荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書...

26
荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 (平成30年度版) bond Project@あらかわ 荒川区

Upload: others

Post on 04-Aug-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書

(平成30年度版)

bond Project@あらかわ

荒川区

Page 2: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

2

⽬次

Ⅰ はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

Ⅱ BONDプロジェクトの活動内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

1 BOND プロジェクト本部の活動内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

2 相談室「bond Project@あらかわ」の活動内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

Ⅲ 実績報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

1 BONDプロジェクト全体の相談件数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

2「bond Project@あらかわ」の相談件数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

(1)対象者数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

(2)対象者の属性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

① 年齢 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

② 就業・就学状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

③ 性別 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

3 相談内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

(1)主訴と問題の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

① 主訴・⾯接相談 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

② 主訴・電話相談 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

③ 問題の背景・電話相談 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

④ 問題の背景・電話相談 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

(2)⾃殺念慮・⾃傷⾏為・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

Ⅳ 事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

Ⅴ 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

1 家庭問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

2 健康問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

3 勤務問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

4 経済・⽣活問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

5 恋愛問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

6 学校問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

7 その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

Ⅵ 成果と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

1 成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

2 課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

Ⅶ 講評 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

[資料]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

Page 3: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

3

Ⅰ はじめに 警察庁の「⾃殺統計」(図1)によれば、⽇本の⾃殺者数は、平成10年以降、14年連続して3万⼈を

超える状態が続いていたが、平成24年に15年ぶりに3万⼈を下回り、平成28年は2万1,897⼈と

5年連続で3万⼈を下回っている。⾃殺者数が減り続けている背景には⾃殺対策が進んだことが⼤きく影

響していると考えられ、平成18年には⾃殺対策基本法が施⾏され、「⾃殺は個⼈の問題ではなく、社会の

問題である」との認識も広まっている。

【図1】⾃殺者数の推移(⾃殺統計)

資料:平成30年厚⽣労働省⾃殺対策⽩書より

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/18-2/dl/1-1.pdf

平成30年の全国の⾃殺者数は2万668⼈で、9年連続の減少となったことが警察庁の集計でわかって

いるが、19歳以下の未成年では⾃殺者数が増加しており、若年層への対策が求められている。平成29

年10⽉、神奈川県座間市で9⼈の若い男⼥が殺害された事件では被害者らが SNS に⾃殺願望をうかがわ

せる書き込みをしたことが被害に繋がった。いじめ⾃殺も後を絶たず、⽇本における若い世代の⾃殺は深

刻な状況にある。年代別の死因順位を⾒ると、15〜39歳の若い世代で死因の1位が⾃殺となっている。

(図2)

Page 4: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

4

【図2】平成28年における死因順位別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率・構成割合

資料:平成30年厚⽣労働省⾃殺対策⽩書より

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/18-2/dl/1-3.pdf

平成26年度より始動した本事業は、希死念慮など様々な問題を抱えると思われる若年層(概ね10代

〜20代)の対象者に対し、調査と⽀援を⼀体的に⾏う⼿法で、これまで区役所や公的な相談機関を利⽤

しなかった層に働きかけを⾏うことを⽬的とした相談事業である。5年⽬を迎えた本年度も NPO 法⼈

BOND プロジェクトが、虐待、家庭不和、性暴⼒、DV、望まない妊娠や出産、⾮⾏、対⼈関係の悩み、

ネットトラブル、⾃傷⾏為、精神疾患やそれらと深く関わりのある⾃殺願望や希死念慮などの⽣きづらさ

を抱えた若年層に対し、⾯接相談、電話相談を実施。必要時には関係機関との連携、調整を図り、同⾏⽀

援を⾏った。

BOND プロジェクトでは2009年より「10代20代の⽣きづらさを抱える⼥の⼦のための⽀援」に取

り組んでいる。困難に直⾯した若年世代の⼥性にとって相談しやすい環境を作り、「ありのままの⾃分を表

現できるように」という理念のもと、渋⾕をはじめとする東京都内を拠点に活動し、⽣きづらさを抱えた

10代20代の⼥性たちの声を聞き続けている。LINE、メール、電話、⾯接による相談対応や web 上のパ

トロール、繁華街での声かけのほか、相談対応を通して⼀⼈ひとりをエンパワメントするとともに専⾨機

関との連携、同⾏⽀援、緊急時の⼀時的な保護、⾃⽴を⽬指した中⻑期的な⽣活⽀援を実施している。

Ⅱ BOND プロジェクトの活動内容 1 BOND プロジェクト本部の活動内容

・メール相談:24時間受付

・LINE 相談:毎週⽉、⽔、⽊、⾦、⼟曜⽇ 18:30〜22:30(受付は 22:00 まで)

※平成31年3⽉より時間変更あり。

【2部制】16:00〜19:00(受付は 18:30 まで)、19:30〜22:30(受付は 22:00 まで)

・電話相談/⾯接相談:必要に応じて随時対応。

・出張⾯談

Page 5: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

5

・緊急時の⼀時保護/同⾏⽀援:必要に応じて随時対応。⾐⾷住の提供。専⾨機関への同⾏や連携。

・「ボンドのイエ」の運営:中⻑期的な居場所の提供、⽣活⽀援を⾏う。

・渋⾕、秋葉原、池袋等繁華街における街頭でのパトロール、声かけ、アンケート

・web 上でのパトロール、声かけ

・情報発信活動:コミュニティラジオ「渋⾕のラジオ」にて「渋⾕の漂流少⼥たち」パーソナリティ、

YouTube や Twitter、Instagram 等 SNS による発信

・若年⼥性向けのイベント、研修会等の実施

【図3】BOND プロジェクトで⾏う⽀援の流れ

2 相談室「bond Project@あらかわ」の活動内容

開室⽇/時間:毎週⽕、⽊、⽇曜⽇/14:00〜20:00

⼦どもたちが来所しやすい⻑期休み期間中や⾃殺対策強化⽉間に合わせた9⽉にもプラス15回開室

し、⾯接相談を⾏った。

・電話相談:開室⽇の16:00〜19:00

・⾯接相談:開室時間内で1⼈につき1時間程度。予約制。

・必要に応じて同⾏⽀援、他機関との連携対応を⾏う。

・⽇暮⾥駅周辺を中⼼に街頭での声かけ、相談先カードの配布

・荒川区主催の会議に出席:⾃殺未遂者⽀援連絡会、⾃殺予防事業実務担当者連絡会、精神保健福祉連

絡協議会、精神保健福祉ネットワーク会議

Page 6: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

6

Ⅲ 実績報告 1 BOND プロジェクト全体の相談件数

平成30年4⽉〜平成31年3⽉の相談件数 (件)

BOND 本部 bond@あらかわ 本部+@あらかわ

メール LINE 電話 ⾯談 電話 ⾯談 同⾏⽀援 保護 他機関連携

4⽉ 1197 1194 5 74 117 31 3 62 39

5⽉ 1358 1365 12 64 127 27 7 49 45

6⽉ 1059 1144 20 43 110 24 8 35 45

7⽉ 1046 1130 26 46 137 22 6 38 50

8⽉ 1396 1207 8 42 130 27 0 33 38

9⽉ 1249 1007 10 72 121 21 5 60 46

10⽉ 1427 895 12 98 117 22 9 55 104

11⽉ 985 874 11 114 107 20 6 52 113

12⽉ 917 964 7 87 94 22 6 36 88

1⽉ 924 989 7 152 103 29 8 71 114

2⽉ 892 1075 9 131 101 21 14 71 121

3⽉ 1085 1498 9 129 114 19 5 68 89

合計 13535 13342 136 1052 1378 285 77 630 892

2「bond Project@あらかわ」の相談件数

(1)対象者数

⾯接相談、電話相談に寄せられた若年者の属性を分析した。

・⾯接相談:285件

・電話相談:1378件

(平成30年4⽉1⽇〜平成31年3⽉31⽇までの集計結果。計165回開室した。)

(2)対象者の属性

①年齢 (件)

11〜15 歳 16〜20 歳 21〜25 歳 26〜29 歳 30 歳以上 不明 合計

⾯接相談 6 118 108 51 2 0 285

電話相談 197 389 422 293 26 51 1378

Page 7: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

7

a.⾯接相談 (N=285) b.電話相談 (N=1378)

⾯接相談では16〜20歳が最も多く、118件・41%を占めた。次いで21〜25歳が108件・

38%と、10代後半〜20代前半の世代が8割近く占めていた。

電話相談では21歳〜25歳が最も多く、422件・31%。次いで16〜20歳が389件・28%

であった。11歳〜15歳も197件・14%、26歳〜29歳も293件・21%と、⾯接相談と⽐較

すると幅広い年齢からの相談があった。

BOND プロジェクト本部で対応しているメールや LINE 相談を経て電話相談や⾯接相談に訪れる場合も多

く、初回相談においては LINE やメールの⽅が相談する側にとってはハードルが低いと思われるが、電

話、⾯接に繋がるとより深く話が聞けるようになり、相談者のことを知ることができる。

②就業・就学状況 (件)

フル

タイム

パート

タイム

⾃営・

⾃由業 主婦 学⽣

失業・

無職 ⾵俗 不明 合計

⾯接

相談 53 51 1 2 111 57 9 1 285

電話

相談 47 415 1 12 564 271 4 64 1378

11〜15歳, 6, 2%

16〜20歳

118, 41%21〜25歳

108, 38%

26〜29歳51, 18%

30歳以上, 2, 1%

不明, 0, 0%

11〜15歳, 197,

14%

16〜20歳

389, 28%

21〜25歳422, 31%

26〜29歳293, 21%

30歳以上, 26,

2%

不明, 51, 4%

Page 8: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

8

a.⾯接相談 (N=285) b.電話相談 (N=1378)

⾯接相談では学⽣が最も多く、111件・39%を占めた。次いで失業・無職が57件・20%、フル

タイムが53件・18%、パートタイムが51件・18%だった。

電話相談でも学⽣が最も多く、564件・41%だった。パートタイムが415件・30%、失業・無

職が271件・19%と続いた。

なお、表とグラフには含まれていないが、⾵俗の仕事を掛け持ちしている事例も⾯接相談で2件、電話

相談で11件あった。

③性別 (件)

⼥性 男性 合計

⾯接相談 285 0 285

電話相談 1377 1 1378

相談者の性別はほぼ⼥性であった。BOND プロジェクトが元来「10代20代の⼥の⼦のための⽀援」

として活動してきたことや、同世代の⼥性スタッフが対応することもあり、多数の相談が寄せられたと考

える。なお、セクシャリティについての悩みが寄せられる場合もあるが、本事業内においては全て本⼈か

ら「⼥性である」と申告があったため、⼥性として集計している。

フルタイム53,

18%

パートタイム, 51, 18%

⾃営・⾃由業, 1, 0%主婦,

2, 1%

学⽣111, 39%

失業・無職57,

20%

⾵俗11, 4%

不明, 1, 0%

フルタイム, 47,

3%

パートタイム

415, 30%

⾃営・⾃由業, 1, 0%

主婦, 12, 1%

学⽣564, 41%

失業・無職271, 19%

⾵俗,15, 1%

不明, 64, 5%

Page 9: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

9

3 相談内容

(1)主訴と問題の背景

① 主訴・⾯接相談(件) (N=285)

② 主訴・電話相談(件) (N=1378)

⾯接相談では「家族」が56件と最も多く、次いで「仕事」が38件、「⼼の状態」が28件、「暮ら

し」が27件と、具体的な悩みが主訴となる傾向が⾒られた。

⼀⽅、電話相談では「⼼の状態」が277件と最多であり、「⾃殺念慮」が177件、「メンタルヘル

ス」が175件と続いた。「⼼の状態」は「つらい」「しんどい」「寂しい」「落ち込んでいる」など⾔葉で

表される場合が多く、「⾃殺念慮」は「消えたい」「いなくなりたい」などの⾔葉で語られることも多い。

また、「メンタルヘルス」については「眠れない(不眠)」や精神疾患の症状による不調を訴える場合もあ

るが、いずれも⾯接相談の主訴と⽐べると漠然とした内容が主訴となる傾向にあった。

不明瞭であったり詳しい状況が把握しづらい⾔葉で相談が寄せられた場合、特に初回やはじめのうち

はどんな背景があるのか丁寧な聞き取りを⾏い、関係性も築いていくが、そうしていくうちに様々な問題

が背景にあることがわかってくる。

2821

93 3 4

27

6

38

14

56

1217

5 40 1 1 0 0

5 37

16

3 20

10

20

30

40

50

60

⼼の状態

メンタルヘルス

⾃殺念慮

⾃傷⾏為障がい

健康問題暮らし 対⼈ 仕事 学校 家族 虐待 恋愛

LGBT

妊娠、出産、中絶

ひきこもり

ネットトラブル

犯罪被害 薬物

ストーカー 家出

援助交際性被害 貧困

近況報告その他

277

175 177

6222 41 42 55

8664

149

29 240 5 6 5 3 5 3 22 8 19 13

39 41

050

100150200250300

⼼の状態

メンタルヘルス

⾃殺念慮

⾃傷⾏為障がい

健康問題暮らし 対⼈ 仕事 学校 家族 虐待 恋愛

LGBT

妊娠、出産、中絶

ひきこもり

ネットトラブル

犯罪被害 薬物

ストーカー 家出

援助交際性被害 貧困

近況報告その他

Page 10: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

10

また、相談者とスタッフの関係性ができてくると、ある程度背景にある問題を知った上での会話となる

ため、その⽇の気持ちを主に話すことも多くなってくる。

③ 問題の背景・⾯接相談(複数回答/件) (N=285)

④ 問題の背景・電話相談(複数回答/件) (N=1378)

主訴においては⾯接相談と電話相談で傾向の違いが⾒られたが、問題の背景では⼤きな違いは⾒られな

い。

また、主訴では少なかった「性被害」が問題の背景においては件数が増えている。「死にたい」と語られ

る思いを詳しく聞き取っていくと、その背景に「性被害」が隠れていることは珍しくなく、性被害やそれ

によるトラウマと⾃殺念慮の関係性は強く感じられる。

公的な相談機関や具体的な直接⽀援が必要と思われる場合でも、相談者の気持ちや状況の整理、「公的機

関に相談する」という決⼼が固まるまでにも時間を要することも珍しくなく、その間のフォローや⽀えの

役割も担う必要がある。

218

167

8263

84

2055 59

11884

183

7648 45

11 2 9 3 4 2 15 23 38 52

3 2

⼼の状態

メンタルヘルス

⾃殺念慮

⾃傷⾏為障がい

健康問題暮らし 対⼈ 仕事 学校 家族 虐待 恋愛

LGBT

妊娠、出産、中絶

ひきこもり

ネットトラブル

犯罪被害 薬物

ストーカー 家出

援助交際性被害 貧困

近況報告その他

933839

624 599491

149 153286

380 382

981

452

66 85 36 52 50 21 33 11 47 99

351

80 16 4

⼼の状態

メンタルヘルス

⾃殺念慮

⾃傷⾏為障がい

健康問題暮らし 対⼈ 仕事 学校 家族 虐待 恋愛

LGBT

妊娠、出産、中絶

ひきこもり

ネットトラブル

犯罪被害 薬物

ストーカー 家出

援助交際性被害 貧困

近況報告その他

Page 11: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

11

(2)⾃殺念慮・⾃傷⾏為

次に、「⾃殺念慮」と「⾃傷⾏為」について取り上げて検討する。

主訴、複数回答を合わせると⾃殺念慮は⾯接相談では91件(32%)、電話相談では801件(5

8%)。⾃傷⾏為は⾯接相談では66件(23%)、電話相談では661件(48%)であった。

同じ「死にたい」という⾔葉でもそこに込められる思いは様々であり、例えば児童期から慢性的⾃殺念

慮を抱えたまま⼤⼈になった⼥性や、失業や精神疾患のため⽣活が破綻しそうになり緊急対応を要してい

る⼥性など、⼀⼈ひとりに合わせた対応が必要である。

⾃傷⾏為については依存度の⾼いと⾔われている市販薬を過量服薬したり、リストカットがエスカレー

トし「もっと切りたいと思っている」という声も届くことがあった。精神科の治療も必要と思われる事例

もあったが、未成年や学⽣の場合は受診に困難が⽣じる場合もあり、それについては P14〜の考察の中

でも改めて述べたい。

(件)

⾯接相談 電話相談

主訴 複数回答 合計 主訴 複数回答 合計 ⾃殺念慮 9 82 91 177 624 801 ⾃傷⾏為 3 63 66 62 599 661

⾯接相談(N=285) 電話相談(N=1378)

Ⅳ 事例 ⾯接相談や電話相談の事例について⽀援内容と関係機関との連携について整理した。なお、記載にあ

たっては、個⼈が特定されないよう⼀部改変している。

ケース1

20代⼥性<失業、⽣活破綻の危機/医療機関、⺠間⽀援団体との連携。役所への同⾏>

⼼⾝の体調を崩し、仕事を休みがちになる。虐待家庭に育ったため家族や親族を頼ることもできず⽣

活困窮状態に陥っていった。bond@あらかわ相談室では⾷料の提供等もしながら関わり続けていたが、退

職したことを機に役所の福祉課へ同⾏し⽣活相談に同席した。本⼈許可のもと、通院している医療機関や

関わりのある⺠間⽀援団体とも連携し、本⼈の⽣活がより落ち着くよう状況を整理し、情報共有を図りな

がら対応した。

Page 12: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

12

ケース2

10代⼥性<妊娠、デート DV/各機関との連携、⾒守り>

妊娠中に交際相⼿から暴⼒を振るわれたと相談が⼊る。妊娠中であるため仕事につけず、家族や交際

相⼿も頼れる状況ではないため、今後の居場所や⾦銭的にも困っていた。

ハイリスクで急を要していたため、各関連機関と連絡をとり官⺠連携体制を取りながら出産やその後の

⽣活についても⾒守っていくこととなった。⼀時的な居場所も必要としていたため、BOND プロジェクト

本部にて緊急⼀時保護も⾏った。関係機関同⼠のケース会議にも出席し、継続して関わっている。

ケース3

20代⼥性<数年ぶりの相談、状況の変化>

bond@あらかわ相談室が開設された当初、⾃殺願望や精神疾患の症状、⼈間関係の悩み等を訴え、相談

に訪れていた⼥性が数年ぶりに来所した。かつて相談に来ていた頃は引きこもりに近い状態でもあった

が、現在はフルタイムの仕事をしており、悩みの内容も仕事に関するものに変化していた。雰囲気も変わ

り、⽣きるエネルギーが感じられるようになっていた。

ケース4

10代⼥性<ひきこもり/メールや電話による相談対応>

学校に在籍はしているが不登校気味であり、⼈間関係や家族関係に悩んでいる。⾃殺念慮もあり。

bond@あらかわ相談室からほど近いところに住んでおり、近隣に⾃宅がある場合は⾯接相談に訪れる事例

がほとんどであるが、この相談者の場合は⾯接相談よりもメールや電話の⽅が気持ちを話しやすいとのこ

とだった。本⼈が話したいときに連絡があるためその都度対応し、継続的に関わっている。

Page 13: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

13

ケース5

10〜20代⼥性<年末年始の居場所提供>

公的機関や相談機関、様々な店舗等が休業となる年末年始は、普段から家族関係に悩んでいたり居場

所に困っている⼈々にとっては更に困窮した状況となる。就労していたり経済的に安定している⼤⼈であ

れば⾦銭でカバーできることもあるだろうが、とりわけ未成年や学⽣など⾦銭的にも困窮している若年者

は路頭に迷ってしまう可能性もある。

また、現在の⽣活は成り⽴っていても家族関係の不和から帰省する実家がなかったり、物寂しい年末年

始の雰囲気から孤独に耐えきれなくなってしまう場合もある。

そこで、本年は 12/30〜1/3 も相談室を開室し、⾯接相談を⾏った。ささやかではあるが年末年始の⾏事

や⾵習を感じてもらえるような取り組みも⾏った。

(活動⾵景:餅を焼いて⾷べながら⾯接相談を⾏った。)

課題があり、今後検討が必要な事例

ケース6

10代⼥性<家出/公的機関や⽀援につなぎづらい事例>

親⼦関係が悪く、家出を繰り返している。仕事も続かず、⽣活に困窮した状態であるが、「どうしても

親と連絡を取りたくない」「どうしても福祉や公的機関には繋いで欲しくない」と本⼈の意思が頑なであ

る。⼼⾝共に体調不良が⾒られるため医療機関の受診も必要と考えるが、連絡が途絶えることも多く、本

⼈が望むときに⾷料を取りに来ている現状である。

今後、本⼈の意思を尊重しながらではあるが、⽀援を必要とするようであれば具体的な計画を組んで

いくことが望ましいと考える。

Page 14: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

14

ケース7

10〜20代⼥性<他機関、他団体からの紹介で bond@あらかわ相談室に繋がった事例>

本年度は役所や就労サポートセンターなどから紹介を受け、bond@あらかわ相談室に繋がった事例も

複数あった。出張⾯談に出向くなど相談者と会いやすい環境を作ることに努めたが、現時点では継続した

相談には⾄っていない。

過去の事例を振り返ると、相談に⾄るまでに時間を要する場合も珍しくなく、本⼈が必要としたタイミ

ングで相談を受けられるよう相談体制を継続させていきたい。相談先を記載したカードも⼿渡している

が、何か困ったことがあった時に相談できるよう、情報を伝えていくことも重要である。

Ⅴ 考察 若年層の抱える問題の背景や⾃殺リスクの要因について考察を⾏った。背景、要因の分類については、

下記の【表1】を利⽤した。

【表1】⾃殺のリスク要因の分類

⼤分類 ⼩分類

【家庭問題】

親⼦関係の不和、夫婦関係の不和、その他家庭関係の不和、家族の死亡、

家族の将来悲観、家族からのしつけ・叱責

⼦育ての悩み、DV、被虐待、介護・看病疲れ、その他

【健康問題】 ⾝体の病気への悩み、精神疾患への悩み、⾝体障害への悩み、治療関係の悩み、その他

⾃殺未遂歴、アルコール依存、★妊娠中絶、★性別に関する悩み

【勤務問題】 仕事の失敗、職場の⼈間関係、職場環境の変化、仕事疲れ、その他

【経済・⽣活

問題】

倒産、事業不振、失業、就職失敗、⽣活苦、負債(多重債務)、負債(連帯保証責務)

負債(その他)、借⾦の取り⽴て苦、⾃殺による保険⾦⽀給、相続に関する悩み、その他

【恋愛問題】 結婚をめぐる悩み、失恋、不倫の悩み、★デート DV、その他交際をめぐる悩み、その他

【学校問題】 ⼊試に関する悩み、その他進路に関する悩み、学業不振、教師との⼈間関係、いじめ、

その他学友との不和、その他

【その他】 犯罪発覚等、犯罪被害、★性被害、後追い、孤独感、近隣関係、その他

出典「荒川区⾃殺未遂調査研究事業報告書『⾃殺未遂に⾄った背景要因』」

【表1】の⼩分類における「★」がついた項⽬は若年⼥性が抱えやすい問題として BONDプロジェクト

が独⾃に加えたものである。

Page 15: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

15

なお、⼤分類の「恋愛問題」については元のデータでは「男⼥問題」と表記されていたが、男⼥に限ら

ず多様な性があるため、書き換えた。

1 家庭問題(複数回答/件) ⾯接相談(N=285)電話相談(N=1378)

⾯接相談、電話相談とも「親⼦関係の不和」が最も多かった。複数回答であるため、「被虐待」を併せ

ている事例も含まれる。「親⼦関係の不和」としては「親が話を聞いてくれない」「わかってくれない」

「否定される」などの声もあり、親に対して⼼を閉ざしていたり、交流が上⼿くいっていない事例が多数

あった。家庭問題についてはほとんどの事例において何らかの形で背景要因になっていると思われる。現

在虐待を受けているなど、緊急度の⾼い場合は保護や同⾏⽀援、他機関との連携対応を⾏うが、「家族か

らのしつけ・叱責」により「家に帰りたくない、家出したい」と語られる場合もあり、事情や状況はしっ

かり聞き取りをした上で、本⼈の気持ちを吐き出せるよう傾聴に努め、⾃宅に戻るよう促した事例もあっ

た。

「親⼦関係の不和」「被虐待」と「家族からのしつけ・叱責」も含め、「家を出たい」という相談は

BOND プロジェクト全体としても増加しているため、⼗分なアセスメントを⾏い、本⼈とも話し合いを重

ねながら⼀⼈ひとりに合わせた対応をしていく必要がある。

また、件数としては少ないが、数年にわたり継続的に相談活動を⾏なっているため、相談者たちが⼦供

を産み、親となり、⼦育てについての相談も増加傾向にある。

192

6 44 0 1 46 3 874

7 21

836

25171

763

18823 24

485

1694

0100200300400500600700800900

親⼦関係の不和

夫婦関係の不和

その他家庭関係の不和

家族の死亡

家族の将来悲観

家族からのしつけ・叱責

⼦育ての悩み DV被虐待

介護・看病疲れその他

⾯談 電話

Page 16: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

16

2 健康問題(複数回答/件) ⾯接相談(N=285)電話相談(N=1378)

⾯接相談、電話相談とも「精神疾患への悩み」が最も多く、「その他」が次に多かった。「その他」の

中にはリストカットや過量服薬などの⾃傷⾏為も含まれ、同じ⾃傷⾏為でも⾃殺の意図を含むものとは区

別した。「死ぬつもりはないけど、楽になりたくて⾃傷⾏為をした」という声も多く寄せられている。

また、P11 の(2)⾃殺念慮・⾃傷⾏為の箇所で、特に未成年や学⽣の場合は病院に⾏きたくても困難

が⽣じる場合があると述べたが、その理由としては親との関係が挙げられる。とりわけ精神科やメンタル

クリニックとなると親が通院の不必要性を訴える、受診させないなど、本⼈が希望していても妨げられて

しまう場合もあり、⾃⼒で病院に⾏こうとしても保険証を親が管理しているため持ち出せなかったり、⾏

った先の病院からも保護者を連れてくるように⾔われてしまう場合も珍しくない。

⼀⽅、「⻑年精神科に通院しているが症状が改善されない」「治療を受けるのが⾟い」などの相談もあ

り、精神科医療だけではない他の関わり⽅やサポートも必要であると考える。

荒川区の様式に従い、「必要と考えられる社会資源」についても集計したが、「精神科・⼼療内科」が必

要と思われる事例が圧倒的に多かった。(すでに医療に繋がっているケースも、上記に⽰したような受診

に⾄っていないケースもどちらも含まれている。)

「電話相談」による継続⽀援が必要な事例も多く、暴⼒や虐待からの保護が必要であったり、暮らす場

所に困っているなど、具体的な相談になると児童相談所や福祉事務所、⼥性相談センターも関連してくる

が、ここに挙がっている社会資源だけではなく、若年世代向けの⽀援や場所も増えることが望ましいと考

える。具体的な例については後に記述する「経済・⽣活問題」の箇所でも案を述べたいと思う。

20143

3 32 899 2 15 36

116

879

36

256

420

228

24 50 69

0

200

400

600

800

1000

⾝体の病気への悩み

精神疾患への悩み

⾝体障害の悩み

治療関係の悩みその他

⾃殺未遂歴

アルコール依存

妊娠中絶

性別に関する悩み

⾯談 電話

Page 17: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

17

必要と考えられる社会資源(複数回答/件) ⾯接相談(N=285)電話相談(N=1378)

3 勤務問題(複数回答/件) ⾯接相談(N=285)電話相談(N=1378)

⾯接相談では「その他」が最も多く、電話相談では「職場の⼈間関係」が最多であった。「その他」に

は雇⽤形態に関することや求職・転職についての悩みも含まれる。現状は⾮正規雇⽤で働いているが、

「正社員になりたい」という気持ちが強く、転職活動をしてもうまくいかないといった相談や、フルタイ

175

15 38 44 37 12 20 11 28 42 30 2 13 0 8 37

970

86 59 59

16188 100

41

188

526

40 5 29 1 37 65

0

200

400

600

800

1000

1200

精神科・⼼療内科⾝体科 役所

保健所

福祉事務所

精神保健福祉センター

児童相談所

⼦ども家庭⽀援センター

⼥性相談センター

電話相談機関

公共職業安定所

法律相談

弁護⼠など

消費⽣活センター 警察その他

⾯談 電話相談

21

54

19

517175

208

46

130

191

0

50

100

150

200

250

仕事の失敗 職場の⼈間関係 職場環境の変化 仕事疲れ その他

⾯談 電話

Page 18: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

18

ムで働いている周囲の友⼈等と⾃分⾃⾝の現状を⽐較してしまい、⾃分の置かれた状況を受け⽌めること

ができずに苦しんでいる事例もあった。

「職場の⼈間関係」については上司や先輩など上役との関係や嫌なことを⾔われたなどの話も多かっ

たが、中にはパワハラに当たるような⾔葉や扱いを受けていたり、職場内でのトラブルに巻き込まれてお

り、総合労働相談コーナーや司法書⼠会の相談会について情報提供を⾏った事例もあった。

4 経済・⽣活問題(複数回答/件) ⾯接相談(N=285)電話相談(N=1378)

⾯接相談では「⽣活苦」が最も多く、「その他」が2番⽬に多かった。電話相談でも「その他」と「⽣

活苦」が上位2位を占めている。「その他」には「暮らす場所がない・失いそう・不安定」など、⽣活拠

点に関する相談が多く含まれている。福祉事務所に繋がり、単⾝⽣活保護を受けている相談者もいるが、

受給が始まり、「何もすることがない」状態が続くことで新たな問題が⽣じているケースもある。2の健

康問題の箇所では若年世代向けの社会資源が増えると良いと述べたが、例えば⽇中に通えたり、居場所と

なるようなところとして若年層向けのデイケア等があると良いのではないかと考える。現存のデイケアや

福祉施設の多くは若年向けに特化されたものではなく、そのイメージからも本⼈が通うことに抵抗を⽰す

場合もある。体調を考慮し治療や療養が必要な場合もあるが、担当ワーカー等の訪問回数も⼗分ではな

く、何もすることがなく⼀⼈で過ごす時間は考え込んだり⾃殺念慮に繋がることも予想できる。

0 0 8 9

61

0 0 5 1 0 1

38

1 016

1

98

0 1 8 1 0 1

102

020406080

100120

倒産

事業不振 失業

就職失敗⽣活苦

負債(多重責務)

負債(連帯保障責務)

負債(その他)

借⾦の取り⽴て苦

⾃殺による保険⾦⽀給

相続に関する悩みその他

⾯談 電話

Page 19: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

19

5 恋愛問題(複数回答/件) ⾯接相談(N=285)電話相談(N=1378)

⾯接相談では「その他」が最も多く、次いで「その他交際をめぐる悩み」であった。電話相談では

「その他交際をめぐる悩み」が最も多く、次いで「その他」だった。「その他」には交際関係にはないが

恋愛感情がある、あるいは持たれている相⼿との関係に悩む事例も⾒られた。

恋愛問題については全体として件数は多くはないが、P11 のケース2で取り上げたデート DV の事例

など、緊急対応を要する場合もあった。

6 学校問題(複数回答/件) ⾯接相談(N=285)電話相談(N=1378)

59

0

9

30 32

912

2

18

38

28

05

10152025303540

結婚をめぐる悩み 失恋

不倫の悩み

デートDV

その他交際をめぐる悩みその他

⾯談 電話

325 19 17 12

30 3011

71 71

117

36

136

201

0

50

100

150

200

250

⼊試に関する悩み

その他進路に関する悩み

学業不振

教師との⼈間関係いじめ

その他学友との不和その他

⾯談 電話

Page 20: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

20

⾯接相談においては「その他学友との不和」「その他」が同⼀件数で最も多く、電話相談では「その

他」最多、次いで「その他学友との不和」であった。「その他」には学校に⾏きたくない気持ちや不登

校、退学を検討している声もあった。

「教師との⼈間関係」については中には深刻なものもあり、かつて教師からセクハラやストーカー⾏為

を受け、トラウマや希死念慮に苦しんでいるという事例もあった。教師等の⽴場を利⽤し、若年⼥性に近

づき性的な危害等を加える者が紛れ込んでいると感じる事例も全体として増加傾向にある。

7 その他(複数回答/件) ⾯接相談(N=285)電話相談(N=1378)

⾯接相談でも電話相談でも「孤独感」が最も多く、次いで「性被害」であった。寂しさを訴えたり、根

底に孤独を抱えている事例は⾮常に多く、感情を⾃分でコントロールできないほどの強い寂しさを抱えて

いたり、寂しさの感情に⾏動を振り回されてしまうことについて悩んでいる相談も頻繁に届いている。

「性被害」については P10でも触れたが、⾃殺念慮に強い影響がある。トラウマやフラッシュバック

に苦しみ、⽇常⽣活にも⽀障をきたしている例も少なくなく、解離性障害等の精神疾患を有している場合

や、不安定な精神状態や⽣活の中で繰り返し被害を受けてしまう事例もあった。

Ⅵ 成果と課題 1 成果

・本年度は⼦ども家庭⽀援センター、⼦育て⽀援課、保健所等区内の各機関と連携を取りながら対応し

た事例や機会が多く、相談者もハイリスクな状況にあったり、緊急対応を要する場合もあった。BOND プ

ロジェクト本部での対応を含めると様々な⾃治体と連携をとることもあるが、スムーズにいかなかったり

0 447

0

126

5 105 8

369

0

649

374

0

100

200

300

400

500

600

700

犯罪発覚等 犯罪被害 性被害 後追い 孤独感 近隣関係 その他

⾯談 電話

Page 21: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

21

困難を感じる場合もある。しかし、本事業も5年⽬を迎えたこともあり、荒川区とは信頼関係を築けた上

で情報共有を⾏ったり、⽀援⽅法を検討し、実際に対応していくことができた。引き続き⾒守りや対応は

必要ではあるが、ハイリスクな状況にあった相談者の安全を守ることができ、⽀援者同⼠も頻繁に連絡を

取り合ったり、定期的にケース検討会も開くなど、様々な⽀援者が関わりながらチームのように⼀⼈ひと

りの相談者を⾒守ることができた。

また、社会福祉協議会のフードバンクから⾷品提供を受け、⽣活困窮状態にある相談者たちに⾷事や保

存⾷を供給することができた。⼗分な⾷事が取れていないため精神状態にも影響が出ていたり、⾷品提供

を必要とする事例も年々増加している。P11〜14 の事例にも記載したが、「ケース1」「ケース5」「ケー

ス6」は代表的な例である。社会福祉協議会との連携により⼿厚い⽀援ができるようになった。

・若年世代にとって相談しやすいツールは SNS であるという認識は広まりつつあり、LINE による相談

を受ける機関や団体も増加している。BOND プロジェクト本部でも昨年3⽉から SNS による相談対応や

web 上のパトロールを⾏ってきており、荒川区⺠からも LINE の相談が届いている。

しかし、SNS での相談は敷居が低く⼊り⼝としては適しているが、詳しい状況を知るには電話や⾯接に

よる聞き取りも⽋かせない。安全な場所で保護をしたり、専⾨機関や公的機関に同⾏するためには情報や

状況の把握ができていなければ対応することが難しくなる。bond@あらかわ相談室では電話や⾯接相談に

よる丁寧な聞き取りを⾏っているため、保護や同⾏⽀援が必要な際も臨機応変に動くことができ、包括的

な⽀援の⼀部を担うことができたと考える。

2 課題

・相談者はリピーターも多く、定期的に⾯談に訪れるなど、bond@あらかわ相談室が⼼の居場所とな

っていると感じられる事例は多数ある。ただし、そこに留まらず⽀援を必要としながらも未だ⽀援に繋が

れていない若年者に対してもアウトリーチしたり、コミュニケーションを取りながら積極的に働きかけ、

新規の電話相談や⾯接相談も受けられるようにしていきたい。

・背景に虐待等がある家出や、暮らす場所に困っているという相談が増加傾向にあるため、従来のよう

に児童相談所や⼥性相談センター等への同⾏⽀援も⾏っていくが、公的⽀援の対象から漏れてしまう事例

も多々あるため、中⻑期的な⽣活の拠点となる居場所の拡⼤や受け⼊れ体制の整備も⾏っていく必要があ

る。

Ⅴの考察の中で若年世代向きの社会資源が増えることが望ましいと述べたが、⼥性相談センターのシェ

ルターも若年向きの施設運営になっておらず、中には相談や⼊所に抵抗があったり、不調をきたしてしま

うという声もあったため、⺠間の規模ではあるがシェルターの整備も⾏っていきたい。

Page 22: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

22

Ⅶ 講評

⾃殺総合対策推進センター⻑

本橋 豊⽒

Bond Project@あらかわは、若年世代を対象とした⾃殺予防相談事業である。⾃殺念慮を訴える者は⾯談

相談では 32%、電話相談では 58%という⾼い率であり、悩みを訴える若年世代の「死にたい」という⾔葉

の裏に潜む相談者の思いにこのプロジェクトが真摯に応えていることが実感される。Bond プロジェクト

は若い⼥の⼦のための⽀援を⾏う団体ということもあり、相談者の⼤半は若い⼥性である。Bond Project@

あらかわが関わっている対象者の属性を⾒ると、荒川区の若年⼥性の悩みに対する重要な受け⽫としてこ

の事業が機能しているという実情がよく分かる。平成 30 年 4 ⽉〜平成 31 年 3 ⽉までの⼀年間で 1,378 件

の電話相談と 285 件の⾯談を精⼒的に⾏ってきており、その社会背景要因を分析するのに耐えられるデー

タの蓄積があることは重要である。例えば、⾯接相談では「家族の内容」が最も多く、電話相談では「⼼の

状態」や「⾃殺念慮」が相談内容として多いというような事実も具体的取り組みに資する貴重な分析結果

である。若い⼈は電話や⾯談より SNS による相談のほうが相談しやすいと⼀般に⾔われているが、相談者

と被相談者の信頼関係を上⼿く醸成できれば、電話や⾯談は SNS 以上に相談者の悩みに寄り添うことがで

きるという可能性を分析結果は⽰している。また、主訴では少ないが「性被害」が問題の背景において件

数が増えているという指摘もきわめて重要である。「性被害」はきわめて相談しづらい内容であり、相談者

と被相談者の信頼関係がある程度できないと聞き取りにくい内容であることから、通り⼀遍の相談では⾒

逃される可能性がある。若い⼥性の深刻な悩みの背景にある真実を把握し、このような微妙な問題に的確

に対応していくためのノウハウを Bond プロジェクトが有していることが背景にあるものと推測される。

⾃殺や⾃殺念慮の背景に潜む問題は複雑かつ多様であり、単純化することなく問題の絡まった⽷をほぐし

ていくことが⼤切である。本報告で⽰されたこのような貴重な報告が今後の若年⼥性の相談に⽣かされる

ことを切望するものである。同時に Bond プロジェクトが有している様々なノウハウが、同様の事業を全

国に広げていく際に適切に関係者に共有できる仕組みを作っていく必要があるだろうと思われる。これは

今後の課題である。

最後に、Bond Project@あらかわの⽰す先駆的活動として、若年⼥性の居場所提供や関係機関との適切な

連携の重要性について触れることにしたい。若者の⾃殺対策においては、電話、⾯談、SNS などによる様々

な相談⽀援の具体的活動が重要であるが、⼀⽅で悩みを抱えた若者の相談を「聞く」ということだけでな

く、相談者が抱えている困難を具体的に解決するための「場」につなげることも⼤切である。悩みを聞く

だけでなく、相談の時点で居場所のない若者に居場所を提供することは何にも増して求められることであ

る。「ボンドのイエ」は 10 代 20 代の⼥の⼦のための⾃⽴準備のための家であり、「困難を抱え、帰る場所

がない⼥の⼦たちの『今』を⾒守り、⾃分のために歩み出す『⼀歩』を⽀える」という具体的な物的資源で

ある。このような具体的な家を提供できることが悩みを抱える⼥の⼦にとってどれだけ⼼強いことかは容

易に理解できる。このような先駆的な居場所づくりの取組が全国的に広がっていくことが望まれる。現在、

Page 23: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

23

国は若者の⾃殺対策の推進において居場所が⾃殺対策に果たす役割を重視しており、居場所づくりに関す

る対策の推進が⾃殺総合対策にとっても喫緊の課題となっている。Bond Project@あらかわの居場所づくり

の活動事例は今後の⾃殺対策における居場所づくり活動の好事例として参照されることになると思われ

る。そのような意味で、Bond Project@あらかわのますますの発展が望まれる。

Page 24: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

24

[資料]

「ボンドのイエ」について

1 概要

10 代 20 代の⼥の⼦のための⾃⽴準備のための家。「困難を抱え、帰る場所がない⼥の⼦ たちの『今』

を⾒守り、⾃分のために歩み出す『⼀歩』を⽀える。」という理念のもと、平成29年7⽉に始動。居場所

がない、お⾦がない、公的⽀援の対象となりにくいなど、困難な状況にあるが、⾃⽴を⽬指したい⼥の⼦

を主な⼊居の対象とする。

共同⽣活の最低限のルールのみを設け、⼊居のしやすさ、⽣活のしやすさを重視。携帯電話やスマートフ

ォンの使⽤も可能としている。

2 ボンドのイエで提供するもの

・安⼼できる⽣活(⾐⾷住)

・⽣活習慣の獲得(料理・洗濯・掃除・お⾵呂の⼊り⽅・⾷べ⽅)

・⼼のケア(ボンドスタッフ、臨床⼼理⼠らによる)

・つながりを増やす(他の⽀援機関、⽀援者の紹介)

・⾃⽴へのサポート(仕事探し、家探し、⾃⽴計画など)

3 課題

「ボンドのイエ」の定員は2名であり、部屋数が不⾜している。居場所や⽣活拠点を必要とする相談が

後を絶えないため、受け⼊れ体制を整えていく必要がある。

「ボンドのイエ」の内観(左:キッチン・ダイニング 右:リビング)

Page 25: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数
Page 26: 荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書 …bondproject.sakura.ne.jp/sblo_files/bondkatsudou/image/E...2「bond Project@あらかわ」の相談件数

「荒川区における若年世代の⾃殺予防相談事業報告書」30年度版

平成31年4⽉発⾏ 登録(30)0005 【発⾏者】 荒川区福祉部障害者福祉課 〒116−8501 東京都荒川区荒川2−2−3 電話 03(3802)3111 内線2378 【調査研究委託機関】 NPO 法⼈ bond Project 〒116−0013 東京都荒川区⻄⽇暮⾥2−18−3 ⽇暮⾥駅前ツインビル6F 電話 03(6458)3773