しきい値電圧をプログラム可能な 超低消費電力fpgaの開発 · verilog vhdl .tg...

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研究領域「情報システムの超低消費電力化を 目指した技術革新と統合化技術」 しきい値電圧をプログラム可能な 超低消費電力FPGAの開発 独立行政法人 産業技術総合研究所 エレクトロニクス研究部門 エレクトロインフォマティクスグループ 小池 汎平 1. 研究の背景 2. Flex Power FPGAの提案 3. CREST/ULPでの研究開発 4. これまでの研究成果

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Page 1: しきい値電圧をプログラム可能な 超低消費電力FPGAの開発 · Verilog VHDL .tg .rrg Synthesis DC/RTLC Placer VP CGEN .cfg LUT Map CLB Pack .blif .net .lut Router

研究領域「情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術」

しきい値電圧をプログラム可能な超低消費電力FPGAの開発

独立行政法人 産業技術総合研究所 エレクトロニクス研究部門 エレクトロインフォマティクスグループ

小池 汎平

1.  研究の背景 2.  Flex Power FPGAの提案 3.  CREST/ULPでの研究開発 4.  これまでの研究成果

Page 2: しきい値電圧をプログラム可能な 超低消費電力FPGAの開発 · Verilog VHDL .tg .rrg Synthesis DC/RTLC Placer VP CGEN .cfg LUT Map CLB Pack .blif .net .lut Router

研究の背景 1. LSI微細化にともなう静的消費電力の増大

•  LSIの消費電力=動的消費電力+静的消費電力

•  トランジスタの微細化にともない、漏れ電流による静的消費電力の増大が深刻に

トランジスタの微細化

信号振幅小 より深刻なIonとIoffのトレードオフ

静的消費電力↑↑

動的消費電力↓ €

12f • C •V 2 + Ileak •V

Ileak • サブスレショルド漏れ電流 • ゲート漏れ電流�

From Intel Tech. Journal, Vol.06, Issue02, May,2002 From Morifuji et.al., IEEE Trans. on E.D., Vol.53, No.6, June 2006

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研究の背景 1. LSI微細化にともなう静的消費電力の増大

High-Vt: オン電流は減るが オフ電流も減少 (消費電力優先)�

Low-Vt: オン電流は増えるが

オフ電流も増加 (速度優先)

ドレイン電流(対数)

Vg Von

しきい値電圧 Vt

Ion

Ioff

Voff 信号振幅

•  限られた信号振幅で、スイッチを十分にオンにすることを優先するか(速度優先)、スイッチを十分にオフにすることを優先するか(消費電力優先)は、トランジスタのしきい値電圧 Vtできまる

•  回路中のトランジスタのしきい値電圧を最適化し、漏れ電流を削減する手法が一般的になっている

•  トランジスタの Vt の制御法 1. 静的 Vt 制御 (プロセスパラメータの調節) • デュアル Vt CMOS Pentium4 他 (Intel) [VLSI2002] • トリプル Vt デバイス Power5 (IBM) [ISSCC2004] • トリプルオキサイド Vertex4 (Xilinx)

2. 動的 Vt 制御 (Vt を電気的に制御) • バルク MOSにボディバイアス電圧を印加 (VTCMOS) • ダブルゲート MOSの第2ゲートを利用(XMOS)

小電力・低速High-Vt

クリティカルパス

高速・大電力 Low-Vt

クリティカルパス 回路にのみLow-Vt を使用

制御 電圧 制御

回路

制御 電圧 制御

回路

ダブルゲート MOS

バルク MOS

Vbody=+0.5, 0, -0.5, -1.0, -2.0 V

Vg

I d (L

inea

r) Ionは数10%の変化 �

I d (L

og)

Vg

Ioffは2桁の変化 �

Vbody=+0.5, 0, -0.5, -1.0, -2.0 V

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研究の背景 2. FPGAの重要性の増大と深刻な消費電力問題

•  FPGA (Field Programmable Gate Array: プログラム可能論理素子)は、いまやスーパーコンピュータ(Cray XD1アルゴリズムアクセラレータなど)から各種情報家電まで、幅広い分野で大量に利用されている。

•  FPGAによるASIC市場の置き換えが急速に進んでいる状況

Cray XD1(Cray Inc. ホームページより)� カメラ一体型VTRでの使用例(日経エレクトロニクス誌2004年8月30日号より)�

日経エレクトロニクス誌2006年4月24日号より� FPGAは新たな「産業のコメ」にもなりうる技術に成長

•  FPGA is Amazon Amazon.com が書籍市場のロングテイル

から利益を生み出す

のに成功したように、

LSI市場のロングテイ

ルから大きな利益を

生み出せる

生産量�

LSIの品種

少数の標準品 (CPU,ASSP…)

ロングテイル (FPGA=ANSP)

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半導体業界の最近の話題

9月 Intel、組み込み向け再構成プロセッサStellartonを予告

‒  Atom E600 + Altera FPGAをSiPで

11月 米Achronix 社がIntelと22nmプロセスで新型FPGAを製

造する戦略的提携

‒ 高クロック非同期型FPGA「Speedster22i」ファミリ

11月 Xilinxが3D実装技術によるマルチダイチップを発表

‒ シリコンインターポーザーにより大規模FPGAを実現

FPGAの重要性はますます高まってきている

大手Xilinx/Alteraとともに新興FPGAベンダーが台風の目に

FPGAはメモリ・プロセッサと並ぶテクノロジードライバに

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深刻なFPGAの消費電力問題

トランジスタの微細化にともない、漏れ電流による静的消費電力の増大が深刻に

将来のFPGAの消費電力の動向を予測 (動的消費電力を12倍、静的消費電力を87倍)

FPGA vs. ASIC

面積 40:1

クリティカルパス遅延

3.2:1

動的消費電力 12:1

静的消費電力 87:1

FPGAの静的消費電力問題はより深刻

48.3% 74.5%

89.5%

96.3%

98.5%

Kuon and Rose, Measuring the Gap Between FPGAs and

ASICs, FPGA 2006, Feb. 2006 Morifuji et.al., IEEE Trans. on E.D., Vol.53, No.6, June 2006

小電力・低速High-Vt

クリティカルパス

高速・大電力 Low-Vt

回路を書き込むまでクリティカルパスが決まらな

いFPGAは静的なしきい値電圧の最適化も困難

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(FP)2GA : Flex Power FPGAの提案

Flex Power FPGA

Circuit Configurability + Power Configurability

クリティカルパス

Low Vt

High Vt

Logic Block

SRAM�

(FP)2GA �

Switch Block

Circuit Conf. Mem. Power

Conf. Mem.

•  回路構成情報メモリに加えて、しきい値情報メモリを新たに用意、その内容によって各部回路のトランジスタのVtを電気的に制御し、FPGAでしきい値電圧の最適化を実現

•  回路速度・電力情報メモリの内容は、FPGAにマップする回路のクリティカルパスを分析してVtマッピングを行う、専用の省電力CADソフトウェアによって決定

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シミュレーションによる予備評価

Static power reduction in 20 MCNC benchmarks (BPTM 70 nm, high performance)

Power and speed comparison with 4 types of FPGA

Kawanami et.al.: Preliminary Evaluation of Flex Power FPGA, IEICE Trans. Inf. & Syst., Vol.E87-D, No.8, Aug. 2004

シミュレーションにより低消費電力化の効果を評価

20種類のベンチマーク回路について静的消費電力の比率を比較

→ Flex Power FPGA は動作周波数を落とすことなく

静的消費電力を最大1/30に削減可能

Low-Vtのノード数の割合 ≈ 1.3%

Hi-Vtの場合のIoff ≈ 1/50

1×1.3%+1/50×98.7% ≈ 1/30

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JST/CREST「情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術」

Flex Power FPGAについて、アーキテクチャの検討、内部回路の検討、試作チップの設計・改良、省電力CADソフトウェアの開発・改良にわたる研究を統合的に進め、実チップの試作と評価改良を繰り返すことによって、Flex Power FPGAの低消費電力性能を実証する。これらを通じて、実用レベルのFlex Power FPGAチップ・周辺ソフトウェアの開発を目指す さらに、Flex Power FPGAと、動的リコンフィギャラブル技術等の新たな技術を融合、FPGAの静的消費電力を従来の100分の1以下に削減することを目指す

Flex Power FPGA基本チップの開発:

• FPGAフル機能の集積 • 上記チップ用CADソフトウェア環境の整備

Flex Power FPGA改良チップの開発:

• 回路・面積等を改良・性能最適化 しきい値制御の細粒度化・面積

オーバヘッドの削減

FPGAとしての機能性向上

• 配置・配線・Vtマッピングソフトウェアの改良・機能性向上

Flex Power FPGA発展チップの開発:

• 1/100を目指し新機能を導入 • Dynamic Flex Power FPGA 処理に応じてVtマッピングを

動的に変更可能

• Super Flex Power FPGA 制御性の良好なトランジスタ

の採用

• Robust Flex Power FPGA デバイス特性ばらつき補正

2006 2007 2008 2009 2010 2011 4 10 4 10 4 10 4 10 4 10 4 10 3

実験チップ TEGチップ 0708チップ 0711チップ

(11→1/E) (8→10/E) 実験環境 整備 新ソフトウェアツール開発 Flex Power VPR

0812チップ

(12→2/E)

設計環境 再構築

1002チップ

チップ評価

成果の技術移転

11XXチップ 評価 新チップ設計

  ツールの整備

  発展チップの性能予測

  デモ!

研究メンバー:  産総研:小池  明治大:堤  金沢工大:河並  

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試作チップの開発

0812チップの特徴 • 2BLE/CLBのクラスタ構造 • 長さ2の単方向セグメント2本/方向 • タイルあたり16箇所、全体で576箇所のVt制御ドメイン • 確実な動作を目指したシンプルで共通化された設計

1002チップの特徴 • LPプロセスによるVt制御範囲の拡大、デバイス動作最適化

Flex Power FPGAの概念を実証すべく、標準CMOSテクノロジーLSI試作

サービスを利用して、一連の試作チップを開発

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試作チップの評価

静的漏れ電流実測結果(カウンタ回路、電源保護回路漏れ電流補正後)

• 動作速度を落とさずに漏れ電流を大幅に削減できることをを実チップで証明 • 削減効果大幅向上のための動作最適化、アーキテクチャ改良、実用応用回路での効果実証のための規模拡大を目指した、最新試作チップを設計中

日置他.: 電力再構成可能なFlex Power FPGAの低電力プロセスによる試作と評価, デザインガイアで発表予定

41MHz

41MHz

34MHz

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数値目標達成へ向けて:次期試作チップでの改良

6

8

2

以下の3点により更なる消費電力削減を目指した次期試作チップを設計中 • しきい値制御粒度の細粒度化/粒度のバランス化 • より現実的な回路での評価を可能にする大規模化

• デバイス動作条件の更なる最適化

6x6のタイルでしきい値制御ドメイン数は16/タイル×36=576 16bitカウンタの場合、LVTのドメインが55、HVTのドメインが521 ⇒ 漏れ電流削減上限1/10? 実際には16/55を占めるBLEの回路規模が他と比べ大(約7倍) ⇒ 漏れ電流削減上限1/6.7

カウンタ回路の実測LVT比率は16%  不利な例!!

しきい値制御粒度の大

きな回路がネックに!!

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専用ソフトウェアツールの開発

Flex Power FPGAを利用するために必要となるソフトウェアツール群を独自開

発し、HDLで記述された応用回路をFPGA書き込みデータにまで自動変換可

能な、商用ツールと同機能以上の機能を有するCADフローを構築。実用レ

ベルへ向けて改良を継続中

Verilog VHDL

.tg .rrg

Synthesis DC/RTLC

Placer VP

CGEN

.cfg

LUT Map CLB Pack

.blif .net

.lut

Router VR

CNV

.bnl .rrq .rrt

GGEN

.rrg

.arch

VTMAP

.pls 業界標準 商用論理

合成ツール と連動

タイミング解析電力解析等の

商用ツールとの連動も予定

試作チップへ書き込み

電力削減のための

自動しきい値マッピング

ハードウェア記述言語に

よる応用回路の記述

半導体ばらつき対応配線機能

CADフロー全体を連動させて得た論理合成結果を、試作チップに書き込み正しい動作を確認

実用規模応用回路(16ビットマイクロプロセッサコア等)での動作をベリファイアで検証済

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専用ソフトウェアツールの開発

大規模応用回路での精密な性能予測が可能に

クリティカルパスの配線を分析し、予想結果と比較

本ツールを用いてLow-Vt比率を再測定、様々な応用回路で1-4%程度を確認

Flex Power FPGAを対象とした配置/配線/VTマップ結果の詳細な分析が可能

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まとめ

1. 研究の背景 •  LSI微細化に伴う静的消費電力の増大 •  FPGAの重要性の増大と深刻なFPGAの消費電力問題

2.Flex Power FPGAの提案

•  メモリの内容で回路各部のVtを電気的に制御し、FPGAでしきい値電圧の最適化を実現 •  シミュレーションで動作周波数を落とすことなく静的消費電力を削減可能であることを確認

3. CREST/ULPでの研究開発

•  実チップの試作により、Flex Power FPGAの低消費電力性能を実証 •  実用レベルのFlex Power FPGAチップと専用ソフトウェアツールの開発

4. これまでの研究成果

•  一連の試作チップの開発 ⇒ 低消費電力効果の実チップによる証明に成功、更なる改良へ •  専用ソフトウェアツールを開発 ⇒ 実用化を視野に入れたトータルシステムを構築 •  これらの研究成果は、すでにDreamChip/LEAPプロジェクトに技術移転され活用されている