ニジェール支所便り 2017 年12 月号 - jica...11 月の支所の活動...

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1 ニジェール支所便り 2017 年 12 月号 【編集長】山形支所長 【編集担当】佐々木企画調査員 Tel:(227)2073 5569 Fax:(227)2073 2985 E-mail: [email protected] ニジェール支所便りが JICA ニジェール支所の HP でも閲覧できるようになりました!懐かしのバックナンバーにもここからアク セスできます!! ⇒ http://www.jica.go.jp/niger/office/others/newsletter/index.html 今月のトピック 支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~ 11 月の支所の活動 ~ハッサンさんが見たジャポン!~ 新規農業技プロ案件・詳細計画策定調査の実施~ プロジェクト・専門家等の活動進捗状況紹介 ~みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクトフェーズ 2~ ニジェールにおける活動紹介 ~ニジェールでゴミを集める日本人-都市ゴミから生育する植物たち その3~ ニジェール国内の出来事 ~~ 支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~ 日本は、寒くなったことと思います。 こちらも、朝は冷えるようになりました。毛布はまだ必要 ないとはいえ、風が冷たく、窓を開けて車を運転できな いほどです。朝の空は雲一つなく、砂塵もなく、抜ける ような青空で、週末の散歩が楽しみです。 今年の収穫は、どうだったのでしょう?まだ集計は終わ っていません。場所によっては十分な雨が降り、しかし 場所によっては多過ぎて洪水になり、あるいは十分な 雨量がなかった地域もあり、しかし全般的には悪くはな かったと聞いています。これから乾季になっても、人々 が笑顔を絶やさない、十分な収穫があったことだろうと 願っています。 山形所長

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Page 1: ニジェール支所便り 2017 年12 月号 - JICA...11 月の支所の活動 ~ハッサンさんが見たジャポン!~ ~新規農業技プロ案件・詳細計画策定調査の実施~

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ニジェール支所便り

2017 年 12 月号 【編集長】山形支所長 【編集担当】佐々木企画調査員

Tel:(227)2073 5569 Fax:(227)2073 2985 E-mail: [email protected]

☆ニジェール支所便りが JICA ニジェール支所の HP でも閲覧できるようになりました!懐かしのバックナンバーにもここからアク

セスできます!! ⇒ http://www.jica.go.jp/niger/office/others/newsletter/index.html

今月のトピック

支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~

11 月の支所の活動 ~ハッサンさんが見たジャポン!~

~新規農業技プロ案件・詳細計画策定調査の実施~

プロジェクト・専門家等の活動進捗状況紹介

~みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクトフェーズ 2~

ニジェールにおける活動紹介

~ニジェールでゴミを集める日本人-都市ゴミから生育する植物たち その3~

ニジェール国内の出来事

~~

支所からのひとこと ~今月のニジェール短歌~

日本は、寒くなったことと思います。

こちらも、朝は冷えるようになりました。毛布はまだ必要

ないとはいえ、風が冷たく、窓を開けて車を運転できな

いほどです。朝の空は雲一つなく、砂塵もなく、抜ける

ような青空で、週末の散歩が楽しみです。

今年の収穫は、どうだったのでしょう?まだ集計は終わ

っていません。場所によっては十分な雨が降り、しかし

場所によっては多過ぎて洪水になり、あるいは十分な

雨量がなかった地域もあり、しかし全般的には悪くはな

かったと聞いています。これから乾季になっても、人々

が笑顔を絶やさない、十分な収穫があったことだろうと

願っています。

山形所長

素肌過ぐ風に誘われ碧空に

青葉輝く市にさすらう

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11 月の支所の活動紹介

【ハッサンさんが見たジャポン!】

ニジェール支所からは 3人目となるナショナルスタッフの訪日。今回待望の渡航を果たしたのは、5S隊長ことハッサンさんです!

支所のアドミ業務をテキパキとこなす傍ら、事業部門では保健セクターも担当しています。今回ハッサンさんがオブザーバーとして参

加したのは、「アフリカ仏語圏地域 妊産婦の健康改善」研修で(10月 4日~10月 28日)、研修センターは JICA東京国際セ

ンター(TIC)であるものの、地方訪問(京都・滋賀)も組み込まれていました。

さて、ナショナルスタッフの中でも特に日本への関心が高く、日本人スタッフよりも日本人らしいハッサンさんからどんな発言が飛び

出したでしょうか?

「ハッサンさん、改めてお帰りなさい!1 ヶ月近くの日本滞在、まずは日本についての印象など話してください」

成田に降り立ってから、滞在中最も感銘を受けたのは何事においてもポジティブな日本人の姿勢

です。空港で働いている人は皆一様に親切で、笑顔で丁寧に対応してくれました。このような姿勢

は、まずニジェールでは見られないですよね(笑)。このポジティブさが日本の発展のベースにあるのだと

思います。またこれは5S カイゼンの重要な要素でもあります!また街の清潔さ、計算しつくされた建

物の設計などには本当に驚かされました。これを支えているのが、日本人ひとりひとりの公共スペース

に対する衛生観念でしょう。皆で街を美しくしようという、ポジティブな参加姿勢がうかがえました。

(この深い洞察力にいきなり度肝を抜かれてしまった筆者。もっと軽いノリで話をしてくれるものと

思っていましたが、ハッサンさんの話はさらにこの後ヒートアップしていきます...)

ニアメに戻ってショックを受けたのは、ちょうど市民デモが実施された後だったので、道のいたるところ

に焼かれたタイヤが放置されていて、街の景観を著しく害していました。『これではニジェールは発展し

ないなぁ』と、その時感じました。街を美しくするためには、日本のように国民ひとりひとりが自発的に

参加する必要があるのです。そのためにまず必要なことは、地方分権化でしょう。

(地方の保健センターなどを視察して)日本はそれが非常に機能していると思いま

した。コミュニティが地域のあらゆる活動に積極的に関わる仕組みが整っています。

しかしニジェールは、教育、保健衛生、インフラ整備など、どれをとっても国頼みで、

国民にそもそも参加の意識が欠如しています。日本のように、本来ではあれば、そ

の土地の仕組みを最も理解している地方自治体が主体となって地域住民を巻き

込んでいく必要があるのです。そしてこれは、ニジェールに限ったことではなく、ほぼす

べての仏語圏アフリカ諸国が抱えている制度的な問題でもあるのです。

(おっと、話がちょっとずれてきている!ここで軌道修正しなければ...)

「なるほど、では日本の話に戻って、プログラムには京都や滋賀といった地方視察もありましたね。日本の文化的な面について

は、どのような印象を持ちましたか?」

京都を一日観光する機会に恵まれ、神社仏閣といった歴史的建造物がきちんと保護・保管されてい

る印象を受けました。地方を訪問して感じたことは、英語でのコミュニケーションすら難しいということです。

東京では英語を理解する人が比較的多かったので、それほど苦労することはありませんでしたし、TICで

は、ハラール(イスラム教徒が口にできる食事)がきちんと表示もされていましたが、それ以外の場所で食

事をする際は苦労しました。メニューなど、日本語しか書かれていないものも多かったので...なので、1

年とか 2 年とか、長期間日本に滞在、生活するとなるといろいろと大変だろうなぁと思います。東京の人ご

みの中にいると、なんだか自分がボトルの中にいるような息苦しさを覚えました。

(確かに、この広々としたニジェールで生まれ育った人からすると日本の、特に都心の環境は息苦しく感

じられるのかもしれませんね)。この続きは、インシャアッラー、ということで!

鮮やかなブルーのスーツに

身を包み、満面の笑みで成

田に降り立ったハッサンさん

週末を利用して東京観光も堪能

雨の京都にて

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【新規農業技プロ案件・詳細計画策定調査の実施】

10月 22日~11月 2日の日程で上記の調査ミッションが滞在し、本案件にかかるニジェール政府カウンターパート機関や SHEP

の活動が行われているサイトを訪問し、新規案件形成に向けて関係者間で活発な協議が行われました。今ミッション中、セネガ

ルで SHEP プロジェクトを実施しているカウンターパート 2 名も現地視察や協議に参加し、両国における経験共有もなされ、盛り

沢山な 10 日間となりました。以下、時系列で写真と共に振り返ります;

10 月 23 日:農業省、計画省におけるキックオフミーティング

10 月 24 日:農業実践開発大学校(IPDR)訪問

10 月 25 日:SHEP パイロットサイトにおける野菜栽培農家へのインタビュー@ガバグラ村、トンディビア・ゴール村

10 月 26 日:ニアメ農業局&FAO との意見交換@FAO

農業・畜産省次官室での赤井職員の

プレゼンの様子

ミッション初日となるこの日は、関係省庁への表敬も兼ねて、キックオフミーティングが実

施されました。農業・畜産省次官執務室および計画省会議室にて、今ミッションの目

的や新規プロジェクトとJICA技術協力プロジェクトの仕組みなどが、本部・赤井職員か

ら説明されました。両省次官共に概ねその趣旨を理解された様子で、まずまずの滑り

出しとなりました。

IPDR敷地内の稲作圃場視察の様子 IPDR 会議室での協議の様子

2 日目は朝からニアメから南東へ 30km に

位置するコロへ移動。今プロジェクトのカウン

ターパートの一機関となる IPDRで午前中い

っぱい協議を重ね、午後は校内の施設や

圃場など、校長先生自ら案内してくれまし

た。

一つ目のサイト・ガバグラ村 ふたつ目の新サイト、トンディビア・ゴール村

の農家グループとミッションの集合写真

3 日目は、「支所便り」でもお馴染みのガバ

グラ村の女性グループと SHEP 活動 2 つ目

のサイトとなるトンディビア・ゴール村を訪れ、

生産者から話を聞きました。2 つ目のサイト

は男女混合の野菜栽培グループで、やる気

も満々。今後の展開が楽しみです。

1. Farmers’ Field School の略。農業技術の普及手法。農業生産者自身が、定期的に集まり、共に学び合いながら様々な知識や技術を身につ

けていく手法で、ニジェールでも国を挙げて実践されている普及手法。

FAO会議室にて FFS担当者と活発な意

見を交わす一行

4 日目の午前中は、こちらもカウンターパートの

一機関となるニアメ農業局にて、新規案件につ

いての協議をセネガル行政官2名も交えて実施

し、さらに午後は、ニジェールにおいて FFS1普及

アプローチを全国展開で実践している FAO にお

邪魔し、FFS のスペシャリストともいえるハマ氏に

その現状や課題等について意見交換しました SHEP セネガル・チームから T シャツと

キャップを貰いご機嫌な局長さん

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10 月 27 日:農業総局・普及局(DGA/DVTT)訪問/SHEP セネガル‐ニジェール・意見交換会@JICA ニジェール

10 月 30 日:新規技プロ案件にかかる関係者間協議@JICA ニジェール

10 月 31 日:スペイン開発協力機関(AECID)との意見交換

11 月 1 日:IPDR 訪問・「農業普及」についての授業視察

11 月 2 日:農業省次官・計画省次官による協議事項についての署名完了!

農業総局長の執務室にて、当ミッションの目的などにつ

いて説明するジボ普及局長と調査団一行

SHEP セネガル・チームとの経験共有・意

見交換会の様子。

SHEP 課題別研修(2015 年

度)にも参加したジボ局長及び

普及局員と共に、特に現職の

普及員の研修について意見交

換しました。その後、支所の会

議室にてセネガルにおける

SHEP の活動紹介や経験共有

がニジェール組となされました。

新規案件の主要アクターとなるカウンターパート機

関間との協議の様子

1 週目で各カウンターパート機関との個別の協議、質疑応答を終えた

一行。2 週目からは、それぞれの機関からの代表を事務所に招き、具体

的なプロジェクトにおけるそれぞれの役割などについて、ドラフト案をもとに

話し合われました。

今回初めて、プロジェクトが形成されていく過程に参加することができ、

筆者自身の喜びも一入です!

我々よりも一足先に、IPDR への支援を開始しているスペイン開発協

力機関(AECID)のオフィスを訪ねました。支援内容は、施設内の試験

圃場等のインフラ整備が中心です。プロジェクト・コーディネーターのリタ

さんがとても気さくにプロジェクトについて、そしてニジェールにおけるスペイ

ンの支援について話してくれました。IPDRの支援については、概ね問題

なく、進んでいるようです。同じ協力機関として、緩やかに連携していけ

ればいいなと思います。

AECID 会議室での会談の様子

校長自ら教壇に立ち、精力的に学校運営にも関与している超多忙な

ジカ氏と詰めの協議をするため、再度コロを訪れました。授業の合間の 2

時間ほど、我々との協議に割いてくれました。三度の飯より教えることが好

きという校長が、是非とも授業をみていって欲しいというので、話し合いの

後、共に生徒の待つ教室へ移動。教室の中を縦横無尽に歩き回り、私

たちにとっても、大変魅力的な授業でした。 「普及」についての授業の一コマ。この後生徒たちは校

長先生と共に教室を飛び出し、圃場へと向かいまし

た。

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(企画調査員 佐々木夕子)

プロジェクト・専門家等の活動の進捗状況紹介

■■ みんなの学校:住民参加を通じた教育開発プロジェクト・フェーズ 2 ■■■

『みんなの学校:住民参加による教育開発プロジェクトフェーズ 2』では、初等教育分野と中等教育分野、二つの分野にて

活動しています。初等教育分野においては、住民支援の校外学習に効果的なツールを導入することですべての児童の“読み書

き”と“計算”の基礎学力改善を目指す『質のミニマムパッケージ』の開発と普及に取り組み、中等教育分野においては、アクセス、

格差解消、教育の質の改善など、様々な教育開発課題の改善に貢献する“機能する”学校運営委員会(COGES)モデルの全

国普及を進めています。

この 11月、「初等教育分野」では、2017/2018年度の『質のミニマムパッケージ算数・読み書き

統合モデル』開発へ向けたパイロット活動を開始しました。対象とするのは 53 校、1 年生~6 年生

までの約 7500 名です。まずは、当モデルを導入するため、COGES 委員長と校長に対し、質のミニ

マムパッケージ活動の計画策定研修を実施しました。今後、各対象校にて全児童への算数と読み

の学力テストが実施され、その結果を共有する住民集会で活動実施の意思決定をした後、それぞ

れのコミュニティが有する様々な資源を駆使した活動計画が策定されます。

児童の学力の問題は、どこの学校でも等しく抱える切実な問題です。ただ、教員も保護者・住

民も、“今の状況がオカシイのはなんとなくわかっているけど‥‥、どうしていいのかわからないし、自

分たちでどうにかできるものとは思えないし…“と立ち竦んでいる状態です。そんなニジェールの学校

現場にて、この「質のミニマムパッケージ」がひとつの“変革”の道しるべとなるよう、モデル開発に取り組んでいます。

なお、「質のミニマムパッケージ」モデルの効果には、現場のみならず、世銀やフランス開発庁など他ドナーも強い関心を示してし

ます。今回のモデル開発を進めることで、現在、教育のためのグローバルパートナーシップ(GPE)等の支援により進められている「質

のミニマムパッケージ・算数」普及対象の 32万名の児童のみならず、今後、さらに多くの児童の

読み書き計算の基礎学力向上へと繋がることが願われます。

一方の「中等教育分野」においては、先月実施された「中等 COGES 民主的設立」研

修後、機能する中等 COGES モデル普及対象の 4州、約 1000 の対象校にて、住民集会や

無記名投票による選挙が行われ、『民主的な中等 COGES』が設立されました。それを受け、

この 11月は、新しく設立された中等COGESの委員長、会計、教員代表、そして校長を対象

に、中等 COGES の機能化に不可欠な、“計画策定能力”および“リソース動員・管理能力”

の強化と、モニタリング体制構築へ向けた“中等 COGES 連合設置”のための能力強化研修

を開始しました。特に地方の 3州においては、研修参加率はほぼ 100%に上り、中学校の停滞する COGES と生徒の低い学力な

ど学校の問題にかかる熱い議論が繰り広げられ、如何に中学校においても『機能する COGES』による変革と教育改善が求められ

ているか痛感させられました。この研修は今後 12 月中旬まで続きますが、その後、各地にていよいよ、『機能する中等 COGES』へ

向けて始動します。

(みんなの学校プロジェクト専門家 影山晃子)

農業省次官執務室にて時間および中村専門員が署名

している様子

こちらは計画省次官の執務室にて

調査団の皆さん、超タイ

トなスケジュールの中、見

事にミッションを果たされ

ました。

本当にお疲れ様でし

た!

写真上:「質のミニマムパッケージ」活動実施風景

写真上:中等 COGES計画策定・リソース管理・COGES連合設置研修風景

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ニジェールにおける活動紹介 ~ニジェールでゴミを集める日本人―都市ゴミから生育する植物たち その 3~

支所便り 7月号(2016)から不定期でお届けしている、京都大学アフリカ地域研究資料センター・大山修一准教授の~ニジェ

ールでゴミを集める日本人~シリーズ第 11 話。今回も、前回、前々回に引き続き都市ゴミから生育する植物について執筆頂き

ました。

前号の支所便りで、毎年 8 月から 11 月にかけて、ニジェール各地で農耕民と牧畜民による武力衝突が発生し

ていること、その武力衝突の原因は作物の食害にあることを紹介しました。こうした作物の食害に起因する殺傷

事件は無数にあり、悲しいことに、もはや、ニジェールにおける収穫期の日常のひとこまになっています。多く

の死者が出ないかぎり、ニジェール国内でもニュースになることはありません。

家畜に作物が食べられたと農夫が気づいたとき、農夫はだれの家畜が食害を起こしたのかを特定しようとしま

す。その対応は、その場に牧夫と家畜がいるかどうかで異なります。家畜が作物を食べている現場を発見した場

合、農夫は現行犯として家畜を捕まえ、走りながら家畜の群れを追いつづけ、すみやかに自分の村へ連れて行こ

うとします。

しかし、そこに牧夫がいる場合、農夫と牧夫は直接、対峙することになります。牧夫は子供であることが多く、

抵抗できないまま、大人の農夫に言われるがまま、家畜が連れ去られることもあります。牧夫が大人で、農夫に

対して抵抗した場合には、その場で武力衝突に発展することがあります。

自分の畑でヤギとヒツジが食草していたのを農夫が発見し、村へ連れ

てきました。ヤギ・ヒツジは 69 頭で、これはいわば人質です。農夫が

牧夫に請求した金額は 69,000CFA フラン(13,800円)でした。

家畜の放牧をする牧夫の多くは10~17才の少年です。少

年たちは炎天下、500ml のペットボトルに水を入れ、家畜を

追って放牧を続けます。

ラクダの放牧をするフルベの少年。格好からして 12才く

らいでしょうか。

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また、農作物に食害の痕跡があり、その場に家畜がいない場合、農夫は家畜の足跡をたどったり、周囲の畑の

所有者から聞き取りをし、家畜の所有者を割りだそうとします。家畜を放牧する牧夫には、近隣村に定着してい

るフルベやトゥアレグのほかにも、ウシ 200~300 頭、ヒツジ・ヤギ 500 頭という大頭数を連れて遊動するフル

ベやトゥアレグの牧畜民もいます。かれらはニジェールだけでなく、国境線に関係なく移動しつづけており、複

数の家族を伴っています。ニジェールの人々も、このような「インターナショナルな牧畜民」の生活実態はよく

分からないと言います。農耕民にとって、村に定着している牧夫は顔なじみですが、後者の移動を繰り返す牧夫

は不気味な存在です。農夫が牧夫の特定に失敗した場合、食害の被害に対して賠償金を請求することはできず、

泣き寝入りすることになります。

農夫が牧夫を特定した場合、牧夫は作物の食害に対して賠償金を支払わねばなりません。その請求金額は、法

外に高く、牧夫が納得しない場合も多いのです。賠償金の相場は地域によって異なるのですが、ウシ 1 頭あたり

3,000~4,000 CFA フラン(600~800 円)、ヤギ・ヒツジであれば 1 頭あたり 750~1,500 CFA フラン(150~300 円)

です。ウシはヤギ・ヒツジよりも体が大きく、食べる量も多いので、ウシによる食害に対する賠償金はヤギ・ヒ

ツジによるものよりも高額になるのです。

たとえば、牧夫のウシ 10 頭が畑のトウジンビエを食べた場合、畑の所有者である農夫に対して 40,000 CFA フ

ラン(8,000 円)を支払う必要があるのです。この金額はメス・ヒツジ 1 頭の値段に相当し、けっして安い金額

ではありません。実際には、請求される金額はこれ以上です。

牧畜民と農耕民のあいだで発生する武力衝突は、こうした作物の食害をめぐる認定の是非、そして賠償金の金

額を決定し、その授受をめぐって発生するのです。わたしが現地調査を続けるなかで、こうした作物の食害は毎

年、すくなくとも 2~3 件は発生します。牧畜民のなかには、農耕民がわざとトウジンビエを畑のなかに放置し、

食害を発生するよう仕向けているという人もいます。彼らの主張では、農夫は賠償金を目あてに、罠を仕掛けて

いるのだというのです。農耕民の側には、家畜によい飼料を食べさせるため、畑へ意図的に家畜を入れていると

言います。お互いが疑心暗鬼になっています。

前号で紹介したように、わたしのプロジェクトでは、フェンスのなかに都市の有機ゴミを入れて緑化をし、責

任者の牧夫を決めて、そこに家畜を入れています。夜間に家畜を入れておくことで、農地ちかくで夜間放牧をす

ることなく、作物の食害が起こらないようにしているのです。

賠償金の交渉――賠償金をめぐって激しい議論がおこなわれます。農

耕民の側も、牧畜民の側も、加害者(牧夫)と被害者(農夫)が 2 人だ

けで直接交渉をすると、落としどころがなく議論がヒートアップするので、

かならず双方から仲裁者が立てられます。

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トウジンビエを食べるウシの群れ。人間が食べる種子の

栄養価は高く、ウシにとってもおいしいのです(プロジェクト

のサイト内ですので、写真の場合、作物の食害にはなりま

せん)。

めぐみの季節:9 月から 11 月にかけて、畑のトウジンビエとササ

ゲが収穫されます。写真奥の穀倉に入れるまえに、畑のなかに

おかれます。牧夫は、家畜に対する罠だと言います。

わたしは牧夫に対して、ひとつだけお願いします。そのお願いは、「草がなくなっても、2 週間だけ夜間

に家畜をフェンスに入れつづけ、糞を落とすこと」です。雨季に生育してきた植物だけを食べて、フェンス

の外へ出て行ってしまうと、それは土壌養分の持ち出しになります。植物はゴミの養分を吸収して生長し、

家畜はその植物を食べて成長します。つまり、家畜によって植物が食べられると、フェンス内の土壌養分を

収奪していることになるのです。そのため、2 週間だけ、夜間に家畜を入れることによって家畜糞によって

土壌養分の補給を意図しているのです。

家畜をフェンスに入れると、フェンスのなかに生育する植物に変化が出ます。家畜が落とす糞には土壌の

養分があるだけでなく、そのなかに植物の種子が含まれています。アカシア属やタマリンド属の樹木には、

家畜の胃を通過したり、あるいは反芻のあとで吐き出されることで、種子の発芽がうながされる植物が多く

存在します。

ハマビシ科のバラニテス(Balanites aegyptiaca)の葉は、農耕民の人々が餓死する前に食べる、「さいご

の救荒食料」と言われますが、この果実をヤギが食べ、反芻したのちに種子だけを吐き出します。吐き出さ

れた種子は、雨季になると発芽します。家畜が食べて排泄する植物の種子は発芽し、家畜の飼料となり、同

時に住民によって利用される有用植物であることが多いのです。

初めてフェンスに家畜を入れる――フルベの牧夫たちが、ウシやヤ

ギ・ヒツジの食草の様子を見守っています。

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牛糞から生育して く る植物―ツユクサ科の Commelina

forskalaei。家畜の嗜好性が高い飼料です。

こちらの牛糞からは、8 種 142 本の草本が生育していました。牛

糞が落とされることによって、土壌に養分だけではなく、植物の種

子がもたらされます。

都市ゴミから生育するバオバブの葉を収穫するフルベの女性

都市ゴミから生育するバオバブの葉を収穫するフルベの女性

採取した草本は貴重な食材で、塩ゆですると、コプトという料

理になります。トウモロコシやトウジンビエの粉を混ぜることもあ

ります。

バオバブ(Adansonia digitata)やカッシア(Cassia obtusifolia)の葉は、ハウサ語でコプトと呼ばれる人々

の大事な食事に料理されます。女性たちがこれらの葉を求めて、フェンスにやって来ます。

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ニジェール国内の出来事 ~~

12 月の主な予定

‐ 12月 17日 EPT 影山専門家帰国

しかし、わたしのお願いを無視し、草を食べさせて、フェンス内に糞を落とさない場合、まったく異なる草

地の景観となります。以下の写真は、2013 年 12 月にゴミを投入したサイトです。ゴミを投入して 4 年が経過し

ました。ここの責任者であるフルベの牧夫アドゥドゥは、わたしのお願いを無視し、家畜に草を食べさせ、草

がなくなると、フェンスの外で家畜を寝かせていました。フェンス内に家畜糞を落とさず、手入れしなかった

のです。

一見すると、ゴミの投入によって緑化は成功したかに見えます。しかし、この植物はアオイ科の Sida cordifolia

で、ハウサ語でガルマニと呼ばれます。この植物は、サヘル地域では過放牧の指標植物となっています。ガル

マニは、家畜の好む飼料ではありません。しかし、乾季が深まり、植物体が乾燥すると、ウシやヤギ・ヒツジ

は空腹に耐えかねて食べはじめます。種子も食べられて糞に排泄されるので、糞から種子が発芽し、貧栄養の

土壌に定着し、さらに種子を拡散します。

草地にたたずむ一頭の白ヤギ。一見すると、草地に覆われ、

緑化に成功したように思えますが、この草本(ガルマニ)は過

放牧の指標植物で、家畜が食べることはありません。

フルベの若者たちに、フェンスを手入れするように話します。

フェンスの中に家畜を入れて糞を落とすこと、ガルマニを抜く

か、大量の家畜糞を入れなければ、ガルマニは駆逐できな

いことを伝えました。

このガルマニという植物が雨季に生育すると、家畜は見向きもしませんから、すくすくと生長し、とくに貧栄

養の土壌で生育域が拡大していきます。この植物が定着してしまうと、根ごと引き抜くか、火を入れて焼くか、

あるいは家畜糞を大量に入れて土壌を改善しないかぎり駆逐できません。わたしは、責任者である牧夫アドゥド

ゥに話しをしたのち、種子が落下する前にフルベの若者たちとともに一緒に草抜きをすることになりました。

フルベとハウサの若者とともに、ガルマニの草本を引き抜きまし

た。固結した土壌に根を伸ばしており、引き抜くのには力が必

要です。

JICA ニジェール支所のアブドゥさんがサイトを見に来てく

れ、いっしょにガルマニを引き抜きました。いつもながら、感

謝です。

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ニジェール国内の出来事

-11 月 24日~12 月 3 日 女性のための工芸品国際見本市(於 セイニ・クンチェ・スタジアム横)

都市のゴミを入れれば、自動的に緑化が進むというわけではなく、家畜糞をフェンスのなかに落とし、養分を添

加する必要があるのです。

(このプロジェクトは、三井物産環境基金による環境活動助成を得て、続けています。)