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ポスター発表

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理系大学の複言語接触場面におけるメディエーション

本郷 智子

東京農工大学

【キーワード】 理系研究室、複言語、接触場面、メディエーション、マルチモーダル

1 背景

昨今、研究コミュニティのグローバル化が進み、日本の大学でも留学生が所属する理系

研究室では日本人学生も含めて英語使用が広がってきている。そこでは、それぞれが複言

語を駆使する環境(細川・西山 2010)となり、これまで留学生が日本語環境に適応してい

くことが求められてきたホスト-ゲストの関係から、必要に応じて言語を選択しながら相

互理解を目指すコミュニティへと移行しつつある。平高(2011)は、「複言語能力とは何か」

を論じる中で、「複言語話者がいつ、どこで、だれに対して、どのような話題について語る

ときにどの言語を用いるかを記述してこそ、複言語能力にも説得力が生まれる」とし、「多

言語状況における複言語話者の実際の言語行動を記述する」必要性を述べている。今後、

日本語教育者にも、こういった能力を認識した教育支援を行うことが求められる。

2 研究目的

本研究では、複言語話者の言語行動のひとつとして、それぞれの参加者がお互いの共通

理解を得るために、意味を推し量り、確認することで一貫性のある事柄にしようとする調

整行動を「メディエーション」と定義し、その実態を探る。具体的な資料として、理系研

究室で行われるゼミの複言語場面での相互行為を考察する。留学生が所属する研究室で行

われるプレゼン発表練習における相互行為をマルチモーダル分析の手法で分析する。アノ

テーションソフト 1ELAN を用いて、言語行動と非言語行動を連動させた相互行為分析を

行い、複言語話者がいつ、どこで、だれに対して、どのような話題について語るときにど

の言語を用い、どのように行動しているかを記述する。それにより、複言語接触場面にお

けるメディエーションの実態を探る。

3 研究概要

3.1 研究対象・資料

情報工学分野の研究室で複言語にて行われているゼミのディスカッションを研究対象

とする。参加者は、日本人教員 2 名(教授、助教)、修士 2 年 5 名(内、留学生 2 名<バン

グラデシュ・ベトナム>)修士 1 年 4 名、学部 4 年生 4 名、研究生 1 名(留学生<ベトナ

ム>)の計 16 名である。留学生 3 名以外は日本語母語話者であり、分析の中心となる協力

者は、バングラデシュ国籍留学生(修士 2 年・男)である。

3.2 研究方法

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ELAN を活用して映像・音声データを一括し、一連の相互行為における言語行動と非言

語行動を記述した。言語行動としては、文字起こしスクリプト、音調・声の大きさ、イン

トネーション等、非言語行動としては、視線、姿勢、体の向き等を観察した。その中で、

メディエーションが起こっていると特定されたデータを抽出し、構造と機能を分析した。

4 結果と考察

メディエーションが起こっていると判断した相互行為フローを①参加者の属性、②ディ

スコーストピック、③非言語行動の 3 つの点から分析した。その結果、1)参加者の関係性

によって、使用言語を基本的には固定しているが、それを他言語に切り替える過程で、メ

ディエーション行動が起こることがわかった。また、2)言語の切り替えのみならず、連動

して、視線や体の向きなどに変化が起こることも観察された。それらは、参加者同士が、

相互行為が行われている「場」の理解を深め、部分的な言語能力を場に合わせて活用しよ

うとすることから起こることが推察された。また、3)ディスコーストピックが形式的トピ

ックの場合は発話の連鎖は短いが、専門に関連する内容的トピックの場合は、ある発話を

きっかけとして、メディエーションが参加者間で連鎖的に起こることが観察された。積極

的に発話している参加者のみならず、その場を構成している参加者それぞれが、何がそこ

で起こっているのかを観察し、推察する行動を通して、メディエーションの担い手となっ

ている実態がうかがえた。

注.1アノテーション:映像データからジェスチャーなど非言語行動について時系列で記述する作業

<参考文献>

細川英雄・西山教行(編)(2010)『複言語・複文化主義とは何か』くろしお出版.平高史也(2011)「CEFR から見た育成すべき言語能力とは何か」『早稲田日本語教育学』

第 9 号, pp.99-106, 早稲田大学.ソーヤーりえこ(2006)「理工系研究室における装置へのアクセスの社会組織化」『文化と

状況的学習』, pp.93-124, 凡人社.本郷智子・山崎真弓・広田妙子(2012)「上級日本語学習者を対象とした相互行為のマルチ

モーダル分析」日本語教育国際研究大会.ニック・キャンベル(2011)「マルチモーダル会話における同期的談話行動を測定するた

めの音声・映像手法」『音声文法』, pp. 137-148, くろしお出版.

図 1:ELAN による言語行動と非言語行動の

時系列の相互行為資料

(カメラ2方向から録画した資料にICレコー

ダで収集した各参加者の発話資料を文字起こ

しした記録及び音声の波形資料を同時記述)

ELAN:動画解析ツールのひとつ。オランダ

のMax Planck Institute for Psycholinguistics(マ

ックスプランク心理言語学研究所)開発

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CEFR 実践教師は CEFR をどのように捉えているか

―KH Coder を用いた現場教師のインタビュー分析を通して―

井上 玲子

早稲田大学

【キーワード】 CEFR、共通言語、理念、実践、共起ネットワーク

1 はじめに(背景と目的)

2001 年に欧州評議会(Council of Europe)が CEFR を公表して以来、欧州各国の日本語

教育機関で CEFR が導入され、実践が行われている。しかし、CEFR の理念、共通参照レ

ベル、教室活動や評価をはじめ、CEFR の文脈化において悩んでいること、困難に思って

いることなど、依然として様々な課題があるのが現状である。CEFR 文脈化において困難

に思っていることは、具体的には「CEFR 理解」に関するものと「CEFR 実践」に関する

ものに分けられるが、CEFR の理念を咀嚼し、それを教育実践へと導くということが難し

いと考える現場の教師は少なくない。

奥村・辻(2011)では、「(CEFR)実践における最も大きな成果は講師間で言語教育を語

り合うための共通言語が得られたこと」(p.75)と述べているが、実践者同士が共に語り合

いながら実践を進めていくための「共通言語」とは具体的に何を意味するものだろうか。

抽象的な CEFR の理念を具体的な実践へと導くためには、現場の教師が CEFR をどのよう

に捉えているのかを把握することが不可欠であると考える。

では、CEFR 実践教師は、CEFR に対し、具体的にどのようなイメージを持っているの

であろうか。教師一人ひとりにとって、CEFR を表す語は何か。

2 調査方法

2.1 調査協力者

2014 年 3~4 月に欧州の高等教育機関で CEFR を実践している教師、または、CEFR 実

践の経験のある教師、合計 13 名に対してインタビュー調査を行った。本発表では 13 名の

うち CEFR 実践歴が長い教師 3 名のインタビューデータを分析対象とした。

勤務形態 CEFR 実践歴

教師 A 元常勤講師(コーディネーター経験者) 8 年

教師 B 元常勤講師 6 年

教師 C 非常勤講師 8 年

表 1 調査協力者

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2.2 分析方法

インタビュー内容をすべて文字化し、CEFR について言及している段落に注目した。そ

して、インタビュー調査によって抽出された語と語の関連性を見ていくために、計量テキ

スト分析ツール KH Coder1の分析機能の 1 つである共起ネットワークを使用した。

3 結果と考察

教師 A の語りでは、CEFR は、「言語」「学習」「個人」と強く共起していた。これらの

語は、「言語学習は個人のもので、一生付き合っていくもの」「CEFR は最後個人に帰結す

る」などの語りにより出現している。また、「CanDo」は「理念」と共起しており、CEFRの重要概念である「複言語・複文化主義」や「自律学習」などの語も抽出された。教師 Aにとっての CEFR とは、「理念あっての CEFR」と捉えていることがわかった。

一方、教師 B と教師C の語りからも「複言語主義」などの理念を表す語が抽出されたも

のの、教師 A ほど相対的には出現していない。「CanDo ベースの授業を実践している」な

どの語りが話題となっていたため、主に「CanDo」「授業」「評価」に関する語が強く共起

していた。

よって、CEFR 実践教師間での「共通言語」とは、理念に関する語と授業実践面に関す

る語が抽出されたが、実践教師間で認識が異なっていたということが明らかになった。し

かしながら、「複言語・複文化は大事な概念だということはわかっているが、具体的に何を

示しているのかよくわからない」という教師 C の語りから、CEFR の理念を押さえること

も大切だと感じているということもわかった。教師間で CEFR の理解をさらに深めるため

には、理念を表す「共通言語」が必要である。

4 今後の課題

本研究では 3 名の教師に焦点を当てたが、現場の教師が CEFR をどのように捉えている

かを明らかにできたことで、他の教師のCEFR の捉え方との比較を可能にできると考える。

しかし、CEFR 実践の現状に迫るためには、より多くの CEFR 実践教師へのインタビュー

の考察が必要になってくる。今後は、1 つの教育機関だけでなく、CEFR を実践している

教師、または過去に実践していた教師の語りを分析し、研究対象を広げていく必要がある。

そして、現場の教師がCEFR をどのように捉えて実践しているのか、そのプロセスを追研

究することが課題である。

注.1 http://khc.sourceforge.net を参照。

<参考文献>

奥村三菜子・辻香里(2011)「言語教育観を共有するために―教育現場における『体験』の

積み重ねを通して―」『ヨーロッパ日本語教育』第 15 号, pp.70-77, ヨーロッパ日本語教

師会.樋口耕一(2014)『社会調査のための計量テキスト分析―内容分析の継承と発展を目指し

て―』ナカニシヤ出版.

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Japanese Language Education in the Republic of Armenia

HOVHANNISYAN, AstghikHitotsubashi University

Keywords: Japanese language education, Armenia

1 Introduction

The Japanese language education in Armenia started in 1992, and currently it is implemented in three institutions of higher education and several cultural centers. This paper will introduce the history and the current state of the Japanese language education in Armenia and discuss the challenges it faces. The data for this research have been collected through interviews with organizations and people involved in Japanese language teaching in Armenia1.

2 Japanese Language Education in Armenia

Japanese language education in Armenia started in 1992, when the newly established Yerevan Institute of the Humanities opened its department of the Japanese language. For a long time, it was the only institution of higher education teaching the language2. However, from the late 2000s, several other universities and cultural centers started offering Japanese as part of their foreign language education curriculum.

2.1 Japanese Language in the Tertiary EducationRussian-Armenian University (RAU) introduced Japanese language into its curriculum in 2009,

and since 2010 it has been part of the Area Studies program. RAU is the only university in Armenia where students can major Japanese. As of November 2014 there are 30 Japanese language learners,among them 21 first-year (who are supposed to choose their major in the second semester3), 2second-year, 2 third-year, 2 fourth-year, and 3 graduate students. The teacher is Karine Karamyan, who is also the founder and president of the Armenian Association of Japanese Language Teachers. Students have three to four lessons per week and textbooks such as Minna no Nihongoand Kanji Road are being used. Students also have the chance to study Japanese history and literature, and participate in various events, e.g. Japanese language speech contests. RAU also plans to start Japanese language teaching in its affiliated secondary school USMUNK.

Yerevan State Linguistic University (YSLU) started teaching Japanese as a third foreign language (compulsory) in 2010. Currently Japanese language program is part of the Chair of European and Oriental Languages. YSLU has 24 Japanese language learners (8 second- and 16 third-year students). The teacher is Arihiko Hasegawa, who uses textbooks such as Japanese for Busy People, and Kana Nyūmon. Although the students have opportunities to participate in a number of events, according to Hasegawa, their language learning motivation is relatively low.

Yerevan State University (YSU) started teaching Japanese as a third foreign language (compulsory) in September, 2014 in the Faculty of International Relations. Currently the university

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has 18 Japanese language learners (all first-year students), and the teacher is Ruzan Khojikyan, who earned a PhD degree in Tohoku University, Japan. Khojikyan uses Minna no Nihongo, Kanji Look and Learn, and other textbooks.

2.2 Japanese Language in Cultural Centers The first cultural center to teach Japanese was the Japanese Center, established in 2001. In the

late 2000s, several other centers promoting Japanese language and culture were established, among them AJP Cultural Exchange Association. While the Japanese Center has ceased its activities, AJP continues to promote Japanese culture under the name Hikari Center4 (renamed in 2010) together with Iroha Center established in 2014. Iroha currently has 16 Japanese language learners, while Hikari has 12. Hikari also organizes annual demonstrations of ikebana, tea ceremony, and sumi-epaintings, co-organizes Japanese film festivals with the Embassy of Japan in Armenia5, as well as has origami and ceramics clubs.

3 Challenges of the Japanese Language Education in Armenia

Although the number of organizations teaching Japanese has grown, Japanese language education in Armenia has numerous issues, a few of which are as follows. First, there is little demand for Japanese language professionals in the Armenian market. Thus, while most Japanese language learners express hopes to find good jobs using Japanese, few of them manage to do it, which often results in disappointment and frustration6. Besides, Armenian Japanese language learners who did not have a chance to study in Japan rarely reach an advanced level, which can be partly explained by the lack of authentic input. Second, there are no trainings or seminars available for Japanese language teachers7, and research on Japanese language education and teaching methods is almost nonexistent. And finally, although Armenian universities and cultural centers have sufficient textbooks and teaching materials, there is a serious lack of academic literature and research materials. Particularly due to this fact, and also due to absence of financing, Armenian universities have failed to establish the discipline of Japanese studies, and until now virtually no research has been conductedon any field of Japanese studies.

Notes1 Japan Foundation also provides information on Japanese language education in Armenia.http://www.jpf.go.jp/j/japanese/survey/country/2013/armenia.html2 Yerevan Institute of the Humanities consolidated into the Yerevan State Linguistic University in 2012 and stopped admitting new students.3 Karamyan mentioned that the majority of first-year students tend to choose Chinese as their major, which explains the small number of Japanese language learners in the consecutive years.4 For more information, see http://www.hikari.am/en/5 At the moment, Japan is represented through its embassy in Russia. However, it plans to open an embassy in Yerevan in 2015. 6 I conducted a survey to 14 students, and 86% of them answered they would like to work in a Japanese company. However, at the moment there are almost no Japanese companies in the country. For more details, see http://www.ru.emb-japan.go.jp/APP/Armenia/Armenia_gaikan.pdf.7 However, many have participated in Japan Foundation’s training programs.

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日本語クラスと日本語教員養成課程とを結ぶ教育実践報告

―疑似スピーチコンテストの試み―

黒﨑 佐仁子

聖学院大学

【キーワード】 日本語教員養成、スピーチ、留学生、連携、疑似体験

1 はじめに

留学生の中には、アルバイト先であいさつ程度のことしか日本人と話をしたことのない

者も少なくない。また、日本語教員養成課程の受講者の中には、留学生と話す機会はない

という日本人学生も少なくない。そこで、筆者は、留学生を対象とする日本語クラスの授

業と、日本語教員養成課程の授業とを連携させ、互いに学び合える場の提供を模索してい

る。2012 年度からは、両者を一部合同にし、ワールド・カフェを実施している。その結果、

「日本人学生、留学生という二項対立を前面に出したワールド・カフェでは、その違いに

ばかり焦点が当てられ、日本人学生、留学生という区分が差別に発展する可能性がある」

(黒﨑 2014:152)ことが分かった。また、そこから、「支援者 対 非支援者」(徳井 2007:75)へと発展し、日本人学生が留学生に優越感を抱く可能性が見受けられた。そこで、日本語

教員養成課程の授業で「留学生になったつもりでスピーチコンテスト」、つまり、日本人学

生が、留学生になったつもりで、日本語のスピーチをするという疑似体験活動を実施する

ことにした。このスピーチコンテストは、録画して、Moodle 上に掲載し、日本語クラスの

授業で、留学生に視聴させた。本研究では、この疑似スピーチコンテストが、日本人学生

および留学生にどのように受け止められたのかを提示する。

2 授業の概要

日本語教員養成課程の授業と日本語クラスの授業は、同じ時間に開講されている。前者

の授業名は「国際交流と多文化共生」で登録者は 22 名(ただし、疑似スピーチコンテスト

の参加者は 12 名)、後者の授業名は「日本語 3(調査・発表)A」で登録者は 7 名であった。

「国際交流と多文化共生」は、リカレント教育講座(高齢者を対象とした開放授業)に指

定されており、疑似スピーチコンテストに参加した 12 名のうち 3 名は、リカレント教育講

座の受講生である。授業は、2014 年 4 月から 7 月までで、週 1 回、90 分の授業が 15 回あ

り、ワールド・カフェは、6、7、12、13 回目に合同で行った。疑似スピーチコンテストは、

3、4 回目の「国際交流と多文化共生」の授業で実施し、「日本語 3(調査発表)B」の留学

生は、その模様を Moodle 上で視聴し、5 回目の授業で感想を話し合った。

3 スピーチコンテストの概要

実際に、大学内で毎年行われている「留学生日本語弁論大会」と同じ条件で実施した。

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テーマは、「世界の中の日本~日本のイメージ」「私の主張」「私の異文化体験」「未来の私」

の 4 つから 1 つを選択する。制限時間は 5 分である。「留学生日本語弁論大会」では、一次

審査で、スピーチ原稿と、その録音データの提出を求めているため、疑似スピーチコンテ

ストでも、同様の提出を求めた。「留学生になったつもりでスピーチコンテスト」という疑

似スピーチコンテストについて説明する際には、「留学生日本語弁論大会」の応募チラシを

配布し、更に、過去の弁論大会を録画したものも視聴した。「留学生になったつもり」であ

るため、原稿執筆の際には、インターネットの資料を参考にすること等は認めた。

4 感想

疑似スピーチコンテストに参加した受講生には、コンテスト後に感想の記入を求めた。

その内容をまとめると次のようになる。(1)思っていた以上に、難しかった。(2)うまくでき

なかった。(3)留学生はすごい。(4)留学生が何に対して、どう感じているのかについて考え

たことがなかったため、何を話せばいいのかを考えるのが難しかった。

スピーチコンテストを Moodle 上で視聴した留学生 6 名に個別にインタビューを行った

結果をまとめると次のようになる。(5)日本人なのに、スピーチが上手ではなかった。緊張

しすぎている。自信が足りない。(6)視線やスピードなどがスピーチらしくなかった。早口

すぎる。(7)実体験ではないから、内容が深くない。甘い。(8)留学生の気持ちを考えてもら

えてうれしい。(9)日本人が留学生をどのように見ているかが分かった。(10)Moodle 上では

なく、コンテスト会場で一緒に聞きたかった。(11)Moodle の動画で見た印象と、実際に話

してみた印象が違う。

(1)(2)(3)(5)(6)の感想からは、これまで何度もスピーチの練習を受けてきた留学生と、ス

ピーチをした経験がなく、思ったようには話せなかったと練習不足を反省する日本人の姿

が見える。また、(4)(7)は、内容が想像の話であり、実体験でないことについて言及してい

る。しかし、留学生からは、「留学生になったつもり」という活動に対して、(8)(9)のよう

に、好意的な感想が得られた。Moodle の使用に関しては、(10)(11)のように、Moodle を使

用せずとも直接会場に出向くことが可能ならば、会場に行きたかったという感想があった。

5 おわりに(今後の課題)

疑似スピーチコンテストは、実体験ではないため、内容に深みがないという指摘もあっ

た。これは、留学生と協働しながら原稿を執筆するという手順を加えることで改善が可能

だろう。また、スピーチの練習を経験してきている留学生のほうが、日本人学生よりもス

ピーチに関する知識や技術を持っていた。これも、留学生と日本人学生とが学び合うとい

う活動につなげられるだろう。今回は、Moodle を使用したが、可能であるならば、生でス

ピーチを聞きたいという意見が見られた。Moodle の効果的な使用方法については再考が必

要である。

<参考文献>

黒﨑佐仁子(2014)「留学生・日本人学生混合のワールド・カフェ式のディスカッション

はどう捉えられたか」,『聖学院大学論叢』第 26 巻, 第 2 号, pp.141-155, 聖学院大学.徳井厚子(2007)『日本語教師の「衣」再考 ―多文化共生への課題―』くろしお出版.

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複文化・複言語能力を育む

思考・作業プロセスの可視化タスクによるレポート指導

山本 富美子

武蔵野大学

1. 先行研究と本研究の目的

山本(2008)では,レポート作成の構想段階における思考・作業プロセスの可視

化を試みた学習者 A 群が,可視化しなかった学習者 B 群に比べ,テーマの絞り

込み・決定からアウトライン作成が適切に進み,レポート・プレゼンテーショ

ンの評価も高かったという。また山本(2012)では,A 群は可視化のための 4 タス

クの遂行段階で 15 名全員に次の 5 種の認知とその言語表現化が認められた一方,

B 群は 16 名中 4 名のみだったという。①比較による共通点・相違点 (例:ABC・・・

は~という点で共通している),②分類・整理からカテゴリー化(例:ABC・・・と

XYZ は~と~に分類される),③異なる背景・枠組みから意味づけ(例:~は~の

点では~だが、~の点から見ると~だ),④現状から推論・予測(例:~は~だか

らではないだろうか),⑤総合的判断から主張(以上から、~だと言える)。さら

に,A 群の最も評価の高かった学習者は,上記 4 タスクを通して教師・ピアの

質問に対し絶えず自問自答を繰り返しており,この自問自答,課題発見・解決

行動が①-⑤の認知・言語化を促進している(山本 2013)と指摘している。

一方,両群で異なる条件として,A 群では学習者の思考が求められるタスク

の遂行で,日本語以外に英語,学習者の母語使用を奨励した点を考慮する必要

がある。本研究では,この日本語以外の英語,学習者母語の授業内取り込みが

学習者のタスク活動および評価にどのような影響を与えたかを見る。

2. 方法

日本語,英語,学習者の母語を使用し,思考・作業プロセスを可視化した A群と,日本語のみで可視化しなかった B 群のタスク活動,提出物,成果物を比

較・分析する。A 群 15 名: 韓国 6,中国 5,インドネシア・エジプト・カナダ・モ

ンゴル各 1 (旧 JLPT1 級 5 名,2 級 9 名,3 級 1 名)。B 群 16 名: 韓国 10,ベトナ

ム 2,カナダ・中国・ミャンマー・モンゴル各 1 (旧 JLPT1 級 10 名,2 級 6 名)。

3. 結果と考察

A 群は B 群に比べ,以下の点で顕著に優っていた。

1)タスク活動と提出物: A 群はレポートの 「仮テーマ検討会」と「レポート第 1稿のピア点検」の 2 コマ(1 コマ 90 分)での議論が顕著に活発であった。また,

A 群は 15 名全員が「テーマ報告シート」,「アウトライン」,「論文第 1 稿と完

成版」を提出〆切日までに提出したが,B 群は半数以上が提出できなかった。

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2)外部情報の積極的取り込み: 調査の基本・方法は両群ともに学び,調査の実施

を奨励した。これに対し,A 群は 15 名全員が統計資料と調査で根拠を提示

したが,B 群は 5 名が統計資料のみを提示,調査した学生は皆無であった。

3)認知・言語能力: A 群は個人差はあるが,可視化タスクごとに認知・言語表現

化が促進され,最終タスクのアウトライン作成までには 15 名全員に①-⑤の

認知とその言語表現が認められた。一方,B 群は①-⑤までの認知・言語表現

が認められたのは 4 名のみで,12 名は①-③までしか認められなかった。

表 1 ①-⑤の認知・言語表現が現れた可視化タスク

1)関心のあるテーマの説明 2)仮テーマ検討会 3)データ解説 4)調査報告 アウトライン

A 群 4 名①~④ 2 名①~④ 9 名①~④ 全員⑤まで

B 群 最後のアウトラインまでに,4 名が①~⑤,12 名は①~③までの認知・言語化

4)レポート・プレゼンテーションの評価: A 群は B 群より教員によるレポート評

価が有意に高かった。また,プレゼンテーションでも日本語教員と日本人学

生,学習者同士の相互評価が高かった(山本 2008)のは,根拠の提示に加え,

自信をもって発表していることが高く評価されていたためである。一方,B 群でレポート,プレゼンテーションで高い評価を得たのはもともと認知能力

が高いと見られる 4 名のみであった。

5)学習者の日本語上級授業に対する評価: A 群の授業評価は B 群より高かった。

特に,日本語以外の英語・母語で情報が取り込みやすかったことへの評価が

高く,他の学習者のレポートの発表から多様な文化情報に触れることができ

たというコメントも多く,複文化・複言語受容能力の向上がうかがえた。

以上の結果は,可視化タスクによって学習者の論理的認知プロセスを意識化し

たことによる教育効果(山本 2008,2013)に加え,思考を必要とするタスクでは各

自の最も得意とする複言語の使用を奨励したことが学習者の思考を活性化させ,

討論等すべての面で相乗効果を引き起こしたのではないかと考えられる。

4. 結論

学習者自身の思考が必要な日本語のレポート作成で,英語,学習者母語を授

業内に取り込んだことが学習者のタスク活動を活発にし,レポート作成・発表

能力とともに複文化・複言語能力をも育んだものと考えられる。

<参考文献>

山本富美子(2008)「レポート・論文作成の構想段階における思考・作業プロセスの可視

化の試み」『日本語教育学会春季大会発表予稿集』, pp.157-162,日本語教育学会

山本富美子(2012)「テーマの絞り込み・決定からアウトライン作成までの認知プロセスと

言語化ー論証型レポートの作成過程の分析より」『日本語教育国際研究大会予稿

集』第二分冊, p.210.山本富美子(2013)「事例分析 :構想段階の思考・作業プロセスの可視化がレポートの

内容・言語面に与える影響」Global Communication,Vol.2, pp.23-37,武蔵野大学.

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日本語教育の視点を活用した人材育成

―複言語・複文化コミュニティ構築を目指して―1

松岡 洋子(岩手大学)

足立 祐子(新潟大学)

【キーワード】 複言語・複文化コミュニティ、人材育成、日本語教育の知見

1 社会構成員の多様化とコミュニケーション課題

1.1 社会構成員の急激な変化

政治、経済など様々な理由により人々が国を超えて流動する現代社会では、生活コミュ

ニティの成員も多様化が進み、日常生活上のさまざまな場面で、言語・文化・習慣・背景

知識の差異などが原因となるコミュニケーション上の課題が見られるようになった。日本

は、他の社会と比較して単言語・高コンテクストなコミュニケーションをとる傾向が見ら

れ、「郷に入っては郷に従え」という考え方が強い地域が少なくない。このような社会では、

異文化・異言語の移住者と受け入れ側のコミュニケーション上の齟齬や誤解の責任は、移

住者側にあると捉えられがちである。しかし、移住者が常に移住先の言語や文化に適応し

て生活しているわけではない。

1.2 コミュニケーション課題解決の方向性

コミュニティでこのようなコミュニケーション課題に対応する方向として、「単言語・同

化主義的対応」、「多言語・多文化主義的対応」、「複言語・複文化主義的対応」の 3 つがあ

る。「単言語・同化主義的対応」では、社会全体の効率化は図れるが、言語が通じないこと

に起因する受け入れ側と移住者側との対立、あるいは社会的弱者層の孤立化・周縁化の危

険性が高まる。「多言語・多文化主義的対応」では、異言語間のコミュニケーションが限定

的となり、それぞれが並立し、社会的統合が困難となる。それに対して、複言語・複文化

的対応、すなわち、コミュニティの個々の成員が複数の言語・文化を理解し駆使すること

によって、異言語・異文化間の対話の実現、対立の回避の可能性が高まることで、多様性

を認める社会の実現に資する。

「複言語・複文化的対応」は、これまでの日本社会におけるコミュニケーションとは大

きく異なる。「察する」、「空気を読む」「常識の共有」を前提とした「語らない」コミュニ

ケーションではなく、伝わらないことを前提とした「対話」コミュニケーションである。

さらに、一言語、一手段でなく、多様な言語、多様な手段で伝えあい、相互に理解を確認

しあう協働的情報伝達による対応である。このような複言語・複文化的対応は、コミュニ

ティメンバーの多様性を認め生かす社会の構築実現の鍵となる。

2 コミュニティの社会的意義

近年、コミュニティの重要性について注目が集まっている。ここでは、地域コミュニテ

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ポスター発表

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ィを形成し維持する意味、機能について、いくつかの例をあげる。まず、防災・災害時対

応である。災害時の対応には地域の日ごろからのつながりと備えが重要であることは、2011年の東日本大震災でも再確認された。次に、教育・福祉である。教育、福祉の対象は地域

で把握され、支援される。また、生活圏の形成・維持(たとえば、必要な自然環境や生活

環境構築)にとっても地域コミュニティの存在は欠かせない。これらは、いわば社会的共

通資本であり、その構築には成員間の合意形成が重要である。

3 コミュニティキーパーソンと複言語・複文化コミュニケーション能力

コミュニティのすべての人々が複言語・複文化的対応力を持ち、コミュニティの形成、

維持に資する市民としての役割を果たすことが、コミュニティの理想的な姿である。しか

し、急激な変化にさらされた日本の地域コミュニティでは、まずコミュニティのキーパー

ソンがその能力を獲得する必要がある。それは、異言語・異文化間の人々が相互に交差し

コミュニティの合意形成を行うための原動力となる。ここで述べるキーパーソンとは、職

務・任務としてコミュニティ維持に関わる人材が中心となる。たとえば、行政職員、保健

師、教師、消防署員、警官などの職業人のほか、民生委員、児童委員、町内会長、消防団

員などボランタリーではあるが制度的にコミュニティに関わる人々も含まれる。

4 キーパーソンへの研修の提案

日本語教育の現場では教師が学習者とコミュニケーションをとる際に、言いかえ、繰り

返し、身振り手振り、絵や図の使用、外国語による置き換えなどの多様なコミュニケーシ

ョンスキルが駆使される。また、異なる言語・文化間のルールの違いへの配慮、対応など

も行われる。これは、コミュニケーションの目的を意識し、つぎにその目的を達成するた

めに誰にどうなってほしいのかを考え、そのための方法を計画し、実践するための手段で

ある。実践がうまく進まない場合には、学習者の反応などを見極めながら別の方法を考え

たり、目的そのものを再設定したりする。このような日本語教育の知見は、多様な背景の

人々が混在するコミュニティのキーパーソンを対象とした複言語・複文化的対応力を高め

る人材トレーニングに活用できる。トレーニングのキーコンセプトは、異言語・異文化の

相手とコミュニケーションをとるための多様な手段の獲得と意識の獲得である。

このトレーニングでは、コミュニティで起こるコミュニケーション課題例を提示し、そ

の原因、背景などを考え、「言いかえ・繰り返し」、「配慮」、「複言語的対応」などの対応例

を検討し、その要点を整理していく。このトレーニングによって、異言語・異文化間のコ

ミュニケーションの配慮のポイントを理解し、スキルを獲得することを目指す。

現在、この研修用事例が蓄積され、試行が始められた。今後、受講者に対するトレーニ

ング後の意識・行動の変化の分析によって効果の検証を行い、改善を図る。

1*本発表は科学研究補助金基盤研究(B)(平成 20~23 年度)課題番号:20401024、研究課題:

24401125「移住者と受入れ住民のコミュニティ形成に資する複言語コミュニケーションと人材育

成」(代表:松岡洋子)の成果の一部である。

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アイルランドの中等教育の JFL コースにおける JHL の生徒たち

―その「仲介者」としての役割に注目して―

稲垣 みどり

早稲田大学大学院博士後期課程

【キーワード】 CEFR、複言語主義、仲介者、JFL 生徒、JHL 生徒

1 問題の背景

CEFR の複言語主義の流れを受け、アイルランドでは中等教育機関における外国語教育

プロジェクト(Post-Primary Languages Initiative)の一環として 2004 年より日本語が外国語

科目として後期中等教育課程に導入された。これにより 18 歳以下の外国語として日本語を

学ぶ子ども達(以下、JFL 生徒)の数は飛躍的に増加した。一方在アイルランドの日本に

ルーツを持つ子どもの数も増加している。これらの子ども達の多くは日本人の親と EU 市

民との国際家庭の子どもであり、従来「継承日本語教育(JHL)の子ども」と捉えられて

きた。近年は JFL の生徒のクラスにこれらの JHL の生徒達も参加し、協働して日本語を学

ぶ姿も見られる。本稿では日本語の部分的能力の高い JHL 生徒、B さんが、ゼロ初級の JFL生徒とともに 2 年間継続して JFL コースに在籍して日本語を学習した事例を取り上げる。

B さんが CEFR で言及される仲介的技能を通して教室内で果たした役割、またその役割を

B さん自身がどのように受け止めていたかについて述べる。

2 研究方法

調査対象の JFL コース(2011 年 9 月~2013 年 6 月)に参加した B さんに約 1 時間の半

構造化インタビューを実施した。またコースの担当教師 A さんからメールを通じて授業内

容について補足的な情報を得た。インタビューは日本語で行い音声データを文字化した。

3 インタビュー事例

3.1 調査対象の JFL コースの概要

アイルランド中等教育修了試験(Leaving Certification)の科目として日本語を学習する生

徒が集まる。セカンダリースクール 5、6 年生(16 歳~17 歳)が週 1 回 3 時間、年間 30週間の授業を 2 年間受けて試験に臨む。B さんを除くほぼすべての生徒が日本語の学習経

験がなく、ゼロ初級学習者である。担当教師は日本人教師 A さん(40 代男性)である。

3.2 B さんのプロフィール

日本人の母とアイルランド人の父のもと、日本で生まれた。2 歳でアイルランドに移住。

4 歳で再度日本へ、10 歳でアイルランドに再移住し、以降アイルランドで成長する。調査

時は 19 歳の大学 1 年生で、大学の日本語コースのアシスタントを務めていた。

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3.3 B さんが教室内で果たしていた役割

B さんが教室内で果たしていた役割は主に 3 つある。1 つめは会話や発音のロールモデ

ル、具体的には教師Aさんとモデル会話をする、教科書などのテキストを読み上げるなど。

2 つめはライティングのチェックである。宿題になることの多いひらがなやカタカナ、漢

字を教師 A さんとともにチェックをして回った。3 つめは日本語の文法や日本のライフス

タイル、年中行事などのカルチャーに関して、英語および日本語で説明することである。

3.4 B さんのインタビュー内容とその分析

上記の 3 つの役割をB さんは「とてもためになった」と述べる。ひらがな等のチェック

を通して自己の日本語ライティングを見直し、文法の助詞の説明を級友の前で説明する等

教師 A さんから「特別に」与えられた課題を通して、B さんは自己の日本語の知識をメタ

的に捉え、検証する機会を与えられた。特に文法等は当たり前に使っていて「今まで考え

たこともなかった」ので、授業で説明する前に事前に調べる等の予習を自発的に行った。

また日本の生活や年中行事等今までの生活を通して得た知識を同世代の級友の前で話すこ

と自体が、B さんにとって非常に「チャレンジ」であったと述べる。この日本語コースに

参加する一方、B さんは在籍学校でスペイン語を履修し、スペイン語のディベートに初挑

戦する。その挑戦を B さんは、「それまで人前で話す方じゃなかった」自分がうまくでき

たのは、「日本語のクラスで人前で発表することに自信がついたおかげ」だと分析している。

3.5 分析結果

B さんが調査対象の日本語コースで果たした「仲介者」としての役割は教室内のメンバ

ーそれぞれに何をもたらしたのか。まず教師A さんにとっては教師(自分)以外の、日本

および日本語に対する複数の視点を教室内に持つことができた。B さんにとっては、日本

語学習の面では、既知の日本語に関する知識をメタ的に捉え、主体的に日本語を学ぶ契機

となった。B さんの言語意識面ではその体験は複数言語話者としての自信につながり、そ

の自信は他言語の学習にも転移した。また他の JFL 生徒達にとって同世代の興味を共有す

る仲間から、日本に関する言語・文化的知識を得ることができた。

4 結論

本稿の事例のように、今後アイルランドに限らず、海外の JFL コースに日本語を含む複

数言語話者としての JHL 生徒や学習者が日本語の「再学習者」として参加してくる現象が

増えることが予想される。その際には彼らの日本語の「部分的能力」に着目した「仲介者」

としての役割を最大限生かした授業設計をすることにより、クラス活動は双方にとって有

機的な学びを生む協働となり得る。またクラスにおいて「仲介者」としての役割を与えら

れた JHL 生徒にとっては、その役割は複数言語話者としての自信につながり得るものであ

る。今後海外での継承日本語学習者や彼らを取り巻く言語環境において、彼らの仲介者と

しての役割に注目することは JFL日本語コースの授業実践にも役立つ視点であるといえる。

<参考文献>

吉島茂・大橋理枝・奥聡一郎・松山明子・竹内京子(訳編)(2004)『外国語教育Ⅱ 外国

語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠』朝日出版社.

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日本語学習者はテイナイを使っていないか

―ロシア語母語話者の縦断データから―

菅谷 奈津恵

東北大学

【キーワード】 第二言語習得、縦断研究、テンス、アスペクト、動詞形態素

1 背景

過去の動作を否定する場合、日本語母語話者(JNS)の会話ではナカッタよりもテイナ

イが多く使われるという(江田 2013)。だが、日本語学習者にはテイナイがなかなか使用

できないようである。松田・深川・松本(2011)では、OPI データの分析、質問紙調査、

授業実験と複数のデータを用いて、JNS に比べて学習者のテイナイの使用が少ないことを

報告している。

ただし、これは習得条件によっても異なる可能性があり、第二言語環境の生徒の場合に

は異なる傾向が示されている。小原(2011)の L1 中国語の中学生を対象とした縦断研究

では、ナカッタが全体で 1 例しかなかったのに対し、テイナイは調査開始時より頻繁に使

用されており、のべ数で計 67 例が見られたという。成人の場合もインプットの豊富な環境

で自然習得をする場合には、JNS の使用状況を反映した習得過程を示すかもしれない。

そこで、本研究では自然習得の成人日本語学習者を対象に、テンス・アスペクト形式の

使用状況を縦断的に検討した。

2 調査方法

調査対象者は、ロシア語母語話者の Alla(仮名)である。Alla は配偶者が日本人で、調

査開始前には明示的な文法指導を受けた経験がなく、自然習得をしてきていた。

分析資料は、菅谷(2003)と同一のインタビューデータを用いた。これは約 9 カ月にわ

たる会話資料で、(1)OPI データ 2 回分(調査 1 ヶ月目、7 ヶ月目)、(2)Alla が書いた日

記に関するインタビュー25 回分(1 ヶ月目~9 ヶ月目)からなる。OPIのレベル判定は、1ヶ月目が初級の上、7 ヶ月目が中級の下であった。

表 1:動詞否定形の平均使用数

のべ数 異なり数

語形 常体 敬体 常体 敬体

ナイ 9.3 1.0 4.3 0.7ナカッタ 0.8 0.2 0.6 0.1テイナイ 1.6 0.4 1.3 0.3テイナカッタ 0.1 0 0.1 0

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3 結果とまとめ

インタビューの文字起こしから動詞の否定形を抽出し、語形毎に使用頻度を算出した。

インタビュー毎の平均使用数は表 1 のようになった。表 1 より、Alla はのべ数、異なり数

ともに、ナカッタよりもテイナイのほうを多く使っていることがわかる。また、敬体より

も圧倒的に常体の使用数のほうが多い。

以下の発話例のように、Alla には調査開始時から適切にテイナイが使用されていた。

インタビュー1 回目

インタビュアー:インタビューとか面接をする、そういう経験はありますか?

Alla:まだない。~中略~ わたし、ロシア仕事してない。だからわからない。ほんと。

インタビュー7 回目

インタビュアー:(映画の中で)子どもは、殺されたんですか?

Alla:殺されてない[笑]。食べちゃった。

テイナイはその後も継続的に用いられ、過去の文脈で効果的に用いられていた。また、

上記の例のように、全体に縮約形の「テナイ」が多く使用されていた。

このように、テイナイが適切に使用されていたこと、語形も常体の縮約形が多いことか

ら考え、Alla のテンス・アスペクト形式の習得には、学習環境やインプット頻度が大きく

影響していたと考えられる。学習者がうまく使えない言語項目があった場合、教師がどう

説明すべきかが議論されることが多いようだが、明示的説明が習得につながるかどうかは

議論が分かれる点でもある。本研究は 1 名の学習者を対象とした事例研究であるが、菅谷

(2005)の指摘のように、動詞形態素の習得には暗示的学習の役割が大きい可能性が示唆

される。

付記.本稿は H23-H26 年度科学研究費補助金(課題番号:23520608)を得て実施した研究

の一部である.

<参考文献>

小原貴子(2011)「12 歳で来日した中国語母語話者の来日 10~16 か月のテンス・アスペ

クト表現:テイルに選考するテイナイの習得」『第 22 回第二言語習得研究会全国大会

予稿集』pp.38-43.江田すみれ(2013)『「ている」「ていた」「ていない」のアスペクト:異なるジャンル

のテクストにおける使用状況とその用法』くろしお出版.菅谷奈津恵(2003)「日本語学習者のアスペクト習得に関する縦断研究:『動作の持続』

と『結果の状態』のテイルを中心に」『日本語教育』第 119 号, pp.65-74, 日本語教育学

会.菅谷奈津恵(2005)「日本語のアスペクト習得に関する研究の動向」『言語文化と日本語

教育』2005 年 11 月特集号, pp.39-67, お茶の水女子大学日本言語文化学研究会.松田真希子・深川美帆・山本洋(2011)「『使わなかった』は『使っていない』:堀った

イモを生かす教育文法と授業実験」森篤厚嗣・庵功雄(編)『日本語教育文法のための

多様なアプローチ』ひつじ書房, pp.295-311.

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複言語サポーターにとっての複言語・複文化能力とは

―インタビューから示唆されるもの―

徳井 厚子 信州大学

【キーワード】 複言語サポーター、複言語・複文化能力、インタビュー、地域 1 研究の目的 現在、国境を越え移動する人々の増加とともに、複言語サポーター(本人自身が外国に

ルーツを持ち、文脈に応じて複数の言語を駆使しながら地域や学校で外国人に支援を行っ

ている者と定義する)の役割も重要さを増してきているが、これまであまり光が当てられ

てこなかった。本研究は欧州評議会の提案する「複言語・複文化主義」の「複言語・複文

化能力」に焦点をあて、複言語サポーターがどのような複言語・複文化能力を用いて支援

しているかについてインタビューをもとに考察を行ったものである。当研究では特に複言

語・複文化主義における「言語同士が相互に作用し合い関係を築くという言語間の相互作

用性を重視する」(欧州評議会)面を重視して複言語サポーターという語を用いている。 2 研究の方法 日本国内における複数の地域での 41名の複言語サポーターへのインタビューを行った。インタビューは半構造化で行い、支援の内容、コミュニケーションの仕方、仕事に対する

思い、問題と解決、悩み、周囲との関係等について語ってもらった。当研究ではこれらの

語りをもとに、複言語サポーターがどのような複言語・複文化能力を用いながら役割を果

たしているかについてカテゴリー化した。 3 分析結果 分析の結果、複言語サポーターの用いている複言語・複文化能力のカテゴリーとして以

下が挙げられた。 3.1 文脈や状況に応じて自己の位置づけを変化させる能力 「状況に応じて通訳だけではなく相談も行う」「相談だけではなく説明したり他の機関と

つなげる」のように文脈や状況に応じて自己の位置づけを変化させていた。このように文

脈や状況に応じて自己の位置づけを変化させていく能力が必要ではないかといえる。 3.2 文脈や状況に応じて自己に必要な位置づけを見いだす能力 「日本語の指導で入ったが、給食が食べられるよう支援を自ら見いだして行った」のよ

うに文脈や状況に応じて必要な支援を自ら見いだしながら新たな支援を行っていた。この

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ように文脈や状況に応じて自己に必要な能力を見いだす能力が必要ではないかといえる。 3.3 文脈や状況に応じて複数の言語を使い分けたり調整・融合する能力 「在住ブラジル人に対してはわかりやすくストレートなポルトガル語を使用する」のよ

うに文脈や状況に応じて言語使用を調整しながら支援を行っていた。このように文脈や状

況に応じて言語を使い分けたり調整・融合する能力が必要ではないかといえる。 3.4 当事者間の摩擦を解消する能力 「親と先生の間の文化の違いによる誤解を解消した」のように当事者間の摩擦を解消し

ながら支援を行っていた。このように当事者間の摩擦を解消する能力が必要といえる。 3.5 当事者間や組織間の関係構築を行う能力 「保護者と担任の橋渡しをする」「組織をつなぐ」のように当事者間や組織間の関係構築

を行ないながら支援を行っていた。このように当事者間や組織間の関係構築を行う能力が

必要といえる。 3.6 当事者としての経験を活かす能力 「自ら外国籍児童生徒として育った苦労や経験を活かしたい」のように当事者としての

経験を活かしながら支援を行なっていた。このように当事者としての経験を活かす能力が

必要といえる。 3.7 コミュニケーション能力 「具体的、効果的な説明をする」のようにコミュニケーションを工夫しながら支援を行

っていた。このようにコミュニケーション能力も必要といえる。 3.8 心情的なサポートをする能力 「感情を吐き出させる」のように心情的なサポートをしながら支援を行っていた。この

ように心情的なサポートをしながら支援を行う能力が必要といえる。 3.9 自らの経験を現場に活かす能力 「自分の仕事の体験を現場に活かしたい」のように自らの経験を現場に活かしながら支

援を行っていた。このように自らの仕事の体験を現場に活かす能力が必要といえる。 _________ 注. 当研究はH26-28年度科学研究費(基盤C)(代表 徳井厚子)「複言語サポーターの複言語・複文化能力に関する研究」の研究成果の一部です。 <参考文献> Council of Europe (2001). Common European framework of reference for languages: Learning,

teaching, assessment. Cambridge : Cambridge University Press. 欧州評議会(2004)吉島茂・大橋理枝ほか訳(編)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠』朝日出版社.

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複言語・複文化環境における協働プロジェクト

―日仏の遠隔授業を通して―

林 良子(神戸大学)、国村 千代(レンヌ第一大学)、金田 純平(国立民族学博物館)

【キーワード】 複言語、協働、遠隔授業、CARAP、異文化コミュニケーション

1 はじめに

本稿では、フランス在住の日本語学習者と日本の大学生の間で行われた、インターネッ

トを介した協働プロジェクトの概要と、このプロジェクトを通して異文化間コミュニケー

ション能力がどのように変化したかについて調査した結果について報告する。

2 日仏共同授業の概要

外国の教育機関とインターネットを通じて行なう遠隔授業では、時差、専門分野・興味

の差、語学レベル差、授業期間の差など様々な点が問題となるが、筆者らは過去 3 年にわ

たって実施してきた日仏間の遠隔授業において、共同でプロジェクトワークを行なう「協

働型」授業を運営することで、これらの問題を乗り越えることが可能であることを示して

きた(林ほか, 2013)。遠隔授業では「語学重視型」か「内容重視型」が問題となるが、今

回報告する共同授業においては、使用言語を日本語に限らないで、日仏文化についての共

通課題を遂行することを目標とした。具体的な授業の到達目標は、(1)複文化・複言語環境

における協働プロジェクトの特殊性が把握できるようになる、(2)いろいろな文化に属する

パ-トナ-の価値観を理解し己の行動をそれにあわせ、自分のものの言い方を相手によっ

て変えることができる、(3)遠くにいるパートナーともうまく協働できる、(4)異文化間にあ

る文化の差に目をひらく、とした。

授業に参加したのは、レンヌ第一大学経営大学院日仏コース修士課程学生 10 名と、神

戸大学国際文化学部情報コミュニケーション講座の演習受講者 15 名であった。学生それぞ

れは、自己紹介動画を自作し、授業 Web サイトにアップロードし、その後共同作業を希望

するパートナーを選んだ。レンヌ大の学生 1 名に対し、神戸大の学生を 1 名ないし 2 名を

割り当てて 1 組とし、合計 10 組それぞれが日仏文化比較に関する日仏英語の 3 バージョン

のプレゼンテーションまたは動画作品をつくることを課題とした。

授業終了時には、アンケートの他に、欧州評議会の Pluralistic approaches for languages and cultures のリソースとして公刊されている CARAP(Compétences et ressources)の記述文

(descriptor)を用いて、自分およびパートナーの異文化コミュニケーション能力に関して、

振り返って評価をしてもらった。

3 授業アンケート結果

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ポスター発表

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授業終了時アンケートにおいては、協働プロジェクトにおける使用言語、日本語学習へ

の寄与度、自己評価、パートナーとの意思疎通度、問題が起こった場合の対処法に関して

尋ねた。使用言語は、学習者の日本語習熟度が高いほど日本語、低いほど英語に頼る割合

が多くなっていた。そのため、フランス人学生回答者 9 名のうち 2 名が日本語学習に「全

く有効ではない」、4 名が「あまり有効ではない」、3 名が「どちらとも言えない」と回答し、

日本語学習への貢献度があまり高くない様子がうかがえた。自己評価においては、日仏間

で共通した解答が多く、「パートナーの行動が予測できない」といった異文化行動の理解が

困難であるとの共通認識が双方で見られた。パートナーとの意思疎通度に関しては、平均

でフランス人学生は 87.6%とおおむね好評価な一方で、日本人学生は 65.5%であった。回

答のあった9組中6組で、日本人学生はフランス人学生よりも20%以上低く評価していた。

また、協働作業において問題が生じたときの対処についても、日本人学生の方がより多く

の手段を用いて解決しようとする傾向が見られた。この結果から、コミュニケーションに

対する意識についてフランスと日本で差異があることが指摘できる。

4 異文化コミュニケーション能力の評価

CARAP は、様々な言語・文化学習レベルを対象として、知識(Knowledge)、技能(Skill)、態度(Attitude)の 3 群から構成されるが、総計およそ 500 個という膨大な項目からなるた

め、教育の現場で用いることが容易ではなかった。そこで、英仏独語版および、一部が翻

訳されている日本語版を参考に、残りの項目の日本語版を試作し、遠隔授業の日本人学生

参加者 13 名に、協働作業を行なう際に異文化コミュニケーションの指標として重要度(ビ

リーフ)の高い項目を選んでもらい、同時に自分自身にも当てはまるかどうかについて尋

ねた。その結果、知識面では、「コミュニケーション、文化多様性」、技能面では「異文化

に対する尊重、異文化への順応」、態度面では「言語学習への反省(メタ認知)、自分の文

化を説明する、困ったときに他者に頼るストラテジー」などがビリーフの高い項目として

挙げられ、いずれも自己・他者への興味と知識、および他者に頼んだり頼ったりするコミ

ュニケーション能力が特に重要であるとの判定がなされた。自己評価においては、技能の

群が知識・態度の 2 群よりも有意に低く評価されていた(いずれも p<.05)。

5 異文化コミュニケーション能力の評価

今回の遠隔授業においては、参加者がパートナーを信じ、頼ることの重要性を認識する

機会になったと言える。また、日仏間の意思疎通に対する認識には差があることも明らか

になった。CARAP から協働に関わるビリーフの高い項目を抽出できたため、これらの項

目を用いて異文化コミュニケーション能力の指標として適用できるかについて、さらに今

後検討していく予定である。

<参考文献>

林良子・国村千代・金田純平(2013)「情報発信と協働作業を通した異文化コミュニケーシ

ョン授業―レンヌ第一大学と神戸大学間の遠隔授業報告―」,『国際文化学研究』,第 41号, pp.31-43.

CARAP http://carap.ecml.at/(2014 年 1 月 25 日).

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日本語・日本事情遠隔教育拠点の e ラーニング教材

李 在鎬

筑波大学

【キーワード】e ラーニング、自律学習、教育関係共同利用拠点

1 背景

筑波大学留学生センターは、2010 年 4 月に文部科学省より「教育関係共同利

用拠点」として認定をうけた。拠点名は「日本語・日本事情遠隔教育拠点」で

あり、認定期間は 2010 年 4 月 1 日から 2020 年 3 月 31 日までである。本拠点で

は、日本語教育における様々な課題を e ラーニングで解決することを目指して

おり、共同利用コンテンツとして自立型の日本語学習 e ラーニングを作ってい

る。以下では本拠点で作成中の「筑波日本語 e ラーニング」について紹介する。

2 全体構成

「筑波日本語 e ラーニング」は高等教育機関に所属する留学生を対象として

想定しており、初級日本語を中心に以下の基本コンセプトで開発をしている。

(1) 完全自立コース型の教材とする。

(2) 文型や語彙を積み上げてコースを設計する。

(3) 真正性(Authenticity)を重視し、コミュニケーションの実践に直結する

学習内容とする。

(4) マルチメディアコンテンツにより、学習意欲を高める。

(5) 大学院生・大学生向けのキャンパス・ジャパニーズとしての教材を目指す。

(6) 直接法による教材コンテンツを作成する。

以上のコンセプトに基づき、3 つのセクションによる教材を開発した。第 1セクションは、積み上げ方式で日本語を学習する教材「学ぶ」、第 2 セクション

は、参加者間の交流を通して作文を書く教材「書く」、第 3 セクションは、ウェ

ブ空間上で会話チャットができる教材「話す」である。

本拠点の e ラーニングはユーザー発信型の教材として設計されている点で、

他の e ラーニングとは異なる。というのは、多くの e ラーニングの場合、画面

上に流れてくるコンテンツを見ながら、受動的に学習するタイプが多いが、「筑

波日本語 e ラーニング」は、Flash などのインタラクティブなコンテンツを豊富

に使用しており、サーバと交信しながら双方向的に学習を進めることができる

からである。また、SNS の仕組みを取り入れ、ユーザー同士が音声や文章を使

って交流できる仕組みも実装している。本教材は、日本語を「学ぶ場」として

はもちろんのことであるが、「使う場」としての機能も持っている。「学ぶ場」

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としての機能を重視して設計したのが教材「学ぶ」であり、使う場としての機

能を重視して設計したのが教材「書く」と教材「話す」である。

教材「学ぶ」の学習コンテンツは Unit 単位で構成されている。各 Unit には、

6 前後程度のレッスンが組み込まれている。各レッスンには、一つか二つの学習

項目(主に文法項目)が設定されており、表 1 の構成で作成されている。

表 1.レッスンの構成

No. セクション 概要・学習タイプ

1 モデル 学習項目を含んだ独話または対話が映像およびスクリプトで提示

される。

2 ことば

(単語リスト)レッスン全体の単語や表現が提示される。日本語のほかに選択媒介

語(英・中・韓)による翻訳が付く。

3 ポイント 教師のアバターが学習項目を直接教授法で導入する。

4 練習 1 フォーム・文型の練習である。

5 練習 2 機能の練習である。

6 練習 3 応用練習で会話のシミュレーション・タスクである。

7 テスト 学習目標の理解を確認する。得点は学習履歴に登録される。

8 解説 1 学習者向けの学習項目の解説である。選択媒介語(英・中・韓)の

翻訳が付く。

9 解説 2 教師向けの学習項目の解説である。

一つのレッスンのおおよその学習時間は 45 分程度を想定しているが、学習の

初期段階では、1 時間前後かかる場合もある。

次に、教材「書く」と「話す」について述べる。教材「書く」はユーザー同

士が相互交流しながら作文を執筆していくことを支援するシステムである。ユ

ーザーが作文を投稿するとほかの参加者にもそれが表示され、コメントをつけ

ることができる。最後に教材「話す」を使うことで、ユーザー同士がウェブ上

の仮想空間において日本語会話ができる。学習者は自分のアバターをカスタマ

イズし、Unit 単位の仮想空間に参加し、ほかの参加者と音声チャットができる

のである。

<参考 URL>

筑波日本語 e ラーニング:http://e-nihongo.tsukuba.ac.jp/(2014 年 10 月 1 日)

日本語・日本事情遠隔教育拠点事業:http://www.intersc.tsukuba.ac.jp/~kyoten/(2014 年 10 月 1 日)

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ポスター発表

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オーディオビジュアル翻訳活動の試み

仁科 陽江

ボン大学/エアフルト大学

【キーワード】 翻訳、映画、場面シラバス、複数レベル、クラス活動

1 導入

日本語教育もグローバル化し、教材や教師会を世界で共有できる昨今であるが、総合的

な日本語運用能力を語るとき、翻訳については論議が十分にされていない。翻訳や通訳は

日本国外での日本語関係者には避けられず、ヨーロッパの日本語教育機関で翻訳を授業と

して取り入れているところは多い。にもかかわらず、体系的な教科書や教授法に欠けるの

が現状である。

オーディオビジュアル翻訳というのは、映像に合わせて語られる言葉を翻訳して字幕や

吹き替えの形で再生するものである。映画のシーンと同時に視聴者が読んだり聞いたりで

きるように、スピードや分量なども考慮して訳さなければならない。教育実践においては、

日本語未習者から上級までの複数のレベルにおいてアニメ作品の翻訳活動を行い、日本語

教育における意義を探った。

2 実践内容

オーディオビジュアル翻訳を取り入れた四つの授業を紹介する。それぞれの実践におけ

る学習者のレベル、扱った映画、課題、活動内容は表 1 の通りである。

実践例 1 は翻訳コースを専攻する大学院生が対象で、未公開の日本語アニメ作品は制作

会社からの委託であった。字幕作成には無料のソフトウェア aegisub3.0.2 を使用し、学習者

がドイツ語訳を入力した。学習者は日本語表現やそれに相当するドイツ語表現を考える際、

単語や文型からなる文としてよりも、発話全体を把握して翻訳しようとした。そこでは文

脈・前後の状況に合わせて、その場に応じた語用論的理解や機能翻訳志向が顕著であった。

実践例 2 から 4 では、DVD も市販されている「千と千尋の神隠し」を扱った。実践例 2では日本語のスクリプトをまず自分たちでドイツ語に訳し、言語情報だけでは訳せない部

分を映像で確認するという作業を行った。たとえば「あの隅の家」というときの「隅」の

訳語は、「奥」なのか「端」なのか、実際にどのように家が位置しているのかわからないと

独訳できない。また、既存の翻訳字幕と批判的に比較する作業を行った際、字幕が内容的

に縮められていることが多いことを発見した。さらに、同じ映像に対して、二言語間で異

なる表現が用いられている場合を吟味した。たとえば、日本語の「トンネルだ」をドイツ

語で「これ以上行けない」とか、「モルタル製か」を「きちんと塗装されている」などとい

うふうに、日本語では描写的だが、ドイツ語では映像の描写よりも登場人物による解釈や

説明を言語化する傾向があることがわかった。文化的な背景や思考形態の違いが表現の違

いとなって表れているといってよいのであろう。

実践例 3 では、冒頭部分のセリフが始まってから 2 分 30 秒ほどの部分のドイツ語版を作

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ポスター発表

282

成した。初級の学習者にとって、映画で耳にする日本語は教科書(この場合は「みんなの

日本語」)で習った日本語とは全く異なり、省略も多い話し言葉なので、その理解は容易で

はない。スクリプトの読解においても、たとえば推測を表す否定表現「~じゃない」など、

まったく別の意味にとりかねないこともあるが、場面の文脈と音声的特徴が決め手になっ

た。登場人物の心理や行動様式なども議論になり、異文化理解の契機となった。また、こ

のグループを実践例 4 の未習者のグループと部分的に活動を共にさせると、自分たちが初

級でありながらも日本語の文字が読めて理解できることを認識し、未習者グループに教え

るという行為を通して、自信や喜びを得た。

実践例 4 は、日本語の知識がなくてもほとんどのアニメファンが原語で視聴していると

いう状況を鑑み、アニメや日本に関心の高い日本語未習者を対象にした。同級生から日本

語についての説明を受け、日本人ビジターからも励まされて、日本語に対するハードルが

低くなった。登場人物を真似て、生き生きと楽しく発音練習ができた。

3 まとめ

オーディオビジュアル翻訳活動においては、映画のストーリーを場面シラバスや機能シ

ラバスとして応用でき、映像音声情報は日本語表現の理解や解釈のためにも有用であった。

また、映画を楽しく鑑賞しながら、異文化を考えることもできた。日本語未習者も活動に

取り入れたことは、未習者の日本語学習動機を高めたのみならず、共に活動した初級学習

者にも好影響を与えた。上級の大学院生にとっては、実際に字幕作成ソフトを使用する作

業は職業意識を高める機会になった。学習者のレベルに応じて、楽しく積極的に日本語に

関わることのできる行動志向の言語学習活動であった。

表 1 オーディオビジュアル翻訳活動実践例

実践例 1 実践例 2 実践例 3 実践例 4レ

上級(大学院修士課

程翻訳コース1年次)

上級(大学院修士課

程翻訳コース1年次)

初級(全学対象日本

語選択必修クラス)

日本語未習者(全学対

象一般教養科目「日本

事情」受講者)

未公開の日本語アニ

市販されている日本

語アニメ

市販されている日本

語アニメ

市販されている日本語

アニメ

字幕作成ソフトウェ

アでドイツ語字幕を

入力

DVDの既存のドイツ

語字幕を評価

2 分 30 秒ほどの部分

のドイツ語版作成

日本語の声優になる。

映像を見ながら聴解

及び台本の購読。グ

ループでディスカッ

ションしながらドイ

ツ語字幕を入力。

まず自分たちでスク

リプトをドイツ語に

訳して、DVD の字幕

と比べる。全体でデ

ィスカッション。

グループで日本語ス

クリプトの読解。未

習者グループに読み

方や意味を説明。他

のグループのドイツ

語訳と比較検討し

て、決定版を作る。

映像だけを見て、母語

で台本を書く。日本語

の意味を知り、日本語

らしい発音を試みる。

初級学習者や日本人ビ

ジターと一緒にグルー

プ活動。

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ポスター発表

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言語と文化の媒介物としての教科書

伊藤 誓子(慶応義塾大学非常勤講師)

保坂 敏子 (日本大学)

【キーワード】 初級教科書、非母語話者、異文化認識、調査

1 背景と目的

言語と文化は切り離すことができないことを前提に、文法や表現を習得することを目的

とする教科書も無意識に文化を伝えていると考える立場から、そのような特徴を効果的に

生かした教育活動を行うために、教科書の分析と考察を進めている。これまで初級教科書

を対象に「習慣・慣習」、「所産・産物」、「文化的な語彙」について母語話者の視点から分

析を行った。本発表では、非母語話者に対し、初級教科書本文の語句、表現、話題、談話

構成及びイラストについて、日本的な要素を持つと考える事柄の取り出し調査を行い、日

本以外の社会・文化的背景を持つ者の異文化認識の傾向をみることにした。

2 研究方法

対象とする教科書は、『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)と『テーマで学ぶ

基礎日本語(NEJ)』(くろしお)である。前者は、文法積み上げ式で、長く広く使われて

おり、後者は、バフチンの発話の言語学を基盤にした 2012 年に出版された教科書で、異な

るタイプの初級教科書である。この2教科書について、非母語話者(ドイツ、中国、韓国、

ミャンマー各 1 名)が日本的な要素を持つと考える事柄を抽出する作業を、本文への書き

込みによる調査と各人へのインタビューを通じて行った。

2.1 調査の分析枠と調査によるコメントの例

具体的には、以下の分析枠で調査を行った。

<本文> ①このことば・表現はない(翻訳できない)②ことばはあるが、このような場

面では使わない・このように言わない(ことばの practice)③このようなことは

しない(行動の practice)④このようなものはない(所産 products)<イラスト> ⑤自分の国もある(する)が違う⑥自分の国にはない

調査の方法は、会話や独白の談話及びイラストについて非母語話者が異文化であると思

うことを記述する。その後、記述内容についての説明、確認のため、各自へインタビュー

するという2段階の調査を行った。以下に非母語話者が書き入れたコメントの抜粋を示す。

『みんなの日本語』の会話へのコメント例: ①「行ってらっしゃい」⇒ 言わない。(ミ

ャンマー) ②「ミラーさんが東京へ行ったら寂しくなりますね」⇒「ミラーさんと離れ

たくない」のほうが理解しやすい。(中国)

『NEJ』の本文へのコメント例: ①「授業は 8 時 50 分に始まります」⇒ もっと早い。

8:00 くらいに始まる。(ドイツ、中国) 9:00 に始まる学校が多い。(ミャンマー) ②「ふ

つうは、トーストを食べます。」⇒ 殆どの人は家で食べない。お店のものだ。(中国)〔自

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ポスター発表

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分の〕国にはあまりなく、食べる人は少ない。(ミャンマー)

3 分析結果と考察

各教科書の①~④の分類別集計を示す。

図 1『みんなの日本語』の分類別集計 図 2『NEJ』の分類別集計

『みん日』の特徴:場面や相手に合わせての言葉遣いに典型があり、翻訳すると不自然で

日本らしいといった内容の指摘が多い。イラストには、身ぶりや使用物に違いを見ている。

『NEJ』の特徴:テキストに埋め込まれている日常的な行動様式の違いに関する指摘が多

い。日常生活で見かける「もの」の違いが大きいと感じる人もいる。

4 考察と今後の課題

『みん日』では、社会、日常で想定される典型的な挨拶や応答表現、イラストの身ぶり、

服装に日本人らしさを、一方、『NEJ』では、個人の「語り」に表れる日常的行動様式、生

活様式に日本社会・文化的要素を見出していることがわかった。本結果から、『みん日』で

は状況や相手による言葉遣いやアクションについての意見交換、また『NEJ』においては、

テキストから社会・文化的要素を読み取り、その解釈を相互交換させて、自分の「語り」

につなぐといったクラス活動が考えられ、今後、異文化理解教育の具体的提案へと結びつ

けられるよう、研究を進めたい。

<参考文献>

池田幸弘・伊藤誓子・保坂敏子(2011)「初級教科書に見られる「日本」の文化的側面の分

析-教科書のさらなる活用を目指して」,『2011 年日本語教育学会研究集会第 10 回中国

地区予稿集』, pp.31-35, 日本語教育学会.伊藤誓子・保坂敏子・池田幸弘(2012)「初級教科書に埋め込まれた文化-文化的「所産・

産物」の分析の試み-」,『2012 日本語教育国際研究大会予稿集第一分冊(ポスター発表)』,p.298,日本語教育学会.

伊藤誓子・保坂敏子(2013)「初級教科書における文化的要素の扱われ方の違い-名詞的語

彙に着目して-」『2013AJE 報告・発表論文集』, pp.257-258, ヨーロッパ教師会.門倉正美(2011)「日本における初級教科書の日本文化理解-登場人物、場面、視点から見

る-」2011 世界日本語教育研究大会「日本語教育グローバルネットワーク代表シンポジ

ウム②」, パネルディスカッションスライドより.

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ポスター発表

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工学系研究科日本語教室 CDSの実践報告

―海外協定校との共通の評価基準の枠組みを目指して―

古市 由美子、伊藤 夏実

東京大学大学院工学系研究科日本語教室

要旨

本研究は、海外協定校との日本語能力評価の共有を目指し、「工学系日本語教室Can-do statements(以下、工学系 CDS と表す)」を作成し、実施している。この工学系 CDS が

CEFR と JF スタンダードに対応しているのか、その有効性を検証し、プレイスメントとし

て機能するのかを調査した。その結果、レベルと内容の精緻化を図ること、さらに、工学

系 CDS の意義と目的をオンライン上で詳細に説明すること、また熟達度評価としての工学

系 CDS と到達度テストとを組み合わせることで客観性を高め、プレイスメントの改善を図

る必要性が示唆された。

【キーワード】自己評価、プレイスメント、オンライン、e ポートフォリオ、工学系 CDS

1 研究背景と目的

本工学系日本語教室では、日本語学習者が学習目標の設定と自己能力評価を簡便に行い、

自らの学習を管理する自律的な学習環境の構築を目指している。2005 年に学習目標チャー

トを作成した。欧州の協定校からの交換留学生の増加に伴い、2008 年に CEFR の枠組みを

参照した工学系 CDS を作成し、その結果をプレイスメントに用いた。2010 年に工学系 CDSをオンライン化し、2013年にeポートフォリオ化した。これにより自己評価が可視化でき、

自律的な学習環境の礎を築いた。

海外協定校との日本語能力評価の共有を目指し、本研究では、工学系 CDS が CEFR と

JF スタンダードに対応しているのか、その有効性を検証した上でプレイスメントとして機

能するのかを調査する。

2 研究課題と分析方法

第一に、工学系 CDS の妥当性を調査するために、CEFR 共通参照レベル自己評価と JFスタンダード日本語能力試験 Can-do 自己評価リストを用いてレベルと内容項目をスキル

別に比較する。第二に、工学系 CDS がプレイスメントとして有効かを工学系 CDS のレベ

ル別・技能別平均値、コース別学習者のレベル評価、授業アンケートを用いて調査する。

3 結果

工学系 CDS と CEFR、JF スタンダードを比較した結果、CEFR は「読む」「書く」技能

においてレベルの異なりがあるが、内容は対応していることが分かった。JF スタンダード

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ポスター発表

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は四技能においてレベルに異なりがみられ、内容はそれぞれ具体的な文脈設定があるため、

対応していないものがあることがわかった。

次に、工学系 CDS のコース別平均値は、レベルに比例している。「読む」は中級 3・上

級レベルで他の技能と比べ平均値が高いのに対し、「書く」は相対的に低い(図 1 参照)。

また、教師が学習者個々人の日本語レベルを評価した結果、「コースに適正なレベルであ

る」が 85%、「コースの想定より学習者のレベルが高い」4%、「コースの想定より学習

者のレベルがやや低い」11%で、とプレイスメントが概ね妥当であることが分かった。

最後に工学系CDS によって適切なコース選択ができたか、という問いに対して初級は

92%以上の学習者が肯定的であった。一方、中上級レベルの学習者は 60%が肯定的で、プ

レイスメントへの信頼度がやや低いことがわかった。その理由として、自己評価の限界、

工学系 CDS の目的や意義が不明確、オンラインシステムで実施することの問題点などが挙

げられる。

4 今後の課題

今後は、「読む」「書く」に関

するレベルと内容、およびレベル

判定の設定数値を見直し、工学系

CDS の精緻化を図る。次に、工学

系 CDS の意義と目的をオンライ

ン上で詳細に説明し、自己評価の

信頼性と妥当性を高めること、さ

らに、熟達度評価としての工学系

CDS と到達度テストとを組み合

わせることで客観性を高め、プレ

イスメントの改善を図る。

図 1 工学系CDS のレベル別・技能別平均値

<参考文献>

古市由美子・菅谷有子・岩崎夕子・山崎佳子(2007)「学習目標チャート Target Skill Chartを用いた自己評価による意識化-工学系大学院生を対象として-」, 『小出記念日本語

教育研究会 論文集』, 15, pp.71-85, 小出記念日本語教育研究会.古市由美子・菅谷有子・岩崎夕子・山崎佳子(2008)「工学系Can-do-statements の開発と

実践-日本語能力評価基準の構築をめざして-」, 『二十一世紀における北東アジアの

日本研究論文集』, pp. 349-356, 北京日本学センター.島田めぐみ(2010)「自己評価 Can-do statements に関する一考察:客観テストとの比較を

通して」, 『東京学芸大学紀要総合教育科学系』, 61(2), pp. 267-277, 東京学芸大学.

上級

中 3

中 2

中 1

初 2

初 1

聞く 話す 読む 書く

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アカデミック日本語 Can-do 記述文を用いた学習者の自己評価の分析

―日本語レベルと技能の関連性から―

鈴木美加 藤森弘子

東京外国語大学 留学生日本語教育センター

【キーワード】 Can-do 記述、自己評価、アカデミック・ジャパニーズ

1 研究の背景:Can-do リストによる目標記述とその分析

CEFR の世界各国への広がりと CEFR の理念・指標に基づいた国際交流基金の「JF 日本

語教育スタンダード 2010」の開発・普及推進により、両者で示される Can-do 記述が各機

関の日本語教育のコース運営に活用されるようになっている。また、学習・教育目的に合

わせた Can-do リストの作成も望まれ、東京外国語大学全学日本語プログラムにおいては、

大学教育で必要となる日本語の言語要素の知識、その運用の能力をつけるとともに、問題

の発見・分析・解決、さらにアカデミック・インターアクションの遂行も含む大学教育で

求められる能力を「アカデミックな日本語能力」とし、その教育の目標を記述した「全学

日本語 Can-do リスト」(2012)を開発、機関内で活用し、現在改訂の途上にある。

本発表は、「全学日本語 Can-do リスト」の概要を示し、その妥当性の検証の一環として

の学習者による Can-do 自己評価の結果及びその分析に関して述べたものである。

2 「全学日本語 Can-do リスト」

「全学日本語 Can-do リスト」では、初級から上級(超級)まで全 8 レベルの Can-do 項

目が技能別に示され、①レベル共通の目標+②Can-do 目標+③Can-do 目標細目、の 3 種の

Can-do により構成される。以下、例を挙げる。

<読解>

初級前半・ごく身近な文章(例 日記や旅行記(200~300 字))を読み、いつ、どこで、

だれが、何をしたか(4W)を挙げられる(細目)

中級 1 ・身近なトピックの文章や社会に関するテーマをある程度語彙のコントロールを

して書かれた文章(500~600 字程度)を流れに沿って読み、その文章のポイン

トを挙げることができる(目標)

上級 1 ・必要な情報を得るために、書名・目次・見出しなどから読むべき資料を探すこ

とができる(細目)

<口頭表現>

初級前半・人や物の様子、形状などについて簡単な説明ができる(細目)

中級 1 ・わかりやすい例を挙げて説明できる(細目)

・「それはそうですが」「確かにそうですが」といった表現を使って、自分とは異な

る意見を一度受け止めた上で、自分の意見や考えを述べることができる(細目)

上級 2 ・専門性のある情報を整理して、内容をかみくだいて話せる(細目)

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ポスター発表

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3 学習者による Can-do リストの自己評価とその結果・分析

Can-do 項目の記述の明確さ、項目の妥当性を調べる目的で、学習者による Can-do 自己

評価を学期開始期と終了期に行うこととし、回答結果の異なりを調べ、その特徴を分析し

た。対象者は、2013 年春学期あるいは秋学期のプログラム受講者 177 名で、各学習者は自

らの日本語レベルの Can-do 項目及び、隣接する前後のレベルのCan-do 項目(合計約 70~100 項目)について、「できる」かどうかを4段階で自己評価した。その後、得られた自己

評価結果をデータ化し、学期開始期と終了期

の結果について、①時期による自己評価値の

異なり、②レベル間の評価値の異なり、につ

いて分析を行った。

結果の分析から、①学期開始期と終了期で、

終了期のほうが自己評価値が高い項目がほと

んどである、つまり、学期の間に学習者自身

が日本語のレベルが上がり、できたと認識す

る割合が高くなること、②ほとんどの項目で、

レベルが上がるごとに評価値が上がっている、

つまり、各レベルの記述は、該当レベルと隣接するレベルの差をほぼ明示できていること、

という結果から、初級から上級(超級)の Can-do 記述のレベル設定は、概ね妥当であるが、

一部、確認・検討が必要であると言える。また、自己評価値の上昇の程度は、レベル・技

能により異なり、初級(100 レベル)の口頭表現初級前半・後半項目ともに、終了期に大

きな伸びが見られるが、中~上級では伸びの上昇が大きくなくなっていることがわかる。

4 考察・今後の課題

今回の調査から全学日本語 Can-do リストは全体として、日本語レベル、学期開始期と終

了期の伸びが反映される記述になっているといえるが、一部確認・修正が必要であると考

える。Can-do 項目の詳細な分析を行い、レベル及び日本語面の伸びをより反映した記述に

することが課題である。

<参考文献>

国際交流基金(2010)『JF 日本語教育スタンダード 2010』国際交流基金.鈴木美加・藤森弘子・藤村知子・鈴木智美・中村彰・坂本惠・花薗悟・伊集院郁子(2012)「日本語学習における目標記述をめぐって-全学日本語プログラムの Can-do リスト作

成に向けて-」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』38, pp. 155-166.鈴木美加・藤森弘子・藤村知子・鈴木智美・中村彰・花薗悟・伊集院郁子(2013)「大学教

育における日本語コースの Can-do 設定-日本語の技能を言語知識や態度と結びつけた

記述の試み-」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』39, pp. 65-82.吉島茂・大橋理枝訳・編(2008)『外国語教育 II-外国語の学習、教授、評価のためのヨー

ロッパ共通参照枠-』初版第 2 版、朝日出版社.

図1 初級学習者のCan-do自己評価平均値

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CEFR 準拠教科書『DEKIRU』使用下での

異文化間コミュニケーション能力育成のための取り組み

三森 優

ブダペスト日本文化センター(ソフィア大学)

【キーワード】 『DEKIRU』、異文化間コミュニケーション能力の育成

1 『DEKIRU』教科書の理念と内容

現在、ハンガリーでは「日本・ハンガリー協力フォーラム」の下、国際交流基金ブダペ

スト日本文化センター主導で作成されたCEFR 準拠教材『DEKIRU』1が使用され始めてい

る。教材作成の中心となった佐藤らは、本教材の理念として「日本語教育の目的を、「こと

ば」の能力に加え、日本語や日本文化の知識能力を駆使し、異文化環境において異なる社

会文化的背景を持つ人間が相互に対話を続けていくために必要な意欲と寛容、知識と技能

を育成する」と述べており(佐藤・セーカーチ 2009)、異なる文化を持つ人間同士が対話

するための能力育成が、本教材を使用するものにとって重要な課題となっている。本稿で

は、この教科書を用いながら日本語コースを運営する上で、上記のような能力育成のため

にはどのような注意が必要であるかを述べる。

『DEKIRU』教材の各課の構成は、まず冒頭に能力記述文があり、さらに「異文化クイ

ズ」、モデルテキスト、文法練習、Can-Do タスク、お持ち帰りタスク、カレイドスコウプ、

文化コラムとなっている。これらの項目には、異文化間コミュニケーション能力育成のた

めの様々な要素もちりばめられている。本稿では特に文化面を扱っている項目をどのよう

に授業で扱うかを取り上げる。

2 ブダペスト日本文化センターにおける『DEKIRU』教科書使用実践経緯

国際交流基金ブダペスト日本文化センター日本語講座(以下、日本語講座)では、2010-2011 年度より『DEKIRU』教科書を使用している。使用を開始した 2010-2011 年度は依

然教科書作成状態であり、2011 年 9 月の出版までは原稿を試用版として使用し、その授業

実践蓄積を図った。2011-2012 年度は 9 月に出版された『DEKIRU 1』を平仮名・片仮名

既習の入門クラス、さらに 1 年間『みんなの日本語 初級Ⅰ』で学んだクラスと 1 年間

『DEKIRU 1』で学んだクラスで使用した。教科書の課は、それぞれ入門は 1 課から、1 年

間学んだクラスは 13 課から使用した。これに加え、未だ出版されていなかった『DEKIRU 2』の原稿を試用版として『みんなの日本語 初級Ⅱ』修了以上のレベルの初中級クラスで

使用した。2012-2013 年度からは、2012 年 9 月に『DEKIRU 2』が出版されたため、晴れ

て製本された『DEKIRU』の 1、2 の教科書の使用を始めることになった。

『DEKIRU』の教科書は、1 冊目が 24 課まで、2 冊目が 48 課までと、各 24 課全 48 課の

構成になっている。日本語講座では、1 年で 12 課ずつ進む進度を設定し、4 年で 2 冊を終

える進度となっている。そのため、試用時から数え 2013-2014 年度を終えた段階で初めて、

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ポスター発表

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1 冊目と 2 冊目の全てを使って日本語を学んだ受講生を輩出することになった。

3 異文化間コミュニケーションを意識した授業

「1」で述べたが、教科書では異文化間コミュニケーション能力育成のための様々な要素

がちりばめられている。特に各課冒頭にある「異文化クイズ」や各課終わりのカレイドス

コウプ、4 課毎にある文化コラムはまさに「異文化」として日本文化を学ぶことが意識さ

れている。しかしながら、これらの要素を無自覚に授業で用いていては、異文化間コミュ

ニケーション能力の育成にはつながらない。

松浦らが述べているように(松浦・宮崎・福島 2012)、この教科書は「知識」、「比較」、

「態度」へと、段階的に異文化間コミュニケーション能力が育成できるよう意図されて作

成されている。そのため、この教科書を用いながら異文化間コミュニケーションの育成を

目指すには、これら三つの要素を意識的に授業で養えるように指導しなければならない。

しかし、教科書ではこれらの意図が明示されているわけではないため、単に教科書を見た

だけでは、教師は「知識」を与えることに終始してしまいがちである。

さらに教科書第 45 課は、佐藤らがこの教科書の独自性を強調した(佐藤・セーカーチ・

キシュ 2012)「誤解」という文化の相違による場面の提示、及びその解決方法の検討の課

となっている。単に日本の文化的な「知識」だけを与えられているだけでは、この第 45課を有効に学び得ない。そのため、JFBP 日本語講座では 1 冊目の段階から、日本文化のみ

ならず自分化を相対的に内省できるよう、教科書の各要素を扱う際には可能な限り学習者

に日本文化とハンガリー文化の類似点と相違点を学習者に意識化させ、そこから自文化を

振り返るよう授業を進めた。

日本語講座ではポートフォリオも利用した。ポートフォリオには、上記の指導とともに

「どのようなことに気づいたか」、「どう思ったか」等の点を学習者に書き込ませた。これ

らを各テスト時に振り返り、クラスで話し合う時間を設けた。これにより、自他文化を意

識化させ、単なる知識にとどまらないようなコース運営を行った。

注.1『DEKIRU』教科書は日本語で『できる』とも表記されているが(1 冊目、2 冊目とも)、本稿で

はローマ字表記を採用した。

<参考文献>

佐藤紀子・セーカーチ=アンナ(2009)「CEFR に基づく日本語教科書とは?-対話に基づく

異文化間コミュニケーション能力を養う日本語教育を目指して-」『第 13 回ヨーロッ

パ日本語教育シンポジウム報告・発表論文集』, pp.211-218, ヨーロッパ日本語教師会.佐藤紀子・セーカーチ=アンナ・キシュ=シャーンドルネー(2012)「日本語教科書『でき

る 1・2』-その通時的・共時的位置-」,『日本・ハンガリー協力フォーラム日本語教育

シンポジウム「日本・ハンガリー協力フォーラム事業の総括とハンガリーの日本語教育

のこれから」実施報告書』, pp.81-98, 国際交流基金ブダペスト日本文化センター.松浦依子・宮崎玲子・福島青史(2012)「異文化間コミュニケーション能力のための教育

とその教材化について―ハンガリーの日本語教育教科書『できる』作成を例として―」

, 『日本語教育紀要』第 8 号, pp.87-101, 国際交流基金.

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ポスター発表

291

日本語会話能力試験の開発 1

―大規模外国語能力試験が対象にしている口頭能力の比較―

由井 紀久子(京都外国語大学)、鎌田 修(南山大学)、嶋田 和子(アクラス日本語教

育研究所)、野山 広(国立国語研究所)、西川 寛之(明海大学)

要旨

本稿は、現在開発中の会話能力試験の基礎的な調査として行った、大規模外国語能力試

験に付随する口頭能力試験の特徴を抽出し、会話能力試験のありかたを示すものである。

特徴を検討し、会話試験の開発の一助とした。

【キーワード】 会話能力、大規模外国語能力試験、基準作成

1 はじめに

本稿は、科学研究費の助成を受け現在開発中の「日本語会話能力試験(仮称)」の基盤と

する研究として、大規模レベルで実施される外国語能力試験の多くが付随させている口頭

能力試験-TOEFL 等の英語、ドイツ語やスペイン語等の検定試験-を対象に調査し、それ

らが何をもって会話能力と称し、どのような基準、どのようなテスト法で評価を行ってい

るかを比較検討するものである。その結果を参照し、新たな会話能力試験の試案の大枠を

提示したい。

筆者達は、ACTFL-OPI に関わりが深いが、いったん OPI を相対化し、より望ましい会

話能力試験のあり方を提案する。したがって、本プロジェクトが目指している会話能力試

験はプロフィシェンシーの概念に基づきはするが、JF 日本語教育スタンダード、さらに、

その基になっている CEFR と同じ Can-Do ラインにあり、いまだ会話能力テストを持たな

い現行の日本語能力試験などとの補完性を持つものことを目指している。

2 現行の外国語能力試験に付随する口頭能力試験の特徴

調査した外国語能力試験に付随する口頭能力試験の結果は、紙幅の関係上ここには掲載

できないので、本プロジェクト「JOPT」のサイトを参照されたい。

URL:http://jopt.jpn.org/index.html大半の現行の外国語能力試験は次のように特徴付けることができる。①対象とする能力

の捉え方:当該の言語のチャンネル、技能、言語活動の種類に応じて、口頭能力、話す力、

会話能力等々になる。②試験時間は 20 分程度のものが多い。③評価基準:類似の傾向、す

なわち、自分領域から社会領域へ、具体から抽象へ、描写から議論へという難易度に基づ

く傾向がみられる。また、CEFR の枠組みを意識したものが多い一方、独自の項目、基準

を提示しているものもある。④試験方式として抽出できる特徴に、「即時性(即時対応/準

備時間付)」、「聞き手の役割(対話型/語り型)」、「応答性(聞く力の扱い)」「情報取得」

等が顕著。⑤面接官の人数も 1 名、2 名等があり、受験者もグループとなることがある。

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ポスター発表

292

構成概念をさらに検討の上、より望ましい形の会話能力テストの作成を目指している。

3 会話能力試験の試案

上で見た口頭能力試験においては、朗読や語りなどの形式もあったが、本プロジェクト

では、対面式の特性を生かすことを考えている。しかし、OPI でいう突き上げは試験官養

成に時間を要することから、比較的単純な質疑応答形式で即時的な対応能力を含めて測る

予定である。また、初めから受験者をレベル別に受験させるのではなく、複数のタスクを

順に課すことによってレベルを認定する予定である。表 1 は、現在開発中の会話能力試験

の案である。受験者はアカデミック(A)領域、ビジネス(B)領域、コミュニティ(C)領域を選

択して受験することになる。STEP1 から STEP3 へと話題や質問内容を変えながら対話を進

めていき、産出された日本語をレベル判定する。

表 1 開発中の会話能力試験(案)

想定受験者

測定する能力 テスト形式

全体 STEP1 STEP2 STEP3 全体 STEP1 STEP2 STEP3

学生

アカデミック

場面におけ

る機能的運

用能力。

自分描写(自分

が置かれている

アカデミック環境

についての説

明;大学など)

事実説明(授

業・研究関係

などの説明)

意見述べ

(根拠述べ

や反論な

ど)

対 面

式,

15分

自分に

ついて

語る

グラフなどを

見ながら事

実を述べる

グラフなどを

見ながら自

分の意見を

述べる

ビジ

ネス

パー

ソン

ビジネス場

面における

機能的運用

能力

自分描写(自分

が置かれている

ビジネス環境に

ついての説明;

会社など)

事実説明(商

慣習につい

ての説明)

意見述べ

(依頼や交

渉など)

対 面

式,

15分

自分に

ついて

語る

グラフ+写

真を見なが

ら事実や手

続きについ

て述べる

グラフ+写

真を見なが

ら意見を述

べる

定住

生活場面に

おける機能

的運用能力

自分描写(自分

が置かれている

生活環境につい

ての説明)

事実説明(生

活関連の手

続きなどの

説明)

意見述べ

(誘いや助

言など)

対 面

式,

15分

自分に

ついて

語る

生活の身近

な題材の写

真を見なが

ら事実を描

生活の身近

な題材の写

真を見なが

ら意見を述

べる

4 今後の課題-まとめにかえて-

今後、さらに試行を重ねて試験の精度を上げていくが、評価基準や評価者のありかたに

ついて検討を重ねていき、試験官養成がしやすくかつ有用な会話能力試験にしていきたい。

注.1本稿は、科研費(課題名「日本語会話能力テストの研究と開発-国内外の教育環境及び多文化地

域社会を対象に-」代表者:鎌田修)による研究プロジェクトの成果の一部である。研究分担者

は本稿の執筆者のほかに、伊東祐郎、坂本正、野口裕之、李在鎬、六川雅彦で構成されている

<参考文献>Erwin Tschirner (ed.) (2012) Aligning Frameworks of Reference in Language Testing: The ACTFL

Proficiency Guidelines and the Common European Framework of Reference for Languages. Stauffenburg Verlag.

近藤ブラウン妃美(2012)『日本語教師のための評価入門』くろしお出版.野口裕之・大隅敦子(2014)『テスティングの基礎理論』研究社.

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ポスター発表

293

キャラ語尾と翻訳

―『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

における「-です」を例に―

朽方 修一 (エルジェス大学)

新實 葉子 (名古屋大学)

【キーワード】 キャラ語尾、「-です」、翻訳

1 はじめに

本研究は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に現れるキャラ語尾「-です」

が、どう英語に翻訳されているか調査し、英訳においてもキャラクターを考慮した翻訳が

見られることを指摘する。英訳では必ずしもキャラ語尾「-です」に対応した翻訳がなされ

ているわけではないが、「非標準的つづり」や「引き算式」(山口 2007 pp.12-16)、といった

方法によりキャラクターを際立たせている翻訳が見受けられ、これはキャラ語尾翻訳の一

例としてみなすことができる。本研究は翻訳実践や翻訳教育へ応用するための基礎研究と

位置付けられる。

2 先行研究

まず、「キャラ語尾」だが、これは金水(2003 p.188)に「特定のキャラクターに与えられ

た語尾」と定義されている。本研究でもこの定義に従い使用する。川瀬(2010)はキャラ語

尾としての「-です」の特徴を総合的に考察した研究であるが、他言語での翻訳において「-です」がどう表わされるかについては扱われていない。山口(2007)は英語の役割語の研究

であり、その特徴として「視覚表現と非標準的つづり」「ピジン英語と「引き算式」マーキ

ング」「人称という名のオプション」「幼児語と擬音語」の 4 つを挙げている(同 pp.12-21)。本研究の結果でも英訳において「非標準的つづり」「引き算式」といった特徴が確認できた。

3 研究の対象

村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』から、老博士が用いる語尾

「-です」に注目した。そして、「迎えにきたです」(=(1a))のように動詞に「-です」が後続

する文法的に特殊な表現をキャラ語尾「-です」と位置付け(川瀬 2010)、考察対象とし、そ

の英訳と比較した。キャラ語尾「-です」は全部で 134 例見られ、そのうち 43 例が「-おる

です」という形式だった。

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ポスター発表

294

4 英訳に見られる特徴

4.1 キャラ語尾「-です」と対応する特殊な英語表現

このパターンに該当するものとして、[a] to 不定詞が短縮される場合、[b] -ing の g が脱

落する場合、[c] you を y’と表記する場合、[d] indeed を’deed と表記する場合が挙げられる。

[b]には動詞 ing 形だけでなく-ing で終わる名詞にも同様の特徴が見られた。紙面の都合上

[a]の例のみ挙げる。本稿での出典は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』日

本語版を『日』、英語版を『英』と表記する。

(1a) 迎えにきたです (『日』上巻 p.45)(1b) I came t’meet you (『英』p. 23)

4.2 キャラ語尾「-です」と普通の英語表現

キャラ語尾「-です」が用いられているが、英訳では特に特徴が見られない場合もある。

(2a) モーゼは海まで渡ったですよ (『日』上巻 p. 56)(2b) Moses even crossed the sea (『英』p. 30)

4.3 普通の「-です」と特殊な英語表現

また、普通の「-です」が特殊な英語表現で翻訳されている例も確認できる。これに該当

するものとしては、(3b)のほかに do を’d、about を’bout、around を’round、suppose を s’ppose、it is を tis、at all を’tall のように母音を脱落させた表現での翻訳例が確認できた。

(3a) 音抜きは発声と聴覚の両方向から可能です (『日』上巻 p. 62)(3b) It’s possible t’remove sound from both speakin’ and hearin’ (『英』pp. 34-35)

5 考察とまとめ

4 で見たように、英訳においてもキャラクターを特徴づけている表現が確認できるが、

キャラ語尾「-です」(を含む文)とその翻訳は必ずしも対応しているわけではないことが明

らかになった。また、本研究で確認した英語翻訳の全体的な特徴は、山口(2007)が挙げて

いる「非標準的つづり」や「引き算式」(同 pp.12-16) という特徴に該当すると考えられる。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の英訳は、キャラクターを意識した翻

訳と位置付けることができ、教材として活用することも十分可能かと思われる。キャラ語

尾の翻訳には絶対的な正解はないと言えることから、本作品を参照し学習者と自由に様々

な翻訳例を出し合うなどすれば、有意義な翻訳活動・翻訳教育を行うことができるだろう。

<参考文献>

Murakami, H. (2003) Hard-Boiled Wonderland and the End of the World. New York: Random House.

金水敏 (2003)『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』, 岩波書店.川瀬卓 (2010)「キャラ語尾「です」の特徴と位置付け」,『文献探究』第 48 号, pp. 125-138.村上春樹 (1988)『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』上下巻, 東京:新潮文庫.山口治彦 (2007)「役割語の個別性と普遍性―日英の対照を通して―」, 金水敏編 『役割語

研究の地平』, pp. 9-25, くろしお出版.

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グループワークによる授受表現の多言語対照

黒沢 晶子 山形大学

【キーワード】 授受表現、多言語対照、グループワーク、協働学習 1 はじめに 「日本語教育入門」の授業で、日本語母語話者と他言語母語話者が相互の言語を対照す

ることで、授受表現を理解するための視座を獲得していく過程と効果について述べる。 2 手順と結果 手順 1:次の 3点について母語での表現をワークシートに記入する。1) 「あげる」と「くれる」に当たる動詞は、母語で同一の語で表すか。2) 「教えてくれた」「手伝ってくれた」相当の母語の表現には「てくれた」に当たる表現が付くか。3) 「私は友達にそのことを教えてもらった」「友達が私にそのことを教えてくれた」は、母語で同一の表現か。 手順 2:他言語話者と組んで、母語の表現を説明し、どの点が異なるかを話し合う。 手順 3:共通点、相違点など、気付いたことをワークシートに書く。 手順 4:発表の時間を設け、クラス全体で複数の言語の授受表現の対照結果を共有する。 の結果: 英語の give や韓国語の juda (b)、中国語の「給 gei3」(c) は、「あげる」と「くれる」の両方を表し、授受の方向性によって区別することはない。 (1) a. 私 が 友達 に プレゼント を あげた。

b. Nae ga chingu ege seonmul eul c. 我 給了朋友礼物。

(2) a. 友達 が 私 に プレゼント を くれた。 b. Chingu ga na ege seonmul eul c. 朋友 給了我礼物。 図 1:「あげる」と「くれる」 これに続く演習で、(3) のような誤用例が出て来る原因を考えるが、各言語の例は、誤用が学習者の母語の転移によるものだという考えを引き出すものとなる。 (3) 先生、これを私にあげますか。 (英語話者) だが、実は日本語の方言 (d) にも英語、韓国語、中国語と同様、授受の方向性による区別をしない動詞があり、むしろ共通語 (a) のほうが特殊だという発見がある。 (1) d. 私が友達さプレゼントをけっちゃ。(山形方言) (2) d. 友達が私さプレゼントをけっちゃ。(山形方言) 「(私が)友達にプレゼントをける(くぃる)」という方言は、広く中部地方~東日本およ

び九州、沖縄に分布しており、「あげる」と「くれる」に分化する以前の古語「くる」の姿

を伝えるものである。それを教師が付け加える。 の結果:「~てくれた」は共通語 (a)、韓国語 (b)、方言 (d) で補助動詞の形で表されるが、中国語 (c) や英語では言語化は義務的ではない。(5)(6)の非用例はこれに対応する。

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ポスター発表

296

(4) a. 友達 が 私 を手伝ってくれた b. Chingu ga na reul dowa (恩恵に中立的(韓 2008)である点には踏み込まない。) c. 朋友帮助了我 d. 手伝ってけっだ けっちゃ くいだ (5) アメリカで山本先生が私に日本語を教えました。(英語話者) (6) 私を優しく受け入れた方々への感謝の気持ちを伝えることができた。(ロシア語話者)

の結果:共通語(7)、方言(10)では異なる補助動詞を用いて「同じできごとが異なる視点から表現」されるが、韓国語、中国語では、それらに当たるのは同一の表現(8)(9)である。 (7) a. 私は友達にそのことを教えてもらった

b. 友達 が 私 に その こと を 教えて くれた (8) Chingu ga na ege geu geos eul gareucheo (9) 朋友告訴了我那件事 中国語では (7)を「我従朋友那里知道那件事(友達から知った)」「我譲朋友教我那件事 (友達に教えられた)」のように表すこともできるが、普通は同一の表現を使う。 (10) a. 教えてもらった b. 教えでけだ/けっだ /けっちゃ/くっちゃ

3 学生のまとめ例と協働学習の効果

中国語では、「くれる」「あげる」のような区別はなく、「給」という単語だけで表現している。(山形県)庄内では、「あげる」はあまり使わず、「くれる」のみ、宮城で

は、「ける」のみで表現している。つまり、標準日本語のように、物の向かう方向に

よって異なる動詞を使うというのは、かなり特異なのかもしれない。 韓国語は、補助動詞を使う点は同じだが、「あげる」と「くれる」、「てくれる」と「て

もらう」の使い分けがない点が異なる。 課題はここまでだが、留学生は教科書にない授受表現に接し、驚きをもって報告する。

(11) この道をまっすぐ行ってもらって...(道案内) 自分に道を教えてくれた人は自分が行くことによって何の恩恵も受けるわけではないの

に「てもらう」を使うなんて優しい表現だなあ、日本人は丁寧ですね、と言う。 (12)(アルバイト先で同年齢の学生が)これ、洗ってもらっていい? 「洗ってもらえない?/もらえませんか/いただけませんか」等に比べ、指示的に響かず、

堅苦しくない (12) は、「コミュニケーション上の動機に基づいた文法の変化」(砂川 2007)としての新待遇表現だと言えるかもしれない。 この協働学習は、互恵性のある双方向の学びである。各自が母語の「エキスパート」と

して対等に情報交換の行えるテーマであり、非母語話者が「支援される側」にはならない。

また、学生同士が話し合って違いに気づくことは、教師主導の授業に比べ、はるかに強い

インパクトを持つ。母語を客観的に見ると同時に、交流の機会となり、「楽しかった」と評

価する声が高い。母語の異なる学生たちが互いの学習に大きく貢献できるものだと言える。 <参考文献> 砂川有里子(2007)「談話から見た文法」,『国際交流基金 日本語教育通信』第 32回. ハン

,韓ギョンア

,京娥(2008)「日本語の『~てあげる・くれる』と韓国語の『-a/e cwuta』の意味機能」,『日本語教育』第 136号, pp.78-87, 日本語教育学会.

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「観光日本語」上級レベルの語彙選定

スルダノヴィッチ イレーナ(リュブリャーナ大学)

綛田 はるみ(横浜商科大学)

【キーワード】 観光日本語、語彙、コーパス作成・利用、上級レベル

1 観光日本語の背景

観光日本語に関する研究は、主に海外で行われてきた。その背景には、日本語ができる

現地人ガイドの需要の高まりとともに、現地ガイドが比較的収入の高い職業として認識さ

れている傾向がある。日本人観光客の多いインドネシア・タイなどでは、ガイド養成を目

指す日本語の教科書、シラバスなども作成されている。しかし、その多くは初級日本語学

習者を対象としている。一方、観光業界ではより高度な日本語能力が必要とされており、

観光学を専攻する日本語学習者が増加している。

本研究の目的は、観光日本語の専門用語を特定し、その属性より観光日本語上級レベル

の語彙を選定することである。

2 観光学教科書の級外の語彙分類

観光学系の講義で使用されている教科書に現れる語彙のうち、日本語能力試験級外語彙

を対象とし、それらを以下の5点に分類した(綛田 2013)1。① 一般的な固有名詞(「東

京」「昭和」「北海道」)、② 特殊な使われ方をする固有名詞(「京」:小京都,京人形,京懐石,

「江戸」:江戸小紋,江戸前寿司)、③ 専門用語とみなされるもの(「インバウンド」「オー

バーブッキング」)、④ 専門連語(「エコツーリズム」「伊勢参り」「~詣」専門語と一般語

からなる連語であり,かつ専門的概念を示すもの)、⑤その他、である。

3 観光学コーパス作成

観光学コーパス作成は、Baroni 他(2006)が提案した方法およびコーパス自動作成ソフ

トウェア WebBootCat の利用より行った。まず、観光学の目的に合ったデータをウェブか

ら抽出するため、単語のリスト、いわゆる、「シードワード」2を選択する必要がある。本

研究では、観光学の概説書である『観光学基礎』を対象とし、その頻度順の語彙リストか

ら観光学語彙を抽出した。観光学に特化したデータを必要とするため、他分野にも出現す

る単語をリストから削除し、約 50 語のシードワードを選択した。次に、Sketch Engine (SkE)3

ツールの中にある WebBootCat にシードワードを載せ、コーパスを作成した。シードワー

ド(3 語)が同時に出現するウェブページ 10 種を取り出し、組み合わせを 100 回繰り返す

手法である。ページの確認、コーパスコンパイル・データクリーンなどを実施した上、

1,169,187 語の観光学コーパスを構築した。なお、今回得たコーパスを一般コーパスと比較

し、観光学コーパスの特質を確認した。

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ポスター発表

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4 「観光日本語」上級語彙の選定

前述した 100 万語の観光学コーパスから SkE 機能を利用し、キーワードを抽出し 4、1000語を分析した。分析した 1000 語は、次の 3 グループに分けられた。①一般学術語彙(「取

組段階」「行政事業」)(611 語)、②観光学を専門とする、非母語話者の学習項目(「観光

○○」「来○」「景観」「誘客」「周遊」)(302 語)③観光学を専門とする、非母語話者・母

語話者の学習項目(「インバウンド」「○○ツーリズム」「着地型旅行」)(87 語)である。

5 まとめと今後の課題

本論文では、上級日本語学習者用のガイド用教材作成の必要性を示した上で、100 万語

の観光学コーパス作成の手順および「観光日本語」上級レベルの語の選定について述べた。

観光学コーパスに高頻度に出現する 1000 語より、400 語の専門語彙を選ぶことができた。

本研究で得た結果は、学問の領域を把握するための指針ともなり、観光学を学ぶ外国人

学習者だけではなく、これから観光学を学ぶ母語話者学生のためにも有用なものだと言え

る。今後の課題は、一般学術語彙の他分野間での比較検討、専門語彙の再検討(連語、級外

語彙など)、専門家へのヒヤリング(専門語彙の確定)である。

謝辞

本研究を行うにあたり、横浜商科大学学術研究会より 2014 年度個人研究助成を受けた。ここ

に学術研究会への感謝の意を表したい。

1 リーディングチュー太(http://language.tiu.ac.jp/)を利用した。2「シードワード」(英語:seed words)とは、ある目的に合ったデータを抽出するために選択され

た単語・単語リストのことである。3 Sketch Engine (SkE、http://www.sketchengine.co.uk/)4 SkE 機能でのキーワード抽出は、正規化した専門コーパスにおけるキーワードの頻度割る一般コ

ーパスにおけるキーワードの頻度で計算される。そのために利用された日本語一般コーパスは百

億語の JpTenTen(スルダノヴィッチ他 2013)である。

<参考文献>

Baroni, M., Kilgarriff , A. and Pomikálek, J. (2006) WebBootCaT: instant domain-specific corpora to support human translators. Proceedings of EAMT 2006: 47-252.

綛田 はるみ(2013)「観光学における日本語語彙の分類―学部留学生のために―」, 『横

浜商大論集』, pp.33-42.綛田 はるみ(2011)「『観光日本語中・上級シラバス』作成の基礎調査」, 『日本語教育方

法研究会誌』, pp.14-15.スルダノヴィッチ イレーナ、スホメル ヴィット、小木曽智信、キルガリフ アダム

(2013)「百億語のコーパスを用いた日本語の語彙・文法情報のプロファイリング」, 『「第

3 回コーパス日本語学ワークショップ」予稿集』, pp.229-238, 国立国語研究所 言語資

源研究系・コーパス開発センター.

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ポスター発表

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商科大学の副専攻ビジネス日本語コースのシラバスと教材開発

- Minor in Japanese language for Business purposes – -

コスラ 恭子 アムステルダム応用大学・ライデン大学

【キーワード】 ビジネス日本語教育、ニーズ分析、欧州資格枠組み、Can-do 1 副専攻としての日本語教育 企業のグローバル化に伴い日系企業も、日本人海外駐在員を制限し現地の社員養成に力

を注ごうとしている。こうした背景の中で駐在員と本社との間を繋ぐブリッジ人材の育成

が求められている。本稿はアムステルダム応用大学(Amsterdam University of Applied Science)商学部で経済、貿易等を学習し同時に外国語として日本語を勉強している学習者のために日系企業で研修をしてきたオランダ人日本語学習者のアンケートをニーズ分析し、

今までのコースを振り返り今後のシラバスと教材の開発に役立てたいと考えている。

1.1 ビジネス日本語教育 日本の企業が募集する日本語ができる外国人社員、または外国人アルバイトは実際おお

むね専門知識があり、なおかつ日本語は上級レベルの学習者が多い。これは新聞やその他、

リクルートや人材募集の情報からも、その対象としている人材の 95%が上級学習者を募集している事実でもわかる。だが、仕事の内容によっては商学部の在学生または社会人経験

のない大学生が日本語を使ってできる仕事もある。商学部で日本語を勉強する学習者を抱

える教育機関としては、こういった学習者の就活を活発にするため、企業からの要請の調

査と学習者のスキルの向上は必須である。今回は後者の学習者のスキル向上にスポットを

当てて考えてみたい。

1.2 アムステルダム応用大学商学部学生の学習背景 学習者は日本語の基礎を週3時間で2年間勉強し、交換留学を経た学生たちである。実際、研修や就職のためのビジネス日本語学習教材は、日本語の中級学習のテキストを含めると

教材は 10冊以上本屋に並んでいる。だが上級学習者を対象にしたものが多く、基礎日本語を終えたばかりのレベル(A2終了またはB1)を対象にしたものは大変少ない。 日本語のコース目標としては 日本のビジネス文化、知識を理解する ビジネスで、アジア人(日本人)とコミュニケーションが取れる 自分について日本語で表現する勉強と、就職活動を繋ぐ橋渡しをする

を掲げた。学習者はマーケティング、セールス、経済、貿易等を実務大学で勉強した学生

たちである。大学の方針としては欧州共通の資格枠組み 4/5/6 を達成することが同様に必要だ。この資格が要求しているレベルでは、当該の分野に関する知識と実務に対する知識、

また予測される問題に対する問題対処の仕方を知っていることが必要とされている。アム

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ポスター発表

300

ステルダム応用大学の欧米語を学習している学習者はこの要求を達成するために最低 B2、C1 の外国語のレベルが必須とされている。一方、東洋語学習に関していえば、学習時間が

制限されていて、表記学習にも時間がかかるため与えられて時間数では A2、B1 に到達す

るのがやっとというのが現実である。

1.3 ニーズ調査・分析

コースのニーズを調べるために、以前日系企業で研修をしたことのあるオランダ人大学

院卒業生と応用大学卒業生、在校生を対象に、企業研修中どんな問題があったか、具体的

に何が起こって(問題の接触場面について説明)どう思ったかを簡単に記述してもらうア

ンケートを行い(回収したアンケート 30)、その結果からニーズを分析することにした。

言語に関する問題があったという回答者は1人もいなかったのに対し、すべての解答で、

問題は以下の3点に集中した。

• 社会人基礎力に関する問題

• ビジネスマナーに関する問題

• 日本の社会・文化との接触の際に起こる問題

この結果を受けて分かったことは、社会人としての経験が浅く、同時に日本語のレベル

が高度でない学習者には、日本語でビジネス用語を習得するだけの学習は十分ではなく、

同時に社会人基礎力の確認、異文化理解(自国の文化、日本文化を見つめなおす)、日本企

業の文化について考え、知識を持つ必要があるということがわかった。

2 結果とビジネス日本語コースへの反映

このことから、①自分の経験や自分に関することを日本語で表現することを学ぶことで

仕事の面接にも役立つようにする。②自分の文化と日本の文化の違いに関する一般的知識

の習得③日本企業特有のビジネス文化や知識に関する理解を深める ④どのようにして言

葉や行動を通じて人間関係を円滑にするか、マナーを含めたコミュニケーション力、以上

のことが必要である。

2.1 ニーズ調査をもとに変更したコースの内容

今までのコース内容 変更後のコース内容

1. 自己紹介、履歴書の書き方

2. 敬語

3. 待遇表現

4. 電話(応対、メッセージの残し方)

5. 商品の説明

6. グラフを読む

7. プレゼンテーションの仕方

1.自己紹介/自己分析

2.就職面接の準備

3.履歴書を書く

4.敬語

5.異文化理解能力

6.電話での応対、メッセージの残し方)

7.商品の比較、セールス

8.グラフが読め、プレゼンテーション

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ポスター発表

301

外国人が書いた日本語電子メール文の特徴と評価

村上 京子 名古屋大学

【キーワード】 日本語メール文、携帯電話メール、メール判定、評価者間一致度 1 はじめに 現在の生活の中で手書きをすることは非常に少なくなり、コンピュータ(以下 PC)で文章を書いたり、PCや携帯電話でメールを送ったりすることが多くなってきている。そこで、携帯電話やコンピュータによるメール文を使って、その人の日本語能力レベルを判定する

テストを開発した。外国人日本語学習者54名と日本語母語話者5名に同様の問題を提示し、携帯電話およびコンピュータから送信してもらった。受信したデータを 6名の評価者がレベル判定し、その評価者間一致度と評価の際に問題になる点を検討した。 2 方法

メール判定問題は携帯メール問題 5題と PCメール問題 3題から成る。問題指示は、英語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語など受験者の母語あるいは理解可能な言

語で表示される。

2.1 携帯メール問題 対象者に母語翻訳した問題指示文を渡し、各自の携帯電話から所定のアドレスに問題ご

とにメールを送信してもらった。受信したメールはテストサーバーに保管され、そこから

評価者に送られる。6名の評価者による判定結果がインターネットを介して回収される。 問題指示例(日本語訳):あなたは今日佐藤さんと会う約束をしていましたが、30分遅

れそうです。佐藤さんに連絡してください。 2.2 PCメール問題 図 1.PC問題の例

PCに問題指示(母語表示)が表示され、画面の中のメール送信欄に入力できるよ

うになっている。解答時間は各 10分で、時間経過が表示される。10分経つと、それまでに書かれた文字は保存され、次の

問題に画面が切り替わる。右の画面の 問題はチラシをみて友達を誘うメールを 書く問題である。 2.3 対象者:54名(韓国、アメリカ、ブラジル、中国、オーストラリアなど)

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ポスター発表

302

*比較対象として日本人 5名も同条件で実施 評価者:6名(日本語教育経験者)

3 判定基準 ルーブリックを作成し 4段階の判定を行った。

1レベル:時間をかければ文字入力できるが伝達意図は伝わらない 2レベル:読み手が推測すれば意図は伝わるが、不正確な点や不適切な点が多い 3レベル:不自然さはあるが、読み手への配慮も示し、問題なく意図は伝わる 4レベル:読み手への配慮表現も適切で十分意図が伝わる

表 1.評価者間一致度(α係数) 4 結果

対象者から送信された携帯メールおよび PCメールを 6名 の評価者に、評価基準に沿って 1レベルから 4レベルの範 囲で判定してもらい、評価者間の一致度を算出した(表1)。 6名の評価者間の判定の一致度は携帯メールでは 0.90に達し ていないものが 3題みられたが、PCメールでは 0.95以上と 全体的に高かった。日本人対象者のメールはすべて 4レベル で、外国人対象者に比べ簡潔なものが多かった。 5 考察・結論 携帯メール・PCメールともにレベル判定の評価者間一致度はかなり高かったが、携帯メールの評価者間で評価が割れた点は、以下のような外国人日本語学習者特有の問題であっ

た。 1.相手への配慮表現:返礼への言及等 日本人のメールには返礼などに言及したものは見られなかったのに対し、韓国の学習者

の半数以上が言及していた。このような文化の差をどのように評価するかが問題となる。 例 1) こんなに立派なものもらったんだから美味しいものご馳走するよ!

2.不自然な切り出し:呼びかけ表現等 例 2) さあ、ごめんね。サト君!ちょっと 30分遅くなった! 3.「よろしくお願いします」と「ありがとうございます」の混乱 例 3) この Eメールアドレスにお願いします。ありがとうございます。

4.「私」の多用 例 4) 私の質問を答えてお願いします。⇒ お返事お待ちします。

5.終助詞「の」など不自然な表現 例 5) ごめんね、この封筒を私に持っていくの?お願い!! 今後、評価者間一致度が 0.90に達しなかった問題を差し替え、就労外国人を対象にさらにデータを収集し、分析を進めていく予定である。

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ポスター発表

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日本語学習者による文法認識について

―英国の A2 レベル学習者の場合―

藤野 華子

オックスフォード・ブルックス大学

【キーワード】 文法認識、A2 レベル

1 背景

日本語教育で文法をいかに教えるかについては多くの研究がされて来たが、学習者がい

かに文法を捉えているかについては、教師による観察以外はほとんど知られていない。次々

と登場する形や文型を習得しようとする初級学習者の多くは、テストができても実際の産

出がなかなかできないことに不満を募らせ、教師はいくら練習をさせてもなかなか文法が

定着しないことに頭を悩ます。このような学習者と教師の期待の不一致は学習に悪影響を

与え、学習意欲を低下させると言われている (Horowitz 1990)。欧州でCEFR に基づいて日

本語教育が見直されている中で、学習者の認識を把握することは今後の文法教育を考える

上で必要と考えられる。本研究では ESL と EFL で行われた先行研究をもとに、英国のあ

る大学で学ぶ A2 レベルの学習者に対してアンケート調査を行った。

2 先行研究

ESL や EFL で行われた研究 (Shulz 1996, Yoon 他 2004, Jonckheere 他 2005, Pazaver 他2009) によると、学習者は外国語学習を始めてから半年以上経った頃、文法の大切さを感

じ始め、語学力を上げるには文法が必要だと認識するようだ。効率的な学習には教師によ

る明示的な説明が必要だと考えており、教師の例文を読むことや自分で文を書く練習が一

番役に立つと感じている。修正フィードバックについては教師が実践している以上に期待

しており、特に書いたものに修正フィードバックを求めている。またペアやグループで練

習の添削や活動をすることに対しては否定的に捉えていることが報告されている。

3 本調査の方法

英国で学ぶ日本語学習者の文法認識を調べるためにアンケート調査を行った。対象とし

たのは Oxford Brookes 大学日本研究学科の学生 24 人(英語母国話者 20 人、非英語母国話

者 4 人)、日本語のレベルは A2 であった。過去の語学経験で文法のクラスが独立してあっ

たのは 12 人、文法のセクションがあったのは 10 人であった。アンケートは筆者以外の日

本語スタッフが配布し、段ボール箱に回収された。回答のための時間制限はなかった。

4 結果

まず、文法を勉強する意味を複数回答可で聞いたところ、「読解に役立つ」(22)、「書く

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ポスター発表

304

のに役立つ」(20)が最も多く、「文法は重要ではない」、「すぐに忘れてしまうので役に立た

ない」、という答えはごく少数であった(2)(括弧内の数字は回答者数)。次に新しい文法項

目の教わり方について聞いたところ、「説明を聞いてから自分で例文を読んでみたい」が最

も多く(14)、自分でまずルールを発見したい、という発見型アプローチを支持する人は少

数派だった(4)。また文法を教わるときの仲介言語については「教師の判断で一部日本語が

いい」とする答えが最も多く (17)、「英語がいい」は最下位であった(2)。 次に、新しい文法項目を学習するときに最も効果的な練習を 3 つ選んでもらった。その

結果、最も多かったのは「例文を読む」で、上位 3 位どれにも「例文を作る」が登場した。

そのほか「オーラル練習」が 2 位に登場し、機械的なドリル練習は最下位だった。学習者

が産出に積極的で自分の現実との結びつきを求めていることが伺われる。

さらに、ペア・グループワークについて聞いてみたところ、賛成派(19)は反対派(5)を大

きく上回り、先行研究に反した結果が得られた。修正フィードバックについては、「みんな

の前でもしてほしい」(18)という積極的な見方が強く、「定期的に宿題などを回収して添削

をしてほしい」という答えも多く見られた(11)。 最後に学習段階と文法学習の関係を見るために今までの文法コースで最も自信のあるも

のを選んでもらった。その結果、今学期 (20)あるいは先学期 (15)が最も多く、前年度、つ

まり入門から A1 レベルのコースを選ぶ人は少なかった(9)。日本語の場合も、文法の理解

が学習開始後しばらく経ってから起こることが窺われる。

5 まとめと今後の課題

本研究は小規模であったが、先行研究と同様に、日本語学習者が文法学習において明示

的な指示を好み、修正フィードバックを期待している点で教師への依存度が高く、身近な

文脈に置き換えた文を読んだり、文を作ったりする、教科書に縛られない練習を好むこと

が明らかになった。「ドリル練習」や「ペア・グループワーク」にはその程度や方法が色々

とあり、より慎重に調べる必要があるが、今後英国の他の大学でも同様の調査を行い、英

国における日本語学習者の特徴と彼らに合った文法の教授法を探っていきたい。

<参考文献>Horowitz, E. (1990) ‘Attending to the affective domain in the foreign language classroom’ in

Magnan, S. (ed.) Shifting the Instructional Focus to the Learner: 15-33. Middlebury, VY: Northeast Conference on the Teaching of Foreign Languages.

Jonckheere, B., Hiruma , R., Fox, K. (2005) Student Perceptions of Grammar Learning, in Proceedings of the CATESO L State Conference. http://www.catesol.org/2005proceedingslist.html (2014/6/16 参照)

Pazaver, A., Wang, H. (2009) Asian Students’ Perceptions of Grammar Teaching in the ESL Classroom, in The International Journal of Language Society and Culture 27: 27-35.

Schulz, R. A. (1996) Focus on Form in the Foreign Language Classroom: Students' and teachers' views on error correction and the role of grammar. Foreign Language Annals 29: 343-364.

Yoon, S., Hoshi, K., Zhao, H. (2004) The Evolution of Asian ESL Students’ Perceptions ofGrammar: Case Studies of 9 Learners. Carleton Papers in Applied Language Studies: 117-152.

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Cross-cultural Dimensions of Foreign Language Learning and Teaching

HIDASI, JuditBudapest Business School

AbstractIntercultural issues are becoming increasingly important in language use, language acquisition

and language teaching. Differences in learning and teaching cultures might lead to misconception, miscommunication and difficulties in achieving the goal of efficiently acquiring a foreign language. Changing needs in the context of CEFR driven language policy in Europe affect language planning, mobility, labour market and knowledge-based societies. In methodology attempts (content-based language teaching, digital technology, e-learning, blended learning, etc.) are made to rationalize the process of language learning and to satisfy individual needs.

Keywords: FL learning /teaching, Japanese, communication behaviour, cross-cultural differences

1 Language Use

With globalization and mobility on the rise, educational settings offer sites of transcultural learning for students and educational experts who cross languages and borders for study or work. In multicultural classes (Hidasi 2006) students and teachers might have different cultural backgrounds,but are forced to communicate and interact with the help of a common language (lingua franca or a local language or the target FL, etc.). One often-neglected aspect of the difficulties might be attributed to the cultural differences in communication strategies on the teaching and on the learning side. It is hypothesized that there is a strong interdependence between communication strategies and teaching – learning strategies which are both acquired in childhood as part of the native culture.

2 Language Acquisition

Jin and Cortazzi (2013) introduced the notion of cultures of learning in the 1990s in order to focus teaching and research (involving foreign language learners) on the learners’ own perspectives and on cultural aspects of learning. Learners with a different cultural programming often fail to improveconsiderably if their energies get wasted when attempting to comprehend what is going on in the classroom and when coping with new strategies of learning, instead of being able to focus onlanguage learning proper. Vice versa, as long as FL teachers try to operate in language classesapplying their own strategies and demanding from learners to follow learning strategies different from what they have been socialized to use, there will be a cultural acquisition gap leading to the poor performance of learners in the language classroom. In the 1970s Henry (1976) listed 55 teaching methods, the number of which must have considerably grown since then. On the one side watching, imitating, repeating, memorizing and other receptive methods are well represented in the arsenal of teaching and learning of the Japanese. On the other, doing, problem solving, comparing, discussing, etc. are nearer to the concept of the proactive Western teaching-learning repertoire. Whereas the former puts emphasis on the perception

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and consideration of the whole context (high-context culture) prior to understanding, the latter puts emphasis on concentration of the overt (mostly verbal) message (low-context culture) and expects a prompt reaction to it. While the former is nearer to the defensive, the latter is nearer to the offensive type of communication behaviour. DeKeyser (2003) attempts to provide definitions for explicit versus implicit and for inductive versus deductive teaching and learning.

3 Language Teaching

Culture also provides us with a set of expectations about educational settings (Hidasi 2007), about teachers’ behaviour, about teacher-learner interactions. (Hidasi 2006) The Western mental programming follows the mental software developed originally by the ancient Greek thinkers – Plato, Aristotle and Socrates. Dialogue is the essence of the Socratic method. In Japan, however, the Confucian model is at work. The teacher – as an external authority – often uses rhetorical questions in giving counsel. Students expect their teachers to answer their own questions.

4 Future Trend

Communication, teaching and learning are interrelated and interconnected with each other through a common denominator, namely “cultural-mental programming” (Hidasi 2008). One of the great challenges is to seek a healthy balance between generalizations about learners of a particular culture and recognition of their individuality. New methods and ways (content-based language teaching, digital technology use, e-learning, blended learning, etc.) are attempts to overcome the time-pressurein language acquisition and to possibly satisfy individual needs. The increasing occurrence of multicultural environments requires a better understanding of the processes of language acquisition.

ReferencesCortazzi, M. & Jin, L. (2012) Researching Intercultural Learning: Investigations in Language and

Education. London/New York: Palgrave Macmillan.DeKeyser, R. M. (2003)‘Implicit and Explicit Learning’in: Doughty, C. & Long, M. (eds.) The

Handbook of Second Language Acquisition. Oxford: Blackwell: 313–348.Henry, Jules (1976) ‘A Cross-Cultural Outline of Education’in: Roberts, J. & Adinsanya, Sh. (eds.):

Educational Patterns and Cultural Configurations: 100-170, New York: David McKay.Hidasi, Judit (2007) ‘The Impact of Cultural-mental Programming on the Acquisition of the Japanese

language` in: Szerdahelyi, I. & Wintermantel, P. (eds.) Japanológiai körkép: 339-354, Budapest: ELTE Eötvös Kiadó.

Hidasi, Judit (2008)‘Cultural Messages of Metaphors’in: Berendt, E. (ed.) Metaphors for Learning:103-122, Amsterdam/Philadelphia: John Benjamins Publishing Company.

Jin, L. & Cortazzi, M. (eds.) (2013) Researching Cultures of Learning: International Perspectives on Language Learning and Education. London/New York: Palgrave Macmillan.

ヒダシ ユディット (2006)「日本語教育現場における異文化コミュニケーション」遠藤織

枝【編】『日本語教育を学ぶ・その歴史から現場まで』 東京、三修社、pp.46–64.

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Collaborative Song Making Project Using Learners’ Heritage Languages-A Practical Report from a Japanese Language Classroom

in a Secondary School in the UK-

MIDDLETON, ShokoGreenford High School, UK

Keywords: EAL, heritage languages, Japanese as a MFL subject, pluricultural, plurilingual,

1. Background: Plurilingual and Pluricultural environment of Inner London School

This is a practical report from Greenford High School, a multicultural comprehensive secondary school in London. 50% of our students have English as an additional language (EAL) and a majority of those whose first language is English also have heritage languages and cultures other than English.They are living in a plurilingual and pluricultural environment in each context. The students’ ability and feelings towards their heritage languages are diverse but this potential power was too good to be ignored in the foreign language classroom. In my Japanese language classroom as MFL1, I have implemented a collaborative song-making project using learners’ heritage languages.

2 The Song Making Project: The L Factor

The project was devised for Year 9 GCSE2 Japanese students (age 13 - 14). There were seven students studying Japanese as a MFL subject. Their linguistic background varied. (See Chart 1.) The task was to make a multi-lingual song using the target foreign language (Japanese) and the students’ heritage languages. This was prompted by The Language Factor Song Competition run by Routes into Languages, SOAS, to promote foreign languages learning at the secondary level.

3 Writing lyrics in Japanese and learners’heritage languages

The theme of the task was ‘Friendship’ as one of the values in the London Olympics. The students worked together to create, compose and perform a multi-lingual song, which has Japanese as a mainlanguage, with Hindu, Nepalese, Punjabi, Thai, etc. We had collaboration from the Music department and entered the competition. They composed the melody, practiced all the lyrics and performed in public at the competition, which led to the Language Factor Award.

4 Positive outcomes

As a result, the students’ motivation for learning Japanese was increased and they gained awareness and confidence in their heritage languages. Furthermore, the classroom atmosphere got friendlier and they learned a variety of phrases while singing and this had positive impact on their attainment. In my Japanese classes, while teaching Japanese grammar, vocabulary and culture, I also aim to get my students to consider not only the similarities and differences with British culture and

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the English language, but also with their heritage languages and cultures. By doing so, they can share their knowledge and increase their awareness and understanding of other cultures. I will try and continue to improve my students’ Japanese level while encouraging them to learn from one another’s pluricultural and plurilingual abilities.

Chart 1. The students’ linguistic competence based on their self-assessments (Scale 0 – 6, 6 = highest)

The above is a partial extract from the questionnaire conducted with the class.For more information regarding this project, please contact: [email protected]

Notes1 Modern Foreign Languages is the subject name in the National Curriculum in England. (At Greenford High School, Japanese is taught as one of the MFL subjects alongside with Arabic, Chinese, French, German, Punjabi and Spanish) 2 General Certificate of Secondary Education is the public exam taken at the end of Year 11 (age 16) in England and can be done in many subjects including Japanese.

ReferencesCouncil of Europe Website: http://www.coe.int/en/web/portal/home (1.11. 2014)Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment

(CEFR) http://www.coe.int/t/dg4/linguistic/Source/Framework_EN.pdf (1.11.2014)

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日本語の「共感覚的比喩」の一方向性仮説に関する分析

-日本語の五感を表す動詞と副詞、および形容詞の意味転用の方向性-

武藤 彩加(琉球大学)

副島 健作(東北大学)

【キーワード】 共感覚的比喩、一方向性仮説、身体性、生得性、言語普遍性

1 はじめに

五感内の意味転用の方向性には、

一定の拡張の方向性があることが多

くの先行研究で報告されている。こ

れは一方向性の仮説と呼ばれ、おお

むね正しいものと考えられている。

2 先行研究の問題点と本稿の課題

従来は主に五感を表す「形容詞」のみが考察の対象とされてきたが、本研究では、これ

まで検討されてこなかった五感を表す「オノマトペ」と「感覚動詞」についても考察する

ことで日本語の五感を表す語全体における感覚間の意味転用の方向性を包括的に捉えた。

3 五感を表すオノマトペの分析

日本語の五感を表すオノマトペ 50 を対象に、基本義から他の感覚への転用を記述した。

実例に基づき検討した結果、オノマトペの転用の方向性は次のように示される。

図 2. 日本語の「五感を表すオノマトペ」における五感内の意味の分析

4 五感を表す動詞の分析

日本語の五感を表す動詞を「みる、きく、ふれる、あじわう、かぐ」とし、それらの転

用を記述した。その結果と、従来の仮説とを照らし合わせて異なる点は次の 4 点である。 (1) 嗅覚から視覚と聴覚への方向性が指摘されたが、動詞ではどの感覚へも転用されない。 (2) 視覚からは、聴覚だけでなく全ての感覚へ転用される。

(3) 味覚から触覚への転用例が存在する。

図 1. 共感覚的比喩の一方向性仮説(Williams 1976)

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(4) 聴覚からも嗅覚、味覚への転用例が存在する。

以上の結果は従来の形容詞の比喩体系だけでなく、オノマトペの体系ともまた異なる。

5 五感を表す形容詞の分析

楠見(1988:133)の感覚形容語を参考にし、実例に基づき分析を行った。結果を以下に示す。

(1) 触覚はすべての感覚へ転用される(仮説と一致)

(2) 味覚はすべての感覚へ転用される(味覚→触覚を除き、仮説と一致)

(3) 嗅覚は味覚、視覚へと転用される(嗅覚→味覚を除き、仮説と一致)

(4) 視覚は聴覚、味覚、嗅覚へ転用される(視覚→味覚、視覚→嗅覚は仮説と一致しない)

(5) 聴覚は視覚へと転用される(仮説と一致しない)。

日本語の五感を表す形容詞には、転用されやすい感覚(接触感覚)とそうでない感覚(遠

隔感覚)とがある。つまり,形容詞には一方向的な傾向性が存在すると言える。

6 日本語母語話者への意識調査とその結果

調査は仙台市の大学生

42 名を対象とした。様々な

方向の共感覚的比喩の実例

を提示し、実際に使うかど

うかを 5 段階で調査票に記

してもらった。表 1 は感覚

ごとの平均値の違いを示し

たものである。触覚からの

転用例は多く使用されるが、

味覚からの転用例の使用はあまり浸透していないという傾向にあることがわかる。

7 結論

日本語の共感覚的比喩の体系には、五感を表す「オノマトペ」と「動詞」における感覚

間の意味転用には多様性が見られ、必ずしも仮説と一致しない。その一方で、「形容詞」に

おいては従来の仮説に沿った一方向的な傾向性が存在する。

以上の実例に基づく分析結果を裏付けるべく日本語母語話者への調査を行なったが、転

用例は平均的に受け入れられているという結果を得た。

<参考文献>Williams, J. M. (1976) Synaesthetic adjectives: a possible law of semantic change, Language, 52:2,

pp.461-477.楠見孝(1988)「共感覚に基づく形容表現の理解過程について-感覚形容語の通様相的修飾-」,『心理学研究』第 58 号, pp.373-380.

山梨正明(1988)『比喩と理解』(認知科学選書 17)東京大学出版会.

表 1. 共感覚的比喩表現の使用

M(平均値) SD(標準偏差)

基本義 4.21 0.78触覚からの転用 3.25 0.85聴覚からの転用 3.17 0.58嗅覚からの転用 3.00 0.81視覚からの転用 2.94 0.65味覚からの転用 2.60 0.65

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Collaboration of Japan Studies and Japanese Language Education in Graduate School

-From the Approach of Academic Skills Training-

MATSUNAGA, NorikoKyushu University

Abstract In educational practice1 and literature review, there are not adequate studies about what is necessary in fostering academic skills. This paper focuses on academic writing instructions, and analyzes students’ reports. We found that students from overseas tend to be weak at quotations and objectivity, which is also a finding from the literature review. Furthermore, this paper also finds that students generally lack the perspective to analyze their research topics.

Keywords: academic skills, human resources of Japanese, Japanese Studies

1 The Issues of Cultivating Interdisciplinary Japanese Talent

This paper discusses the topic of training in writing skills, a vital academic skill in graduate schooleducation, using an attempt to utilize the outcomes of Japanese studies in the education of overseas students and Japanese language education. According to the analyses of educational practice so far, there are not adequate instructions aboutacademic skills in both professional and Japanese learning. Therefore, specific methods such as developing curriculums, which involve learners, are needed (Matsunaga, Se 2014). Furthermore, despite previous studies on the weak points of academic writing in graduate school, there have not been adequate studies from the perspective of instruction. This paper reanalyzes 18 Kyushu University students’ reports on the subject, Integrated Study & Knowledge Processing, from theperspective of academic writing skills instruction, which is necessary in graduate school.

2 Analysis of Reports and Results

The class was made up of 9 Japanese students and 9 overseas students. Out of the 9 overseas students, 1 was from South Korea, and 8 were from China. In the analysis, we use 3 elements suggested by Mizuno (2013), which are the structure of the article, citations, and objectivity. Given that the evaluation standards suggested by Mizuno (2013) are not clear enough, this paper tries to set an evaluation standard. Specifically speaking, “Structure of the Article” includes introduction,analysis, and conclusion. If the article does not include these 3 parts, there will be a point deduction. “Citations” means indicating the source in the case by referring and citing from a designated reference. If the resource, page number, or bibliography were not indicated, there will be a point deduction. “Objectivity” refers to the author using grammatically and lexically appropriate expressions when citing from others or expressing the author’s own ideas. When referring to others, they should use expressions like “according to …”, or “… mentioned …”; while they should use

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ポスター発表

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expressions like “the author thinks …”, or “this paper argues …”, to indicate the author’s ideas. Ifthere are not these expressions when necessary, there will be a point deduction. As for the evaluation method for the reports, three people (1 Japanese, 1 Korean, 1 Chinese) mark the reports. The reports are marked by 5 points, and the average of 3 marks were calculated. However, if a rater’s point is 2 points less or more than the other two’s points, the points of the others’ will be calculated. The result of the calculation is shown in the table below. The overseasstudents on average received marks below 3 on all three standards, with “subjectivity” being the lowest.

Table 1 Result of the EvaluationJapanese

Students

Number of Japanese Students

whose average points are less

than 2 points

Overseas

Students

Number of Overseas Students

whose average points are less

than 2 points

Average Points of

“Structure of the Article”4(points)

0/9 (person) 2.88 (points)

2/9 (person)

Average Points of

“Citation”3.3 0/9 2.77 3/9

Average Points of

“Subjectivity”3.44 0/9 2.55 4/9

3 Conclusion of the Analysis

Based on the above results, we did a follow-up interview with the three raters. This paper concludes that, for the 3 evaluation standards, the following points should be strengthened in the instruction of academic writing. (1) Structure of the Article: The point of argument should be consistent. (2) Citation: direct citation and indirect citation (paraphrasing) and how to connect them with the author’s own argument. (3) Subjectivity: being able to understand others’ arguments and paraphrase them. Furthermore, the point of arguments should be consistent, and the analysis procedures and arguments should be indicated clearly, and the procedure includes the following steps.【introduction】indicating the perspective of the analysis ⇒【argument】indicating data + analysis ⇒【conclusion】. Nevertheless, it should be noted that the arguments should not be repeated in order to develop a conclusion: instead, necessary arguments and theories should be indicated and unfolded. In this case, indicating the perspective of analysis in the procedure of【introduction】and【conclusion】would help to strengthen the consistency of the argument.

Notes1 This work was supported by JSPS-KAKENHI , Grant Number 25511005.

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習「知の加工学」を事例に―」『比較社会文化』20, pp.61-76, 九州大学.水野マリ子(2013)「大学院学生対象「アカデミック・ライティング(日本語)」授業の課

題について」『神戸大学留学生センター紀要』19, pp.57-66, 神戸大学留学生センター.

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