橋台背面における深層混合処理工法の合理的設計法の検討 ...1.はじめに...

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橋台背面における深層混合処理工法の合理的設計法の検討 Examination of Rational Design on Deep Mixing Method in the Back of Abutment 澤井 健吾 *  西本  聡 **  林  宏親 *** Kengo SAWAI,Satoshi NISHIMOTO,and Hirochika HAYASHI 泥炭地盤上に橋台を設置する場合、橋台背面部の盛土荷重により、泥炭地盤に側方流動が生じ、橋 台下部の杭基礎を変形させてしまう恐れがある。このため、側方流動対策の一つとして橋台背面部に 深層混合処理工法を施工する場合がある。この際、接続盛土部にはすべり安全率 Fs ≧1.5にすると側 方流動を防ぐことができるとされているが、側方流動対策に有効な改良柱体の配置および強度に明確 な設計基準が無いのが現状である。そこで、深層混合処理工法における改良柱体の合理的配置を求め ることを目的に、遠心力模型実験から側方流動抑止効果に影響を与えるパラメータをまず明らかにし た上で、さらに3次元弾塑性解析による深層混合処理工法の合理的設計法の検討を行った。 その結果、各盛土高さで求めたすべり安全率と杭頭部の水平変位量との相関が得られ、現行の設計 法に基づいて計算した杭頭部の水平変位量と施工費を比較したところ、改良率78.5%(接円配置)が 橋台背面における最も合理的な改良体配置方法であることが示された。 《キーワード:深層混合処理工法;橋台;有限要素法》 Establishing an abutment on peaty ground may result in a lateral flow due to the embankment load at the back of the abutment. This lateral flow may consequently cause a deformation of the pile foundation at the lower part of the abutment. The deep mixing method may be applied to the back of the abutment as a measure against this lateral movement. While it is assumed that lateral movement can be prevented if the slip safety factor is Fs ≧ 1.5 at the connecting embankment, there are currently no clear design criteria concerning the measure against lateral movement rational arrangement and strength of improved columns. In order to find a rational arrangement for improved columns in the deep mixing method, parameters having an impact on the lateral flow control effect were first determined through a centrifuge model test. Three-dimensional elasto- plastic analysis was also conducted to examine rational design methods using the deep mixing method. As a result of these tests and analyses, a correlation was found between the slip safety rate of each embankment height and the horizontal displacement of pile heads. Compared with the horizontal displacement of pile heads and construction costs calculated based on the current design method, the improvement rate of 78.5% (tangent circle arrangement)was found to be the most rational arrangement of improved columns at the back of an abutment. ≪ Keywords:deep mixing method, abutment, finite element method ≫ 報 文 2 北海道開発土木研究所月報 №633 2006年2月

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Page 1: 橋台背面における深層混合処理工法の合理的設計法の検討 ...1.はじめに 泥炭地盤において橋台を設置した場合、橋台背面部 の盛土荷重により、泥炭地盤に側方流動が生じ、橋台

橋台背面における深層混合処理工法の合理的設計法の検討

Examination of Rational Design on Deep Mixing Method in the Back of Abutment

澤井 健吾 *  西本  聡 **  林  宏親 ***

Kengo SAWAI,Satoshi NISHIMOTO,and Hirochika HAYASHI

 泥炭地盤上に橋台を設置する場合、橋台背面部の盛土荷重により、泥炭地盤に側方流動が生じ、橋台下部の杭基礎を変形させてしまう恐れがある。このため、側方流動対策の一つとして橋台背面部に深層混合処理工法を施工する場合がある。この際、接続盛土部にはすべり安全率Fs ≧1.5にすると側方流動を防ぐことができるとされているが、側方流動対策に有効な改良柱体の配置および強度に明確な設計基準が無いのが現状である。そこで、深層混合処理工法における改良柱体の合理的配置を求めることを目的に、遠心力模型実験から側方流動抑止効果に影響を与えるパラメータをまず明らかにした上で、さらに3次元弾塑性解析による深層混合処理工法の合理的設計法の検討を行った。 その結果、各盛土高さで求めたすべり安全率と杭頭部の水平変位量との相関が得られ、現行の設計法に基づいて計算した杭頭部の水平変位量と施工費を比較したところ、改良率78.5%(接円配置)が橋台背面における最も合理的な改良体配置方法であることが示された。《キーワード:深層混合処理工法;橋台;有限要素法》

 Establishing an abutment on peaty ground may result in a lateral flow due to the embankment load at the back of the abutment. This lateral flow may consequently cause a deformation of the pile foundation at the lower part of the abutment. The deep mixing method may be applied to the back of the abutment as a measure against this lateral movement. While it is assumed that lateral movement can be prevented if the slip safety factor is Fs ≧ 1.5 at the connecting embankment, there are currently no clear design criteria concerning the measure against lateral movement rational arrangement and strength of improved columns. In order to find a rational arrangement for improved columns in the deep mixing method, parameters having an impact on the lateral flow control effect were first determined through a centrifuge model test. Three-dimensional elasto-plastic analysis was also conducted to examine rational design methods using the deep mixing method.  As a result of these tests and analyses, a correlation was found between the slip safety rate of each embankment height and the horizontal displacement of pile heads. Compared with the horizontal displacement of pile heads and construction costs calculated based on the current design method, the improvement rate of 78.5% (tangent circle arrangement)was found to be the most rational arrangement of improved columns at the back of an abutment.≪ Keywords:deep mixing method, abutment, finite element method ≫

報 文

2 北海道開発土木研究所月報 №633 2006年2月

Page 2: 橋台背面における深層混合処理工法の合理的設計法の検討 ...1.はじめに 泥炭地盤において橋台を設置した場合、橋台背面部 の盛土荷重により、泥炭地盤に側方流動が生じ、橋台

1.はじめに

 泥炭地盤において橋台を設置した場合、橋台背面部の盛土荷重により、泥炭地盤に側方流動が生じ、橋台下部の杭基礎を変形させてしまうことがある。このため、道路橋示方書Ⅳ下部構造編1)では偏荷重を受ける基礎について側方移動の判定値(I値)が1.2以上の場合、側方流動対策を講ずることとしている。また、同編には過大な杭基礎の水平変位は有害な残留変位の原因となるという理由から、杭径1500㎜以下の杭基礎において、15㎜を許容水平変位量とする基準を示している。橋台背面における一般的な側方流動対策には深層混合処理工法がある。しかし、その側方流動の抑止効果について、定量的に示したものは無く、合理的な改良柱体の配置やその設計法に関する知見は現時点ではほとんど見られない。一方、泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル2)には過去の模型実験3)から、すべり安全率(Fs)を1.5以上とした場合、橋台に影響を与えるような杭の変状は生じないとしている。すべり安全率(Fs)を1.5以上にするためには改良率、改良強度などを設定する必要があるが、その合理的な設計法がない。 そこで、本研究では最初に、深層混合処理工法の改良率、改良強度および改良柱体の列数の中で、最も側方流動の抑止に影響が大きいパラメーターを遠心力模型実験から明らかにした。次に、遠心力模型実験から求めたパラメーターの条件設定で、有限要素法(3次元弾塑性解析)により過去の実施工箇所の計測データに基づき、材料定数を設定し、本解析を実施した。また、合理的な設計を行うことによるコスト縮減効果を確認するために、本解析断面における施工費の比較を行った。

2.遠心力模型実験

2-1 実験条件

(1)実験ケース

 実物の100分の1スケールに相当する模型を作成して、100G の遠心力場で改良率、改良柱体の列数、改良パターンおよび柱体強度を変えた模型実験を実施した(図-1)。遠心力模型実験には当所の遠心力載荷装置を使用した。計測は所定位置に設置したレーザー変位計による地盤の鉛直変位と泥炭地盤内に設置した間隙水圧計により間隙水圧を確認した。また、側方流

動による杭の影響を確認するために、模型杭を橋台背面から2㎝離れた位置で土槽下部に固定するように設置した。模型杭の内部に貼付されている歪みゲージから各地点の杭の歪み量と杭頭部の水平変位を計測した。

図-1 模型地盤と計測機器(単位 :㎜)

深層混合処理工法の改良パターンには改良柱体の軸間ピッチを変えることによって、様々な配置が可能となる(図-2)。実験パターンは改良率を78.5%で改良列数を2列から6列まで変えたケースと改良列数を6

図-2 深層混合処理工法の改良柱体配置

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列で改良率を62%から30%まで下げたケースを設定した(表-1)。ここで改良率78.5%は改良柱体間が接円、改良率62%は盛土横断方向に接円の条件となる。また、改良パターンを千鳥配置にしたケースや改良強度を600kN/㎡に上げたケースについても実施した。

表-1 各試験ケースの実験条件

(2)模型地盤と改良柱体の作成

 泥炭の模型地盤材料は0.85㎜以下に裁断したピートモスにカオリン粘土を乾燥重量比1:1で混合したものを用いた。作成した泥炭層の物性値と北海道の一般的な泥炭の物性値4)と比較した結果、含水比と圧縮指数が非常に高いこと、土粒子の密度と湿潤密度が極端に低いところなど、実際の泥炭地盤と同じ性質をもった地盤が作成されていることが分かる(表-2)。既往の研究5)において、作製した模型地盤の沈下挙動が、実際のものと類似した挙動を示すことを確認している。また、改良柱体については模型地盤材料に高炉B種セメントを混合して作成した。改良柱体の寸法は直径1.5㎝、長さ10㎝(実物換算 直径1.5m、長さ10m)とした。作成された改良柱体は、概ね目標強度の300kN/㎡および600kN/㎡を示した(表-1)。

表-2 模型地盤(泥炭)の物性値

(3)実験フロー

 遠心力模型実験のフローを示す(図-3)。基盤層には豊浦砂を使用して、層厚は10㎝(実物換算10m)とした。泥炭地盤は養生後の模型地盤材料を容器に投入した後、遠心載荷による自重圧密、予備荷重

(10kN/㎡)を加えた過圧密により、模型地盤を作製した。載荷試験は100G を1時間(実物換算417日)保持した後、一度遠心装置を停止する方法で、盛土厚5㎝、7.5㎝、10㎝(実物換算5m、7.5m、10m)の段階施工で行った。盛土速度は盛土厚5㎝(実物換算5m)について72㎝ /10日、盛土厚7.5㎝、10㎝(実物換算7.5m、10m)については36㎝ /10日で行っており、現場で施工されている速度とほぼ同様の施工条件である。

図-3 遠心力模型実験のフロー

2-2 実験結果

 載荷試験後、各実験ケースにおける泥炭地盤の変形状況を観察した(写真-1)。改良パターンによって、橋台直下地盤の変状に多少の差異はあるが、いずれの実験ケースにおいても改良柱体を境に、鉛直方向および水平方向の変位が抑止されていることが確認された。

写真-1 泥炭地盤の変形状況(ケース4)

 実験では各計測点で、地盤の鉛直変位、地盤内の間隙水圧など様々な計測を行っているが、本報告では橋台背面から2㎝(実物換算 : 2m)の位置に設置した模型杭の杭頭水平変位に限定して、各試験パターンの比較を行った(図-4)。すべり安全率は同じ盛土高

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さでは設定した改良柱体の本数と比例関係にあるため、各試験ケースにおける改良柱体配置の有効性を見る目安となる。改良柱体の列数をパラメーターとして比較した場合、同等のすべり安全率では杭頭の水平変位量に明確な差異は生じていないことがわかる。改良柱体の設定強度を600kN/㎡に上げたケースについても同じ改良柱体配置の改良強度300kN/㎡と比較すると、杭頭の水平変位量にほとんど差は生じていない。一方、改良率についてはすべり安全率2.0付近ではほとんど差は生じていないが、すべり安全率の低下にともなって、高改良率の試験ケースの方が同じ安全率すなわち同程度の改良柱体の本数でも杭頭水平変位が小さいことがわかる。 以上のことから、深層混合処理工法の改良率・改良強度・改良列数・改良パターンなどの地盤改良効果に影響を与える要因の中で、遠心力模型実験から得られた模型杭の杭頭水平変位とすべり安全率との関係から、最も改良効果に影響が大きい設定条件は改良率であることが明らかとなった。

図-4 模型杭の水平変位とすべり安全率との関係

3.有限要素法による解析

3-1 解析モデル

 橋台背面における側方流動の抑止には改良率を高めることが有効であることが遠心力模型実験から明らかとなった。遠心力模型実験では測定精度が定量的な評価を実施するほど良好ではないことと、実験結果の再現性を確認するため、有限要素法による定量的な評価を実施した。 使用した解析ソフトは Pre-Process と Post-ProcessとしてはVisual FEMを利用し、Solver は田中・鵜飼らが開発した3次元 FEM解析ソフト GA3D6)を使用した。解析モデルは3次元弾塑性解析で、構成則と

してMohr-Coulomb 則、流れ則はDrucker-Prager 則を用いた。構成則と分けて非関連流れ則にした要因は塑性領域でのせん断ひずみの再現には Drucker-Prager 則の方が適しているためである。解析に必要な材料定数は、弾性体の場合にはヤング率E、ポアソン比ν、弾塑性体の場合にはこれらに加えて、粘着力C、内部摩擦角φ、ダイレイタンシー角ψが必要となる。また、地盤のFEM解析手法は全応力法を用いた。

3-2 解析手法の妥当性の確認

 現行設計法で検証する本解析モデルを実施するのに先立ち、解析手法の妥当性を確認するために、一般国道336号十勝河口橋A-1橋台を対象として3次元弾塑性解析を実施し、実測データと解析結果との比較を行った。十勝河口橋A-1橋台は昭和60年に地盤改良が始まり、昭和61年に橋台基礎工の鋼管杭打ち込み、平成元年に橋台躯体を施工している。本工事では橋台背面側の鋼管杭に傾斜計のガイドパイプを設置して、施工後の杭の水平変位を継続的に測定することにより、橋台下の側方流動の影響を調べた数少ない実測データである。十勝河口橋A-1橋台の解析モデルを示す(図-5)。当該地盤は、地表から泥炭層Ap、沖積砂層As4,沖積粘土層Ac、沖積砂層As1、および、岩盤Tcs より構成されている。解析において各土層は成層構造として、ボーリング結果より各層厚はAp層6.0m、As4層4.0m、Ac 層17.5m、As4層12.5m と設定して全層厚40.0m を解析対象とした。 橋台下部には、極めて軟弱な泥炭層、N値が3~ 12の粘土層が堆積しているため、地盤改良が実施されている。泥炭層に対しては置換工法、As1と Ac 層では高圧噴射攪拌工法が採用されている。改良径はD=700㎜、改良柱体間ピッチは1.2×1.2m と1.4×1.4mの2種類、改良長はそれぞれ14.0と9.0m である。解析モデルでは橋台および道路盛土の対称性を考慮して、その半分を解析対象に取り入れている。長さ176.0m、幅80.0m、深さ40.0m、橋台および河川堤防・道路盛土高さ8.0m を解析対象とした。地下水位は地表面に設定した。 材料定数は当該箇所でのオランダ式二重管コーン貫入試験および標準貫入試験、一軸圧縮試験結果などから、一般的に使用されている推定式を用いて設定した(表-3,表-4)。 A-1橋台下の鋼管杭(D=1.2m、t=18㎜)のヤング率 Eは杭基礎の設計で一般的な求め方である断面二次モーメント I を考慮した曲げ剛性 EI の等価法に

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 解析結果から求めた橋台背面の盛土完成時におけるメッシュ変形・変位コンター図(図-7)と鋼管杭および改良柱体のメッシュ変形・変位コンター図(図-

8)を示した。なお、変位コンター図は道路盛土縦断方向の水平変位を示しており、プラス側を橋台背面側、マイナス側を橋台前面側への変位量としている。これによると、地盤改良をしていない河川堤防と比較して、橋台背面盛土部の水平変位は小さく抑えられていることがわかる。また、鋼管杭および改良柱体については、改良柱体を介して鋼管杭に曲げ変形が生じていること

より求めた(図-6)。また、橋台は鉄筋コンクリート構造物として、標準的な材料定数を採用した。

図-5 十勝河口橋解析モデル

表-3 解析に用いる材料定数の誘導式一覧表

表-4 材料定数一覧表

図-6 EI 等価法によるヤング率 Eの計算方法

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3-3 本解析

 十勝河口橋の解析結果を踏まえて、現行設計法で深層混合処理工法の改良仕様による杭の水平変位抑止効果を定量的に求める本解析を実施した。解析では泥炭層と砂層の二層の地盤構成の単純化したモデルを作成した(図-10)。橋台および道路盛土形状の対称性を考慮して、すべての解析ケースにおいて、橋台幅の半分にあたる8.0m を解析対象幅とした。縦断方向の長さは116.0m とし、地盤の深さ20.0m とした。各ケースにおいて、盛土の高さは5.0、7.5、10.0、12.5、15.0m の5段階を想定した。深層混合処理工法を想定した改良柱体を橋台背面に配置した。改良深度は5.5mとして、砂層に50㎝根入れ効果を与えた。改良強度は泥炭層で一般的な設計強度範囲の上限値の500kN/㎡で、改良径1.0m とした。改良柱体の列数は各解析ケースで盛土高さ7.5m ですべり安全率 Fs ≧1.5をクリアする列数を設定して、それとは別に、すりつけ区間を軟弱地盤の層厚との関係から、延長10m(改良率50%)設定した。本解析で用いた材料定数は概ね、十勝

を示しており、橋台背面における一般的な変形挙動を表している。

図-7 メッシュ変形・変位コンター図(盛土施工後)

図-8 鋼管杭・改良柱体のメッシュ変形・変位コンター図

 十勝河口橋A-1橋台における傾斜計の実測データと求めたFEM解析結果を深度方向に比較した(図-

9)。なお、FEM道路竣工時は、盛土完成時を示している。変形図で示した通り、橋台背面の道路盛土施工時に鋼管杭が橋台前面側へ変形していることが明確に現れている。傾斜計で計測した橋台背面近傍の鋼管杭のX軸方向変位(道路盛土縦断方向)は杭頭部で最大8㎜であるのに対して、解析における最大値は15.1㎜を示した。この差は深度方向に見た場合、下部のAs1層で生じており、実測ではほとんど変位していない砂層が解析上では塑性的な変形が生じてしまっていることに起因している。このため、本解析では砂層について、構成側を弾性体として扱うこととした。参考であるが、Z軸方向変位(河川堤防縦断方向)で見ると、FEM解析結果が計測データをよく再現できており、両軸方向ともに計測した鋼管杭の変形状況が深度方向に近似した傾向を示していることから、今回使用した解析手法が実際の挙動を再現できていることが明らかとなった。

図-9 鋼管杭の水辺変位の深度分布図

図-10 本解析モデル

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河口橋の設定方法と同様の推定式を用いて定数を設定した(表-5)。変更点としては前述の十勝河口橋では改良地盤を複合地盤として定数を設定したのに対して、本解析では改良柱体と未改良部地盤とのすり抜けの要素が重要となることから、改良柱体と泥炭層の未改良地盤をそれぞれ別の要素として取り扱った。また、鋼管杭の水平変位量は鋼管杭の曲げ剛性が影響することから、実設計で用いる変位法10)により、盛土高さ7.5m で杭の許容水平変位量15㎜に収まる鋼管杭の曲げ剛性EIおよびヤング率Eを求めた。その結果、鋼管杭の直径D=1200㎜、肉厚 t=18㎜で水平変位量が15㎜になることから、解析ではこの寸法・形状に合わせて、EI 等価法から求めた鋼管杭のヤング率Eを用いた。

表-5 本解析における材料定数の設定値

 解析ケースは遠心力模型実験において最も改良効果に影響が大きい改良率による比較ケースを設定した(表-6)。改良率の範囲は30%~ 78.5%として、改良率50%では改良パターンを千鳥配置としたケースを設定した。また、盛土縦断方向の改良列数は盛土高さ7.5m で現設計基準の Fs ≧1.5をクリアする列数をそれぞれの解析ケースで求めたものを改良範囲とした。

表-6 解析ケース

 側方流動の影響によって、改良柱体と改良柱体間地盤(未改良部)にどの様な変形が生じるか各解析ケースの深度方向の水平変位量を求めた(図-11,図-

12,図-13)。側方流動の影響を最も受ける背面盛土側の改良体位置では、ケース4(ap78.5%)以外の解析ケースで改良柱体および改良柱体間地盤(未改良部)に曲げ変形が生じていることがわかる。一方、接円配

図-11 背面盛土側の改良柱体と改良柱体間地盤の水

    平変位の深度分布(ケース1)

図-12 背面盛土側の改良柱体と改良柱体間地盤の水

    平変位の深度分布(ケース3)

図-13 背面盛土側の改良柱体と改良柱体間地盤の水

    平変位の深度分布(ケース4)

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置のケース4は他のケースと変形モードが異なり、橋台側に傾くような倒れ込み変形が生じている。これは接円配置では改良柱体が互いに接続しているため、剛性が高く、曲げ変形モードにならないことが原因として考えられる。

図-14 橋台側の改良柱体と改良柱体間地盤の水平

    変位の深度分布(ケース1)

図-15 橋台側の改良柱体と改良柱体間地盤の水平

    変位の深度分布(ケース2)

 最も橋台に近い橋台側の改良柱体と改良柱体間地盤では水平変位量に大小の違いがあるものの、いずれの解析ケースも曲げ変形が生じていた(図-14,図-

15,図-16)。 同じ改良率50%で改良パターンを変えたケース2(整列配置)とケース5(千鳥配置)を比較すると、改良柱体および改良柱体間地盤の水平変位量はほぼ同

じ結果が得られている。千鳥配置は理論上、側方流動による水平荷重の影響を杭に直接与えない配置方法と考えられているが、改良率50%では配置にかかわらず改良柱体間のすり抜けがほとんどないことがわかる。また、ケース1(改良率30%)の改良柱体と改良柱体間地盤の水平変位量の差を見ても、ケース2およびケース5と比較してほとんど差が出ていないことから、改良柱体間のすり抜けはほとんどないと言える。

図-16 橋台側の改良柱体と改良柱体間地盤の水平

    変位の深度分布(ケース5)

 改良柱体の地表面位置(円の両端および中心位置)で各々の改良柱体ごとに求めた水平変位量と橋台背面からの距離との関係を各解析ケースで求めた(図-

17)。ケース4(接円配置)では背面盛土側の改良柱体位置の水平変位量は他の解析ケースと比較して遙かに小さく、改良区間の背面盛土側と橋台側での水平変位量の変化が最も小さい。これは前述の通り、接円配置では改良柱体が互いに接続しているため、改良区間は一体化して変形することに起因している。 ケース1~3とケース5では背面盛土側の改良柱体

図-17 各解析ケースの改良柱体(地表面)の水平変位

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位置の水平変位量が大きく、改良区間の背面盛土側と橋台側では水平変位量の差異が大きい。このため、改良延長(列数)が長いケース1(改良率30%)が有効となり、橋台前面側で水平変位量が小さい結果となっている。 本解析で得られた鋼管杭と杭間地盤の水平変位量の深度方向の分布を求めた(図-18,図-19,図-20)。解析位置は背面盛土近傍の鋼管杭および杭間地盤で、最も側方流動の影響を受ける位置で比較した。いずれも盛土高さの増加にともない、杭頭部の水平変位量が増加しており、特に泥炭層と砂層の境界付近から杭頭部にかけて水平変位が顕著に増加していることがわかる。また、杭間地盤と杭中心部の水平変位量を見ると、杭間地盤の方がより大きく橋台前面側に変位しており、特にその傾向は改良柱体間のピッチの広い低改良率の解析ケースの方が顕著である。  各盛土高さにおける杭頭部の水平変位量を解析ケー

スごとに比較した(図-21)。これによると、いずれの解析ケースも盛土高さ5mではほとんど差異は生じていないが、盛土高さが大きくなるにつれて改良率が高い解析ケースの方が杭頭部の水平変位量は小さく推移していることがわかる。

図-21 盛土高と杭頭部の水平変位量

 本解析の設定条件で、各盛土高さで求めたすべり安全率と杭頭部の水平変位量を比較した(図-22)。これによると、いずれの解析ケースについてもすべり安全率 Fs=1.5付近で許容水平変位量の15㎜付近を示しており、現実的な精度の解析結果が得られていることがわかる。解析ケースの中で改良率が高いケース4(改良率78.5%)が同じすべり安全率で見ても、杭頭部の水平変位量は小さい。一方、同様に改良率を高く設定

図-18 杭と杭間地盤の水平変位の深度分布(ケース1)

図-19 杭と杭間地盤の水平変位の深度分布(ケース2)

図-20 杭と杭間地盤の水平変位の深度分布(ケース3)

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したケース3(改良率62%)では逆に杭頭部の水平変位量が大きい値を示し、盛土横断方向のみ接円している条件設定は有効性が低いと言える。また、同じ改良率50%のケース2(整列配置)とケース5(千鳥配置)ではほとんど差異は見られない結果が得られていることから、千鳥配置とする効果はほぼ無いことが明らかとなった。ケース1(改良率30%)については安全側のすべり安全率Fs ≧1.5では杭頭部の水平変位量が比較的小さい結果が得られている。しかし、これは低改良率でFs ≧1.5をクリアするために改良列数(改良範囲)を大きく設定しており、未改良地盤と橋台部の杭基礎との距離が大きくなっているためと考えられる。泥炭層が10m以上ある地盤において改良率30%では改良列数を増やしてもすべり安全率Fs ≧1.5の条件は解析上得られない。このことから、現行の設計法で検討した結果、改良率78.5%(接円配置)が最も杭頭部の水平変位量を抑止するのに有効であると言える。

4.コスト比較

 盛土高さ7.5mの解析条件は杭の許容水平変位量15㎜に収まる鋼管杭の曲げ剛性および側方流動対策としてFs ≧1.5となる改良列数を設定するなど、現行の設計法に基づいた解析条件を再現している。コスト面での有効性を評価するため、盛土高さ7.5m における本解析結果と深層混合処理工法の施工費の比較を行った。なお、本解析の結果、盛土高さ7.5m において、いずれの解析ケースも杭の許容水平変位量の15㎜以内に収まっていることを確認している。比較に当たって、施工費の算出は改良工事に関わる直接費および間接費を

詳細な項目に設定して、それぞれ材料費、労務費、損料などを計上した。本解析ケースの盛土高さ7.5m における施工費の一覧表および図を示す(表-7,図-

23)。

表-7 各解析ケースの施工費

図-23 各解析ケースにおける施工コスト

 施工費はケース2の改良率50%(正規配置)を100%とした場合、最も安価な施工ケースはケース4(改良率78.5%)で施工費比率89%(コスト削減率11%)、次いでケース1(改良率30%)が施工費比率92%(コスト削減率8%)であり、最もコスト高となるのはケース3(改良率62%)で施工費比率105%となった。 各解析ケースにおける施工コストと側方流動の抑止効果に合理性があるか確認するために、本解析結果の杭頭部の水平変位量と施工費を比較した(図-24)。本解析ではいずれも現行の設計法に基づいていることから、この図の中で、施工コストが低くかつ杭頭部の水平変位量が小さい解析ケースが最も合理的な改良体配置となる。これによると、ケース4(改良率78.5%)は施工コストも杭頭部の水平変位量も小さい最も良好な結果が得られていることがわかる。また、ケース4の接円配置から改良柱体間のピッチを広げたケース2、3、5では、すべり安全率 Fs ≧1.5以上をクリアするように改良柱体の列数を大きく設定したため、施工コストが大きいが、杭頭部の水平変位量も大きく出ており、側方流動の抑止に有効な改良体配置ではないこと

図-22 すべり安全率と杭頭部の水平変位量

北海道開発土木研究所月報 №633 2006年2月 11

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がわかる。一方、さらに改良柱体間のピッチを広げたケース1(改良率30%)ではケース4に次いで良好の結果が得られたが、前述の通り、泥炭層における現実的な改良設定強度は200 ~ 500kN/㎡で、改良率30%に設定した場合、盛土高さ10m以上ですべり安全率Fs ≧1.5をクリアすることは困難であることが挙げられる。以上のことから、橋台背面における深層混合処理工法の合理的な改良体配置方法はケース4(改良率78.5%:接円配置)であることが明らかとなった。

図-24 各解析ケースの施工コストと杭の水平変位

5.まとめ

 橋台背面における深層混合処理工法の合理的設計法を検証した結果、以下のことが明らかとなった。

1)遠心力模型実験から得られた模型杭の杭頭水平変位とすべり安全率との関係から、深層混合処理工法の改良率・改良強度・改良列数・改良パターンなどの地盤改良効果に影響を与える要因の中で、最も改良効果に影響が大きい設定条件は改良率である。

2)三次元弾塑性解析において構成則としてMohr-Coulomb 則、流れ則はDrucker-Prager 則を用いて、十勝河口橋A-1橋台の実測データとの整合性を確認した結果、用いた解析手法が実際の挙動を再現できている。

3)本解析結果における杭間地盤と杭中心部の水平変位量を見ると、杭間地盤の方がより大きく橋台前面側に変位しており、特にその傾向は改良柱体間のピッチの広い低改良率の解析ケースの方が顕著

である。4)盛土高さが大きくなるにつれて改良率が高い解析ケースの方が杭頭部の水平変位量は小さく推移している。

5)各盛土高さで求めたすべり安全率と杭頭部の水平変位量を比較した結果、改良率62%では杭頭部の水平変位量が他のケースより大きく、盛土横断方向のみ接円している条件設定は有効性が低い。

6)同じ改良率50%の整列配置と千鳥配置ではほとんど差異は見られない結果が得られていることから、千鳥配置とする効果はほとんど無い。

7)各解析ケースのすべり安全率と杭頭部の水平変位量を比較した結果、改良率78.5%(接円配置)が最も杭頭部の水平変位量を抑止するのに有効である。

8)現行の設計法に基づいた解析条件の盛土高さ7.5mにおける杭頭部の水平変位量と施工費を比較した結果、改良率78.5%(接円配置)が橋台背面における最も合理的な改良体配置方法であることが示された。

参考文献

1)社団法人日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅳ下部構造編,pp.243-265.2002

2)独立行政法人北海道開発土木研究所:泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル,pp.59-70.2002

3)森 康夫、黒川国夫、木村 誠一:側方流動と杭の水平挙動,第21回土質工学研究発表会,1986

4)独立行政法人北海道開発土木研究所:泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル,pp.1-8.2002

5)林 宏親、西川純一、江川拓也:泥炭地盤における深層混合処理工法の改良率と沈下低減効果,第57回土木学会年次学術講演会講演概要集(第Ⅲ部門),pp.111-112.2002

6)田中忠次、鵜飼恵三、河邑 眞、阪上最一、大津宏康:地盤の三次元弾塑性有限要素解析,丸善,1996

7)独立行政法人北海道開発土木研究所:泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル,pp.42-70.2002

8)財団法人土木研究センター:陸上工事における深層混合処理工法設計・施工マニュアル, pp.66-117.2004

9)社団法人地盤工学会:地盤調査の方法と解説,pp.290-300.2004

10)社団法人日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅳ下部構造編,pp.348-433.2002

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澤井 健吾 *Kengo SAWAI

北海道開発土木研究所構造部土質基礎研究室研究員

西本  聡 **Satoshi NISHIMOTO

北海道開発土木研究所構造部土質基礎研究室室長技術士(建設・総合)

林  宏親 ***Hirochika HAYASHI

北海道開発土木研究所構造部土質基礎研究室主任研究員技術士(建設・総合)

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