測距器を使った形状計測

図2 長時間のき裂進展試験およびミクロ構造

図3  FEMによる熱流動・熱応力解析

図4 弁の切欠き部き裂進展挙動

Page 7エネルギア総研レビュー No.30

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