技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文...

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技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のための有機農業技術普及- 和文 受講者用 コンテンツ 独立行政法人国際協力機構 JICA 筑波 2007 年 12 月

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技術協力コンテンツ

-小規模農民グループ支援のための有機農業技術普及-

和文

受講者用 コンテンツ

独立行政法人国際協力機構

JICA 筑波

2007 年 12 月

Page 2: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

本書の内容は必ずしも独立行政法人国際協力機構の統一的な公式見解ではありません。

本書の無断複写(コピー)は著作法上での例外を除き、禁じられています。また、本書

に記載されている内容は、独立行政法人国際協力機構の許可無く転載できません。

発行:独立行政法人国際協力機構 JICA 筑波 業務第二チーム

〒305-0074 茨城県つくば市高野台 3-6

TEL: 029-838-1111(代)FAX: 029-838-1119 E-mail: [email protected]

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序文

小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

くり、地力の維持を可能とする有機農業のニーズは高く、中米カリブ地域はじ

め多くの地域で普及・実践が試行されています。

しかしながら、資機材などの投入が限られた小規模農民を対象とした有機農業

技術の開発は十分とは言えず、また脆弱な農業普及制度・体制の下、有機農業

に取り組む小規模農民の自立的な発展を促す支援が求められています。

こうした中、独立行政法人国際協力機構筑波国際センターでは、平成 18 年度か

ら開始した中米カリブ地域別研修「小規模農民支援有機農業技術普及」コース

をはじめとする本邦研修において有機農業・農業普及分野の研修を実施してき

ました。

同コースでは、日本の有機農業の経営母体の基本単位である家族を中心とした

小規模経営における伝統的農業の再評価、内部資源循環、生産者と消費者の関

係構築、「考える農民」の育成などに焦点をあて、中米諸国をはじめ世界の途上

国の小規模農民と共有できる教訓を導き出しています。

これら教訓をとりまとめ、途上国の開発現場に広く普及していくことを目的と

して、技術協力コンテンツ「小規模農民グループ支援のための有機農業技術普

及」を作成しました。

本コンテンツが、研修講師、専門家、協力隊員などの活動などにおいて活用さ

れ、小規模貧困農民支援の一助になれば幸いです。

独立行政法人国際協力機構 筑波国際センター 所長 青木 眞

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テキスト

1 テキスト

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テキスト

目 次

本コンテンツ作成の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

■ 小規模農家支援と「有機農業」について 1 本コンテンツの目的と目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 ■ 目的 3 ■ 目標 3 ■ アウトプット 3

本コンテンツの構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 ■ モジュール構成 5 ■ 本コンテンツの構成の特徴 7

【1】 ユニット 0.1.1 : 有機農業の理念

日本の有機農業の発展経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 慣行農業の拡大 1 有機農業の再興 1

日本の有機農業の理念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

日本の有機農業の理念 3 日本の有機農業の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 日本の有機農業の現状 4 日本の有機農業の新たな動き 5

日本の有機農業からのメッセージ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 日本の有機農業からのメッセージ 7

はじめに

モジュール0:有機農業の理念

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【2】 ユニット 1.1.1 : 有機農業概論

慣行農業の問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 慣行農業は持続可能か? 1 農作物への影響 2 環境への影響 2 人体への影響 3 社会への影響 3 経済への影響 4

有機農業の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 有機農業の特徴 4 有機農業の効果 5 有機農業への転換期の問題点 6

有機農業の仕組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 健康な作物ができる仕組み 7 有機物循環の仕組み 9

【3】 ユニット 1.2.1 : 有機農業の定義と各国の状況

有機農業の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 国際有機農業運動連盟(IFOAM)による定義 1 コーデックス規格による定義 4

有機食品に関する検査・認証制度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 有機食品に関する検査・認証制度とは 5検査・認証制度の構成要素 5有機認証のプロセス 6参加型 2 者認証制度 8

世界の有機農業の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 世界の状況 9 各国の状況 11

モジュール 1:小規模農民による有機農業概論

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【4】 ユニット 1.3.1 : 有機農業による小規模農民支援概論

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 農家経営の基礎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 マーケティング概論 4 組織化と普及 6 農家組織の形態 6 普及における組織化 7 組織化と組織化支援 7 営農システム概論 8 小規模農民の定義 8 小規模営農システム 9 小規模営農システムと有機農業 9

有機農業の3つのカテゴリー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 3つのカテゴリー 10

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【5】 ユニット 2.1.1 : 営農計画:経済分析

農業経営とは?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

経営管理の必要性 3

小農経営とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

農業経営の特質 4

小農経営の考え方 5

小規模有機農業における「投資」の考え方 7

記録と活動の数値化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

記録がない場合は 8

農作業量の算定 9

生産コストの算定 10

栽培計画と損益分岐点 10

収益の向上と二つの生産性 11

経営分析と対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

簡易な経営分析 12

分析結果の理解(評価) 14

対策 15

農業マーケティング ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

市場のしくみと価格 17

農産物の市場の特性 17

販売形態と農業マーケティング 18

販売戦略と生産物の商品化 19

農業マーケティングのすすめ 21

【6】 ユニット 2.2.1 : 営農計画:組織運営

組織化とは?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

集団の成立要件の発展過程 1

組織論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

集団の運営 8

モジュール 2:小規模農家経営

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【7】 ユニット 3.1.1 : 営農システム

有機農業の生産原則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

有機農業の生産原則 1

営農システムの基礎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

営農システムとは 2

システムの図解 2

作付け体系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

作付け体系とは 4

単作と連作障害 4

輪作と間混作 5

営農設計(生物学的側面)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

生産要素の把握 8

営農システムの栄養計算 9

【8】 ユニット 3.2.1 : 土つくり

土をつくる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

有機農業の基本は土づくり 1

自然界の土づくりの仕組み 2

「よい土」とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

「よい土」とは 3

化学的性質 3

物理的性質 4

生物的性質 5

有機物の効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

有機物の土づくり効果 6

有機物直接吸収の効果 8

熱帯土壌・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

熱帯土壌の特徴 9

熱帯地域での土づくり 10

モジュール 3:有機農業技術

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【9】 ユニット 3.2.2 : 有機質肥料 (1)

有機質肥料と化学肥料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

有機質肥料の特徴 1

化学肥料 1

堆肥・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

堆肥の効果 2

堆肥にする理由 3

堆肥化の条件 3

堆肥化プロセス 4

堆肥の作り方、使い方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

作り方 5

使い方 9

ボカシ肥・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

ボカシ肥とは 9

途上国でボカシ肥を使用する際の留意点 10

鶏糞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

鶏糞の特徴 11

舎飼い養鶏の方法 12

【10】 ユニット 3.2.3 : 有機質肥料 (2)

緑肥作物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

緑肥とは 1

途上国での緑肥使用の現状 2

雑草、作物残さ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

雑草、作物残さの特徴 2

雑草、作物残さの使い方 3

高栄養の有機物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

高栄養の肥料材料の探し方 4

高栄養有機物の一次処理 5

化学肥料の併用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

なぜ併用か 6

併用の方法 7

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【11】 ユニット 3.3.1 : 種子の調達

有機農業の種子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

種子の重要性 1

在来種と一代交配種(F1)との違い 1

遺伝子組み換え技術 3

種子の自家採種・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

母体の選び方 5

採種 5

乾燥 7

保存 7

種子供給システム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

2 つの種子供給システム 8

品種登録と保証種子 9

種子供給システムの実践例 10

【12】 ユニット 3.4.1 : 土地準備と水管理

土地準備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

耕起 1

うね 2

浸食防止 3

水管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

天水栽培の保水技術 4

小規模灌漑 4

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【13】 ユニット 3.5.1 : 生育管理

栽培方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

播種 1

育苗・定植 2

仕立て 3

雑草管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

雑草管理 4

具体的な方法 5

【14】 ユニット 3.5.2 : 病虫害対策

病虫害対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

化学農薬の問題点 1

病虫害防除の基本的な考え方 2

具体的な防除方法 2

天然農薬・天敵利用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

天然農薬 4

天敵利用 5

移行期の対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

移行期の対策 6

化学農薬の併用 7

【15】 ユニット 3.6.1 : 技術組み合わせデザイン

営農システム改善方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

有機農業の生産原則 1

営農システム図による小規模農民支援 2

営農システムの改善方法 2

目的カテゴリー別の技術組み合わせ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

カテゴリーA 8

カテゴリーB 9

カテゴリーC 10

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【16】 ユニット 4.1.1 : 農村社会調査概論

農村社会調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 農村社会調査とは? 1 調査手法の分類 2 参加型農村調査 2

有機農業普及と小規模農家支援のための農村社会調査・・・・・・・・・・・・・4 調査項目 4 情報収集の方法 5 農村社会調査の設計 10

【17】 ユニット 4.2.1 : 普及手法概要

農業普及のプロセス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 日本の農家の技術発展と農業普及 1 普及員の機能と普及手法 2 有機農業普及を通した小規模農家支援における普及員の役割の重要性 3

普及手法の種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 日本の農業普及の変遷とその種類 4 コミュニケーションの形成 6 参加型の技術普及 ― 農民から農民へのアプローチ ― 11 農民から農民へのアプローチとその他の手法 13 有機農業と日本の普及事業 ― 行政の取り組み ― 16 有機農業と日本の普及事業 ― 現場での取り組み ― 18

モジュール 4:小規模農家支援・普及概論

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【18】 ユニット 4.3.1 : 営農計画の基礎:ビジョン策定

営農計画のビジョン策定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 問題の明確化 2 課題の選定 4 ビジョンの策定 5

営農計画の評価とモニタリング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 計画の事前評価 7 計画の進捗管理 8

【19】 ユニット 4.4.1 : 営農計画:活動計画策定

営業活動計画の進捗管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 活動の分類 1 営農活動計画と管理能力 2

詳細な活動計画の策定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 時間による管理 3 投入による計画の管理 6

【20】 ユニット 4.5.1 : モニタリング評価

モニタリング・評価概論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 モニタリング・評価とは 1 PDM/ロジカルフレームワーク(ログフレーム)を用いたモニタリングと評価 3

モニタリング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 モニタリングの要素 5 モニタリングの実施 6

評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 参加型の評価とモニタリング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 参加型のモニタリングと評価とは 13 参加型のモニタリングと評価の方法と普及員の役割 13

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事例 (CASE) / 演習 (ACTIVITY) 一覧

事例 (CASE) / 演習 (ACTIVITY) 一覧

事例 (CASE)一覧

CASE 【1】-1 金子美登氏 霜里農場

CASE 【8】-1 金子美登氏 霜里農場の土づくり

CASE 【8】-2 金城農場の土づくり

CASE 【9】-1 パナマ JICA プロジェクトのボカシ肥づくり

CASE 【11】-1 ジンバブエの種子生産プロジェクトの事例

CASE 【11】-2 「種の自然農園」岩崎政利氏

CASE 【15】-1 埼玉県小川町霜里農場

CASE 【15】-2 千葉県さんぶ野菜ネットワーク

CASE 【15】-3 沖縄県読谷村佐久本農園

CASE 【15】-4 南アフリカ・リンポポ州 ペプ自立プロジェクト

CASE 【17】-1 タンザニアの FTF アプローチ

CASE 【17】-2 JA グリーン近江・大中の湖ヒノヒカリ生産部会での稲作技術普及

演習 (ACTIVITY) 一覧

Activity 【5】-1 チャバ家の営農

Activity 【7】-1 営農システム図解

Activity 【9】-1 ボカシ肥づくり

Activity 【10】-1 有機質肥料の投入計画

Activity 【11】-1 種子供給システム考案演習

Activity 【12】-1 ため池設計演習

Activity 【14】-1 病虫害対策考案

Activity 【15】-1 技術組み合わせ演習

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はじめに

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はじめに

1

本コンテンツ作成の背景

■ 小規模農家支援と「有機農業」について 元来農業は、自給や租税支払いのために農作物を作るということから始まり、基本的には

低投入・低リスクの形態で行われてきたといえます。そのために、日本を含めて世界各地

でさまざまな自然起源の肥料が作られ、土壌の維持と生産の安定が目指されてきました。

ところがその後、農作物が商品として売買されるようになっていく過程で、あるいは、人

口の増加などの土地需要の高まりなどから、農業の生産性の向上ということが大きな課題

になっていきました。その中で、さまざまな農業技術(耕地・肥培管理、品種改良、病虫

害対策、収穫方法、ポストハーベスト処理など)が開発されてきました。しかしその後の

土壌劣化や農薬被害などの問題への反省から、より自然の力に依存した、持続的な農業生

産方式に回帰すべきという動きが進んでいます。一方、消費者の側も、先進国や都市部を

中心に嗜好の多様化が進み、「自然の力」「安全」「環境にやさしい」ということが価値とし

て認められるようになってきました。これが、特に先進国で見られる「有機農業」の位置

づけであるといえましょう。つまり、元来農業は究極の「有機農業」から始まり、今また

そこに戻ってきているとも言えるのではないでしょうか。 それでは、途上国の農業、特に小規模農家の支援という点でこの「有機農業」を考えてみ

ると、どうでしょうか。基本的には上に述べた、一般的な農業の発展形態と同様の分化を

たどっているといえます。誤解を恐れずに単純化してみると、表 1-1 のように整理できると

考えられます。

表 1- 1 途上国での一般的な農業形態の類型

農業の形態 具体的な様子

自給を主目的とし、粗放的に

主食穀類を生産するもの 天水での米、ソルガム・ミレット・メイズ・豆、キャッサ

バ、タロなどの粗放的栽培や焼畑など。近年の農業普及な

どで化学肥料や農薬も使用されるようになっている。 農業から現金収入を得てい

るもの 主食穀類の生産余剰の販売がある程度できる。肥料や農薬

の使用がある程度前提になっている。 農業が貨幣経済活動として

成立しているもの 主食穀類生産と合わせて野菜などの非主食作物を、販売を

主目的として生産する。肥料や農薬の使用が前提。 農業が産業化しているもの 市場取り扱い商品としての農作物生産に特化した農業。 高付加価値産業としての農

業となっているもの 産地形成やブランド農業などによる作物の高付加価値化

が確立し、より高度に産業化した農業。

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はじめに

2

このようなさまざまな農業の形態の中で「有機農業」を考えてみると、その目的や効用は、

次のようにさまざまに考えられます。

入手可能な有機物を活用することによる投入財コストの削減 自然起源の有機物を中心にした肥料を用いることによる持続的な土壌改良 畜産などとの複合営農形式を導入することによる収入源の多様化とリスクの分散 有機肥料による土作りなどを通した小規模農家の「農家」としての知識と技術の蓄積 「有機農業」による商品の差別化とブランド(産地)形成

ここで注意しなくてはならないことは、自然の有機物を活用して農地の自然の力を最大限

発揮させることを基本とする有機農業では、化学肥料や農薬の投入と異なり、ある場所で

使われている技術がそのまま他の場所でも有効であるとは限らない、ということです。有

機農業によって小規模農家を支援するということは、ある特定の有機農業技術をそのまま

伝えるということではありません。有機農業という考え方に基づいて、それぞれの土地で

どのような技術的な工夫ができるかを考えるという「行動様式」を伝えることが、重要な

「技術移転」のひとつとなるべきだと考えています。この技術協力コンテンツではこのよ

うな考え方に立ち、「生産技術」を扱うモジュールもありますが、個別技術集のようなもの

ではなく、有機農業の理念や有機農業を進める際の技術的な視点を学ぶこと、また、皆さ

んがそれぞれ、各自の状況に応じて学んだことを応用してみるという能動的な学習に重点

を置いて構成しています。 さらに、「行動様式の伝播」や「農家自身の能動的な学習」という点を「農業普及」の観点

から考えると、「Farmer to Farmer」、つまり、農家自らが他の農家に知識や技術、あるい

は農業というものを伝えていく活動の重要性にたどりつきます。これを支援していくこと

も、有機農業を普及していく上で極めて重要な要素の一つと考えています。この技術協力

コンテンツの「普及」を扱うモジュールでは、この「Farmer to Farmer」に焦点を当てた

内容としています。

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はじめに

3

本コンテンツの目的と目標

■ 目的 本コンテンツが開発された理由、あるいは本コンテンツの必要性が何かを「目的」と考え

ますと、本コンテンツの目的は、途上国の小規模農家を支援するために、日本国内、ある

いは JICA のこれまでの技術協力事業を通して蓄積された有機農業と普及手法に関する知

識・経験・技術をとりまとめて体系化し、JICA が今後行う技術協力の効果的な実施の促進

に資することです。 ■ 目標 本コンテンツを活用した際に期待される開発効果を「目標」と考えますと、本コンテンツ

の目標は、途上国で有機農業の理念と基本的な技術背景が幅広く理解され、小規模農家の

支援のためにその知識が有効に活用されること、といえます。 ■ アウトプット 本コンテンツを活用することで実際に生み出される成果を「アウトプット」と考えます。 本コンテンツでは、「小規模農家支援」と「有機農業振興の目的」を、表 2-1 に示す 3 つの

カテゴリーに大きく分類して焦点を当てています。これら 3 つの目的カテゴリー以外にも

「有機農業」の振興を通した「小規模農家支援」の目的はありえる。ただ、途上国の現状

を考えた場合、この 3 つの目的が最大公約数的な焦点として適切ではないかと考えていま

す。

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はじめに

4

表 2-1 本コンテンツのカバーする目的カテゴリーと対象となる農家のイメージ

目的カテゴリー 対象農家のイメージ

A 自然資源を有効活用す

ることによる投入コス

トの削減、地力の維持と

自然の力による生産性

の向上

主食穀類を 0.3ha 程度から 2ha くらいまでの常畑耕作で生産

する農業。水稲栽培は除く。移動耕作から常畑に移行したば

かりの粗放な段階から、化学農業を含めた比較的高度な段階

まで視野に入れる。このカテゴリーの主目的は、増産と安定

生産。この農業は面積を必要とするため、その改善に機械化

や灌漑施設建設の果たす役割が大きいが、有機技術で改善さ

れる側面もあるので、そこを中心的トピックとする。 B 現金所得のための農業

のコスト削減による採

算性の向上と地力向上

による持続性の確保

都市近郊を中心に、小面積の野菜畑作で現金収入を得る農業。

面積は 0.05ha から 0.5ha くらいまで。換金野菜を生産して

いる場合は化学農業を経験していることが多いので、そうし

た実態を想定する。有機技術の採用による生産効率・経営効

率の向上、長期的な土壌肥沃度の改善などが、このカテゴリ

ーの主目標になる。上記 A との最大の違いは面積、つまり集

約度である。したがって、機械化などよりも、肥培管理技術

としての有機技術が果たす役割がより大きい。 C 「有機」であることによ

る商品差別化、新たな流

通のあり方の追及

上記の A、B が高度化したものであることが多い。生産技術

の内容は A、B と大きくは違わないが、有機であることがブ

ランド化の根拠になるため、より徹底したものになっていく。

しかし、このカテゴリーの焦点は、生産技術よりもむしろ、

ブランド化や認証問題、消費者との直接的な関係作りなどの

マーケティングの側面に移っていく。途上国ではまだ少ない

が、一部では生まれ始めている。

本コンテンツのアウトプットは、本コンテンツを通して、皆さんが支援している農家の現

状を理解し、上記の目的カテゴリーに照らし合わせてその農家をどのように指導していく

べきかが明らかになり、最終的に農家を指導していくための準備が整う、ということです。

前の「有機農業と有機農業技術」の項でも述べたように、個別の技術事例を多く学ぶとい

うことではなく、本コンテンツを通して有機農業の技術的背景を理解し、それぞれの国や

地域の自然・社会環境の中で、その基本的な技術背景をどのように応用できるかを考える

ことができるようになる、ということが期待されています。

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はじめに

5

本コンテンツの構成

■ モジュール構成 コンテンツの全体構成は、有機農業の理念を考えるモジュール0に始まり、有機農業を考

える際の 3 つの側面(技術、経営、マーケティング)に大きく対応しています。具体的に

は、「理念」「総論」「営農(経営)」「栽培指針(技術)」「普及」の 5 つのトピックをモジュ

ールに編成しています。各モジュールに含まれるサブモジュールと最小単位であるユニッ

トの構成を表 3-1 に示しました。

表 3-1 本コンテンツのモジュール・サブモジュール構成

モジュール サブモジュール ユニット

0: 有機農業の理念 1. 有機農業の理念 【1】0.1.1. 1. 有機農業概論 【2】1.1.1. 2. 有機農業の定義と各国の状況 【3】1.2.1.

1: 小規模農民による

有機農業概論 3. 有機農業による小規模農民支援概論 【4】1.3.1. 1. 営農計画:経済分析 【5】2.1.1. 2: 小規模農家

経営概論 2. 営農計画:組織運営 【6】2.2.1. 1. 営農システム 【7】3.1.1.

【8】3.2.1. 土づくり 【9】3.2.2. 有機質肥料(1)

2. 土壌肥料

【10】3.2.3. 有機質肥料(2)

3. 種子の調達 【11】3.3.1. 4. 土地準備と水管理 【12】3.4.1.

【13】3.5.1. 生育管理 5. 栽培管理 【14】3.5.2. 病虫害対策

3: 有機農業技術

6. 技術組み合わせデザイン 【15】3.6.1. 1. 農村社会調査概論 【16】4.1.1. 2. 普及手法概要 【17】4.2.1. 3. 営農計画の基礎:ビジョンの策定 【18】4.3.1. 3. 営農計画:活動計画策定 【19】4.4.1.

4: 小規模農家支援・

普及概論

4. 活動モニタリング・評価 【20】4.5.1. 注:「ユニット」の欄が空欄のところは、「ユニット」のタイトルが「サブモジュール」のタイト

ルと同じもの。 このコンテンツのモジュールとユニットの位置づけを、2 つの異なる視点から整理したのが、

次の図 3-1、3-2 です。

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はじめに

6

有機農業振興による小規模農家支援の実現

実施管理、モニタリング・評価についての知識と技術の習得

効果的な普及方法の習得

有機農業の技術的知識の習

有機農業の基礎知識の習得

有機農業の理念の理解

モジュール0 モジュール1

モジュール3

モジュール4

有機農業の経営に関する知識の習得

モジュール2

図 3-1 知識と技術の習得の手順と対応するコンテンツの関係

有機農業による小規模農家

支援

有機農業の実践

普及活動の実践

土づくり 作物作り 顧客作り

ユニット3.2.1ユニット3.2.2ユニット3.2.3ユニット3.4.1

ユニット3.1.1ユニット3.3.1ユニット3.5.1ユニット3.5.2ユニット3.6.1

ユニット2.1.1 ユニット4.1.1

農家経営

ユニット2.1.1ユニット2.2.1ユニット4.3.1ユニット4.4.1

農家の現状の理解

情報の伝達、農家の

支援

ユニット4.2.1ユニット4.3.1

有機農業に関する基本的理解

ユニット0.1.1ユニット1.1.1ユニット1.2.1ユニット1.3.1

図 3-2 習得すべき知識と技術の構造と対応するコンテンツの関係

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はじめに

7

■ 本コンテンツの構成の特徴 本コンテンツの実務的な有用性を高めるために、次のような工夫を加えています。

★モジュール1での各研修受講者の目的の明確化 このコンテンツを利用者する皆さんが、指導している農家に「有機農業」を指導する目的

が何かを明確にするステップを導入部(モジュール1)におき、その結果に基づいてその

後の学習をどのように進めるべきかがわかるような構成となっています。 具体的には、前述した 3 つの目的カテゴリーのうち、どれに適合するかを皆さんが判断す

るという作業をモジュール 1 の中で行います。その結果に対応して、目的カテゴリー別に

適用できる、有機農業の技術、組織化や普及などの支援方法がどのようなものかをそれぞ

れのユニットの中で示しています。

★効果的な事例、演習の活用 このコンテンツで習得した知識や技術を現場での実践につなげるためには、習得したこと

にとどまらず、皆さんが各自の地域に適した支援方法をさらに考案することが不可欠です。

本コンテンツでは、皆さんがそれぞれの現場にどのように技術を適用するかを考えられる

ような演習教材を、ユニットに組み込んでいます。また事例紹介は、単に日本や海外での

有機農業の例を紹介するのではなく、そこから得られる、途上国での有機農業振興を考え

る上での教訓を考えるような内容となっています。 ★「ジョブ・エイド(Job Aid)」 さらに本コンテンツには、「ジョブ・エイド」と呼ぶ教材が付属しています。ジョブ・エ

イドとは、皆さんがこのコンテンツでの学習を終えた後に、習得した知識や技術を復習あ

るいは実践する際に役に立つ実務上のツールのことです。ユニットで取り扱う知識の要点

を簡単に示すもの(知識系ジョブ・エイド)と、ユニットで習得したことを実務に生かす

際の助けとなるもの(実務系ジョブ・エイド)の 2 種類があります。

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モジュール 0

有機農業の理念

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モジュール0:有機農業の理念

目次

【1】 ユニット 0.1.1 : 有機農業の理念

日本の有機農業の発展経緯 .......................................................................................... 1 慣行農業の拡大 ..............................................................................................................................1 有機農業の再興 ..............................................................................................................................1

日本の有機農業の理念 .................................................................................................. 3 日本の有機農業の理念 ..................................................................................................................3

日本の有機農業の現状 .................................................................................................. 4 日本の有機農業の現状 ..................................................................................................................4 日本の有機農業の新たな動き ......................................................................................................5

日本の有機農業からのメッセージ .............................................................................. 7 日本の有機農業からのメッセージ ..............................................................................................7

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【1】 有機農業の理念

【1】‐1

日本の有機農業の発展経緯

慣行農業の拡大

日本は温暖で雨が多く、土の肥沃度も高いなど、農業に適した環境にあるといえます。そ

して、日本人はその土地の自然と文化に適応した農業を昔から営んできました。

しかし、1960 年代ごろから、国の政策として農業の生産性と経済性の向上が図られました。

そのために、作物が必要とする養分を効率的に供給できる化学肥料や、病害虫・雑草対策

を省力化する化学農薬や除草剤が使用されるようになりました。また、労働集約性を高め

るために機械化が進められます。さらに、栽培作物や飼育家畜の農家ごとの専門化、ある

いは分業化された農業が一般的になっていきました。このような農業形態は、「慣行農業」

(Conventional Farming)と呼ばれています。慣行農業の本質は市場経済システムの中での

合理性を追求することです。日本でもこの慣行農業が一般的な農業形態となり、日本の農

業の生産性と経済性は格段に向上しました。

有機農業の再興

慣行農業は日本の農業の生産性向上に貢献しましたが、同時に様々な問題も引き起こしま

した。まず問題になったことは、農薬や化学肥料などによる川や海の汚染です。さらに、

単作や連作、化学肥料の長期の連用が地力の低下を引き起こし、病虫害も多発するように

なり、高い生産性が持続的なものではないことが分かってきました。加えて、化学農薬に

よる生産者の健康被害が起こり、生産者の側からも、慣行農業を問題視する動きが生まれ

てきました。

一方、消費者の側からも、食の安全や環境問題に対する意識の高まりから、慣行農業に対

【1】 ユニット 0.1.1 : 有機農業の理念

目的: 日本の有機農業の理念を理解し、有機農業を学ぶ目的を明確にする。

目標:

1. 日本の有機農業の理念を理解する。

2. 日本の有機農業からのメッセージに対する自分の考えを説明できるようになる。

1

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【1】 有機農業の理念

【1】‐2

して疑問の声が上がりました。このような消費者は、安全で、健康的で味の良い食べ物を

求め始めました。

このような有機農業への関心の高まりと生産者の有機農業への転換は、日本だけのもので

はなく、世界各地で見ることができます。その一方で、日本の農業特有の問題も起きてい

ます。

一つ目は、農業就業者数の激減と高齢化の問題です。1960 年の総農家数は 605 万戸でした

が、2005 年には 285 万戸と半分以下に減少しています。さらに今では、農業従事者の 60%

近くが 65 歳以上の高齢者です1。2 つ目の問題が食料自給率です。1960 年度には 79%だっ

た日本の食料自給率は、2005 年度には 40%にまで落ち込んでしまいました2。

このような背景の中で、このままでは日本の「農」と「食」が崩壊するのではないかとい

う危機感が沸き起こってきました。そして、徐々に有機農業の実践を真剣に考える動きが

起こります。

その先駆けとなったのが、1971 年に設立された日本有機農業研究会です。この会は、単に

有機農業を普及するだけではなく、日本の農業のあるべき姿を考え、同時に流通のあり方

や食生活を改善し、生活と社会の変革を目指しました。そして、その実践方法として、生

産者と消費者の「提携」という方法で、有機農業を広げようとしています。ここでいう「提

携」とは、「特定の生産者(生産者グループ含む)と特定の消費者(消費者グループ、生協

など)が話し合いや交流によって相互理解を深め、双方が自ら労力や資金を出し合い、自

主的で独自の配送によって継続的に農産物を取り交わす産直であり、生産者の拠点から消

費者の拠点(配送ポスト、ステーションなどと呼ばれる)に 3~10 数世帯の会員が各自取

りにいくという共同購入方式である」と有機農業研究会は定義しています。つまり、既存

の流通システムではなく、生産者と消費者の信頼関係に基づいて有機農産物を直接取引を

する、新しい流通システムのことです。「提携」のシステムは、有機農産物に適した仕組み

で、日本の有機農業の発展に大きく貢献しました。

このような時代の流れの中で生まれ、発展してきた日本の有機農業は、単に農業形態の変

化というだけではなく、社会運動的な要素も含まれています。そこには、次の章で説明す

る「有機農業の理念」が根底にあります。

1 農林水産省「農林業センサス」 web page <http://www.maff.go.jp/census/index.html> 2 農林水産省「食料需給表」 web page <http://www.kanbou.maff.go.jp/www/fbs/fbs-top.htm>

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【1】 有機農業の理念

【1】‐3

日本の有機農業の理念

日本の有機農業の理念

日本の有機農業の理念を、日本有機農業研究会は「有機農業のめざすもの」として以下の

ように説明しています。

安全で質のよい食べ物の生産

安全で質のよい食べ物を量的にも十分に生産し、食生活を健全なものにする。

環境を守る

農業による環境汚染・環境破壊を最小限にとどめ、微生物・土壌生物相・動植物を含

む生態系を健全にする。

自然との共生

地域の再生可能な資源やエネルギーを活かし、自然のもつ生産力を活用する。

地域自給と循環

食料の自給を基礎に据え、再生可能な資源・エネルギーの地域自給と循環を促し、地

域の自立を図る。

地力の維持培養

生きた土をつくり、土壌の肥沃度を維持培養させる。

生物の多様性を守る

栽培品種、飼養品種、及び野性種の多様性を維持保全し、多様な生物と共に生きる。

健全な飼養環境の保障

家畜家禽類の飼育では、生来の行動本能を尊重し、健全な飼い方をする。

人権と公平な労働の保障

安全で健康的な労働環境を保障し、自立した公正な労働及び十分な報酬と満足感が得

られるようにする。

生産者と消費者の連携

生産者と消費者が友好的で顔の見える関係を築き、相互の理解と信頼に基づいて共に

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【1】 有機農業の理念

【1】‐4

有機農業を進める。

農の価値を広め、生命尊重の社会を築く

農業・農村が有する社会的・文化的・教育的・生態学的な意義を評価し、生命尊重の

社会を築く。3

日本の有機農業の現状

日本の有機農業の現状

(1) 日本の有機農産物認証制度

日本の有機農産物認証制度として、2000 年に「有機食品に

関する日本農林規格」(有機 JAS 規格)が制定されました。

これはコーデックスガイドラインに準拠して定められまし

た。現在日本では、この有機 JAS 規格を満たすものだけが、

有機農産物の証明である「有機 JAS マーク」をつけること

ができます。

有機 JAS 規格では、有機農産物の生産の原則を以下のように明記しています。

「農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を

避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させるとともに、農

業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場におい

て生産すること。」4

生産方法について、要点を挙げると以下のとおりです。

堆肥などによる土作りを行い、播種・植え付け前 2 年以上、および栽培中に(多年

生作物の場合は収穫前 3 年以上)、原則として化学的肥料と農薬は使用しないこと。

遺伝子組換え種苗を使用しないこと。

3 日本有機農業研究会「有機農業に関する基礎基準 2000」 web page <http://www.joaa.net/mokuhyou/kijun.html>

図 【1】-1 有機 JAS マーク

(出典:農林水産省「食品表示と

JAS 規格」 web page)

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【1】 有機農業の理念

【1】‐5

(2) マーケットの規模

日本の農林水産省では、有機 JAS 規格を制定後、継続して有機農産物の生産量を調査して

います。例えば、2005 年度は、有機 JAS 認証を受けた生産者が 4.8 万トンの農産物を生産

しました。これは、日本の農産物総生産量のうちの 0.16%です。農家戸数は、およそ 5,500

戸です。ただし、どちらも有機 JAS 認証を受けたものに限定されています。

日本の有機農業は、有機 JAS 認証を受けていない生産者でも、化学肥料や農薬を使わずに

実質的には有機栽培を実践している農家も数多くいます。そのような生産者は、「有機農産

物」と表記して販売することはできません。しかし、すでに説明した「提携」の仕組みを

活用し、消費者に直接販売しています。この「提携」による販売形式は、日本の有機農業

の特徴といえます。

このような認証を受けていない農家の数、生産量は、現時点で正確な数字は分かりません

が、日本の有機農産物の 1%以下だといわれています5。

一方では、海外からの有機農産物の輸入量は年々増加しています。2005 年度は、有機農産

物の認定を受けた農産物のうち、144 万トンが海外からのものです6。

日本の有機農業の新たな動き

現在、日本の有機農業を取り巻く環境には、様々な変化が見られます。特に大きな変化と

しては、日本でも国の政策として有機農業を推進していこうという仕組みがスタートした

ことです。

すでに説明したように、日本には有機 JAS 規格という法律で定められた有機農産物に関す

る認証制度があります。これにより、どれが有機農産物なのかを消費者が区別できるよう

になりました。しかしそれと同時に、有機 JAS 認証を受けた農産物、加工品を海外から輸

入する量が、年々増加しています。この現状の原因には、有機 JAS 制度は品質表示管理が

中心で、有機農業に取り組む、あるいは新たに取り組もうとする国内の生産者を支援する

有機農業推進法が存在しないからだといわれています。

2006 年に「有機農業推進法」という新しい法律が制定されました。この法律は、有機農業

の推進に関する国の基本理念を定め、国と地方自治体の責務で、有機農業の推進に関する

4 農林水産省「有機農産物の日本農林規格」 web page <http://www.maff.go.jp/soshiki/syokuhin/heya/jasindex.htm> 5 中島紀一編著『地域に広がる有機農業 いのちと農の論理』第 6 章有機農業推進法を作ろう(今井登志樹)P172 6 日本の有機 JAS 認証を受けた農産物と同等性のある国(EU15 カ国、アメリカ、オーストラリア、スイス)において、

有機 JAS 制度と同等の制度に基づいて認証されて、輸入されたものも含む。

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【1】 有機農業の理念

【1】‐6

施策を総合的に講じ、有機農業の発展を図ることを目的としています。そしてこの法律の

基本理念として以下を挙げています。

① 農業者が容易に有機農業に従事できるようにすること。

② 農業者その他の関係者が積極的に有機農業により生産される農産物の生産、流通または、

販売に取り組むことができるようにするとともに、消費者が容易に有機農業により生産

される農産物を入手できるようにすること。

③ 有機農業者その他の関係者と消費者との連携の促進を図ること。

④ 有機農業の推進は、農業者その他の関係者の自主性を尊重しつつ行うこと。

この法律の規定に基づき、農林水産省は、「有機農業の推進に関する基本的な方針」を策定

し、2007 年 4 月に公表しました。これによると 2007 年から 2011 年までの 5 年間を「有機

農業を推進するための条件整備期間」と位置づけ、以下の 4 項目について 2011 年までの目

標を設定し、有機農業推進に取り組むとしています。

① 有機農業に関する技術の開発・体系化

(目標)安定的に品質・収量を確保できる有機農業の技術体系を確立する。

② 有機農業に関する普及指導の強化

(目標)普及指導員による有機農業の指導体制を整備した都道府県の割合を 100%とす

る。

③ 有機農業に対する消費者の理解の増進

(目標)有機農業が化学肥料および農薬を使用しないこと等を基本とする環境と調和の

取れた農業であることを知る消費者の割合が、50%以上とする。

④ 都道府県における推進計画の策定と有機農業の推進体制の強化

(目標)有機農業の推進計画を策定・実施している都道府県の割合を 100%とする。

有機農業者や有機農業の推進に取り組む民間の団体等を始め、流通業者、販売

業者、実需者、消費者、行政部局、農業団体等で構成する有機農業の推進を目

的とする体制が整備されている都道府県の割合を 100%、市町村にあっては

50%以上とする。

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【1】 有機農業の理念

【1】‐7

日本の有機農業からのメッセージ

日本の有機農業からのメッセージ

日本の有機農業は、現在に至るまで数々の試行錯誤を経てきました。何よりも 30 有余年に

わたる有機農業実践者たちが貫いた信念と実践の歴史があるからこそ、現在の姿があるの

だと思います。

欧米式のような大規模農場形式とは異なる、家族を基本単位とした小規模農場形式の日本

の有機農業の経験には、世界の小規模農民と共有できるものがたくさん含まれていると思

います。次の点は、これからみなさんと一緒に考えたいと思う内容です。

(1) 伝統的農業の回復

日本では、農業の近代化の中で、その土地に昔から伝えられていた技術、土地利用方法、

栽培品種が失われてしまいました。そして現在では、農薬や化学肥料を多用する慣行農法

が主流です。しかしこの方法に持続性があるのでしょうか。伝統農業を完全に失うことは

長期的に考えた場合、大きな問題ではないでしょうか。そのため、日本の有機農業は、日

本のそれぞれの地域の環境や文化に適した伝統的農業の回復を目指しています。

(2) 内部資源循環と農家の自立

慣行農業は、省力化と経済性を追求し、市場経済の中に組み込まれています。しかし小規

模農家の将来像も同じ枠組みの中で考えるべきなのでしょうか。市場経済原理の中では、

資本力を有する大規模農家が競争力を持ち、小規模農家が勝ち残っていくのは必ずしも容

易ではありません。日本の有機農業がまず最初に目指していることは、農家、つまり農業

を営む家族の、健康で安定的な生活の実現です。これを、経済効率性ではなく、内部資源

の循環(農家が所有するあるいは農家が地域の中で調達できる資源の活用)を最大化する

ことで実現しようとしています。市場やそのほかの外部の要因に翻弄され、競争の中に生

きて身をすり減らすのではなく、自らの主体性、選択と決断に基づく農業の実践により農

家の生活の安定、幸福と自立を実現しようとしているのです。

(3) 生産者と消費者の関係の再構築と地域自給・地域自立

1970 年代に起こった日本の有機農業運動の特徴のひとつは、「生産者と消費者の提携」とい

う形で始まったことです。農家の自給を前提とし、その先に「作る人と食べる人の顔と暮

らしの見える関係」を作っていくこと、豊かに自給する農家の食卓の延長線上に都市消費

者の豊かな食卓が生まれるという構造を作り出しました。今日では、消費者と生産者を結

びつけ、都市と農村の交流を深めながら、消費者と提携する以外にも、農業者団体、生協、

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【1】 有機農業の理念

【1】‐8

そして加工・流通業者と提携したり産地直送を行うケースなど多様な広がりを見せていま

す。このように、「信頼を土台とした有機的な人間関係」の中で、有機農業による自立可能

な市場が形成され、地域自給、地域自立という展望も開けつつあります。

(4) 「考える農民」への道

日本の有機農業の歴史は、まさに「考える」歴史だったといっていいかもしれません。そ

のときに重要なことは、「何を考える」ではないかと思います。いかに便利に、より経済的

にということを考えることも一つだと思いますが、日本の有機農業の実践者は、もっと長

期的な視点で「農・食・社会・文化」はどうあるべきかを考えてきました。

参考文献

・中島紀一〔2006〕『地域に広がる有機農業 いのちと農の論理』コモンズ

・日本有機農業研究会編〔1999〕『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』

社団法人 農山漁村文化協会

・金子美登〔2003〕『金子さんちの有機家庭菜園』社団法人家の光協会

2006 年ローレックス賞の準入賞者の一人に、ペルーの農学者ゼノン・ポルフィディ

オ・ゴメル・アパッツァ氏が選ばれました。彼は、近代農業は生物の多様性の減少、

土地の劣化と荒廃を招き、農村社会の崩壊をもたらす危険性が高いことに気がつきま

した。そして、作物の生産量を増やすために必要な知識のほとんどが先住民に昔から

伝わる文化の中にあると確信し実行に移しました。そのやり方は、種子や塊茎を多品

種栽培し、伝統的な土づくりをすることです。さらに彼は、「地球を大切にし、隣人

を尊重するという古くからの地域文化を住民が再び受け入れることで、地域社会のあ

り方も変わってくる」と語っています。

ゴメル氏の考えは、日本の有機農業の理念に通じるものがあるといえないでしょう

か。

出典:ローレックス賞「2006 年度受賞者」web page

<http://www.rolexawards.jp/laureates/laureates-2006/index.html>

Box 【1】-1 2006 年ローレックス賞~アンデスの伝統農業の復活を~

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【1】 有機農業の理念

【1】‐9

事例概要 / 説明

金子美登氏は、安全でおいしく、栄養のある農産物を作り、自然と共に豊かに自給したい

という想いで、30 年以上にわたって有機農業を実践してきました。現在では、60 品目以上

の農産物を安定的に栽培し、消費者と「お礼制」という仕組みを築き、消費者との信頼に

基づいた有機的な人間関係を築いています。「自然の生態系を守り、環境を破壊しないごく

当たり前の農業、その基本に戻り、長く継続する農業、それが有機農業」と金子氏は考え

ています。

金子さんは、東京の北西約 60km に位置する埼玉県小川町で 1971 年から有機農業を実践し

ています。小川町は、山々と清流、そして豊かな土に恵まれ、日本の古くからの農村風景

が残る町です。この小川町にある「霜里農場」が、金子さんが 36 年間有機農業を営んでき

た農場です。

金子さんが有機農業を始めたころの日本では、合理性や経済性を追求した農業が主流とな

り、同時に公害問題などが表面化した時期でした。このような時期に金子さんは、これか

らの農業の進むべき方向は、安全でおいしく、栄養のあるものをつくり、自然とともに豊

かに自給していくことではないかと感じ、それを実践しようと決意します。その具体的な

方法が、有機農業でした。

有機農業を長年やってきた金子さんが、今でも心打たれるのは、「自然は見事に循環してい

る」ということです。そして金子さんは次のように考えて、有機農業を実践してきました。

「安全でおいしく、栄養のあるものをつくるためには、化学肥料や農薬を使わずに、この

自然の有機的な循環を利用して農業をすることが大切です。一方、近代農学は、植物は無

機物しか吸収しない、とする大きな誤りを犯してきました。慣行農業の現場では病気や害

虫が多発し、連作障害、生産性の低下、品質の劣化も明らかになってきます。こうした現

場を近代農学は科学的に説明できないまま、化学肥料と農薬をさらに多投する悪循環を起

こし、その結果は最終的に、生き物の生息しない「死の土」「死の農法」に行きつくのです。」

霜里農場は、畑 1.5ha と水田 1.5ha、山林 1.7ha、乳牛 2 頭、鶏 200 羽やその他動物たちのい

る、賑やかな農場です。ここでは、安全でおいしく栄養の豊富な 60 品目以上の野菜が、一

年を通して栽培されています。金子さんが有機農業技術の基本と位置づけているのが、土

づくりです。

事例【1】-1:

事例タイトル:金子美登氏 霜里農場

CASE CASE 【1】-1

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【1】 有機農業の理念

【1】‐10

そのために、堆肥やボカシ肥、液肥などを自分で作り利用しています。農場からでる雑草

や家畜糞尿、雑木林や地域からでる枝葉など、身の周りにある様々な有機物を利用して堆

肥を作っています。これは、まさに農場や地域の有機的な循環を利用した土づくりといえ

ます。

このような土づくり以外にも、①霜里農場の気候やその他の環境条件を前提にした適地・

適期栽培とそのための種子の自給、②自然の多様性に近づけるための多品目栽培と輪作、

③野鳥や益虫との共存、などが実践されています。どれも、自然の循環や生態系を大切に

し、農家の自立と自然との共生を実現する持続可能な農業を目指したものです。

霜里農場の農作物は、金子さんの有機農業への考え方に共感した約 40 名の消費者に直接届

けられています。金子さんは、「お礼制」という仕組みによって、消費者との関係を築いて

います。「お礼制」というのは、販売者(金子さん)が値段を決めて販売するのではなく、

受け取った農産物に対して、消費者自身が自ら判断した「お礼」(金額)を支払うというも

のです。「質のいい農産物を届ければ、消費者はそれを評価し、継続的に農業を続けていく

ために十分な金額のお礼を受け取ることができる。そして金銭面よりも、このシステムに

よって消費者が有機農業による農産物の価値を正しく理解してもらうことができ、消費者

と信頼に基づいた有機的な人間関係を築けることが有機農業を実践する上でとても大切

だ」と金子さんは話してくれました。

小川町では、金子さんが 30 年以上続けている有機農業が徐々に広がってきました。現在で

は、小川町に有機農業の生産者グループができ、技術や情報を交換し、助け合って有機農

業を広め、実践しています。さらに、有機農業者と地場の食品加工業者が共に良くなり、

それを地域の消費者が支え、地域自給と内発的発展を目指す取り組みが様々な形で始まっ

ています。金子さんや小川町の有機農業の取組みは、今では国内外から多くの注目を集め、

たくさんの研修生や見学者が訪れています。

金子さんが実践する有機農業は単なる農業技術の問題だけではなく、農民としての生き方

そのものであり、生産、流通、消費、環境問題などのさまざまな問題を含めて、これまで

の農業への反省と、新しい農業の実現に向けての運動だといえるのではないでしょうか。

金子さんからみなさんへのメッセージです。

「人間のいのちと健康を支える食べ物と環境を守り育てる有機農業。それには、土の中に

小動物や微生物が充満した「生きた土」を作ることです。作物がすこやかに育つための土

とは、単に岩石が風化してできた無機物だけでなく、水や太陽エネルギーによって微生物

CASE 【1】-1

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【1】 有機農業の理念

【1】‐11

や動植物などが休むことなく働いてできた「生きた土」なのです。

結論からいうなら、軟らかく、水はけと水もちがよく、数多くの生物が住み、養分バラン

スがとれ、農作物がよく育つ「団粒構造の土」こそが肥沃な土なのです。

このような有機農業を続ければ続けるほど、日に干した布団のように土が暖かく、軟らか

く、そして軽くなります。その結果として農作業が楽になると共に品質も向上するのです。

日本には、「石の上にも三年」という言葉があります。今、有機農業に転換しても三年くら

いは、病気や害虫に苦労します。また「一人前には、十年かかる」とも言います。「生きた

土」ができ、安定した生産ができるようになるには、これくらいの時間が必要なのです。

自然の生態系を守り、環境を破壊しないごく当たり前の農業、その基本に戻り、長く継続

する農業、それが有機農業です。」

CASE 【1】-1

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モジュール 1

小規模農民による

有機農業概論

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モジュール 1:小規模農民による有機農業概論

目次

【2】 ユニット 1.1.1 : 有機農業概論

慣行農業の問題点 ..............................................................................................................................1 慣行農業は持続可能か? ..............................................................................................................1 農作物への影響 ..............................................................................................................................2 環境への影響 ..................................................................................................................................2 人体への影響 ..................................................................................................................................3 社会への影響 ..................................................................................................................................3 経済への影響 ..................................................................................................................................4

有機農業の特徴 ..................................................................................................................................4 有機農業の特徴 ..............................................................................................................................4 有機農業の効果 ..............................................................................................................................5 有機農業への転換期の問題点 ......................................................................................................6

有機農業の仕組み ..............................................................................................................................7 健康な作物ができる仕組み ..........................................................................................................7 有機物循環の仕組み ......................................................................................................................9

【3】 ユニット 1.2.1 : 有機農業の定義と各国の状況

有機農業の定義 ..................................................................................................................................1 国際有機農業運動連盟(IFOAM)による定義.........................................................................1 コーデックス規格による定義 ......................................................................................................4

有機食品に関する検査・認証制度 ..................................................................................................5 有機食品に関する検査・認証制度とは ......................................................................................5 検査・認証制度の構成要素 ..........................................................................................................5 有機認証のプロセス ......................................................................................................................6 参加型 2 者認証制度 ......................................................................................................................8

世界の有機農業の現状 ......................................................................................................................9 世界の状況 ......................................................................................................................................9 各国の状況 ....................................................................................................................................11

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【4】 ユニット 1.3.1 : 有機農業による小規模農民支援概論

はじめに ................................................................................................................................................1 農家経営の基礎...................................................................................................................................2 マーケティング概論 ..........................................................................................................................4 組織化と普及 ......................................................................................................................................6 農家組織の形態 ..............................................................................................................................6 普及における組織化 ......................................................................................................................7 組織化と組織化支援 ......................................................................................................................7

営農システム概論 ..............................................................................................................................8 小規模農民の定義 ..........................................................................................................................8 小規模営農システム ......................................................................................................................9 小規模営農システムと有機農業 ..................................................................................................9

有機農業の3つのカテゴリー.........................................................................................................10 3つのカテゴリー ........................................................................................................................10

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【2】 有機農業概論

【2】‐1

慣行農業の問題点

慣行農業は持続可能か?

まずここでは、広い意味での慣行農法と伝統農法、有機農業と近代農業の言葉使いについ

て説明します。

昔から農業は、人間の食料を確保するために、自然には存在しない特別な環境を作りだし

て作物を作ってきました。そのような伝統的な農業は、それぞれの地域の風土にあったや

り方で、自然の環境に近い循環システムを構築していました。これは一つの有機農業(organic

farming)であるといえます。このような伝統農業(indigenous farming) は、長年の実践によ

って蓄積された知識と経験に基づいた持続性の高い農業として、国際有機農業連盟

(IFOAM)など有機農業の関係者は今でも高く評価しています。しかし、世界的に農業の

近代化が進む中で、このような伝統農業は急激に失われていきました。

しばらくすると、伝統農業に代わって近代農業が、世界的にも一般的な農法として普及し

ていきます。英語では、商業的慣行農業(commercial conventional farming)という言葉は伝

統農業ではなく、近代農業を指す言葉として用いられています。このコンテンツでも慣行

農業(conventional farming)を、近代農業の意として用います。慣行農業は、化学肥料や農

薬、除草剤を使用することによって、収量の増加や労働力の軽減を実現し、農業の経済性

を向上させてきました。急増する世界の人口の食料をまかなうためには、慣行農業が必要

だと主張する人が多いのも事実です。しかし一方で、連作障害や病虫害の多発、環境汚染、

生産者の農薬中毒など、多くの問題を生み出していることも明らかになっています。この

ような問題が全世界で表面化する中、慣行農業の持続性に対して疑問がもたれています。

【2】 ユニット 1.1.1 : 有機農業概論

目的: 有機農業の特徴、技術の概要を理解する。

目標:

1. 有機農業の効果と転換期の困難について説明できるようになる。

2. 健康な作物が育つ仕組みを説明できるようになる。

3. 有機物循環の仕組みを説明できるようになる。

参照 Job Aid: 健康な作物が育つ仕組みの図

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【2】 有機農業概論

【2】‐2

まず、有機農業について学ぶ前に、慣行農業の問題点について考えてみたいと思います。

農作物への影響

慣行農業の農作物に対する問題を一言で言えば、生態系のバランスを著しく壊すというこ

とです。特に土中小動物と微生物にとって住みにくい環境を作り出す点が問題です。その

主な原因として以下が挙げられます。

(1) 化学肥料には、植物が吸収しやすいように、無機質の養分しか含まれておらず、土中

微生物のエサとなる有機物は含まれていません。そのため、使い続けると微生物の食

料はどんどん減っていきます。

(2) 化学農薬や除草剤の毒素が、病害虫だけでなく、有益な土中小動物や微生物にも害を

与えます。

このような原因から、土中小動物と微生物の活動は低下し、土の団粒構造の形成や植物へ

の栄養分の供給といった働きが行われなくなります。その結果、作物は弱り、病害虫への

抵抗力の低下を引き起こします。

また、慣行農業では効率性や経済性を高めるために、単作や連作がよく行われます。これ

は、土中の養分バランスや生物相バランスを壊し、連作障害や、さらに病虫害が発生しや

すい環境を作り出してしまいます。

環境への影響

農薬や除草剤、化学肥料による環境汚染も重大な問題です。農薬や除草剤は、散布量を間

違えれば土壌や河川、そして海の汚染につながります。また、化学肥料は水に溶けやすい

ため、作物の吸収を上回る量を施用すると河川や地下水に流れ出してしまいます。また、

慣行農業では、専業化・分業化が進んだため、作物栽培と家畜飼育を別々の農民や団体が

行っている場合が多くなりました。そのため、作物と家畜の有機物の循環が途切れ、行き

場を失った家畜糞尿が水質汚染を引き起こす原因になります。河川や地下水が今でも重要

な飲料用水の水源である途上国でこのような水質汚染が広がれば、住民の健康被害に直結

してしまいます。

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【2】 有機農業概論

【2】‐3

農薬や除草剤については、耐性を獲得した病害虫や雑草が発生する危険性も指摘されてい

ます。そうなるとさらに強い農薬や除草剤を使用しなくてはならず、環境汚染や生態系へ

の影響が問題となります。最近では、遺伝子組み換え技術が発展し、特定の除草剤に対し

て耐性を持つ大豆やトウモロコシや、より日持ちするトマトなどが開発されました。しか

し、人間が手を加えた新しい遺伝子が自然界に入ると、予期しない結果が引き起こされる

恐れも否定できません。

慣行農業が始まる以前は、世界の伝統的な農法には、現地の状況にあった土づくりや作付

け系体、栽培方法など包括的な生産技術が組み合わされ、持続可能な農業が営まれていま

した。しかし慣行農業では、対処法的な技術が多く、効果も短期的・限定的です。また農

民の知識不足や短期的な経済性を追及するあまり、その技術が適切に施用されていないこ

とも多くあります。そのため、世界各地で土壌劣化・浸食、生物多様性の減少など、さま

ざまな問題を引き起こしています。

人体への影響

農薬や除草剤は、病害虫や雑草に毒性を示すだけでなく、人間にとっても害のあるもので

す。中毒症状、癌などの病気、流産や障害・奇形児を引き起こす恐れがあります。日本で

は、規制が厳しくなり、毒性の強いものの使用は制限され、生産者などの健康被害はほと

んどなくなりました。しかし途上国では、毒性の強いものの使用や不適切な使用方法によ

って、生産者や一般市民でも、農薬による健康被害が懸念されています。

2004 年の国連食糧農業機関(FAO)、国連環境計画(UNEP)、世界保健機関(WHO)の合

同報告では、推定で 100 万から 500 万の農薬中毒症例が毎年生じており、子供を含む数千

人が死亡していると報告されています。特に途上国は、農薬使用量が、世界の 25%である

にもかかわらず、農薬中毒による死亡の 99%を占めている、としています1。

社会への影響

慣行農業は、農村社会にも様々な影響を及ぼしました。具体的には、伝統的な農業技術の

喪失、農業機械化による農村の仕事の減少、裕福な層や投資家による農村の土地所有の増

1 国連食糧農業機関(FAO)「Children face higher risks from pesticide poisoning」web page

<http://www.fao.org/newsroom/en/news/2004/51018/index.html>

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【2】 有機農業概論

【2】‐4

加などです。その結果、農村の共同体としての機能の低下や貧困格差の拡大などが問題と

なっています。

例えば、メキシコのソノラ州に住む先住民のジャキ族はかつて、少ない水量で実践できる

伝統的な農法を営み、結束力の強い社会を築いていました。しかし、1940 年代に近代的な

水管理のプロジェクトが始まり、このプロジェクトに参加しないと彼らは農業のための水

を使うことができなくなったため、プロジェクトに参加します。さらに、定住が強制され、

新しい共同体組織が作られました。また作物も小麦と綿花を中心に栽培することが強制さ

れます。その結果、貧富の差を減らすことに貢献していた伝統的な儀式がなくなったり、

土地なし農民が生まれる一方で、外部者が富を増やしたりと、様々な変化が生じました。

そして 1970 年初期には、彼らの伝統的な農法や社会、文化は崩壊してしまいます2。

経済への影響

慣行農業は、収量が増加し、品質も均一のものが作りやすく、経済的な農業と考えられて

います。しかし、ここまで見てきた慣行農業の問題点を考慮したうえで長期的な視点で考

えてみると、慣行農業の経済性に疑問がわいてきます。なぜなら、慣行農業によって引き

起こされる様々な問題を解決するためには、新たな費用が必要になるからです。環境汚染

や健康被害が起これば、改善や治療、そして再発防止のための費用が必要になるでしょう。

抗体を持った病害虫や雑草が生まれれば、新たな農薬や除草剤の開発費用もかかります。

伝統な社会や文化については、金銭では判断できない価値の喪失といえます。

このようにより包括的かつ長期的な視点で慣行農業の影響を考察してみると、慣行農業の

経済性について、疑問を持たざるを得ません。

有機農業の特徴

有機農業の特徴

有機農業には、慣行農業と比べて様々な効果を期待することができます。それらは、小規

2 Jules N Pretty〔1995〕『REGENERATING AGRICULTURE』Earthscan Publications P85,86

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【2】 有機農業概論

【2】‐5

模農家が持続的に発展していくために特に有益なものです。しかし、その効果が発現する

までには、克服すべき問題もあります。それらをまとめたのが次の表です。

表 【2】-1 有機農業の効果と転換期の問題点

効果 転換期の問題点

(1) 持続性と環境保全の実現

(2) 安全・安心な食べ物の生産

(3) 安全な農作業の実現

(4) 農業の楽しさの再発見

(5) 新たな価値の創出

(6) 生産コストの削減

(7) 自立の実現

(1) 不安定な生産

(2) 作業量の増加

(3) マーケット形成

次に、それぞれの項目について詳しく説明します。

有機農業の効果

(1) 持続性と環境保全の実現

有機農業の基本は土づくりです。堆肥を中心として有機物を施用することにより、土壌小

動物や微生物の活動を活発にします。その結果、土壌の化学的、物理的性質が改善されま

す。これにより、化学肥料を使わなくても、作物は健康に育ち、病害虫に負けないように

なります。化学肥料や農薬に頼らない有機農業は、自然の物質循環をうまく活用すること

で成り立っており、持続性があり、環境保全型の農業であるということができます。

(2) 安全・安心な食べ物の生産

有機農業では、化学肥料や農薬を使わず自然の生産力を活用することによって、健康な作

物を育てます。そのため有機農作物は、人体に有害な物質を含まない、安全・安心な食べ

物になるのです。

(3) 安全な農作業の実現

慣行農業では、農薬を多用することにより、作物だけでなく、農民の健康も害する危険が

あります。途上国では、人体に毒性が強い農薬がいまだに使用されたり、農薬の使用方法

が誤っているために、農民が健康を害する危険性は先進国よりも高いと思われます。有機

農業では、農薬そのものを使用しないため、安全に農作業を行うことができます。

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【2】 有機農業概論

【2】‐6

(4) 農業の楽しさの再発見

有機農業には、一つの決まったものではなく、それぞれの土地の気候風土に合わせて様々

な栽培方法があります。言い換えれば、与えられた条件の中で農民が自分たちで創意工夫

できるということです。その結果として、質のよい、おいしい農作物を生産することがで

き、それを食べる人に喜んでもらえれば、農業の本来の楽しさを実感することができます。

(5) 新たな価値の創出

有機農業は、日本の「提携」に見られるように、経済原理に基づいた市場ではない、新た

な市場を創出することができます。そのためには、生産者と消費者の間で、相互理解と信

頼関係にもとづく関係を築くことが重要です。そして、関係を築くことができれば、その

消費者と継続的な取引を行うことができます。また、日本など一部の国では、有機農産物

は一般のものより高く販売できます。これは、消費者の食の安全への意識が高まり、安全・

安心かつおいしい有機農産物が正当に評価され始めたからです。

(6) 生産コストの削減

慣行農業では、化学肥料、農薬、除草剤、そして種子など、多くのものを購入する必要が

あります。しかし有機農業では、植物残さや家畜糞尿、それから雑草まで、畑の周りにあ

るさまざまなものを有効活用し、外部からの投入を最小限に抑えます。また、種子も自家

採種が基本です。その結果、生産コストの削減が可能になります。

(7) 自立の実現

市場経済の中では、大きな農場や資本力を持っている農家や企業の方が競争力が強く、小

規模農家は、小作農や日雇い労働者として彼らに従属することが多くなります。しかし、

有機農業は、自給を基盤として消費者へ農産物を継続的に販売ことによって、小規模でも

自立できる農業です。

有機農業への転換期の問題点

(1) 不安定な生産

よい土ができれば、作物は健康に育ち、病虫害が減り、安定的に生産できるようになりま

す。しかし、本当によい土ができるまでには時間がかかります。土壌の性質にもよります

が、日本では、早くても 2 年はかかるといわれています。もともと肥沃度の低い土壌では、

その期間はもっと長くなるでしょう。その間は、作物に必要な栄養が供給されず、生産量

が低下する恐れがあります。また土ができるまでは、病害虫が発生し易い状況が続きます

ので、同じく生産量が低下する可能性があります。病害虫の被害が大きければ、ほとんど

収穫がないということも起こり得ます。

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【2】 有機農業概論

【2】‐7

(2) 作業量の増加

病害虫の被害を受け易い転換期には、病原菌のついた葉や実、害虫を手で摘み取る作業を

小まめに行わなくてはなりません。天然農薬も、防除効果や付着力が弱いものが多いので、

小まめに散布する必要があります。これらは、かなり時間と手間の掛かる作業です。

また転換期は、土づくりのために有機質肥料を大量に投入する必要があります。有機質肥

料作りや施肥の作業は、材料集めから始まり、切り返し、運搬などいずれも重労働です。

化学肥料のように買ってきて、撒けばいいというものではありません。

(3) マーケット形成

有機農業で作った生産物の価値を正しく理解してくれる消費者を自ら見つけ、信頼関係を

築いていくことが必要になります。消費者と信頼関係を築き安定的に販売できるようにな

るには、時間がかかります。それまでは、せっかく大切に育てた有機農産物でも、形が悪

い、大きさがそろっていないなどの理由で、安く買い叩かれたりする可能性もあります。

このように、有機農業の転換期には、多くの克服すべき問題があります。しかし、貯蓄な

どもなく、ぎりぎりの生活をしている途上国の小規模農民にとって、このような問題を克

服するのは容易ではありません。そのため、有機農業への転換は段階的に進めるなど、で

きるだけ農民のリスクを減らし、それぞれの農家の状況にあった移行プロセスを考案する

ことが大切です。

有機農業の仕組み

健康な作物ができる仕組み

繰り返しになりますが、有機農業の基本は土づくりです。しかしその他にも、適地適作や

栽培環境の整備、多用な生物相の実現といった重要な栽培技術があります。これらを効果

的に行うことによって、作物は太く長い根を張ることができ、化学肥料や農薬に頼ること

なく、健康な作物が育つようになります。ここでは、それぞれの技術の概要を説明します。

それぞれの技術的な詳細については、モジュール 3 を参照してください。

(1) 土づくり

土づくりの基本は、堆肥や緑肥などの施用によって土中の有機物を増やすことです。それ

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【2】 有機農業概論

【2】‐8

によって、土壌小動物や微生物の働きが活発になります(土壌の生物的性質の改善)。土壌

小動物や微生物の活動が活発になると、土壌の物理的、化学的性質も改善され、作物の根

張りがよくなり、生育が促進されます。

① 物理的性質の改善

排水性、保水性、通気性が良くなる。

② 化学的性質の改善

作物に必要な栄養バランスがよくなる。

保肥力が大きくなる。

緩衝能が大きくなる。

(2) 適地適作

健康な作物を育てるためには、その土地の気候風土にあった作物を栽培する、いわゆる適

地適作が重要です。適地適作を実践すれば、作物は生命力を十分発揮することができ、自

ずと作物は健康に育ちます。適地適作を実現するためには、地域に根ざしたその土地に昔

から伝わる品種を栽培するべきです。そのような品種は、長い時間を経てその土地の土壌

の状態や病害虫に適応しています。そのような品種がない場合は、選抜・自家採種を行い

ながら、その土地の環境や栽培方法にあった作物を作り出す必要があります。

(3) 栽培環境の整備

有機農業の作付け形態は、輪作、間混作をそれぞれの作物の生育に適した時期に栽培する

ことによる多品目栽培が基本です。その結果、土中の栄養バランスや生態系バランスが適

切に保たれ、連作障害や病害虫被害を抑えることができます。また、植え付け間隔を広く

取るなど日当たりや風通しをよくしたりして、自然に近い状態で栽培することも重要です。

(4) 多様な生物相の実現

自然には様々生き物が存在します。作物にとって有害な生き物もいますが、天敵やミミズ

など作物に有益な生き物も多く存在します。自然界ではそれらのバランスが取れているた

め、一部の有害な生き物が大量発生することはなく、植物への病害虫の被害は抑えられて

います。有機農業においても、健康な作物を育てるためには、多様な生物相を作り出し、

有害な生き物と有益な生き物のバランスを保つことが重要です。そのために、有機農業で

は、積極的に輪作や間混作を行うことによって生物相が偏ることを防いでいます。また有

機マルチなどで虫や微生物が生息しやすい環境を作り出します。

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【2】 有機農業概論

【2】‐9

図 【2】-1 健康な作物ができる仕組み

有機物循環の仕組み

有機農業では、堆肥や落ち葉、作物残さなど様々な有機物を畑に施用する必要があります。

ここでは、有機物をどのように確保するかを考えてみたいと思います。

まず、次の図を見てください。農家、家畜、畑の間の有機物の流れを簡略化したものです。

●適地適作

在来種の活用、

選抜・自家採種

●土づくり

堆肥やボカシ肥、緑肥などの

有機物の施用

●栽培環境の整備

多品目栽培、輪作、間混作、

適期作、日当たり、風通し

●多様な生物相の実現

天敵・有用微生物の活用、

土づくり、輪作、間混作、

有機マルチ

<栽培技術>

・土壌小動物、微生物が活性化される

・排水性、保水性、通気性が改善する

・土中栄養バランスが改善する

・保肥力が大きくなる

・緩衝能が大きくなる

・病害虫が発生しにくい環境になる

・その土地の風土や栽培方法にあった

作物ができる

・土中栄養バランスが適切になる

・生育環境がよくなる

<効果>

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【2】 有機農業概論

【2】‐10

図 【2】-2 有機物循環の仕組み

このように、家畜と畑、人間と周辺の自然環境との間では、有機物が見事に循環していま

す。特に家畜の糞尿は、栄養分の高い有機物として貴重で、堆肥などの原料としてもなく

てはならないものです。そのため、有機農業には家畜を組み合わせた有畜複合農業が適し

ているといえます。

実際には、畑で出た作物残さや雑草は家畜のエサになるだけでなく、直接畑にすき込まれ

たり、堆肥の原料になったりして土に戻るものも多いです。また山林などの落ち葉や腐葉

土など自然に存在するものも貴重な有機物です。さらに、身の回りにも有機農業で活用で

きる様々な有機物が存在します。具体例を挙げれば、コーヒーやサトウキビ加工場の絞り

かす、漁港の魚のアラ、食堂の残飯などです。他にもその地域特有の有機物が存在するは

ずですので、何か利用できるものはないか考えてみてください。

このように、身の回りにある有機物を最大限に活用し、循環させる仕組みを作り出すこと

が、有機農業の基本です。

参考文献

・西尾道徳〔1997〕『有機栽培の基礎知識』社団法人 農山漁村文化協会

・日本有機農業研究会編〔1999〕『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』

社団法人 農山漁村文化協会

・金子美登〔2003〕『金子さんちの有機家庭菜園』社団法人 家の光協会

・Jules Pretty〔1995〕『Regenerating Agriculture』Earthscan Publications

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生ゴミ

糞尿

生ゴミ農作物

卵 や 肉

周辺環境(山林など) 枝葉、腐葉土

山菜や薪

昆虫、枝葉

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐1

有機農業の定義

国際有機農業運動連盟(IFOAM)による定義

(1) 国際有機農業運動連盟(IFOAM)とは

国際有機農業連盟(IFOAM: International Federation Organic Agriculture Movements)は、1972

年に設立された有機農業運動に関する国際的な民間組織です。本部はドイツにあり、2007

年現在、108 カ国、750 以上の団体が参加しています。有機農業の普及、政策提言、意見の

反映、生産・加工・流通基準の設定と更新などの活動を行っています。

IFOAM は 1982 年に、「有機生産および加工の基準(IFOAM Basic Standards for Organic

Production and Processing)」(以下、IFAOM 基礎基準)を策定し、定期的に改定しています。

この IFOAM 基礎基準に法的な根拠や拘束力はありませんが、コーデックス基準や EC 規則、

日本の有機 JAS 規格などの参考にされるなど、世界の有機農業基準の策定に実質的な影響

を持つ基準です。

(2) IFOAM 基礎基準の有機農業の原理

IFOAM 基礎基準 2000 年版では、最初に「有機生産と加工の基本目的」の項が設けられて

おり、そこに有機生産の基本的な理念が 17 項目にわたって説明されています。ここでは、

主に生産技術に関連が強いものをいくつかを抜粋して紹介します。

品質の高い食べ物を十分な量生産する。

建設的で生命力を高めるような方法で、自然界の体系および循環と相互に作用し

合う。

微生物、土壌動植物相、植物および動物を含む農業体系内の生物的循環を促し、

高める。

土壌の長期的肥沃度を維持し、高める。

目的: 有機農業の国際基準と各国の状況を理解する。

目標:

1. 有機農業の国際基準の内容と役割を説明できるようになる。

2. 自国の有機農業の現状を説明できるようになる。

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【3】 ユニット 1.2.1 : 有機農業の定義と各国の状況

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐2

植物生育地および野生生物生息地の保護を含む、生産体系内およびその周辺の遺

伝的多様性を維持する。

地域レベルで組織化された生産体系の中で生産可能な資源をできるだけ使用する。

作物生産と畜産の調和のとれたバランスを創出する。

全ての家畜に対して、彼らの生来の行動習性に配慮した生育条件を与える。

あらゆる形の汚染を最小にする。

完全に生分解可能な生産物を生産する。

さらに 2005 年の改定では、この内容を整理し、4 つの原理に集約されました。それが次の

4 つです。

健康の原理

有機農業は、土・植物・動物・人・そして地球の健康を個々別々に分けては考え

られないものと認識し、これを維持し、助長すべきである。そのため、健康を害

する危惧のある肥料、農薬、動物用薬品・食品添加物の使用は排除されるべきで

ある。

生態的原理

有機農業は、生態系とその循環に基づくものであり、それらと共に働き、学び合

い、それらの維持を助けるものであるべきである。

公正の原理

有機農業は、共有環境と生存の機会に関して、公正さを確かなものとする相互関

係を構築するべきである。具体的には、有機農業に関わるすべての人々が公正さ

を確保できる方法で人間関係を結び、動物にはその整理に合致し、自然な行動が

でき、健全性が保てる条件と機会が与えられるべきである。さらに天然資源およ

び環境資源は、社会的、環境的に構成に管理され、未来の世代へ信託されなけれ

ばならない。

配慮の原理

有機農業は、現世代と次世代の健康・幸福・環境を守るため、予防的かつ責任あ

る方法で管理されるべきである。したがって、有機農業では、適正な技術を選び、

遺伝子組み換え技術のような予測不可能な技術は排除することにより、過大な危

険を避けるべきである。

IFOAM は、この 4 つの原理が、有機農業が成長し発展する上で根本となるものであり、有

機農業が世界の発展に寄与できることを表明し、世界のすべての農業を改善するビジョン

を示していると説明しています。

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐3

(3) IFOAM 基礎基準の内容

次に施肥の方法、種や品種の管理、病虫害・雑草管理などの生産技術に関する規定内容を

説明します。規定の具体的な内容は、基本的な考え方である「一般原則」、できればその採

用が望ましい「推奨」、最小限遵守すべき「基準」の 3 つに分けて説明されています。それ

では、具体的な生産技術の内容を、「作物生産」の章から、記載順に説明します。

① 「4.1 作物種と品種の選択」

ここには、種子や品種に関する記述があり、「一般原則」として、「すべての種子・種

苗(苗木・穂木・台木等を含む)は有機認証されたものであるべきである。」としてい

ます。また「基準」で、遺伝子操作された種子、花粉、遺伝子導入植物あるいは種苗

の使用を明確に禁止しています。

② 「4.2 転換期間の長さ」

転換期間の長さの意味として「一般原則」で、「有機的営農体系の確立と土壌肥沃度の

増進については過渡期、つまり転換期間が必要である。転換期間は、土壌肥沃度の改善

および生態系のバランスを取り戻すのに必ずしも十分な期間ではないが、それらの目標

を達成するためには、必要なすべての活動を開始する期間である。」としています。そ

して、有機として認証される具体的な期間は「一年生植物の生産物は生産サイクル開始

前に最低 12 ヶ月間、本基準の要件を満たした場合」「永年生植物は本基準の要件に即し

た管理が少なくとも 18 ヶ月間行われた後の最初の収穫から」と「基準」の中で示され

ています。

③ 「4.3 作物生産の多様性」

「一般原則」で、「作物生産の基本は、土壌と周辺の生態系の構造や肥沃度への考慮で

あり、栄養分の損失を最小にしながら品種の多様性を提供することである」と述べて

います。そして、その具体的な方法について「推奨」で、「作物生産の多様性は、以下

の組み合わせによりなされる:マメ科植物を含む多様な作物輪作、一年のできるだけ

長い期間、適切な面積の土壌を様々な種類の植物で覆う」と説明しています。

④ 「4.4 施肥方針」

施肥方針については、「一般原則」で、「土壌の肥沃度や土壌内の生物活性を増加、ある

いは少なくとも維持するために十分な量の微生物、植物または動物由来の生分解性物質

が土壌に戻されるべきである。」「有機農場で生産される、微生物、植物または動植物由

来の生分解性物質が、施肥計画の基礎となるべきである。」としています。

⑤ 「4.5 成長調整物質を含む、病害虫および雑草管理」

病虫害と雑草管理について、一般原則で「有機営農体系は、有害生物、病気およびと雑

草による損失を最小にするように行われるべきである。環境によく適応した作物種およ

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐4

び品種、バランスのとれた施肥計画、生物活性の高い肥沃な土壌、適切な輪作や共生作

物、緑肥などの使用に重きがおかれる。」としています。具体的な方法については、熱

を用いた物理的方法が許可されることや合成除草剤の使用が禁止されていることなど

が「基準」で記載されています。

コーデックス規格による定義

(1) コーデックス委員会

コーデックス委員会は、1962 年に消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保、様々な

食品に関する基準の国際的な調整を目的として国連食料農業機構(FAO)と世界保健機構

(WHO)が設置した国際的な政府間機関です。国際食品規格(コーデックス規格)の作成

などを行っています。日本は、1966 年から参加し、2006 年現在、173 カ国がメンバーにな

っています。事務局は、ローマの FAO 本部の中にあります。

(2) 有機食品の国際規格

コーデックス委員会によって、1999 年に「有機食品の生産、加工、表示と販売に関するガ

イドライン」(有機食品のガイドライン)が策定、採択されました。IFOAM 基礎基準を参照

しつつ策定されており、ほぼ同じ内容になっています。つまり、有機物による土壌の肥沃

度の改善、微生物活性の増加・維持、緑肥を含む多様な多品種輪作体系の実施、遺伝子組

み換え技術の禁止などが規定されています。

コーデックス規格として有機食品のガイドラインが制定されたことには重要な意味があり

ます。それは、コーデックス規格は IFOAM 基礎基準と異なり、実質的な強制力があるから

です。もともとコーデックス規格は、その採用を勧奨するものではあっても強制力を有し

ているわけではありませんでした。しかし、WTO での紛争処理の際には、コーデックス規

格との整合性が判断基準の一つになっているため、事実上、各国はコーデックス規格に従

わざるを得ないのです。日本の有機 JAS 規格も、コーデックス規格と整合性をとった形で

決められました。

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐5

有機食品に関する検査・認証制度

有機食品に関する検査・認証制度とは

有機農業の概念や栽培方法には、様々なものがあります。しかし、生産者、団体ごとに異

なった考え方で「有機」という表示をすれば、消費者の正当な商品選択に支障が起こりま

す。実際に日本では、1980 年後半に、有機農産物が、安全、安心、おいしい食べ物として、

注目を集め始めると「有機」という表示が氾濫し、不当表示も見受けられました。

そのため、「有機」と表示することができる農産物の具体的な要件を明確にし、それに基づ

いて生産、加工、取扱が行われたこと保証する制度が必要になりました。その制度が、有

機食品に関する検査・認証制度といわれるものです。日本では、有機 JAS 規格によって、

有機農業の概念や要件、具体的な検査・認証プロセスが示されています。EU やアメリカに

おいても、検査・認証制度が確立されています。

世界的に有機農産物の需要は拡大しており、有機農産物を輸出入するケースも増えてきま

した。有機農産物を輸出入する際にも、検査・認証制度は「有機」を保証する制度として

の役割を果たします。日本では、有機 JAS 規格が制定された 2000 年から、輸入有機野菜が

増え、2005 年には国内で格付けされたものが 29 トンであるのに対して、海外で格付けされ

たものが 79 トンと、2.5 倍以上のものが輸入されました。このように、有機食品の検査・

認証制度は、有機農産物の定義を明確にすることによって、輸出入が促進される側面もあ

ります。これは、検査・認証制度が国際的に標準化が図られているためで、すでに説明し

た IFOAM の基礎基準とコーデックスの有機食品ガイドラインがその基礎となっています。

検査・認証制度の構成要素

各国の有機食品の検査・認証制度は、共通の構成要素として、以下の事項が挙げられます。

① 有機基準(生産、加工、取扱方法の要件を明文化したもの)

② 認証プログラム全体にかかる文書化と手続きの規則

③ 検査

④ 認証の判定

⑤ 認証プログラムの運営

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐6

⑥ 表示(認証ロゴ)

⑦ 認証に関する広報

⑧ 認証費用

「③検査」は、製品(生産物)そのものを検査する品質検査とはちがい、認証申請時に提

出された書類をもとに、その有機農業者の生産、加工、取扱方法が有機基準に適合したも

のであることを、事業所(ほ場)に直接訪問して観察、確認、立証していく作業です。つ

まり「有機」という生産システム(プロセス)を検査・認証するということです。

有機認証のプロセス

有機認証のプロセス(認証申請から認証資格の取得まで)は、どの国の認証プログラムで

あってもほぼ同じで、図【3】-1 に示すような手順です。

図【3】-1 有機認証のプロセス

(出典:大山利男著「有機食品システムの国際的検証」日本経済評論社発行 より一部改変)

有機認定の申請ために事前準備として、ほ場条件のクリア、生産行程の管理体制の整備、

記録付けが重要です。この 3 点について、日本の有機 JAS 規格を例に説明します。

有機農業者が認証組織に資料請求

有機認証組織が申請書類等一式を送付

有機農業者が申請書類に記入

有機認証組織が申請書類を審査

認証契約に署名

検査報告書の評価

検査のための訪問

認証を有機事業者に送付

認証の判定

認証組織が検査員を任命

認証の発行

検査

有機農業者による報告書の提出

プログラムの遵守を監視

(継続の場合)

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐7

(1) ほ場の条件

有機農産物を栽培するには、「使用するほ場」に基準があります。単にその年だけが無農薬・

無化学肥料による生産であっても、その農産物は有機とは認められません。それは、使用

するほ場の過去の履歴が問われるからです。また、周囲から農薬などが飛散・混入しても

有機農産物と認められず、これについても基準が定められています。

① 隣接地からの飛散等の防止

有機 JAS 規格には、この点について以下のように定めています。

周辺から使用禁止資材(規格で認められていない肥料、土壌改良資材や農薬)が飛散

しないように明確に区分されていること

水田は、その用水に使用禁止資材の混入を防止するために必要な措置が講じられ

ていること。

これらの条件を満たすためには、畦などによる有機栽培用のほ場の明確な区分、十分な緩

衝地帯を確保、防風ネットや生垣などの植栽の設置といった対策を講じなくてはなりませ

ん。

② ほ場履歴

有機表示をするためには、以下のような「転換期間」が必要です。

表 【3】-1 有機 JAS 規格に定められた転換期間

作物(場所)の区分 転換期間

多年生作物(果樹、お茶、アスパラ

ガスなど)

転換開始から、最初の収穫までに、3 年以上経

過していること

その他の作物(米などの一年生作物、

年に何作も収穫される野菜など)

転換開始から、最初の播種または植付けまで

に、2 年以上経過していること

開拓されたほ場か耕作の目的に供さ

れていないほ場で、2 年以上使用禁

止資材が使用されていないほ場

最初の播種または植付けまでに、1 年以上有機

栽培を実施していること

採取場(自生しているきのこなど) 採取前の 3 年以上使用禁止資材が使用または

飛散していないこと

(2) 生産行程の管理体制

有機認定を受けるためには、計画的に生産行程を管理できる体制が求められます。そのた

めに、栽培方法や機械器具の取扱、収穫後の取扱、出荷方法などを具体的に定めた管理基

準(内部規定)や年間計画などを作成しなければなりません。例えば、内部規定には、以

下の項目が具体的かつ体系的に整備されていなくてはならないと規定されています。

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐8

① 種苗および資材の入手

② 肥培管理および病害虫・雑草防除

③ 生産に使用する機械・器具

④ 輸送・選別・調整・洗浄・貯蔵等の作業

⑤ 出荷

⑥ 年間計画の作成と認定機関への通知

⑦ 認定機関による確認等業務の適切な実施に関し必要な事項

(3) 記録付け

日本の有機 JAS 規格では、有機農産物を生産するほ場の条件を満たすかどうかの確認のた

め、播種定植前 2 年以上または収穫前 3 年以上に遡り使用してきた資材を記録に残すこと

が求められています。過去有機栽培を行っていたといっても、この記録がなければ認定の

取得はできません。

このように有機認定を受けるためには、かなりの労力と時間、そしてお金がかかります。

自国のマーケットの状況や認証制度を確認し、有機認定を受けるべきか十分に検討する必

要があります。

参加型 2 者認証制度

すでに説明したとおり、先進国を中心に多くの国で、有機食品の検査・認証制度が制定さ

れつつあります。しかし、各国で導入されている制度は、第 3 者認証を基本として制度で、

小規模農家にとっては、申請の煩雑さや申請コストの面などから導入が難しく、また得ら

れるメリットが必ずしも大きくないのが現状です。しかし、市場では有機農産物の品質や

その真偽性を保証するなんらかの制度を必要としています。そこで誕生したのが、生産者

と消費者が相互に検査・認証を行う「2 者による参加型認証制度(PGS : Participatory Guarantee

System)」です3。

PGS は、コミュニティー、気候風土、文化の違い、市場の状況などの地域性を考慮して実

施するため、そのやり方は様々です。しかし、PGS においても、生産基準の基になるもの

は、IFOAM 基礎基準です。また消費者と生産者が有機農業に対する目的を共有する点や参

加や透明性を重視している点はどの PGS にも共通しています。PGS は有機農産物の質の維

持・向上に努めるだけでなく、関係者の学びプロセスや新しい市場を創出するアプローチ

としての役割も期待されています。

3 IFOAM の web page <http://www.ifoam.org/about_ifoam/standards/pgs.html>、森高正博「認証制度の比較分析」『現代政策

の経済分析』九州大学出版 2005 などを参照のこと。

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐9

PGS は、すでにアメリカ、ニュージーランド、インド、そしてブラジルなどで実践されて

おり、IFOAM 中・南米では、これを推進するためのワークショップも開催されています。

世界の有機農業の現状

世界の状況

(1) 有機農業の栽培面積

有機農業は、世界的に急激な広がりを見せ、現在では、120 カ国以上で実践されています。

2006 年の IFOAM の報告書4によれば、世界で有機農業の農場が 3,150 万ヘクタール以上、

62 万人以上の有機農業者がいるといわれています。大陸別の面積比率は以下の通りです。

図【3】-2 世界地域別有機農業農地面積

(出典:Willer, Helga and Minou Yussefi『The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2006.』IFOAM&FiBL

発行 P. 37 IFOAM より許可を得て転載)

このうち、オーストラリア/オセアニアの面積の大部分は粗放的な牧草地ですので、実際

の耕作地で比較すると、以下の通りヨーロッパが一位になります。

4 Willer, Helga and Minou Yussefi [2006]『The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2006.』

IFOAM &FiBL

オーストラリア/オセアニア

39 %

アフリカ

3 %

北米

アジア

13 %

4 %

中南米

20 %

ヨーロッパ

21 %

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐10

図【3】-3 世界地域別有機農業耕作地面積

(出典:Willer, Helga and Minou Yussefi『The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2006.』IFOAM&FiBL

発行 P.42 IFOAM より許可を得て転載)

(2) マーケット

同じく IFOAM の報告書5によれば、2004 年の世界の有機食品と飲料品の販売金額は、278

億ドルです。注目すべきは地域別の比率です。北アメリカとヨーロッパのシェアの合計が

96%で、両地域で独占している形になっています。健康や環境問題への高まりにより、世

界的なマーケットの規模は増加傾向にあります。

図【3】-4 有機食品世界地域別マーケット比率

(出典:Willer, Helga and Minou Yussefi『The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2006.』IFOAM&FiBL

発行 P. 73 IFOAM より許可を得て転載)

5 Willer, Helga and Minou Yussefi [2006]『The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2006.』

IFOAM &FiBL

ヨーロッパ

65 %

北米

17 %

アジア

13 %

中南米

3 %

アフリカ

2 %

ヨーロッパ

49.3 %

北米

46.6 %

3.8 %その他

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐11

各国の状況

(1) ヨーロッパ

ヨーロッパは有機農業の先進地域といわれています。2006 年の IFOAM の統計データでは、

有機農業の農地面積は 650 万ヘクタール、市場規模は 137 億ドル、世界の 49.3%を占める

最大のマーケットです。ヨーロッパにおいて有機農業が発展した背景には以下の要因があ

るといわれています6。

国民の環境に関する意識が一般的に高く、農業が環境にやさしい面と負荷を与え

る面との二面性を有していることについての理解が浸透している。

食品の安全性についての関心が高く、特に BSE、口蹄疫、O-157 などが発生して

以来、関心はさらに高まっている。

EU や国の政策のなかで、環境と農業が明確に位置づけられている。さらに、こ

れを推進していくための実行措置として、助成制度などが確立している。

流通体制が整備されているとともに、研究・指導体制なども確立している。

気候風土が冷涼・乾燥しており、病害虫が発生しにくい。

特に EU では、有機農業規則(1991 年制定)と環境直接支払いを含む農業環境規制(1992

年制定)が、有機農業の発展に大きな役割を果たしました。以下のグラフを見てください。

6 蔦谷栄一著〔2003〕『海外における有機農業の取組動向と実情』筑波書房 P18-20

農場

農場

ヘクタール

図【3】-5 EUにおける有機農業の発展 1985-2004

(出典:Willer, Helga and Minou Yussefi『The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2006.』

IFOAM&FiBL 発行 P. 131 IFOAM より許可を得て転載)

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐12

1990 年代に入って急激に面積が増えているのがわかると思います。これは、この 2 つの規

則が制定されたことにより、有機農業に取り組む制度が整ったからだと言われています。

つまり、有機農業規則の制定により、有機農業の定義・考え方が明確になったことと、そ

して農業環境規則によって、農薬・化学肥料の削減、集約的生産から粗放的生産への転換

などにより有機農業に取り組む農業者に対して補助金が支払われるようになったことによ

る効果です。

ヨーロッパの国別市場規模は、2004 年時点で、1 位がドイツで 42 億ドル、2 位がイギリス

で 19 億ドルとなっており、両国とも 10%以上の高い成長率を示しています7。

(2) アメリカ

アメリカでは、1970 年代に穀物を中心に農産物輸出が飛躍的に増加し、牧草地の多くがト

ウモロコシや大豆などの輸出用作物の畑に転換されました。これにより、それまで牧草で

被覆された土壌が露出するようになり、土壌浸食が激化しました。一方で、この時代の増

産の過程で、化学肥料や農薬の多投、連作の拡大、乾燥地帯での灌漑農業のための地下水

源の乱開発などが起こり、農業者の健康や食料の安全性に対する脅威、地下水源の減少、

土壌の塩類集積などが顕在化しました8。このような背景から、慣行農業に疑問を持ち、有

機農業の技術的・経営的利点に着目して、有機農業に転換する農家が増加し始めました。

もうひとつのアメリカの特徴として、この時期に反体制的な文化運動(カウンター・カル

チャー)が生まれており、その中に有機農業運動が取り込まれたことが挙げられます。

その後、多くの州で有機農業に関する取り組みがなされました。カルフォルニア州は 1979

年に「カルフォルニア州有機食品法」を制定しました。1990 年には連邦政府が、有機農産

物の表示規制に関する法律、「有機食品生産法」を制定しましたが、遺伝子組み換え技術や

放射線照射の禁止などの議論が起こり、すぐには施行できませんでした。2002 年に連邦レ

ベルで適用される有機基準や認証手続きの具体的な内容を含む施行規則、「全国有機プログ

ラム(NOP:National Organic Program)」が施行されました。この結果、ようやく、農務省

の有機シールをつけた農産物が店頭に並び始めました。

アメリカでは、90 年代後半になって有機農業の認証農地や認証事業者が急増しました。こ

れについては、以下の 2 つの要因が指摘されています9。

① この時期に NOP 規則案が公表され、NOP の実施時期や具体的内容が少しずつ見えてき

7 Willer, Helga and Minou Yussefi [2006]『The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2006.』

IFOAM &FiBL 8 西尾道徳著〔1997〕『有機栽培の基礎知識』農山漁村文化協会 P64,65 9 大山利男著〔2003〕『有機食品システムの国際的検証 食の信頼構築の可能性を探る』日本経済評論社 P62

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐13

たことにより、有機生産が促進された。

② 1990 年代の基調として有機市場が成長を続けており、供給側がそれに対応してきた。

それ以降、市場規模も急激に成長しており、2004 年の有機農産物の市場規模は 122 億ドル

で、アメリカ一国でヨーロッパとほぼ規模があります。しかし、それでもアメリカの農地

全体に占める面積の割合は、わずか 0.22%に過ぎないというのが現状です10。

(3) コスタリカ

コスタリカは中米における先進地域といわれ、2003 年のコスタリカの有機農業農地面積は、

13,945 ヘクタール、有機農業者数はおよそ 4,000 人です11。コスタリカは、有機農業政策の

主導機関は、農牧省で、認証エージェントの登録・管理、生産性の向上のための研究、有

機食品の流通・消費の推進などを行っています。

コスタリカでは、アポダール(APODAR)やロマス・アル・リオ(Lomas al Rio)などの生

産者団体や流通企業協会も有機農業の発展に大きく寄与しました。例えば、生産団体であ

るアポダールは、1994 年に設立され、現在では 20 家族で構成され、年間 24 種類の野菜を

生産しています。さらに集荷センターを持ち、分別、梱包、運送、販売のすべてを行って

います。またセデコ(CEDECO:コスタリカ開発実務プログラムのための教育コーポレー

ション)などの NGO も有機農業の推進を後押ししています。セデコは 1984 年に設立され、

国内の 3 つの地域を中心に活動しています。主な活動は、有機農業生産者の研修と継続的

な支援活動、有機農業の推進に関わる広報・啓蒙用の印刷物の出版などです。

参考文献

・IFOAM 著 村山勝茂、澤登早苗、鈴木敦監訳〔2003〕『IFOAM(国際有機農業運動連盟)

有機生産および加工のための規範 / IFOAM 基礎基準 / IFOAM 認定指標』日本有機農業

研究会

・IFOAM〔2006〕『IFOAM norms for organic production and processing, version 2005』IFOAM

・Gunnar Rundgren〔2007〕『Building trust in organics – A guide to setting up organic certification

programmes』IFAOM

・西尾道徳〔1997〕『有機栽培の基礎知識』社団法人 農山漁村文化協会

10 Willer, Helga and Minou Yussefi [2006]『The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2006.』

IFOAM &FiBL 11 Willer, Helga and Minou Yussefi [2006]『The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2006.』

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【3】 有機農業の定義と各国の状況

【3】‐14

・大山利男〔2003〕『有機食品システムの国際的検証 食の信頼構築の可能性を探る』日本

経済評論社

・蔦谷栄一著〔2003〕『海外における有機農業の取組動向と実情』筑波書房

・Willer, Helga and Minou Yussefi [2006]『The World of Organic Agriculture. Statistics and

Emerging Trends 2006.』IFOAM &FiBL

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐1

最終案で追加予定

はじめに

このコンテンツ全体は、小規模農家に対する支援にかかわる課題として、「有機農業に基づ

く生産技術の指導」、「小規模農家の経営改善の指導」、「普及員による農民支援のアプロー

チの改善」という 3 つを大きく取り上げて構成しています。このユニットでは、これらの

小規模農家の支援にかかわる課題がお互いにどのように関連しあっているのかを概観する

とともに、それぞれの課題の概要を説明します。

図【4】-1 に、小規模農家の発展に向けたプロセスと、それぞれの課題の関連性、そして

普及員などの外部者の支援の関係を模式的に表してみました。

普及員による農家支援:生産技術指導、経営指導、その他の情報提供など

農家経営の

基本ビジョン 自己の経営 経営の自己

の記録 診断

普及と組織

参加型 組織形成

能力強化 個人の起業

生産と販売

図 【4】-1 小規模農民支援のフロー概念図

目的: 研修受講者が、有機農業による小規模農民支援の全体像を理解し、自らの対象地

や対象農民が有機農業でどのカテゴリーにあるかを判定する。

目標:

1. 有機農業による小規模農民支援の基本的な考え方を説明できるようになる。

2.研修受講者が自らの対象地や対象農民の支援目標を検討できるようになる。

1

【4】 ユニット 1.3.1 : 有機農業による小規模農民支援概論

実態の把握

(農村調査)

活動のモニタリング・評価<農民の活動> <農民の活動>

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐2

ここに示したように、小規模農家が何らかの改善を目指すとき、まずは自己の振り返りか

ら始まります。そのときに、将来の農家経営のビジョンを明確にすることが大切です。そ

のビジョンに基づいて、どのような生産物を作って(生産・営農システム)どのように消

費・販売(マーケティング)していくのか、それは個人(世帯)として取り組むのか、グル

ープ形成(組織化)を目指すのかなどを考えていかなければなりません。その上で大きな

目標を立て、その目標に向かって改善を実現していくために、現在のどこをどう変えてい

くのかの判断(診断)を行い、具体的な計画を立てて実施に移していきます。これは一般

的なプロセスを単純化して模式図にしたものですから、場合によってはこのようにスムー

ズに進むとは限りません。一度進んだと思っても、うまくいかないためにプロセスを逆戻

りする、といったことも現実には起こるかもしれません。ただ大切なことは、小規模農家

であっても、未来に向かってその現状を変えようとするときには、合理的な判断や計画性

をもって行うべきだ、ということを農家自身が知り、農家が自らが実践する、ということ

です。

ですので、この一連のプロセスは農家に主体性がなければなりません。普及員やその他の

外部者は、あくまで農家によるこのプロセスの実施を側面支援するという立場にあります。

農家を支援するためには、支援する私たちが、それぞれの課題について十分に知っておく

必要があります。このコンテンツはそのためのものです。

このモジュール 1 では、ここまでに有機農業とはどういうものかの概要を見てきました。

モジュール1の最後のユニットとして、ここでは「農家の経営」、「販売戦略を考えるため

のマーケティング」、「生産や労働の効率性を高めるための組織化」などについての基本的な

考え方の概要を見てみます。これらの課題のより詳細については、モジュール 2 を見てく

ださい。

農家経営の基礎

小規模農家にとってなぜ経営の視点が必要なのでしょうか。

農家にとっての農業とは、暮らしを立てるための一つの手段であり、その営農の形態はさ

まざまですが、自営小規模農家として生活してきた伝統的な農民は、自然に関する豊富な

知識を総動員してその最も効率のよい活用法を見出していたといえます。こうした意味で

は、彼らは初めから「経営」をしてきたと言えましょう。

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐3

農業経営も、大きな仕組みは、製造業などの事業経営と同じです。(1)原材料を調達し、(2)

労働力を投入して(3)何かを生産し(4)それを適切な価格で販売して(5)利益を得る―

というわけです。当然ながら、(1)(2)にかかる経費が(4)の売上より小さくなければ(5)

の利益は出ません。利益を大きくしようと思えば、(1)(2)の経費を小さくするか、(4)

の売上を大きくすることになるのも、同じです。一方、農業経営は、製造業などと比べて、

以下のような違い、特徴があります。

(A) 原材料の一部が自然そのもので、無料のことがある

(B) 一方、自然は変化しやすく、その不安定さが、結果に対するリスクになる

(C) 小農の場合、労働力は、賃金支払いを伴わない自家労働のことが多い

(D) 生産期間は一般に長く、投じた資金の回収には時間がかかり、リスクも高まる

(E) 農産物は、鮮度維持のため短期間に販売しなければならず、出荷調整が困難

一般の製造業などであれば、販売収入から経費を引いた利益は企業利潤と呼ばれ、企業内

部に留保されて次の投資の原資になったり、株主に配分されたりします。この「売上―経

費=利益」の基本構図は同じですが、それぞれの内容に違いが生じることがあります。特

に議論になるのは、家族労働力をどうみるか、です。また、途上国の小農の多くは、農業

を、事業活動というより「生業」として営んできました。そういう中で、家族労働は、定

量化や数値化になじまない性格を帯びています。家族労働を経費に含めず、現金支出のみ

を経費とする考え方のいい点は、こうした小農の実感に即した簡易な経営分析ができる点

でしょう。

自給が中心の農業では、生産物の行き先のほとんどは「自家消費」ですので、現金収入と

しての便益はほとんど見込めません。しかしそれは、経済的な便益を生んでいないという

ことではなく、単に貨幣という形に置き換わっていないということです。ですので、自給

だからといって経営的な観点が不要であるということではありません。労働や費用、投入、

そして生産を記録し、分析することで改善の方向性が見えてきます。

自給を超えて生産物を販売できるような農家であれば、生産物によって生み出される便益

の中で現金収入の占める割合が大きくなってきます。この場合はより正確に、経済的な「利

益」がその土地から生み出されているのかどうかを明らかにする必要があります。それに

よって、費用の調整、投入財の工夫、価格の調整などの具体的な方策が明らかになってい

きます。

さらに、農業生産の目的が農産物の販売となると、今度は商品の差別化や宣伝・販売方法

などが必要になってきます。この場合は、費用の範囲が生産だけにとどまらず、いわゆる

「営業経費」としてさまざまな活動への投入が必要になってきます。そのために、営農だ

けでなく、営業全体の動向を把握するためのツールを用いた経営が必要となってきます。

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐4

このような、経済的な面から管理する便益のほかに、有機農業を導入することによって経

済価値に現れにくい便益が生み出されます。それには次のようなものが含まれます。

土壌と生態系の安定

健康の確保(農薬などの影響の排除)

農業についての知識と経験の蓄積(自ら考える農家への転換)

先に述べました、小規模農家の経営を「生業」として捕らえる考え方はとても重要な点で

す。それはつまり、生活と事業が明確に分離していないということで、「農業」としての収

支だけでなく、より中長期的な農家の家族の人生設計の中で農業活動を位置づけるという

見方が求められます。

有機農業を通して小規模農家を支援していく際には、このような点をよく理解したうえで

取り組むことが極めて大切です。この、農家経営の課題については、【5】ユニット 2.1.1「営

農計画:経済分析」でさらに学ぶことができます。

マーケティング概論

経営を見る最初の視点は農家の財務状況、あるいは物財すべてを含む、「農家の内部」の動

きの現状を見ることでした。これに対してマーケティングとは、市場という「農家の外部」

の状況を把握・分析して、生産物の販売の促進を目指す活動です。

マーケティングは、市場の情報(消費者のニーズ)を集めて作るべき作物を決めること(商

品選定・開発)と、また売り先(市場)をどこにするかを決めることが、その主な活動と

なります。自己の経営情報に市場の情報を加えることによって、栽培作目はより収益性の

高いものを選択することができ、さらに仕入れ(生産活動のための準備)もより限定され

るので無駄のない資材の投入ができるようになります。また、生産と販売の方法と関連し

て、農家のグループ化や組織化といった課題とも深いつながりがあります。

農産物に限らず、普通の「市場」は需給バランスによって成り立っています。消費者の需

要ということを意識しながら生産者がこれに対応する、というのが一般的に見られる生産

者と消費者の関係です。ところが日本の有機農業では、「産直(産地直売、産地直送)」や

「生産者と消費者の提携」という販売方法があります。これは、生産者が自らが「正しい」

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐5

と思うものを作り、それを欲しいと思う消費者が買う、という関係で成り立っています。

そして生産者と消費者の結びつきが「市場」を介してではなく、直接的な結びつきである、

という点に大きな特徴があります。これはまた、大量生産・大量消費に対するアンチテーゼ

として、あるいは、地域の自立につながる「地産地消」という日本の有機農業のひとつの

成果であるといえます。

自給を主たる目的として農業をする農家の場合の販売上の最大の問題のひとつは、安定供

給ができない、ということです。自給分を取り分けた後で余りがでれば販売にまわすとい

うことですから、できたとしても少量で、場合によってはできたりできなかったりと、販

売としては不安定にならざるを得ないこともしばしばです。この場合の販売先はどうして

も近場に限られます。遠くに持っていく際の費用をまかなうだけの販売が確保できるかど

うかわかりません。多くの場合、地域のローカル市場あるいはその周辺の路上での販売と

いうことになるのが一般的でしょう。さらに少量・不安定な場合は、庭先販売で近隣住民

に売るということしかできないこともあるでしょう。この場合、販売・マーケティングの

観点から考えるべきことは、生産物の差別化か、生産の安定化のどちらかでしょう。供給

が不安定でも、そこで作られる作物がすごくおいしいなど、明らかに他と違うものを持っ

ていれば、販売は容易になります。あるいは、量は少なくても定期的に間違いなく販売す

ることができるようになれば、販売ルートや市場との関係が固定的なものとして確立され

ていきます。この作物の差別化、安定生産という両方の面で有機農業の導入は有効な方法

といえるでしょう。

販売のための生産が多くなるにしたがって、適切なマーケティングの重要性はいよいよ高

まってきます。販売ルートも複数の可能性が生まれてきます。地域のローカルマーケット

にしても、恒常的な屋台を備える必要が出てくるでしょう。また、より大きなマーケット

に持っていくという可能性もあります。さらには、仲買に仲介してもらうという選択肢も

あるかもしれません。先に述べた作物(商品)の差別化に成功していれば、日本の有機農

業が実践しているような、消費者との「提携」という形も、もしかしたら試みてみる価値

のある方法かもしれません。生産者のグループ化、組織化による生産の規模化ということ

も、販売の力を高めるひとつの方策です。どの方法を選択するかに正解はありません。ケ

ースごとに異なるでしょうし、どんな農業を実現したいかという農家自身のビジョンによ

っても異なります。外部者は、このような多様な可能性と農家の主体的な取り組みという

ことを理解して支援することが求められます。

さらに、小規模といっても、「有機農産物」を商品として売るために農業をする場合は、マ

ーケティングの成否が事業の成否といっても過言ではなくなります。

このマーケティングについても、【5】ユニット 2.1.1「営農計画:経済分析」の中でさらに

詳しく説明しています。

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐6

組織化と普及

農家組織の形態

農家グループや組織といっても、その形はさまざまです。グループや組織という「形」に

とらわれず、農家間の関係性というより広い点で見れば、さらに多様な形態があります。

農業はもっとも古い生業のひとつですので、歴史的に形成されてきた村やコミュニティの

慣習や「しきたり」という形になっているものもっても、グループではないものの、農家

間のつながり、関係のあり方のひとつとして存在します。また新しい入植地など、地域に

よってはそのような農家間の関係性が極めて乏しいケースもあるでしょう。

このような伝統的な社会・文化的関係性とは異なり、「グループ」あるいは「組織」といっ

たときには、その集団に排他性(メンバーシップ)があり、属するメンバーが目的と行動

様式(規範やルール)を共有している、ということがひとつの定義といえます。言い換え

れば、目的や行動様式が明確でない、あるいはメンバー間でこれを共有していないグルー

プや組織は、機能的な集団として成功しない、ということでもあります。

小規模農家を支援する場合、それが伝統的な社会・文化的なものであっても、グループ・組

織という形であっても、彼らが目指す農業の将来像の実現のために有効と思われるものは

積極的に活用すべきです。伝統的なものはより劣っていてグループ・組織という形がより

すぐれているということでは、必ずしもありません。特に、伝統的な規範のようなものの

場合、すでに述べたように、社会・文化的な背景に根ざしているものがほとんどですので、

これを変えようとすると、さまざまな混乱が起こることも予想され、注意が必要です。

すでに農家グループや組織が存在するときは、その組織の現状を見て見ましょう。目的と

ルールが明確になっているか、メンバー間で共有されているかが、まず最初のチェックポ

イントです。途上国の小規模農家の組織の場合、ここに問題があることがとても多いです。

多くの場合、組織内に問題があってもメンバーが自らこれを改善するというのはなかなか

難しく、外部支援者が介入するということをひとつのきっかけとして、第三者だから言え

るという立場を利用して、改善を促していくのが効果的です。

新しいグループや組織を作る場合に気をつける点も、やはり、目的とルールの明確化と共

有です。何のために、何をするために集まるのか、集まった人の間の役割分担、責任や権

限は何なのか、ということについてのメンバー間の合意を確認し、それをきちんと文書化

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐7

して、いつでも参照できる形に保存しておくことが重要です。

農村における小集団の特徴や形成の過程は【6】ユニット 2.2.1「営農計画:組織運営」でさ

らに詳しく説明します。

普及における組織化

行政、あるいは NGO などによる「普及活動」では、個々の農家を訪問するのもひとつの方

法ですが、手間ひまとコストはかなりかかります。日本も含めて、主に行政による各国の

普及事業を見てみると、個別訪問のほかに、集団指導、研修、見学、共同研究など、集団

を対象とした普及事業が数多く実施されています。

この普及事業の効率化を目的として、農家が集められて集団を形成することもあります。

この場合は、「普及事業の効率化」が主たる目的とされています。農家側からすれば、みん

なで「学ぶ」ということが目的ともいえますが、これが農家を組織化するだけの強い目的

となりうるかどうかは、慎重に見定めなければなりません。過去の例を見ると、実際には、

対象の地域に既にある集団や組織を利用する場合が多いのが現状のようです。

組織化と組織化支援

組織化の目的は、1)経営の統合、2)生産活動の効率化、3)販売の強化の 3 つが一般

的です。このなかで、小規模農家が組織化される場合でもっとも一般的なのは、販売力の

強化のためのものでしょう。これらの集団形成は地縁・血縁関係などの社会的な関係によ

るつながりから発展しているケースが多いようです。もとから個人間の信頼関係は構築さ

れているので、集団の形成が容易であるという理由からです。

また、これと同様に同一の目標(労働力の相互扶助、農業資材の共同購入、生産物の共同

販売)をもった集団の形成は、農業協同組合などの形成に見ることができます。

先に述べたように、グループ化、組織化には、そのメンバーが共有できる合理的な目的が

必要ですが、「販売を促進する」ということはきわめて強力な「目的」のひとつです。とく

に、生産物の販売先が、ローカルマーケットから都市のマーケットや卸売市場へと大きく

なっていく場合や、地域の特色として商品の差別化を伴った販売を広めようとする時には、

組織化はきわめて重要な方法のひとつです。それにより、生産規模の拡大や交渉能力の強

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐8

化、また運搬コストの削減など、農家が個人として取り組めば困難なことを、組織という

集団の力を使って成し遂げることが可能になります。その一方で、集団になると、意思決

定の仕組みづくりとその維持や役割と責任の分担などに加えて、作物の品質(あるいは有

機作物としての)の統一など、「農家」ではあまり問題にならなかったことが大きな課題と

なってきます。

組織がうまく運営され、力を発揮できるかどうかは、(1)集団の人数、(2)リーダーの存

在、そして(3)直面する問題の困難さ、で決まります。人数について言えば、15 人くらい

が「顔の見える関係」を維持できる限界です。リーダーは集団の規模にかかわらず、適切

なリーダーシップを備えていることが求められますが、人数が 15 人以上になると、内規の

徹底とか役割分担といった意識的な組織運営が必要になります。集団が自らの力で解決で

きないような大きな問題に直面してしまうと、それまで順調に機能していた組織が一気に

機能不全になる可能性もあります。

外部支援者は、これらの組織化の利点と困難点をよく理解した上で農家を指導することが

求められます。

営農システム概論

小規模農民の定義

このコンテンツが扱う支援対象者は小規模農家です。しかし、そもそも小規模農家とはど

のような農家のことをいうのでしょうか。畑の面積が何ヘクタール以下、家畜の数が何頭

以下など、営農の規模で定義する考え方もあると思います。しかしこのコンテンツでは、

小規模農家を営農の規模だけで考えているのではありません。畑の面積や家畜の面積など

も含めた様々な営農のための資源が小さい(少ない)農民のことを小規模農民と考えます。

営農のための資源とは、土地、水、お金、労働力、自然資源、技術力、管理能力、マーケ

ット力など、様々なものが考えられます。言い換えれば、小規模農民は、このような営農

のための資源が不足しているという状況の中で、どのような発展の方法があるのかを探し

ているということができるでしょう。

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐9

小規模営農システム

すでに説明したとおり、小規模農民が使える資源は限られています。しかし、利用できる

資源を最大限活用し、あるいはまだ使っていなかった資源を活用して、得られる便益を最

大にするという可能性は小さくありません。これを実践している小規模農家の営農は、無

駄のない、とても合理的な仕組みになっています。外部者が見ると、無駄に見えるやり方

やモノが、実は営農全体の中でとても有用な働きをしていることがあります。たとえば、

食用として栽培されるトウモロコシの畑に残った茎や葉は、牛の餌として重要な役割を果

たしますし、野菜を作るときの堆肥の材料としても活用されていたりするというようなこ

とは珍しくありません。

小規模農民の営農も合理的なシステムとして機能させればより効率的かつ持続的な農業を

実現できるのです。自然環境や社会経済環境など厳しい制約条件の中で、収穫量の均一化

や副産物を相互利用、市場リスクの分散など様々な目的を満たす仕組みがそこにはありま

す。

外部者が小規模農家を支援するときは、最初に彼らの営農システムの全体像を正しく把握

しなくてはなりません。それをせずに、新しい技術を導入したり、資金や資材を与えたり

しても、効果は上がりません。最悪の場合は、彼らの営農システムを壊し、得られる便益

を減らしてしまう可能性さえあります。

小規模営農システムと有機農業

有機農業の技術は、小規模農民が苦しむ資源不足の解決に、様々な側面で貢献する可能性

を持っています。例えば、手持ちの資金が少ないために化学肥料を購入することができな

い農民の場合であれば、地域資源を有効活用することによって、有機質肥料を作り、化学

肥料を購入する必要がなくなります。そればかりではなく、最終的には化学肥料に頼らな

い、より安定的な農業生産も実現できます。他にも、地力の回復による生産性の向上、消

費者に訴えることができる安全で質の高い農作物の生産、また、「有機」というブランドに

よる販売価格の改善など、多くの効果を期待できます。このような、お金をかけずに手間

をかけて、より安定した品質の高い収穫を得て自立していく有機農業こそが、資源の乏し

い小規模農家が実践すべき農業の形であるといえるのではないでしょうか。

有機農業の導入の留意点として、小規模農家の営農システムとの関係があります。有機農

業の技術は、天然農薬など部分的に活用できる技術もありますが、基本的にはシステム全

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐10

体として機能する技術です。そのため、小規模農家の支援に有機農業の技術を利用する場

合は、彼らの合理的な営農システムの中でバランスが取れる形で導入することが重要です。

有機農業の3つのカテゴリー

3つのカテゴリー

このコンテンツでは、普及活動の対象者となるような小規模農家を次のように類型化して

います。

(1)主食穀類を中心とする自給作物を得ることが目的の農業を営む農家。

一生懸命働いて自給用の食糧とわずかに余剰な農産物を販売した利潤が手元に残ります。

(2)自給作物に加えて、販売目的の作物栽培の占める割合がある程度以上の農業を営む農家。

生産の経済性、つまり、土地面積あたりの収益をきちんと把握して、これを高めるという

課題が重要となってきます。

(3)農業経営に資金を投入し、産地形成や生産物のブランド化を進める農家。

投入した資金に対する利潤を確実に上げて行かなければ経営が行き詰るため、経営の戦略

性が重要になってきます。

この 3 つの小規模農家の類型にあわせて、有機農業を導入することで目指すべき目的を次

のような 3 つのカテゴリーに整理します。

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【4】 有機農業による小規模農民支援概論

【4】‐11

目的カテゴリー 対象農家のイメージ

A 自然資源を有効活用す

ることによる投入コス

トの削減、地力の維持と

自然の力による生産性

の向上

主食穀類を 0.3ha 程度から 2ha くらいまでの常畑耕作で生

産する農業。水稲栽培は除く。移動耕作から常畑に移行し

たばかりの粗放な段階から、化学農業を含めた比較的高度

な段階まで視野に入れる。このカテゴリーの主目的は、増

産と安定生産。この農業は面積を必要とするため、その改

善に機械化や灌漑施設建設の果たす役割が大きいが、有機

技術で改善される側面もあるので、そこを中心的トピック

とする。

B 現金所得のための農業

のコスト削減による採

算性の向上と地力向上

による持続性の確保

都市近郊を中心に、小面積の野菜畑作で現金収入を得る農

業。面積は 0.05ha から 0.5ha くらいまで。換金野菜を生産

している場合は化学農業を経験していることが多いので、

そうした実態を想定する。有機技術の採用による生産効

率・経営効率の向上、長期的な土壌肥沃度の改善などが、

このカテゴリーの主目標になる。上記 1 との最大の違いは

面積、つまり集約度である。したがって、機械化などより

も、肥培管理技術としての有機技術が果たす役割がより大

きい。 C 「有機」であることによ

る商品差別化、新たな流

通のあり方の追及

上記の A、B が高度化したものであることが多い。生産技

術の内容は A、B と大きくは違わないが、有機であること

がブランド化の根拠になるため、より徹底したものになっ

ていく。しかし、このカテゴリーの焦点は、生産技術より

もむしろ、ブランド化や認証問題、消費者との直接的な関

係作りなどのマーケティングの側面に移っていく。途上国

ではまだ少ないが、一部では生まれ始めている。

このコンテンツでは、それぞれのユニットで紹介することが、どの目的カテゴリーと対応

しているかがわかるようになっています。

ここでは、皆さんの支援する農家の人々が、どのカテゴリーに該当するのかを考えてみま

しょう。

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モジュール 2

小規模農家経営概論

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モジュール 2:小規模農家経営

目次

【5】 ユニット 2.1.1 : 営農計画:経済分析

農業経営とは? ..................................................................................................................................3 経営管理の必要性 ..........................................................................................................................3

小農経営とは ......................................................................................................................................4 農業経営の特質 ..............................................................................................................................4 小農経営の考え方 ..........................................................................................................................5 小規模有機農業における「投資」の考え方 ..............................................................................7

記録と活動の数値化 ..........................................................................................................................8 記録がない場合は ..........................................................................................................................8 農作業量の算定 ..............................................................................................................................9 生産コストの算定 ........................................................................................................................10 栽培計画と損益分岐点 ................................................................................................................10 収益の向上と二つの生産性 ........................................................................................................11

経営分析と対策 ................................................................................................................................12 簡易な経営分析 ............................................................................................................................12 分析結果の理解(評価) ............................................................................................................14 対策 ................................................................................................................................................15

農業マーケティング ........................................................................................................................17 市場のしくみと価格 ....................................................................................................................17 農産物の市場の特性 ....................................................................................................................17 販売形態と農業マーケティング ................................................................................................18 販売戦略と生産物の商品化 ........................................................................................................19 農業マーケティングのすすめ ....................................................................................................21

【6】 ユニット 2.2.1 : 営農計画:組織運営

組織化とは? ......................................................................................................................................1 集団の成立要件の発展過程 ..........................................................................................................1

組織論 ..................................................................................................................................................3 集団の運営 ......................................................................................................................................8

Page 77: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

【5】 営農計画:経済分析

【5】‐3

農業経営とは?

経営管理の必要性

自営小規模農家として生活してきた伝統的な農民は、自然に関する豊富な知識を総動員し

てその も効率のよい活用法を見出していたといえます。こうした意味では、彼らは初め

から「経営」をしてきたと言えるでしょう。

しかし、これは、農業と自然の距離は近いが、農業と市場との距離はまだ遠く、市場経済

に大きく巻き込まれていない時代の話です。農業が市場経済に巻き込まれていくにつれて、

農民は、伝統的な自然利用の知恵だけでは対処しきれない問題に直面し始めます。

たとえば、近代科学技術がもたらした機械化。大変な農作業を少しでも楽にやりたいと考

えるのは農民として当然のことですが、機械はとても高価です。その経費を農業の売上で

賄うには、かなりの利益を長期にわたって安定的に生み出すことが必要になります。そう

した「お金の計算」は、自然利用の方法を中心にした伝統的な営農の知恵とはだいぶ違っ

たものにならざるをえません。

簡単に言えば、近代以降、農民は「現金収入をどう増やすか」に注力しなければならなく

なったのです。そのためには、投入や産出などの農場内の活動を記録することから始まっ

て、消費者ニーズや市場動向の把握など、マーケティングに関する情報収集までが必要に

なってきます。

このことは、有機農業を振興するときも同じことが言えます。有機農業はたんに過去の農

業に戻ろうとするものではありません。農業生産のあり方や農家としての食料供給のあり

方、さらに農家や地域の自立という考え方は、慣行農業に対するアンチテーゼとして、昔

のやり方をもう一度見直そうという立場ですが、物やお金の流れをきちんと記録・管理して

「経営」するということを否定するものではありません。

【5】 ユニット 2.1.1 : 営農計画:経済分析

目的: 農業経営の基本を理解する。

目標: 基本的な経営指標が理解できるようになる。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐4

途上国の小規模農家は、市場経済の波のなかでとまどいながら、そのような経営者になり

きれないでいるのが現状です。このような小規模農家を支援するための方法を検討してい

きましょう。

小農経営とは

農業経営の特質

農業経営も、大きな仕組みは、製造業などの事業経営と同じです。(1)原材料を調達し、(2)

労働力を投入して(3)何かを生産し(4)それを適切な価格で販売して(5)利益を得る―

というわけです。当然ながら、(1)(2)にかかる経費が(4)の売上より小さくなければ(5)

の利益は出ません。利益を大きくしようと思えば、(1)(2)の経費を小さくするか、(4)

の売上を大きくすることになるのも、同じです。

一方、農業経営は、製造業などと比べて、以下のような違い、特徴があります。

(A) 原材料の一部が自然そのもので、無料のことがある

土地にはたいてい地代がかかりますが、作物が吸い上げる土中の養分などにまで経費がか

かるわけではありません。雨水はもちろん無料です。堆肥の材料になる雑草なども、だい

たい無料です。この「無料の自然」というのは、伝統的な自然利用の農業からすれば当然

のことなのですが、この後に順次述べていく小農経営の厳しい条件に対抗するうえで強力

な武器になります。

(B) 一方、自然は変化しやすく、その不安定さが、結果に対するリスクになる

自然は無料ですが、同時に、自然は人間の言うことを聞いてはくれません。気温が 1 度下

がれば、作物はそれに反応して、収量が下がることもあります。ひどい場合には病気や冷

害で全滅などということもありえます。これは事業経営の観点からすれば、極めて大きな

リスクです。

(C) 小農の場合、労働力は、賃金支払いを伴わない自家労働のことが多い

製造業の場合、製造経費にはそれに必要な労賃が含まれますが、小農経営の場合、労働力

は家族労働で賄うことが多く、現金支出を伴いません。このことをどうとらえるかは後で

詳しく検討します。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐5

(D) 生産期間は一般に長く、投じた資金の回収には時間がかかり、リスクも高まる

日本では、球根から育てる小ネギなどは定植後 1 カ月で出荷できますが、これはいわば例

外で、葉菜類でも 2 カ月、トウモロコシなどで 3、4 カ月、イモ類などでは半年から 1 年近

くかかるものもあるのが農業生産です。投じたものが結果を出すのに長い時間がかかるの

です。お金というものは、早く動かせばそれだけ利益を生む機会が増えますから、「長く寝

かせられる」ことを一般に好みません。期間が長ければ、それだけ不測の事態=リスクに

直面する確率も高まります。

(E) 農産物は、鮮度維持のため短期間に販売しなければならず、出荷調整が困難

例えば、電球の生産なら出荷直前に市場動向が変化して計画通りの販売が難しくなった場

合でも、しばらくストックして出荷時期をずらせば何とか対応できます。しかし、農産物

は腐ってしまうため、そうはいきません。

以上、見てきたように、一般の製造業などと比べた時、農業経営は、(A)のような有利な

点もありますが、(B)(D)(E)のような厳しい面を抱えています。後で述べますが、小農

の場合は、その厳しさがさらに増します。これらにどう対処していくか。それを検討する

前に、基本的な経営の ABC を簡単におさらいしておきましょう。

小農経営の考え方

費用の考え方

まず、 も基本的な事業経営の考え方は下図の通りです。一定の経費をかけて何かを生産

し、経費以上の金額で販売できれば、その差額が利益になって還ってきます。

図 【5】-1 経営の考えかた1

一般の製造業などであれば、この利益は企業利潤と呼ばれ、企業内部に留保されて次の投

資の原資になったり、株主に配分されたりします。この仕組みを農業経営、とくに小農経

経費

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利益

1. 生産

2. 販売

3. 余剰

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐6

営にあてはめるとどうなるでしょうか。「売上―経費=利益」の基本構図は同じですが、そ

れぞれの内容に違いが生じることがあります。特に議論になるのは、家族労働力をどうみ

るか、です。

企業経営の場合なら、上図で示した「経費」の内側にすべての労働力が含まれています。

一方、小農経営の場合には、労働力が現金支出を伴わない家族労働であることが多く、労

働力を経費に含めることに抵抗感を感じる人もいます。その場合は、現金支出を伴うもの

のみを経費としてとらえ、家族労働力など現金支出のないものは経費に含めない、という

考え方をとります。この場合は、利益の中で、家族が生活していかねばなりませんから、

その生活費を後で差し引いた残りが、投資などに回せる余剰になります(図【5】-2)。

図 【5】-2 経営の考えかた 2

経費に家族労働を含める考え方の優れた点は、家族労働の経済価値を定量化し、農業以外

の就業機会も視野に入れながら、営農を客観的にとらえるところです。営農が拡大して、

現金支出を伴う労働者雇用が発生した時にも対応できます。

一方、途上国の小農の多くは、農業を、事業活動というより「生業」として営んできまし

た。そういう中で、家族労働は定量化や数値化になじまない性格を帯びています。家族労

働を経費に含めず、現金支出のみを経費とする考え方のいい点は、こうした小農の実感に

即した簡易な経営分析ができる点でしょう。

したがって、自分が他に働きに出たり、別の労働力を雇用できるような環境ならば、家族

労働を経費に含める考え方をとるべきでしょう。逆に、労働力のそうした流動性がほとん

どないような地域で自給中心の伝統的な営農を続けている小農が対象ならば、むしろ、経

費を現金支出だけに絞った考え方の方が、簡易で分かりやすい経営分析ができるでしょう。

現金支出経費

売上

生活費

余剰

1. 生産

2. 販売

3. 生活

4. 余剰

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐7

小農経営と「ライフサイクル」

先に述べました、小規模農家の経営を「生業」として捕らえる考え方は、途上国で小規模

農家を対象に経営指導する際にはとても重要な点です。簡単にいえば、生活と事業が明確

に分離していない、ということで、別の言い方をすれば、農業の営みに農家の個々人の生

活と人生がかかっているということです。特に自給を中心として余剰を販売する程度の小

規模農家では、生産の安定が生活の安定、ひいては人生の安定に直結していきます。この

ような小規模農家の経営を指導する際には、「農業」としての収支計算においても貨幣にな

らない部分を換算することと、加えて、「農業」としての収支だけでなく、より中長期的な

人生設計の中で農業活動を位置づけるという見方が求められます。

たとえば労働力ですが、子供が小さいうちは学校へ、すこし大きくなったら労働力として、

と考えるのか、小さいうちは手伝ってもらい、大きくなったら別の職を探してもらう、と

考えるのかで労働力資源の投資計画が大きく違ってきます。また、子供の教育費、事故や

病気のときの備え、冠婚葬祭用の費用の蓄え、さらには、老後の生活費から場合によって

は相続まで、人生設計の中でいつどのように状況が変わり、それに対応していくのかを考

えることが必要です。

多くの小規模農家、特に貧困レベルに近い農家では、このような考え方をしていることは

多くないと思います。しかし、小規模農家が少なくとも貧困という状況から抜け出し、農

業を基盤として次の世代に向けて希望のある生活を引き継いでいくためには、このような

視点からの経営指導ということがとても大切だといえるでしょう。

このような点から考えても、低コストで持続性を高めることができる有機農業の導入は、

小規模農家の生活の改善と安定、農家家族の幸せのために有用なものだといえます。

ここでは、とりあえず、家族労働を定量化して経費に含める考え方に沿って、この後の記

述を進めます。家族労働を経費に含めない方がよいと判断される場合は、定量化の作業を

割愛し、現金支出のみを経費に算入して経営分析を進めて下さい。

小規模有機農業における「投資」の考え方

小規模農家の支援のために有機農業を振興する上でのもうひとつの重要な考え方は、「内部

循環」という考え方です。

前の項で 2 つの経営の考え方を見てみましたが、そこに出てくる「支出経費」を含めた資

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐8

源について、その供給元を外部に頼らず、可能な限り内部でまかなおうとするのが「内部

循環」の考え方です。ここで言う資源には、資金、労働力、資材、遺伝資源など、あらゆ

るものが含まれます。

ここで「内部資源」といわずに「内部循環」という言葉を使っていることが重要だという

ことを覚えてください。内部にある資源を循環させて、一つの生産系を確立する、という

ことがポイントです。具体的には、外部からの化学肥料ではなく、地域内で入手できる有

機物による堆肥と有機肥料の使用、これにより土壌と環境が正しく機能し、有機物は循環

し、生産も安定していく、という循環系の確立です。また、家族労働をうまく利用して家

族が無駄なく仕事をし、 大限の便益を得ることで、また労働に従事する意欲を得るとい

う循環もあるでしょう。

内部循環系は、活用すればするほどに強化されるという一般的な性質があります。このよ

うな「内部循環」の確立は、自給や自給を少し超えたレベルの小規模農家の自立にとって

きわめて重要です。外部の資源への依存から離れることが、このような小規模農家のより

自立した農家経営の基本だといえるでしょう。また、有機ビジネスを営む農家にとっても、

有機農業が成り立つ生態系を維持していくためには、やはりこの内分循環系をきちんと強

化しておくことが必要となってきます。

記録と活動の数値化

記録がない場合は

さて、経営診断を正しく行うためには、日々の営農活動(仕入れ・生産・販売)に伴う金

銭や物の出入りの記録が必要になります。しかし発展途上国の農村部では、経営の記録は

おろか、一般的な家計の記録さえ習慣化されていないことが多いのが現状です。

このような経営記録をとる習慣のないところでは、畑の地図を描いて、ここに何を栽培し

ているかを記入し、同一の作期中の営農活動の仕入れ・生産・販売といった金銭や物の出

入りの全てを書き込んでいく、という方法から始めてみるのも一つのやり方です。ほ場の

地図は手書きでかまいません。

農民が生産量や投入量を自分で数字にできないこともよくあります。そんな場合は、農民

が使っている箱、かご、袋、一輪車などの計量単位でいくつなのかを聞き取ります。Kg な

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐9

どへの換算は、箱、かご、袋、一輪車 1 杯分が何キロになるかを現場でよく調べて、計算

します。

忘れている数量を思い出してもらうには、多めの数字をわざとぶつけて、ともかくも何か

を回答してもらうきっかけを作ります。例えば 0.3ha に肥料を何袋入れたか、答えられない

とします。「何とか思い出してくださいよ」と繰り返しても、農民は困った顔をするばかり

です。そんな時は「30 袋以上ですか」とまず聞きます。農民は冗談じゃないという顔で強

く否定するはずです。「じゃ、15 袋?」「いやいや、とんでもない」「10 袋?」「もっと少な

いです」「4 袋?」「うーん」。ここで逆から攻めます。「1 袋?」「もっと入れたと思います」

「3 袋?」「…、そんなものかもしれません」。上から絞っていって、正解に達する前に、今

度は下限に近い数字をぶつけて、「いやそんなに少なくない」という反応を確認できれば、

あとは、その間を徐々に狭めていきます。

農作業量の算定

労働量の計算を簡単にするために、主な作業を 1日単位でとらえ、例えば除草に 20 日かか

るとか、収穫は 3人で 7日かかるから延べ 21 日、というふうに情報を整理します。それを

基に、日単位で作業量を計算していきます。

実際には複数の作目を同時に栽培しているのが普通でしょうから、1日に 4種類の作物でそ

れぞれ別の作業をするようなことも珍しくありません。そうした場合は、細かいことは考

えずに、ごく大雑把に 1 日を 2 つくらいに割って計算します。トマトの芽かきに半日、ピ

ーマンの収穫に半日、といった感じです。

労働時間は作目ごとに集計します。労働の単価は、外部から労働者を雇用する場合の地域

の平均的な単価をそのまま自家労働にもあてはめ、これを時間にかけて経費とします。

労働時間の計算は面倒ですが、投下労働量を把握することにはメリットがあります。特に、

営農が拡大するなどして、人を雇う必要が生じた時はそうです。日頃、労働時間を把握し

ていれば、どの作業にはどれくらいの時間がかかるか、人を雇えばそれがいくらに相当す

るのかがすぐに分かります。雇用労働に比べて、機械や畜力を導入した方が安上がりでは

ないかといった検討もできます。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐10

生産コストの算定

(1) 一般の生産費

労働力以外の生産費用は、種代や肥料代など、1 年単年で現金支出を伴う経費を中心に記録

し、集計します。自然から集めた「無料の」資材や副産物・廃棄物を金銭価値に換算する

考え方もありますが、とりあえずは、実際の現金支出を伴うものだけ記録しておくことか

ら始めましょう。

たとえば、畑全体を借り上げたトラクターで耕した場合など、複数の作目にまとめてかか

る経費は、適宜、各作目に配賦します。この例ならば、大まかな作付け面積比か売上金額

比で振り分けていけばいいでしょう。

(2) 償却費

農業機械など、長期間使うものを購入した場合などは、一般の投入物とは計算の仕方が少

し違ってきます。減価償却費の考え方がそれです。 も簡易な計算は定額法で、価格を耐

用年数で割り、毎年、定額を支出しているとみなすのです。ただし、これは「資産」とし

て蓄積されるような機械や施設を扱う場合のみです。

(3) 固定費と変動費

もうひとつ重要なのは、固定費と変動費の考え方です。固定費とは、生産活動の量や、結

果としての生産量と関係なくかかる経費のこと。例えば、地代がその典型です。地代は、

一定面積の土地を借りることで発生する経費で、その土地で何をどれだけ作るかとは関係

なく、一定の金額がかかります。これに対して変動費は生産活動の量におよそ比例して増

える経費です。例えば畑の面積が 2 倍になれば、播く種も 2 倍量が必要になるのが普通で

す。

変動費は、増えてもその結果として生産量が同時に増えることが期待できます。むろん、

生産がいくら増えても、増えた生産物を販売しきれなければお金にはなりませんが。その

一方で固定費は、生産活動の多い少ないと関わりなくかかる費用ですから、小さくするに

こしたことはありません。

栽培計画と損益分岐点

前の項で述べてきたことを図にすると、下の図(【5】-3)のようになります。斜めに上がっ

ていく線は、売上から変動費を差し引いた残りです。水平に引かれている線が固定費を表

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐11

わします。売上から変動費を差し引いた残りが固定費よりも下にあるうちは、利益は出ま

せん。これが固定費を上回ると、初めて利益が出ます。この境目が損益分岐点です。

図【5】-3 損益分岐点

損益分岐点は図の左にあればあるほど利益が早く出ます。そのためには、固定費の線をで

きるだけ低くすることと、売上―変動費の線をできるだけ高くすることです。

収益の向上と二つの生産性

生産性という言葉はよく耳にしますが、これは何がしかの単位当たりの生産のことです。

土地生産性なら、一定面積の土地当たりの生産量ですし、労働生産性なら、一定時間の投

入労働量当たりの生産量です。これによって、土地、労働などの投入に対する生産の効率

を計るわけです。

何についての生産性が重要でしょうか。例えば畑の面積に限りがある場合、一定面積当た

りの生産量が多いことが重要になります。畑を 1ha から 2ha に簡単に拡張できない状況の下

では、1ha 当たり 3 トンしか穫れなかったものが 6 トン穫れるようになることが大いに意味

を持ちます。しかし、土地があり余っていたらどうでしょう。1ha 当たり 3 トンの技術でも、

土地の面積を 2 倍にすれば 6 トン穫れるわけですから、土地生産性を上げる技術は、土地

に限りがある状況ほどはありがたみがないと言えるでしょう。

同じことは労働生産性についても言えます。投下労働量 1 日当たり 50kg の労働生産性を 2

倍にするということは、同じ 1 日の労働で 100kg 穫れるようにすることを意味します。こ

のことが もありがたみを持つのは、労働力に制約がある時です。逆に、労働力が余って

いる時は、生産量を増やしたければ人を投入すればできるので、人手不足の環境に比べれ

ば、労働生産性向上の重要性は落ちるのです。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐12

要するに、制約条件の厳しい生産要素に関する生産性を向上させることが も重要だ、と

いうことです。ここでは、代表的な例として土地生産性と労働生産性を取り上げましたが、

例えば、灌漑水の確保が厳しい場所なら、投入する水 1 トン当たりの生産性を高めるべく

技術開発しなければなりませんし、現金収入に乏しい農家なら、投下現金当たりの生産量

を増やすよう努めるべきです。

生産性は、一つの生産性を上げると別の生産性が下がることがあります。例えば、労働生

産性を上げるために機械を導入するとします。そうなれば、投下資本が増えますから、資

本生産性は下がります。この場合、どちらを優先すべきなのか、よく検討しなければなり

ません。「お金はないけど、人は余っている」なら、労働生産性よりも資本生産性を重視し

なければなりませんから、機械の導入は思いとどまって、人手で何とか切り抜けるべきで

しょう。「金は用意できるが、人手がいない」なら、資本生産性より労働生産性を重視すべ

きですから、機械を入れることになります。

「金もないし、人手もない」時はどうすべきでしょうか。労働生産性と資本生産性を同時

に高めなければなりません。つまり「金をかけずにできる省力化技術」を模索することで

す。例えば、トラクターはあきらめて、ロバにすき..

を引かせるのがそれです。人力よりは

はるかに速く耕せますし、トラクターを雇うのに比べたら格段に安くすむわけです。

経営分析と対策

簡易な経営分析

経営分析は、やろうと思えば細かく、精緻にできますが、途上国の小農を対象にする場合

は、むしろできるだけ簡単、骨太に問題点をえぐり出し、そのことによって問題を農民自

身によく理解してもらうことが重要です。そのうえで問題を乗り越える対策を農民ととも

に考えていきましょう。

分析は原則として作目ごとにやります。共通の経費は、作付け面積比や売上金額比で、作

目ごとに配賦します。

初めに、一番大きな枠組みである「売上―経費=利益」を検討します。もし経費が売上よ

り多ければ、利益ではなく、欠損が生じているわけです。ただし、経費の中でも家族労働

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐13

費と減価償却費の 2 つは取り扱いに注意しなければなりません。まず、家族労働費は賃金

の形で現金を支払うことはないものの、生活費として現金は出ていくわけですから、経費

に含めたままにします。減価償却費の方は、借金をして買ったものでない限り、現金支出

は伴いませんから、まず、減価償却費を経費から除外してみます。こうして得た経費がな

お売上を上回っている、つまり、欠損が出ている場合は、同じことを続ければ損を出し続

けて資産を食いつぶすか、借金がかさむだけという結論になります。対策は、現金支出を

増やさずに売上を伸ばす方法を追求することです。

減価償却費を除外した経費を売上から引いた結果、利益が出ている場合は、次に減価償却

費を経費に加えます。ここで経費が売上を上回ってしまった場合。このまま続けていると、

償却資産である、例えば耕耘機が耐用年数を超えても、新しいものと買い替えるのが難し

くなる可能性があるわけです。ただし、インフレ基調の経済環境下で、物価上昇率が高い

場合などは、ここで欠損が出なくても、後で同じものが買えなくなる可能性がありますの

で、注意して下さい。

減価償却費を含む経費よりも売上が上回っていれば、この作目では利益が出ていることに

なります。作目別の検討が済んだら、それらを合算して、営農全体の売上、経費、利益を

出し、同じように検討します。

次に営農全体と作目別の経年変化を調べます。昨年、あるいは例年と比べて今年の成績が

どうか、です。

(1) 売上の増減

売上が増えたか、減ったか、その原因が単価の変動にあるか、出荷量の増減にあるかを調

べます。出荷量の増減については、主に営農内部の問題になりますから、原因を追求して

対策を講じます。

(2) 経費の増減

経費が増えた原因、減った原因を調べ、対策を講じます。例えば種の市場価格が変動して

出費増になったとしたら、種の自家採取が一部でもできないか、検討するといった対策を

とることになります。

(3) 利益の増減

利益の増減が売上の増減に由来したものか、経費の変動に由来するか、よく調べます。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐14

分析結果の理解(評価)

こうして、作物ごと、そして全体としてどのくらいの利益が得られたのか、それは過去と

比べてどう変化しているか、という分析の結果が得られます。残る問題は、どの程度の利

益が出ていれば「良し」とするか、です。営農をとりまく環境によって、どのくらいの利

益が出ていればいいかは違ってきますが、考慮すべきは、農業はリスクが大きく、資金の

回転にも時間がかかるので、小農が出せるわずかばかりの利益では全く安心できない、何

かあればそんなものはすぐに吹き飛んでしまう、ということです。その意味では、利益率

の適正な水準を考えるよりも、「絶えず利益を大きくするよう工夫を続ける」というのが現

実に小農に求められる基本的なスタンスといえるかもしれません。

また、このコンテンツが対象としている 3 つのカテゴリー(自給、自給+余剰販売、有機

ビジネス)という農業の目的によっても見方が違ってくるのは当然でしょう。

自給が中心の場合 先にも述べましたように、自給中心の小農の場合、農業は「生業」です。生活、そして中

長期的な人生設計を考えたときに安心できるようになっているかどうか、が 初の判断基

準となるでしょう。まず生活の安定があって、初めて次の段階に進めます。また、先に述

べた「内部循環系」の確立という点から、単なる収支ではなく、外部への依存がどの程度

残っているのかという点も経営を評価するうえで重要な視点となります。

自給と販売の場合 自給=生活が安定しているという基盤の上に、作物を商品として販売していくという段階

に入っていきます。この場合は、生産したものがどの程度の利益(適正価格での販売)に

結びついていくかということが重要になってきます。販売部分の収支を見て、黒字として

成り立っているときはよいでしょうが、問題がある場合は、価格か販売量です。有機作物

が他の農産物と差別化できるかどうかが大きな分かれ目になります。すでに差別化ができ

るようなところでは、宣伝や販売の場所を工夫して認知度を高めるということなどが必要

でしょう。差別化が難しいようなところでは、その地域の一般的な価格でしか売れません

が、消費者に有機農産物の安全性と作物としての優位点を伝えていくという努力が必要に

なってくるでしょう。

「有機ビジネス」の場合

この段階は、たとえ規模が小規模だとしても、すでに「事業」として農業が成立するよう

な状況にないといけません。利益は多いほうがよいですが、単なる収支という問題を卒業

して、資本と資産の管理、将来に向けての計画に基づく追加投資などのビジネスとしての

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐15

財務マネジメントが求められてきます。有機農業の基本は「内部循環」ですが、このレベ

ルになると、外部資源の意識的な取り込みも必要になってきます。ただし、有機農業を成

り立たせている生態系やその他の環境の維持を脅かすような外部資源の投入がないように

注意することが必要です。

対策

上に見てきたように、経営状態の判断は、小規模農家の状況や目指す方向などに基づいて

理解する必要がありますが、ここでは、一般論として、利益を大きくするにはどうしたら

よいかを見てみます。

利益を増やすためのもっとも好ましい方策は経費を減らすことです。なぜなら、追加的な

費用をかけずに利益を増やせるからです。肥料を買っているなら、廃棄物などを利用して

自分で作れないか、模索します。有機農業技術として学んださまざまな有機肥料の多くは

地域の資源を活用するものですから、これらはそのまま経費削減=利益向上策になります。

もう一つは、売上を伸ばすことです。売上=単価×出荷量ですから、単価を上げるのと、

出荷量を増やすのと両面を追求します。単価は市場の需給で決まるのですが、供給側とし

ては、需要側の要求にできるだけ応えることが、評価の結果である単価を上げることにつ

ながります。甘いトマトを好む市場なら、できるだけ糖度の高いトマトを栽培するように

しなければなりません。出荷時期も単価に影響しますが、詳しくはマーケティングの項で

説明します。

次に少し違う角度から、利益を増やす方法を検討してみましょう。先に、農業経営の特徴

として以下の 5 つを示しました。

(A) 原材料の一部が自然そのもので、無料のことがある

(B) 一方、自然は変化しやすく、その不安定さが、結果に対するリスクになる

(C) 小農の場合、労働力は、賃金支払いを伴わない自家労働のことが多い

(D) 生産期間は一般に長く、投じた資金の回収には時間がかかり、リスクも高まる

(E) 農産物は、鮮度維持のため短期間に販売しなければならず、出荷調整が困難

このうち、有利な条件は(A)だけで、(B)(D)(E)はいずれも不利な条件、(C)は中間

的な条件といえます。

まず「弱みは強みでカバーする」のが大原則ですから、(A)の「無料の自然」は徹底活用

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐16

し、現金支出経費を抑えるべきです。草や落ち葉に代表される畑の外の自然ばかりでなく、

畑の中に残された作物残さや、家から出る野菜くずのような廃棄物、家畜の糞など、現金

支出を伴わずに利用できるものがまだまだあるはずです。自然ではありませんが、食品加

工場やと畜場が近くにあれば、その廃棄物も立派な資材になります。

「弱みそのものを減らす」工夫も重要です。まず(B)は、マルチングで雨の当たりの強さ

を緩和するといった小さな技術から、資金を投じて防風ネットをかけて野菜を栽培する、

といった技術までさまざまです。主に先進国の話ですが、野菜農家がビニールハウスを建

てることが多いのは、まさに自然の変化を人為的にコントロールするための対策の一つで

す。

しかし、それ以上に、有機農業を学ぶ皆さんが忘れてはならない(B)対策があります。有

機物の投入による土づくりがそれです。土づくりが進めば、作物の根がしっかり張り、生

命体として強靭になることによって、自然の変化への適応力も確実に高まるからです。日

本では、周囲がみな冷害でやられたのに有機の畑だけは大丈夫だった、というような報告

はしばしば耳にします。

(D)で考えられる対策は、作期の短い作物を栽培することです。同じ作物でも、作期には

さまざまなものがありますから、なるべく短い期間でできるものを選んで栽培します。た

だし、一般に作期が短い作物は多くの人手を求めるので、労働力に限りがある場合はその

点を考慮します。

(E)は、穀類や豆類なら、乾燥後に流通させますから、大きな問題にはなりません。問題

は野菜です。対策は 2 つ。1 つは、前項で述べた土づくりを着実に進めることです。有機栽

培でしっかり作られた野菜は、化学肥料でひよわに育った野菜に比べて、収穫後の日持ち

がよくなるからです。作物や保存状態によりますが、通常の 2 倍の日数でも大丈夫、とい

うような話はさほど珍しい話ではありません。

もう 1 つは、生鮮品として出すのでなく、加工することです。実際、冷蔵流通設備のない

途上国では乾燥野菜、乾燥果実が各地で作られ、人々の貴重なビタミン源、ミネラル源に

なっています。日本でも切り干し大根や干し柿が今でも人気を保っています。日本を含む

東アジアで盛んな漬け物は、発酵を利用した代表的な野菜加工品です。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐17

農業マーケティング

市場のしくみと価格

農業経営の中で生産された農産物は、流通ルートに乗せられ、消費者の食卓にのぼり、食

物としてそのゴールに達します。日本でもかつては、農家がとりたての農産物を地域の特

定の市場(朝市や定期市)に持って行き、消費者に直接販売したり、農産物をリヤカーに

のせて住宅地で売り歩くといった流通・販売方法が一般的でした。しかし、しだいに都市化

が進み、流通・小売業が発達するにつれ、これらの小売業への取次ぎをその役割とする市

場(卸売市場)へ生産物を出荷することが一般的になってきました。

この市場において、売り手の数が多く買い手の数が少ないときは、買い手の間での競争が

激しくないため、買い手は買い急ぐことなく価格が低くなることを待って購入することが

できます。これを「買い手市場」と呼びます。しかし、このような状況が続いて価格が下

がってくると、低価格という不利な条件で生産物を売ろうとする売り手の数が減ってきま

す。この状態がさらに進むと、今度は品物が少ないために買い手側が競い合って品物を入

手しようとします。これを「売り手市場」といいます。

農産物の市場の特性

農産物の市場における価格の上下は、買い手の農産物に対する要望(いわゆる「消費者需

要」)が反映します。近年、農産物に対する消費者需要は、1) できるだけ安いこと、2) 品

質が良くおいしいこと、3) いつでも手に入ること、4) 安全であること、5) きれいなこと

―など次々に増えてきているとともに、消費者によって好みが異なるという多様化も進ん

でいます。生産者としては、このような消費者の需要にこたえる 大限の努力を払わなけ

ればなりません。

また、農産物は季節性が強く、貯蔵性も工業製品とは比べ物にならないほど短いです。季

節性の高い同一の生産物を一時期にみんなが生産すれば、市場の需要より供給が上回り、

価格の下落を招いてしまう可能性が十分にあります。このことは、生産者は消費者需要だ

けではなく、季節ごとの需給バランスも考慮して作付けの計画を立てなければならないこ

とを意味しています。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐18

農産物に限らず、普通の「市場」は需給バランスによって成り立っています。「バランス」

といっても、「買う」人がいなかれば市場は成り立ちませんので、大体は消費者の需要とい

うことを意識しながら生産者がこれに対応する、というのが一般的に見られる生産者と消

費者の関係です。ところが日本では、消費者の需要の多様化と、地域性や季節性を重んじ

る有機農業が結びついたことのひとつの結果として、昔は普通だった「産直(産地直売、

産地直送)」や「生産者と消費者の提携」という販売方法が復活してきたという現実があり

ます。これは、生産者が自らが「正しい」と思うものを作り、それを欲しいと思う消費者

が買う、という一般的な市場での関係と逆の関係で成り立っています。そして生産者と消

費者の結びつきが「市場」を介してではなく、直接的な結びつきである、という点に大き

な特徴があります。そうして、生産者の作る農産品の特徴を消費者がよりよく知り、また、

消費者の気持ちも生産者に伝わりやすくなります。これはまた、大量生産・大量消費に対す

るアンチテーゼとして、あるいは、地域の自立につながる「地産地消」という、日本の有

機農業のひとつの成果であるといえます。

このように、マーケティングを考えることは、農家が適正な営農計画を策定する上で非常

に重要な活動です。前項の経営分析では、仕込み・生産・販売を把握し、農家の内部を見

て、改善点を探るということを考えていました。これに対して「マーケティング」は、市

場という農家の外部にある状況を把握し、販売の促進を目的として分析し、活動を考えま

す。

この「マーケティング」という言葉は、市場経済が発達した 20 世紀に入ってから使われる

ようになった経済用語で、物品と貨幣との交換を意味する販売に市場調査を加えた概念と

定義されています。つまり、マーケティングは、生産が終わったところから始まる活動で

はなく、生産を行う前の段階で、市場の情報(消費者需要)を把握し、生産すべき作物を

決めることも含まれるのです。

経営診断から得られた農家の内部の改善に、市場という外部から得られる情報を加味する

ことで、より収益性の高い作物を選択でき、さらに仕入れ(生産の準備)の量や時期も明

確にでき、無駄な資材の投入を防ぐことにもつながります。

販売形態と農業マーケティング

ここまで見てきたように、マーケティングとは、農家の営農形態に応じて、その生産物を

どのように価値に変えていくべきかを考えるということです。ですので、農家の営農の形

態によってマーケティングも異なる方法が必要になります。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐19

自給を主たる目的として農業をする農家の場合の販売上の 大の問題のひとつは、安定供

給ができない、ということです。自給分を取り分けた後で余りが出れば販売に回すという

ことですから、できたとしても少量で、場合によってはできたりできなかったりと、販売

としては不安定にならざるを得ないこともしばしばです。この場合の販売先はどうしても

近場に限られます。遠くに持っていく際の費用をまかなうだけの販売量が確保できるかど

うかわかりません。地域のローカル市場あるいはその周辺の路上での販売ということにな

るのが一般的でしょう。さらに少量・不安定な場合は、庭先販売で近隣住民に売るという

ことしかできないこともあるでしょう。

この場合、販売・マーケティングの観点から考えるべきことは、生産物の差別化か、生産

の安定化かのどちらかでしょう。供給が不安定でも、そこで作られる作物がすごくおいし

いなど、明らかに他と違うものを持っていれば、販売は容易になります。あるいは、量は

少なくても定期的に間違いなく販売することができるようになれば、販売ルートや市場と

の関係が固定的なものとして確立されていきます。この作物の差別化、安定生産という両

方の面で有機農業の導入は有効な方法といえるでしょう。

販売のための生産が多くなるにしたがって、適切なマーケティングの重要性は高まってき

ます。販売ルートも複数の可能性が生まれてきます。地域のローカルマーケットにしても、

半恒常的な屋台を備える必要が出てくるでしょう。また、より大きなマーケットに持って

いくという可能性もあります。さらには、仲買に仲介してもらうという選択肢もあるかも

しれません。先に述べた作物(商品)の差別化に成功していれば、日本の有機農業が実践

しているような、消費者との「提携」という形も、試みる価値のある方法でしょう。生産

者のグループ化、組織化による生産の規模化ということも、販売の力を高めるひとつの方

策です。どの方法を選択するかに正解はありません。ケースごとに異なるでしょうし、ど

んな農業を実現したいかという農家自身のビジョンによっても異なります。外部者は、こ

のような多様な可能性と農家の主体的な取り組みということを理解して支援することが求

められます。

販売戦略と生産物の商品化

マーケティングの 初の一歩は、どこにどんな需要があるかを知ることです。村の中では

どんな作物がどの程度消費されているのか、一番近い町の市場ではどんなものが売れてい

るのか、どこの小売店はどんな作物を欲しがっているのか、「有機農作物」について消費者

はどの程度知っているのか、などを知ることです。この需要は、毎年の季節やクリスマス

などのイベント、より長い期間での流行などによって変わりますので、一度だけでなく、

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐20

ある程度定期的に調べるのがよいでしょう。

この需要を知ることで、何を作ればどこでどの程度、いくら位で売れる可能性があるのか

が見えてきます。これに、その場所に運ぶまでの運搬の費用などを考え合わせ、作るべき

作物をどこで売るのかを決めていきます。

このような、一般的な市場で売るほかに、レストランや学校給食、病院への食材供給とい

うのも、ひとつの可能性です。特に、ようやく自給レベルを超えて、少量ながら少しずつ

販売できるようになってきた農家のような場合は、すぐに距離のある市場へ出荷するとい

うのは難しいのが現状でしょうから、村の中の学校などへの食材供給というのはひとつの

可能性として考えてみてもよいでしょう。

また、自ら市場へ持ち込むのか、仲買業者に売るのかも、大きな選択の一つです。自ら市

場に持ち込む場合は、そのための運搬費や市場の場所代などは農家が自ら負担しなくては

なりません。仲買業者に売る場合は、たいていは仲買業者が農家まで生産物を取りに来て

くれますのでこのような追加費用はほとんどかかりません。しかしその代わり、仲買業者

にかかる費用や彼らの利益分を差し引いた価格でしか売ることができません。

このような販売先の可能性を一覧表にして、それぞれの利点と欠点、収益性などを比較し

て見ましょう。

到達できる範囲の市場で「有機農作物」がひとつの商品カテゴリーとして確立している場

合は、これを積極的に活用することを検討すべきでしょう。また、市場だけでなく、有機

農産物を「売り物」としているレストランや小売店に直接販売するというのもひとつの方

法です。市場とこのような個別のケースの違いは、市場の場合は不特定多数の有機農産物

が参入できるのに対して、レストランや小売店では彼らが「使いたい」と思う産品しか扱

ってくれません。ですので、後者の場合は積極的な「売り込み活動」が不可欠になります。

いずれの場合でも、有機農作物としての「認証」を求められることがほとんどですので、

認証を得ることの時間と費用も合わせて考慮する必要があります。

このようなマーケティングの課題と、農家のグループ化・組織化という課題は密接に関連

しています。市場や買い手との関係に「価格形成力」や「交渉力」などが挙げられますが、

いずれも、生産者・売り手側が集団になることで、通常は強くなっていきます。ですので、

より難しい市場や売り手(有機農産物市場や大手レストラン、小売店など)を相手にしよ

うとするときには、個人農家よりも農家グループを形成してチャレンジするほうが、可能

性は高まるでしょう。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐21

農業マーケティングのすすめ

ここまで見てきたように、マーケティングというのは実は奥の深い課題であり、また、農

家が農作物からどれだけの収入を得られるかを大きく左右するものです。小規模農家の場

合、このマーケティングの重要性を必ずしも理解していないことが多くあります。私たち

外部支援者としては、彼らにわかりやすく説明し、また、 初の段階では一緒になってマ

ーケット調査をしてみるなど、少し手厚い支援をする必要があるでしょう。

小規模農家にとって、生産技術や経営の向上は、彼らの内部(彼ら自身の能力)が強くな

っていくことといえます。一方、このマーケティングができるようになるということは、

小規模農家が彼らの外の世界との関係を強める、というふうに見ることができます。この

「内と外」の両面で小規模農家のキャパシティが向上することで、小規模農家自らが自信

を強め、自立した農家へと発展していくことができるのです。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐22

演習概要 / 説明

「チャバ家の営農」の事例から、必要な経営データを引き出して整理・計算し、小農の利

益構造を明らかにします。

Instruction

「チャバ家の営農」を読み、作目ごとに売上、経費それぞれを構成している要素をすべて

書き出し、その数字を整理します。これらを一覧表にして、作目別に利益を計算し、どの

作目が も大きな利益額を上げているか、どの作目がもっとも売上高に対して高い利益率

を上げているかについて、それぞれ検討して下さい。不足しているデータがあれば、何が

不足しているかを書き出し、講師から必要なデータを得て、作業を継続して下さい。

Activity 【5】-1 演習【5】-1:

演習タイトル:チャバ家の営農

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐23

「チャバ家の営農」:

1. はじめに

チャバ家は、アフリカ大陸中央部に位置する A 国東部の典型的な小農である。チャバ

家のある地域は熱帯で、11 月から 4 月までの暑い雨季に 1000 ミリの雨が降る。乾季は

5 月から 8 月までの冷涼な乾季と 9、10 月の暑い乾季に分かれる。乾季、とりわけ暑い

乾季の間、一帯はサバンナのようになるが、雨季に入ると、いたるところに草が生え、

再び緑の風景がよみがえる。

チャバ夫妻の夫カマスワンダ(42)は技術の改良をいつも考えているが、妻のアジェシ

(38)は保守的である。これはむしろ、生活や仕事の面で新しい道を考えるには彼女が

あまりに忙しいから、といえるかもしれない。2 人の娘、ニャマンダ(15)とティカ(10)は、料理や掃除だけでなく、農作業でも母をよく手伝う。長男のミチェク(13)は除草

や収穫の時に父を手伝う。次男のバスト(4)は家族のペットだ。

チャバ家では、在来種のトウモロコシ、F1 のトウモロコシ、ラッカセイ、サツマイモ

を栽培するとともに、牛を 2 頭と豚を 2 頭養っている。牛は作物残さなどを食べて、牛

乳だけでなく、燃料やこやしになる牛糞を生産し、畑の犂も引く。豚は畑にこやしを供

給し、学校給食の残飯や畑の野菜の葉などを食べる。牛も豚も生産に現金支出は伴わな

い。

チャバ家は自給自足中心の農業をかれこれ 15 年以上続けてきた。しかし家計と市場は

徐々に近づき、その関係は強まってきた。農業資材である化学肥料や農薬だけでなく、

衣服や塩などの日用品も市場で買っている。このような生活の変化に伴ってますます現

金が必要になっている。

農業の主目的は相変わらず自家消費用の食料を得ることだが、限られた土地の生産性を

上げて現金を稼ぐことも、今ひとつの重要な営農目的になってきた。

2. 活動

チャバ家は2.3haの農地を持つ。カマスワンダは1.5haを担当し、F1トウモロコシを1ha、在来種トウモロコシを 0.5ha 植えている。アジェシは 0.8ha を担当し、在来種トウモロ

コシを 0.5ha、ラッカセイを 0.2ha、サツマイモを 0.1ha それぞれ栽培している。

カマスワンダもアジェシも、乾季の終わりの 9 月、10 月にそれぞれの土地を耕す。む ろん 2 人は相互に手伝うし、娘たちは母の土地準備を助ける。 初の雨が降る前にアジ

Activity 【5】-1

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐24

ェシは種をまく。1ha の畑に在来種のトウモロコシを播種するのに 3 日かかる。

F1 トウモロコシはカマスワンダが栽培している。5 日かかる播種は 12 月に行う。アジ

ェシは同じく 12 月にラッカセイを 0.2ha に 3 日がかりで植える。

播種後、除草を始める。1ha の在来種トウモロコシの除草に 50 日、1ha の F1 トウモロ

コシに 43 日、0.2ha のラッカセイに 9 日それぞれかかる。F1 トウモロコシの除草はカ

マスワンダの仕事で、在来種トウモロコシとラッカセイの除草は、カマスワンダが管理

する 0.5ha の在来種トウモロコシ畑も含め、すべてアジェシの担当だ。加えて、アジェ

シは 0.1ha のサツマイモ畑も管理している。

カマスワンダは収穫前にはトウモロコシとラッカセイの貯蔵小屋を作らねばならない。

3 月末に F1 トウモロコシの収穫が、4 月には在来種トウモロコシの収穫がそれぞれ始ま

る。この 3 カ月は家族総出の作業が続く。特にアジェシは忙しい。トウモロコシの収穫

だけでなく、毎日の食事の支度をしなければならない。自宅で食べる分だけでなく、畑

で食べる昼食の準備もいる。さらにラッカセイとサツマイモを収穫しなければならない。 合計すると、1ha の在来種トウモロコシの栽培に 87 日、1ha の F1 トウモロコシに 105日、0.2ha のラッカセイに 69 日を要する。特に収穫期は、すべての作目を同時に収穫し

なければならないので、労働力の不足が深刻だ。季節労働者を雇用したこともある。

カマスワンダは牛の乳搾り、アジェシは豚の給餌を毎日やる。家畜の販売はカマスワン

ダが判断する。ただし、豚の販売についてはアジェシとよく話し合ってから決めている。

3. 生産資源

畑は夫と妻がそれぞれの担当する区画を管理しているが、何を植えるかは話し合って決

めている。普及員と接触できるカマスワンダは新しい農法を好んで採用する傾向がみら

れるが、アジェシは新しい技術には懐疑的だ。これは彼女が新しい技術を学ぶ機会がほ

とんどないためと考えられる。

この地域ではすべての土地は伝統的共有地である。伝統的首長が農民に使用権を与える。

チャバ家が耕作している土地も共有地だ。もし土地を広げたければできる。土地自体は

あるし、伝統的首長の事務所にきちんと使用権を申請しさえすれば、承認を得ることは

さほど難しくないからである。

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐25

F1 トウモロコシには、普及員の勧めにしたがって化学肥料と農薬などの資材を入れて

いる。カマスワンダは F1 トウモロコシを育てているので、そうした資材の購入を判断 するのは彼の役目だ。F1 トウモロコシは在来種に比べて 2 倍以上の収量を上げること

ができる。

しかし F1 トウモロコシはかなりの資材投入を要求するので、これが家計を圧迫する。

現金収入は作物と家畜の販売で得ている。一部のラッカセイの販売を除き、農産物と家

畜の販売はカマスワンダがすべてやっている。全般的な現金の使い道もカマスワンダが

決める。しかし妻とよく話し合って後でしか意思決定はしない。市場で日用品を買うの

はカマスワンダだけでなく、アジェシもやる。

A 国の教育は変化しつつある。カマスワンダとアジェシは小学校教育を受けただけだが、

子供たちは中学校まで出ることを考え始めている。両親、特にアジェシは子供たちに中

学に行ってほしいと思っている。アジェシは農業のやり方を変えることには消極的だが、

近い将来、現金収入がもっと必要になることもよく知っている。

4. 便益と動機づけ

トウモロコシは主食で、自作の貯蔵小屋で保管する。過去 5 年平均の営農で、在来種ト

ウモロコシは 1ha 当たり 1200kg、F1 トウモロコシは 1ha 当たり 2500kg を収穫した。年

間 1 人 350kg を消費するので、6 人家族で 2100kg は必要になる計算だ。残りの 1600kgは市場で販売できる。トウモロコシの価格は 1 トンあたり K.23 から K.26 の間で変動す

る。

F1 トウモロコシは在来種トウモロコシの2倍以上の収量があるので、カマスワンダと

しては F1 の作付け面積を増やしたいと考えている。問題は、収量が変動すること。普

及員の指導にしたがって 善と考えられる管理をしているが、F1 トウモロコシは小さ

な環境の変化に弱いのではないかとカマスワンダは考えている。栄養生長段階で低温に

さらされると収量は 高時の 6 割に落ちる。アジェシだけでなく、ほかならぬカマスワ

ンダ自身が F1 トウモロコシに完全に頼ることがまだできず、依然として畑の半分以下

しか植えていないのは、こうした理由による。加えて、生産費の問題がある。F1 トウ

モロコシは、1ha 当たり K.30 かかる。これは在来種の 5 倍になる。

チャバ家は年間にラッカセイを 50kg 消費する。収量は 1ha 当たり 740kg だから、0.2ha

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【5】 営農計画:経済分析

【5】‐26

からの生産量は 148kg、したがって 98kg は販売できることになる。農協が運営する市

場で、カマスワンダは半量を 1 トン当たり K.47 で販売している。しかし、農協には手

数料として 1 トン当たり K.4 を支払わねばならない。アジェシは残りの半分を地域の市

場で 1 トン当たり K.45 で売る。ただし、コミュニティ内では 1kg ずつ小分けして売る ので、販売には時間がかかるから、この量が限界だ。

サツマイモは単収が 1ha 当たり 800kg なので、収穫量は 80kg。すべて自家消費してい

る。

豚は年 2 回売れる。チャバ家は年に豚を 5 頭を販売する。成豚は中間業者に 1 頭 K.8 で

売れる。1 腹産子数は 6、7 頭で、母豚は年 2 回出産するから、途中の死亡率さえ高く

なければ、さらに数多くの豚を売ることができる。

アジェシは、死亡率を下げるにはもっと栄養のある餌を与えないといけないのではない

かと考え始めた。というのは、母豚を 3 頭飼っている兄がそう言っていたからだ。兄は

ラッカセイ油を絞った後のかすが市場に出回っているので、それを与えたらどうかと助

言した。しかしこれは高い。必ずしも説得力があるとは感じられない新たな飼い方にお

金を使うことをアジェシは懸念している。今のところ豚にかかっている現金といえば、

年 4 回ほどの種付け料 K0.5 くらいだ。

アジェシは、鶏を飼い始めることも考えている。鶏は卵や肉を生産するだけでなく、牛

糞や豚糞より栄養価が高い鶏糞を出してくれる。小さな鶏小屋で雌鶏 10 羽を飼ってい

る知人が、ヒヨコを入れたら、と勧めてくれた。必要なら彼女が自分のヒヨコを売って

くれるそうだ。卵の市場価格は 1 個 K.0.009 である。

アジェシにとって、ビール作りは比較的短期間に現金収入を得るのに も便利な手段で

ある。アジェシは質のよいトウモロコシのビールを 7 日で作ることができる。このビー

ルは香りがよく、味もいいと評判で、たくさんの村人が買ってくれる。アジェシは食品

加工の類なら何でも大好きだ。トウモロコシ 500g でビール 1kg が作れる。これが K.0.042で売れる。現在はトウモロコシ 1600kg のうち、100kg をビール生産に回している。

トウモロコシ市場は巨大だが、 近、トウモロコシ価格は徐々に下がってきた。普及員

によると、国際トウモロコシ価格が以前よりも下がったという。これに対して、ラッカ

セイと肉、卵、牛乳といった動物性食品の価格は安定している。というのは、大都市部

での、油とタンパク質の関連食品需要が高まっているからである。

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【6】 営農計画:組織運営

【6】‐1

組織化とは?

集団の成立要件の発展過程

農家が集まって共同で何かをするということは、昔から世界各地に見られます。簡単に言

えば、1 人ではやりにくい作業、効率が悪い作業を共同でやってきたのです。例えば、日本

では、稲を比較的短期間に収穫するといった場面で、「結」と呼ばれる共同作業が昔から行

われてきました。今日はここの田、明日は別の人の田、と多人数で収穫していきます。大

きなため池を掘ったり、新田を造成したりといった規模の大きな土木作業も共同で行われ

ました。

こうした共同の農作業は、まさに必要から生じた自然な集団化でした。人々は必要を満た

すために集団を形成し、これを維持し発展させるリーダーシップや決まりを生み出してき

ました。特別の工法といったような技術が集団の求心力になっていることもあれば、すぐ

れた指導者が構成員一人一人の潜在力を上手に引き出している場合もあります。集団活動

が生み出した資金を賢明に運用してますます資金力を高めることに成功した地域集団もあ

ります。

近代に入り、科学技術の進展により、こうした共同の活動の必要性は次第に低くなってき

ました。土木工事はパワーショベルやトラックがするようになり、稲の刈り入れはコンバ

インがあっという間にやってくれます。農村の伝統的な共同作業の風景は、こうして徐々

に消えていきました。

その一方で、農業は市場経済の中に巻き込まれていきます。かつて農業は、自然をどう利

用するかを考えることが本質だったものが、市場経済化の中で、市場から供給される農業

資材を購入する場面が増えるようになりました。収穫した生産物も自給用だけでなく、市

場で販売して現金に換えることが主目的になってきました。こうした中で、共同の農作業

目的: 農村社会における組織の形成と運営の考え方、方法を理解する。

目標:

1. 農村における組織運営の基本を指導できるようになる。

2. さまざまな組織の類型や活動内容を説明できるようになる。

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【6】 ユニット 2.2.1 : 営農計画:組織運営

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【6】 営農計画:組織運営

【6】‐2

というかつての集団とは別の文脈での集団化の必要性が生まれてきました。これが資材の

共同購入と生産物の共同販売です。購入でも販売でも、個別農家では市場経済化に対応し

きれなくなっていったときにこのような動きが起こりました。こうして農業協同組合(農

協)の原型が生まれることになりました。そんな中で農業資金需要も徐々に高まっていき

ました。伝統的な頼母子講では追いつかないような大きな資金を必要とする営農が現われ、

農協は、こうした資金需要に応える金融機能も高めていったのです。そのほか、代表的な

組織による活動には次のようなものがあります。

(1) 肥料や飼料など生産資材の共同購入で大量取引のメリットを生かす。 (2) 青果物などの販売で、生産技術や出荷規格を統一し、長期間、均質の生産物を共同出

荷し、生産物に付加価値を付け有利な取引をする。

(3) 水田での輪畑転換など土地の高度利用を、地域で集団的に実施する。

(4) 共同の施設を用いて、生産物の加工を行い、地域の特産物を開発する。

また、地方での就業構造の変化や都市近郊での人口増加などの日本の社会環境の変化も農

村での農家の集団化に影響を及ぼしたといえます。

農村にも農業者以外のさまざまな人たちが住むようになり、従来は農業者の中から家柄や

経済的な豊かさでリーダーを選ぶ傾向があったものが、非農業者も含めてさまざまな人の

中から有能なリーダーが選ばれることも多くなってきました。このような社会的な環境の

変化から、かつてのような保守的・閉鎖的な農村集落の性格も変わってきています。こう

いった旧来の雰囲気が薄れて行くにつれ、新技術を自由に取り入れ、自ら創意工夫を凝ら

した進取の気風が広がり、現実にも多くの地域で独自に新しい作目や技術を取り入れた農

家が個々に生産の向上に取り組むようになってきました。

その一方で、1) 非農業者が増えてきたため組織化が困難になった、2) 農家の中にも専業・

兼業などの多様化が進んで集落内での組織化に向けた合意形成が取れにくくなった、3) 離

農する人も増え、こま切れに分散した農地の所有状態を改善しない限り、効率的な生産活

動が難しい、などの新しい問題も生まれてきています。

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【6】 営農計画:組織運営

【6】‐3

組織論

集団の類型と特質

集団には、それぞれに存立理由があります。どんな集団にも、それが形成される必然性が

あるわけです。そのことを軽視して、例えば、補助金は農家グループにしか与えないとい

う制度を作ってしまうと、補助金ほしさに一時的に形だけのグループは作るものの、補助

金が手に入ったとたん、実質的なグループ機能が消滅してしまう例は枚挙にいとまがあり

ません。

現在日本にある農業生産組織は、次のように分類されています。

(1) 共同利用組織 集団で機械・施設の所有または管理をしつつ、その共同利用することを目的とする組織。

(2) 集団栽培組織

特定の作目の栽培方法や作業内容について統一したものに従う協定を結んでいるもので、

その協定に関連して共同作業や共同利用をしている組織も含んでいる。

(3) 受託組織

農作業の一部あるいは全過程(さらには経営活動全般の仕事)を引き受けて、集団として

これを処理し、受託料収入を上げることを目的とする組織。

(4) 畜産生産組織

集団で家畜を飼育したり、牧草を栽培したりするために、牧草地・放牧地などの共同利用

やそれに関連する機械・施設の共同利用を行っている組織。

(5) 協業経営組織(協業経営体)

2 戸以上の世帯が共同で出資をして 1 つ以上の農業部門の生産から生産物の販売、収支決

算、収益の配分に至るまでの経営活動のすべてを共同で行う組織。このような組織は、同

じ土地(地域)に住む人がつくる地縁グループと、地域に関係なく目的を同じくする人々

が形成する集団である任意グループに分けることもできる。

このように集団で活動する利点として、生産面では次のような点があげられます。

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【6】 営農計画:組織運営

【6】‐4

(1) 機械や施設を共同で利用することによって、機械の利用面積や稼働時間を大幅に拡大し

て、個人では導入できないような大型・高性能の機械・施設の導入が可能となり労働能

率・生産性向上に結びつく。

(2) 多くの農家から働き手が仕事に参加することによって、合理的な作業組織を編成する

ことが可能となり、労働能率・生産能率の向上に結びつく。

(3) 集団活動に参加することによって、それまでの個別農家間にあった技術水準差が小さ

くなり、優良農家の水準にならって集団全体がレベルアップすることが期待される。

集団活動は、さらに生活面でも、農家間の日常のつながりを復活させ、その集団がさまざ

まな情報の交換やレクリエーション活動の場ともなり地域での交流の機会を生み出すもと

ともなっています。さらに、農家単位の家族経営では難しかった個々の経営能力を、啓発

し、鍛えていくキャパシティ・デベロップメントを促進する利点もあります。

その一方で、ルール作りや役割と責任の分担、お金の管理、集団での意思決定など、農家

という「家族」では比較的簡単だったさまざまな組織運営上の課題がつぎつぎと発生しま

す。組織は一度作ってしまうと簡単にはなくせませんので、混乱が始まればしばらくの期

間、メンバーは苦痛を経験しなくてはなりません。さらに、このような組織での問題が農

業だけにとどまらず、人間関係にまで発展することもあるなど、組織を形成することの難

しさはさまざまです。組織化にまつわる問題としてよく挙げられるものに次のようなもの

があります。

① フリーライド:メンバーとして加わっているのに、メンバーに課せられた役割を果

たさず、その利益だけ享受しようとする人たちによって組織全体のモラルや動機付

けが低下する問題。

② 独裁と民主主義:リーダーシップのあり方として、リーダーがすべての権限を握る

「独裁」タイプとあらゆることを合議制で決めようとする「民主主義」タイプがあ

りますが、いずれも極端になると組織は安定しません。

③ 排他性:組織はメンバーによって成り立っています。誰をメンバーにするかは、参

加したい人ではなく、組織の側に選択権があるのが普通です。自分たちの利益を守

ろうとするあまり、メンバーを増やさないような排他的な組織もあります。そのよ

うな排他性が余りに強くなってしまうと、地域社会の中で対立問題などを引き起こ

す可能性もあります。

近の日本では、農家もパソコンを駆使して良質・安値の資材を独自に買い付けたり、自

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【6】 営農計画:組織運営

【6】‐5

ら銘柄を興して、農協を通さずに付加価値商品を自力で販売したりするようになってきま

した。トラックなどの運搬手段が容易に手に入ること、インターネットやファクス、携帯

電話の普及といった情報化の進展、そして大学教育を受けている人も珍しくないほどの農

家の教育水準の高まり。これらが、個々の農家の力を強化し、かつてとは異なる状況を生

み出しています。こうした中で、農協が果たしてきた古典的な「共同購入」、「共同販売」

の意義が徐々に色あせてきました。技術開発も、農協の営農指導員に言われるがままでは

なく、独自に小さな勉強会を作って情報交換するようなケースが目立ってきています。

このような現象の結果として、現代の日本の農業では、技術開発や労働生産性向上に熱心

な農家は、集団よりも個別に動こうとする傾向がでてきています。むろん、例えばブラン

ド化を進めるうえで農家一軒では量的に不足するといった問題が起きることがあるため、5、

6 軒の農家がゆるやかに連携して共同でブランド農産物を販売するようなケースはしばし

ば見られます。しかしこの場合も、かつてのように弱い多数の小農が大同団結して、とい

うよりは、ビジネスセンスを持ったリーダーがまるで起業するかのような動きをみせるこ

ともあり、集団の意味合いがかつてとは違ってきています。

途上国に目を向ければ、まだこのような状況にいたっていないところのほうが多く、共同

作業、共同購入・販売、金融などで集団化のもたらすメリットが期待できる場面が少なく

ありません。いずれにしても、先に述べたように、何のために集団化するのかという目的

が明確であることが大前提です。そこで以下では、途上国の現状をふまえて、集団のあり

方についてさらに検討を加えます。

集団形成の支援と運営

近代以降の農業は、現金収入を求める経済活動の色彩が濃くなってきました。これは現代

の途上国の一部についても既にあてはまる傾向です。農家は、 も効率的に利益を増やす

方法を懸命に考えています。こうした中で集団が必要とされるのはどのような場面でしょ

うか。

(1) 経営全体の集団化

一般に、経済活動主体が大きければ、資産が大きくなるので、その力を生かして、資金調

達したり、販売強化したりすることができます。これが経営全体を集団化するメリットで

す。しかし、一部の国や地域で政策的方向付けの中で集団経営が行われていることはあり

ますが、自然発生的に経営全体が集団化されることはまれです。

なぜなら、利害が強く絡む経済活動で、負担と配分をめぐる意思決定を円滑に行うのは簡

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【6】 営農計画:組織運営

【6】‐6

単ではないからです。世帯単位の経営体であれば、生活を共にしている世帯主と配偶者が

話し合えば、方針を決めることができます。しかしそこに別の複数のメンバーが絡んでく

れば、十分な話し合いに加えて、意思決定のルールが必要になってきます。伝統的に世帯

単位の経営を続けてきた農民にとって、集団化に伴う集団的意思決定は、全く新しい経験

です。

(2) 生産活動の一部集団化

収穫のように短期に人手がいるような農作業では、集団作業が伝統的に行われてきました。

近代農業では、例えばトラクターを一軒の農家が抱えるには負担が大きすぎるから共同で

購入してみんなで使う、といった場面が考えられますが、実際には、成功例は少ないと言

うべきでしょう。

こうした試みがなかなか実現しなかったり、始めてもうまくいかなかったりするのは、ト

ラクターといった大きな資産をめぐる意思決定が簡単ではないことが 大の要因です。使

う順序はどう決めるか、だれかが使っている途中で故障したら経済負担はどうするか、と

いったことがらがあいまいで不安が残る一方で、拠出する金額は大きいので、二の足を踏

んでしまうのです。ましてや借金して買うとなれば、リスクに対する不安は決して小さく

ありませんから、尻込みするのが普通です。

むしろ現実に機能しているのは、行政や農協が機械を購入して貸し出したり、高額の補助

金を与えて農家の負担を減らして機械化を進めるケースです。途上国で も多くみられる

のは、ごく一部の資産家が自らリスクを負って機械を買い、これで賃耕事業を始めて、投

資資金を回収していく形です。ただし、これは正確にいえば一種の社会的な分業で、集団

化ではありません。

資材の購入は、生産活動の中では、集団化が進みやすい部分です。「まとめて買えば安くな

る」という経済の大原則にのっとったケースはもちろんですが、途上国では、次のような

例もあります。牛糞をほしがっている農家がいくつかあるとします。牛の農家は牛糞の始

末に困っているので、価格は安いのですが、重たい大量の牛糞を運ぶ手段がありません。

こんな時に、牛糞がほしい農家が集まってトラックを持っている人と交渉し、トラックを

借りることができれば、牛糞が運べます。この場合、牛糞代自体はたいした額ではないが、

トラック代が高く、一軒の農家が全額負担するのは厳しいが、5 軒そろえば負担できるとい

う点が集団化する理由になっています。

(3) 販売活動の集団化

農産物を頭の上や一輪車に載せ、歩いていける近隣世帯に販売するところから一歩踏み出

そうとした時、農家は、運搬手段がないという問題に直面します。その結果、よく見られ

るのは、農家までトラックで買い付けに来る仲買商人に売るケースです。この場合、運搬

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【6】 営農計画:組織運営

【6】‐7

手段を持っている商人にすべてを預けざるをえません。価格交渉力も限定されたものにな

ります。

ひとつの例を見てみましょう。

農家が 5 軒集まれば、トラックが借りられ、10km 先の町の製粉工場にトウモロコシを直接

販売することできるとします。買い付けに来る商人に売るより、2 倍近い販売価格が実現し

ます。おそらくトラック代を差し引いても、なお利益が少し残るでしょう。5 軒は試算の結

果に大いに満足し、即実行しました。やがて、トラックをカラのまま村に戻すのはつまら

ないということになり、町に出た際に、製粉されたトウモロコシやその他の商品を買い付

けて村で売り、利益を増やすことが提案されました。

こうした経験を積み重ねた 5 軒は、さらに大きな組織化によって、今度は 30km 離れた州都

での恒常的な野菜販売を企画します。今度のメンバーは 30 人。気心の知れた 5 人と違い、

30 人を組織化するのは容易ではありません。役割分担と情報の共有、組織運営のルールが

必要になってきます。それと、この大きさになると、組織運営自体に案外時間がとられ、

農繁期などは、幹部はむやみと忙しくなります。金の管理も複雑になり、会計の素養がな

いメンバーは不安を感じ始めます。

幸いその国の政府は、こうした集団化を積極的に進める農業政策をとっており、要件を満

たした集団を組合として正式に認定したり、記帳などの組織運営技術を指導したりしてい

ます。5 人組から 30 人の集団になった上記のグループも正式な組合になり、組合長は自分

の畑の営農は弟夫婦にほとんど任せて、自分は組合業務に専念することになりました。

以上は架空の話ですが、農家組織の中にはこのような過程の結果として成立してきたもの

もあります。販売の可能性はどこまでも広がっていくもので、いわばきりがありません。

集団化すれば、より遠くの市場に農産物を販売できる可能性が高まることは事実です。し

かし組織が大きくなれば、それだけ高度な運営能力が求められます。運営面でさまざまな

問題に直面し、それらを解決できないまま組織が機能不全に陥る例も少なくありません。

これまでの議論をふまえ、途上国における組織化の効果と困難さを下表(表【6】-1)にま

とめました。

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【6】 営農計画:組織運営

【6】‐8

表 【6】-1 組織化の効果と困難さ

組織化の効果、メリット 組織化の困難さ、デメリット

経営全体の 集団化

資産を大きくすることができれば、

その力を生かして規模の大きな投

資などができる

負担と配分をめぐる意思決定が難

しいため、成功事例は少ない

生産活動の 一部集団化

肥料などの投入資材は共同購入す

れば安く買える トラクターなど大型農機の共同購

入・共同使用は、使用や維持管理を

めぐる意思決定が難しい

販売活動の 集団化

組織化により運搬手段や交渉力を

得て、より遠くの、より大きな販売

先に農産物を売ることができるよ

うになる

組織が大きくなれば、それに応じた

組織運営技術や高度な運営能力が

必要になるが、それが満たされなけ

れば、組織は機能不全に陥る

次に、項を改めて、集団の運営について検討してみましょう。

集団の運営

組織運営の条件

組織がうまく運営され、力を発揮できるかどうかは、(1)集団の人数、(2)リーダーの存

在、そして(3)直面する問題の困難さ、で決まります。

(1) 集団の人数

集団の人数が多くなればなるほど、運営は困難になります。5 人と 50 人の集団では、意思

決定の円滑さが全く違ってくることは容易に想像されるでしょう。15 人くらいが「顔の見

える関係」を維持できる限界です。

15 人以下なら、顔の見える関係に立って、実質的な意思決定を行うことができます。15 人

以上になると、互いに知ってはいても、組織の構成員としての動きを全員が自明のことの

ように把握できる状態を維持するのは難しくなります。役割分担、情報共有、内規の徹底

といったいわゆる組織運営の必要事項を意識して実行しなければなりません。

(2) リーダーの存在

集団がいくら小さくても、そこに、全体を調整したり、方向づけしたりするリーダーシッ

プがなければ集団は動きません。前項と組み合わせて考えると、15 人以下の顔の見える関

係の上に強いリーダーシップが乗れば、集団がある程度機能する可能性は高いでしょう。

15 人以上になると、前述のような内規の徹底とか役割分担といった意識的な組織運営が必

要になりますが、それを推進するのもリーダーシップにほかなりません。

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【6】 営農計画:組織運営

【6】‐9

(3) 直面する問題

例えば、50 軒が共同で利用している灌漑施設が洪水で崩壊したとしましょう。施設自体は

政府が作ってくれたもので、巨額の資金がかかっており、自己資金で修理するなどという

ことは全く不可能です。集団にできるのは政府に陳情することくらいで、それ以上はどう

にもなりません。このように、集団が自らの力で解決できないような大きな問題に直面し

てしまうと、それまで順調に組織が機能していたとしても、一気に機能不全になる可能性

があります。

組織運営への支援

後に、こうした集団を支援する側は何をすればいいのでしょうか。まずは、上述の 3 つ

の点について、皆さんが担当する農家集団をチェックしてみましょう。すなわち、組織規

模がどれくらいで、どんなリーダーがおり、どんな問題・課題に直面しているか、を点検

します。

規模については適正な規模になるように誘導します。集団が大きすぎる場合、もし分割し

ても問題ないようなら、集団を小規模な集団に分割して、それらの間でゆるやかな横の連

携をとる形に再編するよう助言するのも一法です。

リーダーは、外からリーダーを持ってくるわけにもいかず、効果的な支援は簡単ではあり

ません。しかし、リーダーシップが弱いことが分かった時に、弱い理由をそのまリーダー

の個性や能力に帰してしまうのは、いささか早合点です。リーダーの多くは初めから完全

なリーダーなのではなく、だんだん立派なリーダーになっていくのです。その過程では、

組織運営の技術上の問題でつまずいていることも少なくありません。

例えば会計処理がきちんとできていないために、財務的な実情をしっかり把握できず、方

向付けができないでいるような場合がそれです。この場合、適切な会計処理さえできれば、

リーダーが判断できる基盤が整いますから、リーダーシップが強化される可能性はありま

す。

直面する問題については、そうした手に負えない問題を抱えていないかどうかをチェック

します。問題に直面していることが分かれば、解決のための知恵や情報を提供したり、制

度資金の導入を図ったりして、「重たい石を取り除く」作業に協力しましょう。こうして彼

らが一つ一つ問題を解決していくことによって、組織としての能力が高まっていくのです。

支援する側としては、その能力の高まりをしっかり見守りつつ、常に超えられる課題に取

り組むように、さまざまな工夫をしていくことが求められます。

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モジュール 3

有機農業技術

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モジュール 3:有機農業技術

目次

【7】 ユニット 3.1.1 : 営農システム

有機農業の生産原則 ..........................................................................................................................1 有機農業の生産原則 ......................................................................................................................1

営農システムの基礎 ..........................................................................................................................2 営農システムとは ..........................................................................................................................2 システムの図解 ..............................................................................................................................2

作付け体系 ..........................................................................................................................................4 作付け体系とは ..............................................................................................................................4 単作と連作障害 ..............................................................................................................................4 輪作と間混作 ..................................................................................................................................5

営農設計(生物学的側面) ..............................................................................................................8 生産要素の把握 ..............................................................................................................................8 営農システムの栄養計算 ..............................................................................................................9

【8】 ユニット 3.2.1 : 土つくり

土をつくる ..........................................................................................................................................1 有機農業の基本は土づくり ..........................................................................................................1 自然界の土づくりの仕組み ..........................................................................................................2

「よい土」とは ..................................................................................................................................3 「よい土」とは ..............................................................................................................................3 化学的性質 ......................................................................................................................................3 物理的性質 ......................................................................................................................................4 生物的性質 ......................................................................................................................................5

有機物の効果 ......................................................................................................................................6 有機物の土づくり効果 ..................................................................................................................6 有機物直接吸収の効果 ..................................................................................................................8

熱帯土壌 ..............................................................................................................................................9 熱帯土壌の特徴 ..............................................................................................................................9 熱帯地域での土づくり ................................................................................................................10

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【9】 ユニット 3.2.2 : 有機質肥料 (1)

有機質肥料と化学肥料 ......................................................................................................................1 有機質肥料の特徴 ..........................................................................................................................1 化学肥料 ..........................................................................................................................................1

堆肥 ......................................................................................................................................................2 堆肥の効果 ......................................................................................................................................2 堆肥にする理由 ..............................................................................................................................3 堆肥化の条件 ..................................................................................................................................3 堆肥化プロセス ..............................................................................................................................4

堆肥の作り方、使い方 ......................................................................................................................5 作り方 ..............................................................................................................................................5 使い方 ..............................................................................................................................................9

ボカシ肥 ..............................................................................................................................................9 ボカシ肥とは ..................................................................................................................................9 途上国でボカシ肥を使用する際の留意点 ................................................................................10

鶏糞 ....................................................................................................................................................11 鶏糞の特徴 ....................................................................................................................................11 舎飼い養鶏の方法 ........................................................................................................................12

【10】 ユニット 3.2.3 : 有機質肥料 (2)

緑肥作物 ..............................................................................................................................................1 緑肥とは ..........................................................................................................................................1 途上国での緑肥使用の現状 ..........................................................................................................2

雑草、作物残さ ..................................................................................................................................2 雑草、作物残さの特徴 ..................................................................................................................2 雑草、作物残さの使い方 ..............................................................................................................3

高栄養の有機物 ..................................................................................................................................4 高栄養の肥料材料の探し方 ..........................................................................................................4 高栄養有機物の一次処理 ..............................................................................................................5

化学肥料の併用 ..................................................................................................................................6 なぜ併用か ......................................................................................................................................6 併用の方法 ......................................................................................................................................7

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【11】 ユニット 3.3.1 : 種子の調達

有機農業の種子 ..................................................................................................................................1 種子の重要性 ..................................................................................................................................1 在来種と一代交配種(F1)との違い ..........................................................................................1 遺伝子組み換え技術 ......................................................................................................................3

種子の自家採種 ..................................................................................................................................5 母体の選び方 ..................................................................................................................................5 採種 ..................................................................................................................................................5 乾燥 ..................................................................................................................................................7 保存 ..................................................................................................................................................7

種子供給システム ..............................................................................................................................8 2 つの種子供給システム ...............................................................................................................8 品種登録と保証種子 ......................................................................................................................9 種子供給システムの実践例 ........................................................................................................10

【12】 ユニット 3.4.1 : 土地準備と水管理

土地準備 ..............................................................................................................................................1 耕起 ..................................................................................................................................................1 うね ..................................................................................................................................................2 浸食防止 ..........................................................................................................................................3

水管理 ..................................................................................................................................................3 天水栽培の保水技術 ......................................................................................................................4 小規模灌漑 ......................................................................................................................................4

【13】 ユニット 3.5.1 : 生育管理

栽培方法 ..............................................................................................................................................1 播種 ..................................................................................................................................................1 育苗・定植 ......................................................................................................................................2 仕立て ..............................................................................................................................................3

雑草管理 ..............................................................................................................................................4 雑草管理 ..........................................................................................................................................4 具体的な方法 ..................................................................................................................................5

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【14】 ユニット 3.5.2 : 病虫害対策

病虫害対策 ..........................................................................................................................................1 化学農薬の問題点 ..........................................................................................................................1 病虫害防除の基本的な考え方 ......................................................................................................2 具体的な防除方法 ..........................................................................................................................2

天然農薬・天敵利用 ..........................................................................................................................4 天然農薬 ..........................................................................................................................................4 天敵利用 ..........................................................................................................................................5

移行期の対策 ......................................................................................................................................6 移行期の対策 ..................................................................................................................................6 化学農薬の併用 ..............................................................................................................................7

【15】 ユニット 3.6.1 : 技術組み合わせデザイン

営農システム改善方法 ......................................................................................................................1 有機農業の生産原則 ......................................................................................................................1 営農システム図による小規模農民支援 ......................................................................................2 営農システムの改善方法 ..............................................................................................................2

目的カテゴリー別の技術組み合わせ ..............................................................................................8 カテゴリーA ...................................................................................................................................8 カテゴリーB....................................................................................................................................9 カテゴリーC .................................................................................................................................10

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【7】 営農システム

【7】‐1

有機農業の生産原則

有機農業の生産原則

有機農業による営農システムを考える場合、まず 初に有機農業の生産原則を考える必要

があります。有機農業の原理として、IFAOM は、「健康の原理」「生態的原理」「公正の原理」

「配慮の原理」の 4 つを掲げています(詳細は、「【3】ユニット 1.2.1:有機農業の定義と各

国の状況」参照)。また具体的栽培技術は、「【2】ユニット 1.1.1:有機農業概論」で説明し

たとおり、次の 4 点です。

土づくり

堆肥やボカシ肥、緑肥などの有機物の施用

適地適作

在来種の活用、選抜・自家採種

栽培環境の整備

多品目栽培、輪作、間混作、適期作、日当たり、風通しの改善

多様な生物相の実現

天敵・有用微生物の活用、土づくり、輪作、間混作、有機マルチ

また、これらを実践するために有機物をどのように確保するかは重要な問題になります。

そのため、有畜複合による畑内での有機物の循環から始まり、地域内の資源をどのように

循環させていくかを考えることが有機農業の営農システムを考える上で大切です。

それでは、小規模農家が有機農業を実践する際の営農システムについて考えてみましょう。

【7】 ユニット 3.1.1 : 営農システム

目的: システムとしての営農を理解し、改善策を提案できる手法を身につける。

目標:

1. 営農システムの全体像を把握できるようになる。

2. 輪作、間混作の意味を理解する。

3. 生物的側面から営農システムが設計できるようになる。

参照 Job Aid: 小規模複合農業の栄養計算

1

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【7】 営農システム

【7】‐2

営農システムの基礎

営農システムとは

小農の営農を外部者が見ると、多種類の作物や家畜を、ただ漠然と生産しているように見

えるかもしれません。しかし、利用できる農業資源に限りがある小農こそ、そうした厳し

い制約条件の中で、得られる結果を 大にする努力をしているのです。

そこでの営農は一つのシステムとして機能しています。置かれた自然環境と社会経済環境

の下で、いくつかの作目を組み合わせて、副産物を相互利用したり、市場リスクを分散し

たりしています。システムには骨太な合理性がありますので、まずはそれをよく把握しな

ければなりません。

一見、無駄に見える行為やモノが、実はシステム全体の中では有用な働きをしていること

があります。例えばトウモロコシは主に人間が消費するために栽培されますが、畑に残っ

た茎や葉は、牛の餌として重要な役割を果たしたり、堆肥になって別の野菜畑を肥やした

りたりするというようなことは珍しくありません。

外部者が新しい技術を持ち込んだり、資金や資材を与えて支援しようとする時には、今の

小農の畑で動いている営農の全体像をシステムとしてよく理解しておかないと、せっかく

の支援が効果をもたらさない、農民から受け入れられない、あるいは 悪の場合には営農

システムを崩壊させてしまう可能性さえあります。

システムの図解

営農システムは、主な営農要素を 1 枚の紙に書き出し、それら各要素の相互関係を明らか

にするとよく把握できます。

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【7】 営農システム

【7】‐3

図 【7】-1 営農システム図解

この図では、まず一番上に自然の「森」、その下に半自然ともいえる「休閑地」を置いてい

ます。逆に、一番下に「市場」、その少し上には消費する場として「家計」をそれぞれ置い

ています。

その間に挟まれているのが営農です。農業が自然を人為的に管理・利用・加工して、人間

に必要な農産物を作り出す行為であることを考えれば、この位置関係はよく理解できます。

次に営農の内部を見ていきましょう。この営農の場合、営農の要素は「作物」と「家畜」

に大きく分かれます。

作物部門は米、サツマイモ、キャッサバ、豆を作っています。主食とタンパク源の豆を組

み合わせた も典型的な小農の作物部門といえます。市場からの矢印はないので、化学肥

料や農薬は購入していないことが分かります。

作物部門で生産された農産物は、農家世帯で自家消費されるとともに、市場でも販売され

ています。作物部門から出る残さは畜産部門に供給されたり、別の作物部門にマルチの資

材として使われたりしています。

家畜は牛、豚、鶏、ロバです。餌は畑作部門から作物残さが供給され、休閑中の農地から

も草など、餌になるものが供給されています。家計からは残飯や野菜くずが供給されます。

市場からの矢印はないので、購入飼料はゼロです。

林地

作物

・米

・サツマイモ ・キャッサバ ・豆

家畜

・ウシ

・ブタ

・ロバ

農家

市場

飼料(作物残滓)

敷き料(作物残滓)

養分 (排泄物)

畜力

マルチ材 (作物残滓)

養分 飼料

マルチ材

燃料

食料

食料食料

移動手段

労働力、飼料労働力、養分

労働力

その他、非農産物商品 生活必需品など

商品 商品

ニワトリ

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【7】 営農システム

【7】‐4

家畜が排泄した糞尿は堆肥材料として作物部門に供給されます。牛やロバは役畜として使

われ、主に畑の耕起の動力源になっているようです。ロバの仕事と思われますが、家畜が

モノの運搬にも役立てられています。

以上が営農内部の概略です。これが分かるだけでも、営農の全体像と個々の作目の全体の

中での役割がよく把握できますが、さらに詳しく営農システムを分析する必要がある時は、

それぞれの矢印を定量化していきます。畑なら面積や生産量、残さの量、家畜なら頭数・

羽数、生産物の量、消費している餌の量などで表します。

作付け体系

作付け体系とは

作付け体系とは、いつどこで何を栽培するかの全体像です。畑の面積には限りがあり、時

間にも限りがありますから、与えられた空間と時間をうまく組み合わせて生産していかね

ばなりません。

基本的な空間と時間の制約に加えて、畑作では 1 種類の作物ばかりを連続して栽培すると

病気が増えるので、いくつかの種類を代わるがわる生産したり(輪作)、同じ圃場に複数の

作物を植えたりすることがあります(間混作)。

さらには、1 種類の作物を 1 度に販売するのは、それだけ大きな市場が必要です。もし複数

の作物を複数回に分けて収穫できれば、各回の販売に必要な市場はそれほど大きくなくて

も大丈夫でしょう。売れ残りのリスクを小さくするという点でもこうした体系は意味があ

ります。

このように、さまざまなことがらを考慮して小農は作付け体系を決めているのです。ここ

では連作障害と間混作を中心に、望ましい作付け体系について考えてみましょう。

単作と連作障害

作物の多くは、同じ場所で 1 種類を連続して生産すると、次第に病虫害にやられる率が高

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【7】 営農システム

【7】‐5

まってきます。2 作目からたちまちおかしくなる作物もあります。これは連作障害と呼ばれ

る現象で、古くからよく知られてきました。

本来土の中には数多くの微生物がいて、さまざまな植物と相互に作用し合って共生してい

いますが、1 種類の植物ばかりを栽培していると、そこに集まる微生物の種類も次第に少な

くなり、土壌微生物本来の多様性が失われてきます。微生物が多種存在しているときは互

いに拮抗して特定の病原性微生物がはびこるのは困難ですが、微生物全体の相が単純化す

ると、ある種の病原性微生物が勢力を強めるということが起きるようになります。

微生物だけではありません。同じ作物ばかり作っていると、微量要素の過剰や欠乏が起こ

ったり、植物から出る成長阻害物質が土壌に蓄積することも懸念されます。植物に使われ

なかった肥料成分が金属イオンと結びついて塩類を生じ、これが畑に蓄積して植物の生育

に害をおよぼすこともあります。特に雨の少ない地域ではこれが流亡することなく蓄積し

ていきます。

一方、農業の歴史を振り返ると、1 種類の作物だけを同じ土地で作り続けることは、水稲作

などの一部例外を除いて、伝統的な農業ではあまり行われてきませんでした。それは、上

記のような問題を農民がよく知っていたからです。

ところが、近代科学技術の発達によって農業が機械化・省力化されると、農業の労働生産

性は向上する一方で、作付け体系が単純になり、単作全盛の時代になりました。これによ

って生じる病虫害は、同じ科学技術が生み出した農薬の多用で対処することになったので

す。このテキストで慣行農業と呼んできた農業がこれです。

途上国では、すでにこのような慣行農業にほぼ全面的に移行した地域と、伝統的な農業と

慣行農業が入り混じっている地域とがあります。ここでは主に伝統的な農業で行われてき

た数多くの種類の作物を同時にあるいは時間をずらして生産する技術について検討します。

輪作と間混作

同じ畑で一つの作物を収穫したら、別の種類の作物を次に植え、数種類の異なる作物を数

年の間に順々に栽培する作付け体系を輪作といいます。これに対して、同じ畑で複数の作

物を同時に栽培する作付け体系が間混作です。条単位で作物の種類を変える方法を間作、

条を作らずに複数の作物を不規則に栽培する方法を混作と言います。

こうした輪作や間混作で目指しているのは、できるだけ多様な作物を栽培することで土壌

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【7】 営農システム

【7】‐6

微生物を多様化するとともに、特定の微量要素や成育阻害物質の土壌への蓄積を防ぐこと

ですが、それ以外にも次のような効果が期待できます。

(1) 空中窒素固定能を持つマメ科作物を含めることで、土壌肥沃度を高める

(2) 直根が深く入っていくトウモロコシやサトウキビなどを含めることで、土づくり

を促進する

(3) 堆肥化を促進する微生物を集めやすいと言われるトウモロコシ、モロコシ、ネピア

グラスなどのイネ科作物や牧草類を含めることで、土づくりを促進する

伝統的な農業では、間混作と輪作が組み合わされて、同じ畑に数多くの異なる作物が栽培

されてきました。その一例を示します1。

表 【7】-1 伝統的農業の輪作事例較

地域 用途

1.フィリピン・ミンドロ島2 森林伐採焼畑→1 年目陸稲・トウモロコシ→2 年目タロ

イモ→3 年目バナナ→休閑、森林回復(8―15 年)

2.中国・広東省 森林伐採焼畑→1 年目陸稲・トウモロコシ→2 年目サツ

マイモ→3 年目タロイモ→休閑、森林回復(18、9 年)

3.日本・熊本県 森林伐採焼畑→1 年目ソバ・ムギ・ヒエ→2 年目ヒエ・

アワ→3 年目アズキ・ダイズ→4 年目アワ→休閑、森林

回復(20―30 年)

4.インドネシア・西ジャワ

州3

1 年目前半ダイズ・トウモロコシ・キャッサバ→1年目

後半ダイズ、タバコ、キャッサバ

5.ケニア・エンブ地方(標

高 1100-1200m の地区)4

1 年目前半トウモロコシ→1 年目後半トウモロコシ

1 年目前半ササゲ→1 年目後半トウジンビエ

1 年目前半インゲン→1 年目後半から 2 年目キマメ

このうち、1 から 3 までは焼畑移動耕作の例で、土台になる土壌肥沃度は 8 年から 30 年に

およぶ休閑と森林回復の間に自然に回復します。3 の例では、そこにダイズなどのマメ科作

物が組み合わさって、さらに肥沃度の回復速度を向上させています。

これに対して 4 と 5 では、自然による地力回復過程のない常畑での間混作や輪作です。こ

1 以下、田中明編著〔1997〕『熱帯農業概論』築地書館 で広瀬昌平が引用した各資料から 2 佐々木高明〔1981〕『焼畑―実態と系譜』 3 諸岡慶昇〔1990〕『ジャワ農村の就業構造と雇用問題』 4 Hirose.S. [1989]『Food Production and Traditional Farming Technology in the Lake Kive Area』

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【7】 営農システム

【7】‐7

こではマメ科で肥沃度を高めていますが、もちろんその程度の窒素量では十分な収量は得

られません。これを補うために、例えば 4 の場合は、もともと土壌が肥沃なのに加えて、

堆肥を 1ha に 5t ほど入れています。

輪作と単作を比較したナイジェリアでの収量試験データがありますので見てみましょう。

この試験では、全般に、輪作した方が収量が高くなるという結果が示されています。

表 【7】-2 単作と輪作の収量比較

第一期(1950-1952) 第二期(1953-1955)

ビダ地区 モロコシ ラッカセイ キャッサバ モロコシ ラッカセイ キャッサバ

単作 353 305 5094 397 143 3128

輪作 709* 388 6059* 749* 183 5296*

サマル地区 モロコシ ラッカセイ ワタ モロコシ ラッカセイ ワタ

単作 1053 804 471 1062 781 402

輪作 1341* 1160* 498 1248* 1027** 489 *p=0.01 で有意差、**p=0.05 で有意差

(出典:Webster. C. 「Agriculture in the Tropics」Longman Scientific & Technical 発行を参考に筆者作成)

輪作・間混作での望ましい作物の組み合わせは条件によって異なります。ある場所で 適

だったものが別の場所でも 適とは限りません。土地、土地での望ましい組み合わせは、

その土地で長年、輪作・間混作の経験を重ねてきた農民が一番よく知っているはずですか

ら、まずは彼らの経験と意見を聞くこと、あるいはそのような伝統的な知識がどこかに残

されていないかを探すことが、外部者の仕事の出発点になります。

間混作は機械化しにくいといった問題点はあります。しかしながら、土壌を健全にしてい

く中で病虫害を 小限に抑え、同時に作物の持つ生産力を 大限発揮させることを目指す

有機農業の考え方を実践していくうえで、輪作、間混作は有効な技術であることは間違い

ありません。農民の目的や現地の事情に合わせてこの技術をうまく活用する方法をよく検

討しましょう。

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【7】 営農システム

【7】‐8

営農設計(生物学的側面)

生産要素の把握

冒頭の節では、営農システムの全体像と個々の作目が果たしている役割を図解によって把

握する方法を学びました。ここでは、把握した現状をもとに、それをどのように改善して

いくかについて考えます。

まず農業生産資源の把握からです。現在活用されているものだけでなく、使える可能性の

あるものはすべて洗い出します。生産資源には以下のようなものがあります。

・土地

・労働力

・資金

・水(灌漑用水、ため池などのすぐ使える用水のほか、川、泉、地下水といった

水源も含まれる)

・自然資源(草、落ち葉、小枝、種子類、虫など)

・廃棄物、副産物(作物残さ、家畜糞尿、残飯、食品産業廃棄物など)

・管理能力(作物管理技術、事業管理手法)

・市場(需要に関する情報、輸送手段、販売促進の方法)

特に「自然資源」と「廃棄物、副産物」について、その潜在的な用途を示します。これら

の資源が使われていなければ、それは未利用資源であり、その未利用資源を活用すること

で、現金支出を伴わずに生産力を向上させることができます。

表 【7】-3 自然資源・廃棄物・副産物の用途例

自然資源、廃棄物、副産物 用途

青草や枯れていない作物残さ 餌、サイレージ

枯れた草、作物残さ、落ち葉 堆肥、家畜の敷料、畑のマルチ、餌

売れない小さい果菜や果実類 堆肥、サイレージ、ミミズの餌

家畜の糞尿 堆肥、ミミズの餌

マメ科樹木の種 餌

残飯、食品廃棄物 餌

古い新聞紙、段ボール箱 ミミズの餌

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【7】 営農システム

【7】‐9

未利用資源を活用するうえでの も重要なポイントは、バランスのとれた栄養の供給をど

う実現するか、という見方です。畑作物にはこやしが、家畜は餌がそれぞれ十分に与えら

れなければ育ちません。次の節では、こうした視点にたって、営農システムの栄養計算を

してみましょう。

営農システムの栄養計算

日本などでは、残飯や家畜糞尿など、高栄養の有機物が余って処理に困っているほどです。

しかし、多くの途上国、特に半乾燥地や辺遠地のような不利な条件下に置かれている小農

にとっては、農業生産に不可欠の栄養成分をどうやって確保するかは大きな課題です。

遠く離れた都市部では先進国型の高栄養の廃棄物が出始めていても、それを農村まで運搬

する方法がないといった事情がよくみられます。そうした場合は、都市部に頼らずに、農

村部の身近で手に入るものを活用して営農を改善していく方法を考えざるをえません。

ここでは、自給飼料で雌鶏 3 羽とヒナを飼い、集めた鶏糞を畑に入れることにより、畑で

主に野菜を作って販売する、という仕組みを例に、主として生物学的な側面からの営農設

計をどのように行うかを説明します。鶏を飼うのは、鶏糞を使って栄養レベルの高い堆肥

を作らないと常畑での集約的栽培に必要な栄養分を供給できないからです。

まず、鶏を養うのに必要な餌を検討しましょう。鶏の栄養要求量は養鶏の教科書に書いて

あります。例えば、日本の商業的養鶏で標準とされる成鶏 1 羽 1 日あたりの栄養要求量は

次のとおりです。

エネルギー 308 kcal

タンパク質 18g

次に、畜産の教科書などによくある飼料栄養一覧表を見ます。手に入る飼料材料を探し、

それに含まれている栄養量を抜き出します。地域にあるものと同一のものが表にない場合

は、類似の材料のデータから推測します。

ここでは 1 日 5、6 時間は放飼して自力で栄養補給させる半舎飼い方式にすることとし、上

記栄養の半分から 3 分の 2 を確保することを目指します。地域で手に入る飼料の材料はモ

ロコシと自作のヒマワリ、それにミミズです。それぞれに含まれる栄養は以下の通りです。

とりあえず、 も重要な熱量とタンパク質の 2 点に絞ります。

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【7】 営農システム

【7】‐10

表 【7】-4 餌材料別栄養

資料の材料 熱量(kcal/100g) 粗タンパク(g/100g)

トウモロコシかす 220 10

ヒマワリ 571 23

ミミズ 130 20

計算してみると、雌鶏 3羽と成鶏に近いヒナたち約 30 羽に、例えば、トウモロコシかすを

1 日 1.5kg、ヒマワリを 700g、ミミズを 100g 与えると、カロリーが 1 羽当たり 200kcal、タ

ンパクが 9g 供給されることになります。上記のカロリー要求量の 65%、タンパク要求量の

50%がこれでカバーされる計算です。ヒナが小さいうちはカバー率はもっと高くなります。

この量のヒマワリを自作するならば、収量を 1.2t/ha としておよそ 0.2ha の畑が必要になりま

す。ここではヒマワリへの施肥に必要な有機物を計算していません。ただし、ヒマワリが

無施肥で育つかどうかはそれぞれの土壌の状況によります。施肥が必要な場合は、それを

どのように調達するかも考慮しなければなりません。次に、ミミズの年間必要量は 37kg で

す。1 年で種ミミズ重量の約 4―8 倍に増えますから、6kg 前後の種ミミズが開始時に確保

できれば、1 年後には使いながら増やしていけます。

さて、このようにして鶏を飼って得られる鶏糞について検討してみましょう。鶏糞の栄養

は下表の通りです。

表 【7】-5 鶏糞の栄養素一覧表

水分(%) 窒素(%) リン酸(%) カリ(%)

生の鶏糞 74 1.30 1.22 0.60

堆肥化された鶏糞 39 1.76 3.13 1.63

このデータから、30 羽が 1 年間に排泄してできる鶏糞堆肥に窒素がどれくらい含まれてい

るか、計算してみましょう。以上の計算は 3 羽の雌鶏のヒナがいずれも成鶏近い大きさに

なっている時です。ヒヨコの時は排泄量も当然減ります。

鶏の 1 日 1 羽あたり排泄量(生糞) 100g

同上の鶏糞堆肥量 (100g×39)/74=53g

30 羽が 1 年間に排泄する鶏糞堆肥量 53g×30 羽×365 日=580kg

この中の窒素比率 1.76%

30 羽が 1 年間に排泄する鶏糞堆肥の窒素量 580kg×1.76%=10.2kg

さて、いよいよ野菜畑に移ります。野菜の栄養要求量は作目によって違ってきます。下記

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【7】 営農システム

【7】‐11

のような栄養要求表を参照し、必要な栄養量を判断します。

ここで問題になるのは、畑がもともと持っている栄養分がどれくらいあるか、です。土壌

分析ができればいいのですが、普及所から遠く離れたような小農の畑で土壌分析をするの

は困難も多いでしょう。むしろ実践的な方法は、やせている土地なら上記の 8 割くらい、

肥えている土地なら半分くらいを入れて、作物の成育状態をよく観察し、その結果に基づ

いて次の栽培時に量を加減することです。

表 【7】-6 作目別の栄養要求量一覧

作目 窒素 リン酸 カリ

インゲン 10.2 1.0 7.0

キャベツ 20.4 3.6 21.6

ニンジン 10.0 1.9 12.0

キュウリ 15.3 2.8 17.0

レタス 6.8 0.8 12.3

タマネギ 8.7 1.8 11.7

ホウレンソウ 7.5 0.9 7.5

トマト 18.0 2.1 28.2

スイカ 18.3 3.3 20.7

単位は kg/0.1ha

雌鶏 3 羽とヒナたちが供給する鶏糞堆肥を使えば、8 割補給の比較的やせた土地で、窒素要

求量の高いキャベツやトマトで 0.6‐0.7 アールほど、窒素要求量の低いインゲンやタマネ

ギで 1.2‐1.5 アールくらいは作れる計算になります。鶏の数と畑の作付け面積が、これで

定量的につながりました。

以上のようにして、窒素を軸に、栄養分をある程度定量化することができれば、バランス

のとれた営農システムを構想することができます。家畜はヤギでも牛でもできますし、例

えばジュース工場から搾りかすが出るというような状況なら、それを利用すれば家畜なし

でもいいわけです。

参考文献

・田中明〔1997〕『熱帯農業概論』築地書館

・Webster. C. 〔1980〕『Agriculture in the Tropics』Longman Scientific & Techinical

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【7】 営農システム

【7】‐12

演習概要 / 説明

ここでは、想定事例を使いながら、このユニットで学んだ営農システムの図解のやり方を

練習します。営農システムの図解の具体的なやり方に慣れた後で、実際に自分の支援地域

を想定して、営農システムの図解を行います。

Instruction

1. 農業生産資源を把握する。 「営農システム図解演習用事例:チャバ家の営農」を読み、P.7 を参考に農業生産資源

をすべて書き出しましょう。

2. 営農システムを図解する。 (手順) ① 「農家」「畑」「家畜」の枠を紙の中央付近に、「自然」の枠を上方部に、市場の枠

を下方部にそれぞれ書きます。 ② 「畑」の枠に栽培作物の種類、栽培面積、「家畜」の枠に種類と飼育数を書きます。

それぞれ種類ごとに枠を作ります。 ③ ①で記載した各要素の関係を表す矢印を書き加えます。このとき、「畑」や「家畜」

以外に、関係する要素が出てきた場合は、その枠を書き加えます。 ④ ③の中で、数量が分かるものは数量を書き加えます。

3. 同じプロセスで、自分の地域の典型的な農家の営農システムを想定して図解しましょ

う。

Activity 【7】-1 演習【7】-1:

演習タイトル:営農システム図解

Activity

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【7】 営農システム

【7】‐13

営農システム図解演習用事例:「チャバ家の営農」

1. はじめに

チャバ家は、アフリカ大陸中央部に位置する A 国東部の典型的な小農である。チャバ

家のある地域は熱帯で、11 月から 4 月までの暑い雨季に 1000 ミリの雨が降る。乾季は

5 月から 8 月までの冷涼な乾季と 9、10 月の暑い乾季に分かれる。乾季、とりわけ暑い

乾季の間、一帯はサバンナのようになるが、雨季に入ると、いたるところに草が生え、

再び緑の風景がよみがえる。

チャバ夫妻の夫カマスワンダ(42)は技術の改良をいつも考えているが、妻のアジェシ

(38)は保守的である。これはむしろ、生活や仕事の面で新しい道を考えるには彼女が

あまりに忙しいから、といえるかもしれない。2 人の娘、ニャマンダ(15)とティカ(10)は、料理や掃除だけでなく、農作業でも母をよく手伝う。長男のミチェク(13)は除草

や収穫の時に父を手伝う。次男のバスト(4)は家族のペットだ。

チャバ家では、在来種のトウモロコシ、F1 のトウモロコシ、ラッカセイ、サツマイモ

を栽培するとともに、牛を 2 頭と豚を 2 頭養っている。牛は作物残さなどを食べて、牛

乳だけでなく、燃料やこやしになる牛糞を生産し、畑の犂も引く。豚は畑にこやしを供

給し、学校給食の残飯や畑の野菜の葉などを食べる。牛も豚も生産に現金支出は伴わな

い。

チャバ家は自給自足中心の農業をかれこれ 15 年以上続けてきた。しかし家計と市場は

徐々に近づき、その関係は強まってきた。農業資材である化学肥料や農薬だけでなく、

衣服や塩などの日用品も市場で買っている。このような生活の変化に伴ってますます現

金が必要になっている。

農業の主目的は相変わらず自家消費用の食料を得ることだが、限られた土地の生産性を

上げて現金を稼ぐことも、今ひとつの重要な営農目的になってきた。

2. 活動

チャバ家は2.3haの農地を持つ。カマスワンダは1.5haを担当し、F1トウモロコシを1ha、在来種トウモロコシを 0.5ha 植えている。アジェシは 0.8ha を担当し、在来種トウモロ

コシを 0.5ha、ラッカセイを 0.2ha、サツマイモを 0.1ha それぞれ栽培している。

カマスワンダもアジェシも、乾季の終わりの 9 月、10 月にそれぞれの土地を耕す。む

Activity 【7】-1

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【7】 営農システム

【7】‐14

ろん 2 人は相互に手伝うし、娘たちは母の土地準備を助ける。 初の雨が降る前にアジ ェシは種をまく。1ha の畑に在来種のトウモロコシを播種するのに 3 日かかる。

F1 トウモロコシはカマスワンダが栽培している。5 日かかる播種は 12 月に行う。アジ

ェシは同じく 12 月にラッカセイを 0.2ha に 3 日がかりで植える。

播種後、除草を始める。1ha の在来種トウモロコシの除草に 50 日、1ha の F1 トウモロ

コシに 43 日、0.2ha のラッカセイに 9 日それぞれかかる。F1 トウモロコシの除草はカ

マスワンダの仕事で、在来種トウモロコシとラッカセイの除草は、カマスワンダが管理

する 0.5ha の在来種トウモロコシ畑も含め、すべてアジェシの担当だ。加えて、アジェ

シは 0.1ha のサツマイモ畑も管理している。

カマスワンダは収穫前にはトウモロコシとラッカセイの貯蔵小屋を作らねばならない。

3 月末に F1 トウモロコシの収穫が、4 月には在来種トウモロコシの収穫がそれぞれ始ま

る。この 3 カ月は家族総出の作業が続く。特にアジェシは忙しい。トウモロコシの収穫

だけでなく、毎日の食事の支度をしなければならない。自宅で食べる分だけでなく、畑

で食べる昼食の準備もいる。さらにラッカセイとサツマイモを収穫しなければならない。 合計すると、1ha の在来種トウモロコシの栽培に 87 日、1ha の F1 トウモロコシに 105日、0.2ha のラッカセイに 69 日を要する。特に収穫期は、すべての作目を同時に収穫し

なければならないので、労働力の不足が深刻だ。季節労働者を雇用したこともある。

カマスワンダは牛の乳搾り、アジェシは豚の給餌を毎日やる。家畜の販売はカマスワン

ダが判断する。ただし、豚の販売についてはアジェシとよく話し合ってから決めている。

3. 生産資源

畑は夫と妻がそれぞれの担当する区画を管理しているが、何を植えるかは話し合って決

めている。普及員と接触できるカマスワンダは新しい農法を好んで採用する傾向がみら

れるが、アジェシは新しい技術には懐疑的だ。これは彼女が新しい技術を学ぶ機会がほ

とんどないためと考えられる。

この地域ではすべての土地は伝統的共有地である。伝統的首長が農民に使用権を与える。

チャバ家が耕作している土地も共有地だ。もし土地を広げたければできる。土地自体は

あるし、伝統的首長の事務所にきちんと使用権を申請しさえすれば、承認を得ることは

さほど難しくないからである。

Activity 【7】-1

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【7】 営農システム

【7】‐15

F1 トウモロコシには、普及員の勧めにしたがって化学肥料と農薬などの資材を入れて

いる。カマスワンダは F1 トウモロコシを育てているので、そうした資材の購入を判断 するのは彼の役目だ。F1 トウモロコシは在来種に比べて 2 倍以上の収量を上げること

ができる。

しかし F1 トウモロコシはかなりの資材投入を要求するので、これが家計を圧迫する。

現金収入は作物と家畜の販売で得ている。一部のラッカセイの販売を除き、農産物と家

畜の販売はカマスワンダがすべてやっている。全般的な現金の使い道もカマスワンダが

決める。しかし妻とよく話し合って後でしか意思決定はしない。市場で日用品を買うの

はカマスワンダだけでなく、アジェシもやる。

A 国の教育は変化しつつある。カマスワンダとアジェシは小学校教育を受けただけだが、

子供たちは中学校まで出ることを考え始めている。両親、特にアジェシは子供たちに中

学に行ってほしいと思っている。アジェシは農業のやり方を変えることには消極的だが、

近い将来、現金収入がもっと必要になることもよく知っている。

4. 便益と動機づけ

トウモロコシは主食で、自作の貯蔵小屋で保管する。過去 5 年平均の営農で、在来種ト

ウモロコシは 1ha 当たり 1200kg、F1 トウモロコシは 1ha 当たり 2500kg を収穫した。年

間 1 人 350kg を消費するので、6 人家族で 2100kg は必要になる計算だ。残りの 1600kgは市場で販売できる。トウモロコシの価格は 1 トンあたり K.23 から K.26 の間で変動す

る。

F1 トウモロコシは在来種トウモロコシの2倍以上の収量があるので、カマスワンダと

しては F1 の作付け面積を増やしたいと考えている。問題は、収量が変動すること。普

及員の指導にしたがって 善と考えられる管理をしているが、F1 トウモロコシは小さ

な環境の変化に弱いのではないかとカマスワンダは考えている。栄養生長段階で低温に

さらされると収量は 高時の 6 割に落ちる。アジェシだけでなく、ほかならぬカマスワ

ンダ自身が F1 トウモロコシに完全に頼ることがまだできず、依然として畑の半分以下

しか植えていないのは、こうした理由による。加えて、生産費の問題がある。F1 トウ

モロコシは、1ha 当たり K.30 かかる。これは在来種の 5 倍になる。

チャバ家は年間にラッカセイを 50kg 消費する。収量は 1ha 当たり 740kg だから、0.2ha

Activity 【7】-1

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【7】 営農システム

【7】‐16

からの生産量は 148kg、したがって 98kg は販売できることになる。農協が運営する市

場で、カマスワンダは半量を 1 トン当たり K.47 で販売している。しかし、農協には手

数料として 1 トン当たり K.4 を支払わねばならない。アジェシは残りの半分を地域の市

場で 1 トン当たり K.45 で売る。ただし、コミュニティ内では 1kg ずつ小分けして売る ので、販売には時間がかかるから、この量が限界だ。

サツマイモは単収が 1ha 当たり 800kg なので、収穫量は 80kg。すべて自家消費してい

る。

豚は年 2 回売れる。チャバ家は年に豚を 5 頭を販売する。成豚は中間業者に 1 頭 K.8 で

売れる。1 腹産子数は 6、7 頭で、母豚は年 2 回出産するから、途中の死亡率さえ高く

なければ、さらに数多くの豚を売ることができる。

アジェシは、死亡率を下げるにはもっと栄養のある餌を与えないといけないのではない

かと考え始めた。というのは、母豚を 3 頭飼っている兄がそう言っていたからだ。兄は

ラッカセイ油を絞った後のかすが市場に出回っているので、それを与えたらどうかと助

言した。しかしこれは高い。必ずしも説得力があるとは感じられない新たな飼い方にお

金を使うことをアジェシは懸念している。今のところ豚にかかっている現金といえば、

年 4 回ほどの種付け料 K0.5 くらいだ。

アジェシは、鶏を飼い始めることも考えている。鶏は卵や肉を生産するだけでなく、牛

糞や豚糞より栄養価が高い鶏糞を出してくれる。小さな鶏小屋で雌鶏 10 羽を飼ってい

る知人が、ヒヨコを入れたら、と勧めてくれた。必要なら彼女が自分のヒヨコを売って

くれるそうだ。卵の市場価格は 1 個 K.0.009 である。

アジェシにとって、ビール作りは比較的短期間に現金収入を得るのに も便利な手段で

ある。アジェシは質のよいトウモロコシのビールを 7 日で作ることができる。このビー

ルは香りがよく、味もいいと評判で、たくさんの村人が買ってくれる。アジェシは食品

加工の類なら何でも大好きだ。トウモロコシ 500g でビール 1kg が作れる。これが K.0.042で売れる。現在はトウモロコシ 1600kg のうち、100kg をビール生産に回している。

トウモロコシ市場は巨大だが、 近、トウモロコシ価格は徐々に下がってきた。普及員

によると、国際トウモロコシ価格が以前よりも下がったという。これに対して、ラッカ

セイと肉、卵、牛乳といった動物性食品の価格は安定している。というのは、大都市部

での、油とタンパク質の関連食品需要が高まっているからである。

Activity 【7】-1

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【8】 土づくり

【8】‐1

土をつくる

有機農業の基本は土づくり

慣行農業は、化学肥料を多用することで生産性を高めてきました。これに対して、有機農

業では、その名の通り、有機物を使います。

まず、有機物を畑に施用することで、作物に栄養を供給することができます。しかし、有

機物の働きはそれだけではありません。

有機物は、土壌小動物や微生物のエサや住処となり、その結果、それらの数が増え、さら

に活動も活発になります。土壌小動物や微生物は、作物が根を広げている土の状態を改善

し、土が本来持つ多様な機能を発揮させます。また種類によっては、作物に栄養を供給す

るなど、直接作物の生育を助ける働きを持っています。このように有機物と土壌小動物・

微生物の働きによって、土の状態がよくなると、根張りがよくなり、作物は土中養分を効

率的に吸収できるようになります。そして、化学肥料(可給態養分)を入れなくても根の

力で自ら栄養を吸収し、また、化学農薬で病虫害を防除しなくても健全な農作物が育つよ

うになるのです。

「有機農業の基本は土づくり」と言われる理由はまさにここにあります。

【8】 ユニット 3.2.1 : 土づくり

目的: 有機農業の中核技術としての土づくりを理解する。

目標:

1. よい土の条件を説明できるようになる。

2. 熱帯土壌の特徴を説明できるようになる。

3. 熱帯における土づくりの留意点を説明できるようになる。

参照 Job Aid: 各有機物の土壌の化学的・物理的・生物性の改善効果

1

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【8】 土づくり

【8】‐2

自然界の土づくりの仕組み

自然の林では、化学肥料や化学農薬を使わなくても植物が育ちます。それは、自然に土づ

くりができる仕組みができているからです。林の中では、木々が落とした葉や果実、そし

て生き物の死骸などが、土中小動物や微生物によって時間をかけて分解され、堆積してい

きます。その結果、林には植物にとって理想的な土ができあがります。この自然の仕組み

を畑で再現することが土づくりと言えます。

図 【8】-1 自然界の土づくりの模式図

自然界の土壌形成と畑の土づくりの違いのひとつは、畑の方がずっと集約的だということ

です。言い換えれば、畑の場合は(1)より短い時間に(2)一定面積に対して高い密度で

「よい土」を作らねばなりません。そのために追加的に有機物を集めて投入したり、それ

らをあらかじめ人為的に微生物分解・発酵させたりするわけです。

有機物 破砕・穿孔など分解・発酵など

寒暖・紫外線など水分

糞・死骸 糞・死骸

土   壌

植物

落葉落枝

菌類・バクテリア

昆虫・小動物

太陽雨

動物

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【8】 土づくり

【8】‐3

「よい土」とは

「よい土」とは

「よい土」とは、作物が健全に育つ土のことです。その条件は、化学的性質、物理的性質、

生物的性質に分けて考えられます。

(1) 化学的性質

作物に必要な養分をバランスよく含み、

pH が適正である。

(2) 物理的性質

排水性、保水性、通気性がよく、やわ

らかい。

(3) 生物的性質

多様な土壌小動物、微生物が活発に活動し

ている。

化学的性質

(1) 養分バランス

作物は、必要な栄養分の多くを土から吸収しています。したがって、作物の成長は、土の

養分の状態によって左右されます。ここでは、植物が必要とする養分をバランスよく含ん

でいるものが「よい土」といえます。

植物が生長するために必ず必要とされる要素を、必須元素といい、16 種類あります。それ

では、具体的に養分の種類、必要量、養分の働きについて見てみましょう。

① 多量必須要素

多量必須要素は全部で9つあります。植物は、水素(H)、酸素(O)、炭素(C)をも

っとも必要とし、それらを空気中の炭酸ガスと根から吸収する水分から補います。そ

れ以外の要素は、根を通じて吸収します。次にそれ以外の 6 要素について説明します。

2 2

化学的性質

生物的性質 物理的性質

<よい土>

図 【8】-2 「よい土」の条件

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【8】 土づくり

【8】‐4

表 【8】-1 多量必須要素一覧較

養分の種類 説明 必要量

窒素(N) 窒素は、日本では「葉肥え」といわれ、作物の生育に

はなくてはならない養分です。窒素は、細胞の分裂・

増殖に必要で、根、葉、茎の発育を促します。欠乏す

ると葉の色があせ、葉が丸まる場合もあります。

0.1ha あたり

5kg 前後

リン酸(P) リン酸は、「実肥え」といわれ、実のつきを良くし、

品質も向上させます。また根の発育を促します。

0.1ha あたり

5kg 前後

カリウム(K) カリウムは、「根肥え」といわれ、根の発育、開花、

結球を促進します。

0.1ha あたり

5kg 前後

カ ル シ ウ ム

(Ca)

根の発育を促進し、病害に対する抵抗力を強くしま

す。

0.1ha あたり

2kg 前後

マグネシュウム

(Mg)

葉緑素を構成する元素です。

0.1ha あたり

2kg 前後

硫黄(S) タンパク質の合成に必要な要素です。また葉緑素の生

成を助けます。

0.1ha あたり

2kg 前後

② 微量必須要素

鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、ホウ素(B)、モリブデン(Mo)、塩素(Cl) 、亜鉛(Zn)

が微量必須要素とされています。必要量は、10a あたり 100g 程度です。

(2) 適正な ph 値

一般に作物がよく育つ pH は、弱酸性(pH 5~6.5)です。これよりも強い酸性またはアルカ

リ性の場合は、生育障害を起こすことがあります。ただし、作物によって適正な pH 値は違

いますので、作物ごとに確認してください。

物理的性質

「よい土」では、土壌粒子はお互いにくっつきあって、小さな塊の状態になっています。

この状態を土壌の団粒構造と呼びます。団粒構造は、根から排出される分泌物や土壌小動

物や微生物の働きによって形成されます。団粒構造を持つ土壌には小さな隙間がたくさん

あり、次の図ような特徴があります。

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【8】 土づくり

【8】‐5

図 【8】-3 土の単粒構造と団粒構造の違い

(出典:日本有機農業研究会編・発行「有機農業ハンドブック―土づくりから食べ方まで」P.16

日本有機農業研究会より許可を得て転載)

生物的性質

(1) 土壌小動物

本来、土壌には、モグラ、ミミズやダニなど様々な小型動物が生息しています。しかし、

慣行農業では、化学農薬や化学肥料を使うことでこれら土壌小動物が住みにくい環境を作

ってきました。

一方、有機農業の畑では、生物に害のある化学物質がほとんどないうえ、土壌小動物の餌

となる有機物が増えるため、豊かな土壌生物相がよみがえります。土壌小動物は有機物を

分解し、さらに微生物がそれを植物が吸収しやすい形にします。また、土壌小動物の活動

が土壌の物理的性質や化学的性質の改善を進め、作物の生育に大きく貢献します。

ここでは、ミミズを例に土壌小動物の効果を見てみましょう。ミミズは、次の 4 つの仕組

みで「よい土」をつくるのに貢献しています。

① 土中を動き回ることにより孔道ができ、それが空気や水の通り道となるため、通気

性や保水性を改善する。

② 有機物と土を一緒に食べて糞を排出する。ミミズの糞は、団粒構造をしているため、

土壌の通気性や保水性を改善する。

③ 土と一緒に有機物を食べて粉砕するため、微生物が有機物を分解し易くなる。

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【8】 土づくり

【8】‐6

④ ミミズの糞はカルシウムが多いので、土の酸性度を下げる。

(2) 土壌微生物

表層の土には、わずか 1g の中に、数百万~数億の微生物が住んでいます。その種類も多種

多様です。微生物の も重要な役割は、植物が養分を吸収しやすいように、有機物を分解

することです。他にも土壌微生物は、植物にとって様々な役割を果たしています。ここで

は、菌根菌と根粒菌について紹介します。

① 菌根菌

菌根菌は、植物の根に付着し、菌糸を根の中や外側に伸ばします。その菌糸を使っ

て土中のリン酸を集め、植物の根に供給します。その代わりに、根から有機物をも

らいます。

② 根粒菌

根粒菌はマメ科作物の根に共生し、空気中の窒素を吸収して窒素化合物つくり、こ

れを植物に供給します。そして、その代わりに有機化合物を植物からもらいます。

有機物の効果

有機物の土づくり効果

有機物には、落ち葉、おがくず、植物残さ、家畜糞尿、堆肥、ボカシ肥など様々なものが

あります。これら有機物には、これまで説明してきた「よい土」を作りだす効果がありま

す。つまり、土壌の化学的、物理的、生物的性質を改善する効果です。

有機物の種類により、改善効果の度合いに違いはありますが、性質ごとに以下の効果が期

待できます。

(1) 化学的性質の改善

有機物は微生物によって分解され、植物の養分となります。また植物が有機物を直接吸

収することによって生育促進効果が期待できます。さらに陽イオン変換容量(保肥力)

と緩衝作用が増大します。

(2) 物理的性質の改善

団粒構造が形成され、保水性、浸透性、通気性が改善します。

(3) 生物的性質の改善

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【8】 土づくり

【8】‐7

有機物が土壌小動物や微生物のエサとなり、それらの活動が活発になります。

次の図は、各有機物が主にどのような効果があるかを化学性、物理性、生物性でまとめた

ものです。

土壌改良効果が大きい

油かす魚粉食品廃棄物生の家畜糞尿

鶏糞主体の堆肥

草、ワラ主体の堆肥

牛糞主体の堆肥

堆肥

ボカシ肥

化学肥料

化学

性の

物理性の軸

マメ科緑肥・雑草・作物残さ

マメ科以外

栄養成分多い=肥効大きい

図 【8】-4 各有機物の土壌の化学性・物理性の改善効果

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【8】 土づくり

【8】‐8

栄養成分多い=肥効大きい

油かす魚粉食品廃棄物生の家畜糞尿

鶏糞主体の堆肥

草、ワラ主体の堆肥

牛糞主体の堆肥

堆肥

ボカシ肥

マメ科以外

マメ科

緑肥・雑草・作物残さ

化学肥料化

学性

の軸

生物性の軸 微生物分解・発酵が進んでいる

図 【8】-5 各有機物の土壌の化学性・生物性の改善効果

有機物によって、土壌の改善効果は異なりますが、土づくりの基本が有機物の投入である

ことには変わりはありません。

有機物直接吸収の効果

近の研究によって、植物は根から有機物(アミノ酸など)も直接吸収できることがわか

ってきました。植物は、硝酸(無機態窒素)を土中から吸収し、亜硝酸、アンモニアに変

え、これに光合成によってできた炭水化物を結合させてアミノ酸を作ります。しかし、ア

ミノ酸を根から直接吸収すれば、アミノ酸生成までの時間は短縮され、余分な炭水化物を

使う必要がなくなります。その結果、直接アミノ酸を吸収している作物は根の成長が早ま

り、土中栄養分をより多く吸収でき、生育が早まります。さらにアミノ酸生成に使われて

いた炭水化物が余り、その余剰炭水化物を活用することによって、糖度や栄養価が向上し、

病害虫に対する抵抗力も増します。

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【8】 土づくり

【8】‐9

図 【8】-6 有機物直接吸収の効果

(出典:小祝政明「有機栽培の基礎と実際」p.68 社団法人農山漁村文化協会発行 社団法人農山漁村文化協会より許可

を得て一部改変、転載)

熱帯土壌

熱帯土壌の特徴

熱帯土壌と言っても地域によって様々ですが、一般的に温帯土壌と比べて、次のような特

徴があります。

(1) 酸性土壌が多い。

(2) 陽イオン交換容量が小さい(保肥力が弱い)。

(3) 有機物含有量が少ない。

有機農業の観点から重要な有機物含有量について説明を加えます。熱帯多雨地域では生物

量(バイオマス)が大きいので、そこから土壌に供給される有機物もおのずと多くなりま

す。しかし周年高温のため、土壌微生物の活動が活発で、地面に落ちた植物遺体は、温帯

よりも早く分解されてしまいます。そのため、有機物の供給量が多いにも関わらず、土壌

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【8】 土づくり

【8】‐10

の有機物含有量が低い状態になってしまいます。

温帯地域では分解がより遅いために長期にわたってそのまま残る木質なども、短期間で分

解されます。温帯地域では木の小片が土中の空隙を維持する役割を果たしているのですが、

それがすぐ消えて酸素の流通が悪くなるといった、物理性に関する問題も起きやすいと言

えます。

熱帯地域での土づくり

次に、熱帯地域での土づくりについて考えてみましょう。熱帯地域でも、土づくりの基本

は有機物を投入することです。しかし、熱帯の気候や土壌の特徴のために、次の点に留意

する必要があります。

(1) 有機物の多投入

有機物の分解が速く、土壌の保肥力も弱いため、有機物をより多く投入する必要がありま

す。前述のように高温多雨の熱帯地域ではバイオマスが温帯よりも大きいので、有機物自

体は豊富にあります。周囲にいくらでも生えている雑草類がまさにそれです。そうした有

機物を畑外から集めてきて畑に入れます。

ただ、これには大きな労力がかかるので、人手が不足していて土地にゆとりがある地域で

は、畑内にネピアグラスなどの牧草やイネ科の草などを植えて、育ったら刈り、マルチと

して活用しながら徐々に土にすき込んでいくようにします。

(2) 有機物の分解抑制

有機物を多投入する一方で、分解を抑制することも考えるべきです。不耕起栽培やマルチ

には、その効果が期待できます。

(3) 酸性度の矯正

強酸性土壌の場合、pH 値を高める(アルカリ性に近づける)ために、石灰や灰などを多く

まきます。

(4) 土壌浸食の防止

土壌浸食により表土が流されると、せっかく土づくりをしてもその効果が蓄積されず、土

壌生産力は向上しません。特に、熱帯地域は、集中降雨による水食や乾燥地の強風による

風食が急速に進行し易い環境にあります。そのため熱帯地域では、土壌浸食防止を有機物

による土づくりと並行して行う必要があります。具体的な対策としては、マルチ、不耕起

栽培、等高線栽培などがあります。

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【8】 土づくり

【8】‐11

参考文献

・西尾道徳〔1997〕『有機栽培の基礎知識』社団法人 農山漁村文化協会

・前田正男・松岡嘉郎〔1974〕『図解土壌の基礎知識』社団法人 農山漁村文化協会

・日本有機農業研究会編〔1999〕『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』

日本有機農業研究会

・金子美登〔2003〕『金子さんちの有機家庭菜園』社団法人 家の光協会

・小祝政明〔2005〕『有機栽培の基礎と実際』社団法人 農山漁村文化協会

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【8】 土づくり

【8】‐12

事例概要 / 説明

埼玉県小川町で、有機農業を 30 年以上も続けている金子美登氏は、堆肥を基本として、ボ

カシ肥、緑肥、液肥などを利用して、理想的な土づくりを行っています。現在では、年間

を通して 60 品目以上の野菜を、化学肥料や農薬をまったく使わずに栽培しています。金子

さんは、「土つくりとは、土に小動物や微生物のエサと棲み処を与えて、水や植物を含めた

共働の力によって、団粒を作ること」と強調します。

金子さんは、有機農業で大切なことは、大自然から与えられたものを無駄なく使い、他の

ものに依存しないことだと考えています。そのために、もっとも重要なことが土づくりだ

といいます。

森の落ち葉は、分解者としてのヤスデやササラダニ、トビムシなどの小動物、カビや放線

菌、細菌などの微生物の働きによって、およそ 100 年で 1cm の腐葉土を作ると言われてい

ます。このような森林の自己施肥機能を人間の働きで 10~20 年に早める仕事が金子さんの

考える土づくりです。

金子さんの土づくりの基本は、良質の堆肥をたっぷり施すことです。金子さんの農場では、

有機農業に切り替えた当初、年間 50 トンの堆肥をつくり、約 1 ヘクタールの畑に入れてい

ました。土づくりの基本が出来るにしたがって、堆肥施用量は減少しましたが、今でも 10

トンから 20 トンの堆肥を入れています。堆肥の材料として、農場からでる家畜糞尿や雑草、

雑木林の落ち葉や小枝、地域からでる木くずなどを利用します。まさに身の回りにあるも

のを 大限活用して、堆肥作りに取り組んでいます。

金子さんの土づくりは堆肥作りだけではありません。刈り取った草のマルチ、緑肥、米ぬ

かや油かす・オカラなどを混ぜ合わせて作るボカシ肥、裁断した稲わらや籾殻・落ち葉を

たっぷり敷き詰めた小屋で飼育して得られる平飼い鶏糞、バイオマスプラントで家畜の糞

尿や生ゴミを嫌気性発酵させてメタンガスと同時にできる液肥、これらを組み合わせるこ

とによって、理想的な土を作り出しています。

こうして土づくりを大切した金子さんの霜里農場では、年間を通して 60 品目以上の野菜が

栽培されています。しっかりと土づくりをされた土で栽培された作物は、健康に育ち、病

害虫にも負けないといいます。実際、金子さんは、農薬はまったく使わずこれらの野菜を

CASE 【13】-2 CASE 事例 【8】-1

事例タイトル: 金子美登氏 霜里農場の土づくり

CASE 【8】-1

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【8】 土づくり

【8】‐13

栽培しています。これは、まさに土づくりの効果といえます。

このように、現在の霜里農場では、理想的な土が出来上がり、有機農業による安定した生

産ができるようになっています。しかし、金子さんも有機農業を始めた当初は様々な試行

錯誤がありました。

有機農業を始めた当初は、乳牛由来の堆肥施用が中心でした。しかし、有機農業転換 15 年

目からは、牛糞堆肥から植木剪定枝を主原料とする植物質の堆肥に切り替え、所有山林の

落ち葉と植木業者の剪定枝を砕いたものを混ぜて堆肥化させたものを使用しています。剪

定枝は、鉛やカドミウムなどの重金属が含まれず、質のよいものを条件として無償で提供

してもらうことができ、今では地域全体の堆肥をまかなう体制が作られています。

家畜糞尿主体の動物質堆肥から剪定枝主体の堆肥に切り替えていったことで、病虫害の被

害が明らかに減り、作物栽培がとても楽になったそうです。これは、動物質堆肥は、肥料

効果も高く速効性があるので、有機農業の転換期や土づくりの初期には適しているが、土

づくりの基礎が出来た後は、植物質堆肥の適用施用が望ましいとの考えからです。実際、

東北農業技術センターの土壌分析では、窒素とリン酸が減り、カリ、カルシウム、マグネ

シウムなどが適度な土壌になったと診断されました。

「 後に土づくりを別の言葉で表現するなら、土に小動物や微生物のエサと棲み処を与え

て、水や植物を含めた共働の力によって、団粒を作ることが結論」と金子さんは話してく

れました。

CASE 【8】-1

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【8】 土づくり

【8】‐14

事例概要 / 説明

金城利信・美代子夫妻は、日本の沖縄で減農薬有機農業を営んでいます。土壌酸度 3とい

う赤土の土づくりに取り組み、成果を挙げているのが特徴です。伐採された雑木のチップ

や草、牛糞などを主体とする堆肥を大量に入れ続けた結果、ゴーヤやインゲンが見事に実

るようになりました。「こんな暑い所で、しかも真っ赤な土で土づくりをやるには、栄養分

の高い肥料の前に、有機物をよほどしっかりと入れないとダメ。日本の本土のように有機

質がたくさん含まれた土でやる土づくりとは全く違う」と利信氏は強調しています。

(1) 農業者の数: 2 人

(2) 面積: 畑 0.3 ha ビニールハウス

(3) 栽培作物:ゴーヤ、インゲン、メロンなど

(4) 営農システム

CASE

畑 0.3ha

地域

汚泥

バガスケーキ

コーヒーかす

市場

農作物

(農協出荷)

自然植生

雑草

苦土石灰

堆肥

地域の副産物市場

チップ

牛糞

緑肥

ソルガム

CASE 【8】-2 事例 【8】

事例タイトル: 沖縄県名護市 金城農場の土づくり

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【8】 土づくり

【8】‐15

(5)土づくり

金城農場の畑は大きく 2 つに分かれています。一つは、周年生産を続ける畑。もう一つは

生産を 4、5 カ月休んで土づくりに専念する畑です。できれば生産を 1 年中続けたいところ

ですが、台風の多い沖縄では、台風シーズンは、強風でも倒れない高価な鉄骨ハウスでし

か生産できません。安い細パイプのハウスはビニールをはがして台風で飛ばされないよう

にし、生産を休むことになります。

周年栽培する鉄骨ハウスでは、2 月定植のゴーヤは 8 月まで収穫し、ハウス内でビニールシ

ートを敷いて高温による土壌消毒を 2 カ月間した後、堆肥を 0.08ha 当たり 10 トン入れ、イ

ンゲンを植えます。

これに対して一時生産を休んで緑肥による土づくりをやる畑では、10 月定植のインゲンを

5 月に収穫し、その後は緑肥のソルガムを栽培し、すき込みます。これを 9 月までの間、3

回繰り返します。さらに次の定植前に堆肥を 0.15ha に 10 トン入れます。緑肥を還元してい

る分、堆肥の投入量が周年栽培しているハウスのおよそ半分程度になっていることに注意

して下さい。

金城農場の堆肥投入量を換算すると、多い畑で 1ha 当たり 125 トン、少ない方でも 66 トン

になります。少ない方には堆肥に加えて緑肥が 3 回、すき込まれます。日本の施設野菜作

の標準は 1ha 当たり 20―40 トンほどとされますので、これに比べて、金城さんの場合はか

なり大量の堆肥が入っていることが分かります。周年高温の亜熱帯で、有機質をあまり含

んでいない赤土だということが 大の要因でしょう。

堆肥は、木材チップ(購入)、牛糞(購入)、汚泥(無料)、バガスケーキ(無料)、コーヒ

ーかす(無料)、雑草(無料)などを混合して積み上げ、1、2 年熟成させて作ったものです。

暑い沖縄ですから、熟成後は、固い木のチップもボロボロに崩れるほどに分解されます。

堆肥以外にも、土壌酸度矯正のために苦土石灰を使用しています。微生物資材などは一切

入れていません。

金城夫妻はこうした土づくりを8年間続けてきました。金城夫妻によると、勉強会仲間の実

践結果から、金城夫妻のように大量に堆肥を入れている農家は収穫が安定し、長期にわた

って強い作物が生産できます。一方、これをしないまま化学肥料や高栄養のボカシ肥など

を入れている農家は、収穫が短期で終わったり、病気が出やすくなったりしているそうで

す。金城夫妻の畑は当初、土壌酸度が3でしたが、現在は6まで上がっています。当初は固

かった土が、鉄筋を片手で差し込むと60cmほど入るまでに柔らかくなったそうです。

CASE 【8】-2

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐1

有機質肥料と化学肥料

有機質肥料の特徴

有機農業では、化学肥料は使用せず、有機質肥料を利用します。有機質肥料とは、動植物

に由来する肥料のことです。堆肥、ボカシ肥、魚かす、骨粉、緑肥、家畜・家禽類の糞、

草木灰など、様々な種類があります。日本では、化学肥料の使用が始まる前から、一般的

に使われていました。種類によって違いはありますが、有機質肥料は、化学肥料と比べて

次のような特徴があります。

(1) 土壌の物理的、化学的、生物的性質を改善する。

(2) 肥料効果が遅効性のものが多い。

(3) 肥料成分含有量が不均一のものが多い。

化学肥料

次に、化学肥料について考えてみたいと思います。化学肥料は有機質肥料と対比して、無

機質肥料とも言われます。

化学肥料は植物に必要な無機栄養分を効率的に供給しようとするものです。堆肥などの有

機質肥料に比べて容積、重量とも少なく済むため、作業がラクで、人手がかからない利点

1

【9】 ユニット 3.2.2 : 有機質肥料(1)

目的: 有機質肥料の生産方法と利用方法を習得する。

目標:

1. 有機質肥料と化学肥料の特徴を説明できるようになる。

2. 堆肥にする理由、堆肥化の条件、温度変化を説明できるようになる。

3. 堆肥・ボカシ肥の作り方を説明できるようになる。

4. 鶏糞の特徴、舎飼い養鶏の方法を説明できるようになる。

参照 Job Aid: 堆肥作りプロセスフローチャート

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐2

があります。

しかし、植物はもともと根を通じて土中の微生物と相互に影響し合いながら必要な栄養を

得る仕組みを備えています。化学肥料には土壌微生物の働きに対する効果という視点はほ

とんどありません。そのため、化学肥料ばかりを連続して使用すると、土中の化学的・物

理的・生物的性質のバランスが崩れ、植物が本来持つ仕組みを維持できなくなり、作物の

成育が不十分になったり、病虫害の被害を受けやすくなったりしてしまいます。

持続性の高い農業生産を実現するために、化学肥料に頼らない有機農業が推進される 大

の理由はここにあります。

堆肥

堆肥の効果

堆肥とは、落ち葉や草、家畜の糞などの有機物を混ぜて一定期間置き、微生物によって分

解させたものを言います。土を良くするためには、堆肥はとても有効です。堆肥の効果と

して次の点が挙げられます。

(1) 土壌の物理的性質の改善

堆肥によって団粒構造が形成され、保水性、浸透性、通気性が改善します。

(2) 土壌の化学的性質の改善

陽イオン変換容量(保肥力)と緩衝能を増大します。また堆肥の材料にもよりますが、

遅効性の肥料効果も期待できます。

(3) 土壌の生物的性質の改善

堆肥には、様々の小動物や微生物が存在し、さらにそれらのエサとなる有機物が含まれ

ているため、豊かな土壌生物相の形成につながります。

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐3

堆肥にする理由

堆肥の材料が堆肥になるプロセスを「堆肥化」といいます。堆肥の材料をそのまま畑に入

れず、堆肥にするのはなぜでしょうか。それは、この堆肥化の過程で次のような効果が期

待できるからです。

(1) 微生物が有機物を分解するときにアンモニアなどの有害なガスを発生することもあり、

植物の根に障害を与える。堆肥にすることであらかじめ有機物の分解を進めておくこと

によって、発生するガスの量を抑えることができる。

(2) 微生物は有機物を分解するために、窒素を必要とする。そのため、堆肥化されていない

有機物を施用すると、微生物と作物との間で窒素競合が起こり、作物の窒素飢餓が起こ

る可能性があるが、これを防ぐことができる。

(3) 堆肥になる過程で高温になるため、堆肥材料のなかの病原菌や害虫、雑草の種子などを

死滅させることができる。

堆肥化の条件

有機物を分解して堆肥材料を堆肥に変える主役は微生物です。堆肥化を効果的に行うには、

この堆肥化を進める微生物が活動しやすい条件を整えることが重要です。その条件とは、

以下の 4 点です。

(1) 栄養バランス

微生物が活動し、繁殖するのに必要な栄養を供給しなければなりません。その際に、

も重要なのは炭素率(C/N 比)です。これは、有機物中の炭素(C)含有量を窒素(N)

含有量で割った値のことです。微生物は、有機態炭素を分解するときに一定量の窒素を

必要とします。主な微生物が必要とする窒素と炭素の比率はおよそ 1 対 20 から 1 対 30

のため、 適な C/N 比の目安は 20 から 30 と言われています。

(2) 水分量

微生物が活発に活動するために適切な水分率は、60%前後です。

(3) 酸素

堆肥化に関与する微生物には、嫌気性微生物と好気性微生物がいますが、特に堆肥化過

程の早い段階で大きな役割を果たすのは好気性の微生物です。堆肥化を効率よく進める

ためには、適度に切り返して、酸素を供給します。

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐4

(4) 温度

堆肥化を効率よく行うためには、堆肥化の各プロセスにおける温度管理が重要です。そ

れは、各プロセスで主に活動する微生物の活動し易い温度が異なるからです。具体的な

各プロセスの理想的な温度については、次で説明します。

堆肥化プロセス

堆肥化のプロセスは大きく 3 つに分けることができます。ここでは、そのプロセスを詳し

く説明します。

表 【9】-1 堆肥化のプロセス

段階 説明

第 1 段階

糖分解期

この段階では、有機物中のタンパク質やアミノ酸、糖質などが、生

育の早い細菌や糸状菌によって分解されます。このとき、これら微

生物の活動による熱が発生し、堆積物の温度は上昇します。

第 2 段階

セルロース分解期

温度が高くなると、高温・好気性の放線菌がヘミセルロースを分解

します。これにともない、酸素が不足し、分解によって露出したセ

ルロースに嫌気性のセルロース分解菌が作用します。この段階で

は、好気性細菌と嫌気性細菌が同時に働くので、酸素量を適切に保

つ必要があります。分解するものがなくなると、温度は下がり出し

ます。

第 3 段階

リグニン分解期

もっとも分解されにくいリグニンが主として担子菌(キノコ)によ

って分解されます。この段階では、様々な微生物が活動しており、

これらを食べるミミズなどの小動物も見られるようになります。

( 出 典 : 藤 原 俊 六 郎 「 良 い 堆 肥 生 産 の ポ イ ン ト 」 < 中 央 会 畜 産 会 ホ ー ム ペ ー ジ

http://jlia.lin.go.jp/cali/manage/121/s-semina/122ss2.htm>を参考に筆者作成)

次にそれぞれの段階でどのように温度が変化するか見てみましょう。

積み込み後、細菌や糸状菌の活動により温度が上昇し始めます。堆肥化が順調であれば、2

3 日前後で 70℃程度まで上昇します。セルロース分解期は、70℃前後が 適です。80℃以

上になると窒素の発散が多くなり、窒素養分の少ない堆肥になってしまいます。また低す

ぎると堆肥化の進行が遅くなります。その後、リグニン分解期に入ると徐々に温度が下が

り始め 40℃前後になります。さらに温度が下がり、外気温に近づけば堆肥化は終了です。

堆積物の温度変化は、堆肥をつくるときの切り返しのタイミングを知る一つの材料となる

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐5

ので、どのように変化するか覚えておきましょう。切り返しのタイミングと温度の関係は、

次の「作り方」のところで説明します。

堆肥の作り方、使い方

作り方

それでは、具体的な堆肥の作り方を紹介します。作り方のポイントは、「堆肥化の条件」で

説明した4つ条件が整う環境を作り出すことです。

(1) 場所の選定

堆肥を作る場所を決めるときは、次のポイントを確認してください。

水はけはいいか

堆肥を積む場所の下に溝を掘ったり、スノコのような資材を置いたりして、水

はけをよくします。

近くに水場があるか

(温度)

<糖分期> <セルロース分解期> <リグニン分解期>

初期 後期 (堆積期間)

図【9】-1 堆肥化プロセスの温度変化(模式図)

(出典:五十嵐孝典「熱帯土壌の土つくりハンドブック」 社団法人国際農林業協働協会(JAICAF)発行 を参考に

筆者作成)

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐6

切り返しのときに水を加える必要があるためです。

雨と直射日光を防げるか

屋根のあるところか、ビニールなどを被せて、雨と直射日光を防げるようにし

ます。

(2) 材料の用意

作物残さや家畜糞尿、生ゴミなど身近にあるものの多くが、堆肥の材料として利用でき

ます。身の回りにある材料を組み合わせて堆肥作りを試してください。ただし材料を組

み合わせるときには、C/N 比に注意してください。すでに述べたように、C/N 比が 30 前

後になるように組み合わせましょう。目安としては、C/N 比が低い材料 1 に対して、C/N

比が高い材料 10 程度です(表【9】-2 参照)。大きな材料は小さく切り刻んだ方が、分解

が早くなります。

表 【9】-2 材料別の C/N 比の例

材料 炭素率(C/N 比)

鶏糞 6

豚糞 11

牛糞 16

蓄糞・ゴミ類

都市ゴミ 25

ダイズ稈 47

ピーナッツ殻 51

稲ワラ 78

作物残さ類

麦わら 117

スギ枝 157

ラワンオガクズ 436

樹木類

スギオガクズ 636

( 出 典 : 藤 原 俊 六 郎 「 良 い 堆 肥 生 産 の ポ イ ン ト 」 < 中 央 会 畜 産 会 ホ ー ム ペ ー ジ

http://jlia.lin.go.jp/cali/manage/122/s-semina/122ss2.htm> 表-1 「各種資材の全炭素・全窒素含量と炭素率」

(原田靖生、1994)の表現を一部変更し、数字を丸めた)

(3) 積み方

準備した材料を 10~20cm の厚さで交互に積んでいきます。その際、軽く足で踏み固めな

がら、水を掛けていきます。この作業を繰り返し、1~2mに積上げます。量が少ない場合

などは、すべての材料をよく混ぜ合わせてから、1つの山に積み上げても構いません。

水分含量は、60%前後が 適です。目安としては、材料を握って、握ったこぶしから水が

滲み出す程度です。積み込みが終了したら、わらや麻袋などで覆います。これは、直射日

光を当てないようにするためと、乾燥を防ぐためです。

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐7

(4) 温度管理と切り返し

図【9】-1 で示したとおり、積み込み後、温度が上昇し始めますただし、セルローズ分

解期の堆肥化には、60~70℃前後が 適な温度です。そのため、温度が下がり始めたら

(50℃以下が目安)、水を加えながら切り返しを行い、内部と外部をよく混ぜます。こ

れによって、微生物に酸素と水が供給され、再び堆肥化が始まり、温度が上昇します。

日本では、一回目の切り返しの目安は、堆積後、1~2 週間後です。ただし、温度が上が

りすぎたときは(80℃以上が目安)、すぐに水を多めに加えながら切り返しを行い、温

度を下げます。

その後、切り返しを行っても温度が上がらなくなります。それはリグニン分解期にはい

ったためで、この間は徐々に温度が下がり始めます。この間も適宜(日本では 2 週間程

度に一度)切り返しを行います。ただし水分は少なめにし、握って手のひらに水跡が残

る程度に調節します。

(5) 完成

微生物による有機物の分解速度は気温に大きく左右されます。 低気温が零度前後にな

る温帯地域では、冬の間の微生物の活動は非常に鈍くなります。逆に、年を通して気温

が 30 度前後あるような熱帯地域では微生物の活動は常に活発で、有機物の分解が早く

進みます。また材料によっても堆肥化の速度は異なります。そのため、堆肥が完成する

までの期間は一概にはいえませんが、日本では、3~6 ヶ月後には完熟した堆肥が出来上

がります。未熟堆肥を畑に入れると有毒ガスの発生や窒素飢餓などの問題が発生するた

め、完熟した堆肥かどうかを見極めることは重要です。堆肥が完熟したかどうかは次の

ような点で確認できます。

●温度が下がったか

●色が黒くなったか

●アンモニア臭がなくなったか

●ミミズなどの土壌小動物がいるか

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐8

1. 場所の準備:雨があたらず、動物が侵入できない場所を選ぶ。堆肥の材料を積む

場所には、10cm の深さのみぞを掘り、排水できるようにする。 2. 材 料:植物残渣、生ゴミ、動物の糞、腐葉土、灰

3. 積み方:2m x 2m の大きさに、植物残渣・生ゴミ→動物の糞→腐葉土→灰の順番

で、高さ 1.0~1.5mになるまで、繰り返し積上げる。 4. 切り返し:(1 回目)4 週間後、(2 回目)4 週間後。その後、温度が下がるまで適

宜切り返しを行う。 5. 完熟までの期間:6 ヶ月

(参考資料:JICA 技術協力プロジェクト「PROCESO」(パナマ)研修教材)

Box 【9】-1 パナマ技術協力プロジェクトの堆肥作りの例

1. 場所の準備:半乾燥地帯なので、排水などは問題なかった。畑の一部など、管理

しやすい場所ならどこでもよしとした。

2. 材 料:半乾燥地帯なので、入手できる植物原料が極めて限られていた。ネピア

グラスのような牧草系やソルガムの茎葉などなら何でもよし、とした。これに、

牛を係留しておく柵内から堆積した牛糞をとり、重量比で 1―2 割加えた。さら

に、畑の土を牛糞の倍量入れた。

3. 積み方:水分調整の後、高さ 1m ほどに積み上げた。ビニルシートをかけ、雨や

動物による攻撃を防いだ。

4. 切り返し:1 週間から 10 日に 1 回。これを 5、6 回。熱は上がったが、 高でも

60 度ほどだったとみられる。

5. 完熟までの期間:夏場で 2 カ月(有機物が入手できない冬場はやっていない)

Box 【9】-2 南アフリカ開発調査での堆肥作りの例

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐9

使い方

ここで堆肥の使い方について説明します。 初に施肥量についてですが、堆肥は材料によ

って肥料成分が異なり、また土壌の肥沃度も地域によって異なるため、一概に施肥量を決

めることはできません。いろいろと試しながら、自分の地域にあった施肥量を見つけてく

ださい。

参考までに、日本で唯一の亜熱帯地域である沖縄は、冬場でも 低気温が 12 度くらいある

のが普通ですが、その沖縄で野菜類を栽培する際の標準的な堆肥施用量は 0.1ha あたり 2、3

トンとされています。ただし、これは化学肥料や肥効の強い有機質肥料を併用する場合で、

堆肥のみで栽培するにはこの 2 倍以上が必要になります。

次に施肥のやり方を紹介します。

(1) 全面施用

畑全体に堆肥をまんべんなく散布します。畑全体の土壌改良を目的とした施肥の仕方で

す。

(2) 部分施用

作物の根が伸びる先に堆肥を入れます。肥料効果と同時に、深い根系を作る効果が期待

できます。

(3) マルチ施用

作物の周りの土の上にマルチとして使う方法です。肥料効果と同時に、水分の保持や天

敵や拮抗微生物を増やす効果も期待できます。

ボカシ肥

ボカシ肥とは

日本では、堆肥と同様、ボカシ肥という有機質肥料を昔から使ってきました。ボカシ肥と

は、魚粉や鶏糞など、窒素をはじめとする栄養分を多く含んだ有機物と土を混合させ、比

較的短期間で発酵・分解したものです。強い肥料効果を「ぼかして」いる、緩やかにしい

ていることから、「ボカシ肥」と呼ばれるようになりました。ボカシ肥には、有用微生物の

増殖を早めるために、森の腐葉土から採取した微生物や工業生産された微生物資材を添加

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐10

するものもあります。

堆肥とボカシ肥の違いは、堆肥が土壌性質の改良を主目的にしているのに対して、ボカシ

肥は、高栄養で肥効が強いのが特徴です。肥効の観点からは、植物原料主体の堆肥と化学

肥料の中間に位置づけられるかもしれません。

ボカシ肥は、主に発酵作用によって作られます。ボカシ肥は、生成過程で、納豆菌や酵母、

放線菌などの様々な有用微生物が増殖し、高栄養の有機物を発酵・分解します。その結果、

アミノ酸などの有機態窒素が作り出されます。さらに関わる微生物によっては、作物生育

促進物質を生成します。例えば、ある種の放線菌が関われば病害の抑制などに効果のある

抗菌物質が、乳酸菌からは殺菌作用をもった乳酸が生成されます。

ボカシ肥は、文字通り肥効を狙って、基肥や追肥などの形で畑に直接使われるのが普通で

す。肥効を化学肥料に頼らない有機農業では、作物を栽培するうえで重要な有機質肥料に

なります。また根圏微生物を豊かにすることを狙って、株元に施用する例も多くあります。

ボカシ肥の中では有用微生物が増殖しているので、一般の堆肥材料に少量加えて堆肥化の

促進材料として使われることもあります。

途上国でボカシ肥を使用する際の留意点

(1)高温

途上国の多くは、周年高温の熱帯地域にあります。そこでは、有機物の分解環境が温帯地

域とは異なります。例えば、温帯地域の森でしばしば自然にできる腐葉土の厚い層は、周

年高温の熱帯地域の森にはあまり見られません。これは、有機物分解の速度が気温に大き

く左右されるためです。暑い地域では、微生物の活動が非常に活発で、有機物は温帯地域

よりもずっと早く分解されてしまうのです。

こうした高温条件下でボカシ肥を堆肥材料に添加した場合、有機質の分解が、加速されす

ぎてしまうことがあります。

長期にわたって段階的な肥効を得たい場合は、分解の加速により早い時期に栄養が全部出

てしまうことがデメリットになる場合があります。1 作だけでなく、収穫後に残留した有機

物による肥効を 2 作目に効かせたいというような場合も同じです。

半乾燥熱帯地域などで、使える有機物の量に大きな制約がある場合は、分解する微生物を

強化することよりも、分解される有機物をいかに確保するかの方がより深刻な問題になり

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐11

ます。

(2)高栄養の原料

魚粉など、ボカシ肥によく使われる「高栄養の材料」も、貧困にあえぐ途上国の農村では

簡単には入手できないでしょう。栄養価の高い資材は、人間の消費と競合してしまうこと

があるためです。

一方、魚の内蔵など、栄養分が高くても十分に利用されていない資源はあります。先進国

で使われている原材料にとらわれずに、それぞれの状況の中で、利用されていない有機物

が何かないかをよく観察し、その有効活用を図っていきましょう。

(3)不適切な発酵

ボカシ肥の製造で、すでに腐敗している有機資材を使用したり、温度管理や水分調整に不

備があると、アンモニア臭が発生して正常な発酵が行われずに全体が腐敗することがあり

ます。このようなボカシ肥を施用すると土壌中で有害ガスが発生し、発芽や根の成長を阻

害する危険性があります。ボカシ肥の材料に山土や籾殻クン炭をたくさん加えることで失

敗を防ぐことが可能ですが、乾燥地域や熱帯地域の多い途上国でこれらの材料を大量に集

めることは容易ではありません。まずはボカシ肥の製造途中の状態、特にアンモニア臭の

発生が無いか良く観察しましょう。また、初めての施用の前にはポットでの発芽試験など

を行い、安全性を確認することが大切です。

鶏糞

鶏糞の特徴

高栄養の有機物資材はさまざまあります。堆肥の作り方の項でも説明しましたように、鶏

以外の家畜の糞や家畜の臓物など、鶏糞以外のものも十分に使えます。ここでは、途上国

で比較的入手が容易と思われる鶏糞を例にとり、家畜糞の利用の方法の一つを紹介します。

鶏糞は栄養価の極めて高い有機物です。窒素はもちろんですが、リン酸なども多く含んで

おり、野菜の栽培などに有効です。

貧しい途上国の農村の場合、堆肥原料として有効な家畜糞尿が簡単に手に入るとは限りま

せん。一般に大きな家畜ほど、飼養するのに資力がいります。その意味で、鶏は小農でも

飼養できる可能性が高い家畜といえます。

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐12

実際、途上国の農村では地鶏がしばしば飼われていますが、その多くは完全な放し飼いの

ため、鶏糞を集めることができません。そこでここでは、鶏糞の採取と利用を主目的にし

た舎飼い養鶏について説明します。

舎飼い養鶏の方法

放し飼いと舎飼いの 大の違いは、給餌する必要があるかないか、です。完全な舎飼いに

すれば、人間が餌をすべて供給しなければなりません。一方、放し飼いなら、鶏は自分で

餌になるものを探します。

(1)飼い方

夕方から翌日午前中の間は舎飼いにし、必要栄養の半分程度を給餌しながら、鶏糞を集め

ます。昼から夕方までは放飼し、自力で栄養を補わせます。

給餌後が排泄のピークなので、夕方に給餌した後、翌朝まで舎飼いにしておけば、かなり

の鶏糞が集められます。

「半舎飼い」とも言うべきこの方法が、給餌量を 小にし、鶏糞採取量を 大にする も

現実的な方法です。

(2)餌

餌は、カロリー源とタンパク源がともに必要です。カロリー源は、ヒエなどを主体にする

のが理想です。給餌量は鶏の生育段階や含有栄養によって全く違ってきます。とりあえず、

ヒエなどの穀物類の場合、半舎飼い方式で成鶏 1 羽 1 日 60―80g を目安にし、生育具合を

見ながら調整していきましょう。ただ途上国では穀類が、人間の消費と競合することもあ

ります。その場合は、人間が食べない子実類を多めに給与せざるをえません。

タンパク源は人間の消費と競合する場合が多く、途上国での多くの小規模養鶏プロジェク

トで問題になっています。タンパク源を確保するひとつの方法として、ヒマワリなどを小

面積植えることが有効です。ヒマワリなど油糧作物と呼ばれる子実類には、タンパク質も

カロリーも豊富に含まれています。

他の方法として、可能性があるのはミミズの養殖です。ミミズは、人間の消費と競合しな

い優良な動物性タンパク質で、ほとんどどんな有機物でも餌になります。

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐13

堆肥原料に土を混ぜたものを、堆肥よりも多めの 80%ほどの水分にして、厚さ 10cm 程度に

平たく広げた床に、種ミミズ 500g 以上を入れます。重要なのは、何らかの方法で直射日光

を遮り、床内の温度を高温にしないよう工夫することです。野菜くずや少量の家畜糞を餌

として時々加えます。

配合飼料が入手できるならば、たんぱく源としてこれを利用しても構いません。しかし配

合飼料は高価ですから、鶏や卵の一部を自家消費せずに販売して、現金を確保することが

大前提になります。配合飼料を利用する場合は、養鶏部門の売り上げの半分くらいで購入

できる量にとどめて下さい。

(3)鶏舎

鶏舎はどんなものでも構いませんが、条件は、(1)雨(2)直射日光(3)捕食動物の攻撃、

の 3 つを防げることです。この条件を満たすことができるようなものを、現地で入手でき

る材料で、なるべく簡単に作ります。完全舎飼いだと 1平方メートルに成鶏で 2、3羽です

が、半舎飼いで敷料を月に 1回くらい交換できれば 5、6羽飼うことができます。

(4)鶏糞

鶏舎の床には枯れ草やトウモロコシの葉などを 10cm ほどの厚さに敷き詰め、落ちた鶏糞が

その場で分解されるようにします。この敷料が、(1)炭素の供給(2)水分調整(3)空気

の流通(4)微生物の供給、の役割を果たします。

悪臭の有無が、敷料が適切に管理されているかどうかの目安になります。悪臭が出るよう

なら、敷料を増やします。敷料を増やしても悪臭が止まらないようであれば、鶏舎の大き

さに対して飼っている鶏の数が多すぎる可能性があります。

こうして集められた鶏糞は、既に生糞ではなく、ほぼ堆肥化した鶏糞です。そのまま畑に

入れて野菜栽培などに使って下さい。

飼養する鶏の数と野菜畑の面積のバランスは土壌の肥沃度や作物の栄養要求量によって大

きく違ってきますが、野菜畑 10 アールあたり雌鶏 3 羽、雄鶏 1 羽を一応の目安にして下さ

い。餌が確保できそうになければ、鶏の羽数をこれよりも減らさなくてはなりません。

参考文献

・西尾道徳〔1997〕『有機栽培の基礎知識』社団法人 農山漁村文化協会

・日本有機農業研究会編〔1999〕『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』

日本有機農業研究会

・五十嵐孝典〔2002〕『熱帯土壌の土つくりハンドブック』社団法人国際農林業協働協会

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐14

事例概要 / 説明

パナマの JICA 技術協力プロジェクト「中山間地における持続的農村開発普及計画

(PEODESO)では、ボカシ肥や堆肥、ミミズ堆肥などの有機質肥料の作り方を小規模農家

に教えています。ここでは、ボカシ肥の作り方を紹介します。

1. 場所:直射日光、雨、風を防ぐことができるところ。

2. 材料:籾殻 5 袋(またはサトウキビの絞りかす)、牛糞または鶏糞 1 袋、灰 2kg

腐葉土 2 袋、米ぬか 10kg、炭 2kg、糖蜜 1~3 リットル、

イースト菌 100~200g、水適量

※1 袋=50kg の飼料袋

※ボカシ肥で作用する微生物は、アルカリ性に弱いものが多い。そのため、

通常は、灰を入れる必要はありません。 3. 手順:

(1 日目)

用意した材料を、1 ガロンの水に糖蜜とイースト菌を混ぜたものを加えながら、混ぜ合わせ

ます。このときの水分の適量は、混ぜ合わせたものを一掴みし、握りしめても水がでず、

かつ、握りしめたものが少し触るだけで簡単に壊れる程度です。堆積物は、小山の形にし、

麻袋をかぶせます。

(2 日目)

朝と夕方、切り返しを行います。その後、堆積物の高さを 30cm に低くし、麻袋をかぶせま

す。温度は、50℃以上にならないようにします。温度計が無い場合は、マチェテ(短刀)

を堆積物に 1、2 分差込みます。そして、引き抜いたときにマチェテが手で触り続けること

ができる程度に熱くなっていれば適温です。

(3 日目)

2 日目同様、朝と夕方、切り返しを行います。その後、堆積物の高さを 20cm に低くし、麻

袋をかぶせます。

(4 日目)

朝と夕方、切り返しを行い、その後、堆積物の高さを 15cm にします。4 日目以降は、麻袋

をかぶせる必要はありません。

(5・6 日目)

1 日、1 回切り返しを行います。堆積物の高さを 15cm のままです。この頃から臭いが変化

CASE

CASE 【9】-1 事例 【9】-1:

事例タイトル:パナマ JICA プロジェクトのボカシ肥作り

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐15

し、温度も下がり始めます。

(7 日目から 15 日目)

1 日、1 回切り返しを行います。温度が完全に下がれば、畑で使うことができます。保管す

る場合は、直射日光があたらず、湿気がなく、換気のいいところを選びましょう。保管期

間は、3 ヶ月程度です。

(参考資料:JICA 技術協力プロジェクト「PROCESO」(パナマ)研修教材)

CASE 【9】-1

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐16

事例概要 / 説明

コスタリカの有機農業生産グループ APODOR では、独自のボカシ肥料を作って野菜の栽培に

活用しています。そのボカシ肥の作り方を紹介します。

4. 材料:米ぬか 2 袋(村内の店で購入、1 袋:6 ドル)

糖蜜液 20 リットル(村内の店で購入、4 リットル:1 ドル)

粉炭 8 リットル(村内の店で購入、1 袋:1 ドル)

鶏糞 16 リットル(40 分ほど離れた隣村で購入、1 袋:1 ドル)

畑の土 30 袋、

古いボカシ 3 リットル

5. 手順:

(1) 糖蜜 3 リットルを水 100 リットルで溶き、そこに山の土着菌 8kg を入れます。

(2) 堆肥の材料を下図のように積み上げます。同じ材料を 2 回ずつ積上げ、全体で 70-80cm

の高さにします。

(3) 積上げた材料を 15 日間に 12 回ほど切り返せば完成です。

CASE

CASE 【9】-2

米ぬか 1 袋 土 15 袋 糖蜜液 20 リットル 粉炭 4 リットル 古いボカシ 3 リットル 鶏糞 8 リットル 米ぬか 1 袋 土 15 袋 糖蜜液 20 リットル 粉炭 4 リットル 古いボカシ 3 リットル 鶏糞 8 リットル

事例 【9】-2:

事例タイトル:コスタリカ有機農業グループのボカシ肥作り

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【9】 有機質肥料 (1)

【9】‐17

演習概要 / 説明

ここでは、このユニットで学んだ堆肥を自分の地域で実践する場合のやり方を考えます。

Instruction

1. 支援対象地域を想定して、堆肥を作る場所を考えます。考えるときは、次の点に留意

しましょう。対策が必要な場合は、対策も考えましょう。 ① 水はけの良い場所か。悪い場合は、どのように水はけを良くするか。 ② 近くに水場があるか。無い場合は、どのように切り返しの際に水を供給するか。 ③ 雨と直射日光を防げるか。防げない場所の場合は、どのように防ぐか。

2. 堆肥の材料を考えます。材料を考えるときは、次の手順で行います。 ① 支援対象農家の身の回りにあり、堆肥の材料として利用できるものを確認する。 ② 炭素比率が 20 から 30 になる組み合わせを考える。

3. 作り方を決める。 現地の状況にあわせて作り方を考えます。次の点を決めましょう。 ① 積み方 ② 切り返しの頻度 ③ 完成までの期間

Activity 【9】-1 演習【9】-1:

演習タイトル:堆肥作り

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【10】 有機質肥料 (2)

【10】‐1

緑肥作物

緑肥とは

主作物の順調な成育のために土壌有機質を増やしたり、肥効を得たりするために植える副

次的な作物を「緑肥作物」と呼びます。緑肥作物からは直接の収穫を得ないのが普通です。

典型的なのは、マメ科のクローバーなどを輪作体系に組み込んで、空中窒素固定により土

中の窒素分を増やし、あわせて、植物体をすき込んで有機質含量を高めるというやり方で

す。生物生産量の多いイネ科のソルガムやトウモロコシを植えて青刈りする方法では、主

に土壌有機質の増加を狙っています。マリーゴールドを植えて線虫対策にするといった防

除を主目的にする場合もあります。

次節で述べる畑外からの雑草の持ち込みなどに比べて、緑肥は 初から畑の中で作るので、

運搬の労力が軽減できる大きな利点がある反面、畑を一定期間占有してしまうという問題

があります。

緑肥作物は、刈ってそのまますき込みますので、山に積んで堆肥を作るような手間はかか

りません。ただ、土中で堆肥化されるのに、熱帯地域でも 1 カ月以上はかかります。その

間、微生物が有機物を分解するのに窒素を消費します。微生物による分解が終わる前に主

作物を植えてしまうと、作物と微生物の間で窒素の奪い合いが起きたり、分解過程で発生

するガスが作物の根を傷める可能性がありますので、1 カ月以上寝かせてから作物を植える

ようにしましょう。

1

【10】 ユニット 3.2.3 : 有機質肥料(2)

目的: 身近にある有機物の活用方法を習得する。

目標:

1. 緑肥作物の特徴を理解する。

2. 雑草、残さの特徴と使い方を説明できるようになる。

3. 高栄養の有機質の探し方と使い方を説明できるようになる

4. 化学肥料併用の事情とその方法について理解する。

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【10】 有機質肥料 (2)

【10】‐2

途上国での緑肥使用の現状

途上国の小農が緑肥を植えることはまだ少ないようです。それは、限られた貴重な栽培期

間と土地を収穫が望めない作物のために費やすことは、たとえその後の作物の成育が改善

されるにしても、総合的には不利になると判断しているからと思われます。緑肥のための

種や肥料などのコスト要因も無視できないでしょう。

インドでは水田にセスバニア、クロラタリアのマメ科の緑肥作物を植えることが奨励され、

一時は取り入れる農家が増えましたが、やがてすたれてしまったそうです。稲を植えられ

る面積が減ること、リン酸不足による緑肥作物の成育不良などが原因とされています5。

畑の面積にゆとりがあり、追加的に生じる経費もカバーできる営農体系の下であれば、長

い目で見れば緑肥作物は土づくりに有効ですから、一つの選択肢として視野に入れておき

ましょう。

雑草、作物残さ

雑草、作物残さの特徴

緑肥が本畑でわざわざ播種・栽培されるのに対し、雑草は畑の外で自然に成育するもので

す。したがって、土地や灌漑水などをめぐる主作物との競合は起きません。また、作物残

さは畑内でできる有機物ですが、主作物の栽培にともなって、いわば必然的にできるもの

ですから、これも競合は起こりません。さらに当然ながら、雑草も残さも現金支出を伴う

ような経費がかかりません。

雨量の比較的多い地域ならば畑外の雑草はかなりあるはずです。作物残さはマルチや家畜

の餌としてすでに利用されている場合も多いでしょう。気をつけたいのは、火入れをして

作物残さをすべて燃やしてしまうことです。草木灰は、とりわけ熱帯地域の酸性度の強い

土の矯正には一定の効果がありますが、全量を燃やし、有機物の還元をゼロにまでしてし

まうのは避けるべきです。特にインゲンやササゲなどの豆類の残さは窒素分を豊富に含ん

でいますから、燃やさずに有機物として土に還元して下さい。

5 田中明編著〔1997〕『熱帯農業概論』築地書館 P501

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【10】 有機質肥料 (2)

【10】‐3

雑草利用の場合の 大の問題点は運搬の労力です。畑外から大量の草類をかついで運ぶの

はかなりの重労働でしょう。役畜がいれば利用して、できるだけ楽に草を運べるように工

夫しましょう。次節で、草丈が 2m ほどになるイネ科の草を勧める理由の一つは、運びやす

さと運搬効率のよさです。

雑草、作物残さの使い方

雑草はさまざまな種類がありますが、イネ科など、直立した草形の草は、刈って運ぶうえ

で取り扱いが楽です。これらを刈って畑に持ち込み、すき込むのではなく、そのままマル

チとして地上に敷き詰めます。地上に置いた草はやがて乾燥し、少しずつ分解されていき

ます。

簡単にカットできる「押し切り」のような道具があればカットしてすき込んだ方が早く効

果が出るのは間違いありませんが、ナタなどで小さくカットするのはかなりの労力を要し

ます。畑が大きくなれば、全面にすき込むための分量を処理するのは相当困難でしょう。

表面に置くだけにするのはこのためです。長いまますき込む手もありますが、これはこれ

でやはり重労働になります。

播種前よりも、作物がある程度大きくなってから草を置く方が、作物の成育のじゃまにな

りません。畝立てして、畝の頂上に植える場合は畝溝と法面に置けばいいのですが、半乾

燥地のように畝底に植える場合は、法面に置いた草が畝底にどうしても落ちてしまいます。

しかし作物が 30cm ほどまで育っていれば、落ちても大きな問題はありません。

畑に草を入れる、作物残さを土に還すという技術は、効果が出るまでにある程度の期間が

かかります。少なくとも数年間は投入を継続しないと、土壌改良の効果は出ません。あき

らめずに 低 3、4 作は続けて下さい。うまくいけば、徐々に土が柔らかくなってくるはず

です。

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【10】 有機質肥料 (2)

【10】‐4

高栄養の有機物

高栄養の肥料材料の探し方

落ち葉や草、わらといった植物質主体で作られた堆肥は一般に肥効が弱く、特に小面積で

集約的に栽培される野菜類などでは、もっと栄養価の高い肥料を入れないと期待する収量

を得ることは困難です。化学肥料に頼らずに、こうした高い肥効を得るにはどうしたらよ

いでしょうか。

先進国では、油糧作物の搾油かすに代表される肥料が栄養価の高い有機質肥料として使わ

れています。ナタネ油かすとか、ヒマワリ油かすがそれです。しかし大豆かすに代表され

るように、油糧作物はタンパク質を豊富に含んでいるため、肥料よりもまずは飼料として

使われることが多く、家畜のタンパク源確保で苦労している途上国では、その傾向がさら

に強まるようです。

米ぬか、麦ふすまなど、穀物の精製時に出るぬか・ふすまの類も栄養分の多い肥料になり

ます。しかしこれも途上国では、油糧作物の搾油かすと同じように飼料に回されることが

少なくありません。

先進国では都市から、下水処理場などの汚泥や家畜糞尿、残飯類、食品加工場の残さ、魚

のアラなど、栄養分の多い有機廃棄物がたくさん出ます。これらをまとめて肥料業者が製

品化したり、日本では農協などが堆肥センターのような場所で堆肥化したりしています。

途上国でも都市近郊であれば、先進国型のこうした有機廃棄物の大量発生がみられますが、

肥料にするための二次処理や運搬のメカニズムが整っていないために、それらが農村部で

利用される例は多くないようです。結果として、小規模農家は農場内とその付近で出るも

のを使うしかありません。

主食穀物のぬか・ふすま類は自宅や村落内で出ますが、すでに家畜の餌として利用されて

いるかもしれません。中規模の畜舎があれば、そこから出る家畜糞尿はかなりの量になり

ますから、運搬手段さえあれば十分使えます。漁村に近ければ魚のアラが入手できるでし

ょう。魚のアラの利用法は次節で述べます。

このように土地によって何が使えるかはまちまちです。栄養分を豊富に含んだ廃棄物・副

産物が出る下記のような施設が付近にないかどうか、よく観察するところから始めて下さ

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【10】 有機質肥料 (2)

【10】‐5

い。

精米所・製粉所 → ぬか、ふすま

ジュース工場 → 果実の絞りかす

搾油工場 → 油かす、ケーキ

パン工場 → 製品にならないパン、返品のパン

漁港・水揚げ浜 → 魚のアラ

畜舎 → 家畜糞尿

屠畜場 → 家畜の内蔵や血

食堂 → 残飯

規模の小さい話になりますが、すぐ足元にある栄養豊富な資源が見過ごされていることが

あります。例えば、南アフリカの北東部にはマルーラという在来種の果樹があり、地域の

人々はその果実を搾って自然発酵させたお酒を作るのですが、その搾りかすはほとんど使

われずに捨てられていました。これは立派な肥料の原料になります。中南米では、コーヒ

ーかすが、身近にたくさんあるのではないでしょうか。何もない、とあきらめる前に、ま

ずは「捨てられているもの」を探してみましょう。

高栄養有機物の一次処理

高栄養の肥料原料が入手できたら、肥料にするための一次処理をします。基本的な方法は

次のいずれかです。

第 1 は、堆肥の中に混ぜ込むことです。堆肥に混ぜ込めば、入れた原料が堆肥化して作物

が利用しやすい形になりますし、窒素を中心とした高い栄養分が入るおかげで他の堆肥原

料の堆肥化も促進されるというメリットがあります。むろん、堆肥の肥効は高まります。

第 2 は、土と混ぜてボカシ肥を作ることです。原料のまま畑に入れるよりも、畑の土とあ

らかじめ混ぜておいた方が、作物や土壌とのなじみがよくなります。

こうした使い方以外にも活用法があります。ここでは 2 つ紹介しましょう。

(1)魚のアラの液肥

魚や動物の内蔵類は高タンパクであり、すばらしい栄養分を含んでいますが、常温ではす

ぐに腐敗してしまいます。堆肥に入れることもできないわけではありませんが、水分が多

いなどの難点があります。しかし、材料の 1~1.5 倍の重さの砂糖に漬け込んで密封すると、

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【10】 有機質肥料 (2)

【10】‐6

腐敗することなく発酵が進みます。漬け込んで数週間で、内蔵や骨についた肉がどろどろ

に溶けてきます。

これを 2000 倍ほどに薄めて作物に散布すれば、窒素分の豊富な即効性の高い液肥になりま

す。2000 倍希釈ですから、例えば 20 リットルのバケツに 1 杯作れば 4 万リットル=40 ト

ンの液肥ができる計算です。40 トンの液肥なら、1ha に 2、3 回はまけるでしょう。これな

ら、小面積の園芸農業だけでなく、面積を要する一般作物にも使えるでしょう。

(2)ジュースかすの液肥

ジュースかす類は糖分を豊富に含んでいますので、ドラム缶などにすき間なく詰め込んで

密封状態にして嫌気発酵させれば、1 カ月ほどで乳酸菌が増殖し、常温でも 1 年以上腐敗し

ません。

ジュースかすが入手できない場合は、青刈りしたイネ科の草や作物残さ類でも作れます。

ただし、(1)材料を詰めた時のすき間を小さくするために材料を長さ 2cm くらいまで小さ

く切り刻む、(2)糖分が足りないのでサトウキビを細かくしたものか砂糖を混ぜる、の 2

点が必要です。作る分量によりますが、(1)はかなり大変な作業になります。

出来上がった液肥を約 1000 倍に薄めて畑にまいた結果、「野菜類の葉や根が大きくなった」

「葉が厚くなった」などの報告があり、植物の生育促進に効果的なことが示唆されていま

す。原材料の栄養組成から考えれば、窒素分は、前項の内蔵液肥ほど高くないはずですの

で、乳酸発酵中に生じた酵素類が植物に対して好ましい作用をしているのではないかと推

測されます。

化学肥料の併用

なぜ併用か

有機農業では化学肥料は全く使いません。しかし途上国の農村の実情を考えると、できる

だけ有機農業に近づけながらも、特に導入初期のころは一部に化学肥料に頼らざるをえな

い状況があるのも事実でしょう。ここではそれについて説明します。

野菜作りのような園芸農業の場合、0.1 ヘクタール程度の小面積でもある程度の量が生産で

きます。土壌肥沃度の維持も、工夫すれば自給の有機質肥料でまかなえるでしょう。しか

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【10】 有機質肥料 (2)

【10】‐7

し主食作物になると、話は違ってきます。

例えばトウモロコシの場合、無施肥では収量が 1 ヘクタールあたり 1 トン前後のところが

少なくありません。家族 7、8 人が 1 年間で食べ切ってしまう量が 1 トンほどです。つまり

小農といえども、自給のためだけに、トウモロコシなら 1 ヘクタールという面積に植えな

ければならないわけです。

1 ヘクタールを肥やすのに、栄養分の高い肥料材料を用意するのは簡単ではありません。前

節で述べたような有機の廃棄物類が入手できない地域も途上国にはたくさんあります。

これを有畜複合経営、たとえば養鶏との組み合わせで乗り切ろうとすれば、鶏糞で 1 ヘク

タールを肥やすために 300 羽を飼う計算になります(「営農システム」のユニット参照)。

餌の確保と販路の問題で暗礁に乗り上げる可能性大です。

また 近は、主食作物類の高収量品種が各地に行き渡りつつあり、より小さい面積で同じ

収量を得られることが期待されますが、これも、高い栄養分が供給されなければ収量は上

がりません。作物残さの土壌還元くらいでは栄養補給としては足りません。

このような事情の中で、トウモロコシなどの主食作物に化学肥料が使われる傾向が強まっ

ています。むろん化学肥料だけを連続投入していたら土がダメになっていくことは、この

テキストの冒頭で述べた通りです。有機農業への転換は奨励されるべきです。しかし、化

学肥料をゼロにして、それと同等の栄養分を含む代替有機質肥料をすぐに準備することが

できるかとなると、これもまた難しいといわざるをえない地域が確かにあるのです。

併用の方法

まず、有機農業の も骨太な方針である「有機物の投入」の重要性は、化学肥料を使った

場合でも全く同じです。化学肥料では肥効は得られますが、土壌改良効果や防除効果は期

待できません。化学肥料を使いながらも堆肥や緑肥類をたゆまず投入し続けることが、土

づくりと作物の健全な成育につながります。

次に、化学肥料の使用量に注意して下さい。一般に化学肥料は高濃度なので、少しよけい

に入れるだけでも土壌の栄養バランスが大きく崩れます。栄養バランスの崩れた土で育つ

作物は、病虫害に攻撃されやすくなります。堆肥や緑肥類の投入も一定の肥効があります

から、その分を差し引く形で、規定量よりも少なめに入れ、様子をみるようにして下さい。

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【10】 有機質肥料 (2)

【10】‐8

化学肥料を堆肥材料に混ぜて堆肥化させてから畑に入れる方法もあります。ボカシ肥の手

法を化学肥料に応用したものです。化学肥料の強さが「ぼかされ」、マイルドになるととも

に、堆肥によって有機物がたっぶり入ることになるのも、この方法の利点です。

参考文献

・西尾道徳〔1997〕『有機栽培の基礎知識』社団法人 農山漁村文化協会

・日本有機農業研究会編〔1999〕『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』

日本有機農業研究会

・田中明編著〔1997〕『熱帯農業概論』築地書館

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【10】 有機質肥料 (2)

【10】‐9

演習概要 / 説明

ユニット「3.2.1 土づくり」、「3.2.2 有機質肥料(1)」、「3.2.3 有機質肥料(2)」で学んだ知識を

生かして、自分の地域で考えられる有機質肥料の投入計画を考えましょう。

Instruction

1. 自分の地域の次の条件を確認します。 ① 作物の種類 ② 農地面積

2. 作物と農地面積から、必要な栄養分の目安を割り出します。いままで化学肥料を使っ

ていれば、その量から計算できます。化学肥料を使っていない場合は、ユニット【7】3.1.1「営農システム」(【7】-11)の「作物別の栄養要求量一覧」を参考にしてくださ

い。

3. 支援地域で手にいれることができる有機物を考えます。今まで利用していたものだけ

ではなく、このユニットやユニット【7】3.1.1「営農システム」(に書かれている内容

も確認しながら、できるだけ多くの有機物を書き出しましょう。 4. 「3」で書き出した有機物の利用方法を考えます。利用方法としては、これまで説明し

た、堆肥やボカシ肥にする、直接すり込むなどが考えられます。目的が、肥料効果な

のか、土壌改良なのかを判断基準にどのように利用するか考えます。その際は、ユニ

ット【8】3.2.1「土づくり」(【8】‐7)の「各有機物の土壌の化学性・物理性・生物性

の改善効果」の図を参考にしてください。他にも、現地で昔から実践している有機物

の利用方法があれば、活用しましょう。

Activity 【10】-1 演習【10】-1:

演習タイトル:有機質肥料の投入計画

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【11】 種子の調達

【11】‐1

有機農業の種子

種子の重要性

種子は、小さいものでは 1 ミリ以下のものもあり、植物の体の大きさに比べればとても小

さなものです。しかし、そこにはその植物に関するすべての情報が詰まっています。どれ

ぐらいの大きさに育つのか、どのような実をつけるのか、病気に強いか、気候の変化に強

いかなどは、種子の中にある情報によっておおよそ決められます。そのため、いい種子を

選択して使うということはとても重要です。特に有機農業では、化学農薬や化学肥料に頼

らず、健康な作物を育てることで安定した生産を得ようとするため、その地域の土壌や気

候、栽培方法にあった作物の種子を使うことが大前提となります。

在来種と一代交配種(F1)との違い

種子といっても、その土地の自然の中で適応形質を獲得した在来種(固定種、単種)、自然

界にあるものの形質が一定して現れない雑種、人為的な交配によりある形質を発現するよ

うに調整されているが繁殖能力が低い(あるいはほとんどない)一代交配種(F1)、さらに

それを遺伝子操作で行う遺伝子組み換え種子など、様々なものがあります。

現在農業で使われている種子は、在来種と一代交配種が中心です。一代交配種の優れた形

質が現われるのは、その一代限りです。これは雑種第一代のみに現われる優れた形質(雑

種強勢と呼ばれる)を利用するものだからです。したがって、一代交配種の果実から種子

をとって育てても親と同じほどの成績は期待できません。収量が下がったり、耐病性が弱

まったりしてしまうのです。在来種と一代交配種にはそれぞれ次のような特徴があります。

【11】 ユニット 3.3.1 : 種子の調達

目的:種子の自家生産の具体的な技術と、有機農業にあった種子の供給システムを学ぶ。

目標:

1.種子の自家採種のやり方とその注意点を説明できるようになる。

2.自分の地域の状況に合った種子供給システムを考えられるようになる。

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【11】 種子の調達

【11】‐2

(1) 在来種

① 一代交配種に比べて可食部分の市場性が低く、収量も低い。

② 味や形状、収穫時期が均一ではない。

③ 自家採種で種子の更新でき、種代がかからない。

④ その地域の自然環境への適応力が高いので、厳密に管理しなくても一定の収穫を得

られる。

(2) 一代交配種

① 市場性の高い可食部分が収穫でき、収量も高い。

② 味や形状、収穫時期がより均一。

③ 自家採種できないものが多いので、毎回種子を購入しなければならない。

④ 地域の環境への適応力が弱く、化学肥料や農薬を必要とする程度が在来種より高い。

一般に、在来種は地域環境への適応力が高いので、管理がそれほど厳密でなくても栽培で

きます。一方、可食部分の味や香りはいいのですが、小さく、ふぞろいで、見栄えがよく

ない傾向があります。その結果、一代交配種が広く行き渡っている地域では、市場性が低

くなることが多くあります。

これに対して一代交配種は、灌水、施肥、防除、仕立てなどのすべての面でより高い管理

水準が求められます。どこかで間違えると、期待する収穫が得られないという危険性もあ

ります。種子代はじめ、肥料代、農薬代などの現金支出も伴います。その代わり、うまく

収穫できれば、市場性の高い農産物がたくさん得られます。ハイリスク=ハイリターン型

といえましょう。

先進国の農業では、一代交配種の使用が圧倒的です。在来種はそのよさが見直されつつあ

りますが、既にかなりの期間にわたって一代交配種ばかりを栽培してきたため、遺伝資源

そのものが既に消えてしまっていることも多くあります。そのため、一部の地域に残って

いる地野菜などの遺伝資源を本格的に復活させようとする取り組みが見られます。

途上国でも、緑の革命以来、一代交配種はかなり広まっています。しかし緑の革命の恩恵

を受けなかった地域や、「ハイリスク」を引き受けられない小農は、依然として在来種を栽

培し続けています。「ハイリスク」を引き受けられるだけの蓄えやゆとりがない小農は、失

敗のおそれが少ない道を選ばざるをえません。

次の図は、肥料感応性の高い一代交配種と在来種の違いを示した模式図です。一代交配種

で高収量を得たければ、一定量以上の肥料を入れなければなりません。それができない場

合は、在来種よりも収量が下がってしまうことさえあります(図の【11】-1A 以下の施肥量

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【11】 種子の調達

【11】‐3

の場合)。

図 【11】-1 種子による収量と施肥量の関係

遺伝子組み換え技術

近年、遺伝子組み換え技術が注目されています。農業でも、特定の除草剤や害虫に対して

耐性を持つ作物や殺虫毒素を生成する性質を持つものが遺伝子組み換え技術によって作ら

れており、労働の軽減や収量の増加などのメリットが言われています。

しかし、有機農業においては、遺伝子組み換え技術の使用は認められていません。国際有

機農業運動連盟(IFOAM)を始め、コーデックス有機食品ガイドライン、EU、アメリカ、

そして日本、いずれの有機認証基準でも遺伝子組み換え技術の使用を禁止ています。IFOAM

は、使用禁止の理由として以下の問題点を引き起こす可能性を指摘しています6。

不可逆な負のインパクトを引き起こす

自然界には存在しない、取り除くことのできない生物を広める

農作物、微生物、動物の遺伝子プールの汚染を引き起こす

農場外の生物の遺伝子汚染を引き起こす

生産者と消費者の選択の幅を狭める

生産者がもともと持っていた基本的な権利を侵害し、経済的自立を阻害する

持続的な農業の原則と相容れない実践である

人体への受け入れがたい脅威となる

6 IFOAM 「Position on Genetic Engineering and Genetically Modified Organisms」web page

<http://www.ifoam.org/press/positions/ge-position.html>

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施肥量

一代交配種

在来種

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【11】 種子の調達

【11】‐4

IFOAM の指摘にも見られるように、遺伝子組み換え技術によって、人間が手を加えた新し

い遺伝子が自然界に入ると、予期しなかった結果を引き起こす恐れがあります。例えば、

除草剤耐性遺伝子を持つ花粉が近くの近縁種の雑草と受粉すれば、除草剤に耐性を持った

雑草が生まれる可能性があります。そうなれば、さらに強い除草剤を使わなくてはならな

いことになるばかりでなく、生態系を大きく壊すことにになるでしょう。有機農業におい

ては、IFOAM の「配慮の原理」に見られるように、予測不可能な技術は排除することによ

り、重大な危険を引き起こさないよう行動することが原則です。

遺伝子組み換え技術は、農民の自立の観点からも問題が指摘できます。現在遺伝子組み換

え技術の開発は、少数の大企業が独占している状況です。そして遺伝子組換え作物におい

ては、その数社が種子と農法を握り、農民はそれを買わざるを得ない状況に追いやられて

しまいます。それは、農民の主体性な選択の幅を狭め、彼らを経済的、精神的に自立でき

ない状況を追い詰めることになります。

2001 年、メキシコの辺境2州(オアハカ州とプエブラ州)で農民が所有していた伝統的

なトウモロコシの品種が遺伝子組み換えトウモロコシの DNA に汚染されていた事が

メキシコ環境省と『ネイチャー』誌に掲載された調査論文によって報告された。メキ

シコでは遺伝子組み換えトウモロコシの栽培は禁止されており、特にメキシコはトウ

モロコシの原種が生まれ、現在でも も多くの品種が発見されている地域。このトウ

モロコシ遺伝子多様性の重要な中心地であるメキシコが遺伝子汚染されているとは

警戒すべき事だ。現地の農民が何千年もかけて開発したトウモロコシの品種、そして

トウモロコシの野生原種は、品種改良に必要な世界でも も貴重な遺伝子資源の宝庫

の一つであり、この品種改良が世界の食糧安全保障の基盤を成している。多様な原種

トウモロコシは、世界中で農民や品種改良家が農作物としてのトウモロコシの品質と

生産性を向上するための原材料として使われている。

その後、バイオテクノロジー産業は、この報告を否定するキャンペーンを繰り広げ、

『ネイチャー』誌は、論文の正当性を否定するという異例の対応をとった。しかし、

2002 年、メキシコ政府は、政府独自の調査により原種トウモロコシ群の中に高レベ

ルの汚染を発見したと、改めて確認した。

バイオ技術の支持者は、遺伝子組み換え技術は安全で、精密で、そして予測可能だと

長い間主張してきた。しかし、メキシコでの組み換え遺伝子の流出は、取り締まり機

関あるいは企業が遺伝子組み換え作物を管理し、外部に出さないことに無能であるこ

とを改めて示している。

(参考資料:Institute for Food and Development policy/Food First webpage

<http://www.foodfirst.org/pubs/backgrdrs/2002/sp02v8n2.html> )

Box 【16】-1 メキシコにおけるトウモロコシの遺伝子汚染

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【11】 種子の調達

【11】‐5

種子の自家採種

母体の選び方

自家採種は、優れた特徴を持った親株を選ぶ作業から始まります。色や形、味がいい、収

量が多い、病虫害に強いなど、自分が必要とする形質を選んで、それに合った母体を選択

します。在来種であれば、自家採種を繰り返すごとに徐々に必要とした形質を持った作物

になっていきます。ただし、長い間自家採種を続けていると、かえって近親交配による形

質の劣化や優勢不稔の発現などが起こる危険性もあります。

採種

採種のやり方は、作物によって様々ですので、作物別に説明がある資料を参考にしてくだ

さい。ここでは、作物全般に共通する考え方を説明します。

採種の方法は、繁殖の方法で 2 つに分けられます。種子で繁殖するものと、イモなどのよ

うに栄養繁殖するものです。

(1) 種子繁殖

種子を採るためには、当然は花を咲かせる必要があります。果菜類は、植物体の大きさや

栄養条件によって花をつけ始めます。一方、葉菜類・根菜類は、花をつけるため(花芽分

化)に、必要な外部条件があります。その条件とは、温度と日長です。温度に関しては、

15℃以下(3~8℃が理想)の低温を必要とするものが多いので、熱帯地域では、花をつけ

ることが難しいです。花をつけるための条件を事前に確認し、自分の地域で採種が可能か

を検討しましょう。

種子繁殖は、自家受粉と他家受粉に分けられます。自家受粉は、同じ株(または同じ花)

で受粉が行われることです。一方、他家受粉は、同じ種類の植物の他の株の花粉により受

粉が行われることです。自家受粉と他家受粉の作物の例は以下のとおりです。

① 自家受粉:マメ科、イネ科(ただし、トウモロコシなど一部は他家受粉)

② 他家受粉:アブラナ科、ウリ科、ナス科

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【11】 種子の調達

【11】‐6

種子繁殖作物の採種で注意する点は、他の品種と受粉すること、つまり「交雑」を防ぐこ

とです。特に他家受粉の作物は交雑し易いので、それを防ぐための対策が必要です。以下

に対策の例を紹介します。

① 距離を離して育てる。

② 時期をずらして植える。

③ ビニールハウスや網で覆われた場所で栽培する。

後に具体的な採種のやり方を紹介します。種子繁殖植物の種子のつき方は、作物によっ

て異なり、採種の仕方も違います。次の表は収穫物の状態ごとに種子の取り方を整理した

ものです。

表 【11】-1 種子繁殖植物の採種のやり方

作物の種類 具体例 採種の方法

種子を食べている

作物

米や麦などの穀物

類、大豆など 収穫した種子を播種用に一部保存する。

完熟した実を食べ

ている作物

トマト、スイカ、カ

ボチャなど 収穫した実を追熟させてから種子を取り出

す。 未完熟の実を食べ

ている作物

ピーマン、オクラ、

ナス、キュウリなど

収穫時期のあと、さらに肥大化させ、完熟

させてから採種する。 葉や根を食べてい

る作物

葉菜類、根菜類 収穫時期から花が咲き、種子がつくまでに

時間がかかるので、母体選抜したものを別

の畑に移す。その後、さやがつき、その色

が茶色になって枯れてきたら、刈り取る。

どの作物にしても成熟させてから、採種することが重要です。成熟している種は、基本的

に水に沈みますので、水に浮くかどうかで成熟度を確認してください。ただし、カボチャ

の種は水に浮きます。

(2) 栄養繁殖

栄養繁殖するものは、ジャガイモ、サツマイモなどのイモ類の他、ニンニクやショウガな

どがあります。イモ類やニンニクは、収穫したものをそのまま種として利用できます。ニ

ンニクなどのユリ科の栄養繁殖は、種球を乾燥させて使います。

栄養繁殖の場合で注意する点はウイルス感染です。ウイルスに感染していると、ウイルス

を保持したまま増殖することになります。そのため、ウイルス性の病気が出ていない母体

を選抜します。

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【11】 種子の調達

【11】‐7

乾燥

採種した種子は、すぐに乾燥させる必要があります。種子に湿気が残っていると、腐り易

くなるからです。

種子の大きさや気候によっても、乾燥する速さが異なりますが、ここでは日本で行われて

いる例を紹介します。

果菜類など採種したときに種子が水分を含んでいる場合は、直射日光に数時間当てて、全

体を乾かします。その後、2~3 日間、風通しのいいところで、陰干しして種子の中までよ

く乾かします。日光に当てることは、病害虫を防ぐ効果も期待できますが、熱帯など日差

しが強いところで長時間日光に当てると、高温になりすぎてしまい、その場合は、発芽率

が下がってしまします。温度の上がりすぎには注意が必要です。

葉菜類や根菜類などは、採種した時点ですでにある程度乾燥しているので、風通しのいい

日陰で数日間乾燥させます。

保存

種子の寿命は、作物によって異なりますが、条件を整えても、3 年から 5 年程度です。条件

1. トマト:食べごろの完熟果を収穫し、しばらくおき、やわらかくなってきた果実

から種子を取り出します。果実を切り開き、ゼリー質と種子を搾り出します。種

子のまわりのゼリー質をよく洗い流してから乾燥させます。

2. ピーマン:食べごろを過ぎ、青いピーマンなら赤く十分に熟すまで株につけたま

まおきます。それから収穫し、果実を割って、種子を取り出します。目の細かい

ざるや紙の上で、からからになるまでさらに乾燥させます。種子を洗う必要はあ

りません。

3. ニンニク:地上部が褐色になれば抜きとり、乾燥した天候であれば数日間土の上

に放置したあと、風通しのよい日陰で保存します。

(参考資料:ミシェル・ファントン、ジュード・ファントン著 じか採取ハンドブック出版委員会訳

「自家採種ハンドブック「たねとりくらぶ」を始めよう」)

Box 【11】-2 具体的な採種の例

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【11】 種子の調達

【11】‐8

が悪いと寿命は短くなり、発芽しないものが増えます。そうならないように、以下の点に

注意して、保存しましょう。

(1) 湿度

種子を十分に乾燥させ、湿気のないところで保存しましょう。ビンや缶にいれて、外気を

遮断するように努めます。できれば、乾燥剤を活用しましょう。

(2) 温度

ほとんどの野菜の種子は、5℃前後で保存するのが理想です。できれば冷蔵庫を利用したい

ものですが、無理な場合は、温度が上がらない適当な場所を探して保存しましょう。

(3) 明るさ

種子の寿命を長くするためには暗いところで保存します。暗い色のビンや缶などを利用し

ます。

種子供給システム

2 つの種子供給システム

有機農業では、その地域の土壌や気候に適応している作物を栽培することが基本です。そ

のため、どの種子を使うかは大きな意味を持ちます。昔からの伝統的な在来種がある場合、

その品種はその地域の病虫害に強く、そのほかの自然環境にも適応しているので、農薬を

使わず、また少ない肥料で、健康な作物を育てることができます。しかし、その地域に、

在来種が無い場合は有機農業にあった種子を農民に供給するシステムを考える必要があり

ます。

種子供給システムを考える場合、念頭に置くべきことは、種子に関する 2 つのシステムが

存在するということです。それは、農民を中心としたローカルシステムと公的機関による

フォーマルシステムです。

ローカルシステムでは、農民が与えられた状況にあった作物や品種を選択、栽培し、採種

を行います。採種された種子は、次の栽培や種子交換、ローカル市場での販売などを通し

て、地域内で循環します。一方、フォーマルシステムは、遺伝資源の保存、品種改良やそ

の普及、品質管理などの役割を持っています(図【11】-2 参照)。フォーマルシステムは

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【11】 種子の調達

【11】‐9

基本的に、特許や著作権などと同じように、品種を開発した育成者の権利の保護を要点と

しています。このような知的財産の保護は世界的な潮流ですが、一方で、生産者、特に小

規模農家にとっては追加的な経済的負担の原因となってしまうという一面があります。

図 【11】-2 種子のローカルシステムとフォーマルシステム

(出典:Conny Almekinders『Management of Crop Genetic Diversity at Community Level』Deutsche Gesellschaft fur

Technische Zusammenarbeit (GTZ) 発行 P.6 / 西川芳昭『翻訳 コニー・アルメキンダース著「コミュニティレベ

ルにおける作物の遺伝的多様性管理」』久留米大学産業経済研究会発行 P. 174 を参考に筆者作成)

種子供給システムを考える際は、どちらか 1 つのシステムのみを考えるのではなく、地域

の状況にあわせて、2 つのシステムをうまく融合させることが大切です。

品種登録と保証種子

品種登録

種子供給システムを考える上で、留意しなくてはならないことのひとつは、品種登録につ

いてです。市場を流通する種子の品種登録が必要かどうか、国によって状況が異なります。

それぞれの国で、品種登録制度がどうなっているかを確認する必要があります。

世界的な品種登録の制度は、植物の新品種の育成者等の権利を承認し、保証することを目

的とした植物新品種保護国際条約(UPOV 条約)に基づき設けられています。日本も UPOV

条約に加盟しており、この条約に基づく品種登録制度が種苗法に定められています。

(商業的)生産者

(ハイ・ポテンシャル地域)

育種家

種まき 耕作 収穫

市場

採種

消費ローカルシステム

フォーマルシステム

品質管理

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【11】 種子の調達

【11】‐10

したがって、有機農業の振興のために在来種を活用しようと考えたときは、品種登録をす

る必要があるのかどうか、確認しなくてはなりません。自給用やローカルマーケットで販

売する場合は、品種登録しなければならないケースは少ないでしょう。この場合は、選抜・

自家採種や種子交換会などの種子供給システムを実施できます(図【11】-2 のローカルシ

ステムにおける種子の循環)。しかし、一般の流通、もしくは輸出を考える場合は、自国の

法律をよく確認して、品種登録を検討する必要があるでしょう。

保証種子7

ある品種の遺伝的特性を維持し、また、流通においてその品質を確保するためには、適切

な管理がなされなければなりません。それぞれの作物の種子について、その品種の特質や

品質を阻害するような要因が適切に排除されて増殖されたことを確認することを、「種子の

品種証明」といいます。品種証明のための要件としては、"OECD Schemes for the Varietal

Certification or the Control of Seed Moving in International Trade"(「国際間で流通する種子の品

種証明または管理に関する OECD 制度」)が、国際的な標準として一般的に知られています。

このスキームに基づいて証明された種子は、一般的に「OECD 品種証明」された種子と呼ば

れます。OECD 種子品種証明制度は、次の 7 つのグループで構成されています。この制度で

は、加盟国の少なくとも一カ国で認められている品種が、証明適格品種としてすべての加

盟国で品種証明されることになります。証明適格品種は OECD が発行する"List of Varieties

Eligible for Seed Certification"に掲載されます。

①. Grassese and legumes(イネ科およびマメ科牧草)

②. Crucifers and other oil or fibre species(アブラナ科およびその他の油糧または繊維種)

③. Cereals(穀類)

④. Fodder beet and suger beet(飼料用ビートおよび砂糖用ビート)

⑤. Subterranean clover and similar species(地下茎クローバーおよび類似種)

⑥. Maize and sorghum(トウモロコシおよびソルガム)

⑦. Vegetable(野菜)

また、世界における種子検査等の技術の向上と国際的標準化を目的に設立された国際機関

として、ISTA(International Seed Testing Association:国際種子検査協会)があります8。

種子供給システムの実践例

7 独立行政法人家畜改良センター web page <http://www.nlbc.go.jp/hinshu/shiryo/s3914oec.htm>

8 独立行政法人種苗管理センター web page <http://www.ncss.go.jp/main/gyomu/syubyoukensa/syubyoukensa.html>

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【11】 種子の調達

【11】‐11

ここでは、種子供給システムの例をいくつか紹介します。これらの例を参考に、自分の地

域にどのようなシステムが適しているか考えてみましょう。

(1) 農民による自家採種・選抜

農民が自分で自家採種し、自分が必要だと考える作物の形質を決めて選択します。この場

合の外部支援者の役割は、正しい自家採種と選抜の方法を農民に伝えることです。ただし、

その地域に在来種が存在しない場合は、NGO や種子会社などから在来種の調達ルートを確

保することが、 初の仕事になります。

(2) 種苗交換会

農民同士のネットワークを活用して、その地域により適した種子を選抜していきます。同

じ地域、もしくは他の地域の農民同士で、それぞれが使っている種子を持ち寄り交換する

ことによって種子の多様性を広げます。この場合の外部支援者の役割は、農民間ネットワ

ークの構築と活性化への支援です。

(3) 農民と種子銀行による協働選抜・育種

これは、農民と種子銀行が協力して有機農業に適した種子を選抜・育種していくやり方で

す。種子銀行が所有する種子を農民に提供し、農民が自分の農地で栽培することで適した

種子を選抜・育種します。この場合の外部支援者の役割は、種子の発掘・保存、貸し出し、

栽培結果の情報管理など多岐にわたります。ただしこの場合、種子銀行が対象の地域内に

あることが前提となります。

参考文献

・日本有機農業研究会編〔1999〕『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』

社団法人 農山漁村文化協会

・ミシェル・ファントン、ジュード・ファントン著 自家採取ハンドブック出版委員会訳

〔2002〕『自家採種ハンドブック「たねとりくらぶ」を始めよう』現代書館

・西川芳昭〔2005〕『作物遺伝資源の農民参加型管理-経済開発から人間開発へ-』

社団法人 農山漁村文化協会

・Conny Almekinders 〔2001〕『Management of Crop Genetic Diversity at Community Level』

Deutsche Gesellschaft für Technische Zusammenarbeit (GTZ)

・西川芳昭〔2002〕『翻訳 コニー・アルメキンダース著「コミュニティレベルにおける作

物の遺伝的多様性管理』」久留米大学産業経済研究会

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【11】 種子の調達

【11】‐12

事例概要 / 説明

ENDA(Environment and Development Action)は、1972 年に設立されたセネガルの NGO です。

ENDA は、ジンバブエで、在来品種の種子生産プロジェクトを、農民参加型で行っていま

す。さらに、種子に関するローカルネットワークを組織し、近隣諸国に種子供給事業のノ

ウハウを提供しています。

シンバブエ国内の自然条件の厳しい地域では、在来品種の参加型の種子生産に携わる NGO

は多い。EDNA もその一つで、在来品種種子プロジェクトを実施しています。

ジンバブエの干ばつに襲われる地域では、干ばつに耐性を持ち、早熟で、食味がよく、病

害・鳥害に強く、保存がきき、高価な投入物の必要のない種子が好まれています。しかし、

政府と種子会社による「科学的農業」推進キャンペーンを通じて雑穀よりもそだてやすく

調理しやすいトウモロコシが導入されてしまいました。その結果、ソルガムとヒエ類の遺

伝資源の消失が進みました。

そこで、ENDA は、多くの在来の穀類、豆類、果樹、根菜の検査・分類し、さらに、6,000

家族に供給するための種子生産農地と保管所が設置しました。その後、農業省と協力して、

ソルガムやヒエ類などの在来品種種子生産プロジェクトを実施し、多様な条件に対応可能

な種子の確保を進めています。

この在来品種の種子生産プロジェクトは、農民自身が自分たちの基準を用いて、植付け、

管理、評価を行いました。農民は好意的にこのプロジェクトを受け入れ、協力しました。

それは、プロジェクト計画時から農民の参加を得ていたことや農民自身に彼らの作物栽培

システムの中に雑穀を残したいという純粋な意図があったことによります。さらに ENDA

を中心に ZSAN(ジンバブエ種子活動ネットワーク:Zimbabwe Seeds Action Network)が形

成され、国内はもとより隣接するザンビア、ボツワナおよびモザンビークの NGO による種

子供給事業にノウハウを提供し、南部アフリカ諸国の在来作物遺伝資源の保全と在来食料

作物の種子生産を実施しています。

CASE 【11】-1 事例 【11】-1:

事例タイトル:ジンバブエの種子生産プロジェクトの事例

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【11】 種子の調達

【11】‐13

参考文献

・西川芳昭〔2005〕『作物遺伝資源の農民参加型管理-経済開発から人間開発へ-』

社団法人 農山漁村文化協会

・ミシェル・ファントン、ジュード・ファントン著 自家採取ハンドブック出版委員会訳

〔2005〕『自家採種ハンドブック「たねとりくらぶ」を始めよう』 現代書館

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【11】 種子の調達

【11】‐14

事例概要 / 説明

岩崎政利氏は、25 年ほど前に有機農業を始め、有機農業に向いた種を作りたいという思い

から、自家採種を始めました。現在では約 80 種類の野菜を生産し、50 種類以上の野菜の種

子を採っています。岩崎氏は、ほどほどの母体選抜とやせた土地への定植によって、生命

力のある種子を作り出しています。また自家採種の意義は地域に新しい伝統野菜を作り、

地域の食文化を作り出すことだと言います。

岩崎さんは、自分で育てた野菜から自家採種を 20 年以上続けています。岩崎さんが、自家

採種を始めたきっかけは、25 年ほど前に、体調を崩し、畑にでられない日々が 2 年近く続

いたことです。その原因を、病害虫防除に熱心なあまり、農薬を多用したことではないか

と岩崎さんは考え、有機農業で野菜を育てることを決心します。そして、「化学肥料を使う

農法に合わせて作られている一般の種は、有機農業には合わないかもしれない。有機農業

に向いた種を作りたい」と考え、在来種の黒田五寸ニンジンから自家採種を始めました。

岩崎さんは、今では 50 種類以上の野菜を自家採種しています。岩崎さんが自家採種してい

る野菜の多くは、地元や各地でつくり継がれてきた在来種や種苗交換会などで友人や知人

に種子を分けてもらったものです。

岩崎さんの自家採種の特徴は、母体の選抜と定植する場所にあります。岩崎さんは、母体

の選抜をあまり厳密にはやりません。同じ形質を持った母体ばかりを選んでしまうと、し

だいに生育が悪くなったり、種子が採れなくなったりすることを経験から学んでいくから

です。ほどほどの選び方がいいと言います。次に種子を採るための母体を定植する場所に

ついてです。定植は、畑の隅などのやせた土地が適していて、無肥料の場所にします。そ

うすることによって、収量は少なくても生命力豊かな種子が採れ、反対に、肥えた土地で

は種子はたくさん採れても、発芽力や貯蔵力が低下するそうです。

岩崎さんからは、本当に自分の野菜を愛していることが伝わってきます。「どの野菜も、自

分の納得のいく野菜ができるようになるまでには、種を取り始めて 10 年ぐらいかかります。

長いつき合いが必要ですよ。でも、10 年ぐらいつき合うと、その野菜の欠点や長所がわか

って、その野菜を生かすことができるようになるものです。自家採種をくり返すうちに、『無

農薬で育てたい』とか『丈を長くしたい』とかいった作り手の思いに、野菜がついてくる

CASE 【11】-2 事例 【11】-2:

事例タイトル::「種の自然農園」 岩崎政利氏

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【11】 種子の調達

【11】‐15

ようになる。その人が野菜を使いこなせる関係、野菜と人との素敵な関係ができるんです。

自分で種を採って手塩にかけて育てる野菜は、かわいいですよ。」と岩崎さんは言います。

岩崎さんは自家採種の意義について、次のように述べています。「自家採種の意義は、伝統

野菜を守り継いでいくことだけではなく、地域に新しい伝統野菜をつくっていくことにあ

ります。今は伝統野菜などのない地域でも、よそから来た在来種の種を自家採種しながら

つくり続けていけば、10 年もすれば風土になじみ、やがてその地域の伝統野菜となり、地

域に新しい食文化を生み出す力になるのです。もう一度、地域で種をとることから、地域

の食文化を作りたいじゃありませんか。それに、このままでは種の市場化が進んで、将来

は大企業の特許の種しか買えない事態になりかねません。種を世界の共有物として、世界

中の農民が国を超えて種苗交換したり、種について考えていく時代がきていると思いま

す。」

参考文献

・岩崎政利〔2004〕『岩崎さんちの種子採り家庭菜園』社団法人 家の光協会

CASE 【11】-2

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【11】 種子の調達

【11】‐16

演習概要 / 説明

支援農民の状況を分析し、その状況にあった種子供給システムを考案する。

Instruction

1. 支援農民の現在の種子調達の状況について、以下の点を確認します。 ① 調達先 ② 調達している種子の種類と量 ③ 自家採種している作物の種類

2. 支援地域の農業関係の研究機関や NGO、援助機関の有無を確認します。 3. 自国の品種登録に関する制度、法律を確認します。 4. 上記の内容を踏まえて、どのような形態の種子供給システムにするか考案します。具

体的なシステムとしては、テキスト本文で触れたように、以下のものが考えられます。

ただし、どれか一つだけではなく、組み合わせも検討しましょう。

① 農民による自家採種・選抜

② 種子交換会

③ 農民と種子銀行による協働選抜・育種

Activity 【11】-1 演習 【11】-1:

演習タイトル:種子供給システム考案演習

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【12】 土地準備と水管理

【12】‐1

土地準備

耕起

耕起にはいくつかの効能がありますが、中でも重要なのは、土をほぐして粒の間に酸素を

送り込むことです。特に土づくりがしっかりできていない土では、微生物や小動物が土の

間隙を作ってくれませんし、空気が通らなければ微生物や小動物はさらに減りますから、

悪循環に陥って、土はどんどん固くなります。

かつて焼畑農業が機能していた頃には、土づくりは森という自然が長期間かけて生物の力

でやってくれていましたから、物理的に耕起する必要がありませんでした。今でも、地域、

あるいは農法によっては、耕起と呼べるような作業をしない場合もあります。

たとえば、インドネシア、スマトラ島の南部では、コーヒーとコショウを同時に栽培して

いる人々がいますが、そこでは耕起らしい耕起はしません。種まきは棒で深さ 1cm ほどの

穴を開けるだけ、中耕除草は熊手のような柄の短い農具で軽く表面をかく程度です。

しかし、常畑で集約的に作物を栽培するとなると、ビニールハウスの中で何年もかけて完

璧な土づくりをした場合などを除いて、やはり耕起するケースが圧倒的です。常畑での集

約的耕作では、森の土のように、自然が土の状態を回復してくれる過程がないので、人間

がそれに代わってやらなければなりません。

湿潤な地域では、耕起の必要性が高まります。第一に、露地栽培の場合は、頻繁に雨が当

たることで土が次第に固められていきます。日本などではビニールハウスが多用されます

が、これは、雨をよけるということも大きな目的のひとつとなっています。

目的: 植える前の畑の準備と水管理の技術を理解する。

目標:

1. 耕起と畝の役割を説明できるようになる

2. 土の保水力とため池をめぐる技術を説明できるようになる。

参照 Job Aid: ため池作りプロセスチャート

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【12】 ユニット 3.4.1 : 土地準備と水管理

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【12】 土地準備と水管理

【12】‐2

第二に、耕起は除草の効果も期待できます。土自体はそれほど固くなくても、雑草を取る

必要から耕起する人が少なくありません。逆に乾燥した地域では、雑草との戦いがそれほ

ど厳しくないので、不耕起栽培ができる可能性は高くなります。

一方、熱帯多雨地域で耕起を行うと、土壌有機物の消耗を早めたり、土壌浸食を進めたり

する危険性があります。そのため、作物ごとに、どの程度の耕起をすべきかを考えて栽培

する必要があります。果菜類などの移植栽培を行う作物や種が大きく芽生えの大きな豆類

などは不耕起でも栽培ができる可能性があります。

うね

うねの働きと使い方は環境によって違います。湿潤で水はけの悪い土壌なら、作物はうね

の嶺の部分か嶺より少し下の、法面の上方に植えます。この場合、うねは水はけをよくし、

酸素の通りをよくします。

乾燥した地域で水持ちの悪い土壌なら、作物はうね溝の底の部分に植えます。両側に盛り

土の土手があることによって水分の蒸発が抑えられ、少ない水が有効に使われるからです。

大型の作物、例えばヤムとかバナナなどを植える場合は、筋状のうねではなく、マウンド

状の小山を作ることもあります。湿潤な地域ならばその頂上に植え、半乾燥地域ならその

もくぼんだ部分に植えます。

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【12】 土地準備と水管理

【12】‐3

浸食防止

多雨地域では雨による土壌浸食が、乾燥地域では風による土壌浸食が起こる可能性があり

ます。土壌浸食は、土地表面のやわらかい土をそぎ取ります。そのため、せっかく土づく

りを行っても、土壌浸食が起これば、効果は期待できません。特に、中山間地域の小規模

農民は、山の斜面を畑としている場合が多く、土壌浸食の被害に受け易い状況にあります。

有機農業では、土づくりによる団粒構造の形成や作付け系体、栽培方法など包括的に土壌

浸食を防止します。以下に具体的な土壌浸食対策を紹介します。

(1) 不耕起・半耕起栽培

耕さない、または少しだけ耕すことで、表土を保ち、雨や風による浸食を防ぎます。

(2) マルチ・被覆作物

草などのマルチや被覆作物で土面を覆い、雨や風が直接当たらないようにします。

(3) 等高線栽培

斜面の等高線に沿って水平な畑を作ることによって、水が急激に流れることを防止

します。さらに各畑の斜面側に、豆科の作物や牧草、樹木などを植えると、土壌流

出防止の効果が高まります。

(4) 排水溝

斜面栽培をしている場合、そのままでは、雨水が畑の上を流れてしまうため、畑に

雨水の通り道ができないように、排水溝を作ります。

水管理

言うまでもありませんが、作物は水がなければ育ちません。農民は長い間、水をどのよう

にして作物に供給するかに知恵を絞ってきました。水の確保に成功した場合、農業生産は

そうでない場合に比べて大きく伸びます。

水管理の方法は、天水か灌漑かで二分されます。それぞれの水管理について説明します。

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【12】 土地準備と水管理

【12】‐4

天水栽培の保水技術

天水農業では、雨が降ることが水供給のすべてですから、人間ができることには自ずと限

界があります。そんな中でも、以下のようなことが考えられます。

(1) 土の保水力の向上

降った雨水は一部が土中に浸透し、一部が地面の上を流亡していきます。土中に浸透した

水は、土中を流れていきます。土の保水力とは、染み込んだ水分を流さず、土中につかま

えておく力のことです。

保水力を高めるにはどうしたらいいでしょうか。まず、土の有機質含有量が多いと保水性

が高まります。このテキストで既に学んだ、有機物の投入による土づくりをできるだけ進

めることが保水力の向上に結びつくのです。

次はマルチです。水は地下浸透に加えて空気中に蒸発していきますが、マルチで土面を覆

うことでこの蒸発量を減らすことができます。マルチの具体的な方法については、ユニッ

ト「3.5.1 生育管理」の、雑草管理の節を参照して下さい。

(2) 作付けの工夫

季節が雨季と乾季に分かれている場合、普通に考えれば、乾季には天水農業はできそうに

ありません。しかし、前項で説明した保水技術を取り入れるなどして雨季の 後の雨水を

畑の中に長くとどめておき、しかも早く収穫できるタイプの作物を雨季の 後に植えれば、

乾季の早い時期に 1 作収穫することが可能になることもあります。比較的早く収穫できる

のは葉菜類や一部のマメ類などでしょう。

小規模灌漑

一口に灌漑といっても、技術にはさまざまなものがあり、それらの適用環境、適用対象も

またさまざまです。ここでは、小規模の畑作で使える、ため池と節水灌漑に絞って説明し

ます。

(1) ため池の設計

川や泉、あるいは灌漑用水など、水源が近くにある場合は問題ありませんが、そうでない

地域もたくさんあります。そんな場所でも、ため池を作って雨水を溜めれば、小規模な灌

漑畑作ができます。数メートル四方の小さなため池なら、面積を要する主食穀物類の畑に

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【12】 土地準備と水管理

【12】‐5

灌水するには絶対量が足りませんが、5 アール程度の野菜栽培などには使えるでしょう。

ため池の技術的ポイントは 2 つです。1 つは池の形をどうするかです。大きさと、蒸発・地

下浸透をどう防ぐかが 大の問題でしょう。大きさは、水の必要量と集められる量の両方

から検討します。一般には大きい方が水がたくさん集まっていいのですが、池を掘るのは

重労働ですし、池の面積が大きくなれば蒸発も増えます。

蒸発を減らすには屋根をつけるのがよいですが、これには経費がかかります。ビニールシ

ートが手に入れば、水の表面に浮かべておくだけでも効果があります。ビニールシートの

代わりにココナッツの殻などを一面に浮かべるというアイディアもあります。

地下浸透を防ぐには、内壁の表面を何かで塗るライニングが有効です。掘った穴の内側に

ブロックを積み上げてからモルタルを塗れば非常にしっかりしたものになりますが、これ

も経費がかかります。付近で粘土が手に入るならば、粘土を塗るだけでもかなりの浸透防

止効果があります。

ため池のポイントの第 2 は、どのようにして水を集めるかです。これは、ため池の位置を

どこにするかで大方が決まります。日頃から雨の時の水の流れ方をよく観察しておきまし

ょう。水は高い所から低い所に流れますから、まとまった量の雨水が集まる低めの場所が

どこかをよく見極めて下さい。ここで位置を間違えると、せっかくの池に水が集まりませ

ん。

池を「掘る」労力を省くために、土のうを 4、5 段積み上げ、内部にビニールシートを敷き、

池代わりにする方法もあります。ただし、この場合は「池」が地面よりも高くなりますの

で、流亡水を集めることができません。他の水源の水をポンプなどで入れるか、スコール

のような豪雨で水を満たすかになります。

後に、ため池では子供が溺れる事故が起きる可能性があることを覚えておきましょう。

各地で悲劇が起きています。あり合わせの材料で周囲にフェンスをめぐらせて簡単に入れ

ないようにするといった工夫が必要です。

(2) 水の引き方

川などの自然水源やため池に集めた水を畑までどうやって運ぶか、について考えてみまし

ょう。自分でため池を作る際には、まずは水を集めるのに都合のよい場所を決めるのです

が、そこが畑より高ければ、高低差で畑まで水を引けますから理想的です。

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【12】 土地準備と水管理

【12】‐6

畑まで水を引くには、ポリ管のような資材を使うか、なければ水路を掘ることになります

が、水路の場合はライニングしなければ途中で水が地下浸透して失われていきます。むし

ろ、小規模のため池から小規模の畑に入れる場合は、ため池を畑のすぐ近くに掘って、バ

ケツのようなもので汲み上げて利用する方が、労力はかかりますが、かえって簡単で実践

的かもしれません。

もし何らかの事情でため池よりも高い畑、それも数十メートル以上離れた畑で水を使う場

合は、何らかの揚水技術が必要になります。ポンプ類はエンジンポンプから足踏みポンプ、

手動のポンプまでいろいろありますが、いずれもかなりの経費がかかります。

(3) 節水灌漑

特に水に不自由している地域では、苦労して集めた水をどう効果的に作物にかけるかが重

要です。かけ方を間違えると、せっかくの水がほとんど作物には使われずに失われてしま

うという結果になってしまいます。

たとえば、スプリンクラーはどうでしょう。水が余っているような湿潤な場所なら構いま

せんが、使える水量に限りがある半乾燥地域のような地域ではあまり勧められません。ス

プリンクラーは空気中にしぶきを飛ばすので、かなりの量が蒸発してしまうからです。

イスラエルで開発された点滴灌漑は、代表的な節水灌漑の方法といえましょう。パイプに

開けられた小さな穴から水が少しずつ滲み出します。難点は穴が目詰まりを起こしやすい

こと、パイプの入手が必ずしも容易ではないこと、ある程度の経費がかかることです。

そうした資機材が入手できない場合の節水灌漑の代表的な方法はマルチです。マルチで土

面を何かで覆うことで水の蒸発を防ぎます。マルチ資材が草のような有機物の場合は、上

から水をかけることもできます。

もう一つ、大切なのは灌水量の調整です。根が吸い上げられる水の量はわずかずつなので、

浴びるほど水をかけても、地下浸透するだけで無駄になってしまいます。作物がよく育つ

低の灌水量を見極めるという作業をしないまま、大量の水をかけているケースが少なく

ありません。畑の一角で試験的に、1 うねごとにバケツ 1 杯、2 杯、3 杯、と灌水量を変え

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【12】 土地準備と水管理

【12】‐7

てみて、その生育をよく観察し、 適の灌水量を決めて下さい。

(4) ため池と養魚

魚が販売できる地域ならば、ため池にティラピアなどの魚を飼って養殖をするのも、現金

収入の道を増やすことにもなってよい方法です。池の水は魚の糞などで養分が増え、灌漑

水としてもすぐれたものになります。

熱帯地域でのティラピアの養殖は、家畜の糞尿などの有機物を時々入れると水中のプラン

クトンが増え、魚はそれを食べて成長・繁殖していきます。ベトナムなどでは、池の上空

に小さな家畜小屋を建て、家畜糞尿が下の池に落ちるようにした複合営農が有名です。た

だし、水温が 18 度以下になる期間は、ティラピアは活動を停止し、餌もほとんど食べませ

んので、有機物の投入を控えます。プランクトンが増えすぎると、そのプランクトンが死

んだときの死骸(有機物)の分解で、池の水が酸素欠乏状態になってしまうからです。

腕をひじくらいまで水中に入れた時、てのひらがよく見えないくらいまで緑色が濃くなっ

たら、それが限界と考えて下さい。そうならないうちに、池の水の一部を灌漑に使い、新

しい水を足します。

南アフリカ・リンポポ州の JICA 開発調査では、池で養殖したティラピアをそのまま販売す

ることはせず、複合農業の鶏の餌にしました。ティラピアを人間が消費するサイズにまで

大きくしようとすれば、かなりの時間とそれなりの栄養補給、養殖密度の管理が必要です。

しかし、鶏のタンパク源ならば小さくても構いませんから、おおざっぱな管理で間に合い

ます。

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【12】 土地準備と水管理

【12】‐8

演習概要 / 説明

現地でため池を新たに作り、利用する場合の計画を考えます。

Instruction

1. 支援地域を想定して、以下の手順で、ため池を作る場所を考えます。 ① 畑の場所とため池の仮予定地を入れた付近の簡単な地図を描く ② 雨水の流れる道筋を考え、集水域と水の道を地図に加筆する ③ ②をもとに、まず、水がよく流れ込む場所に、ため池予定地を定める ④ その予定地から畑までの水を引く方法を検討する。水を引くことに問題がある場

合は、水がよく流れ込む場所という条件を保ちながら、ため池の位置を修正する。

2. 建設するに当たっては、以下の点を検討します。

① 蒸発散を防ぐ方法(屋根をつける、ビニールシートやココナッツの殻を浮けべる

など) ② 浸水を防ぐ方法(ブロックを積上げてモルタルを塗る、粘土を塗るなど) ③ 事故防止のためのフェンスを設置の有無

3. 必要であれば、以下の点について管理方法を検討します(特にグループで利用する場

合)。 ① 水を利用する頻度や量 ② 日々の管理業務の分担(蒸発散防止のビールシートを浮かべる順番など) ③ メンテナンスの分担(池に溜まる土砂の排出作業など)

Activity 【12】-1 演習【12】-1:

演習タイトル: ため池設計演習

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【13】 生育管理

【13】‐1

栽培方法

播種

種が発芽するには、水、温度、酸素の 3 つの条件が必要です。光を必要とする植物もあり

ます。条件がそろうと、種の表面からの水分の吸収とともに発芽が始まります。このため、

この 3 つの条件を適切にそろえるための種の播き方について、以下の点を検討してくださ

い。

(1) 直播か、育苗か

大きい種子は直播し、小さい種子は苗を育ててから定植するのが基本的な考え方です。た

とえば、トウモロコシや豆類は直播ですし、トマト、キュウリ、キャベツは苗を育てるの

が一般的です。ただし、大根やニンジンなどの直根類は、種子は小さいですが、曲根や岐

根を避けるために、直播です。

管理のやり方によっても直播か、育苗すべきかが変わります。粗放的な管理をするのであ

れば、通常育苗する作物でも、直播で栽培することもあります。

(2) 播く深さをどれぐらいにするか

通常は種の直径の 2 倍程度の深さに播きます。そのため、トマトやキャベツなどの小さい

種の場合は、土を少しかぶせる程度になります。深すぎるよりは浅いぐらいの方が発芽率

は上がります。ただし、乾季中や乾燥地域では、浅すぎると水の蒸発量が多くなって水分

が足りなくなり、発芽率が下がることがあります。その場合、ワラや新聞などで覆い、直

射日光と乾燥を防ぐ工夫が必要です。

播き方は、すじまき、ばらまき、点まきがあり、作物によって使い分けます。種の大きい

【13】 ユニット 3.5.1 : 生育管理

目的: 生育管理の基礎となる考え方と実践方法を習得する。

目標:

1. 播種、育苗、定植、仕立てのやり方を説明できるようになる。

2. 自国の状況にあった雑草管理のやり方を考えられるようになる。

1

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【13】 生育管理

【13】‐2

野菜はすじまき、種の小さい野菜はばらまき、大きく育つ野菜は畑に直接点まきをするの

が一般的です。

育苗・定植

トマトやピーマン、キャベツなど多くの作物で、苗を作って畑に定植する栽培方法が行わ

れています。それは以下のようなメリットがあるからです。

① 管理された環境の中で、抵抗力の弱い苗を健康に育てることができる。

② 間引きなどにかかる労力を低減できる。

③ ある程度大きくなってから苗を定植すると、雑草よりも先に育ち、雑草に負けない。

④ 育苗中も、本畑では他の作物を育てることができ、土地を有効活用できる。

苗を植える場所を「苗床」といいます。健康なよい苗を作るためには、苗床の環境を整え

ることが重要です。熱帯地域で注意したい点は、日射が強いので、適度に光を調整できる

ように屋根をつける工夫をするということです。また苗床の土には、肥料成分を適度に含

み、通気性や排水性、保水性がよく、病害虫の発生の恐れがないものを使いましょう。

次によい苗の見分け方です。作物にもよりますが、一般的によい苗は以下のような特徴を

持っています9。

① 葉が横に十分に広がり、葉の緑があざやかである。

② 細根が密に発達し、しっかりした根ばりを形づくっている。

9 伊東正〔1993〕『野菜』実教出版株式会社 P48,49

1. トマト:苗床にばらまきする。 1cm²に 1 粒ぐらいが適度。

2. キャベツ: 苗床に、5cm 間隔の溝に 1cm 間隔にすじまきする。

3. キュウリ:苗床に、2cm 間隔の溝に 1cm 間隔にすじまきする。

4. トウモロコシ:一箇所に 3 粒ぐらいずつ、畑に直接、点まきする。

(参考資料:日本有機農業研究会編『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』)

Box 【13】-1 播種の具体的なやり方

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【13】 生育管理

【13】‐3

③ ウイルス病やその他の病害虫の被害を受けていない。

この条件をできるだけ満たしているものを選んで、畑に定植します。定植の際は、根を傷

めないように 1 株ずつそっと掘り出します。いつ定植するかは作物によって異なります。

たとえばキャベツであれば、葉が 4~5 枚になったころに定植します。トマトの場合、日本

では、葉が 1~2 枚のころに一度鉢に移植し、50~80 日後に畑へ定植するのが一般的です。

また同じ作物でも、気候や栽培方法の違いで定植の時期は異なります。

仕立て

枝やツルが何本もでてくる野菜はそのままにしておくと枝や葉が増えすぎてしまい、日当

たりや風通しが悪くなります。これは病気の発生につながりますし、根から吸収した貴重

な栄養が、葉や茎を繁茂させるためだけに使われる無駄を放置することにもなります。

このため、余分なわき芽を摘み取る「芽かき」や、茎や枝の先端にある芽を摘み取る「摘

芯」が必要になります。これらの作業はハサミは使わずに手で行います。ハサミを使うと

病気を感染させる恐れがあるからです。

また、質のいい実を収穫するためには、形の悪い実や傷・病害虫のついている実を摘み取

る「摘果」も必要です。そのままにしておくと栄養分が分散してしまい、すべての実の質

が低下してしまいます。

具体的なやり方を、日本でのトマト栽培を例に見てみましょう。トマトの場合は、主枝と

側枝の間からわき芽がでてくるので、小さいうちに摘み取ります。6 から 10 段ぐらいで収

穫するのが、一般的ですので、それよりも上にある枝の先端にある芽は摘み取ります。実

の数は、一段に 4 から 5 個くらいが適当です。それを目安に生長の遅いものや形が悪い実

は摘み取ります。

仕立ての仕方も作物や目的によって変わります。作物ごとの基本的なやり方を理解し、試

しながら、目的に応じた自分のやり方を、作っていくことが大切です。

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【13】 生育管理

【13】‐4

雑草管理

雑草管理

有機農業では除草剤を使わないので、特に初期の雑草取りは大変な作業です。しかし、有

機農業には、雑草を取り除くだけではなく、雑草の利点を生かして上手に共生しながら省

力化を図る技術があります。

そもそも雑草が繁殖することで起こる問題とは何でしょうか。

(1) 雑草には養分と水分の吸収力が農作物よりも強いものが多い。そのため、農作物が雑草

との競合に負けてしまう。

(2) 農作物よりも大きくなる雑草に光の奪い合いで負けてしまう。

(3) 作物にとって有害な病害虫の媒介源になったり、その生息場所になる。

(4) 雑草自体が農作業の妨げになる。

一方で、実は雑草には以下のようなメリットがあります。

(1) 農作物の根では届かない深さにある養分や水分を表層に吸い上げる。

(2) 雑草の根が土を耕して、やわらかくする。

(3) 雑草が病害虫を引きつける結果、作物への被害が減る。

(4) 堆肥の材料や家畜のエサに活用できる。

したがって大切なのは、どのように雑草の害を 小限に抑え、メリットを生かしながら、

雑草と付き合っていくかを考えていくことです。

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【13】 生育管理

【13】‐5

具体的な方法 ここでは、除草剤を使わない雑草対策の具体的な方法を紹介します。

(1) 耕す・残す

播種や定植の直前や、生育の途中で土を軽く耕すことで作

物と競合する雑草を退治することができます。高温多湿の

熱帯地域では、一般に作物の生育よりも雑草の生育の方が

早いですから、作物が小さい、生育期間前半の中耕は必須

といえます。

ただし、畑にあるすべての雑草を取り除くべきかどうかは

よく考えなければなりません。雑草の利点の項で述べたよ

うに、雑草には水分や養分を保持したり、害虫を作物から

引き離しておく働きがあります。加えて、中耕は重労働で

すから、 小にとどめられればそれにこしたことはありま

せん。

まず作物のすぐ近くに生えようとしている雑草は、栄養分

や水分、光が作物と競合しますからまめに取り除きます。

それ以外の場所、作業する人が歩く通路や周囲の部分は草

を残しておきます。どこを取り除き、どこを残すかは、作物の種類、草の種類、環境によ

って違ってきますので、試験を繰り返して 適な方法を見出して下さい。

たとえば、地面を這うように広がるツル性の雑草は、たとえ作物から多少離れていてもし

っかり除草しておかないと、あっという間に作物の近くまで伸びてきて作物にダメージを

与えます。一方、スッと上に伸びて葉の幅も狭いタイプの草なら、そうした被害はさほど

大きくありませんから、草の効用を 大限に生かせます。バナナや果樹などの大きな作物

ならば、草をほとんど抜かない方がいい場合さえあります。

(2) マルチ

マルチは、ワラや落ち葉などを作物の周りに敷き詰めることによって土面を覆い、土中の

水の蒸発を抑えたり微生物群の住処を確保するなどの効果があります。同時に、日光を遮

りますので、雑草の発生も防ぐことができます。

マルチの素材は、石から草、ビニールまでさまざまです。石マルチは、雨量の少ない地域

で見られることがあります。夜間、石の表面に結露した水分が石の下から地面にしみ込ん

で水分を補給する機能も期待できるためです。石がゴロコロしていて作業しにくいとか、

[写真] 雑草を残した状態の

ニンジン栽培(沖縄県・読谷

村)このように雑草が多いと、

作物が負けてしまうのではな

いかとみる人が多いかもしれ

ないが、生産者によると、これ

で問題ないという。

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【13】 生育管理

【13】‐6

機械化が困難、というデメリットがあります。

草マルチは も一般的なマルチで、各地に見られます。前作の残さを利用したものから、

畑外の草類を運び入れて敷き詰めるもの、青刈り用の緑肥作物として植えたものを刈った

後、すき込まずにそのままマルチにする場合、と方法はさまざまです。クローバーやレン

ゲなどの被覆作物は、生きた草マルチといえます。

こうした有機物をマルチにする場合の 大の利点は、 終的には分解されて土に還り、土

づくりに貢献することでしょう。デメリットは、畑外から草を持ち込む場合などは大変な

労力がかかることです。

ビニールマルチは、日本などでは野菜栽培に多用されています。マルチャーと呼ばれる機

械でかけることができるので、草集めのような労力はいりません。ただ、ビニールは分解

されないので、使い終わったら畑から出して廃棄する必要があります。環境への影響を考

慮すると廃棄の方法は注意が必要です

(3) 家畜の利用

鶏や牛などの家畜に雑草を直接食べさせるやり方です。囲いを設けてそこに家畜を放した

り、ある長さの縄で杭などにつないでおくことなどで行動範囲を制限することで、その場

所が除草されます。この類で日本では「アイガモ農法」という、水田にアイガモを放して、

除草、害虫駆除、施肥の効果を同時に期待するやり方が有名です。

参考文献

・日本有機農業研究会編〔1999〕『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』

日本有機農業研究会

・金子美登著〔2003〕『絵とき 金子さんちの有機家庭菜園』家の光協会

・伊東正著〔2002〕『野菜』実教出版株式会社

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【14】 病害虫対策

【14】‐1

病虫害対策

化学農薬の問題点

農業は、自然には存在しない生態系を人工的に作り出します。特に慣行農業では、単一作

物の連作や化学肥料の使用によって、自然界のバランスが著しく崩れてしまった環境をつ

くっています。バランスの崩れた生態系では、病虫害の発生が多くなり、さらに化学農薬

に頼らないと作物が栽培できなくなってしまいます。化学農薬には次のような問題が指摘

されています。

(1) 自然の生態系の破壊

自然界では、様々な微生物や小動物が存在し、特定の病害虫が大量発生しないように、

バランスが取れた生態系ができています。しかし、化学農薬を使用すると病害虫以外の

生き物も死滅させ、バランスの取れた生態系を壊す恐れがあります。生態系のバランス

が壊れると特定の病害虫が大量発生する可能性が高まります。

(2) 生産者の健康被害

化学農薬は、病害虫にとって毒であるだけでなく、人間にとっても有害です。使用方法

を間違えれば人間にも健康被害をもたらします。

(3) 耐性を持った害虫や病原菌の発生

農薬の使用によって、一時的には病害虫を駆除できても、何度も使用することによって、

その農薬に耐性を持った病害虫が出現します。そうなるとさらに強い農薬を使わなくて

はならず、(1)や(2)の問題を拡大させる恐れがあります。

【14】 ユニット 3.5.2 : 病虫害対策

目的: 有機農業の病虫害対策の考え方を理解し、実践的な防除技術を学ぶ。

目標:

1. 病虫害対策の基本的な考え方を説明できるようになる。

2. 有機農業における病虫害対策の方法を説明できるようになる。

3. 自分の地域にあった病虫害対策の方法を考えられるようになる。

参照 Job Aid: 病虫害対策記録シート

1

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【14】 病害虫対策

【14】‐2

病虫害防除の基本的な考え方

有機農業では、化学農薬を使わずに、病害虫の被害を回避します。具体的な方法に入る前

に、病害虫がなぜ発生するのか考えてみたいと思います。病害虫は、次の 3 つの条件がす

べて満たされたときに発生します。

(1) 病原菌、害虫が存在する。

(2) 作物が病害虫に感染しやすい状態にある。

(3) 温度や湿度などの環境が病害虫の繁殖に適している。

したがって、この 3 つの条件がそろわないように対策を採ることが、病虫害の防除という

ことができます。慣行農業では、上記(1)に対して、化学農薬を使い、病害虫を殺すことに

よって、被害を減らしてきました。しかし、化学農薬にはすでに述べたような問題があり

ます。有機農業では、化学農薬を使わずに様々な方法を組み合わせて、上記の(1)、(2)、(3)

の条件がそろわないように、病虫害の防除法を考えます。

(1)-a

具体的な防除方法

それでは、病虫害の防除の具体的な方法を紹介します。ただし、病気や作物の種類、気候

や土壌などの地域の状況によって、病虫害防除の方法は様々です。いろいろな方法を試し

て、自分たちのやり方を生み出す姿勢が重要です。

(1) 病虫害に対抗できる強い作物を育てる。

病害虫に対抗できる強い健康な作物を育てます。具体的には、以下の方法で実施します。

① 土づくりを通して土中の養分バランスを整えることによって、健康な作物を育てま

す。特に窒素の与えすぎは作物を軟弱にし、病害虫への抵抗力が低くなります。

② その土地の病虫害に強い品種を選び、栽培します。

(2) 多品目を栽培する。

輪作や間混作による多品目栽培によって、病虫害に対して、以下の効果が期待できます。

① 養分の消費の偏りを防ぎ、土中の養分バランスを保てます。そのため、病虫害に強

い健康な作物を育てることができます。

② 特定の病害虫が、増殖することを防げます。

③ マリーゴールドやミントなどは、それ自体に病虫害を防ぐ作用があります。

④ 麦やクローバーなどを畑の周りに植えると、害虫の天敵を集めます。

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【14】 病害虫対策

【14】‐3

(3) 天然農薬を活用する。

ニンニクや唐辛子など、生態系や人体に毒性の少ない材料で作られた天然農薬によって、

病害虫の被害を回避します。

(4) 天敵を利用する。

天敵生物が増える環境を作り、害虫を減少させます。

(5) 拮抗微生物を活用する。

拮抗微生物とは、抗菌性物質や酵素などを産生して病原菌の生育を阻止する微生物のこ

とです。有機農業では、堆肥の投入や有機マルチの利用などで拮抗微生物を増やし、病

原菌の増殖を抑えます。

(6) 病虫害が発生しにくい栽培環境を作る。

栽培密度を粗くすることで日当たりと風通しをよくし、作物が健康に生育する環境を整

えます。それによって病原菌の発生を減らすことができます。

然界の土づくり

世界的に環境への関心が高まる中、生産性の維持を図りつつ環境にも配慮した、病虫

害防除法としての「総合的管理技術」が注目を集めています。これは、通常 IPM

(Integrated Pest Management)と呼ばれ、従来の化学的防除(農薬)だけでなく、物

理的な防除(熱水消毒など)、生物的防除(天敵、有用微生物など)、耕種的防除(抵

抗性品種など)を組み合わせる技術です。IPM では、複数の手段を相互に上手に組み

合わせることにより、病虫害の密度を制御し、環境への影響を極力少なくしながら、

生産性の維持を図ります。有機農業では化学農薬は原則使わないことになっています

ので、IPM は減農薬栽培技術として位置づけられます。ただ、IPM を構成している個々

の技術の中には、有機農業にも活用できるものがあります。

(参考資料:農林水産研究開発レポート No.12(2005) 『病害虫の総合的管理技術』)

Box 【14】-1 病虫害の総合的管理技術(IPM)と有機農業の違い

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【14】 病害虫対策

【14】‐4

天然農薬・天敵利用

天然農薬

化学合成した農薬(化学農薬)ではなく、自然素材を原料に作った農薬を天然農薬といい

ます。天然農薬には化学農薬と比べて、次のようなメリットとデメリットがあります。

(1) メリット

① 生態系を破壊する心配が少ない。

② 身の回りにあるものでつくれる(コストが安い)。

(2) デメリット

① 効果が弱いので、こまめに散布する必要がある。

② 材料や作り方によって、効果にバラツキがある。

次に、天然農薬の具体例を説明します。ここで説明しているものは、あくまで例です。い

ろいろと工夫しながら、自分の地域と栽培作物に合った天然農薬を作り出してください。

特に、昔から伝わっている伝統的な天然農薬などは、その地域の病害虫に効果的なものが

多いので、試してみましょう。

(1) 木灰・木炭

① 効果

防虫・防菌効果があります。散布によって葉の表面がアルカリ性となって、病害虫

が寄り付きません。また苗床の土壌消毒として利用できます。作物へのカリ分の供

給という効果もあります。

② 材料・作り方

木灰 1kg と木炭 1kg に水 3 リットルの加えて、混ぜます。それを 2 日間置いて、完

成です。

③ 使い方

防虫、防菌剤として使用する場合は、水 1 リットル当たり 15g の上記混合物を混ぜ

て、散布します。土壌消毒用の場合は、薄めずの苗床に散布します。

(2) ニンニク

① 効果

防虫効果があります。特にハダニに効果的です。

② 材料・作り方

水 1 リットルにすりつぶしたニンニクを 1 玉加えて、混ぜ合わせます。それを布で

こして完成です。

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【14】 病害虫対策

【14】‐5

③ 使い方

上記のニンニク液を水で 5 倍に薄めて、葉面に散布します。

(3) 唐辛子

① 効果

殺虫や防虫効果があります。モザイク病やリンモン病などの病気にも効果がありま

す。

② 材料・作り方

唐辛子を数日天日干しにします。乾燥した唐辛子一握り分に、熱湯約 1 リットルを

注ぎ、丸 1 日起きます。これを布でこして完成です。石鹸を少量(5g程度)加え

ると、作物や病害虫に付着しやすくなり、効果が長持ちします。

③ 使い方

薄めずにそのまま葉面に散布します。

(4) タバコ

① 効果

アブラムシやアオムシなどの害虫に対する殺虫効果があります。

② 材料・作り方

水 1 リットルにタバコ約 5 本をほぐして半日漬けます。水が茶色に染まったら、布

でこして、石鹸少量を加えて完成です。

③ 使い方

薄めずにそのまま葉面に散布します。トマトには使用しないでください。

天敵利用

自然の生態系の中では、強い虫が弱い虫を食べるという連鎖があります。食べられる虫の

立場から、自分を食べる強い虫のことを天敵と呼びます。天敵が相手を「食べる」とは限

らず、寄生しながら相手を殺す場合もあります。農作物に被害をもたらす害虫にもこのよ

うな天敵がいます。

こうした害虫の天敵を人為的に畑で増やし、害虫を殺してもらって農作物への被害を防ぐ

のが天敵利用です。化学農薬に代わる防除技術として注目を集めており、既にさまざまな

研究や実践事例が報告されています。天敵利用は、天敵製剤と土着天敵の 2 つに大きく分

けることができます。

天敵製剤は、特定の害虫に効くものとして天敵が製品化され、販売されています。例えば、

インゲンなどにつくハダニを食べるチリカブリダニ、オンシツコナジラミを食べるオンシ

ツツヤコバチなどがそれです。多くの場合、ビニールハウスの施設内で使用します。

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【14】 病害虫対策

【14】‐6

天敵製剤はタイなどでは既に使われていますが、途上国の農村の多くではまだ簡単には入

手できません。また製剤は施設園芸用に開発されているものが中心で、露地栽培で使える

ものは限られています。

土着天敵とは、その地域にもともといる天敵です。それらが集まってくる植物を畑の一部

に植えるなどして呼び込み、害虫を駆除します。土着天敵を集めるのに使われる植物をバ

ンカープラントと呼びます。

例えば、ナス畑にはソルゴー型ソルガムを植えます。ソルガムによってヒメハナカゲムシ

などが増え、これがナスの害虫であるミナミキイロアザミウマなどを食べてくれるという

わけです。トマトなどのアブラムシ対策では、ヨモギの効果が報告されています。ヨモギ

にはヨモギヒゲナガアブラムシなどがつきます。これが、土着のアブラバチを呼び、この

アブラバチがアブラムシを食べてくれるのです。

移行期の対策

移行期の対策

これまで化学肥料を多投してきた畑を有機農業に切り替えようとしても、数年間は、病害

虫にやられることが多く、生産が安定しません。「死んでいる土」を土づくりによって蘇ら

せるのには、短くても 2年、長い場合は 5、6年という時間がかかるためです。赤土でもと

もと有機質含量が少ないとか、周年高温の熱帯地域で病害虫の活動が活発、というように、

自然条件が厳しければ、さらに時間がかかるかもしれません。

「有機に切り替えた年は病虫害で全滅した」という話も聞かれます。しかし厳しい環境の

下にいる途上国の小農のほとんどは、その間に何も収穫しないで生きていけるほどの蓄え

はありません。そうなると、せっかく有機農業を始めた農民も、モチベーションが下がり、

もとの慣行農業の栽培方法に戻ってしまうでしょう。それを防ぐのために、有機農業に切

り替えてから土ができる数年は、病虫害に対して特に注意が必要です。

移行期に実施するべき対策としては、以下の点が挙げられます。

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【14】 病害虫対策

【14】‐7

(1) 段階的に有機農業の面積を増やす

有機農業を始めるときは、一度にすべての畑で有機栽培を行うのではなく、段階的に

面積を増やすようにしましょう。始めの頃は、堆肥作りなどの有機農業の技術もまだ

習得できていませんし、何より土づくりが出来ていないため、病虫害が発生する可能

性が高くなります。しかし、部分的に有機農業を行っていれば、その被害を 小限に

することができます。その場合、慣行農業を続けている畑から、農薬が飛散しないよ

うに注意が必要です。

(2) 病害虫に強い作物を中心に作付け体系を組む

移行期は、できるだけ病害虫の被害を受けにくい作物を選んで作付け体系を組むよう

にしましょう。地域の環境にあった、病虫害に強い在来種がある場合は、それらも積

極的に使いましょう。病害虫の被害を受け易い作物を栽培する場合は、間混作や栽培

場所を離すなどの対策を講じ、仮に病害虫が発生しても、全体に広がらないように工

夫が必要です。

化学農薬の併用

有機農産物の各種認証制度の多くは「化学農薬を使わないこと」をルールにしていますの

で、化学農薬を使えば有機農産物としては出荷できなくなります。「農薬使うべからず」と

決めるのは簡単ですが、その結果が「全滅」では、蓄えのない小農はついていけません。

そのため、農作物に全滅する恐れがある場合など、農薬を使わざるを得ないかもしれませ

ん。このような状況に対応するため、各種認証制度は、農作物に重大な被害が発生するこ

とが確実に予測できる場合のみ、緊急処置として、特定の農薬の使用を許可しています。

許可されている農薬は各国の認定制度によって若干異なりますので、該当する認定制度の

内容を確認してください。例えば、日本の有機 JAS 規格では、無機硫黄剤や無機銅剤など

の使用が認められています。

また、やむを得ず認証制度で許可されていない農薬をしなければならないときは、慣行農

業のように大量に使わずに、どうしても必要な時に必要な場所だけに絞り込んで散布する

ようにしましょう。時と場所を絞り込んでいくには、虫の動きや作物の状態を徹底して観

察しなければなりません。これにより、使用量を徐々に減らしていきます。使用量を記録

し、切り替え初年度はその前の年よりも、次の年はさらにそれより減らす、というように、

着実に使用量を減らしていくことが重要です。化学農薬の種類が選べるのであれば、天敵

などへの悪影響が極力小さくなるものを選びましょう。

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【14】 病害虫対策

【14】‐8

すでに述べたとおり、化学農薬の使用は、力を取り戻そうとする畑の土の生物相を破壊し、

土づくりを後退させてしまい、有機農業に反するものです。また、有機農業の認証を取ろ

うとしている場合は、一度の化学農薬の使用によって、ほ場を登録するための転換期間を

改めて 初から始めなくてはなりません。

参考文献

・日本有機農業研究会編〔1999〕『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』

日本有機農業研究会

・金子美登〔2003〕『金子さんちの有機家庭菜園』社団法人 家の光協会

・工藤晟他〔2006〕『熱帯の主要果樹・野菜の病害虫・雑草防除ハンドブック』

社団法人 国際農林業協働協会(JAICAF)

・古賀綱行〔1989〕『自然農薬で防ぐ病気と害虫-家庭菜園・プロの手ほどき-』

社団法人農山漁村文化協会

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【14】 病害虫対策

【14】‐9

演習概要 / 説明

現地の状況や営農の目的にあった病虫害対策を考案する。

Instruction

1. 支援地域で発生している病虫害を書き出します。 2. 本ユニットで紹介した以下の病虫害対策やすでに実施されているやり方を組み合わせ

て病虫害対策の方法を計画します。①のための土づくりなどすべての作物に共通して

実施する対策と③や④のように個別の作物を対象とするものを、分けて考えるように

しましょう。化学農薬を使用する場合は、どのように化学農薬を減らしていくか具体

的な方法も考えましょう。 ① 病虫害に対抗できる強い作物を育てる ② 多品目を栽培する ③ 天然農薬を活用する ④ 天敵を利用する ⑤ 拮抗微生物を活用する ⑥ 病虫害が発生しにくい栽培環境を作る ⑦ 化学農薬を使用する

Activity 【14】-1 演習 【14】-1:

演習タイトル:病虫害対策考案演習

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐1

営農システム改善方法

有機農業の生産原則

このコンテンツでくり返し出てきますが、有機農業の生産原則をもう一度ここでおさらい

してみましょう。有機農業の原理として、IFAOM は、「健康の原理」「生態的原理」「公正の

原理」「配慮の原理」の 4 つを掲げています(詳細は、「ユニット 1.2.1:有機農業の定義と

各国の状況」参照)。また具体的栽培技術は、「ユニット 1.1.1:有機農業概論」で説明した

とおり、次の 4 点です。

土づくり

堆肥やボカシ肥、緑肥などの有機物の施用

適地適作

在来種の活用、選抜・自家採種

栽培環境の整備

多品目栽培、輪作、間混作、適期作、日当たり、風通しの改善

多様な生物相の実現

天敵・有用微生物の活用、土づくり、輪作、間混作、有機マルチ

またこれらを実践するために有機物をどのように確保するかは重要な問題になります。そ

のため、有畜複合による畑内での有機物の循環から始まり、地域内の資源をどのように循

環させていくかを考えることが有機農業の営農システムを考える上で大切です。

【15】 ユニット 3.6.1 : 技術組み合わせデザイン

目的: ユニット 3.1.1 から 3.5.2 までで学んだ内容を統合させて、自分の地域で実施できる技

術の組み合わせを考案する。

目標:

1. 営農システム図を活用しながら、導入すべき有機農業の生産技術を決めることができる。

参照 Job Aid:営農システム改善方法

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐2

営農システム図による小規模農民支援

モジュール 3 のここまでのユニットで様々な有機農業の技術の基礎を学んできました。こ

こでは、それらをどのように組み合わせて実際の小規模農民の支援に役立てていくかにつ

いて考えて見ましょう。

初に、ユニット【7】「3.1.1 営農システム」で学んだ「営農システムの図」を思い出して

ください。このユニットの中で説明したように、有機農業の基本は、利用できる農業資源

を 大限活用して合理的な循環システムを作り出すことです。作物や家畜をただ漠然と生

産しているわけではなく、副産物の相互利用や気候や市場の変化から生まれるリスクの分

散など、作物の種類や栽培方法、生産量の決定には合理的な理由があるのです。これらの

事を考慮せずに支援を行っても、小規模農家の営農システムのバランスをかえって崩して

しまい、持続可能な成果を得ることは難しいでしょう。したがって、小規模農家を支援す

る際は、まずは現在の営農システムを理解し、システム全体のバランスを保ちながら改善

していくことが重要になります。この循環とバランスを考えるうえで、営農システムの図

解が役立ちます。

営農システムの改善方法

ここでは、営農システム図を使って小規模農家の営農システムを改善する方法について具

体的に説明します。

(1) 営農システムの確認

初にやることは、支援対象となる農家の現在の営農システムを確認することです。作目

や家畜の種類を確認することは当然ですが、肥料の材料や家畜の餌など生産に必要なもの

の調達先も確認しましょう。また栽培面積や肥料の投入量、販売量などの定量的な情報も

確認して図に書き加えます。

ここでは、次のような規模の小規模農家 A を例として見てみます。

・トウモロコシ 0.3 ヘクタール(ha)

・キュウリ、トマト 0.1 ヘクタール(ha)

・鶏 15 羽

・化学肥料を使用

この農家 A の営農システムを図解すると以下のようになります。

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐3

この図では、次のことが分かります。 ① 鶏とトウモロコシはすべて自給用。

② キュウリとトマトは、自給用と販売用がある。ただし市場に向かう線の方が太いので、

メインは販売用。

③ 「畑 1」は無施肥、「畑 2」は肥料として化学肥料と鶏糞を用いている。

④ 鶏の飼料は、一部を購入している。

⑤ 自然(山林)資源は活用していない。

(2) 営農の資源バランスの原則

この営農システムを改善する手順を説明する前に、資源バランスの原則について補足しま

す。次の図を見て下さい。

自然(山林)

(家畜)

鶏 15 羽

市場

農家

鶏糞 80kg

化学肥料 125kg

配合飼料 100 kg

肉、卵 収穫物

(畑 1)

トウモロコシ 0.5ha

作物残さ

収穫物

収穫物

(畑 2)

キュウリ,トマト 0.1 ha

作物残さ

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐4

図 【15】-1 営農システムの生産要素間のバランス

この図はある営農システムの生産要素間のバランスを表わしています。この例では、土地

と労働力はかなり余っています。しかし現金と水のラインまでしか、樽の中に水をいれる

ことはできません。樽の中の水=この営農システムから得られる便益(生産物や収入)と

した場合、便益は 低ラインの要素、つまり水と現金で規定されてしまうことになります。

この営農システムでは、現金や水が増えない限り、豊富にある土地や労働力が十分に活用

されないという点がポイントです。

では、どうしたらこの営農システムを改善することができるのでしょうか。1 つは、余って

いる生産要素で足りない生産要素をカバーすることです。もし現金が不足していて鶏の餌

が買えないならば、余っている土地に余っている労働力で何かを植えて飼料の足しにする

といった具合です。当然、この場合も種子と肥料といった新たな投入が発生しますが、配

合飼料を現金で買うよりははるかに現金支出を減らすことができるでしょう。

もう 1 つの解決方法は、技術の改善です。もともと、生産要素間のバランスは、そこで利

用されている技術によって決まっています。そのため、技術を変えることによって、生産

要素間のバランスは変わります。例えば、マルチや点滴灌漑のような節水灌漑技術を導入

すれば、単位面積あたりに必要な灌水量を減らすことができ、同じ水量で、より広い土地

で栽培できることになります。したがって、技術を改善できれば、営農システムの要素を、

事実上増やしたことと同じになるわけです。

途上国の小規模農家は、条件のよい土地を選んだり、よりよい条件の地域に引っ越したり

することなどはできないのが普通です。そのため、技術の改善や転換が現在の営農システ

ムを改善するためには重要な役割を果たすことが往々にしてあります。現在、慣行農業を

樽の水のレベル

=この営農システムから実

際に得られる便益のレベル

土地

労働力

現金 水量 市場規模

管理能力

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐5

実践している農家にとっては、有機農業や伝統的な農業こそが、この技術革新・転換の好

ましいひとつの方向であるといえます。現に、伝統的な農業生産を長い間行ってきた農民

は、さまざまな技術革新を実現し、安定的な営農システムを実践してきました。その多く

は、自然をよく観察し、それをうまく利用する技術です。彼らは自然利用のチャンピオン

としばしば呼ばれるのはそのためです。

以上の大原則をふまえて、営農の改善方法を探っていきましょう。

(3) 目的の設定

次に、有機農業の技術を使ってどのような効果を期待するのか、つまり支援する目的をは

っきりさせます。支援する小規模農家の状況によって目的はさまざまでしょうが、たとえ

ば、以下のようなことが考えられます。 ① 生産コストの削減

② 生産量の増加、安定

③ 販売金額の増加

④ 土壌改良、省力化

⑤ 作物の品質の改善

⑥ 「有機農業」によるブランド化

(4) 営農システム図へ目的の反映

ここでは、(3)で設定した目的を営農システムに書き加えます。例えば、「①生産コストの

削減」が目的であれば、「市場」から出ていた矢印がなくなるか、細くなる(小さくなる)

はずです。「②生産量の増加」が目標であれば、「作物」の欄に目標値を書き、枠が大きく

なるイメージです。このように目的を達成したときに起こる変化を営農システム図に反映

させます。

それでは、(1)で例に挙げた農家 A のケースを見てみましょう。目的を「①生産コストの削

減」とし、具体的には、化学肥料の購入を完全にやめます。これを営農システム図に反映

させると「市場」から出ていた「化学肥料」の矢印がなくなることになります。図で表す

と次のようになります。

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐6

(5)

(5) 実現すべき営農システム図と導入技術の検討

営農システム図へ(4)で決めた目的を反映したことにより、営農システムのバランスが崩れ

ます。例えば、農家 A の場合では、キュウリとトマトの養分が足りない状態になってしま

います。

このままでは、キュウリとトマトが取れなくなってしまうため、バランスが取れるように

他の要素との関係を変更しなくてはなりません。新しい矢印を書き加える必要があるかも

しれませんし、矢印が太くなる(供給するものが多くなる)かもしれません。

このときに注意することは、(2) で説明した資源バランスの原則です。つまり、すでに持っ

ている分のすべてを活用している資源[ (2)の樽の例では、水量とお金]を増やすことはで

きません。したがって、目的を営農システム図に反映させたときに、すでに全量を活用し

ている資源から、あらたに矢印を出したり矢印を太くしたりはできないのです。まだ余っ

ている資源を活用することによって、営農システム図を改善できない場合は、目的を達成

するために新しい技術を導入しなければなりません。

方法は一つとは限らないので、様々な方法を検討し、もっとも実現可能性の高いものを見

つけてください。農家 A の場合、化学肥料の代替案として考えられる方法と検討事項を以

下の表にまとめてみました。

作物残さ

自然(山林)

(家畜)

鶏 15 羽

市場

農家

鶏糞 80kg

配合飼料 100 kg

肉、卵 収穫物

(畑 1)

トウモロコシ 0.5ha

作物残さ

収穫物

収穫物

(畑 2)

キュウリ,トマト 0.1 ha

←ここの矢印が

なくなる。

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐7

表 【15】-1 化学肥料の代替案と検討事項

代替方法 検討事項

①鶏糞の量を増やす 鶏の購入費用と増える分の鶏の餌の調達方法。合成飼料の量

を増やすのであれば、経費の削減効果は半減する。自然資源

の活用や餌になる作物(ヒマワリなど)の栽培を検討する。

②鶏以外の家畜を飼い、

家畜糞尿の量を増やす

①と同様、新規で導入する家畜の購入費用と餌の調達方法。

③堆肥を作り、施用する 堆肥の材料の調達方法。

ここでは、「③堆肥を作り、施用する」を代替案として採用してみましょう。堆肥の材料は、

山林の落ち葉、トウモロコシの残さ、鶏糞、それから今まで活用されていなかった道や放牧

牛が休む場所にある牛糞を使うことにします。

この場合、改善後の営農システム図は、次のようになります。

このときに、必要となる有機物の量や家畜の数を知る必要があります。それは、ユニット

【7】「3.1.1 営農システム」で学んだ窒素の栄養計算の方法を使いましょう。これにより、

必要となる要素を数値化することができて、投入量の目安にすることができます。ただし、

ここで計算された数値はあくまで目安ですので、作物の実際の生育状況を見ながら、投入

量を修正していく必要があります。

これで、実現すべき営農システム図とそれを実現するための導入技術が決まりました。

自然(山林)

(家畜)

鶏 15 羽

市場

農家

鶏糞 80kg(堆肥)

配合飼料 100 kg

肉、卵 収穫物

作物残さ

収穫物

収穫物

(畑 2)

キュウリ,トマト 0.1 ha 作物残さ

(堆肥)

落ち葉(堆肥)

地域

(畑 1)

トウモロコシ 0.5ha

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐8

ここまで説明したとおり、小規模農家を有機農業で支援する場合は、営農システム全体を

見ながら全体 適化を図っていくことが重要になります。

目的カテゴリー別の技術組み合わせ

カテゴリーA

このカテゴリーA の小規模農家の生産形態の特徴は、トウモロコシなど主食穀物を 0.3ha 程

度から 2ha くらいまでの比較的広い面積で栽培していることです。このカテゴリーの も簡

略化した営農システム図では、次のようになります。

化学肥料や農薬の投入、自然資源の利用と市場への販売は、行なわれていない場合もある

ので点線であらわしました。

このカテゴリーの農家を有機農業で支援する目的は、「自然資源を有効活用することで投入

コストを減らすとともに、地力を維持して自然の力による生産性の向上と自立を目指す」

と表現することができるでしょう。この場合に 初に確認することは、投入コストの削減

や地力の維持・向上につながる自然資源や廃棄材が周辺にあるかどうか、です。山林の落

ち葉が利用できるかもしれませんし、道に落ちている牛糞が使えるかもしれません。どの

自然

市場

(畑)

主食穀物 0.3-2 ha

農家

(落ち葉など)

作物残さ

化学肥料 収穫物

収穫物

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐9

ようなものが活用できるかは、ユニット【7】「3.1.1 営農システム」の「自然資源・廃棄物・

副産物の用途例」で確認してください。

このカテゴリーにおける留意点は、栽培面積との関係です。栽培面積が 1 ヘクタールを超

えると、堆肥やボカシ肥を耕作地の全面に施用することは大変な作業になります。したが

って、ユニット【10】「3.2.3 有機質肥料(2)」で説明した緑肥、雑草、作物残さなども併用す

ることを検討すべきでしょう。

カテゴリーB

カテゴリーB の小規模農家の生産形態の特徴は、0.05 ha から 0.5ha くらいの小面積で、野菜

畑作で現金収入を得る農業です。このカテゴリーでは、化学肥料や農薬を利用しているケ

ースも多くあります。このカテゴリーの も簡略化した営農システム図では、次のように

なるでしょう。

このカテゴリーの有機農業の振興による支援目的は、「商品作物生産のコストの削減により

採算性を向上するとともに、地力の向上と安定を実現して持続性を確保すること」です。

改善策を考えるときに重要なのは、有機農業の基本である有機物の投入による土づくりの

技術です。この面積であれば、堆肥やボカシ肥の活用が十分可能です。そのため、まずは

材料をどのように集めるかを検討します。そのうえで、地力を維持・向上させるのに、ど

のような種類の有機質肥料をどれくらい入れるべきかを、今入れている化学肥料の養分量

と比較しながら、考えていきます。

自然

市場

(畑)

野菜 0.05-0.5 ha

農家

(落ち葉など)

作物残さ

化学肥料・農薬 収穫物

収穫物

モジ

ュー

ル 1

小規

模農

民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

ール

3 有

機農

業技

モジ

ュー

ル 2

小規

模農

家経

営概

モジ

ュー

ル 0 有機

農業

の理

モジ

ュー

ル 4

小規

模農

家支

援・普

及概

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐10

有機物の供給源として家畜を飼い、有畜複合経営を始めることも、このカテゴリーの営農

システムの改善のために有効な手段です。家畜を営農システムに加えることにより、内部

資源を効率的に活用できるようになり、土づくりがやりやすくなります。

土づくりには、健康な作物を作ることによる病虫害対策の効果も期待できます。だだし、

完全無農薬にすると一時的に被害が甚大になる可能性も否定できないので、必要 小限に

農薬の使用を抑えながら、様々なやり方を組み合わせ、総合的に病虫害対策をしながら、

徐々に本来の有機農業に切り替えていくということも必要になるでしょう。ユニット【14】

「3.5.2 病虫害対策」を参考にしてください。

カテゴリーC

このカテゴリーC の小規模農家に対する有機農業の振興による支援目的は、「『有機』である

ことによる商品差別化の追及」です。

カテゴリーC の小規模農家の生産形態の特徴は、カテゴリーA、B が高度化したものである

ことが一般的です。そのため、営農システムとしてはその他のカテゴリーと大きな違いは

ありません。しかし、『有機』であることで商品の差別化を図るため、化学肥料や農薬の使

用は当然禁止です。有機物の投入開始から数年かけた本格的な土づくり、そのための十分

な有機物の確保、病害虫が発生しにくい品種の選定や栽培環境づくりが必要になってきま

す。

さらにカテゴリーC では、生産技術だけでなく、マーケティング、経営、生産者組織などの

要素がとても重要になってきます。これらについては、モジュール 2 を参考にしてくださ

い。

この章では、各カテゴリーの目的を達成するために重要となる有機農業の導入技術を説明

しました。しかし小規模農家の置かれた状況はさまざまです。このモジュールで学んだ有

機農業の生産技術や考え方を、支援対象となる小規模農家の状況に適用できるように創意

工夫しながら、技術の組み合わせを考え出してください。

モジ

ュー

ル 1

小規

模農

民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

ール

3 有

機農

業技

モジ

ュー

ル 2

小規

模農

家経

営概

モジ

ュー

ル 0 有機

農業

の理

モジ

ュー

ル 4

小規

模農

家支

援・普

及概

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐11

事例概要 / 説明

霜里農場は、日本の有機農業の第一人者である金子美登氏の農場です。さまざまな家畜と

作物栽培の資源を有効に活用し、循環型の農業生産が実践されています。さらに、バイオ

ガスを利用し、エネルギーの自給にも取り組んでいます。

(1) 農業者の数: 6 人(うち 4 名は研修生)

(2) 面積: 畑 1.5ha、 水田 1.5ha

(3) 栽培作物:60 品目以上(稲、インゲン、サツマイモ、ジャガイモ、キュウリ、ほうれん草、トマト、

人参、ピーマン、イチゴ、スイカなど)

(4) 家畜: 乳牛 2 頭、鶏 200 羽

(5) ロケーション:

CASE 【15】-1

堆 肥

果樹園

家畜小屋

ハウス

ハウス

ハウス

CASE 事例 【15】-1

事例タイトル: 埼玉県小川町 霜里農場

バ イ オガス

カモの池

炭焼き場

鶏舎

モジ

ュー

ル 1

小規

模農

民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

ール

3 有

機農

業技

モジ

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ル 2

小規

模農

家経

営概

モジ

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ル 0 有機

農業

の理

モジ

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ル 4

小規

模農

家支

援・普

及概

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐12

(6)営農システム

(7)生産技術

①作付け体系

畑を 4つの場所に分け、60 品目以上の多品目栽培、輪作を実施。

A 地帯:キャベツ→ネギ→ナス→キュウリ→インゲン

B 地帯:長ネギ→トマト・トウモロコシ→カボチャ

C 地帯:スナックエンドウ→ショウガ・サトイモ

D 地帯:ピーマン→ニンジン→ゴボウ

②土壌肥料

●堆肥

材料は、おがくず、もみがら、落ち葉、わら、木くず、家畜の糞尿、生ゴミ、野菜くず、

野草などを使用。

●ボカシ肥

材料として米ぬか、おから、籾殻くん炭を使用。

●液肥

家畜糞尿、生ゴミを材料に作る。同時に、バイオガスも発生する。

③種子の調達

ほとんどを自家採種により調達している。また有機農業の実践者の間で、種子交換会を行

っている。

作物残さ、雑草

液肥 生ゴミ バイオガス糞尿

生ゴミ

エサ(野菜くずやワラなど)

牛乳、鶏肉 農作物

農作物 鶏肉

CASE 【15】-1

農業者

家畜

(うし、鶏)

バイオガス装置

自然(山林)

マーケット(3、40 件の消費者に直接配達) 種子業者

種子

(一部)

堆肥

落ち葉

地域

木くず

糞尿

モジ

ュー

ル 1

小規

模農

民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

ール

3 有

機農

業技

モジ

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ル 2

小規

模農

家経

営概

モジ

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ル 0 有機

農業

の理

モジ

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ル 4

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家支

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【15】 技術組み合わせデザイン

【15】‐13

④栽培管理

●生育管理

雑草管理として、以下の方法を取り入れている。

・畑を二度耕す。

・すき込む堆肥は完熟したものを使う。

・ハウスに水を入れ水田状態にする。

・雑草に負けないように種子ではなく苗から植える。

・水田にアイガモを放す。

・牛やうさぎ、鶏に雑草を食べさせる。

●病虫害対策

化学農薬は一切使用せず、丈夫な苗や作物を育てることを基本とし、具体的な方法として

は、以下を組み合わせている。

・てんとう虫、クモ、かえるなどの天敵を利用

・ネットやビニールトンネルなど物理的な防除を実施

⑤その他

●バイオガスの利用

家畜の糞尿と生ゴミを材料にバイオガスと液肥が生成されます。ガスは、炊事、風呂、ガ

ス灯、ガス冷蔵庫などに利用している。

CASE 【15】-1

モジ

ュー

ル 1

小規

模農

民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

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3 有

機農

業技

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ル 2

小規

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家経

営概

モジ

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ル 0 有機

農業

の理

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模農

家支

援・普

及概

Page 224: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

【15】技術組み合わせデザイン

【15】‐14

事例概要 / 説明

さんぶ野菜ネットワークは、千葉県山武郡にある有機農業生産者団体で、販路の開拓、販

売先との調整、生産計画などを行っています。会員 46 人、取引先約 30 社、売上げ 5.3 億(2006

年度)と生産者団体としては、日本有数の規模を誇ります。山武地域で、有機農業が始ま

ったきっかけは、20 年ほど前から連作障害や生産者の健康被害が多発し始めたことでした。

その後、有志が、勉強会などに参加しながら、有機農業を研究し、現在では、有機 JAS 認

証を受け、安定的かつ組織的に有機農産物が生産されています。

(1) 農業者の数: 46 人

(2) 面積: 88ha (うち JAS 有機登録ほ場 35ha)

(3) 栽培作物:ネットワークとして、100 品目以上の野菜を栽培。ニンジン、大根、レタス類、

里芋、落花生、小松菜、ほうれん草、水菜、ピーマン、トマトなど

(4) 家畜: なし

(5) 営農システム

CASE

自然(山林)

堆肥

緑肥

農産物

堆肥以外の有機質肥料

フェロモン剤

ビニールマルチ

種苗

業者

畑 35ha

豚糞、牛糞、

馬糞

作物残さ、緑肥

地域 市場(宅配サービス、生協、スーパー、外食産業など)

事例 【15】-2

事例タイトル: 千葉県さんぶ野菜ネットワーク

CASE 【15】-2

モジ

ュー

ル 1

小規

模農

民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

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3 有

機農

業技

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模農

家経

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ル 0 有機

農業

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家支

援・普

及概

Page 225: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

【15】技術組み合わせデザイン

【15】‐15

(6)生産技術

①作付け体系

各農家が年間で10から15品目程度の輪作体系を実施している。

緑肥として、麦やソルゴを作付けしている。

②土壌肥料

●堆肥

0.1ha につき、約 2tを施用。堆積期間は、約 6 ヶ月。材料は、植物由来の原料(籾殻、米

ぬか、油粕、落花生の殻、麦わらなど)が約 7 割、動物由来の原料(豚糞、牛糞、馬糞)

が約 3 割。

●堆肥以外の有機質肥料

日本有機 JAS 規格に準じた有機配合肥料を業者から購入。

③種子の調達

基本的には、有機栽培用の種苗を業者から購入している。自家採種は現在実験的に取り組んでい

る。

④栽培管理

●病虫害対策

マリーゴールドをセンチュウ対策に畑の周りに植える。

センチュウ、根こぶに効果がある緑肥を使用。

天敵、フェロモン剤を使用。

防虫ネット、昆虫取りテープなどの物理的な防除も実施。

冬など病害虫が発生しにくい時期を選んで栽培する。

夏に、1ヶ月間程度、畑全面にビニールを張り、太陽熱を利用した、熱消毒を行っている。

雑草の種子を死滅させる効果もある。

●雑草対策

ビニールマルチを使用。

⑤その他

さんぶ野菜ネットワークの「基本理念」は以下の通りです。

1.土壌消毒剤・除草剤を使用しない。

2.化学肥料を使わず、堆肥・緑肥作物による土づくりを重視する。

3.特定の品目に偏らない作付けをし、輪作体系を重視する。

4.取り組む耕地を明確に特定し、登録する。

5.「いのち」に直結した食べ物を供給することを意識し、消費者と顔の見える関係作りを目

指す。

さんぶ野菜ネットワークは、約 30 社と取り引きを行っており、2006 年の売上高は約 5.3 億

円です。

CASE 【15】-2

モジ

ュー

ル 1

小規

模農

民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

ール

3 有

機農

業技

モジ

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ル 2

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家経

営概

モジ

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ル 0 有機

農業

の理

モジ

ュー

ル 4

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模農

家支

援・普

及概

Page 226: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

【15】技術組み合わせデザイン

【15】‐16

事例概要 / 説明

佐久本盛範氏は、亜熱帯の沖縄で有機野菜作りに取り組んで 24 年。高温多湿のため病虫害

が発生しやすい環境ですが、ミネラル豊富で農場近くで簡単に手に入る海藻を畑にすき込

む独自の土づくりと雑草を生かした防除技術で安定生産を続けています。佐久本氏による

と、生産のポイントは、第一に、微生物活動が活発な土づくりによって病害虫に負けない

強い作物を育てること、第二に、雑草を含めた虫の居場所を作ることで作物への被害を食

い止めることです。

(1) 農業者の数: 1 人(研修生が時々入って作業することがある)

(2) 面積: 畑 0.3ha ビニールハウス

(3) 栽培作物:ピーマン、トマト、ナス、ヘチマ、ニンジン、ブロッコリー、キャベツ、レタス、ダイコンな

(4) 家畜: なし

(5) 営農システム(太い矢印は土づくりの流れを表わしている)

ボカシ畑 30a

農業者

市場

農作物

(朝市、卸)

魚粉

コウモリ糞

米ぬか

大豆かす

F1 種子

事例 【15】-1

事例タイトル: 沖縄県読谷村 佐久本農園

CASE CASE 【15】-3

土着菌 海藻

伐採木

チップ

海自然植生

モジ

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ル 1

小規

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民に

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有機

農業

概論

ジュ

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3 有

機農

業技

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ル 0 有機

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【15】技術組み合わせデザイン

【15】‐17

(6)生産技術

①作付け体系

輪作はしておらず、基本的に同じ作物を同じ場所に連作している。個別の作目では、例え

ば、主力のピーマンとトマトは 8 月に定植し、11 月に収穫を開始し、翌年の 4 月ごろまで

収穫を続ける。それから土づくりに入り、再び同じ時期に同じ野菜の苗を植える。同じく

主力のナスは、3月に定植し、5月下旬から収穫を始めて年末まで続ける。佐久本氏は、「連

作しても問題が起きないのは、土づくりがしっかりできているから」と話している。

②土壌肥料

●伐採木チップ

伐採された雑木をチップ状にしたものを畑に入れる。1 年目は 10 アール当たり 2.5 トン、

翌年は同 1.5t。これを繰り返す。

●海藻

近くの浜に打ち上げられた海藻を畑に入れる。2年に 1回、10 アール当たり 1.5 トン。

●ボカシ肥

材料は魚粉、コウモリ糞(輸入資材)、米ぬか、大豆かす。これに山から採取した土着菌を

入れる。1m 幅、30m 長さのうねにこのボカシ肥を 30kg 入れる。単純計算では 1ha 当たり 10t

の投入量になるが、実際には通路部分には入れないし、うねも全面施肥ではないので、投

入量はこのおよそ半分程度と推定される。全量を基肥で入れており、ナスやトマトのよう

に収穫期間が 6カ月前後になる場合でも追肥はしない。

③種子の調達

一代交配種(F1)種子が多いため、購入している。ダイコン、ヘチマなど非 F1 種子は自家

採取している。

④栽培管理

●病虫害対策

化学農薬は一切使用せず、丈夫な苗や作物を育てることを基本とするが、それでも害虫は

来るので、以下の対策をとっている。

(1)作物のすぐ近くだけを除草し、それ以外の部分は草をほぼそのままにしておき、虫の

居場所を作る。

(2)余った野菜苗を作物の周囲に植え、害虫の餌にする。作物の側はネットなどをかけて

おくと、多くの虫は簡単に食べられる虫用の作物に集まる。ネットだけで、虫の餌にする

作物を置かないと、虫はネットをかいくぐるなどして作物についてしまう。

⑤その他

佐久本氏は仲間の農家5、6人とグループを作り、同じブランドで販売したり、生産技術を

共同研究したりしている。

CASE 【15】-3

モジ

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ル 1

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民に

よる

有機

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概論

ジュ

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3 有

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業技

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家経

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ル 0 有機

農業

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家支

援・普

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Page 228: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

【15】技術組み合わせデザイン

【15】‐18

事例概要 / 説明

ペプ自立プロジェクトは、南アフリカの旧ホームランドの半乾燥地で野菜栽培に取り組ん

でいるグループ営農です。JICA の開発プロジェクトに参加して小規模複合営農の技術を学

び、鶏糞堆肥を利用した土づくりで成果を上げています。従来は有機物を土に入れず、化

学肥料だけで野菜を作っていたため、半乾燥地特有の塩類集積が起き、次第に土が固くな

る問題が起きていました。JICA のプロジェクトに参加してからは化学肥料を一切やめ、鶏

糞堆肥に切り替えた後は土が次第にやわらかくなってきました。根菜であるアカカブは、

以前は土が固いために出来が悪かったのですが、その後は驚くほどの生長ぶりを見せてい

ます。有機農業に取り組み始めてまだ 2年目で、トマトのハダニ被害は依然として大きく、

放置すれば全滅してしまう状況です。このため、タイミングを見極めながら化学殺虫剤を

小限、散布しています。

(1) 農業者の数: 13 人

(2) 面積: 畑 0.1ha×3 グループ

(3) 栽培作物:トマト、アカカブ、ピーマン、ニンジンなど

(4) 家畜: 鶏 20 羽×3 グループ

(5) 営農システム(1 グループ当たり)

事例 【15】-4

事例タイトル: 南アフリカ・リンポポ州 ペプ自立プロジェクト

作物残さ

15-20 羽

野菜畑 0.1ha

市場

農作物

( 農 場 直

販、行商、卸)

自然(共有地)

草 テラピア、ミミズ養殖

鶏糞堆肥

ヒマワリ畑5a

草、牛糞

卵、鶏肉

( 農 場 直

販、行商、卸)

補助

飼料 農薬

CASE CASE 【15】-4

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ル 1

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民に

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有機

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概論

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【15】技術組み合わせデザイン

【15】‐19

(6)生産技術

①作付け体系

トマトを中心に、アカカブ、ピーマン、タマネギなどの野菜を周年生産。ただし 1、2月の

真夏は害虫の発生が激しいので、休閑することもある。

②土壌肥料

●鶏糞堆肥

鶏を舎飼いにし、枯れ草や作物残さなどを敷料として敷き詰め、落ちて来る鶏糞とともに

自然に堆肥化させたもの。

③種子の調達

トマトなどは一代交配種を避け、種を自家採取している。

④栽培管理

●病虫害対策

土づくりを始めたばかりなので、トマトにはハダニがまだ大発生する。殺虫剤を散布して

延命を図っている。そうしないと収穫期間が1カ月弱になってしまい、営農が成り立たない。

⑤その他

売上は鶏よりも野菜の方が大きいが、それを支える土壌肥沃度は鶏糞堆肥が支えている。

鶏の飼料に も経費がかかるので、可能な限り自給すべく努力している。特にタンパク源

は大豆かすなどを買えば高いため、テラピアとミミズを養殖して補っている。

鶏糞堆肥を施用して2年間経過した畑の土は、開始前に比べてさらさらしてきた。鉄筋を差

し込むと20cmほど入るようになった。

CASE 【15】-4

モジ

ュー

ル 1

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民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

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3 有

機農

業技

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ル 0 有機

農業

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家支

援・普

及概

Page 230: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

【15】技術組み合わせデザイン

【15】‐20

演習概要 / 説明

自分の支援地域の農民を想定して、有機農業の技術を用いて営農システムの改善策を考えます。

Instruction

1. 支援農家の営農システムを図解します。(ユニット【15】3.1.1「営農システム」【15】-1 ページ参照)。

2. 有機農業の生産技術を使って支援する目的を決めます(【15】-5 ページ参照)。 3. 営農システム図へ目的を反映させます(【15】-6、7 ページ参照)。 4. 実現すべき営農システム図と導入技術を次の順序で決めます(【15】-8、9、10 ペー

ジ参照)。 ① 目的を反映させたことによって変化した営農システムのバランスをとる対策をい

くつか考える。 ② 対策を実施する場合に必要となる、有機物の量や家畜の数を計算する(ユニット

【15】3.1.1「営農システム」参照)。 ③ ②の結果と、実際の現状に合わせて、実現可能性な方法を選択する。 ④ 選択された方法を実施することによって起こる変化を、営農システム図に書き込

む。

Activity 【15】-1 演習 【15】-1:

演習タイトル: 技術組み合わせ演習

Activity

モジ

ュー

ル 1

小規

模農

民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

ール

3 有

機農

業技

モジ

ュー

ル 2

小規

模農

家経

営概

モジ

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ル 0 有機

農業

の理

モジ

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ル 4

小規

模農

家支

援・普

及概

Page 231: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

モジュール 4

小規模農家支援・普及概論

Page 232: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

モジュール 4:小規模農家支援・普及概論

目次

【16】 ユニット 4.1.1 : 農村社会調査概論

農村社会調査 ......................................................................................................................................1 農村社会調査とは? ......................................................................................................................1 調査手法の分類 ..............................................................................................................................2 参加型農村調査 ..............................................................................................................................2

有機農業普及と小規模農家支援のための農村社会調査 ..............................................................4 調査項目 ..........................................................................................................................................4 情報収集の方法 ..............................................................................................................................5 農村社会調査の設計 ....................................................................................................................10

【17】 ユニット 4.2.1 : 普及手法概要

農業普及のプロセス ..........................................................................................................................1 日本の農家の技術発展と農業普及 ..............................................................................................1 普及員の機能と普及手法 ..............................................................................................................2 有機農業普及を通した小規模農家支援における普及員の役割の重要性...............................3

普及手法の種類 ..................................................................................................................................4 日本の農業普及の変遷とその種類 ..............................................................................................4 コミュニケーションの形成 ..........................................................................................................6 参加型の技術普及 ― 農民から農民へのアプローチ ―.................................................11 農民から農民へのアプローチとその他の手法 ........................................................................13 有機農業と日本の普及事業 ― 行政の取り組み ―.............................................................16 有機農業と日本の普及事業 ― 現場での取り組み ―.........................................................18

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【18】 ユニット 4.3.1 : 営農計画の基礎:ビジョン策定

営農計画のビジョン策定 ..................................................................................................................1 問題の明確化 ..................................................................................................................................2 課題の選定 ......................................................................................................................................4 ビジョンの策定 ..............................................................................................................................5

営農計画の評価とモニタリング ......................................................................................................7 計画の事前評価 ..............................................................................................................................7 計画の進捗管理 ..............................................................................................................................8

【19】 ユニット 4.4.1 : 営農計画:活動計画策定

営業活動計画の進捗管理 ..................................................................................................................1 活動の分類 ......................................................................................................................................1 営農活動計画と管理能力 ..............................................................................................................2

詳細な活動計画の策定 ......................................................................................................................3 時間による管理 ..............................................................................................................................3 投入による計画の管理 ..................................................................................................................6

【20】 ユニット 4.5.1 : モニタリング評価

モニタリング・評価概論 ..................................................................................................................1 モニタリング・評価とは ..............................................................................................................1 PDM/ロジカルフレームワーク(ログフレーム)を用いたモニタリングと評価..............3

モニタリング ......................................................................................................................................5 モニタリングの要素 ......................................................................................................................5 モニタリングの実施 ......................................................................................................................6

評価 ......................................................................................................................................................9 参加型の評価とモニタリング .............................................................................................................13 参加型のモニタリングと評価とは ............................................................................................13 参加型のモニタリングと評価の方法と普及員の役割.............................................................13

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 1

i

農村社会調査

農村社会調査とは?

あなたが支援する農家と一緒に、有機農業を進めていくための適切な営農計画を考えてい

くためには、まずはあなた自身が、その地域に存在する既知・未利用の有機物の種類、そ

の地域で栽培されていた過去の作物や品種、その地域の自然環境の特徴、農家の歴史的変

遷と現在の技術の水準、農家経営の進展度、マーケティングの現状、組織化の度合いや形

態などの諸情報を、調査を通じて十分に理解し、営農課題を抽出するために整理・分析し

なければなりません。これらの調査結果は、地域での普及活動計画、特にその地域の農家

の営農計画のビジョン策定を支援する上で重要な基礎データとなります。

普及のための「調査」には大きく二つあります。一つは長い間の変化、あるいは国全体の

中での比較のための一般情報の収集のための調査、もう一つは、これから行う普及のため

に必要な情報を収集する、「目的を持った」調査です。どちらの調査も重要です。このユニ

ットでは、両方のタイプの明確な区別をしませんが、「有機農業の振興による小規模農家支

援」という目的のための調査、ということを念頭において、諸情報の収集と整理・分析に

必要な調査の技術と方法について説明します。

普及員は日々の活動の中で、担当する地域の実態の把握に努めますが、作物や家畜を「対象」

としてとらえ、その対象に起こる現象を「実態」と思い込みやすい傾向にあります。普及活

動のために知る必要のある「実態」とは、単なる対象に起こっている事実や現象だけでは

なく、それらの背景をも含む構造的な動態と言うことができます。これらを理解する視点

としては、以下のようなことがあげられます。

(1) 対象や事象を過去からの変化の流れの中に位置づけて理解し、将来を予測する。

目的: 農村社会(個人、組織、社会)の構造と特色の調査方法を理解する。

目標:

1. 農村社会調査の目的と意味を説明できるようになる。

2. 調査の目的に合った調査ツールを選ぶことができるようになる。

1

【16】 ユニット 4.1.1 : 農村社会調査概論

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 2

(2) 因果関係を探り、さまざまな対象に起こっている現象との関連性を把握する。

(3) 人的・社会的・経済的な条件の中での意味を考察する。

調査手法の分類

一般的に農村調査(広義には社会調査)と呼ばれるものは、大きく、1)全体調査(完全調

査、あるいは悉皆調査=census)、2)部分調査(標本調査=sampling)、3)個別調査(事例

調査=case study)、に分けられます。また調査方法としては、「統計的方法」と「事例研究法」

に分けられます。前者は、調査対象集団の全部ないし標本数のすべてにわたって調査し、

主に集団単位全般に共通する社会要素を把握しようとします。前記の 1) と 2) がこれにあ

たります。後者は、全体との関連性をあらかじめ明らかにした上で個別の事例を集中的に

調査し、そのなかから、ある特質に焦点をあてて、その重要性を明らかにしようとします。

表 【16】-1 調査研究方法の特徴

調査方法 調査量 客観性 観察度合

統計的方法 量的観察が基本

→多いほど良い 客観性は高い

浅い→一般的、「平均」など

で事象が抽象化される

事例研究法 質的観察が基本

→量より調査の視点が重要

客観性は比較

的低い

深い→調査結果は個別の質

的な面を解説しようとする

統計調査と事例調査はそれぞれに長所や短所があります。実際には、一方の方法のみに偏

ることなく、相互に長所や短所を補完する形で実態把握の精度を高めることが大切です。

参加型農村調査 上記のような分類とは別に、「参加型農村調査」として区分される調査方法があります。「調

査」というと、調査者が知りたいことのために情報を集めて、集まった情報から調査者が

何らかの結論を導き出す、というのが普通ですが、この参加型調査では、その程度はさま

ざまですが、調査の対象者も一緒になって、あるいは調査の対象者自らが調べ、分析して、

結論を出すというものです。主に、RRA(Rapid Rural Appraisal:農村簡易調査法)/PRA

(Participatory Rural Appraisal:主体的参加型農村調査法)/PLA(Participatory Learning and

Action:主体的参加による学習と行動)1などがあります。

1 プロジェクトPLA編〔2000〕『続 社会開発入門 PLA:住民主体の学習と行動による開発』

国際開発ジャーナル社

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 3

表 【16】-2 参加型農村調査の種類と特徴徴

名称 特徴

RRA(Rapid Rural

Appraisal:農村簡易調査

法)

参加型でも、あくまで調査者の情報収集のために用いる手法で

す。バイアスの打消し、迅速で漸進的な学習、役割の転換など

いくつかの原則があります。

PRA(Participatory Rural

Appraisal:主体的参加型

農村調査法)

調査対象である住民が主体となって実施する農村調査です。地

域住民の参加意識と能力を高めることを目指しています。

PLA (Participatory

Learning and Action:主体

的参加による学習と行

動)

PLA とは「ファシリテーターの力を借りながら、地域住民が、

開発に必要な情報を掘り起こし分析することで、より適切な現

状認識を行い、自らの能力向上を図っていく開発プロセス」で

あり、「開発プロジェクトの目的を達成するための定式化され

た調査手法ではなく、住民参加の有効性に基づいて行う開発の

考え方およびそれを実現するための方法」です。

APA(Appreciative

Planning and Action)

問題点の改善を図るという発想ではなく、望ましい将来や良い

点を取り上げ、楽しみながら計画を策定していく手法です。

PCM (Project Cycle

Management)

プロジェクト立案・管理ツール。計画段階の「問題分析」と「目

的分析」は農村調査にも活用できます。

FSR2(Farming Systems

Research)

農家の経営戦略を、人類学者や農業経済学者など、多分野にわ

たる観点から実地での調査を通して行う研究。1970 年代半ば

から、アフリカを中心として進められたものです。

TN 法 農業分野や村おこしに活用されている方法。ISM 法、DEMATEL

法、認知構造図分析、階層化意思決定法、コンコーダンス分析

などを組み合わせたもので、「問題点の特定」から「対策の検

討」までを対象にしています。

参加型調査の長所

参加型調査は、ある農村の状況や問題点について深く調べ、診断を効果的に行うことができます。

適した用途は、1)開発プロジェクトの計画・実施・モニタリング・評価を効果的に行う、2)緊急事態

や災害の被害状況を迅速に把握する、3)他のタイプの調査手法を補完する、4)計画策定者や政

策決定者に、計画や政策の調整に必要な情報をタイムリーに提供する、などでしょう。3

あるテーマについて数字に表れない物ごとの背景や原因を理解することができます。それよ

2 the U.S. Department of Agriculture 「Agricultural Research Service」 web page <http://www.ars.usda.gov/index.html>

3 管野哲哉〔1998〕『農村開発調査入門:Rapid Rural Appraisal の原理と手法』自費出版 p.17

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 4

って、調査内容に“奥行き”を持たせることができます。

調査対象の住民は参加を通じて自分たちの貢献を感じることができます。

視覚ツールを利用するため、あまり読み書きのできない人の意見を吸収することもできます。

通常は異なる分野の専門家がチームを組んで行うため、現地調査しているその場で多角的

な視点から仮説を導き、それを検証することができるため効率的です。4

参加型調査の問題点・限界

定量分析が難しいため、情報や分析結果の信頼性が低いと見られる可能性があります。5

調査対象地の情報を “深く掘り下げて”調査するので、その対象地が他の地域と比べて特

殊な条件を持っているような場合は、得られた結論の一般化はできません。

対象地域の規模が大きすぎると、対象村を増やさなければなりません。対象村を増やすと期

間とコストが過大になります。

参加型調査は地域住民との信頼関係があって可能となります。調査側の都合で進めると、調

査結果の精度が落ちる可能性が高くなります。6

調査者の質と経験が大きく調査の出来を左右します。調査者は現場で臨機応変に対応して

分析することが必要となります。調査者をトレーニングする時間とコストは無視できません。

有機農業普及と小規模農家支援のための農村社会調査

調査項目

対象の実態を正しく把握するためには、調査項目が適切に設定されなければなりません。

調査項目の設定にあたっては、普及活動の目的に照らして決める必要があります。具体的

な例として、1) 農山村の調査項目、2) 集落農業の調査項目、3) 農家の調査項目、のそ

れぞれのケースをあげてみました。これらの中で、有機農業の振興という観点からは、現

状の把握(下表の⑧や⑫、⑬)に加えて、地域の資源についての状況(同⑨~⑪)をよく

理解しておくことがとても重要となります。

統計調査法に基づく調査では、調査結果の分析・結果のとりまとめ方法までを考慮して設

計することが必要です。統計調査は総じて標本数も多く量的観察を基本としますので、調

4 国際協力事業団〔2001〕『国際協力と参加型評価』国際協力事業団国際協力総合研究所 p.244

5 菊池京子編〔2001〕『開発学を学ぶ人のために』世界思想社 p.138-139

6 国際協力事業団〔2001〕『国際協力と参加型評価』国際協力事業団国際協力総合研究所 p.244

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 5

査の無駄を省くためにも調査項目は必要 小限に絞り込むという配慮が必要となります。

表 【16】-3 農村調査の調査項目の例

調査目的の例 調査項目の例

(1) 農山村の調査 ① 集落の生成発展の歴史(沿革)

② 集落等の自治組織

③ 経済地理的環境の変遷

④ 土地所有と経営内容の変遷

⑤ 農業生産、経営の現状と生活

⑥ リーダーの類型と役割

(2) 集落農業の調査 ⑦ 生産活動の主体

⑧ 土地条件と農用地利用状況

⑨ 入手可能な有機物の種類と量

⑩ 栽培品種の歴史的な変遷、現存する遺伝子資源

⑪ 住民の食生活・食材・調理法の変遷

⑫ 農林業の生産と販売状況

⑬ 市場条件

⑭ 農業機械・施設

⑮ 経営技術

⑯ 組織の概要

(3) 農家の調査 ⑰ 意向調査

⑱ 営農実態調査

情報収集の方法

主な情報収集の方法としては、(1) 既存資料の活用、(2) 日常の普及活動からの観察、(3) 別

途「調査」による情報収集、の 3 つがあります。

農村や農家の直面する諸要因の相関関係を明確にして実態把握の信頼性を高めるためには、

統計調査と事例調査を併用するようなきちんとした調査を実施することが望ましいでしょ

う。一方で、総合的な調査を目指すばかりに、多くの調査項目について新たに調査すると

いうケースも少なくありません。すでに蓄積されている既存の資料の有効活用と日常の普

及活動での聴き取りや観察からの気付き、なども調査とともに重要な情報収集方法です。

既存資料の活用

普及事業の長い歴史と活動の中で、あなたの身の回りには統計資料・農家カード・各種調

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 6

査資料・各機関からの提供資料など、資料がすでに豊富にあるかも知れません。これらの

既存資料を活用することを考えてみましょう。

収集すべき情報が掲載されている資料としては、地図、統計、調査・研究文献、各種のプ

ロジェクト計画書や報告書、法令集などがあります。地図情報にはコンピュータマップ、

空中写真、人工衛星写真、主題図などがあります。統計情報には、人口センサス、農業セ

ンサス、経済センサスなどがあります。調査・研究文献としては、当該国の調査・試験研

究機関、世界銀行など諸外国の援助機関の調査報告書、研究論文などがあります。資料を

探すひとつの方法としては、「類似業務の別の地域」「同地域の別業務」から引用文献をあた

っていくやり方もあります。

日常の普及活動からの観察

農家や地域を巡回して営農状況を観察してみると、(1)生産に関すること、(2)生活に関する

こと、(3)集落等の人間関係に関することの、「実態」と「意向(ニーズ)」について相互に関

連する事柄として把握することができます。特に「情報収集」という目的を持っていなく

ても、日常の普及活動の中で気がついたことなどを記録し、また関係者の間で情報を共有

するということを行っておくことが大切です。

別途「調査」による情報収集

(1) 従来型調査

「調査」をする場合の情報収集の方法はさまざまです。表【16】-4 に、主な方法とその特

徴をまとめてみました。

表 【16】-4 調査における情報収集の方法とその特徴

調査方法 長所 短所

直接観察 • 準備が容易 • 写真や地図などで視覚的に記録

することができる • 旅費以外の費用が少ない

• 全体を把握することができない • 一時的な側面しか把握できない • 見えない部分にある問題点を見

逃す可能性がある

個人インタビュー

• 準備が容易 • 質問を変えながら柔軟に進める

こともできる • 問題の原因などを追求しやすい

• 統計処理などによる定量化や、結論の一般化ができない

集団インタビュー

• 質問を変えて柔軟に進められる • 個人インタビューよりもより一

般化しやすい

• 統計処理などで定量化できない • 対象とする集団内の一部の意見

に偏る可能性がある

大規模アンケート調査

• 統計的に有意といえる結論を得ることができる

• 広域を対象とした調査ができる

• 調査準備・解析に時間がかかる • 質問にない事象を捉えにくい • 純粋な無作為抽出は難しい

(2) 参加型調査の情報収集技法

また、先に述べました「参加型調査」にも、さらにさまざまな情報収集ツールがあります。

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 7

表 【16】-5 参加型調査で用いる主な技法

種別 技法、成果物 方法、使用に適したトピックと例

直接・間接観察 調査者、あるいは住民が一定期間記録をつける。

例:インフラ施設の状況、利用状況や頻度、集会への参

加者の積極度など外部からでも「見える」ことの変化を見

る。

観察

グ ル ー プ 踏 査

(transect)

専門の異なるチームメンバーが一緒に、一定の規則に

従って徒歩や車で村をまわり、観察やインタビューを行

う。

例:村の丘から海岸に向かって歩いていきながら情報を

収集することで、標高や土壌、植生などの違いに基づく

村人の状況やニーズの多様性を知る。

コミュニティ・インタビュー コミュニティの代表者に集まってもらうインタビュー。村の

全体概況をつかみ、どのようなサブ集団が存在している

かなど、基礎情報を把握する。

例:社会調査のごく初期の段階で、調査の趣旨と調査メ

ンバーを知ってもらうとともに、村の一般状況を知る。

フォーカスグループディ

スカッション

同質性の高い5-9人程度に集まってもらいグループでイ

ンタビューしたり、特定のテーマについて議論してもらう

もの。同質にすることで他の利益グループからの影響を

除くとともに、一人が提供した情報の信頼性を確認する

ことができる。調査者は議論のテーマを提供する程度に

とどめ、自由な議論を妨げない。

例:女性だけのグループで女性の労働について自由討

議してもらい、そこから現状と課題を抽出する。

半構造化

さ れ た イ

ン タ ビ ュ

世帯・個人 代表的な世帯・個人を訪問し、聞き取り調査する。ただ

し、二次データや事前に行うコミュニティ・インタビューで

基本的な状況を理解してから行うべき。

例:その地域、住民のことをよく知らない段階で、より深

い情報を得るために行う。質問表などの標準化された質

問からは得られないような情報が得られるように、回答者

が自由に意見を述べられるような工夫をする。

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 8

種別 技法、成果物 方法、使用に適したトピックと例

集落地図 村のスケッチ、土地資源活用状況・インフラ整備状況の

把握。

例:村の中の道路の状況をもとに、農産物流通の現状と

困難点を議論する、水源の位置の状況を下に、畑の場

所による水源確保の困難度の差、それ対する対策やニ

ーズなどを議論する。これも参加者の自由な発言をなる

べく阻害しないようにする。

労働カレンダー 年間と季節ごとの労働力需給パターン、内容の変化、構

成員間(男女など)の労働配分の理解。

例: カレンダーの作成を通して議論の焦点を絞ることが

できる。

年間栽培カレンダー 営農状況。農作業プロセスごとの作業時期の把握。

例:農作業の年間スケジュールの作成を通して、準備

期、生育期、収穫期のそれぞれの時期の問題点、二期

作や二毛作の現状と可能性などの議論を導く。

日常生活記録図 毎日の時間の使い方を把握。

例:男女での労働パターンの違いからジェンダー問題の

議論に導くなど。

社会図(ベン・ダイアグラ

ム)

コミュニティにおける各種社会グループの関係・役割・機

能の把握。

例:村民と行政機関、学校や宗教施設などとの関係性を

明らかにすることを通して、どこから協力を得るべきか、

どことの関係を改善すべきかなどの議論に導く。

地域断面図 土地資源活用状況・地域のインフラ整備状況の把握。

上記とランセクトの結果の図示。

家系図 村の社会階層分化や社会関係、子供の平均数や教育

水準の把握。

収入源と支出先図 現金収入の入手先と支出先から、暮らしぶりを把握。

順位づけ

階 層 化 (Wealth

Ranking)

社会階層分化の把握。

例:住民が意識している「貧」「富」とはなにかの指標を具

体的に挙げてもらい、それに基づいて「貧「」富」に属す

る人が村にどのくらいいるかを住民自ら決めてもらう。こ

れを通して、彼らの貧富の認識を知るほか、貧困層対策

の活動の対象を彼ら自身に選定してもらい、後に不公

平感が出ることを防ぐという点でも有効。

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 9

種別 技法、成果物 方法、使用に適したトピックと例

問題の重要度ランキング コミュニティやグループの問題の重要度の把握。

例:複数の問題をあげてもらい、それを 1 対 1 で比較す

ることで最終的に全体の順位を決める。これにより、限ら

れた資源や支援を何に使うかを決める。また、下記(優

先度ランキングの例)の方法もある。

優先度ランキング コミュニティやグループのニーズや選択基準の把握。

例:重要と思うニーズを挙げてもらい、それぞれのニーズ

を支持する人がグループを作り、それぞれに重要性の

プレゼンテーションをする。その後、投票などで順位を

決める。また上記(問題の重要度ランキング)の方法もあ

る。

事業前・後の比較表 過去に行われた事業によって何がもたらされたのかを振

り返ることで、同様の事業を行うことの必要性やその際の

留意点などを考える。

民族歴史 村 の 歴 史 (Historical

profile)

時系列に出来事を箇条書きにするもの。重大な事件な

どが把握できる。

例:過去に起こった問題がどうして起こったのか、またそ

れをどのように解決してきたのかを振り返ることで、現在

の問題を考えることにつなげる。

(出典:国際協力銀行「円借款事業における貧困緩和への直接的インパクトに係る事後評価手法ハンドブック」

国際協力銀行発行 を参考に筆者作成)

これらの技法の共通する特徴は、農家の人たちと調査者が同じ立場に立てる「場」を作る、というこ

とです。それによって、後に述べる情報の「バイアス」をできるだけ小さくするとともに、情報提供者

の持っている情報をより柔軟に引き出そうとします。

(3) インタビューの種類

インタビューも、聞き手がどのように質問するかによって、情報収集の仕方が変わってき

ます。大きくは、1) 構造化されたインタビュー、2) 半構造化されたインタビュー、3) 構

造化されていないインタビューの 3 つに分けることができます。

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 10

表 【16】-6 インタビューの種類と特徴

種類 特徴 調査票

構造化された

インタビュー

質問を具体的に整理し、それに沿ってインタビューを行な

う方法。質問の順序も考えて調査票を作成する。フォーマ

ルインタビューと呼ばれることもある。

Q&A

半構造化された

インタビュー

大まかな質問項目のみ決めて、必要に応じて質問内容を変

更、追加しながら柔軟にインタビューを行なう方法。

チェック

リスト

構造化されない

インタビュー

質問の趣旨を明確にした上で、回答者に応じて自由に質問

していく方法。調査者の力量が も問われる手法。

議事録

農村社会調査の設計

調査の手順

図【16】-1 調査のプロセスフロー

全体計画の策定にあたっては、調査項目別に、担当者、対象者、情報入手先、調査方法、

調査日時を整理します。調査方法の選択では、調査目的に応じて目的の特性に合致した調

査手法を選択するようにしましょう。なお、大規模アンケート調査を実施する場合は、本

格的な調査を始める前にプリテストを行って調査票を修正する期間を取っておくことが必

要です。調査を外注する場合はその費用や調査票の材料費、分析費などもこの段階で明ら

かにしておくべきでしょう。

調査票の作成

大規模アンケートだけでなく、集団インタビュー、個人インタビュー、現地踏査などいず

れの場合においても、どのような情報をどのように集めるかということを明確にすること、

またそれを関係者の間で共有するために、調査票を作成するのが望ましいです。

調査の目的

の設定

調査項目と分

析 事 項 の 決

定、情報収集

方法と分析方

法の決定

調 査 票 の 作

成、その他・

実際的調査事

項の決定

調査分析項目・

調査技術 調査票・調査方

の決定 法・調査期間

調査実施 データ収集 データ整理 結果分析

調 査 課 題

の 設 定

考 察

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 11

(1) 踏査・測定の調査票

現地踏査の場合でも、調査票に日時、調査者、場所の欄を必ず設けます。必要に応じて調

査番号、地図や写真貼り付け欄を設けることもあります。また、技術関連の調査の場合は、

調査したい内容を択一式で準備しておくことで、調査の精度がそろい、効率が上がります。

(2) 個人・集団インタビューの調査票

構造化されたインタビューは十分検討して作成した質問票を用います。一般に、「事実を聞

く」→「意見(判断)とその理由を聞く」→「裏づけとなる数字を聞く」という順に質問内容を並

べられることが多くなります。半構造化されたインタビューでは、チェックリストのよう

な形で聞きたい事項を整理しておき、状況に応じて質問を変えたり増やしたりしながらイ

ンタビューを進めます。構造化されないインタビューでは、自由に質疑を進めるので、質

問表というよりも、議事録の作成に近くなります。いずれの場合でも、調査票には 低限、

日時、調査者、場所、面談者、入手資料名の項目が必要です。

(3) 大規模アンケートの調査票

大規模アンケートで用いる調査票は、必要な情報が得られる上、回答者に負担をかけず、

統計処理にも耐えうるものである必要があります。そのため、本格的な調査を始める前に、

必ず調査票案を用いたプリテストを行ない、調査票案を修正することが重要です。調査票

の条件は以下の通りです。

調べたり考えたり迷ったりせず、ストレスなく答えられること

回答が長時間に及ぶことなく、回答者に負担をかけないこと

理解しやすい質問文であること

対象者の読める言語を用いること

対象者の把握できる内容にすること(日別支出などあまり詳細な問いであると答えら

れないことがある)

選択肢には無いが、回答者が訴えたいことを聞く項目があること

統計処理できるデータが得られること

条件が異なる地域内を対象にする場合は、クロス集計が可能な設問にすること

知りたい内容に関して抜けがないこと

調査対象者の選択

(1) 個人・集団インタビューの調査対象者の選択

個人・集団インタビューを行なう場合は、聞きたい内容を も包括的に理解している人物・

集団を選択することが必要です。ただし、社会的に重要な問題に関するインタビューを行

なうような場合は、関心の異なる複数の個人・集団を選択して、より幅広い情報を得るよ

うにしましょう。例えば、女性と男性、若者と老人、職業の違い、旧住民と入植者、社会

的階層などによっても同じ問題に関する重要性の認識が異なる場合があるので、これらを

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 12

考慮しながら調査対象者を選択しましょう。

(2) 大規模アンケートの調査対象者の選択

大規模アンケート調査の対象者の選択も基本的には個人・集団インタビューの場合と同じ

です。さらに、アンケート調査結果がデータ解析に耐えうるものにするためには、必要標

本数以上のサンプルを採取する必要があります。偏りのないサンプルをとるためにも適切

なサンプリング手法を選択しましょう。以下に、必要標本数の算出の計算式と、サンプリ

ング技法を紹介します。

必要標本数

母集団 N の集団から、誤差の幅±5%で、推定したい場合の必要 小サンプル数n

N

n = --------------------------------------------------------------

{(0.05/1.96)2×(N-1)/0.5(1-0.5) }+1

母集団 N の集団から、誤差の幅±10%で、推定したい場合の必要 小サンプル数n

N

n = --------------------------------------------------------------

{(0.1/1.96)2×(N-1)/0.5(1-0.5) }+1

サンプリング技法

サンプリング技法には、単純無作為抽出法、等間隔抽出法、多段抽出法、層化抽出法があ

ります。基本的にサンプリングは母集団からランダムにサンプリングする単純無作為抽出

法が も理想的なのですが、その作業が非常に困難なため、等間隔抽出法、多段抽出法な

どが考え出されました。途上国ではサンプリングの抽出ソースとなる住民基本台帳、選挙

人名簿抄本が整備されていない国も多く、単純無作為抽出法によるサンプリングが困難な

ことも多くなります。そのような場合は、母集団の数に比例させてサンプル数を決める層

化抽出法が採用されます。なお、データの偏りをなくすために考慮すべき主な事項として

は、所得、年齢、性別、宗教、職業、教育レベル、言語、社会的階層、地形、インフラへ

のアクセス性、家族構成、過去の援助の有無、災害の頻度、土地の条件などがあります。

表 【16】-7 サンプリング技法の種類と特徴

名称 特徴

単純無作為

抽出法

まったくランダムに対象者を選択する手法。住民基本台帳や選挙人名簿か

ら抽出することが多い。サンプリング作業が困難である上、調査対象もラ

ンダムに分布するために、調査員の移動コストがかかる。

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 13

名称 特徴

等間隔抽出

法(系統抽出

法)

単純無作為抽出法のサンプリング作業を軽減させたもの。母集団に番号を

つけ、等間隔に対象者を選ぶ。サンプリング台帳に規則性がある場合は標

本に隔たりが出ることに注意が必要。

多段抽出法

(副次抽出

法)・確率比

例抽出法

単純無作為抽出法で、調査員の移動費用がかかる点を解消させたもの。例

えば、全国対象の調査の場合、第1段目で市区町村の無作為抽出を、第2

段目で町・字の無作為抽出を行い、 後に対象者を無作為抽出するという

やり方である。より正確さを求める場合には、確率比例抽出法を採用する。

層 化 抽 出

法・層化多段

抽出法

あらかじめ分かっている母集団の比率に応じてサンプル数を決定する方

法。例えば、母集団の中で A村が 1000 人、B村が 500 人、C村が 300 人と

いうころが分かっている場合、10:5:3 の比率でサンプリングする。官庁や

新聞社が全国で実施するほとんどの調査はこの方法である。

調査を進める上での留意点

調査の技法を駆使して、対象の「あるがままの姿」を把握する基本は、調査する者とされ

る者の信頼関係に大きく依存しています。言いかえれば、日常の普及活動における農家と

調査者(普及員など)のコミュニケーションによるところの関係構築が重要です。

さらに調査を進める上では、1) 調査の目的を十分に説明して理解を得る、2) 全面的な協力

を得ること、3) 調査項目の設定を十分に検討すること、4) 調査内容に応じた技法と場を設

定することの 4 点が重要な留意点となります。

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 14

残念ですが、情報提供者が常に客観的で正しい情報を提供してくれるとは限りません。ま

た、私たち調査者も、ひとつの情報を得たときに、それを正しく理解するとは限らないの

が現実です。このような情報、あるいは情報の理解が本来の姿からずれてしまうことを「情

報のバイアス」と言います。大きく分けて3つのバイアスがあります。調査者のバイアス

と調査対象者のバイアス、そして調査環境のバイアスです。7

調査者のバイアス

調査メンバーが持っているバイアスに自らが気づく必要があります。これには専門、性別、

持っている仮説などから生じる先入観があります。聞いたことを忘れるという時間の制限

もあることを覚えておきましょう。

調査対象者のバイアス

調査対象者が答える内容は、次のことがらによって左右されることがあります。調査団に

対する期待、外部者への遠慮・丁寧さ、性別や職種、年齢、階層、村の指導者に対する配

慮、政治的圧力、言語、文化、民族、慣習など。

調査環境から生じるバイアス

物理的な条件によっても、調査結果は偏ることがあります。例えば、調査する場所、時間、

季節、期間、調査手法、調査団のメンバー構成。

調査結果の分析

(1) 収集した情報の吟味

収集した情報に関しては、現状の推察に入る前に、その確からしさを吟味する必要があり

ます。吟味は 1)情報源が信頼できるか、2)どのような母集団を代表した情報か、3)別の

裏づけがあるか、などの観点からチェックします。

(2) 大規模アンケート調査の結果の分析

大規模アンケートで得られたデータは、さまざまな定量分析を行うことでその因果関係や

母集団内の数を求めることができます。分析の方法としては、データベースを作成した上

で、一次加工、クロス集計を行い、区間の推定や有意差や関連があるかどうかの検定を行

7国際協力銀行 〔2001〕『円借款事業における貧困緩和への直接的インパクトに係る事後評価手法ハンドブック』国際

協力銀行 第7章 p.75

NOTE : 情報のバイアス

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【16】 農村社会調査概論

【16】- 15

なうほか、回帰分析や多変量解析を行なうという方法がとられることが多くなります。こ

れら定量分析法の概要を表【16】-8 に示します。

表 【16】-8 定量分析法の種類と特徴

名称 内容 特徴

データベース

の作成

データを表やカードタイプに整

理する

すべてのアンケートで実施する

データの一次

加工

平均値、サンプル数、合計値など

を出す

すべてのアンケートで実施する

データの図表

散布図、ヒストグラム、折れ線グ

ラフ、表で視覚化する

数字だけでは把握しづらい場合に用いる

クロス集計

分析

二つ以上の属性または変数に関

する傾向や違いを把握する

複数のグループを比較したい場合に用い

平均値比較

検定

二つの項目の平均に優位な差が

あるか検定する

二つの項目間に差があるかどうかを確か

めたい場合に実施する

相関分析 二つの項目間に有意な関係があ

るか検定する

二つの項目間に関係があるかどうかを確

かめたい場合に実施する

回帰分析 二つ以上の項目間の関係式を求

める

有意な関係があると判断された 2 項目間

の関係を数式で表現する場合に用いる

多変量解析 関連する多くの変数を同時に処

理して総合的に分析する

複数の特性の総合評価やサンプルの類型

化などに用いられる

参考文献

・プロジェクトPLA編〔2000〕『続 社会開発入門 PLA:住民主体の学習と行動によ

る開発』国際開発ジャーナル社

・管野哲哉〔1998〕『農村開発調査入門:Rapid Rural Appraisal の原理と手法』自費出版

・国際協力事業団〔2001〕『国際協力と参加型評価』国際協力事業団国際協力総合研修所

・菊池京子編〔2001〕「開発学を学ぶ人のために」世界思想社

・国際協力銀行 〔2001〕『円借款事業における貧困緩和への直接的インパクトに係る事後

評価手法ハンドブック』国際協力銀行

・Karen Schoonmaker Freudenberger 〔1996〕『Rapid Rural Appraisal and Participatory Rural

Appraisal』 Catholic Relief Services

・社団法人全国有機農業改良普及協会編〔1986〕『新普及活動シリーズ No.2 普及活動の基

礎理論と手法』社団法人全国有機農業改良普及協会

・社団法人全国有機農業改良普及協会編〔1986〕『ファーミング・システム研究理論と

実践』社団法人全国有機農業改良普及協会

・社団法人全国有機農業改良普及協会編〔1986〕『普及指導計画の策定』

社団法人全国有機農業改良普及協会

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【17】 普及手法概要

【17】- 1

農業普及のプロセス

日本の農家の技術発展と農業普及

日本の村落開発運動は、第 2 次世界大戦後、戦争で疲弊した農村部の復興支援を目的に政

府の補助事業として農業改良普及員(生産者の農業技術の支援・指導)と生活改良普及員

(農村の生活改善と農村女性の自立支援・指導)の 2 分野並列で開始されました。

一般的に農業普及は、農業改良普及を指しますがその普及活動は、生活改善普及と常時連

携を取りながら実施されてきており、現在では農業改良普及と生活改良普及は一つの事業

に統合され継続しています。現在の日本の農業普及の 5 つの基本方針は次のとおりです。

日本の農業普及の 5 つの基本方針 具体的な指導内容と活動

(1) 農家経済の安定 生産性向上のための栽培技術の指導

農家経営の指導:農業経営と生活設計

経営簿の記帳・分析・診断

(2) 健康を考えた農作業の合理化 作業計画・労働計画の見直し

労働環境、作業環境の改善

労働効率化のための組織化

健康増進のための組織化

(3) 農村環境の改善 生産基盤の整備(構造改善事業)

集落内土地利用計画の推進

地域資源の有効利用のための組織化

生活環境の点検と保全のための共同作業

(4) 農村社会の活性化 地域資源の有効利用と保全

目的: 各種の普及手法のメリット・デメリットを対象者の状況別に理解する。

目標: 対象者の状況に応じて普及手法の使い分けができるようになる。

参照 Job Aid: 普及事業のインパクトモデル

1

【17】 ユニット 4.2.1 : 普及手法概要

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【17】 普及手法概要

【17】- 2

地域特産品の開発と流通

地域内労働力の有効利用と生活の安定

地域住民が誇りとするシンボルの形成

相互扶助等相互組織の確立

(5) 農業の担い手育成 農業技術と経営管理能力の紹介

集団活動の助長

また、日本の農業改良普及員の指導書となっている『普及活動の基礎理論と手法』(社団法

人 全国農業改良普及協会編)では、普及は教育であるとして、次のように説明していま

す。

『普及は教育であり、普及活動は教育的でなければならないと言われている。また普及は

考える農民を育てる仕事であるということも普及事業がはじめられた時から言われてきた

ことである。このことが強調されるのは、ややもすると普及活動が教育的でなく、単なる

技術の伝達になりやすいからである。普及事業は、農民が農業の改良や生活の改善をはか

るために必要な能力を高めることを目標とし、普及員が直接農民に接して普及指導にあた

るものである。普及員の知っている知識や技術を農民に伝えるだけでなく、農民の実態に

則し、彼らが直面している問題を解決してゆく能力を高めること、つまり「農民の自主性

に訴え、創造性と実践力豊かな農民を育てること」が、普及活動の大きなねらいであり、

それは教育活動に相通じることなのである。教育という活動は相手に思考作用や選択行為

を十分させることを基本とする。これは思考や判断をした上で、自分で正しい結論が導き

出せるようにすることを意味するのである。』8

普及員の機能と普及手法

現在の日本の農業普及の機能とその主な活動様式は、表【17】-1 のように整理できます。

8 社団法人全国農業改良普及協会編〔1986〕『新普及活動シリーズ No.2 普及活動の基礎理論と手法』社団法人全国農業

改良普及協会

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【17】 普及手法概要

【17】- 3

表【17】-1 農業改良普及員の機能と主な活動様式

機能 指導領域 主な指導活動内容

教育的指導機能 技術指導 栽培・経営技術指導

現地技術開発機能 現地技術の開発・実証・組み立

現地技術の開発・実証、個別技

術の組立

コンサルタント機能 農業経営の相談・診断 経営診断

経営形態変更の相談

技術審査機能 補助事業・融資についての技術

審査 奨励・融資事業への技術的努力

組織化機能 同一目的への農業者の組織化

主産地形成の推進

生産組織の育成

農村青少年グループの育成

農村社会の形成援助 健全な農村社会形成への支援 地域開発計画の策定

農家と農政への媒介 農家と農政間の情報連絡 農家の意見の農政への反映

農政情報の伝達・啓蒙

カウンセラー機能 就(離)農等への相談 後継者の確保・育成

離農相談

(出典:全国農業改良普及協会 新普及活動シリーズ No.3「新普及活動シリーズ No.3 普及指導計画の策定」全国農

業改良普及協会発行 を参考に筆者作成)

有機農業普及を通した小規模農家支援における普及員の役割の重要性

このコンテンツのさまざまなところで述べているように、有機農業は小規模農家の自立性、

経済性、永続性、安定性などさまざまな点で優れた面を持つ農法だといえますが、その一

方で、慣行農業から有機農業に転換する際に少なからぬ困難に直面することも確かです。

いわば、病気の進んだ体を直すための治療に痛みを伴うようなものです。しかし、その痛

みを乗り越えなければ健康な体を手に入れることができません。農家のこの「痛み」を乗

り越えるための力と自信を与えてあげるということが、有機農業の普及における普及員の

役割としてとても重要です。困難の元は、大きく以下のように「時間がかかる」と「どう

していいかわからない(やったことがない)」という二つの不安要素にまとめることができ

るでしょう。

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【17】 普及手法概要

【17】- 4

表【17】-2 有機農業への転換期の困難の例

困難の元 具体的な例

土壌改良

適正品種の発見

時間がかかる

顧客開拓

適正品種の発見

化学肥料・農薬に頼らない栽培

有機肥料作り

顧客開拓

どうしていいかわからない

もし失敗したらどうする?

これを助けるためには、次のような工夫が必要です。

時間をかけてもいいような計画を指導してあげる。

時間をかけていくなかで、農家自身が一つ一つ何かを達成していき、成功体験を

積み上げることで、さらに前に進んでいく自信を深めていくのを支援する。

どうしたらいいかの具体的なアドバイスをあげる。

具体的なアドバイスの提供から、自分で考えるヒントに徐々に変えていくことで、

農家が自ら考えて工夫して自らの農業を実現していく手助けをする。

上の 4 点に共通することは、自信と自ら考える行動を身につけて、農家として自立してい

く過程を、あせらずに段階的に支援していく、という考え方です。

普及手法の種類

日本の農業普及の変遷とその種類

日本の農業技術普及の変遷は下記のように整理できます。

明治時代 : 年長者による復伝式農業普及や農談会、種苗交換会などの自発的取り組み。

19 世紀後半 : 自主的な組織や組合などによる農業改良のための自発的な試みへの発展。

第二次大戦中 : 官主導型制度の農業技術の強制指導。違反の取り締まりと作物の強制取り

立ても。

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【17】 普及手法概要

【17】- 5

1940年代 : 導農場制度の導入での経営タイプや技術の展示と体験による技術指導。農

民から他の農民への指導の訓練。On-farm Research 型と復伝式

(Farmer-to-Farmer)普及方法を合わせたタイプ。普及の権限を中央政府か

ら都道府県へ委譲。

戦後 : 農地改革、農業協同組合法、農業改良助長法の成立。「共同農業普及事業」

と定義される。食糧増産のための技術移転から農民の自主性と民主的思考

の育成への転換。

また、JICA調査研究報告書「生活改良普及員に学ぶファシリテーターのあり方」では、次

表のように日本の農業普及手法を3つに類型化しています。

表【17】-3 農業普及手法類型

類型 特徴

第1 型

技術伝達型

上意下達式。普及員は、試験研究所等で開発された近代的技術

を農民に伝達する。

第2 型

助言指導型

農民のニーズを基に専門家が開発した技術を、普及員が農民に

助言、指導する。

第3 型

ファシリテーション型

農民の実践的学習過程をサポートする。普及員は農民による技

術開発を支援するファシリテーター役。

(出典:太田美帆「生活改良普及員に学ぶファシリテーターのあり方-戦後日本の経験からの教訓-」国際協力事業団

国際協力総合研修所発行 を参考に筆者作成)

戦後の「共同農業普及事業」の新設に際して当時の政府は、農業普及のそれ以前の変遷を

振り返り、「農民を解放し、自主的な自作農民を創設するため、その指導方法も(中略)

農家を科学的なものの見方、考え方、比較の仕方について訓練すること」と記しています9。

ここに、普及の目的を、単なる技術指導を超えて人的能力開発に転換しようとしている様

がうかがえます。日本の普及手法も、この段階で、第3のファシリテーション型への転換を

目指したといえるでしょう。先に述べた、自ら責任を持って考え判断し行動する「考える

農民」の育成が、この後の日本の農業普及の 大のテーマとなっていくのです。

さらに近年になると、農村そのものの変化もその速度を増しています。次の表は、特に近

年の日本の農村の変化の様子とそれに対応する普及事業のあり方を整理したものです。

9 農林省農業改良局編(1949)『農業普及便覧』農林省

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【17】 普及手法概要

【17】- 6

表 【17】-4 日本の農村社会の構造変容と普及事業との関連

このように農業普及事業は、その時代の社会・経済・文化的な背景に応じて変遷しながら発

展してきました。この日本での例がそのまま皆さんの国に当てはまるかどうかはわかりま

せん。それぞれの状況の中で、どのような普及事業があるべきなのか、皆さん自身で考え

てみてください。

コミュニケーションの形成

普及活動の原則は「農家のために、農家とともに行うこと」です。したがって、普及活動

の計画段階から実施に至るまで農家の意向や意見を受け入れ、かつ農家の言葉を引き出し、

それに対して反応するという対人間のコミュニケーションの姿勢と能力が普及員に求めら

れます。また、適切なコミュニケーションを図るということは農家に対してのみだけでは

なく、職場内、役所、農協などおよそ農業にかかわる多くの人々すべてに対して行わなけ

ればならないことです。

コミュニケーションの形成は、ひと言でいえば人間関係を築くこととですが、人間関係が

良くなるも悪くなるも話し合いの有無と巧拙、つまり「聴く」「話す」「それによる心理変

化」で決定します。

それでは具体的に、コミュニケーションの相手が心理変化を起こす良い「聴き方」と「話

し方」とは何かを考えてみましょう。

聞き上手:

村落社会の構造

近年の変化の方向 農業普及との

関連性

村落共同体による生産 村落共同体の解体、 自立経営へ

生産組織等の

機能集団化 村落の生産構造 地主による土地所有 自作農による土地所有 協業化

部落単位での集団原理 部落と機能集団の分

離・分化

機能集団の能

力向上や効率

諸慣行による部落内規

制・強制 慣行の消滅・弱体化

慣行に変わる

社会関係の模

村落の生活行動 (社会と農民生活)

家と村への個人の埋没 家の解体・個人の自立 協業化、機能

集団化 村落の政治構造 (自治機構と運営)

部落中心主義 (家格による部落支配)

部落自治の民主化・運

営の合理化

村落のリーダーシップ 権威的リーダー (家系、地縁・血縁による)

民主的リーダー (役職の機能分化)

民主的リーダ

ーの養成

過 去

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【17】 普及手法概要

【17】- 7

興味や関心の領域が広いほどさまざまな話についていけます。でも、聞きたくないこと、

話し手の身勝手など、忍耐力が必要なこともあります。人は話を熱心に聞いてくれる人を

好きになります。それは誠意を持って聞く人であり、イエスマンではありません。相手の

立場を理解し、相手の利益を守る姿勢が大切です。優れた普及員は現場に行き話を聞くこ

とから始めます。聞き上手になるための原則は‥‥‥‥‥‥

人間に対する興味を持つ、積極的であること、

公平であること、謙虚であること、

我慢強いこと、人の気持ちに共感できること などでしょう。

話し上手:

人によっては話すことが苦手だ、という方がいるかもしれません。普及員は農業技術のメ

ッセンジャーであるから分かりやすい話し方が望まれます。良い話し方とは‥‥‥‥‥

自分から近づいてあいさつする、明るく、さわやかに、

誠実で熱心な話し方をする、気取ったり、恰好つけたりしない、

間違ったら率直に詫びる、取り繕ったりしない、などです。

普及員が農家や地域に溶け込むポイントと具体的な方法を次表で見てみましょう。

表 【17】-5 農家や地域に溶け込むポイントと方法の事例

溶け込むポイント 具体的に取った方法

農家の悩みを見つける いろいろな場面で問題意識を持って話し、悩みを引き出し

た。地域農業の将来像や活力と希望のある農業を築くにはど

うしたらよいか会話のなかで見つけようとする。相手の悩み

を真摯に聴き、それに応えるように努力する。

頼りになる普及員になる 相談、質問などわからないことは一週間以内に回答する。中

核農家や農業委員に自分の印象が残るような話しをする。

企画力を持つ 常に先進地や域外の情報を把握することに努める。

農家組織を活用 農家のリーダー格を中心に組織づくりを行う。

農村女性へのアプローチ 女性グループの会議に参加し、農村女性の抱える課題などを

意識することに努める。

(出典:社団法人全国農業改良普及支援協会「普及指導員のための道具箱」社団法人全国農業改良普及支援協会発行

を参考に筆者作成)

以上では、一般的なコミュニケーションの形成について抽象的に説明してきました。次に、

コミュニケーションの形成が舞台となる基本的普及手段、すなわち個別指導と集団指導に

ついてそれぞれの特徴と留意点を次の表で確認しましょう。このふたつの手段はそれぞれ

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【17】 普及手法概要

【17】- 8

の長所を活かして組み合わせて使うことで指導の効果を高めることができます。なお、個

別指導は主に農家単位で、集団指導は生産者グループ、販売グループ、女性グループ、青

年グループなどのグループを対象に実施します。

表 【17】-6 個別指導と集団指導の特徴と留意点

特徴 留意点

能力にあった指導が可能。

農家との結びつきが強まる。

密着した問題解決ができる。

個々の農家に振り回されて非

効率で計画が立てにくい。

農家の持ち味を大切にする。

農家の気づかない良い点を引き出す。

穏やかで控えめな態度で接する。

普及員は自分自身に自信をもつ。

わからない問題は後日調べて回答する。

計画的・効率的に実施できる。

集団として取り組む解決法が

ある。

メンバーの多様性に対応して

多様な解決法が提案される。

普及員と農家の交流が広く早

く形成される。

農家の能力や営農規模にバラ

ツキがある時、階層分化や対

立が起きやすい。

普及員に高度な幅広い技術や

調整能力が求められる。

集団の共通目標、共通課題を把握する。

指導案を作り、計画的・継続的に活動する。

農家が質問し易い雰囲気作りをし、農家間

の交流を促す。

出席者が誰だったか確認しておく。

欠席者を後日訪問し、フォローする。

集団を相手にする場合、(1)講習会や(2)視察や(3)普及用の圃場を活用した普及手段

は技術を視覚的に提示することが可能となり、効果的な技術伝達のコミュニケーションの

場を形成できます。この 3 つの手段についてそれぞれ特徴などを確認しましょう。

(1) 講習会

講習会は多くの参加者に一度に情報を伝えるための手段です。概して言葉だけで伝わる確

率は低く、話すだけの情報伝達には限界があります。そこで、農業改良普及センターなど

の部屋を利用し、資料を準備しホワイトボードや模造紙に伝えたい内容を簡潔に、かつ文

字の色や大きさを工夫、下線や囲みを入れて表わすことで、視覚的に情報を伝えることが

可能となります。

(2) 視察

視察の主な目的は先進的農業を見学し自分たちと比較することで動機づけを促すことです。

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【17】 普及手法概要

【17】- 9

視察は、新しい情報の収集・接触により、問題の改善、新しいことの導入、新しいことの

創造への動機づけがなされ、課題解決に必要な情報の収集を行い、収集した情報の処理に

より解決方策を案出するための有効な手段です。次の表で視察の目的と内容と手順を見て

みましょう。

表 【17】-7 視察の目的と内容、手順

目的 内容

先進技術の習得 新しい技術や企業的な経営方法

産地動向の調査 生産者の動向や考え方、生産・流通形態

流通形態の習得 市場の流通システムや消費者ニーズ

創造性の開発 経営改善のヒント、新しい発想

地域開発手法の習得 地域作りや地域農業システムのあり方

視察の手順

テーマ設定

農家と集団が抱えている問題解決を図る内容とする。

経営の発展や組織活動強化を推進するためのテーマとする。

新しい技術や企業的経営を推進するための内容とする。

普及しようとする技術を観察できる対象作物の生育ステージや

集出荷時期など研修目的に沿った時期を選ぶ。

視察地の選定

地域、県や国、各種団体などから紹介された事例。

新聞やラジオなどのマスコミで紹介された事例。

篤農家などから紹介された事例。

問い合わせ

事例を担当する農業事務所へ連絡する。

目的、時期、参加者の人数などを明確にして予算化を図る。

事前の依頼をし、文書で再依頼する。

事前準備

視察先の情報を収集し資料にまとめる。

記録道具を準備する。

スケジュールと視察の目的を参加農民に周知する。

実施・評価

視察先の農家や普及員に迷惑をかけない。

参加者の感想や意見を交換する場をつくる。

視察結果を報告書にまとめ参加者へ配布、視察先へは礼状を出

す。

(出典:社団法人全国農業改良普及支援協会「普及指導員のための道具箱」社団法人全国農業改良普及支援協会発行

を参考に筆者作成)

(3) 普及用圃場

試験圃、実証圃、展示圃は技術を直接視覚に訴えるので、普及効果をさらに高めることが

できます。試験圃では技術開発のための試験を国立や県立の農業試験場などで、実証圃場

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【17】 普及手法概要

【17】- 10

では開発された技術の現地適応性を見極めるために、そして展示圃は普及のために、農業

普及センターや農家の圃場などに設置されます。3 つの圃場の技術開発と普及開発への効果

の度合いは次の図のように示されます。

図 【17】-1 試験圃、実証圃、展示圃の技術開発と普及効果

これらの圃場では試験としての精度をあげることでより説得力が増します。また、農家の

圃場を活用した展示圃場の効果を高めるためには準備段階から実施に至るまで次の表のよ

うな留意点が考えられます。また、言うまでもありませんが、有機農業の技術を試験ある

いは展示する圃場そのものが有機農業の要件を満たしていることが大前提です。

表 【17】-8 展示圃場の効果を高める活動

段階 活動

計画・準備

展示すべき技術の情報を集める。

農家と相談して設計、担当農家、設置圃場を決める。

担当農家の技術、圃場の条件、経営能力、人格、指導性を勘案する。

実施・指導

圃場では作業段階を明示し慣行区と対照区の比較がわかるようにする。

講習会・研修で活用する。

担当農家にも展示圃の説明をしてもらう。

作物の生育ステージ、農作業などを調査記録する。

普及効果の調査を実施し、今後の検討を行う。

以上のように個人指導、集団指導、講習会、視察、普及用圃場などの営農の向上や技術普

及を目的とした農家とのコミュニケーションの場を組み合わせることで現場における普及

事業を効果的に向上させることができるでしょう。しかし一方で、その組み合わせ方は、

普及事業に振り分けられる予算規模、普及員数と農家戸数、移動手段の有無や種類、など

の制約を考慮しなければならないことは言うまでもありません。

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【17】 普及手法概要

【17】- 11

参加型の技術普及 ― 農民から農民へのアプローチ ―

この章の冒頭で、普及活動のねらいは普及員の知っている知識や技術を農民に伝えるだけ

でなく、農民の実態に則し、彼らが直面している問題を解決してゆく能力を高めること、

つまり「農民の自主性に訴え、創造性と実践力豊かな農民を育てること」であると述べま

した。そして、普及員は農民の実践的学習過程を支援するファシリテーターに転じ、農民

みずから責任を持って考え判断し行動する「考える農民」の育成を担うことが普及員のテ

ーマとなってゆくと説明しました。

前掲の表【17】-3 農業普及手法類型に説明されているように、普及員が技術移転型から助

言指導型を経てファシリテーターの役割に変遷する過程で、「従来の上からの一方的な行

政的技術指導方式に対し、経営タイプや技術のやり方を見せ、かつ体験してみる」ことが

試みられるようになりました。すなわち、農民に身近な農場で農民自身が技術を試験導入

することが奨励され、その参加者は他の農民へ指導できるよう訓練されてきました。この

時に圃場研究 (On-farm Research)型や復伝式 (Farmer to Farmer)普及方法のアプローチが登

場するのです。

世界の、特にアジア、アフリカ、中南米諸国の農業普及アプローチの潮流を眺めると、技

術伝達型に代表される「研修と訪問 (Training and Visit, T & V)アプローチ」と「農家から農

家へ (Farmer to Farmer)のアプローチ」が比較されています。

トレーニング・アンド・ビジット(T&V)アプローチ T & V の普及手法の特徴は中央行政側での一括管理による画一的な研修パッケージを提供

することが容易であるという利点がある反面、研修後のケアが普及員に重くのしかかり、

普及事業の活動資金や移動手段という前提条件が満たされない場合、技術普及の確度が低

くなることが JICA の技術協力プロジェクト『キリマンジャロ農業技術者訓練センターフェ

ーズ II』で報告されています。10

また、「Agricultural Extension – The Kenya Experience, An Impact Evaluation –」11 は、世界銀行

の支援でケニアの農業普及事業に T & V を制度化しようとした試みの結果、普及と研究の

連携の改善と普及員自身の技術向上には効果をあげることができた一方、農家の意見では

生産者が欲する技術サービス内容ではなく、予算の制約があり対象農家の 2%という限られ

た農家への普及にとどまったという評価結果を報告しています。

T & V 手法は非効率的、画一的で効果が低いということでは必ずしもありません。次に説明

10 大野康雄〔2006〕『キリマンジャロ農業技術者訓練センターフェーズⅡ計画』(発表資料)

11 Madhur Gautam〔2000〕 『Agricultural Extension, The Kenya Experience, An impact Evaluation』The World Bank p67

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【17】 普及手法概要

【17】- 12

する復伝式と呼ばれる農家から農家へのアプローチ、すなわち Farmer to Farmer と比較しな

がら両者のメリットを活用し、デメリットを克服しながら普及事業に応用していくべきで

しょう。

ファーマー・トゥ・ファーマー(FTF:Farmer to Farmer )のアプローチ 農業普及事業の予算に限りがある中で、普及員をとりまく業務環境には厳しいものがあり

ます。広範囲な受け持ち範囲、非効率な移動手段(徒歩、馬、自転車、乗合バスなど)、少

ない活動資金、低賃金など、途上国ではみな、程度の差はあれ、同じような悩みを抱えて

いるのではないでしょうか。

そのような普及事業の制約などを認めつつ、農民の主体性を引き出し、高い可能性を持つ

篤農家や中核農家を普及事業に取り込み、中核農家から周辺農家へと、次の図【17】-2 の

ように直接農家にかつ広い地域に普及サービスが届くことを描くアプローチが FTF です。

このアプローチには、中核農家が自分の圃場で周辺農家へ技術を紹介し説明するフィール

ド・デイ(先進農家視察)や中核農家と周辺農家が企画して、普及の成果を発表するファ

ーマーズ・デイ(農家発表会・品評会)が中心的なツールです。フィールド・デイは、普

及用の圃場で農家自身が自分の展示圃場を使って説明する活動が進化したのではないかと

考えられます。

このアプローチの中心的役割を担う中核農家は、地域の先進的な農家である場合が多く、

周辺の農家の信頼もあつく、周辺農家への指導的な役割を持ち合わせています。また、行

政との繋がりを通じ普及員のパートナーとなります。一方で、フィールド・デイやファー

マーズ・デイで重要な役割を担う中核農家の負担や機会費用をどうするかは、FTF を持続的

に発展させていくためにも考えなければならない課題でしょう。

図 【17】-2 Farmer to Farmer のコンセプト

さて、先ほど普及員はファシリテーターという役割であると述べましたが、より厳密に言

周辺農家

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農家

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【17】 普及手法概要

【17】- 13

いばテクニカル・ファシリテーターでしょう。ですから、FTF のアプローチを具現化する前

提として、普及員は少なくとも作物の栽培経験と家畜の飼養経験などの基礎的技能を習得

していなければなりません。さらに、集団指導や事業管理能力を兼ね備えるために指導者

の研修 (Training of Trainers)も必要になってくるのではないでしょうか。

農民から農民へのアプローチとその他の手法

FTF アプローチを基礎にしたいくつかの普及手法が各国で見られます。ここでは、農民圃場

学校 (FFS:Farmer Field School)と農民参加型研究 (FRP:Farmer Participatory Research)をふ

たつの事例で紹介します。

農家圃場学校 (FFS:Farmer Field School) FFS は、1989 年に国際連合食糧農業機関 (FAO) がインドネシアで総合的病害虫管理技術

(IPM:Integrated Pest Management)を普及させるために初めて導入した普及手法です。IPM と

は、化学合成農薬だけでなく代替技術とされる物理的、生物的、耕種的防除技術を組み合

わせ、農作物の被害を許容水準以下に管理する、有機農業や低投入農業に用いられる防除

技術です。

FFS は一言でいえば、集団による農業技術の学習過程です。この普及手法には IPM を普及

するにあたり、農家が作物栽培での生態系を理解するために、FTF アプローチで見られる、

圃場での試験的学習過程を組み込んでいます。具体的には農家圃場での栽培試験、25~30

名の農民で構成されるグループによる定期的(例えば毎週)な圃場の観察と分析、フィー

ルド・デイでの農民の発表、そして卒業となります。FFS を卒業した第 1 世代の FFS 農家は

次に、第 2 世代 FFS 農家(周辺農家)に対して FFS のファシリテーションを担います。こ

のような一連の活動が 1 作期を通じて行われます。

農業普及員の役割はやはり技術的ファシリテーターです。普及員が IPM に精通していなけ

ればなりません。インドネシアで実施された FAO の IPM 普及プログラムでは FFS を実施す

るにあたり、下図の IPM 普及プログラムの流れにあるように、普及員に対して IPM に沿っ

た稲作栽培管理技術の研修が 1 作期を通じて行われました。

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【17】 普及手法概要

【17】- 14

図【17】-3 IPM 普及プログラムの流れ

FFS を通じた IPM 普及プログラムに限定すれば、参加農民にはいかなる金銭的動機付けも

ありません。他方、定期的な観察と分析、発表会、卒業式などには時間や労力が提供され

てはいますが、このインドネシアの事例では初年度に 200 の FFS が実施され 5,000 名の農民

が卒業、次の1990年には450名の普及員が新たにFFSを実施し45,000農家が参加しました。

そして何よりも、FFS を卒業した多くの農民が同じコミュニティの農家に IPM の技術を伝

えているという事実から、この手法のインパクトをうかがい知ることができるのではない

でしょうか。

農民参加型研究 (FRP:Farmer Participatory Research) 農業の試験研究は伝統的に科学者と農家の関係は一方通行の関係でした。この一方通行の

道に沿って、普及員が研究者の技術を農家に伝えていました。そして、供給側の視点で試

験研究が行われており、決してユーザー側の視点から試験研究がおこなわれてはいない、

ということが言われはじめました。

そのような背景から、FPR 手法では試験研究の設計、実施、実証の各段階で生産者を参加

させ、農民のもつその土地固有の伝統知識や気づきを認めることで、農民のコミュニティ

そのものの強化を図る手法として認識されています。サンドフォード(Sandoford) とリー

ス(Reece)によると、FPR は全ての農家レベルを農業研究やあらゆる決定に参加させる研

究アプローチであると定義しています。そして、集団研究、つまり農家を技術開発や試験

の実施主体と認め、農家を研究と普及事業の対等なパートナーと位置づけています。

エチオピアでは 1980 年代から営農研究 (Farming System Research)の実績があった国立農業

研究機関が『農家と一緒に研究を(research with farmers)』 の概念に着目し、1991 年から 1999

年にかけて Farmers’ Research Project で FPR の手法を使って普及事業を実施しました。この

プロジェクトで採用された FPR 普及事業は下図のように研究活動、研修活動、参加型農民

圃場試験 (Participatory On-Farm Trials, POFTs) の 3 ステージに整理できます。

図 【17】-4 Farmers’ Research Project で採用された FPR 普及事業の流れ

ファシリテーター養

成のための普及員の

Farmer Field School • 基本的研修

• グループの組織

コミュニティへの還元

• 発表会・卒業式

• 次世代 FFS 農家との情報共

研究活動 研修活動 参加型農民圃場試験

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【17】 普及手法概要

【17】- 15

研究活動は研究者と普及員が地域の営農の現状、制約と機会について理解を深めるために

簡易型農村調査法や参加型農村調査法を駆使して 10~12 日間をかけて、普及活動に先立っ

て行われました。それに続いて、いくつかの農産物に焦点を絞り、生産・消費・マーケテ

ィングについて調査を行い、これらの調査結果は広くプロジェクト対象地域の関係者に配

布されました。参加型農村調査などを通じて各コミュニティの営農を把握する過程で研究

者と普及員がどのように生産者と接するかという姿勢を学んだそうです。もちろん、行政

側に農民のニーズや制約が理解されたことは、この研究活動の第一の受益者が農民である

ことを示すものでしょう。

次に続く研修活動は、研究者と普及員と NGO の研修とワークショップ、農民の営農に関す

る研修とワークショップ、農民の他地域の営農を学ぶ 4~5 日間の視察などです。農家にと

って、例えばツエツエバエのコントロールや土壌水分保持技術のテラス建設などがコミュ

ニティのイニシアチブで実施されている現場を観察することは、農民が技術を導入するに

あたり、大きなインパクトがあったと報告されています。そして、研修活動は対象者によ

ってその目的が異なります。行政職員や NGO に対する研修では FPR を実施するファシリテ

ーターとしての能力開発、農民に対する研修は FPR の概念を習得することと同時に農民と

普及員と研究者の関係を理解し 3 者の連携を育成することです。この研修を通じて見られ

た農民の研究と普及事業に対する態度が変ったことを研修実施機関は認めています。

参加型農民圃場試験は FPR の核になる活動です。これは FTF にもあるように、農家の圃場

で農家自身が抱える制約の下で新しい技術を実践、試験することです。そして、そこから

得られた教訓を普及員と研究者へフィードバックし、各個人の圃場レベルの問題点を見出

すことと、研究者と普及員にとっては、どのように農民が技術を改善しながら各自の圃場

に適応させていくかという過程を学習し、業務に反映させるというものです。次表で参加

型農民圃場試験の流れと内容を確認しましょう。

表 【17】-9 参加型農民圃場試験(POFTs)の流れと内容

段階 内容

事前準備 コミュニティで選ばれた農家のグループ化とディスカッション POFTsで扱う試験テーマの設定 研究者と普及員のアドバイスや他文献でのレビュー 農民・研究者・普及員3者の 終合意と役割・責任の明確化

POFTs実施 試験実施、モニタリング・観察、記録 それぞれのPOFTsの相互見学とフィールド・デイ

評価会 評価項目の設定 比較検討と教訓の抽出

情報共有 コミュニティでの集会やField dayでの発表 農民・研究者・普及員・専門家など全ての関係者のワークショップ

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【17】 普及手法概要

【17】- 16

有機農業と日本の普及事業 ― 行政の取り組み ―

有機農業を推進するにあたり、日本国内で面的に展開するには生産者個人のみの取り組み

には限界があります。行政と研究機関と現場の普及員、農業協同組合などの農業関連機関

が生産者と一緒になって取り組むことで、現場での実践に結びつくのが理想です。ここで

は、行政が法律や制度を通じて有機農業に対する日本の農業の方向性を打ち出し、生産者

が有機農業に取り組みやすい環境を整えていることを示し、後段ではいくつかの根拠法と

支援策の下で地方自治体、普及員、生産者、農業協同組合がどのように連携し、有機農業

を現場で推進しているかを紹介します。

行政による制度・法律の整備と支援策 1971 年に生産者有志による草の根的な有機農業の研究と推進運動が立ちあがり、我が国の

有機農業の先駆けとなったことはすでにユニット【1】0.1.1「有機農業の理念」で概説しま

した。他方、日本政府が整備した、2000 年の有機食品に関する日本農林規格(有機 JAS 法)

と今日の有機農業推進の根拠法となる「有機農業推進法」制定にたどりつくまでに、政策

と制度や法律の整備が次ページの表のように実施されてきました。

有機農業に対して日本政府が本格的に取り組む前に、まず政府は「農業の持つ物質循環機

能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使

用などによる環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」、すなわち「環境保全型農業」を 1994

年の「環境保全型農業推進の基本的考え方」で定義し、日本農業の根幹であった「農業基

本法」を 1999 年に改定した「食料・農業・農村基本法」で、「農業の自然循環機能の維持

増進」の必要性を初めて明記しました。これが有機農業普及への公的支援のはじまりと言

っていいでしょう。これは、日本国内の有志が立ち上がってから 25 年以上のちのことです。

環境保全型農業を推進するための行政の方向性が示されていく中で、生産者が現場で実行

できるように、表中にあるような「環境と調和のとれた農業生産方式の導入計画」の認定

を受けた生産者「エコファーマー」への貸付、地域に対する支援金交付の特例措置、差別

化を図るための「有機農産物等の検査認証制度」が導入されてきました。

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【17】 普及手法概要

【17】- 17

表 【17】-10 有機農業に関する政策・制度・法律の整備

政策・法・制度整備 年 特色と内容

新しい食料・農業・農

村政策の方向(政策)

1992 環境保全に資する農業を推進し、環境保全型農業の確

立を目指す方向性を提示。

環境保全型農業推進

の基本的考え方

1994 環境保全型農業を定義。

食料・農業・農村基本

1999 農業の自然循環機能の維持増進を明記。

持続性の高い農業生

産方式の導入の促進

に関する法律

1999 環境と調和のとれた農業生産方式の導入計画の認定を

受けた「エコファーマー」に対しての貸し付け特例や

地域への交付金を導入。

有機食品に関する日

本農林規格(有機JAS

法)

2000 「有機農産物等の検査認証制度」を導入し、不適切な

有機表示を排除。

新たな食料・農業・農

村基本計画(政策)

2005 環境問題に対する国民の関心が高まるなかで、日本農

業生産全体の在り方を、環境保全を重視したものに転

換する、という考え方を提示。

環境と調和のとれた「農業生産活動規範」を策定、公

表。

経営所得安定対策大

2005 基本計画を受け、農業生産に伴う環境への負荷の大幅

な低減を図る先進的な取り組みに対する支援を含む

「農地・水・環境保全向上対策」の枠組みを提示。

有機農業推進法 2006 農業生産、流通、消費というそれぞれの側面から有機

農業を推進するために必要な施策を講じる。

有機農業の推進に関

する基本的な方針

2007 2007年から2011年までの5年間を「有機農業を推進する

ための条件整備期間」と位置づけ、①有機農業に関す

る技術の開発・体系化、②有機農業に関する普及指導

の強化、③有機農業に対する消費者の理解の増進、④

都道府県における推進計画の策定と有機農業の推進体

制の強化、の4点に取り組むとしている。

(出典:社団法人全国農業改良普及支援協会「マーケティングから始めよう環境保全型農業の普及」社団法人全国農業

改良普及支援協会発行 を参考に筆者作成)

有機農業はその定義に明記されているように、化学肥料と農薬を使用しない農法として、

環境保全型農業の究極の農法です。農家はその導入にあたって、技術と費用の面で多くの

課題に直面します。そのため、有機農業実践者は、「新たな食料・農業・農村基本計画」を

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【17】 普及手法概要

【17】- 18

具現化するための「経営所得安定対策大綱」で打ち出されている「農地・水・環境保全向

上対策」が講じている営農活動支援の対象に指定されています(図【17】-5 参照)。

図【17】-5 環境保全型農業と有機農業の関係と営農活動支援対象者

(出典:社団法人全国農業改良普及支援協会「マーケティングから始めよう環境保全型農業の普及」社団法人全国農業

改良普及支援協会発行 を参考に筆者作成)

有機農業と日本の普及事業 ― 現場での取り組み ―

日本の農業者の間では、有機農業技術について「懐疑的」意識と「肯定的」意識の対立軸

が認められ、いずれの立場においても、生産物の流通販売ルートの開拓、設備投資や労力

と技術、経営への動機付けが問題の焦点となっています。このような農業者の意識を背景

に、有機農業を普及、促進するためには、行政の法律と制度の整備と支援ばかりではなく、

消費者を巻き込んだ生産と消費の仕組み作り、環境保全に対する農業者と消費者の意識変

革、環境保全に有益な農業技術の開発と開発された技術の現場への適用試験を伴った普及、

さらに、これらに合わせた生産流通の整備などが必要になっています。

そのような背景のもと、2005 年に改正された農業普及活動の根拠法である「農業改良助長

法」の下では、今後の農業普及事業の実施に当たり、普及員に求められる機能は次の 2 つ

に整理されています。

高度・先進的な専門化した技術を指導する機能

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【17】 普及手法概要

【17】- 19

地域農業の実態に幅広い知見を併せ持ち、産地づくりや地域リーダー育成などの地域

の農業経営・技術課題の解決のための、地域農業のコーディネート機能

有機農業の推進には農業者の自主的な取り組みを助長する必要がある一方、普及員にあら

たに求められている 2 つの機能に大きな期待が寄せられています。そして、従来の農業技

術普及活動は農畜産物の生産技術を対象とすることが中心でしたが、有機農業推進の普及

活動では、次のような生産技術以外の部分でも普及員が支援すべきであると、現在では日

本の農林水産省も認めています12。

(1) 農畜産物の売れる見通しをつけて取り組む普及活動

有機農業により生産される農産物は従来の農法により生産される農産物とは品質や生産来

歴が異なるにもかかわらず、日本での流通ルートは一部を除いてまだ確立していないのが

現状です。認証制度が国や県で制定されてはいますが、制度の活用だけでは不十分のよう

です。日本の農家もその有機農業の導入について「販売ルートの整備」や「消費者意識の

啓発」などが必要であると感じています。これからの普及活動は「消費者を巻き込み、有

機農産物を知ってもらい買ってもらうための仕組み作り」の支援に目を向けなければなり

ません。

(2) 農業者の自主性を引き出すことを重視する普及活動

有機農業を推進するためには、普及員が農家に伝えることができる、実践可能な技術が必

要です。試験研究機関で開発された技術や先行事例でみられる技術を導入することになり

ますが、そのままの技術を導入しても失敗することが少なくありません。そのため、それ

ぞれの地域や個別の圃場の実態に即した有機農業技術に農民自身で応用する必要がありま

す。その応用の段階で、さまざまな有用情報の提供、栽培マニュアルの作成などの速やか

な対応が普及員に求められるでしょう。また、農民の自主性を基本とした展示圃場の設置

により、有機農業技術の普及と定着の促進を図ることが期待されます。

(3) 社会的役割を意識した普及活動

有機農業は環境保全と安全な食料の提供を通じて大きな社会的役割を果たしていきます。

したがって、普及活動の推進にあたっては、その対象を農業関係者だけに限定せず、広く

一般消費者に対し、有機農業の意義、内容、効果などについて説明していくべきです。有

機農業の定着のためには、国民からの「共感支持」が不可欠であり、かつ単なる共感支持

を超えて、農地、集落、農村の維持などを可能にする「再生産可能な価格」または「適正

な有機農産物価格」までをも認めてもらうことが必要です。普及員はこの生産者と消費者

12 社団法人全国農業改良普及支援協会[2007]『マーケティングから始めよう環境保全型農業の普及』社団法人全国農業

改良普及支援協会

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【17】 普及手法概要

【17】- 20

の協働とコミュニケーションの形成を進める役割が求められます。

参考文献

・社団法人全国農業改良普及協会編〔1986〕『新普及活動シリーズ No.2 普及活動の基礎理論

と手法』社団法人全国農業改良普及協会

・社団法人全国農業改良普及協会編〔1986〕『新普及活動シリーズ No.3 普及指導計画の策定』

社団法人全国農業改良普及協会

・社団法人全国農業改良普及協会編〔1986〕『新普及活動シリーズ No.4 普及活動の基本』

社団法人全国農業改良普及協会

・農林省農業改良局編〔1949〕『農業普及便覧』農林省

・社団法人全国農業改良普及支援協会〔2007〕『マーケティングから始めよう環境保全型農

業の普及』社団法人全国農業改良普及支援協会

・社団法人全国農業改良普及支援協会〔2007〕『普及指導員のための道具箱(ヒント)』

社団法人全国農業改良普及支援協会

・太田美帆〔2004〕『生活改良普及員に学ぶファシリテーターのあり方-戦後日本の経験から

の教訓-』国際協力事業団国際協力総合研修所

・農林水産省消費・安全局〔2006〕『有機食品の検査認証制度について』農林水産省消費・

安全局

・農林水産省〔2002〕『新基本法と食糧法の比較について』農林水産省

・Madhur Gautam〔2000〕 『Agricultural Extension, The Kenya Experience, An impact Evaluation』

The World Bank

・K. D. Gallagher〔1999〕『Farmer Field School (FFS): A Group Extension Process Based on Adult

Non-Formal Education Method』(普及用のガイドラインの一部)

・Chigozie Asiabaka『Promoting Sustainable Extension Approaches: Farmer Field School (FFS) and

its role in sustainable agricultural development in Africa』Department of Agricultural Economic

and extension, Federal University of Technology, Nigeria

・Ejigu Jonfa, et al. 『Institutionalization of Farmer Participatory Research in Southern Ethiopia』

FARM-Africa Farmer’s Research ProjectChris Opondo, et al. 1999〕『Lessons from using

participatory action research to enhance farmer-led research and extension in South Western

Uganda』African Highlands Initiative, Uganda

・農林水産省生産局農産振興課『有機農業の現状と課題』農林水産省生産局農産振興課

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【17】 普及手法概要

【17】- 21

事例概要 / 説明

FTF アプローチを JICA の技術協力プロジェクト『キリマンジャロ農業技術者訓練センター

フェーズ II』から具体的に紹介しましょう。

この場合、灌漑稲作 1 作期が普及活動の 1 サイクルです。次表はプロジェクトで採用され

た FTF の流れと内容を説明しています。この事例では中核農家と周辺農家の間に中間農家

を位置づけ、より広範囲に普及できる体制を整えています。

表 【17】-11 プロジェクットで採用された Farmer to Farmer アプローチの流れと内容

段階 活動 内容

中核農家の能力向

中核農民の選定

センター研修

農業技術者訓練センターの普及員が20

名の中核農民へ研修実施、中核農民と

アクションプランを作成

中間農民の能力向

中間農家の選定

現地研修

中核農民と中間農民への農家圃場で現

地研修実施

その他の農民との

情報共有

フィールド・デイ

ファーマーズ・デイ

グループ討議

農民による試験圃の設置で農民レベル

のリサーチ

農民の圃場が生きたクラスになる

中核農民による圃場での周辺農家への

発表

普及員は FTF を具現化するために、対象農民に具体的なこの普及手法の枠組みを提示し、

農民の責任と役割を事前に合意、作物の生育ステージに沿った明確な実施スケジュールと

各研修のねらいを共有し、農民の主体性を引き出し普及事業のオーナーシップを醸成する

役割を持つ役目があります。他方、このアプローチを支える中核、中間農民の責任と役割、

中核農家の選定基準を同じ事例から次表(表【17】-12)で確認しましょう。

事例【17】-1:

事例タイトル:タンザニアの FTF アプローチ

CASE CASE 【17】-1

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【17】 普及手法概要

【17】- 22

表 【17】-12 中核・中間農民の責任・役割と中核農家の選定基準

責任と役割 中核農家の選定基準

中核農民が農業技術者研修センター

の研修へ参加する。

各中核農民が5名の中間農民を選定

し、センターで習得した技術を指導す

る。

中核農民と普及員による、中間農家へ

の現地研修を実施する。

中間農家は積極的に中核農家から技

術を学び、それをその他の農家へ伝え

る。

村やコミュニティからの代表であるこ

と、すなわち各村やコミュニティの農民

から選ばれた農民であること。

読み書きができること。

ジェンダーバランスに配慮する。

年齢を考慮する。

フィールド・デイでは中核農民が中心となり、農民自身の試験圃場を研修の場として提供、

参加した農民に実際に農作業をやって見せ、作物の生育状態を説明かつ質疑応答を受け、

農民間の情報共有を促進しています。また、ファーマーズ・デイでは 1 作目の活動成果を

ドラマや歌を使って発表、各農民の試験圃場での結果発表、2 期作目のアクションプランの

提案、などを実施しています。

FTF アプローチ紹介の冒頭に予算の制約を述べました。このキリマンジャロ農業技術者訓練

センターの例では、普及事業を推し進めるにあたり農民と県行政側との費用分担も合意さ

れていました。皆さんの国で参考になると思いますので次表にまとめて紹介します。

表 【17】-13 農民と行政側の費用分担

農民 行政

昼食料理人の提供

調理器具・薪の提供

一部食材の提供

実習に必要な資器材の準備

現地研修(農家試験圃場)の事前準備

他対象地域の農民招聘にかかる費用

職員・普及員の日当宿泊費用

実習用機材の提供

遠隔地から来る農民への交通手段提供

Farmers’ dayでの飲み物(ソフトドリン

ク)などの提供

CASE 【17】-1

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【17】 普及手法概要

【17】- 23

事例概要 / 説明

日本の普及員に求められている機能と普及活動を念頭において、普及員が農家と現場で主

体的に技術開発と普及に取り組みでの普及員の活動を見てみましょう。これは、2003 年か

ら 2006 年にかけて、斑点米カメムシ類の防除を無農薬でおこなう技術を地方自治体の農業

試験場が開発、普及員と農民組織が連携した普及事業の事例です。

<背景>

日本の中心部に位置する滋賀県の東部を管轄する JA グリーン近江の稲作生産者組織「ヒノ

ヒカリ生産部会」は近年の米価低迷に対峙し、生き残りをかけた水稲栽培における米のブ

ランド米販売戦略を目指していました。他方、全国の水田周辺では地球温暖化による気温

上昇の影響で斑点米の被害の元凶であるカメムシ類が急増し、また、1000 粒の精白米に 1

粒以上の斑点米が混入すると 2 等級米に降格するという米の審査基準があり、カメムシに

対し化学合成農薬を使用しなければ斑点米の発生は避けられない状況にありました。折し

も、滋賀県は日本一大きい湖、琵琶湖をかかえ、湖の水質汚染には敏感になっていました。

図【17】-6 滋賀県と琵琶湖と JA グリーン近江の管轄する稲作地域

(出典:JA グリーン近江 「JA グリーン近江紹介」 web page <http://www.jagreenohmi.jashiga.co.jp/syoukai/syoukai.html>

JA グリーン近江より許可を得て転載)

事例【17】-2:

事例タイトル:

JA グリーン近江・大中の湖ヒノヒカリ生産部会での稲作技術普及

CASE CASE 【17】-2

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【17】 普及手法概要

【17】- 24

畦畔雑草の

2 回草刈り

額縁部収穫

水田内部収穫

色彩選別機

貯蔵・精米

JA グリーン近江 農家の圃場

乾燥籾摺り

出荷

<無農薬によるカメムシ防除の技術>

そのような背景から当時の滋賀県農業試験場はカメムシの習性を分析解明し、その習性を

うまく利用し、畦畔雑草の 2 回草刈り技術、額縁別収穫技術、色彩選別機の 3 つの技術を

融合させ、図【17】-7 に示されているような、無農薬でカメムシの防除を行う耕種的防除

技術の開発にたどりつきました。この技術を簡単に説明します。

畦畔雑草の 2 回草刈り

畦畔雑草はカメムシの棲みかであることがわかりました。そのため、カメムシの

増殖地となる雑草地を、稲の出穂期 3 週間前と出穂期の 2 回刈り取りし、カメム

シの発生を抑えます。

額縁別収穫

カメムシは水田圃場の外側から侵入するので、圃場の周縁部(額縁部分)は被害

を受けやすく、逆に水田内部域は被害がありません。そこで、手間はかかります

が、収穫の時に額縁部と内部域の籾を区別して収穫します。

色彩選別

JA グリーンに搬入された籾は別々に乾燥調製され、額縁部の玄米は色彩選別機に

投入後、斑点米と無着色粒の玄米に選別されます。 後は水田内部域で収穫され

た完全な玄米といっしょになり、貯蔵、精米、出荷となります。

図【17】-7 無農薬によるカメムシ防除の耕種的防除技術体系図

<普及員の取り組み>

滋賀県東近江地域振興局農産普及課(以後、普及センターとする)は、米販売戦略の取り

組みとして稲作生産者へこの技術を提案し、次表のような活動を実施しました。

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【17】 普及手法概要

【17】- 25

表 【17】-14 普及員の取り組み

活動 内容

生産者の組織化 農家を組織化し、「大中の湖ヒノヒカリ生産部会」を立ち上げ、

技術的な説明と意思統一を図った。

研修 年5回開催、カメムシ類の耕種的防除の指導・説明を行った。

カメムシの検分 展示圃場に隣接する圃場などを検分し、各圃場で実際にカメム

シを採取し、額縁刈り幅などを生産者と検討した。

実際の作業と調査 農業試験場の研究者も加わり、展示圃場の調査を実施、その後

各生産者の圃場で畦畔2回草刈り実施の確認、カメムシ発生状況

と斑点米の発生を科学的に調査し、今後の技術向上に役立てた。

<農家の取り組み>

普及センターの後押しもあり、2003 年に「大中の湖ヒノヒカリ生産部会」を組織し、「部会

長」と「副部会長」を選出しました。その後、「栽培管理委員」と「販売促進委員」を新た

に設置し、JA グリーン、そして普及センターの普及員と密接に連絡を取る体制を構築して

いきました。また、部会では独自の栽培技術ガイドラインを設け、品質向上に努める工夫

を行いました。

<地方自治体の支援>

滋賀県は琵琶湖を抱えその周辺環境に配慮し、消費者の食の安全を担保する農産物を生産

することを奨励しています。それを推進させるための生産者への支援策として 2001 年から

県独自の「農産物認定制度」を創設しており、2003 年には関連条例を制定、2004 年にはこ

の条例を順守する農産物を生産することについて県知事と協定を締結することによって、

生産者が一律の助成金の補助を受けることができる制度を設けました。そして、この事例

で紹介している無農薬によるカメムシ防除の耕種的防除技術は、滋賀県のこの制度の一環

として取り組まれています。

<成果として>

この無農薬によるカメムシ防除の耕種的防除技術で生産された米は瞬く間に消費者に伝聞

され、他地域との差別化が可能となり、毎年完売状態であるそうです。また、栽培面積も

2003 年の 20ha から始まり、2006 年には 4 倍の 80ha に拡大しました。そして、さらなる差

別化販売を行うためにこの技術を特許庁へ出願し、2004 年 1 月に受理されました。ただし、

技術は公開し、技術使用は規制せず、販売時における技術使用の表示のみを規制すること

にしています。さらに、冒頭述べましたように、国際環境保全型技術大賞「愛・地球賞」

を受賞し、ブランド米「愛・地球米」がここに誕生したのです。

CASE 【17】-2

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【17】 普及手法概要

【17】- 26

この事例は、このテキストのユニット【4】1.3.1「有機農業による小規模農民支援概論」で

有機農業の対象農家 3 カテゴリーの C に対応します。しかし、理解していただきたいのは、

「行政の制度的支援の設置」、「研究機関の技術開発力」、「普及員のコーディネーション機

能」、「生産者の組織化などにみられる自主的な取り組み」、すなわち官民で密接に連携しあ

うことで、有機農業が現場で実践され、 終的に差別化販売が可能となることです。これ

はどのカテゴリーの農民を対象にした場合でも、普及事業のそれら基本的な要素の組み合

わせの必要性は変わらないのではないでしょうか。

皆さんの国では、行政の予算面での不備、研究開発と普及の質的量的な人的資源の欠如、

生産者自身の農業生産能力の欠如、インフラや情報の未整備など、様々な制約が存在して

います。日本のような肌理細やかな関係者の連携は適えられないとしても、Farmer to Farmer

のアプローチ、農民の組織化、事例でも見られた展示圃場、ご自分のファシリテーション

能力を有効に組み合わせ、農家とともに有機農業の先鞭をつけましょう。

参考資料

JA グリーン近江 「JA グリーン近江紹介 web page

<http://www.jagreenohmi.jashiga.co.jp/toresamai/sub3.htm>

CASE 【17】-2

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 1

営農計画のビジョン策定

日本の普及活動での計画づくりは、「1)実状の分析、2)課題の設定、3)課題の解決、4)(計画

策定と活動実施の)評価の 4 つのステップが円を描いて不断に循環しながら、逐次高い目標

を目指して進み、普及指導活動全体がより合理的・効果的なものに深化・発展するもので

ある。」と、普及員の指導書となっている『普及指導計画の策定』(社団法人 全国農業改

良普及協会編)に説明されています。具体的には、1.実態把握、2.実情分析、3.問題の明確

化、4.目標の決定、の計画プログラムと 5.普及計画の開発、6.実行計画、7.決定進行、8.再

検討、の活動プログラムがそれぞれ評価を経て循環しています。この普及活動計画の開発

プロセスは次のようになります。

図 【18】-1 普及指導計画の開発のプロセス

目的: 営農計画のビジョン策定方法を理解する。

目標: 営農計画のビジョン策定方法を利用し、簡単な営農計画を指導できるようになる。

1

【18】 ユニット 4.3.1 : 営農計画の基礎:ビジョン策定

決定進行

実態把握

評価

普及計画の開発

目標の決定

問題の 明確化

評価

計画プログラム

活動プログラム

実情分析

実行計画

再検討

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 2

この図にも見られるように、どのような普及活動(農家支援)をするのかは、発展・改善

の「目標」を明確にすることなしには、決まりません。このことは、個別の農家の指導に

ついても、ある普及員が担当する地域の農業開発でも同じことです。

この、目標の設定の前に、現状分析と優先課題の特定、解決策の検討が不可欠となります。

問題の明確化

農家、あるいは農家グループの将来の改善に向けて、現在なすべきことは何かを考えると

き、大きく 2 つの方法があります。

(1) 問題を解決すること

(2) 望みを実現すること

いずれの場合も、将来の新しい事業や改善活動、または新しい普及事業などの計画につな

げていくための検討ですので、将来の事業や活動の当事者である、農家、農家グループの

メンバー、または農業普及員による参加型調査を通して検討していくべきでしょう。参加

型調査の詳細については、【16】ユニット 4.1.1「農村社会調査概論」を参照してください。

(1) 問題を解決する

農家、農家グループや農業普及員が抱え、かつ実感している問題を特定し、その問題が解

決した「望ましい」将来がどのようなものかのイメージを共有することで、これからの改

善活動の「ビジョン」を形成していきます。

通常、問題というのはひとつとは限らないので、さまざまな問題の間の関連性や、問題の

重要性の比較などができるような工夫が必要です。「系図」を使った参加型問題分析手法は

その一つのやり方です。

この方法では、関係者が実際に抱えている問題を議論することから始まりますので、議論

の参加者にとっても比較的やりやすく、そこから出てくる結論もわかりやすい、という傾

向があります。その反面、「問題」ばかりを議論しますので、議論全体の雰囲気が「ネガテ

ィブ」な感じになる傾向もあります。

(2) 望みを実現する

農家、農家グループや農業普及員が考えている、近い将来で目指したい「姿」を「ビジョ

ン」として共有し、そこに向けての具体的な取り組みが何かを考えていきます。この場合

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 3

は、まず「望ましい未来」を想像することから始まりますので、自由な発想で出してもら

った意見を、類似性でまとめたり実現の困難さで比較したりといった作業をする、ブレイ

ンストーミング手法を用いるのがよいでしょう。「望ましい未来」についての共通認識がで

きた後は、系図を用いて実現のための手順を考えることにつなげていきます。

(3) 問題の全体構造の明確化

上の(1)で述べましたように、農家や農業普及員が抱えている問題はひとつではありませ

ん。また、さまざまな問題がそれぞれ独立して起こっているわけではなく、多くの問題が

関連しあいながら存在するというのが現実です。その問題構造の全体像を整理するために

「系図」を用いるのはとても効果的です。また、文書ではなく、図という形で整理するこ

とで、多くの関係者との共通認識を形成するのにも役に立ちます。

この、問題の全体像をあらわす系図を「問題系図」と呼びます。「問題系図」は、関係者が

挙げた問題を「因果関係」でつないでいくことで作っていきます。

図 【18】-2 問題系図の例

問題系図のひとつの欠点は、挙げられた個々の「問題」を定量的に検討することが難しい

ということです。問題系図は、「問題」間の因果関係の整理によって全体像を示すことを一

番の目的としていますので、その系図の中に含まれている個々の問題の深刻さなどを深く

調べるのにはあまり向いていません。これを補うために、その他の「調査」をうまく組み

合わせる工夫が必要なこともあります。また、外部支援者として農家や農家グループを支

援する際には、事前に彼らのことをある程度知っておいてから問題の明確化の議論に参加

することが絶対に必要です。このように、問題系図の作成を補うためや、外部者として事

前情報を得ておくために、そのほかの調査も組み合わせることを考えましょう。

野菜販売による利益が少ない

野菜の生産量が少ない 生産にかかるコストが 高い

野菜の販売 価格が安い

連作障害が

良く出る 化学肥料 が高い

十分な肥料を

投入できない 農薬が

高い 栽培面積

が狭い 野菜の品質 が悪い

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 4

課題の選定

(1) 問題解決の方法の検討

問題系図ができたら、次に行うことは問題解決に向けての道筋の全体像をつくることです。

作った問題系図に記されている個々の「問題」を「問題が解決された状態」に書き換えて

いくのが、その第一歩です。問題系図は「因果関係」で問題が結ばれています。これを「問

題が解決された状態」に書き換えることで「因果関係」が問題解決のための「手段と達成

目標」という関係に置き換わっていきます。こうして出来上がった系図を「目的系図」と

呼びます。

(2) 優先課題の選定

目的系図によって問題解決の全体像が明らかになったら、次に行うことは、優先課題の選

定です。ここまで見てきたように、「問題」というのはさまざまです。土壌の問題、水の問

題、有機物をどうやって集めるか、販売価格の問題など、どれかひとつをとってもそれを

解決するのは大変な取り組みになることが往々にしてあります。そのすべてに一度に取り

組むことができるとは限りません。ですので、まずどの課題から取り組むのか、という「優

先課題」を選び出すことが必要となります。

優先課題の選定は、系図の中にあげられている取り組みの全体像をグループ分けして、そ

のグループを何らかの基準に従って「比較」することで行います。グループ分けは、「水供

給改善」、「化学肥料からの脱却」など、大きくまとまったテーマとして考えてみると、そ

んなに難しくありません。

Box【18】-1 定性的な課題抽出とは?

日本の普及現場では、現在『問題の発見と診断・分析』の手法として定性分析の方法

として KJ 法や TN 法等の課題抽出手法の利用を普及員が実務経験中に身に付けるこ

とが望ましい知識・能力として 2005 年 3 月に改定された「普及指導員養成マニュア

ル」で紹介されています。

どちらの手法も農家調査やワークショップ技術、合意形成手法、コーチングなどと併

用して用いることが奨励されており住民参加型の課題抽出法として注目されていま

す。

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 5

図 【18】-3 目的系図の例

優先課題を選ぶ際に一般的に用いられる選定の基準は以下のようなものがありますが、こ

の「基準」も、その農家、農家グループ、あるいは農業普及員など、問題を解決する当事

者が納得の上で決める必要があります。

緊急度:今すぐ対処しないと取り返しのつかないことになる課題はあるか

重要度:その課題に取り組むことが他の多くの課題にとって重要か。

所掌範囲:想定される実施主体がその課題に取り組むことは、法的、社会文化的にみて妥

当なことか。

技術的実施可能性:その課題に取り組むのに必要な技術・知識・経験はあるか。

費用の大きさ:その課題に取り組むのに必要なお金は調達できるか。

負の影響:その課題に取り組むことで生じる変化(社会的変化や環境の変化など)で新た

な問題が生じることはないか。

このような基準を用いて課題の比較をし、話し合いや、投票などで 終的に決めていきま

す。

ビジョンの策定

優先課題が決まってしまえば、ビジョン策定の 9 割は完成です。 後にすべきことは、選

ばれた優先課題を「ビジョン」として文書化する、ということです。「目的系図」の中には、

野菜販売による利益が増える

野菜の生産量が増加する 生産にかかるコストが

軽減される 野菜の販売価格

が改善される

連作障害が

なくなる 有機質肥料が

利用される 十分な肥料を

投入できるよ

うになる

天然農薬を

利用する 栽培面

積が広

くなる

野菜の品質 が改善する

生 産 量 増 加の取組み

コスト削減の取組み

販売価格改善の取組み

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 6

どんな課題に取り組み、どんな将来を実現しようとし、そのために何をするのか、という

改善活動や新しい事業の骨組みになるすべての情報が含まれています。これを系図の中か

ら抜き出し、文書にします。

この文書にする際に気をつけることは、せっかく作った目的系図の「目的構造」を壊さず

にうまく表現する、ということです。すでに述べたように、目的系図は「手段→達成目標」

の関係で表されています。これをそのまま表現するために、以下のような書式を使うとよ

いでしょう。このように、事業やプロジェクトの全体像を論理的な構造で説明する表を「ロ

ジカルフレームワーク」と呼びます。

活動名:

活動場所: 活動期間:

実施主体: その他の関係者・機関:

上位目標:

上位目標指標: 外部条件 4:

目標:

目標指標: 外部条件 3:

成果:

成果指標: 外部条件 2:

活動:

投入:

外部条件 1:

図 【18】-4 ロジカルフレームワーク

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 7

営農計画の評価とモニタリング

計画の事前評価

「ビジョン」、または事業企画書とも呼べるようなものができて、これをもとにして詳細計

画を作り実行に移す前に、もう一度その「ビジョン」が現実的なものかどうかを確認しま

す。このような実施前の計画の確認を「事前評価」と呼びます。

一般的な事前評価の視点は、次のとおりです。

Box【18】-2 国際的な参加型課題抽出法

近年における人権、性差別、そして自然環境保全や世界的な民主化の高まりの中で必

然的に生じてきた動きであり、先進国途上国を問わず地域開発のアプローチとして、

その重要性がますます高まっています。このような住民参加型調査・分析手法として

国際社会使われている代表的なものとして PCM 手法があります。

この手法は、USAID(米国国際開発庁)で開発されたロジカル・フレームワークに起

源を発し、その後 UNDP(国連開発計画)、UNICEF(国際連合児童基金)、GTZ(ド

イツ技術協力公社)、NORAD(ノルウエー対外援助庁)、FINNIDA(フィンランド国

際開発庁)などで導入発展され 1990 年代に入り日本国内でも注目されています。日

本の国際協力機関である国際協力機構でも 1994 年からすべてのプロジェクトはこの

手法によって計画立案され管理されています。

PCM 手法を始め、KJ 法 TN 法などのこれらの手法は、参加者が相互に意見交換しな

がら問題の整理や課題の抽出、地域や組織の将来の方向性の検討をワークショップの

ような形式で検討して行くといった共通点があります。

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 8

表 【18】-1 普及員の取り組み

視点 説明 評価項目例

妥当性 その事業を今やる意味が十分にあるか 農家、農家グループのニーズ

との合致、国や地域の農業開

発政策との合致、地域の村落

開発戦略との合致、など

有効性 その事業を今やることが、より上位の目標を

達成するためにベストの選択か

他の事業と比べてこの事業

で本当にいいのか、など

効率性 事業計画は適切に計画されているか 投入は必要 小限か、活動は

もっとその成果を出すため

に一番効率的な方法を選ん

でいるか、など

自立発展性 事業後も活動は続いていくことができるか、

あるいいは事業の結果を次につなげていく

ことができるか

実施主体の継続性、技術・知

識・経験の蓄積、予算的な裏

づけ、優先度の維持、など

計画の進捗管理

進捗管理のための計画段階での準備

計画の進捗管理については、ユニット【20】4.5.1「活動モニタリグ・評価」で詳しく述べ

ます。ここでは、事業や改善活動が始まってからの進捗管理(モニタリング)が効果的に

行われるために、この計画段階で何が必要かについて説明します。

モニタリング評価のユニットでも説明しますが、「進捗管理」といった時に、何を管理する

のには、1)活動の進み具合、2)活動の成果の発現具合、3)投入の進み具合、の 3つがあ

ります。どれかひとつということではなく、全体として効果的な管理ができるように、こ

れらの 3つをあわせてみていくことになります。

ですので、今の事業企画・計画の段階では、事業が始まったらそれぞれを管理しやすいよ

うに整えておく、ということが必要になります。このために一番重要なことは、ロジカル

フレームワークの「指標」と「外部条件」を適切に記入することです。

指標の設定

ロジカルフレームワークに限ったことではありませんが、「目標」や「成果」は「○○を実

現する」などのように定性的に記述されることが普通です。しかしそれでは、どうなった

ら「実現した」といえるのかの解釈が関係者の間で共有されているかどうかわかりません。

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 9

そこで、「実現」といことをできるだけ目に見えて「測ることができる」ことで表現する、

というのが「指標」の基本的な考え方です。

指標はとりあえず、上位目標、目標、成果の 3 つに設定します。それぞれ指標が 1 つとは

限りません。複数の指標を組み合わせることで初めて「実現する」といっていることを表

現できる、ということもあります。

外部条件の設定

事業や改善活動をするのは農家、農家グループや農業普及員の人々ですが、これらの人た

ちが「できる」ことと「できない」ことがあります。たとえば降雨量を増やすなんてこと

はできるはずがありません。また、農家の人たちが農家への政府補助金の増額をすぐに実

現する、なんてことも現実的ではないでしょう。それは、そのような事象や事柄が、実施

主体の人たちの責任や権限、能力の対象の外にあるからです。雨を増やす力はありません

し、補助金を増額する権限もないのですから、責任もって「できる」とはいえません。こ

のような事象や事柄は事業実施者にとって「外部」の事象と見ることができます。

問題は、このような外部の事象も、ときに事業や活動の妨げになる、ということです。実

施主体の人たちには根本的な解決ができないのに、事業が影響を受けてしまう。このよう

な事象のことを「外部条件」と呼びます。事業や改善活動をする際には、このような外部

条件もモニタリグの対象となります。たとえば、有機農業の技術を導入するという事業計

画では、ある程度の雨量を前提として計画します。想定しただけの雨が降らなければ、計

画が失敗に終わる可能性が十分にあります。雨の量はどうすることもできないにしても、

天気予報やあるいは畑に雨量計をおくなどして雨量をモニタリングしながら、もし今年が

旱魃や例年に比べて雨量がかなり少ないということがわかってきたら、何らかの対策をと

らなくてはなりません。まったく放っておいて、結果的に「雨がなかったから失敗した」

と悔やむのはあまりにも計画性がないというものです。

外部条件は小さいものから大きいものまでそれこそ無数に考えられるでしょう。そこで、

事業実施の際に実際にモニタリングする外部条件は、次のような性格をもつものに限定し

ます。

(1) 「外部」の事象であること

(2) もしそれが満たされなければ(「雨が想定どおりある」という条件が満たされないなど)、

事業の成果や目標の達成に実質的な影響を及ぼすもの

(3) その条件が満たされるかどうか、確率的に半々くらい、あるいは、わからないもの

(4) 事業計画の変更によってその外部の事象の影響を回避することができないもの

ただし、上記の条件がすべて満たされるものがあれば、その事業は実施前から大きなリス

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【18】 営農計画の基礎:ビジョン策定

【18】- 10

クを背負っているということになります。つまり、

外部:実施者にはどうすることもできなくて

重大:満たされないと影響は大きくて

確立:満たされない可能性が危惧する程度にあり

回避:計画の中身を替えるなどしてもその影響を回避できない

ということは、常にその外部の事象を恐れながら事業を実施なくてはならないということ

になってしまいます。このような外部の事象が見つかったら、計画自体を根本的に考え直

す必要が出てきてしまいます。

参考文献

・社団法人全国有機農業改良普及協会編〔1986〕『新普及活動シリーズ No.2 普及活動の基礎

理論と手法』社団法人全国有機農業改良普及協会

・社団法人全国有機農業改良普及協会編〔1986〕『新普及活動シリーズ No.4 普及活動の基本』

社団法人全国有機農業改良普及協会

・社団法人全国有機農業改良普及協会編〔1986〕『新普及活動シリーズ No.3 普及指導計画の

策定』社団法人全国有機農業改良普及協会

・鈴木俊〔2006〕『途上国における農業普及の実態と課題』東京農大出版会

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【19】 営農計画:活動計画策定

【19】- 1

営業活動計画の進捗管理

活動の分類

活動の仕分けと関連付け

農業の営農活動に限らず、自らの行動を管理するために 初に行わなければならないこと

は、「活動」を仕分けすることです。これがなくては、何を管理すればいいのかがわからな

くなってしまいます。たとえば、農家の通常の営農活動は大きく次のように仕分けること

ができるでしょう。

表 【19】-1 営農に関連する活動の主な種類

分 類 詳 細

計画 作付け計画、作業計画、資金計画、調達計画、投資計画などの策定

仕入れ 種子の調達、肥料などの調達、資材などの調達、労働力の調達など

生産 畑の準備、播種、育苗、栽培、飼育、防除、収穫、保存など

販売 マーケティング、契約、運搬、代金回収など

次にすべきことは、それぞれの活動がお互いにどのようにかかわっているかを整理するこ

とです。活動間の関係は大きく次の 3 つに分けられます。

(1) 同時に始めるべき活動

(2) 同時に終わるべき活動

(3) ひとつの活動が終わって初めてもうひとつの活動が開始できるもの

この 3 つの関係を使って、仕分けした活動をつなげることで、ワークフロー(仕事の手順

表)を作りましょう。そして、これを年間のカレンダーに書き込めば、簡単な年間スケジ

ュールができあがります。

目的: 地域に応じた営農活動計画の策定方法を理解する。

目標: 対象地域に応じた営農活動計画が策定できるようになる。

【19】 ユニット 4.4.1 : 営農計画:活動計画策定

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【19】 営農計画:活動計画策定

【19】- 2

農業以外の活動やイベント

農家の営農に関する活動計画を考える際に重要なことのひとつは、農業以外の活動です。

農業にかかわる作業以外にも、農家の人たちはさまざまな活動にかかわっていることを忘

れてはいけません。たとえば、村の各種会合や祭礼、冠婚葬祭などです。農村地域は一見

するとのんびりしているようですが、われわれ外部者にはわからない、その土地の社会に

根ざした、さまざまな人と人の関係が起こっているということを知っておくことが重要で

す。これらの社会・文化的な活動は農作業の合間や農作業に優先して行われることもありま

す。特に、自給を中心とした小規模農家にとって農業とは生活そのものといえますので、

このような農業以外の活動と営農活動の境界線があいまいなことがよくあります。

新しい取り組みの活動計画

きまった営農方式で、毎年同じ活動をしている場合は、このような活動計画を厳密に立て

る必要はないかもしれません。言ってみれば、農家の人たちはみなすでにこのような作業

スケジュールが体の中にすでにしみこんでいるということです。しかし、このコンテンツ

で皆さんが学んだことを農家の人たちに伝え、彼らも有機農業の活用、あるいは実践に向

けて何かを変えていこうとするときには、活動計画を立てる重要性は一挙に高まります。

新しい取り組みを成功させるためには、目標の設定→目標達成のために必要なこと→必要

なことを実現するためにやるべきこと、というような計画作りが必要です。逆に言うと、

ここで立てた「計画」が予想通り進んでいるかどうかを見極めながら、一つ一つの活動を

こなしていくことが目標を達成するための道筋である、ということです。

営農活動計画と管理能力

(1) 目標体系から活動計画へ

ユニット【18】4.3.1「営農計画の基礎:ビジョン策定」で作った将来に向けての目標体系

から、具体的な活動の計画を導き出してみましょう。目標と活動は、

活動→成果→成果の集積→目標の実現

という関係でつながっています。ビジョンや目標を設定したあとに活動を考えていくとき

は、この関係をさかのぼって、どんな活動が必要かを次の順序で考えます。

① 目標の達成に必要なこと(成果)を具体的に書き出す。

例:新しい技術の習得、必要量の堆肥の完成や、新しい販売先の発見、など。

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【19】 営農計画:活動計画策定

【19】- 3

② それぞれの成果を実現するためにどんな活動が必要かを書き出す。

例:新しい技術の習得をするためには研修を受けて、見学をして、自分の畑で試行

する。

堆肥を×kg つくるには、作物残し△kg と鶏糞◇kg を集めて、混ぜて、◎日間寝

かせる。 ③ 活動を、先に述べた 3 つの関係性(同時開始、同時終了、終了→開始)を考えな

がらつなげて、活動全体のワークフローを作る。

④ ワークフローをカレンダーの中に書き込む。

⑤ その他の重要な活動やイベント(村の行事など)を同じカレンダーの中に書き込

んで、予定の重複や困難がないかを確認する。

⑥ できれば、できたものをみんながいつでも見れるように、見やすいところに掲示

しましょう。

(2) 目標体系から活動計画へ

活動のスケジュールが決まったら、それに必要なお金やその他の資材の投入のタイミング

を、同じカレンダーに書き込みます。四半期ごとに必要なお金や資材の小計をまとめ、年

間の合計も計算します。こうしておくと、大まかにいつごろ、いくらぐらいのお金が、そ

のほかに何が必要なのかが具体的に見えてきます。

詳細な活動計画の策定

時間による管理

(1) 活動の開始と終了を見る

活動を管理するための一番簡単な方法は、予定していた日程どおりに活動が開始して終了

しているかどうかを見ることです。上で作成したスケジュール表のそれぞれの活動に、開

始と終了の日付を記入します。

スケジュールを見ながら、開始すべき日程どおり活動を開始し、日程どおりに終了するよ

うに努力します。ここで重要なのは、なるべく「開始」と「終了」をあいまいにしないこ

とです。いつ「始めて」、いつ「終わった」のかをきちんと自ら宣言することで、計画との

比較ができます。また、この情報を毎年蓄積することで、それぞれの活動に必要な日数や、

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【19】 営農計画:活動計画策定

【19】- 4

活動が伸びてしまう原因の分析などにも活用できます。

(2) 活動の成果の発現を見る

もうひとつの管理の方法は、それぞれの活動そのものではなく、活動によって生み出され

る「成果」の発現を見るというやり方です。

すべての活動は、何らかの目的があるから行います。何の目的もない活動は(余暇でなけ

れば)する必要がありません。これを突き詰めて考えると、その目的を達成できない活動

はやった意味がなかった、ということになります。たとえば、堆肥作りの活動で、植物資

材や家畜糞を集めて混ぜて、という活動をこなしていっても、 終的に必要な質で必要な

量の堆肥が完成しなければ、ここまでやってきた活動はあまり意味のないものになってし

まいます。

このように、活動の「成果」が予定していたとおりにちゃんと生み出されているかどうか

を順次見ていくのが、「発現した成果」を中心にした計画管理です。

この成果重視の活動管理をするためには、ここまでで作ったスケジュール表だけでは不十

分です。それぞれの活動が生み出す「成果」が何かを具体的に明確化しなければなりませ

ん。これをまた同じスケジュール表の中に書き込んでおいて、それを見ながら、いつまで

に何をやって、何を生み出さなくてはならないかがわかるようにします。

(3) 計画の修正

活動そのもの管理でも、成果の管理でも同じですが、それが予定通り進んでいるうちは「管

理」というほどのことは必要ありません。スケジュールを見ながら、日程を守っていくだけ

です。問題は、予定通りにならなかった場合にどうするかです。

その場合、2 つの点を見る必要があります。ひとつは、予定通りにならなかった「原因」で

す。もうひとつは、予定通りにならなかったことでこの先どうなるかの「予測」です。こ

のうち、 初に見なければならないのは「予測」です。予定通りにいかない活動が出てき

ても、その先の計画の実施に大きな問題がないと「予測」されるのであれば、とくにあわ

てる必要はありません。まずはそこから見極めます。

先の計画実施に問題が起こると「予測」される場合には、どのような対処をすればよいか

を考えなくてはなりませんが、そのときのポイントは、問題の性質を見ることです。大き

く、①時間の問題と、②成果の問題の 2 つに分けられます。

① 時間の問題:つまり、「間に合わない」ということです。

気温が下がるまでにやらなくてはならないことができない

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【19】 営農計画:活動計画策定

【19】- 5

雨季に間に合わない

市場の季節(一番の売れ時)に間に合わない

予約した農機具を使うタイミングに間に合わない

などが起こりえるでしょう。

この場合の対処法として、次のような可能性を考えて見ましょう。

間に合わせるために、自分でやる代わりに誰かにやってもらう

→ 堆肥を自分で作る代わりに買う、など 間に合わせるために規模を小さくする

→ 雨季までに土地の準備を間に合わせるために 3ha のものを 1ha にする、など 間に合わないことを前提に考える

→ 水が少なくてもすむ作物に切り替える、など

② 成果の問題:つまり、「ちゃんとしたものができない」ということです。 ちゃんとした堆肥ができない

必要なだけの種子が調達できない

売れ残りが出てしまった

この問題の場合は単純に、「ちゃんとしたもの」を別の方法で確保する、という

ことが基本的な対処方法となるでしょう。

このように、「予測」に基づいて対処方法を考えて、とりあえず落ち着いたら、ちゃんと「原

因」の究明をして、同じ失敗を繰り返さないようにすることが大切です。

原因は大きく、①自分の問題、②外部の問題、③計画の問題、の 3 つに分けられます。い

くつかの例を挙げます。

① 自分の問題:つまり、「私が悪いのです」ということです。 計画した活動や投入をちゃんとやらなかった

ちゃんとやるだけの知識と技術がなかった

関係者にきちんと説明していなかったために必要なときに協力が得られなかった

② 外部の問題:つまり、「しょうがなかったのです」ということです。 近年まれに見る旱魃や洪水が起きてしまった

作物の価格が暴落してしまった

作物の病虫害がいつもよりひどく発生してしまった

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【19】 営農計画:活動計画策定

【19】- 6

③ 計画の問題:つまり、「見込みを間違えました」ということです。 目標を達成するのに必要な活動が足りなかった

活動をするのに必要な資金や資材の量を間違えた

現実的に無理な時間でやるような計画を立ててしまった

このように、原因を分類して、今後同じことが起こらないためにはどうしたらいいかを考

え、次回の計画策定に生かしていきましょう。失敗そのものは「学習=能力向上」の一部

です。それをきちんと次につなげていくことが大切です。

投入による計画の管理

計画の管理の別の見方として、投入が予定通り進んでいるか、という管理の仕方がありま

す。わかりやすい例は、行政機関での予算に基づく支出実績管理でしょう。当初の予算計

画通りに支出が行われているかどうか、現在は全体予算の何パーセントを実施したか、と

いう見方です。この管理方法の考え方は、計画された投入が予定通り進んでいるというこ

とは、計画された活動が予定通り進み、成果が生み出されていることを意味している、と

いう前提に基づいています。

ユニットの前半で作ったスケジュール表にも、投入の計画と、四半期ごとの小計、そして

年間の合計を記入しているはずです。これと、実際の支出や投入を比較していきます。

すでに気づいた人も多いと思いますが、投入を見るだけで目標の達成に向けた計画の管理

が十分かというと、疑わしいものです。成果を生み出していないのに事業に予算がどんど

ん投入され続けるというのはよく聞く話です。実際には農家自身の計画ですので、損をし

てまでお金や資材を投入し続けるということはないでしょうが、この方法だけでは、目標

の達成が難しいと気がつくまでに、他の管理方法に比べて少し時間がかかる可能性が高い

でしょう。

かといって、活動と成果だけを見ていれば、投入計画は忘れていいということではありま

せんので、目標達成のための管理は活動か成果を中心に、活動の効率性や採算性を保つた

めの管理として投入を見る、というのが正しい計画管理の方法といえるでしょう。

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 1

モニタリング・評価概論

モニタリング・評価とは

単純にいえば、成し遂げたことの客観的な価値を判断することが「評価」、現在の活動が当

初の計画と比べてどのくらい進んでいるのかをチェックすることが「モニタリング」です。

モニタリング・評価の目的は、以下の 3 点にまとめることができます。

(1) 事業を適切に運営管理するため

事業管理ツールとして、計画の進捗や目標、成果の達成状況を確認し、事業の円滑な運営

管理を助けます。

(2) 関係者への学習効果

モニタリングや評価から導き出された経験や教訓は、その後の事業に役立つ学習効果を持

っているといえます。とくに開発の分野での事業管理の方法論では、モニタリングや評価

を関係者の知見やキャパシティを高める「学習プロセス(learning process)」としても大きな

意味があると理解されているのが一般的です。

(3) 説明責任を果たすため

モニタリングや評価の結果を関係者と共有し、必要に応じて、きちんと事業を実施してい

ることを説明することが求められる場合があります。小規模農家でも、マイクロクレジッ

ト機関などから融資を受ければ、そこに対する事業報告なども求められるかもしれません。

また行政機関による農業普及であれば、政府のお金がどのように使われているのかを説明

する責任があります。このことは一般に「アカウンタビリティを確保する」と表現されて

います。

目的: 活動計画のモニタリング・評価方法を理解する。

目標:

1. モニタリング要素と項目を理解し、説明できるようになる。

2. 評価の 5 項目を理解し、説明できるようになる。

3. 活動計画のモニタリング・評価を活動計画表を使って実施できるようになる。

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【20】 ユニット 4.5.1 : モニタリング・評価

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 2

モニタリングも評価も、これらの「事業運営」、「学習」、「アカウンタビリティの確保」と

いう 3 つの目的のために行います。それでは、モニタリングと評価の違いは何でしょうか。

表【20】-1 のように、モニタリングと評価は補完関係にあります。しっかりしたモニタリ

ングができることで、評価の精度も上がります

表 【20】-1 モニタリングと評価

モニタリング 評 価

実施頻度 定期的に継続 ある目的をもった調査で限定的

主な作業 進捗状況の確認と対応の検討 分析、評価・判断

基本的な目的 目標の達成に向けての必要に応

じた計画の軌道修正 効果評価、将来計画の改善

主な視点 投入、活動の実施状況、成果の発

現状況

実績、実施プロセス、妥当性、有

効性、効率性、インパクト、自立

発展性など

報の入手手段 定期的報告、簡易観察、簡易査定

など 各種関連調査、要因分析

実施者 実施者(農家、普及員) 実施者(自己評価)、監督者(組織

の上司など)、外部の第三者など

(出典:国際協力事業団企画・評価部評価監理室「実践的評価手法」国際協力出版会発行 を参考に筆者作成)

ここで重要となるのが、何を基準に何を「チェック」し、「判断」するのか、という点です。

モニタリングも評価も、「ある基準」に照らして、事業や活動がうまくいっているかどうか

を判断し、その結果に基づいて計画を修正する、ということが一義的な活動となっていま

す。モニタリングでは、「基準」はあらかじめ立てられた「計画」です。評価の「基準」は

さまざまですが、途上国開発プロジェクトなどでは、後に述べる「評価 5 項目」が「基準」

として用いられることが一般的です。

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 3

図【20】-1 事業の目的構造とモニタリング・評価

PDM/ロジカルフレームワーク(ログフレーム)を用いたモニタリングと評価

国際協力プロジェクトでは、プロジェクトのモニタリングや評価を行う場合、プロジェク

ト・デザイン・マトリックス(PDM)、またはロジカルフレームワーク(通称ログフレーム)

を用いています。日本では、国際協力機構(JICA)が PDM、国際協力銀行(JBIC)がログ

フレームと呼んでいますが、概念的にはほぼ同様のもので、その名称通りプロジェクトの

「計画概要表」です。

先に述べたように、モニタリングの「基準」は「計画」です。PDM やロジカルフレームワ

ークでなくてはならないということではありませんが、このような書式を用いて「計画」

を論理的に表現する、ということがモニタリング・評価を効率的・効果的に行うためには

きわめて重要です。ここでは、PDM という「計画書」を基準としたモニタリングと評価の

考え方を見てみましょう。

投入

成果

開発イン

パクト

モニタリング (Monitoring)

評価 (Evaluation)

(外部条件)

<効率性>

<有効性>

活動

活動

活動

目標の

達成

他プロジェクト

外部要因

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 4

PDM を用いたモニタリング

PDM を活用したモニタリングを行う上で重要なポイントと留意点は、次のように整理でき

ます。

表【20】-2 PDM の各要素とモニタリングの関係

要素 モニタリング活動 留意点

目標、成果の指標

成果や目標が事業の進捗に

応じてどの程度実現された

か。

モニタリングを行う上では、

終目標のみでなく中間時

点の達成度も明らかにする

ことが必要。

外部条件

事業の進捗に影響を及ぼす

ような外部条件の変化がな

いか。

外部条件のモニタリングに

ついても役割分担が必要。

活動スケジュール 成果を達成するための活動

が予定通り進んでいるか。

投入との関係、季節要因など

に注意。

活動の結果 各活動が計画通りの成果を

もたらしたか。

各活動が生みだすもの(成果)

を明らかにする。

活動の担当者 活動の進捗、成果の達成に問

題があった場合の対処決定。

関係者の役割・権限の分担を

明らかにすることが必要。

PDM を用いた評価

PDM にとりまとめられている「評価 5 項目」については、次章で詳しく述べます。ここで

は、評価において PDM を用いるメリットを述べます。

(1) 目標、活動内容やリスクが明記されるため、具体的な評価設問、調査項目を立てやすい。

(2) 目標値が設定されているため、目標の達成度合いの妥当性を判断する基準となる。

(3) 指標を入手する方法が明記されているため、調査方法を検討する際に役に立つ。

(4) 入手可能なモニタリング情報の範囲がわかる。

(5) 論理的な計画の組み立てになっているかどうか検証する際に役に立つ。

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 5

●JICA 事業における PDM

JICA 事業では、PDM はプロジェクトの事前評価段階で策定され、モニタリング・評価

を含むその後のあらゆる段階において共通のプロジェクト概要としての役割を果たしま

す。しかし PDM は変更不可能なものではなく、モニタリングや中間評価などで適宜軌

道修正されていきます。

●JBIC 事業におけるログフレーム

JBIC が行っている円借款事業では、現在のところ、ログフレームに沿ったモニタリング

は行っていません。ログフレームは事業の計画内容や到達目標を明確にするために、プ

ロジェクト終了後の事後評価時に作成されています。

モニタリング

モニタリングの要素

モニタリングを行うためにはまず、モニタリングの対象(要素)が何かを定める必要があ

ります。例として、モニタリングの対象を2つのエリアと3つのレベル/項目に分けた表

を示します。

表【20】-3 モニタリングの対象

エリア レベル/項目

内部

(1) 目標レベル(「事業目標」の発現の度合い)

(2) 成果レベル(活動の「成果」の発現の度合い)

(3) 活動・投入レベル(「活動」と「投入」の進捗の度合い)

外部

(1) 前提条件

(2) 予期されている外部条件

(3) 予期されていない外部条件

NOTE : JICA 事業における PDM と JBIC 事業におけるログフレーム

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 6

内部エリアのうち、「目標」と「成果」の達成度を測るために「指標」を設定しておきます。

モニタリングは事業の進捗管理を行うわけですから、事業が進むにつれて「目標」と「成

果」が時系列的にどのように発現していくか、経過をあらかじめ想定した上で、行ってい

きます。活動・投入では、具体的な作業スケジュールを計画すると共に、その作業によっ

ていつまでに何を生み出せばいいのかという道程を明確にすることが必要です。

一方、外部エリアの 3 点はこの道程の障害となり得るものです。このなかで、「予期されて

いる外部条件」は PDM の中に記入されますが、これについては、リスク管理と同様に「可

能性」「影響の種類と度合い」「トリガーポイント」の視点から考えます。

モニタリングの実施

(1) モニタリング・システムの構成

実際にモニタリングを行うためには、そのための「システム」を考えておく必要がありま

す。この「システム」には少なくとも次のものが含まれます。

① モニタリングを行うための作業プロセスと関係者間の役割分担

② 自己評価の仕組み

③ 記録や報告のための書式、その他作業の拠りどころとなるルール

(2) 作業プロセスと役割分担を明確にする

作業プロセスは、モニタリング計画の作成、指標データ収集、データ分析、判断、対応策

の策定、決定、対応策の実施、対応策の効果の判定、の順序で進んでいきます。

まずモニタリングのためになすべきことを明確にし、関係者(農家、農家グループメンバ

ー、普及員など)の間でどのように役割分担するかをなるべく早い時期に共通認識として

おくことが重要です

表【20】-4 モニタリングの作業プロセス

作業プロセス 具体的な内容

モニタリング計画策定 モニタリング項目、担当者、モニタリング・報告の頻度などをあ

らかじめ定める。 個別計画の策定 投入・活動スケジュールの決定、ベンチマークの設定 データ収集 ベンチマークその他の情報の収集 データ分析・判断 収集したデータ、情報から、活動進捗が適切かどうかを判断する。

対応策の検討 進捗が適切でない場合、どのような対応をすべきかを検討する。

対応策の決定 具体的な対応策を決定する。必要に応じて JICA、受け入れ側責

任期間に支援を養成する。 対応策の実施 決定された対応策を実施する。

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 7

(1) 自己評価の仕組みを作る

モニタリングは断続的に継続する作業です。また、個々の活動のモニタリングはそれぞれ

の活動の実施者に任されるのが普通ですので、関係者全員が事業の全体像を把握できてい

るわけではない、ということも起こりえます。四半期、半年、1 年など、区切りの良いとき

に自己部評価をして、モニタリングで蓄積された情報をもとに、事業の進捗と目標の達成

状況などを総括しておくことも、事業管理のために有効な手段です。この自己評価を、(1)

で述べたモニタリング計画の中に組み込んでおくと良いでしょう。

(2) 定型書式を決めておく

上記の一連の作業をする際の定型書式を作っておくことが必要です。図【20】-2 で示した

ように、モニタリングは役割を分担するプロジェクト関係者間の情報の流通によって初め

て成り立ちます。効果的かつ効率的なモニタリングを実施するためにも、記録や報告の方

法を定型化することが必要です。

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 8

網掛け枠内は事業担当者

が責任を持つ範囲

図【20】-2 モニタリング作業のフロー

詳細計画・目標値を修正

必要なし

詳細活動計画と目標値を定める

実績データを集める

是正策を講じる

基本計画の変更を事

業監督者(上司)に

要請する

事業の基本計画を

変更する

実績と計画を比べる

影響:小

影響:大

乖離なし

乖離あり

必要あり

順調

事業の基本計画の変更

が必要か

乖離の原因を究明

し、影響を分析する

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 9

評価

評価の要素

JICA などが行う開発協力プロジェクトで用いられている PCM 手法の評価では、評価を以下

の 5 つの視点で行います。これは「評価 5 項目」と呼ばれています。

これらの項目に沿って評価するために、どのように情報の収集・分析するかを計画します。

これが評価計画(評価デザインとも呼ばれる)となります。

表【20】-4 「評価 5 項目」

評価項目 内容 PCM 手法での評価の主な調査点

妥当性

Relevance

事業の対象地域や対象

農家のニーズとの整合

性はあるか?

事業の実施主体(政府

や NGO)の責任や戦略に

照らして、この事業を

実施する必要性があっ

たか?

・ 対象農家の選定は適正か

・ 目標は対象農家のニーズに合致しているか

・ 設定した目標は、その地域の農村開発戦略

と整合性があるか

・ 事業の便益の配分や、事業への費用負担の

点で、公平性が保たれているか。

有効性13

Effectiveness

当初期待された成果は

得られたか?

それはこの事業の実施

が有効であったからと

言えるか?

・ 目標は達成されたか。

・ 目標の達成に貢献したそのほかの要因は

あるか

・ 目標が達成されなかった場合、その阻害要

因は何だったか

13 JBIC では有効性(Effectiveness)をやや狭義に定義しており、事業の成果が直接的にどれだけ目標を達成したか(目

標達成度)のみを評価の対象としている。

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 10

評価項目 内容 PCM 手法での評価の主な調査点

効率性

Efficiency

投入された資源量に見

合った成果が得られた

か?

事業の実施は効率的で

あったと言えるか?

・ 投入は成果をあげるために十分に活用され

たか、活用されなかったものはないか

・ 投入はタイミングよく行われたか

・ より効率的にできる代替手段はなかったか

・ プロジェクトの効率性に影響を与えた貢

献・阻害要因は何か

インパクト

Impact

事業は当初期待したイ

ンパクトを生み出した

と言えるか?

事業実施により、その

ほかの間接的・波及的

効果はあったか?

・ 上位目標に至るまでの外部条件の影響はあ

るか

・ 予期しなかった正・負の影響はあったか

・ 上位目標の達成に影響を与えた貢献・阻害

要因はなにか

自立発展性

Sustainability

事業で始められた活動

は、その後も無理なく

継続できるか?

事業で生み出した成果

や効果はその後も継続

して生み出せる、ある

いは効果を維持するこ

とができるか?

<財務的自立発展性>

・ 非貨幣分も含めた全体として収支バランス

が取れているか。

・ 活動を継続していくだけの財務的な基盤は

あるか。

<技術的自立発展性>

・ 新しく導入した技術などはきちんと定着し

ているか。

・ 技術を持っている人間がいなくならない

か、またはいなくなったとしても困らない

か。

・ 習得、定着した技術を自らさらに応用、発

展させていくことはできるか。

<組織制度的自立発展性>

・ 生産、販売などでの役割分担は明確になっ

ているか。それぞれが役割と責任を認識し

ているか。

・ 消費者や市場との関係は一時的なものでは

なく、その後も維持できるか。

・ 必要なときに外部からの支援を受けること

ができるか。

モジ

ュー

ル 1

小規

模農

民に

よる

有機

農業

概論

ジュ

ール

3 有

機農

業技

モジ

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ル 0 有機

農業

の理

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小規

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家支

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及概

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 11

評価の実施

評価の進め方

次の手順は、第三者(外部)評価の一般的な手順です。自己評価でも同様の手順で進めま

す。

(1) 評価者の決定

(2) 評価方針・方法の決定

(3) 既存資料(事業企画書、PDM などの計画書、モニタリングの記録など)からの情報の

収集と整理

(4) 評価 5 項目に基づく評価表の作成

(5) 評価調査の実施

① 関係者への説明

② 個別調査

③ 調査結果のまとめ

④ 改善策と教訓のまとめ

(6) 評価結果の報告、報告書の作成

モジ

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 12

図【20】-3 評価作業のフロー

評価のまとめ

評価者は、前項で述べた 5 項目の観点からの評価結果を基本として、事業の結果に関連す

る様々な要因や因果関係を明らかにします。これを総合的に分析し、まとめて結論としま

す。さらに、この結論を今後の事業の改善に役立たせるために、「提言」と「教訓」を導き

出す必要があります。

提言:提言は、事業の関係者に対して、今後とられるべき改善措置についての提案です。

教訓:教訓は、事業評価の結果から得られる、学習として記録すべき経験で、その事業の

改善だけでなく、将来の新たな事業実施の際に参考となるような事項です。

十分なモニタリング 不十分なモニタリング

モニタリング結果あり モニタリング結果なし

モニタリング結果に

基づく実績・実施プロ

セスの把握

実績・実施プロセス把

握調査の実施

問題解決・提言

事業の問題点と課

題の明確化

問題解決・改善の方

向と解決のための

具体的方策の検討

問題解決・改善のため

の提言のまとめ

事業実施の経験から得

られた学習の一般化

教訓

評価 5項目による判定に

必要な実績の確認

「評価設問」(評価の

主目的)の設定

評価 5 項目の分析に

基づくプロジェクト

の価値判断(評価)

実績と成果の要因、阻

害要因に関する分析

5 項目評価

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 13

参加型の評価とモニタリング

参加型のモニタリングと評価とは

モニタリングというのは通常は、事業実施者が自らの事業の進捗度合いを把握するために

行うものです。評価には、自ら行う自己評価と実施者以外が行う他者評価があります。農

業普及を考えた場合、農家の営農の進捗管理や自己評価は農家自身が行うのが当然、とい

うことになります。しかし、すでにほかのユニットでも議論したように、途上国の小規模

農家の多くは、自らの活動を管理する、という経験を持っていないのが現状です。ですの

で、 初のうちは外部から支援によって、モニタリングと評価をどのように行うかを学ん

でいくというステップが必要になります。つまり、有機農業の振興を通した小規模農家の

支援における参加型のモニタリングと評価とは、暫定的な、農家の能力向上のための活動

の一環だということができます。モニタリングも評価も、いずれは農家自身が、外部の助

けを借りずにできるようになるべきなのです。

したがって、参加型モニタリング・評価を、本コンテンツの対象農家のカテゴリーと重ね

合わせて考えてみると、自給+余剰販売のレベルまでの農家を対象とするのがもっとも考

えら得る想定です。自給レベルの農家で、有機農業を導入するための活動や、自給から販

売を増やしていこうとする際の活動の際に、参加型モニタリング・評価を用いるとよいで

しょう。それ以上のレベルであれば、程度の差はあれ、すでに自らのモニタリング・評価

ができていることが前提となるでしょう。

参加型のモニタリングと評価の方法と普及員の役割

参加型のモニタリング・評価といっても、特別なことをするわけではありません。基本的

には、ここまで述べてきた、通常のモニタリング・評価と同じ視点で行うことが望ましい

です。ここで重要なことは、このような「管理」に慣れていない農家が苦手意識を持って

しまわないように、彼らのできる範囲、やり方に置き換えていくという応用や工夫が求め

られるということです。

具体的には次のようなやり方もひとつの方法です。これらを参考にして、皆さんでどのよ

うな参加型モニタリング・評価ができるか、考えてみてください。

モジ

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【20】 モニタリング・評価

【20】- 14

家族会議:1週間に一度、家族が全員集まってその週にやったこと、気がついたことや問

題点、来週からすべきことなどを話し合い、情報と予定を共有します。これを定期的にや

っていくこと、そして徐々に、あらかじめ立てた「計画」に基づいて振り返るようにする

こと、という風に導いていきます。

グループ発表会:組織形成のある場合、組織の中の誰かに交代でそれぞれの活動や取り組

みの進捗を発表してもらう機会を定期的に開きます。組織の中に小グループを作ってそれ

ぞれ競わせるというやり方もあります。ここでも、定期的にやるということ、これを通し

て情報を共有して組織内の意思疎通を良くして相互に学んでいく場を作ること、そして、

あらかじめ立てた計画との比較で進捗を把握する癖をつけることなどがポイントです。

「目ぞろい会」:日本の農家グループで行われている会で、農作物の収穫の前に、大きさや

品質の基準となるものを現物で確認しあうというものです。これにより、グループ内の共

通理解を形成します。正確には、モニタリングではなく品質管理の活動ですが、「グループ

メンバーの生産する農産物の品質をそろえる」というような目標を立てた際のモニタリン

グの「基準」作り、ともいえます。

参考文献

・国際協力事業団企画評価部評価監理室〔2004〕『実践的評価手法―JICA 事業評価ガイドラ

イン』国際協力出版会

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テキスト

2. Job Aid

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Job Aid

【2】 1.1.1 : 有機農業概論

有機農業で健康な作物ができる仕組み

●適地適作

在来種の活用、

選抜・自家採種

●栽培環境の整備

多品目栽培、輪作、間混作、

適期作、日当たり、風通し

●多様な生物相の実現

天敵・有用微生物の活用、

土づくり、輪作、間混作、

有機マルチ

<栽培技術>

●土づくり

堆肥やボカシ肥、緑肥などの

有機物の施用

<効果>

・土壌小動物、微生物が活性化される

・排水性、保水性、通気性が改善する

・土中栄養バランスが改善する

・保肥力が大きくなる

・緩衝能が大きくなる

・病害虫が発生しにくい環境になる

・その土地の風土や栽培方法にあった

作物ができる

・土中栄養バランスが適切になる

・生育環境がよくなる

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Job Aid

【4】 1.3.1 : 有機農業による小規模農民支援概論

有機農業による小規模農民支援の概念図

マーケット

<地産地消> <安心・安全> <提携> <ブランド形成>

営農システム

<有機農業技術> <内部循環> <土の力>

経営

<自立> <持続性> <小農のライフステージ>

化 <

集団の規模>

<

リーダーシップ>

<

関係の構築>

< Farmer to Farm

er>

及 ・

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Job Aid

【5】 2.1.1 : 営農計画:経済分析

小規模農家の農家経営を見る際の重要キーワード

1.農家のライフステージ

2.小規模農家の「費用」

3.内部循環

4.リスク

5.制約要因と生産性

小規模農家の農業と生活は一体 家族メンバーのそれぞれの人生を支える農業 世代交代、相続も見据えた長期計画

自家労働は見えにくいがお金に換算してみる 周辺の無料の資源をいかに活用できるかが鍵

外部の資源への依存度を減らし、持続・自立可能な循環

系の確立 資金、労働力、有機物などすべてに関係する

生産性の見方はさまざま:費用対効果、土地生産性、

労働生産性、水生産性など 小規模農家にとってもっともおおきな制約要因の面か

らの生産性の向上が重要

小規模農家には大きなリスクに対応できるような蓄え

がない 天候不順、市場の変化に加え、家族の病気や、新しい

技術の導入なども小規模農家にとっては「リスク」

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Job Aid

【6】 2.2.1 : 営農計画:組織運営

小規模農家組織の支援のポイント

1.組織化の効果と困難

組織化の効果、メリット 組織化の困難さ、デメリット 経営全体の 集団化

資産を大きくすることができれば、その力を生かして規模の大きな投資などができる

負担と配分をめぐる意思決定が難しいため、成功事例は少ない

生産活動の 一部集団化

肥料などの投入資材は共同購入すれば安く買える

トラクターなど大型農機の共同購入・共同使用は、使用や維持管理をめぐる意思決定が難しい

販売活動の 集団化

組織化により運搬手段や交渉力を得て、より遠くの、より大きな販売先に農産物を売ることができるようになる

組織が大きくなれば、それに応じた組織運営技術や高度な運営能力が必要になるが、それが満たされなければ、組織は機能不全に陥る

2.支援のポイント

(1) 集団の人数 →適正な規模になるように誘導 →15 人くらいが「顔の見える関係」を維持できる限界 →15 人以上なら、役割分担、情報共有、内規の徹底などを意識

的に実行 (2) リーダーの存在→集団が小さくてもリーダーシップは必要

→15 人以上なら、意識的な組織運営をリーダーシップの下で →初めから完全なリーダーはいない。徐々にリーダーとして

育つのを支える (3) 直面する問題 →自ら解決できない問題に直面すると機能不全になる可能性

がある →「重たい石を取り除く」作業に協力する。彼らが問題を解

決する経験を通して組織の能力が高まっていく

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Job Aid

【7】 3.1.1 : 営農システム

小規模複合農業の栄養計算

A. 家畜糞尿の栄養計算

①x②x③x④=飼育家畜糞尿の窒素総量(A)

① 飼育している家畜の 1 頭当たりの 1 日排泄量←〔家畜別糞尿排泄量の表〕

② 家畜の飼養頭数

③ 家畜糞尿含有窒素の比率←〔家畜糞尿含有栄養表〕

④ 日数

B. 作物の栄養要求計算と作付け面積の決定

①x(100%-②)/(A)=作付け可能面積

① 畑で生産する作物の 1ha 当たりの窒素要求量←〔作目別の栄養要求量の表〕

② 土から供給される窒素量の比率

※やせた土なら要求量の 20%、肥えた土なら 50%が目安

↑畑の草の生え具合や前作までの作物生産量から判断

C. 生産結果の評価による面積・頭数の修正

1. 上記の仮定で生産した結果を評価し、土壌肥沃度の推定値を修正する。生育がよければ仮定

通り、生育不良ならば窒素含有量を下方修正する。窒素過多気味なら上方修正する。

2. 前項 1.の修正をもとに、再計算して、次作の作付け面積または家畜の飼養頭数を変更する。

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Job Aid

【8】 3.2.1 : 土づくり - 1

各有機物の土壌の化学性・物理性の改善効果

4】-3 各

土壌改良効果が大きい

油かす魚粉食品廃棄物生の家畜糞尿

鶏糞主体の堆肥

草、ワラ主体の堆肥

牛糞主体の堆肥

堆肥

ボカシ肥

化学肥料

化学

性の

物理性の軸

マメ科緑肥・雑草・作物残さ

マメ科以外

栄養成分多い=肥効大きい

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Job Aid

【8】 3.2.1 : 土づくり – 2

各有機物の土壌の化学性・生物性の改善効果

栄養成分多い=肥効大きい

油かす魚粉食品廃棄物生の家畜糞尿

鶏糞主体の堆肥

草、ワラ主体の堆肥

牛糞主体の堆肥

堆肥

ボカシ肥

マメ科以外

マメ科

緑肥・雑草・作物残さ

化学肥料

化学

性の

生物性の軸 微生物分解・発酵が進んでいる

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Job Aid

【9】 3.2.2 : 有機質肥料(1)

堆肥作りプロセスチャート

場所の選定

材料の用意

【場所選定チェック項目】

□ 水はけはいいか

□ 近くに水場があるか

□ 雨と直射日光を防げるか

・C/N 比が 30 前後になるように材料を選ぶ

※C/N が低い材料(家畜糞尿)1 に対して、C/N が高い材料

(落ち葉や麦わら)10 程度

・中の温度を 60~70℃に保つ

・温度が下がり始めたら、適量の水を加えながら切り返す

・切り返し時に、適量の水を加える

温度管理と

切り返し

完成

【完熟度チェック項目】

□ 温度が下がったか

□ 色が黒くなったか

□ アンモニア臭がしなくなったか

□ ミミズなどの土壌小動物がいるか

積み込み

・水分量が 60%前後になるように水を加える

※材料を握って水が少し染み出す程度

・積み込み後、黒いビニールや麻袋覆う

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Job Aid

【11】 3.3.1 : 種子の調達

自家採種プロセスチャート

採種

乾燥

□ 自分が必要とする形質を持った母体を選抜する。

□ 採種のやり方を確認する

・収穫物を追熟させるもの(トマト、スイカ、カボチャなど)

・収穫時期からさらに肥大化させるもの

(ピーマン、オクラ、ナス、キュウリなど)

・収穫時期から時間がかかるもの(葉菜類、根菜類)

□以下の方法で、未熟な種子やゴミを取り除く

・風に飛ばす

・ふるいにかける

・水に入れる

※成熟している種子は沈みます。ただしカボチャやトウガンの

種子は水に浮きます。

保存

□ ビンや缶にいれて、湿気から防ぐ

□ 温度が高くならないところに置く(できれば冷蔵庫の中)

□ 暗いところに置く

□果菜類:直射日光を数時間当て、その後 2~3 日間風通しの

いいところで、陰干しする。

□葉菜類、根菜類:数日間風通しのいいところで、陰干しする

選別

□ 花をつけるために必要な条件の確認する

□ 自家受粉、他家受粉の確認する

□ 他家受粉の場合は、交雑防止策を講じる

準備

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Job Aid

【12】 3.4.1 : 土地準備と水管理

ため池作りプロセスチャート

場所の選定

□ 畑の場所とため池の仮予定地を入れた付近の簡単な地図を描く

□ 雨水の流れる道筋をよく観察し、集水域と水の道を地図に加筆する

□ 上記の地図をもとに、まず、水がよく流れ込む場所に、ため池予定地

を定める

□ その予定地から畑に水を引きやすいかどうか、確認する

□ 問題があれば、水がよく流れ込む場所という条件を保ちながら、ため

池の位置を修正し、確定する

管理

□ 雨が降り、水が集まったら、蒸発を防ぐため、ビニールシートを水面に

浮かべる

□ 沈砂池が埋まってきたら、土を取り除く

建設

□ 粘土を採取できる場所を探し、粘土を集めておく

□ ため池の大きさを決め、つるはしやスコップで掘る

□ 粘土に水を加えて練り、これを池の内壁に 5cm ほどの厚さに塗る

□ 塗った層が乾いてから、再び 5cm くらいの厚さに塗る

□ 水が最もよく流入する部分の池の手前約 1m のところに、直径 1m、

深さ 80cm ほどの沈砂池を作る(池の大きさが 5m 四方程度の場

合)。

□子供が近づく可能性がある場合は、事故防止のためのフェンスまたは

それに代わるものを、池の周囲に必ず作る

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Job Aid

【14】 3.5.2 : 病虫害対策

病虫害対策記録シート

日にち 病害虫の種類(作物の状況) 対策 回数、量 メモ

(例)1 月 1 日 トマトの葉っぱにハダニ

がついていた

ニンニク液を散布 2 回、1 回当たり 0.5

リットル

以前もニンニク液で効果があった

ので、今回も使用。

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Job Aid

【15】 3.6.1 : 技術組み合わせデザイン

営農システム改善方法

①支援農家の営農システムを図解する。

②有機農業による支援目的を決め、営農シ

ステム図に反映させる。 (例:栽培経費を減らす=化学肥料の使用

をやめる) ③営農システムを実現する方法を検討

する。 -必要な有機物量、家畜数量を計算す

る。 -現状を確認する(手に入る有機物な

ど) ④実現すべき営農システム図を決める。 (例:地域の利用可能な有機物[コーヒー

かす、牛糞]を堆肥として利用する。)

対策 検討事項

家畜を導入する ・購入費用 ・家畜飼料の入手方法、費用

地域の利用可能な有機

物を活用する。 ・利用できる有機物の有無、 ・処理方法(堆肥にする、直接

投入など)

自然

市場

農家

落ち葉 作物残さ

収穫物 収穫物

畑 ↑ここの矢印が

なくなる

自然

市場

農家

落ち葉 作物残さ

収穫物 収穫物

化学肥料

自然

市場

農家

落ち葉 作物残さ

収穫物 収穫物

地域

堆肥(コーヒ

ーかす、牛糞)

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Job Aid

【17】 4.2.1 : 普及事業のインパクトモデル

技術開発 知識・技能の伝達 農家の決断 最終評価 行政・研究・普及・(農家)のつな

がり コミュニケーションの形成 情報の伝達 技術的ファシリテーション

技術への接近・認識 技術の採用・改良・実践 自らの工夫・開発

消費者への安全な食料の安定供給 環境保全への貢献 土地生産性と収入の向上 他農民への技術伝播

インプット 活動 成果・効果 インパクト

普及員の TOT 行政

研究 普及

農家

Farmer Participatory Research の場合

農家の目的 農業 生産

農家の 暮らし

食料安全保障

生活のリスク

水資源・土地

金融 インフラ

労働力 価格

制約

制約

価格変動

天候・災害 のリスク

組織化

展示圃場

Farmers Day

Field Day

視察

中核農家 Farmer to

参加型農民 圃場試験

FPR

研修

個別指導

T & V

FFS

普 及 計 画

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Job Aid

【18】 4.3.1 : 営農計画の基礎:ビジョン策定-1

プロジェクトサイクル

決定進行

実態把握

評価

普及計画の開発

目標の決定

問題の 明確化

評価

計画プログラム

活動プログラム

実情分析

実行計画

再検討

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Job Aid

【18】 4.3.1 : 営農計画の基礎:ビジョン策定-2

ビジョン策定のプロセス:問題分析・目的分析

1.問題分析→問題系図

2.目的分析→目的系図→プロジェクト範囲の選択

野菜販売による利益が増える

野菜の生産量が増加する 生産にかかるコストが

軽減される 野菜の販売価格

が改善される

連作障害が

なくなる 有機質肥料が

利用される 十分な肥料を

投入できるよ

うになる

天然農薬を

利用する 栽培面

積が広

くなる

野菜の品質 が改善する

生 産 量 増 加の取組み

コスト削減の取組み

野菜販売による利益が少ない

野菜の生産量が少ない 生産にかかるコストが 高い

野菜の販売 価格が安い

連作障害が

良く出る 化学肥料 が高い

十分な肥料を

投入できない 農薬が

高い 栽培面積

が狭い 野菜の品質 が悪い

原因

結果

手段

目的

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Job Aid

【19】 4.3.1 : 活動計画の策定

PDM(ロジカルフレームワーク)書式

プロジェクト名: 作成日:

対象地域: 対象受益者(グループ):

プロジェクト期間: 実施主体:

プロジェクトの要約 指標 指標データ入手手段 外部条件

上位目標

上位目標(開発効

果)維持のための

外部条件

プロジェクト目標

上位目標達成のた

めの外部条件

成果

目標達成のための

外部条件

成果達成のための

外部条件

活動

投入

前提条件

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Job Aid

【20】 4.5.1 : モニタリング・評価-1

モニタリングの作業フロー

詳細計画・目標値を修正

必要なし

詳細活動計画と目標値を定める

実績データを集める

是正策を講じる

基本計画の変更を事

業監督者(上司)に

要請する

事業の基本計画を

変更する

実績と計画を比べる

影響:小

影響:大

乖離なし

乖離あり

必要あり

調

事業の基本計画の変更

が必要か

乖離の原因を究明

し、影響を分析する

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Job Aid

【20】 4.5.1 : モニタリング・評価-2

評価 5 項目と評価作業フロー

1.評価 5項目

評価項目 内容

妥当性 Relevance

事業の対象地域や対象農家のニーズとの整合性はあるか?

事業の実施主体(政府や NGO)の責任や戦略に照らして、この事業を実施

する必要性があったか?

有効性1 Effectiveness

当初期待された成果は得られたか?

それはこの事業の実施が有効であったからと言えるか?

効率性 Efficiency

投入された資源量に見合った成果が得られたか?

事業の実施は効率的であったと言えるか?

インパクト Impact

事業は当初期待したインパクトを生み出したと言えるか?

事業実施により、そのほかの間接的・波及的効果はあったか?

自立発展性 Sustainability

事業で始められた活動は、その後も無理なく継続できるか?

事業で生み出した成果や効果はその後も継続して生み出せる、あるいは効

果を維持することができるか?

2.評価の作業フロー

十分なモニタリング 不十分なモニタリング

モニタリング結果あり モニタリング結果なし

モニタリング結果に

基づく実績・実施プロ

セスの把握

実績・実施プロセス把

握調査の実施

問題解決・提言

事業の問題点と課

題の明確化

問題解決・改善の方

向と解決のための

具体的方策の検討

問題解決・改善のため

の提言のまとめ

事業実施の経験から得

られた学習の一般化

教訓

評価5項目による判定に

必要な実績の確認

「評価設問」(評価の

主目的)の設定

評価 5 項目の分析に

基づくプロジェクト

の価値判断(評価)

実績と成果の要因、阻

害要因に関する分析

5 項目評価

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副教材

1. 用語集

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1

【例】

用語 英訳 解説

【あ行】

一 代 交 配 種

(F1)

hybrid variety 収量や耐病性、作物品質の均一性などを高めるために、

雑種第一代のみ両親よりも優れた形質が現れる現象(雑

種強勢)を利用し、人工交配で作った品種。一代交配種

の優れた形質が現われるのは、その一代限り。

遺伝子組み換

え作物

genetically

modified

organism

遺伝子を人工的に操作して作られた作物。特定の除草剤

や害虫に対して耐性を持つ作物や日持ちのする果実が

できる作物などが作られている。

売上高利益率 profit margin 売上高から原価、販売費、一般管理費を引いた「営業利

益」を売上高で除した割合。これを%で表した数字。 栄養繁殖 vegetative

reproduction

種子を作らず、根、茎などの栄養器官から、次の世代の

植物を繁殖する生殖形態。栄養繁殖の作物は、ジャガイ

モ、サツマイモ、ニンニク、ショウガなど。

【か行】

家族労働報酬 family labor

remuneration

(income)

農業所得から自作地地代と自己資本利子を取り除いた

もので、経営の中から家族労働だけを取り出し、そこに

帰属する成果がどれだけあったかを見るための指標で

ある。家族労働報酬=農業所得-(自己資本財利子見積

額+自己所有地地代見積額) 慣行農業 conventional

agriculture

化学肥料や化学農薬を使用し、機械化や栽培作物や飼育

家畜の専門化・分業化された農業形態のこと。

緩衝能 buffering

capacity

土壌 pH の急激な変化、肥料の施しすぎや肥料不足、有

害物質の流入など、土壌に急激な変化が起こった場合

に、それらの変化をやわらげ、作物を保護する作用のこ

と。

拮抗微生物 antagonistic

microorganism

抗菌性物質や酵素などを産生して病原菌の生育を阻止

する微生物。

経営耕地面積 cultivated land

area

農家が実際に耕作する耕地の面積。

経営診断 business

diagnosis

経営の現状を把握し、その問題点と欠陥を明確にするとと

もに、適切な改善方法や整備の方法を提示する行為。

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2

減価償却費 depreciation cost 建物、車両、施設、大型機械などの資産について、その

使用可能期間(耐用年数)にわたる、その資産の価値減

少相当額のこと。通常の会計ではこれを毎年の費用とし

て計上する。 耕地利用率 utilization rate of

cultivated land

耕地面積を 100 とした実際の作付延べ面積の割合

耕地利用率(%)=作付延べ面積÷耕地面積×100

コーデックス

規格

Codex

Alimentarius

国連食料農業機構(FAO)と世界保健機構(WHO)が

設置した国際的な政府間機関であるコーデックス委員

会が作成した国際食品規格。

国際有機農業

運動連盟

International

Federation

Organic

Agriculture

Movements

(IFOAM)

有機農業運動に関する国際的な民間組織。本部はドイツ

にあり、2007 年現在、108 カ国、750 以上の団体が参加

している。有機農業の普及、政策提言、意見の反映、生

産・加工・流通基準の設定と更新などの活動を行ってい

る。

固定費 fixed costs 労働作業量や売上高の変動にかかわらず一定額発生す

る費用。

【さ行】

在来種 indigenous

variety /

native variety /

traditional breed

その土地の自然環境に適応しながら、昔から伝えられて

いる品種。固定種ともいわれ、親の形質が次の世代に受

け継がれる。

作付け体系 crop rotation

いつ(時間的な組み合わせ)、どこで(空間的な組み合

わせ)何を栽培するかの作物の組み合わせ。

自家受粉 self-pollination 同じ株(または同じ花)で受粉が行われること。マメ科、

イネ科(ただし、トウモロコシは他家受粉)など。

集約化 intensification 作業効率の向上などのために分散する農地を一箇所に

まとめること。または、灌漑、高栄養投入、高収量品種

の導入などによって単位面積あたりの収穫量を上げる

こと。

種子繁殖 seed reproduction 種子によって、次の世代の植物を繁殖する生殖形態。自

家受粉と他家受粉に分けられる。

純収益 net profit 粗収益から物財費と労働費を差し引いたもので、生産で

実質的に消耗された価値からどれだけの新しい価値が

生み出されたかを意味している。

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3

生物多様性 biodiversity 生物の変異性を総合的に示すことばで、生態系(生物群

集)、種、遺伝子(種内)の 3 つのレベルにより捉えら

れる。生物多様性の保全とは、多くの生物が相互の関係

を保ちながら、本来の生息環境の中で繁殖を続けている

状態を保つことである。

総合的病害虫

管理

Integrated Pest

Management

(IPM)

物理的な防除(熱水消毒など)、生物的防除(天敵、有

用微生物など)、耕種的防除(抵抗性品種など)化学的

防除(農薬など)をバランスよく組み合わせる病虫害防

除法。

損益計算書 Profit and loss

statement

「収入」と「支出」を対応表示することによって、当該

期間にかかる経営成績を明らかにする報告書。

損益分岐点分

break-even point 売上高と、その売上高を達成するための総費用が合致

し、利益も損失も生じない状況になる点。

【た行】

堆肥 Compost 落ち葉や草、家畜の糞などの有機物を混ぜて一定期間置

き、微生物によって分解させてつくった有機質肥料。

貸借対照表 balance sheet 企業の資産状況を示す財務諸表。左右に分けた記述形態

で、左に資産状況(現金、預金、設備、不動産など)を、

右に負債(銀行借入、社債発行、買掛金など)と資本状

況の内訳を書く。 他家受粉 cross-pollination 同じ種類の植物の他の株の花粉により受粉が行われる

こと。アブラナ科、ウリ科、ナス科など。

多量必須要素 essential major

element

植物の生育に必要不可欠な要素を必須要素といい、その

うち、乾物の含有率がおよそ 0.1%以上で植物が正常な

生育をする要素。水素(H)、酸素(O)、炭素(C)、窒

素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、

マグネシウム(Mg)、硫黄(S)の計 9 要素を指す。

炭素率 carbon-nitrogen

ratio

C/N 比とも呼ばれ、有機物などに含まれている炭素(C)

量と窒素(N)量の比率のこと。

団粒構造 aggregated

structure

土壌粒子がお互いにくっつきあって、小さな塊になって

いる土壌の状態。これによって、保水性、浸水性、通気

性な土壌の物理性が良好な状態になる。

地産地消 localization of

food production

and consumption

地域の消費者ニーズに即応した農作物の生産と、生産さ

れた農産物をその地域内で消費する活動を通じて、生産

者と消費者を直接的に結びつけようとする取り組み。

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4

提携 teikei 生産者と消費者が信頼関係に基づいて有機農産物を直

接取引する流通システム。

天然農薬 natural

insecticide

化学合成した農薬(化学農薬)ではなく、自然素材を原

料に作った農薬のこと。

天敵利用 use of natural

predators /

enemy

害虫の天敵を人為的に畑で増やし、害虫を殺させ、農作

物への被害を防ぐ害虫防除法のこと。

土地生産性 land productivity 土地のもつ生産力の程度をいい、産出量をその生産に投

入した土地面積で除した土地面積1単位当たりの産出

量で示される。

【な行】

農家所得 farm household

income

農家 1 世帯の所得。農業所得と農外所得を足したもの。

農外所得 non-agricultural

income

農外収入(自営兼業収入、給料・俸給)から、農外支出(自

営兼業支出、通勤定期代等)を差し引いたもの。

農業経営費 agricultural

expenditure

農家が自ら提供した労働,土地,資本を含まない費用。言

い換えれば,農産物を生産するために外部から調達し,実

際に使用した総額をいう。

農業純生産 net agricultural

production

一定の投入してどれだけの価値を生んだか,その付加価値

の大きさ。農業純生産=粗収益-物財費(生産原価-労務

費)

農業所得 agricultural

income

農業粗収益(農業経営によって得られた総収益額)から、

農業経営費(農業経営に要した一切の経費)を差し引いた

もの。

農業生産組織 Cooperative

groups for

agricultural

production;

Agricultural

production

organization

複数の農家が農業生産過程の一部もしくは全部についての

共同化・統一化に関する協定の下に結合している集団、ま

たは、農業経営や農作業を組織的に受託する集団。栽培協

定、機械・施設の共同利用、農作業等の受託などの事業を

行う集団。

【は行】

バイオマス biomass 再生可能な生物由来の有機性資源で、化石資源を除いた

もの。自然生態系の中で持続的に再生が可能な資源。

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5

ハザード

(危害要因)

hazard 健康に悪影響をもたらす原因となる可能性のある、食品中の

物質や食品の状態。有害微生物、農薬、添加物など。

微量必須要素 essential trace

element

植物の生育に必要不可欠な要素を必須要素といい、その

うち、乾物当たりの含有率がおよそ 0.01%以下で植物が

正常な生育をする要素。鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅

(Cu)、ホウ素(B)、モリブデン(Mo)、塩素(Cl)、亜鉛(Zn)

の計 7 要素を指す。

プ ロ ジ ェ ク

ト・サイクル・

マネジメント

Project Cycle

Management

(PCM)

プロジェクトの計画立案・実施監理・評価の全体を管理

する手法の一つ。JICA や発展途上国の開発支援に携わる

多くの機関が採用している。

負債比率 debt equity ratio 貸借対照表の貸方側の資本構成を表す指標。自己資本に

対する負債の割合を表す。一般的には、企業の安全性を

はかる指標。負債比率=他人資本÷自己資本

プロジェクト

サイクル

project cycle 計画、実施、監督、対応(評価)、そして過去の事業教

訓を次の事業計画に生かす、という事業の循環。英語で

は「Plan-Do-See-Act」。

変動費 variable cost 継続して活動していくために、売上高に比例して増えて

いく費用のこと。具体的には原材料費、外注費など。

ボカシ肥 Bokashi 魚粉や鶏糞など、窒素をはじめとする栄養分を多く含ん

だ有機物と土を混合させ、比較的短期間で発酵・分解し

た有機質肥料。

【ま行】

マルチ mulch マルチは、ワラや落ち葉、ビニールなどによって作物の

周りの土面を覆うこと。土中の水の蒸発を抑えたり、雑

草の発生を防ぐ効果などが期待できる。

未利用バイオ

マス

unused

(disposed)

biomass

農作物のバイオマスのうち、非食用部や林地の残材とい

った未利用のもの。

【や行】

陽イオン交換

容量

Cation Exchange

Capacity(CEC)

土壌コロイドが完全に陽イオンで飽和されたときの陽

イオンの総量。土が肥料を吸着できる能力(保肥力)を

表し、大きいほど保肥力が大きいと言える。

有機質肥料 organic fertilizer

動植物に由来する肥料。堆肥、ボカシ肥、魚かす、骨粉、

緑肥、家畜・家禽類の糞、草木灰などの種類がある。

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6

【ら行】

リスク risk 食品中の「ハザード」により健康への悪影響が起きる可

能性(確率)とその影響の程度。

流動比率 current ratio 短期の負債に対する企業の支払い能力を見るための指

標。流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

緑肥 green manure 主作物の順調な成育のために土壌有機質を増やしたり、

肥効を得たりするために植え、腐らせずに、そのまま土

壌中にすき込んで分解させる副次的な作物。クローバー

やソルガムがその典型、そのほか、えん麦、アブラナ科

のキカラシ、ひまわり、青刈りとうもろこしなども用い

られる。

輪作 rotation cropping /

crop rotation

同じほ場で違う作物を一定の順序で栽培すること。労働

配分の均衡化、土地利用率の向上、危険の分散といった

効果があるほか、土壌伝染性病害虫や雑草の発生抑制、

肥料の利用効率の向上、土壌養分のバランス維持による

地力の維持増進などの効果がある。

連作障害 injury by

continuous

cropping / replant

failure

同じ種類の作物を同じ場所に連作したことによって、そ

の作物生育、収量、品質が低下する現象のこと。

労働生産性 Labor

productivity

就業者 1 人当たりでどれだけ付加価値を生み出したかを測

る指標。労働生産性 = 付加価値 ÷ 労働従事者数

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副教材

2. 参考資料リスト

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参考資料リスト

モジュール0No 発行年

1 2006

2 1999

3 2003

4 -

5 -

6 -

7 -

http://www.joaa.net/(日本語)http://www.joaa.net/English/index-eng.htm(英語)

日本有機農業学会 web page

日本有機農業研究会 web page

霜里農場 web page http://d35948.u27.g--z.jp/

http://homepage.mac.com/yuki_gakkai/

有機農業ハンドブック土づくりから食べ方まで

金子さんちの有機家庭菜園

日本有機農業協会編

金子美登

社団法人農村漁村文化協会

社団法人家の光協会

名称 著者

http://www.maff.go.jp/index.html(日本語)http://www.maff.go.jp/eindex.html(英語)

農林水産省 web page

発行所/出版社

地球に広がる有機農業いのちと農の論理

中島紀一 コモンズ

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モジュール1No 発行年

8 -

9 1995

10 1997

11 1999

12 -

13 2003

14 2006

15 2007

16 2003

17 2003

18 2006

モジュール2No 発行年

19 1997

名称

熱帯有機農業概論

著者

名称 著者 発行所/出版社

国際食糧農業機関(FAO)web page

IFOAM&Fible

築地書館

発行所/出版社

http://www.fao.org/

日本有機農業協会編

蔦谷栄一

Wilter, Helga andMinou Yussefi

田中明編著

IFOAM

IFOAM

日本経済評論社

筑波書房

IFOAM著村山勝重、澤登早苗、鈴木敦監訳

IFOAM

Gunnar Rundgren

有機食品システムの国際的検証色の信頼構築の可能性を探る

EarthscanPublications

社団法人農山漁村文化協会

社団法人農山漁村文化協会

日本有機農業研究会

有機栽培の基礎知識

大山利男

http://www.ifoam.org/

Regenerating Agriculture

海外における有機農業の取り組み動向と実情

The World of Organic Agriculture. Statisticsand Emerging Trends 2006

有機農業ハンドブック土づくりから食べ方まで

IFOAM(国際有機農業連盟運動)web page

IFOAM(国際有機農業連盟運動)有機生産および加工のための規範

IFOAM Norms for organic production andprocessing, version 2005

Building Trust in organics - A guide to settingup organic certification programmes

Jules Pretty

西尾道徳

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モジュール3No 発行年

20 1980

21 1974

22 2005

23 2002

24 2002

25 2005

26 2001

27 2002

28 2004

29 2002

30 2006

31 1989

有機栽培の基礎と実際

名称 著者

小祝政明

熱帯土壌の土作りハンドブック

図解土壌の基礎知識

Agriculture in the Tropics

古賀綱行

Conny Almekinders

野菜

熱帯の主要果樹・野菜の病害虫・雑草防除ハンドブック

発行所/出版社

工藤晟他

伊東正

自家採取ハンドブック「たねとりくらぶ」を始めよう

作物遺伝資源の農民参加型管理-経済開発から人間開発へ

Management of Crop Genetic Diversity atCommunity Level

岩崎さんちの種子採り家庭菜園

翻訳 コニー・アルメキンダース著「コミュニティレベルにおける作物の遺伝的多様性管理」

自然農薬で防ぐ病気と害虫・家庭菜園・プロの手ほどき

社団法人農山漁村文化協会

岩崎政利

現代書館

社団法人農山漁村文化協会

五十嵐孝典

ミシェル・ファントン,ジュード・ファントン著自家採取ハンドブック出版委員会訳

Deutsche Gesellschaft furTechnische Zusammenarbeit(GTZ)

社団法人家の光協会

西川芳昭

Webster.C.

前田正男・松岡嘉郎

西川芳昭久留米大学産業経済研究会

実教出版株式会社

社団法人国際農林業協働協会

Longman Scientific &Techinical

社団法人農山漁村文化協会

社団法人農山漁村文化協会

社団法人国際農林業協働協会

Page 335: 技術協力コンテンツ -小規模農民グループ支援のた …...序文 小規模農民が圧倒的多数を占める途上国において、地域資源の有効活用、土づ

モジュール4No 発行年

32 1998

33 2001

34 2001

35 2001

36 1986

37 1986

38 1986

39 1986

40 1949

41 2007

42 2007

43 2004

44 2006

45 2000

46 -

47 -

48 -

49 -

50 2007

51 2006

52 -

英語文献、もしくは英語版が存在するもの

http://www.icarda.cgiar.org/Index.htm

社団法人全国有機農業改良普及協会

農村開発調査入門:Rapid Rural Appraisal の原理と手法

管野哲哉 自費出版

農林水産省消費・安全局

社団法人全国有機農業改良普及支援協会編

生活改良普及員に学ぶファシリテーターのあり方-戦後日本の経験からの教訓-

太田美帆

新普及活動シリーズNo.2普及活動の基礎理論と手法

Institutionalization of Farmer Participatory Research inSouthern Ethiopia, A Joint Learning Experience

Promoting Sustainable Extension Approaches: FarmerField School (FFS) and its role in sustainable agriculturalDevelopment in Africa

農業普及便覧

有機食品の検査認証制度について

有機農業の現状と課題農林水産省生産局農産振興課

農林水産省生産局農産振興課

国際協力と参加型評価

Farmer Field School (FFS): A Group Extension ProcessBased on Adult Non-Formal Education Method

K. D. Gallagher

http://www.farmerfieldschool.net/document_en/FFS_GUIDe.docより入手

社団法人全国有機農業改良普及支援協会

ICARDA (International Center for AgriculturalResearch in the Dry Areas) web page

新普及活動シリーズNo.4普及活動の基本

社団法人全国有機農業改良普及協会

社団法人全国有機農業改良普及協会

途上国における農業普及の実態と課題 鈴木俊 東京農大出版会

Lessons from using participatory action research toenhance farmer-led research and extension in SouthWestern Uganda

Chris Opondo, et al.http://www.africanhighlands.org/pdfs/wps/ahiwp_03.pdfより入手

Ejigu Jonfa, et al.http://www.iirr.org/PTD/Cases/Ejigu.htm#_ftn1より入手

農林水産省消費・安全局

新普及活動シリーズNo.3普及指導計画の策定

社団法人全国有機農業改良普及協会

社団法人全国有機農業改良普及協会

Agricultural Extension, The Kenya Experience, An impactEvaluation

Madhur Gautam The World Bank

http://www.codesria.org/Links/conferences/ifs/Asiabaka.pdf より入手

Chigozie Asiabaka

農林省

マーケティングから始めよう環境保全型農業の普及

国際協力事業団国際協力総合研修所

普及指導員のための道具箱(ヒント)-使い方はあなた次第-

社団法人全国有機農業改良普及支援協会編

社団法人全国有機農業改良普及支援協会

農林省農業改良局編

社団法人全国有機農業改良普及協会

開発学を学ぶ人のために 菊池京子編 世界思想社

円借款事業における貧困緩和への直接的インパクトに係る事後評価手法ハンドブック

国際協力銀行 国際協力銀行

ファーミング・システム研究理論と実践

社団法人全国有機農業改良普及協会

社団法人全国有機農業改良普及協会

国際協力事業団国際協力事業団国際協力総合研修所

名称 著者 発行所/出版社

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