南西ポーランドの世界遺産と...
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(11)(第3種郵便物認可) 2010年(平成22年)5月24日第1980号
南西ポーランドの世界遺産とショパンの足跡を訪ねて
Heart of Europeと呼ばれるポーランドは、文字通りヨーロッパの真ん中にあって、さまざまな歴史と文化が交錯してきた地。歴史に刻まれた建築や史跡、そして、まさに豊饒な文化の宝庫だと言えよう。なかでも南西ポーランドは豊かな自然と共に、そうした観光素材を数多く抱え、世界遺産も少なくない。さらにこのエリアでは、今年生誕200年を迎えたショパンの足跡に触れることもできる。ポーランド南西部の旅を、世界遺産の町でもあるヴロツワフからスタートしよう。
オドラ川沿いに広がるヴロツワフは、町のあちこちに約100本もの橋が架けられ、水上都市の趣も感じさせる。川に浮かぶ島に渡ったスラブ民族が6世紀に集落を作ったのがヴロツワフの始まりとされ、以降、シレジア地方の中心として繁栄。チェコ王国やオーストリア王国、プロイセン王国などの勢力下に属した。これによって東西のさまざまな文化の影響を受け、コスモポリタンな独特の文化を育むと共に、ポーランド王国の交易と金融の中心としても栄え、経済的にも重要な拠点だ。そんなヴロツワフの自慢のひとつが2006年に世界遺産に登録された「百年記念会館」。1910年代にナポレオンとの「ライプツィヒ
の戦い」100周年を記念し、マックス・ベルクの設計によって建てられた直径69m高さ42mの巨大なコンクリート製ドームだ。建設当時、世界最大のコンクリート建築として近代建築の先駆けとなった。約6000人収容のこのドームは、現役のイベント会場として今でも使われている。
ヴロツワフの北西、美しい自然が広がるルブシュ地方。ドイツとの国境に流れるヌィサ・ウージツカ川の両岸にまたがる格好で造営されているのが、ヨーロッパ最大の景観式庭園「ムジャクフ公園」だ。景観式庭園とは、自然の起伏をそのまま活かして設計された庭園で、幾何学的な人工美を追求した庭園の対極にあるもの。総面積は700ヘクタール、うち約7割がポーランド領内にある。 19世紀前半の貴族、ムスカウ侯爵が造営に着手したものの莫大な工事費用が必要なため、所有者が次々と変わり、結局完成までには30年もの歳月が費やされた。それだけに出来上がりはまるで絵画のように美しい。園
内には新旧2つの城や泥炭泉のスパ施設もある。1980年代にはドイツとポーランドが協力して公園をリニューアル。04年に世界遺産として登録された。
福音アウグスブルク派の貴重な教会があるヤヴォルとシフィドニツァ。ボヘミアのプロテスタント教徒たちの反乱に始まる30年戦争が終結した後、オーストリア皇帝がプロテスタント教徒たちに建築を許可したのがヤヴォルとシフィドニツァの教会だった。この時に許可された教会は実は3つあったが、そのひとつのグウォグフの教会は18世紀に焼失し現存していない。 皇帝から建築が許可されたとはいえ、厳しい条件が付いた。条件の一つは耐久性のある堅牢な建材は使わないこと。二つ目は市壁から教会までの距離が大砲の射程範囲内であること。こうした条件をクリアして、なおかつ信仰の場として相応しい建築とするため、さまざまな知恵が絞られた。結局、木材と藁や粘土を巧みに組み合わせ、半木造で石や鉄釘を使わない斬新な教会が作られることになり、そのユニークな建築構造と歴史的価値が認められ、ヤヴォルとシフィドニツァの教会
は2001年に世界遺産に登録された。 ヤヴォルの平和教会は、一見すると納屋のような外観で質素にすら感じられるが、建物に足を踏み入れると印象は一変する。内壁はバロック様式の内装が施され、その美しさは類を見ない。バルコニーの欄干にも143もの聖書画が描かれている。教会内部の建物を一周するバルコニーは天井近くまで4層にわたって設置されており、最大収容人数は6000人以上におよぶ。 シフィドニツァの平和教会は、木造建築としてはヨーロッパ最大級の収容人数を誇り、その収容力はなんと7000人。こちらも外観は地味だが、内装は豪華絢爛そのもの。壁や天井、欄干、階段の手すりなどに至るまで精緻な彫刻が施され、天井や壁にはヨハネの黙示録が美しく荘厳に描かれている。
ワルシャワとヴロツワフの間にあるアントニン。19世紀にポズナン大公国の総督を務めていた大貴族、アントニ・ヘンリク・ラジヴィウ公爵の別荘「狩りの館」が今に残る。芸術家のパトロンとしても知られていたラジヴィウ公爵は、ゲーテやベートーヴェンなど
当代一流の芸術家と親交を結ぶ一方、新たな才能の発掘にも積極的だった。そのひとりがショパン。才能を認められたショパンは、公爵に招かれアントニンの「狩りの館」に1週間滞在する。わずかな滞在であったにもかかわらず、ショパンは友人へ「まるで楽園にいるような心地」と手紙を書き送るほど、この滞在を楽しんだ。 「狩りの館」は現在、ホテルとして宿泊できる。ショパンが滞在したのは2階の客間。ショパンが味わった「楽園」を追体験してみてはいかがだろう。また1982年から毎年秋に開かれる「秋色のショパン」国際音楽祭も有名だ。
ヴロツワフ コスモポリタンな雰囲気を
ムジャクフ公園 ヨーロッパ最大の景観式庭園
ヤヴォルとシフィドニツァ 平和の祈りを込めた2つの教会
アントニンショパンが讃えた「楽園」を追体験
ショパンが16歳の春、1カ月ほど転地療養したのがチェコとの国境に程近い温泉リゾート、ドゥシニキ・ズドゥルイだ。「ズドゥルイ」は泉を意味するポーランド語。ショパンは療養の合間に「礼拝堂の丘」を歩いたとされている。標高511mの丘の上からは、ショパンも眺めたであろうドゥシニキの町と周囲の山々のパノラマが楽しめる。 この町で有名なのが毎年8月の「ドゥシニキ国際ショパン音楽祭」。2010年は第65回目を迎える。世界最大のショパン・フェスティバルとして知られ、世界各国から一流のピアニストが招かれる。ショパンが滞在中に演奏を行った「ショパン館」が現存し、音楽祭の期間中はリサイタルの会場としても使われる。またユニークな観光ポイントとして、ちかくのクドヴァ・ズドゥルイにある「骸骨礼拝堂」も訪れてみたい。1776年にチェコ人神父によって建てられたこの礼拝堂は、外観は普通
だが中に入ってびっくり。17世紀の30年戦争や18世紀の5年戦争やコレラ大流行の犠牲者たちなど3万人分以上の遺骨が納められている。そのうち3000人分の頭蓋骨は、礼拝堂の壁や天井にびっしり貼り付けられており、特別な雰囲気を漂わせている。
ドゥシニキ・ズドゥルイ世界最大のショパン・フェスティバルが開かれる温泉リゾート
14世紀頃から陶磁器の生産が始まったボレスワヴィェツ。かわいらしい絵柄が特徴の温かみのある素朴な陶磁器は日本でも人気を集めている。陶磁器の色づけは全てハンドメイド。町には工房があり、見学も可能だ。ポー
ランドのお土産としてお気に入りの陶磁器を探してみたい。
ボレスワヴィェツ温かみのある素朴な陶磁器をお土産に
アクセス ヴロツワフから列車で2時間弱。
アクセス ヴロツワフからバスで約2時間半。またプラハからも近い。
アクセス ポズナンから電車で2時間、ワルシャワからは約5時間。
アクセス ヴロツワフから車で約3時間。
アクセス ヴロツワフからそれぞれ車で40分。
アクセス 首都ワルシャワから列車や航空便で容易にアクセスできる。また空港にはフランクフルトからの直行便も飛んでおり、空路で直接ヴロツワフに入ることも可能。
5ショパンの足跡
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ショパンの足跡
世界遺産 ショパンの足跡
世界遺産
世界遺産
6お土産にいかが
ヴロツワフの市庁舎
シフィドニツァの平和教会
ショパンが滞在した「狩りの館」
ドゥシニキ・ズドゥルイのショパン館
ボレスワヴィェツで作られる陶磁器
世界遺産の百年記念会館
ヤヴォルの平和教会
ヴロツワフの旧市街
ポーランド政府観光局