みんぱくレプリカめぐり - minpaku · 2021. 3. 30. · みんぱくレプリカめぐり...

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ぱく 日本の文化展示 「日々のくらし」セクション 恵比須(熊本県、 H0037120左頁の写真参照 みんぱくレプリカめぐり すえ もり かおる 民博 機関研究員 replica 調〈本館展示場〉 観覧券売場 恵比須(左)とその3次元プリント(右) (恵比須は20199月ごろに展示場へ再演示予定) その他のレプリカ資料(一部) ①アステカの暦石(H0009490、アメリカ展示) ②パン各種(ヨーロッパ展示) ③儀礼用家屋の柱(H0202338ほか、東南アジア展示) ④食膳(H0095241ほか、朝鮮半島の文化展示) ⑤タシュケントの民家(模型縮尺 110H0105532、中央・北アジア展示) ⑥熊送り用祭壇模型(H0273159、アイヌの文化展示) 言語展示 オセアニア展示 「島での暮らし」/「先住民の アイデンティティ表現」セクション モアイ (チリ、 H0009519複製した岩壁に描かれたドリーミング (オーストラリア、 H0140421ロゼッタ・ストーンと夢の碑(エジプト、 H0037549H003755016 17 2019 9 月号

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Page 1: みんぱくレプリカめぐり - Minpaku · 2021. 3. 30. · みんぱくレプリカめぐり 末 すえ 森 もり 薫 かおる 民博 機関研究員 夢 の 碑 で あ る

みんぱく回遊

日本の文化展示「日々のくらし」セクション

恵比須(熊本県、H0037120)左頁の写真参照

みんぱくレプリカめぐり末すえ

森もり

薫かおる

民博 機関研究員

夢の碑である。一九七八年に言語展示のシ

ンボルとして購入された。ロゼッタ・ストー

ンは、一七九九年にエジプト北部のロゼッ

タにある城塞から発見された石碑である。

碑文には、神聖文字(ヒエログリフ)と民衆

文字(デモティック)、ギリシア文字の三種

類の文字が併記されており、古代エジプト

の文字を解読する鍵となった。実物は大英

博物館にあり、石碑の発見現場や現地の博

物館には、みんぱくと同様にレプリカが展

示されている。

夢の碑はギザの三大ピラミッドエリアに

ある石碑である。古代エジプト第一八王朝

第八代ファラオのトトメス四世(在位

前一

四〇〇年〜一三九〇年ごろ)は、砂に埋もれ

るスフィンクスを掘り起こせば王位

につけるというお告げを夢のなかで

聞き、スフィンクスを掘り起こした。

そして、その内容を刻んだ石碑をス

フィンクスの足元に建てた。現地で

は、スフィンクスに近づくことが制

限されているため、石碑を間近に見

ることはかなわないが、みんぱくで

は、レプリカに刻まれた図像や文字

をはっきりと確認できる。

レプリカのレプリカ

レプリカといえども、博物館の重

要な資料であり、それぞれに物語が

いわれるモアイはそれぞれで特徴が異なり、

胴体まで表現されたものや帽子をかぶるも

のもあるが、みんぱくのレプリカは顔部の

みで表現されている。イースター島のモア

イの多くは、「アフ」とよばれる高台に、海

を背に、島を向く形で設置されたという。

みんぱくのモアイは一段高い位置から展示

場を見つめている。

アボリジニの岩壁画

オーストラリアの先住民アボリジニは数

万年前から岩に絵を描いてきた。一九八六

年、神戸市立博物館で開催された「狩人の

―オーストラリア・アボリジニの世界」

展に合わせて、オーストラリアから芸術家

のボビー・ナイアメラ氏を招き、ドリーミ

ング(創世神話)に登場する動物や精霊、

狩人などを描いた岩壁画の制作がおこなわ

れた。岩壁は、オーストラリア北部アーネ

ムランドの聖地イニャラック山をモデルに

作られた合成樹脂製である。画は芸術作品、

岩壁はレプリカという二面性を有する特異

な資料であり、展示場でも存在感を示して

いる。

古代エジプトの石碑

言語展示場の入口には、古代エジプトの

石碑のレプリカがふたつ置かれている。い

わずと知れたロゼッタ・ストーン、そして

博物館や美術館で「レプリカ」あるいは

「複製品」と書いてあると無意識にとおり過

ぎてしまう、そんな経験はないだろうか。

レプリカ(replica

)は、イタリア語で「繰

り返し」を意味する。元々は、原作の作者

が同じ方法や形式で製作したものを指した

が、現在では作者は問わずに原作を模した

もの一般を指し、複製品と同義で用いられ

る場合も多い。

みんぱくの展示場には、レプリカ(複製)

として展示されている資料が少なからずあ

る。それらは、現地から離すことのできな

い信仰の対象や、国外にもち出すことが禁

じられている考古資料、そのままでは置く

ことができない食料の類いであったりする。

ひとえにレプリカといっても、その背景や

作られ方はさまざまである。ここでは、考

古的性格を有するレプリカ資料四点の来歴

を追ってみたい。

モアイ像

モアイは、太平洋の孤島であるイース

ター島で作られた巨石像である。チリ政府

によって輸出が禁じられているモアイを展

示するため、一九七七年にみんぱくはレプ

リカを購入した。一九五〇年代後半に同島

で考古調査をおこなった人類学者ウィリア

ム・ムーロイ氏の指導・監修のもとで製作

されたレプリカである。約九〇〇体あると

ある。ときに、実物からは失われてしまっ

た情報を含んでいる場合もある。レプリカ

のもつ背景や情報を探りながら、みんぱく

の展示場を回ってみるのも一興であろう。

近年、三次元計測機器や三次元プリン

ターの普及により、レプリカ製作の目的や

方法が多様化してきている。みんぱくでは、

資料を三次元プリントし、視覚障害をもつ

方が触って学ぶことのできる案内パックの

作成を進めており、なかにはレプリカ資料

を三次元プリントし、レプリカのレプリカ

として活用する例もある。レプリカは展示

のみならず、博物館資料の研究や保存にも

さまざまに用いられており、今後その存在

感はより一層増していくに違いない。

〈本館展示場〉

観覧券売場

恵比須(左)とその3次元プリント(右)(恵比須は2019年9月ごろに展示場へ再演示予定)

①②

③④

その他のレプリカ資料(一部)①アステカの暦石(H0009490、アメリカ展示)②パン各種(ヨーロッパ展示)③儀礼用家屋の柱(H0202338ほか、東南アジア展示)④食膳(H0095241ほか、朝鮮半島の文化展示)⑤タシュケントの民家(模型縮尺 1/10) (H0105532、中央・北アジア展示)⑥熊送り用祭壇模型(H0273159、アイヌの文化展示)

言語展示

オセアニア展示「島での暮らし」/「先住民のアイデンティティ表現」セクション

モアイ(チリ、H0009519)

複製した岩壁に描かれたドリーミング(オーストラリア、H0140421)

ロゼッタ・ストーンと夢の碑(エジプト、H0037549、H0037550)

16 17 2019 年 9月号