くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業 報告書...1 平成24 年度...

33
平成 24 年度 くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業 平成 25 年 3 月 北海道森林管理局

Upload: others

Post on 18-Jan-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

平成 24 年度

くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業

報 告 書

平成 25 年 3 月

北 海 道 森 林 管 理 局

目 次

1.事業の背景と目的 1

2.手法 2

(1)捕獲実施個所

(2)使用したくくりワナ

(3)作業の流れ

(4)捕獲率の算出

(5)自動撮影装置による観察

(6)希少種の調査

(7)捕獲されたシカの記録

3.捕獲の結果と考察国内の先進地ヒアリング 17

(1)全体の捕獲率

(2)月別の捕獲数

(3)施業の有無との関連

(4)ワナの種類と捕獲率

(5)混獲の状況

(6)希少種等の観察結果

(7)捕獲個体の損傷

(8)ワナの作動不良

4.くくりワナの課題と改善点 27

(1)見回り頻度を高める

(2)ワナ構造の改良

(3)ワナの周辺に障害物がない場所を選択する

(4)止め射し

(5)最適なワナ数について

(6)ワナ設置から最も捕獲効率が高い日数

5.まとめ 31

1

平成 24 年度 くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業

報 告 書

1.事業の背景と目的

北海道ではエゾシカの生息密度が上昇し、農林業被害も増加傾向にあることから、積極

的な捕獲が行われている。これまで道内では、銃を用いた捕獲と、囲いワナを用いた捕獲

が主に使用されてきた。北海道以外の国内では、このほかくくりワナや箱ワナが、シカや

イノシシ対策等に使用されているが、あまりくくりワナは利用されてこなかった。

一方、近年、北海道や市町村、JA 等では、主に農業被害対策のために、一般農家にくく

りワナの使用を奨励している。これは、銃の所持許可等は必要ではなく、銃猟よりも手軽

に実施できる、くくりワナが手軽に従事できることが背景にある。さらに、くくりワナは

人家が近くにあっても利用できる点、流れ弾等による事故が起こりにくい点、夜間でも捕

獲できる点など、銃猟にはない利点が考えられる。こうした背景から、数年前から道内に

おいてもくくりワナの利用が試され始めている。北海道森林管理局においても、平成 23 年

度から、冬期の国有林野内において、くくりワナによるエゾシカの捕獲を試行しはじめ、

課題等を整理した(「平成 23 年度くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業」、以下、「平成

23 年度事業」とする)。

冬期にはエゾシカが越冬地で集結することが先行研究等で知られているが、越冬地で集

中的にくくりワナによる捕獲を行うことで高い捕獲率が期待される。また、森林整備にお

いて、冬期は伐採の時期であるが、伐採跡地には、落葉落枝を採食するためにエゾシカが

集結することが現場の観察によって知られているが、こうした場所でもくくりワナを利用

すると、多くの捕獲が期待できる。また、冬期にくくりワナを利用することで、ヒグマの

混獲の可能性は低減する。さらに森林整備地では、くくりワナは銃を必ずしも使用しない

ため、流れ弾等による事故が発生せず安全に作業を行うことができる。しかし、冬期の北

海道は低温で積雪が多い点が、可動部の多いくくりワナにとって課題である。そもそも冬

期にくくりワナが雪の上で使用できるのかという疑問もあり、平成 23 年度の事業では、特

にこの点について検証を行った。その結果、降雪が安定し、シカ道がはっきりする 2 月頃

には、設置の際に雪を被せる量などに注意を払い、ワナの凍結予防をすることで、寒冷地

でも捕獲率が上昇することが示された。

ところで、平成 23 年度事業では 1 月一杯までは捕獲が得られなかったが、これが従事者

の雪への慣れによるものか、エゾシカの行動や積雪の状況によるものなのかが判然としな

かった。また、一般可猟区が捕獲事業実施箇所でもあったので、森林整備の有無と捕獲率

の関連についても不鮮明であった。今後の、冬期のくくりワナの利用を考える上で、これ

らの点を明らかにすることは重要である。さらに、くくりワナは銃による捕獲と比較して、

捕獲した動物が損傷することが多く、少しでも捕獲したエゾシカを損傷させない工夫は、

得られる個体の食肉等としての有効活用としても必要であると考えた。

4

本事業を実施した捕獲箇所は大きく分けて 2 林班あり、それぞれ 39 林班と 19 林班であ

った。いずれの林班も、平成 24 年度の冬期は森林整備等が予定されていて、一般狩猟が森

林管理局によって規制されていた。ただ、19 林班では、森林整備のスケジュールの関係で、

本事業の実施期間内には伐採等の整備がなされなかった点が、39 林班とは異なる。39 林班

では 12 月の中旬から 1 月頃まで伐採作業が実施され、い小班、ち小班等には、多くの落葉

落枝が発生した。森林の様子を以下に示す。

39 林班の様子。伐採作業が行われている。

5

落葉落枝の様子。エゾシカによるこれらの樹皮剥ぎが観察できる。

伐採後の落枝を採食するエゾシカ

6

19 林班の様子。整備が行われていなかったが、積雪により枝等が落ちており、

樹皮剥ぎされていた。

19 林班のワナ設置地点の例。積雪の落枝等が多い場所を選択。

7

(2)使用したくくりワナ

本事業で使用したワナは、一般に購入可能な市販品のワナであった。本州の企業で開

発され、インターネットや通信販売で購入可能である。ワナ 1 基の金額は数千円程度で

ある。平成 23 年度事業で様々なワナを試用した結果や各種の情報から、2 種類を選択し

た。それぞれのワナを以下に示す(名称は本事業で定義するもの)。

A 型

B 型

8

それぞれのワナには、荷造り用のゴムを用いた「サスペンション」を設けて、極力、捕

獲した動物を傷つけないように心がけた。サスペンションの構造を図 2.4 に示す。

それぞれのワナを設置した日数(以下、「ワナ・日」とする。)を、表 2.2 に示す。本事業

では、ワナの総日数は「800 ワナ・日」とし、1 日に設置するワナの数は 20 ワナとした。

ワナによる捕獲作業は、「わな猟狩猟免許」を有し、許可捕獲の従事者としてあらかじめ

登録した作業員が担当した。また、地元(足寄町)猟友会所属のハンター1 名が、ワナ設置

と止め刺し等の各種作業の指導のため付き添った。

表 2.2 ワナ形式とワナ・日

ワナ形式 A 型 B 型

ワナ・日 198 602

図 2.4 サスペンションの例

9

(3)作業の流れ

本事業でのワナ設置の概要を、以下に示す。

ワナ設置に適した場所を選択する

シカ道や、エゾシカが多く利用していると思われる箇所を選ぶ

10

ワナの根付け作業。縒り戻しが作動するように確認することと、ワイヤーの長さが無駄

に長くならないように木の幹等に巻きつけて長さを調節することが大切。

ワナを設置した様子。バネやワイヤーなども雪の中に全て埋設して見えなくする。

11

ちり紙をワナの上に被せている。こうすることで、カムフラージュ用の雪がワナに直接

かからずに、凍結を防止できる。

ちり紙の上から、粉状の雪を薄く被せる。この被せる量や雪質は非常に感覚的で、慣れ

が必要な部分である。雪が多すぎると作動不良となる。

12

ワナの設置が完了した様子。見た目ではどこにワナがあるか分からないほどに仕上げ

る。

ワナ設置を知らせる標識を設置

13

発砲に注意するよう求める注意喚起看板の設置

見回りの様子。見回り時には、エゾシカが捕獲されていなくても、新しい足跡がワナの

近くに見られないか、誤作動を起こしていないか、などをチェックする必要がある。

14

(4)捕獲率の算出

本事業の評価を行うために、捕獲率を算出した。ここでの捕獲率は、以下 a 式で求め

た。

「捕獲率」(%)=「捕獲数」÷「ワナ・日」×100 ・・・a

たとえば 20 ワナを 1 日に設置して 1 頭捕獲すると、捕獲率は 5%と計算される。また、

ワナの種類や捕獲場所の違いによる捕獲率についても、それぞれ同様の計算を行った。

(5)自動撮影装置による観察

くくりワナによって捕獲を行う問題点や課題、また、ワナ設置箇所周辺におけるエゾ

シカの行動を把握するために、自動撮影装置を用いてワナ周辺の状況を記録した。自動

撮影装置の設置状況を図 2.3 に示す。

図 2.3 自動撮影装置の設置例

15

自動撮影装置は、ワナ設置地域 1 か所に付き 1 カメラを目安として、合計 4 台のカメ

ラを用いて記録を行った。また、基本的には動画によって記録し、ワナ周辺で発生する

事象を記録した。

(6)希少種の調査

道東地域は冬期にオオワシをはじめとする猛禽類が広く飛来することで知られる。く

くりワナによる捕獲では、大規模な重機などを使用することはないが、捕獲した個体に

ワシ類が引き寄せられたり、その他の影響が発生したりすることは避けたい。平成 23 年

度事業では、事業実施箇所において見られる猛禽類の調査を実施した。本事業を実施し

た箇所は平成 23 年度事業を実施した箇所に近いため、おおよそ見られる猛禽類は判明し

ているが、日々の作業の中において見られる猛禽類に注意を払った。特に、くくりワナ

の周辺にこうした猛禽類が飛来しないか、捕獲した個体が見回りまでに死亡するなどし

た場合、これを捕食するなど、ワナに接近することがないか、自動撮影装置と日々の観

察を行って注意を払った。また、ヒグマをはじめとする大小の哺乳類が、ワナに混獲さ

れたり、ワナ周辺に近づいたりといった状況が見られないかについても、周辺の調査を

含めて注意深く観察した(図 2.4)。

図 2.4 猛禽類の観察風景

16

(7)捕獲されたシカの記録

捕獲されたシカについては、止め刺し終了後に雌雄、外部的な損傷の有無、写真など

を記録した。また、有効活用を検討するために利用可能と考えられる部位はサンプルと

して採取した後、所定の廃棄物処理場に搬送した(図 2.5)。

図 2.5 捕獲されたエゾシカと、所定の処理場に搬入する様子

17

3.捕獲の結果と考察

(1)全体の捕獲率

本事業では、くくりワナの設置は 12 月 19 日から開始した。年末年始(12 月 29 日~1

月 6 日)までは作業を休止した。これは、北海道森林管理局により、年末年始の期間に

当該箇所を一般ハンターに解放するためであった。くくりワナによる捕獲は 3 月 6 日ま

で実施した。

本事業で捕獲したエゾシカは、合計 31 頭であった。第 2 章(3)で述べた a 式によっ

て得られた全体の捕獲率は、3.88%であった。平成 23 年度事業における捕獲率は 0.9%

であったことから、これと比較すると本事業では捕獲率は全体で大きく伸びた。「ワナ・

日」の当初予定と、実際の推移、及び捕獲数の推移を図 3.1 に示す。また、調査期間中の

作業実績を表 3.1 に示す。

(2)月別の捕獲数

平成 23 年度事業では、12 月と 1 月には捕獲が得られなかったが、今年度は 1 月末ま

でに捕獲が得られた。

12 月の間は、本事業でも捕獲が得られなかった。この理由として、本事業においては

以下の点が原因であったと考える。

・捕獲開始と、現場での伐採作業の日程が重なった。このため、ワナを最適な場所

に設置できなかった。また、伐採の際に発生する落葉落枝がこの時期にまだあま

り発生せず、エゾシカが伐採現場に集まらなかった。

・この時期は冬の初期で、積雪深があまり多くない。そのため、シカ道が明確に定

まっておらず、くくりワナを設置する場所を定めることが困難であった。

こうした結果から考えると、12 月は準備期間としてワナ設置箇所の下見や、森林整備

を行う業者や地域関係者との調整に捕獲を行わず、1 月から本格的に捕獲を行うことが、

高い捕獲率につながるのではないかと考えられた。

今年度事業では 1 月に 11 頭の捕獲があり、1 月末までの捕獲率は 3.15%であった(11

頭/349 ワナ・日)。捕獲率 3.0%とは、本事業のように 1 日で 20 ワナを設置した場合は、

2 日で 1.2 頭捕獲できるというペースである。この時点で、平成 23 年度事業の全体の捕

獲率である 0.9%よりも効率が良いため、昨年度の結果で不明瞭であった「1 月の捕獲」

は十分に実施可能であることが証明された。39 林班における伐採作業は 12 月末から 1

月初旬に終了した。このため、ワナを設置したい場所に自由に設置できるようになった

ことが、捕獲作業の作業性と捕獲率の向上として現れたと考える。

18

0

100

200

300

400

500

600

700

800

90012月

19日

12月

21日

12月

23日

12月

25日

12月

27日

12月

29日

12月

31日

1月

2日

1月

4日

1月

6日

1月

8日

1月

10日

1月

12日

1月

14日

1月

16日

1月

18日

1月

20日

1月

22日

1月

24日

1月

26日

1月

28日

1月

30日

2月

1日

2月

3日

2月

5日

2月

7日

2月

9日

2月

11日

2月

13日

2月

15日

2月

17日

2月

19日

2月

21日

2月

23日

2月

25日

2月

27日

3月

1日

3月

3日

3月

5日

3月

7日

3月

9日

3月

11日

3月

13日

0

5

10

15

20

25

30

35

当初予定ワナ日

総実ワナ日数

捕獲頭数

ワナ日数

捕獲頭数

図 3.1 ワナ日数と捕獲頭数の推移

19

Start End♂or♀(種

別)頭数

水 12月19日 12月19日 10 10 0 0 0.00% 39林班い小班=10個新設

木 12月20日 10 20 0 0 0.00% 39林班い小班で伐採作業の為、全数撤去

金 12月21日 12月21日 0 20 0 0 0.00% 設置場所未定のため、未設置

火 12月25日 0 20 0 0 0.00% 大雪により林道通行不可の為、未設置

水 12月26日 20 40 0 0 0.00% 39林班ほ小班=8個、19林班そ小班=12個を新設

木 12月27日 20 60 0 0 0.00% 39林班ほ小班=8個、19林班そ小班=12個

金 12月28日 12月28日 20 80 0 0 0.00% 39林班ほ小班=8個、19林班そ小班=12個を撤去

月 1月7日 10 90 0 0 0.00% 19林班そ小班=10個を新設(39林班には入林できず)

火 1月8日 20 110 ♀ 1 1 0.91% 19林班そ小班 39林班ち小班=10個を新設、19林班そ小班=10個

水 1月9日 20 130 ♂ 1 2 1.54% 39林班ち小班 39林班ち小班=10個、19林班そ小班=10個

木 1月10日 20 150 0 2 1.33% 39林班ち小班=10個、19林班そ小班=10個

金 1月11日 1月11日 20 170 0 2 1.18% 39林班ち小班=10個、19林班そ小班=10個を撤去

月 1月14日 20 190 0 2 1.05% 39林班ち小班=10個、19林班そ小班=10個を再設

火 1月15日 20 210 ♀ 1 3 1.43% 39林班ち小班 39林班ち小班=10個、19林班そ小班=10個

水 1月16日 19 229 ♀・♂ 2 5 2.18% 39林班ち小班 39林班ち小班=9個(捕獲後ワイヤーよじれ1個使用不可)、19林班そ小班=10個

木 1月17日 20 249 0 5 2.01% 39林班ち小班=10個、19林班そ小班=10個

金 1月18日 20 269 ♀仔 1 6 2.23% 19林班そ小班 39林班ち小班=10個、19林班そ小班=10個を撤去

月 1月21日 20 289 0 6 2.08% 39林班ち小班=3個・い小班=7個、19林班そ小班=10個を再設

火 1月22日 20 309 0 6 1.94% 39林班ち小班=3個・い小班=7個、19林班そ小班=10個

水 1月23日 20 329 ♀・♀仔 2 8 2.43%39林班い小班19林班そ小班

39林班ち小班=3個・い小班=7個、19林班そ小班=10個

木 1月24日 20 349 ♂ 1 9 2.58% 39林班ち小班 39林班ち小班=3個・い小班=7個、19林班そ小班=10個

金 1月25日 1月25日 20 369 0 9 2.44% 39林班ち小班=3個・い小班=7個、19林班そ小班=10個を撤去

月 1月28日 10 379 0 9 2.37% 19林班そ小班=10個を再設(39林班大雪のため入林できず)

火 1月29日 10 389 0 9 2.31% 19林班そ小班=10個(39林班大雪のため入林できず)

水 1月30日 20 409 ♀仔 1 10 2.44% 19林班そ小班 39林班い小班=10個、19林班そ小班=10個

木 1月31日 20 429 ♀ 1 11 2.56% 19林班そ小班 39林班い小班=10個、19林班そ小班=10個

金 2月1日 20 449 ♀仔 1 12 2.67% 19林班そ小班 39林班い小班=10個、19林班そ小班=10個を撤去

月 2月4日 0 449 12

火 2月5日 0 449 12

水 2月6日 0 449 12

木 2月7日 0 449 12

金 2月8日 2月8日 0 449 12

月 2月11日 20 469 0 12 2.56% 39林班い小班=15個、39林班ち小班=5個を新設

火 2月12日 20 489 0 12 2.45% 39林班い小班=15個、39林班ち小班=5個

水 2月13日 20 509 0 12 2.36% 39林班い小班=15個、39林班ち小班=5個

木 2月14日 20 529 ♀仔・♂仔 2 14 2.65% 39林班い小班 39林班い小班=15個、39林班ち小班=5個

金 2月15日 20 549 ♀2・♂仔 3 17 3.10% 39林班い・ち小班39林班い小班=15個、39林班ち小班=5個撤去

月 2月18日 20 569 0 17 2.99% 39林班い小班=15個、39林班ち小班=5個を再設

火 2月19日 20 589 ♀仔 1 18 3.06% 39林班い小班 39林班い小班=15個、39林班ち小班=5個

水 2月20日 20 609 0 18 2.96% 39林班い小班=18個、39林班ち小班=2個

木 2月21日 20 629 ♀仔 1 19 3.02% 39林班い小班 39林班い小班=20個

金 2月22日 2月22日 20 649 ♂2・♂仔 3 22 3.39% 39林班い小班当初800ワナ日到達予定日39林班い小班=20個

月 2月25日 20 669 0 22 3.29% 39林班い小班 39林班い小班=20個

火 2月26日 20 689 ♂仔 1 23 3.34% 39林班い小班 39林班い小班=20個

水 2月27日 20 709 ♂2・♀1 3 26 3.67% 39林班い小班 39林班い小班=20個

木 2月28日 20 729 ♀仔 1 27 3.70% 39林班い小班 39林班い小班=20個

金 3月1日 3月1日 20 749 ♀仔 1 28 3.74% 39林班い小班 39林班い小班=20個

月 3月4日 20 769 0 28 3.64% 39林班い小班 39林班い小班=20個

火 3月5日 20 789 ♂仔2 2 30 3.80% 39林班い小班 39林班い小班=20個

水 3月6日 11 800 ♂仔 1 31 3.88% 39林班い小班 800ワナ日到達予定日・39林班い小班=11個

捕獲率 捕獲箇所 備考

設置せず

総実ワナ日数累計

捕獲頭数捕獲頭数累計

実設置ワナ日/

日曜日

設置日

表 3.1 本事業の作業実績

20

2 月の捕獲率はさらに高く、5.33%(16 頭/300 ワナ・日)であった。平成 23 年度事業の

2 月の捕獲率は、1.3%であったため(11 頭/880 ワナ・日)、これと比較しても捕獲率は上

昇していることがわかる。この点については、捕獲に従事した作業員の技術が向上したこ

とのほか、今年度は昨年度と比較して、伐採現場のかなり近傍にワナを設置することがで

きたため、落葉落枝を採食しにくるエゾシカを捕獲することができたものと推測している。

こうした捕獲を行う場合は、捕獲実施者と伐採作業との連携が、全体的な捕獲率に大きな

影響を与えていると思われた。

3 月は 4 日間だけの捕獲であったが、4 頭の捕獲があったため、捕獲率は約 5.63%(4 頭

/71 ワナ・日)であった。

(3)森林整備の有無との関連

1 月の間に森林整備が行われた 39 林班と、行われなかった 19 林班に設置したワナ数

は「204 ワナ・日」と「236 ワナ・日」であった。それぞれで捕獲できた個体数を整理し

て、表 3.2 に示す。

表 3.2 森林整備の有無と捕獲率の比較(1 月設置分のみ抜粋)

39 林班

(森林整備あり)

19 林班

(森林整備なし)

ワナ・日 159 190

捕獲数 6 5

捕獲率(%) 3.77 2.63

捕獲作業の現場では、伐採が行われた 39 林班の方が、伐採が行われなかった 19 林班

よりも捕獲率が高い印象を持っていた。実際、表 3.1 のように捕獲率の集計を行った結果、

39 林班が 3.77%で、19 林班の 3.16%よりも値が高い結果となり、現場の印象を裏付け

ることとなった。

この結果については、くくりワナと森林整備を組み合わせることが、重要な要素とな

ると考える。

21

(4)ワナの種類と捕獲率

ワナの種類による捕獲数を、表 3.3 に示す。

表 3.3 ワナの種類別の捕獲数

ワナ形式 A 式 B 式

月 捕獲数 ワナ・日 捕獲率 捕獲数 ワナ・日 捕獲率

12 月 0 29 0.00 0 51 0.00

1 月 2 85 2.35 9 264 3.41

2 月 4 64 6.25 12 236 5.08

3 月 3 20 15.00 0 51 0.00

計 9 198 4.55 21 602 3.49

※ この表では、捕獲数が 30 頭となるが、残りの 1 頭は A 式と B 式が両方ともかか

っていたため、上記の集計から省いた。

※ 捕獲率は、捕獲数/ワナ・日×100 で求めた値(%)

ワナごとの捕獲率については、A 式のほうが捕獲率がよく、全体で 4.55%であった。

一方の B 式の捕獲率は 3.49%であった。しかし、統計の検定の結果、両者に有意差は見

られなかった。こうしたことから、本事業で使用したくくりワナは両者共に捕獲率には

大きな差が見られなかったといえた。

(5)混獲の状況

本事業では、5 件の混獲が観察された。混獲された動物はタヌキ 2 件とキツネで 3 件で

あった。いずれの場合も、見回り時に生存しており、発見後放逐することができた。混

獲率は 0.6%であった。本章(7)でも触れるが、タヌキやキツネは、埋設されたワナを

掘り返す習性があるようで、その際にワナが作動して混獲されるようである。この行動

については防ぐことが今のところはできないが、見回り頻度を上げたり、ワナを作動さ

せるための体重設定ができる機種であれば、これを調節するなどの対策が考えられる。

本事業では、ワナ周辺にはヒグマの痕跡は事業期間中に見出すことができなかった。

また、その他の動物の混獲もみられなかった。

(6)希少種等の観察結果

作業中には、オオワシ、オジロワシのような希少猛禽類を上空に観察することができ

た。しかしワナの近傍においてこれらの猛禽類が異常に接近することや、捕獲されたエ

ゾシカを採食しているというようなことは見られなかった(見回り時にすでに捕獲され

たエゾシカが死亡していたり、食害されていたりという事象は 1 件もなかった)。

また、ワナの近くに設置していた自動撮影装置や、周辺の足跡等の観察では、ヒグマ

22

その他哺乳類等の痕跡、記録は見られなかった。

くくりワナによる捕獲による騒音は、自動車で林道を走行して、止め刺しのために場

合によって銃声がする程度である。また、現場からは全て残滓を回収するので、これに

対して猛禽類が集まることもない。こうしたことから、希少猛禽類等に与える影響は、

営巣木に非常に近いというようなことがなければ、極めて最小限であると考える。

ヒグマについては、個体によっては 1 月にもまだ冬眠しないものがしばしば報告され

ること、3 月中旬には個体によっては冬眠から覚めることもある。こうしたことから、周

辺の観察を注意深く行い、痕跡等が見られるようであれば対策を行う必要がある。

(7)捕獲個体の損傷

捕獲された個体の損傷について、表 3.4 に示す。また、代表的な捕獲個体の損傷を、以下

①~③に述べる。

表 3.4 捕獲された個体の損傷状況

損傷の内容 件 数

内出血 31

足の凍結 5

骨折・脱臼 4

外的損傷(くくられた足を除く) 2

その他 2

全捕獲数 31

① 内出血

捕獲された個体の全てが、くくられた足と、その近傍の部位に内出血が見られる。

見た目に明らかな内出血が観察される場合が多いが、見た目の内出血があまりなくて

も食味試験を行ってみると臭いが感じられることもあった。仔細に観察すると、しば

しば筋肉に斑点状に内出血が見られることがあった。

② くくられた足の凍結

捕獲された個体のほとんどが、くくられた足に凍結がみられる。食用として利用す

ることを考えると、くくられた足はほとんど食用に向かない。捕獲されてから止め刺

しまでの時間が短ければ、ワイヤーでくくられた箇所のみが内出血する程度で済むが、

止め刺しまでの時間がかかった場合は、足全体が凍結していることが多い。

③ 骨折

オスの成獣など、捕獲後に暴れる個体、力が強い個体などは場合によって(解放)

23

骨折することがある。損傷の程度は著しく、個体全体が食用に適さないほどの損傷に

なることがあった。

くくりワナによる捕獲では、捕獲される動物に大きなストレスを与えることや、損傷

を与えることなど、課題も多い。これまでの捕獲で得られた記録でも、ほとんどが損傷

を受けている状態であった。この損傷を最低限で抑えるには、「猟具(ワナ)の構造の改

善」と、「見回り頻度の向上」という 2 点が現段階では考えられる。これについては、本

報告書の第 4 章に詳細に述べる。

(8)ワナの作動不良

本事業で発生したワナの作動不良について、表 3.5 にまとめた。また、誤作動の様子を

以下に示す。

表 3.5 本事業におけるワナの誤作動の一覧

誤作動の内容 39 林班 19 林班 計

明確な凍結 5 5 10

足跡有り 11 1 12

不作動

端踏み 3 1 4

空打ち 作動済み 11 1 12

掘り返し 2 3 5

計 32 11 43

本事業では、明確に分かるもので合計 43 回の誤作動が発生した。その発生率は全体で

800 ワナ・日のなかで 5.38%であった。捕獲率の全体が 3.88%であったことから考える

と、誤作動率が高いことがわかる。

誤作動のなかで、最も多いのは「足跡があってワナが作動していない」というもので

あった。これは明確な凍結ではなかったため、体重の軽い仔が踏んだか、ワナを踏んだ

際に違和感等を感じて踏み込むことを避けたか、という理由が考えられる。こうした誤

作動について、設置技術を磨いたり、丁寧に設置を行ったりすることで、さらに捕獲率

が上昇することが期待される。

掘り返しは、キツネやタヌキによってワナが掘り返されることである。ワナの臭いが

気になるのか、これらの動物が多い箇所でしばしば発生するため注意が必要である。

24

ワナの端を踏まれ、ワナ全体が傾いて作動しなかった例

ワナの中心を踏まれているが、上面に被せた雪が凍結して作動できなかった例

25

ワイヤーが凍結し、スプリングによる絞込みが行えなかった例

ワナの端を踏まれたが、スプリングが作動しなかった例

26

北海道のように積雪が多く、極めて低温となる地域では、ワナの凍結による誤作動が

大きな要因となっている。凍結対策としては、無臭の機械油等を塗布することや、極力

ワナを乾いた状態で設置するといった工夫をしたが、どうしても凍結が発生してしまう。

また、ワイヤーやスプリングの凍結によるトラブルも発生した。これは、ワイヤーの老

朽化等の理由により、図 3.2 の「A」に示す部分に「くせ」がついてしまったり、スプリ

ングの覆いの部分に雪が詰まるなどして凍結して固まってしまい、ワイヤーを引き絞れ

ないという事例が数件発生した。ワイヤーのくせや、疲労度合いを定期的にチェックし

て、必要に応じて取り替えることが必要であった。また、凍結防止用に無臭の機械油(図

3.3)を、「A」の部分やスプリングの覆い部に多く塗布することで、凍結を防止すること

ができた。

1

スプリング

締付防止金具

より戻し

1

スプリングの覆いA

図 3.2 シカ用くくりワナの構造図(踏板部は部分は省略している)

図 3.3 無臭の機械油(市販品)の例

27

ワナの上にカムフラージュ用に乗せる雪は、雪質や量などが非常に感覚的で慣れが必

要であった。その日の気温や天候にもよるので、この点は経験と試行錯誤で慣れる必要

がある。

4.くくりワナの課題と改善点

くくりワナを利用した捕獲は、事業として行う際、「ワナ・日」という概念や、作業に必

要な「人・日」という概念があり、管理しやすいという状況がある。また、第 1 章でも述

べたとおり、銃の所持許可等は必要ではなく、銃猟よりも手軽に実施できるという背景も

あり、道内外で普及が図られている。

一方、くくりワナは、区別なく動物を捕獲してしまうこと、捕獲される動物を損傷した

りストレスを与えたりすることなど、課題があることも事実である。そのため、狩猟免許

の講習に使用される「狩猟読本」では、区別なく動物を捕獲することに対する対策として、

「おしワナ」では「おし」と床面の間に隙間をつくる「さん」を設置することや、「くくり

ワナ」では「締付防止金具」や「縒り戻し」のような機構を備える義務が解説されている。

くくりワナを利用してエゾシカの捕獲を行う際には、こうした課題を整理し、改善するこ

とが必要不可欠である。昨年度事業と、本年度事業を通じて得た知見をもとに改善点につ

いて提案する。

(1)見回り頻度を高める

捕獲した動物に対してストレスをかけない方法として、最も簡単で現実的な方法は、

見回り頻度を上げることである。本事業では、見回りは最低 1 日 1 回(朝)で、可能で

あれば 1 日 2 回(朝・夕)実施した。しかし、1 月末までのように、2 地域にワナを分散

して設置している場合は、移動に時間がかかるためにどうしても 2 回の見回りが難しい

ことがあった。また、1 か所目で捕獲があった場合などは、止め刺しの作業等に時間がか

かり、やはり 1 日 2 回見回ることは困難であった。常に 2 回の見回りを行うためには、

以下のような対策が考えられる。

① 従事者を 2 班編成する。

1 班目は見回りを優先的に行う。2 班目は止め刺しと解体作業を中心に行う。作

業人員が限られているならば、1 班目は銃を使用できる人員がいれば作業が迅速で

ある。解体には 2 名が必要となるので、最低でも 3 名(可能ならば 4 名)で 2 チー

ム(車両 2 台)を編成することになる。これで、1 日数回の見回りが可能であると

思われる。一方で、必要な人工数が増加するため、こうした体制がとれるかどうか

については検討を要する。

28

② ワナを設置する地域を集中させる。

2 点目の解決策として、ワナを1地域に限定して移動の手間を省くことが考えら

れる。本事業では、森林整備と捕獲率の関係を検証するために、19 林班と 39 林班

の 2 か所で捕獲を実施した(1 月末まで)。その結果として、見回りに時間がかか

るようになった。2 月以降は 1 か所(39 林班)に限定したので、見回りにかかる時

間は非常に短時間になった。こうしたことから、夕方の見回りで捕獲を発見したこ

とが 4 回あった。本事業のように検証試験ではなく、捕獲のみを目的とした事業で

あるならば、捕獲従事者は、ワナを設置する候補地を、見回りの効率の良さという

視点で選択することも重要になる。

③ 見回り効率を向上させる道具を利用する。

3 点目としては、捕獲されたことやワナが起動したことが遠隔で分かるようなシ

ステムを利用することが考えられる。これは、特定小電力無線等を応用して、ワナ

が作動していると信号を送るシステムが考えられ、市販品として一般に販売されて

いる。本事業ではこれは試せなかったが、見回りの効率を上げるという点では興味

深いと考えている。

(2)ワナ構造の改良

くくりワナの構造を改良し、捕獲された動物が必要以上に傷つくことを防ぐ。具体的

には、ワナに設置されている「縒り戻し」がこれにあたり、縒り戻しが作動すると、動

物がワナにかかって暴れた際にも、ワイヤーが絡まることがない。

しかし、ワナは落枝の近くに設置するため、ワナの近くには同じような枝がたくさん

ある状況で、これらにワイヤーが絡まってしまうと縒り戻しが作動不良を起こし、脚へ

ワイヤーがよじれたり、過度の衝撃が加わったりするなどトラブルが起きる。本事業で

は一件も発生しなかったが、最悪の場合ワイヤーをねじ切って逃走される恐れもあるの

で注意が必要である。

くくりワナ等の足を捕えるワナは、過去に様々な工夫と規制がかけられてきた。現在

は、締付防止金具と縒り戻しなどの機能が備わっている必要があるが、今後も、捕獲さ

れる動物を必要以上に傷つけないような工夫については検討を続ける必要があると考え

ている。

29

(3)ワナの周辺に障害物がない場所を選択する

上記(2)で述べたように、ワナを設置する場所の周囲には障害物が多くみられるこ

とが通常である。しかし、こうした障害物にワイヤーが引っかかったり絡まったりする

ことで、結果的に縒り戻しが作動不良を起こしたり、最悪の場合はワナが破損したりと

いう事故が発生する。可能な限り、周辺に障害物が少ないような場所を選択することも

必要であろう。また、ワナ全体のワイヤーの長さを短くしたり、周辺の障害物を取り除

いたりする努力も必要である。

(4)止め射し

くくりワナを普及させるうえで、最も大きな課題の1つが止め刺しであるといえる。

エゾシカの被害を受けている農家でも、くくりワナを設置することは厭わないが、止め

刺しは敬遠するということも多い。

多くの場合、止め刺しは銃を利用する。地元の猟友会のメンバーに依頼し、銃によっ

て止めを撃つ。しかし、猟銃の所持者が少なくなっているという背景でくくりワナを推

奨している場合も多いので、常に止め刺しを依頼できるハンターがすぐに駆けつけられ

るわけではない。

道内外で実際に行っている銃以外による止め刺しは、昏倒させて放血させるかことが

主であり、一部で電気殺が実施されている。本事業では、試験的に銃や放血による手法

を試した。昏倒させ放血させる手法は銃を使用しないので、近隣で森林整備箇所の近傍

や、道内の各所にある一般観光客が訪れるような場所では事故も避けられるので有効で

ある。

電気殺は本事業では用いなかったが、本州の地域、また、道内においても地域によっ

ては試験的に導入されつつある。この手法については、今後、さらに確実性や安全性に

ついて様々な検証がなされることが期待される。

いずれにしてもくくりワナは止め刺しが大きな課題である。現在のように、一般的に

くくりワナを推奨している以上、止め刺しの問題を解決する必要がある。捕獲された個

体は、捕獲された直後と、止め刺しの瞬間に最も暴れる。そうしたことから、安全で速

やかに実施できる止め刺しについては、さらに研究が必要である。

(5)最適なワナ数について

見回りの頻度を上げることが、捕獲された動物を速やかに発見して必要以上に傷つけ

ないための有効な解決策の1つであることは前述のとおりである。そうした意味で、最

も効率の良いワナの個数について検討する。

法律では、1従事者が設置できるワナの数は 1 日 30 個とされている。しかし、1 名で

30 ワナを実際に設置すると、非常に数が多すぎて、きめ細やかな設置をしている時間が

30

ない。また、時間がかかりすぎて、見回りを行う時間が無くなってしまう。丁寧に設置

し、見回りの頻度を上げるには、効率の良いワナの個数が考えられる。

本事業のサイクルでは、1 日 20 ワナという数は最適な範囲であったと考えている。39

林班と 19 林班の 2 か所で設置していた期間は、20 個は少し多い印象であったが、2 月に

入って 39 林班のみで捕獲を行っていた際にはこれを感じなかった。本章(1)②で述べ

たように、ワナを設置する地域を限定することで、20 ワナ程度までは 1 日で設置できる

個数であると言えた。

最大の効率で設置できるワナ数は、状況等によって変化するものと思われる。そこで、

今後、くくりワナによる捕獲を行う際には、ある程度の範囲で設置個数を調節できるよ

うな仕組みを作っておくことが重要であると考えられた。

(6)ワナ設置から最も捕獲率が高い日数

本事業で得られた実績から、「ワナを設置してから捕獲までの日数」を図 4.2 に示す。

このグラフから考えると、ワナを設置してからその場所で捕獲されるまでには、1 日~2

日が多いことがわかる。捕獲される望みが薄い箇所は数日様子を見てから、すぐに移動す

る方が効率的であることを示している。前述の最適な個数を、比較的短いサイクルで設置

していくことが、全体の捕獲率の上昇につながるものと思われた。

0

5

10

15

20

1日 2日 3日 4日

日数

頭数

捕獲数

図 4.2 設置後の日数と捕獲数の推移

31

5.まとめ

本事業では、31 頭のエゾシカを捕獲し、全体の捕獲率(捕獲個体数/ワナ・日数×100)

は 3.88%であった。基本的に 2 名の捕獲人員で実施し、捕獲作業は 12 月に準備、1 月から

3 月上旬までの実質 2 か月間程度であった。この捕獲率を他の事例と比較する。

亀井らは、北海道大学静内実験牧場にてくくりワナによる学術捕獲を実施したが、その

際の捕獲率は非常に高く 14%であったと報告している。しかし、この事例は学術捕獲とい

う背景から、静内実験牧場のエゾシカの生息密度が極めて高く狩猟圧が低い場所で実施さ

れていたこと、夜通し 2 時間おきに見回りをすること、など、実際の捕獲事業とは異なる

状況で捕獲作業が実施されていた(哺乳類学会大会.2012)。また北海道農業新聞によると、

静内の農家が冬場に牧場に牧草ロールを 1 個置き、その周りにくくりワナを多数設置して、

一冬で 120 頭以上の捕獲を行っていると報じている(日本農業新聞.2013 年 2 月 28 日)。

その捕獲率は報道されていないが、極めて高い数字となっていると想像される。

一方、あまり生息密度が高くない地域や普通の林内では数パーセントの捕獲率が報告さ

れている。北海道では平成 23 年度に囲いワナ、くくりワナ、シャープシューティング等の

捕獲率について検証したが、その際の捕獲率は約 5.5%であった(北海道.2012)。また、

南野らは道南地域でくくりワナによるエゾシカ捕獲を実施し、6.3%の捕獲率を得た(哺乳

類学会大会.2011)。これらはいずれも今回の捕獲率(3.88%)よりも若干高い値となって

いるが、10%を越すような比率とは異なる。6~3%のオーダーは、冬期の捕獲率のひとつ

の目安と考えられる。

くくりワナによる捕獲事業では、丁寧な設置、見回り、止め射しの労力を、事業実施期

間、常に継続させねば捕獲数が伸びない。これに対して、囲いワナであれば、適切な場所

にワナを設置すれば、一旦は労力は餌を撒いてメンテナンスを行う 1 名程度で維持可能で

ある。さらに、ワナ周辺を利用するエゾシカが多ければ、餌を一定量ずつ設置して捕獲頻

度を上げれば捕獲数が増加する。囲いワナ設置に必要とする労力やコストはくくりワナよ

りも多く機動性も低いが、ある一定の条件がそろえば、捕獲率が大きく伸びる。銃による

捕獲であれば、また異なる特長があり、コストが低く、機動性に富むが、夜間の発砲は禁

止されており、市街地近くでも使用が難しい。これらは捕獲手法の違いによる特徴である

ので、それぞれの長所を組み合わせて、お互いの短所を補いながら、今後の個体数調整に

取り組んでいく必要がある。