クラス担任のための -...

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クラス担任のための 特別編集 S H R S H R H R 1 2 S H R 2 2 『キャリアガイダンス』誌は全国の高校に贈呈しています(校長、教頭・副校長、進路指導主事先生宛に郵送) バックナンバーの記事はすべてWEBサイト で閲覧いただけます http://souken.shingakunet.com/career_g/ キャリアガイダンス 検索 高校生の主体的な進路選択を応援する先生のための 進路指導・キャリア教育の専門誌 【最新号】 Vol.413 2016年7月発行 特集 教室…部活動…学校外… 「リーダーシップ教育」で生徒が変わる リーダーシップ教育とは? 早稲田大学 大学総合研究センター 日向野幹也 これからの社会における働き方 リクルートワークス研究所 主幹研究員 豊田義博 面白法人カヤック/ライフネット生命保険株式会社 動き始めた大学・高校の現場 立教大学経営学部/藤沢清流高校(神奈川・県立) 東京都 教育委員会・都立高校 連載 アクティブラーニング型授業への挑戦 鳥取城北高校(鳥取・私立) 地域課題解決型キャリア教育 伊佐農林高校(鹿児島・県立) 日出学園中学・高校 進路指導部 部長 釣島ゆきの先生 国語科教員として、中学・高校生 の授業を受け持つ傍ら、3年前より 進路指導部長を務める。生徒だけ でなく保護者も、既存の枠組みの 中で生きることを考えがちな傾向が あるなかで、いかに低学年から将来 を考える機会をつくるかに奮闘。 筑波大学附属坂戸高校 国語科 あいはら 飯原匡 まさのぶ 伸先生 一橋大学で学生支援を行うなど、 大学での教職員経験や公立高 校教員を経て、4 年前より現職。 今年度より、1年生全体のアンガ ーマネジメントのプログラムづくり にも挑戦している。大東文化大学 で教職科目の教鞭もとる。 「挑戦」できる生徒を育むヒント 将来社会で働くにあたり、必要だと思う能力と現在もっていると思う能力 (3つまで回答) 『高校生価値意識調査2015』 (リクルート進学総研・2015年9月調べ)より 1.安心感・安全感を抱ける関係をつくる 生徒がまず、何かに「挑戦」しようと思ったとき、その場が「安心・ 安全である」ということが大事です。つまり、教師との関係において、 常に評価基準におびえてしまっているから挑戦ができない。「どんな ときも、先生は見離さないよ」という関係づくりが大事です。例えば、 三者面談や進路面談などでも、生徒が「こんなことを言ったら、『何 バカなこと言っているんだ』って叱られるのでは」と思うから、チャレン ジしようとしない。ちょっと背伸びしているなと思っても、 「そう考えてい るんだね」と受け止めてあげる。そんなふうにチャレンジを受け止め る姿勢が、まずは大切です。 2.何度でもチャンスを与える姿勢を示す チャレンジすれば、もちろん失敗することもあります。うまくいかなか ったとしても、それを責めるのではなく、 「気にするな。大丈夫だ」と安 心させる声かけも大事です。よく、 「うまくいかなかったことを反省して 次に生かすために、振り返りをしっかり行う」と言いますが、教師がそ れをやらせることは「ダメだった」という評価をしてしまうことになりま す。ダメだったことは、本人が一番よくわかっています。特に最近は、 チャレンジして努力しても報われない時代、そんな風潮が強くなって います。でも、チャレンジしなければ何も手に入らないというのも事実 です。だからこそ、「大丈夫だ。次頑張ればいい」と、何度でもチャン スを与える姿勢を、教師自身が示すことが大事です。 3.教師自身が、挑戦する姿勢を示す 社会全体の中にある、挑戦しても必ずしも報われないというよう な風潮を、敏感に高校生が受け止めているのです。先生たち自身 も、何かに挑戦することを、ぜひ態度で示してあげてください。また、 そのような挑戦や、ご自身の過去の失敗の話など、高校生にぜひ語 ってください。アドラー心理学の勇気づけです。人生にはやって無 駄なことも多いけれど、100回のうち3回でもできればいいじゃない かと。そして、「先生と一緒に走り抜けよう!」という雰囲気をつくって いくことも大事です。そういう意味では、特にクラス担任を担当する 30代の先生方は、まさに生徒にとって良き「アニキ・アネゴ」分(笑) として、ぜひ頑張っていただければと思います。 0 20 40 60 (%) 明治大学 文学部 諸富祥彦教授 もろとみ・よしひこ/臨床心理士、教育学博 士。全国の悩める教師のためのセルフヘル ピングやネットワーキングを支援する“教師を 支える会”代表。http://morotomi.net./ 調将来、必要だと思う能力  現在、自分がもっていると思う能力 前に踏み出す力(アクション) 主体性 創造力 発信力 柔軟性 実行力 課題発見力 情況把握力 規律性 働きかけ力 計画力 ストレス コントロール力 傾聴力 考え抜く力(シンキング) チームで働く力(チームワーク) 51.1 23.9 38.1 16.8 14.8 11.2 23.6 12.1 21.4 12.0 13.1 8.0 24.3 10.7 9.2 12.3 6.4 8.1 11.7 15.4 15.6 19.1 14.1 24.6

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Page 1: クラス担任のための - リクルート進学総研souken.shingakunet.com/career_g/2016/class/2016_ccvol33_01_2.pdf · 高校生の主体的な進路選択を応援する先生のための

クラス担任のための特別編集

チャレンジしていくことが難しくなっ

ていると思います」(粟飯原先生)

 

そのような小さなコミュニティで

は、人の気持ちを考えすぎて発言を

控えるなど、さらに悪循環に陥る傾

向も。よく言う「空気を読む」が行

き過ぎる状態といってもいい。先のア

ンケートでも、高校生自身、チームで

働く力の中の「傾聴力」を、現在もっ

ている力として高くあげているあた

りに、その傾向を見て取れると言え

るのではないだろうか。

「自信がない生徒が多いですね。だか

ら、まずは発言しやすい雰囲気をつ

くることが大事だと思っています」

(粟飯原先生)

毎日のSHRで、生徒が

クラスの良いところを発言

 

そこで、粟飯原先生が行っているの

は、毎日のショートホームルーム(帰り

の会・以下SHR)で、必ず「今日の良

かったこと」をHR委員・副委員から

 

これからの社会を生き抜く力とし

て、自ら考え行動し、物事を成し遂

げる力があげられることが多い。だか

らこそ、多くの企業で、採用試験の

書類や面接において「これまでに挑

戦してきたこと」と、明確に「挑戦」エ

ピソードを聞かれることが増えてい

る。ところが、最近の高校生は「挑

戦」に尻込みしがちだと感じている

先生は少なくないはず。実際、高校

生自身に、「将来社会で働くにあた

り、必要だと思う能力と現在もって

いると思う能力」を問うと、必要と

されることとして1番多かったのが

「主体性」で2番目が「実行力」だが、

自分がもっていると思う力とのギャッ

プが最も大きかったのも、この2つの

力だった(表参照)。

 

筑波大学附属坂戸高校の粟飯原

匡伸先生も、生徒の挑戦意欲の低さ

が気にかかっている。

「コミュニティが小さくなっていると

思うんです。友達ウケさえすればい

いというか。そのため、あえて何かに

 

中高一貫校の千葉県の私立日出学

園の進路指導部長・釣島ゆきの先生

も、そんな生徒への信頼感の重要性を

言ってもらうこと。

「教師からではなく、生徒同士が相

互評価する。それが大事だと思ってい

ます。最初は、『良いことだけではな

く、こうしていきましょうというよう

な話でもいいですか?』と聞かれまし

たが、そこはきっぱりダメですと

(笑)。些細なことでもいいので、必ず

クラスの良かったところを見つけても

らうようにしました」(粟飯原先生)

 

毎日、クラスの仲間が自分たちの

クラスの良かったことを言う。それか

ら担任・副担任が気付いたことを加

えていく。次第に、クラス全体の雰囲

気が柔らかくなり、体育祭での取り

組み内容や席替えなど、生徒から積

極的にSHRの時間に議題が提案

されるようになってきたという。9月

の文化祭に向けては、夏休み中もタ

痛感している。

「昨年度から、中学2年生の職業体

験は、学校がお膳立てするのではな

スクごとにグループで活動を進めて

いる。

「私が生徒にお願いしているのは2

点のみ。一つは、グループ内では必ず全

員に連絡し、全員で活動するように

ということ。もう一つは、意見が合わな

いときにケンカはしないということ。

これまでの活動の様子から、意見を

出し合ってぶつかることと、ケンカと

は違うとわかっているようなのです

が、あえて意識してもらおうと思っ

て伝えました」

 

生徒が相互に関わっていく場とし

てのクラスづくりを意識する粟飯原

先生。根底にあるのは、「教師が何と

かしようと頑張っても、生徒自身が

考え、発信していかないと意味があり

ません。私は生徒を信頼して待つの

みです」という生徒への信頼感だ。

『キャリアガイダンス』誌は全国の高校に贈呈しています(校長、教頭・副校長、進路指導主事先生宛に郵送)

バックナンバーの記事はすべてWEBサイトで閲覧いただけます

http://souken.shingakunet.com/career_g/ キャリアガイダンス 検索

高校生の主体的な進路選択を応援する先生のための

進路指導・キャリア教育の専門誌

生徒がいろいろな場面で積極的に行動したり、何かに挑戦したり。そんな力を育てていくためには、

多少の失敗にもめげない様々な体験が重要。そのために必要な環境づくりを考えてみます。

取材・文/清水由佳(ライター・キャリアカウンセラー)

【最新号】 Vol.413 2016年7月発行■特集教室…部活動…学校外…「リーダーシップ教育」で生徒が変わる

● リーダーシップ教育とは? 早稲田大学 大学総合研究センター 日向野幹也● これからの社会における働き方 リクルートワークス研究所 主幹研究員 豊田義博 面白法人カヤック/ライフネット生命保険株式会社● 動き始めた大学・高校の現場 立教大学経営学部/藤沢清流高校(神奈川・県立) 東京都 教育委員会・都立高校■連載● アクティブラーニング型授業への挑戦 鳥取城北高校(鳥取・私立)● 地域課題解決型キャリア教育 伊佐農林高校(鹿児島・県立)

日出学園中学・高校進路指導部 部長釣島ゆきの先生国語科教員として、中学・高校生の授業を受け持つ傍ら、3年前より進路指導部長を務める。生徒だけでなく保護者も、既存の枠組みの中で生きることを考えがちな傾向があるなかで、いかに低学年から将来を考える機会をつくるかに奮闘。

筑波大学附属坂戸高校国語科

粟あいはら

飯原匡まさのぶ

伸先生一橋大学で学生支援を行うなど、大学での教職員経験や公立高校教員を経て、4年前より現職。今年度より、1年生全体のアンガーマネジメントのプログラムづくりにも挑戦している。大東文化大学で教職科目の教鞭もとる。

■ 「挑戦」できる生徒を育むヒント

■ 将来社会で働くにあたり、必要だと思う能力と現在もっていると思う能力(3つまで回答)

『高校生価値意識調査2015』(リクルート進学総研・2015年9月調べ)より

1.安心感・安全感を抱ける関係をつくる 生徒がまず、何かに「挑戦」しようと思ったとき、その場が「安心・安全である」ということが大事です。つまり、教師との関係において、常に評価基準におびえてしまっているから挑戦ができない。「どんなときも、先生は見離さないよ」という関係づくりが大事です。例えば、三者面談や進路面談などでも、生徒が「こんなことを言ったら、『何バカなこと言っているんだ』って叱られるのでは」と思うから、チャレンジしようとしない。ちょっと背伸びしているなと思っても、「そう考えているんだね」と受け止めてあげる。そんなふうにチャレンジを受け止める姿勢が、まずは大切です。

2.何度でもチャンスを与える姿勢を示す チャレンジすれば、もちろん失敗することもあります。うまくいかなかったとしても、それを責めるのではなく、「気にするな。大丈夫だ」と安心させる声かけも大事です。よく、「うまくいかなかったことを反省して次に生かすために、振り返りをしっかり行う」と言いますが、教師がそれをやらせることは「ダメだった」という評価をしてしまうことになります。ダメだったことは、本人が一番よくわかっています。特に最近は、チャレンジして努力しても報われない時代、そんな風潮が強くなっています。でも、チャレンジしなければ何も手に入らないというのも事実です。だからこそ、「大丈夫だ。次頑張ればいい」と、何度でもチャンスを与える姿勢を、教師自身が示すことが大事です。

3.教師自身が、挑戦する姿勢を示す 社会全体の中にある、挑戦しても必ずしも報われないというような風潮を、敏感に高校生が受け止めているのです。先生たち自身も、何かに挑戦することを、ぜひ態度で示してあげてください。また、そのような挑戦や、ご自身の過去の失敗の話など、高校生にぜひ語ってください。アドラー心理学の勇気づけです。人生にはやって無駄なことも多いけれど、100回のうち3回でもできればいいじゃないかと。そして、「先生と一緒に走り抜けよう!」という雰囲気をつくっていくことも大事です。そういう意味では、特にクラス担任を担当する30代の先生方は、まさに生徒にとって良き「アニキ・アネゴ」分(笑)として、ぜひ頑張っていただければと思います。

0

20

40

60(%)

明治大学 文学部諸富祥彦教授もろとみ・よしひこ/臨床心理士、教育学博士。全国の悩める教師のためのセルフヘルピングやネットワーキングを支援する“教師を支える会”代表。http://morotomi.net./

く、どこの職場を体験するか決めると

ころからすべて生徒に任せています。

生徒が自分の興味のある職業を調

べ、それに関する企業や職場を探し、

自分でアポイントをとる。もちろん、

断られることもあります。でも、その

ような経験も含め、生徒の成長にきっ

とつながる。実際、一生懸命職場を探

して、普通だとなかなか見ることので

きない職業・職場を体験してきた生徒

ほど達成感があります。そういう生徒

が報告に戻ってきたときのものすごく

いい表情は、本当に印象的です」(釣島

先生)

 

当初は、中学生ではまだ難しいので

はないか、何か迷惑をかけるのではな

いかなど、様々な心配の声もあがってい

たという。しかし、生徒がやり遂げる

様子を間近にして、「少し背伸びをし

て挑戦する機会を提供する大事さ」

を、先生たち自身も実感したという。

「生徒には挑戦するように言います

が、どこかで教師自身が葛藤し躊躇し

ているのではないでしょうか。間違って

もいいからやってみる。生徒が主体的、

自主的に動き出すのをどこまで待て

るのか。教師自身が試されているのか

もしれません」(釣島先生)

■将来、必要だと思う能力 ■現在、自分がもっていると思う能力

前に踏み出す力(アクション)

主体性 創造力 発信力 柔軟性実行力 課題発見力 情況把握力 規律性働きかけ力 計画力 ストレスコントロール力 傾聴力

考え抜く力(シンキング) チームで働く力(チームワーク)

51.1

23.9

38.1

16.8 14.8 11.2

23.6

12.121.4

12.0 13.18.0

24.3

10.7 9.2 12.36.4 8.1 11.7 15.4 15.6 19.1

14.124.6