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烈日 □ ミッドウェー 1942 横山信義 Nobuyoshi Yokoyama

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烈日 □上ミッドウェー 1942

横山信義Nobuyoshi Yokoyama

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中央公論新社
・立ち読み版は製品版の1〜20頁までを収録したものです。目次のリンクは21頁以降には移動できません。

地図・図版 

編集協力  

らいとすたっふ

DTP  

  

目  

序 

9

第一章 

前夜

19

第二章 

発進

45

第三章 

混迷

75

第四章 

飛翔

123

第五章 

奈落

171

第六章 

反撃

215

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烈日 上 ミッドウェー1942

序 

1011 序 章

「敵降爆、右直上!

突っ込んで来ます!」

 

急報を告げる見張員の声は、ほとんど絶叫と化し

ていた。

「面お

舵かじ

一杯!」

 

艦長の声が響く。

 

右から突っ込んで来る敵機には右へ、左から突っ

込んで来る敵機には左へ回頭する。

 

雷撃なら対向面積を最小にできるし、急降下爆撃

なら降下角度が深くなり、照準をはずせる可能性が

高まる。

 

航空機が海軍の主力となった現在、全す

ての艦長が

身につけておかねばならない雷爆撃回避の常道だ。

 

だが第一航空艦隊旗艦「赤あ

城ぎ

」は、基準排水量三

万六五〇〇トン。

 

転てん

舵だ

を命じ、操舵員が舵輪を目一杯回しても、舵か

が利き始めるまでには時間がかかる。

 

それに対し、急降下爆撃機は接近が早い。

 

米軍機特有の、見るからにごつくて頑丈そうな機

影が、急速に膨ふ

れ上がる。ダイヴ・ブレーキの唸う

が、無駄な努力を哄こ

笑しょうするかのように轟と

どろき、頭上

を圧する。

 

ダイヴ・ブレーキ音が極大に達した、と思った直

後、今度はフル・スロットルのエンジン音が轟く。

 

巨大な鴉

からすを思わせる、凶ま

がまが々

しいまでに黒い機影が

艦橋をかすめ、艦尾方向へと飛び去ってゆく。

 

直後、最初の投弾が艦首付近に落下し、巨大な水

柱を噴き上げる。

「赤城」の艦首が、水柱の真下にもろに突っ込み、

多量の海水が激しい音を立て、飛行甲板で弾は

け散る。

 

それが収まらぬうちに、二番機、三番機が、続け

て突っ込んで来る。

 

二番機は機位を修正したのだろう、初弾よりも着

弾が近い。

1011 序 章

 

左さ

舷げん

中央付近の海面に、弾着の水柱が噴き上がり、

至近弾炸さ

裂れつ

の衝撃に、「赤城」の巨体が震える。三

発目が艦尾付近に落下し、「赤城」はきしむような

音を発する。

 

四発目の投弾が、最初の直撃弾となった。

 

黒い塊

かたまりが、飛行甲板の中央に吸い込まれた、と

見るや、黒い穴が開き、閃せ

光こう

が走った。

 

炎が噴き上がり、黒っぽい塵ち

状のものを大量に噴

き上げた。

 

誘爆が起きたらしく、飛行甲板の下で爆発音が相

次ぐ。

 

そのたびに、飛行甲板の破孔から、炎と航空機、

機材の破片が噴き上げられ、「赤城」の巨体が苦く

悶もん

に身を震わせる。

 

そこに追い打ちをかけるように、直撃弾が連続す

る。

 

一弾は艦首を直撃し、飛行甲板を断ち割り、甲板

上に張り巡らされた板材を引きちぎり、吹き飛ばす。

 

別の一弾は右舷中央を直撃、一二センチ連装高角

砲を粉ふ

砕さい

する。

 

四発目の直撃弾は後部甲板の中央部を襲い、格納

庫内で爆発し、三番昇降機を甲板上に跳は

ね上げる。

 

最終的に、直撃弾は九発を数えた。

「赤城」に急降下爆撃をしかけた米国ダグラス社製

の急降下爆撃機SBD〝ドーントレス〞が全て飛び

去ったとき、「赤城」は全艦が炎に包まれ、その場

に停止していた。

 

応急総指揮官を務める副長が、声をからして消火

を命じ、運用科の兵員のみならず、手空きの乗組員

全員がホースを手に、猛火に立ち向かうが、火勢は

衰える様子を見せない。

 

格納庫では、二五〇キロ爆弾、八〇〇キロ爆弾、

九一式航空魚雷が誘爆を繰り返し、「赤城」を内側

から破壊している。

 

どれも、真し

珠じゅ

湾わん

で米戦艦を相手に、その破壊力を

実証した爆弾であり、魚雷だ。今回の作戦では、真

1213 序 章

珠湾で撃ち漏も

らした敵空母に止と

めを刺すはずだった

武器だ。

 

それが今、鉾ほ

を逆しまにして、「赤城」に襲いか

かっている。

 

爆発が起きるたび、飛行甲板上に開いた複数の破

孔から炎が上がり、航空機の残ざ

骸がい

が、工具や機材が、

「赤城」の構造材が、そして乗組員の肉片が噴き上

げられ、甲板上に撒ま

き散らされる。

 

浮かぶ火か

焔えん

地獄と呼ぶべき光景は、他に二箇所、

海面に現出している。

「赤城」と共に第一航空戦隊を編成する「加か

賀が

」も

同じ憂う

き目め

に遭あ

っている。

 

直撃弾を受けた艦橋は、原形をとどめぬまでに破

壊され、飛行甲板では炎が荒れ狂っている。

 

第二航空戦隊の一艦「蒼そ

龍りゅう

」も、艦首から艦尾

まで炎に包まれ、無む

惨ざん

な姿をさらしている。

 

もはや空母三隻を救うのが絶望的であることは、

誰の目にも明らかだ。

 

総員退艦の命令が出されるのは、もはや時間の問

題に過ぎなかった。

「―

これでは、戦い

くさにならん」

 

呻うめ

くような一言で、空母「飛ひ

龍りゅう」艦長加か

来く

止とめ

男お

大佐の意識は、悪夢から現実に引き戻された。

 

ここは、米国領ミッドウェー島の近海ではない。

 

誘爆大火災を起こした空母の艦上でもない。

 

柱はしら

島じま

に錨を降ろしている連合艦隊旗艦「大や

まと和」

の作戦室だ。

 

そしてこれは、実戦ではなく図上演習だ。

 

青軍(日本軍)指揮官と審判長(統監)を兼任す

る連合艦隊参謀長宇う

垣がき

纒まとめ

少将が、難しい顔をして、

兵へい

棋き

盤ばん

を睨に

んでいる。

 

昭和一七年五月末より開始される第二段作戦では、

ミッドウェーを攻略するMI作戦、アリューシャン

列島のアッツ、キスカ両島を攻略するAL作戦を皮

1213 序 章

切りに、フィジー、サモア、ニューカレドニアの攻

略、オーストラリアのシドニー空襲へと進み、最終

的にはジョンストン島からハワイ攻略へと進むこと

が予定されている。

 

その第二段作戦は、出だしで躓つ

まずいた。

 

第一航空艦隊がミッドウェーを攻撃しているとき

に敵機動部隊が出現、これと交戦状態に入った。

 

不確定要素を考慮し、味方の被害をサイコロによ

って割り出したところ、「赤城」「加賀」「蒼龍」が

被弾、大火災を起こし沈没、という結果になったの

だ。

 

第二段作戦においては、これまで同様、六隻の正

規空母を擁よ

する第一航空艦隊が主力となる。

 

その六隻のうち、半数が失われては、ミッドウェ

ー攻略も、その後のフィジーやサモアの攻略も不可

能だ。

 

宇垣の「戦にならん」の一言は、そういった戦略

面を睨んでの言葉であったろう。

「……よし、被害は『赤城』のみとしよう」

 

数秒間沈思した後、宇垣は言った。

「命中弾数も、三発に修正する。米軍の搭乗員は、

我が軍の搭乗員より技量が劣ると聞いている。九発

も命中することはあるまい」

「大和」の作戦室に、声にならないどよめきが起き

た。

 

参集している第一航空艦隊の司令部幕僚や各戦隊

の司令官、参謀、主力艦の艦長らは、表情をこわば

らせ、互いに顔を見合わせた。

 

加来は、思わず立ち上がりかけた。

 

図上演習の目的は、作戦計画の問題点洗い出しと

事前の対策立案だ。

 

実際に味方空母が被弾、沈没する可能性が考えら

れる以上、命中率の下方修正などという姑こ

息そく

な真似

を行うべきではない。演習を一旦中止し、味方の被

害を喰い止めるための検討を、今この場で行うべき

だ―

その言葉が、口から出かかっていた。

1415 序 章

 

その加来の動きを、山や

口ぐち

多た

聞もん

少将が制した。

 

加来の「飛龍」と、準同型艦の「蒼龍」が所属す

る第二航空戦隊の司令官だ。

 

海軍兵学校四〇期。加来が三号生徒だったときの

一号生徒であり、幾度も鉄拳制裁を貰も

った「おっか

ない先輩」だ。

 

福々しい丸顔からは、当時の怖こ

さは感じられない

が、闘志と航空機に関する知識は、帝国海軍の将官

の中でも群を抜いている。年功序列の壁がなければ、

機動部隊の指揮官に最も相ふ

さわ応しいとの評価も得てい

る。航空畑を渡り歩き、空母の艦長という地位を得

た加来にとっては、仕つ

え甲が

斐い

のある上官だ。

 

その上官が、無言のまま加来に頷う

なずい

て見せた。

 

言いたいことは分かるが、演習終了後に検討会が

待っている。そのときが来たら自分が言うから、こ

の場は堪こ

えろ―

山口の温顔は、そう伝えていた。

 

一航艦から図演に参加している者の不満を呑の

み込

みつつ、図上演習は中断されることなく進められた。

 

最終的に、第一航空艦隊は敵機動部隊の撃滅に成

功したものの、一航艦もまた数次にわたる空襲を受

けて「加賀」を喪失。

 

そのため、ミッドウェー攻略が予定より一週間以

上長引き、攻略部隊の艦艇は燃料が不足、駆逐艦の

何隻かが海岸に擱か

座ざ

せざるを得なくなる、という結

果になった。

 

図演の終了が宣言されると同時に、山口が待ち構

えていたように発言許可を求めた。

「今回の図上演習により、MI作戦がはらむ重大な

問題点が浮き彫りにされたと、私は考えます」

 

司令長官山や

本もと

五い

十そ

六ろく

大将以下の連合艦隊司令部幕

僚を見渡すようにして、口を開いた。

「一言で申し上げれば、二に

兎と

を追う者は一兎をも得

ず、であります。ミッドウェーを攻撃している間に

敵艦隊が出現した場合、機動部隊は咄と

嗟さ

に対応でき

ず、大きな損害を受ける危険がある、という結果が、

たった今出たばかりです。

1415 序 章

 

敵艦隊、特に空母の出現に対して充分な備えを行

うか、ミッドウェー攻略を第一とする作戦計画の見

直しのいずれかが必要である、と考えます」

「損害は『加賀』の喪失、『赤城』の小破のみ、と

したはずだが」

 

宇垣が、いかにも心外そうに言った。山口とは海

兵の同期であり、二人だけの時は「俺、貴様」で呼

び合う仲だが、公式の場であるだけに、口の利き方

が他人行儀になっている。

「戦争は、将

しょう

棋ぎ

や碁ご

ではない」

 

山口は退ひ

かなかった。

 

図上演習の序盤、宇垣が青軍指揮官と統監を兼任

する立場を濫ら

用よう

し、味方の被害を下方修正したこと

に、一航艦出席者のほとんどが不満と不信を抱いて

いる。

 

その気持ちを、山口が代表して、宇垣に突きつけ

ていた。

「将棋や碁なら待ったも利くかもしれない。しかし

戦場において、爆弾の命中をなかったことにはでき

ないし、沈没した艦艇を浮かび上がらせることもで

きない」

「本番では、あのような損害を被こ

うむることのないよう

方策を講じる」

「具体的に、どのような方策をお考えか?」

 

山口の切り込みに、宇垣は束の間沈黙した。

 

そこに、山本五十六が、助け船を出した。

「山口二航戦司令官の懸念は、分からぬでもない。

だが図上演習の目的は、作戦の結果を予言するもの

ではなく、作戦の問題点探究にある。いたずらに被

害を過大に見積もり、各部隊の指揮官や幕僚を不安

がらせても、仕方ないと考えるのだが」

「は……」

 

山口は沈黙した。

 

山本に対しても、言いたいことはあったに違いな

い。

 

だが相手は階級で二つ上であり、海軍三さ

顕けん

職しょくの

1617 序 章

一つである連合艦隊司令長官のポストに座る人物だ。

 

勇将の評判が高い山口も、山本に対しては、歯に

衣きぬ

着せぬ物言いはできないようだった。

「MI作戦において、ミッドウェーの制圧と敵機動

部隊の捕捉撃滅という二つの任務を機動部隊に課し

たことは、申し訳なく思っている」

 

山本は、一航艦出席者全員の顔を見渡して頭を下

げた。

「しかしこれらの任務は、どちらも機動部隊でなけ

ればできないのだ。攻略部隊や主力部隊にも空母は

付けるが、いずれも搭載機数の少ない小型空母であ

り、敵の大規模な航空基地や正規空母を擁する機動

部隊と渡り合える戦力ではない。機動部隊を便利使

いしているわけではなく、機動部隊に頼らざるを得

ないのが現状なのだ。そのことを、どうか理解して

欲しい」

 

その一言をもって、四日間の日程が組まれている

図上演習の初日が終わった。

「図上演習の目的は、作戦の問題点を探究すること

にある」

 

との、山本自身の言葉があったにも関わらず、M

I作戦計画の問題点に対する詳しい検討が行われる

ことはなかった。

「どう思う?」

 

図演が終わり、「大和」から呉く

軍港の桟さ

橋ばし

に向か

う内火艇のキャビンで、山口が加来に聞いた。

「意識の乖か

離り

を感じました」

 

と、加来は返答した。

「開戦以来半年、我が一航艦は、真珠湾、ウェーキ、

ダーウィン、印い

度ど

洋よう

と、最前線を駆け巡って来まし

た。自慢するわけではありませんが、我が二航戦は、

特によく働いた方でしょう。ですが……」

「連G

合艦隊司令部は、柱島に腰を据す

えたままだ」

 

山口が後を引き取った。

「机上で作り上げただけの作戦計画が、そのまま何

の障害もなしに進展すると思っている。長官にせよ、

1617 序 章

参謀長以下の幕僚にせよ、そんな風にこの戦を捉え

ているように、私には思える。

 

しかし現実の戦場は、相手があることだ。計画通

りになど、動きはしない。これまでの戦いだって、

何もかもが計画通りに動いたわけではない。

 

現場で磨いた感覚の有無が、そのまま君の言う意

識の乖離になって、現れているように思える」

「南な

雲ぐも

司令長官や草く

鹿か

参謀長が、あまり発言されな

かったことが、私には気になっておりました」

 

加来は言った。

 

第一航空艦隊司令長官の南雲忠ち

ゅう

一いち

中将や、同参

謀長の草鹿龍り

ゅう

之の

介すけ

少将、航空甲参謀源げ

田だ

実みのる

中佐と

いった面々は、山口や加来と共に最前線を駆け巡っ

て来た身だ。それが、図演の結果に一言もないとい

うのは解せなかった。

「山本長官への遠慮があったのかもしれんな」

 

と、山口は返答した。

「山本長官から頭を下げられては、言いたいこと

があっても、なかなか言えるものではない。それに

南雲長官は、山本長官を苦手にしておられるようだ

し」

「しかしMI作戦の問題点には、何一つ対策が講じ

られておりません。現状で出撃するのは、危険極ま

りない。前途に、何か途方もない陥か

穽せい

が待ち受けて

いる―

私には、そんな気がしてならないのです」

「図上演習は、あと三日ある。明日以降、もう一度

問題点を提起してみよう」

「明日以降の図上演習は、フィジー、サモアの攻略

作戦やシドニー攻撃についてのものです。山本長官

も、宇垣参謀長も、MI作戦の図上演習はもう終わ

ったと考えておられるのではないでしょうか?」

「分かっている。だが、MI作戦の問題点を放置し

てはおけん。このまま作戦が強行されるようなこと

があれば―

 

山口は、そこで口ごもった。

 

何か、海軍軍人としてあるまじきことを口にしよ

18

うとして、寸前で取り止めたように見えた。

(分かっております。おっしゃりたいことは)

 

腹中で、加来は呟つ

ぶやいた。

 

MI作戦は、現場の実相を知らない連合艦隊司令

部の幕僚たちが、机上で作り上げた作戦案に過ぎな

い。いよいよとなれば、現場は現場の裁量で動かな

ければならない。

 

必要とあらば、ある程度の独断専行も考慮したい

そう、山口は言いたいのだ。

 

だが、流さ

すが石に二航戦司令官の立場で、そのことを

はっきりと口にはできなかったのだろう。

「私は司令官の指揮に従い、『飛龍』を動かす立場

です」

 

加来は言った。

「司令官の御指示には、全面的に従います」

「ありがとう」

 

山口は、表情を僅わ

かにほころばせた。図上演習が

終わってから、山口が初めて見せた笑みだった。

(今日の図演に何かしらの意義があったとすれば、

GF司令部と現場の意識の差を、我が司令官やこの

俺自身が認識したことかもしれない)

 

山口の温顔を見ながら、そんなことを、加来は考

えていた。

 

昭和一七年五月一日。

 

後に「ミッドウェー海戦」の名で広く知られるこ

とになる海戦の、一ヶ月余り前の出来事であった。

18

第一章 

前夜

2021 第一章 前夜

 

六月四日の定期哨

しょう

戒かい

飛行は、いつものように、

夜明け前より開始された。

 

コンソリデーテッド社の双発飛行艇PBY〝カ

タリナ〞が、静かな礁湖に飛沫を上げ、P

プラット

&・アンド・

Wホイットニー

R‐1830‐92「ツインワスプ」空冷複

列星形一四気筒エンジンの音を高らかに響かせなが

ら、次々とほの暗い空に飛び立った。

 

ミッドウェーを構成する二つの小島―イースタ

ン島とサンド島に設けられた基地は、まどろみの中

にある。

 

カタリナ以外に、ミッドウェーに配備されている

機体―

海軍のグラマンTBF〝アベンジャー〞も、

海兵隊のグラマンF4F〝ワイルドキャット〞、ブ

リュースターF2A〝バッファロー〞も、陸軍のマ

ーチンB26〝マローダー〞、ボーイングB17〝フラ

イング・フォートレス〞も格納庫の中だ。

 

だが、日本軍がミッドウェーの攻略を目標として

おり、大規模な艦隊が洋上を進撃しているとの情報

は、既に伝えられている。

 

海兵隊を中心とした三〇二七名の守備隊も、航空

機隊も、緊張しつつ日々を送っている。

 

カタリナの乗員がミッドウェー島に迫りつつある

ものを洋上に発見すれば、基地は瞬時に眠りから覚

め、洋上の航空要塞として機能し始めるはずだった。

 

午前九時二五分、カタリナの一機が、洋上に生じ

た異変を報し

せた。

「敵艦隊発見」

 

の第一報がミッドウェーの司令部に飛び込むや、

「敵情の詳細を報告せよ」

 

の命令が打電された。

 

ミッドウェーの北北東三二〇浬カ

イリの海域に展開す

★ご覧いただいた立ち読み用書籍はPDF

形式で、作成されています。この続きは

書店にてお求めの上、お楽しみください。