トヨタ自動車株式会社 トヨタ・ハイブリッド・システ...

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1 トヨタ自動車株式会社 トヨタ・ハイブリッド・システムⅡ(THS-Ⅱ) 通称名 車両型式 エンジン型式 モータ型 適用時期 出 典 資 料 シエンタ DAA-NHP170G 1NZ-FXE P510 2015.7~ 修理書(RM32A0J) 新型車解説書(NM32A0J) 配線図集(EM32A0J) 取扱書(M52E50) レスキューマニュアル 1 概 要 1) ハイブリッド・システムの概要 搭載されているハイブリッド・システムは,1NZ-FXE(1.5L)エンジンと,主にジェネレータの働きをす るMG1(モータ・ジェネレータNo.1)・主にモータの働きをするMG2(モータ・ジェネレータNo.2)を内蔵 した FF 駆動方式のハイブリッド・ビークル・トランスアクスルと,インバータや昇圧コンバータなどを一 体にしたパワー・コントロール・ユニットと,HVバッテリ及び,ハイブリッド・ビークル・コントロー ル・コンピュータにより構成された,THS-Ⅱ(T OYOTA・H ハイブリッド ybrid・S ystem-Ⅱ)を採用し,ハイブリッ ド・ビークル・コントロール・コンピュータにより,以下の 5 モードを走行状況に応じて最適に制御する。 〈THS-Ⅱ作動モード〉 1 エンジンの動力を機械的に車輪に伝えて走行するモード。 2 エンジンを停止しモータのみで走行するモード。 3 エンジン及びモータの動力を車輪に伝えて走行するモード。 4 エンジンの動力で発電を行うモード。 5 減速時にモータにより発電を行いエネルギ回収を行うモード。 ⑴ THS-Ⅱシステムの起動(図-1) スマート・エントリ&スタート・システム装着車では,プッシュ・スタート・スイッチ * とブレーキ・ペダ ルの操作で電源ポジションの切り替え及び THS-Ⅱの起動・停止を可能とした。ブレーキ・ペダルを踏ま ずにプッシュ・スタート・スイッチ * を押すと,IG・OFF → ACC・ON → IG・ON → IG・OFF の順に電源ポ ジションが切り替わる。 THS-Ⅱの起動は,ブレーキ・ペダルを踏みながらプッシュ・スタート・スイッチ * を押すことにより行う。 THS-Ⅱ起動操作を行うと同時に走行可能(READY)インジケータ・ランプは点滅(システム・チェック中) し,走行条件が成立すると READY インジケータ・ランプは点灯状態となり READY・ON 状態であること を表示し,走行可能となる。 THS-Ⅱ起動中にプッシュ・スタート・スイッチ * を再 度押すとシステムが停止する。 スマート・エントリ&スタート・システム非装着車では, 通常のイグニッション・スイッチ操作にて電源を切り替 え,IG・ONの状態から奥へイグニッション・キーを回 すことにより THS-Ⅱが起動する。 図- 1 THS-Ⅱシステムの起動

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ト ヨ タ 自 動 車 株 式 会 社

トヨタ・ハイブリッド・システムⅡ(THS-Ⅱ)通 称 名 車 両 型 式 エンジン型式 モータ型 適 用 時 期 出 典 資 料

シエンタ DAA-NHP170G 1NZ-FXE P510 2015.7~

修理書(RM32A0J)新型車解説書(NM32A0J)配線図集(EM32A0J)取扱書(M52E50)レスキューマニュアル

1 概 要

1) ハイブリッド・システムの概要

搭載されているハイブリッド・システムは,1NZ-FXE(1.5L)エンジンと,主にジェネレータの働きをするMG1(モータ・ジェネレータNo.1)・主にモータの働きをするMG2(モータ・ジェネレータNo.2)を内蔵したFF駆動方式のハイブリッド・ビークル・トランスアクスルと,インバータや昇圧コンバータなどを一体にしたパワー・コントロール・ユニットと,HVバッテリ及び,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータにより構成された,THS-Ⅱ(T

ト ヨ タ

OYOTA・Hハイブリッド

ybrid・Sシ ス テ ム

ystem-Ⅱ)を採用し,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータにより,以下の5モードを走行状況に応じて最適に制御する。

〈THS-Ⅱ作動モード〉

1 エンジンの動力を機械的に車輪に伝えて走行するモード。2 エンジンを停止しモータのみで走行するモード。3 エンジン及びモータの動力を車輪に伝えて走行するモード。4 エンジンの動力で発電を行うモード。5 減速時にモータにより発電を行いエネルギ回収を行うモード。

⑴ THS-Ⅱシステムの起動(図-1)

スマート・エントリ&スタート・システム装着車では,プッシュ・スタート・スイッチ*とブレーキ・ペダルの操作で電源ポジションの切り替え及びTHS-Ⅱの起動・停止を可能とした。ブレーキ・ペダルを踏まずにプッシュ・スタート・スイッチ*を押すと,IG・OFF→ACC・ON→IG・ON→IG・OFFの順に電源ポジションが切り替わる。THS-Ⅱの起動は,ブレーキ・ペダルを踏みながらプッシュ・スタート・スイッチ*を押すことにより行う。THS-Ⅱ起動操作を行うと同時に走行可能(READY)インジケータ・ランプは点滅(システム・チェック中)し,走行条件が成立するとREADYインジケータ・ランプは点灯状態となりREADY・ON状態であることを表示し,走行可能となる。THS-Ⅱ起動中にプッシュ・スタート・スイッチ*を再度押すとシステムが停止する。スマート・エントリ&スタート・システム非装着車では,通常のイグニッション・スイッチ操作にて電源を切り替え,IG・ONの状態から奥へイグニッション・キーを回すことによりTHS-Ⅱが起動する。 図-1 THS-Ⅱシステムの起動

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トヨタ

*:スマート・エントリ&スタート・システム装着車

参考  走行中は,プッシュ・スタート・スイッチの操作はキャンセルされる。なお,止むを得ず走行中にハイブリッ

ド・システムを停止する必要がある場合には,プッシュ・スタート・スイッチをすばやく3回以上押すか,2

秒以上長押しすることで,強制的にハイブリッド・システムを停止すると共に電源ポジションがACCになる。

⑵ 発進・走行及び車両停止

イ THS-Ⅱによる走行

発進及び走行

A/T車と同様にクリープ現象を設けている。基本的に発進はMG2による駆動力のみで行い,エンジン効率のよい走行状態に達すると,エンジンによる走行に切り替える。走行中は走行状態に応じてMG2とエンジンの駆動力の配分を最適になるよう変化させ走行する。加速時など大きな駆動力を必要とする場合,ハイブリッド・バッテリから電力を供給しMG2の駆動力で,エンジンの駆動力をアシストする。車速25km/h未満かつエンジン停止での走行時,通報音を鳴らして車両の接近を知らせて注意を促す。

エンジン・ブレーキ 下り坂走行などエンジン・ブレーキが必要な場合には,シフト・ポジションをBにすることでエンジン・ブレーキ効果をより強く得ることができる。

減 速

ブレーキ・ペダルを踏み込むことにより,電子制御ブレーキ・システムとTHS-Ⅱよる回生ブレーキとの協調制御を行う。エンジン暖機後かつハイブリッド・バッテリの充電状態が良好な場合には車速が低下もしくは負荷が低下すると,エンジンが停止する。

車両停止THS-Ⅱ起動状態(車両停止時)でプッシュ・スタート・スイッチを押す*1もしくはイグニッション・キーをACC・ONに切り替える*2と,電源ポジションがIG・OFF*1もしくはACC*2に移行しTHS-Ⅱは停止する。

*1:スマート・エントリ&スタート・システム装着車 *2:スマート・エントリ&スタート・システム非装着車

注意  駐車時は必ずプッシュ・スタート・スイッチを押してTHS-Ⅱを停止させる。

エンジンが掛かっていなくてもTHS-Ⅱは起動しているため,エンジンが始動することがある。

ロ EVドライブ・モード

深夜の住宅密集地での低騒音化や屋内駐車場,車庫内での排気ガス低減化を目的として,エンジン作動を制限し,MG2のみで数百m程度までの走行が可能なEVドライブ・モードを設定した。EVドライブ・モードは以下の作動条件を満たした状況で,EVドライブ・モード・スイッチを押すことで移行する。作動条件が成立していない状況でEVドライブ・モード・スイッチが押された場合,単音ブザーを吹鳴し,EVドライブ・モードへの移行は許可されない。

EVドライブ・モード作動条件

ハイブリッド・システムが高温(炎天下での駐車後,登坂又は高速走行後など)でない。ハイブリッド・システムが低温(低外気温時に長時間車両を放置した場合等)でない。エンジン暖機運転中でない。(エンジン冷却水温が約0℃より高い場合)

SOC(Sステイト

tate・oオブ

f・Cチ ャ ー ジ

hage:充電状態)が約50%以上。車速が約55km/h未満。(エンジン冷却水温により異なる)アクセル・ペダルの踏み込み量が一定値以下。デフロスタやヒータなどの使用による空調システムからのエンジン始動要求が発生していない。

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トヨタ

ハ EVドライブ・モードのキャンセル

EVドライブ・モード走行中に以下のいずれかが成立した場合,EVドライブ・モードが自動的にキャンセルされる。

EVドライブ・モード・キャンセル条件*

SOCが約45%以下となる。車速が約55km/h以上となる。(エンジン冷却水温により異なる)アクセル・ペダルの踏み込み量が一定値以上となる。ハイブリッド・システムの温度が上昇する。(基準値以上となる)デフロスタやヒータなどの使用によりエンジンの始動が必要となった場合。

* この条件以外でもシステム上キャンセルされる場合がある。

ニ 走行モード

ドライバのしこうに合わせてノーマル・モード又はECOモードの走行モードを選択することにより,アクセル開度に対するハイブリッド・システム出力特性の変更を可能とした。ECO・MODEスイッチを押すことにより,ECOモードへの切り替えを行う。また,ECO・MODEスイッチを再度押すことによりノーマル・モードに復帰する。ECOモードの選択状態を表示するために,コンビネーション・メータ内にECOモード・インジケータ・ランプを設定した。

走行モード 制  御ノーマル・モード 運転のしやすさを最適に制御する。

ECOモード アクセル開度に対する駆動力の発生を穏やかに制御すると共に,エアコンを燃費優先の制御とすることで,より低燃費に運転できるようにする。

2) 安全への配慮

⑴ 高電圧安全システム(図-2)

THS-Ⅱでは,『高電圧系の隔離』・『高電圧回路の遮断』の2点を高電圧に対する安全の基本的な考え方とした。注意  THS-Ⅱでは,最大DC520Vの高電圧を使用しており,取り扱いを誤ると感電・漏電などの原因につながる

場合がある。高電圧回路の点検・整備を行う場合は必ず修理書を参照すること。

図-2 高電圧安全システム

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イ 高電圧系の隔離

高電圧回路は+・-の両極ともに,車体と絶縁している。高電圧機器・高電圧配線にはケース及びカバーなどを設定した。高電圧機器ケースと機器内高電圧導電部を絶縁構造とした。ロ 高電圧回路の遮断

高電圧系の整備などで『高電圧系の隔離』が保持できない状況において,ハイブリッド・バッテリからの電流を遮断するシステムを設定した。① 手動遮断装置ハイブリッド・バッテリに設定したサービス・プラグ・グリップを取り外すことにより,ハイブリッド・バッテリ内部回路を物理的に切り離し,高電圧回路を遮断する。② 自動遮断装置ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータが下記の各信号を受信した場合,SMR(システム・メイン・リレー)を遮断する。

IG・OFF連動遮断 運転者のIG・OFF操作に連動して,SMRを遮断することにより,非運転時にはハイブリッド・バッテリより外部に高電圧の出力が行なわれない。

インタ・ロック・スイッチOFF時遮断

サービス・プラグ・グリップとインバータ・ターミナル・カバー及びパワー・ケーブル(フレーム・ワイヤ)入力部に接続状態を検知するインタ・ロック・スイッチを設定した。インタ・ロック・スイッチOFFによりSMRを遮断する。

衝突検出時遮断 衝突事故の際の衝撃を検知してSMRを遮断する。衝撃の検知はエアバッグ・センサAss'yからの信号により行う。

③ 自動遮断に連動した高電圧停止機能自動遮断装置に連動し,高電圧が車両に残留しないようにハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータが以下の制御を行う。

ジェネレータの停止 インバータの作動を停止させ,ハイブリッド・バッテリ以外の電源であるジェネレータによる発電を停止する。

パワー・コントロール・ユニット内コンデンサ電荷の強制放電

SMRの遮断を行っても,パワー・コントロール・ユニット内のコンデンサに電荷が残留し高電圧状態が継続するため,自動遮断後にコンデンサの残留電荷を放電させて電圧の低下を行う。

衝突検出時遮断 衝突事故の際の衝撃を検知してSMRを遮断する。衝撃の検知はエアバッグ・センサAss'yからの信号により行う。

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2 システム構成

1) 構成部品の配置(図-3,4)

図-3 構成部品の配置①

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図-4 構成部品の配置②

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2) システム・ブロック図

図-5 システム・ブロック図

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3) 構成部品の機能一覧

構成部品 機 能

ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータ

・アクセル開度,シフト・ポジション及び各種センサからの信号を基に運転状態に応じたエンジン出力及びMG2出力を算出し,各コンピュータに出力要求を送信することで駆動力を制御する。

・HVバッテリの状態(SOC値,電圧,電流値,温度など)を監視する。

・DC-DCコンバータの出力電圧を可変制御する。・インバータ・ウォータ・ポンプの吐出量を可変制御する。・バッテリ・クーリング・ブロワの風量を可変制御する。

1NZ-FXEエンジンハイブリッド・システムに対応した高効率アトキンソン・サイクル・エンジンで,走行のための動力と発電のためのエネルギを発生する。

P510型ハイブリッド・ビークル・トランスアクスル

MG1 エンジン出力により発電を行う。エンジン始動時にはスタータの役割をする。

MG2エンジン出力を補助し,駆動力を高める働きをする。また,発進時などはMG2の動力で走行する。更に減速時には回生ブレーキによる発電を行う。

動力分割機構 エンジン出力を駆動輪への動力と,発電のためにMG1を駆動する動力に分割する。

モータ・リダクション機構 MG2の回転を減速し,駆動トルクの増幅を行う。

パワー・コントロール・ユニット

MG・ECUハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータからの出力要求値に従い,インバータ及び昇圧コンバータを駆動しMG1・MG2を制御する。

インバータ 高電圧の直流電流と三相交流電流の変換を行う。

昇圧コンバータHVバッテリの電圧をDC144Vから最大DC520Vへ昇圧する。また,MG1・MG2で発電された交流をインバータにより直流に変換したDC520VをHVバッテリに充電するため,DC144Vへ降圧する。

DC-DCコンバータ 高電圧の直流を約DC14Vに降圧し,補機類や補機バッテリへ供給する。

HVバッテリ発進時や加速時などにMG2へ電力を供給する。MG1により発電した電力や減速時にMG2により回生発電した電力を蓄える。

SMR(システム・メイン・リレー) ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータからの信号により,HVバッテリからの高電圧回路の接続と遮断を行う。

サービス・プラグ・グリップ 点検・整備時に取り外すことでHVバッテリの高電圧回路を遮断する。

バッテリ・ボルテージ・センサ HVバッテリの状態信号(電圧,電流値,バッテリ温度)をハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータに送信する。

インバータ・ウォータ・ポンプ インバータ,昇圧コンバータ及びDC-DCコンバータを冷却するために,冷却水を循環させる。

バッテリ・クーリング・ブロワ HVバッテリを適切な温度に保つ。

アクセルレータ・ペダル・センサ アクセル開度を検出し,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータへ出力する。

シフト・レバー・ポジション・センサ シフト・ポジションを検出し,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータへ出力する。

補機バッテリ温度センサ DC-DCコンバータの出力電圧を制御するために,補機バッテリの周辺温度を検出する。

コンビネーション・スイッチ

EVドライブ・モード・スイッチ MG2のみでの走行状態となるEVドライブ・モードに切り替える。

ECO・MODE スイッチ 走行モードをECOモードに切り替える。

エンジン・コントロール・コンピュータハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータからのエンジン出力要求値に従い,エンジン・コントロール・システムを制御する。

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構成部品 機 能

エア・コンディショナ・アンプリファイアAss'yモータツキ・コンプレッサ回転速度制御指示信号・エンジン始動要求信号をハイブリッド・ビークル・コンピュータに送信しエア・コンディショナ制御を行う。

ブレーキ・ブースタAss'y(マスタ・シリンダツキ)

スキッド・コントロール・コンピュータ

制動時,必要な回生ブレーキ力を算出してハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータへ送信すると共に,油圧ブレーキ力を制御する。TRC又はVSC作動時,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータへ要求トルクを送信し,駆動力を抑制する。

エアバッグ・コンピュータAss'y 衝突時,エアバッグ展開信号をハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータへ送信する。

コンビネーション・メータ

ハイブリッド・システム・インジケータ ハイブリッド・システムの出力や回生状況を指針表示する。

READYインジケータ・ランプ 運転可能状態を表示する。

EVドライブ・インジケータ・ランプ EV走行中に点灯する。

チェック・エンジン・ウォーニング・ランプ エンジン制御システム異常時,不具合に応じて点灯する。

マスタ・ウォーニング・ランプ システム異常時,不具合に応じて点灯する。

マルチ・インフォメーション・ディスプレイ

ECOモード・インジケータ・ランプ

ECOドライブ・モードの選択状態を表示する。

EVモード・インジケータ・ランプ

EVドライブ・モードの選択状態を表示する。

・エネルギ・モニタにより,ハイブリッド・システムの出力状態を表示する。

・EVドライブ・モードのリジェクト時やキャンセル時のメッセージを表示する。

・システムの不具合内容に応じたメッセージを表示する。

3 構成部品の構造・機能

1) ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータ

ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータは,アクセル開度,シフト・ポジション及び各種センサからの信号をもとに算出した運転者の要求出力と,バッテリ・ボルテージ・センサからのHVバッテリ状態信号(電圧,電流値,バッテリ温度)により算出したSOC値にもとづき,運転状態に応じたトータル出力を求め,各コンピュータに要求信号を出すことで駆動力を制御する。2) パワー・コントロール・ユニット(図-6)

MG・ECU,インバータ,昇圧コンバータ及びDC-DCコンバータを一体構造とした小型・軽量なパワー・コントロール・ユニットを採用した。インバータ・ターミナル・カバー及びパワー・ケーブル入力部に取付状態を検知するインタ・ロック・スイッチを設定した。インバータ・ターミナル・カバーを取り外す又はパワー・ケーブルを切り離すとインタ・ロック・スイッチがOFFとなり,SMR(システム・メイン・リレー)を遮断する。パワー・コントロール・ユニットには,エンジン冷却システムから独立したHVクーリング・システムを設定した。冷却水により走行用・昇圧用のIPM(I

インテリジェント

ntelligent・Pパ ワ ー

ower・Mモ ジ ュ ー ル

odule),を直接冷却する構造とし作動時の放熱性を高めることで,パワー・コントロール・ユニットの小型化に貢献している。

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図-6 パワー・コントロール・ユニット

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⑴ MG・ECU

パワー・コントロール・ユニット内に設置され,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータからの出力要求値に従い,走行用・昇圧用のIPMを作動させることで,インバータと昇圧コンバータの制御を行う。また,MG・ECUはインバータの出力電流値,電圧,パワー・コントロール・ユニット内各部の温度及び大気圧などの車両制御に必要な情報を,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータへ送信している。インバータと昇圧コンバータの制御により,HVバッテリからの直流電流をMG1及びMG2を駆動するために三相交流電流に昇圧・変換してそれぞれに供給する。また,MG1及びMG2がジェネレータとして作動した場合,エンジン動力によりMG1で発電された交流電流,回生ブレーキによりMG2で発電された交流電流をHVバッテリに充電するために直流電流に変換・降圧する。⑵ インバータ

インバータに使用されるMG1・MG2それぞれの走行用IPMは,6個のIGBT(Iインシュレーテッド

nsulated・Gゲ ー ト

ate・Bバ イ ポ ー ラ

ipolar・Tト ラ ン ジ ス タ

ransistor)により三相ブリッジ回路を構成している。インバータは,半導体スイッチング素子としてIGBTをON・OFF駆動することで,直流電流を三相交流電流に変換する。⑶ 昇圧コンバータ

昇圧コンバータのリアクトルは,流れている電流を維持しようとする特性と,電流の変化を妨げようとする特性を持っている。昇圧コンバータは,この特性を利用することで,HVバッテリ電圧のDC144Vを最大DC520Vまで昇圧してインバータへ供給する。また,MG1及びMG2により発電されインバータにより直流に変換された最大DC520Vを,HVバッテリを充電するためにDC144Vへ降圧する。昇圧コンバータによる昇圧作動は,下記に示す通り,IGBT(2)のON/OFFによりHVバッテリ電圧を昇圧する。①IGBT(2)がONするとリアクトル電流が流れる。(図-7)

図-7 IGBT(2)ON時

②IGBT(2)をOFFするとリアクトル電流は流れなくなり,リアクトルの電流を維持しようとする特性により起電力が発生することで昇圧し,インバータに電流を供給する。(最大DC520V)(図-8)

図-8 IGBT(2)OFF時

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⑷ DC-DCコンバータ

車両のランプやオーディオなどの補機類及び各コンピュータは,DC12Vを電源にしている。パワー・コントロール・ユニットに内蔵されたDC-DCコンバータは,HVバッテリ電圧のDC144VをDC11.5Vから15.0Vに降圧することで,補機類への電力供給及び補機バッテリの充電を行う。

3) ハイブリッド・ビークル・トランスアクスル

⑴ ハイブリッド・ビークル・トランスアクスル(図-9)

P510型ハイブリッド・ビークル・トランスアクスルは,主にHVバッテリの充電や駆動用電力の供給を行うMG1(Motor・Generator・No.1)とエンジンの補助動力源として状況に応じてエンジン出力をアシストするMG2(Motor・Generator・No.2)を内蔵すると共に,エンジン動力をMG1と出力軸に分割する動力分割機構(動力分割プラネタリ・ギヤ),MG2動力を増幅し出力軸に伝達するモータ・リダクション機構(リダクション・プラネタリ・ギヤ),カウンタ・ギヤ対・ファイナル・ギヤ対からなる減速機構及びディファレンシャル機構で構成されたギヤ・トレーンの採用により,クラストップの低燃費と優れた動力性能を両立した電気式無段変速機である。二つのプラネタリ・ギヤのリング・ギヤ部,カウンタ・ドライブ・ギヤ及びパーキング・ロック・ギヤを一体化した複合ギヤの採用により,大幅な小型・軽量化を図ると共に,高精度歯面加工,低損失ベアリング及びかき上げ式潤滑機構などの採用により,駆動損失の低減による低燃費化及び低騒音を実現した。

図-9 ハイブリッド・ビークル・トランスアクスル

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⑵ MG1及びMG2(図-10)

MG1は,HVバッテリの充電やMG2の駆動用電力を供給すると共に,エンジン始動用のスタータ機能も担っている。また,エンジン回転速度を下げエンジンをスムースに停止させる。MG2は,エンジンの補助動力源として状況に応じて単独で動作したり,エンジンの出力をアシストし,スムースな発進及び加速など優れた動力性能を実現している。また,回生ブレーキ作動時には車両の運動エネルギを電気エネルギに変換しHVバッテリを充電する。①ステータ・コイルの三相巻線に三相交流電流を流すとモータ内に回転磁界が発生する。この回転磁界をロータの回転位置,速度に合わせて制御することで,ロータに置かれた永久磁石が回転磁界に引かれトルクが発生する。発生するトルクは電流の大きさにほぼ比例し,回転速度は交流電流の周波数で制御する。また,回転磁界とロータ磁石の角度を適切に制御することで高回転まで高いトルクを効率よく発生させることができる。②MG1及びMG2ではロータ内の永久磁石の適正配置により,リラクタンス・トルク*を有効に利用することで,ロータの回転力を増大させ駆動トルクの向上を図った。③発電時にはロータが回転することにより磁界が発生し,ステータ・コイルに電流が発生する。* リラクタンス・トルク:ステータ・ロータ間ギャップの磁気抵抗の変化により発生するトルク。

図-10 MG1発電イメージ

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⑶ 回転センサ(レゾルバ)(図-11)

①MG1及びMG2の高効率制御に不可欠な磁石位置を高精度で検出するために,信頼性の高いコンパクトなレゾルバ式の回転センサを使用している。②センサのステータには3タイプのコイルが内蔵され,出力コイルSと出力コイルCは電気的に90°ずれて配置されている。③このセンサは,励磁コイルAに一定の周波数で交流電流を流しているため,ロータの回転速度に関わらず絶えず一定の周波数をコイルSとコイルCに出力している。そして,楕円形をしたロータの回転によりステータとロータのギャップが変化することで,コイルSとコイルCの出力波形のピーク値がロータ位置に対応した変化をする。④MG・ECUは,これらのピーク値を常に検知し,そのピーク値をつないで仮想波形に置き換える。ロータの絶対位置はコイルSとコイルCの値の差から算出し,回転方向はコイルSの仮想波形とコイルCの仮想波形の位相差から判断し,回転速度は一定時間内のロータ位置の変化量から算出する。

図-11 回転センサ

⑷ 温度センサ

①MG1及びMG2それぞれに温度センサを設定し,ステータ温度を検出している。②ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータは,これらの温度センサからの信号をもとにMG1とMG2を最適に制御する。

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⑸ 動力分割機構及びモータ・リダクション機構(図-12)

動力分割プラネタリ・ギヤとリダクション・プラネタリ・ギヤそれぞれのリング・ギヤ部,カウンタ・ドライブ・ギヤ及びパーキング・ロック・ギヤを一体にした複合ギヤの採用により,大幅な小型・軽量化を実現した。動力分割機構は,エンジンの動力を動力分割プラネタリ・ギヤの働きによりMG1を発電機として駆動する動力と,車輪を駆動する動力に分割している。また,エンジン始動時にはMG1の動力をエンジンへ伝えることでMG1をスタータとして機能させる。モータ・リダクション機構は,リダクション・プラネタリ・ギヤの働きにより,MG2の回転を減速し駆動力を増幅することで,MG2の小型・軽量化と共に高出力・高トルク化を図っている。

図-12 動力分割機構及びモータ・リダクション機構

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① 動力分割機構

エンジンの動力は,動力分割機構によりMG1を発電機として駆動する動力(電気的動力)と,車輪を駆動する動力(機械的動力)に分割される。インプット・シャフトから入力されたエンジン動力は,動力分割プラネタリ・ギヤのプラネタリ・キャリヤからピニオン・ギヤを介して,MG1に接続されたサン・ギヤと,アウトプット(ホイール)に接続されたリング・ギヤへ伝達される。② モータ・リダクション機構(図-13)

一般的にモータは,小型化されると発生トルクが減少してしまうため,リダクション・プラネタリ・ギヤを組み合わせることにより,MG2の回転を減速させることでトルクを増大させている。また,MG2は各ギヤを介して駆動輪と機械的に直結しているため,駆動輪から伝わる回転は増速されてMG2を高回転で駆動し,エネルギ回生率を向上している。

図-13 モータ・リダクション機構

4) アクセルレータ・ペダル・センサ

アクセル・ペダル踏み込み量を電気信号として取り出すことのできるホール素子を使用した,非接点式のアクセルレータ・ペダル・センサを採用した。アクセル・ペダル踏み込み量が変化すると,ホール素子内の印加電流の流れに対する磁界の角度(強さ)が変化する。この磁界の変化に対して発生する電圧の変化を,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータへアクセル・ペダル踏み込み量信号として送る。また,出力特性の異なる2重系のセンサとして信頼性を確保している。

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5) HVバッテリ

⑴ HVバッテリ(図-14)

HVバッテリ・モジュール,バッテリ・ボルテージ・センサ,バッテリ・クーリング・ブロワ及びハイブリッド・バッテリ・ジャンクション・ブロックに取り付けられたSMR(システム・メイン・リレー)などを一つのケースに最適に格納することで,コンパクト化を図ると共に,メンテナンス性に優れた構造としている。高電圧回路の遮断を行うサービス・プラグ・グリップを設定し,整備作業時の安全性を確保している。

図-14 HVバッテリ

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⑵ バッテリ・ボルテージ・センサ(電池監視ユニット)

バッテリ・ボルテージ・センサは,HVバッテリの状態(電圧,電流値,バッテリ温度),ブロワ・モータ回転速度(周波数)及び高電圧系統の絶縁異常を検出し,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータへ送信している。バッテリ・ボルテージ・センサの機能

HVバッテリ状態信号の検出ハイブリッド・システムの制御及びHVバッテリの充電状態(SOC値:State・of・Charge)の演算に必要なHVバッテリ状態信号(電圧,電流値,バッテリ温度)を検出する。

ブロワ・モータ回転速度(周波数)の検出 バッテリ・クーリング・ブロワAss'yのフィードバック制御に必要なブロワ・モータ回転速度(周波数)を検出する。

高電圧回路の漏電検出 バッテリ・ボルテージ・センサに内蔵した絶縁抵抗低下検出器により高電圧回路の漏電(絶縁抵抗)を検出する。

ハイブリッド・ビークル・コンピュータとの通信

上記において検出された各状態信号をデジタル化し,ハイブリッド・ビークル・コンピュータAss'yにシリアル通信で送信する。

⑶ HVバッテリ・クーリング・システム(図-15)

HVバッテリに設定されたHVバッテリ温度センサとHVバッテリ吸気温度センサからの信号をもとに,バッテリ・クーリング・ブロワAss'yを制御することでHVバッテリを適切な温度に保っている。バッテリ・クーリング・ブロワAss'yの冷却風量は,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータからの駆動信号により,HVバッテリ温度に対して最適に制御されており高い冷却性能を実現している。HVバッテリ・インテーク・フィルタNO.1をバッテリ・クーリング・ブロワAss'y前の吸気口に設定した。コンビネーション・メータAss'y内のマルチ・インフォメーション・ディスプレイ内に「駆動用電池の冷却部品のメンテナンスを販売店で受けてください」と表示された場合は,HVバッテリ・フィルタの清掃が必要となる。

図-15 HVバッテリ・クーリング・システム

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6) HVクーリング・システム(図-16)

HVクーリング・システムは,エンジン冷却用クーリング・システムから冷却水経路を独立させて,ハイブリッド・システム専用のHVラジエータ,インバータ・ウォータ・ポンプ及びインバータ・リザーブ・タンクなどを設定することで,インバータ,昇圧コンバータ,DC-DCコンバータを冷却する水冷式のクーリング・システムとした。ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータは,冷却水,パワー・コントロール・ユニット内各部の温度をもとに,インバータ・ウォータ・ポンプを3段階に可変制御すると共に,冷却水温度が設定値以上になるとクーリング・ファンの駆動要求信号をエンジン・コントロール・コンピュータへ送信する。

図-16 HVクーリング・システム

7) インバータ・ウォータ・ポンプ(図-17)

インバータ,昇圧コンバータ及びDC-DCコンバータを冷却するために,冷却水を循環させる。インバータ・ウォータ・ポンプの吐出量は,ハイブリッド・ビークル・コンピュータからのデューティ信号により,3段階に可変制御される。

図-17 インバータ・ウォータ・ポンプ

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4 制御概要

1) ハイブリッド・システム制御

各種センサからの信号により算出した運転者の要求出力と,HVバッテリの充電状態をもとに,トータル出力を算出する。このトータル出力に応じたエンジン駆動力,MG1発電量及びMG2駆動力の出力要求値を算出し,エンジン・コントロール・コンピュータ及びMG・ECUに要求信号を送信する。2) 電池状態の監視

バッテリ・ボルテージ・センサからの信号をもとに,HVバッテリのSOC値や高電圧回路の漏電の監視を行う。3) HVクーリング・システム制御

冷却水,パワー・コントロール・ユニット内各部の温度をもとに,インバータ・ウォータ・ポンプを制御することでインバータ,昇圧コンバータ及びDC-DCコンバータを冷却する。4) HVバッテリ・クーリング・ブロア制御

HVバッテリに設定されたHVバッテリ温度センサとHVバッテリ吸気温度センサからの信号をもとに,バッテリ・クーリング・ブロワを制御することでHVバッテリを適切な温度に保つ。5) 電子制御ブレーキとの協調制御

減速中にスキッド・コントロール・コンピュータは必要な回生ブレーキ力を算出し,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータに送信する。この際,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータは実際の回生ブレーキ値をスキッド・コントロール・コンピュータに送信し,スキッド・コントロール・コンピュータはこれにもとづき,油圧ブレーキ力を制御する。6) SMR(システム・メイン・リレー)制御

電源ポジションの遷移に連動してSMRを駆動し,HVバッテリからの高電圧回路の接続と遮断を行う。7) 衝突時の電源遮断

エアバッグ・センサからのエアバッグ展開信号を検知した場合,高電圧回路を遮断するためSMRをOFFにする。8) DC-DCコンバータ制御

ランプ,オーディオなどの補機類や各コンピュータへの電力供給及び補機バッテリを充電するために,DC144VをDC14Vまで降圧する。9) フェイルセーフ

故障を検知した場合その内容により,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータ内の標準値を利用して制御を継続するか,ハイブリッド・システムを停止する。

5 THS-Ⅱの作動

1) THS-Ⅱシステム

⑴ システム起動(エンジン始動時)

ブレーキ・ペダルを踏みながらプッシュ・スタート・スイッチを押す(スマート・エントリ&スタート・システム装着車)もしくはイグニッション・キーをIG・ONより更に奥へ回す(スマート・エントリ&スタート・システム非装着車)と,ハイブリッド・ビークル・コントロール・コンピュータはハイブリッド・システムをチェックした後,システム起動させる。SOC値低下時にはMG1により発電しHVバッテリを充電するため,またエンジン冷間時にはエンジンの暖

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機を行うためにエンジンを始動する。エンジンの始動はHVバッテリの電力を用いて,エンジンのスタータとしての機能をもつMG1が行う。

図-18 エンジン始動時

⑵ 停止時の充電(図-19)

停車中(Pポジション)のSOC値低下時は,エンジンの動力によりMG1を駆動し発電を行うことでHVバッテリを充電する。

図-19 停止時の充電

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⑶ 発進・軽負荷走行(モータ走行)(図-20)

通常時の発進は,HVバッテリからの電力によりMG2を駆動することで走行する。低速走行時や緩やかな坂を下っているときなどの軽負荷走行時もエンジンを停止し,MG2で走行することにより低燃費化を図る。

図-20 発進・軽負荷走行(モータ走行)

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⑷ 定常走行(エンジン&モータ走行)(図-21)

定常走行時,エンジン動力は動力分割機構で2経路に分割され,一方は駆動力として車輪に伝達される。もう一方はMG1を駆動して発電を行い,その電力によりMG2を駆動することでエンジン動力を補助し,低燃費化を図る。

図-21 定常走行(エンジン&モータ走行)

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⑸ 加速(エンジン&モータ走行)(図-22)

加速時は,エンジン出力を上げてエンジン動力を駆動力として車輪に伝達すると共に,動力分割機構を介してエンジン動力をMG1に伝達し発電を行い,その電力とHVバッテリからの電力を使用したMG2の駆動力を加えて加速を行う。

図-22 加速(エンジン&モータ走行)

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⑹ 減速及び制動(図-23)

減速時(アクセルOFF時)は,車輪から伝わる動力によりMG2を回転させて発電を行うことで,運動エネルギを電気エネルギに変換してHVバッテリに回収する。制動時は,ブレーキ・ペダル操作量に応じた制動力を得られるように,電子制御ブレーキ・システムと協調制御しながらエネルギ回収量を決定する。

図-23 減速及び制動

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⑺ リバース走行(モータ走行)(図-24)

リバース走行時は,HVバッテリからの電力によりMG2を前進時の逆方向に駆動することで後退する。SOC値が低下している場合はエンジンを駆動させ,MG1で発電された電力を駆動力として使用する。

図-24 リバース走行(モータ走行)

6 点検・整備

1) ハイブリッド・システムの点検整備時の注意

①高電圧回路に関わる点検・整備を行うエンジニアには労働安全衛生法 第59条並びに労働安全衛生規則 第36条により特別教育の受講が義務付けられている。

②高電圧回路のワイヤ・ハーネス・コネクタは,オレンジ色のハーネスに接続されたコネクタで統一してある。また,HVバッテリを始め高電圧に関わる部品には[高電圧]のコーション・ラベルがはり付けしてある。これらの配線や部品には不用意に手を触れない。③高電圧系の作業中は車両に[高電圧作業中・触るな]の表示を行うなど,ほかのエンジニアに注意を喚起する。(図-25)

図-25 注意喚起

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④絶縁手袋は,必ず使用前に図の方法にて,ひび,割れ,破れ,そのほか損傷がないことを確認する。また,湿潤した絶縁手袋は使用しない。(図-26)

図-26 絶縁手袋の確認方法

⑤作業時はシャープペンシルやスケールなど落下して短絡のおそれのある金属製品を身に付けない。⑥高電圧系統の点検・整備を行う場合は,絶縁手袋の着用並びにサービス・プラグ・グリップの取り外しなど,感電防止措置を確実に実施する。また,取り外したサービス・プラグ・グリップは,作業中にほかのエンジニアが誤って接続することがないようにポケットに入れて携帯する。(図-27)注意  不具合が発生する可能性があるため,サービス・プラグ・グリップを取り外した状態でREADY・ONにしな

い。

図-27 サービス・プラグ・グリップの取り外し

⑦サービス・プラグ・グリップを抜いてから高電圧のコネクタや端子に触れるまで10分間の時間を確保する。10分経過後インバータ部にて0V確認を行う。(図-28)参考  インバータ内の高電圧コンデンサが放電するための時

間である。

図-28 0V確認

⑧高電圧結線系の作業を行う場合は,工具にビニール・テープを巻き絶縁処理をしてから使用するか,絶縁工具を使用して作業を行うこと。⑨絶縁被覆のない高電圧端子に触れるときは,事前に絶縁手袋を着用し,テスタで電圧が0Vであることを確認する。

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⑩高電圧のコネクタや端子は取り外し後,直ちに絶縁テープで絶縁処置を施す。(図-29)

図-29 絶縁処置

⑪高電圧のネジ止め端子は規定トルクで確実に締め付ける。トルク不足・過大共に不具合の原因となる。⑫高電圧系の作業後,サービス・プラグ・グリップを接続する前に部品や工具の置き忘れ,高電圧端子の締め付け及びコネクタ接続状態など再確認する。2) エンジン・ルーム点検整備時の注意

メータ内のREADYランプ点灯時は,エンジンが自動的に始動・停止を行うため,エンジン・ルームの点検を行う場合は,必ずIG・OFFにしてから作業を行う。3) ハイブリッド・バッテリAss'y処理時の注意

交換などで不要になったハイブリッド・バッテリAss'yはメーカ指定の回収ルートにより確実に返却する。注意  適切に処理されずにハイブリッド・バッテリAss'yが投棄又は放置された場合,感電事故が発生する場合があ

る。

取り外したハイブリッド・バッテリAss'yは水の掛かる場所に放置しないこと。発熱による火災の恐れがある。

ハイブリッド・バッテリAss'yは販売店を通じて必ず回収を行う。

4) 補機バッテリ電圧の点検

下記の要領にしたがって補機バッテリの電圧点検を行う。①サーフェイス充電分を取り除くために,IG・OFFにてヘッド・ライトのスイッチ(Hiビーム)を30秒程度ONにする。

②ヘッド・ライトのスイッチをOFFにする。③下表に従って,ターミナル間の補機バッテリ電圧を測定する。

点検端子 点検条件 基準値 対応方法補機バッテリ・プラス端子

-補機バッテリ・マイナス端子

・液温20℃・IG・OFF

12.0V以上 補機バッテリ良好

12.0V以下 基準値以下の場合は補機バッテリを充電する

5) DC-DCコンバータ機能点検(図-30,31)

①AC/DC400Aプローブを補機バッテリ・プラス・ラインに取り付ける。②READY・ONにし,補機バッテリに流れ込む電流値が10A以下になるまで放置する。

図-30 DC-DCコンバータ機能点検①

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③READY・ON状態でヘッド・ライトHi,ブロワ・モータHi及びデフォッガONにする。④下表に従って充電及び電圧を点検する。注意  基準値外の場合は,インバータAss'y(コンバータ付

き)を交換する。

図-31 DC-DCコンバータ機能点検②

項目 点検端子 点検条件 基準値

補機バッテリからの持ち出し電流 補機バッテリ・プラス・ライン READY・ON(ヘッド・ライトHi)(ブロワ・モータHi)(デフォッガON)

0A以下(補機バッテリからの持ち出し

がない)

補機バッテリ電圧補機バッテリ・プラス端子

-補機バッテリ・マイナス端子

13.0~15.0V

6) 補機バッテリ上がり時の処置(救援端子12V)(図-32,33)

注意  ・急速充電器は絶対に使用しない。

・救援端子を使用してバッテリ上がりの他車を救援することはできない。

参考  ・補機バッテリ上がり時は次のような現象となる。

・IG・ONにしてもメータが表示しない

・ハイブリッド・システムが起動しない

・ヘッド・ランプが暗い

・ホーンの音が小さい

・マルチ・インフォメーション・ディスプレイに“補機バッテリ(始動用)充電不足 取扱書を確認ください”

が表示される

①シフト・レバーをPポジションにし,パーキング・ブレーキを掛ける。②IG・OFFにする。③エンジン・ルーム・リレー・ブロックNO.1のカバーを取り外す。④救援用端子のカバーを開ける。 図-32 補機バッテリ上がり時の処置①

⑤救援車の12Vバッテリと自車をブースタ・ケーブルを使用して図の順番で接続する。

図-33 補機バッテリ上がり時の処置②

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⑥救援車のエンジンを始動し,エンジン回転を少し高めに保持して,約5分間自車の補機バッテリを充電する。⑦救援車のエンジン回転を保持したまま,いったんIG・ONにしてからREADY・ONにし,ハイブリッド・システムを起動する。注意  ハイブリッド・システムが起動したら直ちにブースタ・ケーブルを接続の逆手順で切り離す。

参考  ・補機バッテリが上がったり,交換などでターミナルを脱着した場合は,アイドル学習が必要となるためガ

ソリン・エンジンの自動停止が行われないことがある。

・補機バッテリが復帰してもハイブリッド・システムを起動できない(READY・ONしない)場合は,シフ

ト・レバーをPポジションにし,一度IG・OFFした後,再度READY・ON操作を行う。

・READY・ONできず,マルチ・インフォメーション・ディスプレイに“ハイブリッド充電量低下のためシス

テム停止 Pレンジにして再始動”が表示される場合は,HVバッテリの放電が考えられる。

7) ハイブリッド・バッテリ上がり時の処置(図-34)

注意  HVバッテリ上がり時の専用ウォーニング・ランプはない。マスタ・ウォーニング・ランプとマルチ・イン

フォメーション・ディスプレイでの異常表示となる。

参考  HVバッテリ上がり時は次のような状態となる。

・ハイブリッド・システムが起動しない

・ダイアグ・コードP3000-388又は389が出力される。

・マルチ・インフォメーション・ディスプレイに“ハイブリッド充電量低下のためシステム停止 Pレンジに

して再始動”が表示される。

THSチャージャを使用してHVバッテリを充電するため,販売店に相談する。

図-34 ハイブリッド・バッテリ上がり時の処置

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8) インバータ冷却液交換要領(図-35,36,37)

①カウル・トップ・ベンチレータ・ルーバCTR NO.2切り離し。

図-35 インバータ冷却液交換要領①

②ラジエータ・ドレイン・コック・プラグにホース(内径9mm)を取り付け,コックを緩めて冷却液を抜き取り,ドレイン・コック・プラグを閉じる。警告  ・冷却液(インバータ用)が熱い状態のときは,リザー

ブ・タンク・キャップ及びドレイン・コック・プラ

グを外さない。

・液体と蒸気が圧力によって飛び出し,やけどのおそ

れがある。図-36 インバータ冷却液交換要領②

③ドレインより抜き取った冷却液量を計測する。④インバータ・リザーブ・タンクより冷却液を補充する。⑤外部診断器「DST-i」を接続し,画面の指示に従い操作を行い「HV」⇒「アクティブテスト」⇒「ウォータポンプ」を選択し,インバータ・ウォータ・ポンプを作動させる。参考  整備モードにいれることでも,インバータ・ウォータ・ポンプを作動させることができる。(整備モードは次

項目にて記載)

⑥インバータ・リザーブ・タンクFULL付近で水位を保つように冷却液を補充しながら,インバータ・ウォータ・ポンプを約1分間作動させてその後1分間停止させる。

図-37 インバータ冷却液交換要領③

基準  3回程度繰り返して“インバータ・ウォータ・ポンプの作動音が小さくなる”及び“インバータ・リザーブ・タ

ンクからのぞいて気泡がなくなる”状態になれば,冷却系統のエア抜きは完了となる。

参考  インバータ・ウォータ・ポンプは空転が約5秒続くと保護制御が働き,約15秒間停止と約4秒運転をくり返し,

冷却水が補充されると連続運転に自動復帰する。

インバータ・リザーブ・タンクに冷却液を補充しすぎると,インバータ・ウォータ・ポンプを停止させたと

きに,冷却水があふれることがある。

⑦エア抜きが完了したら,インバータ・リザーブ・タンクのFULLまで冷却液を補充し,インバータ・リザーブ・タンクを取り付ける。注意  排出した冷却液は回収して容量を測定し,補充時に同容量以上補充されたことを確認する。

⑧冷却液漏れ点検

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9) HVバッテリ・インテーク・フィルタNO.1点検(図-38)

図-38 HVバッテリ・インテーク・フィルタNo.1点検

①助手席シート下にあるハイブリッド・バッテリ・インテーク・ダクトNo.3のツメ4箇所のかん合を外し,ハイブリッド・バッテリ・インテーク・ダクトから取り外す。②ツメ4箇所のかん合を外し,HVバッテリ・インテーク・フィルタNo.1をハイブリッド・バッテリ・インテーク・ダクトから取り外す。③HVバッテリ・インテーク・フィルタNo.1の汚れ,詰まりを目視点検する。参考  ・HVバッテリ・インテーク・フィルタNo.1に汚れ,詰まりがある場合は,清掃又は新品に交換する。

・HVバッテリ・インテーク・フィルタNo.1が破れている場合は,新品に交換する。

④汚れ,詰まりがある場合は,エア・ダスタを使用して,HVバッテリ・インテーク・フィルタNo.1を清掃する。注意  ・清掃は,吸気下流側からエアを吹き付ける。

・エアを吹き付ける際,HVバッテリ・インテーク・フィルタNo.1のフィルタ部を破損するおそれがあるため,

エア・ダスタを近づけすぎない。

参考  清掃しても著しく汚れている及び破れた場合は,新品に交換する。

⑤清掃後,復元する。注意  マルチ・インフォメーション・ディスプレイに“駆動用電池の冷却部品のメンテナンスを販売店で受けてくだ

さい”が表示された場合,ダイアグ・コード記憶の有無にかかわらずダイアグ・コードを消去する。(学習値

をリセットするため)

10) 整備モード

エンジン暖機状態でHVバッテリの充電状態が良好な場合には,停車中にエンジンを自動停止する。このため点火時期の点検などで停車中でもエンジンの連続運転が必要なときは,整備モード[2WD(排ガス測定用)]にする。TRCを採用しているため,スピードメータ・テスタなどで前輪のみを回転させる場合は,整備モード[2WD(排ガス測定用)]又は整備モード[2WD(TRC禁止用)]に移行してTRCを解除する必要がある。

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⑴ 整備モードと主な使用目的

整備モード 主な使用目的 制御内容

“整備モード”[2WD(排ガス測定用)]

・点火時期点検などのエンジン調整,車両検査時のアイドル点検CO/HC点検など

・スピードメータ・テスタ,2輪シャシ・ダイナモメータでの試験など

・エンジン強制アイドリング(シフト・ポジションP時)・TRC装置の作動解除

“整備モード”[2WD(TRC禁止用)]

・スピードメータ・テスタ,2輪シャシ・ダイナモメータでの試験など ・TRC装置の作動解除

⑵ 整備モードへの移行操作(DST-iを使用する場合)(図-39)

ブレーキを踏まずにプッシュ・スタート・スイッチを2回押す,もしくはイグニッション・キーを回してIG・ONにし,DST-iの「HV」項目の作業サポートより整備モードを選択し,移行させたい整備モードを選択する。

図-39 整備モードへの移行操作

⑶ 整備モード[2WD(排ガス測定用)]への移行操作(DST-iを使用しない場合)

・IG・ONにし,60秒以内に下記の操作を行う。①シフト・ポジションPでアクセル・ペダルを2回全開にする。②左足でブレーキ・ペダルを踏んだ状態でシフト・ポジションNにしてアクセル・ペダルを2回全開にする。③左足でブレーキ・ペダルを踏んだ状態でシフト・ポジションPにしてアクセル・ペダルを2回全開にする。注意  アクセル・ペダルの操作は,アクセル・ペダルの全閉から全開を一回とする。

④整備モードに移行し,マルチ・ディスプレイに“整備モード”が表示される。⑤ブレーキ・ペダルを踏みREADY・ONする。READYランプが点灯し,エンジンが連続運転となる。⑥整備モードの解除はIG・OFFにする。⑷ 整備モード[2WD(TRC禁止用)]への移行操作(DST-iを使用しない場合)

・IG・ONにし,60秒以内に下記の操作を行う。①シフト・ポジションPでアクセル・ペダルを3回全開にする。②左足でブレーキ・ペダルを踏んだ状態でシフト・ポジションNにしてアクセル・ペダルを3回全開にする。③左足でブレーキ・ペダルを踏んだ状態でシフト・ポジションPにしてアクセル・ペダルを3回全開にする。注意  アクセル・ペダルの操作は,アクセル・ペダルの全閉から全開を一回とする。

④整備モードに移行し,マルチ・ディスプレイに“認証モード”が表示される。⑤ブレーキ・ペダルを踏みREADY・ONする。⑥整備モードの解除はIG・OFFにする。

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7 ハイブリッド車特有の作動など

1) ハイブリッド・バッテリの充電について

ガソリン・エンジンの動力による充電や回生ブレーキにより,ハイブリッド・バッテリが充電されるため,車外からの充電は必要ない。しかし,車両を長時間放置すると少しずつ放電するため,少なくても2~3か月に一度,約30分間又は16kmほど運転が必要である。シフト・ポジションがNのときは,ハイブリッド・バッテリへの充電が行われないため,車両停止時は必ずPにする。2) ガソリン・エンジンの自動停止について

車両状態に応じて,ガソリン・エンジンは自動的に始動・停止する。ただし,次の状態では自動停止しないことがある。①ガソリン・エンジン暖気中②ハイブリッド・バッテリ充電時③ハイブリッド・バッテリの温度が高いとき,又は低いとき④暖房をかけているとき⑤ハイブリッド・バッテリ冷却用吸入口のフィルタにほこりがつまっているとき3) 回生ブレーキについて

シフト・レバーがD又はRで走行中に,アクセル・ペダルから足を離したとき,又はブレーキ・ペダルを踏んだときに車の運動エネルギを電気エネルギに変換し,ハイブリッド・バッテリへ充電すると共に減速力を得ることができる。4) EV走行インジケータ・ランプについて(図-40)

ガソリン・エンジン停止中や,電気モータのみで走行しているときに,EV走行インジケータ・ランプが点灯する。

図-40 EV走行インジケータ・ランプ

5) 車両接近通報装置

ガソリン・エンジンが停止した状態での走行時,車両の接近を周囲の人に知らせるため,車速に応じた音階で音を鳴らす。車速が約25km/hを超えると消音する。スイッチ操作でも消音することができる。6) ハイブリッド車の特有の音と振動について

ハイブリッド車は,READYインジケータが点灯して走行可能な状態でも,通常の車のようにエンジン音や振動がないことがあるため,走行可能な状態であることに気付かない場合がある。安全のため,駐車時は必ずシフト・ポジションをPにしてパ-キングを掛けること。ハイブリッド・システム始動後は,次のような音や振動が発生する場合があるが異常ではない。①エンジン・ルームからの電気モータの音。②ハイブリッド・システム始動時や停止時に聞こえる,フロント・シート下部及びハイブリッド・バッテリ

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からの音。③ハイブリッド・システム始動時及び停止時にフロント・シート下部から聞こえる“コトン”“カチッ”などの高電圧リレーの音。

④ガソリン・エンジンの始動・停止時や低速走行時,及びアイドリング中にトランスミッション付近から聞こえる音。

⑤急加速時のエンジン音。⑥ブレーキ・ペダルを踏んだ時や,アクセル・ペダルを緩めた時に聞こえる回生ブレーキの音。⑦ガソリン・エンジンの始動・停止による振動。⑧助手席下部にある吸入口から聞こえるファンの音。

8 ハイブリッド車の取り扱い注意事項

1) 高電圧部位(図-41)

ハイブリッド・システムには,ハイブリッド・バッテリ,パワー・コントロール・ユニット,オレンジ色の高電圧ケーブル,電気モータなどの高電圧部位(MAX520V)があるため注意し,安全のため触れないこと。

図-41 高電圧部位

2) ハイブリッド・バッテリ冷却用吸入口

助手席シート下にはハイブリッド・バッテリ冷却用の吸入口がある。吸入口をふさいだりすると,ハイブリッド・バッテリの過熱や出力低下の原因となる。

図-42 高電圧部位

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3) マルチ・インフォメーション・ディスプレイによる警告メッセージ(図-43)

ハイブリッド・システムの異常や知らせたい事項が発生すると自動で警告メッセージを表示する。表示された画面の指示に従う。

図-43 マルチ・インフォメーション・ディスプレイによる警告メッセージ

4) 事故が発生したとき

事故が発生した場合は以下のような処置を実施すること。①継発事故防止のため安全な場所に停止してパーキング・ブレーキを掛け,シフト・レバーをPに入れてハイブリッド・システムを停止する。

②高電圧部位・高電圧配線(オレンジ色)などには絶対に触らない。③車室内及び車室外にはみ出している電気配線には絶対に触らない。④液体の付着や漏れがある場合は絶対に触らない。ハイブリッド・バッテリの電解液(強アルカリ性)が目や皮膚に触れると失明や皮膚障害の恐れがあり危険である。万一,目や皮膚に付着した場合は直ちに大量の水で洗い流し,早急に医師の診察を受けること。

⑤前輪が設置した状態でけん引しない。電気モータから発電され破損の状態によっては,漏電による災害の恐れがあり危険である。

⑥車の下の路面などを確認し,液体の漏れ(エアコンの水以外)が見つかった場合,燃料系統が破損している可能性がある。そのままハイブリッド・システムを始動すると燃料に引火する恐れがあり,危険なので始動させないこと。

⑦事故時のレスキュ対応については,トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト「http://www.toyota.co.jp/」“テクノロジー”⇒“安全技術”⇒“救助”⇒“レスキュー時の取扱い”を参照すること。