藤本 学氏 ssc-ild する 大阪大学皮膚科学教室 教授 たな治療戦略 ·...
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SSc-ILDに対する新たな治療戦略
藤本 学氏
大阪大学皮膚科学教室 教授
吉崎 歩氏
東京大学皮膚科学教室 講師
川口 鎮司氏
東京女子医科大学膠原病リウマチ内科学講座 臨床教授
坂東 政司氏
自治医科大学内科学講座呼吸器内科学部門 教授
~SENSCIS試験の結果から~
座 談 会
コメンテーター(発言順)
司
会
特別企画 提供●日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社2020年5月14日
膠原病の1つである全身性強皮症(Systemic sclerosis;SSc)ではさまざまな臓器病変を生じるが、中でも全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)はSSc患者における最大の死因であり、新たな治療選択肢が求められている。 2019年12月、SSc-ILDを効能・効果として、チロシンキナーゼ阻害剤/抗線維化剤ニンテダニブエタンスルホン酸塩(商品名オフェブ®カプセル100mg・150mg、以下、ニンテダニブ)が承認された。本座談会ではご専門の先生方にお集まりいただき、大阪大学皮膚科学教室教授の藤本学氏による司会の下、SSc-ILD治療の現状とニンテダニブに期待される役割について、討議していただいた。
●日時:2020年1月16日(木) ●場所:帝国ホテル東京
オフェブ® カプセルの効能・効果、用法・用量、禁忌を含む使用上の注意等については添付文書・DI頁をご参照ください。
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座談会 SSc-ILDに対する新たな治療戦略
SSc診療の変遷とニンテダニブへの期待
藤本 SScは膠原病の中でも治療の難しい疾患ですが、その診療は徐々に進歩しています。今世紀に入って、日本では2004年に「全身性強皮症における診断基準・重症度分類・治療指針」、2007年にその改訂版が作成された後、2010年には新たにEBMに基づく推奨度が記載された「全身性強皮症診療ガイドライン」、2016年には「全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン」が作成されました。この間、海外でも2009年に欧州リウマチ学会(EULAR)のrecommendations、2013年に米国リウマチ学会(ACR)/EULARの「全身性強皮症分類基準」、2016年に同recommendationsの改訂版が作成されています。 治療法としては、ステロイド薬からメトトレキサート(MTX)、シクロホスファミド(CYC)静注・経口、アザチオプリン(AZA)、造血幹細胞移植(HSCT)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)注1)、そしてSSc-ILDへの新たな治療薬として期待されるニンテダニブまで、さまざまな変遷があります(図1)1~10)。 そこで本日は、SSc-ILDに対する診療の現状を伺いながら、SSc-ILD患者を対象としたニンテダニブの国際共同第Ⅲ相SENSCIS試験の結果を基に、SSc-ILDに対する新たな治療戦略について討議したいと思います。まずは吉崎先生、SScの疫学や病態の特徴をご解説ください。
日本におけるSScのILD合併率
吉崎 SScは、皮膚や全身の主要臓器における線維化と血
管障害を特徴とする自己免疫性疾患です。免疫異常、線維化、血管障害がSScの三大病態とされますが、このうち線維化は四肢末端の皮膚から始まり、体の中心部に向かって進展した後、肺や心臓、消化管など全身の臓器に生じます。 SScは全身に多様な臓器病変を呈します。肺では線維化によるILD、血管障害による肺動脈性肺高血圧症(PAH)、腎臓では血管障害による強皮症腎クリーゼ(SRC)などが認められます。さらに、皮膚硬化、レイノー現象などの皮膚症状や胃食道逆流症(GERD)に代表される消化管症状なども現れます11)。 SScの病型は、皮膚硬化が肘関節や膝関節より遠位に限局される限局皮膚硬化型SSc(limited cutaneous SSc;lcSSc)と、肘関節や膝関節より近位に進展するびまん皮膚硬化型SSc(diffuse cutaneous SSc;dcSSc)に大別されます(図2)3, 12)。lcSScと比べdcSScでは肺などに著明な線維化が認められるという特徴があり、ILDの合併率は、海外ではlcSScが34.7%、dcSScが53.4%、日本ではそれぞれ40.0%、71.1%と報告されています(表1)13, 14)。 古くからdcSScの皮膚硬化は発症から約6年以内にピークに達し、その後は徐々に改善するとされてきました15)。皮膚の線維化は内臓諸臓器の線維化を反映しますので15~17)、翻って発症後6年以上経過した患者の病勢は弱まるとする考え方がありますが、実際の臨床には必ずしも当てはまらず、皮膚硬化が継続して悪化する例や、発症後6年以上経過した後に急に悪化する例が数多く存在します。このことは、SScの病勢が6年以上経てばなくなるわけではないことを意味しています。肺に関する臨床経過に関しては、%FVC(努
注1)SScおよびSSc-ILDの効能・効果は未承認
〔佐藤伸一編. 強皮症の基礎と臨床. 医薬ジャーナル社, 2016、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業「強皮症における病因解明と根治的治療法の開発」 強皮症における診断基準・重症度分類・治療指針2007改訂版、全身性強皮症診療ガイドライン作成委員会. 日本皮膚科学会雑誌 2012 ; 122: 1293-1345、全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン委員会. 日本皮膚科学会雑誌 2016; 126: 1831-1896、Masi AT, et al. Arthritis Rheum 1980; 23: 581-590、Kowal-Bielecka O, et al. Ann Rheum Dis 2009; 68: 620-628、van den Hoogen F, et al. Arthritis Rheum 2013; 65: 2737-2747、van den Hoogen F, et al. Ann Rheum Dis 2013; 72: 1747-1755、Kowal-Bielecka O, et al. Ann Rheum Dis 2017; 76: 1327‒1339、Distler O, et al. N Engl J Med 2019 ; 380 : 2518 -2528(本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました)より作図〕
図1 SSc治療の変遷
日本 海外
●治療に関するガイドラインの変遷 ●主な臨床試験
( )内は各ガイドラインにおける推奨度を示す
PSL:プレドニゾロン、 CYC:シクロホスファミド、 MTX:メトトレキサート、 MMF:ミコフェノール酸モフェチル、HSCT:自己(家)末梢血造血幹細胞移植(PBSCT)、AZA:アザチオプリン
ステロイド MTXCYC静注(FAST)
1994年
2001年
2018年
ニンテダニブ(SENSCIS)
MMF(SLSⅡ)
2016年
HSCT(ASTIS)
2014年
2006年
CYC経口(SLSⅠ)
AZA維持療法
2007年皮膚:ステロイド(B)、CYC(B)、MTX(C1)、MMF(C1) ILD:CYC(A)、MMF(C1)
2000年
2010年
2000年
2010年
皮膚:ステロイド(PSL) ILD:CYC ※本指針は推奨度の記載なし
2010年全身性強皮症診療ガイドライン
2004年全身性強皮症における診断基準・重症度分類・治療指針試案
2007年強皮症における診断基準・重症度分類・治療指針2007改訂版
2016年全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン皮膚:ステロイド(2C)、CYC(2A)、MTX(2D)、 MMF(2C)、HSCT(2A)ILD: CYC(1A)、MMF(2C)、ステロイド(2D)、 AZA(2C)、HSCT(2A)
1980年 ACR全身性強皮症分類予備基準1988年 LeRoy 全身性強皮症分類基準2001年 LeRoy and Medsger早期例を含む全身性強皮症分類基準2009年EULAR recommendations皮膚:MTX(A)ILD:CYC(A)2013年ACR/EULAR全身性強皮症分類基準
2016年EULAR recommendations 皮膚:MTX(A)ILD:CYC(A)、HSCT(A)
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提供●日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
力性肺活量)が年々悪化する進行例が約30%を占めます1)。ACE阻害薬の登場でSRCによる死亡が減少した背景もあり、今やILDは死因の第1位を占めるに至っています18, 19)。
三大病態を全て加味した日本のSSc診断基準
吉崎 日本におけるSScの診断基準(表2)4)では、線維化、免疫異常、血管障害が全て加味されています。大基準「両側性の手指を越える皮膚硬化」、あるいは小基準「手指に限局する皮膚硬化」および他の4項目「爪郭部毛細血管異常」「手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指尖潰瘍」「両側下肺野の間質性陰影」「抗Scl-70(トポイソメラーゼⅠ)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体のいずれかが陽性」のうち1項目以上を満たせばSScと診断されます。 SSc-ILDの線維化病変を検出する上では、高解像度CT(HRCT)が重要です。HRCTで線維化が認められたSSc患者の62.5%は%FVCが正常範囲内(80%以上)だったと報告されています20)。
藤本 ありがとうございました。SScの病態から診断、HRCTの重要性まで幅広くお話しいただきましたが、診断の際は特にどのような症状に注目すればよいのでしょうか。吉崎 皮膚硬化は末梢から生じるので、診察では手のむくみ感やレイノー現象について問診することにしています。また、SScに特異的な所見とは言えませんが、朝の手のこわばりやソーセージ様に腫脹した手指などの確認が重要と考えられます。川口 2010年に発表されたACR/EULARの「関節リウマチ分類基準」21)では、朝のこわばりが除外されています。dcSScでは腱膜が硬化するので、朝のこわばりが現れるのかもしれません。
表1 lcSSc/dcSSc別の臓器病変の発現頻度
(Walker UA, et al. Ann Rheum Dis 2007; 66: 754-763、Hashimoto A, et al. Mod Rheumatol 2012; 22: 272-279より作表)
消化管:胃食道逆流症(GERD)、嚥下障害、抗生物質を必要とする細菌増殖、麻痺性イレウスILD:X線検査もしくはCTにおける肺線維化所見PAH:右心カテーテル検査での直接測定で平均肺動脈圧が25mmHg以上、ドプラ心エコー法による三尖弁血流速度から推算した肺動脈圧が35mmHg以上心臓:左室駆出分画(LVEF)が40%未満、伝導ブロック、治療を必要とする不整脈、心不全腎臓:腎クリーゼの既往、蛋白尿、糸球体濾過量が60mL/分/1.73m2未満腎クリーゼ:悪性の動脈性高血圧、明らかな原因のない乏尿性の腎不全
臓器 lcSSc(2,101例)
dcSSc(1,349例)
66.8%22.8%21.7%34.7%20.5%10.4%15.4%5.0%3.7%1.1%
●海外における臓器病変の発現頻度(3,656例) ●日本における臓器病変の発現頻度 (405例)
消化管食道胃腸
間質性肺疾患(ILD) 肺動脈性肺高血圧症(PAH)
心臓 拡張障害伝導ブロック
LVEF蛋白尿腎臓
腎クリーゼ
68.2%26.6%22.5%53.4%22.3%12.7%16.6%7.2%9.2%4.2%
臓器 lcSSc(270例)
dcSSc(135例)
39.6%
40.0%14.4%
13.0%
10.7%0.74%
消化管
間質性肺疾患(ILD) 肺動脈性肺高血圧症(PAH)
心臓
腎臓腎クリーゼ
59.3%
71.1%19.3%
32.6%
23.0%8.2%
全体(405例)
46.2%
50.4%16.0%
19.5%
14.8%3.2%
図2 SScの病型分類
(Nihtyanova SI, et al. Arthritis Rheumatol 2014; 66: 1625-1635、全身性強皮症診療ガイドライン作成委員会. 日本皮膚科学会雑誌 2012; 122: 1293-1345より作図)
限局皮膚硬化型SSc(lcSSc;limited cutaneous SSc)
びまん皮膚硬化型SSc(dcSSc;diff use cutaneous SSc)
sine scleroderma(ssSSc)
皮膚硬化の進行は緩徐 約70%を占める
肘関節より遠位 皮膚硬化 肘関節より近位 皮膚硬化の進行が急速約30%を占める
皮膚硬化は見られない臓器病変のみを呈す緩徐
(皮膚硬化から5年以上) 進行 急速(皮膚硬化から2年以内)
レイノー現象が先行 レイノー現象と皮膚硬化
ほぼ同時か皮膚硬化が先行
毛細血管の蛇行、拡張 毛細血管顕微鏡 毛細血管の脱落多数 爪上皮出血点 進行期には消失(-) 摩擦音 (+)日本人では少ない軽度 関節拘縮 高度多い 石灰沈着 まれ
肺高血圧症(日本人ではまれ)、食道 主要臓器病変 肺、腎(日本人ではまれ)、
心、食道抗セントロメア抗体抗U1RNP抗体 主要抗核抗体 抗トポイソメラーゼⅠ抗体
抗RNAポリメラーゼ抗体94% 5年生存率 86%82% 10年生存率 72%
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座談会 SSc-ILDに対する新たな治療戦略
藤本 SScの死因に関しては確かにILDが第1位ですが、実際にはさらに感染症を併発して死亡するケースがほとんどですね。吉崎 はい。最後の一押しになると考えられます。川口 当施設では、下部消化管症状に伴う低栄養による死亡も比較的多く経験しています。藤本 いずれにしても、最も重要な予後規定因子であるILDとその合併症を改善することが今後の重要な課題ですね。
SSc-ILD治療では疾患修飾療法が理想
藤本 次に川口先生、SSc-ILDの治療目標とSENSCIS試験についてご解説ください。川口 SSc-ILDの治療は、生命予後改善だけでなくQOLの向上も重要です。従来の治療はCYC静注やMMF注1)などの免疫抑制薬が中心でしたが、ILDは根治が困難であるため、現実的な治療目標として%FVCの低下が自然経過に比べて抑制される、または低下が収束することを目指します1)。 こうした疾患修飾療法の適応として、罹患期間3年以内、%FVCが80%以上、HRCT所見での線維化病変の広がりが20%より広範、血清シアル化糖鎖抗原(KL-6)が1,200U/mLより多いなどの特徴が認められる早期進行予測例、%FVCが60~80%と一定の肺機能低下は認められるものの酸素療法なしで日常生活が維持できている機能低下例が挙げられます1)。
ニンテダニブ群で44%の有意なFVC減少抑制効果
川口 ニンテダニブは既に、特発性肺線維症(IPF)に対する抗線維化作用が示されています22)。そこでこのたび、SSc-ILDにおけるニンテダニブの有効性と安全性の検討を目的として、SENSCIS試験が日本を含む世界32カ国194施設で行われました10, 23)。
初発の非レイノー現象発症から7年以内、HRCT所見による肺線維化が10%以上、%FVCが40%以上、DLco(肺拡散能)が30~89%などの選択基準を満たすSSc-ILD患者576例(日本人70例含む)を、ニンテダニブ150mgを1日2回投与するニンテダニブ群とプラセボ群に1:1でランダムに割り付けました。 ベースラインの患者背景に両群で大きな違いはなく、dcSScとlcSScの割合はニンテダニブ群で53.1%、46.9%、プラセボ群で50.7%、49.3%でした。抗トポイソメラーゼⅠ抗体(ATA)陽性例はそれぞれ60.1%、61.5%で、併用許可薬のMMF注1)は48.3%、48.6%で使用されていました。HRCT所見における肺線維化の割合は両群とも平均約35%、%FVCは平均約72%でした。 主要評価項目である投与52週時のFVCの年間減少率は、プラセボ群の-93.3mL/年に対しニンテダニブ群では-52.4mL/年と、プラセボ群に比べニンテダニブ群で44%の有意なFVC減少抑制効果が認められました(群間差41.0mL/年、95%CI 2.9~79.0mL/年、P=0.04、検証的な解析結果、図3)。またベースラインから投与52週時までの経時的なFVCの平均変化量を見ると、投与12週後から群間差が著明となり、その差は52週まで持続していました(52週時における群間差46.4mL、95%CI 8.1~84.7mL、P=0.0177、図3)。 サブグループ解析として、ATA(陽性/陰性)、性(男性/女性)、年齢(65歳未満/65歳以上)、人種(白人/アジア人/黒人・アフリカ系米国人)、地域(アジア/欧州/カナダ・米国/その他)、MMF注1)併用の有無、皮膚硬化の範囲(dcSSc/ lcSSc)ごとにFVCの年間減少率が検討されましたが、ニンテダニブによる抑制効果が一貫して認められました(図4)。このうちMMF注1)併用の有無による検討は、今後SSc-ILD治療において、抗線維化薬と免疫抑制薬を併
注1)SScおよびSSc-ILDの効能・効果は未承認
表2 日本におけるSScの診断基準
(全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン委員会. 日本皮膚科学会雑誌 2016; 126: 1831-1896より作表)
写真1 爪上皮出血点
写真2 capillaroscopy像健常人
SSc患者
腎性全身性線維症、汎発型限局性強皮症、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、硬化性萎縮性苔癬、移植片対宿主病、糖尿病性手関節症、Crow-Fukase症候群、Werner症候群大基準、あるいは小基準①および②~⑤のうち1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断する
*1 MCP関節(中手指節間関節)よりも遠位にとどまり、かつPIP関節(近位指節間関節)よりも近位に及ぶものに限る*2 肉眼的に爪上皮出血点が2本以上の指に認められる†1、またはcapillaroscopy(毛細血管顕微鏡検査)あるいはdermoscopy(皮膚鏡検査)で全身性強皮症に特徴的な所見が認められる†2
†1 爪上皮出血点(写真1)は出現・消退を繰り返すため、経過中に2本以上の指に認められた場合に陽性と判断する †2 写真2に示すような、毛細血管の拡張(矢頭)、消失(点線内)、出血(矢印)など
*3 手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く
●全身性強皮症診断基準(全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン)大基準
除外基準
診断の判定
小基準
①手指に限局する皮膚硬化*1
②爪郭部毛細血管異常*2
③手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指尖潰瘍*3
④両側下肺野の間質性陰影 ⑤抗Scl-70(トポイソメラーゼⅠ)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体の いずれかが陽性
両側性の手指を越える皮膚硬化
右の疾患を除外する
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提供●日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
用すべきかどうかを考える上で重要だと思われます注2)。 なお、副次評価項目として検討されたベースラインから投与52週時のmodified Rodnan total skin thickness score(mRSS)の変化量において、両群で有意差は認められませんでした。藤本 ありがとうございました。早期進行を予測する血清マーカーとしてKL-6のお話がありましたが、SP-D(肺サーファクタント蛋白D)とどちらが有用でしょうか。川口 当施設ではKL-6のみを測定しています。
坂東 KL-6とSP-DはいずれもILDの病態モニタリングや治療反応性の評価に広く用いられていますが、時に2つの血清マーカーの変動が乖離することがあります。KL-6はHRCTでの病変の広がりや%FVCの経時的変化と関連しますが、治療反応性の評価としてはSP-Dの方がKL-6よりも速やかに低下することがあります24)。しかし、保険診療ではKL-6およびSP-Dの2つを測定した場合には主たるものしか算定できません。重要なのは、SSc-ILDの疾患進行や予後予測には、血清マーカーとともにHRCTや呼吸機能検査
注2)シクロホスファミド、アザチオプリン併用時の有効性および安全性は検討されていない
図4 各部分集団におけるFVCの年間減少率
〔Distler O, et al. N Engl J Med 2019; 380: 2518-2528(本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました)〕
解析対象例数 交互作用P値 推定群間差(95%CI)
17711176212229591868116711267318140148146142288
17311467220224632006220591396920138149153134287
0.491
0.594
0.730
0.725
0.277
0.452
0.420
29.9 57.2 58.6 34.6 44.428.145.844.5-20.4 43.4 39.7 10.3 178.4 26.3 55.4 56.6 25.3 41.0
(-19.1 ~ 78.8)(-3.5 ~ 118.0)(-18.0 ~ 135.1)(-9.3 ~ 78.4)(1.4 ~ 87.4)(-54.2 ~ 110.4)(-0.8 ~ 92.5)(-32.9 ~ 121.9)(-176.7 ~ 136.0)(-37.0 ~ 123.8)(-16.6 ~ 95.9)(-65.6 ~ 86.1)(28.1 ~ 328.7)(-27.9 ~ 80.6)(2.3 ~ 108.5)(3.2 ~ 110.0)(-28.9 ~ 79.6)(2.9 ~ 79.0)
陽性陰性男性女性65歳未満65歳以上白人アジア人黒人・アフリカ系米国人アジアEU米国・カナダその他ありなしdcSSclcSSc
解析方法:ATAの状態および性をカテゴリカル変数の固定効果として、ベースライン時のFVC、年齢、身長、ベースライン時のFVC×時間、治療×部分集団、治療×時間×部分集団の交互作用を連続変数の固定効果として、患者個別の切片および時間をランダム効果として含めた。
プラセボ群 ニンテダニブ群
プラセボ優位-200 2001000 300-100
ニンテダニブ優位*全身性強皮症の適応は未承認(2019年12月時点)
ATA
性
年齢
人種
地域
全集団
皮膚硬化の範囲による分類
ミコフェノール酸*
の併用
図3 FVC年間減少率の低下抑制作用とFVC低下抑制作用の経時変化
〔Distler O, et al. N Engl J Med 2019; 380: 2518-2528(本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました)〕
(mL)
-160
-120-140
-100-80-60-40-20
200
0 2412642 36 52(週)
(mL/年)
-120
-100
-80
-60
-40
-20
0ニンテダニブ群
-52.4
群間差:41.0mL/年(95%CI 2.9 ~ 79.0mL/年)、
P=0.04相対減少率:44%
補正値±SEランダム係数回帰モデル
プラセボ群
FVCの年間減少率
-93.3評価例数ニンテダニブ群プラセボ群
288288
283283
281281273280
265280
262268
241257
278283
FVCのベースライン
からの変化量
【解析方法】治療、ATA※1の状態および性をカテゴリカル変数の固定効果として、時間、ベースライン時のFVC、年齢、身長、治療×時間の交互作用およびベースライン値×時間の交互作用を連続変数の固定効果として、患者個別の切片および時間をランダム効果として含めた。
目的:全身性強皮症に伴う間質性肺疾患患者におけるニンテダニブ150mg 1日2回投与の有効性と安全性を検討する。試験デザイン:ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験実施地域:日本を含む32カ国、194施設対象:全身性強皮症に伴う間質性肺疾患の患者580例(日本人71例含む)方法:対象患者をニンテダニブ群あるいはプラセボ群に1:1の比率でランダムに割り付け、試験薬を52週間投与し、有効性と安全性を検討した。ATA※1の陽性または 陰性に基づき層別化してランダム化を行った。用法・用量として150mgを1日2回投与した。投与期間は最後の患者の投与期間が52週に到達した時点とし、最 長100週までとした。有害事象への対応として中断または100mg 1日2回への減量を可能とした。主要評価項目:FVC年間減少率(mL/年)重要な副次評価項目:52週時におけるmRSS※2のベースラインからの変化量、52週時におけるSGRQ※3総スコアのベースラインからの変化量解析計画:主要評価項目には、ランダム係数回帰モデル(ランダム切片・傾き)を用いた。重要な副次評価項目には、混合効果モデル(MMRM)を用いた。プラセボ投与
に対する製品A150mg 1日2回投与の優越性の検証では、主要評価項目および2つの重要な副次評価項目において階層手順を用いた。主要評価項目および重要な評価項目について、次の部分集団解析を行うことが事前に規定された。ATAの状態(陽性、陰性)、性別(女性、男性)、年齢(65歳未満、65歳以上)、人種(白人、アジア人、黒人・アフリカ系米国人)、地域(EU、米国・カナダ、アジア、その他)、ベースライン時のミコフェノール酸*使用(あり、なし)、全身性強皮症の病型(びまん皮膚硬化型、限局皮膚硬化型)。安全性については、試験薬の初回投与から最終投与の28日後までに発現した全ての有害事象について解析した。有害事象名はMedDRA ver 21.1を用いてコード化した。
※1 ATA:抗トポイソメラーゼⅠ抗体、※2 mRSS:modified Rodnan Skin Score、※3 SGRQ:St. George’s Respiratory Questionnaire*全身性強皮症の適応は未承認(2019年12月時点)
【解析方法】ATA※1の状態、来院、治療×来院の交互作用、ベースライン時のFVC×来院の交互作用をカテゴリカル変数の固定効果として含めた。来院は反復測定である。
●投与52週までのFVCの年間減少率[主要評価項目](検証的な解析結果) ●ベースラインから投与52週時までのFVCの変化量の推移 [副次評価項目]
投与期間
ニンテダニブ群プラセボ群
平均値±SEMMRM
投与52週後の群間差:46.4mL(95%CI 8.1~84.7mL)、P=0.0177
287例 288例
PGJ0514_オフェフ 座談会03_紫_cc.indd 5PGJ0514_オフェフ 座談会03_紫_cc.indd 5 2020/04/16 17:152020/04/16 17:15プロセスシアンプロセスシアンプロセスマゼンタプロセスマゼンタプロセスイエロープロセスイエロープロセスブラックプロセスブラック
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座談会 SSc-ILDに対する新たな治療戦略
などを総合的に評価することだと思います。藤本 主要評価項目の図(図3-左)はFVCの年間減少率を示したものですが、縦軸の単位はmL/年となっていますね。FVC年間減少“量”と表現しないのはなぜでしょうか。川口 “率”の本当の意味合いは単位時間当たりの変化量です。今回は1年当たりのFVC減少量で検討しているため、FVC年間減少率が正しい表現となります。坂東 この評価方法はIPFを対象としたニンテダニブの国際共同第Ⅲ相INPULSIS試験22)と同様に、各時点におけるFVCの実測値に対して解析モデルにより算出されています。
SSc-ILDに対する抗線維化薬の意義
藤本 最後に坂東先生、IPFにおけるニンテダニブの臨床経験をSSc-ILDにどう生かすか、副作用のマネジメントの観点も含めてご解説ください。坂東 IPFに対するニンテダニブの有効性と安全性を検討するINPULSIS試験が2014年に報告されました22)。IPF患者1,066例(日本人126例含む)についてニンテダニブ150mgを1日2回投与するニンテダニブ群とプラセボ群に3:2でランダムに割り付け、52週間のFVCの年間減少率を調べたところ、プラセボ群に比べニンテダニブ群で49%の有意なFVC減少抑制効果が認められました(群間差109.9mL/年、95%CI 75.9~144.0mL/年、P<0.0001、検証的な解析結果)。同試験の結果に基づき、ニンテダニブはIPFに対する治療薬として承認されました。その後実臨
床において、抗線維化薬によるIPF治療は世界各国で行われ、最近ではオーストラリアや欧州の観察研究においても有意な生存率の改善が示されています25, 26)。 なお、間質性肺病変があるSSc患者はない患者と比べ予後不良といわれます27)が、SENSCIS試験ではニンテダニブの肺機能低下に対する有用性が証明されたものの皮膚硬化に対する有効性は示されていないため、ニンテダニブの効能又は効果はSScではなくSSc-ILDとされている点に留意する必要があります。
ニンテダニブの有害事象への対処
坂東 SENSCIS試験では、有害事象がニンテダニブ群で98.3%、プラセボ群で97.6%に認められました。最も多かったのは下痢で、ニンテダニブ群で76.4%とINPULSIS試験の時の62.4%をやや上回りました(表3)10, 23)。これにはSScの疾患特性の影響も考えられます。投与状況について両試験を比較したところ、SENSCIS試験では用量を減量した患者が若干多かったものの、投与を中止した患者は少なく、投与完遂率に寄与していました。 なお、ニンテダニブによる下痢で投与中止に至った割合は9%で、下痢の94.5%は軽度~中等度でした。また、MMF注1)併用の有無で下痢を含む胃腸障害関連の有害事象の発現頻度に差は認められませんでした。 下痢への対応としては、ロペラミドや整腸剤などの止瀉剤を投与し、効果があればニンテダニブによる治療を継続、
注1)SScおよびSSc-ILDの効能・効果は未承認
表3 全期間におけるいずれかの治療群で発現率5%以上の有害事象
〔Distler O, et al. N Engl J Med 2019; 380: 2518-2528(本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました)、日本ベーリンガーインゲルハイム社内資料:第Ⅲ相国際共同試験(試験1199.214)[承認時評価資料]より作表〕
下痢悪心嘔吐皮膚潰瘍上咽頭炎咳嗽
上気道感染体重減少腹痛頭痛疲労
220(76.4)96(33.3)78(27.1)57(19.8)43(14.9)41(14.2)39(13.5)39(13.5)36(12.5)34(11.8)33(11.5)
94(32.6)41(14.2)33(11.5)56(19.4)56(19.4)63(21.9)44(15.3)15(5.2)21(7.3)28(9.7)21(7.3)
尿路感染食欲減退呼吸困難関節痛気管支炎
間質性肺疾患ALT増加上腹部痛
胃食道逆流性疾患背部痛発熱
29(10.1)28(9.7)27(9.4)23(8.0)22(7.6)22(7.6)22(7.6)21(7.3)20(6.9)20(6.9)20(6.9)
28(9.7)14(4.9)31(10.8)23(8.0)28(9.7)13(4.5) 4(1.4)15(5.2)26(9.0)15(5.2)15(5.2)
浮動性めまいγ-GTP増加肺炎
インフルエンザ筋肉痛AST増加便秘四肢痛気道感染鼻出血
19(6.6)19(6.6)18(6.3)17(5.9)16(5.6)16(5.6)15(5.2)15(5.2)13(4.5)8(2.8)
15(5.2)4(1.4)8(2.8)15(5.2)11(3.8)1(0.3)19(6.6)14(4.9)16(5.6)16(5.6)
●重篤な有害事象 重篤な有害事象はニンテダニブ群88例に認められ、主なもの(発現率1%以上)は間質性肺疾患、肺炎が各10例(3.5%)、呼吸困難、肺高血圧症が各5例(1.7%)、肺動脈性肺高血圧症、肺線維症が各4例(1.4%)、全身性硬化症肺、急性腎障害、気道感染、卵巣嚢胞が各3例(1.0%)であった。●投与中止に至った有害事象 ニンテダニブ群における投与中止に至った有害事象は50例に認められ、主なものは下痢22例、悪心6例、嘔吐4例であった。●死亡に至った有害事象 死亡に至った有害事象はニンテダニブ群6例に認められ、内訳は肺腺がん、血栓性微小血管症・強皮症腎クリーゼ、不整脈、肺炎、急性肺損傷、悪性中皮腫が各1例であった。このうち1例(急性肺損傷)は試験薬との因果関係が否定されなかった。●副作用 全期間における副作用は、ニンテダニブ群288例中238例(82.6%)、プラセボ群288例中133例(46.2%)に認められた。有害事象名はMedDRA ver.21.1の「基本語」に基づいて評価した全期間(最後の患者の投与期間が52週に到達した時点、最長100週までの試験期間全体)における集計
有害事象名 ニンテダニブ群(288例)
プラセボ群(288例) 有害事象名 ニンテダニブ群
(288例)プラセボ群(288例) 有害事象名 ニンテダニブ群
(288例)プラセボ群(288例)
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提供●日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
出 典
1)佐藤伸一編. 強皮症の基礎と臨床. 医薬ジャーナル社, 2016.2) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業「強皮症における病因解明と根治的治療法の開発」 強皮症における診断基準・重症度分類・治療指針2007改訂版.3)全身性強皮症診療ガイドライン作成委員会. 日本皮膚科学会雑誌 2012; 122: 1293-1345.4) 全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン委員会. 日本皮膚科学会雑誌 2016; 126: 1831-1896.5)Masi AT, et al. Arthritis Rheum 1980; 23: 581-590.6)Kowal-Bielecka O, et al. Ann Rheum Dis 2009; 68: 620-628.7)van den Hoogen F, et al. Arthritis Rheum 2013; 65: 2737-2747.8)van den Hoogen F, et al. Ann Rheum Dis 2013; 72: 1747-1755.9)Kowal-Bielecka O, et al. Ann Rheum Dis 2017; 76: 1327-1339.10) Distler O, et al. N Engl J Med 2019 ; 380: 2518-2528.(本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました)
11) 医療情報科学研究所編. 病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症 第2版. メディックメディア, 2018.
12)Nihtyanova SI, et al. Arthritis Rheumatol 2014; 66: 1625-1635.13)Walker UA, et al. Ann Rheum Dis 2007; 66: 754-763.14)Hashimoto A, et al. Mod Rheumatol 2012; 22: 272-279.15)Steen VD, et al. Arthritis Rheum 2000; 43: 2437-2444.16)Clements PJ, et al. Arthritis Rheum 2000; 43: 2445-2454.17)Matsuda KM, et al. Arthritis Res Ther 2019; 21: 129.18)Tyndall AJ, et al. Ann Rheum Dis 2010; 69: 1809-1815.19)Steen VD, Medsger TA. Ann Rheum Dis 2007; 66: 940-944.20)Suliman YA, et al. Arthritis Rheumatol 2015; 67: 3256-3261.21)Aletaha D, et al. Ann Rheum Dis 2010; 69: 1580-1588.22)Richeldi L, et al. N Engl J Med 2014; 370: 2071-2082.23) 日本ベーリンガーインゲルハイム社内資料:第Ⅲ相国際共同試験(試験1199 .214)[承認時評価資料].
24) 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き 改訂第3 版. 南江堂, 2016.
25)Jo HE, et al. Eur Respir J 2017; 49: 1601592.26)Guenther A, et al. Respir Res 2018; 19: 141.27)Hoff mann-Vold AM, et al. Am J Respir Crit Care Med 2019; 200: 1258-1266.28)ニンテダニブエタンスルホン酸塩 添付文書 2019年12月改訂(第5版).29)ニンテダニブエタンスルホン酸塩 適正使用ガイド
高度の下痢が続く場合は中止します。止瀉剤の効果が不十分であれば、ニンテダニブを1回100mgの1日2回投与に減量するか中断し、患者の状態を見て1回150mgの1日2回投与に再増量します(図5)28, 29)。ただし、止瀉剤の服用を躊躇する患者もいるので、下痢に対する注意喚起と対処を患者にしっかり行う必要があります。食事指導では、牛乳などの乳製品、ニンニクなどの生野菜といった刺激物、脂っこい食品が引き金となって急に下痢を起こすことがあるので、当施設ではそれらを避けるよう指導しています。 肝機能障害は下痢に比べ少なかったものの、ニンテダニブ投与後にASTまたはALTが基準値の3倍を超えた場合は、肝機能障害の徴候や症状が伴えば投与中止、伴わなければ1回100mgの1日2回投与に減量するか中断して患者を注意深くモニタリングし、患者の状態を見てニンテダニブを再投与します28, 29)。藤本 ありがとうございました。下痢による中断後の再投与にはどの程度の期間が必要でしょうか。また、肝機能検査はどのような頻度で実施していますか。坂東 数日にわたり下痢の消失が確認できれば再開します。まず100mgを投与し、1~2週間程度で問題がなければ150mgに増量します。肝機能障害は投与開始から3カ月以内に生じることが多く、当施設では投与初期から肝機能検査を実施しています。
幅広いSSc-ILD患者が登録されたSENSCIS試験の臨床的意義-副作用マネジメントは医薬連携で対応
藤本 最後に、SENSCIS試験の臨床的意義やSSc-ILD治療の展望について、先生方に一言ずつ伺いたいと思います。吉崎 治療においては、免疫異常、血管障害、線維化という三大病態を制御し、破壊された組織構造を回復させることが重要ですが、線維化が生じた臓器を寛解・治癒させる薬剤は今のところ存在しません。ですから、SScの実臨床における治療目標としては、生存期間の延長やQOLの向上、臓器障害の軽減、各臓器の機能保存と改善、新たな臓器病変の発症予防を目指すことになります。また、製薬会社には薬剤の適切な情報提供をお願いしたいと思います。川口 SENSCIS試験の臨床的意義は、約50%がMMF注1)併用、dcSScとlcSScの割合が51.9%、
48.1%という実臨床に近い特性のSSc-ILD患者でFVCの低下を抑制したことです。他方、下痢などの有害事象に対するマネジメントが今後の課題として挙げられます。坂東 SENSCIS試験の主な有害事象はINPULSIS試験と類似していました。しかし、SSc-ILDにおいては特に下痢による治療中断が懸念されるので、薬剤師などのメディカルスタッフとも協力しつつ、有害事象の発現を念頭に置いた患者指導が重要であると考えられます。藤本 ニンテダニブの登場により、SSc-ILDに対する新たな治療戦略の確立が期待されますね。先生方、本日は貴重なお話をありがとうございました。
本特別企画は日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の提供です
注1)SScおよびSSc-ILDの効能・効果は未承認
図5 下痢の管理方法
〔ニンテダニブエタンスルホン酸塩 添付文書 2019年12月改訂(第5版)、ニンテダニブエタンスルホン酸塩 適正使用ガイド〕
以下の点を患者さんにご指導ください・十分に水分を補給する。室温に戻してゆっくり飲む・高繊維食品、脂っこい物、刺激の強い物(生野菜、全粒穀類、乳製品、コーヒー、お茶、アルコール、炭酸飲料など)を避け、低繊維食品、刺激の少ない食品〔ごはん、麺類、バナナ、パン、鶏肉(皮なし)など〕を摂取する
・1回の食事量を少なくし、数回に分けて食べる
臨床的に適切であれば再増量※
1回150mg1日2回投与
回復後再投与※
下痢に対する対処法
対症療法
ニンテダニブによる治療
食事指導
下痢の発現
止瀉剤(ロペラミド・整腸剤など)、水分補給などを行う
効果不十分 高度の下痢が継続
減量1回100mg1日2回投与
中断 投与中止再投与は行わないでください
効果あり
継続
(用量調節)
※再投与または増量する場合は慎重に投与し、投与後は患者の状態を十分に観察してください
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