ユーザー目線で発想できる オープンな組織をつくり、成長を期す ·...

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ニュートップ L. 2013.January.No.40 なぐら やすひろ 現場中心の斬新なアイデア によるユニークなコンサル ティングを行なっている。 『緊急! 販売戦略会議』 『主任、係長、プロのルール』 など著書多数。 http://www.imdc.co.jp/ スイングドアやスライドドアなど特殊な分野でシェア80%を誇るユニフロ ー。安定した成長に加速をつけるために、ユニークな手法で社内改革、営業 力強化に取り組んでいる。その先頭に立つ石橋さゆみ社長に、営業力向上の 秘訣を聞いた。 ユーザー目線で発想できる オープンな組織をつくり、成長を期す ㈱販売開発研究所 代表取締役社長 名倉康裕 株式会社ユニフロー 社長 石橋さゆみ トップセールス 究める 13 ◉聞き手 使使使西

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Page 1: ユーザー目線で発想できる オープンな組織をつくり、成長を期す · リーンで、ワンタッチでショーケースをイトカバーというのは巻き込み式のスクた提案がらみの営業です。

��ニュートップL. 2013.January.No.40

なぐら やすひろ現場中心の斬新なアイデアによるユニークなコンサルティングを行なっている。『緊急! 販売戦略会議』『主任、係長、プロのルール』など著書多数。 http://www.imdc.co.jp/

スイングドアやスライドドアなど特殊な分野でシェア80%を誇るユニフロー。安定した成長に加速をつけるために、ユニークな手法で社内改革、営業力強化に取り組んでいる。その先頭に立つ石橋さゆみ社長に、営業力向上の秘訣を聞いた。

ユーザー目線で発想できるオープンな組織をつくり、成長を期す

㈱販売開発研究所代表取締役社長     名倉康裕

株式会社ユニフロー 社長 石橋さゆみ 氏

トップセールスをプセプ ル究める

第 13 回

◉聞き手

││御社の事業内容をお聞かせください。

 

スーパーやコンビニのバックルームと

売場を仕切っている少し特殊な扉があり

ますね。台車、ワゴンなどを使っての作

業がしやすいように表と裏の両面から開

いて、自然に閉まる扉です。これが当社

の主力商品であるスイングドアで、国内

のシェアの約八〇%を占めています。横

開きのスライドドアも手がけています。

こちらは、もともと病院向けに開発され

た商品ですが、近年は食品工場などでも

使われるようになっています。

 

もう一つの事業の柱が高速シートシャ

ッターです。これは透明のビニール製の

シャッターで、フォークリフトなどが近

づくと高速で自動的に開閉するため、衛

生管理や温度管理の厳しい工場、倉庫な

どでニーズがあります。

││スイングドアはスーパー、コンビニにお

いて必需といえますし、シェア八〇%という

のはすごいですね。

 

当社の設立は一九六五年で、輸入会社

としてスタートしました。当時、スーパ

ーは店舗数も少なく、設備も整っている

とはいえませんでした。アメリカでスー

パーを視察した人から、現地で使われて

いたスイングドアの輸入はできないかと

いう話が持ち込まれたのがきっかけで、

取扱いを始めました。当初は輸入してい

ましたが、納期に即応できるよう、八〇

年ごろから自社で生産するようになりま

した。店ごとにサイズが異なるオーダー

メイドですから、大手が参入しにくいこ

ともあり、高いシェアを保っています。

壁を壊して、一本のレールに乗せる

││社長に就任されたのはいつごろですか。

 

六年前です。ユニフローは父がつくっ

た会社で、アメリカの大学に留学してビ

ジネスを学んだ私は、卒業後も父と一緒

に渡米して商談の場などに同席していま

した。結婚して関西に移りましたが、月

に一回は上京して役員会議へ出席してい

ました。父が亡くなったとき、私は子育

ての真っ最中でしたので、手が離れるま

で、父の右腕だった社員にリリーフをお

願いしました。そして二〇〇七年の二月、

意を決して社長に就任したんです。

││社長の立場で会社を見て、営業について

はどういった印象をもちましたか。

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�� ニュートップL. 2013.January.No.40

トップセールスを究める

 

ある程度予想はしていましたが、経営

環境は厳しくなってきていると感じまし

た。というのも、当社がスイングドアを

扱い始めたころから全国でスーパーの出

店ラッシュが始まり、これが一段落する

とコンビニの出店ラッシュへと移行して

いきました。時代の流れに乗っていただ

けで、営業力で「売っていた」のではな

く、「売れていた」のですね。そんな流

れにどっぷりと浸かっていて、営業面で

も生産面でも甘さが目立ちました。

││スイングドアの販路開拓や販売手法で

は、具体的にどのような営業活動をしている

のでしょうか。

 

当社のお得意先は、シャッターメーカ

ーやサッシメーカーで、ゼネコンから渡

された建物の図面をもとに打ち合わせを

して、ドアの図面をつくっ

てモノづくりに着手しま

す。本来なら打ち合わせの

段階から様々な提案をしな

くてはならないはずです

が、ここが不十分でした。

ゼネコンやエンドユーザー

から営業担当者が現場の状

況やニーズを把握するとい

った情報収集ができていな

かったんです。その点をあ

らため、お得意先としっか

りとコミュニケーションを

取り、「WIN-

WINの関係を築く」と

いうコンセンサスをつくったうえで、パ

ッケージ販売をめざすようになりまし

た。

││スイングドアだけではなく、他の商品も

併せて販売しようということですか。

 

そうです。私たちもエンドユーザーの

現場について勉強し、ユーザーの視点で

問題点をピックアップして、新しい商品

を提案していきました。たとえば、住宅

地に立地しているユーザーであれば、裏

口とかゴミの搬出口に高速シートシャッ

ターを取りつけることで、音や臭いを外

に出さないようにする。あるいは、閉店

後やお客様の少ない深夜に、オープンタ

イプの冷蔵ショーケースを「ナイトカバ

ー」で覆うことで省エネをはかるといっ

た提案がらみの営業です。ちなみに、ナ

イトカバーというのは巻き込み式のスク

リーンで、ワンタッチでショーケースを

カバーできる、新商品です。

││商品のラインナップにも注力し、営業力

の強化を図られたのですね。

 

ドアやシャッターの見た目はシンプル

で改良の余地が少ないように思われるか

もしれませんが、素材を新しくするとか、

機能面で一工夫して強度を高めるといっ

たチャレンジはできます。様々な制約が

あるなかで、デザインをお洒落にしたり、

カラーバリエーションを増やしたりする

COMPANY DATA代表者:代表取締役社長 石橋さゆみ設 立:1965年5月業 種:業務用ドア、高速シートシャッターの製造、販売従業員数:160名年 商:41億6000万円所在地:東京都品川区事業所:工場1、営業拠点8、海外関連会社1(中国)URL:http://www.unifiow.co.jp/

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ことで、店舗のデザインとマッチさせる

など、既存の商品でも新しいシリーズを

ラインナップに加えていますし、マイナ

ーチェンジも頻繁に行なっています。

││それを可能にするには、組織改革や社員

の意識改革も必要だったのではないかと思

いますが。

 

そうですね。従来の新商品開発は、開

発部門の仕事で、営業はできた商品を販

売するだけ、工場ではつくるだけという

流れで、それぞれのセクションで壁がで

きていました。これを取り除くために、

半年ほど前、技術部から生産・営業・施

工・メンテナンスまでを一本のレールの

うえに乗せました。

 

まず、プランをつくる段階から、すべ

ての工程について、開発、営業、生産の

代表者が、それぞれの立場から意見を出

し合います。次にそのポイントを集約し

たものを一枚の大きなフローチャートに

して、オフィスの目立

つところに貼り出し、

全員に周知徹底しま

す。このフローチャー

トで進捗管理をしなが

ら、新商品開発に取り

組むようになって組織

間の風通しがよくな

り、開発期間も三分の

一になりました。開発

や生産からは「施工まで提案できるので

はないか」という意見が出たことをきっ

かけに、営業は施工・メンテナンスまで

含めて提案するようになっています。

体質改善はボトムアップで

││営業と生産の間には壁があって、風通し

がよくないという会社は少なくないのです

が、そういった面が解消されたわけですね。

 

ずいぶん改善できたと思っています。

コミュニケーションの場を設けて、それ

ぞれが日頃から思っていることを率直に

話し合うことの大切さは痛感していま

す。たとえば、生産部門にお客様との打

合せ内容を図面化するスタッフがいま

す。営業は、情報が豊富にあれば、図面

もつくりやすく、よりよいものができる

に違いないと考え、入手したあらゆる図

面、データなどを作図スタッフに渡して

いました。ところが、作図スタッフの側

は、すべての情報に目を通すだけでも時

間がかかるうえ、何のために渡された情

報かわからないものもあり、確認が必要

になるケースも多々出てきます。そうし

た実情が営業に伝わり、営業は情報を取

捨選択して、必要な情報だけを渡すよう

になり、問題は一挙に解決されました。

結果として、作図のための時間が短縮さ

れ、より的確な図面が上がってくるので、

営業もお得意先との折衝に専念できるよ

うになりました。

││それぞれの思い込みで仕事をすると仕

事量が増え、会社全体の生産性は下がりま

す。それを解消するにはコミュニケーション

が必要になるということですね。

 

でも「コミュニケーションをとろう」

と掛け声をかけるだけではダメですね。

当社では、全国の営業所長と、各セクシ

ョンの部門長が集まる会議が終わってか

ら、ゲーム感覚でコミュニケーション能

力を高める「ワールド・カフェ」を開く

ようにしています。これはお茶とお菓子

を置いた複数のテーブルを用意してリラ

ックスした雰囲気のなかで、各テーブル

に五、六名で部門の異なる人がグループ

をつくり、全体で一つのテーマを決めて、

自由に意見を出し合います。テーブルご

とにどういった意見が出たのかを紙に書

き出し、二〇〜三〇分経ったら、テーブ

いしばし さゆみ1956年東京都生まれ。89年取締役、2006年代表取締役副社長、07年より代表取締役社長。

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トップセールスを究める

ルオーナーだけテーブルに残って、他の

メンバーはバラバラに違うテーブルに移

り、これを繰り返していきます。こうす

ることによって、部門や立場、そして一

人ひとりの考え方、意見、やり方などに

違いがあることを理解していきます。こ

のような手法も取り入れながら、できる

だけボトムアップで会社の体質改善を図

っていこうとしています。

 

一番わかりやすい例は改善活動です。

どちらかといえば、従来は個人レベルの

細かなところに目が向きがちでした。も

ちろん、小さな改善の積み重ねも必要で

すが、それよりも部門のなかで、あるい

は部門と部門の間でボトルネックになっ

ている問題点をみんなで協力して解消し

ていったほうが、はるかに生産性が上が

ることに全員が気づき始めました。部門

内の問題であれば、「手伝いましょうか」

という声を、部門間の問題であれば、「こ

こまでは私がやりますから、ここから先

はお願いします」といった言葉を掛け合

うシーンが増えてきました。

 

私は、トップダウンでいろんなことを

決めるのではなく、ボトムアップで社員

全員が経営への参画意識をもち、仕事に

関してはみんなが同じ方向を向くこと

で、組織力が発揮できる会社にしたいと

考えています。その方向を示すのが私の

仕事で、そこから先をどうするのかの決

定権は、各営業所の責任者に、生産なら

工場長に渡していこうとしています。

││みなさんでお客様を知り、商品を知り、

会社を知る。ビジネスの基本をしっかりやっ

ていこうということですね。

 

基本がしっかりとできていなければ、

何をやってもうまくいかないと思いま

す。一例として、新しい商品ができ上が

ったときに、開発から営業へ「このよう

な商品で、いついつから販売できます」

といった情報を出すわけですが、その際

の項目として、エンドユーザーの視点か

ら見たその商品のセールスポイントを必

ず入れています。

 「代理店からの視点」、「施工業者から

の視点」といった項目もあり、マーケッ

ト、売り方、安全性、コスト効率など、

営業の担当者がお得意先や中間業者にき

ちんとした提案ができるようになってい

ます。営業が提案営業やパッケージ販売

に専念し、他の部門はしっかりとバック

アップする。これを当社のビジネスベー

スにしようとしているのです。

││営業も、モノづくりもお客様の視点から

発想していくということですね。

 

私は業界の専門的なことがわからなか

ったので「教えてもらう」というスタン

スでここまできました。それと同じよう

にお得意様やお客様に対しても相手の立

場に立って説明してくださいね、といっ

たイメージです。商品カタログについて

も、当社が訴えたいことを載せるのでは

なく、お客様の知りたいことを載せると

いう方向に転換しつつあります。

││今後の営業戦略をお聞かせください。

 

国内のマーケットは成熟期を迎えてい

ますので、来年度から本格的に海外進出

の準備に着手したいと考えています。

 

直近の計画では、設立五〇周年にあた

る二〇一四年に五〇億円の売上を目標に

しています。達成の暁には、社員全員で

ハワイに行くことを掲げていて、「みん

なでハワイに行こう!」が合い言葉にな

っています。もちろん、五〇億円は通過

点の一つで、その次は一〇〇億円をめざ

します。とはいえ、あせらず、社員が楽

しみながら仕事ができる環境をつくり、

一人ひとりの成長を促していくことをベ

ースに、目の前にある目標を着実にクリ

アしていきたいと考えています。