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蛍光プローブを用いた
簡易植物葉水ポテンシャル測定システム
岩手大学 農学部 農学生命課程
准教授 松嶋 卯月
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研究背景 -農業と水(1)ー
2000年には全人口60億人中5億人が慢性的水不足の状態にあった.今後,2050年には全人口89億人中40億人が慢性的な水不足に悩む可能性がある1).
人口増加などにより,世界の水利用量は増加し続けている
579
1,382
3,973
5,325
世界の全取水量 km3/year
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研究背景 -農業と水(2)ー
全降雨量を100%として,地表を流れる水は56%,人
間が使える水はわずか8%である1).
部門別世界水利用
2000年
生活用水10%
工業用水21%
農業用水69%
そのなかで,農業用水が最も高い利用率を占める.
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研究背景 -植物と水ー
水利用効率が高いといわれるトウモロコシの場合,
1kgの穀粒を得るために,1,800Lの水を与
えている.
限られた水資源を有効利用するには,灌漑方法をより効率的に改良する,あるいは,水利用効率が高い作物を作出する必要がある.
その作業に欠かせない,植物の水要求度の指標が水ポテンシャルである.
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灌水区 水ストレス区
果実数(個/穂)
465±82
5±12
研究背景 -水ポテンシャル(1)ー
Boyerらは,灌水した区,十分灌水せずに水ストレスを与えた区,水ストレスをかけて果実に組織培養液を点滴した区の果実重を比較した2,3).
水ポテンシャル
-0.67MPa
水ポテンシャル
-1.64MPa
水ストレスにより,植物の水ポテンシャルが低下し,果実収量が下がる.
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研究背景 -水ポテンシャル(2)ー
一般的に水ポテンシャルは次式で表すことができる2).
Ψp:圧ポテンシャル(MPa) Ψs:浸透ポテンシャル(MPa)
Ψm:マトリックスポテンシャル(MPa)
Ψh:重力ポテンシャル(MPa)
hmspw ΨΨΨΨΨ
植物の場合,圧ポテンシャルは細胞の膨圧,浸透ポテンシャルは細胞の浸透圧,重力ポテンシャルは木の高さ(10mの木では-0.1MPa),マトリックスポテンシャルは水分子に働く張力となる2).
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新技術の基となる研究成果・技術
植物の葉切片が蛍光試薬を取り入れる程度を比較sることで水ポテンシャルの推定値が得られるのではないかとの仮定の下,蛍光試薬をプローブとして用い,対象葉切片の水ポテンシャルを推定する計測法の開発を行った.
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植物葉を蛍光プローブに
浸漬する様子
リーフディスク作成の様子
植物試料:トマト,インゲン
蛍光プローブ:フルオレセイン溶液
浸透圧調製剤: ポリエチレングリコール6000
葉1枚あたり8枚,直径5mmのリーフディスクを作成した.それぞれの葉片を - 0 . 1 M P aから -
0.8MPaまで-0.1MPa刻みで浸透ポテンシャルの異なる蛍光試薬溶液に1時間浸漬し,葉片の蛍光画像の輝度から試料の水ポテンシャルを推定した.
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フィルターとミラー(Edmond Optics)
励起フィルタ:472nm,FWHM30nm
蛍光フィルタ:520nm,FWHM10nm
ダイクロイックミラー:青
光源:ハロゲンランプ(MegaLight 100, Schott)
CCDカメラ:Grashopper (GRAS-14S5M, Point Gray
Research Inc.)
蛍光イメージング撮影装置
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蛍光プローブ浸漬前に小葉の水ポテンシャルを測定し,その水ポテンシャル測定値と蛍光プローブを用いた方法とで得られた同測定値を比較した.
植物体内水分測定器 (DIK-7002, 大起理化工業)
既往の方法による水ポテンシャル測定
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左:リーフディスクの蛍光
イメージング(例)
-0.6MPaと-0.7MPaの間で著しく明るさが異なった.
蛍光プローブの浸透ポテンシャルが低下すると,リーフディスクの輝度値も低下した.特定値を超えて浸透ポテンシャルが低下すると,輝度値は著しく低下しそれ以上変化せず,その値でリーフディスクの水ポテンシャルと蛍光プローブの浸透ポテンシャルが平衡に達すると考えられた.その浸透ポテンシャル値をリーフディスクの水ポテンシャルの推定値とした.
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蛍光プローブの明るさ変化から求めた水ポテンシャル推定値(-MPa)
プレッシャーチャンバ法で求めた
水ポテンシャル値
(-MPa
)
蛍光プローブで推定された水ポテンシャルとプレッシャーチャンバ法で得られた水ポテンシャルはよく一致した.
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従来技術とその問題点(1) -サイクロメータ-
方式:気密セルに一定温度で静置した植物葉から水が蒸発し,セル内の相対湿度が平衡に達したときの湿度をもとに,相対湿度と水ポテンシャルの関係式からサンプル葉の水ポテンシャルを算出する.
弱点: 温度ドリフトが生じやすく,誤差が大きい.
湿度が平衡に達するまで時間がかかる.
温度を一定にする必要があり野外での測定には不向きである.
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従来技術とその問題点(2) -アイソピエスティックサイクロメータ- 方式:一般的なサイクロメータがセル湿度の平衡点を求めるのに対し,サンプル葉をセルに入れることでショ糖溶液が蒸発し温度が変化することを利用し,濃度を変えたショ糖溶液を用いて,挟み撃ちによって平衡にたっするショ糖濃度を明らかにし,水ポテンシャルを測定する方法である.高い精度を誇る.
弱点: 湿度が平衡に達するまで時間がかかる.
熱的安定を担保するために装置が大きく,持ち運びには不向きである.
価格が非常に高い.
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従来技術とその問題点(3) -プレッシャーチャンバ-
方式:葉柄以外の植物葉を気密セルに密封しセル内にガスを封入し,試料葉に圧力をかける.葉柄の切り口から液体がにじみ出るガス圧は植物葉のマトリックスポテンシャルであるが,導管内の溶存物の濃度は薄く,水ポテンシャルの成分としての貢献度は低いため,一般的にその圧力を持って水ポテンシャルとする.
弱点: 気密セルにガスを供給するガスボンベが必要で,野外での測定には不向きである.
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蛍光プローブ法を用いた測定器の製品イメージ
(1)キット販売型 (2)装置販売型
持ち運びが容易なプローブキット(消耗品)と研究室常備の蛍光イメージング装置のセット販売.イメージング装置は一般的な技術で小型化,低価格化が可能である.
小型のイメージング装置内部で自動的で蛍光プローブの供給から,蛍光イメージングを行うことができる装置を開発する.
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新技術の特徴・従来技術との比較(1)
価格高い
精度良い
アイソピエスティック
サイクロメータ
サイクロメータ
プレッシャーチャンバ
蛍光プローブ法
蛍光プローブ法を用いることで,従来法と比べて,安い価格で比較的高精度の水ポテンシャル測定が可能となる.
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新技術の特徴・従来技術との比較(2)
持ち運びやすい
簡易である
アイソピエスティック
サイクロメータ
サイクロメータ
プレッシャーチャンバ
蛍光プローブ法
蛍光プローブ法を用いることで,従来法と比べて,持ち運びやすく,かつ,簡易な水ポテンシャル測定が可能となる.
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想定される用途
• 既往の方法では難しい野外における簡易な水ポテンシャル測定に用いられる.
• 材料費が抑えられるため,安い価格帯で提供でき,これまで水ポテンシャル測定を行わなかったユーザー層の広がりが予想される.
• また、本法の原理に着目すると,土壌等の水ポテンシャル測定にも展開することも可能と思われる.
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想定される業界
• 利用者・対象 農業関係の研究者(大学,研究所) 県農業普及所,意識の高い農家
• 市場規模 例えば,葉緑素計であるSPADに匹敵する規模をめざす. SPAD(コニカミノルタ) http://www.konicaminolta.jp/about/release/2009/1008_02_01.html
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実用化に向けた課題
• より植物試料に吸収されやすい蛍光試薬があると予想される.試薬が吸収されやすいと水ポテンシャル値の判定が容易になる.
• 現在は,リーフディスク全体を蛍光プローブに浸漬しているが,葉の一部に傷をつけ,その部分に限定的にプローブを供給するできれば,作業がより簡略になる.
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企業への期待
• より良い蛍光プローブの開発技術を持つ企業との共同研究を希望.
• 画像処理技術を持つ企業の技術協力を希望.
• 蛍光プローブを葉に供給する際の,電気・機械的機構を開発する技術を持つ企業との共同研究を希望.
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本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :水ポテンシャル測定方法及び水ポテンシャル測定装置
• 出願番号 :特願2011-092874
• 出願人 :岩手大学
• 発明者 :松嶋卯月,庄野浩資
引用文献
1)ロビン・クラーク:水の世界地図.第1版,丸善,2006
2)野波浩:植物水分生理学.第1版,養賢堂.2001
3)Boyer, M.G., Boyer, J.S. and Morgan, P.W.: Stem
infusion of liquid culture medium prevents
reproduction failure of maize at low water potentials.
Crop. Sci. 31, 1246-1252