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(1) 2006.3 金属資源レポート 91 11041. はじめに 本報告書(Annual Data 2005)は、CDA (Copper Development Association)や米国金属 統計局(ABMS:American Bureau of Metal Statistics Inc.)、内務省地質調査所等から入手し た米国の銅及び銅合金の過去 20 年間分の需給統 計データ及びそれらのデータから作成した 2004 年のマテリアルフローから成り立っている。 マテリアルフロー(図1)については、鉱山 生産、スクラップ処理を含む製錬生産、地金生 産、中間製品(電線、伸銅品、鋳物)及び最終 製品市場までをカバーしている。さらに、その バックデータとして、需給統計を 4 つの総括表 でまとめている。表1は一次銅生産量、表2は 二次原料の銅供給量の統計値、表3は電線、伸 銅品、鋳物及びその他産業用途への一次及び二 次銅消費量をまとめており、表4では電線、伸 銅品、鋳物の供給と、それらの最終製品市場 5 分野での消費量を示している。 以下にその概要を説明する。 2. 米国の 2004 年の銅生産 米国の 2004 年の鉱山生産量は 1,290 千 t で、 このうち 49 千 t が輸入及び在庫となり、残り 1,241 千 t の内訳は、SX-EW 鉱山生産 644 千 t、 精鉱生産 597 千 t で、SX-EW 鉱山生産が全体 の 52 %を占めている。また、SX-EW を含む総 地金生産量は 1,439 千 t で、これに地金輸入量 と在庫分を加え、消費に向けられる地金量は 2,654 千 t であった。この 20 年間の鉱山生産量 は 1997 年の 2,138 千 t をピークに減少傾向にあ りアリゾナ州、ニューメキシコ州の鉱山生産は 当時の 6 割近くに落ち込んでいる。地金生産量 も 1998 年の 2,741 千 t をピークに半分近くの生 産量となっている(表1参照)。 2004 年のスクラップからの供給は、1,554 千 t で、これから輸出量を引き、銅以外からのスク ラップ受け入れを加えると、スクラップ回収量 は 1,068 千 t となる。さらに製錬材料を引き、 未報告分を調整すると、消費に向けられるスク ラップ量は 1,021 千 t であった。この 20 年間の 傾向としては、国内スクラップ供給量は大きな 変化はなく、1,500 千 tレベルで推移しているが、 近年、スクラップの輸出量が急増しているのが 特徴的である。 2004 年の銅地金量とスクラップ量を加えた銅 供給量(銅純分)は 3,675 千 t となっている。 3. 米国の 2004 年の銅消費 (銅中間製品) 銅の中間製品段階では、銅合金(亜鉛、鉛、 錫、ニッケル分が若干添加される)として消費 されるため、2004 年の銅合金消費量は 3,963 千 t となる。 この銅原料の材料への用途は、2004 年では電 線が 1,991 千 t(全体の 50.1 %)、伸銅品 1,636 千 t (41.3 %)、鋳造品 264 千 t(6.7 %)となってい る。20 年間の傾向としては、2000 年の 4,890 千 t をピークにここ数年落ち込んでいるが、2004 年は前年比4.6 %増であった(表3参照)。また、 電線と伸銅品の割合はこの 20 年間ほとんど変 化していない(表3参照)。 国別銅デマンド分析(1)―米国― 金属資源開発調査企画グループ 本シリーズは、中国を始めとする Brics 諸国等経済成長が著しい大消費国の銅需要動向が市場に大 きな影響を及ぼしている中、資源機構の海外事務所の情報収集機能等を活用し、これら Brics 諸国や 米国、日本の主要消費国の銅需要構造、銅需要見通し等を明らかにしていくことを予定している。 本号では、米国 CDA(Copper Development Association)の Annual Data 2005 から、米国におけ る銅需要構造の概要を紹介する。

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Page 1: 国別銅デマンド分析(1)―米国―mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2006... · 精鉱生産597千tで、SX-EW鉱山生産が全体 の52%を占めている。また、SX-EWを含む総

シリーズ

国別銅デマンド分析

(1)

―米国―

2006.3 金属資源レポート 91(1104)

1. はじめに本報告書(Annual Data 2005)は、CDA

(Copper Development Association)や米国金属

統計局(ABMS:American Bureau of Metal

Statistics Inc.)、内務省地質調査所等から入手し

た米国の銅及び銅合金の過去 20 年間分の需給統

計データ及びそれらのデータから作成した 2004

年のマテリアルフローから成り立っている。

マテリアルフロー(図1)については、鉱山

生産、スクラップ処理を含む製錬生産、地金生

産、中間製品(電線、伸銅品、鋳物)及び最終

製品市場までをカバーしている。さらに、その

バックデータとして、需給統計を 4 つの総括表

でまとめている。表1は一次銅生産量、表2は

二次原料の銅供給量の統計値、表3は電線、伸

銅品、鋳物及びその他産業用途への一次及び二

次銅消費量をまとめており、表4では電線、伸

銅品、鋳物の供給と、それらの最終製品市場 5

分野での消費量を示している。

以下にその概要を説明する。

2. 米国の 2004 年の銅生産米国の 2004 年の鉱山生産量は 1,290 千 t で、

このうち 49 千 t が輸入及び在庫となり、残り

1,241 千 t の内訳は、SX-EW 鉱山生産 644 千 t、

精鉱生産 597 千 t で、SX-EW 鉱山生産が全体

の 52 %を占めている。また、SX-EW を含む総

地金生産量は 1,439 千 t で、これに地金輸入量

と在庫分を加え、消費に向けられる地金量は

2,654 千 t であった。この 20 年間の鉱山生産量

は 1997 年の 2,138 千 t をピークに減少傾向にあ

りアリゾナ州、ニューメキシコ州の鉱山生産は

当時の 6 割近くに落ち込んでいる。地金生産量

も 1998 年の 2,741 千 t をピークに半分近くの生

産量となっている(表1参照)。

2004 年のスクラップからの供給は、1,554 千 t

で、これから輸出量を引き、銅以外からのスク

ラップ受け入れを加えると、スクラップ回収量

は 1,068 千 t となる。さらに製錬材料を引き、

未報告分を調整すると、消費に向けられるスク

ラップ量は 1,021 千 t であった。この 20 年間の

傾向としては、国内スクラップ供給量は大きな

変化はなく、1,500 千 t レベルで推移しているが、

近年、スクラップの輸出量が急増しているのが

特徴的である。

2004 年の銅地金量とスクラップ量を加えた銅

供給量(銅純分)は 3,675 千 t となっている。

3. 米国の 2004 年の銅消費(銅中間製品)

銅の中間製品段階では、銅合金(亜鉛、鉛、

錫、ニッケル分が若干添加される)として消費

されるため、2004 年の銅合金消費量は 3,963 千 t

となる。

この銅原料の材料への用途は、2004 年では電

線が1,991千 t(全体の50.1%)、伸銅品1,636千 t

(41.3 %)、鋳造品 264 千 t(6.7 %)となってい

る。20 年間の傾向としては、2000 年の 4,890 千

t をピークにここ数年落ち込んでいるが、2004

年は前年比 4.6 %増であった(表3参照)。また、

電線と伸銅品の割合はこの 20 年間ほとんど変

化していない(表3参照)。

国別銅デマンド分析(1)―米国―

金属資源開発調査企画グループ

本シリーズは、中国を始めとする Brics 諸国等経済成長が著しい大消費国の銅需要動向が市場に大

きな影響を及ぼしている中、資源機構の海外事務所の情報収集機能等を活用し、これら Brics 諸国や

米国、日本の主要消費国の銅需要構造、銅需要見通し等を明らかにしていくことを予定している。

本号では、米国 CDA(Copper Development Association)の Annual Data 2005 から、米国におけ

る銅需要構造の概要を紹介する。

Page 2: 国別銅デマンド分析(1)―米国―mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2006... · 精鉱生産597千tで、SX-EW鉱山生産が全体 の52%を占めている。また、SX-EWを含む総

シリーズ

国別銅デマンド分析

(1)

―米国―

2006.3 金属資源レポート92(1105)

2004 年の電線の用途については、電線の全体

消費量 1,991 千 t のうち、絶縁電線・ケーブル

が 3,500 百万 lb(1,750 千 t :電線の 87.9 %)、

裸銅線が 260 百万 lb(130 千 t :同 6.5 %)、在

庫分その他が 111 千 t(同 5.6 %)となっている。

絶縁電線・ケーブルの内訳は、建設用が 4 割以

上で、ここ数年、建設市場は拡大傾向にある

(表 4 参照)。

2004 年の伸銅品の用途については、伸銅品の

全体消費量 1,636 千 t のうち、黄銅条が 1,068 百

万 lb(534 千 t :全体の 31.1 %)、黄銅棒が

1,059 百万 lb(529.5 千 t :同 30.8 %)、銅管が

700 百万 lb(350 千 t :同 20.4 %)、商業用チュ

ーブが 532 百万 lb(266 千 t :同 15.5 %)、機

械配線用が 80 百万 lb(40 千 t :同 2.3 %)と

なっている。ここ数年の傾向としては、伸銅品

全体の消費が減少する中、唯一銅管市場が伸び

ている(表 4 参照)。

2004 年の鋳造品の用途については、鋳造品鋳

物の全体消費量 264 千 t のうち、鋳物が 230 百

万 lb(115 千 t :全体の 82.1 %)、粉剤が 50 百

万 lb(25 千 t :同 17.9 %)、在庫分その他が

124 千 t となっている。

(銅の最終製品)

2004 年の銅の最終製品市場としては、建設用

が 3,835 百万 lb(1,918 千 t :全体の 49.0 %)、

電子機器用が 1,629 百万 lb(815 千 t : 20.8 %)、

輸送設備用が 841 百万 lb(421 千 t : 10.8 %)、

一般消費者向けが 835 百万 lb(418 千 t :

10.7%)、産業機械設備用が682百万 lb(341千 t:

8.7 %)で、総量は 7,822 百万 lb(3,911 千 t)で

あった。

2000 年の実績と比較した市場傾向としては、

総量では 2000 年の 9,379 百万 lb と比べ 16.6 %

の減となっているが、内訳では建設用が 3,918

百万 lb(1,959 千 t)と全体の 41.8 %、電子機器

用が 2,517 百万 lb(1,259 千 t)と全体の 26.8 %

であり、建設用途の比率が伸び、電子機器用の

シェアが落ちているのが特徴的である(表4参

照)。

4. おわりに以上、2004 年の米国における銅のマテリアル

フローをベースに米国の銅需給構造について概

説した。現在、米国の銅需要は、ほぼ飽和状態

にあり、短期的な経済変動により若干の振れは

あるものの、中・長期的には、現在の水準で推

移するものと見られる。また、最近の銅価格高

騰により、特に、銅管市場で銅からスティール

あるいはプラスチックへの代替の動きが指摘さ

れており、今後の銅管市場の動向を注視する必

要がある。

(2006.1.26)

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2006.3 金属資源レポート 93(1106)

二次銅原料のフロー(表2)

単位:銅量(

千ショート:

t)

単位:銅量(

千ショート:

t)

単位:銅量(

千ショート:

t)

単位:銅量(

百万lb)

1(3)

1(6)

3(19)

4(11)

4(17)

3(25)

1(11)

鉱石在庫

その他 25

合金用金属

亜鉛

272

鉛 9

スズ

14

ニッケル

6

CASTINGS

鋳物

230

POWDER

粉剤

4(19)

BARE WIRE

裸銅線

260

INSULATED WIRE

& CABLE

絶縁電線

3,500

黄銅条

1,068

機械配線

80

4(13) 配管

700

4(15)

黄銅棒

1,059商業用

チューブ

532

MINE

PRODUCTION

鉱山生産

1,290

NET ORE

IMPORTS

鉱石輸入

24

PRIMARY

STOCKS &

OTHER

ELECTROWON

PRODUCTION

SX-EW生産

644

NET IMPORTS

OF BLISTER

粗銅輸入 115

TOTAL

SMELTER

PRODUCTION

粗銅生産 597 BLISTER

STOCKS &

OTHER

粗銅在庫

その他 27

スクラップからの

製錬原料 56

REFINED

FROM SCRAP

TOTAL REFINED

PRODUCTION

総地金生産

1,439

NET IMPORTS

OF REFINED

地金輸入

636

REFINED

STOCKS &

OTHERS

地金在庫

579

CONSUMPTION

OF REFINED

地金消費

2,654

ALLOYING METAL

COPPER

CONSUMED

銅消費

3,675

スクラップ

消費 1,021

CONSUMPTION

OF SCRAP

未報告分

その他 9

NONREPORTED

SCRAP & OTHER

銅由来以外の

スクラップ 63

OTHER THAN

COPPER-BASE

SCRAP

スクラップ

回収 1,068

SCRAP

RECOVERED

銅由来

スクラップ

1,005

COPPERBASE

SCRAP

スクラップ

輸出 549

NET SCRAP

EXPORTS

国内調達

スクラップ

1,554

DOMESTIC

SCRAP

METAL

CONSUMED

金属銅

3,976

INGOT MAKERS

銅インゴット

112

銅インゴット

在庫その他 13

INGOT

STOCKS &

OTHER

金属銅(ネット)

3,963

NET METAL

CONSUMED

MISC. &

DISCREPANCIES

調整分

72

3(29)

FOUNDRIES

鋳造品

264

METAL

STOCKS &

OTHER

在庫その他

124

BRASS

MILLS

伸銅品

1,636

METAL

STOCKS &

OTHER

在庫その他

84

WIRE ROD

MILLS

電線

1,991

METAL

STOCKS &

OTHER

在庫その他

111

STRIP

PLUMBING

TUBE

ROD

& BARCOMMERCIAL

TUBE

MECHANICAL

WIRE

NET

IMPORTS

銅インゴット

343 4(21)

CONSUMER

& GENERAL

PRODUCTS

一般製品

835 4(27)

TRANSPORTATION

EQUIPMENT

輸送設備

841 4(26)

MILL

PROUCTS-

DOMESTIC

PRODUCTION

中間製品

生産

7,479 4(20)

MILL

PRODUCTS

TO

DOMESTIC

MARKET

国内向け

中間製品生産

7,822 4(22)

INDUSTRIAL

MACHINERY &

EQUIPMENT

機械設備

682 4(25)

ELECTRICAL

& ELECTRONIC

PRODUCTS

電子機器

1,629

BUILDING

CONSTRUCTION

建設

3,835

一次銅原料のフロー(表1)

銅の中間製品消費フロー(表3)

銅の最終製品消費フロー(表4)

図1マテリアル・フロー図

シリーズ

国別銅デマンド分析

(1)

―米国―

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2006.3 金属資源レポート94(1107)

シリーズ

国別銅デマンド分析

(1)

―米国―

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2006.3 金属資源レポート 95(1108)

シリーズ

国別銅デマンド分析

(1)

―米国―

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2006.3 金属資源レポート96(1109)

シリーズ

国別銅デマンド分析

(1)

―米国―