アトピー性皮膚炎 -...
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アトピー性皮膚炎は乳児から成人まで発症する頻度の高い疾患で、その患者数は約37万人と言われています。従来のアトピー性皮膚炎の外用療法は、症状が悪化した時は抗炎症外用薬によって炎症を抑え、改善後は保湿剤によるスキンケアで悪化を予防する、いわば、『リアクティブ療法』です。一方、『プロアクティブ療法』は急性期治療後の皮疹が消えた後も目に見えない炎症が残存していると考え、週2回程度の抗炎症外用薬を定期的に外用することで、再燃を防ぎ、長期間無症状の状態を維持することを狙ったものであり、最近注目されている治療法です。
アトピー性皮膚炎プロアクティブ療法のすすめ
監修:大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター皮膚科 主任部長
片岡 葉子 先生
プロアクティブ療法とはアトピー性皮膚炎の抗炎症を目的とした治療では、従来は目に見える皮疹にステロイドやタクロリムスなどの抗炎症薬の外用を集中的に行い、皮疹がなくなれば保湿剤に切り替え、皮膚症状が再燃した時点で抗炎症外用薬を用いる手法が、一般的に広く行われてきました。これをリアクティブ療法といいますが、この方法では、短期間で再燃を繰り返すことが多く、長期間にわたって症状のない状態を維持することは困難でした。プロアクティブ療法は、まず集中的にステロイドなどの外用治療により皮疹の寛解を導入し、その後は、以前皮疹のあった部位に間欠的に抗炎症薬の外用を行い、その他の日には保湿剤を外用するというプロトコールで行う、アトピー性皮膚炎の再燃を抑制することを目的とした長期維持療法です。プロアクティブ療法は、①目に見えない炎症を抑えられる、②再燃のリスクを低くし、寛解維持の期間を長く延ばすことができる、③再燃時も早めに対処できるので、総合した外用薬の量も少なく済むという利点があります。
皮疹が消え、皮膚が一見正常に見えても、皮膚の下では炎症が残っていることもあります。定期的に、間欠的に外用薬を塗ることによって、炎症をコントロールしながら、再燃を防ぎ、長期間にわたって皮疹の無い状態の維持が期待できる療法です。
皮疹が悪化したときに抗炎症外用薬を塗布し、ある程度皮疹が改善したあと保湿によるスキンケアに切り替えます。炎症が再燃したときに抗炎症外用薬を再塗布する従来の療法です。症状が時々出没する軽症例ではこの方法が適していますが、頻回に再燃を繰り返す例では、これでは、コントロール不良となります。
重い
外用薬使用
軽い
症状の程度
重い
軽い
症状の程度
症状は無いが炎症が残っている皮膚症状は無いが炎症が残っている皮膚正常な皮膚正常な皮膚
外用薬使用
悪化
プロアクティブ療法とリアクティブ療法の比較
リアクティブ療法
プロアクティブ療法
悪化
悪化
悪化悪化
症状は無いが炎症が残っている皮膚症状は無いが炎症が残っている皮膚正常な皮膚正常な皮膚
症状は無いが炎症が残っている皮膚正常な皮膚
症状は無いが炎症が残っている皮膚正常な皮膚
プロアクティブ療法の実践とTARC検査の測定タイミングについてプロアクティブ療法は、前述の通り炎症が治まった後も間欠的に定期外用を塗布する方法であるため、目には見えない炎症を確認しながら適切な治療を行うことが求められます。血清TARC値は、アトピー性皮膚炎では他の疾患と比べて高値を示し、アトピー性皮膚炎の重症度を明確に反映する血清マーカーです。また、アトピー性皮膚炎の重症度や病勢の参考となる他の病勢マーカー(LDH、総IgE、末梢血好酸球数)と比較して、TARCは治療によるアトピー性皮膚炎の病勢を短期的に鋭敏に反映することが、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(日本皮膚科学会誌)に記載されています。
TARC測定を併用したプロアクティブ療法の例を、1:寛解導入、2:維持、3:漸減と3段階に整理してまとめました。まず、全身の皮膚をよく観察し、治療開始前の皮膚症状を正確に把握するとともに初期病勢をTARC検査により評価し、抗炎症外用薬により寛解導入療法を実施します。そして全身を見てもさわっても皮疹ゼロの状態にしてから、抗炎症外用薬の外用頻度を再考し、一部タクロリムスに変更するなどして維持療法へと移行します。この際、成人であれば1ヵ月に1回のTARC検査で正常値レベルをモニターしながら治療を進めることが確実な方法ですが、小児では頻回の採血は困難と思われますので、最低限必要と思われるタイミングを図に示しました。寛解維持療法から抗炎症外用薬の漸減のステップに移行する際に、特に重症例では、1ステップ漸減した後、1~2ヵ月様子を見て、再度TARC値を確認し、正常値付近なら次のステップへと、慎重に移行することが望まれます。
皮膚の状態とTARC値の関係
1)玉置 邦彦ほか : 日本皮膚科学会雑誌, 2006, 116(1), 27-39より引用 2)藤澤 隆夫ほか : 日本小児アレルギー学会誌, 2005, 19(5), 744より引用
提供 : 片岡 葉子先生
提供:片岡 葉子先生
TARC測定を併用したプロアクティブ療法:外用薬の使い方「1・2・3」
重い
軽い
症状の程度
高い
低い
TARC値
TARC値の変化TARC基準値
成人1) 小児2)
(2歳以上)小児2)
(1歳以上2歳未満)小児2)
(6ヵ月以上12ヵ月未満)
450pg/mL未満 743pg/mL未満 998pg/mL未満 1,367pg/mL未満
再燃再燃
再燃
1. 寛解導入
湿疹
2. 維持 3. 漸減
見ても、さわっても皮疹ゼロTARC基準値以下を維持
TARC基準値
2 3抗炎症外用薬(ステロイド・タクロリムス)
TARC測定の意義とタイミング
1
初期病勢評価 治療成果の客観的評価 薬剤減量評価 治療終了評価
外用薬の漸減評価
:TARC測定のタイミング(黄色は必須)
プロアクティブ療法の実践とTARC検査の測定タイミングについて
アトピー性皮膚炎の重症度群間における、血清TARC値および他の検査値の比較
成人におけるTARCのエビデンス
小児におけるTARCのエビデンス
血清TARC値は、アトピー性皮膚炎の各重症度群間において有意差を認めます。従来の血液検査に比べて、アトピー性皮膚炎の重症化に伴い顕著に上昇します。
小児アトピー性皮膚炎の臨床評価に関して、アトピー性皮膚炎の皮膚病変をモニターする上で日常の臨床検査として有用であるとともに、ガイドラインに基づく治療選択の一助となると考えられます。
玉置 邦彦ほか : 日本皮膚科学会雑誌, 2006, 116(1), 27-39より引用
藤澤 隆夫ほか : 日本小児アレルギー学会誌, 19(5), 744(2005)より引用
コントロール群およびAD患者の重症度毎における血清TARC/CCL17値(2歳以上)
AD患者の重症度毎における各検査のカットオフ値(血清TARC/CCL17:669pg/ml, 好酸球数:5.3%)
に対する比(2歳以上)
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
血清TARC/CCL17(pg/ml)
平均値±SD
p<0.01 p<0.01 p<0.01
2.0
4.0
6.0
8.0
比率
血清TARC/CCL17好酸球
304±224 595±415
1,274±1,617
4,188±6,629
0.8 0.8
1.81.2
6.2
2.0
コントロール(n=46)
軽症(n=25)
中等症(n=23)
重症(n=15)
0.0軽症
(n=25)中等症(n=23)
重症(n=15)
※血清TARC/CCL17:450pg/ml LDH:200U/l 好酸球数:6%
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
血清TARC/CCL17(pg/ml)
213±121
平均値±SD
503±422
1,363±1,388
4,484±6,452
p<0.01 p<0.01 p<0.01
2
4
6
8
10
12
カットオフ値に対する比
血清TARC/CCL17LDH好酸球数
1.1 1.0 0.90.5 0.8 0.3
3.0
1.2 1.2
10.1
1.7 2.0
健常者およびアトピー性皮膚炎患者の重症度毎における血清TARC/CCL17値(18歳~64歳)
健常者およびアトピー性皮膚炎患者の重症度毎における各検査値のカットオフ値※に対する比(18歳~64歳)
健常者(n=135)
軽症(n=64)
中等症(n=89)
重症(n=38)
0軽症
(n=64)健常者(n=135)
中等症(n=89)
重症(n=38)
AD:アトピー性皮膚炎 コントロール:正常対照者
1983年1983年1985年1996年1999年2003年 2006年2011年
広島大学医学部卒業広島大学医学部附属病院皮膚科研修医大阪船員保険病院皮膚科勤務大阪府立羽曳野病院皮膚科医長同皮膚科部長同病院改称 大阪府立呼吸器アレルギー医療センター皮膚科部長同皮膚科主任部長同アトピーアレルギーセンター長(兼任) 現在に至る
初診時異常高値を示した血液検査のうち、LD、好酸球数は正常化、血清TARCも著明に改善しているが、まだ正常域ではなかったため、さらに1ヵ月間初診時の外用を継続した。2ヵ月目にTARCの正常化と皮膚症状の再燃のないことを確認後、当初の外用範囲と同じ範囲に、同じ薬剤のまま、1回/2日外用とした。3ヵ月後もTARCおよび皮膚が正常であることを確認して、同様に2回/週と外用回数を減数、TARCの正常維持を確認しながら、7ヵ月目から1回/週と減数。9ヵ月目以降、定期的な外用を終了とし、再燃のある部位に早めに外用するreactiveな外用としたが、ステロイド外用はほとんど必要とせず、保湿剤のみで略治が維持された。
30歳代、男性。約1年前から瘙痒性紅斑が出現。ステロイド外用薬を外用しているが改善せず、次第に拡大し、夜間も瘙痒で覚醒するようになり、当科受診。写真に示す範囲全体にステロイド外用を指示した。1ヵ月後、紅斑および瘙痒は消失した。
アトピー性皮膚炎の治療は、早期に寛解導入し、再燃のないことを確認しながら抗炎症外用薬を漸減することが重要です。
外用薬などの塗り方が上手くいっているかどうかの確認をすることができます。
皮膚の状態が検査値で表されるため、目に見える治療目標を持つことができます。
見た目がよくなってもTARC値が基準値以上の場合は、目に見えない炎症が残っていることがわかります。
定期的に検査を実施し、適切な治療を行うことで、皮疹のない状態を長期間維持できることが期待できます。
異常高値は専門医に紹介する目安となります。
TARC検査の有用性と症例例示
大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター皮膚科 主任部長 片岡 葉子 先生
免疫学的検査判断料 144点(D026 5)
〈算定における留意事項〉TARCは、血清中のTARC量を測定する場合に月1回を限度として算定できる。(保医発0305第1号 平成30年3月5日より)
症 例
検体検査実施料TARC 189点(D015 19)
検体検査判断料
監修者プロフィール
※注:すべての症例が同様の経過をとるわけではありません。病歴、皮疹の性状等によって異なりますので、個々の症例に応じた診療が必要です。
TARC検査により
TARC検査は保険適用です
1ヵ月後
ステロイド外用薬
保湿剤
ステロイド塗布範囲
LD好酸球(%)TARC
初診時30819.14,480
1ヵ月後2057.5701
2ヵ月後18610.7353
3ヵ月後1699.1342
4ヵ月後1928.6362
5ヵ月後18711.3308
7ヵ月後199̶ 369
9ヵ月後18011217
1回/日 1回/2日 2回/週 1回/週
日本・東アジア地域本部
P1608050_1410_1608II