リン酸二水素セシウムの結晶構造とプロトン伝導性 -...

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リン酸二水素セシウムの結晶構造とプロトン伝導性 (広島大院理) ○山根庸平・大木寛・山田康治・奥田勉 【序】 CsH2PO4(CDP)は低温では H2PO4 2 次元 的に水素結合で結ばれた構造をもち,154 K 強誘電-常誘電相転移を起こすことが知られ, 種々な研究がなされてきた。一方,高温では 504 K で単斜晶系(P21/m) から立方晶系(Pm-3m) 相転移し,同時に伝導度が 3 桁以上増加するこ とが報告されている 1), 2) 。本研究では,常誘電 相から立方晶系への相転移変化を X 線回折,固 NMR 等の手法で観測し,水素結合に関する 情報やプロトン伝導機構について検討した。 10 -10 10 -9 10 -8 10 -7 10 -6 10 -5 10 -4 10 -3 10 -2 10 -1 σ / Scm -1 3.2 3.0 2.8 2.6 2.4 2.2 2.0 1000T -1 / K -1 heating cooling E a =94.6 kJ mol -1 E a =36.7 kJ mol -1 Fig.1. Temperature dependence of ionic conductivity in CDP. 【実験】 CDP は原料に Cs2CO3H3PO4 を用い,水溶液から徐々に水を蒸発させることにより単結 晶として析出させた。X 線,DSC,伝導度, 1 H31 P NMR スペクトルの各測定はよく乾燥し た粉末試料用い,室温から 520 K の温度範囲で行なった。立方晶プロトン伝導相は開放雰囲 気下で脱水分解するため,各測定は密閉系で行なった。また,単結晶試料を用いた 31 P NMR スペクトル測定では,磁場に対する角度依存性(回転パターン)と温度依存性を測定した。 【結果と考察】 粉末 X 線回折測定の結果, CDP は報告通り CsCl 型構造をもつ立方晶に転移することが分 かった。Fig.2 Fig.3 1 H 31 P NMR スペクトルの温度変化(昇温と降温過程)をそれ ぞれ示す。スペクトルは共に 504K の相転移を境に急激に尖鋭化した。 109.82 109.80 109.78 Frequency / MHz 300K 330K 360K 390K 420K 450K 480K 520K 420K(C) 300K(C) 480K(C) Fig.3. Temperature dependence of 31 P NMR spectra in CDP. H 3 PO 4 was used as a chemical shift standard. (a) -100 0 100 (b) 0 -100 100ppm 271.26 271.24 Frequency / MHz 290K 330K 360K 390K 420K 460K 490K 510K 520K 440K(C) 410K(C) 380K(C) 290K(C) Fig.2. Temperature dependence of 1 H NMR spectra in CDP. H 2 O was used as a chemical shift standard. -50 50ppm 0

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  • リン酸二水素セシウムの結晶構造とプロトン伝導性 (広島大院理) ○山根庸平・大木寛・山田康治・奥田勉

    【序】 CsH2PO4(CDP)は低温では H2PO4- が 2 次元

    的に水素結合で結ばれた構造をもち,154 K で強誘電-常誘電相転移を起こすことが知られ,

    種々な研究がなされてきた。一方,高温では 504 K で単斜晶系(P21/m)から立方晶系(Pm-3m)へ相転移し,同時に伝導度が 3 桁以上増加することが報告されている 1), 2)。本研究では,常誘電

    相から立方晶系への相転移変化を X 線回折,固体 NMR 等の手法で観測し,水素結合に関する情報やプロトン伝導機構について検討した。

    10-1

    Fi【実験】

    CDP は原料に Cs2CO3,H3PO4を用い,水溶液晶として析出させた。X 線,DSC,伝導度,1H,3

    た粉末試料用い,室温から 520 K の温度範囲で行気下で脱水分解するため,各測定は密閉系で行なっ

    スペクトル測定では,磁場に対する角度依存性(回

    【結果と考察】 粉末 X 線回折測定の結果,CDP は報告通り CsC

    かった。Fig.2 と Fig.3 に 1H と 31P NMR スペクぞれ示す。スペクトルは共に 504K の相転移を境に

    271.26271.24Frequency / MHz

    290K330K360K390K420K460K490K510K520K

    440K(C)

    410K(C)380K(C)

    290K(C)

    Fig.2. Temperature dependence of 1H NMR spectra in CDP. H2O was used as a chemical shift standard.

    -50 50ppm 0

    10-10

    10-9

    10-8

    10-7

    10-6

    10-5

    10-4

    10-3

    10-2

    σ /

    Scm

    -13.23.02.82.62.42.22.0

    1000T-1

    / K-1

    heating cooling

    E a=94.6 kJ mol-1

    Ea=36.7 kJ mol- 1

    g.1. Temperature dependence of ionic conductivity in CDP.

    から徐々に水を蒸発させることにより単結

    1P NMR スペクトルの各測定はよく乾燥しなった。立方晶プロトン伝導相は開放雰囲

    た。また,単結晶試料を用いた 31P NMR転パターン)と温度依存性を測定した。

    l 型構造をもつ立方晶に転移することが分トルの温度変化(昇温と降温過程)をそれ

    急激に尖鋭化した。

    109.109.78

    Freq

    300K

    330K

    360K390K

    420K450K480K520K

    420K(C)

    300K(C)

    480K(C)

    Fig.3. Temperature depin CDP. H3PO4 was us

    (a) -100 0 100

    (b)

    m

    -100

    80

    uency /endenc

    ed as a c

    0

    100pp

    109.82

    MHze of 31P NMR spectra hemical shift standard.

    bukka2Aa01

  • 1H NMR スペクトルの高いケミカルシフトは立方晶のイオン伝導相においても強い水素結合を形成して

    いることを示している。常誘電相での 31P NMR はシミュレーションの結果 H2PO4-に相当する非対称定数の大きな化学シフトの異方性を示した。立方晶では化

    学シフトの異方性は消失し,NMR のタイムスケールより速い速度でPO4が再配向する動的な無秩序状態であることを示している。リードベルト解析や最大エン

    トロピー法(MEM)によると,CsH2PO4は CsCl 型構造で PO4がその体心の位置に存在している。考えられるPO4グループの配向モデルの一つを Fig.4 に示す。 酸素は空間群 Pm-3m 個の 24l (m)の 24 個のサイトに占有数 1/6 で分布しており,PO4には 6 種類の配向が存配向し,付随する H はα-AgI の Ag ケージと同様なサイト 一方,単結晶試料を用いた 31P NMR スペクトルでは化ンが観測できた(Fig.5)。角度によっては重なり合っていあり,2 つの異なった化学シフトテンソルの存在を示した。X 線を用いた単結晶構造解析によると,P原子は単斜晶系で空間群(P21/m)の鏡面上に存在することから,1種類の化学

    シフトテンソルのみが期待される。また,分

    裂したピークは 480 K 付近から一本のピークへと融合していくことが観測できた。水素

    結合O ―H---Oの水素の位置に局所的な乱れがあり,31P NMR の化学シフトに反映されていると考えられる。報告のある重水素化物

    の常誘電相で 31P NMR にはこのような分裂や融合はなく,O ―H(D)---O の水素結合の形態が水素化物と重水素化物で大きく異なる

    ことが予想される。 1109.78

    Fig.5. Angsingle cryst

    当日は,重水素化物についても各種測定 結果を報告する予定である。 ◎参考文献 1) A. I. Baranov, V.P. Khiznochenko and L. A. Shuvalov, Ferroelectr

    2) W. Bronowska, J. Chem. Phys. 114, 611, (2001)

    3) R. Blinc, B. Zeks, A. Levstik, C. Filipic, J. Slak, M. Burgas and I.

    Fig.4. Crystal structure of CDP cubic phase.

    在する。PO4はこれらの状態間を再を占有していると考えられる。

    学シフトの異方性による回転パター

    るが,強度の等しい 2 本のピークが

    109.83109.82109.81109.8009.79Frequency / MHz

    90 deg

    60 deg

    0 deg

    30 deg

    150 deg

    120 deg

    210 deg

    180 deg

    Powder

    ular dependence of the 31P NMR spectra in CDPal at room temperature.

    ics, 100, 135, (1989)

    Zupancic, Phys. Rev. Lett., 43, 231, (1979)

  • 新スクッテルダイト化合物 YT4P12(T= Fe, Ru, Os)の

    高圧合成と超伝導

    (室蘭工大・東大物性研)○城谷一民・島谷陽介・木方邦宏・関根ちひろ・

    八木健彦

    1.スクッテルダイト化合物 LnT4X12(Ln= 希土類元素、T= 遷移金属、X= プニコゲン元素) は

    超伝導、半導体、金属—絶縁体転移、磁気転移、重い電子系など興味深い物性を示すうえ、熱

    電材料としても有望な極めてすぐれた物質群である。従来は軽希土類といわれる La から Eu ま

    での化合物しか知られていなかった。最近我々は高圧技術を用いて重希土類(Gd-Lu)の入ったス

    クッテルダイト化合物の合成に成功した1。Y 元素は重希土類と類似するので、高圧下で YT4P12

    を合成し2、電気的磁気的性質を調べ、YFe4P12で 7 K, YRu4P12で 9 K, YOs4P12で 3 K 付近に超伝

    導を観測した。これらはすべて新超伝導体である。

    2.Y, T, P 元素を化学量論に取り、4 GPa 下で約 1050 ℃に加熱して YT4P12(T= Fe, Ru, Os)を合

    成した。図 1 に YFe4P12の X 線回折パターンを示す。この化合物の回折線は立方晶系のスク

    図 3 YFe4P12の磁化率の温度依存性図 2 YFe4P12の電気抵抗率の温度依存性

    図 1 YFe4P12のX線回折パターン

    bukka2Aa02

  • 図 5 YOs4P12の磁化率の温度依存性 性

    T

    O

    O

    L

    1

    2

    図 4 YRu4P12の電気抵抗率の温度依存

    テルド鉱型構造で指数付けできる。格子定数は a= 7.789(1) Å である。類似の X 線回折パター

    は YRu4P12と YOs4P12でも観測された。YT4P12は新物質であり大気圧下での合成はできない。

    圧下で安定な化合物で、大気圧では準安定状態にある。それ故、1000 ℃以上でアニールする

    分解する。電気抵抗率は直流四端子法により、直流磁化率は SQUID を用いて 1.8K から室温

    での間で測定した。

    .図 2 に YFe4P12の電気抵抗率の温度依存性を示す。抵抗は温度の低下とともに減少し、7 K

    近で急減して、超伝導を示す。図 3 に 5Oe の磁場を加えたときの YFe4P12 の磁化率の温度依

    性を示す。Zero-field cooling と Field cooling の間にヒステリシスが存在するので Type II の超

    導体であることを示している。YFe4P12 の比熱を 2-20K の間で測定した。このデータを解析

    て次の結果を得た。デバイ温度は 553K で、フェルミ準位での状態密度は 0.45state/eV-atom で

    る。また電子−格子相互作用のパラメータは 0.50 であまり大きくない。YFe4P12は強磁性元素

    ある Fe を含んだ超伝導体で、今までに知られている Fe を含んだ超伝導体の中で、最も高い

    cを持つ。図 4 に低温下における YRu4P12電気抵抗率を示す。YFe4P12と似た振る舞いが観測さ

    るが、Tcは 9 K と高くなる。図 5 に 5 Oe の磁場を加えたときの YOs4P12の磁化率の温度依存

    を示す。磁化率は 3 K 付近で大きな反磁性を示し、マイスナー効果が観測されている。Fe, Ru,

    s の化合物の中で Ru 化合物が最も Tcが高くなる。この傾向はすでに研究されている超伝導体

    LaT4P12(T= Fe, Ru, Os)でも観測されている。また LaT4P12の Tcは Fe 化合物で 4 K、Ru で 7 K、

    s で 1.8 K である。上で述べたように YT4P12の Tcは La 化合物よりもすべて高い。Y 化合物は

    a 化合物に比べ格子定数や化学式量は小さいので、これらが Tcに影響を与えているものと思わ

    る。

    考文献

    . I. Shirotani et al. J. Solid State Chem, in press.

    . I. Shirotani et al. J. Phys.: Condensed Matter, in press

  • 単一成分分子性金属 Ni(tmdt)2、および類縁体の電子構造   

    分子研1・CREST2・ 産総研3・ 東大院理4

    ○岡野芳則1、 小林速男1,2、 田中 寿2,3、徳本 圓2,3、藤原絵美子4、小林昭子4

    NiS

    SS

    S S

    SS

    S S

    SS

    S

    Ni(tmdt)2

     拡張 TTF 型ジチオレン錯体 Ni(tmdt)2 は 0.6 Kまで金属

    的な伝導性を示す単一成分分子性金属である。最近この結

    晶の de Haas-van Alphen 効果の測定が行われ、そのフェ

    ルミ面の存在が証明された。実験は磁場を a*-b* 面、b*-

    c* 面、a*-c*面内で回転させ、磁化の振動周期の角度依存

    性が測定された。

     この実験結果とバンド計算の比較を行った。計算は全て

    拡張 Hückel法と強結合近似を用いたものである。 図1は以前我々が報告したフェルミ面である。これについ

    て極値断面積の計算を行った結果が図2である。図中緑色は

    hole のフェルミ面(図1で水色)紫は electron のフェルミ

    面(図1で赤色)の極値断面積を振動周波数に換算してプロッ

    トしたものである。赤色のプロットが実験結果である。図の様に計算と実験結果との一致はよくなかっ

    た。図1のフェルミ面は拡張 Hückel 計算の結果から HOMO-LUMO ギャップを 0.1 eV として計算したものである。フェルミ面はギャップの値が 0.0 eV 〜 0.62 eV まで存在する。この範囲で 0.05

    eV 刻みでギャップの値を変化させた。フェルミ面の形状は変化するがよい結果は得られなかった。

    図2 標準パラメータによるフェルミ面の極地断面積 (A) a軸回転、磁場は b*-c* 面内

    (B) b* 軸回転、磁場はa-c面内(C) c軸回転、磁場は a*-b* 面内

     そこで拡張Hückelで使う原子の軌道パラメータを変えて計算を行った。Niのパラメータを変えてもフェルミ面の形状にほとんど変化がなかった為、硫黄のパラメータだけを取り替えて使用した。使用

    した硫黄のパラメータを表1に示す。表の一番上に書いてあるのは暫定的につけた名前で

    R16,R52,R74 は Hoffmann の論文に掲載されているものである。また一番右の標準パラメータと書

    いたものは著者らが通常用いているパラメータである。硫黄原子以外は表2に掲げる。

               表1 硫黄原子のスレーター型原子軌道のパラメータ

    S3dB R161) R522) R743) 標準パラメータ

    IP(ev) ζ IP(ev) ζ IP(ev) ζ IP(ev) ζ IP(ev) ζ

    3s -20 2.122 -20 1.817 -20 2.12 -20 2.122 -22 2.122

    3p -11 1.827 -13.3 1.817 -13.3 1.83 -11 1.827 -10.5 1.827

    3d -5.44 1.5

    図1 Ni(tmdt)2 のフェルミ面

    bukka2Aa03

  • 表2 その他の原子のスレーター型原子軌道のパラメータ

    IP(ev) ζ1 C1 ζ2 C2

    H 1s -13.6 1.0

    C 2s -21.4 1.625

    2p -11.4 1.625

    Ni 4s -10.95 2.1

    4p -3.74 2.1

    3d -10.6 5.75 0.5681 2.0 0.6294

     これらを用い計算した所、R16とR52、R74と著者らの使っ

    ているパラメータはほぼ似た様な結果を与え、これらのパラ

    メータは3つのグループに分けられるようである。S3dBは他

    のパラメータより大きな重なり積分を与えフェルミ面も大き

    くなり HOMO-LUMO ギャップを 1.15 eVにするまでフェル

    ミ面が残っている。R16,R52は逆に重なり積分が小さくなり、

    ギャップが 0.3 eV を超えたあたりでフェルミ面が消失する。

    パラメータ Calcd HOMO-LUMO Gap (eV) FS消失 (eV)

    S3dB 0.11259 1.16 (1.15 reamin)

    R16 0.21929 0.34 (0.33 remain)

    R 52 0.22370 0.32 (0.31 remain)

    R 74 0.11586 0.55 (0.54 remain)

    標準パラメータ 0.10306 0.62 (0.61 remain)

    それぞれのパラメータで極値断面積を調べたところ R16 のパ

    ラメータで HOMO-LUMO ギャップ 0.105 eV の時、図3の

    ように実験結果によく一致する結果が得られた。この時のフェ

    ルミ面の形状を図4に示す。

     また、赤外領域に現れる電子スペクトルを説明する為に (A)

    Ni(tmdt)2, (B) Ni(dmdt)2, (C) Ni(ptdt)2, (D) Pd(dt)2 のJoint

    Density of Statesの計算を行ったところ、吸収スペクトル(図

    5)によく対応する結果(図6)が得られたので当日報告する。

    1) R. Hoffmann et al., J. Am. Chem. Soc., 1979, 101101101101, 592-598

    2) R. Hoffmann et al., J. Am. Chem. Soc., 1987, 109109109109, 118-124

    3) R. Hoffmann et al., J. Am. Chem. Soc., 1995, 117117117117, 10108-10112

     

    図5 類縁体の電子スペクトル。

    図6 計算した Joint density of state

    図4 R16, Gap = 0.105 eVで計算したフェルミ面

    図3 R16, gap = 0.105 eV で計算したフェルミ面の極地断面積 (A) a軸回転、磁場は b*-c* 面内(B) b* 軸回転、磁場はa-c面内 (C) c軸回転、磁場は a*-b* 面内

  • [M(mnt)2]- (M=NiIII, CoIII)を構成成分とする新規磁性有機導体

    の構造と物性

    (東工大院理工) ○中嶋秀康・勝原真央・森 健彦

    【序】最近、交互積層型電荷移動錯体におけるフェリ磁性が注目を集めている。本研究では、

    磁性イオンを持つ有機アクセプターとして平面構造を持つ[M(mnt)2]- (M=Ni, Co)を選択し、さまざ

    まな TTF 系有機電子ドナーと電解結晶成長を行った。 これまでに我々が合成した mnt 系電荷移動錯体の

    うち、(ChSTF)[Ni(mnt)2]では 1:1 の交互積層型のカラムがみられ(Fig. 1)、55 K 以下でのχTの上昇と 9 K 以下での磁気転移が観測された。(Fig. 2)

    SNi

    S

    S

    S CN

    CNCN

    CN

    S

    S

    S

    S

    Se

    Se

    ChSTF

    a

    o

    c

    b

    0.6

    0.5

    0.4

    0.3

    χT /

    em

    u K

    mol

    -1

    3002001000

    T / K

    (

    (

    triclinic, P (-1), a = 17.43(1), b = 24.69(4) , c = 6.081(4) Å α = 17.43(1), β = 24.69(4), γ = 6.081(4)° V = 2612(4) Å3

    Fig. 1 (ChSTF)[Ni(mnt)2]の結晶構造 Fig. 2 (ChSTF)[Ni(mnt)2]のχT-Tプロット

    ニッケル錯体おいては、ねらい通りの交互積層型が実現されたが、S = 1 のスピンを持つ可能性あ る コ バ ル ト 錯 体 で は 、 得 ら れ た (ChSTF)[Co(mnt)2], (TTM-TTP)[Co(mnt)2],

    C2TEO-TTP)[Co(mnt)2]は、すべてコバルト錯体が二量化した構造となった。 今 回 、 mnt 系 に お い て 新 た に 2 種 類 の 新 規 電 荷 移 動 錯 体 、 (HMTTF)[Ni(mnt)2],

    BEDT-TTF)[Co(mnt)2]を合成し、その結晶構造解析に成功したので報告する。

    S

    S

    S

    S

    S

    S

    S

    SS

    S S

    S

    HMTTF BEDT-TTF

    bukka2Aa04

    bukka

  • 【結果】(HMTTF)[Ni(mnt)2]は、(ChSTF)[Ni(mnt)2]と同様の 1:1 の交互積層型電荷移動錯体となった。そのカラム内では、ドナーとアクセプターは分子短軸方向にずれてβ’’構造に類似した交互積層構造をとっている。(Fig. 3)

    b

    c

    o

    a

    a

    o

    cb

    Fig. 3 (HMTTF)[

    (BEDT-TTF)[Co(mnt)2]では、コバルト原子にも結合しており、アクセプターであ

    造であることがわかった。これまで、コ

    物質の構造はそれとは異なっていることが

    うよりもむしろ分子短軸方向に並んでいる

    bo

    a

    c

    Fig. 4 (BEDT-T 今後、四端子法によって伝導的性質を、

    triclinic, P (-1), a = 7.878(2), b = 13.391(2), c = 5.9288(9) Å α = 96.37(1), β = 98.09(2), γ = 105.10(2)° V = 590.7(2) Å3

    Ni(mnt)2]の交互積層型結晶構造

    子に配位結合している硫黄原子が隣接分子のコバルト原

    るコバルト金属錯体が一次元鎖を形成しているような構

    バルト錯体を含む錯体がすべて二量化していたが、この

    わかった。またドナーである BEDT-TTF は、積層とい構造をしていた。(Fig. 4)

    b

    o a

    triclinic, P (-1), a = 13.89(1), b = 29.42(3), c = 6.213(4) Å α = 103.10(7), β = 89.46(6), γ = 94.71(8)° V = 2464(4) Å3

    c

    TF)[Co(mnt)2]の一次元鎖構造

    SQUID を用いて磁気的性質を測定する予定である。

  • (DODHT)2X ( X = AsF6,PF6,BF4・H2O ) 塩の磁気的性質

    ( 都立大院理 1・科技団 CREST 2・姫路工大理 3 ) ○ 佐藤陽介 1・西川浩之 1, 2・兒玉健 1・菊地耕一 1 池本勲 1・宮坂等 1・山下正廣 1, 2・山田順一 3

    【序】

    我々は新しい有機超伝導体を開発するために,従来の有機ド

    ナーと異なり,金属状態を弱めるような分子設計を行い,種々

    の分子の合成を行ってきた. DODHT [(1,4-dioxane-2,3- dilydithio)dihydrotetrathiafulvalene] は π 電子系が TTF 誘導体に比べ縮小しているためオンサイトクーロン反発 ( U ) が大きくなっており,強い電子相関が期待される.事実 AsF6,PF6,BF4・H2O 塩が圧力下,約 3 K で超伝導体に転移することを見出し既に報告してきた[1],[2].これらの塩の結晶構造はすべて図 1 に示すように,かさ高いジオキサン環を避けあうように積層構造をとっている.またドナー分子は β″型の分子配列をしている.重なり積分はカラム方向よりカラム横方向の方が大きく,横方向に擬

    一次元的である.常圧下での比抵抗の温度依存性は図 2 に示すようにすべて半導体的でありPF6,BF4・H2O 塩ではそれぞれ 260 K,280 K に明確な異常がみられる.これに対し AsF6塩には明らかな異常は見られなかったが,熱電能測定の結果 200 K 付近で熱電能が発散し,その温度以下で絶縁化していることがわかっている.これらすべての塩の伝導挙動は図 2 に示すように単純な半導体的挙動ではない.今回圧力下で超伝導転移を示すこれらラジカル塩

    の常圧における電子状態を調べるため,常圧下における ESR および SQUID による磁気測定を行った.

    O

    O

    S

    S

    S

    S

    S

    S

    DODHT

    図 1.(DODHT)2AsF6の結晶構造 図 2.ラジカル塩の比抵抗の温度依存性

    100

    101

    102

    103

    104

    105

    ρ / Ω

    ・cm

    300250200150100

    T / K

    AsF6

    PF6

    BF4・H2O

    bukka2Aa05

  • 【実験・結果】 X‐band ESR 測定の結果を図 3 に示す.いずれも単結晶を用いて測定した. ESR 強度

    は 300 K で規格化してある.AsF6,PF6塩ともに g 値の温度依存性はほとんどみられなかった. AsF6 塩は,300 K での ESR シグナルの線幅 ∆Hpp は 22.7 G であり 230 K から急激に減少した.ESR強度の温度依存性は230 Kにおいてピークがみられ,この温度以下では徐々に減少し,80 K 付近で急激に減少した.230 K での異常は熱電能の温度依存性における異常温度とほぼ対応している.また PF6塩は,300 K での ESR シグナルの線幅 ∆Hpp は 21.5 Gで温度の低下とともに単調に減少した. ESR 強度の温度依存性は 200 K 付近において丸いピークがみられ,この温度以下では徐々に減少した.ESR 強度,線幅ともに 70 K 付近にわずかながら異常がある.ESR 強度からみ積もられるスピン磁化率の温度依存性から,これらの塩は,低温で反強磁性的な相互作用があるものと考えられる.

    1.0

    0.8

    0.6

    0.4

    0.2Inte

    nsity

    ( ar

    b.un

    its )

    300250200150100500

    T / K

    20

    15

    10

    5

    ∆Hpp / G

    auss

    AsF6

    1.2

    1.0

    0.8

    0.6

    0.4

    0.2Inte

    nsity

    ( ar

    b.un

    its )

    300250200150100500

    T / K

    20

    15

    10

    5

    ∆Hpp / G

    auss

    PF6

    磁化率の温度依存性を図 4 に示す.各サンプ

    ルにおける磁化率は室温から徐々に増加し,ブ

    ロードなピークを持った後減少していることか

    ら低次元的な反強磁性秩序が発達しているもの

    と考えられる.さらに極低温では不純物による

    と考えられるキュリー成分が観測された. PF6塩および BF4・H2O 塩の磁化率の温度依存性はそれぞれ 260 K,270 K にわずかながら異常があり,比抵抗の温度依存性における異常温度と

    一致している.AsF6塩は 230 K にピークを持ちこの温度は熱電能の温度依存性における異常温

    度とほぼ対応している.また 90 K にも異常がみられ何らかの転移があると考えられる.これらの塩は Alternating Heisenberg Chains Modelで fitting することが出来た.ドナー分子は平均 + 0.5 価であることからカラム内で電荷の不均化が起こり,重なり積分が交互するカラム横方向( a+b 方向)に一次元反強磁性鎖が形成されていると考えられる.

    [1] H. Nishikawa et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 730 – 731. [2] H. Nishikawa et al., Chem. Commun , 2003, 4, 494 – 495.

    図 3.ESR の強度(○)・線幅(●)の温度依存性

    図 4.磁化率の温度依存性

    1.0

    0.8

    0.6

    0.4

    0.2

    χ / 1

    0-3 e

    mu・

    mol

    -1

    30025020015010050

    T / K

    BF4・H2O PF6 AsF6

  • フタロシアニンを含むフレキシブルな単結晶 (和歌山大システム工 1・名工大院工 2・名工大セラ研 3)

    ○山門英雄 1・奥野祐之 1,*・佐藤文治 2,+・井田隆 3・虎谷秀穂 3,# 【序】 「フレキシブル」である(小さな曲率半径で曲げても折れない)ということと、「単結晶」

    であるということは、常識的には通常の分子性結晶やイオン性結晶では両立し難いことである。

    一方金属元素単体や、アスベストのような物質についてはひげ結晶(ウィスカー)の存在が知ら

    れており、結晶中に含まれる転位の数が極端に少ないために、力学的強度はその結晶の理想値(剛性率の 1/100 以上)に近い値を示し、その工学的応用も期待されているが、ひげ結晶の太さは通常0.1 μm から 10 μm 程度までである。筆者はこれまで有機色素分子であるフタロシアニンの陽イオンと、AsF6-などの陰イオンを組み合わせて導電性結晶を作成してきたが、このほどフタロシアニン陽イオンと、PF6-陰イオンの組み合わせで、通常では考えられない「柔軟性」を持つ「単結晶」が作成できることを見出した。この物質は例えば長さ 3mm、太さ 20 μm 程度の針状単結晶でループを作っても折れず、外力を外せば元の形状に戻る。結晶母体分子が重合していない単結

    晶でありながら、これほどまでの柔軟性を示す結晶は筆者の知る限り他に類はなく、結晶構造と

    の関係が注目される。 【実験・結果・考察】 昇華精製したフタロシアニン(H2Pc)をアルゴンガスによる不活性雰囲気下で、蒸留した 1-クロロナフタレンに溶かし、精製した n-Bu4N・PF6を支持電解質として電気化学的酸化法を 2 週間程行うことにより結晶を作成した。得られた結晶の典型的な大きさは長さ2mm、太さ 15μm 程度であった。元素分析、及び質量分析の結果から、この物質の組成は H2Pc(PCl0.5F1.3O4.1)0.3と見積もられている。 粉末 X 線回折を用いた予備的な解析を行った

    後、分子科学研究所の理学・MERCURY-CCDシステムを用いて行った室温(296K)での単結晶構造解析の結果をFig.1に示す。空間群はR3-、格子定数は a=b=36.866(33)Å、c=4.872(4)Å、γ=120°であった。この結晶構造は従来知られているフタロシアニン単体や、その部分酸化塩

    の結晶構造とは全く分子配列が異なり 3 回対称性を持ち、また ab 面内で隣り合う分子が交互に波打つようにアニオンを挟みながら配列してシ

    ート状構造を作っていることが特徴的で、この

    ことが本結晶の力学的な柔軟性をもたらしてい

    るものと考えられる。 Fig.1 H2Pc(PCl0.5F1.3O4.1)0.3 の結晶構造

    現 *:住友電工ファインポリマー(株), +:野田塾, #:理学電機(株)

    c

    b

    o a

    bukka2Aa06

  • 比較のため、今回同様な方法で新規に作成した、従来から

    その構造が知られているタイプ(テトラゴナルタイプ)の

    H2Pc(PF6)0.43 の結晶構造(296K)を Fig.2 に示す。空間群はP4/mcc, 格子定数は a=14.148(3)Å、c=6.473(1)Åであった。このタイプの結晶は非常に脆く割れやすい。 同様な構成分子やアニオンを持っていながら、これらの結

    晶において上記のような極端な力学的な性質の違いが見られ

    るのは、主にこれらの分子配列様式に起因すると考えられる。 Fig.3 に四端子法により測定した H2Pc(PCl0.5F1.3O4.1)0.3 の

    電気伝導度の温度依存性のグラフを示す。室温で 8S・cm-1 程度の伝導度を示し、温度の低下に伴い伝導度の緩やかな低下

    が見られた。1 次元 Narrow Gap モデル σ(T)∝T 1/2+α exp( -Eg / 2kBT )

    を用いて最小自乗法であてはめると、α=1.7、Eg=0.1eV と 見積もられる。一方、H2Pc(PF6)0.43の電気伝導度は室温で 約 80S・cm-1の値を示し、その温度依存性は少なくとも室温 Fig.2 H2Pc(PF6)0.43 の結晶構造 から 200K までの間では金属的挙動( dσ(T)/dT

  • オオオオリリリリゴゴゴゴチチチチオオオオフフフフェェェェンンンンをををを分分分分子子子子ワワワワイイイイヤヤヤヤーーーーととととすすすするるるる金金金金ナナナナノノノノ粒粒粒粒子子子子ののののネネネネッッッットトトトワワワワーーーークククク化化化化

    〜〜〜〜そそそそのののの構構構構造造造造とととと伝伝伝伝導導導導性性性性〜〜〜〜

    (東大院総合・茨城大理)○谷口伸一、源将、松下未知雄、菅原正、池直樹、石塚俊行、川

    田勇三

    【【【【緒緒緒緒言言言言】】】】 近年、リソグラフィーによる加工技術の壁を破り、情報素子の微細化を図る有力

    な手段として、合成的に精緻に構造を制御できるπ共役系有機分子や金属ナノ粒子のような

    ナノレベルの材料を、自己集合化させる研究が活発に展開されている。特に、金ナノ粒子に

    関しては、その表面上にチオール SAM を形成させる手法が確立されており、物性材料とし

    ての可能性に多くの関心が寄せられてきた。今回、粒径のそろった金ナノ粒子を良好な導電

    性を示すオリゴチオフェンにより簡便に連結し、ミクロンオーダーの構造体を構築すること

    に成功した。このオリゴチオフェンによって連結された金ナノ粒子(4 nm)のネットワーク型

    構造体の構造と伝導特性について報告する。

    【【【【結結結結果果果果及及及及びびびび考考考考察察察察】】】】

    1111....金金金金ナナナナノノノノ粒粒粒粒子子子子のののの調調調調製製製製 テトラオクチルアンモニウムブロミドで保護された金ナノ粒子(粒径

    = 4nm)の調製は、既報の方法に従って行った[1]。この粒子は、UV スペクトルにプラズモ

    ン吸収由来のピーク(518 nm)が確認できたことから、金属的な性質を有すると考えられる。

    2222....分分分分子子子子ワワワワイイイイヤヤヤヤーーーーのののの合合合合成成成成並並並並びびびびににににネネネネッッッットトトトワワワワーーーーククククのののの調調調調製製製製 調製した金ナノ粒子をつなぐリンカーと

    して、1, 10-デカンジチオール並びに、末端にスルフィド基を有するオリゴチオフェン 3,9,15

    量体を設計した。アルカンジチオールは、Fluka より購入し特に精製は行わなかった。オリ

    ゴチオフェン 9 量体は、以下のスキームによって合成した。

    すでに報告されている例では、オリゴチオフェン骨格の合成

    後に、スルフィド基を導入している。3量体に関しては、この

    方法を採用し合成したが、比較的分子量の大きい 9,15 量体に関

    しては、分子の両末端に収率良くスルフィド基を導入すること

    が困難であった。そこで、予めスルフィド基を有する3量体 1

    SS

    S

    C6H13C6H13SAcAcS

    3mer: n =115mer: n =5

    n

    SS

    S

    Br O EtO

    1) DBU2) AcCl

    S

    C6H13 C6H13

    S S

    1) LDA2) Bu3SnCl

    NBS

    9mer

    S

    C6H13 C6H13

    S S SnBu3Bu3Sn

    SS

    S

    C6H13C6H13

    SS SAcS S

    SS SAc

    SS

    SS

    O

    OEt Br

    1

    1 / Pd(Ph3)4

    1) BuLi2) S8

    3)

    bukka2Aa07

  • を合成し、それをコアとなる3量体の両側に連結することで、収率を高めることに成功した。

    その後、DBU による脱保護を行い、塩化アセチルを加えることで、アセチルチオ基を有す

    るオリゴチオフェンを得た。アセチル基は、アンモニア水で容易にはずれてチオラートを与

    え、容易に金微粒子表面に化学吸着することがわかった。

    3333....構構構構造造造造体体体体のののの確確確確認認認認 金ナノ粒子に硫黄原子を介してチオフェン9量体で化学吸着させたネッ

    トワーク型構造体を、電界放射型走査形電子顕微鏡

    (FE-SEM)により観察した(右図、倍率 15,000 倍)。

    その結果、金ナノ粒子が、2次元的な単層のネットワー

    ク構造を形成していることが確認された。その際、2 µm

    程度の空孔が確認された。伝導特性を測る上で、今回の

    ような単層のネットワーク構造は、より特徴を見出しや

    すいと考えている。

    4444....伝伝伝伝導導導導度度度度測測測測定定定定 上記により得られたアルカンジチオー

    ル連結型ネットワークの抵抗値および、その室温から低

    温までの温度依存性を、自作のクライオスタ

    ットにより測定した。アルカンジチオールで

    連結したネットワークの室温での抵抗値は、

    180 KΩであり、290 K から 40 K まで、降温

    過程(2 K /min.)で抵抗の温度依存性を測定

    したところ、半導体的性質を示した。アレニ

    ウスプロットにより求めた活性化エネルギー

    Ea(σ = A0 exp (- Ea / kBT))は、21 meV であっ

    た。なお、40 K での抵抗値は 100 MΩとなり、

    測定器の都合上、これ以上大きい抵抗値を測

    ることは、困難であった。これは、非共役分

    子である 1,10-decanedithiol によりつながれた場合、ワイヤー部の抵抗が大きく、活性化エネ

    ルギーも高くなるためと考えられる。なお、Brust らは、1,10-decanedithiol で連結した構造体

    をペレット化し、その伝導度と温度依存(室温から 120 K まで)を測定している[2]。 今回の

    結果は、その報告ともよく一致した。

    そこで、このような問題を解決すべく、良導電性を期待できるオリゴチオフェンオリゴマ

    ーで連結したネットワークを作成し、290 K から 12 K まで、降温過程(2 K /min.)で抵抗の

    温度依存性の測定を行った。中でも9量体で連結した際の活性化エネルギーは、30 K < T < 290

    K の範囲では、Ea = 12 meV と、1,10-decanedithiol ワイヤーの場合の約半分となった。また、

    T < 30 K での活性化エネルギーは 6 meV と求まり、低温において、活性化エネルギーが低

    下することがわかった。原因としては、トンネル電流の寄与が増加したことが考えられ興味

    深い。

    【【【【結結結結論論論論】】】】粒径のそろった金ナノ粒子を、オリゴチオフェンにより簡便に連結し、特徴あるミ

    クロンオーダーの構造体の構築に成功した。その伝導特性について検討し、低温において活

    性化エネルギーが低下することを見出した。

    【参考文献】 [1] M. Brust et. al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1994, 801.

    [2] M. Brust et. al., Adv. Mater., 7, 795(1995)

    1 µm

    0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

    log

    R-1

    ( 1

    / ohm

    )

    10-9

    10-7

    10-5

    9mer

    decane

    30 K

    1/T(K-1)

  • オリゴセレノフェン誘導体の電界効果トランジスタ特性

    (広島大院工・広島大総科*・阪大産研†)○瀧宮和男・功刀義人*・山根 究・安蘇芳

    雄†・大坪徹夫

    【序】有機半導体をデバイスとして使用する場合、その膜内のキャリア移動度がデバイスの応答

    速度を決定付ける重要な因子となる。近年、有機薄膜半導体を用いる電界効果トランジスタ(FET)

    が盛んに研究されおり、ペンタセンやオリゴチオフェン類を半導体層の用いた FET において、キ

    ャリア移動度がアモルファスシリコンに匹敵するものも報告され始めている[1]。我々は新たな

    FET 材料開発の一環として、オリゴチオフェンの硫黄原子を同族の重原子であるセレン原子で置

    換したオリゴセレノフェン類に着目して研究を行っている[2]。今回、無置換、および末端ジヘキ

    シル置換のオリゴセレノフェン三量体から五量体までを合成し、それらの FET デバイスを作製し、

    その特性を評価したので報告する。

    【実験】オリゴセレ

    ノ フ ェ ン 類 は 、

    Scheme 1 に示す経路

    で合成した。三量体、

    及び五量体はジアセ

    チレン部を有する前

    駆体のセレノフェン

    環への環化反応によ

    り、また、四量体は

    セレノフェン二量体

    のジブロモ誘導体とセレノフェンのトリブチルスズ誘導体とのクロスカップリング反応により、

    得ることが出来た[3]。FET 素子は、n-ドープしたシリコンウエハを SiO2絶縁膜により被覆後、有

    機半導体膜を真空蒸着し、その上に Au 電極を電子ビーム法により析出することで作製した。素

    子評価は、n-Si をゲート電極、Au をソース-ドレイン電極とし、窒素下もしくは減圧下で行った。

    SeR SnBu3 SeSeBr Br

    SeR R4

    +

    SeR Rn

    n = 3 or 5

    SeR Se Rm

    m

    m = 1 or 2

    Na2Se

    Pd(0)

    R = H or C6H13

    Scheme 1. オリゴセレノフェンの合成

    【結果】無置換三量体(3S)では良質の薄膜が作製できなかったため FET 応答を確認することは

    出来なかったが、それ以外の化合物では典型的な FET 挙動が得られた。一例として、Fig.1 にセレ

    ノフェン四量体のジヘキシル誘導体(DH4S)を用いた FET 素子の応答特性を示す。ドレイン-

    ソース間の電流はゲート電圧の上昇に伴って上昇し、典型的な p-チャンネルの応答特性を持つこ

    とが分かる。

    bukka2Aa08

  • Table 1 に、各化合物について、

    最も高い移動度を示した蒸着時

    の基盤温度と移動度の値をまと

    めて示す。これよりセレノフェン

    の数が増加するにつれて移動度

    も上昇する傾向にあり、さらに末

    端にヘキシル鎖を導入すること

    により、移動度が向上することが

    わかる。また、対応するオリゴチ

    オフェン類の移動度と比較する

    と、何れも 2 倍程度以上の高い値

    が得られており、Se 原子導入が

    移動度の改善に効果的であるこ

    とが示唆される。この中で注目す

    べき点は、ジヘキシル五量体

    (DH5S)が 0.038 cm2s-1V-1 と高

    い移動度を持つこと、さらにオリゴチオフェン類では三量体以下の低級オリゴマーでは FET 挙動

    を示さないのに対し、ジヘキシル三量体(DH3S)で、3.0 x 10-3cm2s-1V-1と移動度はさほど高くないものの、FET 応答が確認できたことが注目される。

    本研究は NEDO の産業技術研究助成事業(01A 26005a)の援助を受けて行った。

    Table 1. オリゴセレノフェン類の FET 素子のホール移動度と基板温度 (Ts).

    Ts / oC Mobility / cm2s-1V-1 4S 60 3.6 x 10-3 5S 60 1.9 x 10-2

    DH3S 100 3.0 x 10-3 DH4S 100 2.9 x 10-2 DH5S 60 3.8 x 10-2

    -3 10-5

    -2.5 10-5

    -2 10-5

    -1.5 10-5

    -1 10-5

    -5 10-6

    0

    -100-80-60-40-200

    id / A

    Vd / V

    Vg = -100

    Vg = -80

    Vg = -60

    Vg = -40

    Vg = -20Vg = 0

    Fig. 2 DH4S の FET 挙動

    参考文献

    1. 例えば、H. E. Katz, Z. Bao, Acc. Chem. Res. 2001, 34, 359. 2. Y. Kunugi, K. Takimiya, K. Yamane, K. Yamashita, Y. Aso and T. Otsubo, Chem.Mater. 2003, 15, 6. 3. H. Nakanishi, S. Inoue, T. Otsubo, Mol. Cryst. Liq. Cryst.1997, 296, 335.

  • ラララランンンンダダダダウウウウアアアアモモモモデデデデルルルルにににによよよよるるるる

    ✱✱✱✱NNNN✮✮✮✮ ナナナナノノノノワワワワイイイイヤヤヤヤーーーーのののの量量量量子子子子輸輸輸輸送送送送過過過過程程程程

    ((((九九九九大大大大先先先先導導導導研研研研))))○○○○多多多多田田田田朋朋朋朋史史史史、、、、近近近近藤藤藤藤正正正正一一一一、、、、吉吉吉吉澤澤澤澤一一一一成成成成

    【序】✱N✮ 分子の電気伝導現象を理解し制御することは、✱N✮ 分子を分子デ

    バイスとして利用する上で必要不可欠であり、遺伝子損傷や突然変異のメカニ

    ズムとも関連しているため分子生物学においても非常に重要な研究課題とされ

    ている。現在までに、多くの研究グループによって、この ✱N✮ 分子に関する

    電気伝導現象の実験がなされてきているが、✱N✮ 分子に含まれる塩基配列の

    ランダムさや、電導特性測定の際の電極との接触に関する情報が非常に不鮮明

    であるため、✱N✮ 分子が導体として振る舞うのか、あるいは絶縁体として振

    る舞うのかよく分かっていない(例えば、半導体[✤,✥]、絶縁体[✦]としての報

    告がある)。伝導メカニズムに関しては、ホッピング機構とトンネル機構がそ

    の主な機構であるとされており、光照射などにより誘起されたグアニン上のホ

    ールが近距離においてはトンネル機構で輸送され、長距離ではホッピングを行

    うことで非常に長い距離を移動できることが確認されている。一方、電子輸送

    に関しては、極低温での実験において ✱N✮ 分子の長さが ✧nm 以下のときは

    トンネル電流が流れる、という報告がなされている。そこで、本研究では、ア

    デニン(✮)とチミン(✻)のみからなる約4nm の ✱N✮ ワイヤーについて、

    その電子輸送をトンネル機構を用いて理論的に考えることにした。

    【方法】量子細線にトンネル電流が流れる際のコンダクタンスを与える理論の

    一つにランダウアモデルがある。ランダウアモデルでは散乱体(分子など)が

    理想的な導線を介して無限の電子溜めに接続されており、散乱体による電子の

    透過確率 ✻ が回路のコンダクタンス ❈ に比例している、というものである(式

    1)。

    ここで ✲✳ はフェルミエネルギーを表している。透過確率 ✻ は非平衡グリーン

    関数を利用することで計算できることが知られており、非常にシンプルな一次

    元モデルにおいて ✰❂❍ol❊ らが導出した透過確率の式を ✱N✮ 分子にも適用でき

    るよう拡張して計算を行った。今回取り扱った系は、✮ と ✻ のペアが12個並

    んだ ✱N✮ 分子(✪✩✩ 原子)を金の導線に接触させたものであり(図1)、導線

    g = 2e2

    hT EF( ) (1)

    bukka2Aa09

  • を塩基対に近づけた場合と、✱N✮ の側面に近づけた場合の二つの接続につい

    てそのコンダクタンスを見積もった[✧]。透過確率の計算では、金電極表面の状

    態密度と、電極にはさまれた

    分子の電子状態に関する情報

    (分子軌道)が必要になるが、

    金表面の状態密度は ✣.✣✪

    s❏❂❏❆/❆v ・ ❂❏om という値

    になることが知られているの

    で、その値を用い、✱N✮ の

    電子状態計算においては拡張

    ヒュッケル法を用いた。

    【結果】金電極を塩基対に近づけた場合において得られた透過確率を図2に示

    した。✮-✮ は ✱N✮ の両末端のアデニンに電極を近づけた場合に相当し、✻-✻

    は両末端のチミンに電極を近づけた場合に相当する。どのパターンにおいても、

    その透過確率のフェルミエネルギーにおける値は ✤✣-✫から ✤✣-✬のオーダーとな

    り、π共役している分子ワイヤーの透過確率よりも非常に低いものとなった。

    この透過確率を積分することで電流の大きさを見積もることができるが、✮-✮

    接続の場合ではナノアンペアオーダーの電流が流れていることが分かった。そ

    れに対し、電極を ✱N✮ 分子の側面

    に近づけた場合においては、透過確

    率が ✤✣-✤✥ のオーダーとなり、電流の

    大きさはピコアンペア以下となった。

    この結果から、✱N✮ に流れる電流の

    大きさは金電極との接続部位に大き

    く依存していることが分かる。当日

    は、分子軌道とコンダクタンスの相

    関関係 [5,✩]も考慮しながら、この

    ✱N✮ の電気伝導現象について詳細に

    報告する。[1] H.-W. Fink, C. Schönenberger, Nature 1999, 398, 407.[2] K.-H. Yoo, D. H. Ha, J.-O. Lee, J. W. Park, J. Kim, J. J. Kim, H.-Y. Lee, T. Kawai, H. Y.Choi, Phys. Rev. Lett. 2001, 87, 198102.[3] Y. Zhang, R. H. Austin, J. Kraeft, E. C. Cox, N. P. Ong, Phys. Rev. Lett. 2002, 89, 198102.[4] T. Tada, M. Kondo, K. Yoshizawa, ChemPhysChem, in press.[5] T. Tada, K. Yoshizawa, ChemPhysChem 2002, 3, 1035-1037.[6] T. Tada, K. Yoshizawa, J. Phys. Chem. B, in press.

    H C N O P A

    図1 ✜✮✻✢✤✥✱N✮分子と金の導線からなる拡張分子。導線は塩基対近傍に配置されている。

    u

    ✤✣-✤✧

    ✤✣-✤✥

    ✤✣-✤✣

    ✤✣-✫

    ✤✣-✩

    -✤✧ -✤✥ -✤✣ - ✫ - ✩

    E / eV

    EF

    T-TA-T

    T(E)

    図2 計算により得られた透過確率。

    A-A