シヴァとスサノヲ その奇妙な類似に ついて · 2019. 10. 28. ·...
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シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
Śiva and Susanowo Some Strange Resemblances
沖 田 瑞 穂要 旨
ヒンドゥー教の主神の一人シヴァと日本のスサノヲ神には八つの点で特徴的な類似が認められる1破壊と生殖シヴァは時が来ると世界を破壊する破壊神でありスサノヲはその行動によって世界を危機にさらす他方シヴァはリンガに表されるように生殖の神でありスサノヲは豊穣の地下界と一体化して豊穣神オホクニヌシに試練を課す
2〈教示する神〉シヴァはインドラの欲望を戒めスサノヲはオホクニヌシを試練によって導き祝福を与える
3悪魔退治と武器シヴァは悪魔の三都を破壊し英雄アルジュナに武器を授けるスサノヲはヤマタノヲロチを退治しそれによって得た剣をアマテラスに献上する
4荒ぶる神罰(宥め)英雄神であると同時に両神は荒ぶる神でもある5暴風神シヴァの前身ルドラは暴風神スサノヲも自然現象としては暴風雨
6文化シヴァは踊りスサノヲは歌と関わり世界のエネルギーを表す文化と関連する
7女性的なものとの一体化シヴァはシャクティとして妃と一体化しスサノヲは冥府の主であることによって母神イザナミと一体化している
8イニシエーションを授けるシヴァはアルジュナにスサノヲはオホクニヌシにこのように多くの類似を有するが両神の間に何らかの系統的関係は想定できず自然現象としての暴風に基づく神格として別個に形成された性質が偶然に一致したものと考えることができる
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は じ め に
日本女子大学における2015年度前期のテストで英文科の青木奈々さん
が大変すぐれた答案を提出した本人の了解を得て名前と答案の全文
を引用する
「インド神話について学んだことを述べなさい」という設問に対して
「数ある神話の中でも特に興味深いのがシヴァの神話についてだ彼
は破壊の神である一方生殖の神として民衆の間で広く信仰されてお
り大きな役割を果たしている欲望が止むことのないインドラを戒
めたり神々を困らせる悪魔の退治に不可欠な人物であったり英雄
のように描かれているしかしそんな彼も怒りに任せて暴れ回り
神々から罰を受けたり宥められたりしているここに日本のスサ
ノヲが連想された彼もヤマタノオロチを倒して村娘を救い出すとい
う英雄ぶりを見せているにも関わらず太陽の女神アマテラスを引き
こもりに追いやる事件を起こしているこの共通点から人々は完璧で
はない少し人間味のある姿を神に求めていたのだと考えられるまた
単一の特徴を持ち合わせているのではなく対照的な面を持ち合わせ
ているというのも魅力の一つである」
以上のような指摘に沖田の見解を加えシヴァとスサノヲの対応を示
す以下のような表を作成した本稿ではこの表に基づいて両神の神話を
取り上げその類似について考えていく
キーワード比較神話インド神話日本神話シヴァスサノヲ
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1 破壊と生殖
シヴァ1-a 世界を破壊
ヒンドゥー教の三神一体説トリムールティにおいてブラフマーが世
界を創造しヴィシュヌがその世界を維持し最後にシヴァがその世界を
破壊するこの時シヴァは黒い姿をしているのでMaha-kaka a-la「大黒」と
いう名で呼ばれる
シヴァ1-b リンガ崇拝生殖の神
シヴァの象徴が男性の生殖器リンガであることはいうまでもない
スサノヲ1-c 高天原昇天岩屋籠り
スサノヲはイザナキの鼻から生まれてすぐに泣き喚いて世界を危機に
シヴァ スサノヲ1破壊と生殖 1-a 世界を破壊
1-bリンガ崇拝生殖の神
1-c 高天原昇天岩屋籠り1-d 生殖の神オホクニヌシの祖先
2〈教示する神〉 2-a インドラの欲望を戒める
2-bオホクニヌシに試練を与え祝福する
3悪魔退治と武器 3-a 三都の破壊3-bアルジュナに武器を与える
3-c ヤマタノヲロチ退治3-d 武器を発見アマテラスに献上
4荒ぶる神罰(宥め) 4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
5暴風神 5-a 前身ルドラは暴風神 5-b 暴風雨神6文化 6-a 踊り 6-b 歌7女性的なものとの一体化 7-a 妃たちとシャクティ 7-b 母姉娘への執着8イニシエーションを授ける
8-a アルジュナに 8-bオホクニヌシに
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
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さらす次に大騒動を引き起こしながら高天原に昇りその後アマテラ
スの岩屋籠りを引き起こすことで三重に世界を危機に陥れている
スサノヲが生まれた直後の様子は次のように記されている 1)
その泣く状さま
は青山は枯から
山やま
如な
す泣き枯らし河かは
海うみ
は悉ことごと
に泣き乾ほ
しき
ここをもちて悪しき神の音なひさ蠅ばえ
如な
す皆満ち万よろづ
の物の妖わざはひ
悉ことごと
に
発おこ
りき
スサノヲはイザナキに追放されると姉のアマテラスに会おうとして高
天原に昇っていくその様子は「山川悉ことごと
に動とよ
み国くに
土つち
皆震ゆ
りき」(『古事記』)
と語られており世界を危機にさらしながら昇天している
アマテラスがスサノヲの度の過ぎた悪戯に怒って岩屋に身を隠すと世
界は暗闇に閉ざされ異変が起こるその様子は以下のように記されて
いる
ここに高天原皆暗く葦原中国悉に闇くら
しこれによりて常とこ
夜やみ
往きき
ここに万の神の声おとなひ
はさ蠅なす満ち万の 妖わざはひ
悉に発おこ
りき
スサノヲ1-d 生殖の神オホクニヌシの祖先
『古事記』でスサノヲはオホクニヌシに至る系譜を開くオホクニヌシ
はスサノヲの六世の孫とされる『日本書紀』本文ではスサノヲの子とさ
れるスサノヲの系統を引くオホクニヌシは美しい容貌の生殖と生産の神
であるオホクニヌシはスサノヲのもとを訪れることで生産の力を手に
入れるそのことは古川のり子によって次のように述べられている 2)
戦士的機能の神の代表者としてのスサノヲは生産者的機能の神の
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代表者オホナムチにその役目を果たすのに必要だった戦士の力を与
えたしかしまた一方でそれまでは不毛な死の国(黄泉の国)とし
て存在していた根の国はオホナムチの来訪によって彼を「オホク
ニヌシ」に成長させ地上に生み出す働きをすることになったそのこ
とでオホナムチもまた彼に本来そなわっていた機能の力によって根
の国=イザナミの生産力を賦活させたのだといえようそしてそれに
よって生産力をより高くした豊かな大地がこのあとのオホクニヌシ
の国作りの基盤となるのである獲得した大刀と弓矢を振るってオホ
クニヌシは兄弟の神々を追い払い地上でのスサノヲの仕事の跡を引
き継いでいよいよ国作り―中つ国の秩序化の事業を開始すること
になる
1の類似
神話において破壊と生殖死と生は表裏一体のものとして表される
スサノヲは自らの行動によって世界を危機にさらしシヴァは時が来ると
世界を破壊する一方でシヴァは生殖の神でもありスサノヲは冥府の主
として豊穣神オホクニヌシにイニシエーションを課すこの時のスサノヲ
は冥府すなわち地下という豊穣の源である場所と一体化していると言
える
2〈教示する神〉
シヴァ2-a インドラの欲望を戒める〈教示する神〉
シヴァの〈教示する神〉としての役割はHツィンマーやJキャ
ンベルなどによって好んで取り上げられた「インドラの宮殿」(『ブラフマ
ヴァイヴァルタプラーナ』)とよばれる神話によく表れている
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
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悪竜ヴリトラを退治したインドラは自分の武勲にふさわしい立派
な宮殿を建てることにし神々の工匠ヴィシュヴァカルマンに宮殿
の造営を命じたヴィシュヴァカルマンは早速工事に取り掛かり壮
麗な宮殿を造り上げたがインドラの要求はどこまでも膨張します
ます立派な宮殿を建てるように望み続けた終りのない仕事にたま
りかねたヴィシュヴァカルマンはブラフマーのもとへ行き助けを
求めたするとブラフマーはヴィシュヌのもとへ赴いて助けを請う
た
翌朝インドラの宮殿に十歳ほどのたいへん美しい少年がやって
来た広間に招き入れて丁重にもてなしながら訪問の理由を訪ねる
と少年はほほ笑みながらこう言った
「神々の王よ私はあなたが造らせている御殿のことで質問したく
て参りましたこの建物が完成するまであと何年必要でヴィシュ
ヴァカルマンはどれだけの仕事をしなければならないのですかあな
たの前にはこれほど立派な御殿を建てさせた神々の王はいなかった
のに」
インドラは少年の姿をしたこの客人が自分の前にいた王たちの
ことを知っているような口をきくのを不思議に思ったその時彼
らが対話していた王宮の広間に無数の蟻が列を作って入ってきた
少年はそれを見て声をあげて笑ったがすぐにまた口をつぐんだイ
ンドラはこの少年の挙動に対して言葉にしがたい神秘を感じ「な
ぜ笑ったのですか私を欺くために少年の姿をしているあなたは一
体誰なのですか」と尋ねた
少年は「私が笑ったのは蟻を見たからですしかしなぜ笑った
のかその理由は聞かないでくださいなぜならそれは世にも恐ろ
しい秘密だからです」
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これを聞いて恐れにかられたインドラはへりくだってその秘密
を自分に教えてくれるように頼んだ少年は言った
「さっき見た蟻の行列の中の一匹一匹の蟻は全て前世で一度は
神々の王であった者たちなのですあなたと同様に彼らも一度は徳
高い性質のゆえに一度は神々の王位についていたのですですがそ
のあと多くの命を繰り返し生きるうちに皆蟻になったのです」
この言葉を聞いたインドラはそれまで輝かしい栄光に包まれてい
た自分が無にも等しいほど小さな存在になったかのように感じられ
た
その時広間に一人の異様な人物が入ってきたその人物の頭は
もつれた長い髪の毛で覆われ腰にカモシカの皮を巻き付け苦行者
の姿をしていて胸には円形の胸毛の茂みが生えていたその胸毛は
茂みの周辺部はすきまなく密集していたが中心部はすでに多くの毛
が抜け落ちてまばらになっていた不思議に思ったインドラの代わり
に少年が苦行者に素性を訪ねた苦行者は答えた
「私はインドラさまにお目にかかりに参った無名の苦行者です自
分の命のはかなく短いことを知って家も仕事も持たず結婚もせず
ただ施しだけに頼って暮らしております私の胸毛は大きな知恵を
教えてくれます胸毛の一本が抜けるごとに一人の神々の王の世が
終わりますすでに胸毛の半分はなくなりましたが残りが抜けると
創造神ブラフマーの命が終わり私も消滅しなければなりませんこ
んな短い生涯で妻や子や家を持つことがなんの役に立つでしょう
か一人のブラフマーに割り当てられている命の長さはヴィシュヌ
神のまばたきの間にすぎませんましてやブラフマー以下の神々も人
間も泡のように生まれては消えるだけなのです」
語り終えると苦行者は見えなくなったこの苦行者こそシヴァ
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
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神にほかならなかった同時に少年の姿も消えた彼こそがヴィシュ
ヌだったのだあとに残されたインドラからは宮殿をもっと立派に
したいという欲求はすっかり失われていたインドラはヴィシュ
ヴァカルマンを呼びこれまでの苦労の報酬として多くの贈り物を与
えて帰らせた
その後インドラは妃のシャチーと協力して神々の王の務めを立
派に果たすようになった 3)
スサノヲ2-b オホクニヌシに試練を与え祝福する〈教示する神〉
オホクニヌシが兄である八十神の迫害から逃れるため祖先のスサノ
ヲのいる根の国を訪れ迎えに出てきたスサノヲの娘スセリビメとその場
で結婚するとスサノヲはまずオホクニヌシを蛇の部屋に寝かせるオ
ホクニヌシはスセリビメからもらった比ひ
礼れ
を使って蛇を鎮める次の夜
はムカデと蜂の部屋に寝かされるが同じようにして無事に出てくる
次にスサノヲは鏑矢を野の中に射込んでその矢をオホクニヌシに取り
に行かせると野に火を放って焼いてしまうオホクニヌシは地面の下の
穴に入り込んで助かる最後の試練はスサノヲの髪の虱を取ることである
がオホクニヌシがスサノヲの頭を見るとムカデがたくさん群がってい
るオホクニヌシがスセリビメからもらった椋の実と赤土を使ってム
カデを喰いちぎって吐き出しているように見せかけるとスサノヲは安心
して眠ってしまうオホクニヌシはその間にスセリビメを背負いスサノ
ヲの宝である生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢天あめののりごと
詔琴を持って逃げ出す気づいたスサノ
ヲが追って来るがヨモツヒラサカまで来るとオホクニヌシにこう言っ
て祝福して地上に送り出す
その汝な
が持てる生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢をもちて汝な
が庶が庶がままあにおと
兄弟は坂の御み
尾を
に追ひ伏
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せまた河の瀬に追ひ撥はら
ひておれ大国主神となりまた宇うつしくにたまのかみ
都志国玉神
となりてその我あ
が女むすめ
須世理毘売を嫡むか
妻ひめ
として宇う
迦か
の山の山本に
底つ石いは
根ね
に宮みや
柱ばしら
ふとしり高たかまのはら
天原に氷ひ
椽き
たかしりて居を
れこの奴やっこ
2 の類似
シヴァもスサノヲもインドラやオホクニヌシの上位に立つ神として
戒め祝福などを行い〈教示〉の役割を共通して果たしている
3悪魔退治と武器
シヴァ3-a 三都の破壊
ブラーフマナ神話にルドラからシヴァへの過渡期を確認できる三都
破壊の話があるアスラたちは鉄銀金よりなる三つの城塞を持ってい
た神々はそれを攻略するため火神アグニを鏃とし神酒ソーマを穴と
しヴィシュヌを棹としてルドラが矢を放ち三都を破壊してアスラた
ちを駆逐した 4)
この話はヒンドゥー教においてシヴァによる三都破壊の神話に発展す
る 5)
アスラのターラカの三人の息子らは苦行によってブラフマー神よ
り恩寵を授かり三つの都市に住んで世界を支配するという願いを叶
えてもらったただし千年後に三つの都は一つになりその三都を一
矢で貫けるような神によって滅ぼされるということであった願いを
叶えられた三人のアスラは無敵となり世界中を苦しめた神々はシ
ヴァ神にすべての神々の半分の力を預けそこにシヴァ自身の強大
な力を加えてブラフマーを御者として戦車に乗りヴィシュヌと
ソーマとアグニによって作られた矢を持って悪魔の都へ向かったす
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
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ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
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4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
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スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
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6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
は じ め に
日本女子大学における2015年度前期のテストで英文科の青木奈々さん
が大変すぐれた答案を提出した本人の了解を得て名前と答案の全文
を引用する
「インド神話について学んだことを述べなさい」という設問に対して
「数ある神話の中でも特に興味深いのがシヴァの神話についてだ彼
は破壊の神である一方生殖の神として民衆の間で広く信仰されてお
り大きな役割を果たしている欲望が止むことのないインドラを戒
めたり神々を困らせる悪魔の退治に不可欠な人物であったり英雄
のように描かれているしかしそんな彼も怒りに任せて暴れ回り
神々から罰を受けたり宥められたりしているここに日本のスサ
ノヲが連想された彼もヤマタノオロチを倒して村娘を救い出すとい
う英雄ぶりを見せているにも関わらず太陽の女神アマテラスを引き
こもりに追いやる事件を起こしているこの共通点から人々は完璧で
はない少し人間味のある姿を神に求めていたのだと考えられるまた
単一の特徴を持ち合わせているのではなく対照的な面を持ち合わせ
ているというのも魅力の一つである」
以上のような指摘に沖田の見解を加えシヴァとスサノヲの対応を示
す以下のような表を作成した本稿ではこの表に基づいて両神の神話を
取り上げその類似について考えていく
キーワード比較神話インド神話日本神話シヴァスサノヲ
― 110 ―
1 破壊と生殖
シヴァ1-a 世界を破壊
ヒンドゥー教の三神一体説トリムールティにおいてブラフマーが世
界を創造しヴィシュヌがその世界を維持し最後にシヴァがその世界を
破壊するこの時シヴァは黒い姿をしているのでMaha-kaka a-la「大黒」と
いう名で呼ばれる
シヴァ1-b リンガ崇拝生殖の神
シヴァの象徴が男性の生殖器リンガであることはいうまでもない
スサノヲ1-c 高天原昇天岩屋籠り
スサノヲはイザナキの鼻から生まれてすぐに泣き喚いて世界を危機に
シヴァ スサノヲ1破壊と生殖 1-a 世界を破壊
1-bリンガ崇拝生殖の神
1-c 高天原昇天岩屋籠り1-d 生殖の神オホクニヌシの祖先
2〈教示する神〉 2-a インドラの欲望を戒める
2-bオホクニヌシに試練を与え祝福する
3悪魔退治と武器 3-a 三都の破壊3-bアルジュナに武器を与える
3-c ヤマタノヲロチ退治3-d 武器を発見アマテラスに献上
4荒ぶる神罰(宥め) 4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
5暴風神 5-a 前身ルドラは暴風神 5-b 暴風雨神6文化 6-a 踊り 6-b 歌7女性的なものとの一体化 7-a 妃たちとシャクティ 7-b 母姉娘への執着8イニシエーションを授ける
8-a アルジュナに 8-bオホクニヌシに
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 111 ―
さらす次に大騒動を引き起こしながら高天原に昇りその後アマテラ
スの岩屋籠りを引き起こすことで三重に世界を危機に陥れている
スサノヲが生まれた直後の様子は次のように記されている 1)
その泣く状さま
は青山は枯から
山やま
如な
す泣き枯らし河かは
海うみ
は悉ことごと
に泣き乾ほ
しき
ここをもちて悪しき神の音なひさ蠅ばえ
如な
す皆満ち万よろづ
の物の妖わざはひ
悉ことごと
に
発おこ
りき
スサノヲはイザナキに追放されると姉のアマテラスに会おうとして高
天原に昇っていくその様子は「山川悉ことごと
に動とよ
み国くに
土つち
皆震ゆ
りき」(『古事記』)
と語られており世界を危機にさらしながら昇天している
アマテラスがスサノヲの度の過ぎた悪戯に怒って岩屋に身を隠すと世
界は暗闇に閉ざされ異変が起こるその様子は以下のように記されて
いる
ここに高天原皆暗く葦原中国悉に闇くら
しこれによりて常とこ
夜やみ
往きき
ここに万の神の声おとなひ
はさ蠅なす満ち万の 妖わざはひ
悉に発おこ
りき
スサノヲ1-d 生殖の神オホクニヌシの祖先
『古事記』でスサノヲはオホクニヌシに至る系譜を開くオホクニヌシ
はスサノヲの六世の孫とされる『日本書紀』本文ではスサノヲの子とさ
れるスサノヲの系統を引くオホクニヌシは美しい容貌の生殖と生産の神
であるオホクニヌシはスサノヲのもとを訪れることで生産の力を手に
入れるそのことは古川のり子によって次のように述べられている 2)
戦士的機能の神の代表者としてのスサノヲは生産者的機能の神の
― 112 ―
代表者オホナムチにその役目を果たすのに必要だった戦士の力を与
えたしかしまた一方でそれまでは不毛な死の国(黄泉の国)とし
て存在していた根の国はオホナムチの来訪によって彼を「オホク
ニヌシ」に成長させ地上に生み出す働きをすることになったそのこ
とでオホナムチもまた彼に本来そなわっていた機能の力によって根
の国=イザナミの生産力を賦活させたのだといえようそしてそれに
よって生産力をより高くした豊かな大地がこのあとのオホクニヌシ
の国作りの基盤となるのである獲得した大刀と弓矢を振るってオホ
クニヌシは兄弟の神々を追い払い地上でのスサノヲの仕事の跡を引
き継いでいよいよ国作り―中つ国の秩序化の事業を開始すること
になる
1の類似
神話において破壊と生殖死と生は表裏一体のものとして表される
スサノヲは自らの行動によって世界を危機にさらしシヴァは時が来ると
世界を破壊する一方でシヴァは生殖の神でもありスサノヲは冥府の主
として豊穣神オホクニヌシにイニシエーションを課すこの時のスサノヲ
は冥府すなわち地下という豊穣の源である場所と一体化していると言
える
2〈教示する神〉
シヴァ2-a インドラの欲望を戒める〈教示する神〉
シヴァの〈教示する神〉としての役割はHツィンマーやJキャ
ンベルなどによって好んで取り上げられた「インドラの宮殿」(『ブラフマ
ヴァイヴァルタプラーナ』)とよばれる神話によく表れている
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 113 ―
悪竜ヴリトラを退治したインドラは自分の武勲にふさわしい立派
な宮殿を建てることにし神々の工匠ヴィシュヴァカルマンに宮殿
の造営を命じたヴィシュヴァカルマンは早速工事に取り掛かり壮
麗な宮殿を造り上げたがインドラの要求はどこまでも膨張します
ます立派な宮殿を建てるように望み続けた終りのない仕事にたま
りかねたヴィシュヴァカルマンはブラフマーのもとへ行き助けを
求めたするとブラフマーはヴィシュヌのもとへ赴いて助けを請う
た
翌朝インドラの宮殿に十歳ほどのたいへん美しい少年がやって
来た広間に招き入れて丁重にもてなしながら訪問の理由を訪ねる
と少年はほほ笑みながらこう言った
「神々の王よ私はあなたが造らせている御殿のことで質問したく
て参りましたこの建物が完成するまであと何年必要でヴィシュ
ヴァカルマンはどれだけの仕事をしなければならないのですかあな
たの前にはこれほど立派な御殿を建てさせた神々の王はいなかった
のに」
インドラは少年の姿をしたこの客人が自分の前にいた王たちの
ことを知っているような口をきくのを不思議に思ったその時彼
らが対話していた王宮の広間に無数の蟻が列を作って入ってきた
少年はそれを見て声をあげて笑ったがすぐにまた口をつぐんだイ
ンドラはこの少年の挙動に対して言葉にしがたい神秘を感じ「な
ぜ笑ったのですか私を欺くために少年の姿をしているあなたは一
体誰なのですか」と尋ねた
少年は「私が笑ったのは蟻を見たからですしかしなぜ笑った
のかその理由は聞かないでくださいなぜならそれは世にも恐ろ
しい秘密だからです」
― 114 ―
これを聞いて恐れにかられたインドラはへりくだってその秘密
を自分に教えてくれるように頼んだ少年は言った
「さっき見た蟻の行列の中の一匹一匹の蟻は全て前世で一度は
神々の王であった者たちなのですあなたと同様に彼らも一度は徳
高い性質のゆえに一度は神々の王位についていたのですですがそ
のあと多くの命を繰り返し生きるうちに皆蟻になったのです」
この言葉を聞いたインドラはそれまで輝かしい栄光に包まれてい
た自分が無にも等しいほど小さな存在になったかのように感じられ
た
その時広間に一人の異様な人物が入ってきたその人物の頭は
もつれた長い髪の毛で覆われ腰にカモシカの皮を巻き付け苦行者
の姿をしていて胸には円形の胸毛の茂みが生えていたその胸毛は
茂みの周辺部はすきまなく密集していたが中心部はすでに多くの毛
が抜け落ちてまばらになっていた不思議に思ったインドラの代わり
に少年が苦行者に素性を訪ねた苦行者は答えた
「私はインドラさまにお目にかかりに参った無名の苦行者です自
分の命のはかなく短いことを知って家も仕事も持たず結婚もせず
ただ施しだけに頼って暮らしております私の胸毛は大きな知恵を
教えてくれます胸毛の一本が抜けるごとに一人の神々の王の世が
終わりますすでに胸毛の半分はなくなりましたが残りが抜けると
創造神ブラフマーの命が終わり私も消滅しなければなりませんこ
んな短い生涯で妻や子や家を持つことがなんの役に立つでしょう
か一人のブラフマーに割り当てられている命の長さはヴィシュヌ
神のまばたきの間にすぎませんましてやブラフマー以下の神々も人
間も泡のように生まれては消えるだけなのです」
語り終えると苦行者は見えなくなったこの苦行者こそシヴァ
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 115 ―
神にほかならなかった同時に少年の姿も消えた彼こそがヴィシュ
ヌだったのだあとに残されたインドラからは宮殿をもっと立派に
したいという欲求はすっかり失われていたインドラはヴィシュ
ヴァカルマンを呼びこれまでの苦労の報酬として多くの贈り物を与
えて帰らせた
その後インドラは妃のシャチーと協力して神々の王の務めを立
派に果たすようになった 3)
スサノヲ2-b オホクニヌシに試練を与え祝福する〈教示する神〉
オホクニヌシが兄である八十神の迫害から逃れるため祖先のスサノ
ヲのいる根の国を訪れ迎えに出てきたスサノヲの娘スセリビメとその場
で結婚するとスサノヲはまずオホクニヌシを蛇の部屋に寝かせるオ
ホクニヌシはスセリビメからもらった比ひ
礼れ
を使って蛇を鎮める次の夜
はムカデと蜂の部屋に寝かされるが同じようにして無事に出てくる
次にスサノヲは鏑矢を野の中に射込んでその矢をオホクニヌシに取り
に行かせると野に火を放って焼いてしまうオホクニヌシは地面の下の
穴に入り込んで助かる最後の試練はスサノヲの髪の虱を取ることである
がオホクニヌシがスサノヲの頭を見るとムカデがたくさん群がってい
るオホクニヌシがスセリビメからもらった椋の実と赤土を使ってム
カデを喰いちぎって吐き出しているように見せかけるとスサノヲは安心
して眠ってしまうオホクニヌシはその間にスセリビメを背負いスサノ
ヲの宝である生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢天あめののりごと
詔琴を持って逃げ出す気づいたスサノ
ヲが追って来るがヨモツヒラサカまで来るとオホクニヌシにこう言っ
て祝福して地上に送り出す
その汝な
が持てる生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢をもちて汝な
が庶が庶がままあにおと
兄弟は坂の御み
尾を
に追ひ伏
― 116 ―
せまた河の瀬に追ひ撥はら
ひておれ大国主神となりまた宇うつしくにたまのかみ
都志国玉神
となりてその我あ
が女むすめ
須世理毘売を嫡むか
妻ひめ
として宇う
迦か
の山の山本に
底つ石いは
根ね
に宮みや
柱ばしら
ふとしり高たかまのはら
天原に氷ひ
椽き
たかしりて居を
れこの奴やっこ
2 の類似
シヴァもスサノヲもインドラやオホクニヌシの上位に立つ神として
戒め祝福などを行い〈教示〉の役割を共通して果たしている
3悪魔退治と武器
シヴァ3-a 三都の破壊
ブラーフマナ神話にルドラからシヴァへの過渡期を確認できる三都
破壊の話があるアスラたちは鉄銀金よりなる三つの城塞を持ってい
た神々はそれを攻略するため火神アグニを鏃とし神酒ソーマを穴と
しヴィシュヌを棹としてルドラが矢を放ち三都を破壊してアスラた
ちを駆逐した 4)
この話はヒンドゥー教においてシヴァによる三都破壊の神話に発展す
る 5)
アスラのターラカの三人の息子らは苦行によってブラフマー神よ
り恩寵を授かり三つの都市に住んで世界を支配するという願いを叶
えてもらったただし千年後に三つの都は一つになりその三都を一
矢で貫けるような神によって滅ぼされるということであった願いを
叶えられた三人のアスラは無敵となり世界中を苦しめた神々はシ
ヴァ神にすべての神々の半分の力を預けそこにシヴァ自身の強大
な力を加えてブラフマーを御者として戦車に乗りヴィシュヌと
ソーマとアグニによって作られた矢を持って悪魔の都へ向かったす
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 117 ―
ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
― 118 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
1 破壊と生殖
シヴァ1-a 世界を破壊
ヒンドゥー教の三神一体説トリムールティにおいてブラフマーが世
界を創造しヴィシュヌがその世界を維持し最後にシヴァがその世界を
破壊するこの時シヴァは黒い姿をしているのでMaha-kaka a-la「大黒」と
いう名で呼ばれる
シヴァ1-b リンガ崇拝生殖の神
シヴァの象徴が男性の生殖器リンガであることはいうまでもない
スサノヲ1-c 高天原昇天岩屋籠り
スサノヲはイザナキの鼻から生まれてすぐに泣き喚いて世界を危機に
シヴァ スサノヲ1破壊と生殖 1-a 世界を破壊
1-bリンガ崇拝生殖の神
1-c 高天原昇天岩屋籠り1-d 生殖の神オホクニヌシの祖先
2〈教示する神〉 2-a インドラの欲望を戒める
2-bオホクニヌシに試練を与え祝福する
3悪魔退治と武器 3-a 三都の破壊3-bアルジュナに武器を与える
3-c ヤマタノヲロチ退治3-d 武器を発見アマテラスに献上
4荒ぶる神罰(宥め) 4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
5暴風神 5-a 前身ルドラは暴風神 5-b 暴風雨神6文化 6-a 踊り 6-b 歌7女性的なものとの一体化 7-a 妃たちとシャクティ 7-b 母姉娘への執着8イニシエーションを授ける
8-a アルジュナに 8-bオホクニヌシに
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 111 ―
さらす次に大騒動を引き起こしながら高天原に昇りその後アマテラ
スの岩屋籠りを引き起こすことで三重に世界を危機に陥れている
スサノヲが生まれた直後の様子は次のように記されている 1)
その泣く状さま
は青山は枯から
山やま
如な
す泣き枯らし河かは
海うみ
は悉ことごと
に泣き乾ほ
しき
ここをもちて悪しき神の音なひさ蠅ばえ
如な
す皆満ち万よろづ
の物の妖わざはひ
悉ことごと
に
発おこ
りき
スサノヲはイザナキに追放されると姉のアマテラスに会おうとして高
天原に昇っていくその様子は「山川悉ことごと
に動とよ
み国くに
土つち
皆震ゆ
りき」(『古事記』)
と語られており世界を危機にさらしながら昇天している
アマテラスがスサノヲの度の過ぎた悪戯に怒って岩屋に身を隠すと世
界は暗闇に閉ざされ異変が起こるその様子は以下のように記されて
いる
ここに高天原皆暗く葦原中国悉に闇くら
しこれによりて常とこ
夜やみ
往きき
ここに万の神の声おとなひ
はさ蠅なす満ち万の 妖わざはひ
悉に発おこ
りき
スサノヲ1-d 生殖の神オホクニヌシの祖先
『古事記』でスサノヲはオホクニヌシに至る系譜を開くオホクニヌシ
はスサノヲの六世の孫とされる『日本書紀』本文ではスサノヲの子とさ
れるスサノヲの系統を引くオホクニヌシは美しい容貌の生殖と生産の神
であるオホクニヌシはスサノヲのもとを訪れることで生産の力を手に
入れるそのことは古川のり子によって次のように述べられている 2)
戦士的機能の神の代表者としてのスサノヲは生産者的機能の神の
― 112 ―
代表者オホナムチにその役目を果たすのに必要だった戦士の力を与
えたしかしまた一方でそれまでは不毛な死の国(黄泉の国)とし
て存在していた根の国はオホナムチの来訪によって彼を「オホク
ニヌシ」に成長させ地上に生み出す働きをすることになったそのこ
とでオホナムチもまた彼に本来そなわっていた機能の力によって根
の国=イザナミの生産力を賦活させたのだといえようそしてそれに
よって生産力をより高くした豊かな大地がこのあとのオホクニヌシ
の国作りの基盤となるのである獲得した大刀と弓矢を振るってオホ
クニヌシは兄弟の神々を追い払い地上でのスサノヲの仕事の跡を引
き継いでいよいよ国作り―中つ国の秩序化の事業を開始すること
になる
1の類似
神話において破壊と生殖死と生は表裏一体のものとして表される
スサノヲは自らの行動によって世界を危機にさらしシヴァは時が来ると
世界を破壊する一方でシヴァは生殖の神でもありスサノヲは冥府の主
として豊穣神オホクニヌシにイニシエーションを課すこの時のスサノヲ
は冥府すなわち地下という豊穣の源である場所と一体化していると言
える
2〈教示する神〉
シヴァ2-a インドラの欲望を戒める〈教示する神〉
シヴァの〈教示する神〉としての役割はHツィンマーやJキャ
ンベルなどによって好んで取り上げられた「インドラの宮殿」(『ブラフマ
ヴァイヴァルタプラーナ』)とよばれる神話によく表れている
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 113 ―
悪竜ヴリトラを退治したインドラは自分の武勲にふさわしい立派
な宮殿を建てることにし神々の工匠ヴィシュヴァカルマンに宮殿
の造営を命じたヴィシュヴァカルマンは早速工事に取り掛かり壮
麗な宮殿を造り上げたがインドラの要求はどこまでも膨張します
ます立派な宮殿を建てるように望み続けた終りのない仕事にたま
りかねたヴィシュヴァカルマンはブラフマーのもとへ行き助けを
求めたするとブラフマーはヴィシュヌのもとへ赴いて助けを請う
た
翌朝インドラの宮殿に十歳ほどのたいへん美しい少年がやって
来た広間に招き入れて丁重にもてなしながら訪問の理由を訪ねる
と少年はほほ笑みながらこう言った
「神々の王よ私はあなたが造らせている御殿のことで質問したく
て参りましたこの建物が完成するまであと何年必要でヴィシュ
ヴァカルマンはどれだけの仕事をしなければならないのですかあな
たの前にはこれほど立派な御殿を建てさせた神々の王はいなかった
のに」
インドラは少年の姿をしたこの客人が自分の前にいた王たちの
ことを知っているような口をきくのを不思議に思ったその時彼
らが対話していた王宮の広間に無数の蟻が列を作って入ってきた
少年はそれを見て声をあげて笑ったがすぐにまた口をつぐんだイ
ンドラはこの少年の挙動に対して言葉にしがたい神秘を感じ「な
ぜ笑ったのですか私を欺くために少年の姿をしているあなたは一
体誰なのですか」と尋ねた
少年は「私が笑ったのは蟻を見たからですしかしなぜ笑った
のかその理由は聞かないでくださいなぜならそれは世にも恐ろ
しい秘密だからです」
― 114 ―
これを聞いて恐れにかられたインドラはへりくだってその秘密
を自分に教えてくれるように頼んだ少年は言った
「さっき見た蟻の行列の中の一匹一匹の蟻は全て前世で一度は
神々の王であった者たちなのですあなたと同様に彼らも一度は徳
高い性質のゆえに一度は神々の王位についていたのですですがそ
のあと多くの命を繰り返し生きるうちに皆蟻になったのです」
この言葉を聞いたインドラはそれまで輝かしい栄光に包まれてい
た自分が無にも等しいほど小さな存在になったかのように感じられ
た
その時広間に一人の異様な人物が入ってきたその人物の頭は
もつれた長い髪の毛で覆われ腰にカモシカの皮を巻き付け苦行者
の姿をしていて胸には円形の胸毛の茂みが生えていたその胸毛は
茂みの周辺部はすきまなく密集していたが中心部はすでに多くの毛
が抜け落ちてまばらになっていた不思議に思ったインドラの代わり
に少年が苦行者に素性を訪ねた苦行者は答えた
「私はインドラさまにお目にかかりに参った無名の苦行者です自
分の命のはかなく短いことを知って家も仕事も持たず結婚もせず
ただ施しだけに頼って暮らしております私の胸毛は大きな知恵を
教えてくれます胸毛の一本が抜けるごとに一人の神々の王の世が
終わりますすでに胸毛の半分はなくなりましたが残りが抜けると
創造神ブラフマーの命が終わり私も消滅しなければなりませんこ
んな短い生涯で妻や子や家を持つことがなんの役に立つでしょう
か一人のブラフマーに割り当てられている命の長さはヴィシュヌ
神のまばたきの間にすぎませんましてやブラフマー以下の神々も人
間も泡のように生まれては消えるだけなのです」
語り終えると苦行者は見えなくなったこの苦行者こそシヴァ
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 115 ―
神にほかならなかった同時に少年の姿も消えた彼こそがヴィシュ
ヌだったのだあとに残されたインドラからは宮殿をもっと立派に
したいという欲求はすっかり失われていたインドラはヴィシュ
ヴァカルマンを呼びこれまでの苦労の報酬として多くの贈り物を与
えて帰らせた
その後インドラは妃のシャチーと協力して神々の王の務めを立
派に果たすようになった 3)
スサノヲ2-b オホクニヌシに試練を与え祝福する〈教示する神〉
オホクニヌシが兄である八十神の迫害から逃れるため祖先のスサノ
ヲのいる根の国を訪れ迎えに出てきたスサノヲの娘スセリビメとその場
で結婚するとスサノヲはまずオホクニヌシを蛇の部屋に寝かせるオ
ホクニヌシはスセリビメからもらった比ひ
礼れ
を使って蛇を鎮める次の夜
はムカデと蜂の部屋に寝かされるが同じようにして無事に出てくる
次にスサノヲは鏑矢を野の中に射込んでその矢をオホクニヌシに取り
に行かせると野に火を放って焼いてしまうオホクニヌシは地面の下の
穴に入り込んで助かる最後の試練はスサノヲの髪の虱を取ることである
がオホクニヌシがスサノヲの頭を見るとムカデがたくさん群がってい
るオホクニヌシがスセリビメからもらった椋の実と赤土を使ってム
カデを喰いちぎって吐き出しているように見せかけるとスサノヲは安心
して眠ってしまうオホクニヌシはその間にスセリビメを背負いスサノ
ヲの宝である生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢天あめののりごと
詔琴を持って逃げ出す気づいたスサノ
ヲが追って来るがヨモツヒラサカまで来るとオホクニヌシにこう言っ
て祝福して地上に送り出す
その汝な
が持てる生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢をもちて汝な
が庶が庶がままあにおと
兄弟は坂の御み
尾を
に追ひ伏
― 116 ―
せまた河の瀬に追ひ撥はら
ひておれ大国主神となりまた宇うつしくにたまのかみ
都志国玉神
となりてその我あ
が女むすめ
須世理毘売を嫡むか
妻ひめ
として宇う
迦か
の山の山本に
底つ石いは
根ね
に宮みや
柱ばしら
ふとしり高たかまのはら
天原に氷ひ
椽き
たかしりて居を
れこの奴やっこ
2 の類似
シヴァもスサノヲもインドラやオホクニヌシの上位に立つ神として
戒め祝福などを行い〈教示〉の役割を共通して果たしている
3悪魔退治と武器
シヴァ3-a 三都の破壊
ブラーフマナ神話にルドラからシヴァへの過渡期を確認できる三都
破壊の話があるアスラたちは鉄銀金よりなる三つの城塞を持ってい
た神々はそれを攻略するため火神アグニを鏃とし神酒ソーマを穴と
しヴィシュヌを棹としてルドラが矢を放ち三都を破壊してアスラた
ちを駆逐した 4)
この話はヒンドゥー教においてシヴァによる三都破壊の神話に発展す
る 5)
アスラのターラカの三人の息子らは苦行によってブラフマー神よ
り恩寵を授かり三つの都市に住んで世界を支配するという願いを叶
えてもらったただし千年後に三つの都は一つになりその三都を一
矢で貫けるような神によって滅ぼされるということであった願いを
叶えられた三人のアスラは無敵となり世界中を苦しめた神々はシ
ヴァ神にすべての神々の半分の力を預けそこにシヴァ自身の強大
な力を加えてブラフマーを御者として戦車に乗りヴィシュヌと
ソーマとアグニによって作られた矢を持って悪魔の都へ向かったす
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 117 ―
ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
― 118 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
さらす次に大騒動を引き起こしながら高天原に昇りその後アマテラ
スの岩屋籠りを引き起こすことで三重に世界を危機に陥れている
スサノヲが生まれた直後の様子は次のように記されている 1)
その泣く状さま
は青山は枯から
山やま
如な
す泣き枯らし河かは
海うみ
は悉ことごと
に泣き乾ほ
しき
ここをもちて悪しき神の音なひさ蠅ばえ
如な
す皆満ち万よろづ
の物の妖わざはひ
悉ことごと
に
発おこ
りき
スサノヲはイザナキに追放されると姉のアマテラスに会おうとして高
天原に昇っていくその様子は「山川悉ことごと
に動とよ
み国くに
土つち
皆震ゆ
りき」(『古事記』)
と語られており世界を危機にさらしながら昇天している
アマテラスがスサノヲの度の過ぎた悪戯に怒って岩屋に身を隠すと世
界は暗闇に閉ざされ異変が起こるその様子は以下のように記されて
いる
ここに高天原皆暗く葦原中国悉に闇くら
しこれによりて常とこ
夜やみ
往きき
ここに万の神の声おとなひ
はさ蠅なす満ち万の 妖わざはひ
悉に発おこ
りき
スサノヲ1-d 生殖の神オホクニヌシの祖先
『古事記』でスサノヲはオホクニヌシに至る系譜を開くオホクニヌシ
はスサノヲの六世の孫とされる『日本書紀』本文ではスサノヲの子とさ
れるスサノヲの系統を引くオホクニヌシは美しい容貌の生殖と生産の神
であるオホクニヌシはスサノヲのもとを訪れることで生産の力を手に
入れるそのことは古川のり子によって次のように述べられている 2)
戦士的機能の神の代表者としてのスサノヲは生産者的機能の神の
― 112 ―
代表者オホナムチにその役目を果たすのに必要だった戦士の力を与
えたしかしまた一方でそれまでは不毛な死の国(黄泉の国)とし
て存在していた根の国はオホナムチの来訪によって彼を「オホク
ニヌシ」に成長させ地上に生み出す働きをすることになったそのこ
とでオホナムチもまた彼に本来そなわっていた機能の力によって根
の国=イザナミの生産力を賦活させたのだといえようそしてそれに
よって生産力をより高くした豊かな大地がこのあとのオホクニヌシ
の国作りの基盤となるのである獲得した大刀と弓矢を振るってオホ
クニヌシは兄弟の神々を追い払い地上でのスサノヲの仕事の跡を引
き継いでいよいよ国作り―中つ国の秩序化の事業を開始すること
になる
1の類似
神話において破壊と生殖死と生は表裏一体のものとして表される
スサノヲは自らの行動によって世界を危機にさらしシヴァは時が来ると
世界を破壊する一方でシヴァは生殖の神でもありスサノヲは冥府の主
として豊穣神オホクニヌシにイニシエーションを課すこの時のスサノヲ
は冥府すなわち地下という豊穣の源である場所と一体化していると言
える
2〈教示する神〉
シヴァ2-a インドラの欲望を戒める〈教示する神〉
シヴァの〈教示する神〉としての役割はHツィンマーやJキャ
ンベルなどによって好んで取り上げられた「インドラの宮殿」(『ブラフマ
ヴァイヴァルタプラーナ』)とよばれる神話によく表れている
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 113 ―
悪竜ヴリトラを退治したインドラは自分の武勲にふさわしい立派
な宮殿を建てることにし神々の工匠ヴィシュヴァカルマンに宮殿
の造営を命じたヴィシュヴァカルマンは早速工事に取り掛かり壮
麗な宮殿を造り上げたがインドラの要求はどこまでも膨張します
ます立派な宮殿を建てるように望み続けた終りのない仕事にたま
りかねたヴィシュヴァカルマンはブラフマーのもとへ行き助けを
求めたするとブラフマーはヴィシュヌのもとへ赴いて助けを請う
た
翌朝インドラの宮殿に十歳ほどのたいへん美しい少年がやって
来た広間に招き入れて丁重にもてなしながら訪問の理由を訪ねる
と少年はほほ笑みながらこう言った
「神々の王よ私はあなたが造らせている御殿のことで質問したく
て参りましたこの建物が完成するまであと何年必要でヴィシュ
ヴァカルマンはどれだけの仕事をしなければならないのですかあな
たの前にはこれほど立派な御殿を建てさせた神々の王はいなかった
のに」
インドラは少年の姿をしたこの客人が自分の前にいた王たちの
ことを知っているような口をきくのを不思議に思ったその時彼
らが対話していた王宮の広間に無数の蟻が列を作って入ってきた
少年はそれを見て声をあげて笑ったがすぐにまた口をつぐんだイ
ンドラはこの少年の挙動に対して言葉にしがたい神秘を感じ「な
ぜ笑ったのですか私を欺くために少年の姿をしているあなたは一
体誰なのですか」と尋ねた
少年は「私が笑ったのは蟻を見たからですしかしなぜ笑った
のかその理由は聞かないでくださいなぜならそれは世にも恐ろ
しい秘密だからです」
― 114 ―
これを聞いて恐れにかられたインドラはへりくだってその秘密
を自分に教えてくれるように頼んだ少年は言った
「さっき見た蟻の行列の中の一匹一匹の蟻は全て前世で一度は
神々の王であった者たちなのですあなたと同様に彼らも一度は徳
高い性質のゆえに一度は神々の王位についていたのですですがそ
のあと多くの命を繰り返し生きるうちに皆蟻になったのです」
この言葉を聞いたインドラはそれまで輝かしい栄光に包まれてい
た自分が無にも等しいほど小さな存在になったかのように感じられ
た
その時広間に一人の異様な人物が入ってきたその人物の頭は
もつれた長い髪の毛で覆われ腰にカモシカの皮を巻き付け苦行者
の姿をしていて胸には円形の胸毛の茂みが生えていたその胸毛は
茂みの周辺部はすきまなく密集していたが中心部はすでに多くの毛
が抜け落ちてまばらになっていた不思議に思ったインドラの代わり
に少年が苦行者に素性を訪ねた苦行者は答えた
「私はインドラさまにお目にかかりに参った無名の苦行者です自
分の命のはかなく短いことを知って家も仕事も持たず結婚もせず
ただ施しだけに頼って暮らしております私の胸毛は大きな知恵を
教えてくれます胸毛の一本が抜けるごとに一人の神々の王の世が
終わりますすでに胸毛の半分はなくなりましたが残りが抜けると
創造神ブラフマーの命が終わり私も消滅しなければなりませんこ
んな短い生涯で妻や子や家を持つことがなんの役に立つでしょう
か一人のブラフマーに割り当てられている命の長さはヴィシュヌ
神のまばたきの間にすぎませんましてやブラフマー以下の神々も人
間も泡のように生まれては消えるだけなのです」
語り終えると苦行者は見えなくなったこの苦行者こそシヴァ
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 115 ―
神にほかならなかった同時に少年の姿も消えた彼こそがヴィシュ
ヌだったのだあとに残されたインドラからは宮殿をもっと立派に
したいという欲求はすっかり失われていたインドラはヴィシュ
ヴァカルマンを呼びこれまでの苦労の報酬として多くの贈り物を与
えて帰らせた
その後インドラは妃のシャチーと協力して神々の王の務めを立
派に果たすようになった 3)
スサノヲ2-b オホクニヌシに試練を与え祝福する〈教示する神〉
オホクニヌシが兄である八十神の迫害から逃れるため祖先のスサノ
ヲのいる根の国を訪れ迎えに出てきたスサノヲの娘スセリビメとその場
で結婚するとスサノヲはまずオホクニヌシを蛇の部屋に寝かせるオ
ホクニヌシはスセリビメからもらった比ひ
礼れ
を使って蛇を鎮める次の夜
はムカデと蜂の部屋に寝かされるが同じようにして無事に出てくる
次にスサノヲは鏑矢を野の中に射込んでその矢をオホクニヌシに取り
に行かせると野に火を放って焼いてしまうオホクニヌシは地面の下の
穴に入り込んで助かる最後の試練はスサノヲの髪の虱を取ることである
がオホクニヌシがスサノヲの頭を見るとムカデがたくさん群がってい
るオホクニヌシがスセリビメからもらった椋の実と赤土を使ってム
カデを喰いちぎって吐き出しているように見せかけるとスサノヲは安心
して眠ってしまうオホクニヌシはその間にスセリビメを背負いスサノ
ヲの宝である生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢天あめののりごと
詔琴を持って逃げ出す気づいたスサノ
ヲが追って来るがヨモツヒラサカまで来るとオホクニヌシにこう言っ
て祝福して地上に送り出す
その汝な
が持てる生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢をもちて汝な
が庶が庶がままあにおと
兄弟は坂の御み
尾を
に追ひ伏
― 116 ―
せまた河の瀬に追ひ撥はら
ひておれ大国主神となりまた宇うつしくにたまのかみ
都志国玉神
となりてその我あ
が女むすめ
須世理毘売を嫡むか
妻ひめ
として宇う
迦か
の山の山本に
底つ石いは
根ね
に宮みや
柱ばしら
ふとしり高たかまのはら
天原に氷ひ
椽き
たかしりて居を
れこの奴やっこ
2 の類似
シヴァもスサノヲもインドラやオホクニヌシの上位に立つ神として
戒め祝福などを行い〈教示〉の役割を共通して果たしている
3悪魔退治と武器
シヴァ3-a 三都の破壊
ブラーフマナ神話にルドラからシヴァへの過渡期を確認できる三都
破壊の話があるアスラたちは鉄銀金よりなる三つの城塞を持ってい
た神々はそれを攻略するため火神アグニを鏃とし神酒ソーマを穴と
しヴィシュヌを棹としてルドラが矢を放ち三都を破壊してアスラた
ちを駆逐した 4)
この話はヒンドゥー教においてシヴァによる三都破壊の神話に発展す
る 5)
アスラのターラカの三人の息子らは苦行によってブラフマー神よ
り恩寵を授かり三つの都市に住んで世界を支配するという願いを叶
えてもらったただし千年後に三つの都は一つになりその三都を一
矢で貫けるような神によって滅ぼされるということであった願いを
叶えられた三人のアスラは無敵となり世界中を苦しめた神々はシ
ヴァ神にすべての神々の半分の力を預けそこにシヴァ自身の強大
な力を加えてブラフマーを御者として戦車に乗りヴィシュヌと
ソーマとアグニによって作られた矢を持って悪魔の都へ向かったす
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 117 ―
ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
― 118 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
代表者オホナムチにその役目を果たすのに必要だった戦士の力を与
えたしかしまた一方でそれまでは不毛な死の国(黄泉の国)とし
て存在していた根の国はオホナムチの来訪によって彼を「オホク
ニヌシ」に成長させ地上に生み出す働きをすることになったそのこ
とでオホナムチもまた彼に本来そなわっていた機能の力によって根
の国=イザナミの生産力を賦活させたのだといえようそしてそれに
よって生産力をより高くした豊かな大地がこのあとのオホクニヌシ
の国作りの基盤となるのである獲得した大刀と弓矢を振るってオホ
クニヌシは兄弟の神々を追い払い地上でのスサノヲの仕事の跡を引
き継いでいよいよ国作り―中つ国の秩序化の事業を開始すること
になる
1の類似
神話において破壊と生殖死と生は表裏一体のものとして表される
スサノヲは自らの行動によって世界を危機にさらしシヴァは時が来ると
世界を破壊する一方でシヴァは生殖の神でもありスサノヲは冥府の主
として豊穣神オホクニヌシにイニシエーションを課すこの時のスサノヲ
は冥府すなわち地下という豊穣の源である場所と一体化していると言
える
2〈教示する神〉
シヴァ2-a インドラの欲望を戒める〈教示する神〉
シヴァの〈教示する神〉としての役割はHツィンマーやJキャ
ンベルなどによって好んで取り上げられた「インドラの宮殿」(『ブラフマ
ヴァイヴァルタプラーナ』)とよばれる神話によく表れている
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 113 ―
悪竜ヴリトラを退治したインドラは自分の武勲にふさわしい立派
な宮殿を建てることにし神々の工匠ヴィシュヴァカルマンに宮殿
の造営を命じたヴィシュヴァカルマンは早速工事に取り掛かり壮
麗な宮殿を造り上げたがインドラの要求はどこまでも膨張します
ます立派な宮殿を建てるように望み続けた終りのない仕事にたま
りかねたヴィシュヴァカルマンはブラフマーのもとへ行き助けを
求めたするとブラフマーはヴィシュヌのもとへ赴いて助けを請う
た
翌朝インドラの宮殿に十歳ほどのたいへん美しい少年がやって
来た広間に招き入れて丁重にもてなしながら訪問の理由を訪ねる
と少年はほほ笑みながらこう言った
「神々の王よ私はあなたが造らせている御殿のことで質問したく
て参りましたこの建物が完成するまであと何年必要でヴィシュ
ヴァカルマンはどれだけの仕事をしなければならないのですかあな
たの前にはこれほど立派な御殿を建てさせた神々の王はいなかった
のに」
インドラは少年の姿をしたこの客人が自分の前にいた王たちの
ことを知っているような口をきくのを不思議に思ったその時彼
らが対話していた王宮の広間に無数の蟻が列を作って入ってきた
少年はそれを見て声をあげて笑ったがすぐにまた口をつぐんだイ
ンドラはこの少年の挙動に対して言葉にしがたい神秘を感じ「な
ぜ笑ったのですか私を欺くために少年の姿をしているあなたは一
体誰なのですか」と尋ねた
少年は「私が笑ったのは蟻を見たからですしかしなぜ笑った
のかその理由は聞かないでくださいなぜならそれは世にも恐ろ
しい秘密だからです」
― 114 ―
これを聞いて恐れにかられたインドラはへりくだってその秘密
を自分に教えてくれるように頼んだ少年は言った
「さっき見た蟻の行列の中の一匹一匹の蟻は全て前世で一度は
神々の王であった者たちなのですあなたと同様に彼らも一度は徳
高い性質のゆえに一度は神々の王位についていたのですですがそ
のあと多くの命を繰り返し生きるうちに皆蟻になったのです」
この言葉を聞いたインドラはそれまで輝かしい栄光に包まれてい
た自分が無にも等しいほど小さな存在になったかのように感じられ
た
その時広間に一人の異様な人物が入ってきたその人物の頭は
もつれた長い髪の毛で覆われ腰にカモシカの皮を巻き付け苦行者
の姿をしていて胸には円形の胸毛の茂みが生えていたその胸毛は
茂みの周辺部はすきまなく密集していたが中心部はすでに多くの毛
が抜け落ちてまばらになっていた不思議に思ったインドラの代わり
に少年が苦行者に素性を訪ねた苦行者は答えた
「私はインドラさまにお目にかかりに参った無名の苦行者です自
分の命のはかなく短いことを知って家も仕事も持たず結婚もせず
ただ施しだけに頼って暮らしております私の胸毛は大きな知恵を
教えてくれます胸毛の一本が抜けるごとに一人の神々の王の世が
終わりますすでに胸毛の半分はなくなりましたが残りが抜けると
創造神ブラフマーの命が終わり私も消滅しなければなりませんこ
んな短い生涯で妻や子や家を持つことがなんの役に立つでしょう
か一人のブラフマーに割り当てられている命の長さはヴィシュヌ
神のまばたきの間にすぎませんましてやブラフマー以下の神々も人
間も泡のように生まれては消えるだけなのです」
語り終えると苦行者は見えなくなったこの苦行者こそシヴァ
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 115 ―
神にほかならなかった同時に少年の姿も消えた彼こそがヴィシュ
ヌだったのだあとに残されたインドラからは宮殿をもっと立派に
したいという欲求はすっかり失われていたインドラはヴィシュ
ヴァカルマンを呼びこれまでの苦労の報酬として多くの贈り物を与
えて帰らせた
その後インドラは妃のシャチーと協力して神々の王の務めを立
派に果たすようになった 3)
スサノヲ2-b オホクニヌシに試練を与え祝福する〈教示する神〉
オホクニヌシが兄である八十神の迫害から逃れるため祖先のスサノ
ヲのいる根の国を訪れ迎えに出てきたスサノヲの娘スセリビメとその場
で結婚するとスサノヲはまずオホクニヌシを蛇の部屋に寝かせるオ
ホクニヌシはスセリビメからもらった比ひ
礼れ
を使って蛇を鎮める次の夜
はムカデと蜂の部屋に寝かされるが同じようにして無事に出てくる
次にスサノヲは鏑矢を野の中に射込んでその矢をオホクニヌシに取り
に行かせると野に火を放って焼いてしまうオホクニヌシは地面の下の
穴に入り込んで助かる最後の試練はスサノヲの髪の虱を取ることである
がオホクニヌシがスサノヲの頭を見るとムカデがたくさん群がってい
るオホクニヌシがスセリビメからもらった椋の実と赤土を使ってム
カデを喰いちぎって吐き出しているように見せかけるとスサノヲは安心
して眠ってしまうオホクニヌシはその間にスセリビメを背負いスサノ
ヲの宝である生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢天あめののりごと
詔琴を持って逃げ出す気づいたスサノ
ヲが追って来るがヨモツヒラサカまで来るとオホクニヌシにこう言っ
て祝福して地上に送り出す
その汝な
が持てる生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢をもちて汝な
が庶が庶がままあにおと
兄弟は坂の御み
尾を
に追ひ伏
― 116 ―
せまた河の瀬に追ひ撥はら
ひておれ大国主神となりまた宇うつしくにたまのかみ
都志国玉神
となりてその我あ
が女むすめ
須世理毘売を嫡むか
妻ひめ
として宇う
迦か
の山の山本に
底つ石いは
根ね
に宮みや
柱ばしら
ふとしり高たかまのはら
天原に氷ひ
椽き
たかしりて居を
れこの奴やっこ
2 の類似
シヴァもスサノヲもインドラやオホクニヌシの上位に立つ神として
戒め祝福などを行い〈教示〉の役割を共通して果たしている
3悪魔退治と武器
シヴァ3-a 三都の破壊
ブラーフマナ神話にルドラからシヴァへの過渡期を確認できる三都
破壊の話があるアスラたちは鉄銀金よりなる三つの城塞を持ってい
た神々はそれを攻略するため火神アグニを鏃とし神酒ソーマを穴と
しヴィシュヌを棹としてルドラが矢を放ち三都を破壊してアスラた
ちを駆逐した 4)
この話はヒンドゥー教においてシヴァによる三都破壊の神話に発展す
る 5)
アスラのターラカの三人の息子らは苦行によってブラフマー神よ
り恩寵を授かり三つの都市に住んで世界を支配するという願いを叶
えてもらったただし千年後に三つの都は一つになりその三都を一
矢で貫けるような神によって滅ぼされるということであった願いを
叶えられた三人のアスラは無敵となり世界中を苦しめた神々はシ
ヴァ神にすべての神々の半分の力を預けそこにシヴァ自身の強大
な力を加えてブラフマーを御者として戦車に乗りヴィシュヌと
ソーマとアグニによって作られた矢を持って悪魔の都へ向かったす
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 117 ―
ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
― 118 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
悪竜ヴリトラを退治したインドラは自分の武勲にふさわしい立派
な宮殿を建てることにし神々の工匠ヴィシュヴァカルマンに宮殿
の造営を命じたヴィシュヴァカルマンは早速工事に取り掛かり壮
麗な宮殿を造り上げたがインドラの要求はどこまでも膨張します
ます立派な宮殿を建てるように望み続けた終りのない仕事にたま
りかねたヴィシュヴァカルマンはブラフマーのもとへ行き助けを
求めたするとブラフマーはヴィシュヌのもとへ赴いて助けを請う
た
翌朝インドラの宮殿に十歳ほどのたいへん美しい少年がやって
来た広間に招き入れて丁重にもてなしながら訪問の理由を訪ねる
と少年はほほ笑みながらこう言った
「神々の王よ私はあなたが造らせている御殿のことで質問したく
て参りましたこの建物が完成するまであと何年必要でヴィシュ
ヴァカルマンはどれだけの仕事をしなければならないのですかあな
たの前にはこれほど立派な御殿を建てさせた神々の王はいなかった
のに」
インドラは少年の姿をしたこの客人が自分の前にいた王たちの
ことを知っているような口をきくのを不思議に思ったその時彼
らが対話していた王宮の広間に無数の蟻が列を作って入ってきた
少年はそれを見て声をあげて笑ったがすぐにまた口をつぐんだイ
ンドラはこの少年の挙動に対して言葉にしがたい神秘を感じ「な
ぜ笑ったのですか私を欺くために少年の姿をしているあなたは一
体誰なのですか」と尋ねた
少年は「私が笑ったのは蟻を見たからですしかしなぜ笑った
のかその理由は聞かないでくださいなぜならそれは世にも恐ろ
しい秘密だからです」
― 114 ―
これを聞いて恐れにかられたインドラはへりくだってその秘密
を自分に教えてくれるように頼んだ少年は言った
「さっき見た蟻の行列の中の一匹一匹の蟻は全て前世で一度は
神々の王であった者たちなのですあなたと同様に彼らも一度は徳
高い性質のゆえに一度は神々の王位についていたのですですがそ
のあと多くの命を繰り返し生きるうちに皆蟻になったのです」
この言葉を聞いたインドラはそれまで輝かしい栄光に包まれてい
た自分が無にも等しいほど小さな存在になったかのように感じられ
た
その時広間に一人の異様な人物が入ってきたその人物の頭は
もつれた長い髪の毛で覆われ腰にカモシカの皮を巻き付け苦行者
の姿をしていて胸には円形の胸毛の茂みが生えていたその胸毛は
茂みの周辺部はすきまなく密集していたが中心部はすでに多くの毛
が抜け落ちてまばらになっていた不思議に思ったインドラの代わり
に少年が苦行者に素性を訪ねた苦行者は答えた
「私はインドラさまにお目にかかりに参った無名の苦行者です自
分の命のはかなく短いことを知って家も仕事も持たず結婚もせず
ただ施しだけに頼って暮らしております私の胸毛は大きな知恵を
教えてくれます胸毛の一本が抜けるごとに一人の神々の王の世が
終わりますすでに胸毛の半分はなくなりましたが残りが抜けると
創造神ブラフマーの命が終わり私も消滅しなければなりませんこ
んな短い生涯で妻や子や家を持つことがなんの役に立つでしょう
か一人のブラフマーに割り当てられている命の長さはヴィシュヌ
神のまばたきの間にすぎませんましてやブラフマー以下の神々も人
間も泡のように生まれては消えるだけなのです」
語り終えると苦行者は見えなくなったこの苦行者こそシヴァ
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 115 ―
神にほかならなかった同時に少年の姿も消えた彼こそがヴィシュ
ヌだったのだあとに残されたインドラからは宮殿をもっと立派に
したいという欲求はすっかり失われていたインドラはヴィシュ
ヴァカルマンを呼びこれまでの苦労の報酬として多くの贈り物を与
えて帰らせた
その後インドラは妃のシャチーと協力して神々の王の務めを立
派に果たすようになった 3)
スサノヲ2-b オホクニヌシに試練を与え祝福する〈教示する神〉
オホクニヌシが兄である八十神の迫害から逃れるため祖先のスサノ
ヲのいる根の国を訪れ迎えに出てきたスサノヲの娘スセリビメとその場
で結婚するとスサノヲはまずオホクニヌシを蛇の部屋に寝かせるオ
ホクニヌシはスセリビメからもらった比ひ
礼れ
を使って蛇を鎮める次の夜
はムカデと蜂の部屋に寝かされるが同じようにして無事に出てくる
次にスサノヲは鏑矢を野の中に射込んでその矢をオホクニヌシに取り
に行かせると野に火を放って焼いてしまうオホクニヌシは地面の下の
穴に入り込んで助かる最後の試練はスサノヲの髪の虱を取ることである
がオホクニヌシがスサノヲの頭を見るとムカデがたくさん群がってい
るオホクニヌシがスセリビメからもらった椋の実と赤土を使ってム
カデを喰いちぎって吐き出しているように見せかけるとスサノヲは安心
して眠ってしまうオホクニヌシはその間にスセリビメを背負いスサノ
ヲの宝である生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢天あめののりごと
詔琴を持って逃げ出す気づいたスサノ
ヲが追って来るがヨモツヒラサカまで来るとオホクニヌシにこう言っ
て祝福して地上に送り出す
その汝な
が持てる生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢をもちて汝な
が庶が庶がままあにおと
兄弟は坂の御み
尾を
に追ひ伏
― 116 ―
せまた河の瀬に追ひ撥はら
ひておれ大国主神となりまた宇うつしくにたまのかみ
都志国玉神
となりてその我あ
が女むすめ
須世理毘売を嫡むか
妻ひめ
として宇う
迦か
の山の山本に
底つ石いは
根ね
に宮みや
柱ばしら
ふとしり高たかまのはら
天原に氷ひ
椽き
たかしりて居を
れこの奴やっこ
2 の類似
シヴァもスサノヲもインドラやオホクニヌシの上位に立つ神として
戒め祝福などを行い〈教示〉の役割を共通して果たしている
3悪魔退治と武器
シヴァ3-a 三都の破壊
ブラーフマナ神話にルドラからシヴァへの過渡期を確認できる三都
破壊の話があるアスラたちは鉄銀金よりなる三つの城塞を持ってい
た神々はそれを攻略するため火神アグニを鏃とし神酒ソーマを穴と
しヴィシュヌを棹としてルドラが矢を放ち三都を破壊してアスラた
ちを駆逐した 4)
この話はヒンドゥー教においてシヴァによる三都破壊の神話に発展す
る 5)
アスラのターラカの三人の息子らは苦行によってブラフマー神よ
り恩寵を授かり三つの都市に住んで世界を支配するという願いを叶
えてもらったただし千年後に三つの都は一つになりその三都を一
矢で貫けるような神によって滅ぼされるということであった願いを
叶えられた三人のアスラは無敵となり世界中を苦しめた神々はシ
ヴァ神にすべての神々の半分の力を預けそこにシヴァ自身の強大
な力を加えてブラフマーを御者として戦車に乗りヴィシュヌと
ソーマとアグニによって作られた矢を持って悪魔の都へ向かったす
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 117 ―
ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
― 118 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
これを聞いて恐れにかられたインドラはへりくだってその秘密
を自分に教えてくれるように頼んだ少年は言った
「さっき見た蟻の行列の中の一匹一匹の蟻は全て前世で一度は
神々の王であった者たちなのですあなたと同様に彼らも一度は徳
高い性質のゆえに一度は神々の王位についていたのですですがそ
のあと多くの命を繰り返し生きるうちに皆蟻になったのです」
この言葉を聞いたインドラはそれまで輝かしい栄光に包まれてい
た自分が無にも等しいほど小さな存在になったかのように感じられ
た
その時広間に一人の異様な人物が入ってきたその人物の頭は
もつれた長い髪の毛で覆われ腰にカモシカの皮を巻き付け苦行者
の姿をしていて胸には円形の胸毛の茂みが生えていたその胸毛は
茂みの周辺部はすきまなく密集していたが中心部はすでに多くの毛
が抜け落ちてまばらになっていた不思議に思ったインドラの代わり
に少年が苦行者に素性を訪ねた苦行者は答えた
「私はインドラさまにお目にかかりに参った無名の苦行者です自
分の命のはかなく短いことを知って家も仕事も持たず結婚もせず
ただ施しだけに頼って暮らしております私の胸毛は大きな知恵を
教えてくれます胸毛の一本が抜けるごとに一人の神々の王の世が
終わりますすでに胸毛の半分はなくなりましたが残りが抜けると
創造神ブラフマーの命が終わり私も消滅しなければなりませんこ
んな短い生涯で妻や子や家を持つことがなんの役に立つでしょう
か一人のブラフマーに割り当てられている命の長さはヴィシュヌ
神のまばたきの間にすぎませんましてやブラフマー以下の神々も人
間も泡のように生まれては消えるだけなのです」
語り終えると苦行者は見えなくなったこの苦行者こそシヴァ
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 115 ―
神にほかならなかった同時に少年の姿も消えた彼こそがヴィシュ
ヌだったのだあとに残されたインドラからは宮殿をもっと立派に
したいという欲求はすっかり失われていたインドラはヴィシュ
ヴァカルマンを呼びこれまでの苦労の報酬として多くの贈り物を与
えて帰らせた
その後インドラは妃のシャチーと協力して神々の王の務めを立
派に果たすようになった 3)
スサノヲ2-b オホクニヌシに試練を与え祝福する〈教示する神〉
オホクニヌシが兄である八十神の迫害から逃れるため祖先のスサノ
ヲのいる根の国を訪れ迎えに出てきたスサノヲの娘スセリビメとその場
で結婚するとスサノヲはまずオホクニヌシを蛇の部屋に寝かせるオ
ホクニヌシはスセリビメからもらった比ひ
礼れ
を使って蛇を鎮める次の夜
はムカデと蜂の部屋に寝かされるが同じようにして無事に出てくる
次にスサノヲは鏑矢を野の中に射込んでその矢をオホクニヌシに取り
に行かせると野に火を放って焼いてしまうオホクニヌシは地面の下の
穴に入り込んで助かる最後の試練はスサノヲの髪の虱を取ることである
がオホクニヌシがスサノヲの頭を見るとムカデがたくさん群がってい
るオホクニヌシがスセリビメからもらった椋の実と赤土を使ってム
カデを喰いちぎって吐き出しているように見せかけるとスサノヲは安心
して眠ってしまうオホクニヌシはその間にスセリビメを背負いスサノ
ヲの宝である生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢天あめののりごと
詔琴を持って逃げ出す気づいたスサノ
ヲが追って来るがヨモツヒラサカまで来るとオホクニヌシにこう言っ
て祝福して地上に送り出す
その汝な
が持てる生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢をもちて汝な
が庶が庶がままあにおと
兄弟は坂の御み
尾を
に追ひ伏
― 116 ―
せまた河の瀬に追ひ撥はら
ひておれ大国主神となりまた宇うつしくにたまのかみ
都志国玉神
となりてその我あ
が女むすめ
須世理毘売を嫡むか
妻ひめ
として宇う
迦か
の山の山本に
底つ石いは
根ね
に宮みや
柱ばしら
ふとしり高たかまのはら
天原に氷ひ
椽き
たかしりて居を
れこの奴やっこ
2 の類似
シヴァもスサノヲもインドラやオホクニヌシの上位に立つ神として
戒め祝福などを行い〈教示〉の役割を共通して果たしている
3悪魔退治と武器
シヴァ3-a 三都の破壊
ブラーフマナ神話にルドラからシヴァへの過渡期を確認できる三都
破壊の話があるアスラたちは鉄銀金よりなる三つの城塞を持ってい
た神々はそれを攻略するため火神アグニを鏃とし神酒ソーマを穴と
しヴィシュヌを棹としてルドラが矢を放ち三都を破壊してアスラた
ちを駆逐した 4)
この話はヒンドゥー教においてシヴァによる三都破壊の神話に発展す
る 5)
アスラのターラカの三人の息子らは苦行によってブラフマー神よ
り恩寵を授かり三つの都市に住んで世界を支配するという願いを叶
えてもらったただし千年後に三つの都は一つになりその三都を一
矢で貫けるような神によって滅ぼされるということであった願いを
叶えられた三人のアスラは無敵となり世界中を苦しめた神々はシ
ヴァ神にすべての神々の半分の力を預けそこにシヴァ自身の強大
な力を加えてブラフマーを御者として戦車に乗りヴィシュヌと
ソーマとアグニによって作られた矢を持って悪魔の都へ向かったす
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 117 ―
ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
― 118 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
神にほかならなかった同時に少年の姿も消えた彼こそがヴィシュ
ヌだったのだあとに残されたインドラからは宮殿をもっと立派に
したいという欲求はすっかり失われていたインドラはヴィシュ
ヴァカルマンを呼びこれまでの苦労の報酬として多くの贈り物を与
えて帰らせた
その後インドラは妃のシャチーと協力して神々の王の務めを立
派に果たすようになった 3)
スサノヲ2-b オホクニヌシに試練を与え祝福する〈教示する神〉
オホクニヌシが兄である八十神の迫害から逃れるため祖先のスサノ
ヲのいる根の国を訪れ迎えに出てきたスサノヲの娘スセリビメとその場
で結婚するとスサノヲはまずオホクニヌシを蛇の部屋に寝かせるオ
ホクニヌシはスセリビメからもらった比ひ
礼れ
を使って蛇を鎮める次の夜
はムカデと蜂の部屋に寝かされるが同じようにして無事に出てくる
次にスサノヲは鏑矢を野の中に射込んでその矢をオホクニヌシに取り
に行かせると野に火を放って焼いてしまうオホクニヌシは地面の下の
穴に入り込んで助かる最後の試練はスサノヲの髪の虱を取ることである
がオホクニヌシがスサノヲの頭を見るとムカデがたくさん群がってい
るオホクニヌシがスセリビメからもらった椋の実と赤土を使ってム
カデを喰いちぎって吐き出しているように見せかけるとスサノヲは安心
して眠ってしまうオホクニヌシはその間にスセリビメを背負いスサノ
ヲの宝である生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢天あめののりごと
詔琴を持って逃げ出す気づいたスサノ
ヲが追って来るがヨモツヒラサカまで来るとオホクニヌシにこう言っ
て祝福して地上に送り出す
その汝な
が持てる生い く た ち
大刀生いくゆみや
弓矢をもちて汝な
が庶が庶がままあにおと
兄弟は坂の御み
尾を
に追ひ伏
― 116 ―
せまた河の瀬に追ひ撥はら
ひておれ大国主神となりまた宇うつしくにたまのかみ
都志国玉神
となりてその我あ
が女むすめ
須世理毘売を嫡むか
妻ひめ
として宇う
迦か
の山の山本に
底つ石いは
根ね
に宮みや
柱ばしら
ふとしり高たかまのはら
天原に氷ひ
椽き
たかしりて居を
れこの奴やっこ
2 の類似
シヴァもスサノヲもインドラやオホクニヌシの上位に立つ神として
戒め祝福などを行い〈教示〉の役割を共通して果たしている
3悪魔退治と武器
シヴァ3-a 三都の破壊
ブラーフマナ神話にルドラからシヴァへの過渡期を確認できる三都
破壊の話があるアスラたちは鉄銀金よりなる三つの城塞を持ってい
た神々はそれを攻略するため火神アグニを鏃とし神酒ソーマを穴と
しヴィシュヌを棹としてルドラが矢を放ち三都を破壊してアスラた
ちを駆逐した 4)
この話はヒンドゥー教においてシヴァによる三都破壊の神話に発展す
る 5)
アスラのターラカの三人の息子らは苦行によってブラフマー神よ
り恩寵を授かり三つの都市に住んで世界を支配するという願いを叶
えてもらったただし千年後に三つの都は一つになりその三都を一
矢で貫けるような神によって滅ぼされるということであった願いを
叶えられた三人のアスラは無敵となり世界中を苦しめた神々はシ
ヴァ神にすべての神々の半分の力を預けそこにシヴァ自身の強大
な力を加えてブラフマーを御者として戦車に乗りヴィシュヌと
ソーマとアグニによって作られた矢を持って悪魔の都へ向かったす
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 117 ―
ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
― 118 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
せまた河の瀬に追ひ撥はら
ひておれ大国主神となりまた宇うつしくにたまのかみ
都志国玉神
となりてその我あ
が女むすめ
須世理毘売を嫡むか
妻ひめ
として宇う
迦か
の山の山本に
底つ石いは
根ね
に宮みや
柱ばしら
ふとしり高たかまのはら
天原に氷ひ
椽き
たかしりて居を
れこの奴やっこ
2 の類似
シヴァもスサノヲもインドラやオホクニヌシの上位に立つ神として
戒め祝福などを行い〈教示〉の役割を共通して果たしている
3悪魔退治と武器
シヴァ3-a 三都の破壊
ブラーフマナ神話にルドラからシヴァへの過渡期を確認できる三都
破壊の話があるアスラたちは鉄銀金よりなる三つの城塞を持ってい
た神々はそれを攻略するため火神アグニを鏃とし神酒ソーマを穴と
しヴィシュヌを棹としてルドラが矢を放ち三都を破壊してアスラた
ちを駆逐した 4)
この話はヒンドゥー教においてシヴァによる三都破壊の神話に発展す
る 5)
アスラのターラカの三人の息子らは苦行によってブラフマー神よ
り恩寵を授かり三つの都市に住んで世界を支配するという願いを叶
えてもらったただし千年後に三つの都は一つになりその三都を一
矢で貫けるような神によって滅ぼされるということであった願いを
叶えられた三人のアスラは無敵となり世界中を苦しめた神々はシ
ヴァ神にすべての神々の半分の力を預けそこにシヴァ自身の強大
な力を加えてブラフマーを御者として戦車に乗りヴィシュヌと
ソーマとアグニによって作られた矢を持って悪魔の都へ向かったす
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 117 ―
ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
― 118 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
ると三つの都は一つに合体したシヴァはそれを一矢で貫いて三都
を焼き尽くした
シヴァ3-b アルジュナに武器を与える
シヴァは『マハーバーラタ』の英雄アルジュナにブラフマシラスとい
う必殺の武器を授けるこの話については後述8-aを参照
スサノヲ3-c ヤマタノヲロチ退治
スサノヲは頭と尾が八つに分かれている巨大な蛇を退治し蛇の犠牲に
なるところであったクシナダヒメと結婚する退治に際しては酒を造ら
せて蛇がその酒を飲んで酔って眠ったところを剣で切り殺している多頭
の蛇あるいは竜は神話において原初の混沌を表す混沌とした地上世界
を混沌の象徴であるヤマタノヲロチを殺すことで秩序化しこの後オホ
クニヌシによって豊かな土地に変えられる土台を築いている
スサノヲ3-d 武器を発見アマテラスに献上
スサノヲがヤマタノヲロチを倒した際蛇の尾を切るとスサノヲの剣
の刃が欠け蛇の尾から一振りの剣が出て来たスサノヲはこれを不思議
なものだと思ってアマテラスに献上した
3の類似
日本神話においてはスサノヲの竜退治と武器獲得その武器のアマテ
ラスへの献上は一連の流れで語られているインドではシヴァの悪魔退
治とアルジュナへの武器の授与は全く別系統の話であるしかし両者と
もに悪魔退治という英雄的行為と武器の献上授与といういずれも
戦士機能に関連する働きをしている
― 118 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
4 荒ぶる神罰(宥め)
シヴァ4-a ダクシャの供犠弓が折られる宥められる
シヴァがダクシャの供犠を破壊するという話が『マハーバーラタ』に
語られている 6)
クリタユガの終わりに神々は祭祀を実行しようと思って
ヴェーダの規定にしたがってその準備を進めていたその時創造神
の一人ダクシャは獣を犠牲として捧げる儀式を行いヒマーラヤ山
頂のちょうどガンジス川が落下しようとする地点でそれを実行し
た神々は自分たちだけで祭祀の供物の分配を行ったが彼らはシ
ヴァをよく知らなかったので彼には分け前を与えなかった
そこでシヴァは激怒して弓を携えて犠牲式を行った場所に赴くと
ただちに山々は振動し始め風は吹くのをやめ火は燃えなくなり
星は恐れて姿を消し太陽の光輝も月の美しさも去り真の暗闇が空
を満たしたシヴァは祭式の真っ只中を矢で射ると祭式は牡鹿の姿
に変身して火の神アグニとともに天界に逃れたシヴァは激怒のあ
まりサヴィトリ神(太陽神の一)の両腕を挫きプーシャン(やはり太
陽神の一)の歯を折りバガ神(祭式における「分け前」の神)の両目を
抉り出した神々はあわてて祭式の準備をそのまま置き去りにして急
いで逃れ去ったがシヴァはそれを見て嘲笑したしかしシヴァの弓
は神々の呪いによって裂けてしまった
その後神々はシヴァ神を捜し求め彼を宥めることにしたそこで
シヴァは怒りを和らげ弓を海に投じバガには両目をサヴィトリ
には両腕をプーシャンには歯を回復してやったそれ以後彼は儀式
の分け前を受取ることが出来た
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 119 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
スサノヲ4-b 高天原での悪戯爪などを切られて追放
このようなシヴァの乱暴な行いと比較できるのがスサノヲの高天原に
おける悪戯である
スサノヲはアマテラスとのウケヒに勝つと勝ちに乗じて高天原で様々
な悪戯をしたアマテラスの田の畔を壊し田に水を引く溝を埋めアマ
テラスの神殿に糞をして汚したアマテラスがスサノヲをかばったので
スサノヲの悪戯は激しくなりついにはアマテラスが機を織る機屋に
逆さに皮を剝いだ馬を投げ入れたこれに驚いた機織女が梭で自らの陰部
を突いて死んでしまったアマテラスは怒って岩屋に籠った神々の祭り
によって宥められアマテラスが岩屋から出てくるとスサノヲは贖罪の
品物を課され髭と手足の爪を切られて追放された
4の類似
シヴァによるダクシャの供犠の破壊にしてもスサノヲの高天原での悪
戯にしても聖なるものを荒らすという共通点があるさらにその結果
弓が折られたり爪などを切られて追放されるなど罰を受けているとこ
ろも似ている
5暴 風 神
シヴァ5-a 前身ルドラは暴風神
『リグヴェーダ』におけるシヴァの前身ルドラについては『神の文
化史事典』の「ルドラ」の項目に次のように記されている 7)
『リグヴェーダ』の暴風神赤褐色で黄金の飾りで身を装い弓
矢で敵を194679る雷を象徴する金剛杵を持つこともある暴風雨神群マ
ルトの父でもある一般に破壊と恐怖の神とされるがその一方で病
― 120 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
を治癒する神でもあり彼の医療によって百歳の長寿に達することが
祈願された『リグヴェーダ』においてはそれほど重要な神ではな
いが後世シヴァとしてヒンドゥー教の主神となった(後略)
スサノヲ5-b 暴風雨神
スサノヲはイザナキが禊をしたときにイザナキの鼻から誕生している
がこのことは世界各地の神話における「世界巨人型」創世神話におい
て殺された巨人の鼻から風が生まれたことと同じ意味を持つたとえば
インドの『リグヴェーダ』10 90 13では原人プルシャの鼻から気息が
生じたとされているつまりイザナキの鼻から生まれることでスサノヲ
に風としての本質が認められることが明示されている
5の類似
暴風神ルドラは破壊の神であり医療の神でもあるという両義性が認め
られるその両義性はおそらく自然現象としての暴風(雨)に由来する
ものであろう荒れ狂う暴風雨は恐ろしいが豊穣をもたらしもするこ
のような自然の二面性が後のシヴァにも受け継がれ破壊と生殖という
二面性を表すようになったのかもしれないスサノヲも暴風雨の神とし
て荒れ狂えば世界を危機にさらすが英雄的行いによって世界に秩序を
もたらすこともあるという点でやはり両義的な側面がある
6文 化
シヴァ6-a 踊り
シヴァの踊りとその意味については立川武蔵が的確に指摘しているの
で少し長くなるがその箇所を引用する 8)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 121 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
ところでシヴァは「舞踏の王」(ナタラージャ)と呼ばれるが
この場合の舞踏とは世界のなかの生命エネルギーの躍動をいうすで
に述べたようにシヴァは生命力を象徴する神であるリンガという
相を採ること自体生命力生殖力の神であることを表している「世
界のなかの生命エネルギー」という表現はヒンドゥー教にとって正
しくないだろうというのは世界と生命エネルギーとが別個のもの
であって世界という器の中にエネルギーが存在するというようにヒ
ンドゥー教では考えられないからだ世界そのものがエネルギーなの
であるエネルギーのダンスが世界という姿を採るという方がヒン
ドゥー的インド的であろう
踊るシヴァは世界という舞台の上で踊っているのではない踊る
シヴァ自身が舞台であり踊り手でありさらに観客でもあるのだ
つまり踊るシヴァ自身がこの世界という姿を採っているのである
世界のもろもろのものを見ているわれわれ人間も見られているもの
もすべてがエネルギーの躍動なのでありその総合体をヒンドゥー
教は踊るシヴァと理解したのである
スサノヲ6-b 歌
最初の和歌を詠んだのはスサノヲである出雲でヤマタノヲロチ退治を
したのち須賀の地に宮を建てた時に詠んだのが次の歌である
八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き出る雲の様子を見てスサノヲはこの歌を詠んだこのように
最初の和歌を詠むことによってスサノヲは文化の創始者としての側面も
見せている
― 122 ―
6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
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8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
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6 の類似
シヴァの踊りは世界のエネルギーそのものでありスサノヲの歌は雲と
いう形で表れた世界のエネルギーを詠み込んだものであるこのように
世界の生命力を表現し鼓舞する意味を持つ文化と関連するという点でシ
ヴァの踊りとスサノヲの歌はよく似ていると言える
7女性的なものとの一体化
シヴァ7-a 妃たちとシャクティ
6 7世紀頃インドでは女神崇拝が盛んとなり女神は男神の力
シャクティとみなされるようになったこのような女神崇拝とシヴァ信仰
が統合し女神たちとシヴァの密接な関係が形成された特にシヴァは妃
神との関連が強い妃サティーを亡くした時のシヴァの深い悲しみは次
のように物語られている 9)
シヴァがサティーの死体を肩にかついで国中を回って死の踊りを踊っ
たので世界は破滅しそうになったそこでヴィシュヌがサティーの
死体を切り刻んだその破片は各地に散らばりそこから多くの女神
が誕生した
このサティーは後にパールヴァティーとして生まれ変わり再びシ
ヴァと結婚したそのパールヴァティーとシヴァの深い結びつきが見て取
れるのがエローラ第16窟の右半身が男性で左半身は女性の浮き彫りで
あるこれは「半身ずつの女とイーシュヴァラ」と呼ばれており右がシ
ヴァ左がパールヴァティーで両者の結合本来的な同一性を表現して
いる 10)
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 123 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
スサノヲ7-b 母姉娘への執着
記によればスサノヲはイザナキの禊から生まれてすぐ海原の支配を
委ねられるしかしスサノヲは髭が胸に垂れ下がるような年頃になって
も任された国を治めようとせず激しく泣き喚いているそのために世
界は無秩序状態に陥るイザナキがわけを尋ねると「根の国の母のもと
へ行きたくて泣いている」と言うのでイザナキはスサノヲを追放した
このような泣き喚くスサノヲについて吉田敦彦は次のように述べてい
る 11)
つまりスサノヲは生まれるとすぐ父から果たすべき重大な職務を与
えられたつまり責任ある大人として任務を果たすことを求められた
わけですがそうすることを拒否しだだっ児のようにいつまでも
死んで冥府にいる母のもとに行きたいと言ってわあわあ泣きわめき
世界を大混乱に陥れたというのですからこのスサノヲの振舞はまさ
に母からの分離に抗議し無理矢理母に固着しようとするものでレ
ヴィ=ストロース流に言えばバイトゴゴ的であると言えましょう
イザナキに追放されるとスサノヲは姉のアマテラスへの思慕に憑りつ
かれアマテラスに会うために世界を鳴動させながら高天原に昇ってい
くこのスサノヲの行動も親族の女性に対する執着突き詰めて言えば
マザーコンプレックスの表れであるスサノヲは娘のスセリビメに対し
ても尋常でない執着を表すスセリビメは根の国を訪れたオホクニヌ
シを一目見て気に入りすぐに結婚したするとスサノヲはオホクニヌ
シに様々な試練を課し殺そうとまでして娘を手放すまいとしている
このように母姉娘という親族の女性に対して強い執着を持っている
のがスサノヲであり彼の物語は親族の女性との関連なしには成り立たな
― 124 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
いのである
7の類似
シヴァは妃神と一心同体であり妃神を失った時の悲しみによって世界
を危機にさらしたスサノヲは母姉娘という親族の女性への執着が
強く特に母神との合一を求め最終的には根の国の支配者となることで
その願望を叶えているどちらにしても家族の女性に対して強く同一性
を持つという点に両神の類似を見ることができる
8イニシエーションを授ける
シヴァ8-a アルジュナにイニシエーションを授ける
シヴァがパーンダヴァ五兄弟の三男で随一の戦士であるアルジュナに
イニシエーションを課し武器を授ける話が『マハーバーラタ』にある 12)
パーンダヴァの二度目の放浪の旅の途中ユディシュティラは弟の
アルジュナにインドラ神のもとで武器を得てくるように命令する
アルジュナは弓と矢で武装して出かけた彼がヒマーラヤ山とガンダ
マーダナ山を越えた時虚空から「止まれ」という声が聞こえたそ
してアルジュナは樹の根元に光輝く一人の苦行者を見たこの苦行者
こそインドラ神の変身したものであった彼が願い事を叶えてやる
と告げるとアルジュナは「あなたから全ての武器を学びたい」と
願ったインドラは次のような条件を課した
わが子よもしおまえが生類の主三眼を持つ者槍を持つシヴァ
を見たら私はおまえに神的な武器をすべて与えようシヴァ神を
見るために努力せよクンティーの息子よ彼を見ることによって
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 125 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
おまえは目的を完遂し天界へ行くだろう(3 38 43-44)
アルジュナはシヴァに会うためにヒマーラヤの森の中に入ったそ
の時法螺貝と太鼓の音が天空に鳴り響いたアルジュナはその森で
激しい苦行を行った最初の一カ月は四夜ごとに木の実を食べて過
ごした次の一カ月は六夜ごとに木の実を食べて過ごした三カ月
目は十四日ごとに地に落ちた葉を食べて過ごした四カ月目になる
と断食して足の親指で立ったままで過ごすという苦行をしたこ
の苦行に満足したシヴァは狩猟民であるキラータの姿を取ってアル
ジュナの前に姿を現したその時猪の姿をしたムーカという名の悪
魔がアルジュナを殺そうとしていたアルジュナはそれに気づいて弓
矢を取って射た同時にキラータ(シヴァ)もその猪を射た多く
の矢に射られた悪魔は恐ろしい羅刹の姿に戻って死んだアルジュナ
は自分が先に射ようとした羅刹をキラータも射たことに対して「狩
猟の法に反する」として怒ったこうして両者の間に激しい戦闘が行
われた二人はまず弓矢で戦ったキラータはアルジュナの必殺の
武器であるガーンディーヴァの弓から放たれる矢を平静に受け止め
て無傷で立っていたこれを見たアルジュナは驚嘆し自分が相手に
しているのがシヴァ神その人なのではないかと考えたアルジュナは
矢による攻撃を続けたが矢が尽きてしまったので次には刀で戦っ
たアルジュナが刀をキラータの頭に打ち下ろすと刀は砕け散って
しまった最後にアルジュナは自らの拳でキラータの姿をした神を
打ったキラータも拳でアルジュナに応戦した二人の戦いはしば
らく続いたやがてキラータはアルジュナの身体を押しつぶして
彼の気を失わせたアルジュナはキラータによって「団子(pind4 4
ı)の
ように(3 40 50)」されてしまったこの戦闘に満足したシヴァは
― 126 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 129 ―
自らの姿を現したアルジュナは光輝に満ちた神の姿を見て許しを請
うたシヴァは彼を許し願い事を叶えてやると告げたアルジュナ
は全世界を滅亡させる必殺の武器「ブラフマシラス」を望み習得し
たシヴァが去るとアルジュナのもとにヴァルナクベーラヤマ
がインドラとともにやって来てそれぞれがアルジュナに武器を授け
た 13)(3 38-42)
スサノヲ8-b オホクニヌシにイニシエーションを授ける
オホクニヌシがスサノヲに課された試練の内容については2-b参照
その試練の意味は古川のり子によって次のように解釈されている 14)
根の国においてもオホナムチはスサノヲによる試練をくぐり抜ける
ことで地上にいたときと同様に死と再生を繰り返すオホナムチは
ここでは蛇の室ムカデと蜂の室土中の壺のような形のほら穴
八田間の大室というような母胎を思わせる閉ざされた空間に籠って
は出るという行為を繰り返し行っているこれらの空間は蛇やムカ
デや蜂の群れがそこにうごめいていたり毛髪中にたくさんのムカデ
を発生させたスサノヲがいたりあるいは子ネズミをひき連れた親ネ
ズミが司っているなどどれもが混沌とした空間であるかつてアマ
テラスがいったん死んで天の石屋の中に閉じ籠りそこから再び出現
することでより尊い女神へと生まれ変わったようにオホナムチもこ
れらの子宮的な空間からの再生を繰り返すことによって一人前の大人
へより偉大な神へと成長を遂げていく三度目の野焼きの試練のあ
とにオホナムチが地中の空洞の中から鏑矢という「収穫物」を手に
して現れたとき彼はすでに地上にいたときよりははるかに成長を
遂げていたものと思われる
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
― 127 ―
8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
― 128 ―
3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
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8 の類似
シヴァとの戦闘においてアルジュナは「団子」のように丸められた
とされているこれは彼が胎児のような状態に戻されたことを意味してい
ると考えることができるアルジュナは一度胎児の状態に戻り象徴的な
死を経験してそこから再び生まれ変わることで神々の武器を使いこな
せるようなさらに強力な戦士となることができたのであるスサノヲも
オホクニヌシを子宮を暗示する閉ざされた空間に閉じ込めることでオホ
クニヌシを胎児の状態に戻しそこから出てくることで再生を果たすとい
う試練を課した
おわりに―なぜ似ているのか
本稿ではインドのシヴァ神と日本のスサノヲ神の比較をし八つの類似
点を抽出したしかしこの比較には重大な問題がある両神の性質が確定
した年代の問題である
本稿で取り上げたスサノヲの諸側面は『古事記』が書かれた段階で固
定された性質である一方シヴァは古い要素で紀元前1200年の『リグ
ヴェーダ』新しい要素でシャクティ思想が出現する紀元後 6 7世紀と
非常に長い期間にわたり次第にその複雑な性質が形成されていったし
たがって両神の性質の類似から何らかの系統的な関連を立証すること
は不可能である本稿ではただ偶然の一致とするにはあまりにも似てい
る「奇妙な類似である」と述べるにとどめる
注 1) 以下『古事記』の引用は次田真幸全訳注『古事記』上講談社学術文庫1977年を用いた
2) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年124頁
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3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
シヴァとスサノヲ―その奇妙な類似について
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3) ハインリヒツィンマー著宮元啓一訳『インドアート〔神話と象徴〕』せりか書房1988年5-18頁を参照した
4) 『タイッティリーヤサンヒター』6231-2上村勝彦『インド神話』東京書籍1981年42-43頁を参照した
5) 『マハーバーラタ』 824上村勝彦『インド神話』42-46頁を参照した 6) 『マハーバーラタ』1018中村元『ヒンドゥー教と叙事詩』春秋社1996年423-424頁を参照した
7) 松村一男平藤喜久子山田仁史編『神の文化史事典』白水社2013年「ルドラ」(沖田執筆項目)
8) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年92-93頁
9) 『世界女神大事典』「サティー」(インド)沖田執筆項目原書房2015年10) 立川武蔵著木村次郷写真『シヴァと女神たち』山川出版社2002年99-100頁
11) 河合隼雄湯浅康雄吉田敦彦『日本神話の思想 スサノヲ論』ミネルヴァ書房1983年20-21頁
12) 『マハーバーラタ』の訳はプーナ批判版を用いた13) デュメジルもこの話をアルジュナのイニシエーションとして分析している
Jupiter Mars Quirinus Ⅳ Gallimard 1945 pp 69-7314) 吉田敦彦古川のり子著『日本の神話伝説』青土社1996年121頁
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