ー国語科の実践からー - 富山県総合教育 ...€¦ ·...

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1 研究主題 主体的に学習に取り組む子供の育成を目指して ー国語科の実践からー 研究主題について 学習は学生だけが行うことではなく、学校を卒業した後も、自分のために学習し続けるこ とが、これからの社会を生き抜いていくために必要不可欠なことだと思う。常に学び続ける ためには、「学習するっておもしろいんだ」「学習したことで、こんな力が身に付いたよ」 という経験を積み重ね、自ら進んで学ぶ楽しさを味わうことが大切である。小学生の段階で、 主体的に生き生きと学習に取り組む姿勢を身に付ければ、学習に対する意欲をずっともち続 けることができるのではないだろうか。 自分が授業をしていく中で、単元や授業の始めは、子供たちは「今日はどんな勉強をする のかな」とわくわくした表情をしている。しかし、授業の途中で集中力が切れ、何となく授 業に参加している子供も見られる。すべての子供たちの意欲を持続させることは、大変難し いと感じながら日々の授業に取り組んでいる。子供たちの学習への意欲を継続化させること で、「友達と考えるっておもしろい」「勉強って楽しいな」「次はこんなことをしてみたいな」 と学ぶ喜びを実感する機会が増え、学ぼうとする意欲が高まる。その積み重ねが、主体的に 学習に取り組む姿勢につながるのではないかと考えた。そこで、「主体的に学習に取り組む 子供の育成を目指して」を研究主題とし、どの子供も学習に参加できる単元構想や学習過程 を考え、実践に取り組んだ。 主題解明のための仮説 主体的に活動に取り組む子供の育成を目指して以下の二つの仮説を立てた。これらの仮説 に基づいて、国語科の実践を通して検証していく。 【仮説1】 子供の実態に合った、単元構想や学習過程を工夫することで、主体的に学習 に取り組むことができる。 【仮説2】 学習内容(互いの考えを交流する場の工夫、自分の考えを見直し表現する場 の設定など)を吟味することで学ぶ意欲を持続することができる。

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1 研究主題

主体的に学習に取り組む子供の育成を目指して

ー国語科の実践からー

2 研究主題について

学習は学生だけが行うことではなく、学校を卒業した後も、自分のために学習し続けるこ

とが、これからの社会を生き抜いていくために必要不可欠なことだと思う。常に学び続ける

ためには、「学習するっておもしろいんだ」「学習したことで、こんな力が身に付いたよ」

という経験を積み重ね、自ら進んで学ぶ楽しさを味わうことが大切である。小学生の段階で、

主体的に生き生きと学習に取り組む姿勢を身に付ければ、学習に対する意欲をずっともち続

けることができるのではないだろうか。

自分が授業をしていく中で、単元や授業の始めは、子供たちは「今日はどんな勉強をする

のかな」とわくわくした表情をしている。しかし、授業の途中で集中力が切れ、何となく授

業に参加している子供も見られる。すべての子供たちの意欲を持続させることは、大変難し

いと感じながら日々の授業に取り組んでいる。子供たちの学習への意欲を継続化させること

で、「友達と考えるっておもしろい」「勉強って楽しいな」「次はこんなことをしてみたいな」

と学ぶ喜びを実感する機会が増え、学ぼうとする意欲が高まる。その積み重ねが、主体的に

学習に取り組む姿勢につながるのではないかと考えた。そこで、「主体的に学習に取り組む

子供の育成を目指して」を研究主題とし、どの子供も学習に参加できる単元構想や学習過程

を考え、実践に取り組んだ。

3 主題解明のための仮説

主体的に活動に取り組む子供の育成を目指して以下の二つの仮説を立てた。これらの仮説

に基づいて、国語科の実践を通して検証していく。

【仮説1】 子供の実態に合った、単元構想や学習過程を工夫することで、主体的に学習

に取り組むことができる。

【仮説2】 学習内容(互いの考えを交流する場の工夫、自分の考えを見直し表現する場

の設定など)を吟味することで学ぶ意欲を持続することができる。

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4 研究内容

年度 学年 単元名

26 3 場面の移り変わりを考えながら想像して読もう

ーちいちゃんマイブック作ろうー「ちいちゃんのかげおくり」

27 5 グッとくる場面を見付け読書レターで伝えよう「大造じいさんとガン」

5 研究の実践と考察

(1) 実践事例1 第3学年 場面の移り変わりを考えながら想像して読もう

ーちいちゃんマイブックを作ろうー「ちいちゃんのかげおくり」

① 学ぶ意欲が持続する単元構想の工夫(仮説1)

○ 読むことへの意欲を高めた「ちいちゃんマイブック」作り

子供たちは、男女を問わず仲良くし、素直である。また、何事に対しても真面目に

取り組むよさがある。しかし、学力の差が大きく、国語科では長い文章を読むのが精

一杯で、自分の考えをもつことができなかったり、話合いを続けたりすることに苦手

意識や抵抗感をもつ子供が見られる。

この作品は、戦争経験のない子供

たちにとって、場面の様子や主人公

の心情の変化を理解しながら読み深

めていく必要がある。また、一人一

人が作品への読みを確かなものにし

ていくことは難しいと考えた。そこ

で、自分らしく読み進め、場面の移

り変わりや登場人物の気持ちを表現

しやすく、どの子供も取り組むこと

ができるようにしたいと考えた。そ

こで、自分なりに表現でき、作品を

読み深めていく実感を味わえるよう

に、「ちいちゃんマイブック」作り

を単元を通して取り組んでいくこと

を設定した。

導入では、場面の様子が変化した

ときに、一枚のカード(マイブック

カード)にその場面の様子を書き表

<子供に配付した1枚目>

<子供たちが書き込んだ1枚目のカード>資料1

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すことを子供たちに伝えた。また、カードをつなぎ合わせた「ちいちゃんマイブック」

も提示し、読み終えたときに、一人一人のマイブックが本のような形になって出来上

がることを、イメージできるようにした。子供たちはこれから学習することに見通し

をもち、自分だけのマイブックを作りたいという意欲をもつことができた。マイブッ

クカードは8枚用意し、マイブックカードに書き表すことは「見出し」「ちいちゃん

へのメッセージ」「色」の3つに絞った。「色」はその場面を表す色と決め、カード

に印刷してある挿絵の背景を、一人一人が感じ取った色で塗る。そうすることで、「赤

い火」「暗い夜」「空色の花ばたけ」といった言葉や場面全体から受ける印象などか

ら、情景を想像しやすくなると考えた。

○ 自分の読みを生かし、書き表すことを楽しむようになったA児

A児は、文章を読んだり書いたりすることが苦手である。しかし、マイブック作り

では、自分だけの本が出来上がることをとても楽しみにし、音読に取り組んだり、話

合いでは友達の考えを真剣に聞いたりしていた。1枚目のカードを書くときは、文章

に出てくる「青い空」と「かげおくりのよくできそうな空」から、かげおくりがはっ

きり見える濃い水色を空の色として塗ることができた。自分で空の色を塗り、くっき

り浮かび上がったかげぼうしを見ながら、「ここはみんな楽しそうにしている」とつ

ぶやいていた。このつぶやきから、ちいちゃんへのメッセージを考えはじめ、語りか

けるような文章を書いた。そして、自分で書き込んだカードを見たり、教材文を何度

も読んだりして、1場面の「見出し」は「たのしいかげおくり」と考え、カードを書

き終えた。A児は、仕上がったカードを見て、嬉しそうな表情を見せていた。そして、

1枚目を楽しく書き進めることができたので、その後カードには、自分の考えたこと

を進んで書き表すことができた。ちいちゃんへのメッセージも、ちいちゃんに共感し

ながら少しずつ長い文章を書くようになった。このように、学習の仕方が分かったこ

とで、書くことが苦手な子供でも見通しをもって抵抗なくマイブックづくりに取り組

み、意欲的に学習を進めた。

<A児の3枚目のカード> <A児の2枚目のカード> <A児の1枚目のカード> 資料2

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カードに書くことを3つに絞り、「見出し」「ちいちゃんへのメッセージ」「色」の

どれから書き始めてもよいことにした。色で表しやすい児童は、自分の読みに合った

色で表現しながら、場面の様子について深く考えることができた。そして、色から想

像がふくらみ、言葉に表しやすくなった。だから、書くことに苦手意識がある子供も

意欲的に取り組むことができたと考える。また、メッセージを書く量も自分で選べる

ようにしたことで、書くことが得意な子供はどんどん考えを書き表したり、マイブッ

クカードの挿絵に吹き出しを書いたりして、自分の考えを進んで表現することができ

た。また、前の場面と比べながらマイブックカードを見ていくことで、場面の移り変

わりに目を向けることができた。最後の場面までつなげていくと、自分だけの「ちい

ちゃんマイブック」が出来上がり、学習の成果を感じ「自分だけの本だ」という作り

上げた満足感にもつながった。また、自分の書いたものを読み返すことで、場面の移

り変わりや登場人物の気持ちの変容について気付くことができた。さらに、友達とマ

イブックを交流する場でも、一人一人の感じ方の違いを色や見出しの短い言葉から感

じ取ることができ、友達の学習のよさや頑張りにも共感することができたと考える。

このように、「ちいちゃんのかげおくり」をマイブックカードに表すことで、次の

力を付けることができた。

ア 場面を要約する力 (見出し)

イ 登場人物に共感しながら読み進め、感じ取ったことを自分の言葉で書き表す力

(メッセージ)

ウ 情景を読み取る力(色で表す)

エ 場面の移り変わりに注意する力 (見出し・色)

自分の読みを生かしながら見出しやメッセージを考えているので、それぞれ少しず

つカードに書かれている内容は違うが、場面の内容から外れることなく書き表すこと

ができた。自分の思いが込められているカードが積み重なっていくことに喜びと達成

感を感じながら、どの子供も進んで学習に取り組んだと考える。

② 互いの考えを交流し、自分の考えを深める場の設定(仮説2)

国語科で互いの読みを交流し合うことは、作品を読み深めていく上で大切なことであ

る。色々な読み方に触れられるように、交流の場を多く取り入れたいと考え、状況に合

わせて、全体、ペア、グループで交流する場を設けた。

単元を通して、どの子も友達の考えを聞いたり自分の考えを話したりできるように、

ペアやグループ、全体での話合いを意識してきた。そして、子供の読みを受け止めて聞

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き、読みを深めるためにどこでペアやグループを入れるか考えた。また、グループ内で、

教材文や友達と関われない子供がいないかよく見て、子供同士をつなぐことを心がけた。

3場面(9/15 時)では、家族を信じて待つちいちゃんの気持ちを感じ取ってほしいと思い

授業に取り組んだ。B児が「『深くうなずきました。』だか

ら、声も出ないくらいちいちゃんは悲しい。」と発言した

が、その後、うなずいたちいちゃんの気持ちについてなか

なか迫ることができなかった。そこで、グループで深くう

なずいたちいちゃんについて話し合う場を設けた。

【グループ学習の様子】

<グループでの話合い>

C児:ちいちゃんは家がなくなっていて恐いと思う。

D児:お母さんが来るか分からんから不安なんじゃないかな。

E児:お母さんに会いたいって思ったからうなずいたんだ。

B児:分かった。帰ってくるって信じているんだ。信じているからうなずいたんだよ。

<全体での話合い>

教師:ちいちゃんが深くうなずいたのはどうしてかな。

F児:家はなくなったけれど、お母ちゃん、お兄ちゃんが帰ってくると思ったから。

B児:家は焼け落ちて悲しいけれど、家族が帰ってくるって信じていた。

G児:家族が大好きだから、絶対帰ってくると信じて、うなずいたと思う。

B児は自身の漠然としていた考えを、グループの友達の考えと比べながら聞くことで

より自信のあるものにできた。それは、B児の「分かった」という力強い発言からうか

がうことができ、さらに、自分の考えを自分の言葉ではっきりと話すことができた。そ

れが自信となり、全体での話合いでも発言することができた。B児は曖昧だった考えが、

グループや全体の中で友達の話を聞き、自分と友達の考えを比べることで、明確になっ

ていったと考えられる。

③ 学習で身に付けた力を進んで活用するH児とI児(仮説2)

「ちいちゃんのかげおくり」を学習した後に、H児が「他の本でもマイブックを作っ

てみたい」と言ってきた。これは、これまでの学習にない反応であった。H児は読書好

きで、読書量は多いがじっくり読むタイプではない。また、作業に時間がかかり、何か

を積極的に作ろうとする態度は見られなかった。こちらでカードを用意することを伝え

ると「カードは何枚いるかな?もう一度本をよく読まないと」と話した。H児は学習発

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表会で行った「吉四六話」のマイブックを作った。舟守になった吉四六が、得意のとん

ちを生かして、武士を向こう岸まで渡す話である。H児は「吉四六話」を3枚のカード

にまとめた。1枚目は「岸まで渡せと言う武士」2枚目は「とんちを効かせた吉四六」

3枚目は「八文払わせた吉四六」という見出しにし、自分で場面に合うイラストも描い

てきた。H児のマイブックを見てI児も他の話でマイブックを作ってきた。I児はカー

ドに色を塗り、場面の様子を表していた。「カードが何枚いるか」「どんな見出しにす

るか」など、場面の移り変わりを考えながら、マイブック作りに取り組むなど「ちいち

ゃんマイブック」作りで付いた力を楽しみながら活用している姿がみられた。カードに

書き表すことを負担に感じず、意欲が持続したからこそ学習後も、「やってみたい」と

いう気持ちになったと考える。

【H児が作った「吉四六話」のマイブック】資料3

【I児が作った「えんぴつびな」のマイブック】資料4

このように、H児、I児のマイブックから、文章への向き合い方に変化が見られるよ

うになった。ただ、単に文章を読むのではなく、カードが何枚いるか考えるために、場

面の移り変わりに注意しながら読んだり、場面に合った見出しを付けるために、大事な

言葉や文章を探しながら読んだりするようになりきたことが分かる。場面の移り変わり

に注意する力や場面を要約する力を生かし、考えながら読むことができるようになり、

自分で学習する力につながっていくと考える。

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(2) 実践事例2 第5学年 グッとくる場面を見付け読書レターで伝えよう

「大造じいさんとガン」

① 付けたい力を明確にし、集中力が持続する単元構想の工夫(仮説1)

子供たちは、自分なりに考えて表現する活動に好んで取り組む。しかし、集中力が

続かず途中であきらめてしまう子供もいる。国語科では、一度文章を読み何となく内

容が分かると、意欲が低下していくように感じた。

この作品は、登場人物の心情が浮き立つような行動描写や自然描写が散りばめられ

ている大作である。子供たちは、一度読むだけでは登場人物の心情を理解していくこ

とが難しく、場面ごとに読み進めていくのでは、集中力が持続しないと予想された。

そこで、毎時間、読みの視点をしっかりもち、どの子供も取り組める言語活動を取り

入れ、自分で読み進めることができる学習の仕方を身に付けたいと考えた。

単元構想

この学習で付けたい力は、以下の4つである。

ア 要約する力(あらすじ・キャッチコピー)

イ 登場人物の相互関係や心情をとらえる

(グッとくる場面)

ウ 優れた叙述を見付ける力 (優れた叙述)

エ 推薦文を書く力(おすすめの言葉)

そこで、図のような読書レターを作り、

感動したことを友達に伝える活動を取り入れたいと考えた。今回は、場面ごとではな

く、全体を読み、あらすじ、優れた表現などを見付けながら作品に迫ってみることに

した。

○ J児に見通しを持たせ、読むことへの意欲を持続させた読書レター

J児は幼いところがあり、やりたくなくなるとノートを書かなかったり、友達にち

ょっかいを出したりする。テストや書く作業は、面倒くさがり最後まで取り組めない

こともある。一人読みの書き込みも苦手である。

事 前 椋 鳩十の作品を学級文庫に準備し、読み聞かせを行う。第一次 ① 教師のお薦めの一冊の読書レターを提示し、単元の見通しをもつ。第二次 ②③ 「大造じいさんとガン」を通して読み、あらすじと人物像を捉え、

レターに まとめる。④⑤ 優れた叙述を見付け、レターにまとめる。⑥⑦ グッとくる場面を見付け、レターにまとめる。⑧ キャッチコピーやお薦めの言葉を考え、レターを仕上げる。

第三次 ⑨ 作品の魅力を友達と伝え合う。発 展 他の本で読書レターを作り、交流する。

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導入で提示した教師がつくった読書レターはいつでも見られるところに置いておい

た。J児は、休み時間に読書レターを開いたり閉じたりしながら何度も読み、読書タ

イムには、読書レターで紹介した本を読む姿が見られた。この姿から、J児が読書レ

ターに興味をもち始めたことが分かる。最初に読書レターに書き込んだことは、あら

すじである。全体の話の流れを捉えるためのあらすじなので、大事な部分を選び出し

て書いてほしいと考え、書き表すスペースを狭くした。この、パーツのスペースを狭

くしたことがJ児には効果があった。「これだけの量だったらぼくにも書けそうだ」

という思いが生まれ、あらすじを時間内に書き終えることができた。時間内に仕上が

ったことは、J児の大きな自信につながり、「早く次を書きたいな」と次時への意欲

を継続することができた。

「優れた表現」を書くとき、J児は選ぶことに時間がかかってしまった。そこで、

「近くの人との交流タイム」の時間を設定し、近くの人が、どれを選んだのか交流し

た。J児も隣の子供と考えを交流しながら、自分で表現を選び出した。読書レターに

「優れた表現」を書くときには、理由まで考えて書くことができていた。今までのJ

児であれば、「優れた表現」が選べなくて、途中であきらめ、ここから書く意欲をな

くしていたであろう。しかし、読書レターのパーツがどんどん埋まっていくことが魅

力がとなり、J児の意欲を持続させたのだと考える。

【J児の読書レター】資料5 【J児の発展の読書レター】資料6 【読書レターを読み合う様子】

1~2時間で一つずつ読書レターのパーツが埋まっていくことも、J児には有効だ

ったと考える。仕上がりが目に見えて分かるので、J児は書き込むたびに、読書レタ

ーを開いたり閉じたりして満足感や達成感を味わっていた。また、パーツに書き表す

文章の量を自分で決め、絵を入れたり、文章だけにしたり自由に書き表せたこともよ

かったと考える。集中力が続かないJ児だが、発展では、他の椋鳩十作品を進んで読

書レターにまとめることができた。どのパーツも書き込み、クラスの中でも早く仕上

げることができた。そして、嬉しそうに友達や先生に読んでもらっていた。J児は自

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分で作り上げる喜びを味わい、他の作品を読み、一気に読書レターにまとめることが

できた。書くことが苦手だったJ児が意欲的に読書レターを2つも書き上げた姿に、

読書レターを設定した効果が表れている。これは、子供がやらされているのではなく、

学びたい気持ちの表れだと思う。

② 読みを深めるための学習過程の工夫(仮説2)

○ 話し合う視点を焦点化して全文を読み取る学習活動

一人一人が全文から「グッときた場面」を選び、

読書レターに書き込む学習活動を取り入れた。友

達がどの部分でグッときたのかが分かるように、

掲示用教材文に付箋で印を付けた。授業以外の時

間は移動黒板に掲示し、いつでも見ることができ

るようにしておいたので、友達がどこでグッとき

たのかが分かり、休み時間にも教材文を前に話し 【付箋を貼った教材文】

ている姿が見られた。友達がどんなことを考えているのか、話し合う時間を楽しみ

にして迎えることができた。多くの子供たちが選んだ「グッときた場面」の話合い

では、心に残る叙述であるため、そのわけを他の叙述とつなげることができた。話

し合う視点を絞ったことで、短い時間でありながら、全文を捉えた読みにつなげる

ことができた。

<付箋を貼っていた場面>

・ 残雪とハヤブサが戦う場面 21人

・ 残雪が沼地へ落ち、かけつけるじいさんを正面からにらみつける場面 10人

・ 一冬を大造じいさんのもとで過ごした残雪を放し、見送る場面 7人

○ 話し合うことで、自身の読みを再構築したK児

K児の「グッときた場面」は、残雪とハヤブサの戦いの場面である。教材文に貼っ

た付箋には自分の名前と場面の題名を書いた。K児は付箋に「残雪が仲間のために命

がけで戦う」と書いていた。「残雪が」から分かるようにK児は残雪に寄り添って読

み進めていた。グッときた場面の話合い(7/9 時)では、大造じいさんの心情の変化

について読み取ってほしいと思い授業に取り組んだ。グッときた場面で一番多かった、

残雪とハヤブサが戦う場面から話合いを始め、なぜ、この場面を選んだのか理由を出

し合った。

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K児はこの話し合いで2回発言している。1回目は、付箋に書いたように、残雪に

寄り添って発言している。しかし、Q児とR児の発言を聞き、大造じいさんを意識す

るようになった。2回目の発言では、残雪に寄り添いながらも、大造じいさんの視点

で読みを深めることができた。K児の発言から、「大造じいさんの残雪を捕まえたい

強い思い」「仲間を助けるためなら自分を顧みない残雪の本当の性格」「こういう心

の持ち主は殺すことができないと思った大造じいさん」という、大造じいさんの複雑

な思いを読み取ることができる。

読書レターのグッとくる場面の題名には

「はじめて残雪の心の中が分かった大造じ

いさん」と書き表していた。初めは残雪だ

けに目が向いていたK児だが、話合いの中

で自分とは違う視点で捉えている友達の色

々な考えを聞き、大造じいさんの視点から

も自分の考えを見つめ直し、再構築できた

と考える。 【K児の読書レター】 資料7

<授業記録より>

L児: 残雪は自分が死んでもいいから、ただ仲間を助けるためにハヤブサに立ち向か

っている。

教師: 死んでもいいってどの辺から分かるの。

M児: 「いきなり敵にぶつかっていきました」だから急いで助けたいと思っている。

N児: 力一杯ハヤブサを殴りつけているから、思いっきり仲間のために戦っている。

O児: 仲間を助けられるなら死ぬ覚悟でいる。

P児: 「ただ救わねばならぬ仲間の…」から、仲間が殺されるなら自分が死んだ方が

いいと思った。

K児: 「いきなり敵にぶつかっていきました」から、仲間を助けようという気持ちし

か残雪の頭の中にはなかった。

Q児: あんなに残雪を憎んでいて、狩りたいと思っていた大造じいさんが、銃を一回

肩にかけて残雪を狙ったけれど、銃を下ろすくらい必死に残雪が仲間を助けよう

としている。

R児: 残雪をいまいましく思っていて、色々な作戦を立てて失敗してきた。ここで残

雪を倒すチャンスが来たのに、必死に戦う残雪を見て、捕まえるのをやめようと

思った。

K児: 今度こそ、今度こそと言って残雪を捕まえようとしていた大造じいさんが、残

雪の本当の性格がやっと分かったから、こういう心の持ち主の残雪を殺すことが

できないと思った。

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6 研究のまとめ

(1) 解明されたこと

【仮説1】について

○ 子供の実態を把握し、どの子供にも取り組みやすい言語活動を設定することにより、

学習意欲を継続させることができた。学び続けることで、学習への自信が深まり、自主

的に学習に向かう意欲も高めることができた。

○ 物語教材は、ねらいに応じて場面ごとに読み進めたり、全文を通して学習したりする

など、学習の進め方を工夫することで、付けたい力を身に付け、活用することができる。

【仮説2】について

○ 考えを交流する話合いの場は、そのときの子供たちの状況を考えて、全体、ペア、グ

ループなどの形態で行うことで、色々な考えを聞き合い、自分の考えを深め、自信につ

なげることができる。

○ 話し合う内容を焦点化したことで、子供たちは集中して学習課題について話し合い、

自分の考えを考えを明らかにすることができた。

(2) 今後の課題

● 一人読みや話し合う学習に時間をかけなくても、物語文を読み進めることはできたが、

物語の世界に入り込み、話を読み味わうことができなかったと感じている。今後、文章

を読み味わう授業も心がけていきたい。

● 教師は話合い活動を行うときに、誰の発言で読みを広げるのか、どの言葉や叙述に着

目することで読みが深まるのかをよく考えて授業を展開していく必要がある。確かな判

断をすることで、ねらいからずれていかない、深まりのある授業がつくりり出されると

思う。

7 終わりに

2つの実践を振り返ると、子供たちの様子で共通していたことがあった。それは、単元を

通して行った「ちいちゃんマイブック」作りや「読書レター」作りを、どの子供も生き生き

と進んで取り組み、全員がマイブックやレターを最後まで仕上げたことだ。少しずつ仕上が

っていく嬉しさや仕上がったときの満足感は、どの学年にも共通している。文章を読む手立

てとして行った書く活動は、学年や実態に合わせ、どの子供も取り組める活動を考えること

で、意欲を継続させながら学習に取り組むことが分かった。これからも、どの子供も取り組

めるような学習活動を考え、子供たちの学ぶ楽しさを積み上げていけるように自己研鑽に励

みたい。

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目 次

1 研究主題 …1

2 研究主題について …1

3 主題解明のための仮説 …1

4 研究内容 …2

5 研究の実践と考察

(1) 実践1における仮説1・2についての支援と考察

① 学ぶ意欲が持続する単元構想の工夫(仮説1) …2

② 互いの考えを交流し、自分の考えを深める場の設定(仮説2) …4

③ 学習で身に付けた力を進んで活用するH児とI児(仮説2) …5

(2) 実践1における仮説1・2についての支援と考察

① 付けたい力を明確にし、集中力が持続する単元構想の工夫(仮説1) …7

② 読みを深めるための学習過程の工夫(仮説2) …9

6 研究のまとめ

(1) 解明されたこと …10

(2) 今後の課題 …11

7 終わりに …11

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4 成果と課題

(1) 成果

② 教師が事前に完成した「ちいちゃんマイブック」を示し、子供たちがいつでもマイブ

ックを見ることができるようにした。また、カードのどこに何を書くのかが分かるように掲示

しておいた。これらのことを通して、今からどのようなことをすることが分かり、期待感を持

って学習に取り組むことができた。そして、子供たちに学習の見通しをもたせることができる。

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② 子供たちの読みの中に浅い考えや深い考えがあったため、

全体が内容を共通理解できるようにしていかなければならない。

浅い考えを発言したときには、発言した児童にもう一 度聞いて

みたり、全体に問い返したりして、少し考える時間が必要だと思

う。浅い考えをそのままにせず、みんなで話合いながら共通理解

できるようにしていきたい。

教師がじっくりと話を聞くだけでは、子供が伝えたい内

容を理解しきれないときがある。そうならないためにも教材研究をしっかりしたいと考えてい

る。学習している内容に関係ある本を読むことで、話の内容をより理解できる。今回は戦争に

関する物語だったので、戦争に関係する本を読んだり、調べたりすることで、主人公の状況を

理解できる。状況を理解することで、子供が叙述から想像することを、教師自身も理解できる

ようになると考える。どの教科でも、教材研究の時間を十分に確保したい。

I児: 残雪は自分が死んでもいいから、ただ仲間を助けるためにハヤブサに立ち向かっている

T 死んでもいいってどの辺から分かるの

M児: 「いきなり敵にぶつかっていきました」だから急いで助けたいと思っている

I児: 力一杯ハヤブサを殴りつけているから、思いっきり仲間のために戦っている。

N児: 仲間を助けられるなら死ぬ覚悟でいる。

F児: 「ただ救わねばならぬ仲間の…」から、仲間が殺されるなら自分が死んだ方がいいと思った。

S児: 「いきなり敵にぶつかっていきました」から、仲間を助けようという気持ちしか残雪の頭の中

にはなかった

D児: あんなに残雪を憎んでいて、狩りたい思っていた大造じいさんが、銃を一回肩にかけて残雪を

狙ったけど銃を下ろすくらい必死に残雪が仲間を助けようとしている。

H児: 残雪をいまいましく思っていて、色々な作戦を立てて失敗してきた。ここで残雪を倒すチャン

スが来たのに、必死に戦う残雪を見て、捕まえるのをやめようと思った。

S児: 今度こそ、今度こそと言って残雪を捕まえようとしていた大造じいさんが、残雪の本当の性格

がやっと分かったから、こういう心の持ち主の残雪は殺すことができないと思った。

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