中露ガスパイプライン「シベリアの力」稼働が持つ意味 ......2019/12/19  ·...

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独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 20191219調査部/ロシアグループ 担当調査役 原田 大輔 中露ガスパイプライン「シベリアの力」稼働が持つ意味 ロシア産ガス(北極及び東シベリア)を巡る中露それぞれの戦略~

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  • 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構2019年12月19日調査部/ロシアグループ 担当調査役 原田 大輔

    中露ガスパイプライン「シベリアの力」稼働が持つ意味~ロシア産ガス(北極及び東シベリア)を巡る中露それぞれの戦略~

  • 免責事項本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

  • PL(Druzhba etc): 3.3MMBD

    PL:186BCM/y

    *Ukraine経由:142BCM/y

    Kazakhstan-China PL

    0.4MMBD

    Turkmenistan-China PL

    30BCM/y45BCM/y

    CAC

    45BCM/y

    Yamal LNG: 16.5MMt/y(22BCM/y)

    Arctic LNG-2: 19.8MMt/y(27BCM/y)

    出典: グラフィック:Wikipediaパブリックドメインより。JOGMEC、IEA-WEO 2019、各プロジェクト情報から筆者取り纏め

    各国が模索する供給源・供給ルートの多様化:21世紀のグレートゲーム

    ESPO-PL: 1.0MMBD

    Sakhalin-2LNG: 10.8MMt/y

    (15BCM/y)

    3

    860BCM

    282BCM

    ▲14BCM@2030

    ▲50BCM@2040

    62BCM

    +69BCM@2030

    +134BCM@2040

    120BCM

    607BCM +α

    231BCM

    +251BCM@2030

    +373BCM

    @2040

    19BCM

    81BCM

    715BCM

    +138BCM@2040

  • ロシアの市場確保とルート多様化・EUへの揺さぶり・中国の中央アジア進出 4

    供給源多角化

    資源確保

    PL構築と

    上流参画による

    支配強化

    NOVATEK株主Yamal・Arctic LNG

    Nord Stream

    Turk Stream Turk Stream

    ★BTC/SCP★Nabucco(OMV)

    →Turk Streamに吸収★TAP・TANAP

    欧州直接販売ルート構築

    EU内の反目誘発・揺さぶり

    ★アルタイ★SKV+極東新規PL

    ロシア迂回

    ルート構築

    米国シェールLNG売込み・制裁

    反露の

    東欧・中欧

    ウクライナ

    供給途絶

    問題

    ★トルクメ~中国ガスPL

    ★カザフ~中国原油PL

    東シベリア

    極東開発

    加速化

    ESPO-PL

    出典:各社・プロジェクト情報から筆者取り纏め

    EUにおける親露派取り込み

    仏 墺 伊独

    シベリアの力

  • 12月2日、露中各都市をTV中継で結び、「シベリアの力開通式典」開催 5

    ブラゴヴェシチェンスク

    チャヤンダ・ガス田

    コヴィクタ・ガス田

    2,160km

    アムールガス精製プラント

    704km

    黒海沿岸・ソチ 北京 中国国境:黒竜江省黒河

    露国境:アタマンスカヤCS

    チャヤンダ・ガス田

    「シベリアの力」天然ガスパイプラインの諸元

    ルート ロシア~中国(陸上)

    稼働年 2019年12月2日(月)

    距離2,864km(ロシア国内)

    ※中国国内は3,371km(黒竜江省~上海)。黒竜江省~吉林省までの1,067kmは10月に完成し、今後2024年までに上海区間を建設。

    容量/口径 38~60BCM/年/56 inch(陸上)

    コスト ~680億USD(推定)/22.8MMUSD/km

    PL所有者(中流)

    ロシア国内 Gazprom Transgaz Tomsk:100%

    中国国内 CNPC(Petrochina):100%

    供給源(東シベリア)

    ガス田 発見年 埋蔵量(AB+C2) 生産見通しHe

    含有率窒素含有率

    チャヤンダ 1983年ガス 1.2TCM 年間25BCM

    0.6% 7.7%NGL 4.5億BBL 4.6万BD

    コヴィクタ 1987年ガス 2.7TCM 年間25BCM

    0.2% 1.6%NGL 6.6億BBL -

    上流権益(上流)

    Gazpromが供給者(100%)

    ガス購入者(下流)

    CNPC(Petrochina)が購入者(100%)

    「シベリアの力」パイプライン敷設の様子

    出典:ロシア政府大統領府、Gazprom公開情報等から筆者取り纏め

    開通式典のTV中継の様子

  • 本日の報告事項2014年5月に締結された、総額4000億ドル・史上最大の契約とも言われる中露天然ガス長期売買契約。欧米制裁によってロシアが国際社会で孤立する中、7年越しの交渉を経て合意に至った背景を再考する。

    稼働開始後、潜在的な問題となる可能性があり得るのは、①価格交渉の再燃②(当面は)中国東北部の需要量動向と契約数量見直しの可能性③「シベリアの力」と両輪を為すアムールガス精製プラントの稼働に伴う順調なマネタイズ実現の是非

    中国は2006年にLNG輸入を開始し、2009年にトルクメニスタン、2015年にミャンマーからパイプラインガスを調達。更に2013年にはヤマルLNG、2019年にはアルクチクLNG-2参画により上流権

    益も獲得。供給ルート・供給源の多様化とロシア産ガスをソース別に天秤に掛けることが可能であり、ガス交渉では優位に立つ。

    ロシアがシベリアの力をSKVパイプラインのあるハバロフスクまで延伸し、ウラジオストクLNGを再度立ち上げる動きが出る=交渉・見通しが難航/対中レバレッジを求める動き。

    日中が参画した北極圏のLNGプロジェクト。どの程度のLNGが世界市場に出てくるのかを試算。北極海航路の特殊輸送スキームの実現と対中供給の見通しを考える。

    6

  • SKVパイプライン2011年9月稼働開始

    最終的に接続に至っていない区間

    SKV天然ガスパイプラインの諸元

    距離 1822km

    口径 700mm, 28inch-1220mm, 48inch

    容量(年間) ~30BCM

    総事業費 当初110→258億USD

    単価 6.0→14.0MM$/km

    稼働開始 2011年9月

    供給源 サハリン(S-3)

    タイインポイント 中国東北地域

    課題 限られた需要による稼働率の低下。中国東北地域の需要に左右

    YKVパイプライン=「シベリアの力」2019年12月稼働開始

    2012年ウラジオAPECでの国威発揚

    時期 当事者 内容

    2007年9月、東方ガスプログラム採択

    2014年1月 CNPC Yamal LNG 20% purchase

    2014年3月、欧米制裁発動

    2014年5月 Gazprom SPA with CNPC, Power of

    Siberia, 30years, 38BCM

    2014年11月 Gazprom FA with CNPC, Altai-PL

    2015年5月 Gazprom HOA with CNPC, Altai-PL

    2015年9月 Silk Road Fund Yamal LNG 9.9% purchase

    Gazprom MOU with CNPC, Far East PL

    ★欧米制裁が加速する露の対中歩み寄り(2014年以降)

    ★油価高騰による余剰を活用する東方ガスプログラムの始動(2007年)

    東方ガスプログラムの始動と挫折/欧米制裁による中国への歩み寄り

    出典:ロシア政府産業エネルギー省、Gazprom公開情報等から筆者取り纏め

    2011年9月SKV-PL建設・稼働2012年9月APECウラジオ開催

    7

  • 2014年5月22日に締結された露中天然ガス長期売買契約とは 8

    ・国際価格は露国境で統一。(EU向け価格=中国価格)・上流解放せず。(トルクメの二の舞回避)・融資買ガス契約を目指し、引取保証を目指すも、実現せず。・欧米制裁による孤立と無視できない市場・中国への接近。

    ★当時言及された契約内容・条件に関する情報

    「交渉担当者たちはレモンの搾りかすのような状態になった。契約調印の方向に事態が進展し始めたのはモスクワ時間の深夜12時を回ってからであった」と辟易とした様子で語った。(ヴェードモスチ/2014年5月22日付)

    中露首脳が見守る中でのGazprom及びCNPCによる天然ガス売買契約署名式

    ・国内統制価格。・需要地のある北京、華東地域までの輸送タリフ分減額を要望。・上流参画による利益最大化を目指すも実現せず。融資実行せず。(ヤマルLNG及びアルクチクLNGに参画することで上流資産獲得を達成)

    出典:当時の報道情報から筆者取り纏め。写真はGazprom公開資料より

  • 中国の天然ガス調達先の現状と価格/ロシアの供給価格の比較 9

    欧州向けガス価格7.88$/MMBTU

    FSU向けガス価格5.97$/MMBTU

    国内向けガス価格2.07$/MMBTU

    出典:Gazprom年次報告書、中国通関統計及びSIA Energy試算

    ★対中ガス供給価格の比較(2011年~2018年平均)及び推移

    ★ロシア産ガス供給価格の比較(2011年~2018年平均)

    $/MMBTU

    1.69

    4.34

    5.83

    6.03

    6.38

    6.56

    9.75

    2018年価格

    10.22LNG

    6.90

  • ★IEA-WEO2017:中国特集での見通し

    ★IEA-WEO2019:中国需給見通し

    $9.22

    $8.22

    $7.22

    $9.75@2018年

    $5.83@2018年

    $6.03@2018年

    $6.38@2018年

    $6.83

    $10.83

    $7.83

    $8.83

    $9.83

    $10.22

    @2018年

    BCM 2025 2030 2035 2040

    PL 131 152 165 195

    LNG 99 131 159 154

    10

    ★2018年ネットバックから見た想定ガス価格

    価格司による国内統制供給価格=$6.90±20%($8.28~$5.52)

    ★中国の天然ガス需給見通しにおけるPLとLNGの比率想定

    出典:IEA-WEO、国家発展改革委員会資料から筆者取り纏め

    中国の天然ガス需要見通しと想定される天然ガス価格

  • ②ESPO原油PLの事例

    ルート 稼働年

    ロシア~中国支線・太平洋 2009年12月

    距離 4,740km (ESPO-1:2,694km/ESPO-2:2,046km)

    容量 口径

    ESPO-1:1.6MMBD ESPO-2:1.0MMBD 48/inch

    コスト 240億USD以上(推定)/5.1MMUSD/km

    PL所有者 ロシア国内 Transneft : 100%

    中国国内 CNPC: 100%

    供給源 上流権益 原油購入者

    東シベリア 各石油会社 中国他原油バイヤー

    その他

    Rosneft・CNPC間で2700億USD規模の長期供給契約(~60万BD)

    経緯と結果2009年12月、東シベリア・太平洋(ESPO)原油パイプラ

    インの稼働直後から、大慶支線での国境引き渡し価格とウラジオストク・コジミノ石油港での価格が同額であることに対して、RosneftとCNPCとの間で係争発生。最終的にRosneftはウラジオストク価格からの値引き(BBL当たり0.7~1USDとも言われており、年間では単純計算で2.5~3億ドルに及ぶ)に応じたと考えられている。

    ①Blue Streamの事例

    ルート 稼働年

    ロシア~黒海~トルコ 2003年2月

    距離 1,213km (ロシア陸上373km+黒海396km+トルコ陸上444km)

    容量 最大深度 口径

    16BCM/年 2,150m 24 inch(海底)48/ 56 inch(陸上)

    コスト 32億USD(推定)/22.8MMUSD/km

    PL所有者 ロシア国内 Gazprom : 100%

    黒海Gazprom : 50%

    ENI: 50%

    トルコ国内 Botas: 100%

    供給源 上流権益 ガス購入者

    西シベリア Gazprom(100%) Botas(100%)

    経緯と結果1997年12月に長期供給契約に合意。2002年12月に完工・2003年2月に稼働を開始するも、トルコが経済低迷

    を理由に予定量の輸入が難しくなったとして、契約価格の3割引きを求めて輸入を停止。契約にはテイクオアペイ条項(25年間で365BCM/年間14.6BCM)。最終的に8月に輸入再開。トランスバルカンルート経由ガスとの価格調整を行ったと言われているが、実質Gazpromが価格引き下げを受け入れたと考えられている。

    不完備契約による係争(Blue Stream及びESPOパイプラインの事例)の可能性 11

    上中下流出資 融資買油ガス

    需要供給安全保障の確立

    係争問題が発生するかどうか

    Nord Stream・Nord Stream 2・NS-1:需要家E.On、BASF、

    Gasunie及びENGIEが供給者Gazpromと共同出資。・NS-2:需要家ENGIE、OMV,

    Shell, Uniper、Wintershallがファイナンス組成に協力。

    需要供給安全保障

    シベリアの力・上流参画を望むCNPCと、それを拒むGazprom。・PLへの融資(前払い)を望む

    Gazpromとそれを拒むCNPC。結果、共同事業体は成立せず。係争問題発生の可能性あり

    Turk Stream・欧米制裁を受けて、ブリガリア揚陸のSouth Streamを非EU加盟国でイスラーム教国のトルコへ政治的に変更。・アゼル産ガスを輸送する

    TAP・TANAPに対する当て馬。経済原理より政治力学漁夫の利(安価なガス)を得

    るトルコ。政治に左右され、係争化の可能性も。出典:Gazprom、Transneft及び報道情報から筆者取り纏め

  • シベリアの力パイプラインと両輪を成すアムールガス精製プラントプロジェクト 12

    第一フェーズ:2015 年~2018 年

    ---土地造成。基本プラント設計・建設

    第二フェーズ:2016 年~2019 年

    ---ワニノ湾までの鉄道等 LPG ロジスティクス

    第三フェーズ:2016 年~2024 年

    ---ウラジオストクまでのヘリウムロジスティクス

    第四フェーズ:2017 年~2024 年

    ---ガス精製プラント(5 系列)の順次試験運転

    ★位置図

    ★スケジュール

    ★ガスケミ製品生産見通し

    ヘリウム 年間最大60百万CM エタン 年間250万トン

    プロパン 年間100万トン ブタン 年間50万トン

    ペンタン・ヘキサン 年間20万トン

    ★アムールGPPプロジェクト上流から製品のフロー図

    ★世界のヘリウム供給 ★生産されたLPG・ヘリウムの輸送スキーム

    出典:Gazpromプレゼンテーション(2016年7月/ウラジオストク)に筆者加筆

  • Gazprom Dobycha Noyabrsk

    出典:Gazprom Dobycha Noyabrsk、報道情報から筆者取り纏め

    「シベリアの力」が抱える課題:今後どのような問題が生じる可能性があるか対中供給容量38BCM達成予定

    アムールガス精製プラント本稼働予定

    反作用:契約数量の見直し反作用:価格交渉の再燃

    課題①:中国東北部、後には北京・上海のガス需要動向課題②:LNG価格との競合におけるロシア産ガスの優位性検証

    課題③:チャヤンダ・コヴィクタガス田の順調な開発の是非(生産挙動の確認)

    更なる反作用:ハバロフスクへのPL延伸ウラジオストクLNG再起動

    更なる反作用:Gazpromの独占崩壊(エージェント制での販売)ハバロフスクPL延伸却下ウラジオストクLNGはS-3米国制裁解除まで延期

    東シベリア石油各社のガスアセット活用が進む

    反作用:東シベリアで活動する石油会社の随伴ガス取扱い(=輸出権と第三者アクセスを認めるかどうか議論喚起)

    13

  • 参考:ロシアが進めるLNGプロジェクト 14

  • アルクチクLNG-3(計画中)

    アルクチクLNG-2(開発中)

    アルクチクLNG-1(計画中)ヤマルLNG(供給ソース)

    ⓪ Yuzhno-Tambeyskoe鉱区 生産中

    アルクチクLNG-1(供給ソース)

    ① Geofizicheskoe鉱区 探鉱中

    ② Trekhbugornie鉱区

    ③ Gydanskoe鉱区

    ④ Gydanskiy 1 鉱区

    アルクチクLNG-2(供給ソース)

    ⑤ Utrennie鉱区 開発中

    アルクチクLNG-3(供給ソース)

    ⑥ North-Obskoe鉱区 探鉱中

    ヤマルLNG(稼働中)オビLNG(ヤマルLNG第四トレイン)(開発中)

    参考:NOVATEKが運営・計画するLNGプロジェクト

    クリオガス-ヴィソーツクLNG(稼働中)

    稼働開始:2019年液化容量:66万t/年出資者 :NOVATEK:51%

    Gazprombank:49%

    稼働開始:2017年~液化容量:550万t/年×3トレイン出資者 :NOVATEK:51%

    TOTAL:20%CNPC:20%Silk Road Fund:9.9%

    オビLNG・・・NOVATEK独自の液化技術と言われるArctic Cascadeのパイロットプラント。90万tで2019年内に稼働開始予定。将来的に160万t×3トレインに拡大する計画。

    稼働開始:2023年~液化容量:660万t/年×3トレイン出資者 :NOVATEK:60%

    TOTAL:10%CNPC:10%CNOOC:10%Japan Arctic BV:10%

    ④③

    ②①

    出典: NOVATEK資料からJOGMEC取り纏め

    15

  • カムチャツカ積替えターミナル建設(計画)

    日本企業関心あり

    中韓も関心表明

    NOVATEKが提案する北極海からの新たなLNG輸送スキーム

    ムールマンスク積替えターミナル建設(計画)

    ジーブルジュ積替えターミナル

    (稼働)

    Operated by

    出典: Fluxys (左写真)、NOVATEK資料及びBP統計からJOGMEC取り纏め

    アイスクラス(ARC)4~7級LNGタンカーでシャトル輸送(最大17万立法メートル)

    通常LNGタンカーで対応

    (最大26万立法メートル)

    ★世界の天然ガス価格の推移

    過去平均:6.6$/MMBTU現在、5.3$/MMBTU程度

    ---生産:0.6$---液化:1.0$---積替:0.3~1.0$---輸送:1.7~3.5$

    想定費用:3.6~6.1$

    2003年以降の高価格レベルをターゲット

    6$ライン

    ロスストック積替えターミナル建設(計画)

    16

  • 北極海航路の通年航行実現のための方策:ARC7クラス砕氷LNGタンカー★ARC7クラス砕氷LNGタンカーと通常のLNGタンカーの比較

    ARC7クラス砕氷LNGタンカー 諸元 通常のLNGタンカー

    3.3億~3.5億USD 価格 2.1~2.2億USD

    17万立法メートル 容量 17万立法メートル

    6基 エンジン数 4基

    LNG(BOG活用)・C重油 燃料 LNG(BOG活用)・C重油

    12~15万USD/日 傭船費用 市況(足元6.5万USD/日)

    Speed(knot) 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 knots

    Speed(km/h) 14.8 16.7 18.5 20.4 22.2 24.1 25.9 27.8 29.6 31.5 33.3 35.2 37.0 km/h

    LNG loading @Sabetta 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 days

    ①Transporation(outbound) Sabetta to Kara Sea 3.5 3.1 2.8 2.6 2.4 2.2 2.0 1.9 1.8 1.7 1.6 1.5 1.4 days ②Transporation(outbound) Kara Sea to Laptev Sea 3.8 3.3 3.0 2.7 2.5 2.3 2.1 2.0 1.9 1.8 1.7 1.6 1.5 days ③Transporation(outbound) Laptev Sea to Chukti Sea 3.3 3.0 2.7 2.4 2.2 2.1 1.9 1.8 1.7 1.6 1.5 1.4 1.3 days ④Transporation(outbound) Chukti Sea to Bering Sea 2.0 1.8 1.6 1.4 1.3 1.2 1.1 1.1 1.0 0.9 0.9 0.8 0.8 days ⑤Transporation(outbound) Bering Sea to Kamchatka 6.8 6.0 5.4 4.9 4.5 4.2 3.9 3.6 3.4 3.2 3.0 2.9 2.7 days LNG Unloading @Bechevinskaya 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 days

    Spare time (supply & maintenance) 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 day

    ⑥Transporation(inbound) Bering Sea to Kamchatka 6.8 6.0 5.4 4.9 4.5 4.2 3.9 3.6 3.4 3.2 3.0 2.9 2.7 days ⑦Transporation(inbound) Chukti Sea to Bering Sea 2.0 1.8 1.6 1.4 1.3 1.2 1.1 1.1 1.0 0.9 0.9 0.8 0.8 days ⑧Transporation(inbound) Laptev Sea to Chukti Sea 3.3 3.0 2.7 2.4 2.2 2.1 1.9 1.8 1.7 1.6 1.5 1.4 1.3 days ⑨Transporation(inbound) Kara Sea to Laptev Sea 3.8 3.3 3.0 2.7 2.5 2.3 2.1 2.0 1.9 1.8 1.7 1.6 1.5 days ⑩Transporation(inbound) Sabetta to Kara Sea 3.5 3.1 2.8 2.6 2.4 2.2 2.0 1.9 1.8 1.7 1.6 1.5 1.4 days TOTAL (NSR, one way) 19.4 17.2 15.5 14.1 12.9 11.9 11.1 10.3 9.7 9.1 8.6 8.2 7.8 days

    TOTAL (Round trip) 44.8 40.4 37.0 34.2 31.8 29.8 28.1 26.7 25.4 24.2 23.2 22.3 21.5 days

    ★現在の海氷条件から想定される北極海航路通行速度とそれに応じたLNG輸送必要日数の試算

    ※NOVATEKは現在15隻建造中のARC7クラス砕氷LNGタンカーを改良した、「ハイブリッド」LNGタンカーを建造する計画も。船幅を4m縮小し、全長を若干長く設計し、砕氷機能を高める。スクリューもアジポット3つから2つ+シャフト1本による馬力増を見込む。

    写真出典: 商船三井(写真左:Vladimir Rusanov/写真右:LNG Vesta)。筆者取り纏め

    17

  • 北極海航路の通年航行実現のための方策:北東航路の海氷への対応

    ①ヤマル・ギダン半島からのLNGプロジェクト計画

    ②LNG砕氷タンカーの数

    ③LNG砕氷船の型と速度(現行ヤマルマックスとハイブリッド型)

    ④東周り及び西周りの配分

    ⑤カムチャツカ及びムルマンスクでの積み替え可能容量

    ⑥輸送船団スキーム

    北極海航路でどれ位のLNG輸送が可能か:試算要因

    <試算・分析結果>・ヤマル及びギダン半島からのLNG生産計画:ヤマルLNG(1650万t+オビLNG480万t)+アルクチクLNG-2(1980万t)=4110万t。・LNG砕氷タンカー数は現在稼働・準備中の15隻+現行計画の17隻=計32隻。・欧亜の仕向け地別比率は、ヤマルLNG(1650万t+オビLNG480万t)=8:2。アルクチクLNG-2(1980万t)=2:8と設定。従って、欧州:アジア=2100万t:2010万t・アジア向け通年航行を想定した場合、1年間の輸送可能容量は、2100万t~2400万と試算される。・同じ地点で3日に1度、砕氷LNGタンカーが通過。・32隻の砕氷LNGタンカーの傭船費用は年間17.5億USDに上る。 出典: GECONによる地図にJOGMEC加筆・試算

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  • 19本日のまとめ

    2014年5月に締結された総額4000億ドル・史上最大の契約とも言われる中露天然ガス長期供給契約。欧米制裁によってロシアが国際社会で孤立する中、7年越しの交渉を経て合意に至った情勢に鑑みると、ロシアが契約条件で何らかの譲歩を行った可能性がある。特に価格交渉については現在も協議が継続しているという情報が5年経っても発露している。早晩、通関統計によって合意した価格レベルが明らかになるだろう。

    稼働開始後、問題として想定されるのは、①価格交渉の再燃、②中国東北部の需要量動向と契約数量見直しの可能性、③「シベリアの力」と両輪を為すアムールガス精製プラントの稼働に伴う順調なマネタイズ実現の是非、の3点である。①価格交渉の再燃:Blue StreamやESPO原油供給契約に前例のある不完備契約を突き、ヤマルLNGと価格を比較できる中国が価格が高い場合にはディスカウントを要求する可能性がある。

    ②中国にとっては需要地のある上海が起点となる。上海からロシア国境までは3000km。輸送コストは$3以上。従って、ロシア国境から遠く運べば運ぶ程、経済性は悪化する。東北部での消費が最も経済性が良い反面、安価な石炭中心の同地域のガス転換と需要見通し如何によっては、38BCM引取りについて、テイクオアペイ条項の範囲で契約数量の見直しもあり得る。

    ③「シベリアの力」と両輪を為すアムールガス精製プラントは、ヘリウムを多く含むガスを中国に渡さないよう分離し、更にガスケミ製品でも中国市場を開拓するロシアの戦略である一方、内陸に建設せざるを得なかった結果、中国市場に製品価格を依拠し、世界市場を目指すには太平洋までの輸送コストがかかる問題を抱える。

    中国は2006年にLNG輸入を開始し、2009年にトルクメニスタン、2015年にミャンマーからパイプラインガスを調達。更に2013年にはヤマルLNG、2019年にはアルクチクLNG-2参画により上流権益も獲得。供給ルート・供給源の多様化とロシア産ガスをソース別に天秤に掛けることが可能であり、ガス交渉では優位に立つ。

    ロシアがシベリアの力をSKVパイプラインのあるハバロフスクまで延伸し、ウラジオストクLNGを再度立ち上げるような動きが出て来ることは、稼働後の中露の追加契約交渉や中国需要見通しに問題があることを示し、ロシアが対中レバレッジを求める動きと考えることができる。

    日中が参画した北極圏のLNGプロジェクト。どの程度のLNGが世界市場に出てくるのかを試算すると、その容量は①ヤマル・ギダン半島からのLNGプロジェクト計画、②LNG砕氷タンカーの数、③LNG砕氷船の型と速度、④東周り及び西周りの配分、⑤カムチャツカ及びムルマンスクでの積み替え可能容量、⑥輸送船団スキームに依拠する。2025年段階で4110万tのLNGが生産され、これら要素に前提を置くと、その半分超に当たる2100~2400万tのLNGが東廻りでアジア太平洋市場に出ることが予想される。