金利の期間構造モデルによる景気一致指数の予測...

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ESRI Discussion Paper Series No.251 モデルによる -アフィン マクロ・ファイナンスモデルによる - October 2010 Economic and Social Research Institute Cabinet Office Tokyo, Japan

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Page 1: 金利の期間構造モデルによる景気一致指数の予測 -アフィン型マクロ・ファイナンスモデルによる … · つという特徴を利用して、アフィン型の金利の期間構造モデルによる景気一致指数の予

ESRI Discussion Paper Series No.251

金利の期間構造モデルによる景気一致指数の予測

-アフィン型マクロ・ファイナンスモデルによる接近-

市川 達夫、飯星 博邦

October 2010

内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute

Cabinet Office Tokyo, Japan

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ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図して発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見解を示すものではありません。

The views expressed in “ESRI Discussion Papers” are those of the authors and not those

of the Economic and Social Research Institute, the Cabinet Office, or the Government of Japan.

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金利の期間構造モデルによる景気一致指数の予測

-アフィン型マクロ・ファイナンスモデルによる接近- ∗

市川 達夫 † 飯星 博邦 ‡

概要

本研究では、長短スプレッドが景気循環に対して約 24ヶ月の先行した周期性をも

つという特徴を利用して、アフィン型の金利の期間構造モデルによる景気一致指数の予

測モデルの提案と評価をおこなう。そのために Ang, Piazzesi, and Wei (2006)のマクロ・

ファイナンスモデルを改良し、これに Valle e Azevedo, Koopman and Rua (2006)が提案

した位相偏移をもつ多変量バンドパスフィルターを取り込こんだ予測モデルを提案する。

Ang et al. (2006)の手法は VAR(1)モデルを利用した予測法であり短期の予測には適し

ているが長期の予測には適していない。これに対し本研究が提案する手法はマクロ経済

変数がもつ周期性と変数間のサイクルのズレ (位相偏移)を利用した予測法を採用する

ことで、1~2年先の長期予測には適している。日本における景気一致指数 (月次データ)

で検証した結果、12~24ヶ月先の長期予測では本研究で提案する予測モデルは、より一

層の予測精度の向上が図れることが判明した。注目すべき点は OLS推定での一致指数

の 12~24ヶ月先の長期予測では長短金利差の係数は負になるがマクロ・ファイナンスモ

デルでは正になることである。

∗本稿の元となった研究報告は、2010年 2月での内閣府経済社会総合研究所景気統計部の「景気動向指数の

改善に関する研究会」において、杉原茂氏、小堀厚司氏、小巻泰之氏、福田慎一氏、村澤康友氏、山澤成康生

氏、渡部敏明氏、また同年 6月の ESRIセミナーと 9月の日本経済学会秋季大会 (関西学院大学)では岩田一政

所長、矢野浩一氏、本多祐三氏、大屋幸輔氏ならびに同研究会、セミナー、学会の参加者より貴重なコメント

を頂いた。記して感謝する。なお、本稿に示されている意見は、筆者たち個人に属し、所属機関の公式見解を

示すものではない。またありうべき誤りはすべて筆者たち個人に属する。†モルガン・スタンレー MUFG証券株式会社/首都大学東京‡首都大学東京 大学院 社会科学研究科

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Forecasting of Coincident Composite Index from anAffine Term Structure Model: A Macro-Finance

Approach

Tatsuo Ichikawa

Morgan Stanley MUFG Securities Co., Ltd. / Graduate School of Social

Science, Tokyo Metropolitan University

Hirokuni Iiboshi

Graduate School of Social Science, Tokyo Metropolitan University

Abstract

In this paper, we propose and evaluate the forecasting model of Coincident Composite Index

(CCI) using Affine Term Structure Model of interest rates that consider the tendency of term

spread leading business cycle by approximately 24 months. Our forecasting model modi-

fied the macro finance model introduced by Ang, Piazzesi and Wei (2006) by incorporating

multivariate Bandfilter with phase shift, introduced by Valle e Azevedo, Koopman and Rua

(2006). The forecasting method of Ang e al. (2006) is VAR(1) and is suited of short term

forecasts but not for long term forecasts. On the other hand, our model is suited for 1-2 year

forward forecasts as we consider the phase shift between the cyclicality in the macro factors

and variables. The empirical results using monthly CCI data shows our model dramatically

improves accuracy in 12-24 month ahead forecasts. We also note that the CCI forecasting

using the OLS estimation in 12-24 months ahead shows the coefficient of term spread is neg-

ative, but the macro finance model gives positive coefficient. It induces to the big difference

of performance of forecasting between macro-finance models and OLS.

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1 はじめに

金利の期間構造あるいはイールドカーブと景気循環の関係について多くの実証研究

がなされており、それらの多くは金利の期間構造が景気予測に有用な情報を有すること

を報告している。欧米の実証研究では、イールドカーブの勾配に該当する長短金利差

(スプレッド)の現在の値から将来の GDP成長率を回帰分析する研究が盛んに行われて

いる。例えば、この代表的なものとして、Estrella and Hardouvelis (1991)や Estrella and

Mishikin (1997), Estrella and Mishikin (1998), Hamilton and Kim (2002)などがあげられ

る。彼らの研究から現在の長短スプレッドの拡大が将来のGDPの成長率の上昇をもたら

すことがわかってきている。また、Estrella and Hardouvelis (1991)とEstrella and Mishikin

(1998)は、米国において長短スプレッドが景気後退期の予測にも有用な情報を有してい

ることをプロビットモデルなどの 2項モデルを利用して示している。

日本における実証研究には、例えば、Hirata and Ueda (1998) や Nakaota(2005)、高

岡・藤井 (2010)がある。Hirata and Ueda (1998)は 1987年から 1997年までのスプレッ

ドの GDP成長率に対する予測力を検証している。彼らによると一定の予測力はあるが

米国ほどではないことを報告している。また、Nakaota(2005)は、現在のスプレッドと

将来の GDP成長率の関係に 1991年 7月に構造変化があったこと、さらにスプレッドを

短期金利の期待値の変化分とプレミアムリスクに分離し前者の中に将来の GDPの成長

率に関する情報が含まれていることを報告している。高岡・藤井 (2010)は Nelson and

Siegel (1987)のモデルを使いイールドを水準、勾配、曲率の 3つの因子を分解して、こ

れらの因子を説明変数として 2項モデルから将来の GDP成長率を予測した。その結果、

水準には景気予測に関する情報は含まれていないが、勾配 (長短スプレッド)の拡大は

24ヶ月程度までの景気拡大と関係があることが報告された。

このように、欧米や日本における先行研究から、将来の経済成長率と現在のイール

ドの長短スプレッドの間には頑健な正の相関関係があることが実証されている。しかし、

経済成長の因子であるトレンド成分を除いた景気循環 (サイクル)成分と長短スプレッド

との間の関係はどうであろうか。先行研究は主に GDPの成長率に対して行われ四半期

データを利用していたが、本研究では、月次データである景気一致指数に焦点をあて、

このデータから日本における景気循環と金利の期間構造の関係を考察することにしたい。

まず、時系列分析の観点から、景気一致指数 (一致 CI)と長短スプレッドの関係を見て

みよう。図 1(a)のように、飯星 (2010)により、1980年 1月から 2010年 5月までの景気

一致指数と長短金利差の月次データから多変量バンドパスフィルタを使って推定したと

ころ、景気拡張期にはスプレッドは拡大し後退期には縮小することが示された。これを

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イメージとして示せば、図 1(b)のように長短金利差は景気一致指数のサイクルより周

期が 1/4程度 (約 23~27ヶ月)ほど先行している正のサイクルを有することを意味する。

この推定結果は先にあげた高岡・藤井 (2010)の「長短スプレッドの拡大が 24ヶ月程度

までの景気拡大と関係がある」とする報告と整合するものである。本研究の特色のひと

つは、景気一致指数と長短スプレッドの 2つの変数間が同一の周期性をもち、単にそれ

らのサイクルの位相がずれているだけだと想定し、その位相のずれた長さ (位相偏移)か

ら景気循環を予測しようというものである。

さらに本研究のもう一つの特色は、景気一致指数の予測をマクロ-ファイナンスから

アプローチするという点である。Ang and Piaszzeki (2003)から始まった金利の期間構造

モデルとマクロ経済変数の関係を分析するマクロ-ファイナンスモデルの研究は、現在、

脚光を浴びているところである。特に彼らのマクロ-ファイナンスモデルで注目すべき

は、金利の期間構造モデルとしてアフィン型モデルを利用していることである。従来、

採用されてきた Vasicekモデルや CIRモデルが 2因子モデルであったのに対して、ア

フィン型モデルは因子数の制約がなく、さらにイールドと因子の関係を線形モデルで扱

えるという特徴があり、この因子の中にマクロ変数を組み込むというマクロ-ファイナン

ス分析にとっては核をなすモデルである。アフィン型モデルを利用したマクロ-ファイナ

スの研究としては、例えば、Dewatcher and Lyrio (2006)がある。彼らはドイツのイール

ドとマクロ経済変数からカルマンフィルタを使ってアフィン型金利の期間構造モデルを

推定したところ、イールドカーブの「水準 (level)」は長期インフレ率に、「勾配 (slope)」

は景気循環に、「曲率 (curvature)」は金融政策にそれぞれ依存することを報告している。

(図 2を参照)

このアフィン型モデルを利用して、金融市場の無裁定条件により導出された長短スプ

レッドの理論値から将来の GDP成長率の予測力を検証している研究が、Ang, Piazzesi,

and Wei (2006)である。本研究は、米国の四半期データを利用しているAng, Piazzesi, and

Wei (2006)のマクロ-ファイナンスの研究を基盤として、この手法による日本の月次デー

タへの応用を試みるものである。さらに、本研究では彼らの手法に上で述べた長短スプ

レッドのサイクルが景気循環のサイクルより先行しているという位相偏移の統計的性質

を織り込むことで、予測力が向上するのかを検証する。このために、Ang, Piazzesi, and

Wei (2006) のマクロ-ファイナンスモデルを改良し、これに Valle e Azevedo, Koopman

and Rua (2006)が提案した位相偏移をもつ多変量バンドパスフィルタを取り込こんだ予

測モデルを提案しこのモデルの予測力を評価することとする。

ここで、本論で示される検証結果を簡単にまとめておこう。Ang, Piazzesi, and Wei

(2006)の研究では長短スプレッドが有する将来の GDP成長率の予測力を否定的に捉え

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る検証結果であったが、本研究では、長短スプレッドは短期における予測力はほとんど

ないに等しいが、長期の景気循環の予測力は高いことが検証された。というのも、図 1

のように長短スプレッドは景気一致指数に対して 23から 27ヶ月程度の先行する周期性

を有しているからである。これは、2つの系列の直近の値の相関係数は著しく低いが、

景気一致指数の 24ヶ月先の将来の値と長短金利差の現在の値とは高い相関性を持つこと

を意味する。このような結果の相違が生じる理由は、Ang, Piazzesi, and Wei (2006)の手

法では VAR(1)モデルを利用した予測法であり、短期の予測には適しているが長期の予

測には適していないからだと思われる。これに対し、本研究が提案する手法はマクロ経

済変数がもつ周期性に着目し、2つの変数間のサイクルの先行性・遅行性を位相偏移と

いう尺度で計測し、これを彼らの予測法に織り込むことで、18ヶ月から 24ヶ月先の長

期予測には適しているからだと思われる。また、本研究で注目すべき検証結果は、OLS

推定での 12~24ヶ月先の景気一致指数の長期予測では長短スプレッドを説明変数にし

た場合、この係数は負になるが、マクロ・ファイナンスモデルでは正になる点である。

日本におけるマクロ-ファイナンスの研究は多くない。たとえば、Oda and Ueda

(2007)や Ichiue and Ueno (2006)などがあるが、著者の知る限り、本研究のように金利

の期間構造から景気循環の予測力を行う研究は皆無であろう。ここでは本論に進む前に

見通しを良くする為、本研究に先立つ 2つの先行研究について概説しておこう。一つは

前出したAng, Piazzesi, and Wei (2006)のマクロ-ファイナンスモデルによるGDP成長率

の予測モデルであり、もう一つは、モデルベースの単変量バンドパスフィルターモデル

である一般化バターワースフィルタである。本論で見る多変量バンドパスモデルは、こ

れを拡張したものである。

(1)マクロファイナンスモデルによる GDP成長率の予測 (Ang, Piazzesi, and Wei, 2006)

Ang, Piazzesi, and Wei (2006)は、金利の期間構造が将来の実質 GDPの成長率に対して

どの程度の予測力を有するのかを、アフィンモデルから推定した。その結果は、 「実

質 GDPの成長率」の予測力を持っているのは、「長短金利差 (Term Spread) y(n)t − y

(1)t 」

ではなく、「短期金利 y(1)t 」であることを指摘している。これは従来の実証研究の報告

とは反対の実証結果である。

Ang, Piazzesi, and Wei (2006)は、彼らの実証結果の理由を次のように説明している。

「長短金利差 (Term Spread) y(n)t − y

(1)t 」は、以下の式のように EH-spread (EH:期待仮

説)とリスクプレミアムに分離できる。

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y(n)t − y

(1)t = Et

[1n

n−1∑i=0

y(1)t+i

]− y

(1)t︸ ︷︷ ︸

EH−spread

+ y(n) − Et

[1n

n−1∑i=0

y(1)t+i

]︸ ︷︷ ︸

Risk Premium

, (1.1)

さらに、短期金利 y(1)t は EH-spreadと高い相関をもつ一方で、長短金利差 y

(n)t − y

(1)t は

リスクプレミアムと高い相関をもつことが言われている。したがって、彼らの実証結果

から導き出したインプリケーションは EH-spreadは実質 GDP成長率に対して予測力を

もっているのに対して、リスクプレミアムには予測力がないということである。

なお、期待仮説 (Expectation Hypothesis ) とは、以下の数式が成り立つとするもの

である。

y(n)t = Et

[1n

n−1∑i=0

y(1)t+i

]ここで、y

(n)t は満期が n期のイールドであり、このイールドはちょうど 1期から n期ま

での各期のフォワードレート Et[y(1)t+i]の平均となっている。(図 3を参照 ) たとえば、

Dai and Singleton (2002)はアフィンモデルを使ってこの期待仮説が成立しない理由をリ

スクプレミアムに求めている。

(2) 一般化バターワースフィルタ (Harvey and Trimbur, 2003)

Harvey and Trimbur (2003)は、Gomez(2001)のバターワースフィルタの利点を生かし、

カルマンフィルターと最尤法を採用したHarvey and Jaeger (1993)のモデルを拡張するこ

とで、時系列モデルの観点から解釈可能な一般化バターワースフィルタを提案した。こ

の一般化バターワースフィルタは、次数 (m,l)をもつ構造時系列 (Structural Time Series)

モデルであり、以下のような (1.2), (1.3), (1.4)から構成される。

(1) 観測方程式

yt = τ(m)t + c

(l)t + εt, εt ∼ N(0, σ2

ε), (1.2)

(2) 確率トレンドモデル (Lowpass Filter)

τ(1)t = τ

(1)t−1 + ηt, τ

(i)t = τ

(i)t−1 + τ

(i−1)t−1 , ηt ∼ N(0, σ2

η), i = 1, 2, · · · ,m, (1.3)

(3) 確率サイクルモデル (Bandpass Filter) c(1)t

c∗(1)t

= ρ

cos λc sinλc

− sinλc cos λc

c(1)t−1

c∗(1)t−1

+

κt

κ∗t

, κt, κ∗t ∼ N(0, σ2

κ)

c(j)t

c∗(j)t

= ρ

cos λc sinλc

− sinλc cos λc

c(j)t−1

c∗(j)t−1

+

c(j−1)t−1

c∗(j−1)t−1

, j = 2, · · · , l. (1.4)

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ここで、ytは観測されるマクロ経済変数の時系列データである。他方で、τ(m)t , c

(l)t , c

∗(l)t

は潜在変数であり、τ(m)t はm次のトレンドであり、c

(l)t は l次のサイクルである。また

c∗(l)t はこれと対をなすサイクル因子であり、cl

tと比較して π/2ラジアン (90度)の大き

さの位相偏移をもつ (すなわち、c∗(l)t は先行している)。ρは振幅の減衰速度、 λc は周

波数を表す。(したがって、 2π/λc は周期をあらわす。)

確率トレンドモデルの式 (1.3)で、トレンドの次数がm = 2の場合は、以下の (1.5)

式のように、τ(1)t がドリフト項 (またはトレンドのスロープ)である βt に該当する。こ

のパラメータ βtはランダムウォークする確率変数でありトレンド成分 τtの平均成長率

を意味する。

τt = τt−1 + βt

βt = βt−1 + ζt, ζt ∼ N(0, σ2ζ ), (1.5)

(1.3)式から推定された τmt または (1.5)式の τtがローパスフィルタにより抽出されたト

レンド成分である。また、確率サイクルモデル (1.4)式から推定された c(l)t とこの対で

ある c∗(l)t がバンドパスフィルタにより抽出されたサイクル成分に該当する。本論では、

長短スプレッドや景気一致指数の l次のサイクル成分 cltを抽出して、2つの系列のサイ

クルの先行性・遅行性を計測し、これから長短スプレッドの予測力を検証していくこと

となる。

[ 図 1 —図 3 ]

本稿の構成は以下のとおりである。2節では金利の期間構造のアフィン型モデルに

ついて解説し、3節では Ang, Piazzesi, and Wei (2006)の研究に基づいた VAR(1)型マク

ロ・ファイナンスモデルによる景気動向指数の予測方法について説明する。4節では多

変量バンドパスフィルターとマクロファイナンスモデルへの応用方法を扱う。5節では、

3節と 4節で説明した手法を使って OLSと比較しながら実際の日本の景気一致指数へ

適用を行い、この検証結果を説明する。6節は結論である。7節は補論としてゼロクー

ポン金利の期間構造の推定法である Vasicek and Fong (1982)の解説を行う。

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2 アフィン型金利の期間構造モデル

2.1 債券価格とアフィン・プロセス

リスク中立確率測度Qの下での、t期における満期 nである債券価格 p(n)t の無裁定

条件は、次式のように示すことができる。

p(n)t = EQ

t (Mt+1 × p(n−1)t+1 )

ここで、Mt は pricing kernel である1。 いま、この pricing kernel を因子 Xt の関数

M(Xt, t)と仮定し、かつ 2.3節で示される 2つの仮定を満たすならば、債券価格 p(n)t は

次の (2.1)式で示すことができる (Duffie and Kan, 1996)。

p(n)t = exp(An + B′

n Xt) (2.1)

ここで因子Xtは因子数をN とするとN × 1のベクトルである。Anと Bnは満期 nに

おける債券価格を決定する係数 (ファクターローディング)であり、それぞれスカラーと

N × 1のベクトルである。またこの式の右辺がアフィンプロセスである2。

1リスク中立確率測度 Qの下では、Pricing Kernel: Mt は無リスク金利:rt のみで表現できて、

Mt+1 = exp

−Z t+1

t

rs ds

«

となる。現実確率測度 Pの下でのMt の動学モデルは、無リスク金利のほかにリスクの市場価格:Λt が加わり、

これを利用して

d Mt

Mt= −rt dt − Λ′

t dW

と表すことができる。したがって、Pの下でのMt は、伊藤の公式から、

Mt+1 = exp

»

−Z t+1

t

rs ds − 1

2

Z t+1

t

Λ′sΛs ds −

Z t+1

t

Λ′s dW

となる。また、この Qから Pへ測度変換は、Radon-Nikodym微分: dPdQ ,を使うと

EP`

Mt

´

= EQ

dPdQ Mt

«

, EP`

Xt

´

= EQ

dPdQ Xt

«

と表せる。なお、この Radon-Nikodym微分は„

dPdQ

«

T,t

= exp

»

− 1

2

Z T

t

Λ′sΛs ds −

Z T

t

Λ′s dW

である。 なお、リスクの市場価格 Λt とリスク中立確率 Q、現実確率 Pの関係については 2.3節で説明する。2アフィンプロセスの解説およびこの債券価格への適用についてのテキストとして Singleton(2006)がある。ま

た、アフィン型金利期間構造モデルのサーベイ論文としては Piazzeki(2009)および紅林 (2008)がある。

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式 (2.1)より、満期 nにおけるイールド y(n)t は以下の式 (2.2)のように示せる。

y(n)t = − log p

(n)t

n=

An

n+

Bn

nXt = an + bn Xt (2.2)

したがって、債券価格を式 (2.1)のようにアフィンプロセスで表せると仮定するならば、

満期 nのイールド y(n)t は、式 (2.2)のように因子 Xt と線形の関係をもつことになる。

このモデルをアフィン型の金利の期間構造モデルと呼んでいる。なお、アフィン型の金

利の期間構造モデルは、Duffie and Kan (1996)により提案され、Duffee(2002)により拡

張されたが、これらの詳細については 2.3節で解説する。

2.2 マクロ・ファイナンスモデル

前節でみたアフィン型の金利の期間構造モデルは、イールド y(n)t を因子Xt の線形

が表現できるので非常に使い勝手がよい。従来の金利の期間構造モデルでは Vasicekモ

デルや CIRモデルなどが利用されてきたが、これらは因子の数が 2つと限定されている

上に、この 2つの因子にもモデル固有の意味づけが与えられていた。他方で、本稿が扱

うアフィン型の金利の期間構造モデルでは、因子の数が限定されないという点であり、

さらに因子そのものにもモデル固有の意味づけが与えられていない点である。この特徴

を生かして、アフィンモデルの因子としてマクロ経済変数を採用しようというものがマ

クロ-ファイナンスモデルであり、Ang, and Piazzesi (2003)によって提案された。彼らは

VARモデルにアフィンモデルを融合したものであったが、さらに、VARモデルの代わ

りにマクロ経済の構造モデルを導入することで、よりいっそうの経済モデルの一般化あ

るいは拡張性が図れるだろう。たとえば、Bekaert, Cho and Moreno (2010)は、ニューケ

インジアンモデルをアフィン型金利の期間構造モデルに取り込んでいる。

マクロ-ファイナンスモデルの概念をより簡略的に捉えようとすれば、以下の 2つの

タイプに分類できて、本稿のとるアプローチは後者に属することになる。

(1). アフィン型期間構造モデルの因子Xt にマクロ変数を加えることにより

「マクロ経済変数 (原因) → イールド y(n)t (結果)」の関係を捉えるタイプ (Ang, Piazzesi,

2003)

(2). アフィン型期間構造モデルから、「イールド y(n)t (原因) → マクロ経済変数 (結

果)」 の関係を捉えるタイプ。(Ang, Piazzesi, and Wei, 2006)

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2.3 アフィン型の金利の期間構造モデル

2.1節では、アフィン型モデルがイールドと因子の関係において線形関係をもつ

モデルであると述べたが、本節では、このアフィン型金利の期間構造モデルについて、

さらに詳細に見ていくことにする。

Duffie and Kan (1996)は、「ある正則条件の下で、債券価格 p(n)t が、(式 (2.1)の右辺

のような )アフィンプロセスとして表されることと、リスク中立確率測度Qの下で因子

Xtのドリフト、ボラティリティの 2乗および無リスク金利が因子Xtの線形関数になる

ことが同値である。」ことを示した。(木島・田中 (2007), p123) すなわち、「リスク中立

確率Qの下で因子Xtが動学モデル (2.3)式として表現でき (仮定 1)、かつ無リスク金利

rt を (2.4)式として記述できる (仮定 2)のであれば、債券価格 p(n)t の決定式が (2.1)式

として表現できる。また、この逆も同様である。」(Piazzeci, 2009, p703-709) また、こ

の (2.1)式の係数 An, Bn は、以下のような連立微分方程式に従う。

dA(n)dn

= −δ0 + B(n)′ κQ Xt +12

N∑i=1

[B(n)′ Σ

]2

iσ0i

dB(n)dn

= −δX − κQ ′ B(n) +12

N∑i=1

[B(n)′ Σ

]2

iσXi

ただし、満期 n = 0のとき、A(0) = 0, B(0) = 0である。また、N は因数 Xt の数で

あり i番目の因子Xit の拡散過程を σit =√

σ0i + σ′XiXt とおいた。この連立微分方程

式を離散化したものが (2.6)式と (2.7)式である。(なお、(2.6)および (2.7)式の導出にお

いて、本モデルの拡散過程が正規分布に従うとする仮定より、σ0i = 1, σXi = 0とおい

た。) 3

3この連立微分方程式は次のようにして導出できる。(木島・田中 (2007), p123-124)

まず、(2.1)式と (2.3)式を伊藤の公式に適用して債券価格 p(n)t の確率微分方程式を導出すると

dp(n, t)

p(n, t)= B(n)′dXt +

1

2|B(n)′Σt|2dt − (∂A(n) + ∂B(n)Xt)dt

=`

B(n)′κQ(µQ − Xt) +1

2|B(n)′Σt|2 − ∂A(n) − ∂B(n)′Xt

dt + B(n)′ΣtdW Qt

となる。この式のドリフト項は無裁定条件から,式 (2.4)の無リスク金利:rt = δ0 + δXXt と等しくならなければ

ならないので

B(n)′κQ(µQ − Xt) +1

2|B(n)′Σt|2 − ∂A(n) − ∂B(n)′Xt = δ0 + δXXt

となり、この式はすべての tと Xt で成立しなくてはならない。この式を Xt の項で整理すると

−∂B(n)−δX−κQ ′ B(n)+1

2

NX

i=1

h

B(n)′ Σi2

iσXi

”′Xt+

−∂A(n)−δ0+B(n)′ κQ Xt+1

2

NX

i=1

h

B(n)′ Σi2

iσ0i

= 0

が導出でき、この恒等式を満たすためには各括弧内の係数はゼロとならなければない。よって上の連立方程式

10

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このアフィン型モデルを考察するにあたって、以下、リスク中立確率測度Qと現実

確率測度 Pに分類して整理していこう。まず、リスク中立確率測度の下における期間構

造モデルから見ていこう。

(1) リスク中立確率測度 (Q)における因子動学 (VAR(1) )モデル

N 個の因子Xtは、離散モデルでは以下の式 (2.3)のように 1次の次数をもつ VARモデ

ルにしたがって運動していると仮定する。

Xt+1 = µQt + Σ εQ

t+1, εQt ∼ N(0, 1) (2.3)

ここで、 Xt は N × 1ベクトルをもつ因子である。µPt は N × 1ベクトルのドリフトで

あり Xt の線形関数、µQt = Xt + κQ (θQ − Xt)である。Σは N × N の下三角行列の

ボラティリティである。なお、本モデルのボラティリティΣは一定の分散をもつ正規分

布に従うように仮定している。一般のアフィン型モデルでは確率的変動ボラティリティ

Σ(Xt, t)はXt の線形関数として可変であることに留意すべきである。

(2)イールドと因子の関係式 (Qの下での無裁定条件)

2.1節でみたように、リスク中立確率測度の下では債券価格 p(n)t は無裁定条件 (2.1)を

満たすことから、イールドと因子の関係は式 (2.2)となる。これを書き直すと、次のと

おりとなる。なお、(2.5)式は (2.2)式の再掲になっている。

(i) 短期金利 (n = 1)の関係式

rt = δ0 + δX Xt, (2.4)

(ii) 各満期 n = 2, · · · .N におけるイールド y(n)t の関係式

y(n)t = an + b′n Xt =

An

n+

B′n

nXt, (2.5)

(3) An と Bn の関係式

式 (2.5)にある係数AnとBnの導出式は以下の式 (2.6)および (2.7)のとおりである。な

お、この値は連続関数であるアフィン型モデルの偏微分方程式を解いて、その解を離散

の変数へ近似した式である。このアフィンモデルの解法についてはDuffie and Kan (1996)

を参照のこと。

が導かれる。

11

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An+1 = δ0 + (κQ θQ)′Bn − 12B′

n Σ Σ′ Bn + An, (2.6)

Bn+1 = δX + Bn − κQBn, (2.7)

ここで、A0 = 0, B0 = 0. また A1 = δ0, B1 = δY と設定する。

次に、現実確率測度の下における因子の運動モデルについて説明する。

(4) 現実確率測度 (P)での因子動学モデル

Xt+1 = µPt + Σ εP

t+1, εPt ∼ iid N(0, 1) (2.8)

この動学モデル (2.8)のドリフトは Xt の線形関数、µPt = Xt + κP (θP − Xt)となるの

で、上でみたリスク中立確率測度Qの下における因子動学モデル (2.3)と同様に、離散

変数を用いると 1次の次数の VARモデルで推定することができる。また、ボラティリ

ティΣの大きさはリスク中立確率測度のモデル (2.3)と同じ値 Σであるが、ドリフト項

µPt は (2.3)式の µQ

t と異なる値をもつことに留意すべきである。

(5) 現実確率 (P)、リスク中立確率 (Q)とリスクの市場価格 Λt の関係

式 (2.8)の現実確率測度のドリフト項 µPt と式 (2.3)のリスク中立確率測度のドリフト項

µQt の関係は、リスクの市場価格 Λt によって表すことができる。

µQt = µP

t + Σ Λt. (2.9)

ここで、ΛtはN × 1ベクトルの「リスクの市場価格 (market prices of risks)」である。こ

の式 (2.9)の意味するところは、現実確率測度の下のドリフト項とボラティリティが推

定されて、リスクの市場価格が特定されれば、リスク中立確率測度の下でのドリフト項

が自動的に確定するということであり、または反対に、リスク中立確率測度の下でのド

リフト項が特定されればリスクの市場価格が自動的に確定するということである。この

ように現実確率測度のドリフト項 µPt とリスク中立確率測度のドリフト項 µQ

t の関係は

互いに拘束しあう関係である。

12

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最後に、このリスクの市場価格 Λtの観点から、以下の 2つのタイプのアフィン型期

間構造モデルがあることを示しておく。

(6) コンプリートリー・アフィンモデル (Duffie and Kan, 1996 )

これは Duffie and Kan (1996)によって提案されたモデルである。

Λt = Σ−1 λ0 (2.10)

ここで、λ0は定数である。式 (2.10)のようにDuffie and Kan (1996)のモデルでは、リス

クの市場価格 Λtの変動は、ボラティリティΣtの変動のみによって依存していたが本モ

デルではボラティリティΣtは固定と仮定しているので、もしコンプリートリー・アフィ

ンモデルを採用するとリスクの市場価格 Λt は定数となる。

(7) エッセンシャリー・アフィン・モデル (Duffee, 2002)

これは Duffee, (2002)によって提案されたモデルである。

Λt = Σ−1 (λ0 + λX Xt) (2.11)

ここで、λ0 と λX は定数である。式 (2.11)のように Duffee (2002)のモデルでは、リス

クの市場価格 Λt の変動は、ボラティリティΣt と因子Xt のそれぞれの変動によって依

存している。したがって、本モデルではボラティリティΣtは固定と仮定しているが、も

しエッセンシャリー・アフィン・モデルを採用すると、因子 xt の変動にあわせてリス

クの市場価格 Λt は可変となる。

2.4 日本のエッセンシャリー・アフィン型金利の期間構造モデルの推定

本節では、エッセンシャリー・アフィン型モデルを使って、日本の国債の金利の期

間構造を推定した。推定期間は 1995年 1月から 2010年 5月であり、データとして採用

したイールドは、満期が 0.5年、1年、2年、5年、10年の計 5系列の月次データであ

る。なお、、各満期のイールドの値は、Vasicek and Fong (1982)に基づき国債をゼロクー

ポンとして計算したものである。(Vasicek and Fong (1982)の手法については 7節の補

論に記した。) これらの時系列は図 4(a)にある。図 4(a)の緑の影の部分は景気後退期を

あらわしている。

因子 Xt の因子数を 3 つ (N = 3) とした。これは主成分分析よると因子数を 3 つ

とすることで、金利の期間構造の変動の 99 % をカバーすることが指摘されているか

13

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らである。(Litterman and Scheikman, 1991) この 3つの因子として、イールドの水準:

level = y(0.5)t , イールドの勾配: slope = y

(10)t − y

(0.5)t , 景気一致指数の水準: CItを採

用した。前者の 2系列は図 4(b)に描いた。景気一致指数 CIt は図 1にある。なお、こ

れら 3つの変数を標準化、すなわち平均 0、分散 1 ( N(0, 1) )へ変換した系列を因子

Xt として利用した。

また、このモデルの推定方法としては、Ang, Piazzesi and Wei (2006)が提案した 2段

階推定を利用する。この推定方法の利点は、推定量の頑健性、一致性が担保されながら、

推定手法の簡便さと最適な推定値の探索速度 (収束速度)の高速化が図れる点である。ア

フィンモデルの 2段階推定法は、以下のとおりである。

第 1ステップ (現実確率測度 Pの下での動学モデル (2.8)式の推定)

OLSで VAR(1)モデル Xt = κPθP + (1 − κP)Xt−1 + ΣεPt を推定し、ボラティリティの

パラメータ Σの推定値を得る。

第 2ステップ (リスク中立確率測度 Qの下でのアフィンモデル (2.5)式とリスクの市場

価格 (2.11)式の推定) (2.5)式に誤差項 etを付加し、y(n)t = an + b′nXt + etを最尤法か

ら推定して、パラメータ κQ, θQ および δ0, δY の推定値を算出する。このとき、第 1ス

テップで推定した Σを与件としてファクターローディング an, bn は (2.6)式と (2.7)式

から算定するものとする。最後に、(2.9)式と (2.11)式からリスクの市場価格のパラメー

タ λ0 と λX を導出する。

各パラメータの推定結果は、表 1にある。さらに、このパラメータの推定値から式

(2.6)と式 (2.7)に基づいて算定したファクターローディング an(= An/n)と bn(= Bn/n)

は図 5に記されている。この図にある anの値は、因子Xtは標準化されて平均が 0なの

で、ちょうど各満期における平均イールドとなっている。bnは各因子の係数であり、勾

配 (Slope)の因子の係数が満期が大きくなるにつれて大きく変化していることがわかる。

他方で、一致指数 (CI)の係数はほぼ 0の近辺にあり、景気一致指数がイールドカーブに

は影響を与えていないのがわかる。図 6は実際のイールドの実測値とアフィンモデルか

ら推定した推定値を 2つ描いたグラフであるが、極めて高いフィットで各満期のイール

ドを推定していることがこの図からうかがえる。(表 1には、各イールド 5系列の決定

係数 R2 が記してあるが、すべてのイールドで 0.913から 0.999という高い値をしめし

ている。)

[ 表 1 ]

[ 図 4 — 図 6 ]

14

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3 マクロ・ファイナンス-VAR(1)型予測モデル

3.1 Ang, Piazzesi and Wei (2006)の予測モデル

Ang, Piazzesi, and Wei (2006)は、金利の期間構造が将来の実質GDPの成長率に対し

てどの程度の予測力を有するのかについて、2節で述べたアフィン型モデルから推定し

た。彼らの手法について以下解説する。

Step 1. アフィン型金利の期間構造モデルの推定

アフィン型金利の期間構造モデルは、以下の式 (3.1)と式 (3.2)である。これについて

は 2 節のモデルと同様であり、式 (3.2) で利用されるファクターローディング, an(=

An/n), bn(= Bn/n),は式 (2.6), (2.7)により導出される。

Xt = δ + ΦPXt−1 + Σ εt, (3.1)

y(n)t = an + bn Xt =

An

n+

Bn

nXt, (3.2)

ここで、式 (3.1)は現実確率測度 Pの下での動学方程式なので係数 Φに添え字に Pを付

した。Ang, Piazzesi and Wei (2006)は、因子Xtとして 3変数Xt = [ y(1)t , y

(10)t − y

(1)t ,

gt ]′、すなわち、イールドの水準: y(1)t ,勾配: ( y

(10)t − y

(1)t ),実質 GDPの成長率: gt =

log( GDPt ) − log( GDPt−1 ),を採用している。

推定方法ついては、2.4節で述べた 2段階推定法を利用している。すなわち、まず

第 1段階として現実確率測度 Pの下で式 (3.1)を推定し、次に第 2段階として式 (3.1)で

得たパラメータの推定値を利用してリスク中立確率測度Qの下で式 (3.2)を推定すると

いうものである。

Step 2. GDPの予測式の推定法

Ang, Piazzesi and Wei (2006)は実質GDPの成長率の予測式として、式 (3.3)を設定した。

gt→t+k = α(n)k + β

(n)k,1 y

(1)t + β

(n)k,2 (y(n)

t − y(1)) + β(n)k,3 gt + ε

(n)t+k,k, (3.3)

ここで、gt→t+k = 1k [ log(GDPt+k) − log(GDPt) ]であり k期先までの四半期ベース

の平均成長率を示している。t期における k 期先までの GDPの平均成長率を予測の対

15

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象としている。係数 β(n)k,1 は、満期が nのイールド y

(n)t に対応した k期先の予測値の係

数である。

Step 3. k期先予測モデル (3.3)の説明変数 (y(1)t , y

(n)t − y

(1)t , gt )の係数 β

(n)k の導出法

実質 GDP成長率の k期先予測モデル (3.3)の説明変数 (y(1)t , y

(n)t − y

(1)t , gt )に対する各

係数 β(n)k の推定には、以下の式 (3.4)にアフィン型期間構造モデル、式 (3.1),(3.2)、の

パラメータの推定値を代入して算定する。

β(n)k = (B ΣXΣ′

X B′)−1 [ B ΣXΣ′X Φ′

k Φ′ e3 ], (3.4)

ここで、ΣXΣ′X は因子Xtの分散共分散行列であり、vec(ΣXΣ′

X) = (I−Φ⊗Φ)−1 vec(ΣΣ′)

から算出した。また、B = [e1, bn − b1, e3]′, e1 = [ 1 0 0 ]′ , e3 = [ 0 0 1 ]′ であり。

Φk = 1k =

∑k−1j=0 Φj = 1

k (I − Φ)−1(I − Φk)である。なお、導出方法については Ang,

Piazzesi and Wei (2006)を参照されたい。

この手法をアメリカに適用した推定結果は、Ang, Piazzesi and Wei (2006)によると

OLSのケースでは、長短スプレッドの係数の値は非常に大きい。また、短期金利のみで

予測した場合の係数の値と 3変数で予測した場合の短期金利の係数の値は大きく食い違

う。他方で、マクロファイナンスモデルで推定した場合、長短スプレッドの係数の値は

比較的小さい。また、短期金利のみで予測した場合の係数と 3変数で予測した場合の短

期金利の係数は大変に近い値をとることが、彼らによって指摘されている。

3.2 日本の景気一致指数 (一致CI ) の応用

本節では、Ang, Piazzesi, and Wei (2006)の手法に従い、金利の期間構造が将来の景

気一致指数 (一致 CI)に対してどの程度の予測力を有するのかについて、アフィン型モ

デルから以下の手順で推定する。

Step 1. アフィン型金利の期間構造モデルの推定

本節で利用するアフィン型モデルは、Ang, Piazzesi, and Wei (2006)と同様である。した

がって、以下の式 (3.5)は現実確率測度 Pの下での因子Xtの動学モデルである。(2.4節

と同じモデルである。)

Xt = δ + ΦPXt−1 + Σ εt, (3.5)

y(n)t = an + bn Xt, (3.6)

16

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An+1 = δ0 + (κQ θQ)′Bn − 12B′

n Σ Σ′ Bn + An, (3.7)

Bn+1 = δY + Bn − κQBn, (3.8)

ここで、因子Xtとして 3変数Xt = [y(1)t , y

(h)t − y

(1)t , CIt]′、すなわち、イールドの水

準: y(1)t ,勾配: (y(h)

t − y(1)t ),景気一致指数の水準データ CIt,を選択した。なお、本研究

では長期のイールドの満期を h = 10(年)とし短期のイールドの満期を 0.5年として長短

スプレッドの因子は y(10)t −y

(0.5)t を利用している。。また、ベクトル bn = [ bn1 bn2 bn3 ]

であり、bni は各因子Xit に対応するファクターローディング (係数)である。これらの

推定結果は 2.4節と同様に、表 1にはパラメータの推定値を、また図 5にはファクター

ローディングを記した。

Step 2. 一致 CIの k期先予測モデル

k期先の景気一致指数 CIt+k の予測モデルとして、以下の式 (3.9)を利用する。

CIt+k = α(n)k + β

(n)k,1 y

(1)t + β

(n)k,2 (y(n)

t − y(1)t ) + β

(n)k,3 CIt + ε

(n)t+k,k, (3.9)

予測式 (2.5)における Ang, Piazzesi, and Wei (2006)の研究との相違点は、彼らが時系列

の「成長率」(換言すると「変化率」)を予測対象としていたのに対して、本研究では時

系列の「水準」そのものを予測対象としていることにある。本研究が水準データを採用

する理由は、「実質GDP」においてはその成長率が景気循環に対応しているのに対して、

「景気一致指数」においてはその水準が景気循環に対応しているからである。また、予

測対象を「水準」とすることで以下の予測式の係数や決定係数の計算が簡便化されるの

が特徴である。

Step 3. CIの k期先予測モデル (3.9)の説明変数 (y(1)t , y

(n)t − y

(1)t , CIt )の係数 β

(n)k の

推定

一致 CIの k期先の予測モデル (3.9)の説明変数 (y(1)t , y

(n)t − y

(1)t , CIt )に対する各係数

β(n)k の推定には、以下の式 (3.10)にアフィン型期間構造モデル、式 (3.5), (3.6)、のパラ

メータの推定値を代入して算定する。

β(n)k = (B ΣXΣ′

X B′)−1 [ B ΣXΣ′X (Φk)′ e3 ], (3.10)

ここで ΣXΣ′X は、因子Xtの分散共分散行列であり、vec(ΣXΣ′

X) = (I−Φ⊗Φ)−1 vec(ΣΣ′)

から算定している。また、B = [ e1 (bn − b1)′ e3 ]′, e1 = [ 1 0 0 ]′ , e3 = [ 0 0 1 ]′

17

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および bn − b1 = [ bn1 − b11 bn2 − b12 bn3 − b13 ]である。ここで用いるファクター

ローディング bn, b1 は図 5のものである。

この式 (3.10)の導出法であるが、予測式 (3.9)は、Z = [y(1)t , y

(n)t − y

(1)t , CIt], Y =

Et(CIt;k)とすると回帰モデル Y = Zβ として表せて、最小 2乗法からその係数の推

定値は β = (Z ′Z)−1Z ′Y と書ける。また、式 (3.5) の因子の動学モデルから k 期先

の CIt+k(= Y ) は CIt+k = e′3 Φk Xt と表せ、さらに式 (3.6) から長短スプレッドは

y(n)t − y

(1)t = (bn − b1)Xt とあらわせることから、因子 Xt で予測式 (3.9)は表現でき

て Y = Zβ = XB′β となる。この式を β = (Z ′Z)−1Z ′Y に代入すると (3.10)が導出で

きる。

Step 4. CIの k期先予測モデル (2.5)の決定係数 R2 の算出

上の予測式 (3.9)の決定係数 R2 は以下の式 (3.11)から計算できる。

R2 =β

(n)′

k B (ΣXΣ′X) B′ β

(n)k

e′3 Φk (ΣXΣ′X) Φk′ e3 + e′3 (

∑ki=1 Φk−i(ΣΣ′)Φk−i′ ) e3

, (3.11)

なお、決定係数R2とは一般にR2 =∑

(Y − Y )2/∑

(Y − Y )2から計算している。この

式の Y は予測値であり、Y は実際の観測値である。実測値は予測値と誤差項に分解で

きるので Y = Y + εと表現できる。したがって、式 (3.11)の分子は予測値の分散を表

し、分母は予測値と誤差項の分散の和であるので、この比率が決定係数を示しているこ

とがわかる。

以上、4つのステップから景気一致指数の予測を行った。この推定結果については 5

節で論じることとする。

4 マクロ・ファイナンス-多変量バンドパス型予測モデル

4.1 多変量バンドパスフィルタ

Valle e Azevedo, Koopman and Rua (2006)は、Runstler(2004)の位相偏移モデルを、1

節でふれた Harvey and Trimbur (2003)の単変量の一般化バターワースフィルタに組み込

み、多変量バンドパスフィルタモデルを開発した。この多変量バンドパスフィルタモデ

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ルは、次数 (m, l)をもつ多変量構造時系列モデルであり、以下の式 (4.1), (4.2), (4.3)か

ら構成される。

(1) 観測方程式

y1t

y2t

...

ySt

=

τ(m)1t

τ(m)2t

...

τ(m)St

+

1 0

δ2 cos(ξ2λc) δ2 sin(ξ2λc)...

δS cos(ξSλc) δS sin(ξSλc)

c

(l)t

c∗(l)t

+

ε1t

ε2t

...

εSt

, (4.1)

(2) m次の確率トレンドモデル (ローパス・フィルタに該当)

τ(1)st = τ

(1)st−1+ηst, τ

(i)st = τ

(i)st−1+τ

(i−1)st−1 , ηst ∼ N(0, σ2

ηs), i = 1, 2, · · · , m, s = 1, 2, · · · , S

(4.2)

(3) l次の確率サイクルモデル (バンドパス・フィルタに該当) c(1)t

c∗(1)t

= ρ

cos λc sinλc

− sinλc cos λc

c(1)t−1

c∗(1)t−1

+

κt

κ∗t

, κt, κ∗t ∼ N(0, σ2

κ)

c(j)t

c∗(j)t

= ρ

cos λc sin λc

− sinλc cos λc

c(j)t−1

c∗(j)t−1

+

c(j−1)t−1

c∗(j−1)t−1

, j = 1, 2, · · · , l, (4.3)

ここで、ystはS個の観測されるマクロ経済変数の時系列データである。τ(m)st , c(l)

t , c∗(l)t は

潜在変数であり、τ(m)st はm次のトレンドでありS個ある。c

(l)t は l次のサイクル成分であ

り、c∗(l)t はそのペアとなるサイクル成分である。また λcは景気循環の周波数、ξiは位相

偏移 (Phase shift) (単位は月数)を表す。位相偏移 ξstとは y1tと ystの変数間の先行 (lead)

と遅行 (lag)の大きさを表す尺度であり、もし ξi > 0ならば先行であり、ξi < 0ならば

遅行である。この位相偏移 ξitと変数間の先行・遅行の大きさ、循環図との対応関係は図 7

にまとめた。この図から見られるように、パラメータ ξiの範囲は−1/2π < ξiλc < 1/2π

である。もし ξi がこれを超えた範囲でも、たとえば 1/2π < ξiλc < πでは、係数 δi の

正負の符号が反対になるだけで係数 cos(ξiλ)の絶対値は同じとなり、上の範囲に収まる

ように変換できる。すなわち、コサイン関数 (cos)が ξiλまで偏移したならば、この関

数の値は符号は変わるものの π − ξiλまで偏移したコサイン関数の絶対値と等しくなる

( cos(ξiλ) = − cos(π − ξiλ) )という性質を生かすと上の範囲で十分に先行・遅行関係を

表現することができる。なお、ρは振幅の減衰速度、 2π/λcは周期である。なお、サイ

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クル因子 cltの大きさを特定するため、(4.1)式では、y1tをベンチマークとおき、この変

数のパラメータを ξ1 = 0、δ1 = 1とおいている。

[ 図 7 ]

ここで、(4.1)式を 2変数モデルである (4.4)式に変換して、この多変量バンドパス

フィルタを利用して、景気一致指数と長短スプレッドの位相偏移を推定する。

y(n)t − y

(1)t

CIt

=

τ(m)y t

τ(m)CI t

+

1 0

δ2 cos(ξ2λc) δ2 sin(ξ2λc)

c(l)t

c∗(l)t

+

εy t

εCI t

,

(4.4)

ただし、y(n)t − y

(1)t は長短スプレッドであり、CIt は景気一致指数である。

ここでは、トレンドとサイクルの次数をそれぞれm = 2, l = 2とおいたケース (次数

(2,2) )とm = 2, l = 4とおいたケース (次数 (2,4) )の 2つのケースを推定した。推定に

あたって、2つのパラメータの値を λc = 0.065および ρ = 0.95と固定した。これらの

値は景気一致指数の単変量バンドパスフィルタ (1.2), (1.3), (1.4)から推定した値であり、

λc = 0.065は景気循環の周期が 8年 (=96ヶ月) (2π/0.065 = 96)であることを意味する。

推定期間は 1995年 1月から 2010年 5月までである。推定結果は表 2と図 8に記して

ある。表 2から、次数が (2,2)の場合、長短スプレッドと比較して一致 CIは約 24.3ヶ月

( ξ2 = −24.3 )の遅行性をもつ周期であり、次数が (2,4)の場合、長短スプレッドと比

較して一致 CIは約 28.3ヶ月 ( ξ2 = −28.3 )の遅れがあることがわかる。また δ2 の値

が正であることから長短スプレッドは景気に対して正のサイクルである。図 8は次数が

(2,2)のモデルでの 2変数のサイクルとトレンドが、また図 1には次数が (2,4)のものが

描いてある。

[ 表 2 ]

[ 図 8 ]

20

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4.2 多変量バンドパス型予測モデル

4.1節の多変量バンドパスフィルタを予測モデルに組み込むことで、k期先の景気一

致指数の予測は、以下のように 4つの手順から実行することができる。

Step 1. アフィン型金利の期間構造モデルの推定

3.2節と同様のモデルであり、因子のベクトルを Xt = [y(0.5)t , y

(10)t − y

(0.5)t , CIt]′ とお

き、現実確率測度 Pの下での因子Xt の動学モデルは式 (4.5)となる。

Xt = δ + ΦPXt−1 + Σ εt, (4.5)

y(n)t = an + bn Xt

(=

An

n+

Bn

nXt

), (4.6)

An+1 = δ0 +(

κQ θQ )′Bn − 1

2B′

n Σ Σ′ Bn + An, (4.7)

Bn+1 = δY + Bn − κQBn, (4.8)

ここで、y(n)t は満期 nのイールド、CItは景気一致指数であり、それぞれ観測されるマ

クロ・金融の経済変数である。これも 2段階推定法から推定する。推定結果は 3.2節と

同様に、パラメータの推定値は表 1に、ローディングファクターは図 5に記されている。

Step 2. 一致 CIの k期先予測モデルの設定

k期先の景気一致指数 CIt+k の予測モデルとして、以下の式 (4.9)を利用する。

CIt+k−τCI,t = α(n)k +β

(n)k,1 y

(1)t +β

(n)k,2 (y(n)

t −y(1)t )+β

(n)k,3 (CIt−τCI,t)+ε

(n)t+k,k, (4.9)

ここで、右辺の第 3項は CIt − τCI,tというトレンドから差になっている点が式 (3.9)と

の相違点である。あるいは、この式を書き換えると

CIt+k = α′ (n)k + β

(n)k,1 y

(1)t + β

(n)k,2 (y(n)

t − y(1)t ) + β

(n)k,3 CIt + ε

(n)t+k,k, (4.9’)

ここで、α′ (n)k = α

(n)k + (1 − β

(n)k ) τCIt である。この予測式 (4.9’)は予測式 (3.9)と同

じ説明変数となり、係数 β(n)k,3 の値は (4.9)式と (4.9)′ 式ともに変わりない。

Step 3. CIの k期先予測モデル (4.9)の説明変数 (y(1)t , y

(n)t − y

(1)t , CIt )の係数 β

(n)k の

推定

3.2節の Step 3では一致 CIの k 期先の期待値を Et(CIt+k) = ΦkXt と表していたが、

21

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これを以下のように書き換える。まず、(4.4)式に y(1)t を付加して、以下のように変形

する。y(1)t

y(n)t − y

(1)t

CIt

=

y(1)

0

τ(2)CIt−1

+

γ1 γ2 γ3

0 1 0

1 δ2 cos(ξ2λc) δ2 sin(ξ2λc)

τ(1)CIt

c(l)t

c∗(l)t

+

ε0t

εyt

εCIt

,

(4.10)

ここで、y(1) は満期が 1期のイールドの平均であり、長短スプレッド: y(n)t − y

(1)t のト

レンドは τ(2)yt = 0と設定した。これらの推定値 τ

(j)CI t, c

(i)t , c

∗(i)t は、4.1節で説明したモ

デルと同様にカルマンフィルタと最尤法を利用して推定する。パラメータの推定値は表

2のとおりである。

k期先の CIt の期待値は、3因子を説明変数とした以下の式として表せる。

Et[ CIt+k ] − τ(2)CI t = k τ

(1)CI t +

[δ2 cos

((k + ξ2) λc

)δ2 sin

((k + ξ2) λc

) ] c(l)t

c∗(l)t

=

[kτ

(1)CI t δ2 cos

((k + ξ2) λc

)δ2 sin

((k + ξ2) λc

) ]

×

γ1 γ2 γ3

0 1 0

1 δ2 cos(ξ2λc) δ2 sin(ξ2λc)

−1

y(1)t − yt

(1)

y(n)t − y

(1)t

CIt − τ(2)CI t

= Ψ(k) Xt,

この (4.11)式は、まず位相偏移 (phase shift)の関係を表した式 (4.4)の下段の式を利用

して、k 期先の CIt を c(l)t , c

∗(l)t , τ

(2)CI t であらわして、これに式 (4.10)を代入すること

で導出できる。したがって、一致 CI の k 期先の予測モデル (4.9) の 3 つの説明変数 (

y(0.5)t , y

(10)t − y

(0.5)t , CIt )に対する各係数 β

(n)k の値は、アフィン型期間構造モデル ( 式

(4.5)および (4.6) )のパラメータの推定値 Φ,Σおよび (4.11)式の係数 Ψ(k) を以下の式

(4.12)に代入することにより算出できる。

β(n)k = ( B ΣXΣ′

X B′ )−1 [ B ΣXΣ′X Ψ(k)′ ], (4.12)

ここで ΣXΣ′X は、因子Xtの分散共分散行列であり、vec(ΣXΣ′

X) = (I−Φ⊗Φ)−1 vec(ΣΣ′)

から算定している。また、B = [ e1 (bn − b1)′ e3 ]′, e1 = [ 1 0 0 ]′ , e3 = [ 0 0 1 ]′

および bn − b1 = [ bn1 − b11 bn2 − b12 bn3 − b13 ]である。

Step 4. CIt の k期先予測モデル (4.9)の決定係数 R2 の導出

上の予測式 (4.9)の決定係数 R2 は以下の式 (4.13)から計算できる。

22

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R2 =β

(n)′

k B (ΣXΣ′X) B′ β

(n)k

Ψ(k)

(ΣXΣ′

X

)Ψ′

(k) +( ∑k

i=1 Ψ(k−i)(ΣεΣ′ε) Ψ(k−i)′

) , (4.13)

ここで、Ψ(k)は (4.11)式から導出されたものであり、ΣεΣ′εは (4.10)式の誤差項 ε0t, εyt,

εCI t の分散であり、お互いに独立と仮定しているので、これは

ΣεΣ′ε =

σ2

0 0 0

0 σ2y 0

0 0 σ2CI

と表現できる。

以上、4つのステップから景気一致指数の予測を行った。この推定結果については、

5節で 3節の VAR(1)型予測モデルの推定結果と比較しながら論じることとする。

5 予測モデルの推定結果

5.1 各予測モデルによる推定値と決定係数の比較

3節と4節でみたVAR(1)型と多変量バンドパス型のマクロファイナンスモデルの予

測モデルのパラメータと決定係数の推定結果は表 3と図 9から図 14にまとめてある。

推定期間は 2.4節と同様に 1995年 1月から 2010年 5月までである。(予測モデルで用

いたファクターローディング bn は図 5である。)

表 3には、長短スプレッド y(n) − y(1) の満期 nを 5年と 10年とした y(5) − y(1) と

y(10) − y(1)のそれぞれの推定結果が OLSのそれと比較してある。Ang, Piazzesi and Wei

(2006)の結果と同様に、OLSのケースでは満期が 5年でも 10年のケースでも、長短ス

プレッドだけで予測したモデルの係数 β(n) と短期金利、長短スプレッド、一致 CIの 3

つの説明変数で予測したモデルの長短スプレッドの係数 β(n) の値に大きな差がでてい

るのがわかる (表 3の黄色の影で示した部分)。OLSの推定では24ヶ月先の予測を除く

すべての結果も符合が負から正に変わっている。他方で、2つのマクロファイナンスモ

デルの場合はこの 2つの β(n) の値の相違は小さい。特に予測すべき期間 kが長期予測

である場合、または満期が 10年の長短金利を用いる場合は、その差は縮まり頑健性を

もつようである。

23

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図 9には 3ヶ月先の予測について3つのモデルの決定係数 R2 が描かれている。図

9(a)は説明変数を長短金利差の 1変数のみで推定した予測モデルの決定係数である。同

様に (b)は説明変数が長短金利差と短期金利の 2変数のモデルであり、(c)は説明変数が

長短金利差と短期金利、一致 CIの 3変数のモデルである。各図の横軸は説明変数に利

用されている長短スプレッド (y(n) − y(1))の満期 nを表している。赤色の線は多変量バ

ンドパス型マクロファイナンスモデルから、青色の線は VAR(1)型マクロファイナンス

モデルからそれぞれ式 (4.13)および (3.11) を使って計算した。またピンクの点は OLS

による推定値である。3ヶ月先という短期予測の場合では、長短金利差の一致 CIに対す

る予測力は小さく、2つのマクロファイナンスモデルとOLSともにR2は 0.02から 0.05

と小さい値である (図 9(a))。さらに、これに短期金利を付加してもこの予測力は上昇せ

ず R2 は 0.05程度である (図 9(b))。一致 CIが説明変数と付加されることで、決定係数

の値は 0.98近くまで上昇した (図 9(c))。

図 10には、3つの説明変数: y(1)t , (y(n)

t − y(1)t ), CItをもつ予測モデル (3.9)と (4.9)

の 3ヶ月先の予測CIt+3の各係数:β(n)3,1 , β

(n)3,2 , β

(n)3,3 ,の推定値が記されている。横軸は説明

変数に利用されている長短金利差の満期 nを表している。赤線は多変量バンドパス型マ

クロファイナンスモデルから青線は VAR(1)型マクロファイナンスモデルから、それぞ

れ式 (4.12)と (3.10)を使い計算した。またピンクの点は OLSによるものである。この

図からマクロファイナンスモデルと OLSの推定値はお互いに近いことがわかる。また、

短期においては長短スプレッドと一致 CIの 2つの変数間は位相偏移 ξ2 が大きい (つま

りスプレッドが一致 CIより 23ヶ月先行している)ことから直近の値では相関係数が低

く、これが長短スプレッドの係数 β(n) の推定値が小さいという推定結果をもたらして

いると考えられる。

図 11には 12ヶ月先に対する 3つの予測モデルの決定係数R2が、また図 12には 12ヶ

月先の 3変数予測モデルの係数の推定値 β(n)12,1, β

(n)12,2, β

(n)12,3が記されている。これらの図

の見方はそれぞれ図 9と図 10と同様である。12ヶ月先という長期予測の場合では、多変

量バンドパスフィルタ型マクロファイナンスモデルでは長短スプレッドの一致 CIに対

する予測力は大きくR2は 0.40程度であるのに対して、OLSではR2は 0.02程度しかな

い (図 11(a))。短期金利については OLSの結果と対照的になり、2つのマクロファイナ

ンスモデルでは金利差に短期金利の説明変数を付加しても 0.1程度の上昇しかみられな

いが、OLSでは 0.2の上昇もあった。(図 11(b))。12ヶ月先の予測でも、一致 CIをさら

に説明変数に付加することで、決定係数の値は上昇し 0.7近くまでになった (図 11(c))。

図 12から、2つのマクロファイナンスモデルから推定した短期金利と長短スプレッド

の係数の絶対値は OLSのそれより大きくなっているのがわかる。

24

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図 13には 24ヶ月先の 3つの予測モデルの決定係数が、図 14には 24ヶ月先の 3変

数予測モデルの係数の推定値 β(n)24,1, β

(n)24,2, β

(n)24,3が記されている。これらの図の見方はそ

れぞれ図 9と図 10と同様である。24ヶ月先という長期予測の場合では、多変量バンド

パスフィルタ型マクロファイナンスモデルでは長短スプレッドの一致 CIに対する予測

力は大きく R2 は 0.2程度であり、OLSでは R2 は 0.15~0.2程度と近い値となった (図

13(a))。短期金利についてマクロファイナンスモデルでは長短スプレッドに短期金利の説

明変数を付加することで 0.3程度まで上昇したが、OLSでは 0.2程度の上昇しかなかっ

た。(図 13(b))。また、一致 CIを説明変数に付加しても決定係数の値はみられなかった

(図 13(c))。図 14から、2つのマクロファイナンスモデルから推定した長短スプレッド

の係数は正であるのに対して、OLSは場合は負のなっているがわかる。特に、多変量バ

ンドパス型マクロファイナンスモデルの長短スプレッドの係数 β(n)24,2 は大きい値を示し

ている。これは景気一致指数と長短スプレッドの位相偏移 (つまり長短スプレッドが一

致 CIより約2年程度先行している点)をうまく捉えている点を反映したものである。こ

の点について、次節で外挿予測の観点から評価していくこととする。

[ 表 3 ]

[ 図 9 — 図 14 ]

5.2 マクロファイナンス予測モデルと OLSの外挿予測 (out of sample

forecast)の比較

3.2節と 4.2節で説明した 2つのマクロファイナンスモデルの係数の推定値 (式 (3.10)

と式 (4.12)) を利用した予測式 (3.9) から外挿予測 (out of sample forecast) をおこない、

OLSの予測結果と比較した。推定期間は 1995年 1月~2004年 12月であり、予測期間

は 2005年 1月~2009年 6月である。

この予測結果は表 4と図 15にある。表 4には長短スプレッド y(n) − y(1)の満期 nが

5年と 10年とした y(5) − y(1)と y(10) − y(1)のそれぞれの予測結果がOLSのそれと比較

してある。予測対象は 4種類であり、1ヶ月先、3ヶ月先、6ヶ月先、12ヶ月先、18ヶ月先、

24ヶ月先の一致 CIである。表 4の値は各モデルの予測値の平均平方誤差(Root Mean

Square of Error: RMSE)を AR(1)モデルのそれで除したものであり、この値が小さいほ

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ど予測精度が高いことを示す。なお、平均平方誤差は RMSE =√∑

(Yt − Yt)2 / T で

ある。T は観測数、Ytは予測値、Ytは実測値である。この推定期間の中に 2008年 9月

のリーマンショックが含まれている点には留意を払う必要があるが、満期が 5年と 10年

ともに、1ヶ月先の予測から 6ヶ月先の短期の予測ではマクロファイナンスモデルの予

測性能は OLSより良いものの大差はないようである(3つのモデルの値ともに 0.7から

0.9程度である)が、12ヶ月先から 24ヶ月先の長期予測では、マクロファイナンスモデ

ルの予測性能は急激に上がる一方で OLSの場合は ARモデルと同程度になるがわかる。

特に、本研究が提案した多変量バンドパス型予測モデルは 18ヶ月先および 24ヶ月先の

外挿予測の精度は極めて高いのがわかる。

図 15には、実際の一致 ICの観測データのほかに、2つのマクロファイナンス、OLS、

AR(1)のそれぞれの 3ヶ月先、12ヶ月先、24ヶ月先の一致 CIの外挿予測が描いてある。

特筆すべきは、24ヶ月先の外挿予測では多変量バンドパス型予測モデルは 2007年 11月

から 2009年 3月までの景気後退期における一致CIの動向を予測できていることである。

しかし、2009年 3月の景気転換点以降、一致 CIが反転して景気拡大期に移行したこと

が予測できていない。これは図 8 (c)に見られるように長短スプレッドと一致 CIの位相

偏移 (先行性)の大きさが6ヶ月程度まで急激に縮まったことによるものと思われる。

[ 表 4 ]

[ 図 15 ]

6 結論

本研究では短期金利および長短スプレッドから景気一致指数の予測に関する新しい

手法の開発とその検証を行った。この予測法の特色のひとつは、景気一致指数と長短ス

プレッドの 2つの変数間が同一の周期性をもち、単にそれらのサイクルの位相がずれて

いるだけだと想定し、その位相のずれた長さ (位相偏移)から景気循環を予測しようとい

う点であり、もう一つの特色は景気一致指数の予測をAng, Piazzesi, and Wei (2006)によ

るマクロ-ファイナンスからのアプローチであるという点である。この位相偏移の計測

には、Valle e Azevedo, Koopman and Rua (2006)が提案した多変量バンドパスフィルタ

を利用した。

26

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Ang, Piazzesi, and Wei (2006)の研究では長短スプレッドが有する将来のGDP成長率

の予測力を否定的に捉える検証結果であったが、本研究では、長短スプレッドは短期に

おける予測力はほとんどないに等しいものの長期においては景気循環の予測力は高いこ

とが検証された。というのも、長短スプレッドは景気一致指数に対して 23から 27ヶ月

程度の先行する周期性を有しているからである。これは、2つの系列の直近の値の相関

係数は著しく低いが、景気一致指数の 24ヶ月先の将来の値と長短金利差の現在の値とは

高い相関性を持つことを意味する。

このような先行研究との相違が生じる理由は、Ang, Piazzesi, and Wei (2006)の手法

では VAR(1)モデルを利用した予測法であり、この手法は短期の予測には適しているが

長期の予測には適していないからだろう。これに対し、本研究が提案する手法はマクロ

経済変数がもつ周期性に着目し、2つの変数間のサイクルの先行性・遅行性を位相偏移

という尺度で計測し、これを彼らの予測法に織り込むことで、18ヶ月から 24ヶ月先の長

期予測には適しているからだと思われる。また、本研究で注目すべき検証結果は、OLS

推定での 12~24ヶ月先の景気一致指数の長期予測では長短スプレッドを説明変数にし

た場合、この係数は負になるが、マクロ・ファイナンスモデルでは正になる点である。

特筆すべきは、24ヶ月先の景気一致指数の外挿予測では多変量バンドパス型予測モデル

は 2007年 11月から 2009年 3月の景気の谷までの景気後退期を予測できていることで

ある。しかし、2009年 3月の景気転換点以降の景気一致指数が反転して上昇すること

が予測できていない。これは、近年、長短スプレッドと景気一致指数の位相偏移 (先行

性)の大きさが6ヶ月程度まで急激に縮まったことによるものと思われる。

7 補論 –金利期間構造の推定法

日本の市場においては、利付け債がほとんどで、割引債の銘柄は少ないので、本稿

では、各イールドの算定にあたっては、Vasicek and Fong法 (1982)に基づいて利付け債

の価格 pt から、金利 (スポットレート: rt)の期間構造を算出した。以下、この手法に

ついて解説する。

(1)利付け債の価格

利付け債の価格を、以下の式で定義する。

pt = d(tn) + Cn∑

i=1

d(ti), d(t) = e−rt t

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ここで pt は利付け債の価格であり、 C はクーポン、d(t)は時点 tにおける割引関数で

あり、 tnは満期日、 tiは利払い日である。rtは連続複利表示のスポットレートである。

(2)推定法-非線形最小 2乗法

利付け債の実際の価格を pmj とし、理論値を pt

j とすると、非線形最小 2乗法では、以下

の目的関数を最小にする割引関数 d(t)を推定する。

(a) 均一分散のケース

Min ε2j = Min

N∑j=1

(pmj − pt

j)2

(b) 不均一分散のケース

Min ε2j = Min

N∑j=1

wj (pmj − pt

j)2

なお、理論値を ptj は、pt

j = d(tn) + C∑n

i=1 d(ti)である。

(3) Vasicek and Fong法 (1982)

Vasicek and Fong法では、割引関数を以下のように設定する。

d(t) = d

(− log(1 − x)

α

)≡ G(x)

ただし、x = 1 − e−αtとする。この式で用いられているG(x)について多項式スプライ

ン空間の基底 gj(x)を用いて表すと、次式によって表現できる。

G(x) =m∑

j=0

βjgj(x), 0 ≤ x < 1

したがって、利付債の理論価格 ptは、基底 gj(x)を用いると次式によって表現できる。

pt =m∑

j=0

βj

{gj(1 − e−αtn) + C

n∑i=1

gi(1 − e−αti)}

この式における αと βj のパラメータの推定には、上でみた非線形最小 2乗法を利用す

る。これ推定結果から関数G(x)を導出し、割引関数 d(t)を計算して、金利 rtを算出す

ればよい。なお、Vasicek and Fong (1982)では gi(x)として選択する関数について具体

的な提案をしていない。

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