技術展望 電気自動車における二次電池 およびその制御システム...-92-...

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- 88 - 電気自動車における二次電池 およびその制御システム 1.はじめに 世界的な電気自動車(EV)シフトの潮流を俯瞰すると,魯迅の言葉がふと思い浮かんだ. 「もともと地上には,道はない.歩く人が多くなれば,それが道になるのだ.」内燃機関自動 車の歴史より古い E V は,20 世紀に入ってから目立った技術革新が行われなかったため, ガソリンエンジン車との競争に負けてしまい,動力源がエンジンのみの車の時代は 100 年 続いてきた.EV の道を再び切り拓くには,日本で起こした電池分野のイノベーションの貢 献が大きい.リチウムイオン電池(LiB)は自動車の動力源として実用化が進んでおり,多 岐にわたる技術革新を実現してきた. LiB はエネルギー密度が高く,小型で軽量というメリットがある反面,高価であり,充 電時間が長く,過充電・過放電・劣化より発煙・発火に至る危険性もある.LiB のもつ性 能を最大限かつ効率的に引き出し,安全性を確保するための技術が欠かせない.弊社は 1997 年から 20 年以上に渡って,鉛蓄電池,ニッケル水素電池,LiB を車載するための電 子制御製品の開発・製造を行ってきた.著者が所属しているBMS開発部は日々バッテリー マネージメントシステム(BMS)のハードウェア,ソフトウェア,制御の開発に励んでい る.本稿では,我々が考慮しているさまざまな技術的課題,および今後の技術開発の方向 性を語りたい. 2.将来は全固体電池(空気電池も)? 電池を分類すると再使用不可の一次電池と充電で再使用可能な二次電池に分類される. 電池のエネルギー能力は電池の容量(Wh)を電池の重量,あるいは体積で割った重量エネ ルギー密度(Whr/kg),体積エネルギー密度(Wh/L)で示し,数値が大きいほうが,エネル ギー密度が大きい.自動車の動力源といった視点から,航続距離と車内空間を考えていく と,重量エネルギー密度も体積エネルギー密度も大きいことが望ましい.従来は,一次電 池のほうがエネルギー密度が二次電池より大きかったが,近年登場した新しい二次電池は 一次電池に遜色ないエネルギー密度を持っていて,その代表格が LiB である.特筆すべき なのは,LiB 開発の先駆者としての水島公一,吉野彰,西美緒などの諸先生の功績が非常 に大きいことだ. LiB は正極,負極,セパレータ,電解液,ケースなどから構成される.その正極材料には リチウムイオン含有遷移金属酸化物(LiCoO2),負極材料にはグラファイトやハードカー 袁 方 開発本部BMS開発部 部長 技術展望

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電気自動車における二次電池およびその制御システム

1.はじめに

世界的な電気自動車(EV)シフトの潮流を俯瞰すると,魯迅の言葉がふと思い浮かんだ.「もともと地上には,道はない.歩く人が多くなれば,それが道になるのだ.」内燃機関自動車の歴史より古い EV は,20 世紀に入ってから目立った技術革新が行われなかったため,ガソリンエンジン車との競争に負けてしまい,動力源がエンジンのみの車の時代は 100 年続いてきた.EV の道を再び切り拓くには,日本で起こした電池分野のイノベーションの貢献が大きい.リチウムイオン電池(LiB)は自動車の動力源として実用化が進んでおり,多岐にわたる技術革新を実現してきた.

LiB はエネルギー密度が高く,小型で軽量というメリットがある反面,高価であり,充電時間が長く,過充電・過放電・劣化より発煙・発火に至る危険性もある.LiB のもつ性能を最大限かつ効率的に引き出し,安全性を確保するための技術が欠かせない.弊社は1997 年から 20 年以上に渡って,鉛蓄電池,ニッケル水素電池,LiB を車載するための電子制御製品の開発・製造を行ってきた.著者が所属しているBMS開発部は日々バッテリーマネージメントシステム(BMS)のハードウェア,ソフトウェア,制御の開発に励んでいる.本稿では,我々が考慮しているさまざまな技術的課題,および今後の技術開発の方向性を語りたい.

2.将来は全固体電池(空気電池も)?

電池を分類すると再使用不可の一次電池と充電で再使用可能な二次電池に分類される.電池のエネルギー能力は電池の容量(Wh)を電池の重量,あるいは体積で割った重量エネルギー密度(Whr/kg),体積エネルギー密度(Wh/L)で示し,数値が大きいほうが,エネルギー密度が大きい.自動車の動力源といった視点から,航続距離と車内空間を考えていくと,重量エネルギー密度も体積エネルギー密度も大きいことが望ましい.従来は,一次電池のほうがエネルギー密度が二次電池より大きかったが,近年登場した新しい二次電池は一次電池に遜色ないエネルギー密度を持っていて,その代表格が LiB である.特筆すべきなのは,LiB 開発の先駆者としての水島公一,吉野彰,西美緒などの諸先生の功績が非常に大きいことだ.

LiB は正極,負極,セパレータ,電解液,ケースなどから構成される.その正極材料にはリチウムイオン含有遷移金属酸化物(LiCoO2),負極材料にはグラファイトやハードカー

袁 方開発本部BMS開発部 部長

技術展望

ケーヒン技報 Vol.7 (2018)

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技術展望

ボン,セパレータには高分子材料,電解液では電解質塩と有機溶媒が用いられている.LiBのセルはケースによって,様々な形状のもの(円筒形,角型,ラミネート型)があるが,通常は複数のセルが一つのモジュールを構成し,そのモジュールがいくつか集まってパックとなり,自動車の動力に使われる.テスラ Model S,ホンダ Fit,日産 Leaf などの電動自動車がその例として挙げられる.

既存の LiB はエネルギー密度が高く,小型で軽量というメリットがある反面,それに迫る安全面,技術面,価格面での限界も見える(1).リチウム電池に関する最も一般的な安全性リスクは,内部短絡で局所的な電流集中や過充電で正極からリチウムが引き抜かれたりする内的要因と,熱や衝突などによる変形といった外的要因とがある.これらの要因によって回路が短絡した場合,バッテリーの内部抵抗を通る高電流が大量の熱を発生させる可能性がある.バッテリーの異常な発熱を抑制させるために,リチウム電池には,バッテリーマネジメントシステム(BMS)という電子基板を搭載して,過充電や過昇温,過電流といった不適切な状態にならないようにバッテリーを制御してシステムとして安全性を確保している.

ひと昔前に比べて LiB の市場価格はだいぶ安くなってきたが,LiB のコストは,依然として車体価格において大きな比率を占めている.現状,そのコストは概ね 200 ドル /kWh前後とされているが,2020 年までには 100 ドル /kWh 前半までのコストダウンを目指して,様々な取り組みが続けられている.しかし,LiB 価格の中心を占める部材(リチウム,コバルトなど)の価格が下がらず,セルの低コスト化の実現が難しくなっている.

これまで実現は遠い将来と考えられていたが,後継技術として「オールジャパンで EV用の全固体 LiB の開発へ」,NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は 2018 年 6 月15 日,23 社,15 大学・研究機関から英知を結集し,世界に先駆けて全固体電池の実用化・量産化する共通のアーキテクチャーを構築していくと発表した(2).電解質を液体から固体にすることで,安全性向上,使用温度範囲拡大,大容量化が可能になるという利点が挙げられる.このプロジェクトでは 2022 年度までに基盤技術を確立し,2030 年ごろには電池のエネルギー密度を現在の3倍,コストを3分の1,そして急速充電時間を3分の1にすることを目指す.

ここで,書いておくべきことであるが,EV シフトへの賞賛だけではなく,A.T. Kearney社は,EV 普及に伴う3つのリスク(天然資源の不足,電池のリサイクル,CO 排出量削減)が過小評価されているので,産業を管理しながら,慎重に物事を進めていく必要がある,と警鐘を鳴らした(3).

3.永遠に必要な BMS

BMS について,コロラド大学の GL. Plett 教授は彼の教程(4)にこう書いている:BMSは特定のアプリケーションを有効にする目的で,作られた電子プロセッシングユニット-組み込みシステムである.

 1.電池駆動機器の操作者の安全を守る.安全でない動作状況を検出して対処する. 2.故障などの障害から電池セルを保護する. 3.電池の寿命を延ばす(常用領域).

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電気自動車における二次電池およびその制御システム

 4.機能設計要件を満たす電池状態を維持する. 5.アプリケーションコントローラへ,パック(例え,パワー制限),制御充電器などを

最大限に活用するための情報をリアルタイムで与える.

BMS 製品の形態は統合型,分散型に分けられている.電圧検出部と電池管理部を一体化した統合型 BMS の場合,電池のセル数が多くなると,配線(ハーネス)が増加し,コストや搭載性に影響が出る.そのため,セル数が多い場合は電圧検出部を分離して各電池モジュールに搭載する分散型 BMS が必要とする.世界最大の EV 市場,中国では新エネルギー自動車(NEV)補助金制度が 2018 年 6 月 12 日に正式に実施された.この補助金制度の変更で,走行距離が短い車種は撤退を迫られ,航続距離が長い車種の販売が大きく増えるだろうと見通される.今後,中国市場で発売する EV の大部分は分散型 BMS を採用することが明らかである.

弊社 BMS は電池制御,周辺制御,診断・通信,安全管理から構成され,Fig. 1 は統合型の一例としてその機能ブロック図を示す(最大 96 セル直列).統合型 BMS であれ,分散型BMS であれ,その基盤となるコア技術は大きく以下の 4 つと考えられる.

3.1. LiB-IC によりセル電圧の計測,セルバランシング複数個の電池セルを直列に接続した電池モジュール/パックにおいて,それぞれの電

池セルのエネルギー容量を測定して均一化することは,BMS の重要な機能である.Texas Instruments,Analog Devices(Linear Technology),Maxim,Panasonic など複数のアナログ半導体メーカーが LiB-IC を製品化している.1つの LiB-IC は数個~20 個の直列に接続された電池セルに対応できる.これらの LiB-IC はセル電圧測定,AD 変換,ホスト・マイコンとの通信,セル・バランスなどの機能をもっている.例として,Analog Devices (Linear Technology)の LTC6811 の特徴を挙げると,最大 12 個の全セル 290 μ s で測定,16 ビッ

電池制御・充電状態推定(SOC)・劣化状態推定(SOH)・充放電許容電力推定(SOP)・セル電圧均等化

・起動/遮断・プリチャージ・DC/DC制御・熱管理・充電管理(OBC) 12Volt

回生

駆動

急速

普通

・故障診断・車載通信(各プロトコル)・計測/表示

・絶縁抵抗検知・保護回路・高電圧インターロック・機能安全(ISO26262)

CAN

電圧

電流

温度

充電均等化

周辺制御

診断・通信

安全管理

BMS Li-Batt

PCU

Cell OBC

DC/DC

MOT~

DC/AC

VCU

PDU

OBC:On Board ChargerPCU:Power Control UnitVCU:Voltage Control UnitPDU:Power Drive Unit

CHG-ECU

コンタクタ

CellCellCell

Cell

Fig. 1 例としての統合型 BMS の機能ブロック図

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技術展望

トΔΣの A/D コンバータにより全測定誤差± 1.2mV(最大),1Mbps の絶縁型 SPI データ通信,プログラム可能なタイマを使ったパッシブ・セル・バランシングである.エネルギー効率の観点からアクティブ・セル・バランシングが有利であるが,部品点数が増えてコストが増加することから,パッシブ・セル・バランスが主流になっている.

3.2. 電池状態推定BMS ソフトウェアは基本ソフトウェア(BSW),ランタイム環境(RTE)とアプリケー

ションソフトウェア(API)から構成される.BSW は ECU そのものの機能というよりは,マイコンの管理サービス,リアルタイム OS,通信サービスなど,アプリケーションを動作させるための共通的な部分である.RTE は API へ実行環境提供,通信 IF を提供する.BSW,RTE について各社で差はあまり出ない協調領域である.一方,API は,たとえ機能が違わなくても,精度,正確さに格段の差がある.これは各社の制御戦略やアルゴリズム/データの適用によって異なり,いわば,差別化→競争力→儲かる→付加価値で創出できる競争領域である.いうまでもなく,充電状態推定(SOC),劣化状態推定(SOH),充放電許容電力推定(SOP)は BMS 制御アルゴリズムの中核的な位置を占める.

電池状態推定アルゴリズムを設計する前,その設計根拠(BoD)となる電池の特性データが揃わないといけない.電池メーカーがすべて提供するわけにはいかないため,BMS サプライヤーは電池試験・評価用の設備を導入し,計測・分析しなければならない.充電特性,放電特性,温度特性,サイクル特性,貯蔵特性等を把握するための電池充放電試験装置もセルから,モジュール,パックまでを網羅し,試験には膨大な工数または時間がかかる(特に劣化試験).

SOC の推定方法に関しては,開放電圧(OCV)の測定に基づくもの,電流積算法によるもの,モデルに基づくもの,などがある.特に,2014 年の Plett の論文(5)以降,電気化学モデルから等価回路モデルに変換し,Kalman フィルタ(EKF,UKF)を用いた SOC 推定の研究が盛り上がり,今後の量産への適用が期待される.また,SOH は電池の充放電可能な容量の経時的低下および内部抵抗の経時的増加,SOP は SOC と内部抵抗を用いて推定されるが,劣化度合いを含めたその時点での残量と入出力可能電力は,EV においては重要な数値である.それぞれの方法は,いくつかの短所があり,精度と計算複雑性を総合的に勘案して組み合わせて使用される.電池の残量情報と目的地までの道路の状態,車両状態から,プローブ情報(GPS)を活用したエコ・ルートの探索,充電ステーションの案内と誘導,航続距離の予測と充電時期の提示などの開発も報告されている(6).EV 航続距離への懸念に配慮し,利用者へ安心感を与える.

3.3. BMS 共通プラットフォーム従来の個別開発は開発期間や開発リソースの面で急速な EV シフトに追従できない.

サプライヤー各社は幅広い用途に対応する BMS 要求仕様を調査し,それに対応できる共通プラットフォームの開発を行っている.弊社の取り組みについて,本報の技術紹介に生平らの「BMS ファームウェア・プラットフォーム開発」(7)が掲載され,ここでは割愛させて頂く.

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電気自動車における二次電池およびその制御システム

3.4. 機能安全規格対応LiB は取り扱いを誤ると重大な問題を起こす可能性があるため,電池を監視する BMS

にも安全設計が必要である.弊社は機能安全 ISO26262 の最高安全性要求レベル ASIL-Dまで対応可能な設計仕様で開発を行った.それについては,ケーヒン技報 Vol.6 の技術紹介に槌矢の「セル電圧センサ及び漏電センサ統合 BMS」(8)に詳述されており,ここでは重複しない.

4.急速充電,ワイヤレス充電

充電時間は EV のボトルネックとも言える.いかに早く充電するかは EV の普及に関わる.車載電池の容量によるが,イメージとして,普通充電は数時間から十数時間かかり,急速充電でも数十分から1時間ほどかかる.最近では充電ステーションから EV に大電圧で直流電気を使って一気に流し込もうとする「超急速充電器」が実証されている.EV 駆動用電池の電圧は一般的に 300~400V ぐらいであるが,ポルシェ社は 2019 年発売予定のMission,Taycan に搭載する LiB を充電する時の電圧を 800V 対応にすることで,400Km走行分の電気を 20 分未満で充電できると発表した(9).同社はこうした高速充電が可能なステーションの設置も同時に進めていく考えだ.ただし,EV 駆動用電池の高電圧化に伴い,安全要求,電気設計の難易度が上がって,コストや占有空間の増大も避けられなく,現状,一般家庭用 EV に向いていない.革新電池の実用化まで,充電時間の大幅短縮は依然出口が見えない.電池交換式 EV も検討されているが,技術課題よりインフラの課題が大きく,ここでは触れないことにする.

ワイヤレス充電について,2007 年マサチューセッツ工科大学(MIT)のチームが磁界共鳴方式によるエネルギー伝送方式を発表してから,EV への充電手段として注目されている.EV 充電用途として用いられている主な方式に電磁誘導方式,磁界共鳴方式,マイクロ波方式がある.駐車場充電,バス停留場充電などの利用シーンを想定した固定式のワイヤレス充電の製品例として,米国 WiTricity 社の DRIVE 11,日本ダイヘン社の D-Broad EV が挙げられる.両社の製品も磁界共鳴方式 85kHz 採用,充電効率 90% 以上,充電電力11kW,車両の取付け可能地上高~25cm,送受電レゾネータ間への異物検知機能有 の仕様になっている.弊社はダイヘン社から設備を導入し先行開発を行っている.一方,EV の走行中充電を将来可能とする新技術「移動式ワイヤレス充電」も開発され,実証されている.道路に充電用コイルを埋め込む方式の実用化例として,2013 年 7 月に韓国の亀尾市での商用走行を開始し先行している.欧州での EV バスのワイヤレス充電では,ドイツのBraunschweig 市で Bombardier 社が 2015 年から EV バスの 200kW レベルの走行中充電の実証運行を開始している.英国でも Highway England から高速道路でのワイヤレス補充電のシステムの計画が公表されている(10).

固定式であれ,移動式であれ,実用化に向けての課題は,技術的な課題のみならず,電磁放射,インフラ整備,標準化・法令への対応をはじめとして広範囲に及んでいる.それでも,ワイヤレス充電の重要性はますます増大すると考える.

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技術展望

5.知財・規格の争い

知財面では,電池の試験及び状態検出に関する特許出願件数は年々増加する傾向があり,件数比率は日本が最も多く,次いで欧州,米国,韓国,中国の順である.電池の試験及び状態検出に関する論文は 1991 年から漸増し,2010 年より増加ペースが高まっている.件数比率は,米国が最も多く,次いで欧州,中国,日本が続いている.各国は LiB および革新電池の研究開発を精力的に推進していると言える(11).

規格面では,大別して3つの課題が挙げられる.まず,日米欧中に4種類の充電器の規格があって互換性がなく,EV が世界各地で走るには個別対応した充電プラグが必要である.次に,コンポーネントとしての動力電池に関する規格はさまざまである.さらに,通信プロトコルが統一されてはいない.

基本的に,規格の潮流は次のように認識している.欧州は IEC と同一規格であり,米国は UL 規格を活用し IEC に臨む.また,米国規格の ANSI は独自の書式を維持している.中国の GB 規格は IEC に整合しながら独自性を保ち,日本の JIS 規格は IEC に整合化される.

LiB に関して,中国標準規格(GB)の体系はほぼ確立されている.世界の EV 市場の中心になる中国に臨むと,下記の主要な5つの GB 規格を把握しなければならない.

GB/T 31484-2015 EV 用動力電池のサイクル寿命要件および試験方法GB/T 31485-2015 EV 用動力電池の安全要件および試験方法GB/T 31486-2015 EV 用動力電池の電気的性能要件および試験方法 GB/T 31467-2015 EV 用 LiB パックおよびシステム     Part-1:高出力電池の試験規程     Part-2:高エネルギー電池の試験規程     Part-3:安全に関する要件事項および試験方法

左:出願人国籍別出願件数および比率右:主要国際誌に発表された論文数  および比率(1991-2014 年)

「平成 28 年度特許出願技術動向調査報告書(概要)-電池の試験及び状態検出」(特許庁,http://www.jpo.go.jp/shiryou/pdf/gidou-houkoku/h28/28_01.pdf)の図 4-2 と図 5-1 から抜粋して作成

Fig. 2 特許出願及び論文発表の件数と比率

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電気自動車における二次電池およびその制御システム

GB/T 18384-2015 EV 安全要件     Part-1:車載充電式エネルギー貯蔵システム(REESS)     Part-2:操作の安全と故障の保護      Part-3:感電保護

ショックでもあるが,先日1つのニュースが目に留まった.2018 年 4 月 13 日,中国工信部 LiB 安全基準 WG は南京で規格の討論会を開き,そのうち,2017-0888T-SJ LiB セル/モジュール/パックの充放電試験装置の規格」の草案に対し,基本合意に達しており,今後は原稿を完成し,広く意見を求める予定である(12).電池充放電試験装置に関すす専用規格の制定は,中国で同設備の製造と販売を規制でき,試験設備の向上に繋がる.勿論,同設備の現地生産や日本からの輸入もこの規格に順守しなければならない.

朗報もあり,2018 年8月 23 日付の日経朝刊では,「日中,EV 充電規格を 20 年に統一~世界シェア9割超」が報道された(13).充電器と車をつなぐコネクターや充電を制御するソフトウエアなどの仕様を統一する.そうすると,中国側は安全技術で先行する日本の知見を取り込み世界最大の EV 市場のインフラ整備に役立てる.日本も中国と協力すれば EVのコネクターや充電器で同じものを使えるためコストが下がる.世界シェアは9割を超えることになり,世界標準化に大きく近づくことになる.

6.まとめ

地球温暖化と大気汚染などの環境問題の解決や石油依存度低減の政策を背景にした自動車の電動化は,技術の進化,コスト低下,インフラ整備により現実的となってきた.また,EV ではエンジン車に比べ部品点数が大幅に減少し,参入障壁が低下する.従来の自動車メーカーの EV シフトに加え,多くの新興メーカーが登場した.2050 年には全保有車の約90%が EV となる?など多数の予想が飛び交っている.EV がガソリンエンジン車をいつ逆転できるか,未知数な部分があるものの,今日の「EV ブーム」は一時的なものではないことが言える.言わば,「歩く人が多くなれば,それが道になるのだ.」

今後とも我々は業界の枠を越えて,知見を共有しながら,新しい技術を開発し,未来のクルマ社会に貢献していきたいと考えている.

参考文献

(1) 野澤哲生:ポスト Li イオン電池,急加速-現行技術に迫る3つの限界,後継技術へのシフトが必須(第1部:全体動向), 日経エレクトロニクス 2017 年2月号

(2) http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100968.html, accessed Aug. 2018(3) A.T. Kearney:電気自動車の普及に伴う3つの課題,2018(4) Gregory L. Plett:Lecture notes and recordings for ECE5720: Battery Management

and Control, http://mocha-java.uccs.edu/ECE5720/index.html, accessed Aug. 2018(5) Gregory L. Plett:Extended Kalman filtering for battery management systems

of LiPB-based HEV battery packs — part 1: Background, part 2: Modeling and

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技術展望

identification, part 3: Parameter estimation, Journal of Power Sources 134 (2), 252-292, 2004

(6) 安士光男,福田達也,大澤進,藤井馨一郎:EVの走行可能範囲を予測するナビシステム,Vol.20, No.1, PIONEER R&D, 2011

(7) 生平倫也,熱海貴紀:BMS ファームウェアプラットフォーム開発,ケーヒン技報 Vol.7, xxx-xxx, 2018

(8) 槌矢真吾:セル電圧センサ及び漏電センサ統合バッテリーマネージメントシステム , ケーヒン技報 Vol.6, 108-113, 2017

(9) https://techable.jp/archives/80104, accessed Aug. 2018.(10) 横井行雄:非接触充電技術・標準化の現状,JSAE Engine Review, Vol.7 No.2, 2-7,

2017(11) 平成 28 年度特許出願技術動向調査報告書(概要)-電池の試験及び状態検出(平成 29

年3月 特許庁)(12) http://www.neware.com.cn/Workshop/163/, accessed Aug. 2018(13) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34476590S8A820C1MM8000/, accessed

Aug. 2018