大動脈ステントグラフト - 日本ivr学会サイト第38 回日本ivr...

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38 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:亀井誠二,他 1 . 画像評価(適応とサイジング) 愛知医科大学 放射線医学講座,血管外科 1) 亀井誠二,萩原真清,石口恒男,石橋宏之 1はじめに 腹部および胸部大動脈瘤に対するステントグラフト 治療(EVARTEVAR)は 1990 年初期から臨床応用され, この十数年で目覚ましい発展を遂げた 12。本邦では長 らく正式に認可されたステントグラフトがなく,自作 で対応せざるを得ず,施行可能な施設は限られていた。 近年,腹部,胸部のステントグラフトが相次いで市販 され,本邦でも本格的なステントグラフト治療の幕開 けとなった。 ステントグラフト内挿術は低侵襲で安全性の高い治 療とされているが,適応の決定やデバイスの選択を誤 ると致命的な合併症に結びつくことがあり,ステント グラフト内挿術において適応とサイジングは最重要ポ イントであるといっても過言ではない。 本稿では腹部および胸部大動脈瘤に対するステント グラフト治療に必要な画像評価(適応とサイジング)に ついて,コツとピットフォールを含めて概説する。 腹部大動脈瘤 2010 7 月現在,Zenith Cook),Excluder Gore), 大動脈ステントグラフト ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 38 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ Powerlink Endologix)の 3 種類のステントグラフトが認 可されている (図 1) Zenith はメインボディと左右腸骨 動脈レッグからなる 3 ピース構造で,サイズバリエー ションが豊富で,腸骨動脈が短く拡張傾向のある日本 人でも適応可能なサイズが多い。Excluder 2 ピース 構造で,展開が容易で,デリバリーシステムが 18 F 細径のためアクセスルートが細い症例にも対応可能で ある。Powerlink 1 ピース構造で留置方法が他のも のと大きく異なるが,terminal aorta が細い症例にも 留置可能である。 1.術前検査 術前の画像診断には造影 CT (造影剤注入速度 2.5 / 秒以上)を用いる。胸部大動脈から大腿動脈を含めて スキャンし,3 ㎜以下のスライス厚で再構成を行う。 ボリュームレンダリングによる三次元画像再構成(3D 像)は必須である。 ガイドワイヤーが遠位弓部まで挿入されるため,胸 部大動脈の shaggy aorta の有無を含めた評価が必要で ある。また,Zenith の場合,トップキャップ先端が下 行大動脈に達するため,下行大動脈に強い屈曲のない 33361 a b c 図 1 腹部大動脈瘤用ステントグラフト a : Zenith Cookb : Excluder Gorec : Powerlink Endologix

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第 38回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:亀井誠二,他

1 . 画像評価(適応とサイジング)愛知医科大学 放射線医学講座,血管外科1)

亀井誠二,萩原真清,石口恒男,石橋宏之1)

はじめに

 腹部および胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療(EVAR,TEVAR)は1990年初期から臨床応用され,この十数年で目覚ましい発展を遂げた1,2)。本邦では長らく正式に認可されたステントグラフトがなく,自作で対応せざるを得ず,施行可能な施設は限られていた。近年,腹部,胸部のステントグラフトが相次いで市販され,本邦でも本格的なステントグラフト治療の幕開けとなった。 ステントグラフト内挿術は低侵襲で安全性の高い治療とされているが,適応の決定やデバイスの選択を誤ると致命的な合併症に結びつくことがあり,ステントグラフト内挿術において適応とサイジングは最重要ポイントであるといっても過言ではない。 本稿では腹部および胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療に必要な画像評価(適応とサイジング)について,コツとピットフォールを含めて概説する。

腹部大動脈瘤

 2010年7月現在,Zenith(Cook),Excluder(Gore),

大動脈ステントグラフト‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第38回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

Powerlink(Endologix)の3種類のステントグラフトが認可されている(図1)。Zenithはメインボディと左右腸骨動脈レッグからなる3ピース構造で,サイズバリエーションが豊富で,腸骨動脈が短く拡張傾向のある日本人でも適応可能なサイズが多い。Excluderは2ピース構造で,展開が容易で,デリバリーシステムが18Fと細径のためアクセスルートが細い症例にも対応可能である。Powerlinkは 1ピース構造で留置方法が他のものと大きく異なるが,terminal aortaが細い症例にも留置可能である。

1.術前検査 術前の画像診断には造影CT(造影剤注入速度2.5㎖/秒以上)を用いる。胸部大動脈から大腿動脈を含めてスキャンし,3㎜以下のスライス厚で再構成を行う。ボリュームレンダリングによる三次元画像再構成(3D像)は必須である。 ガイドワイヤーが遠位弓部まで挿入されるため,胸部大動脈のshaggy aortaの有無を含めた評価が必要である。また,Zenithの場合,トップキャップ先端が下行大動脈に達するため,下行大動脈に強い屈曲のない

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a b c図1 腹部大動脈瘤用ステントグラフトa : Zenith(Cook)b : Excluder(Gore)c : Powerlink(Endologix)

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ことを確認しておく必要がある。 評価にはMPR(multiplanar reconstruction)上での計測が可能なソフトウェアの使用が望ましい。さらに,curved planar reconstruction(CPR)の可能なワークステーションを用いると計測が容易である。

2.適応とサイジング 腹部大動脈瘤は,一般的に最大短径50㎜以上,または1年に10㎜以上拡大する症例が破裂のリスクが高く治療適応とされている3)。ステントグラフトの保険適応は「外科手術が第一選択とならない症例」とされており,合併疾患,年齢,腹部手術の既往,患者の希望などを含めて総合的に判断される。 解剖学的適応については,最初に3D像やMPR像で3次元的に全体像を把握し,おおよそのステントグラフトの適否,使用する機種,メインボディのアクセス

サイドを決定する。次に左右腎動脈,内腸骨動脈の分岐レベルを確認し,近位ネック,遠位ネック,アクセスルートなどの径や長さを正確に計測する。ステントグラフトのサイズは実際の血管径よりも大きなものを使用するため,各メーカーが用意しているワークシートに書き込みながら行うとよい。1)近位ネック(表1)(図2) 径,長さ,血栓・石灰化・血管内壁の状態,瘤と近位ネックの角度の評価を行う。Zenithでは,腎動脈上方の大動脈と近位ネックの角度の計測も必要となる。a)径の評価 Zenithは外径,ExcluderおよびPowerlinkは内径で計測する。Excluderは血栓は含めるが石灰化は含めず,Powerlinkは血栓・石灰化とも含めて計測する点にも注意が必要である。機種により異なるが18~32㎜が適応となる。 具体的には低位の腎動脈が左右どちらかを確認し,低位腎動脈の直下および15㎜尾側で大動脈径をそれぞれ計測する。楕円状の場合は短径を計測する。屈曲が強い場合はMPRを用いた計測が望ましい。ZenithおよびExcluderでは,尾側が太い逆漏斗型は不適当とされている。b)長さの評価 いずれも15㎜以上必要とされている。c)血栓・石灰化・血管内壁の状態 高度なものが存在しないことが条件となる。d)瘤と近位ネックの角度の評価 瘤の長軸および近位ネックの角度が60°以下または未満であることが条件となる。Zenithの場合,腎動脈上の大動脈と近位ネックの角度が45°以下であることも条件として加わる。2)遠位ネック(腸骨動脈のランディングゾーン)(表2) 径,長さ,血栓・石灰化・血管内壁の状態の評価を行う。a)径の評価 近位ネックと同様にZenithは外径,ExcluderとPow-erlinkは内径で計測する。機種により異なるが 7.5~

図2 腹部大動脈瘤の解剖学的適応条件 OD : outer diameter, ID : inner diameter

Zenith Excluder Powerlink

近位ネック径

18~32㎜(外径)

逆漏斗型は不適(10%以上の径の変化)

19~26㎜(内径:血栓は含む)

逆漏斗型は不適(2㎜以上の径の変化)

18~26㎜(内径:血栓・石灰化を含む)

近位ネック長 15㎜以上 15㎜以上 15㎜以上

壁の性状(石灰化・血栓等) 極度のものは存在しない 顕著なものが存在しない 過大な血栓が存在しない

瘤とネックの角度 60°未満 60°以下 60°以下

その他 腎動脈上方の大動脈との角度が45°未満

表1 腹部大動脈ステントグラフトにおける近位ネックの適応基準

≧15mm以上高度の石灰化・血栓がないZenith, Excluder: 逆漏斗型は不適当

Zenith: 18-32mm (OD)Excluder: 19-26mm (ID)Powerlink: 18-26mm (ID)

Zenith: 7.5-20mm (OD)Excluder: 8-18.5mm (ID)Powerlink: 10-18mm (ID)

Zenith: ≧7.5mm(ID)Excluder: ≧6.8mm (ID)Powerlink: ≧7mm (ID)

Zenith: ≧10mm(推奨: ≧ 20mm)Excluder: ≧10mm(推奨: ≧30mm)Powerlink: ≧15mm

Zenith: ≧16mm (ID)Excluder: ≧18mm (ID)Powerlink: ≧12mm (ID)60°≧

Zenith: 45°≧

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20㎜が適応となる。血栓や石灰化の扱いは近位ネックと同様である。b)長さの評価 ZenithとExcluderは最低10㎜とされているが,Zenithは20㎜以上,Excluderは30㎜以上が推奨されている。またPowerlinkは15㎜以上とされているが構造上総腸骨動脈が長い症例に限定される。c)血栓・石灰化・血管内壁の状態 近位ネックと同様,高度なものが存在しないことが条件となる。 総腸骨動脈が短い症例,瘤状に拡張した症例など,これらの条件を満たさない場合は,内腸骨動脈のコイル塞栓術を行い,外腸骨動脈までレッグを留置することで適応の拡大が可能である。一般に,腸管虚血を防止するため,原則として一方の内腸骨動脈は温存することが推奨される。3)アクセスルート(大腿動脈および外腸骨動脈) 径,屈曲の程度,血栓・石灰化の状態の評価が必要で,近位ネックや瘤の形態などと併せ総合的にメイン

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ボディのアクセスサイドを決定する。a)動脈径の評価(図3,4) いずれの機種も外腸骨動脈の内径を計測する。Zenithでは7.1~8.5㎜以上,Excluderでは6.8㎜以上,Power-linkでは7.0㎜以上必要とされる。実際には,メインボディ挿入側と対側レッグ挿入側,近位および遠位のネックの径によってデリバリーシステムの太さが異なり,上記より細い場合でも挿入可能なこともあるが,屈曲・蛇行,石灰化や血栓の状態などを含め総合的に判断する必要がある。 Zenithの場合,近位ネック径が29㎜以上の場合メインボディのデリバリーシステムは22 F(内径),23㎜以上の場合は20 F(内径),22㎜以下の場合は18 F(内径)となる。対側レッグは,遠位ネックの径15㎜以下が14 F(内径),16㎜以上が16 F(内径)となる。 Excluderは唯一シースを留置してデバイスを挿入する。メインボディ用シースは近位ネックの径に関係なく18F(内径)である。対側レッグ用シースは,遠位ネック径が13.5㎜未満の場合12F(内径)で4.7㎜以上とさ

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近位ネック径 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32(mm)

Excluder 18F (ID) 6.8mm

Powerlink 21F (OD) 7.0mm

Zenith 20F (ID) 7.5mm18F (ID) 7.5mm 22F (ID) 8.5mm

遠位ネック径 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (mm)

Zenith 16F (ID) 6.0mm14F (ID) 5.3mm

12F (ID) 4.7mmExcluder 18F (ID) 6.8mm

Powerlink 9F (OD) 7.0mm 17F (OD) 7.0mm

図4 適合する遠位ネック径とレッグのサイズ OD : outer diameter,ID : inner diameter

図3 適合する近位ネック径とメインボディのサイズ

OD : outer diameter, ID : inner diameter

Zenith Excluder Powerlink

遠位ネック径 7.5~20㎜(外径)

8~18.5㎜(内径:血栓は含む)

10~18㎜(内径:血栓・石灰化を含む)

遠位ネック長 10㎜以上(20㎜以上推奨)

10㎜以上(30㎜以上推奨) 15㎜以上

壁の性状(石灰化・血栓等) 極度のものは適応外 顕著なものが存在しない

(2㎜または25%以上) 過大なものが存在しない

大動脈分岐の径(Terminal aorta) 16㎜以上を推奨 18㎜以上 12㎜以上

低位腎動脈からの長さ

88㎜以上(大動脈分岐まで)

120㎜以上(内腸骨動脈分岐まで)

90㎜以上(大動脈分岐まで)

表2 腹部大動脈ステントグラフトにおける遠位ネック(腸骨動脈),その他の適応基準

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れているが,遠位ネックが13.5㎜以上の場合はメインボディと同じ18 F(内径)となる。 Powerlinkも近位ネックの径に関係なくメインボディは21 F(外径),対側レッグは遠位ネック径が14㎜未満の場合9 F(外径),14㎜以上の場合は17F(外径)となる。 外腸骨動脈が細い場合,限局性の狭窄であれば,バルーン拡張(PTA)によって施行可能な場合がある。デリバリーシステムの挿入の可否を判断しにくい場合は,同じ太さのイントロデューサーを用意しておき,試験的に挿入して判断するのも1つの方法である。b)屈曲,血栓・石灰化の評価 腸骨動脈に高度屈曲(90°以上)や高度血栓・石灰化がみられる場合,デリバリーシステムの挿入が困難であったり,末梢塞栓のリスクがあるため,メインボディは屈曲や血栓・石灰化が軽度なサイドからの挿入が望まれる。屈曲が問題となる場合,スティフワイヤーを挿入した段階で血管が伸展することを確認するとよい。c)近位ネック,瘤の形状によるアクセスルートの選択 近位ネックが左または右に傾いている場合,Zenithでは傾きと対側,すなわちデバイスが直線的になるサイドからメインボディを挿入したほうが正確な留置が行いやすい。Excluderの場合は,同側,すなわちC字状になるサイドからメインボディを挿入すると近位ネックへの適合が良好とされている。4)その他(表2) 低位腎動脈から大動脈分岐までの長さは,Zenithでは88㎜以上,Powerlinkは90㎜以上必要である。Ex-cluderでは,低位腎動脈から腸骨動脈分岐部までの長さが120㎜以上必要となる。 ワークステーション上で血管長軸に沿った断面を再構成して表示するcurved planar reconstruction(CPR)を用いると,屈曲・蛇行の強い症例においても腎動脈分岐部−大動脈分岐部−腸骨動脈分岐部の距離,およ

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び血管径を正確に計測することが可能である(図5)。一方,スティフワイヤーを挿入すると血管がある程度直線化し,ステントグラフトも直線的に留置されることが多い点を考慮する必要がある。実際には,腎動脈から大動脈分岐部までの長さは,横断像のテーブル位置から直線的に算出しても大きな問題はない。 腸骨動脈の長さは,横断像を用いる場合は,上下方向と横方向の距離から三平方の定理を用いて推定算出するが,可能であればワークステーションでCPRを用いて計測することが望ましい。実際の留置に際しては,マーカーの付いたカテーテルを挿入して造影を行い,レッグの長さを最終的に決定する。特に蛇行の強い症例では術前計測と異なることがあるので,前後の長さの予備デバイスを用意しておく必要がある。 また大動脈分岐部直上(ターミナルアオルタ)の径が細い場合,レッグが十分拡張しない場合があるため,Zenithは 16㎜,Excluderは 18㎜,Powerlinkは 12㎜以上の径が必要とされる。

胸部大動脈瘤

 2010年2月現在,TAG(Gore)およびTalent(Medtronic)の2種類のステントグラフトが認可されている(図6)。TAGは留置手技が簡便で,比較的長い病変の治療に適している。一方Talentは正確な留置が可能であること,屈曲部への追従性の良いことが特長である。

1.術前検査 術前の画像診断は腹部と同様,造影CT(造影剤注入速度は3~4㎖/秒以上)を用いる。大動脈弓部の上部約5㎝から,アクセスルートの評価を含めて大腿動脈まで撮影する。左鎖骨下動脈をカバーする留置や,左総頸動脈,鎖骨下動脈のバイパス再建(debranching)が想定される場合は,頸動脈,椎骨動脈,Willis輪を

a b c

図5 Curved planar reconstruction(CPR)を用いた計測a : 正面像(腎動脈分岐部(矢印)を示す)

b : 側面像c : 斜位像(右腸骨動脈分岐部(矢印)を示す)

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含めた頭蓋内動脈の評価も必要のため,頭部を含めた撮影,または別途MRAによる評価を行う。

2.適応とサイジング 胸部大動脈瘤は,一般的に最大短径60㎜以上,または1年に10㎜以上拡大するもの,最大短径50㎜以上で有症状のものが治療適応とされている3)。腹部と異なりステントグラフトの保険適応の制約はない。 解剖学的適応は,まず3D像やMPRで3次元的に全体像を把握し,次に近位・遠位ネック,アクセスルートについて評価する。計測部位は腹部よりシンプルであるが,弓部分枝に近い遠位弓部瘤の場合,下行大動脈瘤に比べ術前評価,留置手技ともに難易度が高いことを認識すべきである。1)近位・遠位ネック 径,長さ,血栓・石灰化・血管壁の状態の評価が必要である。また瘤が弓部におよぶ場合は屈曲を考慮した詳細な評価が必要となる。

a)径の評価 TAGは内径23~37㎜,Talentは内径18~42㎜が適応となる。b)長さの評価 いずれの機種も,近位は左鎖骨下動脈または左総頸動脈の末梢に,遠位は腹腔動脈より中枢側に20㎜以上のネックが必要である。c)血栓・石灰化の状態 腹部と同様,高度なものが存在しないことが条件となる。d)大動脈弓部の評価 弓部の形状や瘤の形状など特に詳細な評価が必要である。ネックの径,長さの評価は横断像のみでは不可能で,MPRでの計測が不可欠である。大弯側でネック長が20㎜以上あっても,小弯側では20㎜未満のことも少なくない。ネックの短い症例では,予め腕頭動脈から左総頸動脈,鎖骨下動脈に人工血管バイパスを作成し(debranching),腕頭動脈の分岐直後からステントグラフトを留置するハイブリッド手術を行うこと

TAG Talent

ネック径 23~37㎜(内径)

18~42㎜(内径)

ネック長 20㎜以上 20㎜以上

壁の性状(石灰化・血栓等) 極度のものは存在しない 顕著なものが存在しない

アクセルルート

ネック径23~26㎜26~29㎜29~37㎜

太さ20F(内径)7.6㎜22F(内径)8.3㎜24F(内径)9.2㎜

ネック径18~29㎜29~36㎜37~42㎜

太さ22F(外径)7.5㎜24F(外径)8.2㎜25F(外径)8.5㎜

表3 胸部大動脈ステントグラフトの適応基準

a b図6 胸部大動脈瘤用ステントグラフトa : TAG(Gore)b : Talent(Medtronic)

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がある。 弓部のカーブが急峻な場合,TAGは近位端の小弯側の密着が不十分となりendoleakを生じることがある。またTalentではシースとプッシャーの摩擦抵抗が強く展開が困難なことがある。 また瘤が頭側に突出する場合,デリバリーシステムを進める際に瘤壁と干渉しないよう硬質のガイドワイヤーを選択し,展開後にステントグラフトが瘤内に入りこむ可能性を考慮したデバイス長の選択が必要である。2)アクセスルート(大腿動脈および外腸骨動脈) TAGは腹部のExcluderと同様,シースを留置してデバイスを挿入する。ネック血管径が23~26㎜の場合,シースは20 F(内径)でアクセス動脈径は7.6㎜,26~29㎜の場合シースは22 F(内径)で動脈径8.3㎜,29~37㎜の場合シースは24F(内径)で動脈径9.2㎜必要となる。 Talentはステントグラフトとデリバリーシステムが一体となっている。ネック血管径が18~29㎜の場合,デリバリーシステムは 22 F(外径)でアクセス動脈径は7.5㎜,30~36㎜の場合24F(外径)で動脈径8.2㎜,37~42㎜の場合25F(外径)で動脈径8.5㎜必要となる。 症例によっては外腸骨動脈が細く,上記の条件を満たさないことがまれではない。その場合は,総腸骨動脈または腹部大動脈に径10㎜程度の人工血管を吻合し,アクセスルートとする。3)その他 ステントグラフトの長さは,TAGでは10㎝,15㎝,

20㎝のバリエーションがあり,長区間の病変にも対応しやすい。Talentの場合,現時点では11~12㎝の製品に限られ,複数本必要となることが多い。 複数のステントグラフトが必要となるのは,長い病変,および近位と遠位のネック径が3~4㎜以上異なる場合である。その場合,ネック径からデバイスの径を選択し,留置範囲の長さとデバイス同士のオーバーラップ長を考慮してデバイスの長さを決める。同じ径のものを複数本留置する場合,TAGは末梢から留置し,5㎝以上のオーバラップが必要である。Talentでは中枢側から留置し,オーバーラップは3㎝以上となる。異なる径のものを留置する場合はTAG,Talentともに径の小さい順に留置し,3㎝以上のオーバラップをとる。重ねるグラフトは,TAGは1~2サイズ異なるものまで,Talentの場合は4㎜大きなサイズとされている。

【参考文献】1) Parodi JC, Palmaz JC, Barone HD : Transfemoral

intraluminal graft implantation for abdominal aortic aneurysms. Ann Vasc Surg 5 : 491 - 499, 1991.

2) Dake MD, Miller DC, Semba CP, et al : Transluminal placement of endovascular stent-grafts for the treat-ment of descending thoracic aortic aneurysms. N Eng J MED 331 : 1729 - 1734, 1994.

3) 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年度改訂版).Circ J 70, Suppl Ⅳ : 1569 - 1677,2006.

技術教育セミナー / 大動脈ステントグラフト

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第 38回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:加藤憲幸

2 . 胸部大動脈瘤のステントグラフト(TAG,Talent)―デバイスの特徴,手技,工夫,合併症など―

三重大学医学部附属病院 放射線診断科加藤憲幸

はじめに

 本邦における胸部大動脈瘤に対する血管内治療(Tho-racic Endovascular Aneurysm Repair,以下TEVARと略す)は,過去10数年にわたって自作のデバイスを用いて行われてきた。このため,TEVARが施行できる施設はきわめて限られていた。しかし,TAG(Gore)が平成20年に,Talent(Medtronic)が平成21年に厚生労働省の承認を得た。さらにこの二者にやや遅れて,TX2(Cook)が間もなく承認される見通しとなっている。本邦でもステントグラフト実施基準管理委員会が定めた基準を満たす施設であればどこでもTEVARが行えるようになり,胸部大動脈瘤の治療水準がようやく諸外国の水準に追いついてきた。TEVARで使用されるデバイスの骨格は直管が基本となっているため,腹部大動脈瘤の血管内治療(Endovascular Aneurysm Repair,以下EVARと略す)に比べ単純かつ容易に考えられがちである。しかし,TEVARにはEVARと異なった難しさがあり,また,それぞれのデバイスに特有の難しさがある。また,生じうる合併症は,後遺症の残るような重篤なものが多い。本稿では,現在TEVARで使用される2種類のデバイスの特徴,手技を含む基本的な知識と,問題が生じた場合のトラブル・シューティングについて解説する。

大動脈ステントグラフト‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第38回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

TAG(Gore)

特 徴 本邦で最初に承認された,胸部大動脈瘤治療用デバイスである。構造は,Gore社製のEVAR用デバイス,Excluderと基本的に同様である(図1)。すなわち,nitinol製のステントとexpanded polytetrafluoroethyleneの組み合わせからできている。個々のステントの長さはわずか数㎜と短いため,全体として長軸方向における滑らかな湾曲の形成が可能である。しかし,両端の約3㎝は,頸部での確実なシーリングを得るために最外層にさらに薄いグラフトが装着してあることもあって,まったく曲がらない(図2)。このため,屈曲の強い留置部位に留置された場合,デバイスが大動脈の小弯側に密着せずに浮いてしまう現象−「bird beak」−が生じ(図3),Ⅰ型エンドリークをきたす可能性がある。 デバイスの径は26㎜から40㎜の6種類,長さは径によって異なるが10㎝から20㎝までで,両端に鋸歯状のフレアが付いている。デバイスの選択は,大動脈径の2㎜から6㎜増し,6%から18%増しのオーバーサイジングが推奨されている。2個以上を使用する場合,径の違いは2段階まで,すなわち径31㎜のデバイスを使用する場合,組み合わせて使用できるデバイスは径26㎜から37㎜までとなる。TAGの展開は,デバイスを収納しているスリーブを固定している糸を引き抜くことに

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図1 TAG GORE TAG Training programより引用

図2 TAGの両端3㎝は曲がらない

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第 38回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:加藤憲幸

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技術教育セミナー / 大動脈ステントグラフト

よって行われる仕組みになっている。すなわち,スリーブ装着部の反対側が広がるかたちで展開される。このため,極端なオーバーサイジングを行うと,デバイスが広がりきらず,皺を形成した状態で留置されてしまうことがある−「infolding」−(図4)ため,注意が必要である。 TAGを使用する際に留意するべき点は,デリバリー・カテーテルの先端に付いているオリーブと固定されているデバイスの間に隙間があることである(図5)。デリバリー・カテーテルを直線部ですすめる場合には問題はないが,屈曲部ですすめる場合,この隙間が開大して大弯側の大動脈壁を擦り,遠位塞栓をきたす可能性がある。 TAGには,デリバリー・カテーテル先端にデバイスが装着されているため,この部分に凹凸がある。このため,動脈内へ挿入する前にシースを挿入する必要がある。このシースがEVAR用に比べてかなり太く,これがこのデバイスを使用する上で障碍となることがある。

手 技 上述のように,TAGの場合,まずシースを挿入する必要がある。シース全体が動脈内に入ると,シース先端はほぼ横隔膜のレベルに位置することになる。しかし,腸骨動脈の径が十分でなく,腹部大動脈まですすめられないことが少なからずある。この場合,後腹膜腔からアプローチして総腸骨動脈から挿入する,腹部正中からアプローチして腹部大動脈から挿入する,あるいは腹部大動脈に吻合した人工血管から挿入する,といった方法がある。また,弓部分枝に対するバイパス術を同時に行う症例であれば,弓部分枝,あるいはバイパスに使用する人工血管からアクセスすることも可能である。 また,総腸骨動脈に十分な径がある症例では,シース先端が総腸骨動脈に達したところでシース挿入をとどめ,総腸骨動脈より頭側はデリバリー・カテーテルのみですすめることで,外腸骨動脈に対する損傷を最低限におさえることが可能である。 シース挿入後は,デリバリー・カテーテルを挿入するわけであるが,挿入時にカテーテルの軸方向の向きを決めておかなければならない。原則としてTAGは,デバイスを固定しているスリーブが残る側が留置部位の大弯側に一致するように留置する。このスリーブは展開用ノブの側と反対方向になっているため,カテーテル挿入時に,展開用ノブが留置部位の小弯側に向いていることを確認しておく。挿入後は,デバイスが留置部位に到達するまでカテーテルをすすめるが,Excluder同様,いったん予定部位よりやや近位側まですすめる。その後に予定部位まで引き戻して,デバイスの位置を決定する。これはカテーテルにかかっている,近位方向への力を解放するためである。2個以上のデバイスを使用する際には,当然であるが,径の小さいものから留置する。デバイス同士のオーバーラップは,径が異なる場合は3㎝,径が同じ場合は5㎝以上必要とされている。デバイスの展開時に注意すべき点は,シー図3 Bird beak

図4 Infolding 図5 Oliveとデバイスの間の隙間 GORE TAG Training programより引用

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スが十分後退しているかを確認することである。後退が不十分で,デバイスの一部をシース内に展開してしまった場合, 「wind sock」効果のためデバイス全体が遠位側へ移動してしまう危険性がある。 すべてのデバイスを展開した後は,バルーン・カテーテルを用いた圧着を行うことが推奨されている。バルーン・カテーテルは,通常のバルーンを用いても問題ないが,この場合,バルーンの移動防止のため血圧のコントロールを行ったほうが安全である。一方,Gore社製のTri-lobeを使用した場合,大動脈の血流を遮断することにはならないため,血圧のコントロールは不要となる。

工 夫①TAGは,留置部位の大弯に沿わせるかたちで留置するように推奨されている。TEVARで使用される,Lunderquistを含む硬いガイドワイヤーをそのままの状態で使用すると,デリバリー・カテーテルは小弯側に位置してしまう。この状態で展開すると,図6のように展開時にデバイス全体が大弯側に移動し,留置位置が想定した位置とずれてしまう。これを避けるためには,まず,硬いワイヤーに強い湾曲を作成しておくことで,デリバリー・カテーテルを大弯側に近づけることが可能となる。さらに,シース内に挿入する前に,デリバリー・カテーテルに装着されたデバイスにも湾曲を作成しておくことで,大弯側へのより確実な密着を図ることができる。②留置部位に著しい壁在血栓を伴った,いわゆるshaggy

aortaは本来適応外となっている。しかし,実際の臨

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床の現場では,このような症例を治療せざるを得ない場合に少なからず遭遇する。こういった症例においてもっとも危惧されるのは遠位塞栓である。このような症例では,TAG用シースに代えてCook社製のKTIシースを留置部位の近位部まですすめておくことで,危険を防止することが可能である。ただし,KTIはそのままでは長すぎるため,加工しておかなければならない。③EVAR時と同様,視差には十分留意する必要がある。とくに,留置部位が弓部分枝,あるいは腹部分枝に近い場合,留置位置のわずかなずれが重大な結果を招く可能性がある。これを避けるためには,術前のVR像を十分検討し,X線透視の方向が留置部位に対して垂直となる方向,角度を前もって想定しておく必要がある。

トラブル・シューティング① Infolding/Collapse:上述したように,過大なオーバーサイジングを行うと,デバイスが開ききらない現象−「infolding」−が生じる。また,留置部位の屈曲が強い症例では,「bird beak」の発生によってデバイスの「collapse」をきたすこともある。これらの現象が生じた場合,まずバルーンによる圧着を試みる。圧着によってデバイスが拡張すれば,infoldingの症例であれば問題は解決することになる。しかし,「bird beak」に伴う「collapse」の症例では,たとえバルーンでデバイスが拡張しても,再度「collapse」をきたす可能性が高い。これを防ぐには他のデバイスで内側からTAGを支えるしかない。留置部位の

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a)小弯側に位置すると… b)大弯側に位置すると…

図6 デリバリー・カテーテルが小弯側に位置すると… GORE TAG Training programより引用

a)KTIを適切な長さに切断する。 b)シースとバルブを結合する。

図7 KTIシースの使用

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径が30㎜以下であれば,XL Palmazで対応可能である。しかし,30㎜をこえる場合は,Talent,あるいは自作デバイスで使用されるZステントを使用せざるを得ない。

Talent(Medtronic)

特 徴 nitinolとpolyesterの組み合わせでできている。構造は,Zステントを使用した自作のものにきわめて近く,長さ2㎝長,5ベンドのステントを基本骨格とし,全長にわたる1本のspineがデバイス長軸方向の一側に取り付けられている(図8)。proximal bodyとdistal bodyの形状は若干異なり,前者では上端にベア・ステントが付いているのに対して,後者ではベア・ステントの代わりに鋸歯状のフレアが付いている。デバイスの径は,22㎜から46㎜まで2㎜間隔でライン・アップされ,TAGに比べ種類が豊富である。オーバーサイジングは一律に4㎜となっている。2個以上のデバイスを使用する際は,あとから留置するデバイスの接合部における径は,先に留置されているデバイスより2サイズ大きなもの,すなわち4㎜大きい径のデバイスを選択する。デバイスの長さはproximal body,distal body共に,12㎝弱で,オーバーラップに必要な約5㎝を考慮すると,対応可能な瘤の長さは18㎝弱ということになる。また,屈曲への追従性はTAGと同程度であるものの,後述するようにデリバリー・カテーテルの問題で,屈曲部への留置が困難となる場合もある。 デリバリー・システムは自作のものと同様で,シース内に収納してあるデバイスを,プッシャーを固定した状態でシースを後退させることで展開する方式である。デバイス長が 12㎝弱あるため,上端の展開が始まっても他の部分はシース内に収納されており,血流

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Proximal body Distal body

spine

図8 Talent Talent Training programより引用

図9 Talentの「おじぎ」 Talent Training programより引用

による遠位への移動がないため,心停止,降圧は基本的に不要とされている。 デバイスの特徴として,長軸方向の一側に1本のspineが取り付けられているため,展開の最初に spineの反対側が遠位方向に「おじぎ」する現象が起こる(図9)。この状態では,近位端が大動脈に鋭角を持って接することになり,エンドリーク等の有害事象につながる可能性がある。このため,展開は,最終的な留置位置より近位から始め,近位端が遠位方向に傾いて展開され始めたところでデリバリー・システムごと遠位に後退させる必要がある。 すでに1990年代からEU諸国で使用されてきており,信頼性のあるデバイスである。一方,基本設計自体はきわめて古いため,後発のデバイスに比べやや使い勝手が悪いのも事実である。

手 技 留置方法は,preloading方式の自作デバイスの方法と同様である。デバイスが収納してあるデリバリー・カテーテルを挿入し,留置予定部位でプッシャーを固定しながらシースを後退させることでデバイスが展開される。ただし,プッシャー先端にデバイス遠位端がはまり込んでいるため,シースを後退しただけでは遠位端は展開しない。このため,最後にプッシャーを後退させる必要がある。留置後は,TAG同様バルーン・カテーテルで圧着を行うことが推奨されている。

工 夫①distal bodyには4㎜のテーパーがあるため,使い方によって全体として最大12㎜までのテーパーを作ることができるため,近位部と遠位部で著しい径の差があるような慢性大動脈解離では役に立つ。

a b

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トラブル・シューティング①このデバイスの最大の弱点は,デリバリー・カテーテルが屈曲に弱い点である。屈曲の強い部分にデリバリー・カテーテルが挿入されると,デバイス収納部のシースにkinkが発生する(図10)。このkinkがデバイスに引っかかってしまうと,シースの後退は一切不可能となる。これを予防するためには,TAGとは逆になるべくデリバリー・カテーテルが曲がらないように注意しなければならない。また,実際にkinkで引っかかってしまった場合,システム全体を一度下行大動脈の直線部まで戻し,シース先端を少し後退させてからシステム全体を留置予定部位に戻す方法が推奨されている。

おわりに

 TAG,Talentともにメーカー製であり,多くの面で自作のデバイスに比べ優れている。しかし,いずれも完璧で万能のデバイスというにはほど遠く,症例に

図10 カテーテルのkink

よっては自作デバイスの方が有利なこともある。いわゆる「dream case」であれば問題が生じることはきわめて稀であるが,それ以外の症例では自作デバイスを含む,トラブル・シューティング用のあらゆる準備を整えてからTEVARを行うべきである。