長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6...

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長期的な日本の成長・発展のために 戸堂康之 東京大学 新領域創成科学研究科 国際協力学専攻 教授 経済産業研究所 ファカルティフェロー・JICA研究所客員研究員 2014320「選択する未来」委員会 成長・発展ワーキンググループ 1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション イノベーションには人口規模が効く イノベーションには多様なつながりが効く でも、つながりの構築には政策が必要 あくまでも、多様なつながりが必要 2. 成長のために重要なつながり 産業集積による地域の密なつながり 国際化によるよそ者とのつながり 3. 成長のために今何が必要か 少子化対策:規制緩和・参入促進 つながり支援 起業支援・産学/産産連携支援 国際化支援・グローバル人材育成 2 1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション イノベーションには人口規模が効く イノベーションには多様なつながりが効く でも、つながりの構築には政策が必要 あくまでも、多様なつながりが必要 2. 成長のために重要なつながり 産業集積による地域の密なつながり 国際化によるよそ者とのつながり 3. 成長のために今何が必要か 少子化対策:規制緩和・参入促進 つながり支援 起業支援・産学/産産連携支援 国際化支援・グローバル人材育成 3 長期的な経済成長の源泉 4 設備投資・公共投資は 短期的には効くが、 長期的には収益率低下 成長に寄与しない 内閣府『平成25年度 年次経済財政報告』 資本ストックは 増えたが 収益率は低下

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Page 1: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

長期的な日本の成長・発展のために

戸堂康之

東京大学新領域創成科学研究科国際協力学専攻教授

経済産業研究所ファカルティフェロー・JICA研究所客員研究員

2014年3月20日「選択する未来」委員会

成長・発展ワーキンググループ

1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション

– イノベーションには人口規模が効く

– イノベーションには多様なつながりが効く

• でも、つながりの構築には政策が必要

• あくまでも、多様なつながりが必要

2. 成長のために重要なつながり

– 産業集積による地域の密なつながり

– 国際化によるよそ者とのつながり

3. 成長のために今何が必要か

– 少子化対策:規制緩和・参入促進

– つながり支援

• 起業支援・産学/産産連携支援

• 国際化支援・グローバル人材育成 2

1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション

– イノベーションには人口規模が効く

– イノベーションには多様なつながりが効く

• でも、つながりの構築には政策が必要

• あくまでも、多様なつながりが必要

2. 成長のために重要なつながり

– 産業集積による地域の密なつながり

– 国際化によるよそ者とのつながり

3. 成長のために今何が必要か

– 少子化対策:規制緩和・参入促進

– つながり支援

• 起業支援・産学/産産連携支援

• 国際化支援・グローバル人材育成 3

長期的な経済成長の源泉

4

設備投資・公共投資は短期的には効くが、

長期的には収益率低下成長に寄与しない

内閣府『平成25年度年次経済財政報告』

資本ストックは増えたが

収益率は低下

Page 2: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

「技術」進歩・「イノベーション」(=知恵の創造)

長期的な経済成長の源泉

5

ただし、「技術」進歩とは広く定義されるもの

• 工学的新技術・新商品開発

• 生産現場での「カイゼン」

• 経営・労務・財務・営業における改革

所得増を望まなくとも、技術進歩は時短等を通じて幸福度を高める

「技術」進歩・「イノベーション」(=知恵の創造)

長期的な経済成長の源泉

6

個々の企業にはインセンティブが

十分でない

研究開発には外部性(副作用)があり、研究開発に対する補助金は成長・社会的厚生にプラス

知識の波及で経済全体が恩恵

研究開発に対する税制優遇度の国際比較

7

日本

出所:OECD (2012)8

1.5

2

2.5

3

3.5

4

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

出所:世界開発指標

研究開発支出額(GDP比,%)

日本

アメリカ

ドイツ

OECD平均

研究開発の量は十分

研究開発以上の何かが必要

Page 3: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

「技術」進歩・「イノベーション」(=知恵の創造)

長期的な経済成長の源泉

9

多くの多様な人間のつながり技術進歩(3人寄れば文殊の知恵)

産業集積地域内のつながり

グローバル化海外とのつながり

人間の質・量が重要

人間が創造の源需要が発明を喚起

1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション

– イノベーションには人口規模が効く

– イノベーションには多様なつながりが効く

• でも、つながりの構築には政策が必要

• あくまでも、多様なつながりが必要

2. 成長のために重要なつながり

– 産業集積による地域の密なつながり

– 国際化によるよそ者とのつながり

3. 成長のために今何が必要か

– 少子化対策:規制緩和・参入促進

– つながり支援

• 起業支援・産学/産産連携支援

• 国際化支援・グローバル人材育成 10

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.501人当たりGDP成長率(年率%)

人口成長率(年率%)

人口(10億人[右軸])

11Maddision (2010)

歴史的に先進国全体の人口規模と1人当たりGDP成長率は相関(規模効果)

(西欧+米加豪NZ)

Todo & Miyamoto (2002) •大航海時代以前の大陸・島の比較(Kremer 1993)

ユーラシア>アメリカ>オーストラリア>タスマニア…

•国別の比較(Kang 2002)

中国の成長は規模効果によるところが大きい

そもそも米国が経済的にも覇権国となったのは

その人口規模に負うところが大きい(Romer 1996)

12

少子化対策が成長戦略の要の1つ

人口規模が大きいと所得成長率が高い

Page 4: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション

– イノベーションには人口規模が効く

– イノベーションには多様なつながりが効く

• でも、つながりの構築には政策が必要

• あくまでも、多様なつながりが必要

2. 成長のために重要なつながり

– 産業集積による地域の密なつながり

– 国際化によるよそ者とのつながり

3. 成長のために今何が必要か

– 少子化対策:規制緩和・参入促進

– つながり支援

• 起業支援・産学/産産連携支援

• 国際化支援・グローバル人材育成 13 14

「世界は狭い」的ネットワーク

(友達の友達…は米大統領)

よそ者とのつながり新しい知識の伝播

(Watts & Strogatz, 1998)

密度の濃いネットワーク(友達は皆友達同士)

ネットワーク内での

知識の共有(Centola, 2010) 

多様なつながりが技術進歩のために有効

産業集積地域内のつながり

グローバル化海外とのつながり

3人寄れば文殊の知恵

強いきずなとよそ者とのつながりは補完的

15

他分野の研究者

研究者いつもの研究仲間

も優れた研究業績(特許数で計測)

ドイツ自動車関連研究者の例(Rost, 2011)

アメリカのハイテク企業の社内プロジェクトの例(Tiwana, 2008)

同じ部署+よそ者 高の業績16

英国留学で開国派に転じた

伊藤博文

下関戦争の敗北で長州藩も開国派へ

明治維新後も岩倉使節団が大きく貢献

とは言え、よそ者とのつながりがうまく作用したのは、国内の密なつながりがあったからこそ

日本の近代化もよそ者とのつながりに負うところが大きい

1人当たりGDP成長率0.4%(1850~70)1.6%(1870~90)

写真:Wikipedia

Page 5: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション

– イノベーションには人口規模が効く

– イノベーションには多様なつながりが効く

• でも、つながりの構築には政策が必要

• あくまでも、多様なつながりが必要

2. 成長のために重要なつながり

– 産業集積による地域の密なつながり

– 国際化によるよそ者とのつながり

3. 成長のために今何が必要か

– 少子化対策:規制緩和・参入促進

– つながり支援

• 起業支援・産学/産産連携支援

• 国際化支援・グローバル人材育成 17 18

つながりには政策が必要

つながりの

構築にはコストがかかる

誰かがつないでくれるのを待つ

誰かがつなげば皆にプラス

つながりの構築には外部性がある

政策的につながりを支援することは経済全体にプラス

昔のクラスのみんなに

会いたいなあ

でも同窓会の幹事をやるのは面倒だなあ

誰かがやってくれるのを待とう

• 江戸時代の鎖国幕末期の尊王攘夷(明治維新によって多様なつながりを構築成長軌道へ)

• 大恐慌ブロック経済化第2次世界大戦(敗戦で多様なつながりを再構築高度成長)

• ナチ台頭期のドイツ(Satyanath 2013)コミュニティ組織が多いナチの浸透が早い

• 1960年代のラテンアメリカにおける輸入代替工業化政策長期的に経済が停滞(開放的な政策を採用した東アジアにくらべて)

地域内の密なつながりが閉鎖性を高め、むしろ多様なつながりを阻害する

19 20

閉鎖的つながり ますます閉鎖的経済停滞

内向きのつながりの悪循環に陥っていないか

非競争的な環境が悪循環を促進

農業・地方日本全体?

悪循環を断ち切るには非常に大きな外圧(黒船・敗戦)やよそ者とつながる変わり者が必要

Page 6: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

むしろ現在の日本においては過度の介入が成長の足を引っ張ってきた

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農業保護高価格

耕作放棄地

(新)大店法 シャッター通り

タクシー参入規制

タクシー料金↑利用者数↓

22

中小企業保護

ゾンビ企業の存続新規参入の阻害

ゾンビ企業の割合

出所:星・カシャップ(2013)

このグラフでの「ゾンビ企業」:市場金利よりも低利の銀行融資を受けた企業

1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション

– イノベーションには人口規模が効く

– イノベーションには多様なつながりが効く

• でも、つながりの構築には政策が必要

• あくまでも、多様なつながりが必要

2. 成長のために重要なつながり

– 産業集積による地域の密なつながり

– 国際化によるよそ者とのつながり

3. 成長のために今何が必要か

– 少子化対策:規制緩和・参入促進

– つながり支援

• 起業支援・産学/産産連携支援

• 国際化支援・グローバル人材育成 23 24

産業集積は生産性を向上させる

出所:徳田(2010)

事業所密度と中小企業の平均収益率(ROA)

Page 7: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

激しい参入・退出による産業集積技術進歩

25Yamamura, Sonobe, Otsuka (2005)

日本のオートバイメーカーの例

企業数

操業中

廃業参入

存続企業

廃業企業

エンジン性能

100万台

生産台数

◆日本

×仏■独

金属洋食器の製造に転換

新潟県燕市の金属加工業

26

洋釘の普及で和釘の需要減

銅器の需要減仙台の職人に学び

銅器の生産(付近に銅山)

水害が多く(地理的要因)、副業として和釘の生産

アジア諸国で安価な洋食器製造

ブランド洋食器(欧州に学ぶ)高度な金属加工

よそ者とのつながりによる技術進歩集積を維持・発展

大学・研究機関北京大学精華大学

中国科学院

大学・研究機関北京大学精華大学

中国科学院

中国中関村科学技術園(売上高20兆円のハイテク特区)

-つながり重視の政策による集積の創出―(Todo et al. 2009, 2011; Cai et al. 2007)

27

外資企業外資企業

地場企業地場企業

産学連携起業の奨励産学連携起業の奨励

スピンオフスピンオフ

共同研究の奨励

共同研究の奨励 海外の高度人材の帰国

(海亀)の奨励

28

日本の産業クラスター計画でも「つなげる政策」が有効

研究開発の生産性に対して効果大

効果小/なし

産産・産学ネットワーク支援(展示会・研究会・商談会)

研究開発費補助

クラスター外の企業との連携

クラスター内の企業との連携

地域の国立大学との産学連携

(Nishimura and Okamuro, 2011a, 2011b)

Page 8: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション

– イノベーションには人口規模が効く

– イノベーションには多様なつながりが効く

• でも、つながりの構築には政策が必要

• あくまでも、多様なつながりが必要

2. 成長のために重要なつながり

– 産業集積による地域の密なつながり

– 国際化によるよそ者とのつながり

3. 成長のために今何が必要か

– 少子化対策:規制緩和・参入促進

– つながり支援

• 起業支援・産学/産産連携支援

• 国際化支援・グローバル人材育成 29

輸出によって生産性は上昇する

30

6

7

8

9

10

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

労働生産性(百万円/人)

2000年に輸出を開始した企業の平均

1995年から2007年まで一切輸出していない企業の平均

グローバル化で本当に成長できるのか?

出所:経済産業省『企業活動基本調査』

グローバル化によって生産性は上昇する

31

「3人寄れば文殊の知恵」

知識集約的工程への特化

日本の企業データを使った分析による平均的生産性成長効果

輸出:2%上昇(Kimura & Kiyota, 2006)

海外直接投資:2%上昇(Hijzen, Inui, & Todo, 2007)

海外生産委託:0.6%上昇(Hijzen, Inui, & Todo, 2010)

海外での研究開発:3%上昇(Todo & Shimizutani, 2008)

対日研究開発投資:4%上昇(Todo, 2006)

日本企業

外国

規模の経済

海外直接投資も必ずしも雇用を悪化させない

32

直接投資開始

1年後 2年後 3年後1年前2年前

20%

10%

0%

海外直接投資を開始した企業の平均

日本の製造業企業の雇用成長の推移

同様の規模や生産性ながら海外投資をしていない企業の平均

差12%

出典:Tanaka (2012b)

Page 9: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

中小企業も海外進出で雇用を減らさない

33

40

50

60

70

80

90

100

2006 2009

平均従業員数

海外直接投資・海外生産委託を行っている中小零細企業

行っていない中小零細企業

出典:中小企業庁・三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる『国際化と企業活動に関するアンケート調査』を基にしたTodo (2012)

なぜ海外進出しても国内雇用は減らないのか?

34

日本エー・エム・シー(福井市)の例

• 配管部品(建設機械向け「継ぎ手」)• 1997年中国上海工場設立• 2006年バンコク工場設立• 従業員数 1997年70人2013年 146人

海外での技術指導・品質管理などの業務増加(2011年11月3日日本経済新聞)

35

国内に技術があればグローバル化しても雇用は国内に残る

生産小売等

エンジニア

計 給与

アメリカ 30 7,789 6,101 13,920 $7.5億

アメリカ国外

19,160 4,825 3,265 27,250 $3.2億

計 19,190 12,614 9,366 41,170

iPadによる雇用

Linden et al. (2011)

国内に技術があればグローバル化しても利益も国内に残る

36

iPadの利益配分

Dedrick et al. (2011)

Appleの利益30%

運送・小売15%

Apple以外のアメリカ 2%

台湾2%日本1%韓国7%

不明5%

中間財31%

中国の労働者2%

中国以外の労働者5%

Page 10: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

中小企業庁『国際化と企業活動に関するアンケート調査』(2009年12月実施,製造・非製造業中小企業3513社)による分析

37

日本には生産性が高いのに国際化していない中小企業が多数ある

050

100

15020

025

0

企業数

0 1 0 00 2 0 0 0 3 0 0 0 4 0 0 0

一 人 当 た り 付 加 価 値 (万 円 )

非 グ ロ ー バ ル 企 業

050

100

15020

0250

企業数

0 1 0 00 2 0 0 0 3 0 0 0 4 0 0 0

一 人 当 た り 付 加 価 値 (万 円 )

グ ロ ー バ ル 企 業

海外進出してない企業

海外進出している企業

従業員一人当たり付加価値額(万円)

臥龍企業

なぜ国際化しないのか? (%)

380 10 20 30 40 50

知識不足

資金不足

人材不足

現地の政情不安定

必要性を感じない

39

部品の共通化の進展

部品の共通化の進展

中小企業金融円滑化法の終了

中小企業金融円滑化法の終了

「国際化する必要性を感じない」(政策のおかげで、国内でやって行ける)

という状況は急激に変化

「国際化する必要性を感じない」(政策のおかげで、国内でやって行ける)

という状況は急激に変化

技術力のある中小企業にとってはむしろチャンス

技術力のある中小企業にとってはむしろチャンス

国際化・産学連携・M&Aに対する支援

が必要

国際化・産学連携・M&Aに対する支援

が必要

ナノコーティング・フィルム(スマホ・

有機EL用等)

1931年創業カーテンの

染色加工等の繊維企業

部品の共通化の進展

40

技術力のある日本の中小企業にとって、むしろ世界的サプライヤーとなるチャンス

鈴寅(現積水ナノコートテクノロジー)

サムスングループフィルム事業買収

出所:中部産業連盟『プログレス』2011年5・11月号写真:積水ナノコートテクノロジーhttp://sekisuinct.co.jp/

世界シェア10%

世界シェア10%

Page 11: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション

– イノベーションには人口規模が効く

– イノベーションには多様なつながりが効く

• でも、つながりの構築には政策が必要

• あくまでも、多様なつながりが必要

2. 成長のために重要なつながり

– 産業集積による地域の密なつながり

– 国際化によるよそ者とのつながり

3. 成長のために今何が必要か

– 少子化対策:規制緩和・参入促進

– つながり支援

• 起業支援・産学/産産連携支援

• 国際化支援・グローバル人材育成 41

0

10

20

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40

50

60

70

80

90

100

Brazil

Tunisia

Egypt

Algeria

Peru

Thailand

Anguilla

China

Chile

Poland

Zambia

Croatia

Lithuania

Iran

Israel

Estonia

Singapore

Germ

any

Finland

Hungary

42Source: Global Entrepreneurship Monitor (http://www.gemconsortium.org/)

日本

起業家を好ましいキャリアと考える人の割合

新陳代謝を促進できるか?

起業支援

43

起業家のUターン・

Iターン支援

シニア人材のUターン・Iターン支援

ベンチャー資金

グローバル化支援でもある

場の提供

1. 長期的な経済成長の源泉はイノベーション

– イノベーションには人口規模が効く

– イノベーションには多様なつながりが効く

• でも、つながりの構築には政策が必要

• あくまでも、多様なつながりが必要

2. 成長のために重要なつながり

– 産業集積による地域の密なつながり

– 国際化によるよそ者とのつながり

3. 成長のために今何が必要か

– 少子化対策:規制緩和・参入促進

– つながり支援

• 起業支援・産学/産産連携支援

• 国際化支援・グローバル人材育成 44

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45

TPPの効果推計(Petri, 2013)

政府による2013年3月発表の推計

ブランダイス大ペトリ教授による推計

特に新しく輸出を始める企業による生産増

対日投資による生産増

輸出増による生産増

輸出増による生産増

臥龍企業の国際化!

GDPの0.66%=1人あたりで25,000円

GDPの1.96%=1人当たりで73,000円

TPPを始めとするEPA(経済連携協定)の効果

46

貿易・投資の増大「3人寄れば文殊の知恵」国内にイノベーションGDP成長率が上昇

貿易・投資の増大「3人寄れば文殊の知恵」国内にイノベーションGDP成長率が上昇

輸出・投資の増大GDPが増加輸出・投資の増大GDPが増加

GDP

時間

TPPの効果推計(戸堂,2013)

47

TPPによる増加(2020年時点)

(Petri et al., 2013)

1人当たりGDP成長率に対する効果

貿易量(対GDP比)

6.8%1%に対して0.027%

(Lee et al. 2004)

6.8*0.027=0.18%

対内FDI(対GDP比)

3.1%1%に対して

0.42%(Alfaro et al. 2004)

3.1*0.42=1.31%

TPPによる1人当たりGDP成長率の増加分 1.49%

10年後に1人当たり実質GDPが40万円増加

10年後に1人当たり実質GDPが40万円増加

企業の国際化のための直接支援

48

金融支援日本政策金融公庫

JBIC 信用保証協会

金融支援日本政策金融公庫

JBIC 信用保証協会

情報支援

セミナー開催・個別相談・ネット上の情報提供

JETRO 日本商工会議所中小企業基盤整備機構

情報支援

セミナー開催・個別相談・ネット上の情報提供

JETRO 日本商工会議所中小企業基盤整備機構

ネットワーク支援

展示会・商談会支援

ビジネスマッチング

JETRO 自治体支援団体

ネットワーク支援

展示会・商談会支援

ビジネスマッチング

JETRO 自治体支援団体

リスク支援貿易保険

リスク支援貿易保険

必要な企業に必要な支援が届くように、既存のネットワークを利用した情報拡散を

Page 13: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

49

0%

10%

20%

30%非臥龍企業臥龍企業グローバル企業

三菱UFJリサーチ&コンサルティング『国際化と企業活動に関するアンケート調査』による結果

国際化支援策の問題点 グローバル人材の積極活用

50

支援策•留学のための官民協力による新たな仕組み

•中学・高校教員の留学支援地方を含む、より広範に行き渡る支援を

支援策•留学のための官民協力による新たな仕組み

•中学・高校教員の留学支援地方を含む、より広範に行き渡る支援を

経営者・幹部の海外経験国際化の大幅な進展経営者・幹部の海外経験国際化の大幅な進展

生徒・学生の留学が効果的

生徒・学生の留学が効果的

例:グレイスワイン(勝沼)2代目の留学を期に海外へ輸出

グローバル人材の積極活用

51

支援策•やまなし産業支援機構「留学生との交流会」

•優秀な留学生の誘致

• JICA青年海外協力隊帰国者情報提供

支援策•やまなし産業支援機構「留学生との交流会」

•優秀な留学生の誘致

• JICA青年海外協力隊帰国者情報提供

留学生の雇用で国際化の壁を乗り越える

ケースも多い

留学生の雇用で国際化の壁を乗り越える

ケースも多い

例:金子製作所(埼玉)輸出の引き合いがあった時に

留学生を雇用して対応

52首相官邸ウェブサイトより

世界を惹きつける地域資源で稼ぐ地域社会の実現

中小企業・小規模事業者

の革新

立地競争力の更なる強化

戦略的な通商関係の構築と経済連携の推進

海外市場獲得のための戦略的取組

我が国の成長を支える資金・人材等に関する

基盤の整備

産業の新陳代謝の促進

人材力の強化(グローバル

人材・大学改革含む)

実は、再興戦略に全てが含まれている

Page 14: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

53

サプライチェーンが災害からの復旧に及ぼす影響

被災により操業停止

部材の流れ

【マイナス】直接・間接の部材供給停止非被災地でも

操業停止

【プラス】取引先からの

復旧支援

【プラス】

ネットワークを通じて調達先を

代替

0100

200

300

400

震災後の操業停止日数

0 5 10 15 20 25

被災地外仕入れ先総数(2005年)54

東日本大震災において、県外企業との取引が多いと

復旧が早かった

出所:戸堂他 (2013)

多様なつながりは「経済の強靭化」にも有用

55

操業停止日数(短期の復旧)

売上成長率(中期の復旧)

被災地内の取引先数

なし +

被災地外の取引先数

─(復旧には+)

なし

取引先の取引先数

+(復旧には-)

なし

東日本大震災からの復旧にも多様なつながりは役立った

供給網の途絶

支援・代替 集積

結論

つながり支援は

インフラ整備などにくらべて地味

でも、経済成長にも絶大な効果がある

経済の強靭性にすら効く

56

Page 15: 長期的な日本の成長・発展のために · 長期的な経済成長の源泉 6 個々の企業には インセンティブが 十分でない 研究開発には外部性(副作用)があり、

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