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Meiji University Title �-�- Author(s) �,Citation �, 51(2): 109-127 URL http://hdl.handle.net/10291/4612 Rights Issue Date 2004-03-31 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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Meiji University

 

Title認識と開示に対する市場の反応の相違-有価証券の公

正価値情報を対象として-

Author(s) 長野,史麻

Citation 経営論集, 51(2): 109-127

URL http://hdl.handle.net/10291/4612

Rights

Issue Date 2004-03-31

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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認識と開示に対する市場の反応の相違 109

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認識 と開示 に対す る市場の反応の相違一有価証券の公正価値情報 を対象 として一

長 野 史 麻

目 次

1.は じめに

2.認 識 と開示 に関する先行研究

3.本 研究において使用するモデル とデータ

4.本 研究の調査結果 とその解釈

5.む すび

1.は じめ に

会計 においては,財 務諸表本体に載せ られる情報 とそれ以外の情報が区別されている。「企

業の財務諸表のなかで,何 を資産,負 債,持 分,収 益,費 用,利 得,損 失 として認識するのか,

そして何 を財務諸表の注記 において開示するだけであるのかを決めることは財務会計の基本的

な事項である」[Barth(2000),p.23]と もいわれている。 しか しなが ら,効 率的市場仮説を

所与 とすれば,情 報 は公にされているかいないかが重要であ り,そ れ以外の区別は投資家の意

思決定には影響 を及ぼさないはずである。認識情報 と開示情報 との間で一定の規準 を設けてい

る会計情報 に対 して,投 資家をはじめとした会計情報利用者は認識情報 と開示情報 を区別 して

用いているのであろうか。 このことを明 らかにすることが本稿の目的である。そこでまず,認

識情報 と開示情報の定義をみてい くことにす る。

アメ リカの財務会計基準審議会(FinancialAccountingStandardsBoard,以 下ではFASBと

いう)が 公表 している 『財務会計諸概念に関するステー トメン ト(StatementofFinancial

AccountingConcepts,以 下ではSFACと いう)第5号 』 によれば,「認識 とは,あ る項 目を資

産,負 債,収 益,費 用またはこれ らに類するもの として,企 業の財務諸表に正式に記録するか

または記載するプロセスである」(par.6)と 定義 されている。そ してまた,「 認識は,あ る項

目を文字 と数値の両者を用いて表現 し,か つ,そ の項 目の数値が,財 務諸表の合計数値の一部

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110 一 経 営 論 集 一

に含め られることをい う」(par.6)と されている。

一般に 「資産,負 債,収 益,費 用その他の財務諸表項 目(目 的適合性 と信頼性の最良の組み

合わせをもつ)お よびこれら測定値 に関して もっとも有用 な情報 は,財 務諸表において認識 さ

れなければならない」(par.9)と されている。つ まり,認 識 とはある項 目の数値が財務諸表の

合計数値の一部に含め られることをいい,「財務諸表以外の他の財務報告の手段 によって開示

される情報 は,認 識とはいわない」 と明確 に述べ られ てい るのである1(par.9)。

SFAC第5号 では認識の定義 を明確 にしているものの,開 示 につ いての定義がなされていな

い。このことに対 してDavis-Fridayetal.(1999)は,「SFAC第5号 では開示の直接的な定義を

示 してお らず,開 示 とは認識の定義を満たさない あらゆる表現であると暗に示 しているだけ」

だ と述べている[Davis-Fridayetal.(1999),p.404]。 そ こで本稿では,Davis-Fridayetal.

(1999)の 認識と開示の定義にな らい,そ れぞれを次 の ように定義することにする。 まず,認

識情報 とは,複 式簿記 によって記録された数値であり,損 益計算書あるいは貸借対照表の合計

額に含め られた情報をいうことにする。そ して開示情 報 とは,有 価証券報告書2な どに含 まれ

ている情報のうち認識情報以外の情報 をさすことにす る[Davis-Fridayetal.(1999),p.405]。

このような認識 と開示の定義 にしたがい,本 稿では,わ が国における有価証券の公正価値情

報を対象 として,認 識 と開示に対する市場の反応の相 違を検証 してい くことにする。わが国で

は有価証券の公正価値情報を認識情報 とするのか,単 に開示情報 として提供するのかをめ ぐり,

長い年月をかけて議論 されてきた。そこでは,投 資家 をは じめ とした情報利用者に認識情報 と

して提供することと,開 示情報 として提供することで は,会 計情報 としての位置付けが大 き く

異なると考えられていたのである。

有価証券公正価値情報が,有 価証券報告書のなかで財務諸表 に対す る補足的な情報 として初

めて開示されたのは1991年3月 期である。その後1997年3月 期以降は財務諸表 に対する正式な

注記情報 として開示 されるようになっている。そ して,1999年1月 に公表 された 『金融商品に

係る会計基準』によって2001年3月 期以降は売買 目的有価証券が貸借対照表で報告 され,そ の

評価差額が損益計算書に計上 されるようになっている3。 つ まり,有 価証券公正価値情報が認

識情報 として提供 されるようになったのは2001年3月 期以 降であ り,そ れ以前は本稿の定義に

従えば単に開示情報 として提供 されていたことになる。

まず,第2節 において投資家 をはじめとした情報利用者が,認 識情報 と開示情報 を異なるも

の として捉えているのかを検証 した先行研究 を概観す る。 これらの先行研 究を取 り上げること

により,市 場では認識情報 と開示情報が区別 されてい ることを確認す ることにする。つづ く第

3節 では,本 稿で用いる実証モデルとデータの特性 を明 らか にする。そ して第4節 では,わ が

国において市場が開示情報 としての有価証券の公正価値情 報 と認識情報 としてのそれ をどのよ

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一 認識と開示に対する市場の反応の相違 一 111

うに評価 しているのかを観察することにする。最後に,第5節 において本稿の要約 と課題を明

らかにする。

2.認 識 と開 示 に関 す る先 行研 究

本節では,認 識 と開示の違いが情報利用者の意思決定に何 らかの影響を及ぼ しているのかを

確かめるために認識 と開示 に関する先行研究を概観することにする。まず,認 識 と開示に関す

る公開草案や公告 に対 して株価が どのような反応 を示 したのかを検証 したiEspahbodietal.

(2002)の 研究を取 り上 げ,次 いで個々の企業が年金以外の退職給付の予想債務見積額 を開示

した場合 と認識 した場合 とで株価がどのように反応するのか を調べたAmirandAmir(1997)

の研究およびDavis-Fridayetal.(1999)の 研究を取 り上げることにする。そして,業 界の特徴

を反映させた うえで認識情報 と開示情報の違いを検証 したAboody(1996)の 研究 をみてい く

ことにす る。Aboody(1996)の 研究では,石 油 ・ガス業界 における認識情報 と開示情報の市

場に与える影響の違いを観察 している。そのため,銀 行業を対象とする本研究の分析にあたっ

て有用なものだと考えられる。最後に,わ が国における有価証券公正価値情報の開示情報と認

識情報の違いを検証 した川口(2003c)の 研究を概観 し,市 場では財務報告における認識 と開

示 を同様 に扱っていないことを明らかにすることとする。

効率的市場仮説によれば,情 報は公にされているか否かということが問題であ り,そ の情報

が どのように利用者に提供されようとも情報利用者の行動に影響 を及ぼさないと考えられてい

る。 しか しなが ら,会 計 においては開示情報と認識情報では,そ の情報に大きな違いがあると

考えられてお り,ま た 「企業は認識 に対 しては抵抗するが,追 加的な開示に対 しては従順であ

る」[Barth(2000),p.23]と もいわれている。

認識 と開示 に対す る企業行動の違 いの例 としてよ く用 い られるのが,株 式ベースの報酬

(Stock-basedcompensation,以 下ではSBCと い う)に 関する会計の議論 である[Barth

(2000),p.23]。SBCと は,経 営者や従業員に対 してス トックオプシ ョンや類似の持分証券を

報酬 として提供するものであ り,キ ャッシュ不足で苦 しんでいる新設企業やハイテク企業など

ではキャッシュによるボーナスや給料の代わ りに用いられているものである。従来,ア メリカ

では会計原則審議会による意見書第25号 によ りSBCプ ランによる報酬費用 を認識する必要が

なかったことか ら,SBCは 従業員の動機付 けやキャッシュの流出を抑 えるために広 まってい

った[EspahbodietaL(2002),p.344]。

SBCが 普及するにつれ,報 酬費用 を認識 しないことが問題 とされるようになり,1993年6月

にFASBはSBCを 付与 した日の公正価値 にもとついて,SBCプ ランによ り授与 されたあらゆる

ものを報酬費用 として認識することを求める公開草案 を公表 した。 しか しなが ら,報 酬費用の

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112 一 経 営 論 集 一

認 識 を求 め る公 開 草 案 は非 常 に多 くの 企 業 に よ り反 対 さ れ た 。 そ して 多 くの議 論 の 結 果,公 正

価 値 に も とつ く報 酬 費 用 の 認 識 は 薦 め る が 要 求 せ ず,公 正 価 値 に も とつ く一 株 当 た り利 益 額 や

純 利 益 額 の 開示 を求 め る とい うSFAS第123号 が 公 表 さ れ る こ とに な っ た 。

報 酬 費 用 の認 識 と 開示 で は,市 場 の 反 応 と して ど の よ う な違 い が あ るの か を調 査 す る た め に,

Espahbodietal.(2002)の 研 究 が 行 わ れ た 。 この 研 究 にお い て 彼 らは,FASBのSBCに 関 す る

一 連 の公 告 に対 す る株 価 反 応 を 調 べ,そ れ に よ っ て 財 務 報 告 に お け る認 識 と 開示 の 価 値 関連 性

(value-relevant)の 重 要 性 を評 価 して い る。

ア メ リ カ の595社 を対 象 と して 検 証 したEspahbodietal.(2002)の 研 究 に よれ ば,SBCの 報

酬 費 用 を 認 識 す る よ う 求 め た公 開 草 案 が1993年6月30日 に 公 表 され た と き に は,株 価 が 有 意

に マ イ ナ ス の 反 応 を 示 した こ とが 明 ら か に さ れ て い る[Espahbodietal.(2002),p.365,

Table6]。 公 表 さ れ た コ メ ン トの 内 容 がSBCに も とつ く報 酬 費 用 に対 して認 識 を 求 め る 場 合 に

は,そ の 報 酬 費 用 分 だ け 当期 純 利 益 が 減 少 し,株 価 が マ イ ナ ス に反 応 す る と考 え られ る か らで

あ る。 ま た,こ の 公 開 草 案 の適 用 を1年 先 送 り し,ス トッ ク オ プ シ ョ ン に も とつ く報 酬 費 用 の

開 示 を 求 め た 公 告 が1993年11月5日 に公 表 され た と きや,報 酬 費 用 の 認 識 要 求 を撤 回 し,認

識 を薦 め る が 開示 を求 め る と した公 告 が な され た と き に は,新 設 企 業 や ハ イ テ ク企 業 で は 株 価

が 有 意 に プ ラ ス の 反 応 を示 し た こ とが 報 告 さ れ て い る[Espahbodietal.(2002),pp.370371,

Table7]。SBCの 報 酬 費 用 を認 識 す る よ う求 め れ ば,当 期 純 利 益 の 額 が 減 少 す る と市 場 は 予 想

し,株 価 にマ イ ナ ス の影 響 を及 ぼ す と考 え られ る。 ま た,認 識 を 求 め ず に単 に報 酬 費 用 を 開 示

す るの で あ れ ば 当 期 純 利 益 に は 影 響 が な い と市 場 は 考 え,結,果 と して株 価 に プ ラ ス の 反 応 を 示

す と考 え ら れ る の で あ る 。 こ の こ と を 明 らか に したEspahbodietal.(2002)の 研 究 で は,認 識

と 開 示 の 価 値 関 連 性 は 異 な り,開 示 は 認 識 の 代 わ り に は な ら な い と 結 論 付 け て い る

[EspahbodietaL(2002),p.372]。

SBCに 関 す る 会 計 処 理 につ い てFASBが コ メ ン トを公 表 した 日に,株 価 が どの よ うに 反 応 す

る の か とい う こ と をEspahbodietal.(2002)の 研 究 で は 検 証 して い た 。Espahbodietal.(2002)

の 研 究 は 認 識 と開 示 の 違 い を公 告 内容 に よ り捉 え,公 告 に 対 す る市 場 の 反 応 の違 い を観 察 す る

と い う方 法 が 採 用 され て い た 。 しか し なが ら,公 告 内容 に 対 す る市 場 の 反 応 よ りも,実 際 に 開

示 情 報 と認 識 情 報 に対 す る反 応 の 相 違 を見 た ほ うが,よ り明 瞭 な調 査 が な され る と考 え られ る 。

そ こ で,次 に 認 識 情 報 と 開示 情 報 が 市 場 に与 える 影 響 の 違 い を検 証 した 先 行 研 究 を概 観 す る こ

とに す る。

AmirandAmir(1997)お よ びDavis-Fridayetal.(1999)の 研 究 は,と も に年 金 以 外 の 退 職

給 付(postretirementbenefitsotherthanpensions,以 下 で はPRBと い う)の 予 想 債 務 見 積 額 を

1993年 以 降 認 識 す る よ う 求 め る 財 務 会 計 基 準 書 第106号(StatementofFinancialAccounting

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一 認識と開示に対する市場の反応の相違 一 113

StandardsNo.106,以 下 で はSFAS第106号 とい う)『 従 業 員 の 年 金 以 外 の 退 職 給 付 に 関 す る 会

計 』 を 対 象 と して,市 場 が 開 示 情 報 と認 識 情 報 に対 して異 な る評 価 をす る の か に つ い て 調 査 し

て い る 。 ま ず 市 場 がSFAS第106号 の 適 用 時 期4に 応 じて 異 な る 反 応 を 示 す の か を観 察 した

AmirandAmir(1997)の 研 究 を取 り上 げ,そ の 後 に 開 示 情 報 と認 識 情 報 に対 す る市 場 の 反 応

の 相 違 を観 察 したDavis-Fridayetal.(1999)の 研 究 を み て い く こ と に す る。

AmirandAmir(1997)の 研 究 で は,公 企 業 や 金 融 業 な ど を 除 き,①1992年 決 算 期 以 前 に

SFAS第106号 を適 用 した企 業99社,② 正 規 にSFAS第106号 を適 用 す る の で は な く,1991年 に

PRB負 債 の 金 額 を 開 示 した 企 業76社,③1991年 にPRB債 務 を 開 示 せ ず に1992年 決 算 でSFAS

第106号 を 適 用 し た企 業210社,④1991年 に 開示 す る こ とな く1993年 決 算 でSFAS第106号 を

適 用 し た企 業79社 の 合 計455社 を対 象 と して分 析 が な され て い る 。

AmirandAmir(1997)は,1988年12月 か ら1993年12月 まで の5年 間 に わ た り455社 を四 つ

の グ ル ー プ に 分 け た うえ で 累積 標 準 リ ター ン(cumulativenormalizedreturns)を 四 半 期 ご と

に観 察 して い る 。彼 女 た ち の 研 究 に よ れ ば,① の適 用 企 業 に 対 して市 場 は プ ラ ス の 反 応 を示 し,

認 識 を 遅 らせ た企 業 よ り も良 い 反 応 とな っ て い る こ とが 明 らか に さ れ て い る(p.79,Fig.1)。 そ

して,AmirandAmir(1997)で は,市 場 はSFAS第106号 の早 期 適 用 企 業 に対 して 好 意 的 に反

応 し て お り,さ ら に 開示 企 業 に対 す る よ りも早 期 適 用 企 業 に対 して よ り好 意 的 な反 応 を示 して

い る と 結 論 付 け て い る(p.80)。 つ ま り,認 識 情 報 に対 して 市 場 は 好 意 的 に反 応 して い る も の

の,開 示情 報 に対 し て は そ の 限 りで は な い こ とを 明 ら か に した の で あ る 。

AmirandAmir(1997)の 研 究 で は,PRBの 予 想 債 務 見 積 額 を認 識 す る よ う求 め たSFAS第

106号 を,そ の 適 用 時 期 に応 じて企 業 を グ ル ー プ分 け し,そ の グ ル ー プ の 平 均 累 積 標 準 リ タ ー

ン の 大 き さ に よっ て 認 識 情 報 と開 示 情 報 に 対 す る市 場 の 反 応 の相 違 を観 察 して い た 。 基 準 を適

用 して い る企 業 を 調 査 対 象 と して い る もの の,認 識 情 報 と開 示 情 報 に対 す る市 場 の 反 応 の 相 違

を直 接 観 察 し て い な い と い う点 で は,先 のEspahbodietal.(2002)の 研 究 と 同 じ限 界 を有 して

い る と い え よ う。 そ こ で,次 に認 識 情 報 と開 示 情 報 の 違 い を直 接 検 証 したDavis-Fridayetal.

(1999)の 研 究 を取 り上 げ る こ と にす る 。

Davis-Fridayetal.(1999)の 研 究 で は,SFAS第106号 の 適 用 開 始 期 限 で あ る1993年 まで に,

PRBの 予想 債 務 見 積 額 を 財 務 報 告 の な か で 開示 して い た 企 業229社 を対 象 と して い る5。Davis-

Fridayetal.(1999)が 用 い た モ デ ル は,株 式 市 場 価 値 を従 属 変 数 と して,総 資 産 簿 価 か ら認

識 さ れ た前 払 年 金 資 産 を控 除 した も の,負 債 総 額 か ら認 識 さ れ た 年 金 お よ びPRBを 控 除 した

もの,純 年 金 負 債 の 額,SFAS第106号 適 用 後 の 認 識 され た純 年 金 負 債 額 あ る い はSFAS第106

号 適 用 前 の 開 示 さ れ た 純 年 金 負 債 額 を独 立 変 数 と し,そ れ に認 識 情 報 をO,開 示 情 報 を1と し

た ダ ミ ー 変 数 を投 入 した モ デ ル で あ る 。

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114 一 経 営 論 集 一

波 らが調査 した結果,SFAS第106号 の適用に先駆けてPRB負 債 を開示 した情報 と,SFAS第

106号 適用後にPRB負 債を認識 した情報はいず れ も株価 を有意にマ イナスに説明するが,認 識

に先駆 けたPRB負 債の開示情報は,認 識 され た負債 の情報 よ りも株価 との関連性が弱 いこと

が明 らかにされている6[Davis-Fridayetal.(1999),table4and5]。 このような結果か ら,彼

らは注記 による開示情報は認識 された会計情報 の代 わ りとして充分ではなく,認 識 された数値

と開示 された数値に対 して市場が同 じように評 価 している と考えるべ きではないと述べている

[DaVis-Fridayetal.(1999),p.421]。 つ まり,SFAS第106号 のもとで提供されるPRB負 債の開

示情報 と認識情報では,同 じ内容の情報であっ ても市場は認識情報に対 してより強 く反応する

ことが明らかにされたのである。

その他にも,石 油 ・ガス業界に属する企業を対象 として,認 識 と開示に対する市場の評価の

違いを観察 したAboody(1996)の 研究 もある。石油 ・ガス業界 には,油 田などの採掘 にさい

して総発生原価資産計上方式(fullcostingmethod)と 成功支 出資産計上方式(successful

effortsmethod)が 認め られている(以 下では前 者を採用 する企業 をFC企 業といい,後 者 を採

用する企業 をSE企 業 という)[Aboody(1996),p.22]。FC企 業 とSE企 業が資産の評価切 り下

げを行 うさいに,前 者にはその評価損を損失と して認識す ることが求め られ,後 者には注記に

おける損失額の開示が求め られている7。 同じ業界にあ って,資 産の評価切 り下げ額 を認識す

る企業 と開示する企業があることか ら,Aboody(1996)は 石油 ・ガス業界を選択 し,認 識 と

開示に対する市場の反応を観察 している。

彼は,評 価の切 り下げを損失 として認識 しな ければ ならないFC企 業22社 と注記における開

示でよいSE企 業50社 の合わせて72社 を対象と して調査 を行っている。評価切 り下げを公表 し

た 日から3日 間の平均 リターンを従属変数として,認 識 された損失控除後の純利益変動額,税

引前の認識損失(開 示 されている場合 は0),総 資産 に占め る石油 ・ガス売上高,決 算時点の

市場価値 を独立変数とするモデルを構築 し分析 してい る(pp.27-28)。 その結果,認 識 された

損失の係数が有意にマイナスであるこどが確認 された(p.29,table3)。 また,認 識 された損失

控除後の純利益変動額 の係数が有意 にプラス とな ったの は開示企 業 だけであ った(p.29,

table3)。 損失を認識 している企業に対する株価 の反応 はマイナスであ り,損 失を開示 してい

る企業に対する反応 とは有意に異なっていたこ とか ら,Aboody(1996)は 「投資家 は…認識

された評価切 り下げ額だけを価格 に織 り込んで 」(p.28)お り,「評価切 り下げを認識す るか開

示するか とい うことは,会 社の価値に対 して 有意 な(significant)影 響 を及 ぼ している。」

(p.30)と 述べている。つまり,同 じ情報であ って も,市 場は認識 された情報 に反応する もの

の,開 示情報 には反応 しないのである。

アメ リカでは開示情報と認識情報 に対す る市 場の反応の相違が検証 されているが,わ が国に

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一 認識と開示に対する市場の反応の相違 一 115

おいてもこの ような研究 として川口(2003c)の 研究がある8。川口(2003c)の 研究は,わ が

国でごく短期 間に有価証券の公正価値情報が開示情報から認識情報へと変わったことに着 目

し,有 価証券の保有割合の大 きい銀行業を対象 として,情 報の提供のされ方の違いがそれを保

有する銀行の株価に対 してどのような影響を与 えているのかについて調査 している。

川口(2003c)で は,企 業評価 モデルである割引キ ャッシュフローモデル(以 下ではDCFモ

デルという)を 用いて有価証券公正価値情報の開示方法の違いと株価の関係を検証 している。

そこでの調査対象は,銀 行業の1991年3月 期から2000年3月 期 を除いた92002年3月 期 までの

11年 分の個別データである。川口(2003c)で は,調 査対象 を 「特定取引勘定10」 を設置 して

いるか否かによりさらに二つに分類 し,財 務諸表に対する補足情報や注記情報 として提供され

ている開示情報や,財 務諸表本体で報告されている認識情報が,株 価形成に対 してどのような

影響を有 しているのかを調査 している。調査結果によれば,特 定取引勘定の設置行においては

有価証券公正価値評価額の有用性は,注 記情報か ら本体情報へ と制度が変更 されたときに,そ

の有用性が向上 していることが確認 されている。つ まり,認 識 情報である本体情報の方が,開

示情報である注記情報 よりも株価形成に強い説明力 を有 しているのである。 しか しながら,非

設置行を対象 とした場合には注記情報から本体情報へ とい う変更についてはそのような結果を

観察できず,補 足情報から注記情報にかけて有用性の向上が確認されただけである。また,全

銀行を対象 とした場合 には補足情報から注記情報にかけて有価証券公正価値情報の有用性が認

め られる ものの,そ の変化 までは観 察 され なか った ことが明 らか に されている11。 川 口

(2003c)の 研究では,一 部の銀行 を対象とした場合には株価形成 に対す る認識情報 と開示情報

の説明力に相違 を観察できたものの,全 体 としては市場が認識情報 と開示情報 を区別 している

という結果を得ることはで きなかったのである。

本節では,投 資家をは じめ とした情報利用者が認識情報と開示情報を異なるもの として評価

しているのかについて検証 した先行研究を概観 して きた。認識 と開示に関する基準設定機関の

公告に対 して市場がどのような反応 を示すのか を調査 したEspahbodietal.(2002)の 研究では

認識情報 と開示情報では市場が異なる反応を示すことが明らかにされていた。また,Amirand

Amir(1997)やDavis-Fridayetal.(1999)の 研究では年金以外の退職給付予想債務見積額 を開

示 した場合 と認識 した場合では企業の株価形成に有意 な差があるこ とが観察されていた。石

油 ・ガス業界を対象としたAboody(1996)の 研究では,投 資家が認識 された情報 と開示 され

た情報を区別 して評価 していることが確かめ られていた。つまり,ア メリカでは,市 場は認識

情報 と開示情報を区別 して用いていると考えることがで きるのである。 しか しながら,わ が国

の銀行を対象 として認識情報 と開示情報の市場に対する反応の相違 を調査 した川口(2003c)

の研究では,ア メリカのような結果 を観察することはで きなかった。

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116 一 経 営 論 集 一

3.本 研 究 にお い て使 用 す るモデル とデ ー タ

前節で取 り上げた川口(2003c)の 研究では,2000年3月 期 を除 く1991年3月 期 から2002年

3月 期までの11年 間の個別データを対象として,補 足情報から注記情報,本 体情報 に対する市

場の反応の相違 を検証 していた。 しか しなが ら,こ の間には主要な財務諸表が個別財務諸表か

ら連結財務諸表 に変更 されてお り,桜 井(1999)に よれば,市 場は個別データよ りも連結デー

タを重視 していることが紹介 されている12。そうであるな らば,川 口(2003c)に おける本体

情報の分析結果は,主 要財務諸表が連結財務諸表に変更 された影響を大 きく受けている可能性

もあ りうる。つまり,川 口(2003c)の 調査結果は,有 価証券が開示情報か ら認識情報 に変更

された影響を受けたものなのか,主 要財務諸表の連結化 による影響を受 けた ものなのかを区別

することができないのである。

そこで本稿では,川 口(2003c)の 研究 と同 じDCFモ デルを基礎 として,連 結データを用い

た分析 を行い,認 識情報 と開示情報に対する市場の反応の相違 を観察することにする。連結 デ

ータを用いることにより,主 要財務諸表の連結財務諸表化 という制度変更が調査結果 に与える

影響を除くことができると考えられるか らである。また,連 結データを用いて分析 を行 うこと

により,こ れまでの研究では用いることのできなかった2000年3月 期のデータを分析すること

が可能となる。

また,本 稿の調査対象である銀行業では近年,合 併や持ち株会社の設立などによ り企業形態

に変更のあった銀行が多 く存在 している。本稿では,そ の ような変更の影響を可能な限 り除 く

ために,企 業形態 に変更がなく,か つ連結データを入手で きる2000年3月 期から2002年3月 期

まで一貫 して東京証券取引所市場第一部に上場 している銀行57行 を調査対象 とす るこ とにす

る。

銀行57行 の連結データに対 して,川 口(2003c)と 同じくDCFモ デルをベースと した以下の

式13を 分析することにする。なお,先 行研究 と同様 に企業規模が調査結果に与える影響 を除 く

ために,全 ての変数を株主持分簿価(BVE)で 除すことにする。

臓 =βo+β1

BレEBワE

OtherBVA SECFV+β2 十 εBレE

この式において,MVEと は株主持分価値 を示 してお り,5月 末 日の株価に連結ベースの発行済

み株式数を掛けた ものにより算出 している。OtherBVAと は有価証券を除いた総資産の簿価 の

ことであ り,SECFVは 有価証券の公正価値評価額のことである。有価証券公正価値評価額が

株主持分価値 の形成 に有用であるのかを調べ るために 「H。:β2≦0」 を検定 してい くことに

する。

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認識と開示に対する市場の反応の相違 117

有価証券の公正価値評価額は,制 度変更 にともない開示 ・報告される有価証券の分類方法が

異なっている。主要財務諸表に対する注記情報 として開示 されていた2000年3月 期までは,保

有有価証券は上場有価証券であるのか,非 上場有価証券であるのか という区別 によりその公正

価値情報が開示 されている。他方で,財 務諸表本体において認識 されるようになった2001年3

月期以降については,保 有有価証券を上場 ・非上場で区別するのではなく,有 価証券の保有意

図により分類 されるようになった。つ まり,売 買 を目的 として保有する売買 目的有価証券,満

期まで保有する意図のある満期保有有価証券,そ してその他有価証券 などに分けて報告される

ことになったのである。本稿では,2000年3月 期 については上場有価証券を,2001年3月 期 と

2002年3月 期においては売買目的有価証券 に焦点をあてて調査することにする。

売買目的有価証券に焦点をあてるのは,2001年3月 期か ら貸借対照表 において公正価値を入

手できるのが売買目的有価証券だけだからである。売買目的有価証券 を調査対象 とすることに

よ り,認 識情報 として初めて提供 された有価証券の公正価値情報が,単 に注記情報 として開示

されていた2000年3月 期 とどのように市場に与 える影響に違いが生 じるのかを観察することが

可能になる。 また,そ うすることにより開示 と認識に対する市場の反応の相違について,一 貫

した調査結果 を得 ることがで きると考えられる。

つづいて,調 査対象 となった銀行57行 が どのようなデータの特性を有 しているのかを確認

するため に,デ ータの記述統計量か らみてい くことにする。分析 モデルで用いるMVE/BVE,

OtherBVA/BVE,SECFV/BVEの ほか,デ ータの より詳細 な特性 を観察するため に総資産

(BvA)や 有価証券公正価値評価差額(sEcdif)をBvEで 除 したBvA/BvE,sEcdif/BvEに

ついても同様 に観察することにする。取 り上げる記述統計量は,デ ータの平均値,第1四 分位,

中央値,第3四 分位,標 準偏差の五つである。調査対象である57行 の各記述統計量 を一覧 にし

たものが図表1で ある。

まず,MVE/BVEの 記述統計量からみてい くことにする。これは株主持分価値をその簿価 で

除 した値であ り,通 常は1を 上回ることが期待 されているものである。2000年3月 期 について

は平均値が1.011,中 央値が1.041と なってお り半数以上の銀行がほぼ1と なっていることが確

認で きる。 しなしながら,2001年3月 期ならびに2002年3月 期については平均値 ・中央値 とも

に1を 下回ってお り,半 数以上の銀行が期待値である1に 達 していない。なかでも,2001年3

月期はもっとも値が低 く,銀行の株主持分価値が極めて低い値となっていたことを指摘 できる。

その後,2002年3月 期 には若干上昇 し,1以 上ではないもののほぼ1に 近い値 となっている。

データの散 らば りを示す標準偏差については三年間に大きな差はなく,三 年間はほぼ同 じよう

なデータの分散 となっていたことを確認することができる。

次に,BVA/BVEな らびにOtherBVA/BVEの 記述統計量を取 り上げることにする。両データ

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118 一 経 営 論 集

図表1記 述統計量

平均値 第1四 分位点 中央値 第3四 分位点 標準偏差 N

㎜ 2000年

2001年

2002年

1,011

0,890

0,982

0,745

0,617

0,694

1,041

0,873

0,925

1,163

L130

L224

0,337

0,300

0,370

56

56

56

BVE

BVA 2000年

2001年

2002年

23,015

20,856

23,901

19,862

17,358

18,823

21,828

20,358

22,307

25,377

23,764

26,952

4,516

4,661

6,965

56

55

56

BVE

OtherBVA 2000年

2001年

2002年

18,458

16,394

18,830

14,963

13,178

13,988

17,814

15,483

17,228

20,915

18,918

22,035

4,039

4,419

6,440

56

55

56

BVE

SECFV 2000年

2001年

2002年

1,686

0,055

0,081

0,802

0,004

0,006

1,347

0,007

0,015

2,020

0,034

0,047

1,278

0,127

0,197

56

54

53

BVE

SECdif 2000年

2001年

2002年

0,327

0,001

0,000

0,042

0,000

0,000

0,161

0,000

0,000

0,376

0,000

0,000

0,559

0,003

0,000

56

40

38

BVE

の 違 い は 総 資 産 の 簿 価 か ら有 価 証 券 に 関 す る もの を除 い て い る の か 否 か とい う点 で あ る 。 平 均

値 は,い ず れ も2002年3月 期 が もっ と も大 き く,つ い で2000年3月 期,2001年3月 期 の順 と な

っ て い る。 中央 値 は2000年3月 期 の 方 が2002年3月 期 の そ れ よ り も若 干 で は あ る が 大 き な値 と

な っ て い る。 この こ とか ら,2000年3月 期 の 方 が2002年3月 期 に比 べ れ ば 右 に偏 っ た デ ー タ と

な っ て い る こ とが 分 か る 。 しか しな が ら,デ ー タの 散 らば りを み る標 準 偏 差 を み て み る と,

2000年3月 期 に はBVA/BVEが4.516,0therBVA/BVEは4.039で あ る の に対 して,2002年3月

期 に はBVA/BVEが6.440,0therBVA/BVEは6.965と な っ て お り,デ ー タは2002年3月 期 の 方

が 散 ら ば りが 大 き くな っ て い る 。 さ ら にBVA/BVEの 標 準 偏 差 とOtherBVA/BVEの そ れ を比

べ る と,有 価 証 券 を除 くこ と に よ りデ ー タの 分 散 が わ ず か で あ る が 小 さ くな っ て い る 。2002

年3月 期 に は そ の 他 有 価 証 券 につ い て も貸 借 対 照 表 で 公 正 価 値 評 価 さ れ る よ うに な っ て い る た

め,こ の こ とが 原 因 と な っ てBVA/BVEの 分 散 を大 き く して い る と考 え る こ とが で き る。

最 後 に,sEcFv/BvEな ら び にsEcdif/BvEの 記 述 統 計 量 に つ い て み て い く こ と に す る 。

2000年3月 期 か ら2001年3月 期 に か け て,す べ て の 記 述 統 計 量 が 小 さ くな っ て い る 。 こ れ は,

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一 認識と開示に対する市場の反応の相違 一 119

制 度変更にともない調査 に使用で きる有価証券の区分が変わって しまったことが原因だと考え

られる。2000年3月 期 までは有価証券 を保有意図に応 じて分類 されていなかったために,上 場

有 価証券 を使用 しているか らである。売買 目的有価証券に焦点をあてている2001年3月 期 と

2002年3月 期のSECFV/BVEを 比較すると,2001年3月 期 よりも2002年3月 期の方が平均値や

標準偏差は大 きくなっている。 しかしなが ら,そ れらの評価差額であるSECdif/BVEを みてみ

る と値が小 さす ぎるためにBVEで 除すことにより限 りな く0に 近い値 となっている。売買 目的

有価証券についてはその公正価値評価額は2001年3月 期 よりも2002年3月 期の方が大きな値 と

なっているが,評 価差額についてはその限 りではないことを確認できる。 また,売 買目的有価

証券の公正価値評価差額は値が小 さす ぎるため,本 研究においては有価証券公正価値評価差額

をモデルに投入 し,そ の有用性を確認するという分析 を行 うことがで きないと考えられる。

つづいて,各 デー タの相関関係 を分析することにする。石川(2000)に よれば連結データと

親 会社の個別データを比較 した場合,連 結データの方が株価 との関連性が強いことが確かめ ら

れている[石 川(2000),225-227ペ ージ]。 このことを本研究においても確認するために,実

際 に連結データと親会社 の株主持分価値 に相関関係が存在するのか否か を調べる必要がある。

なお,こ れらのデータについて,外 れ値 として年度 ごとに3σ 範囲外のデータのみを調査か ら

除外 して分析 を行 うことにする。また,年 度間のデータの一貫性 を保つために,一 度でも3σ

範囲外 となったデータを有す る銀行 を全て除いた うえでの分析 も同時に行 うことにする。各変

数 間の相関関係 を一覧にした ものが図表2で ある。上段が3σ 範囲外のデータのみを外れ値 と

して除いたもの(以 下では,全 銀行 とい う)で あ り,下 段が3σ 範囲外のもの を一貫 して除い

た残 りの49行(以 下では,49行 一貫という)の 相関係数である。

図表2相 関係数

2000年 2001年 2002年

㎜ OtherBVA SECFV ㎜ OtherBVA SECFV 輌BVE

OtherBVA SECFV

BVE BVE BVE BVE BVE BVE BVE BVE

BVE

OtherBVA0.308★ ★

・0.030

0.375★ ★★

0,087

一〇.024

0,107 0.520★ ★★

0.325★ ★

0.522★ ★★

℃,075

0.308★ ★

-0,084 0.733★ ★★

0.395★ ★★

0.731★ ★★

0,174

0.396★ ★★

0,179

BVE

SECFV

BVE

t★★:p<0.01,★t:p<0.05,★:p<0.10,上 段:全 銀 行 の デ ー タ,下 段:49行 一 貫 デ ー タ

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120 一 経 営 論 集 一

図表2に ついて全体的にいえることは,上 段 と下段 の相関係数 には大 きな違いがないとい う

ことである。つまり,外 れ値 をどの ように除いたか ということによる影響は本調査 においては

小 さいことが確認で きる。また,会 計デー タを用いる さいに注意 しなければならない独立変数

間の相関については,い ずれの年度 においても独立 変数間の相関係数が0で あることを棄却で

きない。 したがって,独 立変数間の相関関係 につい ては分析 にさい して問題 ないといえる。

それでは,2000年3月 期 におけ る相関係数 か らみて い くこ とにす る。従属変数 であ る

MVE/BVEとOtherBVA/BVEに はO.3程 度の相 関関係が認 め られるものの,SECFV/BVEと の

間には相関関係を確認することができない。理論的 には有価証券の公正価値評価額は株主持分

価値の形成に有用だと考えられるだけに,連 結 デー タを用いた場合に有価証券公正価値評価額

と株主持分価値 との間に相関関係 を認められないこ とは意外 な結果である14。

つづ いて2001年3月 期 にお ける相 関係 数 をみ てみ る と,前 年度 に比べMVE/BVEと

OtherBVA/BVEの 相関係数が高 くなってお り,0 .5程 度 になっている。 また,2000年3月 期に

は相関関係 を認め られなかったMVE/BVEとSECFV/BVEと の 間にも相関係数が有意水準5%

で0.3程 度の相関関係 を確認することができる。そ して,2002年3月 期における相関係数 をみ

るとMVE/BVEとOtherBVA/BVEの 相関係数は0 .7ま で上昇 し,高 い相関関係があることが確

かめられる。この年度におけるMVE/BVEとSECFV/BVEの 相 関関係 について も,前 年度 より

も相関係数が高 くな り,有 意水準1%で0.4に 近い値 となっている。

従属変数であるMVE/BVEと 独立変数であるOtherBVA/BVEな らびにSECFV/BVEに おけ

るそれぞれの相関関係は,年 々高 まっていることが図表2の 結果か ら確かめることがで きる15。

そこで,次 第ではこれらのデータを用いて,回 帰分析 を行 うことにする。

4.本 研 究の 調 査結 果 とその解 釈

本節では,前 節で取 り上げた分析モデルとデータを用いて,開 示 と認識に対す る市場の反応

の相違 を観察す ることにする。調査結果を一覧 に した ものが図表3で ある。図表3に おいて ,

全銀行ならびに49行 一貫 を対象 とした場合に,各 年度 にお いてモデルがそれぞれ成立 してい

るのか否か という点から確認 してい くことにする。

全銀行においては,2000年3月 期か ら2002年3月 期 におけるF値 をみると,い ずれ も4以 上

の値 となってお り,2000年3月 期 においては有 意水 準5%で,2001年3月 期な らびに2002年3

月期は有意水準1%で それぞれモデルが成立 してい る。その ことはR2に つけたアス タリスク

(★)で示 してある。 また,モ デルの説明力を示すR2の 値を各年度 で比較 してみる と,2000年3

月期 には0.145で あったものが2001年3月 期には0.394,2002年3月 期 には0 .607と 徐 々に上昇

していることを観察できる。

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認識と開示に対する市場の反応の相違 121

図表3開 示と認識に対する市場の反応の調査結果

開示情報 認識情報

2000年 2001年 2002年

偏回帰係数 標準化係数 偏回帰係数 標準化係数 偏回帰係数 標準化係数

定数 0.449★ ★ 0,195 0,075

OtherBVA

0.032★ ★★0.382 0.039★ ★★0.552 0.048★ ★★0.683

BVE

全 SECFV一〇.017-0,065 0.838★ ★★0.354 0.515★ ★★0.273

銀 BVE

行 R2 0.145★ ★ 0.397★ ★★ 0.607★ ★★

Adj.R2 0,111 0,373 0,591

F値 4,320 16,458 37,116

N 54 53 51

定数 0.532★ ★ 0,173 0,064

OtherBVA

0.027★ ★0.313 0.040★ ★★0.548 0.048★ ★★0.685

BVE

49

SECFV

行 一〇.015-0,057 0.860★ ★★0.366 0.523★ ★★0.277

BVE一

R2 0.098★ 0.404★ ★★ 0.611★ ★★

貫Adj.R2 0,059 0,378 0,594

F値 2,505 15,598 36,141

N 49 49 49

★★★:p〈O.Ol,★ ★p<0.05,★p<0.10

49行 一 貫 に お け る 調 査 結 果 をみ て み る と,2000年3月 期 はF値 が2.505と 比 較 的小 さ い もの

の 有 意水 準10%で モ デ ル が 成 立 して お り,2001年3月 期 お よ び2002年3月 期 に お け るF値 は15

以 上 の 値 と な っ て お り,有 意 水 準1%で い ず れ の 年 度 に お い て も モ デ ル が 成 立 して い る 。 こ の

こ と につ い て もR2に 付 した ア ス タ リス ク(★)で 確 認 で きる 。49行 一 貫 の モ デ ル の 説 明 力 は全

銀 行 を対 象 と した場 合 とた い して 変 わ らず,R2は2000年3月 期 に は0.098で あ っ た も のが2001

年3月 期 に はO.404,2002年3月 期 に は0.611と 徐 々 に そ の 説 明力 が 増 して い る こ と を観 察 で き

る。

全 銀行 お よ び49行 一 貫 の い ず れ に お い て も モ デ ル 式 が 成 立 して お り,モ デ ル のR2も 年 度 ご

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122 経 営 論 集

とに上昇 していることを確認で きる。 また,両 グループの結果において2000年3月 期のR2が

ともに0.1程 度 と小 さな値 となっているのは,こ の年度 においてのみSECFV/BVEに 説明力が

ないからであると思われる。そこで,つ づいて有価証券公正価値情報の有用性の変化を観察す

るためにSECFV/BVEの 係数についてみてい くことにす る。

まず,全 銀行 の各年 度 においてSECFV/BVEの 係数 がマイナスである とい う帰無仮 説

(H。:β,≦0)を 確かめることにする。図表3を みてみると,2000年3月 期 にお いてはこの帰

無仮説を棄却することができない。 しかしながら,2001年3月 期および2002年3月 期において

はそれぞれ有意水準1%でSECFV/BVEの 係数が有意にプラスの値(O.838と0.515)と なってい

ることを確認で きる。つ まり,β2≦0と い う帰無仮説 を棄却 しているのである。また,49行

一貫における調査結果 について も同様 に2001年3月 期ならびに2002年3月 期においては有意水

準1%でSECFV/BVEの 係数がプラスの値(0.860と0.523)で あることを観察す ることができ

る。

全銀行お よび49行 一貫の調査結果において,2000年3月 期 にSECFVの 係数が0以 下である

ことを棄却で きないのは,図 表2に おいて従属変数 との相関関係を観察できなかったことから

当然の結果である。 しか しながら,DCFモ デルによれば理論 的に有用だと考えられる有価証

券公正価値のデータが株主持分価値の形成に有用ではないのはなぜであろうか。

これは2000年3月 期 と2001年3月 期では,有 価証券公正価値情報の会計情報 としての位置付

けが異 なっていることが原因であると考 えられる。単に注記情報 として開示 されていた2000

年3月 期にはSECFV/BVEは 会計情報における開示情報 としての位置付けであ り,MVE/BVE

の予測 にさい して有用な情報ではなかった。一方の認識情報 となった2001年3月 期 ならびに

2002年3月 期についてはその有用性が確認 されている。この点に開示情報と認識情報に対する

市場の反応の相違 を観察できると考 えられるのである。市場は同 じ情報であって も認識情報 に

対 しては反応するが開示情報 には反応 しないということは,第2節 で取 り上げたDavis-Friday

etal.(1999)の 研究やAboody(1996)の 研究で も観察されている。 このことが本調査 におい

ても妥当する と思われる。つまり,同 じく有価証券の公正価値情報であったとしても,開 示情

報 と認識情報では市場は異なる反応 を示 し,開 示情報 よりも認識情報の方が株価 に対する説明

力が高 く,有 用性が高いという証拠だ と考え られるのである16。

しか しなが ら,2001年3月 期 と2002年3月 期 を比較すると,全 銀行 も49行 一貫'もともに

2001年3月 期ではSECFV/BVEの 係数が0.8を 超えていた ものが2002年3月 期 にはどもに0.5程

度に低下 している。この間は同 じく認識情報 と有価証券公正価値情報が提供 されていた時期で

あるにもかかわらず,SECFV/BVEの 係数が低下 しているのである。 この理由については両年

度 におけるR2の 大 きさとともに次のように考 えることができる。

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認識と開示に対する市場の反応の相違 123

SECFV/BVEの 係 数は2001年3月 期 よりも2002年3月 期の方が低 いが,モ デルのR2を 比較 し

てみる と,い ずれ も2002年3月 期の方が高い値となっている。2002年3月 期 には,そ の他有価

証券の公正価値情報 についても貸借対照表における情報 として報告されている。また,有 価証

券 に関する制度変更 に限らず,一 連の制度変更により貸借対照表全体の有用性が高まっている

時期だ とも考え られ る。貸借対照表データの有用性が全体 として向上 したことが一つの要因 と

なって,有 価証券公 正価値情報 はたとえ有用な情報であって も全体に占める説明力が低下 し,

結果 として2002年3月 期のSECFV/BVEの 係数が低下 したのではないであろうか。係数は,あ

るモデルのなかで特定の変数が従属変数 を説明できる割合 を示 している。同 じモデルにおける

他の変数の説明力が上昇することにより,必 然的に係数は小さくなってしまうのである。その

証拠 に他 の変数の影響 を考慮 しない図表2に おける相関関係 を観察 してみると,SECFV/BVE

とMVE/BVEの 相 関係数は2001年3月 期 よりも2002年3月 期の方が高い値 となっている。つ

まり,SECFV/BVEの 有用性 は2002年3月 期において低下 したというよりも,そ の年度におけ

るOtherBVA/BVE17の 有用性が より高い ものとなっているので,全 体 としてみた場合には

SECFV/BVEが 説明 できる割合が低下 したと考えられるのである。SECFV/BVEの 係数が低下

してい ることについて,R2が 高 くなっていることと関連 させて考えるこ とが必要であると考

え られる。 しか しなが ら,こ の傾向をより明確にするためには,今 後入手可能 となった年度に

ついて も調査 してい く必要があるといえよう18。

またSECFV/BVEの 係数が2002年3月 期 よりも2001年3月 期の方が大 きい理由として,有 価

証券公正価値情報が2001年3月 期 に初めて貸借対照表本体で計上 されたことも考 えることがで

きる。認識情報 と して初めて開示 された有価証券公正価値情報 に対 して市場は大 きく反応 し,

その結果 として2001年3月 期のSECFV/BVEの 係数が大 きくなったと考えられるのである。そ

の翌年 である2002年3月 期には前年のような初年度効果はな くな り,SECFV/BVEの 係数が低

下 したのではないだ ろうか。

本節 をまとめると,次 のようにいうことができる。有価証券公正価値情報は,注 記情報 とし

て単に開示 されるよ りも,貸 借対照表における認識情報 として提供 される方が,株 主持分簿価

に対す る説明力が高 いといえる。これは,市 場が開示情報 と認識情報 とを等 しく扱 っていない

証拠であると考 えられ,こ の点 を明らかに したことは本研究の意義であるといえる。 また,認

識情報 と して提供 された2001年3月 期 と2002年3月 期 を比較すると,モ デルのR2値 を比べた

場合にはモデルの説明力は高まっているものの,有 価証券公正価値情報の有用性は2002年3月

期 よりも2001年3月 期の方が高 くなっていた。貸借対照表データ全体の有用性が上昇 してお り,

そのなかに占める有価証券公正価値情報の有用性の割合が低下 したことが一つの原因であると

考 えられる。 しか しなが ら,こ の点については調査対象期間を拡張 し,分 析 してい く必要があ

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124 一 経 営 論 集 一

ろ う 。

5.む すび

本稿では,わ が国の銀行が保有 する有価証券公正価値情報 を対象 として,認 識情報 と開示情

報 に対する市場の反応 に違いがあ るのか否 か をDCFモ デル をベース として調査 を行 った。調

査対象は,有 価証券公正価値情報 が連結ベースで開示 されるようになった2000年3月 期か ら貸

借対照表本体で認識されるように なった2001年3月 期および2002年3月 期の57行 のデータで

あった。本節では,本 稿をまとめ る とともに本研究の課題を明らかにすることにす る。

認識情報と開示情報 に対す る市場 の反応の相違 を観察す るために,第2節 では主 としてアメ

リカで行われた認識 と開示に関す る先行研究 を概観 した。アメ リカでは投資家をは じめとした

情報利用者が認識情報 と開示情報 を異 なるもの として評価 しているのか を検証 した研究が多 く

なされている。認識 と開示に関す る基準設定機関の公告 に対す る市場の反応の相違 を調べた

Espahbodietal.(2002)の 研究,年 金以外 の退職給付予想債務見積額を開示 した場合 と認識 し

た場合では企業の株価形成 に有意 な差があ るのか観 察 したAmirandAmir(1997)やDavis-

Fridayetal.(1999)の 研究,石 油 ・ガス業界 を対象 として調査 したAboody(1996)の 研究で

は,投 資家は認識情報 と開示情報 を区別 して評価 していることが確認されていた。 しか しなが

ら,わ が国の銀行 を対象 として認 識情報 と開示情報 の市場に対する反応の相違を調査 した川口

(2003c)の 研究では,そ のような認識 と開示の違い を観察することはできなかった。

川口(2003c)の 研究が個別 デー タを用いていたために認識 と開示の違いを観察で きなかっ

たのではないか という問題意識に基づ き,第3節 では本研究で用いるモデルとデー タを確認 し,

第4節 において連結データを用いて実際 に分析 を行った。その結果,有 価証券公正価値情報は,

注記情報 として単に開示 されるよ りも,貸 借対照表における認識情報 として提供 される方が,

株主持分価値 に対する説明力が高 い とい うこ とが確認 された。このことは,市 場が開示情報 と

認識情報を同 じように株価形成において用 いていない証拠であると思 われる。効率的市場仮説

によればこのような結果にはならないと考 え られる。この点 をわが国のデータを用いて観察 し

たことは本研究の意義 としてあげ られる。

しか しながら,認 識情報 として提供 された2001年3月 期 と2002年3月 期を比較す ると,有 価

証券公正価値情報の有用性は2002年3月 期 よ りも2001年3月 期 の方が高 くなっていた。2002

年3月 期には貸借対照表データ全体 の有用性 が上昇 したことによりモデルの説明力は向上 して

いるが,本 研究で使用 したモデル に占める有価証券公正価値情報の有用性の割合が低下 したこ

とが一つの原因であると考え られ る。2001年3月 期 から2002年3月 期にかけての有価証券公正

価値情報の有用性の変化は,今 後,他 の制度変更の影響 を統制 したうえでさらに調査 してい く

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認識と開示に対する市場の反応の相違 125

ことが必要であろう。貸借対照表データ全体の有用性を高めたと考えられる他の制度変更の影

響を統制す ることは今後の課題である。

また,本 研究では川口(2003c)の 研究における個別データから連結データに変更するとい

う課題を克服 したものの,連 結データとして分析できる期間が三年間であった。今後 は,さ ら

に新 しい連結データを分析に加え,調 査 を行 う必要がある。

さらに,モ デルの選択 に関する問題 もある。川口(2003c)で は,DCFモ デルを理論ベース

として用いる場合には,で きるだけ多 くの資産や負債の公正価値情報 を用いる必要があると指

摘 されていた。 しかしなが ら,本 稿で用 いたのは有価証券に関する公正価値情報のみであ り,

理論モデルと実証モデルとの乖離が存在する。近年,会 計情報の有用性を検証 した研究などで

は割引超過利益モデルが用いられていることから,本 研究においてもそのような調査 を行って

い く必要があろう。 また割引超過利益モデルを用いれば,貸 借対照表 に及ぼす他の制度変更の

影響を受けずに有価証券公正価値情報の有用性が認識情報 と開示情報 とで異 なるのか否か を観

察することが可能になるとも考えられる。 したがって,よ り長期間にわたる連結データを対象

として割引超過利益モデルによる分析 を行うことも今後の課題 としてあげられる。

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さら にSFAC第5号 で は,情 報 が認 識 され るた め に は,定 義,測 定 可 能性,目 的 適 合 性,信 頼 性 の四 つ の

基本 的認 識 規 準 を満 た さな け れ ば な らず,こ れ らの認 識 規 準 が満 た さ れ る と き に は情 報 は認 識 され な け

れば な らな い と規 定 され て い る(par.63)。

Davis-Fridayetal.(1999)に お い て は,年 次 報 告 書 やFormlO-Kに 記 載 され た情 報 の こ と をい う と定 義 さ

れて い る。

また 『金 融 商 品 に係 る会計 基 準 』 に よ り,2002年3月 期 か ら はそ の 他 有価 証 券 の 公 正価 値 情報 が財 務 諸

表本 体 にお い て認 識 され る よ うに な って い る。

SFAS第106号 は,1993年 までPBRの 予 想 債 務 見 積 額 に関 す る会 計 処 理 と して,1991年 と1992年 の 間 に

①SFAS第106号 を適 用 し,PBRの 予想 債 務 見 積 額 を認 識 す る こ と,② 適 用 しな い が,適 用 した 場 合 に 予

測 され る影響 を 開示 す る こ と,③1993年 まで適 用 を遅 らせ る こ との 三 つ の方 法 の 選 択 適 用 を認 めて い た。

した が って,企 業 は 四 つの グ ルー プに分 け られ る 。

Davis-Fridayetal.(1999)で は,SFAS第106号 を正 式 に適 用 した年 度 に よ っ て1992年 に適 用 した企 業

(146社)と1993年 に 適用 した企 業(83社)の 二 つ の グ ル ー プ を分析 してい る。

しか しな が ら,適 用 に先 駆 け1992年 に 開示 され たPRB負 債 につ いて は 有意 な結 果 を得 られ て い ない 。

資 産 計 上 した 費 用 が,最 高 限度 額 を超 過 して も非 割 引 キ ャ ッシ ュ フ ロー を下 回 る な らば,割 引 キ ャ ッシ

ュ フ ロー 相 当額 まで 資 産 の評 価 を切 り下 げ る さい に,FC企 業 で は割 引 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー額 まで 資 産 の評

価 を 切 り下 げ,そ の 全 額 を損 失 と して認 識 しなけ れ ば な らな いが,SE企 業 で は た と え評 価 の 切 り下 げ を

行 っ た場 合 で も単 に注 記 にお い て…報告 す れ ば よい[Aboody(1996),pp.22-23]。

その 他 の 研究 と して2000年3月 期 を 除 く1995年3月 期 か ら2001年3月 期 まで の わ が 国銀 行 の個 別 デ ー タ

を対 象 と した 川 口(2003a)の 研 究 や1991年3月 期 か ら2001年3月 期 まで の 隔 年 デ ー タ を分 析 した川 口

(2003b)の 研 究 があ る。有 価 証 券 公 正 価 値 情 報 の有 用 性 を検証 した桜 井 ・桜 井(1998),河(2000)や 吉

田他(2002)な どの先 行 研 究 で は公 正 価 値 情 報 の有 用 性 が 認 め られ てい た が,川 口(2003a,b)に よれ ば,

その 有 用 性 の程 度 は 一定 で は な く,情 報 の 提 供 の され 方 の 違 い に よっ て変 わ り うる こ とが確 認 され て い

る。詳 し くは,川 口(2003a)お よ び川 口(2003b)を 参 照 の こ と。

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補足情報 や注記情報 としての有価証券公正価値情報 は,主 要 な財務諸表 に対す る情報 と して開示 され て

いた。2000年3月 期か ら連結財務諸表が主要な財務諸表 とされたため に,2000年3月 期について は個別

ベースでの有価証券公 正価値情報 を入手す ることはで きない。 しか しなが ら,2001年3月 期以降 には売

買目的有価証券 が,2002年3月 期 以降はその他有価証券 について も,そ の公正価値 情報が貸借対照表上

で報告 される ようになったために個別ベースで入手で きるようになっている。

特 定取 引勘定 とは,1996年6月 に成立 した 『金融機関等の経営の健全性確保 のための関係法律の整備 に

関する法律』 に より,新 たに設置 された銀行業特有 の勘定科 目である。この法律で は,内 部管理体制 が

整備 されている と認 め られる銀行が トレーデ ィング目的で保有 する有価証券 な どに対 して 「特定取引勘

定」 とい う勘定 を新設 し,そ のような有価証券に対 して貸借対照表上 で時価評価 し,そ の評価損益 を損

益計算書 に計上するこ とを求めている。

全銀行 を対象 とした場 合には,本 体情報 にお いて有価証券公正価値情 報の有 用性 自体 を確認 で きなかっ

た。詳 しくは,川 口(2003c)を 参照の こと。

ただ し,こ の ことと連 結財務 諸表 の主要財務諸表化に より,そ れ まで開示 されていた情報が提供 されな

くなって しまった とい う問題 は異なることに留意す る必要がある。

DCFモ デルをベース としてモデルを構築する場合 には,総 資産 の公正価値か ら総負債 の公正価値 を控 除

する必要がある。 しか しなが ら,会 計 データの場合には株主持分 の額がほ とん ど変動 しないために,総

資産に関するデー タと総負債 のデータを区別 できない とい う問題 があ る。 この問題 および本研究 で用 い

るモデルを構築する までの過程については川 口(2003c)を 参照の こと。

なお,個 別デー タにおける上場有価証券 の公正価値評価 額 を対 象 とした場 合 には株主持分価値 との間に

相関関係 があ ることが川口(2003c)に より確 認されている。

有価証券の公正価値情報の有用性 を確か めた先行研究では,有 価証 券の公 正価値評価額 とその評価差 額

とを区別 して分析 している研 究がある。 しか しなが ら,本 稿 では売買 目的有価証券 を調査対象 としてい

るため に有価証券の公正価値 評価差 額に関す るデー タが非常に小 さ く,従 属変数である株 主持分価値 と

の相関関係 を観察す ることがで きない。 したがって,本 稿では有価証券の公正価値評価差 額を用 いる分

析は行 わないことにする。

ただ し,2000年3月 期 と2001年3月 期 の有用性の違い において は,2000年3月 期が連結財務諸表 の主 要

財務諸表化の初年度であった ことが影響 しているとも考 えられ る。つ まり,理 論的に有用 な情報 であっ

ても,市 場が初めて連結ベースで開示された有価証券公正価値情報 に対 して反応 しなかった ことが一つ

の原因であったとも思われるのである。

OtherBVAの 係数の値 が小 さいのは,図 表1に おける記述統計量か らもわかる ように,こ の変数の数値 が

大 きいか らであ る。

また,2002年3月 期 には,本 研究の調査 対象外であったその他有価証 券について も貸借対照表上 で公 正

価値評価す ることが求め られている。2002年3月 期 においてはその他 有価証 券の公正価値情報 も認識情

報 と して提供 されているに もかか わらず,本 稿では売買 目的有価証券 だけ を調査対 象 としたこ とが2002

年3月 期 のSECFV/BVEの 係数を前年 に比べ低下 させた一つの原因であるか もしれない。

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