el fili imitationsofthekoran performing women · el fili ミュージカル...

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1回|201131214:00–17:00 volume 01 March 12, 2011 14:00–17:00 Lear リア 国際交流基金アジアセンター企画・制作 インドネシア、シンガポール、タイ、中国、マレーシア、日本 ゲストトーク 片桐はいり 映像収録19979Bunkamura シアターコクーン (東京) 上映時間2 時間 8 脚本 |岸田理生 演出|オン・ケンセン (シンガポール) 音楽 |マーク・チャン (シンガポール) 、ラハユ・スパンガ (インドネシア) 主要キャスト |梅若猶彦、江其虎 (中国) ピーラモン・チョムダワット (タイ) 、片桐はいりほか 初演19979月 東京、大阪、福岡 巡演|香港、シンガポール、ジャカルタ、パース (オーストラリア) ベルリン、コペンハーゲン 作品紹介 東南アジアでは80 年代の終わりからポストコロニアル演 劇を脱する動きが見られ、 90 年代に入るとトランスナショ ナルに思考しようとする新世代演劇の台頭が見られた。 「リア」は、アジアのそうした新世代演劇人と取り組んだ 共 同 制 作である。タイトルが示すようにシェークスピアの 「リア王」に着想は得ているが、物語は大きく解体され、 父王の権威を脱し、その権力を奪取しようとする娘が父 殺しをするという物 語に再構 築され、また、原作には登 場しない亡き母という存在を創り出して救済のテーマを 盛り込んでいる。 能の梅 若 猶 彦がリアと亡き母の2 役、京 劇 俳 優 (男優) の江 其 虎が長 女というように、 6ヵ国から参 加したキャ ストは言 語もバックグラウンドもまったく異なったが、自 己の持てるものを解 体し、再 構 築することで物 語の構 造に呼応しようとした。作品はまる2 年をかけて完成し、 日本の後、東南アジア、豪州、欧州の7 ヵ国で上演され、 マルチカル チャリズムについて問題を提起する作品とし て各国で大きな注目を集めた。 4 回|20114214:00–17:00 volume 04April 02, 2011 14:00–17:00 Performing Women 演じる女たち ギリシャ悲劇からの断章 国際交流基金企画・制作 イラン、インド、ウズベキスタン、日本 ゲストトーク 内野儀 映像収録200710Bunkamura シアターコクーン (東京) 上映時間2 時間3 初演20071月 ニューデリー (インド) 巡演|東京、ソウル 公演データ 作品紹介 1部‖ウズベキスタン |メデイア|Medea 構成・演出|オヴリャクリ・ホジャクリ音楽 |アルチョム・キム 主要キャスト |ムザファルジョン・ハミドフ、アブロル・ユルダシェフほか 夫イアソンの理不尽な裏切りへの復讐として我 が子を殺す メデイア。その行 為をオヴリャクリ・ホジャクリは、世 界の不 調 和を断ち切るための社 会 的 行 為と捉える。そして、男 優にメ デイアを演じさせることで、解釈をさらに複層的なものにしてい る 。オペラ的なスタイルで、メデイア役のムザファルジョン・ハ ミドフの歌がすばらしい。 2 部‖イラン |イオカステ| Jocasta 脚本|モハメド・チャルムシール 演出|モハメド・アゲバティ 主要キャスト |エルハーム・コルダー、サイード・チャンギズィアン そうと知らずに父を殺害し、母と結婚して王となったオイディプ スが、やがて真実を知り、自らの両目を潰すという「オイディプ ス王」が下 敷きであるが、モハメド・アゲバティは、これを母と 子の悲 劇でなく、現 代イランの女と男の意 識 的 行 為として、 〈罪〉と〈タブー〉の問題に静かに、深く分け入っていく。 3部‖インド|ヘレネ| Helen 脚本|スジット・シャンカル 演出|アビラシュ・ピライ 音楽 |シャンカル・ヴェンカテシュワラン、国広和毅 主要キャスト |ハリシュ・カンナ、ジルミル・ハザリカ ほか 大 神ゼウスの娘にして絶 世の美 女、ヘレネ。その美 貌ゆえ にトロイアの王子に連れ去られ、 10年にも及ぶトロイア戦争 の元となった女性。アビラシュ・ピライはヘレネを、〈世界戦争 を引き起こす石油のような不確かな存在〉、〈見せかけのイ デオロギーを備えた約束の地のようなもの〉に例え、今日の 権力主義的で暴力的な世界にイメージを引きついでいく。 国際交流基金では1990 年代初頭から、アジアの同時代演劇の紹介と共同制作に力を注ぎ、何本もの秀作を送り出してきました。 その中から、共同制作「リア」 1997年初演) 、フィリピンのミュージカル「エル・フィリ」 1995年招聘) ウズベキスタンのイルホム劇場「コーランに倣いて」 2007年招聘) 、共同制作「演じる女たち」 2007年初演) 4 本を選び、 記録映像を上映するとともに、いまそれらの作品に何を見るのかを、ゲストを交えて探っていきます。 国際交流基金招聘・制作|現代演劇作品記録上映シリーズ 記録映像で見るアジア現代演劇| 1990 年代から2000年代へ Asian Contemporary Theater from Video Archives From 1990 s to 2000 s JFIC イベント Vol.5 JFIC Event Vol.5 Imitations of TheKoran 3 Reinterpretations from Greek Tragedy Asian Contemporary Theater from Video Archives From 1990 s to 2000s 2 回|201131913:00–18:00 volume 02March 19, 2011 13:00–18:00 El Fili ミュージカル エル・フィリ 愛と反逆 2部作 劇団タンハーラン・ピリピーノ フィリピン ゲストトーク 扇田昭彦 映像収録19959Bunkamura シアターコクーン (東京) 上映時間4 時間5 原作 |ホセ・リサール「ノリ・メ・タンヘレ (我にふれるな) 」と 「エル・フィリブステリスモ (反逆) 音楽 |ラヤン・カヤブヤブ 演出|ノノン・パデーリャ 主要キャスト |オーディ・ヘモラ、モニク・ウィルソン、 ノニ・ブエンカミーノほか 初演199111月 マニラ (フィリピン) 招聘公演19959月 東京、岐阜、福岡 作品紹介 フィリピンの民 衆を独立に駆り立てたとされるホセ・リサー ルの2つの原作をミュージカル化した作品。 英 語の輸 入ミュージカルが主 流のフィリピンにあって、フィ リピノ語のオリジナル・ミュージカルとして空 前の成 功をお さめ、レア・サロンガとともにウエストエンドの「ミス・サイゴ ン」初 演で成 功をおさめたモニク・ウィルソンが初のフィリ ピノ語ミュージカルに挑んだことも話題となった。 前 篇「我にふれるな」では、宗 主 国スペイン留 学から大 志を抱いて帰った青年クリソストモ・イバラが、許嫁のマリ ア・クララ (モニク・ウィルソン) を秘かに慕うスペイン人司 祭 の陰 謀で 反 逆 者に仕 立てられ 逃 走 するまでを、後 篇 「反 逆」ではマリア・クララを救うために姿を変えて戻って きたイバラの反逆者としての生と悲劇的な最期を描く。 スペインからの独立前夜という重いテーマを扱いながら、 ラヤン・カヤブヤブのドラマチックで重 厚な音 楽と、主 役 のイバラを演じるオーディ・ヘモラを始めとする歌い手たち の鍛え上げられた歌唱力が、息もつかせぬほどに観客を 引き込んでいく。 3 回|201132614:00–17:00 volume 03March 26, 2011 14:00–17:00 コーランに倣いて イルホム劇場 ウズベキスタン 解説鴻英良 映像収録20073月 パークタワーホール (東京) 上映時間1 時間10 原作 |アレクサンドル・プーシキン「コーランに倣いて」 構成・演出|マルク・ヴァイル 音楽 |アルチョム・キム 主要キャスト |アントン・パホモフ、シャフカットマチヤクボフ、 ルスタム・エサノフほか 初演20022月 タシケント (ウズベキスタン) 招聘公演20073月東京、松本 作品紹介 イルホム劇場は、 1976年に演出家マルク・ヴァイル がソ連 (当時) のタシケントに設立したソ連初の独立系劇団で、 ンスピレーションを意味するイルホムの名はソ連全土ば かりか海 外にも知られ、次々と話 題 作、問 題 作を発 表し た。本作品はプーシキンの発禁処分になった詩を題材と し、映像、音楽、ダンスの融合したマルチメディア・パフォー マンスの形を取って、預 言 者、偽 預 言 者、ナイトクラブの 女といった象 徴 的 人 物を登 場させて、コーランの神 学 的 問 題や人 間の原 罪についてのプーシキンの詩 句を読み 解いていく。ライブの音楽がすばらしい効果を発揮する。 作品は2 年を費やして制 作されたが、その終 盤で 9.11 事 件が勃 発。イスラーム保 守 派と反イスラーム派 両 方か ら攻撃されるが、屈せず初演。ドイツ公演では、「世界に 名だたるイルホム劇場が、またもや禁断のテーマに挑んだ。 コーランとその思 想に息を吹き込むと同 時に、コーランの 教えを独自のやり方で翻 訳してみせた」と評された。しか し、日本 公 演のわずか半 年 後、ヴァイルが暴 徒によって 刺殺されるという悲劇が勃発。 BBCによって、保守派によ る犯行との報が伝えられた。 Guest Profile 片桐はいり [かたぎり・はいり] 俳優 大学在学中に劇団に入団し、松尾スズキ、岩 松 了、蜷川幸雄、野 田 秀 樹 など、様々な演出家の 作品に出演。「リア」では、リア一族の世界に外か ら入り込んでしまった漂 泊 者 的な役 柄を好 演 。 独 特の存 在 感はますます厚みを増し、昨 年の小 野 寺 修 二 演 出「異 邦 人 」では体で不 条 理を表 現するという難題に挑み、高い評価を受けた。 扇田昭彦 [せんだ・あきひこ] 演劇評論家 長く朝日新聞の記者・編集委員として活躍し、特 60 年代以降の小劇場運動の紹介と評論で 知られる。NHK 20世紀演劇カーテンコール」、 「新世紀演劇パレード」などでも司会。主な著書 に「日本の現代演劇」(岩波新書)、「唐十郎の 劇世界」(右文書院)、「蜷川幸雄の劇世界」(朝 日新聞出版)など。ミュージカルにも造詣が深く、 著書「ビバ!ミュージカル!」(朝日新聞社)、「ミュ ージカルの時代」(キネマ旬報社)などがある。 鴻英良 [おおとり・ひでなが] 演劇批評、ロシア芸術思想 主 著に「野 田秀 樹の赤 鬼の挑 戦」(青 土社)、 「反響マシーン――リチャード・フォアマンの世界」 (共著、勁草書房)、「二十世紀劇場――歴史と しての芸術と世界」(朝日新聞社)など。訳書に タデウシュ・カントール「芸術家よ、くたばれ!」(作 品社)、「イリヤ・カバコフ自伝」(みすず書房)ほ か。「コーランに倣いて」では字幕翻訳。 内野儀 [うちの・ただし] 東京大学大学院総合文化研究科教授 研究テーマは、 90年代以降のアメリカのパフォー マンス・アートの展 開をポストコロニアル以 降の 批評理論や身体論によって歴史化すること、お よび日本の現代舞台芸術を欧米の理論的文 脈に位 置づけること。著 作に「知の劇 場、演 劇 の知」(共著、ぺりかん社)、「J 演劇をマッピング ザッピングする」(「ユリイカ」 20057月号)。 企画監修・進行 畠由紀 [元国際交流基金 舞台芸術専門員] お茶の水女子大学博士課程修了。音楽学専 攻。修 士 課 程 在 学中より国 際 交 流 基 金の「ア ジア伝 統 芸 能の交 流」プロジェクトのスタッフと して、各国の舞台芸術の紹介に携わる。 1989 年より、国 際 交 流 基 金に開 設されたアセアン文 化センター(後にアジアセンターに改 組 )の舞 台 芸術専門員。2004 年より舞 台 芸 術 課 専 門 員。 一貫して、アジアの現代舞台芸術の紹介、共同 制作に携わる。 上から リア‖Lear エル・フィリ―― 愛と反逆 2部作‖El Fili コーランに倣いて‖Imitations of The Koran 演じる女たち――ギリシャ悲劇からの断章‖Performing Women 3 Reinterpretations from Greek Tragedy

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Page 1: El Fili ImitationsofTheKoran Performing Women · El Fili ミュージカル エル・フィリ―愛と反逆2部作 劇団タンハーラン・ピリピーノ フィリピン ゲストトーク|扇田昭彦

第1回|2011年3月12日[土]|14:00–17:00volume 01|March12, 2011|14:00–17:00

Learリア

国際交流基金アジアセンター企画・制作

インドネシア、シンガポール、タイ、中国、マレーシア、日本

ゲストトーク|片桐はいり

映像収録|1997年9月Bunkamuraシアターコクーン(東京)

上映時間|2時間 8分

脚本|岸田理生 演出|オン・ケンセン(シンガポール)

音楽|マーク・チャン(シンガポール)、ラハユ・スパンガ(インドネシア)

主要キャスト|梅若猶彦、江其虎(中国)、

ピーラモン・チョムダワット(タイ)、片桐はいりほか

初演|1997年9月東京、大阪、福岡

巡演|香港、シンガポール、ジャカルタ、パース(オーストラリア)、

ベルリン、コペンハーゲン

作品紹介

東南アジアでは80年代の終わりからポストコロニアル演

劇を脱する動きが見られ、90年代に入るとトランスナショ

ナルに思考しようとする新世代演劇の台頭が見られた。

「リア」は、アジアのそうした新世代演劇人と取り組んだ

共同制作である。タイトルが示すようにシェークスピアの

「リア王」に着想は得ているが、物語は大きく解体され、

父王の権威を脱し、その権力を奪取しようとする娘が父

殺しをするという物語に再構築され、また、原作には登

場しない亡き母という存在を創り出して救済のテーマを

盛り込んでいる。―能の梅若猶彦がリアと亡き母の2役、京劇俳優(男優)

の江其虎が長女というように、6ヵ国から参加したキャ

ストは言語もバックグラウンドもまったく異なったが、自

己の持てるものを解体し、再構築することで物語の構

造に呼応しようとした。作品はまる2年をかけて完成し、

日本の後、東南アジア、豪州、欧州の7ヵ国で上演され、

マルチカルチャリズムについて問題を提起する作品とし

て各国で大きな注目を集めた。

第4回|2011年4月2日[土]|14:00–17:00volume 04|April02, 2011|14:00–17:00

Performing Women

演じる女たち―ギリシャ悲劇からの断章

国際交流基金企画・制作

イラン、インド、ウズベキスタン、日本

ゲストトーク|内野儀

映像収録|2007年10月Bunkamuraシアターコクーン(東京)

上映時間|2時間3分

初演|2007年1月ニューデリー(インド) 巡演|東京、ソウル

公演データ|作品紹介

第1部‖ウズベキスタン|メデイア|Medea

構成・演出|オヴリャクリ・ホジャクリ音楽|アルチョム・キム主要キャスト|ムザファルジョン・ハミドフ、アブロル・ユルダシェフほか

夫イアソンの理不尽な裏切りへの復讐として我が子を殺す

メデイア。その行為をオヴリャクリ・ホジャクリは、世界の不調

和を断ち切るための社会的行為と捉える。そして、男優にメ

デイアを演じさせることで、解釈をさらに複層的なものにしてい

る。オペラ的なスタイルで、メデイア役のムザファルジョン・ハ

ミドフの歌がすばらしい。

第2部‖イラン|イオカステ|Jocasta

脚本|モハメド・チャルムシール 演出|モハメド・アゲバティ主要キャスト|エルハーム・コルダー、サイード・チャンギズィアン

そうと知らずに父を殺害し、母と結婚して王となったオイディプ

スが、やがて真実を知り、自らの両目を潰すという「オイディプ

ス王」が下敷きであるが、モハメド・アゲバティは、これを母と

子の悲劇でなく、現代イランの女と男の意識的行為として、

〈罪〉と〈タブー〉の問題に静かに、深く分け入っていく。

第3部‖インド|ヘレネ|Helen

脚本|スジット・シャンカル 演出|アビラシュ・ピライ音楽|シャンカル・ヴェンカテシュワラン、国広和毅主要キャスト|ハリシュ・カンナ、ジルミル・ハザリカほか

大神ゼウスの娘にして絶世の美女、ヘレネ。その美貌ゆえ

にトロイアの王子に連れ去られ、10年にも及ぶトロイア戦争

の元となった女性。アビラシュ・ピライはヘレネを、〈世界戦争

を引き起こす石油のような不確かな存在〉、〈見せかけのイ

デオロギーを備えた約束の地のようなもの〉に例え、今日の

権力主義的で暴力的な世界にイメージを引きついでいく。

国際交流基金では1990年代初頭から、アジアの同時代演劇の紹介と共同制作に力を注ぎ、何本もの秀作を送り出してきました。その中から、共同制作「リア」(1997年初演)、フィリピンのミュージカル「エル・フィリ」(1995年招聘)、ウズベキスタンのイルホム劇場「コーランに倣いて」(2007年招聘)、共同制作「演じる女たち」(2007年初演)の4本を選び、記録映像を上映するとともに、いまそれらの作品に何を見るのかを、ゲストを交えて探っていきます。

国際交流基金招聘・制作|現代演劇作品記録上映シリーズ

記録映像で見るアジア現代演劇|1990年代から2000年代へ

Asian Contemporary Theater from Video Archives―From 1990s to 2000sJFICイベント Vol.5 JFIC Event Vol.5

Imitationsof TheKoran3 Reinterpretations fromGreekTragedy

Asian Contemporary Theater from Video Archives―From 1990s to 2000s

第2回|2011年3月19日[土]|13:00–18:00volume 02|March19, 2011|13:00–18:00

El Filiミュージカルエル・フィリ―愛と反逆 2部作

劇団タンハーラン・ピリピーノ

フィリピン

ゲストトーク|扇田昭彦

映像収録|1995年9月Bunkamuraシアターコクーン(東京)

上映時間|4時間5分

原作|ホセ・リサール「ノリ・メ・タンヘレ(我にふれるな)」と

「エル・フィリブステリスモ(反逆)」

音楽|ラヤン・カヤブヤブ 演出|ノノン・パデーリャ

主要キャスト|オーディ・ヘモラ、モニク・ウィルソン、

ノニ・ブエンカミーノほか

初演|1991年11月マニラ(フィリピン)

招聘公演|1995年9月東京、岐阜、福岡

作品紹介

フィリピンの民衆を独立に駆り立てたとされるホセ・リサー

ルの2つの原作をミュージカル化した作品。

英語の輸入ミュージカルが主流のフィリピンにあって、フィ

リピノ語のオリジナル・ミュージカルとして空前の成功をお

さめ、レア・サロンガとともにウエストエンドの「ミス・サイゴ

ン」初演で成功をおさめたモニク・ウィルソンが初のフィリ

ピノ語ミュージカルに挑んだことも話題となった。―前篇「我にふれるな」では、宗主国スペイン留学から大

志を抱いて帰った青年クリソストモ・イバラが、許嫁のマリ

ア・クララ(モニク・ウィルソン)を秘かに慕うスペイン人司祭

の陰謀で反逆者に仕立てられ逃走するまでを、後篇

「反逆」ではマリア・クララを救うために姿を変えて戻って

きたイバラの反逆者としての生と悲劇的な最期を描く。

スペインからの独立前夜という重いテーマを扱いながら、

ラヤン・カヤブヤブのドラマチックで重厚な音楽と、主役

のイバラを演じるオーディ・ヘモラを始めとする歌い手たち

の鍛え上げられた歌唱力が、息もつかせぬほどに観客を

引き込んでいく。

第3回|2011年3月26日[土]|14:00–17:00volume 03|March26, 2011|14:00–17:00

コーランに倣いて

イルホム劇場

ウズベキスタン

解説|鴻英良

映像収録|2007年3月パークタワーホール(東京)

上映時間|1時間10分

原作|アレクサンドル・プーシキン「コーランに倣いて」

構成・演出|マルク・ヴァイル 音楽|アルチョム・キム

主要キャスト|アントン・パホモフ、シャフカットマチヤクボフ、

ルスタム・エサノフほか

初演|2002年2月タシケント(ウズベキスタン)

招聘公演|2007年3月東京、松本

作品紹介

イルホム劇場は、1976年に演出家マルク・ヴァイルがソ連

(当時)のタシケントに設立したソ連初の独立系劇団で、〈イ

ンスピレーション〉を意味するイルホムの名はソ連全土ば

かりか海外にも知られ、次 と々話題作、問題作を発表し

た。本作品はプーシキンの発禁処分になった詩を題材と

し、映像、音楽、ダンスの融合したマルチメディア・パフォー

マンスの形を取って、預言者、偽預言者、ナイトクラブの

女といった象徴的人物を登場させて、コーランの神学的

問題や人間の原罪についてのプーシキンの詩句を読み

解いていく。ライブの音楽がすばらしい効果を発揮する。―作品は2年を費やして制作されたが、その終盤で9.11

事件が勃発。イスラーム保守派と反イスラーム派両方か

ら攻撃されるが、屈せず初演。ドイツ公演では、「世界に

名だたるイルホム劇場が、またもや禁断のテーマに挑んだ。

コーランとその思想に息を吹き込むと同時に、コーランの

教えを独自のやり方で翻訳してみせた」と評された。しか

し、日本公演のわずか半年後、ヴァイルが暴徒によって

刺殺されるという悲劇が勃発。BBCによって、保守派によ

る犯行との報が伝えられた。

Guest Profile

片桐はいり[かたぎり・はいり]

俳優

大学在学中に劇団に入団し、松尾スズキ、岩松

了、蜷川幸雄、野田秀樹など、様々な演出家の

作品に出演。「リア」では、リア一族の世界に外か

ら入り込んでしまった漂泊者的な役柄を好演。

独特の存在感はますます厚みを増し、昨年の小

野寺修二演出「異邦人」では体で不条理を表

現するという難題に挑み、高い評価を受けた。

扇田昭彦[せんだ・あきひこ]

演劇評論家

長く朝日新聞の記者・編集委員として活躍し、特

に60年代以降の小劇場運動の紹介と評論で

知られる。NHK「20世紀演劇カーテンコール」、

「新世紀演劇パレード」などでも司会。主な著書

に「日本の現代演劇」(岩波新書)、「唐十郎の

劇世界」(右文書院)、「蜷川幸雄の劇世界」(朝

日新聞出版)など。ミュージカルにも造詣が深く、

著書「ビバ!ミュージカル!」(朝日新聞社)、「ミュ

ージカルの時代」(キネマ旬報社)などがある。

鴻英良[おおとり・ひでなが]

演劇批評、ロシア芸術思想

主著に「野田秀樹の赤鬼の挑戦」(青土社)、

「反響マシーン――リチャード・フォアマンの世界」

(共著、勁草書房)、「二十世紀劇場――歴史と

しての芸術と世界」(朝日新聞社)など。訳書に

タデウシュ・カントール「芸術家よ、くたばれ!」(作

品社)、「イリヤ・カバコフ自伝」(みすず書房)ほ

か。「コーランに倣いて」では字幕翻訳。

内野儀[うちの・ただし]

東京大学大学院総合文化研究科教授

研究テーマは、90年代以降のアメリカのパフォー

マンス・アートの展開をポストコロニアル以降の

批評理論や身体論によって歴史化すること、お

よび日本の現代舞台芸術を欧米の理論的文

脈に位置づけること。著作に「知の劇場、演劇

の知」(共著、ぺりかん社)、「J演劇をマッピング/

ザッピングする」(「ユリイカ」2005年7月号)。

企画監修・進行

畠由紀[元国際交流基金舞台芸術専門員]

お茶の水女子大学博士課程修了。音楽学専

攻。修士課程在学中より国際交流基金の「ア

ジア伝統芸能の交流」プロジェクトのスタッフと

して、各国の舞台芸術の紹介に携わる。1989

年より、国際交流基金に開設されたアセアン文

化センター(後にアジアセンターに改組)の舞台

芸術専門員。2004年より舞台芸術課専門員。

一貫して、アジアの現代舞台芸術の紹介、共同

制作に携わる。

上からリア‖Lear

エル・フィリ――愛と反逆 2部作‖El Fili

コーランに倣いて‖ Imitations of The Koran

演じる女たち――ギリシャ悲劇からの断章‖Performing Women 3 Reinterpretations from Greek Tragedy