マクロ経済変数のトレンドとサイクルの分離法の検 …abstract for thirty years...

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ESRI Discussion Paper Series No.261 マクロ経済変数のトレンドとサイクルの分離法の検証 -日本の実質 GDP と失業率への応用- 飯星 博邦 February 2011 内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute Cabinet Office Tokyo, Japan

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ESRI Discussion Paper Series No.261

マクロ経済変数のトレンドとサイクルの分離法の検証

-日本の実質 GDP と失業率への応用-

飯星 博邦

February 2011

内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute

Cabinet Office Tokyo, Japan

Page 2: マクロ経済変数のトレンドとサイクルの分離法の検 …Abstract For thirty years since Beveridge and Nelson (1981) decomposition, many decomposition of trend and

ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研

究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究

機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し

て発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見

解を示すものではありません。 The views expressed in “ESRI Discussion Papers” are those of the authors and not those

of the Economic and Social Research Institute, the Cabinet Office, or the Government of Japan.

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マクロ経済変数のトレンドとサイクルの分離法の検証

—日本の実質GDPと失業率への応用— ∗ †

首都大学東京 大学院 社会科学研究科

飯星 博邦

概要

マクロ経済変数の経済成長 (トレンド)成分と景気循環 (サイクル)成分への分離法は、

Beveridgeと Nelson(1981)の研究以降の約 30年間、HPフィルタなど数多くの統計学的

手法が提案されているが、これらの推定値は一般的には一致しない。本稿は、Morley et

al. (2003)や Perron and Wada (2009)等の最新の分離法を使い、日本の実質 GDPおよび

完全失業率に適用した。この検証結果および先行研究から、たとえ同一のUnobservable

Component Modelを利用してもサイクルとトレンドを一意的に特定化することはできず、

景気循環成分の周期の長短や振幅の大きさは、(1)トレンドとサイクルの 2つのショック

の相関関係、(2)トレンドのショックの分散の大きさ、等に依存することが判明した。さ

らに Perron and Wada (2009)のような「急激な構造変化」(structural breaks)を考慮した

混合正規分布をもつ Unobservable Component Modelで実質 GDPを検証したところ、こ

の分布における 2つの正規分布の分散比を予め特定化しないと Perron and Wada (2009)

の結果と異なり、Morley et al. (2003)と同様なサイクル成分は周期が短く振幅が小さい

ものになった。本検証結果から、先行研究が用いている統計的手法のみでは、一意的に

マクロ経済変数をトレンド成分とサイクル成分に分離をすることができないことが示唆

される。

∗本稿の元となった研究報告は、2009年 9月での内閣府経済社会総合研究所景気統計部の「景気動向指数の

改善に関する研究会」において、杉原茂部長、小巻泰之氏、福田慎一氏、村澤康友氏、山澤成康氏、渡部敏明

氏の諸先生ならびに研究会の参加者より貴重なコメントを頂いた。また 2010年 6月の日本経済学会春季大会で

は藪友良氏より、2010年 9月の ESRIセミナでは村澤康友氏より討論者を務めていただき有意義なコメントを

賜った。ここに感謝を表したい。なお、本稿に残された誤りは筆者の責任に負うものである。†本研究で推定に利用したソフトウェアはWinBUGS1.4.および R 2.9.1である。

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Decomposition of Trend and Cycle;An Application to Real GDP and Unemployment

Rate in Japan

Hirokuni Iiboshi

Graduate School of Social Science, Tokyo Metropolitan University

Abstract

For thirty years since Beveridge and Nelson (1981) decomposition, many decomposition of

trend and cycle have been developed. Their estimation, however, have little correspondence

with each other. This paper applies to Japanese real GDP and unemployment rate between

1955 and 2000 using decomposition of recent studies such as Morley et al. (2003) and Perron

and Wada (2009). Our estimated results show that we cannot get unique decomposition even

using the same unobservable component model and that outcome of decomposition depends

largely on the ratio of variances of both shocks of trend and cycle as well as the correlation

of both shocks shown by Morley et al. (2003). And, when real GDP was estimated from a

UC model with structural breaks followed by Perron and Wada (2009) but without specifying

distribution of trend’s shock, the cycle component of the GDP was similar to short cycle and

small amplitude derived by Morley et al. (2003), unlike by Perron and Wada (2009). Accord-

ingly, we suggest that unique decomposition cannot be derived by only statistical approach.

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1 はじめに -本研究の動機-

実質 GDPや完全失業率などのマクロ経済変数から景気循環 (サイクル)成分と経済

成長 (トレンド)成分の 2成分に分離することは、マクロ経済や景気循環の実証分析・研

究には欠かせない事前処理であり、この分離された景気循環成分は、政府や民間のシン

クタンクによる景気判断の指標として利用されるだけでなく、経済学界における動学一

般均衡 (DGE)モデルなどを採用したマクロ経済学の実証分析にも利用されている。さ

らには、金融財政政策の効果の分析にも利用されており、大変に重要なマクロ経済の指

標となるものである。

したがって、この分離法から導出された景気循環とトレンドの指標の推定値は、他

の経済指標と比しても、より一層の高い精度と頑健性が要求される。しかしながら、

BeveridgeとNelson(1981)の研究から今日にいたるまで約 30年の間、数多くの分離法が

提案されているものの、そこから導出された景気循環の推定値には一致した値がなく、

景気循環の指標の値は分析者が採用する分離法に依存している状況である。これは、採

用した分離法次第で、マクロ経済モデルの推定結果ならびに金融財政政策の効果の分析

結果か゜大きく変化することを意味する。したがって、分離法の特性 (クセ)を知ること

は、景気循環の実証分析・研究にあたっては貴重な事前情報となるであろう。

近年、欧米においても、上のような問題意識をもった研究がいくつかなされており、

Morley, Nelson and Zivot (2003) は、アメリカの実質 GDPを使って、Beveridgeと Nel-

son(1981)の分離法とWatson(1986)や Clark(1987)が提案した Unobservable Component

モデルによる分離法がなぜ相違するのかについて検証し、2つのモデルを一般化したモ

デルで推定したところ Beveridgeと Nelson(1981)の分離法に近いものとなったことを報

告している。それによると景気循環の振幅は小さく、周期も短いものであった。他方で、

Perron and Wada (2009)は、アメリカの実質 GDPのトレンドに対して 1973年の第 1四

半期に 1つの構造変化点を加えると (1) Hodrick -Prescott (1997) filter, (2) Unobservable

Component (UC) Decompostion (Watson(1986)や Clark(1987)), (3) Beveridge-Nelson (BN)

Decompostion,の 3つの分離法による景気循環とトレンドの推定値が一意なることを示

した。さらにMorley, Nelson and Zivot (2003)の研究とは対照的に、彼らの景気循環は振

幅も大きく、周期も長いものであった。

本研究は、この Perron and Wada (2009)の研究に基づいて、マクロ経済変数の経済成

長 (トレンド)成分に構造変化の可能性を考慮したケースを対象として分離法の先行研

究の日本への適用可能性を検証するものである。なぜならば、日本のマクロ経済こそ、

たび重なる構造変化が生じていると予想されるからである。本稿の動機は、このような

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複数の構造変化を考慮した場合、トレンド成分とサイクル成分の推定値はどのようにな

るのであろうか、ということである。本稿の見通しを良くする為に、予め、ここで結論

を提示しておくこととする。本検証結果によると先行研究が用いている統計的手法のみ

では、一意的にマクロ経済変数をトレンド成分とサイクル成分に分離をすることは難し

く、一意に分離するためには、経済学の観点からの事前情報が必要であることが示唆さ

れた。たとえば、Band Passフィルタで一般にサイクルの周期として「1.5年から 8年」

が設定されているが、これはアメリカの景気循環の研究から導出された事前情報である

し、HPフィルタのスムージングパラメータ λの値も同様である。(詳細については本論

で触れる。)一意的に分離するための経済学の観点からの事前情報として、以下の 2点

が必要であろうと推察される。

1) トレンド成分 (経済成長)とサイクル成分 (景気循環)の 2成分のショックの分散の比

この 2つの分散の比率は、たとえば、経済成長 (トレンド)の源泉である技術革新などの

実物ショックと景気循環を引き起こす金融ショックや需要ショックの大きさに依存すると

思われるが、このショックの分散の推定には経済学的モデルなくして識別することはで

きないのではないかと思われる。この分散比の値は HPフィルタを利用するときには重

要である。というのも、この分散比は、3節でふれるように、HPフィルタのスムージン

グパラメータ λの値となるものであり、通常、四半期データならば λ = 1600が利用さ

れている。しかし、トレンドとサイクルのショックの分散比は、各国、各系列、各期間

でまちまちであり、HPフィルタの λは一律の値が使うべきではないと思われる。

2) トレンドのショックの分布の形状。 (正規分布、あるいは Fat-Tailをもつ t分布や混

合正規分布など)

10~100年に1度の頻度の石油ショックやリーマンショックなどトレンドに大きな影響を

及ぼす要因も確率トレンドモデル (後に示される式 (1.2)と式 (1.5) )であらわそうとす

ると、そのショックの確立分布は正規分布で示すよりも下振れリスクをもつ裾が広い確

率分布を採用するほうが望ましい。しかし、その分布の形状がどのようなものなのか、

10年~100年に 1度の頻度しか生じないショックからは推定することは非常に難しいで

あろう。

本論に進む前に、ここで簡単に、本稿が検証に利用する Perron and Wada (2009)のモ

デルについて触れておきたい。彼らは以下の 2つのモデルを利用して、トレンドに対し

て 1つの構造変化点を付加した分離法を考察した。

(i) Perron and Wada (2009)のトレンド・モデル (構造変化点が既知の場合)

ひとつ目のモデルは、非定常のトレンドの傾き (ドリフト項=平均成長率)の構造変化の

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時期が既知の場合をモデル化にしたものである。これは以下の式 (1.1)~式 (1.4)で表さ

れる。

yt = τt + ct,  (1.1)

τt = µt + τt−1 + ηt, (1.2)

µt = µ0 + µ1 · I(t > 1973Q1) (1.3)

ct = φ1 ct−1 + φ2 ct−2 + εt, (1.4)

ここで、ytは観察されるマクロ経済時系列であ。τt、ctはそれぞれトレンド成分、サイ

クル成分であり、観測不能な非観測変数である。トレンド成分の係数 µt はドリフト項

(平均成長率)であり、I(·)は Indicator Function (一種のダミー変数で、1973Q1以前は

0、以降は 1が入る関数であり、µ1 < 0 )をあらわしている。式 (1.1)は、ドリフト付き

のランダム・ウォークモデルで、確率トレンドモデル (Stochastic Trend Model)と呼ばれ

ている。この係数 µt は四半期の平均成長率をあらわしているが、これがアメリカの実

質 GDPにおいて 73年第 1四半期に構造変化をおこし、平均成長率 µt が下落すること

をモデル化している。このモデルを本稿では UC-Dummyモデルと呼ぶこととする。

(ii) Perron and Wadaのトレンド・モデル (構造変化点が未知の場合)

彼らはさらに構造変化が未知であるケースについてもモデル化を試みている。上のモデ

ルの式 (1.2)をそのままにして、式 (1.3)の固定的 (非確率変数的)ドリフト項を式 (1.5)

と (1.6)の確率変数的ドリフト項に差し替えたモデルである。

µt = µt−1 + νt (1.5)

νt = αtν1 + (1 − αt)ν2, νi ∼ N(0, σ2i ), i = 1, 2, σ1 < σ2 (1.6)

αt ∼ Bern(p) (1.7)

ここで、トレンド (経済成長)のドリフト項のショック νtは、2つの正規分布を結合した

混合正規分布であると仮定し、また係数 αtは Bernoulli分布から発生した離散の確率変

数であり、この値は 0または 1の値である。このモデルは毎期でドリフト項 µt が分散

σ21 の大きさで確率的挙動をしているが、係数 αtが切り替わることにより、ある時点 (複

数回)で大きな分散 σ22 から発生した巨大なショック νtにより平均成長率 µtが構造変化

を起こす。このモデルは構造変化の時期が未知であっても、トレンドの構造変化を考慮

してトレンドとサイクルに分離可能である。しかし、後述するように、時期が既知のモ

デルと比較すると、構造変化をともなった平均成長率 µtの形状は不鮮明であり (図 2(c)

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を参照)トレンド成分の構造変化の時期を特定化するのは難しい。しかしながら、この

モデルの利点は、ドリフト項のショック νtを混合正規分布として捕らえることで、図 1

のように、トレンドの下振れリスクをモデル化したものと理解したものとなり、リーマ

ンショックなどの極めて大きい外生的ショックに直面したマクロ経済のトレンド成分と

景気循環成分の分離には優れたモデルではないかと考えられる。

[ 図  1 ]  

20世紀に生じた 2度の石油ショックや 100年に 1度と言われるリーマンショックな

ど稀にしか生じない下振れリスクを扱う場合、ネイマン=ピアソン流の伝統的アプロー

チ (頻度主義的アプローチ)から「頻度」という客観的確率でモデル化するよりも「主

観的確率」を扱うベイズ推定のほうが優れているのではないかと私は考えており、した

がって、上のMorley, Nelson and Zivot (2003)や Perron and Wada (2009)は伝統的な頻度

論的アプローチをとっているが、本稿ではベイズ推定を利用することとする。また、こ

の稀にしか生じない構造ショックを、平均成長率 µtの高成長から低成長への局面的な切

り替わりであると捉えるならば、レジーム (局面)スイッチモデルも確率トレンドモデル

の拡張モデルとして有望な候補であろう。本研究ではこのレジームスイッチ付き確率ト

レンドモデルについても検証していく。

本論に入る前に、この Perron and Wada (2009)の構造変化点が既知の場合の確率ト

レンドモデルを使った日本における実質GDPと完全失業率の推定結果をしめしておく。

なお、本稿が利用した実質GDPデータは、季節調整済みの SNA68のものを採用しこれ

を自然対数化したものである。ここでは、仮に 3つの構造変化点 (73年 Q4、91年 Q1、

97年 Q2)があったものと仮定して、式 (1.3)を以下の (1.3)′に変更して推定をおこなっ

た。(なお、この時期の構造変化が真であるか否かは 4.2節のレジームスイッチモデルの

推定結果を参照されたい。)

µt = µ0·I(t < 73Q4)+µ1·I(73Q4 ≤ t < 91Q1)+µ2·I(91Q2let < 97Q2)+µ3·I(97Q2 ≤ t),

(1.3’)

このモデルの推定結果は図 2、図 3および表 1に示されている。(図 2には実質GDP、図

3には失業率の推定結果がそれぞれ記されている。)この推定結果を構造変化付きの分

離法のベンチマークとして、各種のモデルの分離法についての比較検証をおこなってい

く。さらに、図 2 (b)と図 3 (b)には、HPフィルタと Band Passフィルタの推定結果も描

いてある。この Perron and Wada (2009)型のモデルで推定したサイクルは、GDPと失業

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率ともに、これらのフィルタのものより振幅が大きいのがわかる。(また、周期は同じ

ようである。)図 2(c)と図 3(c)には階段上になった µt が示されている。

[ 図 2、図 3および 表 1 ]

なお、本稿の構成は次のとおりである。2節では分離法の先行研究について概観し、

3節では本研究が採用する UCモデルの基本モデルの解説と、この UCモデルの観点か

ら実証研究でよく利用される HPフィルタの問題点を説明する。4節では基本モデルに

未知の構造変化点を付加した 2つタイプの UCモデルの解説とこれを使った日本のマク

ロ経済変数の推定結果を記述する。5節では各 UCモデルから推定したサイクル成分の

評価を、情報量基準および景気一致指数等の相関関係から行う。6節は結論である。ま

た、補論として経済モデルを取り込んだ分離法および HPフィルタの計算法を記した。

2 トレンドのサイクル分離法の先行研究

  Canova ( 2007) 3章によると、トレンド成分とサイクル成分の分離法は、以下の 3

つの種類に分類できる。

(1) 統計学的手法 (UC, BN, Markov Switching Model, etc)

(2) ハイブリッド的手法 (H-P Filter, Band Pass Filter, etc)

(3) 経済学的手法 ( Blanchard and Quah Decomp. etc.)

本節ではそれぞれの手法を概観していく。

2.1 統計的手法

 統計学的手法として、1 節でも触れたように代表的なものに Unobservable Com-

ponent (UC) Decompostion (Watson 1986, and Clark 1987)および Beveridge-Nelson (BN)

Decompostion (Beveridge and Nelson, 1981)がある。Morley, Nelson and Zivot (2003)は、

この 2つのモデルを一般化しているので、彼らの一般化モデルをベースに、この 2つの

モデルの特徴を説明していくこととする。

Morley, Nelson and Zivot (2003)は、UCモデルの一般化モデルとして以下の UC-UR

modelを提案した。

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(1) UC-UR Model (Morley, Nelson and Zivot, 2003)

yt = τt + ct,  (2.1)

τt = µ + τt−1 + ηt, (2.2)

ct = φ1 ct−1 + φ2 ct−2 + εt, (2.3) ηt

εt

∼ i.i.d. N

0

0

,

σ2η σηε

σεη σ2ε

  (2.4)

ここで、τtはトレンド成分であり、ctは循環成分である。式 (2.1)はマクロ変数 ytはト

レンド成分と循環成分の和であることを意味している。なお、このモデルでは、他の研

究で見られる測定誤差を仮定していないので式 (2.1)には誤差項はない。式 (2.2)のよう

に、トレンド τtはドリフト項付きのランダムウォークの非定常モデルであり、µはドリ

フト項で平均成長率を示し、定数である。式 (2.3)は循環成分 ctが AR(2)過程の定常モ

デルで運動することを示している。彼らが一般化した部分は、式 (2.4)に見られるよう

に循環成分のショック εtとトレンドのショック ηtを分散共分散行列であらわし、互いに

自由な相関性を許した点である。この 2つのショックの相関係数を調整することで、循

環因子の振幅と周期に影響を及ぼすことができる。負の相関が高いほど、振幅は小さく

なり周期は短くなる。他方で、相関が低いほど振幅は大きく周期は長くなる。このモデ

ルを本稿では UC-URモデルと呼ぶこととする。

(2) Beveridge-Nelson (BN) Decompostion (Beveridge and Nelson, 1981)

BNの分離法は一般に上で見たような状態空間モデル (式 (2.1)から式 (2.4))で推定せず

に、マクロ変数 Yt の一階階差データ ∆Yt から、ARIMAモデルを利用して導出する手

法である。1

1Beveridge-Nelson (BN) Decompostion (Morley, 2002, p124)は 以下のような分離法である。

GDP(= Yt)を、AR(1)モデルであらわすと 

(∆Yt − µ) = φ(∆Yt−1 − µ) + εt

ただし、µ ≡ E[∆Yt]である。

すると、j 期先の予測誤差の期待値は

Et[(∆Yt+j − µ)] = φj(∆yt − µ)

であらわすことができる。

BN法におけるトレンドの値は、この j 期先の予測誤差の期待値の j 期を無限大にとって、「長期的水準の最

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この BNモデルの特徴は、UC-URモデルにおけるトレンドとサイクルの相関係数

ρηε(< 0)が高い負の値をもつモデルであり、マクロ経済変数 YtがARIMA(2,1,0)モデル

で表現できると前提にするならば、Morley(2002)による状態空間モデルへの変換法を利

用することで上の UC-URモデル (式 (2.1)~式 (2.4))で表すことができる。ただし、BN

モデルの分散共分散行列 (2.4)における共分散の値 ση εは相関係数 ρηε(< 0)が高い負の

値になるように反映した負の共分散である。(他方で UC-URモデルの共分散には何の制

約もかかっていない ) このモデルの景気循環 (サイクル)の特徴は、振幅が小さく、周期

が短い点である。

(3) Unobservable Component (UC) Decompostion (Watson 1986, and Clark 1987)

上で見た UC-URモデルに対して、UCモデルはトレンド τt とサイクル ct のショッ

クが無相関であると制約したモデルであり、分散共分散行列である式 (2.4)を式 (2.5)に

書き換えたものである。これを本稿では UC-0モデルと呼ぶことにする。

ηt

εt

∼ i.i.d. N

0

0

,

σ2η 0

0 σ2ε

(2.5)

このモデルで導出された景気循環の特徴は、振幅が大きく、周期が長い点である。Clark

(1987)の研究では、アメリカ、西ドイツ、フランス、イギリス、カナダ、イタリアの先

進 6カ国ではうまく分離できたが、日本ではうまく分離できなかったと報告している。

図 4から図 5と表 2では、この URモデルにより日本の実質GDPと完全失業率をベ

イズ推定にて推定した結果を記した。図 4(a)ではGDPのトレンドのショックの分散の事

前分布を小さくとったところ (ση = U(0, 0.004),なおU(·)は一様分布である)、トレンド

はほぼ線形となり、図 4(b)のように事前分布を大きくとったところ (ση = U(0, 0.015))、

小予測誤差の期待値」と定義したものであり、このトレンドは、

τt ≡ limJ→∞

Et[ Yt+J − J · µ ] = yt + limJ→∞

JX

j=1

Et[ (∆Yt+j − µ) ]

とあらわせて、これからトレンドとサイクルは次式のようにかける。

τt = yt +φ

1 − φ(∆yt − µ)

ct = − φ

1 − φ(∆yt − µ)

なお、このトレンドは経済学的解釈としては合理的期待均衡におけるマクロ変数の均衡値と考えられる。

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トレンドと GDPはほぼ同調し、サイクル成分の部分が小さいものとなった。どちらの

ケースもサイクル成分を景気循環とみなすのは難しい。Clark (1987)の指摘のとおり、

日本のマクロ経済系列にこの UC0モデルを使って分離することはできないようである。

なお、ここで留意すべき点は、図 4(a)と (b)を見るとわかるように、Morley, Nelson and

Zivot (2003)が示したようにトレンドとサイクルの 2つのショックの相関係数を調整し

なくても、単にトレンドのショック ηtの分散の大きさを調整することでも、景気循環の

周期の長短と振幅の大小を変更できることである。図 5は完全失業率のトレンドとサイ

クルの分離であるが、これは図 4(a)と同じようにトレンドのショックの分散の事前分布

を小さく設定している。(ση = U(0, 0.06))

[ 図 4、図 5 ]

[ 表 2 ]

UC-URモデルの 2つの仮定

UC-URモデルの仮定についてここで触れておくことは、この後で説明する UCモデル

の拡張モデルを理解する上で有用であろう。UC-URモデルでは以下の 2点を仮定して

いる。

(1) トレンドのドリフト項 µ (平均成長率)は、一定 (構造変化なし)である。 

(2) トレンドのショック ηt は、iidの正規分布である。 

まず仮定の 1点目である「平均成長率が長期にわたって一定である」という仮定の真偽

について検討するならば、日本だけでなく近年の欧米経済を見てもマクロ経済変数が 50

年から 100年の長期にわたって平均成長率が一定であるという仮定が現実性を有してい

ないと言っても過言でないであろう。次の 3節で見るように、本研究では、この仮定を

緩めることで、現実のマクロ経済変数の動きに対応させている。つぎに 2点目のトレン

ドのショックが iid(独立で均一)の正規分布であるという仮定について考察すると、先の

図 4(a)と図 4(b)のグラフを見てわかるように、もしトレンドのショックの分散を小さ

くとるとほぼ直線の形状 (図 4(a))をとり、この分散を大きくとるとトレンドは GDPに

そった形 (図 4(b))となり、サイクル成分は周期も振幅も小さいものとなる。また、日本

経済を例にとると、2度の石油ショックや 91年のバブル崩壊、2008年のリーマンショッ

クなどの稀に生じる大型の構造変化ショックを、仮定 (2)では考慮されていない。(おそ

らく、これらの大型の構造変化ショックは長期的な経済成長率 (生産性)をあらわすトレ

ンドのドリフト項 µに影響をあたえているのではないかとおもわれる。これについては

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4節で考察する。)

さて、おそらく BN分離法が注目される理由の一つは、この BNモデルの多変量モ

デルへの応用が共和分モデル (Stock and Watson, 1987)であるからであろう。共和分モ

デルも、当然、上の 2つの仮定に基づいており、この意味でマクロ経済変数を共和分モ

デルで推定した結果は、「平均経済成長率 µtは長期において一定であり構造変化は起こ

さない」という強い制約から導出されたものであることは留意すべきである。(あるい

は、トレンドのショックの分散は景気循環のショックの分散に比して極めて大きいと想

定している。 ) 2

本節を締めくくるにあたり、UC-UR モデルの推定結果 (Morley, Nelson and Zivot,

2003)について触れておく。アメリカの実質GDPで、UC-URモデルを推定したところ、

サイクルとトレンドの相関係数は高い負の値となり、景気循環は、BN法と同じ形状を

もつ振幅が小さく周期が短いサイクルとなった。Murasawa (2007)によると アメリカ

における GDP、失業率、物価等の多変量 BNモデルでも、振幅が小さく、周期が短いサ

イクルが抽出されるとのことである。また、多変量 BNモデルによる日本の分析も同様

の結論が得られる。 (村澤, 2007)

2.2 ハイブリッド的手法

 ハイブリッド的手法として、以下の 2つを先の Canova(2007)はあげている。

(i) Hodrick Prescott Filter (1997) (これについては、3.2節で扱う。)

(ii) Band Pass Filter  これは以下の (a) Baxter King (1998)と (b) Christiano Fitzgerald

(2003)がある。

(a) Baxter King (1998)の手法は、トレンドを定常性と仮定している。両側フィルター

(両側の移動平均)を利用してサイクルを抽出している。しかしながら、トレンドが (UC

モデルのような)非定常な場合は、みせかけの周期 (Spurious Periodicity)が発生するこ

とが、Murray( 2003)によって指摘されている。 

(b) Christiano Fitzgerald (2003)の手法は、上の手法の問題を克服するためにトレンドを

非定常性に拡張し、さらに片側フィルターでも推定できるように改良した手法である。3

2多変量版の Beveridge-Nelson (BN) Decompostionについては、Murasawa (2007)を参照のこと。3Band Pass Filterの詳細については山澤委員の 2008年度報告論文を参照のこと。

11

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2.3 経済学的手法

経済理論に基づいてサイクルとトレンドに分離する手法である。ここでは代表的な

4つのモデルをあげておく。

(i) Blanchard and Quah Decompostion (1989)

これは、構造化 VARモデルを利用して識別された独立した 2つの供給ショックと需要

ショックから実質GDPをサイクルとトレンドを分離する方法である。ここで、供給ショッ

クは実質 GDPに対して長期的な影響力をもち、需要ショックは実質GDPに対して長期

的な累積効果は 0であると制約している。この構造化VARモデルで推定した需要ショッ

クから形成された需要変動分を景気循環因子とする。

(ii) King, Plosser, Stock and Watson Decompostion (1991)

リアルビジネスサイクル (RBC)理論に基づき、長期の共通ショック (common shock)は技

術革新ショックとみなして、共和分モデルのアプローチを利用して(一人あたりの)GDP,

消費、投資の 3系列の平均成長率の長期制約を、「1:1:1」とおいてトレンド(経済成長率)

とサイクルに分離した。先に述べたように、共和分モデルは多変量版のBeveridge-Nelson

(BN) Decompostionであるので、トレンドのドリフト項 µ (長期における平均成長率)は

一定であると仮定しているのが特徴である。

(iii) New-Keynesian Pillips curveを入れた分離法

(a) Basistha and Nelson (2007, JME)

BN分離法でも、このモデルに New-Keynesian Pillips curveをいれることで UNモデル

のように、景気循環の振幅は大きく、周期が長いサイクルが取り出せるという報告をし

ている。このモデルについては補論 A.1で説明する。

(b) Domenech and Gomez (2006, JBES)

GDPと失業率、インフレ率の 3つのマクロ経済変数についてこれらの自然率をカルマ

ンフィルターから推定している。

(iv) DGEモデルによる Decomposition (Smets and Wouters, 2007, AER, Yano, 2008)

動学一般均衡 (DGE)モデルである New Keynesian Modelから、消費と投資の循環成分

を分離して推定した。通常の DGEモデルでは、循環成分をマクロ経済のデータとして

DGEモデルの構造パラメータを推計するが、これらのモデルはマクロ経済の原データ

12

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を利用して、構造パラメータの推定と同時に景気循環 (サイクル)成分とトレンド成分の

推計も行おうという野心的なものである。Smets and Wouters (2007)では、消費、投資、

輸出や政府支出等の外生的支出のトレンド成分は GDP比を一定と仮定した。しかしな

がら、これらのモデルはトレンドの構造変化ということは考慮していないようである。

将来的には経済学的手法による分離は大変に有望であると期待されるが、いくつか

の克服すべき課題があるものと思われる。

(1) DGEモデルから識別された経済学的ショック (実物ショックや金融ショック等)から、

どのように景気循環 (サイクル)とトレンドのショックとしてモデル化するのか。

たとえば、技術ショックは長期の経済成長と短期の景気循環の両方に影響を与えると想

定されるが、これをどのようにマクロ経済モデルに組み込むのか。

(2) トレンドの構造変化を付加しないと、日本におけるマクロ経済時系列は正しくトレ

ンドとサイクルは分離できない。どのように構造変化をモデル化するか。4

3 本研究の基本モデル

3.1 基本モデル

2.1節で見たように UC0モデルでは µが固定していて日本の実質 GDPへ適用でき

なかった。そこで次にトレンドのドリフト項 µt が時間的に変化するモデルを考察しよ

う。本稿では Perron and Wada (2009)に基づき、2節でみた UCモデルについて確率ト

レンド τt のドリフト項 µt(平均成長率)を定数からランダムウォーク型の確率変数に変

更したもの (以下の式 (3.1)~ら (3.5)のモデル)を基本モデルとする。この UCモデルの

トレンド τt は I(2)となる。この基本モデルを UR-RW(Random Walk)と呼ぶことにす

る。この UC-RWモデルの特徴は、2節の UC-URモデルの欠点を補完するために平均

経済成長率 µt を式 (3.3)のように時間的に可変にし、「ゆるやかな構造変化」の可能性

を許した点である。また、この拡張により 3.2節で見るように、UCモデルの観点から

HPフィルタの評価も可能になった。

yt = τt + ct (3.1)

42008年のリーマンショックにより、トレンドモデルへの構造変化の付加は、日本だけの課題でなく世界的課

題となった。

13

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τt = µt + τt−1 + ηt (3.2)

µt = µt−1 + νt, (3.3)

ct = φ1 ct−1 + φ2 ct−2 + εt, (3.4)ηt

εt

νt

∼ i.i.d. N

0

0

0

,

σ2

η 0 0

0 σ2ε 0

0 0 σ2ν

(3.5)

ここで、2節のUCモデルと同じように τtはトレンド成分であり、ctは循環成分である。

新たに式 (3.3)のトレンドのドリフト項 µt の式が追加されている。また、式 (3.5)のよ

うに、3つのショックはそれぞれ独立で均一 (iid)な正規分布である。

このモデルから日本の実質GDPと完全失業率を推定した。推定結果は図 6、図 7、図

8および表 3に記してある。図 6では、ドリフト項のショックの分散の事前分布を σν ∼

U(0.001)と小さく設定した推定結果であり、図 7では、この事前分布を σν ∼ U(0.01)

と大きく設定した推定結果である。まず前者の推定結果であるが、図 6(a) と (b)には

GDPのトレンドとサイクルの推定値が描いてあり、図 6(c)は平均成長率 µtの推定値で

ある。図 6(b)を見ると、推定したサイクル ct の山谷と政府が公表している景気転換点

と一致しているのがわかる。また、図 6(c)には、1節で推定した 3つの構造変換点を既

知とした UCモデルの平均成長率 µt もベンチマークとして描いている。この図 6(c)か

ら平均成長率は徐々に下落傾向にあることがわかるが、ベンチマークのように階段状か

どうかは、このモデルの推定結果では判断は難しい。次に、後者の推定結果であるが、

図 7をみるとトレンドは GDPの原系列に張り付いているようであり、このサイクル成

分 ctの周期は政府公表の景気転換点よりずっと短いものであり、振幅も小さい。図 6と

図 7の結果からわかるように、サイクル成分を抽出するためには事前情報としてドリフ

ト項のショックの分散の大きさを知る必要がありそうである。

また、図 8には完全失業率のトレンド (自然失業率)、循環成分、トレンド (自然失業

率)の平均変化率を描いている。ここでは、図 6と同様にドリフト項のショックの分散

の事前分布を小さく設定した。(σν ∼ U(0. 0.06))

[ 図 6 — 図 8 ]

[ 表 3 ]

14

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3.2 Hodrick-Prescott (1997)フィルタの問題点

ここでは 3.1節の UC-RWモデルを利用して、サイクルとトレンドの代表的分離法

である HPフィルタの問題点について先行研究の報告を整理する。5 Harvey and Jeager

(1993)は、マクロ経済変数が以下のような UCモデル (式 (3.6)~(3.8) )であった場合に

HPフィルタを利用するとどのようなことが生じるか分析している。

yt = τt + ct, (3.6)

τt = µt + τt−1 + ηt, ηt ∼ N(0, σ2η) (3.7)

µt = µt−1 + νt, νt ∼ N(0, σ2ν) (3.8)

このモデルは 3.1節の UCモデルから式 (3.4)のサイクル成分 ct の動学モデルを除いた

ものである。また、このモデルにおいて、トレンドを除去した循環因子の推定値 ctは、

次式であらわされる。

ct =[

(1 − L)2(1 − L−1)2

qν + (1 − L)2(1 − L−1)2

]yt (3.9)

ここで、qν は、信号-ノイズ比 (qν = σ2ν/σ2

c )である。また σ2c は循環因子の分散である。

すなわち、このモデルでは、トレンドのドリフト項のショックの分散 σ2ν を信号、循環

因子の分散 σ2c をノイズとしている。

この UCモデルに対して、HPフィルタを適用すると次のようになる。

minτt

{T∑

t=1

( yt − τt︸ ︷︷ ︸ct

)2 + λT∑

t=1

(( τt+1 − τt︸ ︷︷ ︸

µt+1

) − ( τt + τt−1︸ ︷︷ ︸µt

))2

}

= minτt

σ2c

{T∑

t=1

(yt − τt)2

σ2c

+1σ2

ν

T∑t=1

(τt+1 − 2τt + τt−1

)2}

ここで、第 1式は HPフィルタの定義であり、この式が意味しているのは、第 1項の循

環因子 ctの 2乗和とトレンドのドリフト項 µt (平均成長率)の第一階差 (= ∆µt+1)の 2

乗和をスムージングパラメータ λでウエイト付けした値の和が最小になるトレンド τt

が HPフィルタであるということである。

今、このスムージングパラメータ λを信号-ノイズ比 qν の逆数で置き換えて、λ =

σ2c/σ2

ν = 1/qν とすると第 2式のように書き換えられて、第 1項は循環因子の、第 2項

はドリフト項のそれぞれ標準化した値を表すことになる。すなわち、HPフィルタは循

環成分とトレンドのドリフト項 (平均成長率)の標準化した値の和を最小にするようなト

レンドを推定していることになる。また、スムージングパラメータ λの値を大きくとる

5HPフィルタの計算方法は補論に記した。

15

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いうことは、循環成分の分散 σ2c をドリフト項 µt の分散 σ2

ν に比して大きく設定するこ

とを意味する。

マクロ経済変数が上記のUCモデルであると仮定したならば、HPフィルタの問題点

は以下の 2点があげられる。

(1) トレンドが (UC-RWモデルのような)非定常な場合は、みせかけの周期 (Spurious

Periodicity)が発生する。(Harvey and Jeager, 1993)

(2) スムージングパラメータ λは一般に固定した値 (たとえば四半期ならば λ = 1600)

が利用されるが、各国によって、各系列によって、または推定期間によって、信号-ノイ

ズ比 qν = σ2ν/σ2

c は異なるであろう予想されるので、その比に応じた適切なスムージン

グパラメータを決めなければならない。6 7

6Ravn and Uhig (2002)では、H-Pフィルターの 4半期データのスムージングパラメータの値を基に、月次お

よび年次データの HPのスムージングパラメータの推奨値を提示している。7HPフィルタの利用の問題点として、適切な信号-ノイズ比 qν が不明であるために適切なスムージングパラ

メータ λ が決められないことをあげたが、ここでは、この推定法について概略する。Stock and Watson (1998)

は、以下のような推定法を提案している。

上の UC-RWモデルの ytの第一階差をとると、以下のように変形できトレンド τtはキャンセルアウトできる。

∆yt = µt + ut, (3.10)

µt = µt−1 + νt, νt ∼ N(0, σ2ν), (3.11)

ut = ∆ct + ηt, (3.12)

このモデルの推定にあたり、Pile-up問題が発生する。

Pile-up問題とは、ドリフト項のショック νt の分散 σ2ν が、循環因子 ut の分散 σ2

u に比して極めて小さいと、σ2ν

の真の値が 0でなくてもその推定値 σ2ν が 0となってしまうことをいう。Pile-up問題の解決策として、Stock and

Watson (1998)は、この»

T2 σ2ν

σ2u

–1/2

の Median Unbiased Estimatorを提案した。(ここで T は観測数である。)

Stock and Watson (2005)では、各国の四半期の実質 GDPにおけるMedian Unbiased Estimator,»

T2 σ2ν

σ2u

–1/2

推定している。各国の値は日本 = 6.2, アメリカ = 3.1, イギリス= 0.0 フランス = 9.3, カナダ= 6.4, イタリア=

8.9 ドイツ= 3.3である。このように各国で qν がことなることがわかる。

16

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4 構造変化 (Break)をもつUCモデル

4.1 混合正規分布モデル (Gaussian Mixture Model)

Perron and Wada (2009)は先の 3節で見た基本モデルのトレンドのドリフト項 µt と

循環因子 ct のショック νt, εt の分散を混合正規分布 (mixture normal distribution)に拡張

することで、「急激な構造変化」(structural breaks)も捕捉できるUC-RWモデルを提案し

た。この混合正規分布は図 1のように正規分布と比較してはるかに広い裾 (Fat-Tail)をも

つように設定されている。このモデルをUC-GM(Gaussian Mixture)モデルと本稿では呼

ぶこととし、以下の式 (4.1)~式 (4.8)で表現される。(UC-GMモデルは 3節の UC-RW

モデルの式 (3.5)を式 (4.5)~式 (4.8)に差し替えたモデルである。)

yt = τt + ct, (4.1)

τt = µt + τt−1 + ηt, (4.2)

µt = µt−1 + νt, (4.3)

ct = φ1 ct−1 + φ2 ct−2 + εt, (4.4)

νt = (1 − αt) ν1 + αt ν2, νi ∼ N(0, σ2νi), i = 1, 2, σν1 < σν2 (4.5)

εt = (1 − γt) ε1 + γt ε2, εi ∼ N(0, σ2εi), i = 1, 2, σε1 < σε2 (4.6)

αt ∼ Bern(pα) (4.7)

γt ∼ Bern(pγ) (4.8)

ここで、式 (4.5)と式 (4.6)は 2つのショックの混合正規分布をあらわしている。式 (4.7)

および式 (4.8)が示すように係数 αt と γt はそれぞれベルヌーイ分布から発生する確率

変数であり、0または 1の値をもつ。

この UC-GMモデルを使って、日本の実質GDPと完全失業率を推定したものが、図

9から図 12および表 4である。なお、本稿はトレンドの構造変化に注視したので、式

(4.6)と (4.8)を採用せず ε ∼ N(0, σ2ε)として推定をおこなった。図 9は、式 (4.5)の混

合正規分布の分散比を σ2ν2/σ2

ν1 = 1000とおき、係数 αt = 1になる確率を pα = 0.01と

設定して、実質 GDPを推定したものである。図 9(a)と (b)はトレンドと景気循環が描

いてあり、図 9(c), (d)には各期の αtの事後平均 (αtは 0か 1であるが、ベイズ推定によ

りサンプリングした値の平均)と推定した µtが、UC-RWモデルの µtとあわせて描いて

17

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ある。図 10は図 9と同様であるが、分散比を σ2ν2/σ2

ν1 = 10とおき、係数 αt = 1にな

る確率を pα = 0.1と設定している。図 11も同様であるが、これは ν1の標準偏差 σν1を

0.0001と設定したものである。図 9(c)と図 10(c)からわかるように、UC-GMモデルの

GDPの平均成長率 µt は分散比 σ2ν2/σ2

ν1 を大きく変更しても形状は変化せず、UC-RW

モデルの µt の形状や図 2(c)でみられるような UC-Dummyモデルの階段状の µと比較

しても滑らかである。しかし、この混合正規分布の分散比を特定せずに片方の分散の値

のみ特定して推定すると図 11(c)のような µt が推定され、この UC-GMモデルの景気

循環も図 11(b)のような周期が短く振幅が小さいものとなってしまうことがわかる。図

12は完全失業率を対象に分散比を σ2ν2/σ2

ν1 = 1000とおき、係数 αt = 1になる確率を

pα = 0.01と設定して推定したものである。

[ 図 9 — 図 12 ]

[ 表 4 ]

この UC-GMモデルの特徴と問題点は、以下のように整理することができる。

Perron and Wada (2009)の特徴

(1) UCモデルを混合正規分布に拡張することで、たとえ時期が不明確で複数の構造変

化をもっていても、マクロ経済変数のトレンドとサイクルをとりだせる。(ただし、こ

れらのショックの分散 (σ2η, σ2

ν , σ2ε の大きさを制約する必要がある。) 

(2) この UC-GWモデルの推定結果はWatson(1986)や Clark(1987)の UC0モデル (トレ

ンドとサイクルの 2つのショックは無相関 )に近い結果となった。すなわち、振幅が大

きく周期が長い景気循環が抽出できる。(ただし、ここでいう UC0モデルは、トレンド

の構造変化が既知であり、UC0モデルにダミー変数を取り込んだ UC-Dummyモデルの

場合をさす。)

Perron and Wada (2009)の問題点

(1) このモデルは混合正規分布を利用するので、構造変化点の時期と数を特定するのは

不向きである 

(2) 混合している 2つの正規分布の大きさ (分散の比率 σ2ν2/σ2

ν1)の特定化 (分布の形状

の特定化)が難しい。なぜならば、リーマンショックや石油危機などの稀にしか生じな

いショックの確率分布の推定を如何にするのかが課題である。

18

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4.2 レジームスイッチ型ドリフト項モデル ( Regime Switching Stochastic

Trend Model )

もし構造変化がゆるやかなものではなく、石油ショックやリーマンショック等のよう

な外生的なショックにより、ある特定の時点で急激に引き起こされたものであるならば、

UC-RWモデルや UC-GMモデルでは前節で述べたように Perron and Wada (2009)の問

題点 (1)と (2)を克服できないと思われる。ここで提案するトレンドモデルは、トレンド

のドリフト項 µt を階段状に離散的にレジーム (局面)スイッチするので、複数の構造変

化点とその数を特定化するのに優れたモデルであると思われる。したがって、先にみた

UC-GMモデルのようにトレンドのショックの確率分布の形状を特定化する必要がない。

(しかし、本節のモデルは、予め構造変化の数に応じたモデルの設定が必要となる。)こ

のレジームスイッチ型トレンドモデルとして、以下のマルコフスイッチ型トレンドモデ

ルと平滑推移 (smooting transition)型トレンドモデルの 2つのモデルを導入し推定する。

(1) マルコフスイッチ型トレンドモデル (UC-MS model)

本モデルは Iiboshi and Wakita (2004)で提案され、式 (4.9)から式 (4.14)のように構

成される。

yt = τt + ct, (4.9)

τt = µt + τt−1 + ηt, (4.10)

µt =N∑

i=1

µi I(St = i), (4.11)

ct = φ1ct−1 + φ2ct−2 + εt, (4.12) ηt

εt

∼ i.i.d. N

0

0

,

σ2η 0

0 σ2ε

(4.13)

Pr(St = i | St−1 = i) = pi, i = 1, · · ·N (4.14)

ここで式 (4.11)と式 (4.14)が、新たに差し替えられた部分である。式 (4.11)の I(St = i)

は indicator functionで St = iの時に 1、それ以外は 0をとる関数である。また N は状

態の数をあらわしており、構造変化数はN − 1である。式 (4.14)は、状態 St がマルコ

フ性を有しており、piは状態 iが次の期にも変わらずに維持される遷移確率を示してい

る。ドリフト項 µt は UC-RWモデルや UC-GMモデルのような連続的確率変数ではな

19

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く、式 (4.11)で表される離散的確率変数であり、状態 Stが状態 St = 1から状態 St = N

へ 1つずつ移動するごとに、µtの値は µ1, · · ·µN に切り替わる。このモデルを UC-MS

(Markov Switching)モデルと呼ぶことにする。

本研究では、式 (4.14)のレジーム (状態 St)の遷移確率を以下のように 2つの場合を

想定して日本の実質 GDPを推定する。

(1) レジーム数 2 (可逆型)の場合 I(St = 1)

I(St = 2)

=

p 1 − p

1 − q q

I(St−1 = 1)

I(St−1 = 2)

(4.15)

(2) レジーム数 3 (不可逆型、2つの構造変化、S1 → S2 → S3 )の場合I(St = 1)

I(St = 2)

I(St = 3)

=

p 1 − p 0

0 q 1 − q

0 0 1

I(St−1 = 1)

I(St−1 = 2)

I(St−1 = 3

(4.16)

図 13、図 14、表 5と表 6は、日本の実質 GDPを 3つの種類の遷移確率行列から推定し

た結果である。図 13と表 5は、レジーム数 2の可逆型の遷移確率行列 (4.15)から推定

したトレンドと景気循環であり、図 14と表 6は、レジーム数 3の不可逆型の遷移確率

行列 (4.16)の推定結果である。これらの結果から、レジーム数 2の可逆型モデルでは明

確な構造変化の時期を特定するのは難しいが、レジーム数 3の不可逆型モデルでは 2つ

の構造変化の時期が特定できているように思える。図 14(c)の µtは UC-Dummyモデル

のものと非常に近い値であるのがわかる。この UC-MS-R3モデルによると第 1の構造

変化は 70Q1から 73Q4の間に生じており、第 2の構造変化は 91年 Q1から 97年 Q2ま

での幅広い期間で生じている。8 したがって、本稿 1節で触れた UC-Dummyモデルの

3つの構造変化の時期 (73Q4, 91Q1, 97Q2)は全く見当違いのものではないことの裏づけ

となるであろう。

また、図 15と表 6 (b)には、レジーム数 3の不可逆型の遷移確率行列 (4.16)で推定

した完全失業率の推定結果がある。図 15(c)を見ると、失業率におけるトレンドの構造

変化は、第 1次石油危機前の 70-71年とバブル崩壊後の 92年の時期に 2回ほど発生し

たように見える。

8あるいは、この広範囲の期間に複数の構造変化が生じているのかもしれないが、UC-MS-R3モデルはレジー

ム数が 3で制約されているので、このモデルでは判断はできない。より多くのレジーム数をもつモデルによる

推定が必要になるが、他方でレジーム数を増やしていくと推定の精度も落ちていくようである。

20

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[ 図 13 — 図 15 ]

[ 表 5 — 表 6 ]

(2) 平滑推移型トレンドモデル (UC-ST model)

平滑推移 (smooth transition)型のレジームスイッチモデルは Terasvirta (1994)により

提案された。本節では、3つのレジームをもつ平滑推移型トレンドモデルを使って日本

の GDPと失業率を推定しよう。このモデルは以下の式 (4.17)~(4.23)に示される。この

モデルを UC-STモデルと呼ぶことにする。

yt = τt + ct, (4.17)

τt = µt + τt−1 + ηt, (4.18)

µt = µ0 + µ1 G1(t, γ1, c1) + µ2 G2(t, γ2, c2), (4.19)

ct = φ1ct−1 + φ2ct−2 + εt, (4.20) ηt

εt

∼ i.i.d. N

0

0

,

σ2η 0

0 σ2ε

(4.21)

G1 =1

1 + exp[−γ1 (t/T − c1) ], t = 1 · · ·T, (4.22)

G2 =1

1 + exp[−γ2 (t/T − (c1 + c2) ) ], t = 1 · · ·T, (4.23)

このモデルで、平均成長率 µtは式 (4.19)で定義されているが、この値が µ0から µ1に、

次に µ2へと離散的に推移する過程は、関数G1(·)およびG2(·)により規定される。これ

らの関数Giの閾値は 0 ≤ Gi ≤ 1であり、式 (4.22)や (4.23)のようにロジスティック型

の推移関数が利用される。このロジスティック型の推移関数 G1 が、まず 0から 1へ推

移し、その後にG2が 0から 1へ推移することにより、平均成長率 µtの 3段階のレジー

ムスイッチを表現できる。 ( 4段階以降のレジームスイッチモデルを設定する場合は、

これと同様に関数G3 · · ·Gnを追加していけばよい。) 関数Gi(·)の係数 c1や (c1 + c2)

は、スイッチする時点 (の中心値)をあらわす。t/T が c1や (c1 + c2)と等しくなった時

点でGiは 0から 1へ推移する。γiはこの推移にかかる期間を表す係数であり、γiの値

が大きいほど短期間で推移する。この平滑推移型モデルとマルコフスイッチモデルの大

きな違いは後者はレジーム間が可逆的であるのに対し前者は不可逆的である点である。

21

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付加逆的である構造変化がどのくらいの期間をかけて新しいレジームへ移行するのか、

後者のモデルと違い、このモデルは推定できるのである。

このモデル推定結果が図 16と図 17および表 7である。

図 16は実質 GDP(SNA68)の推定結果であるが、パネル (c)を見ると UC-STモデ

ルの推定した平均成長率 µtがUC-Dummyモデルのそれと非常に近いことがわかる。こ

の図から 72年から 73年までの期間で最初のレジームスイッチが生じ (γ1 = 615)、次

のレジームスイッチはバブル崩壊の年の 91年から 97年までの 6年間にわたる長期の

レジームスイッチであったことがうかがえる (γ2 = 469) 9 。図 17は完全失業率の推定

結果である。このパネル (c)から UC-STモデルの推定結果は、自然失業率のはじめの

レジームスイッチは 1962年から 1967年の間におこり (γ1 = 484)、2つ目のレジームス

イッチは 92年から 97年にかけて長期に起きている (γ2 = 502)。失業率の結果について

は GDPと違って、UC-Dummyモデルや UC-MSモデルの推定したスイッチの時期と結

果が異なる点が興味深い。各パラメータの推定値については表 7に記した。

[ 図 16 - 図 17 ]

[ 表 7 ]

5 各モデルの比較と評価

本節では、今まで 11個の UCモデルを見てきた。これらの日本のマクロ時系列への

適用可能性を、情報量基準と一般的な分離法 (HPフィルタや BPフィルタ)との相関お

よび景気一致指数 (一致 CI)との相関から評価していく。

まず、情報量基準であるが、ベイズ推定の観点からの基準として、Deviance Information

Criterion (DIC)がある。 (Gelman et al. 2004) これは外挿予測の予測力が最良のモデルを

選ぶ基準であり、このDICの値が小さいほど予測力が高いモデルとされる。この情報量

基準からモデル選択について考察してみよう。10 各 UCモデルから日本の実質 GDP

9モデルのレジームスイッチの数を 4に増加したならば、この期間のレジームを 2つに識別するかもしれな

いが、本稿はそこまでは検証しなかった。次の課題としたい。10DIC とは Deviance Information Criterionの略であり、DIC = pD + D(θ) = 2D(θ) − D(θ)と定式化され

る。ここで D(θ)とは devianceで、D(θ) = −2 log{p(y | θ)} + 2 log{f(y)}であり、この式の p(y | θ)は尤度

関数であり、 f(y)はデータ y のみの関数で基準化するための項である。また、D(θ)はパラメータ θ の事後分

布にわたって算出された devianceの期待値であり D(θ) = E(D(y, θ | y) ≈ 1L

PLl=1 D(y, θl)である。ここで、

θl はパラメータの事後分布の l 番目のサンプリングであり LはMCMCのシミュレーションの回数である。他

22

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を推定した DICは表 8にあるが、DICの値は UC-GW(3)のモデルを選択している。し

かし、これはほぼ制約をかけていないモデルであり、データの情報のみで推定されたモ

デルである。図 11(b)を見ればわかるように、このモデルから抽出されたサイクル成分

を景気循環とみなすのは難しい。実際、表 8(a)の HPや BPフィルタから抽出されたサ

イクルや一致 CIとの相関係数を見ると極めて低い値である。

他方で、表 8(a)にあるように、HPフィルタとの相関が最も高いモデルはUC-MS-R3

であり、一致 CIとの相関が最も高いモデルはUC-Dummyモデルであった。UC-Dummy

モデルは完全失業率でも一致CIと相関が最も高かった。また、UC-RW(1)モデルやUC-

GM(1)モデルは、HPフィルタ、一致 CIおよび同一 UCモデルから抽出した失業率のサ

イクル成分の 3つの相関係数がともに高い値をとっている。また、同じく表 8(a)に示さ

れているように、これらのモデルから抽出されたサイクルの標準偏差はHPフィルタや

BPフィルタのものより 2倍ほど大きい。HPフィルタや BPフィルタではトレンド成分

がサイクル成分の一部を吸収している可能性をうかがわせる。11 図 18(a)には、各モ

デルから抽出された GDPのサイクル成分と対数化した一致 CIを描いた。この図を見る

と UC-Dummy、UC-GM、UC-MS-R3の各モデルのサイクル成分が一致 CIと共通の変

動 (comovement)をしている様子がうかがえる。図 9には、各 UCモデルのサイクル成

分の相関係数を記した。UC-Dummyモデルと相関が高いのは UC-STモデルであり、そ

の値は 0.85であった。UC-MS-R3モデルの 0.71がそれに次いだ。

次に、完全失業率であるが、HPフィルタとの相関が最も高いのはUC-GM(1)モデル

であるが、一致 CIとの相関は高くない。これは完全失業率は景気変動に対して遅行系

列であるのが理由かもしれない。実際、図 18(b)には各モデルの失業率のサイクル成分

の抽出結果と自然対数化した一致 CIを反転させたものを示しているが、この図からも

失業率のサイクルが景気より遅れているのが見て取れる。

以上のように、モデルの予測力を計測する情報量基準を使って、サイクルとトレン

ドの分離法を評価するのは適さないようである。DICのような情報量基準は、何ら制約

を付加しない自由度の高いモデルを選択してしまうが、このモデルから抽出したサイク

ル成分は一般的に景気循環と定義されているサイクルとは周期や振幅の観点から見ると

方で、pDはベイズ推定の観点から効率的なパラメータの数の尺度であり、model fittingの良さを表す尺度の意

味もあわせもつ。 (Spiegelhalter et al., 2002). この pDは pD = D(θ)−D(θ)から算出されるが、この式のD(θ)

はパラメータの点推定 (事後平均) θ から算出された deviance, D(θ) = D(y, θ(y)),である。11これとは反対の解釈として、HPフィルタや BPフィルタが正しくサイクルとトレンドを抽出しているなら

ば、上の UCモデルではトレンド成分をサイクル成分とみなしてしまう「見せかけのサイクル」が生じている

と考えることもできる。

23

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ほど遠いものである。したがって、政府 (内閣府)が公表している景気転換点が真であ

り、これと一致するサイクル成分が景気循環を正しく捕捉していると考えるならば、統

計的手法のみではサイクル成分とトレンド成分を一意に分離することは難しいと結論づ

けられる。一意に分離するためには、本稿で考察してきたような経済的な事前情報が必

要になる。たとえば、それは、 (1) 石油危機やリーマンショックなどのトレンドの構造

変化の時期であり、 (2) トレンドとサイクルの分散比であり (HPフィルタはここを制約

している。)、 (3) トレンドの分布の形状であり (もし正規分布でなく混合正規分布の

ような Fat-Tailであるならば)、 (4) サイクルの周期や振幅の大きさ (BPフィルタはここ

を制約している。)などである。 

[ 表 8 - 9 ]

[ 図 18 ]

6 結論

本稿で検証してきたように、実質GDPを代表とするマクロ経済変数をトレンド成分

と景気循環成分に分離する場合、例え同じ UC-URモデルでさえも一意的には特定化す

ることはできず、景気循環成分の周期の長短、振幅の大きさは、(1) Morley, Nelson, Zivot

(2003)の研究のようにトレンドとサイクルの 2つのショック間の相関関係、(2) 3.1節の

UC-RWモデルで見たようにトレンドのショックの分散の大きさ、(3)補論で説明するよ

うな景気循環成分に対する経済学モデルの制約の付加の有無、等に依存することが示唆

される。

さらに、Perron and Wada (2009)のような「急激な構造変化」を考慮した混合正規分

布をもつ UC-GMモデルで、日本の実質 GDPを検証したところ、トレンドのショック

σν の混合正規分布に利用される 2つの正規分布の分散比が予め特定化されていないと、

4.1節でみたように景気循環成分は周期が短く振幅が小さいMorley, Nelson, Zivot (2003)

の UC-URタイプと同様なものになるであろう。

以上のように、本検証結果によると先行研究が用いている統計的手法のみでは、一

意的にマクロ経済変数をトレンド成分とサイクル成分に分離をすることは難しく、一意

に分離するためには、経済学の観点からの事前情報が必要であることが示唆された。た

とえば、Band Passフィルタで一般にサイクルの周期として「1.5年から 8年」が設定さ

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れているが、これはアメリカの景気循環の研究から導出された事前情報であるし、HP

フィルタのスムージングパラメータ λの値も同様である。一意的に分離するための経済

学の観点からの事前情報として、以下の 2点が必要であろうと推察される。

1) トレンド (経済成長)成分とサイクル (景気循環)成分の 2成分のショックの分散の比

率 σ2ν/σ2

ε

この 2つの分散の比率は、たとえば、経済成長 (トレンド)の源泉である技術革新など

の実物ショックと景気循環を引き起こす金融ショックや需要ショックの大きさに依存す

ると思われるが、このショックの分散の推定には経済学的モデルなくして識別すること

はできないのではないかと思われる。この分散比の値は HPフィルタを利用するときに

は重要である。というのも、この分散比は、HPフィルタのスムージングパラメータ λ

の値となるものであり、通常、四半期データならば λ = 1600が利用されている。しか

し、トレンドとサイクルのショックの分散比は、各国、各系列、各期間でまちまちであ

り、HPフィルタの λは一律の値が使うべきではないと思われる。

2) トレンドのショック νt の分布の形状 (正規分布、あるいは Fat-Tailをもつ t分布や

混合正規分布など)

10~100年に1度の頻度の石油ショックやリーマンショックなどトレンドに大きな影響を

及ぼす要因も確率トレンドモデルであらわそうとすると、そのショックの確立分布は正

規分布で示すよりも下振れリスクをもつ裾が広い確率分布を採用するほうが望ましい。

しかし、その分布の形状がどのようなものなのか、10年~100年に 1度の頻度しか生じ

ないショックからは推定することは非常に難しいであろう。

本研究の最後では、レジームスイッチによるトレンドのドリフト項 (平均成長率)を

離散的に切り替えるモデルを取り込んだ分離法を検証した。構造変化点の数と時期を特

定化するには他の手法より優れていると思われるが、いまだ十分な検証がなされておら

ず今後の課題としたい。

A 補論

A.1 ニューケインジアンフィリプス曲線を入れた BN分離法

最後に、経済モデルであるニューケインジアンフィリプス曲線を取り入れた分離法

を紹介して、本稿を締めくくることとする。これは Basistha and Nelson (2007)によって

提案されたモデル (式 (A.1)~式 (A.6))であるが、興味深い推定結果となっている。

25

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yt = τt + ct, (A.1)

τt = µ + τt−1 + ηt, (A.2)

ct = φ1ct−1 + φ2ct−2 + εt, (A.3)

πt = πt + δct, (A.4)

πt = β0 + β1πset + β2πt−1 + επ,t, (A.5)

ηt

εt

επ,t

∼ i.i.d. N

0

0

0

,

σ2

η σηε ση,π

σεη σ2ε σπ,ε

σπ,η σπ,ε σ2π

(A.6)

ここで πt はインフレ率であり、式 (A.4)はニューケインジアンフィリプス曲線をあら

わす。また πt は non-gap part of inflationであり、output gap (潜在 GDPから実質 GDP

の乖離)を発生させないインフレ率である。πse は一般の社会人に対しておこなったア

ンケートから得た期待インフレ率の推計値である。このモデルは各ショックに相関を持

たせているので、BNタイプまたは UC-URタイプである。しかしながら、Basistha and

Nelson(2007)によれば、アメリカの実質 GDPに対して実証をおこなったところ、この

モデルから抽出された景気循環は BNタイプまたは UC-URタイプのような振幅が小さ

く周期が短いものにならず、トレンドと景気循環のショックを無相関と仮定する UCモ

デルのように振幅は大きく周期が長い景気循環となったと報告している。このように、

経済モデル (A.4)により景気循環 ctに制約を付加することでも、景気循環の特性を変更

することができる。

A.2 Hodrick-Prescott Filter(1997)によるデータ処理法

マクロ経済時系列 ytに対する HPフィルタから算出されるトレンド τtは、以下の式

により定義されたものである。

{ τt }Tt=1 = arg min

( T∑t=1

(yt − τt)2 + λT−1∑t=2

(∆τt+1 − ∆τt)2)

ここで、λはスムージングパラメータであり非負の値をもつ。λが 0に近い値ならば、

トレンド τtは yt へ近い値をとる。他方で λ → ∞になるにつれて、トレンド τtは直線

へ近づいていく。

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この式の 1階の条件は以下のようにあらわせる。

(yt − τt) = λ

{(τt+2 − 2τt+1 + τt) − 2(τt+1 − 2τt + τt−1) + (τt − 2τt−1 + τt−2)

}さらに、この 1階の条件は以下のように整理できる。

λτt+2 − 4λτt+1 + (1 + 6λ)τt − 4λτt−1 + λτt−2 = yt

これを行列表現に書き直すと

τ1

τ2

τ3

...

τT−2

τT−1

τT

=

IT + λ

1 −2 1 0

−2 5 −4 1

1 −4 6 −4 1...

......

......

1 −4 6 −4 1

1 −4 5 −2

0 1 −2 1

−1

y1

y2

y3

...

yT−2

yT−1

yT

となる。ただし、IT は T 行の大きさをもつ単位行列である。この式にマクロ経済時系

列 [y1, y2, · · · , yT−1, yT ]を代入して計算することで、HPフィルタによるトレンド τtを

導出できる。

B 参考文献

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表 1. UC-Dummy Model の事後分布

(a)日本の GDP(SNA68)の自然対数値 ( 1955Q4~2000年 Q4 ) 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.001) 0.001 0.000 0.000 0.000 0.001 0.001 0.001 1.168σε U(0, 0.1) 0.011 0.001 0.010 0.010 0.011 0.011 0.012 1.000µ1 N(0, 100) 0.022 0.000 0.021 0.022 0.022 0.022 0.022 3.497µ2 N(0, 100) 0.009 0.000 0.008 0.009 0.009 0.009 0.009 2.504µ3 N(0, 100) 0.005 0.001 0.004 0.005 0.005 0.006 0.007 2.504µ4 N(0, 100) 0.000 0.001 -0.002 0.000 0.000 0.001 0.002 1.017φ1 U(-0.95, 0.95) 0.830 0.063 0.695 0.789 0.830 0.875 0.937 1.004φ2 U(-0.95, 0.95) 0.117 0.064 -0.003 0.071 0.116 0.160 0.242 1.006

(b)日本の完全失業率 ( 1955Q4~2000年 Q4 ) 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.06) 0.0366 0.0202 0.0008 0.0191 0.0438 0.0543 0.0595 1.259σε U(0, 1) 0.0905 0.0097 0.0722 0.0834 0.0906 0.0980 0.1076 1.195µ1 N(0, 100) -0.0183 0.0065 -0.0303 -0.0233 -0.0176 -0.0134 -0.0059 1.006µ2 N(0, 100) 0.0163 0.0090 0.0021 0.0095 0.0159 0.0215 0.0351 1.328µ3 N(0, 100) 0.0471 0.0169 0.0159 0.0350 0.0495 0.0581 0.0780 1.194µ4 N(0, 100) 0.0825 0.0198 0.0460 0.0716 0.0803 0.0943 0.1255 1.029φ1 U(-0.95, 0.95) 0.9103 0.0376 0.8126 0.8925 0.9219 0.9389 0.9490 1.017φ2 U(-0.95, 0.95) 0.0601 0.0431 -0.0142 0.0332 0.0557 0.0830 0.1584 1.019

(1) MCMCの simulationとして、3つの chainをとり、1つの chainについて 30,000回のsimulationを行い、burn-inは 10,000回でその後の 20,000回をサンプリングした。したがって、事後分布として計 60,000個のサンプリングをおこなった。また、このサンプリングから平均値および標準偏差、四分位点のそれぞれについて算出した。

(2) Rは、Gelman-Rubin(1992)による収束診断の値であり、1に近いほど収束していることを示す。

30

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表 2. UC-0 Model の事後分布

(a) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 事前分布を ση ∼ U(0, 0.004)と設定。 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.004) 0.0021 0.0013 0.0000 0.0008 0.0022 0.0032 0.0039 1.527σε U(0, 0.1) 0.0135 0.0008 0.0120 0.0130 0.0135 0.0141 0.0151 1.096µ N(0, 100) 0.0159 0.0004 0.0153 0.0156 0.0158 0.0161 0.0168 2.553φ1 U(-0.95, 0.95) 0.9319 0.0165 0.8850 0.9258 0.9365 0.9438 0.9486 1.016φ2 U(-0.95, 0.95) 0.0806 0.0174 0.0580 0.0687 0.0765 0.0884 0.1258 1.040

(b) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 事前分布を ση ∼ U(0, 0.015)と設定。 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.015) 0.0133 0.0007 0.0120 0.0128 0.0133 0.0138 0.0147 1.0170σε U(0, 0.1) 0.0011 0.0009 0.0001 0.0003 0.0009 0.0016 0.0031 1.2210µ N(0, 100) 0.0130 0.0011 0.0109 0.0123 0.0130 0.0137 0.0150 1.0720φ1 U(-0.95, 0.95) 0.2800 0.4287 -0.7638 0.0286 0.4423 0.5945 0.8611 1.2929φ2 U(-0.95, 0.95) 0.1360 0.4567 -0.8450 -0.2221 0.2820 0.5208 0.7805 1.5791

(c)日本の完全失業率, 事前分布を ση ∼ U(0, 0.06)と設定。 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.06) 0.0048 0.0043 0.0001 0.0010 0.0034 0.0074 0.0142 1.443σε U(0, 1) 0.0976 0.0020 0.0930 0.0964 0.0981 0.0991 0.0999 1.000µ N(0, 100) 0.0003 0.0015 -0.0024 -0.0010 0.0002 0.0020 0.0025 4.270φ1 U(-0.95, 0.95) 0.9317 0.0164 0.8874 0.9248 0.9362 0.9435 0.9484 1.001φ2 U(-0.95, 0.95) 0.0731 0.0183 0.0479 0.0606 0.0694 0.0812 0.1205 1.059

(1) MCMCの simulationとして、3つの chainをとり、1つの chainについて 30,000回のsimulationを行い、burn-inは 10,000回でその後の 20,000回をサンプリングした。したがって、事後分布として計 60,000個のサンプリングをおこなった。また、このサンプリングから平均値および標準偏差、四分位点のそれぞれについて算出した。

(2) Rは、Gelman-Rubin(1992)による収束診断の値であり、1に近いほど収束していることを示す。

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表 3. UC-RW Model の事後分布

(a) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 事前分布を σν ∼ U(0, 0.001)と設定。 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.002) 0.0009 0.0006 0.0000 0.0003 0.0009 0.0015 0.0020 1.462σε U(0, 0.1) 0.0110 0.0007 0.0098 0.0105 0.0109 0.0114 0.0123 1.128σν U(0, 0.001) 0.0010 0.0000 0.0009 0.0010 0.0010 0.0010 0.0010 1.090φ1 U(-0.95, 0.95) 0.8611 0.0641 0.7126 0.8221 0.8726 0.9106 0.9457 1.255φ2 N(-0.95, 0.95) 0.1138 0.0608 0.0100 0.0708 0.1046 0.1508 0.2507 1.076

(b) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 事前分布を σν ∼ U(0, 0.01)と設定。 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.002) 0.0010 0.0006 0.0000 0.0005 0.0010 0.0015 0.0020 1.071σε U(0, 0.1) 0.0096 0.0009 0.0079 0.0091 0.0097 0.0102 0.0111 1.456σν U(0, 0.01) 0.0031 0.0006 0.0020 0.0027 0.0031 0.0035 0.0045 1.152φ1 U(-0.95, 0.95) 0.6825 0.1396 0.3646 0.6065 0.6942 0.7868 0.9103 1.645φ2 N(-0.95, 0.95) 0.1861 0.0884 0.0128 0.1271 0.1861 0.2469 0.3596 1.053

(c)日本の完全失業率, 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.06) 0.0010 0.0006 0.0000 0.0005 0.0010 0.0015 0.0020 1.239σε U(0, 1) 0.0957 0.0032 0.0881 0.0937 0.0963 0.0983 0.0998 1.018σν U(0, 0.06) 0.0073 0.0014 0.0045 0.0064 0.0074 0.0083 0.0097 1.909φ1 U(-0.95, 0.95) 0.9209 0.0272 0.8506 0.9103 0.9292 0.9400 0.9492 1.019φ2 N(-0.95, 0.95) 0.0278 0.0365 -0.0395 0.0041 0.0248 0.0496 0.1120 1.076

(1) MCMCの simulationとして、3つの chainをとり、1つの chainについて 30,000回のsimulationを行い、burn-inは 10,000回でその後の 20,000回をサンプリングした。したがって、事後分布として計 60,000個のサンプリングをおこなった。また、このサンプリングから平均値および標準偏差、四分位点のそれぞれについて算出した。

(2) Rは、Gelman-Rubin(1992)による収束診断の値であり、1に近いほど収束していることを示す。

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表 4. UC-GM Model の事後分布

(a) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 制約条件 σν2/σν1 = 1000, Pr(ν2) = 0.01 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.0002) 0.0001 0.0000 0.0000 0.0001 0.0002 0.0002 0.0002 1.052σε U(0, 0.1) 0.0113 0.0006 0.0101 0.0109 0.0112 0.0117 0.0125 1.011σν1 U(0, 0.0002) 0.0002 0.0000 0.0002 0.0002 0.0002 0.0002 0.0002 1.027φ1 U(-0.95, 0.95) 0.8843 0.0500 0.7626 0.8562 0.8958 0.9224 0.9472 1.001φ2 U(-0.95, 0.95) 0.0802 0.0522 0.0038 0.0432 0.0718 0.1080 0.1968 1.000

(b) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 制約条件 σν2/σν1 = 10, Pr(ν2) = 0.1 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.0002) 0.0001 0.0000 0.0000 0.0001 0.0002 0.0002 0.0002 1.077σε U(0, 0.1) 0.0114 0.0006 0.0102 0.0110 0.0114 0.0118 0.0127 1.026σν1 U(0, 0.0002) 0.0002 0.0000 0.0002 0.0002 0.0002 0.0002 0.0002 1.005φ1 U(-0.95, 0.95) 0.8883 0.0471 0.7820 0.8600 0.8990 0.9258 0.9480 1.003φ2 U(-0.95, 0.95) 0.0827 0.0497 0.0092 0.0443 0.0754 0.1111 0.1971 1.009

(c) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 制約条件 σν1 = 0.0001 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.0001) 0.0000 0.0000 0.0000 0.0000 0.0000 0.0001 0.0001 1.051σε U(0, 0.1) 0.0062 0.0005 0.0053 0.0059 0.0062 0.0065 0.0071 1.902σν2 U(0, 0.02) 0.0062 0.0007 0.0051 0.0057 0.0062 0.0066 0.0077 1.078φ1 U(-0.95, 0.95) -0.0925 0.1303 -0.3698 -0.1770 -0.0783 0.0038 0.1357 2.162φ2 U(-0.95, 0.95) -0.1191 0.1024 -0.3193 -0.1888 -0.1187 -0.0500 0.0822 1.356

Pr(ν2) Beta(1, 9) 0.4928 0.0822 0.3469 0.4344 0.4827 0.5467 0.6646 1.161

(d)日本の完全失業率, 制約条件 σν2/σν1 = 1000, Pr(ν2) = 0.01 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.06) 0.0002 0.0000 0.0001 0.0002 0.0002 0.0002 0.0002 1.275σε U(0, 1) 0.0946 0.0036 0.0870 0.0921 0.0950 0.0974 0.0998 1.005σν1 U(0, 0.06) 0.0002 0.0000 0.0002 0.0002 0.0002 0.0002 0.0002 1.036φ1 U(-0.95, 0.95) 0.9166 0.0302 0.8413 0.9032 0.9244 0.9384 0.9490 1.039φ2 U(-0.95, 0.95) -0.0100 0.0423 -0.0904 -0.0381 -0.0108 0.0149 0.0777 1.171

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表 5. UC-MS-R2 Model の事後分布

(a) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.002) 0.0013 0.0005 0.0003 0.0009 0.0014 0.0017 0.0020 1.031σε U(0, 0.1) 0.0128 0.0008 0.0113 0.0122 0.0127 0.0133 0.0144 1.323µ1 N(0, 1) 0.0217 0.0033 0.0164 0.0181 0.0226 0.0246 0.0261 7.801λ N(-0.01, 1)I(λ < 0) -0.0154 0.0053 -0.0214 -0.0190 -0.0175 -0.0095 -0.0052 3.425φ1 U(-0.95, 0.95) 0.9185 0.0325 0.8266 0.9065 0.9283 0.9416 0.9492 1.336φ2 U(-0.95, 0.95) 0.0850 0.0378 0.0295 0.0625 0.0768 0.1009 0.1822 1.435p1 Beta(19, 1) 0.8928 0.0544 0.7891 0.8503 0.8944 0.9396 0.9806 2.723p2 Beta(19, 1) 0.8768 0.0621 0.7343 0.8379 0.8900 0.9246 0.9626 1.527

(1) MCMCの simulationとして、3つの chainをとり、1つの chainについて 30,000回のsimulationを行い、burn-inは 10,000回でその後の 20,000回をサンプリングした。したがって、事後分布として計 60,000個のサンプリングをおこなった。また、このサンプリングから平均値および標準偏差、四分位点のそれぞれについて算出した。

(2) Rは、Gelman-Rubin(1992)による収束診断の値であり、1に近いほど収束していることを示す。

34

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表 6. UC-MS-R3 Model の事後分布

(a) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.003) 0.0013 0.0009 0.0000 0.0004 0.0011 0.0021 0.0029 1.386σε U(0, 0.1) 0.0107 0.0006 0.0097 0.0104 0.0107 0.0111 0.0119 1.005µ1 N(0.02, 1) 0.0224 0.0006 0.0213 0.0219 0.0224 0.0229 0.0236 2.904µ2 N(0.01, 1) 0.0095 0.0010 0.0078 0.0086 0.0098 0.0104 0.0108 4.945µ3 N(0.005, 1) 0.0007 0.0028 -0.0042 -0.0016 0.0015 0.0025 0.0045 2.877φ1 U(-0.95, 0.95) 0.8445 0.0637 0.7087 0.8055 0.8521 0.8931 0.9428 1.003φ2 U(-0.95, 0.95) 0.1155 0.0668 0.0027 0.0654 0.1086 0.1579 0.2577 1.008p Beta(19, 1) 0.9777 0.0148 0.9410 0.9700 0.9807 0.9887 0.9970 1.008q Beta(19, 1) 0.9799 0.0148 0.9438 0.9728 0.9830 0.9903 0.9979 1.044

(b) 日本の完全失業率 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.06) 0.0015 0.0008 0.0002 0.0008 0.0016 0.0022 0.0029 1.246σε U(0, 1) 0.0957 0.0032 0.0883 0.0937 0.0964 0.0983 0.0998 1.004µ1 N(0.02, 1) -0.0244 0.0006 -0.0253 -0.0248 -0.0245 -0.0241 -0.0228 1.735µ2 N(0.01, 1) 0.0169 0.0012 0.0142 0.0160 0.0172 0.0175 0.0189 3.074µ3 N(0.005, 1) 0.0576 0.0026 0.0531 0.0559 0.0576 0.0599 0.0622 3.380φ1 U(-0.95, 0.95) 0.9202 0.0270 0.8477 0.9066 0.9277 0.9408 0.9493 1.001φ2 U(-0.95, 0.95) 0.0386 0.0325 -0.0145 0.0158 0.0341 0.0567 0.1163 1.006p Beta(19, 1) 0.9740 0.0182 0.9269 0.9651 0.9784 0.9871 0.9966 1.008q Beta(19, 1) 0.9816 0.0126 0.9490 0.9754 0.9841 0.9908 0.9977 1.005

(1) MCMCの simulationとして、3つの chainをとり、1つの chainについて 30,000回のsimulationを行い、burn-inは 10,000回でその後の 20,000回をサンプリングした。したがって、事後分布として計 60,000個のサンプリングをおこなった。また、このサンプリングから平均値および標準偏差、四分位点のそれぞれについて算出した。

(2) Rは、Gelman-Rubin(1992)による収束診断の値であり、1に近いほど収束していることを示す。

35

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表 7. UC-ST-R3 Model の事後分布

(a) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値, 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.002) 0.0010 0.0006 0.0001 0.0005 0.0011 0.0015 0.0020 1.174σε U(0, 0.1) 0.0108 0.0006 0.0097 0.0103 0.0107 0.0111 0.0120 0.999µ1 N(0, 1) 0.0220 0.0003 0.0215 0.0218 0.0220 0.0222 0.0225 1.265µ2 N(-0.01, 1) -0.0128 0.0007 -0.0140 -0.0134 -0.0127 -0.0123 -0.0118 2.116µ3 N(-0.01, 1) -0.0098 0.0060 -0.0262 -0.0101 -0.0083 -0.0070 -0.0052 1.300φ1 U(-0.95, 0.95) 0.8408 0.0641 0.7019 0.7992 0.8459 0.8912 0.9426 1.004φ2 U(-0.95, 0.95) 0.1042 0.0666 -0.0135 0.0567 0.1025 0.1470 0.2416 1.049γ1 U(10, 1000) 615.4 249.1 127.2 401.7 644.3 838.2 986.9 1.020γ2 U(10, 1000) 468.9 297.9 7.8 218.4 469.8 727.3 973.1 1.492c1 U(0.15, 0.85) 0.3950 0.0047 0.3828 0.3926 0.3953 0.3978 0.4028 1.079c2 U(0.15. 0.85) 0.4577 0.0763 0.3714 0.3907 0.4387 0.5160 0.6660 2.007

(b) 日本の完全失業率 

係数 事前分布 平均 標準偏差 2.5%点 25%点 50%点 75%点 97.5%点 R

ση U(0, 0.06) 0.0362 0.0176 0.0046 0.0203 0.0386 0.0533 0.0594 1.404σε U(0, 1) 0.0902 0.0093 0.0704 0.0841 0.0907 0.0971 0.1065 1.150µ1 N(0, 1) -0.0353 0.0195 -0.0654 -0.0486 -0.0415 -0.0232 0.0023 1.292µ2 N(0.01, 1) 0.0605 0.0167 0.0272 0.0508 0.0602 0.0699 0.0969 1.093µ3 N(0.01, 1) 0.0260 0.4793 -1.3435 0.0407 0.0571 0.0728 1.0569 1.105φ1 U(-0.95, 0.95) 0.9120 0.0368 0.8160 0.8973 0.9240 0.9388 0.9489 1.029φ2 U(-0.95, 0.95) 0.0360 0.0506 -0.0613 0.0048 0.0334 0.0638 0.1377 1.077γ1 U(10, 1000) 484.4 289.4 35.7 227.3 488.5 726.5 974.2 1.008γ2 U(10, 1000) 502.9 290.8 37.2 242.4 496.7 752.2 980.5 1.005c1 U(0.15, 0.85) 0.3200 0.2470 0.1524 0.1709 0.1954 0.2927 0.8252 1.301c2 U(0.15. 0.85) 0.6184 0.1164 0.2570 0.5936 0.6378 0.6884 0.7801 1.1767

(1) MCMCの simulationとして、3つの chainをとり、1つの chainについて 30,000回のsimulationを行い、burn-inは 10,000回でその後の 20,000回をサンプリングした。したがって、事後分布として計 60,000個のサンプリングをおこなった。また、このサンプリングから平均値および標準偏差、四分位点のそれぞれについて算出した。

(2) Rは、Gelman-Rubin(1992)による収束診断の値であり、1に近いほど収束していることを示す。

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表 8. 各モデルの比較(a) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値,

標準 サイクル成分の相関係数

モデル D(θ) pD DIC 偏差 HP BP 失業率 (+2) 一致 CI1. UC-Dum -2380.5 1124.7 -1255.8 0.030 0.504 0.308 -0.367 0.7822. UC-0 (1) -1920.4 1397.0 -523.4 0.243 0.108 0.082 -0.866 -0.3493. UC-0 (2) -1056.0 12.0 -1043.9 0.009 0.029 0.059 -0.3364. UC-RW(1) -2065.8 940.1 -1125.7 0.027 0.619 0.435 -0.630 0.6255. UC-RW(2) -2113.1 995.6 -1117.4 0.014 0.590 0.447 0.1176. UC-GM(1) -2729.4 573.3 -2164.9 0.034 0.579 0.385 -0.612 0.6077. UC-GM(2) -2736.7 529.7 -2195.5 0.032 0.613 0.414 0.4318. UC-GM(3) -3189.5 785.0 -2396.6 0.005 0.452 0.161 0.0009. UC-MS-R2 -1970.1 490.5 -1449.6 0.108 0.176 0.129 -0.28610. UC-MS-R3 -2079.9 1243.0 -837.0 0.023 0.784 0.485 -0.203 0.65011. UC-ST-R3 - 2084.8 920.1 -1164.7 0.026 0.794 0.532 -0.602 0.777HPフィルタ  - - - 0.015 1 0.749 -0.660 0.492BPフィルタ - - - 0.013 0.749 1 -0.355 0.384

(b) 日本の完全失業率,標準 相関係数

モデル D(θ) pD DIC 偏差 HP BP 実質 GDP(-2) 一致 CI1. UC-Dum -836.4 1226.3 389.9 0.346 0.452 0.127 -0.367 -0.6562. UC-0 (1) -1688.8 1227.7 -461.1 0.886 0.271 0.381 -0.866 0.0033. UC-RW(1) -2271.1 2892.8 621.7 0.307 0.671 0.489 -0.630 -0.3814. UC-GM(1) -2607.2 190.5 -2416.8 0.245 0.810 0.380 -0.612 -0.4265. UC-MS-R3 -1918.0 633.3 -1285.1 0.380 0.513 0.224 -0.203 -0.6476. UC-ST-R3 -759.7 682.2 -77.6 0.239 0.664 0.347 -0.602 -0.610HPフィルタ  - - - 0.152 1 0.347 -0.660 -0.365BPフィルタ - - - 0.363 0.347 1 -0.355 -0.067

注 )(1) DICとはDeviance Information Criterionであり、DIC = pD +D(θ) = 2D(θ)−D(θ)である。ここでD(θ)とは devianceで、D(θ) = −2 log{p(y | θ)}+2 log{f(y)}である。p(y | θ)は尤度関数であり、f(y)は基準化のための項である。 (2) pDは pD = D(θ)−D(θ)である。なお、D(θ)はパラメータの点推定 (事後平均値)θから算出された deviance D(θ) = D(y, θ(y))である。 (3) D(θ)はパラメータ θの事後分布にわたって算出された devianceの期待値でありD(θ) = E(D(y, θ | y) ≈ 1

L

∑Ll=1 D(y, θl)である。ここで Lは MCMCのシミュレー

ションの回数である。 (4) 標準偏差の値は、各UCモデルで抽出したサイクルの標準偏差を指す。 (5) 一致 CIとの相関係数は推定期間が 1980Q1から 2000Q4の期間の値である。 (6)失業率 (+2)は、同一の UCモデルから推定された失業率のサイクルの 2期遅れの値との相関係数である。実質 GDP(-2)はこれとの同様な値である。

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Page 40: マクロ経済変数のトレンドとサイクルの分離法の検 …Abstract For thirty years since Beveridge and Nelson (1981) decomposition, many decomposition of trend and

表 9. 各UCモデルのサイクル成分の相関係数

(a) 日本の GDP(SNA68)の自然対数値,相関係数

モデル UC-Dum UC-0(1) UC-RW(1) UC-GM(1) UC-MS-R31. UC-Dum 12. UC-0 (1) 0.111 13. UC-RW(1) 0.378 0.196 14. UC-GM(1) 0.199 0.176 0.927 15. UC-MS-R3 0.710 0.105 0.317 0.229 16. UC-ST-R3 0.850 0.073 0.416 0.254 0.946HPフィルタ  0.504 0.108 0.619 0.579 0.784BPフィルタ 0.308 0.082 0.435 0.385 0.485

(b) 日本の完全失業率,相関係数

モデル UC-Dum UC-0(1) UC-RW(1) UC-GM(1) UC-MS-R31. UC-Dum 12. UC-0 (1) 0.401 13. UC-RW(1) 0.671 0.660 14. UC-GM(1) 0.625 0.490 0.951 15. UC-MS-R3 0.965 0.330 0.738 0.710 16. UC-ST-R3 0.777 0.627 0.835 0.837 0.766HPフィルタ  0.452 0.271 0.671 0.810 0.513BPフィルタ 0.127 0.381 0.489 0.380 0.224

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