援助協調(internationalaidcoordination) の理論と...

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近年、世銀等のMDBsやOECDDACを中心に、ドナー・受益国間の「援助協調」の不足が、受益 国の「オーナーシップ」の欠如、「キャパシティー」の欠如を生み、さらにドナー間の「重複」を通 じて、「援助の有効性」を減じてきたとの議論がなされている。 他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現を 阻害するため、援助額の大幅な減少に繋がるのではないかとの危惧がある。 本稿では、ドナー国の「国益」を取り込んだ「援助協調モデル」の適用を中心に、援助協調を巡る 問題を検討していく。まず、OECD等の分析を参考に、「援助協調」および関連概念の整理を行うと ともに、「援助協調の不足」により受益国が「低オーナーシップの罠」に陥る可能性を持つことを示 す。これを改善するための施策をドナー・受益国国民に説明するためには、「援助協調の不足」が意 味することの理論的検討が必要となる。 そこで本稿では、開発援助の準公共財的特性に着目し、ドナー国の国益や戦略的行動を明示的に定 式化した「援助協調モデル」の構築・適用を試みる。このモデルによれば、)ナッシュ均衡下で援助 額は、「狭義の国益」(個別ドナー国に特定の政治的・経済的利益)の増大、「援助提供コスト」の削 減、「援助効率」の改善により増大することが示され、さらに、*「援助協調」がドナーの援助方式 をパレート優位な交渉解へと転換させる可能性を持つことから、+「援助協調」を導入することによ り、協調・コスト削減・効率改善を通じ、援助額はむしろ増大する可能性があることが示される。, 「援助協調」により援助額が減少すると考える背景には、「狭義の国益」の減少懸念があると思われ る。しかし、近年の主要ドナー国の援助額を見ても、必ずしも特定の経済的利益(タイド援助比率) に従って増減しているわけではない。「援助協調」は全体として、ドナー国の「広義の国益」の増進 に寄与し、その限りにおいて、自発的で持続可能な援助額の増大が見込まれる。 本稿ではさらに、このモデルに基づく従来の援助協調手法(CG会合等)の問題点と近年の援助協 調手法(SWAps、Partnership、Common Pool等)の利点を示した後、CDFのパイロット国である ベトナムの援助協調の現状を概観し、異なる援助目的を持つドナー間の援助協調を進めることによ り、双方の国益の増進と援助額の節約に寄与する可能性があることを、理論モデルを用いて示す。こ こで、パレート効率的「援助協調」解へ移行する際の「仲介役」としての、世銀等の国際機関の役割 にも言及する。またベトナムにおける「開発銀行間の協調」に見られるように、「援助協調を通じた 『顔の見える援助』」を行うことも可能である。 Abstract In recent years, international aid communities, OECDDAC and MDBs, in particular, have cautioned that the“lack of International Aid Coordination”would lead to the lack of“Ownership” and“Capacities”ofrecipients’countries.The lack of Coordination, amplified by the“Overlapping” , of the activities for development assistance would then reduce their effectiveness to the objec- tives, e.g. Poverty Reduction. 援助協調(International Aid Coordination) の理論と実際 「援助協調モデル」とベトナム長崎大学経済学部教授 木原 隆司 2003年9月 第17号 23

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Page 1: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

要 旨

近年、世銀等のMDBsやOECD/DACを中心に、ドナー・受益国間の「援助協調」の不足が、受益

国の「オーナーシップ」の欠如、「キャパシティー」の欠如を生み、さらにドナー間の「重複」を通

じて、「援助の有効性」を減じてきたとの議論がなされている。

他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現を

阻害するため、援助額の大幅な減少に繋がるのではないかとの危惧がある。

本稿では、ドナー国の「国益」を取り込んだ「援助協調モデル」の適用を中心に、援助協調を巡る

問題を検討していく。まず、OECD等の分析を参考に、「援助協調」および関連概念の整理を行うと

ともに、「援助協調の不足」により受益国が「低オーナーシップの罠」に陥る可能性を持つことを示

す。これを改善するための施策をドナー・受益国国民に説明するためには、「援助協調の不足」が意

味することの理論的検討が必要となる。

そこで本稿では、開発援助の準公共財的特性に着目し、ドナー国の国益や戦略的行動を明示的に定

式化した「援助協調モデル」の構築・適用を試みる。このモデルによれば、�ナッシュ均衡下で援助

額は、「狭義の国益」(個別ドナー国に特定の政治的・経済的利益)の増大、「援助提供コスト」の削

減、「援助効率」の改善により増大することが示され、さらに、�「援助協調」がドナーの援助方式

をパレート優位な交渉解へと転換させる可能性を持つことから、�「援助協調」を導入することによ

り、協調・コスト削減・効率改善を通じ、援助額はむしろ増大する可能性があることが示される。�

「援助協調」により援助額が減少すると考える背景には、「狭義の国益」の減少懸念があると思われ

る。しかし、近年の主要ドナー国の援助額を見ても、必ずしも特定の経済的利益(タイド援助比率)

に従って増減しているわけではない。「援助協調」は全体として、ドナー国の「広義の国益」の増進

に寄与し、その限りにおいて、自発的で持続可能な援助額の増大が見込まれる。

本稿ではさらに、このモデルに基づく従来の援助協調手法(CG会合等)の問題点と近年の援助協

調手法(SWAps、Partnership、Common Pool等)の利点を示した後、CDFのパイロット国である

ベトナムの援助協調の現状を概観し、異なる援助目的を持つドナー間の援助協調を進めることによ

り、双方の国益の増進と援助額の節約に寄与する可能性があることを、理論モデルを用いて示す。こ

こで、パレート効率的「援助協調」解へ移行する際の「仲介役」としての、世銀等の国際機関の役割

にも言及する。またベトナムにおける「開発銀行間の協調」に見られるように、「援助協調を通じた

『顔の見える援助』」を行うことも可能である。

Abstract

In recent years, international aid communities, OECD/DAC and MDBs, in particular, have

cautioned that the“lack of International Aid Coordination”would lead to the lack of“Ownership”

and“Capacities”of recipients’countries. The lack of Coordination, amplified by the“Overlapping”,

of the activities for development assistance would then reduce their effectiveness to the objec-

tives, e.g. Poverty Reduction.

援助協調(International Aid Coordination)

の理論と実際

―「援助協調モデル」とベトナム―

長崎大学経済学部教授 木原 隆司

2003年9月 第17号 23

Page 2: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

目 次

While many advocate that further coordination among actors are necessary, some donors are

so cautious that the advancement on the aid coordination would hamper the“national interest”

embodied by the“Visibility”of the specific donor’s assistance”, thus significantly reduce the

amount of aid.

To see the issues on Aid coordination including above, in this paper,“Aid Coordination

Model”is developed. The delivery of development assistance has a characteristic as“joint prod-

ucts”where aid produces public benefit(e.g poverty reduction)as well as a donor―specific benefit

(political or economic strategic interest). Maximizing the donors’“national interest functions”by

the aid delivery and Nash―equilibrium setting, this model indicates that,(i)a reduction in“aid de-

livery cost”(a part of“transaction cost”),(ii)an enhancement of“aid efficiency”for development

objectives, and(iii)a rise in a donor―specific benefit(i.e.“national interest in narrow term”),

would increase the amount of foreign aid to be delivered.(iv)“Aid Coordination”makes it possi-

ble for the situation of Nash―equilibrium to move toward“Pareto―optimal”among donors, as well

as the recipients. Under the plausible assumption on donors with“strategic substitute”, this move

would increase the amount of aid deliveries in total. Fears of the sharp decline in the amount of aid

come from the possible reduction in“national interest in narrow term”. However, it is not neces-

sary, and in fact, recent trends in aid deliveries of G5countries do not necessarily correlate with

“Tying aid ratios”(indicators for direct economic benefit).

This paper further points out, by applying the results of the Model above, some shortfalls of

aid coordination mechanisms so far(e.g. CG meeting)and the advantages of newly introduced aid

delivery mechanisms(SWAps, Partnership and Common―Pool)for better aid coordination. Aid co-

ordination in Vietnam is taken here as a case study, and the Model can be used to analyze aid co-

ordination among donors with different“objectives”(i.e. with or without donor―specific benefit)

perceived in Vietnam. Aid coordination among them would enhance“national interest in broader

term”of both, and contribute to“save”the amount of aid delivery of a donor who receives a spe-

cific benefit from the aid. The role of International Organizations to promote the move from non―

cooperative Nash―equilibrium to cooperative negotiated solution, and the way to make the donor

“visible”under aid coordination are also mentioned.

1.はじめに …………………………………………………………………………………………………25

2.概念整理(定義)―「援助協調」、「取引費用」および「負担」……………………………………26

(1)「援助協調」の定義 ………………………………………………………………………………26

(2)「取引費用」とは …………………………………………………………………………………27

(3)「負担」と「取引費用」……………………………………………………………………………29

3.開発援助と「負担」 ……………………………………………………………………………………30

(1)開発援助の効果と「援助疲れ」 …………………………………………………………………30

(2)「援助協調の欠如」と「負担」……………………………………………………………………30

(3)主要な「負担」の具体例 …………………………………………………………………………32

4.援助協調の「理論」―「援助協調モデル」の適用……………………………………………………33

(1)開発援助の目的(動機)と期待される成果 ……………………………………………………33

24 開発金融研究所報

Page 3: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

1.はじめに

「…過去10年間に国際社会全体で40万件以上の

プロジェクトが実施され、現在8万件ものプロ

ジェクトが実施されている。…(中略)ある国の

例えば教育セクターに関心を持っているのであれ

ば、20~30の競合するプロジェクトが並行して実

施されていることに気づくであろう。(しかし)

世銀の場合は確かに、理事会でプログラムの承認

を受ける時に、20以上の他機関のプロジェクトに

ついて述べることはめったに無い。これはばかば

かしいことだ。我々は協力もせず、協調もせず、

他機関の経験から学ばず、いや、我々自身の経験

からすら学んでいない。」(James D. Wolfensohn,

“Cooperation and Partnership―Harmonizing the

activities of Development Agencies for Poverty

Reduction”2003年2月ローマ「調和化会合」)(仮

訳)

「…各ドナー国は対外援助について自国への説

明責任を負っているが、一方で、他のドナーと協

調しようとはしない。その結果、タンザニアのよ

うな国は、数年前まで毎年2,400の四半期報告書

を書き、1,000回のドナー・ミッションを受け入

れていた。」(James D. Wolfensohn,“Ending the

Unilateral Approach to Aid”Financial Times,

September25,2002)(仮訳)

近年、途上国への資金の流れの重要な部分を占

める開発援助に関して、貧困削減等の開発目的に

「有効な援助」はどうあるべきかの議論が活発に

行なわれている。こうした中で、ドナー間の「援

助協調」の不足が、受益国の「オーナーシップ」

の欠如、「キャパシティー」の欠如を生み、さら

にドナー間の「重複」を通じて、援助の有効性を

減じてきたとの議論がある。例えば、世界銀行の

主導する「包括的開発フレームワーク」(CDF)

は、開発の社会的側面の取り込みや受益国のオー

ナーシップの改善とともに、開発援助機関間の役

割分担を明確化し、ドナー間の「重複」を避ける

こともその目的としている。また、国際金融機関

改革を提唱している米国の「メルツアー報告」や

近年のサミットのG7ステートメントにおいて

も、ドナー間の重複が問題視され、「援助協調」

の重要性が謳われている。このような流れを受け

て、OECD(経済協力開発機構)/DAC(開発援

助委員会)、およびMDBs(国際開発金融機関)

では開発援助に係る「調和化作業」(Harmoniza-

tion)を進め、2003年2月、ローマで「調和化に

関するローマ宣言」や「Good Practice Papers」

を取りまとめるなど、援助協調に関して一定の成

果を挙げてきている。冒頭のウォルフェンソン総

裁の主張のように、プロジェクトの「拡散」が受

益国の「負担」を生んでおり、「援助協調」の必

要性が高まっているとの認識は国際社会で共有さ

(2)「国益」を反映した援助協調モデル …………………………………………………………34

(3)狭義の「国益」と援助額………………………………………………………………………38

5.援助協調の「実態」―援助協調手法の進展と改善分野 …………………………………………40

(1)これまでの援助協調手法………………………………………………………………………40

(2)新たな援助協調手法:「SWAps」「パートナーシップ・アプローチ」および「コモン・プー

ル・アプローチ」 ……………………………………………………………………………43

(3)どの「ドナーの慣行」を改善すべきか―援助協調の必要分野 ……………………………45

(4)「負担」、「優先分野」と援助協調パラメーター ……………………………………………48

6.ケース・スタディー―ベトナムの援助協調とモデルの適用 ……………………………………49

(1)ベトナムへの援助パターン……………………………………………………………………50

(2)ベトナムへの援助にかかる「負担」の所在…………………………………………………51

(3)ベトナムにおける援助協調の「グッド・プラクティス」…………………………………53

(4)ベトナムにおけるCDFの展開=「パートナーシップ」……………………………………58

7.結語……………………………………………………………………………………………………62

2003年9月 第17号 25

Page 4: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

れてきている。

他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進

展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

を阻害するため、援助額の大幅な減少に繋がるの

ではないかとの危惧がある。*1

「援助協調」とは何を意味し、それが開発効果

にどのようなインプリケーションを持つのか。

「援助協調の不足」が開発目的達成を阻害する理

由の一つであるとすれば、援助協調を阻害する要

因は何か。そもそも、援助協調はドナー国の援助

目的を阻害し、「国益」に寄与しないのか。援助

協調にはどのような方法があり、実際、どのよう

な取り組みが行なわれているのか。

このような問題意識の下、本稿ではドナー国の

「国益」を明示的に取り込んだ「援助提供モデル」

の適用を中心に、「援助協調」を巡る問題を検討

していく。まず、第2章で「援助協調」の概念整

理を行い、第3章で援助提供に係る「負担」と「援

助協調」との関連を検討する。第4章は、ドナー

国の「国益」最大化とナッシュ均衡を前提とした

「援助提供関数」およびパレート優位の状態を実

現する「援助協調モデル」の分析から、援助協調

はドナー国の(広義の)「国益」の増進に寄与す

るものであり、必ずしも援助額を減少させるよう

なものではないことを示す。第5章では、援助協

調の「実態」について、第4章で示した理論モデ

ルのパラメーターとの関連させながら、OECD、

Kanbur et. al(1999)等の分析や、実地調査で明

らかになった受益国の協調の「優先分野」等を見

ていく。第6章では、一国における援助協調の例

として、ベトナムの実態と異なる開発目的を持つ

ドナーに対するモデルの適用可能性等を検討す

る。第7章では、それまでの議論をまとめ、今後

の課題を示す。

2.概念整理(定義)―「援助協調」、「取引費用」および「負担」

(1)「援助協調」の定義

� 世界銀行による定義

世界銀行の援助協調に関する分析ペーパー

(Eriksson(2001))は、「「援助協調」という言

葉の意味することについてのコンセンサスは無

い」とした上で、「(ここでは、)開発効果を最大

化するように開発資金を動かし、若しくは政策、

プログラム、手続き、慣行を「調和」させようと

する、複数の開発パートナーの活動を「援助協調」

と呼ぶ」と定義している。この定義によれば、援

助協調の目的は、(�)開発資金の動員もしくは、

(�)「調和化」によって、開発効果を増大させ

ることにある。なお、「調和」とは、「開発パート

ナー間の政策、プログラム、手続き、慣行を揃え

て、無駄や不整合性を軽減・除去すること」とさ

れる。ここでは、援助協調は以下の三つのレベル

に分けられる。

(イ)他のアクターの活動・計画・見通しを理解

するための、「情報共有と協議」

(ロ)政策、戦略目的、主要な手続き・慣行に関

するコンセンサスを得るための、「戦略的協

調」(ただし、各ドナーが別個にプロジェク

トをファイナンス)

(ハ)共通のプログラムやプロジェクトを実施し、

共同でファイナンスする合意を得るための

「実施上の(operational)協調」

このように世銀のペーパーでは、政策や戦略の

共通化、プール資金使用等の手法のほか、資金量

確保のための協調も「援助協調」の範疇に含めて

いる。

� OECDによる定義

上記の世銀の定義に対してOECDの「サヘル・

クラブ」による援助協調メカニズムに関するペー

*1 2001年度ODA白書(P,9)は近年の援助協調手法を評価しながらも、「従来の援助のやり方を一時に変更することは容易では

ありません。また性急に事を進めては現在行われている開発援助に混乱を生じかねません。」として、新たな援助協調手法の

早急な進展に懸念を示している。

26 開発金融研究所報

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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

パー(Club du Sahel(2000))の定義では、「援

助協調」は「複数のドナーと受益機関との間のあ

らゆる制度的接触」と広範な分野を含むものと

なっている。しかし、「援助協調」の促進を目的

とするOECDのドナー・プラクティス*2作業部会

の活動自体は、政策面より手続き面に重点が置か

れているように思われる。

例えば、OECD―DAC/Donor Practices「ベト

ナム―国別ケース・スタディー」(Bartholomew

and Lister(2002))では、「ドナー・プラクティ

ス」を「開発機関が受益国の対外資金利用に対し

て受益国に課す運営方針および手続き要件。ただ

し、マクロ経済的要件や政治的要件といったコン

ディショナリティーは含まない」と定義し、ド

ナー・プラクティスに係る問題の所在を各主体の

「目的」や「コンディショナリティー」の相違で

はなく「手続き要件」の相違として捉えている*3。

しかし、例えば、持続的成長を確保するマクロ経

済政策、成長目標や貧困削減目標の「コンディ

ショナリティー」を「調整」せずに手続き面のみ

調整しても、オーナーシップの付与や取引費用の

削減への貢献は限られたものとなりかねない。

援助効果の発現を促進することが「援助協調」

の目的であるとすれば、その範囲をドナー間のみ

の協調や手続き面の調整に限定することは、目的

達成の観点からは一面的に過ぎると思われる。

本稿では、「援助協調」の概念を最も広く捉え、

「援助効果を発揮させるような開発資金を確保

し、開発援助提供に係る受益国およびドナーの取

引費用や負担を軽減することを目的とした、ド

ナー間およびドナー・受益国間の調整活動全般」

との定義を用いて分析を進めることとしたい。

従って、本稿の「援助協調」の概念には、手続き

のみならず政策や戦略の協調も含まれ、援助効果

の発揮を促す十分な援助額の確保策も含まれるも

のとする。

(2)「取引費用」とは

しばしば、援助協調の目的は「取引費用(Trans-

action Costs)」の削減にあるといわれる。しかし、

この「取引費用」の概念についても論者により相

違が見られる。

� OECD―DAC/Donor Practices「ベトナ

ム―国別ケース・スタディー」

このケース・スタディーで「取引費用」は、「対

外開発援助の提供(delivery)に際し、準備・交

渉・実施(implementation)・モニタリングおよ

び合意の強制(enforcement)に起因する費用で

あり、以下の3類型からなる」ものと定義される。

・「管理費用」=援助提供に必要な資源の投入に

起因するもの。援助管理要員の業務量等。

・「間接費用」=援助提供メカニズムが開発目的

の達成に対して持つ効果(impact)に起因す

る費用。受益国のオーナーシップの欠如、ディ

スバースメントの遅れ、新規支援への嫌気、等

・「機会費用」=援助の授受に伴い費消された資

源を代替的に利用することにより得られるはず

であった便益。政府要人の時間を援助管理では

なく政策策定に充てた場合の便益、等。

� OECD/バーミンガム大学による�NeedsAssessment Report�OECDの�Good Practice Papers�提言(*2参照)の前提となるこの調査においては、「援助

コスト」を「取引費用」と「機会費用」とに分類

し、以下のように定義している。

(�)援助の「取引費用」

(イ)援助の「管理費用」(ドナーから受益国に

援助を移転させる際のコスト)

(ロ)援助の「企画、モニタリング費用」(援助

*2 OECDでは2002年末までに、「グッド・プラクティス参照文書」を作成することを目的として、2001年1月、「ドナー・プラク

ティス作業部会」(TFDP)が設立された。その作業の主たる目的は、「パートナー国(受益国)の援助管理能力に対する負担

を効果的に軽減し、取引費用を引き下げるようなドナー・プラクティスを識別・文書化することを通して、(受益国の)オー

ナーシップを強化すること」にあるとされる。

*3 このペーパーによれば「ドナー・プラクティス」には以下のものが含まれる;�開発プロジェクトやプログラムの認定・企画

への参加、�情報に関する要件、�資金管理に関する取り決め、�監査に関する取り決め、�報告・モニタリングに関する取

り決め、�プロジェクト/プログラム評価に関する取り決め。

2003年9月 第17号 27

Page 6: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

を企画し、進捗状況やインパクトをモニ

ターするコスト)

(�)受益国機関の開発に係る「機会費用」(受益

国政府による援助が実施されない場合の

「効率ロス」(モラルや士気の低さ、ドナー

の援助システム並存に伴う有能な人材の損

失)および「オーナーシップの欠如」)

ここでいう「機会費用」は上記ベトナム・

ケース・スタディーにおける「間接費用」

に対応する部分を含むものと考えられる。

� 「協調コスト」

世銀(Eriksson(2001))によれば、「援助協調」

自体にもコスト(「協調コスト」)がかかる。これ

は、職員の時間給、出版経費、旅費、会議費等の

「直接費用」と、援助協調参加者の「機会費用」

とに分けられる。しかし、世銀の財務諸表やCG

会合等について行ったサンプル調査では、援助協

調にかかる「直接費用」は「中核的開発サービス」

コストの1~3%(毎年1,110万ドル~2,650万

ドル)に過ぎない。世銀と共に援助協調活動を積

極的に行っているUNDPでも同程度のコストであ

るという(Club du Sahel(2000))。受益国内の

援助協調参加者にとっては、会合参加の(上記�

の意味での)「機会費用」が問題となるが、近年、

支援国会合(CG会合)等の援助協調活動は受益

国内で行うケースが増えてきており、パリやワシ

ントンに出張する従来のCG会合に比べれば低コ

ストになっていると考えられる。

なお、個別受益国政府・ドナーへのインタ

ビューでも、一部に「協調コスト」への不満が聞

かれる(OECD(2002b))。例えば、タンザニア、

ウガンダでは、特定セクター・プログラム全体を

協調して支援する「セクター・ワイド・アプロー

チ」(以下「SWAps」と呼ぶ)への移行により、

「ドナーのコストは(特に調整委員会等の議長国

で不均等に)増加」したとの不満が聞かれるとい

う。また、受益国政府(タンザニア)でも、ドナー

との接触が財務省に集中するため、財務省のコス

トが増大したと言われる。

しかし、援助協調に伴うドナーのコストは

SWAps等のイニシアティブ開始時に起こる「一

時的なもの」で、長期的にはこれらのコストは減

少すると考えられる。また、ドナーは本部からの

インプットやミッションの減少、入札・契約・支

払い等に係る仕事量の減少により、コスト削減の

利益を得るはずである。さらに、財務省のコスト

が増えても関係事業省のコストは減るので受益国

政府全体としてコスト増となるかどうかは明確で

はない。先述の世銀の例に見られるように、「協

調コスト」はあるとしても軽微なものと考えられ

る。

� 援助協調のコストと便益

以下の図表1は、援助協調により期待される受

益国の便益と、援助協調に伴うドナーのコストを

示したものである。

この表が示すとおり、ドナー国のコストが余り

高くない「援助協調手法」でも、受益国の便益が

高いものが多数存在する。後に理論モデルを用い

て示すように、この表で比較的容易に実行可能と

されている「優先分野の整合性改善」だけでも、

各ドナー・受益国の効用を大幅に改善する可能性

があるし、「共同ミッション」や「共通の報告手

続き」は援助提供コストを削減し、ドナー・受益

国双方の効用増大、援助額増加に資する可能性が

ある。

図表1 異なる援助協調手法の相対的便益とコスト

受益国の便益

低 い 高 い

ドナー国のコスト

・プロジェクトのアンタイド化・援助輸入(調達)のアンタイド化・共通基金(コモン・ファンド)へのイヤマークしない拠出・共通の調達・ディスバース手続き・選択性の強化

・共通の予算サイクル・情報共有の改善

・共同ミッション・バスケット・ファンドへのイヤマークした拠出・共通の報告手続き・優先分野の整合性の改善

出所)Club du Sahel(2000)

28 開発金融研究所報

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開発援助効果�(成長、貧困�削減、安定、�国際公共財の�提供等)�

援助提供� 「援助協調」�により軽減�

「取引費用」�過大な�負担�

不要�援助効果発揮�に必要�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

� 「取引費用」の再定義

このように、「援助提供に係るコスト」につい

ての一般的な定義は無く、機会費用の概念にも混

乱が見られる。概括的に言えば、援助提供に係る

コストの中には、(イ)援助の事前調査、企画、

資金移転、調達、資金管理、モニタリング、評価

等に明示的にかかる「直接費用」(「管理費用」若

しくは「取引費用」)と、(ロ)明示的ではないが

援助管理担当者をより便益が大きい代替的用途に

用いることができない(時間が無い)ことに起因

する「(狭義の)機会費用」、および(ハ)オーナー

シップの欠如、士気の低下、援助実行の遅れ、援

助額の減少等、援助が効率的・効果的に行われな

いことに起因する開発効果に対するコスト(「間

接費用」若しくは「(広義の)機会費用」)を含む

ものと考えられよう。さらに、援助協調にも、

(ニ)「協調コスト」がかかるが、上述のとおり、

最も多くの援助協調活動を行っている世銀におい

ても、このコストは軽微なものという調査結果が

出ている。

後に展開する理論モデルでは、上記(イ)(ロ)

および(ニ)のコストを「援助提供コスト(P)」

として取り扱い、上記(ハ)の開発効果の発現に

対するコストは「援助効率(μ)の低下」若しく

は「ナッシュ均衡状態」として取り扱う。このよ

うに分類する方が、コストが直接的なものか、

(援助の価値を引き下げるような)間接的なもの

か、コストの発生段階がドナー間あるいはドナー

と受益国の関係で起こるか、受益国国内の制度・

政策・能力等の不足により起こるかを示すことが

できるため、コスト削減の源泉や効果が把握しや

すくなると思われる*4。

(3)「負担」と「取引費用」

援助に係る「(過大な)負担」は「取引費用」

と同義ではない(Bartholomew and Lister

(2002))。援助提供にある種の取引費用は避けら

れないもので、コストは掛かっても通常それを上

回る便益が発生するために援助が行われる。「負

担」とは、ある種の「不必要な、若しくは過大な

コスト」が掛かっていることであり、何が「過大」

となるかは受益国の援助受け入れ能力(キャパシ

ティー)にも関連する。「過大な負担」を軽減す

るには、ドナー・受益国双方の努力が必要とな

る。

このように見てくると、「援助協調」の究極的

な目的は、適切な援助資金を確保し、共通の援助

目的の達成を阻害しないように「不必要な取引費

用」(「過大な負担」)を軽減していくことにある

と言えよう*5(図表2参照)。

*4 なお、経済学的に「取引費用」は、「異なる統治構造の下で、作業完遂の計画・採択・モニタリングにかかる相対的コスト」(Wi-

iliamson 1989)若しくは、「交換される価値物の測定に掛かるコスト、および権利を守り合意を形成・執行することに掛かる

コスト」(North1990)と定義され(A.K. Dixit“The making of Economic Policy”(1996))、機会費用や強制のためのコスト

も含む幅広い概念となっている。

*5 ただし、UNDP and DFID(2000)がベトナムの実地調査から指摘するように、�追加的コスト(国内資金ではなく援助であ

るがためにかかる報告・監査・モニタリング等のコスト)の分別、�援助提供に伴う(報告制度の改善等の)目に見えない便

益の扱い、�測定不能な(オーナーシップの欠如等の)間接費用や機会費用の存在、�援助活動の拡散による箇所付けの困難

性、�受益国・ドナー間でのコストとしての認識の違い(政策対話をコストと考えるか便益と考えるか)等により、「「取引費

用」を数値化することは困難」と言われている。なお、受益国の直接費用は大きくなく、ベトナムではPMU(プロジェクト

管理ユニット)のためのコストは、小規模プロジェクトで建設費の2.3%、大規模プロジェクトで建設費の0.13%程度であ

る。ドナー側の直接管理費用も同程度で、世銀はプロジェクト準備に約35万ドル、受益国政府への管理支援45万ドル、実施中

のプロジェクト管理に7万ドル、完了報告書に3万5千ドルとプロジェクト当たり90万ドル程度かかる。一億ドルのプロジェ

クトであれば、0.9%程度となる。

図表2 「取引費用」と「負担」、「援助協調」の関係(概念図)

2003年9月 第17号 29

Page 8: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

百万ドル�

ドル�

50,00045,00040,00035,00030,00025,00020,00015,00010,0005,0000

12

10

8

6

4

2

0

年� 1963

1967

1971

1975

1979

1983

1987

1991

1995

1999

ODA:Total Net($ Milion)�ODA per Capita($)�

2001

%�

2.5

2

1.5

1

0.5

0

年� 1962

1965

1968

1971

1974

1977

1983

1980

1986

1989

1992

1995

1998

2001

3.開発援助と「負担」

(1)開発援助の効果と「援助疲れ」

Kanbur. et. al(1999)によれば、開発援助が

貧困削減等の目的達成に対して有効に機能してこ

なかったことが、先進ドナー国の「援助疲れ」に

拍車をかけているとされる。

OECD諸国からのODAは各国の財政事情も

あって91年をピークに減少傾向にあり(World

Bank(1998))、ドナー国の対GDP比で91年の

0.33%から2000年には0.22%にまで減少してい

る(OECD・International Development Statis-

tics(2002))。

図表3および図表4はOECDのIDS(国際開発

統計)から作成したものである。DAC(開発援

助委員会)諸国からの二国間ODAの純支出額(図

表3の左目盛り)は、受益国全体について91年か

ら減少し始め、98、99年に若干増加したが、

2000、2001年には再び減少していることがわか

る。さらに、受益国の一人当たりODA受け入れ

額(右目盛り)も同様の動きを示している。

図表4は受益国の総国民所得(GNI)に対する

援助額の割合を示したものである。76年頃までは

援助額の増大にも関わらず、受益国全体の所得が

それ以上の増大を示したことを反映して援助/所

得比率が低下していたが、その後は援助額の推移

と同様の動きを示している。80年代、90年代の受

益国の所得増加が援助増加以上のものではなかっ

たこと、従って援助が受益国全体の成長を必ずし

ももたらさなかったことを示していると考えられ

る。

Burnside and Dollar(2000)の実証分析でも、

援助が独立して受益国の成長を促進することは無

い(ただし、良好な政策環境のもとであれば援助

は成長を促進する)との結果が出ており、世銀の

「世界開発金融2001」(World Bank(2001))も

援助は国内投資を増やすものの生産性向上には寄

与せず、援助額を増加させても政策や制度の改善

にはめったに結びつかないと述べている。

何故、援助は貧困削減等の開発目的に必ずしも

有効に機能してこなかったのであろうか。Kan-

bur. et. al(1999)は、従来の開発援助の効果が

希薄だった理由として、�ドナーが開発目的より

政治的な目的に従った援助行動を取ったこと、�

受益国のオーナーシップの欠如が、援助への依存

を高めるとともに、受益国はドナーの要求(コン

ディショナリティー)を満たすことに没頭せざる

を得なかったこと、に加えて、�「ドナー間の協

調の欠如」により、一つの受益国の中で極めて異

なる援助システムが並存していたことをその理由

に挙げている。

(2)「援助協調の欠如」と「負担」

では、具体的に援助協調の欠如がどのような

「メカニズム」で「重い負担」を受益国に与えて

いるのであろうか。OECDの�Needs AssessmentReport�(OECD(2002b))は以下のように説明

図表3 二国間政府開発援助(ODA)の推移(DAC合計)

図表4 ODAの対受益国GNI比率(%)

30 開発金融研究所報

Page 9: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

援助ディスバース�メント上の問題�

ドナー側の柔軟性の欠如�

システムの重複(ドナー及び受益国)�

受益国の政策、及び�キャパシティー�

受益国公務員の時間の過剰な使用�

新たな報告取り決め� 情報共有の欠如�

受益国政府を経由し�ない援助�

受益国のシステムへの不信感�

調和メカニズムの欠如� ドナーの政策、及び報告義務�

する。

上記の図表5は、ドナー・受益国双方の問題が

関連し合いながら援助の負担を生み出している構

造を概念的に示している。�まず受益国側で、

「受益国のキャパシティーと政策」の問題がある。

これは、ドナーが課す要件に対する受益国のキャ

パシティー(技能、資源、技術のほか、政策の策

定・実施能力)の問題と、受益国の政策とドナー

の政策との不一致をどう調整するかの問題であ

る。�次にドナー側には、「ドナー機関の政策と

特定の要件」の問題がある。国内に対する報告要

件等で各ドナー間に違いがある他、ドナー機関が

現地事務所に十分な権限委譲を行っていないため

に、現地の状況にあった対応を困難にしていると

の指摘もある。�最後に、これら二つの問題に対

する「調和メカニズムが欠如」していることが、

ドナー・受益国に過大な負担を引き起こす。受益

国の「重い負担」の根底には、以下に述べるよう

な、「低い信頼関係」「受益国のオーナーシップの

低さ」および「受益国にとって良い援助を行おう

というドナーのインセンティブの弱さ」があると

される。

(�)低い信頼関係

(a)ドナーは、受益国政府が援助をうまく管

理できないのではないかとの危惧を抱く。

そのため、ドナーは「受益国政府を経由

せずに援助」を行ったり、受益国の政策

変更等を求めたりする。

(b)受益国政府は、「援助の金額・期間・条件

等が予見できない」ことから、ドナーに

不信感を抱く。そのため、受益国は、不

可能と判っていても「全てのドナーのオ

ファーを受け付け」たり、「複数の援助

チャンネル」を維持したり、ドナーに長

期のコミットメントを求めたりする。

(�)受益国政府のオーナーシップの低さ

ドナーが「受益国政府を経由せずに援助」を行

うことは、(イ)受益国政府の援助活動への参加

が確保されないばかりでなく、(ロ)複数ドナー

が「援助システムを並存」させるため「受益国政

府の専門家を取り合う」こととなり、受益国政府

のオーナーシップをさらに低下させる。これが政

府の「能力開発を遅らせ」、「信頼関係をさらに悪

化」させる。

これは、以下の図表6に示す「低オーナーシッ

プの罠」の状態を生み出す。すなわち、受益国政

府のキャパシティーの低さがドナーの不信感を生

み、並存するドナー独自の援助システムを作るこ

とに繋がる。これが受益国のオーナーシップの低

さを生み、さらにドナーの不信感に繋がるとい

う、悪循環を繰り返す。

(�)良い援助を行おうというドナーのインセン

ティブの弱さ

ドナー機関では、伝統的に、「自分の援助」を

有効に活用することに重きがおかれ、受益国政府

の能力開発や、コスト削減のためのドナー間協調

図表5 ドナー・受益国の負担の相互関係

出所)OECD(2002b)に加筆

2003年9月 第17号 31

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ドナーの受益国政府に対する不信感�

受益国政府のオーナーシップの欠如�

援助システムの並存�

受益国のキャパシティーの低さ�

に対する優先度は低い。これも受益国の「負担」

に繋がる。

(3)主要な「負担」の具体例

では、具体的に受益国は、どのようなことを

「不必要な取引費用」すなわち「負担」と考える

のであろうか。OECD(2002b)は、援助提供に

係る「ドナーの慣行」の中で何が受益国の「負担」

となっているか調査するため、受益国13カ国(バ

ングラディシュ、ボリビア、エジプト、モザン

ビーク、ルーマニア、セネガル、フィジー、サモ

ア、バヌアツ、タンザニア、ウガンダ、ベトナ

ム)の政府職員等へのインタビューを実施した。

図表7は、頻繁に指摘された「負担」を、指摘の

多かった順に分類、整理したものである。

最も頻繁に負担が多いと指摘された「受益国の

優先分野やシステムに合致していない」ドナーの

慣行には、ドナーが受益国政府とは異なる「並行

した援助管理システム」を構築してしまうこと(ボ

リビア)や、受益国の貧困削減戦略を承認しても

ドナーが異なる活動を実施してしまうこと(ウガ

ンダ)等が含まれる。

次に負担が多いと指摘された「個別ドナーの手

続き」には、「調達」に係る自由度の欠如、不適

切な「技術支援」、ドナーの援助システム・政策・

スタッフの「頻繁な変更」が含まる。特に、担当

省庁に関連する国有企業からの入札を認めない等

の制限を課す「受益国の特定企業を排除するタイ

プのタイド援助(入札制限)」は、資材・設備が

必ずしも適切な品質のものではなく、競争入札よ

り高くつくため、援助の価値を大きく減じるもの

と指摘されている(ベトナム)。現地の専門家を

技術支援に活用しないことや、援助をタイド化す

るのは、現地のシステムをドナーが信頼していな

いためであり、不信感から「グリム兄弟」など国

際的に有名な童話を教科書に採用することすら

「暴力を助長する」として認めないことがあると

の不満が出ている(エジプト)。

3番目の「ドナー間の不整合」は、ドナーの国

内での説明責任と援助政策に起因し、議会等への

説明責任から「バスケット・ファンディング」へ

の参加が制限されているドナーもいる。その他、

貧困削減戦略のインパクト評価を行うための「家

計サーベイ」について、調査体系が統一されてい

るにも拘わらず、各ドナーが異なる報告義務を課

している例(ボリビア)等がある。

4番目の「期限内に過大な要求」を課すドナー

慣行は、いわゆる「ミッション・アプローチ」(現

地および国際コンサルタント等がミッション・

チームを形成し、極めて短期間に特定課題をレ

ビュー)と関連している。このようなミッション

では、ドナーの日程が尊重され、受益国職員には

即座の回答が要求される。特に、同一援助機関

(世銀等)から同一案件に対していくつものミッ

ションが現地を訪問するため、受益国政府職員は

何度も同じことを回答せねばならず、また、当該

機関の現地事務所にも過重の負担がかかっている

との指摘がある(ウガンダでは世銀から同時期に

6つのミッションが来たと報告されている)。

5番目の「援助実行(ディスバースメント)の

遅れ」には、「役所的な手続き」に関連した遅延

図表7 受益国の負担(全インタビュー国での指摘)

ランク 負担のタイプ 言及の頻度

1受益国の優先分野やシステムに合致していない

22%

2 受益国での個別ドナーの手続き 20%

3 ドナー間の不整合性 14%

4 期限内に過大な要求 12%

5 援助実行の遅れ 12%

6 情報の欠如 8%

7 受益国のシステムと異なる要求 6%

8 受益国のキャパシティーを超える要求 4%

出所)OECD(2002b)に加筆

図表6 「低オーナーシップの罠」

出所)OECD(2002b)に加筆

32 開発金融研究所報

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と、「コンディショナリティー」やより広い「政

治経済的考慮」に関連した遅延とに分けられる。

前者は、現地事務所が本部の指示が無ければ動け

ない場合などに起こり、5~10年も実施が遅れる

場合などは当初の企画が無意味なものになってし

まう(タンザニア)。後者の遅延は特に財政支援

やSWApsに関連して、政治的・経済的要件を満

たさなければ次のトランシュが供与されないとい

う場合に起こる。時には、議会の承認を必要とす

るような、政府の能力を超えた要件が課されるこ

ともある。例えば、増税のための税法改正などの

要件が議会の反対により満たされなければ、歳入

見込みが減り、財政赤字見込みが増えるために

IMFの融資条件を満たせず、さらに世銀の融資

の遅れにつながるという「自己増殖的悪循環」が

起こり得る(ボリビア)。また、選挙との関係で

は、援助が選挙運動のために使われることを恐れ

て、あるいは新政権が樹立された直後に援助を行

えば新政権に援助の重要性を認識させ、特定の政

策を実施させるための梃子となることから、「選

挙前」には援助実行が遅れる傾向があるという。

6番目の「情報の欠如」とは、ドナーが資金情

報、予算配分情報や調査分析結果を受益国に開示

しないため、受益国財務省の予算管理が極めて困

難になること(モザンビーク)などである。

7番目のドナーが「受益国のシステムと異なる

要求」を行うという問題は、特に、ベトナムで指

摘されている負担である。これは、1番目の負担

に示された、「受益国のシステムに合致」してい

ないという感覚ではなく、受益国とドナーとが

「異なる方法」で物事を進めていることが問題だ

という感覚である。例えば、ベトナムやバングラ

ディシュでこの違いは、住民移転(resettlement)

に際し、不法入居者の移転にも補償するかどうか

を巡る受益国(補償しない)とドナー(補償すべ

し)間の意見の不一致に端的に現れていると言う。

8番目の「受益国のキャパシティーを超える要

求」の問題とは、例えば、公共部門改革でドナー

が余りに早急な改革を要求したり、IT化の進ん

でいない受益国でドナー国と同じような早さの回

答を求めたりするドナー慣行である。

ただし、何を援助の「負担」と感じているかは

「受益国・地域による違い」がある。例えばアフ

リカで最も頻繁し指摘された負担は、全体と同様

「受益国の優先分野やシステムに合致していな

い」ドナー慣行(頻度24%)であるが、アジア

ではかなり順位が異なり、第1位は「受益国での

個別ドナーの手続き」(頻度30%)である。これ

は、受益国のドナー依存・援助依存の程度(援助

依存が強いか、受益国の予算と援助資金との調整

がなされているか)、援助協調の段階の違い(「開

発政策・戦略の協調」段階(アフリカ)か「援助

手続きの協調」段階(アジア)か)を反映して、

「負担」と感じる分野も変わってきていることを

表しているものと考えられる。

この「負担」の分類は、受益国政府が援助受け

入れに関連して「何を」主な「負担」と感じてい

るかを示すものである。しかしこの分類は、「な

ぜ」このような事項を「負担」と感じるかの理論

的裏付けを与えるものではない。「援助協調」の

必要性をドナー国民に説得的に示すには、このよ

うな「負担の感覚」の「例示」のみならず、なぜ

このような「負担」を感じているのか、それを解

決する「援助協調」がドナー国民にどのようなメ

リット(国益の増加)を与えるか等を論理的に示

すことのできる「理論モデル」が必要となろう。

4.援助協調の「理論」―「援助協調モデル」の適用

(1)開発援助の目的(動機)と期待される成果

近年、ドナーの開発援助動機を織り込んだ援助

提供モデルが構築されてきている。例えば、Col-

lier and Dollar(2000)は、受益国の貧困削減に

対する援助効果を最大化する「援助配分関数」や

「貧困削減に対するドナーの関心」等をモデル化

して、全ての地域で2015年までの貧困半減目標

が達成可能かどうかを分析しているし、Azam

and Laffont(2003)は、開発援助による「貧困

層の消費」増加をドナー国の純粋公共財としてモ

デルに取り入れるとともに、ドナーと受益国政府

の戦略的行動を組み込んだドナー・受益国間の

「最適援助契約」モデルを提示している。

2003年9月 第17号 33

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ただし、これらのモデルでは、開発援助が持つ

特定ドナーに対する「戦略的利益」や「ドナー間

の戦略的行動と協調」の問題を考慮してない。ま

た、ドナー国にとって援助目的は、貧困削減等の

「受益国の厚生増大」のみではなく、ドナー国に

とっての「国益」の増進も援助を行う「説明変数」

になると考えられる。

例えば、OECD・DAC(1996)ではODAを供

与する主たる動機として、�極度の貧困等への同

情など「人道的動機」、�受益国の発展が先進国

の産出する財・サービスの市場拡大に繋がり、人

間の安全保障の増大が難民を抑制し戦争・テロ・

国際犯罪のリスクを引き下げる等の「啓蒙的利己

主義」、�環境保護・感染症対策等の各国共通の

問題に対処する「全人類の連帯感」を挙げている。

Burnside and Dollar(2000)は他の文献や自ら

の実証分析から、開発援助(特に二国間援助)に

ついては一般に、ドナーの「戦略的利益」(特に

政治的利益)が重要な役割を演じること等を示し

ている。

一般に、ドナーが受益国に援助を行う理由に

は、ドナー国を含む全世界にとっての便益(「公

共便益」)と共にドナー国に特有の戦略的利益(「私

的便益」)があると考えられる。ある受益国への

援助に伴うドナーの効用関数(広義の「国益」関

数)を定式化するとすれば、以下のように表すこ

とができよう。

特定ドナー国の効用(広義の「国益」)U=F

(公共便益、私的便益)

=F(慈善、義務、政治的利益、経済的利益;援

助以外の支出)

「公共便益」には「慈善」と「(先進国としての)

義務」が含まれ、「私的便益」(援助に伴う狭義の

「国益」)には、援助以外の支出による便益のほ

か、援助に伴うドナー国にとっての「政治的利益」

と「経済的利益」が含まれるものと考えられる。

ここで、「慈善」とは、受益国の厚生に関する関

心(concern)(もしくは、「人道的配慮」)を表

し、受益国の貧困削減に対する先進国援助の主た

る要因はこの説明変数にあると言えよう(ただし、

貧困削減を通じて受益国の治安維持等の国際公共

財供給を間接的に支援しているとも言えよう)。

「義務」とは、地球環境保全や感染症防止等の「国

際公共財」を提供するための先進国の一員として

の義務を含み、これに基づく援助は、国際機関に

対する「バードン・シェアリング(burden shar-

ing)」といった形で提供される。

「政治的便益」とは、国連等国際機関での被援

助国から援助国への支持確保など、必ずしも経済

的利益ではないが、援助によって獲得が期待され

る特定ドナー国の外交的利益である。「経済的便

益」とは、開発援助により期待される特定ドナー

国からの援助資材・人材の調達増大(援助の直接

的便益)や、当該受益国の成長に伴う経済関係の

深いドナー国からの輸出増大・輸入確保や直接投

資の増大(援助の間接的便益)等に伴う利益であ

る(図表8参照)。

このように、開発援助は各国にまたがる公共便

益のみならず、ドナー国に対する私的便益(特定

ドナー国の(狭義の)「国益」)にも寄与するもの

であり、公共経済学の観点からは、公共便益と私

的便益を同時に「結合生産」(joint product)す

る「準公共財」として捉えることができよう(千

明・深尾(1993)等)。「結合生産」財として性質

を持つ開発援助においては、Sandler(2001)等

が指摘するように、「私的便益」が多いほど「援

助額」が多くなると考えられる。

次項では、結合生産財としての開発援助の性

質、ドナー国同士の戦略的行動を考慮した上での

「援助提供関数」をモデル化し、このモデルで

「援助協調」がどのような影響を及ぼすかを検討

する。

(2)「国益」を反映した援助協調モデル

この項では、開発援助を私的便益(狭義の「国

益」)を「結合生産」する準公共財として明示的

に定式化する。その上で、特定の受益国に開発援

助を行うことにより、公共便益と私的便益の双方

を含む自国の効用全体(広義の「国益」)を最大

化しようとする二国(あるいは「二グループ」も

しくは「自国とその他のドナー国」)のドナー国

群を想定し、当初の「ナッシュ的推測に基づく自

発的援助」の状態から、「受益国自身の開発政策・

戦略に基づいた援助協調」の状態に移行した場合、

「国益」や「援助額」にどのような変化が起こる

34 開発金融研究所報

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他のドナーからの援助�ドナー国の「国益」(広義)� 受益国の「国益」(広義)�

慈善(人道的配慮)�

先進国としての�義務(負担分担)�

政治的利益�

経済的利益� γ(狭義)�の国益�

援助総額�(コミットメント)�

援助受け入れ�(ディスバー�スメント)�

μ 援助効率�

P援助提供�

コスト�

経済成長�

貧困削減�

政治的・�経済的安定�(国の安定)�

国際公共財(環境・知識・感染症予防・治安維持等)の供給�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

か、「援助提供コスト」、「狭義の国益」、「援助効

率」といったパラメーターの変化は援助額にどの

ような影響を与えるか等について分析することと

したい。

� 自発的な「結合生産財」としての援助

(�)ドナー国の援助効用最大化

まず、ドナー国a、bの効用(広義の「国益」)

がそれぞれ、(4―1)式、(4―2)式の関数形

で表されると仮定する。

Ua=Ua(ya,γqa,Q)(4―1)

Ub=Ub(yb,γqb,Q)(4―2)

ここで、ya(yb)はa(b)国民の「援助以外

の支出」、qa(qb)はa(b)国の援助額、γqa

(γqb)はa(b)国が当該受益国に援助を行うこ

とにより排他的に得ることのできる政治的・経済

的利益等の「私的便益(狭義の「国益」)」を表し、

0≦γ≦1と仮定する。Qは、「援助の公共便益」

として援助により全ドナー国が同等に受け取る

「公共財」で、「単純加算」の純粋公共財を仮定

する。すなわち、

Q=qa+qb (4―3)

「援助以外の支出」yの価格(単位当たりコス

ト)を1とおく。「援助以外の支出」の単位あた

りコストと比較した援助提供に伴う相対的な単位

あたりコスト(「援助提供コスト」)を、公共財(援

助)の価格P(>1)と置く。

各ドナー国は、他のドナー国の援助額を所与と

して(「ナッシュ的推測」)、所得I、公共財価格

Pの予算制約の下で、効用(広義の「国益」)最

大化問題を解くものとする。

すなわち、ドナー国aは、

Ia=ya+pqa (4―4)

を予算制約として、以下の「予算制約を含む効用

関数」(4―5)式の最大化問題を解く。

MaxqaUa(Ia-pqa,γqa,qa+qb)(4―5)

最大化一階の条件は、

∂Ua/∂qa=Uay(-p)+γUaz+UaQ=0(4―6)

ここで、

Uay=∂Ua/∂(Ia-pqa) Uaz=∂Ua/∂(γqa)

UaQ=∂Ua/∂(qa+qb)

ドナー国aにとって、援助以外の支出に伴う「限

界私的便益」も、援助に伴う「限界私的便益」(狭

義の限界「国益」)も均衡において同じである*6

とすれば、(4―7)式が成り立つ。

Uay=Uaz (4―7)

最大化一階の条件(4―6)式は(4―7)式を

図表8 開発援助の動機と成果(概念図)

注)主な因果関係を示したもので、記されていない効果(例:成長⇒政治的利益)もある

*6 すなわち、ドナーは自国の所得Iを自発的に「援助」と「その他」に配分するのであるから、双方の配分額における最後の1

単位から得られる効用(限界効用)は均等化していると考えられる。

2003年9月 第17号 35

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qb

qaRa′�

Ra

Ua

Ua′�

qa

qb

Rb

RaRb′�Ra′�

Ub2

Ua1Ub1

Ua2

Pa

Pb

NN′�

Q*=qa+qb

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

代入することにより、(4―8)式に書き換えら

れる。

(p-γ)Uay=UaQ ∴MRSaQy=UaQ/Uay=p-γ

(4―8)

ドナー国aの効用関数Uaの無差別曲線は、所

与の所得Ia、援助提供コストPに対して、qa、

qb平面で図示することができる(図表9参照)。

無差別曲線の形状をみるために、「予算制約を含

む効用関数」を全微分してゼロと置き整理すれば、

無差別曲線の傾き(dqb/dqa)は、

dqbdqa|(Ua=U‾a)=(-1)-(γ/MRSaQz)+(p/

MRSaQy)(4―9)

ここで、

MRSaQz=UaQ/Uaz MRSaQy=UaQ/Uay

(4―9)式に上記(4―7)式を適用し、MRSaQz

を消去すれば、無差別曲線の傾きは(4―10)式

のように書きなおすことができる。

dqbdqa|(Ua=U‾a)=(-1)+

p-γMRSaQy

(4―10)

図表9で、曲線はドナー国aの無差別曲線を表

し、上方の曲線がより大きな効用を示す。実線の

曲線(Ua)が狭義の「国益」を結合生産する援

助の無差別曲線、点線(Ua′)が結合生産財が無

い場合を表している。所与のqb量からの水平線

と無差別曲線の接点では無差別曲線の傾きがゼロ

となっている。したがって、この点は(4―10)

式から、

(-1)+p-γMRSaQy

=0 ∴MRSaQy=p-γ

が成り立ち、最大化一階の条件(4―8)式が満

たされている。所与のqb量に対応してこのよう

な接点を結んだものが、qbに関するドナー国a

の「反応関数」Raとなる。結合生産財を含む援

助の反応関数Raは、結合生産財がない場合Ra´

に比べて右側(自国の援助額が多くなる方向)に

きている*7。

(�)自発的な援助のナッシュ均衡

同様にドナー国bの無差別曲線(Ub)・反応関

数(Rb)についても、qa、qb平面に表すことが

できる(図表10)。

結合生産(狭義の「国益」)を伴う援助のナッ

シュ均衡は、ドナー国aとドナー国bの反応関数

Ra、Rb(太線)の交点(N)で表される。他方、

結合生産を伴わない場合はRa′、Rb′(細線の直

線)の交点(N′)で示されており、qaとqbを合

計した援助総額Qは、純粋公共財だけのナッシュ

均衡よりも、結合生産を伴う場合の方が多くなっ

ていることが分かる。

なお、ドナーa、bのパレート最適点は両無差

別曲線の接点として示され、パレート最適条件

*7 結合生産がない場合、(4―10)式右辺第2項の分子がP(>(P-γ))となるので、無差別曲線の傾きが正となる援助額は、

結合生産財がある場合より小さくなるため、Ua′はUaより右に位置することとなる。木原(2003)参照。

図表9 (狭義の)「国益」を結合生産する援助の反応関数

図表10 援助提供のナッシュ均衡と「援助協調」によるパレート効率的援助

36 開発金融研究所報

Page 15: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

は、以下の(4―11)式で表される。

MRSaQy+MRSbQy=p-γ (4―11)

このようにドナー二国(若しくは二グループ)

がそれぞれ別々に自発的な援助を行っている

(ナッシュ均衡の)状態は、「援助協調のなされ

ていない状態」と言える。上述の通り、この状態

では各ドナーにとってのパレート最適条件(4―

11)式が満たされている保証はなく、各ドナーが

「戦略的代替関係」にある場合には、図表10のよ

うに反応曲線の傾きが負になるので、パレート最

適な援助額に比べ少ない額の援助を行っている可

能性が高い。

� 援助協調下の援助

これに対して、受益国がオーナーシップを持

ち、PRSP、CDF等をドナーとの協議の下で決

め、それに従って援助総額Q*を決める場合はど

うであろうか。

この場合は、受益国の効用関数に則って援助総

額Q*を決めることになるが、ドナーも協議に加

わっているため、ドナーにとっても当初のナッ

シュ均衡解に比べパレート優位な点を含む援助総

額Q*(例えば、図表10のQ*直線)を決めるこ

ととなろう。援助協調下では、このQ*直線が制

約条件となり、この直線上で最適の援助額(バー

ドン・シェアリング額)を各ドナーが「協力ゲー

ム」により選択することになる。考えられる交渉

解は、援助協調がなされる前のナッシュ均衡の状

態より両国の効用が改善する領域(図表10では、

Ua1、N、Ub1で囲まれた領域)内の点となろう。

これまでの分析から以下の結論が導かれる。

(�)狭義の「国益」の増進という「結合生産」

を伴う援助は、ドナー国が協調せず自発的

に援助する場合であっても、「結合生産」を

伴わず純粋公共財のみを提供する援助より

も援助総額を増大させる。しかし、各ド

ナーの援助間に「戦略的代替性」がある場

合には、パレート最適の援助額に達する保

証はない。

(�)「援助協調」は、このようなナッシュ均衡の

状態から受益国ばかりでなく、ドナーに

とってもパレート優位となる援助額、援助

方式を提供する可能性がある。

(�)「援助協調」が必要となる要因としてしばし

ば指摘される「過大な取引費用」(負担)の

一部は、このモデルでは公共財の価格=「援

助提供コスト」Pを引き上げている要因と

解釈することができる。そうすると、ナッ

シュ均衡下およびパレート最適下で各国は

それぞれ以下の(4―8)式、(4―11)式

を満足するように援助額を決定するので、

MRSaQy=p-γ (4―8),

MRSaQy+MRSbQy=p-γ (4―11)

より高い援助提供コストPは、より大きい援

助の限界効用UaQ(およびUbQ)、従って援助の

限界効用逓減の下ではより小さい援助総額Q

に対応することになる。反対に「援助提供コ

ストの削減」は、このモデルでは「より大き

な援助額」に対応する。

このように、「援助協調」は必ずしも援助総額

を削減するものではなく、ドナーにとってパレー

ト優位となる援助方式を提供し、また、「援助提

供コスト」、いわゆる「取引費用」の削減を通じ

て援助額増大に寄与する可能性があると言える。

� モデルの展開(1)―コブ・ダグラス型関数

での検証

第�項で示したモデルを用いて、「援助提供関

数」の具体的形状を見てみよう。ドナー国aの効

用関数(広義の「国益」関数)をコブ・ダグラス

型と仮定して、

Ua=yα1a zα2a Q1-α1-α2=(Ia-pqa)α1(γqa)α2(qa+

qb)1-α1-α2 (4―12)

と置く。ここで、yaはドナー国aの「援助以外

の支出」、Za(≡γqa)は狭義の「国益」、Q(≡

qa+qb)は「援助に伴う公共便益」であり、単

純加算の集計方法を持つ純粋公共財と仮定する。

α1、α2はそれぞれ「援助以外の支出」、「援助

支出(に伴う狭義の国益)」に関する、広義の「国

益」の弾性値であり、一定とする(0<-α1,α

2<-1)。

(4―12)式の最大化問題を解き、(4―7)式

を用いて整理すれば、ドナー国aの援助提供関数

qa(4―13)式を得る。

qa=1p{(1-α1)Ia-α1(p-γ)qb}(4―13)

2003年9月 第17号 37

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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

ドナー国aが(4―13)式に従った援助提供を

行うとすれば、ドナー国aの援助qaは、�pの減

少(援助提供コストの低下)、�Iaの増加(ドナー

国aの所得増大)、�qbの減少(他のドナー国が

行う援助(所謂「スピルイン」)の減少)、若しく

は�γの増大(狭義の「国益係数」の増大)と共

に、増加することがわかる。

なお、援助提供コスト(p)および狭義の国益

(γ)が援助総額(Q)に依存し(すなわちp、

およびγがQの関数であり)、Qの増大に伴って

pが上昇する場合、若しくはQの増大とともにγ

が低下する場合も同様の定式化によりナッシュ均

衡条件を求めることができる。これらの場合、

ナッシュ均衡援助総額はpやγがQに依存しない

場合に比べ減少することが示される。

� モデルの展開(2)―非効率な援助

援助総額Qがそのまま受益国の利益とはならず

(最大の効果を及ぼさず)、そのμ分の効果しか

及ぼさない場合、モデルはどのようになるだろう

か。μは、援助の「効率係数」とも呼べるもので

あり、0≦μ≦1と仮定する。この場合最大化問

題は、

MaxUa=Ua(ya,za,Q)

=Ua(ya,γqa,μ(qa+qb))

s.t I=ya+pqa (4―14)

と表すことができる。

この最大化問題を解くと(4―15)式を得る。

γUaz+μUaQ=pUay (4―15)

ここで前と同様にzとyに関する限界効用が同

一とすると、以下の効用最大化一階の条件(かつ

ナッシュ均衡条件)式が求められる。

MRSQy=p-γμ

(4―16)

この条件式から援助の限界効用逓減の下で、

「援助効率μの低下」は、pの上昇やγの減少と

ともに、「より少ない援助額」に対応していると

いえよう。

(3)狭義の「国益」と援助額

ここで示した「援助協調モデル」によれば、援

助協調は「援助提供コスト」pの引き下げ等を通

じ援助額を増大させることとなる。しかし一方

で、「援助協調の実施により、援助額が減少しか

ねない」との懸念が聞かれる*8。これは、このモ

デルの用語で言えば、援助協調に伴い特定ドナー

国の狭義の「国益」γ(国際機関での支持票といっ

た「政治的利益」や貿易・投資機会の拡大といっ

た「経済的利益」)が低下すると受け取られるた

めと考えられる。しかし、援助協調により援助効

率が上がり受益国の成長・貧困削減が進むとすれ

ば、貿易環境、直接投資環境の改善等の「経済的

利益」が経済関係の深い特定ドナー国に生じると

考えられる。このような経済的利益は、援助協調

に伴う「タイド援助機会の喪失」という経済的利

益の減少を補って余りあるかもしれない。援助協

調により「顔の見える援助」ができなくなり受益

国から感謝されなくなるという「政治的利益」の

喪失を懸念する声もあろう。しかし、例えば数カ

国の援助協調の下で、ある受益国の特定セクター

を財政支援するプログラムを行ったとしても、そ

のプログラムが当該受益国の成長・貧困削減にど

のように寄与したかを評価し、かつそのうち特定

ドナー国のODAの寄与がどの程度か等を明確に

示すことができれば、たとえそのドナー国からの

資材やコンサルタントの調達が無くとも、その国

の「顔」を示すこと、それに対する受益国国民の

感謝の意を獲得すること、ひいては国連等の国際

機関で特定ドナー国への支持獲得等の政治的利益

を得ることは可能ではないか。このように、「援

助協調」を行うことがそのまま(狭義の)国益γ

を喪失させるわけではなく、様々な手法でγの低

下を補えば必ずしも援助総額を減少させるものと

はならないと思われる。

ちなみに、狭義の国益γの指標として「タイド

援助」比率を採った場合、援助額はその比率の上

昇に従い増大しているのであろうか。図表11は、

*8 Kanbur. et. al(1999)p.5、p.50

38 開発金融研究所報

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8,0007,0006,0005,0004,0003,0002,0001,0000

70

60

50

40

30

20

10

0

タイド比率(%)�

1999

1996

1993

1990

1987

1984

1981年�二国間援助(百万ドル)�

二国間援助�(コミットメント)�

タイド比率�(部分アンタイドを含む)�

10,000�

8,000�

6,000�

4,000�

2,000�

0�

80�70�60�50�40�30�20�10�0�

タイド比率(%)�

1999

1996

1993

1990

1987

1984

1981年�二国間援助(百万ドル)�

二国間援助�(コミットメント)�

タイド比率�(部分アンタイドを含む)�

20,000�

15,000�

10,000�

5,000�

0�

80�

60�

40�

20�

0�

タイド比率(%)�

1998�

1994

1990

1986

1982�

年�二国間援助(百万ドル)�

二国間援助�(コミットメント)�

タイド比率�(部分アンタイドを含む)�

3,000�

2,500�

2,000�

1,500�

1,000�

500�

0�

100�

80�

60�

40�

20�

0�

タイド比率(%)�

1999

1996

1993

1990

1987

1984

1981年�二国間援助(百万ドル)�

二国間援助�(コミットメント)�

タイド比率�(部分アンタイドを含む)�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

G5諸国(米国を除く)における1979年~2001年

の期間の二国間援助額と、(技術協力及び管理費

を除いた場合の)タイド援助比率との関係を見た

ものである*9。データには、OECD・DACのオン

ライン・データベースを用い、二国間援助額は各

年のコミットメント額を、タイド援助比率につい

てはTying Statusのデータからタイド援助額と部

分アンタイド額との合計の総額に占める割合を求

めた。

これらのグラフを見ると、ドイツにはタイド援

助比率と二国間援助額との間に正の相関が見られ

(相関係数:0.469)、タイド援助比率が二国間

援助額を5%水準で有意に説明している(t値=

2.43)。しかし、この期間で、フランス、英国、

日本におけるタイド比率と援助額の相関は負と

なっている(フランス:-0.159、英国;-0.672、

日本;-0.888)。ドナー国により違いはあるもの

の、タイド援助という直接的な経済的利益の増減

は、必ずしも二国間援助の決定的な要因とはなっ

ていないといえよう。

*9 米国については1997年以降のタイド援助比率の統計が取れないため、分析から除いた。また、英国も1990年のタイド援助の

情報が取れなかったが、90年のタイド援助比率を89年の比率と同じと仮定して、相関係数を求めた。

図表11 G5諸国(米国を除く)の二国間援助(総額)とタイド援助比率(技術協力及び管理費を除く)

ドイツの二国間援助とタイド比率 英国の二国間援助とタイド比率

フランスの二国間援助とタイド比率 日本の二国間援助とタイド比率

出所)OECD・DACオンライン・データベース

2003年9月 第17号 39

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5.援助協調の「実態」―援助協調手法の進展と改善分野

(1)これまでの援助協調方法

援助協調の必要性は今に始まったものではな

い。これまでも、様々な「援助協調メカニズム」

が存在してきた。図表12は、Club du Sahel

(2000)による分類である。

� 「機関間のフォーラム」

開発援助のドナー間協力に関する代表的な

フォーラムはOECDの「DAC(開発援助委員会)」

である。この組織は、持続的開発を支援するド

ナー国の共通の努力が効果的になることを目的と

し、基本的政策や共通行動の採択、各メンバー国

の開発協力政策についての定期的(3年ごと)審

査(「ピア・レビュー」)等を通じ、ドナー間の協

調を図っている。DAC自体はドナーではないが、

全世界規模の唯一の援助調整機関であり、バイ・

マルチの援助機関の情報や経験が集中しているた

め、援助調整の実施に関し重要な地位を占める。

その他、地域内の機関間フォーラムとして特に

アフリカでは、サブサハラ・アフリカへの資金動

員やドナー手続きの改善等を目的として87年に開

始された「SPA」(サブサハラ・アフリカ特別プ

ログラム)や国連機関としての「ECA」(アフリ

カ経済委員会)、「SIA」(国連アフリカ特別イニ

シアティブ:NADAF(国連アフリカ開発新ア

ジェンダ)を実施するための組織)等がある。

� 「戦略企画のための枠組み」

これは全ての開発パートナーが「共通の拠り所」

とする枠組みを設定することにより、特定国に対

する援助実施の改善を目的とした近年の試みであ

り、次節で述べる「パートナーシップ」に当たる。

この枠組み設定のためには、(�)追求する「目

的」(開発目的の優先順位)、(�)「開発協力戦略」

(資金動員とパートナー間の責任に関する内部制

度)、(�)「実施メカニズム」(共同運営メカニズ

ム、協議・資金システム、モニタリング・評価

等)、(�)「必要資金の割り当て」(プログラムご

と、パートナーごとの拠出約束の詳細)、(�)「モ

ニタリング・システムの設置」(協調行動の成果

確認)について、パートナー間で合意する必要が

ある。世銀の推進する「CDF―PRSP(貧困削減

戦略ペーパー)」はこの枠組みの典型である。こ

のような枠組みにはCDFの他に、国連機関間の

協調強化を目的とする「UNDAF」(国連開発援

助フレームワーク)等がある。

� 「協議プラットフォーム」

これは、ドナー・受益国の政府・援助機関・

NGO等の幅広いパートナーが討議するための協

力の枠組みで、全世界規模では「CGIAR」(国際

農業研究協議グループ:政府、NGO、FAO等の

国際機関をメンバーとし、農業研究分野の援助課

図表12 これまでの援助協調手法

機能的分類地理的分類

機関間のフォーラム戦略企画のための枠組み

プラットフォーム 実施上の協調

地球規模・DAC ・CGIAR

・CGAP・Horizon 2000

複数国地域・ECA・SIA・SPA

・Club du Sahel・ADEA

一国内・CDF―PRSP・UNDAF

・Consultative Group(CG)・Round Table(RT)

地方・セクター ・Sector Programs

出所)Club du Sahel(2000)p.12修正

40 開発金融研究所報

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題について半年ごとの全体会議で調整)や

「CGAP」(最貧層支援協議グループ:最貧層に

対するマイクロファイナンス分野の援助協調改善

を目的とし、ドナー手続きの調和、情報共有等を

実施)などがある。地域の組織としては、特にア

フリカに対して「GCA」(アフリカのための地球

連帯:91年にアフリカ諸国の開発プライオリ

ティーについての合意形成のために設置)、「アフ

リカ開発フォーラム」(アフリカ諸国の開発問題

についての合意形成のためのアフリカ諸国の組

織)、「ADEA」(アフリカ教育開発協会:アフリ

カ諸国の教育省と援助機関のフォーラム)、「サヘ

ル・クラブ」(OECD諸国のサハラ・西アフリカ

開発や、効果的な開発協力方法を促進する組織)

等が活動している。

「機関間のフォーラム」や「協議プラットフォー

ム」は対象が全世界や複数国を含む広域に渡る協

調メカニズムである。従って、このような広域的

な手法により、各受益国の実情に応じた援助協調

を進めることには無理があろう。

しかし、世銀を中心とする「CG会合」(Consul-

tative Group:支援国会合)や国連機関を中心と

する「RT会合」(Round Table:円卓会議)は、

従来から特定の受益国に対する援助協調手法とし

て多用されてきた。ところがClub du Sahel

(2000)によれば、この手法も以下に示す通り、

うまく機能してこなかった。

� 特定国のプラットフォーム(CG会合・RT

会合)

世銀やUNDPは、30年以上に渡り、CG会合(世

銀)、RT会合(UNDP)と呼ばれる特定受益国向

けの協調組織を運営してきている。これらの会合

には受益国政府、当該国で活動している援助機関

が参加し、世銀やUNDPによる事務局機能と議長

機能の提供の下、一カ国につき概ね15ケ月ごとに

1~2日間の会期で開催される。

もともとの目的は、CG会合(当該国への対外

資金の動員)とRT会合(パートナー間の討議促

進)とで異なっていたが、90年代以降、両会合の

目的に収斂が見られ、現在いずれも、(�)多様

な開発パートナー間の情報交換、(�)開発政策・

戦略・プログラムについてのコンセンサス形成、

(�)開発活動の実施に係る協調*10、および(�)

開発資金の動員を目的としているとされる。しか

し、世銀とUNDPが行った評価によれば、援助協

調に関するCG会合/RT会合のパフォーマンスは、

図表13に示されるように必ずしも満足のいくもの

ではなかった。これらの会合は、協議機関として

の役割は認められるものの、効果的な協調に関す

る「原則」を「実施」させる能力に乏しいとして

批判されている。また、開発目標の統合に関して

も、これらの会合は各国の目標を協議し調整する

「機会」を与えはするが、実際に調整される訳で

はないとしている。

そもそも、CG会合等は援助資金集めや情報交

換が主要な目的で、受益国がオーナーシップを持

つ一元化された開発目標や戦略がこれまで存在し

なかったことが、「援助協調」に対してこれらの

フォーラムが有効に機能してこなかった原因の一

*10 例えば、ベトナムでは各パートナーシップの活動がCG会合で報告されるなど、CG会合が全体の援助協調活動を調整するため

に有効に機能している。

図表13 UNDP(ラウンドテーブル)・世銀(CG会合)のパフォーマンス

機 能 目 的 パフォーマンス(評価)

情報交換 各パートナーの政策・プログラム・活動の周知

「良好」=各パートナーの優先分野やプロジェクトについての情報提供に貢献

目的の整合性 共通の目的や政策についてのコンセンサス形成

「良好」=各パートナーの開発目的についての協議・調整の機会を提供。ただし、常に実際の行動に移されたわけではない。

資金の動員 ドナーの資金コミットメント額の増大

「不明」=これらプラットフォームが特定国に対する外部資金額を増大させたかは不明

援助活動の協調

・技術的/管理運営的手続きの調和・受益国の技術的な協調能力の形成

「良くない」=これらプラットフォームは管理運営上の協調実施に最適の協調メカニズムではない

出所)Club du Sahel(2000)

2003年9月 第17号 41

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つと考えられる。そのため、これまで行われてい

た「援助協調」は、第4章のモデルに則して言え

ば、受益国も含めたパレート効率的な援助資金の

活用ではなく、ドナー間のナッシュ均衡下での援

助調整であり、その中での技術的協調も進展して

いなかったため、援助効率μを引き下げていたと

考えられる。

このような評価結果を受けて、世銀・UNDP

は、図表14に示したCG会合/RT会合の改善策を

提案している。この改善策は、特に、(�)これ

ら会合の当該「受益国での開催」(当該受益国各

層からの参加と関心表明が可能となる)、(�)こ

れら会合の「議長」を当該受益国が勤める(受益

国のオーナーシップを促進する)、(�)「半年ご

との中間会合」の開催(頻繁なモニタリングが可

能となる)*11を強調している。

これらの改善策は「受益国のオーナーシップ」

の改善と、信頼の置ける「モニタリング・評価」

の実施を意図しており、第3章で示した受益国・

ドナー国双方の援助協調に対する主たる不安に答

える方向性を示したものと言えよう。

� 援助実施上の協調

図表12に示されている「実施上の協調」は援助

協調の最終段階の目標であり、ドナー間の「調和」

が特に求められる分野であるとされる。Club du

Sahel(2000)によれば、協調方法には、(�)受

益国政府の援助プログラム策定・管理・モニター

「能力(キャパシティー)の構築」、(�)技術的

若しくは管理上の手続きにおけるドナーと当該国

の「手続き上の調和」、(�)セクターごとの協調

を強化し、プロジェクトベースの援助から「プロ

グラム援助へ移行」、の3方法があるとされる。

(�)の能力構築には、受益国政府に「援助協調

部門」を設置することも含まれ、世銀、UNDPは

当該部門の構築を支援している。図表12に上記

(�)の「手続き調和」の例として挙げられてい

る「Horizon2000」は、EUがEU加盟国・受益国

間の援助手続き調和を目指して採択した、EC指

令である。また上記(�)の「セクターごとの協

調」は共通のセクター戦略に対してドナー国が支

援するものであり、後述する各国の「セクター・

ワイド・アプローチ」(SWAps)に具体化されて

いる。

Club du Sahel(2000)は、「実施上の協調」に

関するいずれの分野も進展が遅い旨指摘してお

り、近年の「援助協調」努力もこの「実施上の協

調」に集中している。確かに「実施上の協調」が

受益国のオーナーシップとドナー国の信頼感を高

め、「援助効率の向上」に資すことは事実である

*11 この点については、後述のように、年二回の大規模な会合は受益国の負担を増すとの指摘(OECD(2002b))もある。

図表14 一国の協調プラットフォームの改善案

改善提案 利 点 欠点/制約

・開催地 ・パリやジュネーブではなく、当該受益国での会議開催

・受益国内の組織(政府、NGO、地方政府等)の参加増大が可能・受益国のオーナーシップの改善・ドナーの当該受益国の実態に対する理解促進・受益国民の関心増大・透明性の増大

・ドナーの参加減少の可能性・会議で政治的にセンシティブな議題が取り上げられる可能性があるため、受益国政府は国外での開催を望むことがある

・議長 ・世銀やUNDPではなく、当該受益国自身が会議の議長を務める

・受益国のオーナーシップ改善・受益国の優先分野により合致した議題の選定・内外の資金を統合する可能性

・議長を務める政治的意思が必要・毎回の会議を開く技術的能力と資金が必要

・頻度 ・半年ごとの中間会合の導入 ・柔軟性の増大・協調プロセスのモニタリング促進

・作業や支出の増大

・目的 ・漸進的戦略:次の目標に進む前に容易に達成できる適度で明確な目標の設定

・より実際的な枠組みの中での対話促進

・開発枠組みの全体像を見失う可能性あり

出所)Club du Sahel(2000)

42 開発金融研究所報

Page 21: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

が、「開発政策・戦略の協調」によるナッシュ均

衡からパレート効率的援助への移行による「公共

益・国益の増進」も忘れてはならない。特に、受

益国・各ドナー間で政策・戦略上の協調が不十分

なのであれば、貧困削減等の援助目的を達成する

ためには、まず政策・戦略上の協調を図ったほう

が大きな効果が得られよう。

(2)新たな援助協調手法:「SWAps」「パートナーシップ・アプローチ」および「コモン・プール・アプローチ」

Kanbur. et. al(1999)は、「開発・貧困削減戦

略に対する異なる見解を処理し、協調を高め、

オーナーシップを改善し、援助依存を減らす」た

め、「コモン・プール」アプローチと呼ばれる援

助提供手法を提唱する。

このアプローチは、(�)受益国がまず自らの戦

略、プログラム、プロジェクトを、自国民との協

議およびドナーと対話を経て策定し、ドナーに提

示する。その計画に対して、(�)ドナーは、アン

タイドの資金を「コモン・プール」(共通基金)

に入れ、(�)コモン・プールの資金と政府の資金

とを統合して、開発戦略すべてをファイナンスす

る、という方法である。このアプローチの下で、

各ドナーはそれぞれ、受益国の能力を評価して自

らの拠出水準を提示するが、特定のプロジェクト

に拠出をイヤマークしたり、独自のモニタリング

や援助管理を行うことは認められない。このアプ

ローチにより、受益国のオーナーシップが高ま

り、異なる戦略を持つドナーの協調が期待され

る。

コモンプール・アプローチの一つの懸念は、特

定ドナー国の「顔」を見せることが困難と考えら

れることから、一時的に援助額が大きく減少する

可能性があることである。しかしKanbur. et. al

(1999)は、コモンプール・アプローチの採択・

実施に伴い、より大きな開発効果が期待できるた

め、中長期的には援助額も増大すると予想する。

また、ドナー側のコストとの関連では、国別プロ

グラムの審査や協議のためのスタッフは今以上に

必要となろうが、個別プロジェクトの形成・モニ

ターリング・評価に要するスタッフや、進行管理

のスタッフを大幅に削減でき、このアプローチ

は、全体としてドナー国職員の業務量削減に寄与

するとされる。

なお、第4章で「援助協調」により(均衡)援

助額が増大することを示したが、Kanbur. et. al

(1999)の主張はこのモデル分析と整合的であ

る。これを具体的に見ていきたい。

� 新たな援助協調メカニズム

Kambur et. al(1999)によれば、受益国のオー

ナーシップ確保とドナー国の説明責任確保の観点

から、「コモンプール・アプローチ」は理想的な

制度だが、「急進的過ぎる」との批判(World Bank

(2001))もある。コモンプール・アプローチへ

向かう中間的な形態として、「セクター・ワイ

ド・アプローチ」(SWAps)と「パートナーシッ

プ・アプローチ」がある。

� 開発援助へのセクター・ワイド・アプローチ

(SWAps)

SWApsでは、(�)受益国が特定セクター(例

えば保健、教育等)の戦略を策定し、(�)そのセ

クター戦略に基づいて、複数のドナー国が、個別

プロジェクトではなく、セクター全体を支援する

との段階を踏む。従って、第4章のモデルに則し

て言えば、受益国がセクター戦略の策定・適用に

より、「援助協調ゲームに参加」し、受益国・ド

ナー国双方が「パレート効率的援助に移行」する

ことになる。またSWApsにより各セクターでの

援助協調が進むため、援助効果が増大するものと

期待された。これは、モデルで言えば、(セク

ターごとの)統一的ファンディングに伴う「援助

提供コスト(P)の低下」と統一的な資金活用に

伴う「援助効率(μ)の上昇」に対する期待であ

る。

例えば、ザンビアの保健セクターのSWApsで

は、1994年ザンビア厚生省が「国家保健政策お

よび戦略」をドナーに提示し、厚生省に一括して

資金を支援するよう要請した。つまり、「バス

ケット・ファンディング」の要請であり、これが

厚生省に資金配分の柔軟性を付与したとされる。

ザンビア厚生省は、ドナーからの提供資金を各地

2003年9月 第17号 43

Page 22: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

区に配分する権限を持ち、自ら資金使途を計画・

配分することにより、全国的に統一された保健セ

クター政策の実施が可能となった。

このSWApsは成功したとされるが、このよう

な一括拠出には「ファンジビリティー(資金の流

用可能性)」の問題がつきまとう。他方、ドナー

各国は受益国に十分な「オーナーシップ」を確保

せねばならないが、受益国の援助管理能力が乏し

いときにドナー国民への「説明責任」をどう確保

するかというジレンマに直面する。

� 開発援助へのパートナーシップ・アプローチ

「パートナーシップ・アプローチ」とは、セク

ター戦略より広い「国家」開発戦略を受益国が計

画、実施し、それをドナーが支援する援助協調手

法である。

例えば、世銀のパートナーシップ・アプローチ

は以下の4段階を経て実施される。

(�)受益国自身の「開発ニーズ調査」(受益国が

国内の議論を通じて自らの開発ニーズを確

定する。ドナーはコンセンサス作りのプロ

セス支援に留まる。)

(�)「国家開発戦略」の策定(受益国の要請に応

じドナーが関与することもある。)

(�)策定された戦略の資金を調達するための「支

援国会合」の開催(受益国の首都で、「開発

パートナー連携」(ドナーと受益国)会合を

開く。会合の具体的目的は、(イ)国家開発

戦略に基づき各ドナーが支援するプロジェ

クトを議論すること、および、(ロ)ドナー

は「パートナーシップ・フレームワーク」(受

益国での各ドナーの比較優位に配慮した行

動基準。世銀のCDF等がこれに当たる。)

に沿って援助協調を行うこと、にある。)

(�)プログラムやプロジェクトの「実施と評価」

(モニタリング・評価手続きを共通化する。)

このアプローチは「ニーズ調査」、「国家開発戦

略」の策定を、政府・民間・NGOとの協議を通

じて、受益国が責任を持って行うため、「受益国

のオーナーシップ」、「ドナー・受益国(およびド

ナー国相互)の協調」の進展に資する。従って、

SWAps同様、国家開発戦略の策定・協調実施に

伴う「パレート効率的援助への移行」と統一的な

戦略に対するファンディングに伴う「Pの低下」、

および「μの上昇」が期待される。このアプロー

チは全てのセクターを含むため、SWAps以上の

効果が期待できよう。

しかし、このアプローチでは、ドナーは依然と

して「個別」プログラムやプロジェクトを支援す

ることになる。例えば、世銀の「CDF」ではパー

トナーシップ・アプローチに則り、開発戦略の中

の支援分野と開発アクターとのマトリックスを作

成することとなるが、�マトリックスの作成が世

界銀行主導となる懸念に加え、�各ドナーが

CDFの中で「個別プロジェクト」を決めるので、

個別化されたプロジェクト準備、モニタリング・

評価に伴う多大の「取引費用」がかかり、受益国

のオーナーシップを阻害する(モデルで言えば、

「Pの上昇」)可能性が指摘されている。

� 開発援助へのコモンプール・アプローチ

Kanbur. et. al(1999)によれば、このアプロー

チには以下の5段階が必要とされる。

(�)まず、受益国が社会各層の合意を得て自ら

の「国家開発戦略」を策定する。

(�)その後、「ドナーと受益国の対話」が行われ

る。ここでは、特定のプロジェクトへの拠

出については議論しない。

(�)ドナー各国は、受益国の開発戦略と実施能

力を評価して、「コモンプール基金」に拠出

する「拠出総額」を決める。

(�)ドナーは、「長期の拠出コミットメント」を

行い「個別のコンディショナリティーを付

けない」。

(�)受益国がモニタリング・評価(M&E)を

行い、受益国内にもドナーにも「共通の報

告仕様」で報告する。

ドナー国民への説明責任を果たすため、受益国

の会計・監査能力を増進させるような技術支援を

行う必要がある場合には、これも国家開発戦略の

なかに盛り込み、受益国の主導の下にコモンプー

ル資金からファイナンスする。

ドナー国にとってのこのアプローチのメリット

としては、(�)援助効果が高まること(第4章の

モデルに則して言えば「μの上昇」)、(�)異なる

目的を持つドナーであっても、支援額の多寡によ

44 開発金融研究所報

Page 23: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

り協調が可能となること(モデルおける「ナッシュ

均衡からパレート効率的援助への移行」)が挙げ

られる。他方、ドナー国は、自国独自の政策コン

ディショナリティーの賦課やタイド援助等を放棄

するコストを負う(モデルにおける狭義の国益「γ

の低下」)。Kanbur. et. al(1999)によれば、そ

の結果、ドナーの援助資金は減額され易いが、ド

ナー国では、プロジェクト形成やモニタリング・

評価のための要員を削減できるというメリット

(モデルにおける援助提供コスト「Pの低下」)

がある。

受益国にとっては、(�)オーナーシップを確保

し(モデルにおける「援助協調ゲームへの参加」

と「パレート効率的援助への移行」)、(�)援助効

果が高まる(モデルでは「μの上昇」)というメ

リットがある。他方、(�)国家開発戦略策定の負

担が大きい(モデルでは「協調コスト」の増加に

よる「Pの上昇」)こと、および(�)(モデルの

狭義の国益「γの減少」のため)援助資金が減額

される可能性があることが受益国のコストとな

る。パートナーシップ・アプローチと比較すれ

ば、より大きなPの低下が予想されるが一方でγ

の減少が大きくなる可能性があり、第4章の援助

提供モデルを適用すると、コモンプール・アプ

ローチの均衡援助額はパートナーシップ・アプ

ローチよりは少なくなる可能性がある。ただし、

援助効率(μ)の増大が大きければ、第4章(4

―16)式等から、均衡援助額が増大する可能性も

ある。

このように、コモンプール・アプローチ等の新

たな援助協調手法が(広義の)国益や援助額に与

える影響は、第4章で提示した援助協調モデルに

より分析可能である。このモデルに照らせば、こ

れらの援助協調手法は、狭義の国益の減少懸念や

協調コストの増大による短期的な援助額減少はあ

り得るが、パレート効率的援助への移行、援助効

率の向上、援助提供コストの削減を通じて、ド

ナー国の「広義の国益」の増大に資するものとす

ることも可能であり、従って、新たな援助協調手

法の活用により援助額の中長期的な増大も可能と

考えられる。

個別プロジェクトにイヤマークできるSWAps

等、個々の状況に照らせば一概には言えないが、

新たな援助協調手法とモデルのパラメーターとの

関係を理念的に示せば、図表15のように表せよ

う。

(3)どの「ドナーの慣行」を改善すべきか―援助協調の必要分野

現在、実際の開発援助は、伝統的なプロジェク

ト援助からSWAps等の新たな手法による援助ま

でが「混在」している。このような状況の中で、

受益国はドナーの援助手法(ドナー慣行)につい

てどのような改善要望を持っているのであろう

か。

OECD(2002a)によれば、受益国政府職員を

中心にインタビューを実施した結果、以下の図表

16の順で、ドナーの慣行の中で「過大な負担」を

避けるため改善して欲しい分野の要望があった。

なお、ランキングは最も重要で多数の回答者から

指摘があった改善分野には各国ごとに2点、比較

的重要ではなく指摘もさほど多くなかった改善分

野には1点を与え、調査13国で合計した総点の順

位で示してある。

これをOECD(2002b)に従い、ドナー・受益

国関係、ドナー相互の関係、特定ドナー内部の問

題で分けると、以下の図表17のように分類でき

る。

図表15 新たな援助協調手法とモデルのパラメーターとの関係

(○―効果が高い、△―ある程度効果がある、×―効果が無いか逆効果)

SWAps パートナーシップ

コモン・プール

パレート効率的援助

△(セクター開発戦略への協調)

○(国家開発戦略への協調)

○(国家開発戦略への協調)

援助提供コスト(P)の低下

△(セクターごとの統一的資金調達)

△(個別プロジェクト)

○(プロジェクト関連要員の削減)

援助効率(μ)の増大

△(セクター内の統一的資金活用)

○(国家開発戦略への協調的資金活用)

○(国家開発戦略への統一的資金活用)

ドナーの(狭義 の)国 益(γ)の増大

×(バスケット・フ ァ ンディング)

○(個別プロジェクトにイヤマーク)

×(コモン・プールへのアンタイド拠出)

2003年9月 第17号 45

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� ドナーと受益国との関係での改善分野

ドナーと受益国との関係で最も指摘の多かった

改善分野は、「受益国のシステムを使用すること」

(全体で2位)である。例えば、セネガルでは、

�資金・予算年度を受益国の予算年度に一致させ

ること、�ドナーの派遣するミッションの時期を

受益国のサイクルに合わせること、�PRSPをド

ナー協調メカニズムとして活用すること、�財政

支援の拡大を通じて受益国の手続きを活用するこ

と、�受益国の実施機関を活用することが提唱さ

れている。他方、ベトナムでは「ドナー・受益国

政府間のシステム調和」という改善案が指摘され

ているが、これは必ずしも受益国のシステムへの

調和を意味するものではなく、国際的に認められ

た手続き・基準を両者が一致して用いることでも

良いと言うものであった。

次に多かった指摘は「PRSP等の受益国の優先

分野を尊重すること」(全体で6位)であり、ド

ナーにはむしろ受益国政府を「補完」して欲しい

との要望である。ベトナムでは、受益国政府がま

ず自らの政策枠組み・投資優先分野を策定し、そ

の後ドナーとの収斂活動を行うべきであるとの指

摘があった。

3番目に多かった改善分野は「現地政府のキャ

パシティー強化」(全体で7位)であり、受益国

の能力育成資金の増額、受益国政府で長期間働く

コンサルタントの活用、援助管理能力・モニタリ

ング評価能力の育成等を含むものである。

次に多かった指摘は、「財政支援」(全体で9位)

と「SWApsの活用」(全体で10位)であり、特に

アフリカ諸国での指摘が多かった。受益国政府に

よれば、前節で概念的に示した通り、SWAps、

財政支援の活用により受益国の「負担」は相当程

度解消され、ディスバースメントに伴う取引費用

(第4章のモデルにおける援助提供コストP)を

削減し、オーナーシップ・自律性を改善するとい

う(モデルにおけるパレート効率的援助への移

行)。他方、これらのメカニズムは、受益国に業

務転換、より複雑な管理・報告要件、改革の進展

を課すことになるため、コストの削減ではなく、

むしろ受益国システムの強化(モデルにおけるμ

の向上)に繋がるという声もある。財政支援や

SWApsはドナー間の協調に資するものであり、

ドナーが要件や手続きを調和させ受益国のプログ

ラムを尊重する限りにおいて「負担」を大きく軽

減する。しかし、このメカニズムの一つの問題は

(モデルにおける狭義の「国益」γの減少に伴う)

図表16「ドナー慣行」の中で改善してほしい優先分野

順位 改善分野 指摘の頻度

1 共通の手続きの使用 13点

2 受益国のシステムの使用 12点

3 一層の情報伝達・対話 11点

4手続きの簡素化(特定のドナーの内部手続き)

10点

5 援助のアンタイド化 10点

6 PRSPや受益国自身の優先分野の尊重 9点

7 現地(中央・地方)政府の能力育成 9点

8 協調メカニズムの活用 7点

9 財政支援 7点

10 SWAps(セクター・ワイド・アプローチ) 6点

11 技術支援の変更/受益国内の人材の活用 6点

12 現地事情の理解 4点

13 手続きの簡素化(ドナー間) 3点

14レビュー(モニタリング・評価)過程の簡素化

2点

15 現地事務所への権限委譲 1点

出所)OECD(2002a)

図表17 カテゴリーによる分類

順位ドナーと受益国関係

ドナー相互の関係

ドナー内部の問題

1受益国システムの使用(2)

共通の手続きの使用(1)

情報伝達・対話(3)

2PRSP等の尊重(6)

協調メカニズムの活用(8)

手続きの簡素化(4)

3現地の能力育成(7)

手続きの簡素化(13)

アンタイド化(5)

4財政支援(9) 現地の人材活用

(11)

5SWAps(10) 現地への権限委

譲(15)

6現地事情の理解(12)

7レビュー過程の簡素化(14)

出所)OECD(2002b)括弧内は全体での順位

46 開発金融研究所報

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支援額の大きな変動にあり、モザンビークやタン

ザニアで事実問題となっているという。

次に指摘されている改善案「現地事情の理解」

(全体で12位)は、「制度変更」は一夜ではでき

ないことをドナーに理解して欲しいとの要望(バ

ングラディシュ)である。

ドナー・受益国間の関係で最後に指摘された改

善点「評価(レビュー)プロセスの簡素化」(全

体で14位)は、特に「年次協議」に関してである。

大規模な会合や文書作成が職員の業務量を不必要

に増加させており、特に年二回行う必要はないと

の意見がある(前述の通り、CG会合等、最近の

「協議プラットフォーム」は年央等に中間会合を

もつことが多くなってきている)。ただし、モメ

ンタムを失わせないためにも、多くの年次協議は

必要との意見をもつ受益国もある。

� ドナー相互間の関係に係る改善分野

ドナー相互間の関係において最も指摘の多かっ

た改善分野は、援助の各プロセスを通じて「共通

の手続きを使用すべき」(全体で1位)というも

のである。タンザニアでは、調達、報告、監査に

関する受益国の負担が共通の手続きを採択すれば

大きく改善されると言う。特に、受益国政府の手

続きを基に共通の手続きを採っていけば、オー

ナーシップも改善され、ドナー間の競合もなくな

る。しかし、全てのドナーの要件を充たす共通手

続きが可能か、ドナー国本部が認めるか、一国の

手続きの押し付けにならないか等の問題がある。

次に多かった指摘は、「協調メカニズム(組織)

の活用」(全体で8位)である。例えば、あるセ

クターで最も影響力のあるドナーが受益国政府の

担当部署との「一元的な窓口」となったり、「受

益国の担当部署」がセクター政策・プログラムの

立案、実施、評価を行い、それにドナーが従った

り、その部門を通じた援助を行うというものであ

る。しかし、ドナーの援助協調委員会が形成され

ている場合であっても委員長を巡るドナー間の競

合や、受益国政府のどの省庁に協調担当部署を置

くかの政治的確執があり得る。

最後に、「多くのドナーが(各国の)手続きを

簡素化すること」(全体で13位)にコミットすべ

きとの改善案(ベトナム)が指摘されている。

� 個別ドナー内部の慣行

個別ドナーの内部手続きに関して、最も多かっ

た指摘は「情報伝達・対話(コミュニケーション)」

の改善(全体で3位)である。合意事項、活動内

容、手続き、報告、評価結果等についてのド

ナー・受益国間のコミュニケーション増大と情報

公開は、協調活動に寄与し重複を防ぐことに繋が

る。特に、「教訓の開示」は将来の援助活動をよ

り効果的にし、ドナーの「援助配分理由に関する

情報が開示」されれば、受益国の優先分野との調

整も可能となる。

「手続きを簡素化し、柔軟にして欲しい」(全体

で4位)との指摘が次に多くなされている。特に、

評価等のミッション数を削減すべきとの指摘が、

セネガル、ベトナムで多くなされた。ベトナムで

はさらにドナー機関でのプロジェクト準備部局と

実施部局の継続性が必要との指摘があった。

次に多かった指摘は、「援助のアンタイド化」

(全体で5位)である。ベトナムでは特に、資

材・人材に関するタイド援助が援助のコストを高

め、援助の質を落としていると考えられている。

また、「技術支援で受益国人材を活用すべき」

(全体で11位)との指摘もある。外部コンサルタ

ントとともに技術支援を行うことにより、受益国

の人材育成にもつながり現地事情を反映した技術

支援が可能になる。

次に、ドナーの「現地事務所への権限委譲」(全

体で15位)が負担を引き下げるとの指摘がある。

これは、現地事情に合致した援助が可能となる上

に、迅速で効果的な援助協調を可能とするとい

う。

� 援助協調の優先度が高い分野の地域差

しかし、OECD(2002b)の国別細分から地域

別の優先分野を再構成してみると、第3章の「負

担」の地域差に見られるような差異が、東アジア

(インドシナ)とアフリカとの優先分野の違いに

見られる。

アフリカの改善要望は改善項目全体におよび、

かつ「財政支援」や「SWAps」など開発政策・

戦略にかかる分野の改善要望が上位に見られるの

に対し、インドシナの改善要望は比較的少数であ

り、「ドナー内部の手続き簡素化」、「援助のアン

2003年9月 第17号 47

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タイド化」など援助提供コストに係る技術的な協

調要望が上位を占めている。これは、インドシナ

とアフリカの主要ドナーの違いにもよると思われ

るが、政策・戦略上の協調がドナー・受益国間で

形成されているか(すなわち、パレート効率的な

援助を行う状況にあるか)どうかの違いにも起因

していると思われる。図表18の要望事項に従え

ば、アフリカで必要な援助協調は、共通の政策・

戦略をドナー間、ドナー・受益国間で確定するこ

と(開発目的の協調)と考えられる。他方、イン

ドシナでは既に受益国作成の貧困削減計画があ

り、ドナー・受益国間でパレート効率的な援助が

できる状況にあるため、技術的な援助協調に対し

ての要望が強いのではないかと考えられる。そう

であれば、インドシナでは「援助提供コスト」(P)

の引下げに重点を置いた援助協調を行っていけば

よく、必ずしもSWAps等の援助協調手法にこだ

わる必要はないのではないかと思われる。

(4)「負担」、「優先分野」と援助協調パラメーター

第3章で示した図表7の援助の「負担」や、前

節図表16の「協調の優先分野」の分類は、受益国

が何処に負担を感じ、どの開発パートナー(個別

ドナー、ドナー相互、受益国)が責任を持って援

助「慣行」の改善をせねばならないかを示したも

のではあるが、その負担や改善案がどのようなメ

カニズムで、どのパラメーターを媒介として受益

国・ドナーの(広義の)「国益」増進を妨げ、ま

た改善するかが明確でない。

そこで、第4章の「援助協調モデル」(援助提

供関数)で提示した、各ドナー国の「国益」や援

助額を決めるパラメーター(「援助提供コスト」

(P)、「援助効率」(μ))および、ゲームの構造

(ナッシュ均衡か協調によるパレート効率的援助

か)を用いて援助の「負担」と援助協調の「優先

分野」の再分類を試みた(図表19、20)。ただし

これは、OECDのインタビュー結果をまとめた文

書(OECD(2002b))による分類を類似している

と思われるモデルのパラメーターに当てはめたも

のであり、必ずしも第4章のモデルのパラメー

ターと一対一対応とはなっていないことを断って

おく*12。

図表18 地域別の改善要望

順位 インドシナ(ベトナム、カンボジア) 順位アフリカ(ウガンダ、セネガル、タンザニア、モザンビーク)(エジプトは除く)

1 手続きの簡素化(ドナー内部)(4点) 1 受益国システムの使用(7点)

1 援助のアンタイド化(4点) 1 予算支援(7点)

1´ 受益国システムの使用(4点) 2 SWAps(6点)

2 一層の情報伝達・対話(3点) 3 共通の手続きの使用(5点)

2 現地政府の能力育成(3点) 3 現地政府の能力育成(5点)

3 共通の手続きの使用(2点) 4 一層の情報伝達・対話(4点)

3 技術支援変更/現地人材活用(2点) 5 手続きの簡素化(ドナー内部)(3点)

3 手続きの簡素化(ドナー間)(2点) 5 PRSP等の尊重(3点)

4 PRSP等の尊重(1点) 5 協調メカニズムの活用(3点)

6 援助のアンタイド化(2点)

6 現地事情の理解(2点)

6 レビュー過程の簡素化(2点)

7 手続きの簡素化(ドナー間)(1点)

7 現地事務所への権限委譲(1点)

出所)OECD(2002b)から作成

48 開発金融研究所報

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6.ケース・スタディー―ベトナムの援助協調とモデルの適用

ベトナムでは、86年以降のドイモイ(「刷新」)

政策の進展を受けて近年、直接投資とともに開発

援助額および援助ドナーの急増が見られる。援助

額は93年から2001年にかけて8倍増を示し、二

国間ドナーだけでも20カ国以上、NGOも含めれ

ば50以上の援助アクターがベトナムで活動してい

ると言われている。このような「援助急増」の中

で、ドナー間、およびドナーとベトナム政府間で

の開発戦略・運用政策・手続き・慣行等の違いや

重複がベトナム政府に不必要な負担を生み、オー

ナーシップの欠如、キャパシティーの欠如を創出

しかねず、それが開発援助の効率と効果に悪影響

を与えかねないため、「援助協調」を推進すべき

であるとの議論が出てくるのは当然であろう。

しかし、ベトナムの開発援助受け入れの現状

は、「援助漬け」になっている一部アフリカ諸国

の状態とは異なる。ベトナムは90年代に高成長を

実現しながら大幅な貧困削減を実現した国であ

る。多くの国有企業の存在が改革の足かせとなっ

ているが、ベトナム独自のPRSPである「包括的

貧困削減成長戦略」(CPRGS)を策定し、数値目

標を持つ中長期計画を立て、世銀のCDFや援助

調和化のパイロット国となるなど、新機軸に対す

る「実験」を積極的に行っている国でもある。

体制移行・開発双方をpro―poorな形で進める

「ベトナム」という特殊な国に合致する「援助協

調」の姿は如何なるものか。本章では、ベトナム

の開発援助の現状とそれに伴う「負担」、負担を

軽減するために採られている現在の援助協調の形

態等を概観し、サブサハラ・アフリカ等の他の低

所得国とは異なる「ベトナム」における援助協調

の改善策につき検討することとしたい。特に、こ

こでは2002年9月11~13日開催のOECD―DAC・

図表19 援助の「負担」の再分類

順位ナッシュ均衡状態

援助提供コスト(P)の上昇

援助効率(μ)の低下

1受益国の優先分野・システムに合致せず(1)

個別ドナーの手続き(2)

(ディスバースの遅れ(5))

2(ドナー間の不整合(3))

ドナー間の不整合(3)

受益国システムとの差異(7)

3(ディスバースの遅れ(5))

期限内に過大な要求(4)

キャパシティーを超える要求(8)

4情報の欠如(6) ディスバースの

遅れ(5)

5受益国システムとの差異(7)

6(キ ャ パ シティーを超える要求(8))

図表20 援助協調の「優先分野」の再分類

順位ナッシュ均衡からパレート優位な状態へ

援助提供コスト(P)の削減

援助効率(μ)の向上

1共通手続きの使用(1)

共通手続きの使用(1)

(共通手続きの使用(1))

2情報伝達・対話(3)

ドナーの内部手続き簡素化(4)

受益国システムの使用(2)

3受益国優先分野の尊重(6)

アンタイド化(5)

受益国政府の能力育成(7)

4協調メカニズム(組織)の活用(8)

(財政支援(9)) 協調メカニズム(組織)の活用(8)

5 予算支援(9) (SWAps(10)) (予算支援(9))

6SWAps(10) 多数ドナーの手

続き簡素化約束(13)

(SWAps(10))

7現地事情の理解(12)

評価の簡素化(14)

受益国人材の活用(11)

8現地事情の理解(12)

9現地事務所への権限委譲(15)

*12 概要以下の基準で「負担」や「優先分野」の各項目の再分類を試みた。詳しくは木原(2003)参照。

� 受益国・ドナー国(若しくはドナー国間)で援助資金の活用目的が未調整であれば「ナッシュ均衡」の状態にあると考え

られ、援助目的を調整して一元化すれば「パレート効率的援助へ移行」したものと捉える

� ドナー国が受益国に援助資金を移転する際にかかる「余分な負担」を増大させるものは、「援助提供コストPの上昇」と

捉える。

� 受益国が受け取った援助資金を効率的に活用できない状況を作り出すものは、「援助効率μの低下」として捉える。

2003年9月 第17号 49

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Donor Practicesに関するワークショップに提出

された「ベトナム―国別ケース・スタディー」

(Bartholomew and Lister(2002))を基に、第

4章で提示した「援助協調モデル」と関連付けな

がら見ていくこととしたい。

(1)ベトナムへの援助パターン

まず、ベトナムへの援助パターンを概観してお

きたい。

� ベトナムへの援助の歴史

80年代まで、ベトナムは西側諸国に食糧援助を

求めることはあっても西側諸国から多額の援助を

受けてはこなかった。旧ソ連がベトナムのGDP

の10%に相当する巨額の援助を行っていたが、

援助が貧困や社会指標に目立った影響を与えるこ

ともなく、ベトナムは最貧国に止まっていた。

そのような中、ベトナムは1986年ドイモイ政

策を開始し、経済、特に農業部門の自由化を図っ

た。1991年のソ連崩壊後、ベトナムは西側諸国

との国交正常化を図り、それに伴って西側諸国か

らのODAが大きく増大していった。ベトナムは、

90年代には平均7%以上の成長と急速な貧困削

減を達成し、西側諸国にとっても経済的・戦略的

にODAの有望な供給先となった。

� ベトナムへの援助の構成

前述の通り、近年のベトナムへの援助は、その

額およびドナー数の急速な増大に象徴されてい

る。Bartholomew and Lister(2002)により、

その特徴を見てみたい。

(�)ODA供与額

ベトナムへのODAディスバースメント額は93

年(2億ドル強)から2001年(18億ドル弱)に

かけて、8倍にも増加した。その結果、ベトナム

政府の「援助依存」が進み、ODA/政府資本支出

の割合は25%未満から80%にまで増大していた。

同時に、未払いのODAコミットメント額の増大

(ディスバースメントの遅れ)が問題となってい

るという。

ディスバースメントの遅れ、長期化の問題は、

理論モデルで言えば、援助額が時間とともに「割

り引かれ」、「援助提供コスト」を引上げていると

考えられる。また、援助を予定されていた通りに

使えないことから「援助効率の低下」を生みかね

ない。

(�)援助タイプ

援助供与の対象では、資本投資プロジェクト

(61%)が支配的だが、技術支援も多い(21%)。

2000年実績で見ると、プログラム援助や国際収

支支援といったプロジェクトを特定しない援助は

16%に過ぎない。なお、長期的なディスバース

メント額増大の大部分は、「借款」によるもので

あり、「無償」資金はあまり増えていない。

(�)セクター別構成

援助対象セクターで見ると、「エネルギー」「運

輸」の両セクターが最大の援助を受けている。他

方、社会セクター、農業、天然資源等のセクター

への援助は比較的少ない。

� 援助ドナーの構成

現在、ベトナムに援助を行っている二国間ド

ナーは20カ国以上あるが、日本だけでディスバー

スメント額全体の半分以上(2000年で53.8%)

を占める(無償および円借款が中心)。次に多い

のはMDBs(国際開発金融機関)であり、アジア

開発銀行が14%、世界銀行が9%近くを占めて

いる。日本以外の二国間ドナーの援助額シェアは

20%未満であり、「同志国」(�Like Minded Do-nors Group�;以下LMDGと呼ぶ)と呼ばれる国(当時はフィンランド、オランダ、ノルウェー、

スウェーデン、スイス、英国の6ケ国)のシェア

は5%未満に過ぎないという。なお、NGOから

の援助は0.5%未満と推測され、ほとんどの援助

が公的機関によるものである。

� ベトナムの援助管理機関

受益国のオーナーシップの下で援助協調が進展

するには、受益国政府の援助管理能力・制度が充

実しており、ドナー各国に信頼されるものである

必要がある。ベトナムではどうであろうか。

(�)ベトナムでは、1996年の法律制定により援

助管理の責任・手続きを明確化し、援助管

理の「内部化」、すなわちベトナム政府内部

の部局が可能な限り政府自身の計画・財務

50 開発金融研究所報

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管理システムを通じて、プロジェクト選

定・管理・資金管理を行うこととした。

2001年に制度改正が行われ、「政令17号」で

援助活用・管理政策を規定し、「政令88号」

で調達に関する事項を規定している。

(�)ベトナムで援助管理に第一義的責任を負う

官庁は「MPI」(計画投資省)であり、全体

調整の役割を担う(その他、財務省、内閣

府が関与)。他方、ベトナムには60以上の地

方政府があり、援助の分権化とともに、地

方政府の調整機能が重要性を増してきてい

る。

(�)開発援助に関する国家戦略・計画として、

ベトナムでは10年間の国家戦略と5カ年計

画が策定されている。各段階のプロジェク

トは5年間(今は2001年~2006年)の「公

共投資プログラム」(PIPs)に統合され、

地方政府についてもPIPsが作られているも

のがある。

理論モデルに従えば、このような「国家開発戦

略・計画」の策定と受益国・ドナー双方による共

同実施は、援助資金の提供をナッシュ均衡の状態

から「パレート効率的」な援助協調へと導く可能

性を示唆している。

援助の有効性に係る1992年DAC原則でも、

PIPsは援助調整・管理のための主たる手段とさ

れ、PIPsの活用により、優先順位の設定・資金

計画の改善、プロジェクトの重複の回避を通じ、

「取引費用を最小化」できるとされている。しか

し、Bartholomew and Lister(2002)によれば、

現在のPIPsについては以下の欠点が指摘されて

いる;

・プログラムに含まれるのは「大型プロジェクト

のみ」であり、ドナーによるプロジェクトの多

くが含まれていない。

・PIPsは「一時点のプログラム」を示したもの

で、毎年の改訂がなされない。そのため、特に

資金利用可能額に変動が起こった時には資金管

理の実用に供さない。MPIも当該年の予算しか

示しておらず、将来の資金可能額が示されてい

ない。また、PIPsは「投資支出」のみで運営

費は含まれていない。

そのため、世銀の「公共支出レビュー」(PER)

では、PIPsを強化し、より体系的な中期支出計

画にリンクさせるべきことが指摘されている。ま

た、予算が公開されたのも1999年からというよ

うに、ベトナムの予算制度には未だに「透明性」

が確保されていない。2001年の世銀の「国別財

務説明責任評価」(CFAA)もベトナムの制度を、

予算が不透明で政府の資金情報が限られており、

監督体制もできていない、監査結果が公開され

ず、報告制度もモニタリング機能を果たしていな

いなど、公的資金の「資金管理リスク」がある旨

指摘している。

(2)ベトナムへの援助にかかる「負担」の所在

このような中、ベトナムの開発援助に関し、ど

のような過大な取引費用、すなわち「負担」が存

在するのであろうか。ベトナムへの援助に関する

これまでの調査によれば、以下のような「負担」

が指摘されている。理論モデルと関連付けながら

見ていきたい。

� 調整不足・オーナーシップの欠如と「技術協

力」

ベトナムに於いても、他の受益国同様、「アク

ター間の調整不足」の問題が指摘されている。例

えば、UNDP and DFID(2000)は、ベトナム政

府のプロジェクト管理・掌握能力の欠如、ドナー

間の「教訓」活用の欠如、地域間での援助の

「ギャップ」(能力を超える援助を受け入れる地

域と全く援助の来ない地域)等の指摘がなされて

いる。

これは、短期間に巨大な援助市場が形成された

ためであり、Bartholomew and Lister(2002)

はその原因を「ベトナム政府内の調整能力の弱さ」

と「途上国政府のあり様についてのドナーの理解

不足」に求めている。

「援助協調の不足」が顕在化すると、受益国政

府の開発活動のためのキャパシティーが逼迫して

しまい、受益国の「オーナーシップ」が発揮でき

ないという「低オーナーシップの罠」に陥りかね

ない。UNDP(2000)は、ベトナムの場合、特に

「技術協力」(TC)事業についてオーナーシップ

2003年9月 第17号 51

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の欠如が顕著であり、以下のような多大な「負担」

を生んでいる旨指摘する。

(�)「現地の事情を反映せずに」、プロジェクト

審査・コンサルタント雇用・ディスバース

メント等主要な決定がドナーの本部で行わ

れる。これでは、受益国の事情や戦略が反

映されずパレート効率的な援助ができない

ばかりか、ドナーと受益国の余分な調整を

必要とし、援助提供コストpを引き上げか

ねない。

(�)ベトナムの「現地コンサルタント」の活用

が極めて限定的である。これは、低コスト

の現地コンサルタントを使用しないことに

よる援助提供コストpの上昇とともに、現

地コンサルタントが参加できないことによ

る援助効率μの低下も懸念される。

(�)国際コンサルタントによる「長期のTC契約」

は金が掛かりすぎる。短期に何度もサイト

を訪れるTCのほうが効率的である。これ

は、長期契約に基づく、援助提供コストp

の上昇懸念である。

(�)ドナーもベトナム政府もTCに対する「モニ

タリング・評価」を行っていない。これで

は技術協力活動の効果が判らないまま活動

を継続若しくは新規実施することとなり、

援助効率μの低下を招くことが懸念される。

(�)さらに、TCについても「ドナー間の協調」

が図られていないために契約条件の「重複」

やアドバイス間の「矛盾」が起こりうる。

また、コンサルタントの報告の後、制度改

革や訓練の実施に結びつかない。ドナー間

が協調関係にないことによりパレート非効

率なTC活動が行われている可能性が高い。

� 受益国(ベトナム政府)の「負担」

そのため、ベトナム政府は「技術協力」の分野

を、ドナーとの関係で最も負担が大きいものと認

識している(Bartholomew and Lister(2002))。

すなわち、技術協力はタイド援助であり、援助提

供コストpの上昇をもたらしかねない。また、ド

ナー国は技術協力を独自に行いたがっており、技

術協力の役割の確定や人材の選定にベトナム政府

を関与させない。そのため、受益国・ドナー間で

パレート効率的なTC活動ができない。さらにド

ナー国は自国のコンサルタントによる長期の技術

協力を主張し、現地の能力開発を行わないため、

長期的に受益国の援助効率μの低下を招きかねな

い。

その他、「負担」の大きい分野として指摘され

るのが、「タイド援助」である。ベトナム政府に

よれば、「タイド援助」により、最適価格での調

達ができなくなるため、援助の価値が減じられ

る。典型的な援助提供コストpの上昇をもたらす

ものと言えよう。

さらに、「国有企業からの調達制限」や「住民

移転への補償支払」(不法居住者の扱い)など、

ドナーとベトナム政府で(手続き面ではなく)「実

質的なアプローチの違い」がある。この点につい

てベトナム政府は、手続き的な問題よりも問題が

多いと認識しているが、変更は困難であろうとも

認識している。

その他、特に援助提供コストpを引き上げる負

担として「プロジェクトを遅延させる、準備段階

での長々とした手続き」、「カウンターパート・

ファンドをわざわざドル建てにするような、ド

ナーの特定の手続き」、「ドナー本部からの、重複

するミッションの来訪」、「承認手続きの遅延と膨

大な報告書要求」等が指摘されている。

� ドナーの懸念

ドナーがベトナム政府を信頼していれば、援助

活動の多くを任せオーナーシップを発揮させるで

あ ろ う。し か し、Bartholomew and Lister

(2002)が行ったインタビューによれば、ベト

ナム政府の援助受け入れ体制に関してドナーはい

くつかの懸念を有している。

特に、ベトナム政府に「透明性の欠如」と「資

金管理に関する説明責任の不適切さ」があるとの

認識があり、そのため、ドナー各国は政府の資金

手続きを使用せず、「並行した援助メカニズム」

を構築してしまい援助システムの「重複」を生ん

でいる。第3章で指摘した通り、これはベトナム

政府のオーナーシップやキャパシティーの欠如を

生むことになりかねない。

その他、ベトナム「政府部内の調整不足」と「情

報交換の欠如」のため、事業実施時に誰が責任者

52 開発金融研究所報

Page 31: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

かわからないといった問題が起きている。また、

意思決定の高いレベルへの集中と複数機関の承認

の必要性から起こるベトナム「政府の手続きの遅

延と複雑さ」、ドナーと受益国の「事業サイクル」

の不一致から起こる「プロジェクト実施・資金移

転の遅延」等の問題がある。

他方、インタビューでは援助協調を担当する

「調和化部局」の設置、MPIによるCPRGSの調

整といった分野では、ベトナム政府のオーナー

シップが発揮されていると評価されており、ド

ナー各国は一般にベトナム政府が積極的に参加し

ている「パートナーシップ」は、有用で成功して

いると評価している。

� 主要な負担と改善策

Bartholomew and Lister(2002)の調査によ

れば、最も多く指摘されたベトナム政府の「負担」

は、�ドナーの要件と受益国政府の「システムの

違い」(特にプロジェクト準備)、�「タイド援助」

等の調達制限、�ドナー・「ミッション」の多さ、

�過重な「報告」要件であった。

ベトナム政府は、ベトナム政府自身が政策・戦

略を作ることがドナーに規律を課し、オーナー

シップを保つために必須の条件と認識している。

また、「負担」軽減のためには、プロジェクト準

備の簡素化・標準化・短期化、プロジェクト準備

実施機関とその後の管理機関との継続性が必要と

の意見もある。さらに、プロジェクト管理機関が

もっと意思決定権を持つべきとの意見も強い。

この調査やOECD(2002b)から窺えるベトナ

ム政府の主要な負担は、特に、�国有企業の調達

入札に対する制限(上記の「システム」と「タイ

ド援助」の問題)、�技術協力に現地コンサルタ

ントを使わないこと(「タイド援助」の問題)、お

よび�不法居住者の強制移転(resettlement)に

対する補償(「システム」の問題)に集中してい

る。

図表21は、ベトナムでドナー慣行を改善すべき

優先分野に関するOECD(2002a、b)による調査

結果である(頻繁に指摘された改善分野には2点、

指摘のあった改善分野には1点が与えられてい

る)。この表を見ると、�財政支援、SWAps等の

プログラム援助への移行に関する要望は無く、む

しろ手続き面の簡素化、調和に改善要望が集中し

ていること、�サブサハラ等を含む調査対象国全

体での順位と比べると差異がみられること等が判

る。

ベトナムでは、既にPRSP(CPRGS)を受益国・

ドナーの協力の下作成しており、このCPRGSを

基に開発目的・戦略に関する協調は進んでいるこ

とから、改善すべき分野は手続きやアンタイド化

など「援助提供コストの引下げ」(p)に効果が

大きい分野に集中するものと考えられる。

(3)ベトナムにおける援助協調の「グッド・プラクティス」

� ベトナムの協議体制

ベトナムでは、「CG会合」、「開発パートナー

シップ・グループ」等を通じ、ドナー・ベトナム

図表21「ドナー慣行」の中で改善してほしい優先分野―ベトナム

順位 改善分野指摘の頻度

調査国全体での順位

1受益国のシステムの使用(ドナー・受益国のシステムの調和)

2点 2

1 手続きの簡素化(ドナー間) 2点 13

1手続きの簡素化(特定のドナーの内部手続き)

2点 4

1 援助のアンタイド化 2点 5

2 共通の手続きの使用 1点 1

2 一層の情報伝達・対話 1点 3

2PRSPや受益国自身の優先分野の尊重

1点 6

2 現地(中央・地方)政府の能力育成 1点 7

協調メカニズムの活用 0点 8

財政支援 0点 9

SWAps(セクター・ワイド・アプローチ)

0点 10

技術支援の変更/受益国内の人材の活用

0点 11

現地事情の理解 0点 12

レビュー(モニタリング・評価)過程の簡素化

0点 14

現地事務所への権限委譲 0点 15

出所)OECD(2002a)、(2002b)から作成

2003年9月 第17号 53

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政府間の「協議体制」が進んでいる。

(�)ベトナムの「CG会合」は、93年のUNDP主

催国際ドナー会議を発展させる形で、94年

に発足した。ベトナム政府と世銀が議長を

務め、98年からは年央レビュー会合も実施

している。CG会合には約50の二国間・多国

間ドナー、ベトナム政府が参加し、経済政

策、援助効果、貧困削減戦略等について議

論するフォーラムとしての機能を果たして

いる。

(�)特にベトナムでは、「開発パートナーシッ

プ・グループ」と呼ばれる援助協調グルー

プが多数設置されていることに一つの特徴

がある。これまで、銀行、運輸等の特定セ

クターや、貧困、ジェンダー、環境等の横

断的問題まで含め、20以上の分野でグルー

プが設置されている。ただし、形式は様々

であり、公式、非公式様々なセッティング

で、政府・ドナー・NGOが参加し、目的や

アプローチは、情報交換から政策への影響

力行使まで、グループにより異なっている。

� ディスバースメント問題に対する「開発銀行

間の協力」

Bartholomew and Lister(2002)によれば、

ディスバースメントの遅れ、未払い残高の増大に

対応して、JBIC(国際協力銀行)、ADB(アジア

開発銀行)、世銀は、99年以降、ベトナム政府と

共に援助効率化のため、手続き・要件の調和等に

努力してきている。2003年2月のOECD/DACに

おける「調和化ハイレベル・フォーラム」でJBIC

から報告された「JBIC・世銀・ADBのベトナム

援助手続きに係る調和化」に係る現状は以下の通

り*13。

(�)経緯

世銀・ADB・JBICではベトナム現地事務所

ベースで、1999年7月から合同パフォーマン

ス・レビュー会合を開始するなど、援助効率化の

ための集中的な議論を開始した。2001年4月の

世銀・IMF合同開発委員会で、�調達・�財務

(資金)管理・�環境社会配慮の三分野がMDBs

の援助調和分野に認定された。この分野はJBIC

でも調和化が可能と思われ、調和化の成果が短期

的に期待できる分野であることから、三機関の調

和化努力分野として選定された。2002年5月の

中間CG会合で、JBIC・世銀・ADBで三分野での

調和化パイロット事業を開始する旨公表し、

2002年12月のCG会合、2003年1月の地域ワーク

ショップを経て、2月にローマで行われた「調和

化ハイレベル・フォーラム」で中間報告がなされ

た。

(�)調和化の現状

現在までの達成度は以下の通り。

� 調達―ベトナム政府自身が「国内競争入札

の共通文書」を、世銀・ADB・JBICと協力

の上作成。また、三機関は「国別調達評価報

告(CPAR)」の実施について共同で審査す

る。

� 財務管理―財務中間監理(モニタリング)

と監査のための共同報告書と共同基準につい

て検討中。ベトナム政府はMPI内に新たにモ

ニタリング・評価部局を設置。

� 環境社会配慮―三機関でシステムや手続き

について比較した結果、環境影響評価(EIA)

に対するアプローチ・要件にさほど違いが無

いことが明らかになった。現在、EIAプロセ

スについての手続き・文書・公開に関する調

和化や住民移転に関する方法を検討中。

ベトナムの場合、有償資金協力の大部分をこれ

ら三機関が実施しているため、これらの機関で調

和化が合意されたことにより、すでに「有償資金

分野の調和化」作業が実施されているとも言えよ

う。前述の通り、ベトナムでは「手続面の簡素化」

に対する要望が強く、これら開発銀行間の調和化

努力はベトナム政府の要望と合致した動きと言え

る。また、JBICはこのような形の援助協調を行

うことにより、ベトナム政府の負担軽減に貢献し

ていることを示しており、援助協調により「顔を

見せる」ことが可能であることの好例と言えよう。

*13“Achievement of Harmonization of Aid Procedures”JBIC presentation in High Level Forum on Harmonization, February

24―25,2003

54 開発金融研究所報

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� セクター・ワイド・アプローチ(「森林セク

ター支援プログラム(FSSP)」の教訓)

98年、ベトナム政府は「500万ヘクタール植林

計画(5MHRP)」を採択し、ドナーに支援を要

請した。この要請に対して、各ドナーはCG会合

でパートナーシップ・アプローチを採ることで合

意し、99年12月、FSSP発足の合意文書に署名し

た。このプログラムは、ベトナム政府の予算だけ

では達成不可能なので、ベトナム政府は「�em-bedded project�SWAps」(共通の政策・実施フレームワークの中でドナーがプロジェクトにイヤ

マークした資金支援)を提唱した。体制としては、

農業地域開発省が中心となり、パートナーシップ

運営委員会、技術的理事会、農業地域開発省の調

整室(ドナーが運営資金を提供)等の組織からな

る。

合意文書は、「締約者は、互恵的な対話におい

て、FSSPの最終目標、目的、実施方針を政府の

政策・計画・プログラムと調和させるよう活動」

する旨規定している。このパートナーシップでは

「共通の作業計画」の下で「成果の期待される分

野」と「達成指標」を規定している。また、各ド

ナーの重点分野をマトリックスで規定し、追加支

援が必要な分野を識別している。さらに、レ

ビュー・ミッションを年一回、共同で実施してい

る。このパートナーシップには国際NGOのみな

らず、現地NGOも参加し、成果物としてド

ナー・政府共通の計画原則・アプローチを規定す

る「森林セクター・マニュアル」を作成した。

このように、セクター・ワイド・アプローチ

は、当該セクターの開発の最終目標・目的・戦

略・実施方法等を政府・ドナー・NGO等のス

テークホールダーが共有・協調することにより、

各ステークホールダーの任意の活動に伴うナッ

シュ均衡の状態から「パレート効率的な資金提供」

を可能とするとともに、重複を避け「援助効率の

改善」に資するものとなり得る。特に、このFSSP

のように、�embedded project�SWApsの方式を採用すれば、各ドナーの貢献が明確になり、各ド

ナーの(狭義の)国益に資することも可能となる。

� 「同志国グループ(Like Minded Donor

Group:LMDG)」

このグループはUtsteinグループ*14から発展し

たもので、現在はフィンランド・オランダ・ノル

ウェー・スウェーデン・スイス・英国・デンマー

ク・ドイツ・カナダの9カ国で構成されている。

グループの目的は、ODA管理の改善と調和促進

である*15。当初、ODA「手続きの調和」に重点

を置き、ベトナム政府とLMDGの手続きの比較

研究を実施した。最近は、調和が容易にできるよ

うな「新しい援助メカニズム」(多数国間信託基

金、協調融資、プール資金、SWAps等)の識別

に重点を移している。

このグループは、議題を限定した定期的な会合

を持っており、CG会合でも共同ステートメント

を行うことが多い。2001年のCG会合では、政府

とドナー間の貧困撲滅を目指したより効果的な協

力を達成するための「6つの望ましい結果」*16を

公表し、2002年のCG会合でその評価を行った。

評価結果は以下のとおりであり、6項目のうち5

項目は顕著な進展があったとしている(World

*14 99年設立のグループで、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、英国等の開発大臣により構成される。

*15 World Bank et. al(2003a)によれば、LMDGは以下の2点に共同でコミットしている

・pro―poorな成長を促進し、ODAの計画と実行を調整し、全体の援助努力の整合性を高めるに当たって、CPRGS(包括的貧

困削減成長戦略)をフレームワークとして使用する。

・援助管理慣行の調和化、共同作業への参加、ベトナム政府のシステムの活用、取引費用削減・援助効果発現を促すような新

たな援助手法の導入等により、ベトナムにおける「援助の質」を改善する。

また、「調和化」を「援助実施の取引費用を削減し援助効果を高めるため、ドナーの運営方針・手続き・慣行の拡散を防ぐ

こと」として捉え、LMDGの調和化に対するアプローチは、ドナーの並行した援助システムを用いるのではなく、ベトナム

政府の援助システムの能力増強を図り、もってよりベトナム政府のODAシステムを使用できるようにすることを基礎とする

としている。

*16 LMDGが合意した「6つの望ましい結果」には、(�)CPRGSを貧困削減に向けたODAの計画・モニタリング・共同評価の

ための共通フレームワークとして採択する、(�)資金管理・調達・モニタリング・報告の手続き調和のガイドラインを作成

する、(�)新しいODA手段の使用を図る、(�)援助効果の改善のためには、ベトナム政府の強力なリードとベトナム政府

の手続きを使用することが必要との認識から、政府とドナーが共通理解を持つような訓練コースを開設する、ことなどが含ま

れる。

2003年9月 第17号 55

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Bank et.al(2003a))。

(�)「ODAの企画のためのフレームワークとし

てのCPRGS(包括的貧困削減成長戦略)を、

共同で評価」

「成功」(CPRGSの共同評価を実施し、それ

がODAプログラムを企画する際の良いフ

レームワークであるとの結論であった)

(�)「(援助管理政策を規定する)政令17号の実

施を促進するための能力育成プログラム」

「一部成功」(MPIが能力育成プログラムを

企画・実施するための「調和化プロジェク

ト」に共同出資することで合意。ただし、

プログラムは未だに明確に規定されてはい

ない)

(�)「(ア)モニタリング・報告と(イ)調達に

関する政府・ドナー作業部会の設置」

「失敗」(未だにこれらの作業部会は設置さ

れておらず、ベトナム政府に考えを示すよ

う促している)

(�)「ベトナム政府とDAC作業部会との相互学

習」

「一部成功」(2002年のDAC/OECDミッショ

ンのベトナム訪問後、ベトナムは調和化作

業の先進国として認識されている。EUや

JBIC・ADB・世銀の調和化作業も成功して

いるが、多くの調和化作業間の整合性が必

要)

(�)「セクター・ワイド・アプローチのより良い

理解」

「一部成功」(共通用語の使用を確保する

「ODA管理用語集」の原稿を配布。セク

ター・ワイド・アプローチの訓練を実施)

(�)「調和化を促進し援助効果を高めるような

ODA手法の活用」

「成功」(財政近代化と行政改革の多国間支

援枠組みに合意)

さらに、2003年のCG会合に向けて、CPRGSの

モニタリングと実施に関する共通フレームワーク

に合意することなどを含む、「7つの結果」を新

たに目標として設定している。

このように、LMDGは複数国ドナーで協調す

る分野、目標を明確化し、CG会合を契機に毎年

の成果を評価し、次年度の活動にフィードバック

している。その意味で理想的なプロジェクト・サ

イクルに則った活動をしているが、それぞれの

「望ましい結果」相互間の関係、および総体とし

てどのような成果が期待されるか(プログラムと

しての成果)が必ずしも明確には示されていない。

� ドナー間の「論争」―「伝統主義者」対「急

進主義者」

ベトナムにおける援助協調の一つの問題は、大

口ドナーである日本、ADB等の援助協調に対す

る考えと、北欧・英国を中心としたドナー国

(LMDG)との考えが大きく異なるように見え

ることである。Bartholomew and Lister (2002)

はこの対立を、「伝統主義者」対「急進主義者」

の論争と位置付けて、双方の考えを以下のように

概説している。

(�)「伝統主義者」は、「プロジェクト」・ベース

のアプローチが、インフラ支援に於いても、

品質保証の面においても適切であるとする。

伝統主義者にとって余分な負担を削減する

好ましい方法としては、(ア)政府の能力と

制度を強化する、(イ)ドナーが取引費用の

大部分を負担する、(ウ)規則・手続きの違

いを収斂させるようにドナーと政府が協力

することが挙げられる。ドナー国本部が決

めた全援助対象国に共通する手続きが重要

であり、現地ベースでの裁量は乏しい。

Bartholomew and Lister(2002)によれば、

日本や、国際機関(国連機関を含む)が「伝

統主義者」に分類される*17。

(�)「急進主義者」は、援助の質を高める目的で、

「ノン・プロジェクト」ベースのアプロー

チを支持している。可能な限り受益国政府

のシステムを利用する形での、ドナー・政

府双方の共同行為を推奨する。「同志国グ

ループ」(LMDG)等が「急進主義者」に

分類される。

*17 ただし、JBICは、世銀・アジ銀との手続き調和化の実施、意思決定の現地化の推進等、援助協調や現地ベースの裁量増大に

努力している。

56 開発金融研究所報

Page 35: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

qb

qa

Ra

Rb2

N2O

Ua0

Pqb0

qb1

qa0qa1

Rb1

Rb0

N1

Ua1Ua2

Ub1

N0

パレート効率線�

しかし、Bartholomew and Lister(2002)

も指摘するように、双方とも、「セクター・

ワイド・アプローチ」を「イヤマークしな

い財政支援」そのものであるかのように、

両者の違いを強調しすぎている感がある。

彼らは、「両者を調和させるためには、プロ

ジェクト援助、ノン・プロジェクト・アプ

ローチ双方を進めている「世銀」の役割が

重要である」としている。

(�)ドナーの援助目的が異なる場合の援助協調

モデル

ベトナムにおける日本とLMDGのように、ド

ナーの援助目的が異なる場合、第4章で展開した

援助協調モデルからどのようなことが言えるであ

ろうか。

ある受益国(例えばベトナム)において、ドナー

aは(狭義の)「国益」γに関心があり開発援助

を公共便益と共に私的便益も結合生産する準公共

財と捉えているが、ドナーbは(狭義の)「国益」

に関心が無く(γ=0)開発援助を純粋公共財と

して捉えているものと仮定しよう。この場合、ド

ナーbの効用(国益)関数は、

Ub=Ub (yb,Q) s.t Ib=yb+pqb,Q=qa+qb

(6―1)

と表される(各記号の意味は第4章と同じ)。ド

ナーbはドナーaの援助額qaを所与として、以

下の最大化問題を解くことにより自国の(広義の)

国益最大化を図る。

Max Ub(Ib-pqb,qa+qb)(6―2)

最大化一階の条件は、

∂Ub/∂qb=-pUby+UbQ=0(6―3)

ここで、

Uby≡∂Ub/∂(Ib-pqb) UbQ≡∂Ub/∂(qa+qb)

であり、最大化一階の条件から以下の(6―4)

式が導かれる。所与のドナーaの援助額qaに対

してこの条件を充たす点の集まりが、ドナーbの

「反応関数」Rbとなる。

UbQ/Uby≡MRSbQy=p (6―4)

他方で、ドナーaは狭義の国益γにも関心を持

つので、ドナーbの援助額を所与として、ドナー

aの(広義の)国益を最大化することによる一階

の条件は、第4章の(4―8)式同様、以下の(6

―5)式で表される。所与のドナーbの援助額qb

に対してこの条件を充たす点の集まりが、ドナー

aの「反応関数」Raになる。

MRSaQy=p-γ (6―5)

第4章の図表9で示したとおり、公共財として

の開発援助の限界効用が低減する下では、狭義の

国益に関心を持たないドナーbは、狭義の国益γ

に関心を持つ場合より少ない自国の援助額で上記

の最大化条件を充たすので、以下の図表21におい

て、ドナーbの反応関数Rbは、狭義の国益γに

関心を持つ場合に比べ、 より少ないqbに対応し、

より下方に位置することになる。

上の図表22から明らかなように、ドナーa、b

の効用関数がγの値以外は同様で、援助提供コス

トP等の他のパラメーターが同一の場合、ナッ

シュ均衡点は、ドナーbが狭義の国益にも関心を

持っている場合(N0:qa0,qb0)に比べて、ド

ナーaの援助額が多く(qa1>qa0)、ドナーbの

援助額が少ない(qb1>qb0)均衡点(N1)に移

行する。もし、ドナーaが日本で、ドナーbが

LMDG諸国であれば援助の「非協力ゲーム」の

結果、狭義の国益γに関心を持つ日本は、ベトナ

ムへの援助の純粋公共財的側面(貧困削減等)に

のみ関心を持つLMDGより多くの援助を行なう

こととなってしまう。また、ドナーa(日本)の

広義の国益も、ドナーb(LMDG)が狭義の国

益にも関心がある場合に比べ、減少してしまう可

能性がある(Ua1<Ua0)。

この状況を解消する方法の一つは、第4章で示

したように「援助協調」を行うことにより受益国

および双方のドナーにとりパレート優位な領域で

図表22 援助目的が異なるドナー間のナッシュ均衡援助と援助協調

2003年9月 第17号 57

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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

の援助を行うというものである。もし、図表22の

パレート効率線上で援助が行なわれるとすればド

ナーbの援助を大幅に増やすことにより、ドナー

aの援助額をqa1からさほど増やさずにドナーa

の広義の国益を増進させる交渉解(例えばP点;

Ua2>Ua1)を実現できるかもしれない。このこ

とはドナー間で現在の非協力ゲームを続けるより

援助協調を行なう「協力ゲーム」に移行したほう

が利得があるという意味で、援助協調移行へのイ

ンセンティブを与えることにもなろう。

問題は、誰がこの協力ゲームへの移行を促進す

るかである。ここで、世界銀行等の「国際機関」

の役割が出てくる。特に、Bartholomew and Lis-

ter(2002)も指摘しているように、世銀はプロ

ジェクト援助、ノン・プロジェクト援助双方を推

進しており、「仲介者」として有利な位置にいる

し、�Knowledge Bank�(「知識銀行」)として「援助協調」のメリット(例えば、N1点からP点に

移行した場合の国益の増大)を理論的・実証的に

示すことができる立場にある。世銀等、中立的な

国際機関の役割は、援助協調の分野でも重要であ

ると言えよう。

これまでの分析は、一定の援助額により実現さ

れる純粋公共財(貧困削減等)から享受すると期

待される限界国益μ*18を考慮せずに行なってき

たが、ドナーa、bともに同一のμを持つ場合に

も、上記と同様の結論になる。

しかし、もしドナーa、bで公共財援助に付す

限界価値μが大きく異なる場合は、同様の設定の

非協力ゲームから援助協調へ移行したとしても、

ドナーaの援助額がむしろ増大する可能性(例え

ば図表22のN2→P)があることを示すことができ

る*19。しかし、貧困削減等の援助に係る純粋公

共財的側面の評価が、日本とLMDGで大きく異

なるとは考えがたく、現在、日本とLMDGが非

協力ゲームの状況にあるとすれば、そのナッシュ

均衡点は(N2点であるよりも)N1点である可能

性が高いと思われる。そうであればLMDGと援

助協調を行なうことにより、日本の援助提供額を

「節約」することも可能となるのではないかと思

われる。

(4)ベトナムにおけるCDFの展開=「パートナーシップ」

� ベトナムにおけるCDF・パートナーシップ

ベトナムは世銀のCDF(包括的開発フレーム

ワーク)構想のパイロット国に選定され、世銀に

よる各ドナー・ベトナム政府への働きかけが行な

われた。その結果もあって、ベトナムには「パー

トナーシップ」という概念の下で20以上の分野に

ついて、各ドナー・ベトナム側がワーキング・グ

ループ(WG)会合(前述の「開発パートナーシッ

プ・グループ」)を開催し、政策・援助・投資に

かかる意見交換・調整等を行っている(一部グ

ループにはNGOも参加)。

しかし、各WGの活動内容が多様である上、各

グループの参加者が決定するという分散型・ボト

ムアップ型の活動形式をとっているため、各グ

ループ内のオーナーシップは確保しやすい反面、

各グループの活動を横断的・整合的に管理するこ

とが困難な構造になっている。

このため、毎年12月のCG会合、6月の中間CG

会合で、全てのパートナーシップ活動の現状が取

りまとめられるなど、CG会合をひとつの区切り

として情報の共有が行われている。

このような中、我が国援助機関は、トップド

ナーとして、特に99年のCG会合以降、パート

ナーシップへの取り組みを積極化し、「運輸」「中

小企業振興」「ホーチミン市援助調整」等の分野

でパートナーシップ会合のリーダーシップをとっ

ている。

パートナーシップに対して、欧州(北欧・英等)

の二国間ドナー(LMDG等)は自己の援助資金

規模は比較的小さいものの、パートナーシップの

枠組みにより発言力を高めることが可能となるた

*18 第4章のモデルではμは「援助効率」として表したが、ここでは、一定の援助額により実現される貧困削減等の純粋公共財か

らドナーが得ると期待する限界国益、若しくは公共財援助に付す限界価値を表す。

*19 双方のドナーの効用関数の形状がγの有無、μの値以外は同一であるとすれば、ドナーaの純粋公共財に対する限界国益(μ

a)が、ドナーbの限界国益を実質国益で割り引いた値(1-γ/p)μbよりも小さければ、ナッシュ均衡状態でドナーbの方が多くの援助額を出している可能性がある(例えば、図表22でドナーbの反応関数がRb2の場合、N2点でナッシュ均衡)。

58 開発金融研究所報

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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

め前向きな姿勢で対応しているといわれる。他

方、ADB等のドナーは、世銀に援助協調全体の

主導権を握られることを若干警戒しており、世銀

も、世銀のみが目立たないよう、またベトナム側

のオーナーシップを損なわないよう留意している

模様である*20。

世銀ハノイ事務所によれば、(2002年1月当時)

24の二国間ドナー、15の国連機関、2国際開発金

融機関(世銀とADB)とEU、500のNGOがベト

ナムの開発にかかわっており、99年には農村開発

のODAプロジェクトだけで417名が係わるなど、

関係機関・人員が多く、調整の問題が発生してい

るとのことであった。その解決策として各ドナー

は、CG会合、毎月のドナー昼食会、政府・ド

ナー・NGOのパートナーシップ・グループを活

用し、手続きの調和化やセクター・ワイド・アプ

ローチへの移行等を行っている。

パートナーシップ・グループは、世銀の分類で

は以下の6グループに分けられる。

(�)「広範な開発問題」(�貧困WG�ジェンダー

戦略�環境�市民社会とコミュニティーの

参加�民間セクター・フォーラム�都市開

発など)

(�)「経済管理」(�国有企業改革と株式会社化

�銀行改革�貿易改革�中小企業開発など)

(�)「インフラ」(�運輸�ホーチミン市ODA

パートナーシップ�都市部門�エネルギー

など)

(�)「公的管理」(�行政改革�法制度部門など)

(�)「人的・社会開発」(�初等教育�保健など)

(�)「地方・地域開発」(�森林および500万ヘク

タール・プログラム�最貧困コミュニ

ティー支援パートナーシップ�食糧安全保

障�中部ベトナムの自然災害を緩和するた

めの中部諸州イニシアティブ�トラビン参

加型州パートナーシップ�水資源�漁業な

ど)

� ベトナム・パートナーシップの進展

世銀ハノイ事務所は、ベトナムの各パートナー

シップの活動を�Putting Partnerships to Work�(December 2001)というレポートにまとめ、

2001年CG会合に報告している。以下、このレ

ポートに従い、ベトナムのパートナーシップ・グ

ループの有り様について見てみたい。

世銀は、ベトナムの援助協調について、手続き

の調和化等に見られるように他の援助対象国と比

較しても特に進展しているとの評価をしている

が、未だに、援助需給のギャップ、ドナー間の重

複、高い取引費用、成果よりインプットの重視

等、克服すべき課題があり、更なる援助協調によ

り効率化できると考えている。

ベトナムの各パートナーシップの進展を見てみ

ると、各パートナーシップは目的もスピードもそ

れぞれ違うが、成功しているパートナーシップは

次の5段階を踏んでいると言われる*21。まず、

(�)「情報の共有と理解」から始め、(�)「共同

の技術的診断」を行い、(�)「解決法の原則に合

意」し、(�)「詳細な共通アクション・プランの

共同開発」を経て、(�)「業務とファンディング

の明確化」に進んでいる。さらに、「セクター・

ワイド・アプローチ」に進もうとしているグルー

プもある。

例えば、2001年3月に発足した「法整備ニー

ズ調査パートナーシップ」は、5つの専門家チー

ムを編成し、ドナーのインプットと法整備ニーズ

を確定する協調メカニズムを設定した。その後、

現状・ニーズ・戦略的解決法にかかる4報告書作

成し、これが、全体の法整備ニーズ調査報告書、

2001―2010開発戦略、アクション・プランの策

定につながった。このパートナーシップは、

UNDP管理の信託基金から活動支援を受けてい

る。

図表23は、組織構成の公式度(「公式」(覚書、

事務局、定期会合、常勤スタッフ等を有する)か

「非公式」か)を縦軸に、パートナーシップの進

展(上記5段階)を横軸にとった場合の、各パー

*20 2002年1月、筆者がベトナムを訪問した際の、大使館、世銀、JBIC、JICA等からのヒアリングによる。

*21 さらに、第6段階として、「実施・モニタリング・成果の評価およびフィードバック」が挙げられている(World Bank(2002))。

2003年9月 第17号 59

Page 38: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

公式�

非公式�

パートナーシップの段階�

第1段階� 第2段階� 第3段階� 第4段階� 第5段階�

原則に合意� 詳細な共通アクションプラン�

情報共有と理解� 共同の技術的診断� 業務と資金拠出の明確化�

組織の公式度�

環 境�自然災害�

教育フォーラム�

行政改革�

公的資金�管  理�

法制度�

貧 困�タスクフォース�

銀行改革�

ホーチミン市�ODA

森林部門支援�プログラム�

トナーシップの(2001年末の)状況である。こ

のように、パートナーシップの公式度、進展は一

様ではなく、状況に応じて多くのモデルがある。

大きく言えば、「公式アプローチ」、「非公式アプ

ローチ」、「政府主導の新タイプ」、「移行グルー

プ」に分けられる。

(�)「公式アプローチ」―例:「森林セクター支

援パートナーシップ」

ベトナムのSWApsの項で述べたこのパート

ナーシップは、成功したパートナーシップの典型

例といわれている。このグループは、開発目的と

プログラムを共有する多くのパートナー(15のド

ナー国とベトナム農業地域開発省等)が「合意文

書」に署名して発足した。

この「公式アプローチ」には、�政府の開発戦

略と整合的な合意済みのプログラムへの共通理解

とコミットメントを確保できる、�ニーズと援助

提供のギャップと重複が最小化される、�この

パートナーシップの組織構成で将来の作業が容易

にできる、�組織化されており、個人に頼らな

い、等の利点がある。

このアプローチが使えるケースは、�政府・ド

ナーが公式の「パートナーシップ」を設置する「時

間がある」、�目的と守備範囲が明確に定義され、

今後大きな変更がない、�比較的初期段階で、望

ましい成果とアプローチ(プログラム・アプロー

チ)についてのコンセンサスができており、政府

とドナーがパートナーシップと事務局を設置する

ための当面の金銭上・管理運営上・人材上のコス

トを負担する意図がある場合である。

(�)「非公式アプローチ」―例:「貧困タスク

フォース(PTF)/貧困WG(PWG)」

Bartholomew and Lister(2002)によれば、

このパートナーシップは共同での政策形成に成功

し、CPRGS(包括的貧困削減・成長戦略)の作

成に影響を与えるなど、成功を収めている。

このパートナーシップでは、PTFは「ベトナ

ム生活水準調査」を行なう組織として、PWGは

参加型貧困評価を行う政府・ドナー・NGOの接

触の場として発足した。 PTFは毎月会合を持ち、

各機関の首席が出席していたが、PWG(100名以

上)は当初めったに会合を持たずPTFからの報

告を受けるのみであったとされる。その後、パー

トナーシップの機能がCPRGSの策定準備支援に

変化し、参加省庁も、このグループの「機能の変

化」に対応して大きく変動している。

このように「参加組織が変動」しているため、

このパートナーシップは覚書等の規則や事務局を

持たない「非公式」なものとなっている。

このアプローチは、�公式の組織設置を待たな

くても、設定された成果に向かって活動を開始で

きる、�毎年、目標を再定義でき、それに伴って

参加者を変更することができる、�コストはある

程度シェアできる、�既存の参加者の事務所を通

図表23 パートナーシップの「公式度」と「進展度」

出所)World Bank Hanoi Office(2001)

60 開発金融研究所報

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じて、教訓や知識を参加機関で共有できる、と

いった利点がある。

他方、このアプローチには、�組織化されてい

ないため、参加者の変更等の変化に対し脆弱であ

る、�グループの成功は一握りのキーパーソンに

かかっており、持続可能性の問題がある、�運営

が参加者の任意拠出に依存しており、独自の資金

を持っていない等の欠点が存在する。

このアプローチが使えるケースは、�環境変化

が激しい場合、�グループの構成を変えてでも成

果を達成したい場合、�政府・ドナーのキープレ

イヤーがこのアプローチにコミットしており、反

対や障害があっても成果達成に向け合意する用意

がある場合、�このプロセスを先に進めたいリー

ダーが、早い時期に現れる場合、�援助機関の手

続きや裁量権との関係で、覚書等の文書無しの非

公式なアプローチでも問題がない場合である。

(�)「政府主導のパートナーシップ」―例:「公

的資金管理(PFM)」

PFMは、比較的非公式で、ダイナミックな「政

府主導の」パートナーシップであり、2001年2

月に公的支出改革のための様々なWGを統合した

ものである。

公的資金管理の分野では、政府・ドナー・

NGOの参加による公的支出レビュー(PER)報

告書「公的資金管理の改善」の作成等、既にパー

トナーシップ形成に向けて実質的な進展が見られ

ていたが、ベトナム政府は公的支出改革のための

政府・ドナー・NGOの恒常的なWGとしてPFM

を設置した。このパートナーシップでは、ベトナ

ム政府機関がPERの指摘にある 「実施ステップ」

と実施のための「技術支援ニーズ」に沿って詳細

な活動マトリックスを開発し、ドナーに提示し

た。ドナーはこの技術支援に関心を示し、その関

心に沿って活動マトリックス第2版を策定した。

このマトリックスは、将来の公的資金管理支援に

活用されることとなる。また、政府の計画実施を

支援するために多国間のドナー信託基金も設置し

ている(Bartholomew and Lister(2002))

(�)「移行下のグループ」―例:「教育フォーラ

ム」

特定セクターのニーズにあわせて、時とともに

パートナーシップが変化・進展してきた例とし

て、「教育フォーラム」が挙げられる。このパー

トナーシップは、当初UNICEF、Save the Chil-

dren, Oxfamによって情報交換のフォーラムとし

て設置された。

しかし、2000年半ばに「広範な基礎教育プロ

グラム支援のための長期目標の再構築」の必要性

から、各機関の専門関心分野を反映するような目

標とし、NGOは少数民族、民族言語、教育方法

に焦点を当てた小規模のプログラムを、国際機

関・二国間のドナーは、教室建設、カリキュラ

ム・教師改革、政策開発、不平等削減等のより大

規模なプログラムを支援することとした。各支援

間の重複を避け、EU、世銀、JICA、UNICEFと

英・ノルウェー・豪は初等教育を支援し、ADB

と他の二国間のドナーは、一般的な中等教育、職

業・技術訓練を支援している。共通の目標は、�

基礎教育のビジョンを策定できるよう文部省の能

力強化を図ること、�基礎教育の戦略準備を支援

すること、および�多数のドナーからこのプログ

ラムの支援が得られるよう調整すること、とし

た。

このパートナーシップでは、コアグループがシ

ナリオを検討し、文部省をフォーラムの中心に置

くこととしたため、ベトナム政府のオーナーシッ

プが高まったとされる。

(�)教訓

このような例からも分かる通り、異なる方法で

パートナーシップを形成しても、成功を収め得

る。パートナーシップ等の援助協調は、必ずしも

一つの方法にこだわる必要は無いことを示してい

ると言えよう。

ただし、この世銀ハノイ事務所レポートによれ

ば、パートナーシップが成功するためには以下の

要素が必要であるという。

� 測定可能なアウトプットをもつ「明確な業務

内容と、明確な使命」

� 「柔軟性」(環境変化に対応して組織構成を変

更する)

� 「オーナーシップ」(政府自身の強力なオー

ナーシップ)

� 「コミットメント」(多くの者がコミットした

ほうが良いが、少なくとも発足当初から強いコ

ミットメントを示す者が必要)

2003年9月 第17号 61

Page 40: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

� 広範かつ重層的な「支援」(各機関のすべて

のレベルの者からの支援が必要)

� 「資金」(パートナーシップとして活動するに

は必要)

� 「技術的専門性」(参加者に特定の重要な技術

知識を持つものがいれば、目標を達成できると

感じる)

� 「環境にあった組織」(異なる環境には異なる

組織が合う)

これらを見ると、「明確な使命」の達成に向け

て政府が「オーナーシップ」を持ち、ドナー国が

そのパートナーシップに強い「コミットメント」

を示すとともに、資金を含む「広範な支援」が得

られる等、開発戦略の共有と共同実施に重きを置

き、「環境に順応して」、「柔軟な」協力体制を敷

けるパートナーシップが成功しているといえる。

形式的な「調和化」や財政支援(バスケット・ファ

ンディング)よりも、開発政策・戦略の共有化、

協力ゲームによるパレート効率的な援助への移行

に向けてのコミットメントの方か重要であること

を示していると言えよう。

なおBartholomew and Lister(2002)も、政

府のオーナーシップと参加、参加者の成果志向が

成功のカギであり、パートナーシップ・グループ

が成功するのは、当該グループに対する政府の強

い支持があり、ドナー・政府双方が協力に強くコ

ミットしている場合に限られるとして、オーナー

シップと参加の重要性を指摘している。

7.結語

「援助協調」は必ずしもドナー国の「顔を隠し」

たり、援助額の削減を生むものではない。むし

ろ、ドナー・受益国双方の優先分野を考慮した援

助の確保、取引費用の削減、援助効率の向上を通

じドナー国の広義の「国益」を増進させ、援助額

を増大させるべきものである。また、ベトナムの

例が示すように援助協調への積極的参加が、むし

ろ当該ドナー国の「顔を見せる」ことに貢献し、

援助提供額の「節約」に繋がる可能性もある。こ

れが本稿の基本的メッセージである。

そのため本稿では、受益国により示された援助

提供に伴う「負担」、優先すべき「援助協調」分

野や「援助協調手法」の実態に、ドナー国の国益

を明示的に取り込んだ「援助協調モデル」を適用

することにより、その理論的検討を行ってきた。

第1章の問題意識、第2章の概念整理に続き、

第3章では、ドナー・受益国双方の不信感等に基

づく「援助協調の不足」が、受益国の能力(キャ

パシティー)育成を阻害し、開発援助の計画・戦

略・手法・実施・評価等の分野での受益国の参画

を阻害する「低オーナーシップの罠」に陥る可能

性を持つことを示した。また、OECDの調査によ

る受益国の「負担」の具体例を概観した。負担削

減のための施策をドナー・受益国国民に説明する

ためには、その負担が意味することの理論的検討

が必要となる。

そこで第4章では、ドナー国の「国益」を明示

的に取り込んだ「援助協調モデル」を提示した。

このモデルによれば、�ナッシュ均衡下で、(狭

義の)「国益」(γ)の増大、「援助提供コスト」(P)

の削減、「援助効率」(μ)の改善により、援助額

が増大することが示される。また、�「援助協調」

が、代替的なドナー同士のナッシュ均衡状態から

パレート優位な協力ゲームの交渉解へ、ドナーの

援助方式を転換させる可能性を持つことも示し

た。従って、�このモデルによれば、「援助協調」

により、パレート優位な援助提供方式への移行、

「援助提供コスト」の削減、「援助効率」の改善

が行われれば、援助額はむしろ増大することとな

る。�「援助協調」により援助額が減少すると考

える背景には、個別のドナー国に特定の政治的・

経済的利益の減少、すなわち(狭義の)「国益」

の減少の懸念があると思われる。しかし、援助協

調による受益国の経済成長や貧困削減の促進によ

り、必ずしも特定ドナー国の経済的利益・政治的

利益(狭義の国益)が減少するわけではない。近

年の主要ドナー国の援助額を見ても、必ずしも特

定の経済的利益(タイド援助比率)に従って増減

しているわけではない。�したがって「援助協調」

は、ドナー国の(狭義の)国益の一部を犠牲にす

る可能性はあるが、ドナー国にとってのパレート

優位な援助提供方式への移行、援助提供コストの

削減、援助効率の向上を通じ、ドナー国の(広義

の)「国益」に寄与するものと言える。また、ド

ナーの(広義の)国益に寄与する限り自発的で持

62 開発金融研究所報

Page 41: 援助協調(InternationalAidCoordination) の理論と …れてきている。他方で、ドナーの一部には、「援助協調」の進 展が「顔の見える援助」といった「国益」の実現

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

続可能な援助額の増大が見込まれよう。

第5章では援助協調の「実態」を見るために、

従来の援助協調手法の問題点と近年の援助協調手

法について検討した。従来の援助協調手法は、一

国を対象とする世銀のCG会合などもドナー国・

受益国の援助目的整合性を確保する実効性に乏し

く、さらに技術的な援助協調活動の推進には不向

きであるといった問題がある。それを克服する手

段として、セクター・ワイド・アプローチ、パー

トナーシップ、コモン・プールといった新たな援

助協調手法が提唱されている。しかし、これらの

新たな手法の採用にはドナー国側、受益国側にコ

ストを強いると認識され、それがわが国援助界の

一部のように援助協調に対する消極的な姿勢につ

ながっていると考えられる。この認識に対する一

つの答が、第4章で提示した「援助協調モデル」

であり、これらの手法がむしろコスト削減、援助

効率向上等のパラメーター変化を生むことにより

(広義の)「国益」を増進させるべきものである

ことを示した。第5章ではまた、OECD調査に基

づく受益国政府の「負担」と援助協調(ドナー慣

行)の「優先的な改善分野」について、第4章で

示した「援助協調モデル」の各パラメーターと対

応させた再分類を試みた。

第6章では、CDFのパイロット国であるベト

ナムの援助協調の現状を概観し、異なる援助目的

を持つドナー間の援助協調を進めることにより、

双方の国益の増進と援助額の節約に寄与する可能

性があることを理論モデルを用いて示した。ここ

で、パレート効率的「援助協調」解へ移行する際

の「仲介役」としての世銀等の国際機関の役割に

も言及した。特に、ベトナムでは有償三機関の協

調に見られるように、援助協調を通じて「顔の見

える援助」を行うことも可能である。また、ベト

ナムの援助協調(パートナーシップ)の経験は、

形式的な「調和化」や「バスケット・ファンディ

ング」よりも、開発戦略の策定・実施と援助協調

に対する受益国政府の「オーナーシップ」とドナー

の「コミットメント」が成功の鍵であることを示

唆している。ベトナムの経験は、「援助協調」を

ドナーの「顔を隠す」ものとして敬遠するのでは

なく、そのメリット・ディメリットを理論的・実

証的に検討する姿勢が重要であることを示唆して

いると言えよう。

本稿で示した「援助協調モデル」の考え方・定

式化は、持続可能な自発的開発援助手法を検討す

る一つの材料を提供するものと考える。しかし、

このモデルは極めて簡素化された前提の下に構築

されたものであるため、モデルの精緻化とモデル

に基づく実証分析の改善が今後必要とされよ

う*22。

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*22 ここで示したモデルに従って、1979年~98年の20年間におけるG5諸国の援助提供行動式を回帰分析(二段階最小二乗法)

により推定したところ、係数の符号はモデルの予測に合致しているものが多いが、必ずしも他のドナー国の援助が各国の援助

提供額に有意な影響を与えているわけではないとの結果であった(木原(2003))。

2003年9月 第17号 63

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2003年9月 第17号 65