東レ合繊クラスターの活動について...繊維トレンド 2011年9・10月号 7...

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7 繊維トレンド 2011 年 9・10 月号 ファイバー/テキスタイル 東レ合繊クラスターは、2004 年に民間ベースの 実務的な運営母体として設立された繊維産業クラス ターで、会員企業数は設立当初の 67 社から、99 社 (2011 年 6 月現在、賛助会員含む)へと規模を拡大 している。ここでは、設立から 7 年目を迎えている 東レ合繊クラスターの現状と、今後の展望について、 2011 年 6 月 29 日に開催された UI ゼンセン同盟繊 維産業シンポジウムにおける、東レ合繊クラスター 荒井由泰副会長講演『繊維産地の活性化に向けて: 東レ合繊クラスターの活動とこれから』の内容を基 に紹介する。 成り立ち 東レ合繊クラスターは、2003 年に産業構造審議 会繊維産業分科会が策定した繊維ビジョンにおいて 課題として提起された「繊維クラスターの形成」を 民間ベースで実現する形で発足した。繊維ビジョン の目指す「国内の繊維産業の復権と活性化」を実現 するための技術革新の母体となるものであり、繊維 ビジョンにて提言された 3 つの課題、「流通構造を 含む抜本的な構造改革の推進」「輸出拡大と通商政 策の推進への対応」「素材開発力・商品開発力の強化」 の実践を目指す。 委託加工による結び付きが中心で、素材メーカー 系列という色合いが強い、川中企業はややもすれば 受動的な位置付けにあった従来のビジネスモデルか ら、固定的な枠組みを越えて、繊維素材と川中企業 の高次加工技術を融合した産学官による開放型のビ ジネスモデルを形成するというのが、東レ合繊クラ スターのねらいである。 組織編成 設立当初は北陸を中心に名岐地区や新潟・関西・ 関東・川俣地区など全国から 67 社が参加し、東レ 合繊クラスター全体に共通した活動を行う「マーケ ティング部会」と、11 の分科会が設置された。分 科会は、大きく「事業系分科会」と「技術系分科会」 の 2 種類に分かれ、事業系分科会は、先述の 3 つ の課題のうち、「流通構造を含む抜本的な構造改革 の推進」と、「輸出拡大と通商政策の推進への対応」 を目的に、自立、QR の推進や輸出拡大に向けた活 動を開始、技術系分科会は、3つ目の課題である「素 材開発力・商品開発力の強化」に取り組んだ。 その後広報部会、人材育成部会や購買・物流部会 を追加し、2008 年には、その成果を積極的に外に 発信する体制の構築が必要となったため、マーケ ティング強化のための組織再編を行い、「営業企画 分科会」を新たに設置した。技術系分科会とうまく 東レ合繊クラスターの活動について 繊維調査部 図表 1 東レ合繊クラスターの設立目的 出所:東レ合繊クラスター 図表 2 マーケティング強化のための組織再編 出所:東レ合繊クラスター

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Page 1: 東レ合繊クラスターの活動について...繊維トレンド 2011年9・10月号 7 ファイバー/テキスタイル 東レ合繊クラスターは、2004年に民間ベースの

7繊維トレンド 2011年 9・10月号

ファイバー/テキスタイル

東レ合繊クラスターは、2004 年に民間ベースの実務的な運営母体として設立された繊維産業クラスターで、会員企業数は設立当初の 67 社から、99 社

(2011 年 6 月現在、賛助会員含む)へと規模を拡大している。ここでは、設立から 7 年目を迎えている東レ合繊クラスターの現状と、今後の展望について、2011 年 6 月 29 日に開催された UI ゼンセン同盟繊維産業シンポジウムにおける、東レ合繊クラスター荒井由泰副会長講演『繊維産地の活性化に向けて:東レ合繊クラスターの活動とこれから』の内容を基に紹介する。

成り立ち東レ合繊クラスターは、2003 年に産業構造審議

会繊維産業分科会が策定した繊維ビジョンにおいて課題として提起された「繊維クラスターの形成」を民間ベースで実現する形で発足した。繊維ビジョンの目指す「国内の繊維産業の復権と活性化」を実現するための技術革新の母体となるものであり、繊維ビジョンにて提言された 3 つの課題、「流通構造を含む抜本的な構造改革の推進」「輸出拡大と通商政策の推進への対応」「素材開発力・商品開発力の強化」の実践を目指す。

委託加工による結び付きが中心で、素材メーカー

系列という色合いが強い、川中企業はややもすれば受動的な位置付けにあった従来のビジネスモデルから、固定的な枠組みを越えて、繊維素材と川中企業の高次加工技術を融合した産学官による開放型のビジネスモデルを形成するというのが、東レ合繊クラスターのねらいである。

組織編成設立当初は北陸を中心に名岐地区や新潟・関西・

関東・川俣地区など全国から 67 社が参加し、東レ合繊クラスター全体に共通した活動を行う「マーケティング部会」と、11 の分科会が設置された。分科会は、大きく「事業系分科会」と「技術系分科会」の 2 種類に分かれ、事業系分科会は、先述の 3 つの課題のうち、「流通構造を含む抜本的な構造改革の推進」と、「輸出拡大と通商政策の推進への対応」を目的に、自立、QR の推進や輸出拡大に向けた活動を開始、技術系分科会は、3 つ目の課題である「素材開発力・商品開発力の強化」に取り組んだ。

その後広報部会、人材育成部会や購買・物流部会を追加し、2008 年には、その成果を積極的に外に発信する体制の構築が必要となったため、マーケティング強化のための組織再編を行い、「営業企画分科会」を新たに設置した。技術系分科会とうまく

東レ合繊クラスターの活動について繊維調査部 

図表 1 東レ合繊クラスターの設立目的

出所:東レ合繊クラスター

図表 2 マーケティング強化のための組織再編

出所:東レ合繊クラスター

Page 2: 東レ合繊クラスターの活動について...繊維トレンド 2011年9・10月号 7 ファイバー/テキスタイル 東レ合繊クラスターは、2004年に民間ベースの

繊維トレンド 2011年 9・10月号8

ファイバー/テキスタイル

連携を取りながら、分科会の成果をスムーズに世に送り出すために商品化戦略を練るというもので、現在は 6 つの「技術・素材開発分科会」の活動に横断的に関わり、自動車資材、環境資材、先端ファッション、スポーツ機能テキスタイルといった各用途に向けて販路開拓と商品の提供を推進している(図表2)。

また、当初 67 社だったメンバー企業は、東レ合繊クラスターの考え方や活動への理解が進み、参加地域も中国・四国地方が加わって 99 社まで拡大しており、会員の内容も「糸加工・紡績・製織・編み立て・染色」企業に、縫製、物流、薬剤、産地商社も加わり、同業異企業間、異業種間の熱心なコラボレーションも進んでいる。

活動成果発足から現在に至るまでの素材開発、商品開発の

具体的な成果としては、アレル物質抑制素材「アレルバスター」、地産・地消の循環型ユニフォーム事業「ホクリンク」、炭素繊維製日用品・小物類「カーボンクラブ」、英国グローブ・トロッター「世界最軽量スーツケース」、ポリエステル快適機能素材「クライマドライ」、多色展開が可能な「ケブラー」長繊維テキスタイル、高制電ポリエステル裏地「スーパー “パレル”」、制菌加工素材「シルバーテックス」など、15 件が開発され商品が上市されている。開発成果は、2007 年のジャパンクリエーションへのブース出展や、東レ合繊クラスター単独で開催する求評会などで発表してきた。その後、2010 年に第1 回の総合展を開催し、2011 年 5 月には第 2 回を開催した。

図表 6 素材開発成果例③ ポリ乳酸砂漠緑化

出所:東レ合繊クラスター

図表 3 東レ合繊クラスターの活動成果

出所:東レ合繊クラスター

図表 4 素材開発成果例① 多色展開が可能なケブラー織物

出所:東レ合繊クラスター

サンエス、創和テキスタイル、小松精練が開発した、多色展開可能なケブラー長繊維テキスタイル

2008 年「繊研合繊賞(ニューフロンティア部門)」受賞。

図表 5 素材開発成果例② “ヴァーチャレックス ®” の開発

出所:東レ合繊クラスター

環境配慮型ストレッチテキスタイル “ヴァーチャレックス®”

ポリ乳酸繊維を使った砂漠緑化

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9繊維トレンド 2011年 9・10月号

東レ合繊クラスターの活動について

また、素材開発、商品開発に加えて、物流費の削減の試みとして、メンバー企業同士の共同物流や、空きトラック便の相互利用など物流改革の取り組みも行っている。

総合展第 2 回総合展は 2011 年 5 月 11、12 日に青山ベ

ルコモンズで開催され、縫製品での提案にも注力し、縫製品 226 点を含む 667 点が出品された。来場者数は 1,300 人を超え、盛況を得た。環境配慮型ストレッチ素材では、織物、丸編、トリコットのそれぞれで同じ生機を使用しメンバー染色 9 社が技を競い合うコンペ的に開発した素材を展示するなど、見せ方も工夫し、第 1 回総合展開催後にサンプルオーダーに十分な対応ができなかった反省を受け、各素材のバーコードシールを作成、サンプルオーダーに迅速に対応できるシステムを作るといった実売につなげる努力の結果、ピックアップ点数は約 2,400 点となり、トレンドに合致した商品には価格提示とサンプル出しの要請が既に入っているという。

今後も、継続的な総合展の開催を予定しており、こうした総合展の開催によって国内基盤を固め、欧州などの海外市場の開拓、また、中国での市場開拓も念頭においている。

今後の課題・展望荒井副会長は、東レ合繊クラスターについて「東

レ株式会社の高い志と資金・人材を含めた全面的な協力に支えられて実現できた。また、運営面でも東レの支援の下、継続できている」と述べている。また、「これからは東レ合繊クラスターの自立化が課題」という認識もあり、現在、原糸・原綿から、縫製品(商品)までを一気通貫で考える、言い換えれば、糸・綿から商品までの全体最適で捉えてモノ作りや販路開拓を行うという、「トータル・インダストリー」であるが、引き続き、メンバー企業(99 社)があたかも一つの企業体であるかのようなバーチャルカンパニー、さらには、「エクセレントバーチャルカンパニー」として、商品開発・販売はもちろんのこと物流分野・資材購入(共同物流・購買)も積極的に行うことで、競争と連携(クラスター活動の真髄)のなかで国際競争力・存在感を高めていくことを目指している。この「バーチャルカンパニー」を更に発展させた「エクセレント・バーチャルカンパニー」という構想は、東レ合繊クラスター 中山賢一会長の持論でもあり、強い意志とリーダーシップをもって推進するものである。

具体的な売り上げ目標は、2010 年度の 37 億円の実績を受け、2011 年度は更なる販売拡大を目指し、60 億円としている。さらに今後 3 年以内には、3 〜4 倍の規模への拡大を計画する。

写真 第 2 回東レ合繊クラスター総合展

出所:東レ合繊クラスター提供