労働基準法等の一部を改正する法律案の概要 ·...

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労働基準法等の一部を改正する法律案の概要 長時間労働を抑制するとともに、労働者が、その健康を確保しつつ、創造的な能力を発揮しながら効率的に働く ことができる環境を整備するため、労働時間制度の見直しを行う等所要の改正を行う。 (1) 中 小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し 60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。(3年後実施) (2) 著しい長時間労働に対する 助言指導を強化するための規定の新設 時間外労働に係る助言指導に当たり、「労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない」旨を明確にする。 (3) 一定 日数の年次有給休暇の確実な取得 使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこと とする(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない)。 (4)企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進 ※労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の改正企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組を促進するため、企業全体を通じて一の労働時間等設定改善企業委員 会の決議をもって、年次有給休暇の計画的付与等に係る労使協定に代えることができることとする。 長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策等 (1) フレックスタイム制の見直し フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。 (2) 企画業務型裁量労働制の見直し 企画業務型裁量労働制の対象業務に「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を追加するとともに、対象者の健康 確保措置の充実や手続の簡素化等の見直しを行う。 (3) 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の 創設 職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事 する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の 規定を適用除外とする。 また、制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさ せなければならないこととする。※労働安全衛生法の改正多様で柔軟な働き方の実現 施行期日:平成 28年4月1日 (ただし、Ⅰの(1)については平成31年4月1日) 101

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労働基準法等の一部を改正する法律案の概要

長時間労働を抑制

するとともに、労

働者

が、その

健康

を確保しつつ、創

造的

な能

力を発

揮しなが

ら効

率的

に働

くことができる環境を整

備するため、労

働時間

制度の

見直しを行

う等所

要の改

正を行

う。

(1)中小企業における月

60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

•月

60時間を超える時

間外

労働

に係

る割

増賃金

率(50%以上)について、中

小企業

への猶

予措

置を廃

止する。(3年

後実

施)

(2)著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設

•時間外労働に係

る助

言指

導に当

たり、「労

働者の

健康が

確保されるよう特

に配慮

しなけれ

ばならない」旨

を明

確にする。

(3)一定日数の年次有給休暇の確実な取得

•使用者は、

10日

以上

の年

次有

給休

暇が

付与される労働者に対し、5日について、毎年

、時

季を指

定して与

えなけれ

ばならないこと

とする(労働者の

時季

指定

や計

画的

付与により取得された年次

有給休

暇の日

数分については

指定

の必

要は

ない)。

(4)企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進

(※労働時間等の設

定の改善に関する特別措置法の改正)

•企業単位での労

働時

間等

の設

定改

善に係

る労

使の取

組を促進するため、企業全

体を通

じて一

の労

働時

間等

設定

改善

企業

委員

会の決議をもって、年

次有

給休

暇の

計画的

付与等に係る労使協

定に代

えることが

できることとする。

Ⅰ長

時間

労働

抑制策・年

次有給休暇取

得促進

策等

(1)フレックスタイム制の見直し

•フレックスタイム制

の「清

算期

間」の

上限

を1か

月から3か月に延長する。

(2)企画業務型裁量労働制の見直し

•企画業務型裁

量労

働制

の対

象業

務に「課題解

決型提

案営業」と「裁

量的に

PD

CAを回す業

務」を追

加するとともに、対

象者

の健

康確保措置の充実

や手

続の

簡素

化等

の見直しを行

う。

(3)特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

•職務の範囲が

明確

で一定の年

収(少

なくとも

1,0

00万円

以上)を有する労

働者が、高度

の専

門的

知識

を必

要とする等

の業

務に従

事する場合に、健

康確

保措

置等

を講

じること、本人

の同意

や委員

会の決

議等

を要件

として、労

働時

間、休

日、深

夜の

割増

賃金

等の

規定を適用除外

とする。

•また、制度の対

象者

について、在

社時

間等が一

定時間

を超

える場

合には、事

業主は

、その

者に必

ず医

師による面

接指

導を受

けさ

せなければならないこととする。(※労働安全衛生法の改正)

Ⅱ多

様で柔

軟な働き方の実現

施行

期日:平

成28年4月1日

(ただし、Ⅰ

の(1)に

ついては平

成31年

4月

1日

101

中小企業における月

60時間

超の時

間外労

働に対

する割増賃金率の引上げについて

時間

外労

働が

月60時

間超である

労働

者が

存在

する割

合平均的な時間外労働が

月60時間超である割合

大企

業中

小企

業大企業

中小企業

全体

8.1

%4.4

%0.5

%0.8

%

自動車の運転の業務

40.6

%42.2

%11.7

%13.4

%

現行

改正案

1か

月の

時間

外労

働(1日

8時

間・1週

40時

を超

える労

働時

間)

60時

間以

下60時

間超

大企業

25%

50%

中小企業

25%

25%

1か

月の

時間

外労

働(1日

8時

間・1週

40時

を超

える労

働時

間)

60時

間以

下60時

間超

大企業

25%

50%

中小企業

25%

50%

平成

22年

4月以降、当分の間適用猶予

(3年

後見

直し規

定あり)

平成

25年度の「脳

・心臓

疾患

」の労

災支

給決定

件数

306件

のうち、

93件(30

.4%)が「自

動車運転従事者」

係省庁・業界

団体

等との

連携の下、長

時間労

働の抑

制に向けた環

境整

備を進

めることとする。

その

間、施行

は猶

予することとし、施行

日は他

の項目

より3年遅

らせる(平

成31年

4月

)。

102

年次

有給

休暇

(年

休)の

確実

な取

得について

①時季指定

(例:「○月

×日に休みます」)

労働

者使

用者

②○月

×日に年休が成立

①時季の希望を聴取

②希望を踏まえ時季指定

(例:「○月

×日に休んでください」)

労働

者使用者

年休が10日以上付与されている労働者に限る

以下のケース:使

用者は義務から解放される

労働者が自ら5日以上の年休を取得した

労働者自らの取得3日+計画的付与2日

労働者が自ら2日の年休を取得した

3日の年休の計画的付与が行われた

※このほか「計画的付与」(労働者側の代表と使用者との協定の締

結)により時季を決めることも可能(平成

25年導入企業割合

19.6%)

「ためらい」から、そもそも①の時季指定を行いにくい

現行

改正案

年5日

の年

休については、以下の仕組みとする

<参

考>

継続

勤務年数

6か月

1年6か月

2年6か月

3年6か月

4年6か月

5年6か月

6年6か月以上

年休の付与日数

10日

11日

12日

14日

16日

18日

20日

定の

年休

付与日数(継

続勤務の年数

に応

じて付

与日

数は異

なる。また、その

期間の全所定労働日の8割の出勤が必要)

※1週間の所定労働日数が通常の労働者より少ない方については、その日数や継続勤務年数に応じて、1~

15日の年休が付与され

る。

が国

の年

休取得率:4

8.8%(平

成25年

)⇔

平成

32年の政労使目標:70%

1年間

で年

休を1日も取得できていない労

働者の

割合

:16.4%

(平成23年)

③○月

×日に年休が成立

使用者の時季

指定は不要

使用者は5日に足り

ない日数のみ指定

103

フレックスタイム制

とは

、「清

算期

間」(現在、最長1か月)で定

められた所

定労

働時

間の

枠内

で、労

働者

が始業・終業時

刻を自

由に選

べる制度。結果的

に、労

働時間

が長い日

もあれ

ば、短

い日

もある。

このため、労働

者は

、「清

算期

間」における所定

労働時

間に達するよう、労

働時

間を調

整して働

く(法

定労

働時

間の枠を超

えれ

ば割

増賃

金が

発生)。

現在

、「清

算期

間」が

最長1か月なの

で、労働

者は

、1か月の

中での

生活

上の

ニーズに対

応するこ

とはできるが

、1か

月を超えた労働時

間の調

整は

できない。

現行

「清

算期

間」を最

長3か

月に延

長し、より柔軟

な働き方

を可

能とする。

例えば、「6・7・8月

の3か

月」の中

で労働時

間の調

整が可

能となるため、子

育て中

の親

が8月

の労

働時

間を短

くすることで、夏

休み

中の

子どもと過

ごす時

間を確

保しや

すくなる。

ただし、各月

で週

平均

50時

間(時間

外労働

が月

45時間弱となる時

間に相

当)を超

えた場

合は

、使

用者

はその各月で割増

賃金

を支

払う必

要。

改正案

清算期間を3か月とすれば・・・

①割増賃金を支払う必要はなくなる

②6月に働いた時間分は、8月に働かな

くても欠勤扱いとならない

課題

8月

7月

6月

労働時間

法定労働時間

①現行では1か月

で清

算するので、

この分の割増賃金を支払う必要

②所定労働時間(通常は

法定労働時間以内で設定)

働いていないため、現行では欠勤扱いとなる

フレックスタイム制

の見

直し(清算

期間の

上限の延長)について

104

企画

業務

型裁

量労

働制

の見

直し(対

象業

務の拡

大等)について

裁量

労働

制とは、労使で決めた時間

を労

働したもの

と「みなす」制

度。企画

型・専

門型の2種類がある。

現行

改正案 課題

解決

型提案営業

(ソリューション営業)

【例】取引先

企業

のニーズを聴

取し、社内

で新

商品

開発の企画立案を行い、当該ニーズに応じた

商品や

サービスを開

発の

上、販

売する業

務等

裁量

的に

PD

CA

を回

す業務

【例】全社レベル

の品

質管理

の取組

計画を企

画立案

するとともに、当該計画に基づく調達や監査

の改善

を行

い、各

工場

に展開

するとともに、その

過程で示された意見等をみて、さらなる改善

の取組

計画

を企

画立

案する業

務等

①「企

画・立

案・調

査・分

析」の業務をベースにした、以

下の

2類

型を対

象業

務に追

加(あわ

せて、使

用者

の労働基準監

督署へ

の報告

義務は

、制

度導

入後

6か

月目

のみ

とするよう簡

素化

課題

①現在、企画業務型裁量労働制の業務は「企画・立案・調査・分析」の業務であるが、対象業務が限定的で、ホワイトカラー

の業務の複合化等に対応できていない。

②裁量労働制の下で働く方に講じられる健康確保措置の充実が求められている。

また、制度を導入しながら、出勤時間による厳しい勤怠管理を行っている等

の実態が見られる。

例.みなし労

働時間:9

時間、休憩1時間

の場

※1日

のみなし労働時間を「9時間」と労使で決めた場合、

17時で退社しても(=実労働時間7時間)、

20時で退社しても(=実労働時間

10時間)、

時間

外割増賃金

は同額(=1時間分)となる。

みなし労

働時間(9時間)

実労

働時間

出社

9:00

賃金

計算上の労働時間

19:0

020

:00 退社

17:0

0

時間外割増賃金の

対象(1時間分)

退社

Bさん

Aさん

18:0

0

7時間

10時間

②健康確保措

置として、現

在、指

針に例示され

ている内

容(特別

な休暇

の付

与、健

康診

断等

)を省

令で規

定裁量

労働制が「始

業・終

業時

刻が

労働者に委ねられる制度」であることを法

律上

も明

確化

105

「高度

の専

門的知識等を必要とする」とともに「従事

した時間と従

事して得

た成

果との関連性が通常高くないと認められる」

という性

質の

範囲内で、具体的には

省令

で規

融商

品の

開発

業務

、金

融商

品の

ディーリング業

務、アナリストの

業務

(企

業・市

場等

の高

度な分

析業

務)、コンサ

ルタントの

業務

(事

業・業

務の

企画

運営

に関する高

度な考案

又は助

言の業務)、

研究開発業務等を想定

1.対象業務

面等

による合意に基づき職務の範

囲が明

確に定

められ

ている労

働者

「1年

間に支

払われると見込まれる賃金

の額が

、『平均給

与額

』の3倍

を相当

程度上回る」水

準として、省令で規定される

額(1075万

円を参考に検討)以

上である労

働者

「本

制度

の対象となることによって賃

金が

減らないこととする」旨を法

定指針に明記

2.対象労働者

使

用者

は、客

観的な方法等により在社

時間

等の

時間である「健

康管理

時間」を把握

康管

理時

間に基づき、①インターバ

ル措置

(終業

時刻

から始

業時刻

までの

間に一定時間以上を確保する措置)、②1月

又は

3月

の健

康管理時間の上限措置、③

年間104日

の休

日確保

措置の

いずれ

かを講じるとともに、省令で定める事項

のうちか

ら労

使で定めた措置を実施

せて、健

康管理時間が一定時間を超

えた者

に対

して、医師

による面

接指

導を実施

3.健康管理時間に基づく健康確保措置等

務記

述書

等に署名等する形で職務

の内容

及び制

度適用

についての

本人の

同意を得る。

入する事

業場の委員会で、対象業

務・対

象労

働者をは

じめとした上

記の各

事項等を決議

4.制度導入手続

「高

度プロフェッショナル

制度

」の

創設について

時間

外・休

日労働協定の締結や時間外

・休日

・深夜の

割増賃

金の支

払義務

等の規定を適用除外とする。

5.法的効果

106

「働

き方

・休

み方

改善

ポータル

サイト」を利

用して働

き方

改革

を進

めてみ

ませ

んか

厚生労働省では、企業の皆さまが社員の働き方・休み方の改善に向けた検討を行う際に活用できる「働き方・休み方改善ポータルサイ

ト」を開設しました。サイトでは、専用指標によって企業診断ができる「働き方・休み方改善指標」や、「企業における取組事例」などを

掲載しています。社員が自らの働き方・休み方を振り返るための診断も行えます。

長時間労働や休暇が取れない生活が常態化すれば、社員のメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性が高くなり、生産性が低下します。また、

企業としては、離職リスクの上昇や、イメージの低下など、さまざまな問題が生じることになります。社員のために、そして企業経営の観

点からも、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進が求められています。

働き方改革ツールを提供します

1専用指標による企業診断ができます

「働き方・休み方改善ポータルサイト」

http

://w

ork-

holid

ay.m

hlw

.go.

jp(平成

27年1月

30日開設)

診断結果に基づき対策を提案します

企業の取組事例を詳しく紹介します

提案内容に関連した取組を実施して

いる企業の取組概要を紹介します

107

働き方・休み方改善コンサルタント

【A局:W株式会社(建設業)】・業務閑散期において連続休暇を取得できるよう、年次有給休暇の計画的取得制度を導入したこと等により、100%近い年休取得率を達成

【B局:X株式会社(製造業)】・仕事を標準化することによる業務の「見える化」や部署ごとの年間休日カレンダーの社内掲示による情報共有化等により、年間平均残業時間を前年比6分の1に削減

【C局:Y株式会社(情報サービス業)】・残業が多く発生したり休みが取りにくい部署や担当者の原因について、毎月のミーティングにおけるチェックを実施すること等により、会社全体で約50%の残業を削減

助言・指導による改善事例

○ 働き方・休み方の改善に関する相談への対応や助言・指導を行うことにより、改善策の自主的検討・実施を推進

・業種及び職種等の特性に応じた働き方・休み方の改善のための企業の診断及び改善指導(個別訪問)の実施

・長時間労働の抑制等に向けた経営者の意識改革のための体験・参加型研修会(働き方・休み方の事例研究・課題解決)の実施

・助成金支給企業に対するフォローアップとしてのコンサルティングの実施・その他、電話・窓口相談への対応

取組内容

○ 恒常的な長時間労働の実態にある事業場に対し、働き方・休み方の改善のための相談、助言・指導を行うことを目的として、都道府県労働局に配置

○ 「働き方」の改善に加え、「休み方」に重点を置いた改善も意識しつつ、仕事の組み立て方や就労の仕方を見直す等、「働き方」と「休み方」を総合的に改善していくための相談、助言・指導

※ 「休み方」の改善 ⇒ 効果的な疲労の回復につながるような休日・休暇の付与・取得に改善していくこと

働き方・休み方改善コンサルタント制度の概要

108