膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに...

32
1 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察への流れがわかります。

Upload: others

Post on 06-Jul-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

1

膵がん・胆道がんの受診から診断、治療、経過観察への流れがわかります。

Page 2: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

は じめに

2015年の我が国の統計によると、膵

がんは男性では第5位、女性では第4

位に死亡数の多いがんです。膵がんの

年間の罹患数と死亡数がほぼ等しく、

これは膵がんが早期診断や治療が難し

い病気であることを示しています。膵

がんをいかに早期に診断し、いかに効

果のある治療を行うかが現在の課題で

あり、九州大学病院ではその課題に積

極的に取り組んでいます。

膵がんの発見には超音波(US)、CT

検査、MRI検査といった画像検査が長

年にわたり頻用され、その精度は年々

向上しています。それに加えて、近年

では超音波内視鏡(EUS)といった機

器が普及し、小さい腫瘍を発見するこ

とを可能にしています。その結果、一

般に膵癌が見つかる契機であった腹

痛・背部痛といった自覚症状が出る前

に早期診断できるケースも増えていま

す。また、病理診断についても以前よ

り行われていた内視鏡的膵胆管造影

(ERCP)に加えて、EUSを用いた針

生検(EUS-FNA)という選択肢が増

え、診断能が向上しています。当院で

はこれらの最新検査を駆使して早期診

断を日々目指しています。

また、膵がんの治療の選択肢として、

膵がんを切除する方法(外科手術)、抗

がん剤を用いる方法(化学療法)、放射

線を用いる方法(放射線療法)などが

あります。治療方針は、前述した診断

時の検査によりがんの広がりを正確に

把握した後に決定します。病期に加え

て個々の患者さんの病状を考慮したう

えで最新の機器・薬剤と技術を提供す

ることが九州大学病院の使命と考えて

います。

当院では、内科、外科、放射線科、病理

学の専門医が光学医療診療部、手術部

などの診療部の協力を得て、膵がんの

診断と治療を包括的に行っています。

以下に最近の当院における膵がんの診

断・治療の現状に関するデータをお示

しします。膵がんの治療を受けようと

される患者さんにとって貴重な情報を

提供できるよう尽力しています。是非

ご一読ください。

診 断

はじめに述べたように膵がんは診断

が難しい病気であり、他の病気との区

別がつきにくい場合も多いため、通常

複数の検査を組み合わせて診断を行い

ます。検査手順や行うことが可能な検

2

膵がん

Page 3: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

査は施設間で多少の差異はあるもの

の、今日我が国では、日本膵臓学会「科

学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライ

ン」2016年版の中に掲載されている膵

癌診断の手順(アルゴリズム)に準じ

て検査が進められます。

膵癌診断のアルゴリズムに記載の通

り、腹痛・背部痛、黄疸、体重減少な

どの症状や血液検査、腹部超音波検査

(US)によるスクリーニングから膵が

んが疑われた場合には詳しい画像検査

を行います。画像検査として造影コン

ピュータ断層撮影(CT)、造影磁気共

鳴画像(MRI)・磁気共鳴胆管膵管画像

(MRCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、

内 視 鏡 的 逆 行 性 胆 管 膵 管 造 影

(ERCP)、ポ ジ ト ロ ン 断 層 撮 影

(FDG-PET)が用いられます。これ

らの結果より総合的に画像診断がなさ

れます。さらにERCPやEUSを用い

て腫瘍から細胞や組織を採取し病理検

査を行います。これは膵がんの診断確

定に極めて重要ですが、一定の侵襲が

伴う検査であるため、当院では高度の

専門技術を有する医師に限定して行わ

れるシステムが確立しています。

当院ではアルゴリズムに示された全

検査の施行が可能であり、内科・外科

をはじめとした膵がん治療に従事する

全専門科が連携し、個々の患者さんに

必要な検査を見定め、安全に診断を進

めていきます。

外 科的治療

当院は膵がんを含めて膵切除術を年

間約100例行う全国有数の施設です。

膵がんには浸潤性膵管がん(通常型膵

がん)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(腺が

ん)、神経内分泌がん、その他悪性嚢胞

性腫瘍や肉腫などがあります。膵がん

の手術は膵頭部に存在する場合には

(幽門輪温存、亜全胃温存)膵頭十二指

腸切除術を、膵体尾部に存在する場合

には膵体尾部切除術を原則的に行い、

疾患に応じてリンパ節郭清を付加しま

す。また根治性が望める場合には膵全

摘術も行っています。切除不能膵頭部

3

Pancreatic Cancer

膵癌診断のアルゴリズム臨床症状、膵酵素/腫瘍マーカー/リスクファクター/US

造影CT and/or 造影MRI(MRCP) and/or EUS

ERCP and/or PET

確定診断

細胞診/組織診:可能な限り行うことが望ましい(EUS or ERP or US or CT)

科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2016年版より引用・改変

Page 4: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

がんの場合には、黄疸や消化管通過障

害の予防を目的としたバイパス術(胆

道バイパス術+胃空腸吻合バイパス

術)を行い、化学療法を計画通りに行

えるよう配慮しています。

1.浸潤性膵管がん

原則的にD2リンパ節郭清を伴う膵

切除術を行っており、必要に応じて門

脈などの血管合併切除・再建も行いま

す。術中放射線療法や術後予防的肝動

注療法を行った時期もありますが、十

分な効果は得られませんでした。切除

術後にはS-1もしくはジェムザールに

よる補助化学療法を原則として行って

います。最近では高度局所進行膵癌に

対する術前補助化学療法や重粒子線治

療も行っております。手術は開腹手術

が基本ですが、膵体尾部に存在する膵

がんには病変の進行具合に応じて腹腔

鏡下膵体尾部切除術(2016年4月保険

収載)が行われることもあります。

当院での1992年1月から2013年12月

までの浸潤性膵管がん337切除例の成

績を図1に示します。5年生存率は

Ⅰ;68%(21例)、Ⅱ;71%(9例)、

Ⅲ;29%(185例)、Ⅳa;14%(90例),

Ⅳb;11%(32例)です。

2.膵管内乳頭粘液性腫瘍

予後の良い膵がんとして本邦で初め

て報告され、現在は世界中で注目を集

め て い る 疾 患 で す。低 異 型

(low-grade dysplasia;LGD)、中等

度 異 型(intermediate-grade

dysplasia ; IGD)、高 度 異 型

(high-grade dysplasia;HGD)の

非浸潤腫瘍から、浸潤癌(invasive

adenocarcinoma;INV)へ進行して

いくことを特徴とし、ガイドラインに

示してある悪性を示唆する所見を有す

る際に切除術が勧められます。良性腫

瘍でも膵炎などの症状を有する場合に

は切除術の対象となります。これまで

の当院での切除例数は約350例で、世

界的にも有数なものです。良性腫瘍に

は膵分節切除術や、脾臓温存、十二指

腸温存などの臓器を温存した縮小手術

を行いますが、悪性腫瘍には浸潤性膵

4

膵がん

図1

Stage Ⅰ・ⅡStage ⅢStage Ⅳ

生 存 率

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0100 1208040 60200

生存期間(M)

Page 5: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

管がんと同様にD2リンパ節郭清を含

む膵切除術を原則的に行います。また

分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍は良性が

多いと言われていますが、分枝型腫瘍

の約10%に通常型膵がんが合併するこ

とを我々は報告しており、術前検査や

術後経過観察中も十分注意して診療を

行っています。

当院での1987年4月から2013年3月

までの膵管内乳頭粘液性腫瘍208切除

例の成績を図2に示します。5年累積

生存率はLGD 90%(88例)、IGD 85%

(41例)、HGD 87%(39例)、INV 29%

(40例)です。

3.その他の膵がん

原則的に通常型膵がんや膵管内乳頭

粘液性腫瘍に準じた治療を行います。

内 科的治療

1.膵がんに対する治療方針

現在の日本における膵がんの治療方

針は、その進行度によって、2016年版

膵がん診療ガイドラインの膵癌治療の

アルゴリズム(下図)に基づいて行わ

れており、当院でもそれに準じて治療

を行っています。

膵がんでは、腫瘍が小さく周囲臓器

に及んでいないもの(cStage 0〜Ⅱ)

に対しては外科手術が第一選択になり

ますが、周囲の大血管に浸潤したもの

(cStageⅢ)の一部、遠隔転移を有す

るもの(cStage Ⅳ)に対しては抗が

ん剤を用いた全身化学療法が行われま

す。cStage Ⅲの一部には化学放射線

療法が行われることもあります。外科

手術や放射線治療(化学放射線療法を

5

Pancreatic Cancer

図2

生 存 率

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.060 80 100 12040200

生存期間(M)

LGDIGDHGDINV

図:膵癌治療のアルゴリズム(膵癌診療ガイドライン2016年版より引用・改変)

診断確定

cStage 0,Ⅰ

切除可能

外科的療法 化学放射線療法 化学療法

切除可能境界 切除不能(局所進行)

切除不能(転移あり)

cStage Ⅱ cStage Ⅲ cStage Ⅳ

補助療法

Page 6: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

含む)については、それぞれ該当の項

をご覧ください。ここでは、現在当院

で膵がんに対して行っている標準的な

化学療法を紹介いたします。

2.膵がんに対する化学療法の

実際

1990年代前半までは有効な治療法が

ありませんでしたが、1990年代後半に

なり塩酸ゲムシタビン(商品名:ジェ

ムザール)が登場して、膵がんに対し

て優れた治療効果を示し、膵がんに対

する化学療法は大きく進歩しました。

その後、塩酸ゲムシタビンは世界中で

広く使用されるようになり、わが国で

も2001年に保険で認められました。さ

らに、わが国では塩酸ゲムシタビンの

他に、胃がんなどで用いられるS-1(商

品名:TS-1)も臨床試験で膵がんに対

して良好な効果が得られることが示さ

れ、2006年に保険で認められました。

2010年代に入るまで、日本では主とし

てこの2つの薬剤が使われてきまし

た。その後、ゲムシタビン単独より治

療効果が高い方法が報告され、日本国

内でも、塩酸ゲムシタビンにエルロチ

ニブ(商品名:タルセバ)を併用する

治療(2011年)、4種類の抗がん剤を併

用するFOLFIRINOX療法(2013年)、

塩酸ゲムシタビンにアルブミン結合型

パクリタキセル(商品名:アブラキサ

ン)を併用する治療(2014年)が次々

と認可されました。これらの新規治療

法の開発により、膵がんに対する化学

療法は近年大きく進歩しています。

いずれの化学療法も病状により入院

もしくは外来で導入し、副作用の程度

を見ながら患者さんごとに投与方法の

調整をしていきます。投与方法が安定

すれば、外来での治療継続が可能です。

以下にそれぞれの概要を示します。

⑴ 塩酸ゲムシタビン単独療法

塩酸ゲムシタビンによる治療は、1

週間に1回だけの点滴で、1回に投与

する量は身長と体重から算出した体表

面積から計算します。点滴に要する時

間は30分で、通常それに先行して予防

的に吐き気止めの点滴を15〜30分で行

います。1回の治療に要する時間は全

体でおよそ1時間前後です。これを3

週間続けて投与し、次の1週間はお休

みです。この4週間を1コースとして

繰り返していきます。当院での外来治

療は投薬日に来院していただき、採血、

担当医の診察後に投与可能であれば、

外来化学療法室で行っています。

⑵ S-1単独療法

S-1は内服薬で、体表面積から投与

6

膵がん

Page 7: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

量が決まり、朝夕2回に分けて食後に

内服します。通常はこれを28日間(4

週間)連日内服し、その後14日間(2

週間)はお休みとなります。この6週

間を1コースとして繰り返していきま

す。患者さんによっては、14日間(2

週間)連日内服し、その後7日間(1

週間)はお休みする方法で、3週間を

1コースとして繰り返すこともありま

す。

⑶ FOLFIRINOX療法(オキサリプ

ラチン、レボホリナート、イリノテ

カン、フルオロウラシル)

FOLFIRINOX療法は、オキサリプ

ラチン、レボホリナート、イリノテカ

ン、フルオロウラシルの4種類の抗が

ん剤を併用する治療法です。すべての

薬剤を点滴で投与します。オキサリプ

ラチン、レボホリナート、イリノテカ

ン、フルオロウラシルの急速静注まで

を1日目に投与し、その後2日間フル

オロウラシルの持続点滴を行います。

投与には3日間(全部で48時間)かか

るため、事前に中心静脈ポートの造設

(中心静脈カテーテルを挿入し、皮下

に埋め込む処置)が必要となります。

同様の治療を2週間毎に繰り返しま

す。ただし、この治療は副作用や体に

与える負担が比較的大きく、65歳以上

の患者さんには不適とされています。

そこで、当院を含めた多くの施設では

副作用を軽くするために、イリノテカ

ンを減量し、フルオロウラシルの急速

静注を省略した方法(modif ied

FOLFIRINOX:mFOLFIRINOX療法)

を用いています。mFOLFIRINOX療

法も通常のFOLFIRINOX療法と同様

の点滴時間(3日間)を必要とします。

通常のFOLFIRINOX療法を行うか、

mFOLFIRINOXを行うかは患者さん

ごとに決定します。

⑷ 塩酸ゲムシタビン+nab-パクリ

タキセル(アブラキサン)併用療法

膵がんに対する最も新しい治療法で

す。塩酸ゲムシタビンとnab-パクリ

タキセル(アブラキサン)を同じ日に

点滴にて投与し、その治療を週1回3

週間続けて投与し、4週目はお休みと

なります。1回の点滴時間は塩酸ゲム

シタビン単独治療より若干長くなりま

すが、全体のスケジュール(4週間を

1コース)は塩酸ゲムシタビン単独治

療と同様です。

これまで述べたように、膵がんの化

学療法には複数の方法があり、どの治

療法を用いるかは患者さんの年齢、全

身状態、元々の持病、などで異なりま

7

Pancreatic Cancer

Page 8: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

す。一般的に年齢が若く、全身状態が

良好な方は、⑶のFOLFIRINOX療法

(mFOLFIRINOX療法)か⑷の塩酸ゲ

ムシタビン+nab-パクリタキセル併

用療法を行うことが多いですが、⑶と

⑷のどちらが優れているかはまだ分

かっていません。担当医とよく相談

し、一緒に治療法を決めていくことが

非常に重要となります。

3.副作用

副作用は個人によって差があります

が、代表的なものを以下に示します。

すべての薬に共通する副作用として

は嘔気、嘔吐、便秘、下痢などの消化

器症状、倦怠感、食欲不振、一時的な

発熱、皮疹等が代表的です。これらに

対しては多くの場合、内服や点滴で対

応が可能ですが、程度が強い場合には

抗がん剤の減量や場合によっては中止

せざるを得ないこともあります。この

ほかに、自覚できない副作用として血

液を造る骨髄の機能が抑制される骨髄

抑制(白血球減少、貧血、血小板減少

など)や肝障害、腎障害があります。

これらに対しては定期的な血液検査を

行い、副作用の有無をチェックします。

骨髄抑制に対しては投薬量の減量など

で対応しますが、必要に応じて白血球

を増やす注射、赤血球や血小板の輸血

を行います。肝障害や腎障害に対して

は休薬や抗がん剤の減量などで対処し

ます。特にmFOLFIRINOX療法や塩

酸ゲムシタビン+nab-パクリタキセ

ル併用療法は抗がん剤の多剤併用療法

となるため、骨髄抑制も高度となるこ

とがあり、十分な注意を払って治療を

行っています。また、抗がん剤に共通

する副作用で重篤なものに間質性肺炎

や薬に対するアレルギーがあります。

間質性肺炎は、時として命に関わるこ

ともあり、投薬の中止や特別な治療(ス

テロイド治療)を考慮しなければなり

ません。息切れや空咳が続く場合には

担当医にご連絡ください。

その他、S-1に見られる副作用とし

て、口の粘膜が荒れる口内炎や、爪や

皮膚が黒ずんでくる色素沈着が挙げら

れます。口内炎に対しては外用薬の塗

布や痛み止めを含んだうがい薬などで

対応します。色素沈着に対しては、そ

れ自体で体調に悪影響を及ぼすことは

ないので特に対処はしませんが、特に

気になる場合は担当医にご相談くださ

い。FOLFIRINOX療法、塩酸ゲムシ

タビン+nab-パクリタキセル併用療

法に特徴的な副作用としては、高度な

骨髄抑制、末梢神経障害、間質性肺炎

8

膵がん

Page 9: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

が挙げられます。また、塩酸ゲムシタ

ビン+nab-パクリタキセル併用療法

では脱毛が高率に見られます。

副作用に対しては、早期発見、早期

治療、抗がん剤の休薬・中止にて対応

しています。ここに挙げていない予測

できない副作用が現れることもありま

すので、何か気になる症状がありまし

たら、遠慮なく担当医にご相談くださ

い。

放 射線治療

膵周囲(主に上腸間膜動脈、腹腔動

脈)への浸潤により切除不能と診断さ

れた場合、局所進行膵がんと呼ばれ、

肝転移などの遠隔転移がない場合、根

治的放射線治療の適応となります。膵

がんは進行すると神経を圧迫して強い

疼痛の原因となることがありますが、

このようながん性疼痛などの腫瘍随伴

症状は、緩和的放射線治療の適応とな

ります。

根治的放射線治療の場合、治療効果

を向上させるため、放射線増感剤とし

てジェムザールやTS-1などの抗がん

剤を併用するのが一般的です。

放射線療法には、体外照射と術中照

射があり、当院では通常、体外照射に

て治療を行っています。放射線の線量

は1日1回、週5回、1回につき

1.8〜2Gy(グレイ)、総線量50Gy程

度を行うのが一般的です。1回の治療

に要する時間は10-15分程度、その中

で実際に照射している時間は2〜3分

程度で、その間痛みや熱さを感じるこ

とはありません。放射線治療の計画

は、CTを用いた三次元治療計画装置

にて行います。腫瘍の進展形式および

周囲の正常臓器の耐容線量を考慮して

照射範囲を設定し、四門照射などの固

定多門照射を一般的に行っています。

重篤な副作用ができるだけ生じないよ

う、患者さんごとに処方線量やビーム

の角度・比率などを調節し、線量分布

を最適化しています。下図に四門照射

の例を呈示します。

一方、術中照射は開腹下に胃腸など

の正常組織をさけて病巣のみを照射す

る目的で開発された治療法です。病巣

に密着して照射するので、体外照射で

は不可能な高線量(10〜25Gy)を一度

に照射できる利点があります。術中照

射の予後延長効果については証明され

ておらず、標準的治療としては確立さ

れていませんが、局所制御率や除痛効

果は向上するとの報告もあります。

放射線治療の副作用は大きく急性期

有害事象と晩期有害事象に分けられま

9

Pancreatic Cancer

Page 10: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

す。急性期有害事象としては、食欲不

振、悪心、嘔吐、全身倦怠感、胃炎、

腸炎などがあります。晩期有害事象に

は肝機能障害、腎機能障害、消化性潰

瘍や腸穿孔などがありますが、重篤な

ものはまれです。

院 内がん登録情報

2007年から2015年までに膵がんの診

断を受けて九州大学病院で治療が行わ

れた患者さんは、875例であり、最近、

顕著に治療症例が増加しています。こ

れは、膵がん治療における当院の果た

す役割が年々大きくなっていることを

示しています。膵がんの進行度別に登

録症例数の割合をみると(図1)、ス

テージ0からステージⅡまでが52%、

ステージⅢが15%であり、ステージⅣ

が33%を占めています。最近の傾向と

しては、ステージ0からステージⅡま

での手術治療を基本とする患者さんの

増加が顕著です。

ステージⅠまでは、腫瘍が膵臓の中

に留まり、その大きさが2cm以下で、

リンパ節転移もない状態であり、その

殆どに手術が行われ、ステージⅠの約

4割の方に手術に加えて、抗がん剤の

併用治療が行われています(図3)。

ステージⅡAとステージⅡBは、腫瘍

が2cm以上ではあるが、近くの大き

な血管や神経などには及ばず、膵臓周

囲のリンパ節まで転移がある状態で、

その殆どに手術を中心とした治療が行

われ、約6割の患者さんに抗がん剤に

よる治療も併せて行われています(図

3)。膵がんの基本的な治療法は、手

術と抗がん剤治療を併せて実施するこ

とであり、そのことによって良い治療

成績が得られつつあります。

ステージⅢは、癌が大きな動脈や静

脈、神経、その他の臓器まで広がって

いて、リンパ節への転移は膵臓の近く

に留まる状態を主に言いますが、この

状態でも約60%の患者さんには手術が

行われ(図3)、その殆どの方に抗がん

剤による治療が行われています。

ステージⅣは、膵臓から離れたリン

パ節に転移するか、あるいは肝臓や肺

などに転移した状態で発見された場合

10

膵がん

Page 11: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

であり、その場合の手術実施率は10%

弱に留まっています。ステージⅣの場

合、殆どの方に抗がん剤による治療が

行われています。図4は膵癌のステー

ジ別の生存曲線を示しています。

11

Pancreatic Cancer

Page 12: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

―取扱い規約―

膵 2007-2015年症例のうち悪性

リンパ腫以外

治療前・取扱い規約ステージ

取扱い規約を基本に集計を行った。

なお参考としてUICCのデータを添付し

ている。2012年よりUICC第7版へ改訂

があったが、大きな変更はなかったため

通年でデータを集計した。

※症例2:自施設で診断され、自施設で

初回治療を開始(経過観察も

含む)

症例3:他施設で診断され、自施設で

初回治療を開始(経過観察も

含む)

※図4の生存曲線は全生存率として集

計(がん以外の死因も含む)

12

膵がん

Ⅱ6%

Ⅰ10%

0 2%

Ⅲ16%

ⅣA33%

ⅣB33%

図1 ステージ別症例数(症例2、3)

ステージ 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB 合計

症例数 21 89 54 138 290 290 882

割合 2% 10% 6% 16% 33% 33% 100%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

その他・不明0

がん検診・健康診断・人間ドック

他疾患の経過観察中(入院時ルーチン検査を含む)

Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB 合計3 26 22 69 192 213 525

15 55 21 58 76 54 279

3 8 11 11 22 23 78

図2 ステージ別発見経緯(症例2、3)

Page 13: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

13

Pancreatic Cancer

0%

20%

40%

60%

80%

100%

手術+内視鏡+薬物治療手術+内視鏡的治療手術+放射+薬物+その他治療

手術+放射線治療手術+薬物+その他治療

手術+放射+薬物治療

手術+薬物治療手術+その他治療手術的治療のみ内視鏡+薬物治療内視鏡+その他治療内視鏡的治療のみ放射線+薬物治療放射線治療のみ薬物治療のみ治療なし

00000130160

000000290540

000001240270

42030158

570

0

121319963722

1000022631915

0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB 合 計6416114236624517

0 0 1 0 2 0 30 0 1 3 2 3 90 0 0 1 15 4 200 1 0 0 0 2 30 2 0 7 77 203 2891 3 0 2 4 12 22

図3 ステージ別治療法(症例2、3)

九州大学病院 2007-2010年症例のうち、症例2、3 取扱い規約

生 存 率

経過月数

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.00 10 20 30 40 50 60

0Ⅰ

ⅣA

ⅡⅢ

ⅣB

図4 Kaplan-Meier生存曲線(膵)

Page 14: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

―UICC―

膵 2007-2015年症例のうち悪性

リンパ腫以外

治療前・UICCステージ

14

膵がん

0 2%

ⅠB6%

ⅠA10%

ⅡA28%

ⅡB6%

Ⅲ15%

Ⅳ33%

図1 ステージ別症例数(症例2、3)

ステージ 0 ⅠA ⅠB ⅡA ⅡB Ⅲ Ⅳ 合計

症例数 21 90 50 244 53 130 287 875

割合 2% 10% 6% 28% 6% 15% 33% 100%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

その他・不明0

がん検診・健康診断・人間ドック

他疾患の経過観察中(入院時ルーチン検査を含む)

ⅠA ⅠB ⅡA ⅡB Ⅲ Ⅳ 合計3 27 20 134 34 91 214 523

15 55 21 90 14 29 53 277

3 8 9 20 5 10 20 75

図2 ステージ別発見経緯(症例2、3)

Page 15: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

15

Pancreatic Cancer

0%

20%

40%

60%

80%

100%

手術+内視鏡+薬物治療手術+内視鏡的治療手術+放射+薬物+その他治療

手術+放射線治療手術+薬物+その他治療

手術+放射+薬物治療

手術+薬物治療手術+その他治療手術的治療のみ内視鏡+薬物治療内視鏡+その他治療内視鏡的治療のみ放射線+薬物治療放射線治療のみ薬物治療のみ治療なし

00000130

000000290

000001220

440315910

10020

261

2

001103412

100002243

64161142366

16 55 25 97 11 20 17 2410 0 0 1 0 1 15 170 0 1 0 0 1 1 30 0 1 2 1 2 3 90 0 0 6 1 9 4 200 1 0 0 0 0 2 30 2 0 28 8 46 202 2861 3 0 2 0 3 13 22

0 ⅠA ⅠB ⅡA ⅡB Ⅲ Ⅳ 合 計

図3 ステージ別治療法(症例2、3)

九州大学病院 2007-2010年症例のうち、症例2、3 UICC第6版

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.00 10 20 30 40 50 60

0ⅠA

ⅡB

ⅠBⅡA

ⅢⅣ

生 存 率

経過月数

図4 Kaplan-Meier生存曲線(膵)

Page 16: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

は じめに

胆道がん(胆嚢がん・胆管がん・十

二指腸乳頭部がん)のわが国における

罹患率は2013年で人口10万人あたり

17.4人と推定されています。年間死亡

者数は約2万人、全悪性新生物の約5

%にあたり頻度はそれほど多くはあり

ませんが、早期発見が難しく予後が悪

いことが特徴です。胆嚢がんはやや女

性に多く、一方胆管がん、十二指腸乳

頭部がんは男性に多い傾向が見られま

す。治療は外科手術が第一選択です

が、早期の診断が難しいことから切除

不能となることが少なくありません。

全国集計による切除率は胆嚢がん

69%、胆管がん70%、乳頭部がん89%、

根治につながる治癒切除は胆嚢がん

47%、胆管がん47%、乳頭部がん87%

となっています。切除不能胆道がんに

対する全身化学療法は、ゲムシタビン

とシスプラチンの併用療法(GC療法)

が標準治療として確立しています。ま

た、ゲムシタビンとS-1の併用療法

(GS療法)について、GC療法と同等

の効果があるかどうか評価する全国多

施設による臨床試験が終了しており、

現在解析結果待ちです。

診 断

胆道がんの診断のきっかけとなる症

状は、黄疸、腹痛が約80%を占めます。

また、無症状でも血液検査で血清ビリ

ルビン、アルカリフォスファターゼ、

γGTPなどの上昇、CEA、CA19-9な

どの腫瘍マーカーの高値を認めた場合

には、腹部エコー、CT、MRIや超音波

内視鏡(EUS)を行い、必要に応じて

侵襲的な検査である内視鏡的逆行性膵

胆道造影(ERCP)、経皮経肝胆管造影

(PTC)などを追加し診断を確定しま

す。当院では従来より多くのERCPや

PTCを行っており、管腔内超音波

(IDUS)、細径胆道鏡を併用した診断

に力を入れています。リンパ節転移や

遠 隔 転 移 の 検 出 に は PET 検 査

(FDG-PET)も有用です。

胆嚢がん

胆嚢がんは検診などの腹部エコーで

発見されることが多く、造影CTによ

り深達度や遠隔転移、脈管・周辺臓器

への浸潤などの評価を行います。最近

ではマルチスライスCT(MDCT)の

発達でより正確な診断が可能となって

います。EUSも深達度診断に有用で

す。ERCPでは、胆汁を採取すること

16

胆道がん胆道がん

Page 17: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

により細胞診を行うことができます。

胆管がん

胆管がんは黄疸や血液検査での肝障

害を契機に発見されることが多く、腹

部エコーによって拡張した胆管や狭窄

部位を描出することができます。腹部

エコーで描出が難しい場合もあります

が、その場合も磁気共鳴胆管膵管撮影

法(MRCP)を用いることで、胆管拡

張・狭窄の描出が可能です。ERCPや

PTCによる直接造影では狭窄範囲や

拡張の評価に加え、胆道鏡、IDUSを

用いたがんの進展範囲、深達度の詳細

な評価が可能で、さらに病理診断のた

めに細胞診・生検を行うことができま

す。黄疸がある場合には狭窄部にステ

ントを留置することで黄疸の改善が可

能です。

十二指腸乳頭部がん

十二指腸乳頭部がんの初発症状は黄

疸が最も多く、上部消化管内視鏡検査

で観察、生検を行い診断します。超音

波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)

を用いて病理診断を行う場合もありま

す。転移の有無の評価にはCT、MRI、

深達度の評価にはEUSが有用です。

また、がんが出現していない場合で

も膵胆管合流異常症、原発性硬化性胆

管炎などが胆道がんのリスクファク

ターとして知られており、MRCPや

EUS、ERCPで評価し診断が確定した

場合には、厳重な経過観察や予防的手

術が必要になることもあります。

外 科的治療

1.胆嚢がん

深達度に従い、固有筋層(mp)まで

の胆嚢がんには胆嚢全層切除術を、漿

17

Biliary Tract Cancer

粘膜癌(m)

粘膜層

固有筋層

漿膜下層

漿膜

固有筋層癌(mp) 漿膜下層癌(ss)漿膜面露出癌(se)多臓器浸潤癌(si)

胆道癌取扱い規約(第6版)

Page 18: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

膜下層(ss)の場合は肝切除と肝外胆

管切除+リンパ節郭清を、肝浸潤陽性

例にはリンパ節郭清を伴う(拡大)肝

右葉切除+肝外胆管切除を基本術式と

しています。隣接臓器浸潤例に対して

は、個々の状況に従って浸潤臓器の合

併切除を行っています。血管浸潤例に

対しても積極的な切除・再建を目指し

ています。

2.肝外胆管がん

胆管に沿ったがんの部位に従い、遠

位胆管がんには(幽門輪温存)膵頭十

二指腸切除術+リンパ節郭清術を、肝

門部領域胆管がんには根治性を重視し

た肝切除(拡大左もしくは右肝切除+

尾状葉切除)を基本術式にしています。

胆管上の広がりが遠位胆管より肝門部

領域に至る場合は肝葉切除+(幽門輪

温存)膵頭十二指腸切除が必要となり

ます。また、特に肝門部領域胆管がん

例では肝門の血管への浸潤を高頻度に

認めますが、浸潤血管の合併切除・再

建を行うことで切除率の向上に努めて

います。

治療成績

1.胆嚢がん

2000年より2015年までに切除した胆

嚢がんは44例(42−87歳(中央値68.5

歳)、男性21例、女性23例)でした。M

(粘膜)・mp(固有筋層)がん:10例、

ss(漿膜下層)がん:27例、se(漿膜

面露出)がん:4例、si(多臓器浸潤)

がん3例。生存中央期間(手術日より

患者の半数に生存が認められるもしく

は生存が期待できる期間)は、m・mp

がん:68ヶ月(図1赤線)、ssがん:

40ヶ月(図1青線)、se・siがん:24ヶ

月(図1緑線)です。

2.胆管がん

1985年より2015年までに切除した胆

管がんは175例(42-91歳(中央値68歳)、

男性114例、女性61例)でした。肝門部

領域胆管がん:74例、遠位胆管がん:

101例でした。5年累積生存率は肝門

部領域胆管がん:38%(図2青線)、遠

位胆管がん:50%(図2赤線)です。

18

胆道がん

図1 胆嚢がん予後

m,mpssse,si

生存率(%)

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.06050403020100

生存期間(月)

Page 19: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

内 科的治療

1.胆道がんに対する治療方針

九州大学病院では、胆道がんに対す

る治療は最新版の胆道がん診療ガイド

ラインに基づいて行っています。

胆道がんにおいて、治癒が望める唯

一の治療法は外科的切除ですが、切除

での治癒が見込めない(切除不能)胆

道がんに対しては全身化学療法(抗が

ん剤治療)が標準治療となり、閉塞性

黄疸のコントロールと並行して行いま

す。

2.閉塞性黄疸のコントロール

(減黄処置)

胆管がんの多くは放置すると黄疸が

増悪し、胆管炎を発症して全身状態を

悪化させます。そのため、全身化学療

法を行うかどうかにかかわらず減黄処

置を必要とすることが多くなります。

可能であれば、ERCPを行い十二指腸

乳頭部から胆管ステントを留置するこ

とになります。状態に応じてプラス

チック製のステントか金属製のステン

トが選択されます。また、ERCPでの

処置が困難な際にはPTBD(経皮経肝

胆管ドレナージ)や、EUS-BD(超音

波内視鏡下胆道ドレナージ)を行って

います。

3.切除不能胆道がんに対する

全身化学療法

現在、胆道がんにおける初回治療の

標準療法は塩酸ゲムシタビン+シスプ

ラチン併用療法です。他に塩酸ゲムシ

タビン単独療法、S-1(テガフール・ギ

メラシル・オテラシルカリウム配合剤)

単独療法、塩酸ゲムシタビン+S-1併

用療法が保険治療として可能であり、

年齢や全身状態、腎機能などを考慮し

て初回治療として用いることや、ゲム

シタビン+シスプラチン併用療法の効

果が不十分になった際の二次治療など

に用いられます。

①塩酸ゲムシタビン+シスプラチン併

用療法(GC療法)

塩酸ゲムシタビン、シスプラチンと

19

Biliary Tract Cancer

図2 胆管がん予後

生存率(%)

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.06050403020100

肝門部領域胆管癌遠位胆管癌

生存期間(月)

Page 20: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

もに1週間に1回の点滴治療です。1

回に投与する量は身長と体重から算出

した体表面積から算出され、塩酸ゲム

シタビンは1,000mg/㎡、シスプラチ

ンは25mg/㎡が目安となります。ま

ず、吐き気止めの点滴を15〜30分で

行った後に、塩酸ゲムシタビン、シス

プラチンを投与します。シスプラチン

は腎毒性の強い薬ですので、腎臓を保

護する目的で、抗がん剤の投与が終了

したあとに輸液負荷を行い、1回の治

療が終了します。1回の治療に要する

時間は全体でおよそ3時間です。これ

を2週間続けて投与し、次の1週間は

お休みします。この3週間を1コース

として、治療を繰り返していきます。

副作用の程度によって、吐き気止めを

さらに追加したり、1回の薬の量や治

療スケジュールを調節したりしなが

ら、患者さんの負担にならないように

継続していきます。投与方法が安定す

れば基本的には外来での治療継続とな

ります。当院での外来治療は投薬日に

来院し、採血、担当医の診察を受けて

いただきます。検査、診察の結果投与

可能と判断されたら外来化学療法室で

投与を行います。

②塩酸ゲムシタビン単独療法

塩酸ゲムシタビンのみの、1週間に

1回の点滴治療です。1回に投与する

量は体表面積当たり1,000mg/㎡が目

安となります。まず予防的に吐き気止

めの点滴を15〜30分で行います。続い

て塩酸ゲムシタビンの点滴を30分で投

与し、最後に生理食塩水を点滴します。

1回の治療に要する時間はおよそ1時

間前後です。これを3週間続けて投与

し、次の1週間はお休みです。この4

週間を1コースとして繰り返していき

ます。当院での外来治療は投薬日に来

院していただき、採血、担当医の診察

後に投与可能なら外来化学療法室で行

います。

③S-1単独療法

S-1は飲み薬で、体表面積や腎機能

から投与量が決まり、朝夕2回に分け

て食後に内服します。通常はこれを28

日間(4週間)連日内服し、その後14

日間(2週間)はお休みとなります。

この6週間を1コースとして繰り返し

ていきます。患者さんによっては、14

日間(2週間)連日内服し、その後7

日間(1週間)はお休みする方法で、

3週間を1コースとして繰り返すこと

もあります。

④塩酸ゲムシタビン+S-1併用療法

(GS療法)

前に述べた2つの薬剤を同時併用し

20

胆道がん

Page 21: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

て行います。塩酸ゲムシタビンは週に

1回2週間続けて投与(通常コース1

日目と8日目)、S-1は2週間連日内服

し、次の1週間は塩酸ゲムシタビン、

S-1ともにお休みです。この3週間を

1コースとして継続していきます。当

院での外来治療は塩酸ゲムシタビン投

与日に来院していただき、採血、担当

医の診察後に投与可能なら外来化学療

法室で塩酸ゲムシタビンの点滴を行い

ます。S-1は担当医の指示通りにご自

宅で内服していただきます。

4.全身化学療法の副作用

副作用は個人によって差があります

が、代表的なものを以下に示します。

すべての薬に共通する副作用として

は嘔気、嘔吐、便秘、下痢などの消化

器症状、倦怠感、食欲不振、一時的な

発熱、皮疹等が代表的です。これらに

対しては多くの場合、内服薬や注射薬

での対症療法で対応が可能ですが、程

度が強い場合には抗がん剤の減量や中

止が必要なこともあります。このほか

に、自覚できない副作用として血液を

造る骨髄の機能が低下する骨髄抑制

(白血球減少、貧血、血小板減少など)

や肝障害、腎障害があります。また、

頻度は多くありませんが注意するべき

副作用として、間質性肺炎があります。

間質性肺炎が起こると命に関わること

もあり、投薬中止、酸素投与やステロ

イド治療を考慮しなければなりませ

ん。息切れや空咳が続く場合には担当

医にご連絡ください。他の抗がん剤で

多く見られる脱毛はこれらの薬剤では

頻度はそれほど高くなく、起こっても

軽いと言われています。

その他、S-1に特徴的な副作用とし

て、口の粘膜が荒れる口内炎、爪や皮

膚が黒ずんでくる色素沈着などが挙げ

られます。口内炎に対しては外用薬の

塗布や痛み止めを含んだうがい薬など

で対応します。色素沈着に対しては、

それ自体で体調に悪影響を及ぼすこと

はないので特に対処はしませんが、特

に気になる場合は担当医にご相談くだ

さい。

また、シスプラチンに特徴的な副作

用としては、嘔気・嘔吐、高度な骨髄

抑制、腎障害が挙げられます。腎障害

を予防するために大量の点滴を投与す

る必要があります。

副作用に対しては、早期発見、早期

治療、抗がん剤の休薬・中止にて対応

しています。ここに挙げていない予測

できない副作用が現れることもありま

すので、何か気になる症状がありまし

21

Biliary Tract Cancer

Page 22: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

たら、遠慮なく担当医にご相談くださ

い。

5.今後の切除不能胆道がんに

対する化学療法

本邦でJCOG1113試験(塩酸ゲムシ

タビン+シスプラチン併用療法と塩酸

ゲムシタビン+S-1併用療法の比較試

験:国内第Ⅲ相試験)が行われ、現在

解析の結果を待っている状態です。

放 射線治療

胆道がんに対して放射線療法単独で

は根治することは難しく、放射線治療

は術後あるいは手術不能時や症状緩和

目的で行われます。具体的には、切除

断端部などにがんの遺残があるなど再

発の可能性が高い場合、合併症などの

ため手術が出来ない場合、がんによる

疼痛や黄疸などの症状緩和を目的とし

た場合などがあります。

治療効果を向上させるため、放射線

増感剤としてジェムザールやTS-1な

どの抗がん剤を併用することもありま

す。

胆道がんに対する放射線療法には、

体外照射と腔内照射があり、当院では

通常、体外照射にて治療を行っていま

す。放射線の線量は1日1回、週5回、

1回につき1.8〜2Gy(グレイ)、総線

量50Gy程度を行うのが一般的です。

1回の治療に要する時間は10-15分程

度、その中で実際に照射している時間

は2〜3分程度で、その間痛みや熱さ

を感じることはありません。放射線治

療の計画は、CTを用いた三次元治療

計画装置にて行います。腫瘍の進展形

式および周囲の正常臓器の耐容線量を

考慮して照射範囲を設定し、四門照射

などの固定多門照射を一般的に行って

います。重篤な副作用ができるだけ生

じないよう、患者さんごとに処方線量

やビームの角度・比率などを調節し、

線量分布を最適化しています。下図に

肝門部胆管がんに対する四門照射の例

を呈示します。

一方、腔内照射は胆管内に留置した

細いチューブを通して放射線源を挿入

し、病巣に密着して照射する方法です。

行えるケースは限られており、標準的

治療としては確立されていませんが、

正常組織をさけて病巣近傍から高線量

の放射線を照射することが可能です。

放射線治療の副作用は大きく急性期

有害事象と晩期有害事象に分けられま

す。急性期有害事象は、食欲不振、悪

心、嘔吐、全身倦怠感、胃炎、腸炎な

22

胆道がん

Page 23: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

どを生じることがあります。晩期有害

事象は胆道狭窄、肝機能障害、腎機能

障害、消化性潰瘍や腸穿孔などがあり

ますが、重篤なものはまれです。

院 内がん登録情報

2007年から2015年までに九州大学病

院で治療を開始された胆道がんの患者

さんは251例です。進行度別の患者さ

んの割合(図1)をみると、ステージ

ⅠからステージⅢまでは各々20%程に

なっており、ステージⅣは約40%と

なっています。治療法をみると、ス

テージⅠからステージⅢまでは、手術

単独での治療または手術に抗がん剤治

療を加えて行われることが多くありま

す。腫瘍が近くのリンパ節へ転移した

り、肝臓や膵臓、大きな動脈や静脈ま

で直接広がっているステージⅢまでの

患者さんには約半数に手術または手術

と抗がん剤による治療が行われていま

すが、肝臓や肺などに転移しているス

テージⅣの場合にはがんを切除するた

めの外科的な手術は行われず、抗がん

剤による治療が主に行われています

(図3)。最近の胆道がん治療の特徴と

して、抗がん剤の治療が積極的に行わ

れるようになったことがあり、一部の

患者さんには放射線による治療も行わ

れています。図4は胆道がんのステー

ジ別の生存曲線を示しています。

23

Biliary Tract Cancer

Page 24: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

―取扱い規約―

胆道 2007-2013年症例のうち悪

性リンパ腫以外

治療前・取扱い規約ステージ(胆

道癌取扱い規約第5版)

取扱い規約を基本に集計を行った。

2014年の改訂時に大きな変更があった

ため、2013年までの第5版と2014年から

の第6版を分けて集計をしている。

なお参考としてUICCのデータを添付し

ている。

※症例2:自施設で診断され、自施設で

初回治療を開始(経過観察も

含む)

症例3:他施設で診断され、自施設で

初回治療を開始(経過観察も

含む)

※図4の生存曲線は全生存率として集

計(がん以外の死因も含む)

24

胆道がん

Ⅰ20%

Ⅱ19%

Ⅲ19%

Ⅳ42%

図1 ステージ別症例数(症例2、3)

ステージ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 合計

症例数 51 47 47 106 251

割合 20% 19% 19% 42% 100%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

その他・不明

がん検診・健康診断・人間ドック

他疾患の経過観察中(入院時ルーチン検査を含む)

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 合計30 28 29 77 164

19 16 15 25 75

2 3 3 4 12

図2 ステージ別発見経緯(症例2、3)

Page 25: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

25

Biliary Tract Cancer

0%

20%

40%

60%

80%

100%

手術+内視鏡+放射線+薬物治療手術+内視鏡+薬物治療手術+内視鏡+その他治療手術+内視鏡的治療手術+薬物治療手術+その他治療手術的治療のみ内視鏡+放射線+薬物治療内視鏡+薬物治療内視鏡的治療のみ放射線+薬物+その他治療

治療なし

放射線+薬物治療放射線治療のみ薬物+その他治療薬物治療のみその他治療のみ

110261311

000014000

0112130190

0100181230

13145121051

120

000

120

881

10121

2 0 0 1 31 0 0 0 10 0 0 1 11 1 4 40 460 0 0 1 11 0 4 3 8

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 合 計

図3 ステージ別治療法(症例2、3)

Page 26: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

胆道 2014-2015年症例のうち悪

性リンパ腫以外

治療前・取扱い規約ステージ(胆

道癌取扱い規約第6版)

26

胆道がん

01%

Ⅰ34%

Ⅱ29%

Ⅳ22%

Ⅲ14%

図1 ステージ別症例数(症例2、3)

ステージ 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 合計

症例数 1 27 23 11 17 79

割合 1% 34% 29% 14% 22% 100%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

その他・不明

がん検診・健康診断・人間ドック

他疾患の経過観察中(入院時ルーチン検査を含む)

0 Ⅱ Ⅲ Ⅳ 合計1 17 7 13 56

0 3 3 4 16

0

Ⅰ18

6

3 3 1 0 7

図2 ステージ別発見経緯(症例2、3)

Page 27: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

27

Biliary Tract Cancer

0%

20%

40%

60%

80%

100%

手術+放射線治療手術+薬物+その他治療手術+薬物治療手術的治療のみ内視鏡+薬物治療内視鏡+その他治療内視鏡的治療のみ薬物治療のみ治療なし

00010000

005210000

004150111

11261000

01111117

1212442228

0 1 1 0 4 6

0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 合 計

図3 ステージ別治療法(症例2、3)

九州大学病院 2007-2010年症例のうち、症例2、3 取扱い規約

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.00 10 20 30 40 50 60

ⅠⅡⅢⅣ

生 存 率

経過月数

図4 Kaplan-Meier生存曲線(胆道)

Page 28: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

―UICC―

胆道 2007-2015年症例のうち悪

性リンパ腫以外

治療前・UICCステージ

28

胆道がん

Ⅰ37%

Ⅱ32%

Ⅲ10%

Ⅳ20%

01%

ステージ 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 合計

症例数 2 123 106 34 65 330

割合 1% 37% 32% 10% 20% 100%

図1 ステージ別症例数(症例2、3)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

その他・不明

がん検診・健康診断・人間ドック

他疾患の経過観察中(入院時ルーチン検査を含む)

0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 合計1 79 73 17 49 219

1 36 26 14 15 92

0 8 7 3 1 19

図2 ステージ別発見経緯(症例2、3)

Page 29: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

29

Biliary Tract Cancer

0%

20%

40%

60%

80%

100%

手術+内視鏡+放射線+薬物治療手術+内視鏡+薬物治療手術+内視鏡+その他治療

手術+放射線治療手術+薬物+その他治療

手術+内視鏡的治療

手術+薬物治療手術+その他治療手術的治療のみ内視鏡+放射線+薬物治療内視鏡+薬物治療内視鏡+その他治療内視鏡的治療のみ放射線+薬物+その他治療放射線+薬物治療放射線治療のみ薬物+その他治療薬物治療のみその他治療のみ治療なし

000000001000000

11130023182110203

02000030050041310

0001115113020100

000001502051801

13141263214811221414

1 0 0 0 0 10 0 1 0 0 10 1 12 5 36 540 0 0 1 0 10 3 2 3 6 14

0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 合 計

図3 ステージ別治療法(症例2、3)

九州大学病院 2007-2010年症例のうち、症例2、3 UICC第6版

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.00 10 20 30 40 50 60

0Ⅰ

ⅡⅢ

生 存 率

経過月数

図4 Kaplan-Meier生存曲線(胆道)

Page 30: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

30

MEMO

九州大学病院がんセンター

Page 31: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

31

MEMO

九州大学病院がんセンター

Page 32: 膵がん・胆道がんの受診から診断、 治療、経過観察 …...は じめに 2015年の我が国の統計によると、膵 がんは男性では第5位、女性では第4

32

2018年3月2018年3月