デザイン工学部...steven hollの建築作品の変化...

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29 デザイン工学部 Faculty of Engineering and Design 2007年設置 建築学科 都市環境デザイン工学科 システムデザイン学科 デザイン工学部では、基礎となる工学教育のほ か、実社会への連携、グローバル化への対応も意 識したカリキュラムを学科ごとに構成しています。 専門知識だけでなく、環境、バイオ、福祉、文化な ど幅広い分野を学びます。 そのため、短期集中的に課題に取り組めるよ う、科目によって独自のクォーター制(1年4学期 制:1科目の授業を週2回実施)を採用し、効果的 に学習目的を達成します。また、教員と学生双方の 対話を重視した体験学習や研究室単位の授業を 多く取り入れ、少人数教育を実現しています。 市ケ谷キャンパス(市ヶ谷田町校舎)

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Page 1: デザイン工学部...STEVEN HOLLの建築作品の変化 アアルトのライブラリースペースに関する考察 椅子空間論 村野藤吾の椅子から見る建築空間

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デザイン工学部Faculty of Engineering and Design

2007年設置

建建築築学学科科都都都市市市環環環境境境デデデザザザイイインンン工工工学学学科科科シシシススステテテムムムデデデザザザイイインンン学学学科科科

建築学科都市環境デザイン工学科システムデザイン学科

 デザイン工学部では、基礎となる工学教育のほか、実社会への連携、グローバル化への対応も意識したカリキュラムを学科ごとに構成しています。専門知識だけでなく、環境、バイオ、福祉、文化など幅広い分野を学びます。 そのため、短期集中的に課題に取り組めるよう、科目によって独自のクォーター制(1年4学期制:1科目の授業を週2回実施)を採用し、効果的に学習目的を達成します。また、教員と学生双方の対話を重視した体験学習や研究室単位の授業を多く取り入れ、少人数教育を実現しています。

市ケ谷キャンパス(市ヶ谷田町校舎)

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デザイン工学部/建築学科

研究室の学び

社会との接点

 空間とアクティビティ 建築空間は、人々の活動を支えると同時に、様々な行為を誘発する場でもあります。 建築の内外を取り巻く環境や空間(建築や都市空間)をアクティビティ(人々の活動)・時間・光・風・音…など、様々なフルイド(流動的要素)を通してとらえ、新しい時代に向けての建築空間の在り方をさぐります。

  赤 松 研 究 室 で は 、学生たち自身がどのように建築や社会とかかわっていくのか、自らが主体となって様々な課題を設定し取 り 組 ん で い ま す 。例えば、筑波市の筑波山麓祭りに合わせて、使われなくなり閉ざされていた古民家を再生活用する『大越邸プロジェクト - 障子と光のワークショップ -』もその一つです。地域の人へのヒアリング、周辺地域の現状の把握、古民家の空間分析、そしてワークショップ内容の検討などを重ね、最終的には多くの参加者と一緒に空間を作り上げる楽しさを学びました。さらに、このプロジェクトを通して、具体的な関係者とのコミュニケーション、スケジュール及びコスト管理(マネージメント)など、総合的な実務の体験をすると同時に町の活性化にも貢献しています。

主な卒業研究テーマ

◉関係性の空間についての考察 ◉ヘルマン・ヘルツベルハーの集合住宅におけるスレショルドの

設計手法に関する考察◉ STEVEN HOLL の建築作品の変化◉アアルトのライブラリースペースに関する考察◉椅子空間論 村野藤吾の椅子から見る建築空間◉階段が住空間にもたらす豊かさ

准教授 赤松 佳珠子Kazuko AKAMATSU

建築デザイン分野建築設計・空間デザイン研究室

建築学科

研究室の学び

社会との接点

 多種の材料を多様に組み合わせることで様々な建物や町が実現されます。その組み合わせ方の多様性を研究開発する分野が建築構法です。特にこの研究室では、自然材料である木材を活用してこれまでの文化がどのように発展してきたのか、またこれからの建築はどうあるべきかという問題ついて研究をしています。

 古くから私たちは地球上の資源を建築材料という形に変えて建物や町をつくっています。継続的に住みやすい建築環境をつくってゆくためには、建物のつくり方と自然のバランスが取れていることが重要です。 このような視点で標準化・工業化という現代建築のつくり方を見たとき、使いやすい資源だけを選りすぐってはいないだろうか?再利用できないほど素材を加工し過ぎてはいないだろうか?という疑問が生じます。 自然素材は多様なものです。であれば建築のつくり方も多様であって良いはずです。この研究室では、自然を強引に建築に近づけるのではなく、自然に近づく建築の姿を探ることを目的に、自然素材の代表格である木材の創造的活用を考えていきます。

教授 網野 禎昭Yoshiaki AMINO

主な卒業研究テーマ

◉ Gradierwerk 文明を支えた巨大木造建築の誕生と衰退◉フィンランドにおける農業的背景から見たログハウスの配置と

特徴◉ハーフティンバーにみる構法成立と森林資源の関連性◉集成パネルによる木目転写コンクリート型枠の開発

建築構法・木造建築分野建築構法研究室

建築学科

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デザイン工学部/建築学科

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研究室の学び

社会との接点

 世界の建築・都市は多様で活気に満ちています。たとえば住宅もサッカースタジアムもその形態は多様です。駅前のペデストリアンデッキでは西欧の広場に匹敵するようなさまざまなアクティビティが見られます。夜景などの景観も多様です。建築や都市の複雑な構成は、その構成を図式化したり、カタチを数値化したりして単純化してとらえると、その特性が見えてきて,新しいカタチをデザインするヒントが見つかるかもしれません。

 社会人になると、目の前の仕事がさほどおもしろくないと感じることがあるかもしれません。多くの場合、単純なことを繰り返さなければいけないのかもしれません。しかし、目の前の小さな仕事は,実は大きな世界と関係しているはずです。建築のカタチは都市空間のイメージに影響を与えます。たとえばドアの取手などの建築の小さな部分が建築空間のイメージに影響を与えます。ですから、目の前の小さな仕事を通して、大きな世界を見通す目を養うことが何よりも重要です。すべての仕事が世界の成り立ちと関係しているという目をもてば、仕事がおもしろくなり、新しい世界をつくることにつながっていくはずです。 世界は建築であふれています。建築のおもしろさは、先進的な建築家のデザインする新しい建築や歴史的に価値のある建築の中だけではなく、すべての建築の中に隠れていると思います。見栄えのいい建築だけでなく、見栄えの悪い建築にも、なぜそうなったかという物語が隠れているかもしれません。 建築のおもしろさを見つけて、建築の設計や工事だけでなく、交通や広告や不動産や出版や映画や写真など、さまざまな分野でそれを活かして欲しいと思います。

主な卒業研究テーマ

◉住宅の平面構成に関する研究◉近代建築の立面構成に関する研究◉広場や街路や夜景の形態分析・空間解析◉広場やペデストリアンデッキの囲まれ感に関する研究◉都市空間のイメージに関する研究◉映画や小説に描かれた建築・都市空間に関する研究◉計算(コンピュータ)による新しいカタチの創造

教授 安藤 直見Naomi ANDO

建築計画・都市計画分野建築空間研究室

建築学科

研究室の学び

社会との接点

 当研究室では、東京などの日本の巨大都市、人口千人にも満たない漁村集落などを研究テーマとし、人々のいとなみから生まれた都市空間や集落空間の成り立ちと、その空間の仕組みを研究しています。すなわち、だれもが生活し、学び、働く場が研究対象です。例えば、いつも歩いている道がいつ、どのようにでき、その道に沿う商店街や背後の住宅地がどのような要因でつくられてきたのかを明らかにする研究といえます。

 当研究室で試みている、大きな都市や小さな集落の歴史的な研究は、単にその歴史を学ぶだけではありません。都市や集落の成り立ち、その空間の仕組みを学び、研究することで、暮らし、学び、働く人たちの環境がよりわかりやすいかたちで理解されていく研究です。同時に、その研究成果は、これからの都市計画やまちづくりに活かされることで、暮らし、学び、働く人たちのより良い環境づくりに役立つ試みでもあります。 例えば、当研究室で行ってきた研究の一つに「銀座における都市空間の研究」があります。この研究とその成果について少しお話ししましょう。銀座は、世界的に知られた日本有数の繁華街です。しかし、1990 年代初頭の銀座は、活気が低下し、街の雰囲気も暗さが感じられた時期でした。丁度その頃銀座の研究をはじめ、成果が出始めた 1990 年代後半からは、銀座の研究を踏まえ、銀座の方たちと銀座のまちづくりを始動しました。1999年には銀座の将来像を示した「銀座街づくりビジョン」を出版し、銀座のまちづくりが銀座の活性化につながっていきました。都市や集落の歴史的研究は、都市計画やまちづくりを意味あるものにする重要な学問です。

教授 岡本 哲志Satoshi OKAMOTO

主な卒業研究テーマ

◉銀座における都市空間の研究◉丸の内における都市空間の研究◉江戸東京の都市形成史の研究◉日本の中世港町の現代に至る形成プロセスの研究◉三陸における漁村集落の空間形成に関する研究

建築史・意匠分野、都市計画・建築計画分野都市史・都市計画研究室

建築学科

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デザイン工学部/建築学科

研究室の学び

社会との接点

 建築・都市は我々にとって重要な生活基盤・社会インフラです。良好な建築環境・都市地域環境が確保されなければ我々は快適且つ健康的に生活を送ることはできません。  そのため良好な建築環境・都市地域環境の追求は極めて重要です。一方で、我々人間は豊かな暮らしを追求する過程で環境に多大な負荷を与えており、その影響の低減に努めなければなりません。持続可能な発展のために、環境工学の視点から未来のあるべき建築・都市像を探求しています。

 当研究室では豊かな住環境の実現に向けた基礎的な研究を行っています。皆さんはまだ幼い頃、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎等で苦しんだことはありませんか?我々の研究の結果、住環境の善し悪しが上記の疾病の発症を左右している可能性が明らかとなってきました。また、症状がより重篤な高血圧、脳疾患、心疾患、肺炎、喘息等の疾病の発症も住環境の善し悪しと一定程度関係がある可能性が示唆されています。環境が良好な住宅に住めば豊かな生活を送ることができますが、環境が悪い住宅に住めば自らの健康を害してしまう可能性すらあるのです。 今後皆さんが大学生となって一人暮らしを始める際や就職して転居する際、結婚して新居を購入する際等、居住する住宅の選択を迫られる機会が増えてくると思います。その際に少しでも上記のことを思い出して下さい。折角家賃が安い住宅に暮らしても健康を害して仕事ができなかったり医療費で生活が圧迫されるようでは意味がありません。 当研究室では今後も建築環境・都市地域環境の改善に向け様々な研究を行っていく予定です。ひとりひとりが健康で快適な生活を送ることができるような情報を発信し続けていきたいと思っています。

主な卒業研究テーマ

◉日本全国の住環境の評価◉寝室環境が居住者の睡眠の質に及ぼす影響に関する研究◉費用抑制と性能向上の両立に資する住宅設計手法の開発◉都市環境が市民の有病状況に及ぼす影響に関する研究

助教 川久保 俊Shun KAWAKUBO

建築環境分野建築・都市環境研究室

建築学科

研究室の学び

社会との接点

 私の研究室では、建築構造デザインを研究テーマとして取り上げています。古代ローマの時代から建築とは用・強・美の統合であると定義され、なかでも構造デザインは主に強と美を対象とし、安全(健全)で造形的にも美しい建物を工学的に実現する最も根幹的な分野です。例えて言えば、表面を飾った見せかけだけの建築より、プロポーションや骨格の美しい健康美人的な建築の実現を目指すことを学ぶ研究室です。

 一般に我が国では重力の他に巨大地震や大型台風など、海外諸国に比べてはるかに厳しい自然環境(予想外の外力条件)に置かれており、建築構造の安全性の検証と確保は社会的にも非常に重要な課題となっています。当研究室ではそのための理論的・工学的な研究を行い、いずれ社会に出てそれを広く応用し、建築構造デザインを職能とする構造設計者の基礎教育に努め、その分野の第一線で活躍する人材をこれまでに多数輩出しています。 また当研究室では、前述したように安全性の確保と同時に建築構造美の追求をもう一つの大きなテーマとしていて、形態創生・形態デザインと呼ぶ理論的構造デザイン手法についての研究を世界に先駆けて行っています。その応用実現例として RC 自由曲面シェルによる建築作品 ROLEX ラーニングセンター(2009年竣工、スイス/ローザンヌ)などがあります。

教授 佐々木 睦朗Mutsuro SASAKI

主な卒業研究テーマ

◉ラチスシェルの座屈補剛パーツの最適配置の研究◉遺伝的アルゴリズムによる構造物の冗長性の研究◉座屈荷重に対する自由曲面シェルの形態創生の研究◉地震入力に対する自由曲面シェルの形態創生の研究◉座屈荷重に対する木造格子シェルの形態創生の研究◉セルオートマトン法による構造形態創生の研究◉双方向進化論的構造最適化手法の研究

建築構造分野建築構造研究室

建築学科

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研究室の学び

社会との接点

 日本の街はひとつひとつの建物が集合して形成されていて、ひとつの建物が変わると街全体が変わる可能性を秘めています。私の研究室では、単に建物単体をデザインするだけでなく、建物のデザインによって周囲の街の環境全体が更新していくような建築のあり方を研究しています。建築と都市を同時に考える素養を培うことで、幅広く建築設計分野で活躍できる人材を社会に輩出しています。

 建築は、わたしたちの快適な暮らしや豊かさを支える大切な社会基盤です。より良い建築を考え、実現することは私たちの生活の向上に大きく寄与します。 地域にふさわしい、あるいは新しいスタイルをもつ建築を創出するためには、社会の動向や人々の振る舞いを丁寧に洞察し、その歴史を学ぶことで、批評的な感性を養うことが不可欠です。現代社会と連動した建築を構想しなければ、生き生きとした人々の暮らしを支えることはできません。 また、建築は〈かたち〉が伴います。どんなに優れた思想をもっていても、〈かたち〉として実体化しなければ意味を成しません。そもそも、モノをつくるという創造行為は、人間に備わっている素晴らしい資質であり、建築は人間の崇高さが連綿と堆積した文化資産なのです。 建築を学び、考えることは人間と向き合うことであり、その〈かたち〉を模索することは人間本来の創造性を喚起することでもあります。 以上の観点から、私の研究室では街に出て調査し、手を動かしてスケッチや図面を描き、模型を制作し、ディスカッションを重ねながら、現代的な視点で、建築空間や都市空間の研究を行っています。

主な卒業研究テーマ

◉日本の都市空間における広場化に関する研究◉ネット社会における個室とプライバシーの研究◉キャンプ場のテント配置の分析による境界と領域の考察◉街中の階段と周辺環境の関係性がつくる表象空間の研究◉手すりの意匠学◉文学描写における東京駅の象徴性の変遷に関する研究◉映画における階段の虚構性と舞台性に関する考察

教授 下吹越 武人Taketo SHIMOHIGOSHI

建築デザイン分野建築・都市空間研究室

建築学科

研究室の学び

社会との接点

 建築は、人類の歴史と深く結びつく文化そのものです。それが集まり、自然条件と対応しながら、都市をつくってきました。お国柄、地域性がそこには見事に表れます。陣内研究室は建築・都市の歴史を専門にしながら、こうした建築が集まり生活の場を形づくっている都市、環境の在り方を歴史の視点から研究しています。設計、デザインを志す人達にも、絶対に習得して欲しい分野です。海外の調査も多く、国際的な視野で日本の建築、都市を考えます。

 日本は成熟社会に入りました。使い捨てのバブル的な状況を脱し、サステイナブルな都市、社会を目指す動きが強まっています。その中で、自然の条件を活かし、場所の個性に合った建築・町並み・都市空間をつくる方法を過去の経験から学ぶことが重要になっています。地域の自然、歴史、生活文化の蓄積を大きな資産と考え、未来に向けた質の高い創造へと結び付けることが求められています。陣内研究室はその現代的な課題を研究しています。 イタリアの都市、地域の研究はその代表的なもので、歴史的な都市の魅力の源泉を考察しながら、その現代社会の中での再生の在り方を学ぶことが、日本の都市を考えるのに、おおいに役に立っています。田園の美しさを「文化的景観」として評価するイタリア流の方法も、日本に活かされています。 水の都市の国際比較をテーマにしていますが、これは戦後、すっかり魅力を失っていた東京をはじめ、日本の都市の水辺を復活させる上で、大きな役割を果たしています。東京オリンピックを控え、水の都市、東京の再生を望む声がますます大きくなっており、陣内研究室の研究成果が注目されています。

教授 陣内 秀信Hidenobu JINNAI

主な卒業研究テーマ

◉イタリアの歴史的都市の空間形成史、ヴェネツィア等◉アンダルシアの中庭(パティオ)型住宅の空間分析◉ニューヨークの港湾空間の形成過程と空間構造◉東京の都市を読む 水の都市・田園都市◉江戸東京を支えた荒川水系の筏流しと舟運◉漁師町・浦安の形成過程と生活空間の構造◉古代都市・奈良を支えた水系ネットワーク

建築史・意匠分野建築史・都市史研究室

建築学科

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デザイン工学部/建築学科

研究室の学び

社会との接点

 都市や建築の歴史、それと強く結び付いて成立する総合的な意匠(デザイン)を学びます。「建築史」は建築の歴史を学ぶためにあるのではなく、過去の意匠の思想や状態を理解し、その時代の事象や価値を認め、それを未来に継承するため、また現在生じているさまざまな現象の理由を過去に遡って発見して深い思索を行ない、その思考を鍛えること、そして歴史の中から選択した事象をもとに、今後進むべき基準を作るために存在する分野です。

 21 世紀はアジアの時代と言われています。都市や建築でも、これまでのように西欧近代だけを典型的なモデルとするだけでは、もはや新たな世界を創造することができません。 この研究室では、中国、香港、マカオ、台湾、ベトナム、タイ、 ラオス、インドネシアなど、アジアのさまざまな地域の都市と建築を手と足を使って実測フィールド調査し、そこに蓄積された空間形成のメカニズムとデザインの伝播過程、そして人々の暮らしとの関係を歴史的な視点から考えます。 同時に、東京を中心とする日本の近世から近代への都市空間の変容について調査研究しています。これらの調査研究は、21 世紀の日本のまちづくりや建築の再生をいかに創造性豊かに実現していくか、そのベースとなる重要な作業なのです。

主な卒業研究テーマ

◉高橋亨「露店建築―今も残る戦後ヤミ市のあと」(2002 年度日本建築学会優秀卒業論文賞受賞)

◉藤原玄明「長屋の近代都市大阪―模索する都市計画から『近代長屋』の成立へ」(2012 年度日本建築学会優秀修士論文賞受賞)

◉常山真央「水辺と劇場―江戸名所図屏風に描かれた芝居町木挽町の復元的考察」(2009 年度建築史交流会優秀論文賞受賞)

教授 高村 雅彦Masahiko TAKAMURA

市谷住宅の実測

建築史分野歴史・意匠研究室

建築学科

研究室の学び

社会との接点

 巨匠といわれる建築家は、建築の設計にあたって、建築の歴史に学び、かつ理論的にも深く掘り下げました。30 年前の話ですが、師・大江宏先生(日本芸術院会員・本学名誉教授 1913- 1989)の指導は優しくも厳しく、「単位取れない超難関授業」(朝日新聞 1983 年 10 月 5 日朝刊・14 面)として紹介されました。先生の主唱された「アーキテクトマインド」を究めるべく、その伝授・会得・継承の途を歩まんとする若人の登場に期待しております。

  建築の本質として、否、宿命として、建築と社会を切り離すことなど絶対にありえません。時に純粋に建築を追求しようとする人もいますが、それすらもが社会的危機感の現れとも考えられます。 私の近過去をふり返っても、地球温暖化防止と阪神・淡路大地震を踏まえた「地球環境・建築憲章」の制定(2000年)、遡って、文化財保護法の改正による登録文化財制度の発足(1996年)、F . L . ライトと遠藤新の合作となった自由学園明日館・講堂の重要文化財指定(1997年)及び動態保存と開館(2001 年)。消えてゆく建築物の記録・証言としての図面の収集を中心とする日本建築学会建築博物館の開設(2003 年)などにも尽力してきました。 学内的には、市ヶ谷田町校舎図書閲覧室の整備に尽力しました。法政大学の建学の精神と建築学の最前線を交叉させるべく選定しました。工学と芸術のみならず、歴史・文学・哲学へと通ずる領域を主とする、『大江宏 = 歴史意匠論』

(1984年)、『建築作法』(1989年)など基本図書読解のための特徴的な書架となっております(2008 年~)。 また、同学の徒の 12 年に及ぶ交流を経て、本邦初の『建築論事典』(日本建築学会編、2008 年)を上梓、中国建築工業出版社(北京、2012 年)から翻訳版が出されました。

専任講師 崔 康勲CHOI Kanghoon

主な卒業研究テーマ

◉建築のある風景とオーソドキシー◉近代建築意匠とハイブリッドの世界◉建築の言葉と意味の生成-中庭と柱列◉日本建築の伝統的方法-間と気配◉人文学としての建築術の構築

建築設計・建築論分野建築意匠・建築論研究室

建築学科

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デザイン工学部/建築学科

研究室の学び

社会との接点

 海外および日本における古くからある建築の居住性能を環境工学的に検証する研究を行っています。 気候・風土によって発達し、歴史的・伝統的に培われてきた特異な建築“風土建築”には、自然のエネルギーを巧みに利用しながら快適性を確保しています。これを、現地調査ならびに熱流体数値シミュレーションを駆使して建築環境工学的に検証しています。この成果を現代の建築計画に生かし、エコロジカルな建築創造に努めています。

 風土建築(ヴァナキュラー建築)に関する既往の調査研究は、歴史や民俗学の観点からの検討が主でありましたが,環境工学の観点に着目すると、ヴァナキュラー建築は地域固有の気候に配慮し地域環境との調和を図りつつ地場の建築資材や自然のエネルギーを積極的に利用し、屋内および屋外環境を維持・向上させるための工夫が至る所に施されていることが分かります。その結果、環境負荷は最小限に抑えられています。これらヴァナキュラー建築の特徴は近年注目されている「環境共生住宅」に掲げられている目標と多くの共通点を有し、その環境調整機能の解明は環境負荷削減のための新たな環境調整手法の提案に結びつく可能性を有しています。本研究室では、数値解析や実測によりヴァナキュラー建築に施された工夫が屋内環境に与える影響を定量的に評価し、建築的手法の有効性の検討を行います。 以上のように、これらの研究成果は、地球規模の環境保全に対して有効であると考えられ、建築実務に応用されれば、社会に対して有意義なことと思われます。

主な卒業研究テーマ

◉日本の伝統的民家の「うだつ」の延焼防火効果の研究◉海外および日本の伝統民家の温熱・風環境に関する実測とコ

ンピュータ数値計算による研究◉フランスの気候マップ作成と農作物・植生などとの関連に関す

る研究◉環境実測と学生の意識調査に基づく教室の環境状況の分析と

改善案に関する研究

教授 出口 清孝Kiyotaka DEGUCHI

建築環境工学分野建築環境設備研究室

建築学科

研究室の学び

社会との接点

 建築は、使いやすく、安全・安心であり、さらに美しく人々に親しまれることが求められています。 その中で、建築構造分野は人々に安全・安心を与える部分を主に担っています。 私の研究室では、力学や数学、先人の知恵、コンピュータ技術など様々なものを駆使しながら、安全・安心であることはもちろん、経済性や省資源にも配慮された創造的な建築空間をかたち創る方法について研究しています。

 日本は、言わずと知れた地震大国でありながら、台風の通り道でもあり、世界的な豪雪地帯も存在するというように過酷な自然現象に見舞われる国です。 また、可住面積が少ないため高層ビルが林立する世界的な人口過密国でもあり、同時に経済大国でもあります。 日本は自然災害等により大きなダメージを受けるリスクに晒されながら、そのダメージが世界へ及ぼす影響も大きいという本当に特殊な国です。 そのような国において、「構造」の重要性が高いことは間違いありません。 さらには、今までにないような新しい建築空間を創造する際には正しい「構造」の知識と技術は必要不可欠です。 研究室で学んだ構造に関する知識が、日本を、さらには世界をも強靭なものにし、人命と資産を守るだけではなく、人々によりよい空間を提供することにつながります。 そしてそのような物心両面で良質な建築は、安全・安心で持続可能な社会を築く礎になると私は信じています。

専任講師 浜田 英明Hideaki HAMADA

主な卒業研究テーマ

◉ねじれた円筒壁の座屈特性◉ RC シェルの安定性評価式における安全係数の設定法◉仮想的なねじれ荷重による偏心率算定法◉柱配置の最適化問題◉新素材 CFRP を用いた建築構造の可能性◉大空間構造物の積雪被害調査

建築構造分野建築構造計画研究室

建築学科

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デザイン工学部/建築学科

研究室の学び

社会との接点

 ローマ時代の建築書には、アルキメデスの浮力の発見など物理の話が多数でてきます。現代の名著「力学」には、

「ニュートン力学の第3法則:作用・反作用」が建築設計の基礎であると書かれています。また、時に建物をなぎ倒してしまう地震力は、「ダランベールの慣性力」であると理解されています。このような物理を基礎に数学やコンピュータを存分に駆使し、災害に強く安全で可能性に満ちた建築空間を創造する技術を学びましょう。

 建築物は私達の日常生活や社会的活動と深く関わっています。人類は、生活圏内で手に入れることのできる材料を用いて、雨風を凌ぐための建築空間を作ってきました。遺構を含め今日までのそれらは用いた諸材料の性質と各土地の制約を受けながらも、その可能性を最大限に引き出したものと言えます。そこには素材と環境に対するあまたの経験と理解に基づく人類の創意工夫があります。これを物理学の視点から整理統合し、予測可能な技術として発展させた設計のための経験科学が建築構造学です。 特に、我が国では想定耐用年限内に発生可能な最大規模の地震に対して、建物が安全であることを保障する必要があり、そのために耐震設計が課されています。安全の主目的は人命を守ることにあります。それは建物の崩壊を防ぐことによって、場合によっては付帯する機能をも維持することによって達成されます。ところで、建築は美しくなければなりませんが、その評価の多くは主観によります。一方、安全性など建物の性能は客観的な指標によって評価されます。これを満足する良質な建築を生み出すこと、そしてそのため、耐震設計に関する基本的な知識を蓄えておくことは建築を専門とする者に負託された社会的責任です。

主な卒業研究テーマ

 建築構造設計において未解決な問題または未開拓の分野に関して、数値解析の立場から理論的に取り組んでいます。◉敷地地盤の硬軟は建物の地震応答にどう影響するか◉建物の日常微振動から地震時の耐震性能は推定可能か◉大地震を受けた建物はどのように耐え、また崩壊するか◉地震動を受けた地盤はどのように崩れ、液状化するのか◉地震波は建物にどのように入射し反射し逸散するのか

教授 吉田 長行Nagayuki YOSHIDA

建築構造分野建築構造解析研究室

建築学科

研究室の学び

社会との接点

 衰退する地方都市の中心市街地をどうしたらよいのか、家族形態が変わる中で居住はどう変化するのだろうか、ミュージアム・図書館・ホールなどの公共建築は社会の中で今後どのような位置づけをもちうるのか、農村はどう変わるのか、環境の概念をどのように建築化したらよいか、

《社会》が変わるときには《建築》も変わらざるをえません。 建築に固有の形式を理解しながらも、建築や都市がどのように変わっていく必要があるのかを見出そうとしています。

 <Self Help, Open End, Collaboration(自助、社会に開くこと、協働)> を私たちの研究室活動の基本原則としています。社会との接点という点では、とりわけ 2 番目の<Open End> が重要になります。大学の研究室は大きな家族のような長所をもっていますが、ややもすると内部に閉じがちになるからです。大学連携(他大学との交流)、域学連携(地域社会との協働)もその延長上にあります。 新潟県上越市の月影小学校の体験型宿泊施設への再生と運営支援では早稲田大学、日本女子大学、横浜国立大学と連携しています。 同市で毎年秋に開催している<建築トークイン上越>には首都圏を中心に日本全国から約 60 名の大学生が参加しています。 群馬県前橋市の中心市街地の再生については前橋工科大学と協働しています。 東日本大震災の復興支援活動は下吹越教授と協働してインデペンデント・スタジオを立上げ、牡鹿半島の2つの浜をベースに 3 年間活動してきました。

教授 渡邉 眞理Makoto WATANABE

主な卒業研究テーマ

◉八郎潟を干拓するにあたって提案された農村計画から農業と農村の関係性を探る

◉大地の芸術祭とそれをサポートする<コヘビ隊>の関係から妻有地域に展開するアートイベントの効果を明らかにする

◉公営住宅の変貌、減築などの新たな手法はどのような意味をもっているのか

建築デザイン分野建築都市設計研究室

建築学科

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デザイン工学部/都市環境デザイン工学科

研究室の学び

社会との接点

 2011 年の東北地方太平洋沖地震では津波により甚大な被害を受けましたが、日本では南海トラフの巨大地震や首都直下型地震が切迫しています。当研究室では、地震による人的、社会的被害をできるだけ減らすことを目的に研究を進めています。具体的には、まず将来発生する地震の揺れの予測、その際の災害(特に土砂災害や道路、水道などのライフラインの被害)を予測したのち、地震対策を考えています。

 2011 年の東北地方太平洋沖地震では、約2万人の死者、行方不明者を出しましたが、南海トラフの巨大地震では最悪の場合、死者 30 万人以上、経済的損失 200 兆以上という予測がなされています。東北地方太平洋沖地震のような悲劇を繰り返さないよう、できる限り被害を小さくする努力が国や地方自治体によってなされつつあります。 しかし、国や県など自治体の予算が縮減されるなか、いつ、どれくらいの規模の地震がくるのか分からない、不確定な要素を多く含む地震に対して、無尽蔵に費用をかけて対策を取れるものでもありません。そのため、効率的な地震対策が求められています。 上記の観点から、当研究室では、例えば地震被害が早期に復旧でき、社会的に大きなものではないものに対しては地震対策を行わない、ということも選択肢のひとつとして、経済的でかつ自然環境に配慮した地震対策方法の構築を目指して研究を進めています。また、卒業生は、研究室で学んだ専門知識、技術を持って、役所や建設会社などの建設関係の仕事で力を発揮してくれています。

主な卒業研究テーマ

◉広域または特定地点における地震の揺れの予測◉自然斜面や堤防、道路盛土などの土構造物の地震被害予測法

の提案◉孤立地域防止のための地震被害を受けた道路の復旧速度の研究◉地震時における斜面、石積み擁壁等の崩壊解析◉新しい耐震部材の開発

教授 酒井 久和Hisakazu SAKAI

地震工学分野地震防災研究室

都市環境デザイン工学科

研究室の学び

社会との接点

 近年の地球温暖化や発展途上国の近代化等によって自然環境・地球環境が大きく変化し、我々を取り巻く都市の環境や気候もまた大きな影響を受けることが予想されます。当研究室では、このような地球環境の問題や気象災害の問題を対象にその影響の予測や対策の検討を行っており、「人類と自然環境がいかに共存するか」をテーマに、水工学(河川や水資源などを扱う学問)や水文学(水循環や水環境などを扱う学問)に関連する研究に取り組んでいます。

 当研究室の名前にある水文(水文循環)という言葉は、「地球規模あるいは流域規模の水の循環」を意味する言葉で、右の図はその様子を概念的に描いたものです。当研究室の研究内容は豪雨や大気環境に関するものがメインになっていますが、基本的には水文循環に関わるすべての現象やプロセスが研究対象であると言えるでしょう。 水文循環は、河川や降水といった我々の身近なところから、蒸発散、地下水、水資源、水環境に至るまで数多くの問題と密接に関連していますが、近年は特に、地球温暖化やヒートアイランド(都市部の高温化)の問題、集中豪雨による災害の多発、大気浮遊物質(硫黄酸化物、PM2.5、黄砂等)による越境汚染などとの関連で注目されるようになってきました。当研究室のメンバーは、地球環境や都市環境が大きく変化しつつある中で、自分たちの研究が「環境問題の解決」や「気象災害の軽減」に少しでも役に立てばという思いで研究に取り組んでいます。

准教授 鈴木 善晴Yoshiharu SUZUKI

主な卒業研究テーマ

◉集中豪雨などの降水現象の解明と工学・防災への応用:豪雨抑制を目指すクラウド・シーディングに関する研究など

◉温暖化や大気汚染を中心とした地球環境問題の影響評価:東アジアの大気浮遊物質による越境汚染に関する研究、温暖化進行に伴う豪雨イベントの将来変化に関する研究など

◉土地利用や水文特性を考慮した適切な流域管理の実現:江戸城外濠における水環境と水循環に関する観測・研究など

水工学分野水文気象環境研究室

都市環境デザイン工学科

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デザイン工学部/都市環境デザイン工学科

研究室の学び

社会との接点

 都市デザイン研究室では主に二つの学びを意識しています。一つはその名の通り、具体的な都市の有り様を分析して、都市デザインとしてどのように対応、展開していったらよいかを考え、提案することです。もう一つはその背景となる都市に関する研究です。全国計画から都市計画、地区の計画などのレベルで、これまでの都市づくりがどのように進められ、その成否はどうであるかなどを分析、研究し、次の都市づくりに活かされるべき智恵を探っています。

 当研究室の卒業生、修了生の進路については、都市づくりを具体的に進める発注者側である行政と、その受注側である民間コンサルタント、実施部隊であるゼネコンなどが中心となっています。彼らは実務の経験を積む中で、大学で学んだことがどう役にたつのかを年々感じていくはずです。 また在学中には、各所で行われ誰でも参加できる街づくり提案コンペに積極的に参加するようにしています。全国レベルのものから、身近なものまでありますが、ここのところ佳作などの形で入賞、評価を受ける段階まできています。学部、大学院のカリキュラムに加え、社会で行われているコンペなどを研究室内で行っていることは一つの特徴であると考えています。 また、教員である私が民間コンサルタントとしての立場も持ち、実務に携わっていることから、学生にも可能な範囲でそれに接することができるようにしています。

主な卒業研究テーマ

◉国土政策の成果と評価に関する研究◉大都市の土地利用変化の実態把握に関する研究◉地方都市の中心市街地活性化に関する研究◉連続立体交差事業の成果と課題に関する研究◉費用便益、事業評価に関する研究◉都市の生成過程とその要因等に関する研究◉飯田橋五叉路の問題点とその改善に関する研究

教授 高見 公雄Kimio TAKAMI

都市計画、都市デザイン分野都市デザイン研究室

都市環境デザイン工学科

研究室の学び

社会との接点

 景観研究室では、快適な都市環境デザインの実現に貢献できる人材育成のため、以下のような学びを準備しています。現地を見に行き、河川や広場、橋梁などの設計の考え方を学び、デザインの発想の仕方について学びます。資料や文献を調べ、良好な都市環境についての知識を深め、論理的に議論する訓練をします。個人やグループでの設計競技やデザインワークショップへの参加によってデザイン提案に関する基礎的トレーニングをします。

【専門性をたばねる視点獲得】大学の研究の多くは、分野を細分化して専門を深める方向で活動しています。しかし、実社会で良好な都市環境をデザインするには、そうした専門的な知識を総合化する発想が求められます。当研究室ではそのような視点に学生時代から触れることができます。

【大学を超えた人脈獲得】当研究室では、他大学との共同研究や共同イベント、自治体での調査など、大学の枠にとらわれない活動を実施しています。こうした活動を通じて形成される知り合いの輪は、在学中はもちろん、卒業・就職後には所属組織を越えた友人や先輩として、さまざまな相談ができる人脈となります。

【最新状況の理解】担当教員は国内各地の自治体景観アドバイザーとして活動しており、都市環境デザインに関する社会の最新状況を学生に伝えることができます。また、民間企業や官庁に勤務した経験を持つことから、公務員や民間などの立場からどのように良好な都市環境デザインに貢献できるかを伝えます。

教授 福井 恒明Tsuneaki FUKUI

主な卒業研究テーマ

◉街歩き中の注視対象が街の印象に与える影響◉学生街における学生の日常活動の空間分布と要素集積◉景観計画における界隈領域の設定とその構成要因◉流山市の景観行政における公共事業デザインの調整経過◉外濠・内濠を望む潜在的視点場分布と現状◉国土交通大学校における景観教育の変遷と特徴◉住宅地における健常高齢者の歩行環境評価

都市設計・景観デザイン分野景観研究室

都市環境デザイン工学科

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デザイン工学部/都市環境デザイン工学科

研究室の学び

社会との接点

 皆さんの毎日の生活をささえる土木構造物の安全な設計、施工、運用、管理にかかわる研究をしています。具体的には、橋梁や風車等の複合構造物に関するシミュレーション解析を行っています。複合構造とは、鋼材とコンクリートという 2 種類の材料を使用し、各構造材料の短所を補完し長所を活用するように考えられた構造形式です。また、複合構造の重要な構成要素であるコンクリート材料の強さや硬さを調べる実験も行っています。

 複合構造の研究は、皆さんの身近に存在します。橋梁や風車の設計や管理に大変役立っています。 例えば、橋梁では鋼とコンクリートを合成した合成床版が多く利用されています。この床版上を 50 年、100 年にわたり何億台もの車が通過した場合の疲労損傷・破壊の可能性を、シミュレーションを用いて研究しています。 また、風車倒壊の事故例が世界各地で報告されていますが、事故の原因は台風や地震など様々な可能性があります。このように、予測の難しい自然現象に対して構造物がどのような挙動をするのかを明らかにするため、研究を行っています。 これらの研究によって、今後数十年で起こりうる構造物の破壊を予測してあらかじめ補強をしたり、損傷がおこりにくい最適な複合構造形式の提案を行っているのです。

主な卒業研究テーマ

◉衝撃的な荷重をうけるコンクリートの強さや硬さの変化◉鋼とコンクリートの合成部の強さや変形性能◉自動車の交通を支える橋梁床版の疲労損傷◉実風車の振動計測による挙動分析と基礎の損傷予測◉新幹線の高速走行が鉄筋コンクリート構造物へ与える影響

准教授 藤山 知加子Chikako FUJIYAMA

図-風車シミュレーション解析図

土木分野複合構造研究室

都市環境デザイン工学科

研究室の学び

社会との接点

 私たちの周りにある道路や橋、鉄道、ダム、ビルなどの建物は、ほとんどがコンクリートでできています。このコンクリートでできた建物を長く使えるようにするための研究を当研究室で行っています。具体的には、使われるコンクリートの性質(どれくらい強いのか、暑さや寒さにどれくらい耐えられるのか等)を調べたり、コンクリートでできた構造物がどれくらい傷んでいるか調べる方法や傷んだところを治す治療法(補修方法)を開発したりしています。

 コンクリートを構成する材料の一つであるセメントを 1トン製造するには、約 700kg の CO2 が排出されます。この CO2 を削減するために製鉄所から出るゴミ(スラグ)や火力発電所から出る灰(フライアッシュ)をセメントの中に混ぜ込んで、CO2 の排出量を減らすとともに、スラグなどのゴミの有効利用を行うまさに一石二鳥のセメントの研究を当研究室で行っています。また、コンクリート構造物には様々な病気があります。その中に、塩分を取りすぎて起こる塩害があります。この塩害を早期に発見する方法として、レーダを用いてコンクリート自体を壊さないで調べる方法を当研究室で開発しました。この他にもコンクリートの中の鉄(人でいうと骨に相当するもの)が錆びてボロボロになっていないかどうか赤外線を使って調べる方法についても研究中です。これらは、建設されて古くなった構造物を調査するのにとても役立つ方法です。さらに、コンクリート中の砂や砂利が化学反応を起こしてコンクリート自体をボロボロにしてしまう病気(アルカリシリカ反応)を抑えるための薬品(補修材)の開発とその効果についても研究しています。当研究室は、皆さんの最も身近にあるコンクリートについて様々な研究・開発を行っています。

教授 溝渕 利明Toshiaki MIZOBUCHI

主な卒業研究テーマ

◉レーダを使ったコンクリート中の塩分量推定方法の開発◉赤外線を用いたコンクリート中の鉄筋の錆の検知方法◉縮尺鉄筋を用いた配筋模型製作による立体視能力の向上◉コンクリートが固まる途中でひび割れる現象の究明◉アルカリシリカ反応を抑制する補修材の開発◉ CO2 削減のための新しいセメントの性質に関する研究◉汚染水中の放射性物質低減に関する基礎的研究

建設材料・施工分野コンクリート研究室

都市環境デザイン工学科

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デザイン工学部/都市環境デザイン工学科

教授 道奥 康治Kohji MICHIOKU

研究室の学び

社会との接点

 人々の生活は、川がもたらす水の恵みと自然環境によって支えられています。しかし時には、川によって洪水や土石流などの自然災害がもたらされ、人々の生活に脅威を与えます。私たちの研究室では、河川・湖・ダムの環境と災害に関する諸課題を解決するために、流れの物理学(水理学)、水質・生態系に関する理論解析、現地調査を実施しています。こうした陸水域環境に関する研究・技術開発を進めることによって、持続可能な水環境を創生します。

 豊かな川の恵みに支えられて世界の四大文明が開花し、各地のまちや農地は川の流れに沿って展開されていることからわかるように、人々の生活は川と切り離せない関係にあります。朝起きてから晩寝るまで、生活に必要な食料・資材の全てが、水によって直接・間接的にまかなわれています。持続可能な社会を築くためには、河川流域に発生する洪水を安全に処理し、陸水域の水質・生態系を良好に維持しなければなりません。適切な計画の下で川の整備や管理を実施しないと、川本来の流れや地形に不可逆的な変化を与え、水辺の景観や水質・生態系など自然環境を損ねます。 私たちの研究室では、環境水理学の視点から、人々と自然との共生を実現するための安全で持続的な川づくり、環境負荷を緩和・最小化するための流域管理の戦略について研究しています。生活基盤を支えるインフラの老朽化と維持管理は、今後の重要な技術課題として知られていますが、川は、人為的な改変・利用と気候変動の影響を受けながら環境特性が変動するため、経年的に劣化する人工構造物とは異なる管理概念が必要となります。水辺や流域を管理あるいは利用する行政や市民と連携しながら、川のデザイン戦略を考えていきます。

主な卒業研究テーマ

◉樹林化した河川における流れの抵抗◉河川樹林特性に関する画像計測◉河川内樹木の伐採計画と空間デザイン◉川の流砂輸送と地形変化の解析◉汚濁浸出水の窒素除去技術◉石礫など自然材料を用いた河川構造物の水理デザイン◉ダム貯水池の水質水理と環境改善技術

環境水工学分野陸水域環境研究室

都市環境デザイン工学科

研究室の学び

社会との接点

 水とみどりによる都市再生を統一テーマとし掲げて取り組んでいます。評価・計画するための社会経済指標や空間情報、環境情報を一元化するためにデーターベースを構築することにより、地域の環境や地区特性を評価・分析し、計画の方向性を探っています。そのための空間情報システムを手始めとして学んでいます。また、住んでいる人だけでなく街歩きや観光で訪れる人(交流人口)を増やすためにはどのようなまちづくりが有効か研究しています。

 今後の人口減少や少子高齢化は皆さんニュースなどで良くご存じだと思いますが、まちづくりの方向性としてはコンパクトなまちにしましょうと言われています。また、低炭素化をはじめとした環境の負荷を低減するためにも移動距離を小さくすることが必要になってくると思います。特に郊外部では空地・空家が増えてくると予想され小規模な空閑地が同時多発的に発生します。そこでみどりのネットワークを構築するためにはどの地区を緑化していけば良いかを検討しています。この際、ヒートアイランドの緩和や生物多様性も考慮したものとなるような空間配置を考えています。緑地も美しく整備された公園緑地ではなく五感で体験できる農地(コミュニティガーデン)として地域のコミュニティ形成にも役立つことが必要です。地域の歴史や自然を重視したグリーンベルトの設置を目指しています。 その他、低炭素都市を実現するために、公共交通や自転車、徒歩による移動を重視して皆さんに安全・安心して利用してもらうためにはどのような問題があるのかをフィールド調査や実験により探っています。さらに、街の活性化には来街者を増やすことが必要になりますので、地域資源を活かした観光交流の在り方を検討しています。

教授 宮下 清栄Kiyoe MIYASHITA

主な卒業研究テーマ

◉集約型都市形成のための緑地環境形成◉水と緑のネットワークによる生物多様性を考慮した地域再生◉都市農地の利用可能性と都市環境への役割◉観光交流人口による中心市街地活性化◉エコツーリズムなど自然環境を重視した着地型観光が中心市

街地再生に及ぼす影響◉空家・空地の発生要因と今後の住宅地再編に関する研究

都市プランニング系分野空間分析研究室

都市環境デザイン工学科

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デザイン工学部/都市環境デザイン工学科

教授 森  猛Takeshi MORI

研究室の学び

社会との接点

 当研究室のキャッチフレーズは「安全な橋を作り、守る」です。具体的には、鋼橋を対象とした接合部の強度、特に疲労強度、長寿命化、効率的なメンテナンスに関する研究を行っています。これらの研究をとおして、基礎学力を身につけることはもちろんですが、①問題を見つける、②問題を解決するためのアプローチ法を探る、③解を見つけ出すまでの課程と解そのものをわかりやすく正確に伝える、能力を養います。

 当研究室において行われた卒業論文や修士・博士論文の研究成果は、以下に示すような鋼橋の設計基準や維持管理基準、そして技術図書に活かされています。 (1) 鋼構造協会「鋼構造物の疲労設計指針・同解説」(2) 土木学会「高力ボルト摩擦接合継手の設計・施工・維持管理指針 ( 案 )」(3) 土木学会「鋼・合成構造標準仕方書、施工編」(4)土木学会「鋼床版の疲労」(5) 道路協会「鋼道路橋の疲労設計指針」(6) 橋梁建設協会「溶接止端仕上げの手引き」 また、現在問題となっている鋼橋の疲労損傷の防止方法や補修方法に関する研究成果は、実橋で用いられています。 上記のような分野で活躍している卒業生も少なくありません。彼らと学協会の研究発表会や委員会で一緒になることもあります。活躍する卒業生は、私の誇りです。

主な卒業研究テーマ

◉デッキき裂を対象とした鋼床版の疲労耐久性評価のための応力参照点

◉面外ガセット溶接継手のルート疲労破壊防止◉垂直スティフナの設置による鋼 I 桁支承部の疲労強度改善◉デッキき裂を対象とした鋼床版疲労耐久性に対する残留応力

除去焼鈍の効果◉既設鋼床版トラフリブ横リブスリット部の疲労耐久性向上◉面外ガセットを有する鋼桁ウェブの移動荷重による応力変動

2方向載荷疲労試験装置(鋼構造実験室)

土木構造分野鋼構造研究室

都市環境デザイン工学科

研究室の学び

社会との接点

 都市計画とは地図を描くことと言ってもよいでしょう。近年、その地図がデジタル化・システム化されることによって立体表現や時間経過を考慮したアニメ表現、さらには、環境、景観、歴史、文化などソフトな情報も表現できるようになっています。これらの表現の基礎技術について学び、歴史や環境・エコロジーに配慮した災害に強い都市づくりについて、地図に分かりやすく、また美しく表現しながら研究をすすめます。

(1)都市環境に関するテーマを持ったさまざまな地図を集合させれば都市アトラス(地図帳)となります。これをデジタルシステムで扱うとデジタル都市アトラスとなります。千代田区の研究プロジェクトで「都心再生をめざしたデジタル都市アトラスの構築」について研究し報告書を作成しました。

(2)東日本大震災では津波により大きな被害を受けましたが、今後、沿岸部をどのように利用していくのかが大きな課題となっています。これらについてヒントを得るためにヨーロッパにおける沿岸部および港湾、運河の利用について実態調査を実施しました。結果を、地形断面図を含むさまざまな地図表現を通して報告書としてまとめました。

(3)計画分野としては、対象空間をさまざまな主題図の構築を通して認識を深めた後は、提案作業へと展開します。学生は、各種のコンペに応募することになります。近年では、大宮駅付近の交通網の改善計画、気仙沼市の旧港付近の復興計画、日本橋付近の運河の活用を考慮した整備計画、などに応募しています。各コンペとも入賞までには至っていませんが、気仙沼の場合はアイディアが評価されました。

教授 森田 喬Takashi MORITA

主な卒業研究テーマ

◉馬場の変遷にみる緑地・オープンスペース保存の方向性◉江戸・東京の神社にみる都市の緑への貢献◉神楽坂地区の市街地変容の主要要因とその特徴◉高齢者の生活行動パターンを通した施設分布評価◉歩行空間に見る沿道施設と舗装の組合せ◉日常生活移動快適性にみる地区特性とその評価◉八王子駅周辺バリアフリー整備方針の需要者ニーズ

都市環境デザイン分野空間情報・伝達研究室

都市環境デザイン工学科

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デザイン工学部/システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 モバイル端末の高機能化とその開発環境の高度化、マイコンやセンサ・アクチュエータの低価格化、3D プリンタの低価格化によるプロトタイピングの容易性、個人レベルでのアプリ配信の簡易化、クラウドファンディングによる資金確保の容易性などの革命的な進化を遂げる現在の環境を駆使して、これまでにない全く新しい付加価値の高いデバイスやアプリケーションを開発・普及できる人材を育てることを目指しています。

 最近の技術の進歩はめざましく、10 年前には到底実現できなかったようなデバイスやインタフェースがぞくぞくと登場しています。また、これまで専門家にしか提供できなかったコンテンツやアプリケーションを、誰もが製作でき、即時に発表できる環境も整備されています。このような時代に新しくて面白い製品を生み出していくためには、まず、今自分はこんなものが欲しい、あんなことがしたいという個人的な嗜好や気分をアイディアの源泉として大切にしていくべきだと考えています。 本研究室では、まず自分の趣味趣向からはじまってアイディアを創出し、その中から、斬新で面白いシステムを自力で構築していくことを目指しています。特に、現実の環境を映像として捉え、それを分析・加工して、ユーザに付加的な情報や感覚を提示できるシステムに関心があります。このための手法として「拡張現実感」と呼ばれる技術が最近注目されています。我々は、この技術を単なる付加的な情報の提示機能としてではなく、人の動作や現実の物体をセンシングし、コンピュータが作り出す仮想的な感覚やオブジェクトと連携することにより、これまでにない新しい機能をもつデバイスやアプリケーションを構築していきたいと考えています。

主な卒業研究テーマ

◉拡張現実感を用いたモバイル端末向け玉転がしゲーム AR の技術を用いて現実世界の箱に鉄球と迷路を重畳表示さ

せ、プレイヤーは箱を操作し、現実と同じように重力を使って鉄球を転がしてゴールへ導くパズルゲームです。

◉アイトラッキングを用いた動体視力トレーニングゲーム 眼球を追跡してプレイヤーが画面上のどこを見ているかを判定

できる装置を用いて動体視力を鍛えるゲームです。

教授 岩月 正見Masami IWATSUKI

映像情報処理分野スマートマシンデザイン研究室

システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 日常、生活者は気付かないうちに社会システムの中で活動し、その恩恵を受けています。しかし、必ずしもシステムが生活者にとって使い易いものとは限らず、不便さを感じながら受け入れています。この関係をデザインの視点から分析し、「使う側に立ってデザインする」という思想のもとに、環境(情報)と人の関係(インターフェイス)を整理し、誰もが使える社会システムデザインとして、少人数制のプロジェクトによって提案しています。

 研究室ではプロジェクトを通して、企業や社会にいろいろな提案を実施してきました。温暖化によりイノシシやシカの個体数が増加の一途をたどり、山林被害や農業被害は年々増すばかりです。この被害対策として害獣が嫌う臭い成分をマイクロカプセルに閉じ込め、被害のある現地で忌避実験を行ってきました。その成果は [GOOD DESIGN AWARD 2009] にてフロンティアデザイン賞を受賞しました。 また、東日本大震災で帰宅困難を経験した女性 100 人に直接インタビューを行い「100 人の真実」としてまとめました。その経験者からの要求をカタチにしたのが ,「SELF GUARD PROJECT」です。(写真)震災は何時くるかは分かりません。最低限必要なモノをコンパクトにまとめました。 この SGP は 2013 年度の GOOD DESIGN 賞を受賞しました。このように幅広いテーマ設定により視野を広げ、問題解決を思考できる学生を育てています。

教授 大島 礼治Reiji OSHIMA

主な卒業研究テーマ

◉次世代型公共情報端末(無料 Wi-Fi スポット)の研究◉マイクロカプセルを応用した害獣被害対策プロジェクト◉帰宅困難者防災プロジェクト(SELF GUARD PROJECT)◉フラクタル図形とⅠ/ f 揺らぎによる木漏れ日再現◉山間部に於ける自損事故対策の研究◉バイオミメティクス(生物模倣)による表面処理の開発◉都市型内水氾濫の予測と可視化の研究

クリエーション分野人間・社会環境デザイン研究室

システムデザイン学科

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デザイン工学部/システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 制御工学、電気電子工学、機械工学の基礎を学ぶとともに、メカトロニクスやロボットについても学んでおります。これらの知識を生かして、人々の生活を支援する機器を考え開発できる人材を育成することを目指しております。またインターネットを介したデータ収集やインターネットを介した機器遠隔操作についての手法も教育しております。すなわち、現代の生活を豊にする製品を開発するための基礎理論、手法を身につけることを目標にしております。

 当研究室で行っている「空間知能化」に関する研究は、皆さんの生活、とくに独居高齢者の生活に役立つことになります。ここでは、まず対象となる空間(部屋)に各種センサーを設置します。センサーからのデータはインターネットを通じてクラウドサーバと呼ばれるコンピュータに蓄積されます。数多くのセンサーからの時々刻々のデータは莫大な量になりますが、このデータから対象となる空間(部屋)の状況把握を行います。この状況把握には計算科学の各種手法を用います。状況把握の結果は、異常事態(事故)を発見して緊急対応をするためにも用いられますし、対象となる空間(部屋)で生活している人の意図を読み取って、より快適な生活を支援するために用いることも可能です。 例えば、部屋の中にいる人の数、現在の室温、外気温の情報からエアコンのパワーを外部からコンピュータ制御することなどです。また、その部屋にいる人が読書中あるいは就寝中などの状況を推定して照明の自動調整を行うことも可能となります。さらには、ロボットを用いてより高度な生活支援を行うことも可能になります。但し、空間の知能化においては、プライバシー保護の問題は常に考えなければなりません。

主な卒業研究テーマ

◉放射線量の自動ツイート装置◉キッチンの失火予防警報システム◉飲酒量モニターシステム◉室内人感センサーの高性能化◉音楽の視覚化◉各種環境下での服色を疑似再現する鏡◉茶運びロボット

教授 小林 尚登Hisato KOBAYASHI

システムデザイン分野ユニバーサルメカトロデザイン研究室

システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 私の研究室では、製品の持つ造形と機能、言語の関係を研究テーマとして取り上げています。私たちの身の回りにはさまざまな使用目的を持った工業製品があります。その形やどこから来ているのでしょうか。形を導く人間の動きを研究する人間工学や私たちが使っている言葉の意味と造形の関係を研究する感性工学の研究、実験、分析を行い、製品造形の背景を深く理解する人材を育成し社会に輩出しています。

 私たちの研究室で行っているテーマ「製品の持つ造形と機能、言語の関係」の研究は、私たちの生活に不可欠なさまざまな工業製品の総合的な質の向上に大変役立っています。工業先進国である日本では、生活のあらゆる場面で工業製品が生活自体を支えています。しかし、同時に工業製品に私たちは既成概念を持ってしまっている場合が多く見受けられます。例えば、今多くの人が使うスマートフォンの形は今のままで本当にいいのでしょうか。製品に使われてしまっていることも多く存在することに気づく必要があります。確かに便利ですが、本当に使い易いのでしょうか。 また、今ではほとんどの人が、椅子で生活をしています。椅子の形は本当に今のままでいいのでしょうか。そもそも椅子って何ナノでしょうか。視点を変え、さまざまな工業製品を見渡すと、実は、おおくの矛盾や不都合が存在していることに気づくことでしょう。カッコイイけど使いにくい、性能はいいけど使いにくいとか、重たい、危ない等、私たちは日常生活の中でよく耳にします。これでは、製品としてすべて未完成といえます。このような、さまざまな製品の矛盾の根幹を見定め少しでも改善し生活の質の向上に寄与しています。

教授 佐藤 康三Kozo SATO

主な卒業研究テーマ

◉デジタル一眼レフカメラ用スタビライザー設計・制作◉自転車用追突事故防止機器のデザイン提案・設計・製作◉ろうそくの炎の動きを再現するアンビエンライトの制作◉ドミノの倒壊音でメロディーを奏でるための基礎研究◉キーボードの押圧の変化を活用した新たな文章表現研究 ◉キネティックアート設計・制作

インダストリアルデザイン分野機能・造形デザイン研究室

システムデザイン学科

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デザイン工学部/システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 私の研究室では、人や環境にやさしく安全な「もの」や「こと」をデザインするため、ソフトウェアシミュレーション (sim.) の立場から以下のような研究を進めています。 1)「もの・こと」つくりのための新 sim. 手法の開発 2)形状デザインのための「ちから」と「かたち」の研究 3)災害低減の立場から基盤施設の安全性の研究 4)安全・安心のための行動科学 sim. の研究これにより分析能力の高い人材を社会に輩出しています。

 聞き慣れないかもしれませんが、私の専門は「計算工学」と呼ばれる分野の学問です。計算工学というのは、理論的あるいは実験的研究だけでは充分究明することができなかった現象をコンピュータの力を借りて研究する第三の学問分野といわれています。私の研究室では、安心・安全な

「もの・ことつくり」を計算工学を活用して研究しています。 皆さんが、安心して様々なものを使えるのは、ほとんどの場合、コンピュータシミュレーションによってその安全性が確認されているからです。 最近では、医学の分野に対しても研究が進められ、手術シミュレータなど、様々な応用が試みられています。私の研究室では、上記に加えて、顎関節のシミュレーションを医学部の先生と共同で進めており、医師が診断する際に適切な情報を提供できるよう研究を行っています。 東日本大震災は記憶に新しいことと思います。こうした災害では、いち早く逃げることが大切です。パニックを防ぎ、効果的な避難を行うためには事前訓練が必要で、そのためには避難方法のシナリオを作っておく必要があります。このシナリオ作りにシミュレーションがどの程度活用可能かについても検討しています。

主な卒業研究テーマ

◉新しい段ボール材料の開発と強度シミュレーション◉顎関節の接触圧シミュレーション◉シミュレーションによる最適形状デザイン◉楽器作りに対する CAE の活用◉競技用ボートの高速化に対する流体シミュレーション◉折りたたみ椅子による指はさみ防止機構の提案◉高齢者施設における避難誘導法の提案

教授 竹内 則雄Norio TAKEUCHI

テクノロジー系分野シミュレーション環境デザイン研究室

システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 メカニズムや流体などによるパワーの伝動は機械システムの重要な機能です。私の研究室では、メカニズムや素材とエレクトロニクスの融合による高機能なパワーメカトロニクスの工学的デザインを研究しています。工学や技術に基礎と基盤を置きながら、幅広い学問分野との知識と智恵の融合と先端技術の統合により、健全な「モノ」や「システム」を新たにデザインできる力を持ち、モノづくりの考え方が総合的に理解できる人材の育成を目指しています。

 当研究室では、1.先端モーション機構、2.油圧動力伝達システム、3.マイクロメカトロデバイス、4.感性とインタフェースの 4 テーマを研究の柱に据えています。1.では、工作機械の位置決め装置や産業ロボット、遊戯施設などで幅広く用いられているパラレルメカニズムの高機能化と産業応用がテーマです。2. では、航空機や自動車、建設機械などの大きな動力伝達に欠かせない油圧システムの高性能化と高効率化を目指します。3. では、機能性流体と呼ばれる新素材を用いて小形で高出力なポンプやモータなどの機械要素を実現します。4. では、人間と機械の結びつきを音や力触覚などのヒトの感覚器官や脳との関連で研究します。  いずれのテーマも、小形で高効率、高出力な機械システムの研究により、エネルギーを無駄にしない究極の省資源・省エネルギー・高利用効率化社会の実現に貢献します。

教授 田中 豊Yutaka TANAKA

主な卒業研究テーマ

◉回転運動形三脚パラレルメカニズムの運動制御の研究◉パラレルメカニズムを用いたパーソナルビークルの研究◉高齢者用支援機器に関する研究◉サウンドイリュージョンに関する研究◉油圧動力伝達システムの高性能化に関する研究◉電気粘性流体を用いた小形制動機構の研究◉機能性流体パワーを用いたマイクロアクチュエータの研究

テクノロジー系分野高機能メカトロデザイン研究室

システムデザイン学科

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デザイン工学部/システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 本研究室では、人の自然な振る舞いによってコンピュータシステムを操作することができる、次世代のヒューマンインタフェースのデザイン開発を行っています。直感的に操作できるインタフェースのアイデア発想から、センサーや画像処理技術を用いたプロトタイプ開発、さらに使い易さの評価検証まで、インタフェースのデザインプロセスを一貫して学ぶことができます。卒業後の IT 社会では、これらの知識と技術を活用する場面が数多く待っています。

 今日身の回りには、スマートホンなどのパーソナルツールをはじめ、街中には自動券売機や ATM など、多種多様なコンピュータシステムがあふれています。多機能化するに伴って操作方法も複雑になり、使いこなすには多くの知識が必要になっています。これがユーザーにとって大きな負担になっています。そこで、誰もが直感的に使うことができる次世代のインタフェース開発を行っています。例えば、テーブルの上に紙を置き、紙面を指先で触れたり、折り曲げたり重ねたりすると、そこに文字や映像が投影される、紙を入力デバイスにする研究を行っています。この技術を使えば、展示会場やイベントで配られる紙のチケットが、たちまち情報端末に変わります。普段身の回りの何気なく使っている実世界のものとデジタル世界を融合することで、ユビキタス情報社会を実現することができます。

主な卒業研究テーマ

◉紙のパンフレットを用いたデジタルサイネージ◉紙とスマートホンを組み合わせた情報システム◉影を用いたインタラクティブサイネージ◉対話型ショッピングディスプレイシステム◉水族館における対話型ナビゲーションシステム◉自動販売機を用いた災害帰宅困難者向け情報システム◉登山を楽しむための情報システム

教授 土屋 雅人Masahito TSUCHIYA

インタフェースデザイン分野インタフェースデザイン研究室

システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 情報は、人々の生活や企業活動など、あらゆる場所で活用されています。“情報をマネジメントする”技術は、これからの情報化社会の中でますます重要となるでしょう。ICTと現実の融合がさらに進んだ未来のモノ作りを考えるとき、製品やサービスをデザインするだけではなく、それらを提供するまったく新しいしくみ(工場や店舗など)を議論する必要があります。情報マネジメントデザイン研究室では、こうした未来のモノ作りしくみ作りを研究します。

 情報マネジメント研究室では、モノ作りのための管理技術の標準化を行い、その成果を NPO 法人や標準化団体を通じて公開しています。すでに、一部の仕様は、IEC(国際電気標準会議)でも採用されました。また、XML(コンピューター用データ記述形式)に対応した生産計画やスケジューリング関連の国際標準の規格も日本発として提案しています。 また、研究室では、数多くの業務用ソフトウェアを開発し、それらは現在も企業の中で利用されています。工場の生産スケジュールを作成するための業務アプリをはじめ、在庫管理や部品表管理のための業務アプリ、さらには、バーコードやタブレットを活用した現場端末用の業務アプリなど、多くの研究成果があります。 ここ数年は、特に、クラウド(インターネット)を活用し、中小製造業の業務連携を行なうためのツールや手法を開発しています。実際にこれまで、研究室の学生メンバーも主体的に取り組みながら、10社以上の企業とともに、そうした連携技術を実践し、あたらしいモノ作りのための情報マネジメント技術を産学連携の中で作り上げようとしています。

主な卒業研究テーマ

◉材料使用料と調理量を利用した在庫管理簡略化システムの開発◉アパレル店舗における RFID を利用したコーディネート提案

ツール◉テーマパークにおける最適ルート提案システム◉食堂における商品提供速度向上システムの提案◉理容室における業務効率化のための予約管理システム

教授 西岡 靖之Yasuyuki NISHIOKA

情報工学、知能工学、マネジメント分野情報マネジメントデザイン研究室

システムデザイン学科

Page 18: デザイン工学部...STEVEN HOLLの建築作品の変化 アアルトのライブラリースペースに関する考察 椅子空間論 村野藤吾の椅子から見る建築空間

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デザイン工学部/システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 生産システムデザイン研究室では、工業製品を作るときに考えなければならない生産方法や生産管理などを研究しています。どんなに良いデザインでも、商品化する時には、効率よく生産することができなければなりません。そのため、効率よく生産する方法や作業の順序を決定し、工場内の設備レイアウトを決める必要があります。この研究室では、製品を作るために必要な技術や方法などについて、コンピュータシミュレーションを用いて研究しています。

 日本の「ものづくり」の特徴のひとつに、高品質、高効率が上げられます。工場の効率的な経営、無駄のない工程、無理のない作業、故障の少ない設備などで「ものづくり」を支えているのです。このような「ものづくり」を実現するためには、製品設計や部品設計、生産方法や組立方法などを徹底的に吟味しているのです。 この研究室では、「ものづくり」を生産システムとして考え、製品や工場の機能を明らかにして、モデル化し、効率的にするための分析方法を研究し、効率的に生産できるようなアイデアをコンピュータによるシミュレーションや数値実験で検証し、提案することを行っています。 日本の「ものづくり」のやり方は、現場で改善し、現場で実現するという考え方が主流でしたが、最近では、海外での生産が増えたり、海外の企業が日本の「ものづくり」を導入したりすることが多くなり、科学的に、実証することが求められてきています。 この研究室では、生産システムの基本的なことを学習するとともに、現場では見えないあるいは認識できない問題を、コンピュータを用いて目に見えるようにして、企業や工場の役に立つようにしています。

教授 福田 好朗Yoshiro FUKUDA

主な卒業研究テーマ

◉搬送距離を短縮するための工場内物流の研究◉工場内物流短縮するための生産設備レイアウトの研究◉需要同期生産システムの研究◉「かんばん」方式の運用方法の研究◉無人搬送車の行動決定方法の研究◉流通システムにおける発注・在庫システムの研究◉作業を軽減する組立方法の研究

生産システム工学、生産技術、経営工学分野生産システムデザイン研究室

システムデザイン学科

研究室の学び

社会との接点

 製品の製造・流通、サービスやシステムの設計・管理といった様々な場面において、「より効率的」「より公平」「より安全確実」など、いろいろな意味で「より良い」決定をすることが求められています。人間の経験や勘だけでは対処しきれない大規模で複雑な問題に対しても「より良い」決定ができるよう、本研究室ではとくに最適化やデータ分析などの数理技術を活用した手法の開発と実問題への適用について研究を進めています。

 どれだけ優れた製品も、それが適切に製造され、適切なタイミングで消費者のもとに届けられなければ意味がありません。サービスの場合も同様で、利用者が利用したいときにサービスを提供できる環境を整えておくことが重要です。限られた人的・物的資源や予算の中で、いつ、どれだけの製品を製造し、どのように市場に流通させるのかや、業務を行うスタッフをどのように配置するのかといった計画を、将来の不確実性を考慮しながら立てる必要があり、そこでは最適化やデータ分析の技術が大いに活用されています。 また、近年では大量のデータをリアルタイムに収集できるようになっています。収集したデータを分析することで消費者の嗜好や購買行動を把握し、その結果を商品・サービス設計に反映させることも可能で、そのために数理技術の果たす役割は今後も増していくものと考えられます。 本研究室で扱う内容の多くは「オペレーションズ・リサーチ(OR)」と呼ばれる学問分野に含まれます。ORの手法は幅広い分野の問題に適用することのできる、科学的・合理的な問題解決手法であり、社会の様々な分野における問題がその対象となります。

教授 野々部 宏司Koji NONOBE

主な卒業研究テーマ

◉スタッフスケジューリング(勤務シフト作成)支援システムの構築◉最適化手法を用いた在庫配送計画◉バスダイヤ編成の最適化◉シミュレーションによる待ち行列システムの評価◉データ分析を用いた消費者購買行動の把握◉テーマパークに対する評価の要因分析と比較

マネジメント系分野最適化システムデザイン研究室

システムデザイン学科