衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解 … ·...

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日本機械学会論文集(A 編) 原著論文 No.2012-JAT-0457 © 2012 The Japan Society of Mechanical Engineers 衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法 によるゆるみ解析 Loosening Analysis for Swing Circle Tightening Body of Excavator Subjected to Impact Loading: Explicit Finite Element Approach *2 Department of Mechanical Engineering, School of Engineering, The University of Tokyo 7-3-1 Hongou, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-0033 Japan A swing circle part of excavator involves many bolted joints subject to impact loading. Therefore, the structural integrity assessment for the loosening of the bolted joints is very important. In this paper, we have tried the loosening analysis for the bolted joints using explicit finite element method. As a check of the validity of the explicit finite element method, the loosening due to quasi-static transverse loading has been investigated by both explicit and implicit finite element methods. The result of the explicit finite element method shows good agreement with that of the implicit finite element method. The developed scheme applies to the loosening of the bolted joints in the swing circle part of the excavator subjected to impact loading. The vibration modes of the excavator model are fitted to the result of experimental modal analysis. All the bolts are modeled by rivets model and tightening force is applied. Bearing part of the swing circle is modeled by spring and dashpot elements. As a result, the acceleration of counter-weight part and the deformation shape of the bolts are successfully reproduced by our model. The stress of the bolts shows agreement within a factor of two. It is found that the safety margin for the loosening caused by bearing-surface slip is more than ten, which is sufficient in terms of engineering application. 1. ボルト締結体は取り付け・取り外し可能であり,安価であるという利点がある.一方で外力が働くとゆるみが 生じる可能性があるという欠点がある.ゆるみが生じることで締結力が低下するだけでなく,ボルト破損につな がる危険性も含んでいる. ゆるみに対して様々な実験や解析が行われ基盤が確立している (1)(3) .筆者らは通常の陰解法に基づいた有限要 素法を用いて,準静的な軸直角方向荷重 (4) ,軸方向荷重 (5) によるゆるみを理論的に解明してきた. 一方,近年は,衝撃荷重下の機械構造物の健全性評価が盛んに行われている.衝撃荷重に対するボルト締結体 のゆるみの評価は,古賀 (6) ,賀勢 (7) らの実験的検討がある.しかしながら,有限要素法による理論的検討はほとん ど行われていない. 一般に,衝撃荷重下の機械構造物の有限要素法解析には,陽解法有限要素法が用いられることが多い.これは, 通常の陰解法を用いた手法では,過渡的応答に対して収束解を得ることが出来ないためである.本論文で取り扱 うケースも,予備的検討として陰解法を用いた解析を行ったが,収束解を得ることが出来なかった.そこで,本 論文では陽解法有限要素法を用いて衝撃荷重下のボルトのゆるみ解析を目指す. Shota KAMIYA, Satoshi IZUMI *2 , Shinsuke SAKAI and Yoshikazu YAMADA Key Words : Finite Element Method, Contact Problem, Fixing, Screw, Impact Loading * 原稿受付 2012 6 25 *1 東京大学大学院 工学系研究科(〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1(現 JR東海)) *2 正員,東京大学大学院 工学系研究科(〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1*3 正員,フェロー,東京大学大学院 工学系研究科 *4 コマツ研究本部 材料技術センタ(〒254-8567 神奈川県平塚市万田 1200E-mail: [email protected] 神谷 翔太 *1 ,泉 聡志 *2 ,酒井 信介 *3 ,山田 良一 *4 78 巻 795 号 (2012-11) 1593 ― 99 ―

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日本機械学会論文集(A編) 原著論文 No.2012-JAT-0457

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法

によるゆるみ解析*

Loosening Analysis for Swing Circle Tightening Body of Excavator Subjected to Impact Loading: Explicit Finite Element Approach

*2 Department of Mechanical Engineering, School of Engineering, The University of Tokyo 7-3-1 Hongou, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-0033 Japan

A swing circle part of excavator involves many bolted joints subject to impact loading. Therefore, the structural integrity

assessment for the loosening of the bolted joints is very important. In this paper, we have tried the loosening analysis for the

bolted joints using explicit finite element method. As a check of the validity of the explicit finite element method, the

loosening due to quasi-static transverse loading has been investigated by both explicit and implicit finite element methods.

The result of the explicit finite element method shows good agreement with that of the implicit finite element method. The

developed scheme applies to the loosening of the bolted joints in the swing circle part of the excavator subjected to impact

loading. The vibration modes of the excavator model are fitted to the result of experimental modal analysis. All the bolts are

modeled by rivets model and tightening force is applied. Bearing part of the swing circle is modeled by spring and dashpot

elements. As a result, the acceleration of counter-weight part and the deformation shape of the bolts are successfully

reproduced by our model. The stress of the bolts shows agreement within a factor of two. It is found that the safety margin for

the loosening caused by bearing-surface slip is more than ten, which is sufficient in terms of engineering application.

1. 緒 言

ボルト締結体は取り付け・取り外し可能であり,安価であるという利点がある.一方で外力が働くとゆるみが

生じる可能性があるという欠点がある.ゆるみが生じることで締結力が低下するだけでなく,ボルト破損につな

がる危険性も含んでいる.

ゆるみに対して様々な実験や解析が行われ基盤が確立している(1)~(3).筆者らは通常の陰解法に基づいた有限要

素法を用いて,準静的な軸直角方向荷重(4),軸方向荷重(5)によるゆるみを理論的に解明してきた.

一方,近年は,衝撃荷重下の機械構造物の健全性評価が盛んに行われている.衝撃荷重に対するボルト締結体

のゆるみの評価は,古賀(6),賀勢(7)らの実験的検討がある.しかしながら,有限要素法による理論的検討はほとん

ど行われていない.

一般に,衝撃荷重下の機械構造物の有限要素法解析には,陽解法有限要素法が用いられることが多い.これは,

通常の陰解法を用いた手法では,過渡的応答に対して収束解を得ることが出来ないためである.本論文で取り扱

うケースも,予備的検討として陰解法を用いた解析を行ったが,収束解を得ることが出来なかった.そこで,本

論文では陽解法有限要素法を用いて衝撃荷重下のボルトのゆるみ解析を目指す.

Shota KAMIYA, Satoshi IZUMI*2, Shinsuke SAKAI and Yoshikazu YAMADA

Key Words : Finite Element Method, Contact Problem, Fixing, Screw, Impact Loading

* 原稿受付 2012 年 6 月 25 日 *1 東京大学大学院 工学系研究科(〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1(現 JR東海)) *2 正員,東京大学大学院 工学系研究科(〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1) *3 正員,フェロー,東京大学大学院 工学系研究科 *4 コマツ研究本部 材料技術センタ(〒254-8567 神奈川県平塚市万田 1200) E-mail: [email protected]

神谷 翔太*1,泉 聡志*2,酒井 信介*3,山田 良一*4

78 巻 795 号 (2012-11)

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衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法によるゆるみ解析

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

解析対象は,油圧ショベルのスイングサークル部とする.スイングサークルとは,油圧シャベルのレボフレー

ムと呼ばれる上部旋回体の底板であるレボ底板と,トラックフレームと呼ばれる下部走行体をつなぐ旋回ベアリ

ング部分であり,インナーボルトとアウターボルトと呼ばれる多数のボルト締結が採用されている.油圧ショベ

ルは,稼働時や走行時に衝撃荷重を受けるため,締結体にどの程度の安全裕度があるのかを明らかにする必要が

ある.油圧ショベルの構造については,3・1 において説明する.

2. 陽解法によるゆるみ現象の再現

筆者らは,従来,陰解法有限要素法を用いてボルト締結体のゆるみの解析を行ってきたが(4)~(5),陽解法を用い

て同様な解析が可能かどうか検証する.

2・1 解析条件

前報(4)と同様に,ユンカー式ゆるみ試験を模擬した軸直角方向の外力を受ける締結体のゆるみの解析を陽解法

を用いて行う.図 1 にモデル図を示す.ユンカー試験は,可動板と固定板が締結され,可動板を軸直角方向に振

動させる試験であるが,有限要素法では可動板のみをモデリングし,可動板の下面を軸方向変位を拘束すること

によって,固定板をモデル化した(4).可動板を軸直角方向に準静的に 0.3mm の振幅で振動させた.締め付け軸力

は 9.4 kN(130 MPa)とした.ボルトは M10 で締付長さは 28 mm である.ヤング率は 205 GPa,ポアソン比は 0.3,

密度は 7.89×10-9 g/cm3とした.ねじ面間とナット・可動板間に接触をペナルティ法に基づく接触要素によって定

義し,摩擦係数を 0.15 とした.陰解法は ANSYS 11.0,陽解法は Radioss Block を用いた.ここで解析時間増大を

防ぐため陽解法では一次要素を用いた.本解析は陰解法では実験と非常に良い一致をすることがわかっており(4),

陰解法と比較することによって陽解法の精度を検証する.

2・2 解析結果

図 2, 3 に軸直角方向の荷重と変位のヒステリシスループを示す.荷重―変位曲線は急峻部(弾性変形の範囲),

緩勾配部(ねじ面すべり),平坦部(座面すべり)を含み,陽解法の結果は定量的に陰解法と一致していることが

わかる.また,軸力の減少と対応する平坦部の軸方向荷重の減少についても一致した(95%以上の一致).以上の

ことから陽解法において軸直角方向による回転ゆるみの再現は可能であることがわかった.

Fig. 1 FE model for loosening analysis of bolted joint

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衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法によるゆるみ解析

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

Fig. 2 Hysteresis of implicit

method

Fig. 3 Hysteresis of explicit

method

3. スイングサークル締結体評価

3・1 油圧ショベルの構造

図 4(a)に油圧ショベルの各部分の名称を示す.ショベル移動に必要な下部走行体をトラックフレーム(Track

frame)と呼び,上部旋回体をレボフレーム(Revolution frame),その下板をレボ底板と呼ぶ.トラックフレームとレ

ボ底板をつなぐ旋回部分が本研究対象であるスイングサークル(Swing circle)である.その他,油圧ショベルの土

砂をすくう部分をバケット(Bucket),ボディとつなぐ部分をブーム(Boom)ならびにアーム(Arm)といい,それら全

体を作業機と呼ぶ.また,作業機重量とのバランスを保つために,ボディ後部にはカウンタウェイト(Counter

weight)と呼ばれる重りを搭載している.

スイングサークル部拡大図を図 4(b)に示す.図 4(b)中心の円形部分にあたるスイングサークルは大きなベアリ

ングであり,スイングサークル外側の円をアウターサークル,内側の円をインナーサークルと呼ぶ.アウターサ

ークルはアウターボルトで上部旋回体と締結されている.インナーサークルは均一に並ぶインナーボルトで下部

走行体と締結されている.本研究は両ボルトをモデリングするが,特に負荷応力がより高いことがわかっている

アウターボルトに着目する.

アウターボルトで締結された部分の断面図を図 4(c)に示す.ベアリングは,ボールベアリングとなっている.

インナーボルト,アウターボルトはともに下側から締められている.本研究対象とするボルトは M22 である.

-1500

-1000

-500

0

500

1000

1500

-0.3 0 0.3tr

anse

vers

e lo

ad [

N]

transeverse displacement [mm]

-1500

-1000

-500

0

500

1000

1500

-0.3 0 0.3

tran

seve

rse

load

[N

]

transeverse displacement [mm]

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3・2 モーダル解析

衝撃解析では,構造の振動特性を再現させる必要がある.そのため,実験モード解析の結果(8)を再現するモデ

リングを行う.解析モデルを図 5 に示す.ここでは,スイングサークル部分のボルトのゆるみに関連すると予想

される振動モードのみに着目し,パケット・アーム・ブームなどの上部旋回部などの振動の再現は考慮していな

い.上部旋回部は,各パーツを重心マスでモデル化し,カウンタウェイトのみ慣性モーメントを表現するためソ

リッドモデルでモデル化した.ベアリングのモデリングは通常,多点拘束や非線形バネ要素等が用いられるが(9)(10),

ここでは簡略化のため,45°間隔のバネ要素でモデル化した.M22 アウターボルトとインナーボルトは座面のみ

に接触要素を用い,ねじ面はモデリングせず,一体化モデル(リベットモデル)とした.このようなモデリング

は,ねじのゆるみは再現できないが,締結体の剛性はよく再現することがわかっており(11) (12),また,ゆるみに最

も関係する座面すべりの評価が可能である.ただし,モーダル解析においては,接触面は固着させた.ベアリン

グのばね剛性は実験と振動の一次モードが合うように設定した.トラックフレーム下部を完全拘束し,モーダル

解析を Radioss Bulk で行った.ヤング率は 205 GPa,ポアソン比は 0.3,密度は 7.89×10-9 g/cm3とした.

Fig. 4 Structure of excavator

a) Names of excavator parts

c) Structure of swing circle b) Structure of swing circle

bearing

outer bolt

revo frame

Revolution frame

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衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法によるゆるみ解析

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

モーダル解析の結果の実験との比較を表 1 に示す.振動周波数,振動モードともに近い値が得られた.Rolling が

実験では二つの固有値が観測されているのに対して,解析では一つしか観測されなった.これは,上部旋回部の

部品のほとんどが重心マスモデルで単純化されているためであり,より精密に振動モードを再現するためには,

より精密な形状のモデリングが必要であると考えられる.本研究ではスイングサークルにのみ着目するので,定

性的な一致で妥当とした.

Table 1 Results of modal analysis

No. Experiments Analysis

1 2.4 Hz Pitching 2.4 Hz Pitching

2 4.3 Hz Yawing 3.3 Hz Yawing

3 5.7 Hz Rolling 5.8 Hz Rolling

4 6.8 Hz Rolling 12.0 Hz Twist rolling

5 10.1 Hz Twist rolling

3・3 実車衝撃負荷実験と解析の比較

本研究の衝撃解析は,図 6 のようにトラックフレーム後部を 150 mm のステップに乗り上げた状態から前進す

ることで落下させる実験に対して行う.加速度はカウンターウェイトで測定された.アウターボルトは図 7 のよ

うに 32 本の M22 ボルトで構成されているが,事前の測定で応力値が高くなるボルトを中心に測定を行った.特

に,カウンタウェイトを支えるレボフレームの支柱部分に近い 20 番のボルトが最大応力となる.アウターボルト

Fig. 5 Analysis model

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衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法によるゆるみ解析

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

には,図 7 右のように,上部と下部に 90°毎にそれぞれ 4 つのひずみゲージが貼られ,変形が測定されている.

実験の詳細は文献(13)に記載されている.

解析モデルは,モーダル解析のモデルを用いる.地面(鉄板)をソリッドモデル(ヤング率 205GPa, ポアソン

比 0.3)で作成した.地面とトラックフレームの間にも接触要素を定義し,すべりが生じないように摩擦係数を

0.5 と設定した.地面モデルを拘束し,全体に重力加速度をかけた.ボルト座面の接触部分にはペナルティ法によ

る接触を定義し,摩擦係数 0.15 とし,600MPa の締結力を与えた.

ここで陽解法においては解析時間がタイムステップに大きく依存する.ANSYS 11.0, Radioss Bulk の陰解法で静

的解析や固有値解析を行った際にはショベルアーム部分を十分剛なものとして扱ったが,剛性が高い弾性体では

タイムステップが細かくなり解析時間がかかりすぎる.そのため剛体要素でモデル化した.またタイムステップ

はメッシュサイズにも依存するため極端にメッシュサイズが細かくならないように配慮した.着地から振動の収

束までを見るため約一秒程度の解析を行った.計算時間は 3.33GHz の Xeon を CPU6 コアを用いて 12 時間程度で

ある.

図 8 に計算結果の動画のスナップショットを示す(変形倍率 5 倍).動画は参考文献(14)の URL を参照された

い.着地時にトラックフレームが大きく振動すると同時に,上部旋回部がカウンターパートの重量によって大き

く振動する.スイングサークル部は振動を吸収するような挙動を取り,下部の振動が上部に伝わらない.

図 9 にトラックフレーム後部着地時からのカウンタウェイト加速度の時刻歴の実験結果と解析結果を示す. カ

ウンタウェイト加速度が実験値の 8G 程度(80m/s2)となるように構造減衰を合わせこんだ.また,跳ね返りの周

期がおおよそ合うように,ベアリング部のバネ要素の粘性係数を調整した.

次に,ボルトの変形について比較を行う.実験において,ボルトの軸方向応力は測定位置によりばらつきがあ

るものの数十 MPa 程度であった.単純な軸方向応力がかかるのではなく,応力が増加する部分と減少する部分が

あり,曲げが発生した.応力が最大となる位置は,カウンタウェイトを支えるレボフレームの支柱が当たってい

る場所のカウンタウェイト側のボルトであり,図 7 に示すボルト 20 であった.レボフレームの前後が落ちること

でスイングサークルは前後につぶれて左右に伸びる変形をし,ボルト 20 は図 10 の変形図のように,ボルト上部

と下部で曲げ方向が反転する変形をしていることがわかった.図 10 は静的に 9G の自重をかけた解析による変形

図であるが,図 11 に衝撃解析における図 7 に示すボルトの各部(U-1~4, L-1~4)の軸方向応力の履歴を示す.

スイングサークル寄りの上部の U-1 と 4 は引張,U-2 と 3 は圧縮となり,下部(L-1~4)は符号が逆になってい

ることから図 10 と同様の曲げ変形をしていることがわかる.

図 12 にボルト 20 の軸方向応力の最大値の実験と解析の比較を示す.応力の最大値は実験で 60MPa 程度,解析

で 150MPa 程度と解析のほうが大きくなった.しかしながら,図 10 のような変形形状や,曲げがかかる方向につ

いては解析と実験で定性的に一致した.実験と解析で応力値の差が出た原因としては,モデリングの不備等が考

えられるが,現時点では衝撃実験の再現性が悪く,差を考察するための十分なデータが得られない.双方の精度

向上が今後の課題である.

また,図 9, 12 より,実験・計算ともに,着地直後の加速度,応力の値が最も大きく,その後は急激に減衰して

いることがわかる.解析結果より,これは主にベアリング部の減衰の効果であり,下部のトラックフレームの振

動が上部の旋回部には十分に伝わらず,また,上部旋回部のカウンターウェイトに起因する振動も,ベアリング

部で減衰することがわかった.

次に,ゆるみに対する裕度を考察するために,ボルト座面の接触要素より,座面の接線方向の力を求めた.結

果,最大 2kN が得られた.これは座面すべりを起こすのに必要な接線方向の力である 26kN(締結力×摩擦係数

0.15)に比べて十分小さく,座面すべりは起こらないと考えられる.また,落下高さを実験の二倍にした解析を

行ったところ,接線方向の力は 3kN となり,現実的な高さでは座面すべりは生じないと考えられ,ゆるみに対し

ては十分な裕度があることがわかった.

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衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法によるゆるみ解析

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4. 結 言

ボルトのゆるみの接触・摩擦有限要素法解析において,陽解法有限要素法解析の適用性を検討し,精度の良い

解析が可能であることがわかった.

衝撃荷重を受ける油圧ショベルのスイングサークル部のボルトのゆるみ解析に本手法を適用した.スイングサ

ークル部のボルトをリベットモデルで,ベアリングをバネ・ダッシュポットモデルでモデリングした.油圧ショ

ベルの振動モードを再現する解析モデルを作成し,実車衝撃負荷試験の衝撃解析を行った.結果,カウンタウェ

イトの加速度,ボルトの変形形状の再現に成功した.応力は二倍程度の差が生じ,解析モデルと実験の精度向上

が今後の課題である.スイングサークル部のボルトの座面すべりの裕度を解析したところ,ゆるみに関しては 10

倍以上の安全裕度があることがわかった.

本モデルにおいて実験との整合性が取れたため,より大きな障害物を乗り越える解析や落下の姿勢が変わる解

析などへの応用が可能になった.

Fig. 6 Schematics of experimental conditionFig. 7 Layout of outer bolts and gage position of

bolt 20

backward

upward

drop

forward

12345

67

8

9

10

1112

13141516 17 18 19

20 2122

23

24

32 31 3029

28

2726

25

Arm

Counter weight

U1~4

L1~4

Gage position of Bolt 20

supports of revo flame

Max. stress point

1

4

2

3

28°

M22

12.5

77.5110

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©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

Fig. 9 Time history of the acceleration of counter

weight : Comparison between experiments and

FEM

Fig. 8 Snapshots of simulation result

0.6 sec

0.0 sec

0.1 sec

0.3 sec

‐60

‐40

‐20

0

20

40

60

80

100

0 0.02 0.04 0.06 0.08acce

lera

tion

[m/s

2 ]

time [s]

experiments

analysis

Fig. 10 Deformation shape of a bolt 20

(From 9G gravitational analysis)

1600

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衝撃外力を受ける油圧ショベルのスイングサークル締結体の陽解法有限要素法によるゆるみ解析

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

文 献

Fig. 12 Time history of maximum value of stress

variation ; Comparison between experiments and FEM Fig. 11 Time history of axial stress variation; FEM result

-80

-40

0

40

80

120

160

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1stre

ss v

aria

tion

[MPa

]

time [s]

experiments

analysis

‐200

‐150

‐100

‐50

0

50

100

150

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

Stre

ssva

riatio

n [M

Pa]

time [s]

U‐1

U‐2

U‐3

U‐4

L‐1

L‐2

L‐3

L‐4

(1) 吉本勇,ねじ締結体設計のポイント,改訂版 (2002),日本規格協会. (2) 山本晃,ねじ締結の原理と設計,(1996),養賢堂. (3) 酒井智次,ねじ締結概論,増補第 4 版 (2004),養賢堂. (4) 泉聡志,横山喬,岩崎篤,酒井信介,“ボルト締結体の締付けおよびゆるみ機構の三次元有限要素法解析”,日

本機械学会論文集 A 編,Vol. 71,No. 702,(2005),pp.204-212. (5) 泉聡志,武太地,木村成竹,酒井信介,“三次元有限要素法による軸方向外力作用下でのボルト・ナット締結体

のゆるみ挙動解析”,日本機械学会論文集 A 編,Vol. 73,第 732 号,(2007),pp.869-876. (6) 古賀一夫,磯野宏秋,“衝撃摩擦の特性を考慮したねじのゆるみ”,日本機械学会論文集 C 編,Vol. 51,No. 467,

(1985),pp. 1823-1832. (7) 賀勢晋司,孫培,“軸直角方向衝撃によるねじのゆるみ挙動の基礎的考察”,日本機械学会論文集 C 編,Vol. 60,

No. 570,(1994),pp. 625-631. (8) 伊藤博幸,光田慎治,小笠原康志 ,“パワーショベルのキャブ横揺れ振動低減に関する研究”,日本機械学会環

境工学総合シンポジウム講演論文集,(1993),pp. 53-56. (9) 芋生明俊,“ハブベアリングにおける FEM 解析”,NTN Technical Review, No. 70, (2002), pp. 70-73. (10) Cao, Y. and Altintas, Y., “A General Method for the Modeling of Spindle-Bearing Systems”, Journal of Mechanical Design,

Vol. 126, No. 6 (2004), pp.1089-1104. (11) 日本機械学会編,RC-D6 締結・結合・接着部の CAE モデリング・解析・評価システム構築研究分科会研究報告書,

(2011), 日本機械学会. (12) 中島一裕,ボルト締結の有限要素法モデリング手法の有効性評価,(2005), 東京大学大学院工学系研究科修士論文. (13) 山本篤史,油圧ショベルのスイングサークルにおけるボルトのゆるみメカニズムの解明,(2012), 東京大学大学院

工学系研究科修士論文. (14) 泉聡志,“落下衝撃解析”, 酒井・泉研究室動画サイト,http://www.youtube.com/user/IZUMILAB(参照日 2012 年

8 月 15 日).

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