オフショア金融センターを分析する視点...1...

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1 オフショア金融センターを分析する視点 1 星野智樹 内閣府経済社会総合研究所に所属 はじめに 1 OFC 研究の基本動向 1Palan らの研究-国際政治経済学の立場 2) 本邦研究者による先駆的研究 3) 国際金融論から見た論点 2 OFC をめぐる金融仲介 3 OFC をめぐる資金の源泉 1) 論点の確認 2) 米国を軸とする個別事例の区分 3OFC における究極的な資金源泉としての米国 おわりに 参考文献 はじめに タックス・ヘイブンは、法的枠組みの下で、守秘性を中心に、租税や規制・監督の回避、 自由な活動を提供している国・地域(あるいは法的自律性を持つ領域)である。タックス・ ヘイブンは、オフショア金融市場やユーロ・ダラー市場と密接な関わりを持ちながら、統合 的なシステムとして、世界経済の一翼を担っている。米国や国際経済機関などの文書では、 タックス・ヘイブン、オフショア金融市場、ユーロ・ダラー市場を広く含めて Offshore Financial Center(以下、OFC)として捉えられている。本稿でも、それに準拠した表記とす 2 OFC の研究は、従来において見え隠れするテーマであり、実務家や専門的な研究者によっ て行われてきた。2000 年代中頃以降には、一般的な読者層も意識した包括的な文献が出版 1 本稿は、拙稿[2018b, 2019a, 2019b, 2019c]を統合して一つの議論にするために、これらの 稿を加筆・修正(部分によっては転載)したうえで、再構成して作成されている。なお、本 稿や拙稿は、筆者の個人的な立場に基づく研究活動の一環で作成されており、その内容と責 任はすべて筆者個人に属している。 2 さらに補足すれば、米国の IBF(国際金融ファシリティ)や日本の JOM(東京オフショア 市場)などのオフショア金融市場にとどまらず、それよりも広く含めた概念を用いるために、 OFC と表記することにした。

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1

オフショア金融センターを分析する視点1

星野智樹

内閣府経済社会総合研究所に所属

はじめに

1 OFC研究の基本動向

(1) Palanらの研究-国際政治経済学の立場

(2) 本邦研究者による先駆的研究

(3) 国際金融論から見た論点

2 OFCをめぐる金融仲介

3 OFCをめぐる資金の源泉

(1) 論点の確認

(2) 米国を軸とする個別事例の区分

(3) OFCにおける究極的な資金源泉としての米国

おわりに

参考文献

はじめに

タックス・ヘイブンは、法的枠組みの下で、守秘性を中心に、租税や規制・監督の回避、

自由な活動を提供している国・地域(あるいは法的自律性を持つ領域)である。タックス・

ヘイブンは、オフショア金融市場やユーロ・ダラー市場と密接な関わりを持ちながら、統合

的なシステムとして、世界経済の一翼を担っている。米国や国際経済機関などの文書では、

タックス・ヘイブン、オフショア金融市場、ユーロ・ダラー市場を広く含めて Offshore

Financial Center(以下、OFC)として捉えられている。本稿でも、それに準拠した表記とす

る2。

OFCの研究は、従来において見え隠れするテーマであり、実務家や専門的な研究者によっ

て行われてきた。2000 年代中頃以降には、一般的な読者層も意識した包括的な文献が出版

1 本稿は、拙稿[2018b, 2019a, 2019b, 2019c]を統合して一つの議論にするために、これらの稿を加筆・修正(部分によっては転載)したうえで、再構成して作成されている。なお、本稿や拙稿は、筆者の個人的な立場に基づく研究活動の一環で作成されており、その内容と責任はすべて筆者個人に属している。 2 さらに補足すれば、米国の IBF(国際金融ファシリティ)や日本の JOM(東京オフショア市場)などのオフショア金融市場にとどまらず、それよりも広く含めた概念を用いるために、OFCと表記することにした。

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された。その代表的な文献が、学術研究と実務感覚を融合させた労作である Chavagneux and

Palan[2006](邦訳[2007])を嚆矢に、同文献のアップデート版である Palan, Murphy, and

Chavagneux[2010](以下では Palan et al.[2010]と表記、邦訳[2013])、詳細な現地調査に基

づいた Shaxson[2011](邦訳[2012])、税務当局での現場経験に基づく志賀[2013]である。こ

こでの中心的な論者が R. Palanであることに着目して、本稿では、これらの文献や研究を取

り上げる際に、「Palanらの文献(あるいは研究)」と表記する。

最近では、「パナマ文書」や「パラダイス文書」が関心を集めたこともあって、日本国内

においても多くの文献が書店に並ぶようになった。そのなかで、Palanらの研究および文献

は、改めて高く評価され、多くの論者による議論の原型、そして、研究の出発点となる基礎

文献として定着している。たとえば、各文献の邦訳書における「訳者あとがき(解説)」で

は、「初めての包括的な概説書」(Palan et al. [2010]邦訳 413 頁)、「類書のない性質の本」

(Chavagneux and Palan[2006]邦訳 160頁)、「包括的にとらえた力作」(Shaxson[2011]邦訳

422頁)としての評価がなされ、他の追随を許さない包括性の高さが強調されている3。

国際経済機関では、OFCをめぐって、概念の整理、分析、データの編纂や標準化が行われ

てきた。まず、IMF(国際通貨基金)は、国際収支統計や通貨金融統計のガイドラインやデ

ータベースを作成している。また、BIS(国際決済銀行)は、ユーロ・ダラー市場の発展や

ラテンアメリカ債務危機をきっかけに、居住性・国籍・リスクに着目した国際資本移動統計

の作成、各局面における重要な出来事やプレイヤーの分析を行っている。さらに、UNCTAD

(国連貿易開発会議)は、持続可能かつ公正な経済を実現するために、生産、投資、所得、

租税の各観点から、多国籍企業の動向を追跡している。こうした国際経済機関の取り組みは、

Palan et al.[2010]でも、高く評価されている(邦訳 93‐101頁)。

その一方で、時間を遡って本邦研究者に目を転じれば、(実は)比較的早い時期に、包括

的あるいは個別分野で、実証的かつ理論的な研究が行われてきたのも事実である。とくに、

多国籍企業論や国際マネーフロー論の分野で、世界経済における米国の地位も念頭におき

ながら、議論がなされている。

このように OFC をめぐる研究領域が形成されつつあるなかで、本稿では、国際金融論と

くに資金の実態に基づいて分析する視点を提起したい。その際には、Palanらの研究、また、

国際経済機関の取り組みへの評価を行うとともに、本邦研究者による先駆的な研究成果を

活用する。

3 Palan et al.[2010]の共著者の一人である Murphyも、単著文献(Murphy[2017])のなかで、Shaxson[2011]や Palan et al.[2010]に対して、「タックス・ヘイブンの活動の包括的な歴史やケーススタディについて書いてきた」(邦訳 xi頁)と評している。この記述が 2017年という比較的最近に出された文献のなかに見られることは、現時点でも、Palanらの文献に対して、本文に記した評価が揺らいでいないことを示している。

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1 OFC研究の基本動向

1では、OFC研究の基本動向の整理を通じて、議論の概観、基本的な論点を確認する。

(1) Palanらの研究-国際政治経済学の立場

(1)では、今日における研究の基礎とされている Palanらの研究について整理する。

最初に、Palan らの研究の系譜についてである。Palan らの研究は、比較的新しい分野で

ある国際政治経済学に基づいている。

ここで焦点となる国際政治経済学は、スーザン・ストレンジ(Strange[1986]を嚆矢に、

Strange[1994,1996,1998])を中心に発展してきた。ストレンジの問題意識は、多方面にわた

っているが、筆者なりに整理すれば、3つに集約できる。1つ目は、金融グローバル化のな

かでの「カジノ資本主義」や「マッド・マネー」、すなわち、制御を喪失して常軌を逸した

金融に主導されて経済が動かされる事態として、浮動性や投機性の高まり、バブルに依存し

た経済の成長構造、その帰結としての危機を検討する議論である。2つ目は、国家的権威に

よって(必要性が高いために)担われてきた分野、グルーバル化によって加速した分野や新

たに生じた分野において、非国家的権威の役割が高まっていることに着目する「国家の退場」

論である。3つ目は、こうした諸事態の帰結に対する政治社会的な読みである。

ストレンジは、政治経済の運営や構造の形成、ルール設定を通じて行使されて物事や選択

肢に影響を与える「構造的パワー」、また、国家、とくに構造的パワーを持つ米国による政

治的な「決定」を重視する。見方を変えれば、ストレンジは、国家的権威と非国家的権威の

相対的な位置関係のなかで、非国家的権威の台頭に注意を払いつつ、国家的権威の役割にも

目を向けている。

ストレンジの研究を受け継いだ有力な論者が、エリック・ヘライナー(Helleiner[1994])

である。ヘライナーは、金融グローバル化について、市場と技術による自然発生的あるいは

不可逆的な現象として捉える見解に対置して、構造的パワーを持つ国(とくに米国)によっ

て、経済理論、利害、世界経済における地位といった国際政治経済上の力学を反映して行わ

れる「決定」を重視して、歴史的な変遷を検討している。

Palanらの研究は、こうしたストレンジやヘライナーの議論の現代版あるいは OFC研究へ

の移転として、国際政治経済学の領域で展開されていった4。そこで、次に、その連続性に

4 このことは、Chavagneux and Palan[2006](邦訳 16頁)、Palan et al. [2010](邦訳 32‐33頁、392頁、409頁)に端的に示されている。Palan自身は、国際政治経済学分野の有力誌Review of International Political Economy の創刊者であり、スーザン・ストレンジのすすめでOFC 研究に取り組み始めた経緯がある。以下で念頭におくストレンジの議論は、Strange[1986](邦訳[2007]の第 1章と第 2章、とくに 34‐38頁、42‐50頁)を端緒に展開されている。 また、Helleiner[1994]の邦訳が初めて出されたのは、2015 年である。原著書の出版から

約 20年経過したにもかかわらず邦訳が出されたことは、国際政治経済学の現代的な意義を

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もふれながら、主要な論点や主張を 3つに整理しておこう。

第 1に、世界経済における OFCの位置づけについてである5。通説では、OFCは、辺境の

島国における怪しげな取引が行われる場や、世界経済の周辺的な問題として考えられてき

た。こうした通説に対置して、Palanらの研究では、OFCが、規模的に拡大するなかで、世

界経済の質的変化をもたらし、多様な主体による多種の利用や活動の場、主要な出来事や問

題の出現する場、各種の経済活動の結節点、そして、グローバル化の中核として位置づけら

れている。

そして、そこから帰結が導き出される。まず、OFCは、経済の成長・バブル化・危機とい

った一連の複雑な事情を孕む巨大な国際資本移動が生じる場となっている。また、政治経済

学的な帰結として、OFCが、特定の層に対しては租税や規制を回避する「有利なフリー切符」

を提供する一方で、それによって生み出されるコストを他の大部分の層に負担させること

で「損益分配の歪み」につながっている構図が存在する。

こうしたことは、翻訳者が原著者の意図をにじみ出すように汲み取っていることにも示

される。まず、Chavagneux and Palan[2006]の邦訳の副題は「グローバル経済を動かす闇の

システム」、Palan et al.[2010]の邦訳の副題は「グローバル経済の見えざる中心のメカニズム

と実態」となっている。また、「訳者あとがき(解説)」において、「タックスヘイブンがグ

ローバル経済のなかで占める決定的な役割を鮮明に描き出した」(Chavagneux and

Palan[2006]邦訳 160頁)、「タックスヘイブンはグローバル経済の帰趨に決定的な影響を有

するものであるという彼らの卓見」(Palan et al. [2010]413 頁)、「グローバルな視点からタ

ックスヘイブンの問題点をとらえた本書」(Shaxson[2011]邦訳 424 頁)との評価がなされ

ている。

第 2に、OFCの形成において、主権、政治、国家、専門家が重視されている。OFCは、自

然発生的な「無法(無国籍)地帯」ではなく、国家主権や法的根拠を背景に存在しており、

特定の国・地域や層、企業の利害を反映しながら、政策「決定」を行う国家と、独特の影響

力を持つ非国家的権威であり営利企業としての専門家によって創り出される。ここでは、細

かく 2つに分けておこう。

1つ目に、国民国家(あるいは法的領域)や主権の重視である6。現代の国民国家は、国家

主権や領土権を持ち、法的枠組みや政策を策定するとともに、経済取引について、合法性と

示している。ヘライナーの議論については、各種資料を駆使して実証的に検討した伊豆[1995, 1998, 2006]、邦訳書の出版に先立って解説を行った矢野[2012]を参照されたい。 5 この論点は、Palan らの文献で中心的な論点であり、随所で論じられている。とくに、Chavagneux and Palan[2006](邦訳第 1章、第 3章、156‐157頁)、Palan et al.[2010](邦訳序文、第 2章、第 3章、271‐287頁、391‐392頁)、Shaxson[2011](邦訳 16 頁、第 1 章、214‐216 頁)、志賀[2013](4‐13 頁、80‐82頁)を中心に参照した。 6 ここでは、Chavagneux and Palan[2006](邦訳 23頁、49‐53頁、156‐157頁)、Palan et al.[2010](邦訳 27‐30頁、35‐37頁、43‐44頁、55‐57頁、78‐80頁、88頁、142‐147頁、184頁、389‐392頁)を参照して整理を行った。なお、この視点は、Shaxson[2011]や志賀[2013]において、まとまって記述されていないが、議論する際の一つの軸になっている。

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非合法性の区分、ルール、権利や義務、契約が不履行になった際の補償や罰則を定める。こ

のことによって、国民国家の機能が意味を持つ。まず、グローバル化が進展していても、異

なる法的領域ごとの「登記」や「所在地」といった概念、所在する主体に対する拘束力が発

生する。また、市場経済が成立して機能するために、あるいは、特定の主体が経済活動を行

えるように、法的な保護や認可が行われる。

こうした機能を背景として重要性を持つ国家の「決定」には、特定の政策を積極的に推進

する「(積極的な)決定」に加えて、本来行うべき行動や決定を行わない....

(拒否する)行動

の失敗としての「非決定(否・決定)」が含まれる7。そして、これらの「決定」は、熟慮し

て意図的に行われることもあれば、(物事の重要性を認識できず)非意図的に行われること

もある。そのため、OFCが形成される際の国家の政策「決定」には、意図的あるいは非意図

的の両面から、OFCを積極的に推進すること、また、OFCの広まりを防止するために本来必

要とする取組を行わない....

(拒否する)ことが含まれる。

たとえば、OFCのネットワークの嚆矢となったユーロ・ダラー市場の形成の背景として、

イギリスと米国が、金融業界や国際金融における利害の一致を反映して、民間部門で行われ

始めたユーロ・ダラー取引を黙認そして育成すると「決定」したことが描かれる8。そして、

国家主権の観点で見れば、ユーロ・ダラー市場について、イギリスの法的領域で行われる取

引は主権に守られるために、外国当局が規制できないのに対して、イギリス当局も(外国当

局から要請された時ですら)規制に乗り出すことがなかった。

2つ目に、非国家的権威としての専門家の役割についてである。

その代表例は、ストレンジが「国家の退場」論を展開した際に注目し、また、Palanらの

研究も言及した大手会計事務所である。大手会計事務所は、顧客である米国系多国籍企業に

追随した国際展開、また、「専門家」としてのスキルに着目した米英の政策当局からの権限

付与を背景に、企業へのサービス提供や会計ルールの設定を通じて、企業経営さらには経済

の枠組み自体を左右する影響力を行使してきた9。

Palanらの研究において、専門家は、弁護士、会計事務所、税の専門家、金融機関、企業

向けサービス会社から構成されるオフショア金融センター・コミュニティとして捉えられ

る10。オフショア金融センター・コミュニティは、顧客や自身の利害にそって、合法的なス

7 「非決定(否・決定)」の代表的な事例が、米国による 1971年の金ドル交換停止である。ストレンジの議論において、金ドル交換停止は、ブレトンウッズ体制の欠陥や米国経済の衰退の結果として生じたのではなく、米国が(特定の利害や経済理論の影響も受けながら)明確な政治的意思に基づいて、必要な政策対応に取り組まなかった結果、さらには、金ドル交換自体を拒否した結果として生じたことになる。 8 ここでは、Chavagneux and Palan[2006](邦訳 65‐79頁)、Palan et al. [2010](邦訳第 5章、とくに 225‐232頁)、Shaxson[2011](邦訳第 5章、第 6章、第 12章、とくに 127‐129頁、142‐148頁)、志賀[2013](48‐51頁、183頁)を参照して整理を行った。 9 会計事務所の役割は Strange[1996](邦訳第 10章)で議論されている。 10 ここでは、Palan et al. [2010](邦訳 43‐46 頁、58 頁、176‐184 頁、389‐390 頁)、Shaxson[2011](邦訳 38頁、213頁、254頁、265頁、344頁、364‐365頁)、Chavagneux and Palan[2006](邦訳 107‐114頁)を参照して整理を行った。

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キームに基づくサービスの提供に加えて、政治主体として国家の政策決定への関与、すなわ

ち、ロビー活動、法律そのものの起草および改正を行う。

こうして、国家と専門家が一体となって、「公共政策決定の民営化」と呼ぶべき事態が引

き起こされながら、OFC化が推進されてきた。

第 3に、(第 1の点とも関連しつつ、より長い)歴史的なスパンで見た世界経済の枠組み

の変遷である。

第二次世界大戦後の世界経済では、ブレトンウッズ体制の下で、金ドル交換と固定相場制

に加えて、各国独自の経済政策を実現するために資本移動規制が行われ、自由化の行き過ぎ

がバブルを招いた教訓に基づいて構築された金融規制とあいまって、(貿易は自由化かつ多

角化を目指しつつ)金融を制御する「埋め込まれた自由主義」と呼ばれる枠組みが出現した。

ところが、ロンドンでユーロ・ダラー市場が誕生すると11、それが嚆矢となって、新自由

主義的な政策観も反映しながら、各国・地域で金融規制の緩和、資本移動の自由化、そして、

「埋め込まれた自由主義」の解体が進み、金融を制御する体系が掘り崩されるとともに、金

融グローバル化が進展していった。この動きのなかに、OFCの世界的広まりにつながる大英

帝国を基礎とするハブ・アンド・スポーク型のネットワークの形成が位置づけられる12。

以上のように、Palanらの研究は、OFCについて、「無法(無国籍)地帯」で生じている世

界経済における周辺的な存在とみなす見解に対置する形で、歴史的な展開にもふれながら、

世界経済における位置づけ、国家や専門家の役割、権力や政治的意思、国家主権を背景とす

る法的枠組みによる成立、様々なアクターの参加を研究対象としていることが特徴となっ

ている。

(2) 本邦研究者による先駆的研究

(2)では、Palanらの研究の位置づけを行うことも念頭におきながら、本邦研究者によっ

て蓄積されてきた研究成果を整理しておこう。

最初に、1980年代という早い時期に、Palanらの文献を先取りするかのように、国際金融

11 ストレンジのユーロ・ダラー市場論は、Strange[1971](邦訳第 5章および第 7章)の時点で展開されていた。関連する研究を補足しておきたい。 まず、ユーロ・ダラー市場を形成する背景にもなった米ドルと英ポンドをめぐる力学につ

いて、ストレンジの議論の解説は新井[1972]、本山[1989]、先行研究の詳細なサーベイは宮﨑[2007]を参照されたい。 また、1970年代のユーロ・ダラー市場における政治経済上の力学については、宮﨑[2003]

が、オイルマネーをめぐる米国と産油国の特別協定に着目した検討を行っている。 さらに、ストレンジに依拠したグローバリゼーション研究(櫻井[1998]10‐12 頁、櫻井

[2006]59‐60 頁)では、経済の血液としてのマネーに対する管理の必要性と、営利活動としての金融ビジネスに対する自由の必要性という対抗関係を軸において局面転換が検討され、ユーロ・ダラー市場が金融グローバル化の起点として位置づけられている。 12 ここでは、Chavagneux and Palan[2006](邦訳 28‐29頁)、Palan et al. [2010](邦訳 41‐43 頁、84‐92 頁、254‐255 頁、304‐305 頁)、Shaxson[2011](邦訳 26‐38 頁)、志賀[2013](18‐27頁)を参照して整理を行った。また、注 8も参照。

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論の論者による包括的な文献(永川[1985]や及能[1986])が存在していることにふれておく

必要がある。永川[1985]は「国際資本移動に大きな役割を担うに至ったオフショア・センタ

ーの成立過程、その役割を歴史的に展望し、その国民経済的意義ならびに世界的影響を分析」

するという課題設定(Ⅱ頁)、及能[1986]は「オフショア金融センターは、世界を覆う国際

金融の最も強力かつ効果的な前進基地群を形成しつつある」との指摘(カバーの紹介文)を

行っている。ここからは、高い評価を与えられていた Palanらの文献とほぼ同じ包括性の高

さや世界経済論的な含意が、本邦研究者によってすでに展開されていたことが示される。

次に、個別領域、とくに、米国を対象とする本邦研究者の研究を見ておこう。

第 1 に、米系多国籍企業を対象に議論されてきた多国籍企業論の分野である。米系多国

籍企業は、本社による統合的な管理や指令を通じた支配体制のもと、自社の優位性を見極め

ながら、国境を越えたネットワークを構築する。OFCは、こうした米系多国籍企業ネットワ

ークのなかに位置づけられて利用される。この動向を捉えて、多国籍企業論では、持株会社

を通じた間接支配や「最終的な所有者」(Ultimate Beneficial Owner : UBO)に着目した関下

[2002,2012](その端緒は関下[2000])、企業レベルの財務・税務戦略と国家の租税主権の対

抗関係を検討した中村[1995,2010](その端緒は中村[1988])、活動原資となる資金の管理に

着目して支配体制を検討した小西[2017](その端緒は小西[2006])といった研究が展開され

てきた。

第 2 に、米国をめぐる国際マネーフロー論の分野である。この分野の本邦研究者による

有力な研究として、OFCを中心に議論を展開した山本[2002](第 2章および第 6章)、1990

年代の米国をめぐる国際マネーフローの文脈で検討した奥田[2002](第 3章)、これらの研

究を受け継ぎつつ独自の検討を行った徳永[2008](第 3章~第 4章)や飯島[2013](263‐

265頁)が存在する。

とくに、ユーロ・ダラー市場を抱えるイギリスや、タックス・ヘイブンの代表的な事例で

あるカリブ海との関係が焦点になる。まず、イギリスは、各種のファンドや導管体の所在地、

米国証券の取引地、資金を集めて投資する経由地となる金融センターとして、世界各地を結

びつける国際金融仲介を担う。また、カリブ海は世界的な投資とくに対米投資の拠点となっ

ており、在米国の金融機関は、自身の拠点、また、カリブ海に登記されたヘッジファンドや

ミューチュアルファンドといった機関投資家に対して、米国での運用のための資金を供給

(ファイナンス)する。カリブ海に所在する主体は、レポ取引をはじめとする借入による資

金調達、さらに、金融派生商品も駆使して、レバレッジを高めながら、米国証券の大規模な

購入や短期売買を繰り返すことになる。

以上のように、本邦研究者による重要な研究から学ぶべきことが多く示唆される。1の(1)

で取り上げた Palan らの研究は、(公刊時期の関係で)本邦研究者が取り上げなかった出来

事も含めて議論した包括的な文献として現代的意義を持っている。しかし、本稿の「はじめ

に」で取り上げた「訳者あとがき(解説)」の評価では、Palanらの研究に対する過大評価、

また、本邦研究者による研究に対する過小評価にもつながりかねないことになる。

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(3) 国際金融論から見た論点

(3)では、国際金融論の観点から、埋もれている重要な論点を発掘して、問うべき論点を

浮き彫りにする。

Palanらの研究について、1 の(1)では全般的な内容の整理を優先したが、国際金融論の

観点で掘り下げて検討するべき論点(あるいは疑問)が存在する。この点を明らかにするた

めに、記述内容を確認しておこう。引用文のなかで、〔 〕の箇所および下線の付与は本稿

の筆者による。

「タックスヘイブンは主に、世界の FDI〔直接投資〕フローの仲介役、すなわちアントル

ポ・センターとして利用されている。タックスヘイブンは、FDIの最大受け入れ国であると

同時に、最大の供給国でもある」(Palan et al. [2010]邦訳 110頁)。

「世界のマネーストックの半分がタックスヘイブンを経由していると言ったら語弊があ

るが、そのマネーがタックスヘイブンと OFC〔オフショア金融市場を指す〕を経由している

というのは間違っていない」(Palan et al. [2010]邦訳 103頁)。

さらに、OFCの資金供給をめぐって、「規制のないマネー創造」あるいは「無からマネー

を作り出す銀行の能力に対する規制も公的監視もない」といった指摘(Shaxson[2011]邦訳

188頁)がなされている。

こうした議論の内容において、①「経由」、「仲介役」、「受け入れ国・供給国」といった言

葉からは、OFCを資金が通過することの意味合い、②「マネー創造」、「供給国」、「マネース

トック」といった言葉からは、OFC自体が通貨を新規に創り出せるのか、言い換えれば、OFC

をめぐる資金の源泉は何かといった論点が示される。

これらの論点は、OFCをめぐる「資金の実態」、つまり、①は金融仲介、②は信用創造や

国際マネーフローの源泉に関する論点となる。本稿の以下では、こうした論点を踏まえた検

討を行っていく。

2 OFCをめぐる金融仲介

2では、OFCが持つ「経由地」としての意味合いを検討する。考える素材を多く含んでい

るのが、IMF の『国際収支統計マニュアル 第 6 版』(IMF[2009]、以下では IMF/BPM6)、

また、『通貨金融統計マニュアル』(IMF[2017]、以下では IMF/ MFSM)である。こうしたマ

ニュアルでは、OFCに密接に関連する主体や取引が取り上げられている。

さて、OFCが持つ「経由地」としての意味合いを検討する際に大事なのが、特別目的事業

体(Special Purpose Entities: SPE)である13。

13 ここでの内容は、多国籍企業による支配の構図を検討する文脈で、関下[2002](204~206頁)を嚆矢として、関下[2012](180~191頁)や小西[2017](とくに第 1章では成立過程まで含めて詳述されている)によって、検討されてきた。それに対して、本稿では、金融的

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最初に、IMF/BPM6における SPEの概要についてである14。

SPEは、国際的に共通した定義が存在せずに、国際事業会社、特別目的ヴィークル(SPV、

Special Purpose Vehicle)、ペーパー・カンパニーといった様々な名称がつけられる。しかし、

共通して、SPEは、租税や規制の回避、法人設立の簡便性、守秘性といったメリットを享受

できる領域に設定され、従業員が存在せず物理的存在に乏しい柔軟な法的構成体となって

いる。ここでの「領域」は、IMF/BPM6では明記されていないが、OFCの概念と一致してい

る。

いくつかの角度から、より掘り下げた整理ができる。

まず、SPEの存在形態としては、経営支配権を保有して事業活動の企画・意思決定・管理

を行う持株会社(Holding companies)、こうした具体的経営を行わず子会社の所有のみを行

う持株会社、グループ企業を相手に資金の運用と調達を行う導管体(Conduits)、資産や関

連する所得の保有(のみ)を行う会社(Wealth-holding entities)がある。

また、SPEは、資産の保有や管理、負債性証券の発行を行うこと、しばしば所有者や取引

相手が(非居住者の)特定主体であること、そのために同一企業グループ向けの金融を担う

ことが基本的な性格となる。

さらに、OFCをめぐる取引では、同一のグループ企業内における債権債務関係である「同

一企業グループ内貸借」に加えて(あるいは、そのなかで)、資金を(複数の)中間領域を

通過させる取引、すなわち、当該経済に影響を与えることなく別の経済に向かう「パススル

ー資金」、当初の経済領域に再投資される「ラウンド・トリッピング」が行われる。

このように、OFC に設定された SPE が、巨大な国際資本移動の結節点としての機能を持

つことが示唆される。ここからは、OFCをめぐる活動、より具体的には、①複数の中間領域

を(当該領域に影響を与えることなく)経由している取引、②(①の角度を変えて、)直近

あるいは直接の投資元や投資先、③意思決定や支配の最終的権限を持つ投資元、最終的な

(経済的影響を受ける)投資先、これらのどこを見るべきなのかといった論点が導き出され

る。

こうした論点に対しては、IMF/BPM6を本稿の問題意識に沿って整理し直すことで、ヒン

トや回答を得られる。

まず、分析上の有用性を高めるために、(複数の)領域を経由する投資では、パススルー

資金を控除したデータや、最終的な投資元と投資先についてのデータを、補足的に作成や公

表することが求められている15。このことは、IMF/BMP6での推奨に加えて、UNCTADや米

国商務省が最終所有者(Ultimate Beneficial Owner: UBO)ベースの直接投資統計を、BISが

最終リスクや国籍に基づく国際資本移動統計を、公表していることにも示される。

な観点に焦点を当てる。 14 ここでは、SPEの概要については IMF/BPM6のパラグラフ 4.50~4.52、4.78、4.82~4.87、(SPE より広く含む)取引形態については IMF/BPM6 のパラグラフ 6.26、6.33、6.46 を参照した。 15 ここでは、IMF/BPM6のパラグラフ 4.157を参照した。

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そのため、前頁の後半部に示した 3 つの論点のうち、③の関心が高まっていることにな

る。しかし、①と②も見る必要性がある。

第 1に、統計の技術的な観点である16。国際収支統計(に準拠した統計)では、直近ある

いは直接の投資元と投資先に基づいて計上することが求められている。その理由は、計上の

判定基準が居住性にあることを前提に、①通過する資金を控除すれば、資金フローが過小評

価される可能性、各国・地域のデータを(つきあわせた時に)整合性を確保できなくなる可

能性、②たとえ通過する(だけの)資金であっても、同一企業内に存在している資金フロー

を把握する必要性にある。

第 2に、より重要なのは、OFCにおいて、あたかも「資金を右から左に流す」かのように

扱われることの適否、また、経由する資金の意味合いである。

ここでヒントになるのが、IMF/MFSM(p.33)における金融仲介の概念である。そこでは、

金融仲介は、その担い手の自らが、①自身の意思や判断に基づいて、②資産と負債を保有す

ること、③資産転換やリスク負担を行うこととされている。OFCに設定された主体は、その

性格や文脈から、独自の意思決定を必ずしもできない(①を満たさない)ので金融仲介の概

念に一致しない部分もあるが、②と③によって生じることも見る必要がある。

まず、OFCを経由する資金は、(外国当局の権限を遮断する形で、)租税や規制・監督の回

避、さらには守秘性といった「うまみ」を得ることができる17。このことは、本項の前半で

見た SPEの性格と一致しており、基本的な前提となる。

また、直接投資における支配関係の存在である18。多国籍企業による直接投資を通じた支

配や影響は、対象企業の議決権が付与された株式や持分の「直接的な獲得」のみならず、対

象企業の議決権を有する別の企業の議決権の獲得(より具体的には持株会社の設定)による

「間接的な獲得」を通じても実現する。OFCが、こうした直接投資における所有や出資の連

鎖、そして、間接的な支配や影響のための拠点になっていることを示すために、OFCを経由

する資金を見る必要性がある。

さらに、OFCを経由する取引を行う主体は19、独立企業間取引とは異なるリスクと脆弱性

を持つ同一企業内の金融取引を行うとともに、「債務性資金と資本性資金の転換、長期資金

と短期資金の転換、現地通貨と外貨の転換、固定金利と変動金利の転換といった各種の資産

転換を行っていることがある。こうした転換は、リスク特性の大きな変化につながる」。こ

の記述は、金融的な意味を強く示している。

以上のように、OFCを経由する資金を、(主観的あるいは表面的には多国籍企業による直

16 ここでは、IMF/BPM6のパラグラフ 4.156、6.25、6.34を参照した。 17 ここでは、IMF/BPM6のパラグラフ 4.50~4.52を参照した。 18 ここでは、IMF/BPM6のパラグラフ 6.12~6.14を参照した。OFCを経由する証券投資や貸出も多く存在するが、その場合にも自身の拠点を通じて行われるため、直接投資が関わることになる。 19 本パラグラフの前半は IMF/BPM6 のパラグラフ 6.26 を参照し、後半は IMF/BPM6 のパラグラフ 6.44 より引用した。翻訳は本稿の筆者による。

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接投資の形態をとることがあっても、)客観的には、いずれも広く金融仲介の視点で考える

ことができる。

3 OFCをめぐる資金の源泉

3では、OFCをめぐる資金の源泉について、信用創造や国際マネーフローの源泉の観点か

ら検討する。

(1) 論点の確認

(1)では、基本的な論点を確認しておく。ここで重要な先行研究として、カリブ海を念

頭において OFC を検討した山本栄治氏の研究(山本[2002]第 2章および第 6 章)が存在す

る。山本[2002]は、国際通貨論の立場から、国際資金および流動性「そのもの」の「創造」、

「源泉」、「供給」をキーワードにして、米国商務省および財務省や BISにおける統計データ

や解説文書を駆使しながら、理論的かつ実証的に論じている。

具体的な記述を拾っていこう。まず、「OFCs〔カリブ海のタックス・ヘイブン〕は国際資

金フローの再配分者〔仲介者〕にすぎず、国際資金そのものすなわち国際流動性を創造する

ことはない」(山本[2002]125頁、〔 〕の箇所は本稿の筆者が補足)ことが指摘される。そ

して、「過剰な国際流動性供給源をコントロールすることなしには国際資本移動の不安定性

はなくならない」(山本[2002]125 頁)との問題意識の下、OFC へ「国際流動性を供給した

のは誰か」(山本[2002]122‐123頁)という問いが立てられる。

この問いに対しては、「国際流動性を供給するのは米国とともに日欧先進国である」(山本

[2002]125頁)、あるいは、「過剰な国際流動性の源泉は米国の経常収支赤字と先進国の国際

インターバンク預金市場への貸付である」(山本[2002]125頁)として、資金の(究極的な)

源泉が先進国とくに米国に求められる。ここには、表面的な現象に目を奪われることなく、

金融論的な視点から検討するスタンスが示されている。

以下では、こうした山本氏の研究のなかで「資金の源泉」という視点を受け継ぐ。その一

方で、デラウェア州のような米国国内に所在するタックス・ヘイブン、また、米国の居住者

と非居住者の区分にも留意する20。

20 Palan et al.[2010](68‐69頁)は、国際経済機関が、OFCを取り上げる際に、金融活動の規模や非居住者との関連から取り上げ、米国のデラウェア州のような「内国タックス・ヘイブン」の存在を見逃していることを批判的に検討している。 その一方で、本稿では、OFCをめぐる資金源泉の観点、とくに、「内国タックス・ヘイブン」における「信用創造」、また、米国側による資金供給に焦点を当てている。さらに補足すれば、SPEを整理した際に見たように、最終的な投資者や所有者が議論の対象になっているが、究極的な資金の源泉を問うことも大事なのである。

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(2) 米国を軸とする個別事例の区分

(2)では、米国を軸に、OFCに関連する個別事例の区分を行っていく。米国は、米ドル

建て取引が行われる場、すなわち、非米諸国では、ロンドンを中心とするユーロ・ダラー市

場、タックス・ヘイブンの代表的存在であるカリブ海、米国では、IBF(国際金融ファシリ

ティ)、そして、内国タックス・ヘイブンとして有名なデラウェア州といった検討するべき

対象を一通り含んでいる。

(2-1) ユーロ・カレンシー市場

(2-1)では、ユーロ・カレンシー市場について、その代表的事例であるロンドンのユー

ロ・ダラー市場を念頭において、検討する。ユーロ・カレンシー市場は、米国(通貨発行国)

外におけるロンドンを代表とする米ドル(外貨)建ての国際金融市場となる。

ユーロ・ダラーは、米国の居住者と非居住者を問わず、在米ドル預金(具体的には一覧払

預金)を保有する主体が、在米ドル預金を在ロンドン銀行へ「移し替え」を行うことで形成

される。

ここに、ユーロ・ダラーの持つ基本的な性格があらわれる21。

第 1に、決済についてである。在ロンドン銀行は、米ドル決済を行う際に在米銀行の口座

(コルレス口座や本支店口座)を通じて行うことになり、ユーロ・ダラー預金を受け入れる

のに対応して、在米銀行の口座に一覧払の米ドル預金を保有することになる。というのも、

イングランド銀行は米ドル預金を受け入れず、米国中央銀行は(たとえ米系銀行の在外支店

であっても)非居住者に中央銀行預け金の保有を認めていないことから、米ドルの銀行間決

済は米国でのみ可能となるからである。そのため、ユーロ・ダラー預金は、決済機能を持た

ず、期限が超短期であっても一覧払預金ではなく定期預金として、ロンドンに置かれた米ド

ル建て預金となる。

第 2に、「信用創造」についてである。周知のように、市中銀行は、決済機能を持つ一覧

払預金を借り手の預金口座に記帳する「預金設定」の形で貸出(や証券購入)を行うことで、

預金通貨を新規に創り出す。しかしながら、在ロンドン銀行は、米ドル建て預金について、

預金を通貨として機能させるための決済システム、また、「預金設定」の対象となる一覧払

預金といった枠組みを備えておらず、米ドル建ての「信用創造」を行えない22。

21 ユーロ・ダラー市場については、奥田[1988](とくに 91‐100 頁)、小西[1984]、中尾[1988](124‐127頁)に基づいて検討した。 こうした研究の嚆矢となった滝沢[1981,1984]は、決済のあり方に着目して「イギリスでは当然ながらドルは流通しない」(滝沢[1981]199 頁)と論じたうえで、もしドルがイギリスで流通すれば、「それはイギリスの通貨発行権に対する重大な侵害である」(滝沢[1984]140頁)として金融論と通貨主権を結びつけた先駆的な議論を行っている。 22 ユーロ・ダラー市場で「信用創造」があたかも生じているように見えるのは、ユーロ・ダラー市場における貸出が、①在ユーロ・ダラー市場銀行の無準備負債の創出、②決済手段と

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このように、ユーロ・ダラーの基本的な性格を整理できる。以下で、(ロンドン以外のケ

ースも含めて)ユーロ・ダラーの性格を持つ金融取引を取り上げる際には、ユーロ・カレン

シーと表記する。

さて、こうした性格を持つユーロ・カレンシーを前提に成立するのが、IBFとカリブ海の

タックス・ヘイブンである23。

第 1に、IBFについてである。米国(の通貨当局)は、ロンドンで拡大するユーロ・ダラ

ー市場に対抗する必要性から、国内の金融政策への影響に配慮しつつ、米国の優位性を向上

させるために、1981年に IBFを創設した。IBFは、米国の(居住者には認められず)非居住

者が、通常の銀行勘定とは区別されたオフショア勘定を通じて、税制や規制面の優位性を享

受しながら、国内の金融体系とは分離されるオフショア・ドルの「外‐外」取引を行う場と

して発展していった。

第 2に、カリブ海は、ユーロ・カレンシー市場の基本的な性格を持つとともに、そのなか

で守秘義務や秘密保持による守秘性を提供することでタックス・ヘイブンとして成立する

ことになる。

こうして、ロンドンにおけるユーロ・ダラー、IBFにおけるオフショア・ドル、カリブ海

のタックス・ヘイブンにおける「米ドル建て預金」はユーロ・カレンシーとなり、このこと

を前提にして規制や監督を免れた自由な金融活動が行われる。ユーロ・カレンシーについて、

それ自体は決済機能を持たず、最終的な決済は(銀行勘定に置かれた一覧払の)在米ドル預

金の振替を通じて行われる。そして、在ユーロ・カレンシー市場の銀行は、米ドル建ての決

済手段を新規に創り出す「信用創造」機能を持てず、国際マネーフローにおいて金融仲介..

能を担っていることになる。

(2-2) 内国タックス・ヘイブン

(2-2)では、米国の内国タックス・ヘイブンであるデラウェア州を検討する24。

デラウェア州は、企業誘致における他州との競争上の要因、また、企業の利害を受けた有

力弁護士の行動やロビー活動を反映して、企業にとって好都合な環境や守秘性を提供する

ことで、タックス・ヘイブンとして発展してきた。

デラウェア州は、内国タックス・ヘイブンであるために、カリブ海のタックス・ヘイブン

とは異なる性格を持つ。在デラウェア銀行は、米国の金融規制や準備預金制度の対象になる

なる在米ドル預金の回転速度の上昇を通じた利用可能な通貨量の結果的な増加といった事態を引き起こすからである(小西[1984]とくに 35‐38頁、58頁、68‐69頁)。本稿の 1の(3)で取り上げた Palanらの研究の記述は、この意味で捉える必要がある。 23 IBFは奥田[1988](第 5章)、カリブ海の持つユーロ・カレンシー市場としての性格は奥田[1988](100頁の注 14)に基づいて整理した。 24 デラウェア州について、発展の経緯は Chavagneux and Palan[2006](邦訳 54‐55 頁)、Palan et al. [2010](邦訳 191‐193頁)、Shaxson[2011](邦訳 33頁、197‐211頁)に基づいて整理したうえで、金融論的な意味合いは独自に検討を行った。

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とともに、米国中央銀行へのアクセス権を持つ。

そして、このことによって 2 つの事態が生じる。第 1 に、在デラウェア銀行は米国中央

銀行に中央銀行預け金を保有することが認められており、在デラウェアの預金は、中央銀行

預け金の振替を通じて、(ユーロ・カレンシーではなく)決済機能を持つ一覧払の在米ドル

預金となる25。第 2に、在デラウェア銀行は、中央銀行預け金や米ドル現金を準備金として

「信用創造」を行うことが可能になり、在米ドル預金を新規に創り出す機能を持つ。

整理し直せば、在デラウェアの預金は、①在ニューヨーク銀行から在デラウェア銀行への

米ドル預金の「移し替え」を通じても形成されるが、②「移し替え」だけでなく、在デラウ

ェア銀行による「信用創造」を通じて在米ドル預金として新規に創り出される。

こうして、デラウェア州は、ユーロ・カレンシー市場ではなく、米国の国内金融システム

に組み込まれる形でタックス・ヘイブンとしての機能を持つことになる。

(2-3) 小括

以上のように、議論する際の基本的な区分を行う必要がある。すなわち、OFCには、(決

済機能や新規の通貨供給機能を持たない)ユーロ・カレンシーを前提に成立するパターンと、

(決済機能や新規の通貨供給機能を持つ)自国通貨を前提に成立するパターンが存在する。

(3) OFCにおける究極的な資金源泉としての米国

OFCは、利用するインセンティブに基づいた資金を引き付けることで成長していき、守秘

性によって資金が秘匿されてしまう。しかし、そもそもの OFC に流入する資金は、どのよ

うに発生するのだろうか。

そこで、3 の(2)を踏まえて、OFC に流入する資金の源泉について検討する。その際に

は、米国の基軸通貨国としての地位と結びつけながら、米ドル建て取引を念頭におく。

最初に、内国タックス・ヘイブンと非米諸国に分けて検討していこう。

第 1に、内国タックス・ヘイブンとしてのデラウェア州についてである。デラウェア州の

場合には、米国の国内金融システムの一環を構成しており、所在銀行が「信用創造」を通じ

て在米ドル預金を新規に創り出せる。そのため、デラウェア州自身が、米国の居住者と非居

住者のいずれに対しても、米ドルを新規に供給する源泉になりうる。

第 2に、米国の居住者と非居住者にかかわらず、非米諸国(ユーロ・ダラー市場、カリブ

海)や IBFが利用される場合である。いずれもユーロ・カレンシーを前提に成立する。改め

て整理すれば、ユーロ・カレンシーは、在米ドル預金を保有する主体(米国の居住者、非居

25 在デラウェア銀行は、各種の預金商品を提供するなかで、ユーロ・カレンシー市場に存在しない一覧払預金を提供している点に留意しなければならない。

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住者にかぎらず26)が、在米銀行に置かれた在米ドル預金(具体的には一覧払預金)を、非

米諸国あるいは IBFに所在する金融機関へ「移し替え」を行うことで形成される。

そこで、次に、第 2の点で整理した「移し替え」の対象になる在米ドル預金がどう供給さ

れているのかが論点になる。この論点を検討するために有力な視角が、国際収支の観点であ

る27。

今日の世界では、世界共通通貨が存在せず、OFC自体が国家主権のもとに生み出されるこ

とを踏まえれば、国民国家・国民経済・国民通貨の枠組みがかえって浮かび上がる。そのた

め、一国の対外経済取引を一通り網羅している国際収支の枠組みを通じて、一国の対外的な

資金流出入の動向を把握できる。

その一方で、国際収支統計は一つの通貨建てで表示されているが、現実の対外経済取引は

各種の通貨で行われる。そのため、国際収支を最大限活用するためには、取引の建値通貨、

決済で使用している通貨、そして、各国・地域に独自に存在している決済制度や国内金融シ

ステムとの関連にも留意する必要がある。

米国の非居住者と居住者のケースに分けて、国際収支の「概念上の区分」の形で検討して

いこう。

第 1 に、米国の非居住者の場合についてである。非居住者は、ユーロ・カレンシー市場

(IBFや非米諸国の OFC)への「移し替え」を行うための前提として、在米ドル預金をあら

かじめ保有している必要がある。非居住者が在米ドル預金を新規に獲得するルートは、主に

3つに整理できる。

まず、①米国の米ドル建て経常収支赤字、②米国からの米ドル建て対外投資を通じたルー

トがある。これらの場合には、在米ドル預金(保有者は非居住者)がいったん形成され、そ

の後に、一部は米ドルから外貨に転換される「漏れ」となり、大部分が様々な在米資産に転

換されて対米投資となる。対米投資となった部分は、①米ドル建て経常収支赤字由来であれ

ば「債務決済」、②米ドル建て対外投資由来であれば米国の対外負債(「代わり金」の形成)

と対外資産の両建てでの形成としてあらわれる。

さらに、③非居住者が、米ドル以外の外貨を米ドルに転換する場合である。このことが、

26 ただし、IBFの場合には、米国の非居住者に限定される。 27 ここでは、複数の研究に依拠しながら、OFC研究の文脈に引き付けて検討した。 第 1 に、国際収支を通じて一国の対外経済関係を総合的に分析できる点は、米国を中心に手法を打ち立てた松村[1985](第 1章)に準拠している。 第 2に、国際マネーフローの「源泉」という観点は、米国による資金の「創出」を出発点として、その「還流」を論点とした小西[2006](29‐32頁)、ユーロ・ダラー預金を形成する前提としてのドル残高のあり方を論じた小西[1984](41頁)より着想を得た。そこでは、米国が(経常収支赤字を上回る)対米投資を原資に対外投資を行うとする「国際金融仲介」論が批判的に取り上げられている。なお、小西[2006]の議論は、その後に、金融機関の資金供給に焦点を当てて検討した徳永[2008]、実物経済を反映した経常収支に焦点を当てて検討した飯島[2012]といった諸研究へと発展していった。 第 3に、全体的な枠組みは、米国の国際収支ファイナンスのあり方を検討した奥田[2012](第 2章~第 4章)、奥田[2017](95頁の注 3)における「概念上の区分」に依拠して整理を行った。

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上記の①と②の過程で生じた「漏れ」をカバーするとともに、米国の居住者が行う米ドルか

ら外貨への転換をともなう対外投資に対応することによって28、非居住者の米ドル獲得を可

能にする。

もちろん、米国から対外的に供給された米ドルのすべてがユーロ・カレンシー市場に向か

うわけではなく、また、対米投資となる部分は在米ドル預金以外の米ドル建て資産も含まれ

ている。しかし、非居住者は、究極的には上述のルートを通じて形成された在米ドル預金を

獲得して、ユーロ・カレンシー市場への「移し替え」を行うことになる。

「移し替え」を行った非居住者の所在国の国際収支上では、米国への対外投資の引き揚げ

(在米ドル預金の減少)と、ユーロ・カレンシー市場への対外投資(ユーロ・カレンシー預

金の増加)が同時に生じる。米国の国際収支上では、「移し替え」にともなう決済によって

在米ドル預金の名義が変わるために、対米投資の引き揚げ(「移し替え」を行った非居住者

の在米ドル預金の減少)、ユーロ・カレンシー市場からの対米投資(在ユーロ・カレンシー

市場の銀行が保有する在米ドル預金の増加)が同時に生じる。

第 2に、米国の非居住者のみならず、米国の居住者にも焦点を当てる必要がある。米国の

居住者は、米国(つまり自国)の金融システム内で創り出された在米ドル預金を用いて、(規

制や税制上の優位性を利用するために、)非米諸国に所在する金融機関への「移し替え」を

行うことができる。この取引によって、米国の国際収支上では、非米諸国(たとえばカリブ

海)に対する米ドル建て資産を形成する米ドル建ての対外投資と、非米諸国に対する米ドル

建て負債(在米ドル預金)を形成する米ドル建ての対米投資が、同時に生じることになる。

以上のように、米ドル建て取引であれば、究極的な源泉は米国の金融システム29となり、

①デラウェア州の場合にはデラウェア州自体が、②ユーロ・カレンシー市場が利用される場

合に、米国の居住者が利用する場合には自国内の金融システムが創り出した米ドルを使う

ことができる一方で、非居住者が利用する場合には主として米国の米ドル建て経常収支赤

字と米ドル建て対外投資が、米ドル供給ルートとなる30。

28 念のために補足すれば、米国の対外経済取引において、①全てが米ドル建てで行われるわけではないこと、②対米ファイナンスが、外貨との転換をともなう取引や「漏れ」によって、必ずしも自動的に行われるわけではないことに留意しておく必要がある。 29 在米ドル預金の決済を担う米国の銀行システムが非米諸国の OFCに出て行けば、OFC自体が米ドルの究極的な供給主体になりえるかもしれない。しかし、この事態は、米国の通貨主権を揺るがすことにもなり、実現する可能性も極めて低い。万が一生じても、そこで決済される「米ドル」が、本当の意味での「米ドル」になりうるのかを論点とする必要がある(拙書[2018a]151頁の注 6、Hoshino[2018c]p.176も参照されたい)。 30 ただし、いくつかの補足がある。第 1 に、在米ドル預金について、米国の国内金融システムが創り出すタイミング、取引主体が獲得するタイミング、そして、「移し替え」が行われるタイミングでは、タイムラグが存在しうる。第 2に、(個別主体レベルでは)米国の居住者が、金融取引を行う際に、非居住者から米ドル資金を取り入れる可能性があり、この場合は国際金融仲介となる。第 3に、内国タックス・ヘイブンについて、米国の居住者と非居住者いずれも、直接的に資金調達することなく、ニューヨーク(をはじめとする米国の他州)や他の非居住者から調達した資金で「移し替え」を行う可能性もある。しかし、(一国レベルでは)米ドル資金の究極的な源泉は米国にあることに変わりはない。

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おわりに

今日では、OFCをめぐって、「謎」という言葉で語られる一方で、研究や議論が蓄積され

始めている。こうしたなか、本稿は、OFCの内実を国際金融論の観点から筋道をつけて理解

することを目指した。OFCの研究は各分野ですでに行われているが、国際金融論の領域で議

論する際には、「金融仲介」と「信用創造」を中軸におきながら、資金の実態を軸におく必

要がある。本稿では、最終的に、取引で使われる通貨とその基盤となる決済のあり方、そし

て、通貨を創り出す国内の金融システムと、対外的な決済手段や国際マネーフローの源泉を

連結させて、OFCをめぐる資金の実態(源泉)を検討する分析視角を提起した31。

その一方で、本稿で検討した視角や論点について、①欧州共通通貨ユーロ導入国に存在す

る OFC、銀行守秘義務で有名なスイス、小国であるリヒテンシュタインやモナコ、また、本

稿で取り上げたロンドンやカリブ海を中軸においた検討への応用、②OFC の統合的なシス

テム、あるいは、個別の OFC の差異に着目した具体的な実証も求められる。こうした諸点

は、新たな研究課題として、次稿以降で具体的な検討を行っていきたい。

参考文献

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