インサイダー取引規制 : 証券投資論と重要事実 url right...(117)...

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一橋論叢 第114巻第1号 平成7年(1995年)7月号 (116〕 VlV 皿皿I目 肘iiiiii インサイダー -証券投資論と はじめに アメリカの判例・学説と本稿の射程 証券投資論的アプローチ イベント・スタディの概念 測定期間 予想収益 統計的有意概念 マク回ス事件の分析 むすびにかえて 1 はじめに 従来わが国においては、会社役員等のいわゆるインサ イダーが、一般にはまだ知られていないような会杜内部 の情報を利用して、当該会社の株式を売買 り利益をあげたり}損失を未然に防いたりする 役得であると考えられ、非難されるぺき行為である 認識は薄かったようである。ところが、一九八七年の (工) テホ・ショックを契機として証券取引法が改正され、こ のような不公正な取引が取り締まられることとなうた。 インサイダー取引を規制する証券取引法一六六条は、 会社関係者(同条一項一号壬五号)および情報受領者 (同条三項)が、上場会社等の業務等に関する重要事実 を知りながら、その事実の公表前に当該会社の特定有価 証券等の売買を行うことを禁止している。そして、同条 二項においては重要事実として、決定事実(一号)、発 生事実(二号)、業績予想値の差異に関わる事実(三号) 116

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Page 1: インサイダー取引規制 : 証券投資論と重要事実 URL Right...(117) インサイダー取引規制 と思われる。これは、インサイダー取引規制における、

一橋論叢 第114巻第1号 平成7年(1995年)7月号 (116〕

VlV 皿皿I目肘iiiiii

インサイダー取引規制

   -証券投資論と重要事実-

次はじめに

アメリカの判例・学説と本稿の射程

証券投資論的アプローチ

 イベント・スタディの概念

 測定期間

 予想収益

 統計的有意概念

マク回ス事件の分析

むすびにかえて

1 はじめに

従来わが国においては、会社役員等のいわゆるインサ

イダーが、一般にはまだ知られていないような会杜内部

仮  屋

広  郷

の情報を利用して、当該会社の株式を売買することによ

り利益をあげたり}損失を未然に防いたりすることは、

役得であると考えられ、非難されるぺき行為であるとの

認識は薄かったようである。ところが、一九八七年の夕

     (工)

テホ・ショックを契機として証券取引法が改正され、こ

のような不公正な取引が取り締まられることとなうた。

 インサイダー取引を規制する証券取引法一六六条は、

会社関係者(同条一項一号壬五号)および情報受領者

(同条三項)が、上場会社等の業務等に関する重要事実

を知りながら、その事実の公表前に当該会社の特定有価

証券等の売買を行うことを禁止している。そして、同条

二項においては重要事実として、決定事実(一号)、発

生事実(二号)、業績予想値の差異に関わる事実(三号)

116

Page 2: インサイダー取引規制 : 証券投資論と重要事実 URL Right...(117) インサイダー取引規制 と思われる。これは、インサイダー取引規制における、

(117) インサイダー取引規制

が具体的に列挙され、それぞれ適用基準が政省令によっ

て詳細かつ具体的に規定されている。これらの他に、同

項四号においては、当該会社の運営、業務または財産に

関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影

響を及ぼすものが重要事実に当たるものとされ、重要事

実が包括的に定められている。

 このように、重要な事実のみがインサイダー取引の基

礎となる。そして、先に述べたように、証券取引法は、

ニハ六条二項一号⊥二号で重要事実を個別具体的に列挙

しているが、これのみで全てをカバーすることは到底不

可能である。そこで、バスケヅト条項として四号が設け

られているのである。

 現代の企業を取り巻く環境は、複雑化しており、一号

五二号に規定される典型的な重要事実には該当しないが、

投資者の投資判断に著しい影響を及ぽすような事実が出

現する蓋然性は極めて高いし、今後ますます高まるもの

   (2)

と思われる。これは、インサイダー取引規制における、

一六六条二項四号の適用の可能性が増大することを示唆

     (3)

するものである。このような認識から、本稿は、同号に

言う重要事実に関連して若干の考察を試みるものであ

る。

 一号⊥二号に列挙されているような事項はともかく、

いかなる情報が四号に言う重要事実に該当するのかとい

う判断に関しては、裁判所が事実認定を行うに際して困

難な間題を提供するものと思われるのであるが、わが国

においては、この判断についての判例が蓄積されていな

いことはもとより、学説により細かに取り上げられたこ

               (4)

ともほとんどない、という状況がある。

 そこで、わが国の証券取引法が母法とするアメリカ法

における情報の「重要性(∋算①ユきξ)」の判断に関す

る判例・学説を参考にしながら検討を加えることにする。

11

アメリカの判例・学説と本稿の射程

 アメリカにおいて最もオーソドクスな重要性の判断基

           (5)

準は、↓ωO-邑;巨鶉事件において連邦最高裁判所が

示した「合理的投資者(『竃8冨巨巴…①90『)基準」

であるといえる。それによると、ある事実が重要である

とされるためには、当該事実が開示されていたならぱ、

利用可能な情報の総体(ざ茎昌気)に重大な変更をも

たらしたであろうと合理的な投資者が判断するような相

117

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一橋論叢 第114巻第1号 平成7年(1995年)7月号 (118〕

               (6)

当の可能性が存在しなければならない、と定義されてい

る。これは、投資に関連する情報という観点から、イン

サイダーが所有する情報が重要であるといえるためには、

それが市場において合理的な投資者に取得され、証券の

発行会社に関する他の全ての入手可能な情報と総合的に

評価された場合に、当該証券の価値の再評価を伴うであ

ろうような情報でなくてはならないということを意味し

     (7)

ているのである。

                  (8)

 第二の基準は、↓異易Ω⊆罵旨吾巨『事件において連

邦第二巡回控訴裁判所によって示された「蓋然性と影響

度(肩Oσき≡q\昌鍔自;巨①)基準」である。この基準

に従うと、ある惰報が、アメリカにおいてインサイダー

取引規制の中心的役割を担う証券取引所法規則一〇b-

五の重要性の要件を満たしているかどうかは、ある事象

が起こる蓋然性と、もしもそれが起こった場合に当該事

象が会社の事業活動の総体に及ぽす影響度を掛酌して判

       (9)

断されることになる。裁判所は、合併というコンテクス

トでの規則一〇b-五違反訴訟において、しばしばこの

ような利益衡量に直面してきた。一九八八年の霊ωざ

        (m)

巨ρく.-①三冨昌事件においても合併交渉という箏実の

重要性が問題とされ、連邦最高裁判所によって蓋然性と

           (H)

影響度基準が採用されている。

 第三の基準も、証券問題について最も強い影響力を持

つといわれる、連邦第二巡回控訴裁判所によって示され

たものである。それによれば、重要事実とは、それが開

示された場合に、当該証券の市場価格に重大な影響を及

                       (㎜)

ぼすことが相当程度に確実とみられるようなものをいう、

とされている(市場効果(ヨ胃訂二昌寝9)基準)。同

様に、アメリカ法律協会(ALI)によって提示されて

いる連邦証券法典(勺&①邑ω8昌巨①ωOa①)におい

て、インサイダー取引とは、一般にはまだ知られていな

い「特別の意義を有する事実(30誌Oh名8邑色σq目昌-

○彗8)」に基づいて証券の売買を行うことであるとさ

れ、かつ、特別の意義を有するとは、証券の市場価格に

重大な影響を与える蓋然性がある場合が該当する、とい

        (旧)

う立場がとられている。

 いま、注意しておくべきは、これら三つの基準が互い

                 (M)

に排他的なものではないということである。たとえば、

霊ωぎく.g三冨昌事件において、連邦最高裁判所は、

蓋然性と影響度の基準を採用すると同時に、合理的投資

118

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(119) インサイダー取引規制

          (岨)

者基準をも採用している。同じく、↓買窒Ω自罵ω巨・

昌…事件において、第二巡回控訴裁判所は、上述の三

つの基準を全て採用することにより、情報の重要性を判

       (蝸)

定しているのである。

 ここで興味深いのは、三番目の市場効果基準である。

なぜなら、本稿において我々が問題とすべき重要事実は、

「投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」でなけ

ればならず、かつ、投資者の意思決定にとって最も重要

な要因となるのが市場価格であると思われるからである。

このように、特定の情報の市場価格へのインバクトとい

う点に着目した場合に、大きな手助けとなるのが、証券

投資論の分野において用いられている手法である。

 以上を念頭におき、この小稿は、証券投資論の分野に

おいて発展させられてきた手法が、情報の重要性の判断

という局面で、どのように利用され得るのかということ

について議論を行いたいと思う。

III

証券投資論的アプローチ

i イベント・スタディの概念

証券投資論において、証券価格への情報のインパクト

を調べるためにしばしば用いられる手法が、イベント・

スタディ(①く①葦ω巨oく)である。イベント・スタディ

は、証券の収益が新しい情報に対していかに反応するか、

ということを決定するための経験的手法なのである。そ

して、この特質ゆえに、イベント・スタディは、効率的

資本市場仮設(①雪oざ鼻8旦冨-目彗ぎ↓ξ℃o;鶉色

                    (π)

の検証手段としての役割をも担ってきたのである。

 イベント・スタディのコンセプトは極めて単純である。

証券の価格がどの程度に情報に対して反応するかという

ことを検証するため、情報が市場で入手可能となった時

点での、ある期間における証券の収益(現実の収益一

g↑量;①巨;)が、当該情報が存在しなかったならば

得られたであろう収益(予想収益一肩&巨&S巨ヨ)

とどれほどの乖離(超過収益一き■o『昌凹;①ε;)が見

られるか測定してみようというのである。要するに、情

報の開示日が特定され、当該情報以外には証券発行会社

に関する情報が市場に流布されていない限りにおいて、

証券の収益に対する情報のインバクトが、この乖離によ

って測定されるというわけである。そして、測定された

華離が、偶然に生じたものであるか、それとも当該情報

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一橋論叢 第114巻第1号 平成7年(1995年)7月号 (120)

の影響を受けて生じたものであるのかを統計的に検証す

   (咽)

るのである。

 以下本節において、具体的手順を説明する。

 i 測定期間

 イベント・スタディを行うにあたっての第一の手順は、

特定の事象(2雪一)に関する情報が、分析の対象とな

っている企業の株価に対してインパクトを与えたであろ

う期問(測定期間一婁彗↓三邑o冬)を特定することで

ある。測定期間の長短の決定に際しては、重大なトレー

ド・オフが伴う。測定期間を長くとれば、情報が市場で

十分に吸収されることになる。他方、測定期問を長く設

定するということは、当該事象以外の事象(8ミ昌己・

一晶彗雪け)に関する情報のノイズにより影響される確

率が高くなる危険を孕んでいる。つまり、当該事象の独

立したインパクトを測定することが困難になるわけで

 (19)

ある。

 測定期間の決定に伴う困難の度合は、検証される事象

、ことに程度の差がある。合併などのように、情報が事前

に洩れやすい事象の場合、どの時点を測定期問の開始時

とするかは問題である。このような場合には、現実の合

併情報の開示の日よりも以前の時点から測定期間が開始

されることになる。これに対して、インサイダー取引の

ように、投資者によって利用される情報が、単一的に開

示されて市場に吸収されていくような場合、上述の困難

       (加)

はほとんど生じない。

 一方、測定期間の終了時の決定は、開始時の決定より

も容易である。なぜなら、市場は情報を迅速に取込むの

で、情報の開示日以後比較的短い期間を以て測定期間の

終了時とすることができるからである。通常は、開示が

あった日の翌日の取引の終了時点を測定期問の終了時と

          (加)

することが多いようである。

 一m 予想収益

 次の手順は、当該事象周辺の株価のパフォーマンスの

検討である。すなわち、当該事象の周辺で異常な株価の

変動が存在するかどうかを調ぺるわけである。市場でそ

の事象に関する情報が入手可能となった時に、異常な株

価変動が観察されたという事実は、当該事象が確認され

た異常な株価変動に影響を与えたことを示唆している。

さらに、同時期に、検討の対象とされている情報以外に

は新たに情報が市場に到達した形跡がみられないような

120

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(121) インサイダー取引規制

場合、その情報と異常な株価変動の関連は更に強いもの

     (η)

と推認される。

 株価の変動は、株式の投資収益(率)によって測定で

きる。株式の収益は以下の式で表される。

          (23)

  き11(さ-)⊥)\)⊥

たとえぱ、ある株式の価格が、期首において一〇〇〇円

であり、期末において一一五〇円だったとすると、投資

収益は、

  (旨9-昌8)\昌81-冨ま

と計算されることになる。

 次に、予想収益について述べる。株価の動向に注目し

ていると、市場が大きな上げ相場にあるとき、多くの株

式が同様に値をあげることが観察される。また、その逆

もしかりである。このことから、株式の収益は、大なり

小なり市場全体の動きと連動して変動しているのではな

いか、ということが容易に予想される。この点に着目し

て、証券投資論の分野において開発されたのが、市場モ

デル(目彗ぎ一冒oま一)である。このモデルは、個々の

株式の収益と市場全体の収益は線型一次の関係にあると

                   (刎)

仮定し、株式の収益は次のように表せるとする。

  完}u長十車完里十9

ぎ一兼洪{θ貢餅

完ヨ一吾鮪昨喜(書鮪沫-†、斗唱斗)θ黄獣

ξb∴強憎彊熟蹄菌煎叫小回諏Σ“y1、

㈹∴瑞眺温(冨aoヨ①胃o二①『昌)

 (璽煎贈昧・議蕩鴉賊【鳶蛾鵬さか砕θ)

     株式の収益を、

  §完量)と、

 (p+㎞一)とに分割していることが分・かる。

 市場モデルは、      市場全体の動きと関連

した部分      市場とは独立の当該株式に固有

の部分               前者

に属するところの凪が示すところは、それが係数の役割

を果たしていることからも理解できるように、市場ポー

トフォリオが一単位変動した場合に、株式・oの収益がど

れだけ変動するかということを表す値である。また、仏

は市場ポートフ才リオの収益に変動がない場合、平均的

にどれくらい株式.-の収益に変動があるかを示す値で

(蛎)

ある。

 具体的に説明しよう。いま株式・-に関して、一月あ

121

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一橋論叢 第114巻 第1号 平成7年(1995年)7月号 (122)

たり、市場に変動がないとき株価がO・六五%下落し

(§n-o.3)、市場が一%上昇するのに伴い、一.三%

上昇s1冨)するのが観察されたとする。さらに、あ

る月の市場の変動に二二・二%の上昇がみられたとする。

この場合の予想収益は、

  -9竃十(一-ω×冨1N)11冨.蜆ま

というように算出されるわけである。また、この設例に

おいて、その月に実際に観測された株式.-の価格の上昇

が、三八・五%であったとしよう。そうすると、超過収

益は、

  ωoo.蜆--①-蜆1lNNま

ということになり、この数値によって情報のインパクト

         (26)

が測定されるわけである。.

 以上のようにして、現実の収益と予想収益との罪離が

測定されることになるのであるが、その罪離が、偶然に

生じ得るものであるのか、それとも異常なものであるの

かを検定することが必要となる。この検定には、統計的

な手法が用いられ、次款のテーマは、まさにこの点に関

するものである。

 ・w 統計的有意概念

 統計的な検定を行うことによって、観測された乖離が、

偶然には起こり得ないことが証明されれば、当該情報の

重要性が相当程度に推認されることとなろう。それでは、

投資収益に関して、統計的に有意である(ω一き娑8ξ

9oq目昌s葦)かどうかを検定するとはどういうことであ

ろうか。

 言うまでもなく、株式には騰落性(く〇一き=ξ)の高

い銘柄もあれば低い銘柄もある。店頭市場や二部市場の

ように、商いが薄い市場で取引されている銘柄が前者に

属するものであり、一部上場銘柄のようなものが後者に

属する。そして、騰落性は個々の銘柄によっても異なる。

このような特質から、騰落性が高い株式については、そ

れが低い株式におけるより、より大きな乖離が観測され

ない限り、意味があるものとは言えないことになるであ

ろう。これが、ごく単純化したものではあるが、乖離が

統計的に有意であるということの基本的な考え方である。

塑言すれぱ、当該乖離が、通常の変動幅として是認し得

るものであるのかどうか、もしそうであるとするならば、

それがどれくらいの確率で生じ得るものであるのか、と

いうことを検査することが総計的に検定するということ

122

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(123) インサイダー取引規制

の意味なのである。

 ある事象に関して観測された乖離が、統計的に有意で

あるかどうかを判断するために、通常は、測定期間の騰

落度と照合期間(8目旨〇一潟ユa)の騰落性向の比較が

行われる。照合期間は、検定の対象である株式が、特別

な事象に影響されていない場合の予想収益がどのくらい

であり、それを基準としたどれくらいの範阻に現実の収

益の測定値が散らばっているか(1-騰落性向)を決定す

るために用いられる。そして、その比較を通じて、当該

乖離が偶然に観測されたものであるとすれぱ、そのよう

なことは一体どれほどの確率で生じ得るものであるのか

が検証されるわけである。

 従って、まず行うべきは、照合期間における当該株式

の騰落性向を測定することである。この測定に一役かう

のが、標準偏差(g彗まa宗三き昌)という概念で

ある。

 ある変数の観測されたデータから、当該変数の標準偏

差(S)は次のように推計される。

     】貫-d咄

  ω一

      ミーH

甲簑、ぷ

この式から明らかなように、標準偏差は、平均的に、

各々の観測値が、平均値(昌①彗§;①)からどれほど

離れているかを示す指標なのである。平均値からの偏差

には、正.負両方のものが考えられるが、これによって

もたらされる計算上の不都合を回避するために、平方根

            (η)

が用いられているにすぎない。

 統計的検定においては、データが平均値の周りに、釣

鐘のような形で、左右対称に分布していると仮定される

ことが多い。つまり、正規分布(目o『昌巴皇ω巨;巨昌)

              (珊)

に従っていると仮定されるのである。正規分布は、平均

値と標準偏差の二つのパヲメータによって完全に決定さ

れ、次のような性質を有している。すなわち、確率変数

(sまo昌<彗冨巨①)が正規分布に従っているならぱ、

無作為に選ぱれた値が平均値から標準偏差一単位の範囲

内に含まれる確率は、六八・二七%であり、標準偏差二

単位の範囲内に含まれる確率は、九五・四五%である。

そして、標準偏差三単位の範囲内には、九七・七三%と

123

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一橋論叢第114巻第1号平成7年(1995年)7月号(124)

                    (鴉)

ほとんど全てのものが含まれることになるのである。し

たがって、           一

               (㎝)

  Nu(魑蟄禽ーギ芯商)\蝕掃葡喘

を求めて、当該観測値が平均値から標準偏差何単位分の

ところに存在するのかを検討することにより、それが通

常起こり得る事柄であるのかどうかが検定されることに

    (趾)

なるのである。

 経済学の分野において、一般的には、五%検定が採用

      (舶)

されることが多い。これによると、平均値からの隔たり

が、標準偏差一・九六単位より大きい場合に統計的に有

意であると判断されることになる。なぜならば、無作為

に選択された値が、平均値からこれ以上の乖離を以て存

在する確率は、五%にすぎないからである。この点を平

均値μ、標準偏差σをもつ母集団を例に説明すると以下

のようである。いま、この集団から取り出した任意の値

πが、特異な(H偶然には生じ得ない)ものであるかど

うかを五%検定によって調べる場合を考えよう。このと

き、zは平均値を中心として九五%の範囲に存在してい

れば特異なものではないと判断されるわけであるか

ら、

η㍍ゼ一一け㍗㍑蜆一

の範囲に工が存在していれば特異なものではないことに

(珊)

なる。もちろん、この基準よりも緩やかな一〇%検定

(隔たりが一・六七以上)や、さらに厳しい一%検定

(隔たりが二・五八以上)が用いられることもある。な

お、アメリカにおいては、五%検定または一%検定によ

る有意水準が満たされれば、統計的に証明度に達したも

                 (別)

のとされうる、と主張する学説も存在する。

 いずれの検定基準が用いられたにせよ、特定の情報と

結び付いた超過収益の異常性が統計的に認められたとい

う事実は、当該情報の重要性を示す一つの証拠となり得

るものであろう。w節においては、ここで説明した手法

を用いて実際の事例を検討してみることにする。

1V

マクロス事件の分析

 わが国において、インサイダー取引に関連する判例は

あまり見られないが、現行の一六六条(旧一九〇条の

二)が制定されて以来、正式に裁判が行われた第一号で

あるマクロス事件において、本稿の関心である情報の重

124

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(125) インサイダー取引規制

要性が問題とされている。まず、マクロス事件の概要を

振り返っておこう。

 東証二部に上場されている丁社(平成三年四月一日に

株式会社マクロスと社名変更)の専務取締役A(被告

人)は、平成二年九月一日に開催された臨時取締役会に

おいて、代表取締役社長Bより、同社の営業活動の中心

である電子機器部門の売上に計上されていた約四〇億円

が架空のものであること、そのため予定されてい杢冗掛

金の入金がなく、営業資金に当面約三〇億円のi不足が生

じることなど、会社の営業活動に支障をきたすべき事実

に関する報告を受けた。これらの事実が公表されれば、

丁社の株価が下落するものと考えたAは、自己および妻

名義の丁社株を売り抜けた。そこで、東京地検特捜部が

大蔵省証券局からの告発を受けて、証券取引法一九〇条

の二(現行ニハ六条)違反でAを東京地裁に起訴したの

が本件である。

 主位的訴因は、架空売上金計上の判明に伴う売上高予

想値の二三〇億円から一九〇億円以下への下方修正が、

報告され承認されたことをもうて重要事実に当たるとい

うものである(現行ニハ六条二聖二号)。そして、第一

次予備的訴因は、商品営業本部の売上高の大幅な減少が

確実視され、事業年度の売上高の予想値が二〇七億円以

下に減少することが明らかにされて、これが承認され、

売上高について、間近に公表した予想値の九〇%以下の

予想値が新たに算出されたことが重要事実に該当すると

するものである(同号)。さらに、第二次予備的訴因は、

臨時取締役会においてBから報告された事実が、現行の

ニハ六条二項四号にいう重要事実に当たるというもので

ある。

 本件において、裁判所は、主位的訴因・第一次予備的

訴因を認定せず、約四〇億円の架空売上と約三〇億円の

営業資金不足が丁社の規模に照らして会社の業務等に関

する重要な事実であって、投資者の投資判断に著しい影

響を及ぽすものに該当するとして、第二次予備的訴因を

認定した。

 本判決は、nで紹介した、合理的投資者基準と同様の

基準を用いて重要性を認定したものと評価する見解が

(35)

ある。その当否はともかく、裁判所が導いた結論は、概

ね妥当なものであったと言えよう。しかしながら、会社

の業務に関する重要な事実と、投資者の投資判断に影響

125

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一橋論叢 第114巻 第1号 平成7年(1995年)7月号 (126)

を及ぽす事実とは、必ずしも同値であるとは言えない。

この点、若干問題がある。それでは、マクロス事件で問

題となうた事実が投資判断に著しい影響を及ぽすもので

あったかどうかを、市場効果基準によって判断してみる

ことにしよう0

 まず、丁社のインサイダー取引が行われた周辺の事実

を時系列にそって確認しておく。

匡.N.㊤」

O.ωム

9塞(洪)

㊤.ミ

㊤.N00Lo.一

一〇』

雰畢漫講鳶肪d癌暗訣ト蝸撞甫

>嵩↓洋莱~哉皆(巨8Lωooo)

指暗訣ト礁θ毒歯序熾(竃o)

諦錨嵩播さ【錨欝(E来叫)

(庄渚叫,)

(艶o)    *()冨↓洋講粛高

 右から明らかなように、情報が公開されて一週間後に

初めて市場で値がつき、四〇〇円安を記録している。は

たして、これが統計的に有意な出来事であると言えるか

どうかが市場効果基準の関心事である。それではこの点

を検討してみることにしよう。

 はじめに、測定期問を決定しなければならないが、こ

れは情報開示が行われた日を開始時とし、市場で最初に

値がついた日を終了時とする、一週間という単位を測定

期間とすることにした。つぎは、乖離度を測定するため

に予想収益(刹ミーーミ十b島ミ)を求めるための式を決定

しなければならない。いうまでもなく完ミは’期の丁社

株の予想収益を示し、完ミは古期の市場収益を表してい

る。市場収益の算定に代表値として何を用いるかについ

ては、日経平均、東証株価指数(H0雪×)、日経五〇〇

平均などいくつか候補が考えられるが、本稿においては

↓O雪×を採用した。そして、標本は平成二年九月二六

日から一週間単位で約一年遡った平成元年九月二九日ま

               (36)

での期間における五四取引日を用いた。.

 それによると、丁社の予想収益は、

  刊冒HO含竃計十-lM竃。。竃完ミ…・:θ

によって算出されることがわかった。測定期間(九月

二六日壬十月二日)、の実測値を完塞士一、予測値を完暮士一

で表すと、乖離度は、完暮士一-剛塞士一で表せる。ここ

                  (37)

で、この場合の標準誤差をξとおくと、(肉暮士一-

126

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(127) インサイダー取引規制

-                  (鯛)

完暮士一)\ξは自由度五一のな分布に従うから、五%検定

によると、

  ‡[↓§蜆…(完暮士一-利↓一壬一)\ξ…、§巳1-ol旨

  つまり、

  完さ士一1ぎ曽ξ…完暮士一へ完暮士一十“昌曽ξ……◎

の範囲に完暮士一が存在していれぱ観測された乖離は異

常なものではないと判断されることになる。

 測定期間の市場収益については、おき士19昌o3が

観測された。これを①式に代入することにより、刊き士一

1-o.S竃8が得られる。そして、このときの標準誤差

(ξ)は、o■ミ冨塞であることが推計された。なお、自

由度五一のf分布の上側二・五%の値(“…蜆)は、

彗oべ塞Nである。これらの値を②式に代入することによ

り、

  IO.竃違ωへ完暮士)へO」竃N彗:…・㊥

が得られる。観測から実測値は、完さ士一1--9おo旨で

あることが確認されているが、これは③の範囲に存在し

  (39)

ていない。

 以上の結果から、観測された華離は、統計的に有意な

出来事であり、何らかの要因によってもたらされたもの

である、と考えたほうが自然であるということになる。

換言すれば、τ社の株価に影響を及ぽすべき丁社に固有

の情報が他に存在しない限りにおいて、臨時取締役会に

おいて報告された事項が丁社株の市場価格に影響を与え

たことを意味しているのであり、その影響度が乖離度に

示されていると考えられるのである。なおかつ、市場価

格への情報の影響度を示す指標と考えられる乖離度に相

当のものが観測されているという事実は、とりもなおさ

ず当該情報が、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす

ような、重要なものであったことを推認させることに他

ならない。V

 むすびにかえて

 これまで見てきたように、イベント・スタディの手法

は、インサイダー取引規制における重要性の判断に一つ

の指標を与えてくれるものである。けれども、株価変動

に依拠する証券投資論を用いた本稿のようなアプローチ

に対しては、次のような問題点が考えられる。

 その一は、わが国のインサイダー取引規制に当たって

は、それによって利益を得たというようなことが要件と

127

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橋論叢第114巻第1号平成7年(1995年)7月号(128)

         (仙)

されていないことである。証券取引における利益は、株

価の変動があってはじめて生じる。つまり、株価に変動

が見られなくともインサイダー取引が構成される余地は

あるわけである。このようなケースでは、本稿で紹介し

-た手法は無用のものとなる。しかしながら、インサイダ

ー取引の摘発は、株価に何らかの異常が観察されたこと

を契機に行われることが多く、現実には株価変動を伴う

ものが問題となり得る大半をしめるであろうことを考慮

すると、イベント・スタディの手湛は、やはりその有用

性を失うものではないと考える。

 その二は、:ハ六条二項四号も一号五二号までの規定

と同様に、会社の運営、業務又は財産に関する重要な事

実であることが第一の前提になっているにもかかわらず、

このアプローチは、この点に関して何も語っていないと

いうことである。しかし、このこともこのアプローチが

重要性の判断につき無力であることを意味しない。なぜ

なら、会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実で

あったとしても、それのみを以て当然に四号所定の重要

事実に該当するわけではなく、当該事実が投資者の投資

判断に著しい影響を及ぼすものであることも要件とされ

      (仙)

ているからである。そして、この二つの要件の峻別がマ

クロス事件判決の問題点であることは先述の通りである。

イベント・スタディのアプローチは、この第二の要件の

判断に関してその力を発揮することになるのである。

 その三は、事後的な株価(正確には株価それ自体では

ないのであるが)の変動を以て重要性判定の基準とする

ことが、結果論的に処罰の可否を決めることに繁がるの

           (〃)

ではないかという危慎である。しかし、重要性の要件が

満たされたからと言ってただちに処罰に結び付くわけで

はない。なぜなら、当該情報が重要であったことを行為

者が認識していたかどうか、という故意の要件が満たさ

れなけれぱならないからである。したがって、上述のよ

うな不都合は、主観的構成要件としての故意の要件によ

って絞りがかけられるべきものなのであり、重要性の問

題とは別個のものとして考察されるべきではないかと愚

うのである。そうであるとすれぱ、インサイダー取引の

客観的構成要件としての重要性の判断に関しては、事後

的な株価の変動を利用するイベント・スタディの手法を

用いて立証された事項が、少なくとも、事実上の推定と

して機能し得ると考える余地が生じよう。

128

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(129) インサイダー取引規制

 結局、以上のような問題点を考慮に入れても、イベン

ト・スタディのアプロiチは、重要性の判断に関してそ

の有用性を失うものではない。また、現行法において列

挙されている重要事実の株価への影響度は、企業規模や

産業、ことに異なり得るという点、さらには、会計方針の

変更によって、形式的には構成要件に該当しないが、実

質的には該当するようなケースが、規制の枠から抜け落

ちてしまう可能性がある点等が現行法の問題点として指

     (蝸)

摘されている。今後、これらを立法論的な課題として検

討する際にも、本稿で取り上げたアプローチが有用な視

点を提供してくれるものと思う。

 さらに、本稿においては考察の対象から除外したが、

イベント・スタディの手法は、インサイダー取引規制に

対してさらなる応用可能性を秘めている。例えぱ、今後

わが国においても、インサイダー取引についての損害賠

償制度を整備していく必要があると思うのであるが、そ

の考察に当たっては、損害とインサイダー取引との因果

                        (44)

関係の立証や原告の被づた損害額の立証の問題が生じる。

これらの問題についても、イベント・スタディの手法が

                      (蝸)

解決策を模索する足掛かりを与えてくれるのである。

 アメリカにおいては、証券取引委員会(SEC)の規

制活動にイベント・スタディが用いられたケースが五つ

          (蝸)

ほど見られるようである。わが国においても、今後の証

券取引規制を検討していくうえで、証券投資論等の隣接

分野の研究成果を取り入れる積極的な試みがなされる必

要があるのではないだろうか。本稿は、その試みのため

の第一歩である。

* 本稿の執筆に際しては、統計学上の概念について、千葉

 商科大学経済学科専任講師の伊藤康氏より多くの占こ教授を

 頂いた。ここに記して感謝したい。いうまでもなく、本稿

 の内容に関するありうべき誤りは、筆者のみの責任に帰す

 るものである。

(1)債券先物取引の失敗で巨額の損失を被ウたタテホ化学

 工業が、その事実を公表する前に、同社の取引銀行が持株

 を売り抜けて問題とされた事件。

(2) 昨年新聞やテレビで話題となった、日本商事株事件は

 その典型例である。本件の場合、ソリブジンの副作用によ

 る死亡情報(これは、一号五二号に掲げられる重要事実に

 は該当しない)が重要事実に該当するかどうかが大きな争

点となる。今後の行方が注目される。

(3) 本号が適用された事例として、マクロス事件がある。

129

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一橋論叢 第114巻第1号 平成7年(1995年)7月号 (130)

東京地判平成四・九・二五判時一四三八・一五一、金商九

 一一・三五。

(4) 事実の重要性の判断基準を扱ったものとして、並木和

夫「未決定事実の開示義務-事実の重要性の判断基準-」

法学研究六六巻=言三二二頁以下(一九九三)がある。

(5)↓ω〇一ま妄巨鶉L;く.之o『艘峯ξL冒-一§①O.ω.

 おoo(-彗oo).

(6)亀①d.ω.呉忘㊤-

(7)「彗oq雲o9片」畠巳o『↓冨ま長雰oq三きoP津-竃

 (-竃㊤)1

(8) ω向Oく.↓oメo眈O目罵ω目-oげ目’{〔二句.Nμoo蜆ω (N旦O-■

 冨竃)ら實F忌且①早ω違o.ω.㊤富(冨8).

(9)き-向-墨凹二{㊤.

(10) }饅色o-自ρく.-①く-自㎝O自’-oooω‘Oけoべoo (-㊤oooo).

(11) ;o。ω.Oヂo;o。ド合併というコンテクストで一〇b-

 五の適用が問題とされる場合、重要性の判断基準として、

 合併の原則部分が合意に達しているかどうかを要件とする

 判決もみられるが、本稿は、合併という事実の重要性判断

 に議論を限定することなく、重要性の一般的な判断基準を

 問題とするものであるから、この点には立ち入らない。

 ω①〇一 ω片四ヨ目 く-O『①o目σ①Hoq一 ①↓M 勺.No -H㊤① (ωHo O-[

 一〇〇0M)一司す冒≡ く-内一UoH蜆一饅α戸 oo-杜勺INα --㊤①(↓片ブ O-■

 -竃一).わが国においては、一定の合併が重要事実として

 規定されている(証券取引法ニハ六条二項一号ホ、軽微基

 準として、会社関係者等の特定有価証券等の取引に関する

省令一条四号)。

(12) 里彗己く.巨胴oq9↓印ζ}彗ω-昌’竃蜆『ぎ冨①L雷

 (ぎΩ「-竃o)1

(13) ↓ぎ>昌oユo昌-印ミー冨葦目員忌箒冨一ω8昌巨窪

 OO匝o-勺『OOOωo匝 Ob口9ψ- UH国津一〇〇中 蜆N0o-蜆M0 (-≦φ『oす -9

 ε富)1

(14) ζま訂=俸之①箒貸↓すΦ丙o-①o片曽;昌巨穿昌o苧

 -oω-自ω①o巨ユニoω句『}巨αO印ωo蜆一>OO=o回=Oコ眈凹一ωoo=ユ寸

 一窃彗O向誉す嘗需OO∋曽尉ωδ戸ε}目印5手邊9蜆お

 (冨違).

(蝸) -oooω.〇一.凹一〇〇〇ω1岨oo①-oooo〇一㊤㊤N-ooω.

(16)卜昌向-旨凹;杜ooよ9.

(17) イベント・スタディによる市場の効率性を扱ったここ

 一五年間の研究成果については、司與∋O』ヨq彗↓O老註一

 竃彗寄房二;①』.ヨp冨↓9冨竃■冨富(冨旨)に数多く

 紹介されている。

(18)髪暮メ9凹一-一-鶉8冨睾o目ヨ畠冒邑同8昌邑8一

 ζ算oユ竺g宛o=彗s一彗α向4彗2コoq;①肉竃}o{

一霊ぎく.-①三畠昌一ミ<串■1寄く.旨;;畠(ε竃)-

(19) 巨-団二8o.

(20) ζきo幕=俸之9一雪一竃七屋自o訂巨一凹↓雷oo-蟹o.

(21) -巨P

(22) -α.算塞9

(23)厳密には、工期の配当を凪として完1[(、「、工)十

員]弓工のように表すのが妥当であるが、とりあえず配当

130

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インサイダー取引規制(131)

 は考慮の外におくことにする。

(24) 市場モデルの解説に関しては、日本証券アナリスト協

会編『証券投資論』一一一頁以下(榊原茂樹)日本経済新

聞社(一九九一)参照。

(25)卑雷気俸;言員寄一昌首一鶉ohOo{o冨后ヨ目彗8一

 9ω8({;①P畠旨).ちなみに、これらのパラメータは

 以下のようにして決定される。

鳥~

 図で示されているように、閉個のデータ{(完葦肉二)

(完茎弟咀)-…(完§§完}曽)}が観測されたとする。このと

き図中の亀(“き-き)で示される部分(本稿でいう超

過収益にあたるが、統計学的には残差(篶ω巳冨一)と呼ぱ

れる)の平方和が最小になるように推定式(p+b為ヨ)を

特定化する。この方法は、最小二乗法(一竃g遷冨冨

昌o;a)と呼ぱれるものである。回帰関係の計算につき、

 宮川公男『新版基本統計学』有斐閣二四五頁以下(一九九

 一)参照。なお、最近では、市販の表計算ソフトを用いる

 ことにより、このような回帰式を求める計算は、誰でも簡

 単に行うことができる。

(26) ここで用いた例は、卑塞気印竃葛員彗肩団昌↓o罫

 算ω8.にある。また、本稿においては配当を無視して考

 えているので(注23)、投資収益と株価変動率が同値であ

 ることに注意していただきたい。

(27) 本稿においては、現実の収益の平均値からの乖離では

 なく、予想収益からの乖離を問題としているので、(注25

 の図を参照)、厳密には標準偏差ではなく標準誤差(伽訂巨-

 彗αo胃o『)という用語が用いられるべきであるが、墓本

 的な考え方は同様である。

(28) 統計学においては、分布がどのようであっても、平均

 値μ、分散♂をもつ母集団からとられた大きさ〃の標本の

 平均値の分布は、〃が大きくなると平均値μ、分散、ぎ

 の正規分布に近づくことが知られている(中心極限定理一

 〇彗一s二ぎ享;8篶ヨ)。この定理は、正規分布が多くの

 場合に適用可能性を持っていることを示しており、これに

 より、本文のような仮定をおくことが許されることも理解

 されよう。前掲宮川一五六-一六〇頁参照。

(29) 前掲宮川=二〇頁、表五・四参照。      、

(30) このようなZは、標準化変量と呼ぱれる。

(31) 統計的検定の考え方について補足しておこう。統計的

 検定は、ある仮定(帰無仮説;;=}君;窃邑をおき、

131

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一橋論叢 第114巻 第1号平成7年(1995年)7月号(132)

 それが正しいとすることと標本観察の緒粟との間に大きな

矛盾が生じた場合には、その仮定を否定しようという考え

方なのである。本稿における帰無仮説は、観測される収益

値は、特定の予想収益(平均値)ならびに標準誤差(標準

偏差)をもつ母集団に属している、というものである。ゆ

 えに、観測された現実の収益があまりにも予想収益から外

 れていること(一定の標準誤差単位分の予想収益からの乖

離)が観察されたならぱ、帰無仮説が棄却されることにな

 り、その観察された乖離には何か意昧がある(本稿の場合

 には情報の重要性の示唆)と判断されることになるのであ

 る。前掲宮川二〇五-二〇六頁参照。

(32) …彗}9顯一.一ω一も冨目o訂-o。一與二〇合-昌亀.

(鎚) これを図示すれぱ、次のように表せる。

2図

横軸には工の値が、縦軸にはその確率密度がプロツトされ

 ている。図中の斜線部が棄却領域(引偶然に生じたとは見

 なされない領域)を示している。

  ただし、現実には母集団の平均値や分散値が既知である

場合は希であり、本稿でいう照合期間において測定された

平均値およぴ分散値も、厳密には、母集団のそれとは異な

 ることに注意しなければならない。それゆえ、正規分布の

 かわりに‘分布(72閉巨巨巨昌)によって、これらの値

 の近似値を用いて検定が行われることになるのであるが、

検定の考え方はまったく同様である。なお、先に示した標

準偏差の式において、標準偏差が一種の平均値であるにも

 かかわらず、観測値の数抑ではなく、s--(自由度一

忌oq『霊o;冨&o昌)で除されていたのも母集団標準偏差

 の値として推定されていたためである。

(脳) カ暮ぎ至」俸ω壷コ員o=印目葦津~⑦ζo;o穿巨>目-

 二旨一』閉一--ご胴凹饒OP杜①r與毫 俸OO目片①-自P勺HOσ印①Poo

 (-竃ω)1

(35) 前掲並木二二八頁参照。

(36) 丁社の株価ならぴに↓O雪×の値は、日本経済新聞証

 券面によった。なお、一週間遡った応答日が取引日でなか

 った場合にはその問近の日の値を用いている。

(37)注27参照。なお、このミは次の式によって求められ

 る。

   †竃冊(一・ヤ一索一卑一)

132

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インサイダー取引規制(133)

  詳しくは、J・ジヨンストン(竹内啓他訳)『全訂版計

 量経済学の方法(上)』東洋経済新報社四三-四七頁(昭

 和五〇)参照。

(38) 注33参照。

(39) 自由度五一のf分布の上側O・五%の値はN、雪竃竈

 であり、これを用いると

   IO.5竃爪完暮士一へO.昌竃

 を得る。しかし、完暑士一H-o。おo=は明らかに右の範囲

 にも含まれていない。つまり、一%検定によウても有意で

 あるといえるのである。

(40) 芝原邦爾「インサイダー取引の処罰」法学教室一六六

 号九二頁(一九九四)参照。

(41) 証券取引法研究会「証券取引法の改正について(三)

 -インサイダー取引の規制についてー」(神崎克郎報告)

 インベストメント四二巻一号六五頁(一九八九)参照。

(42)中村直人「日本商事株事件とインサイダー取引対応の

 見直し」商事法務二二七二号一〇頁(一九九四)、同誌編

 集部「マク回スのインサイダー取引事件判決」二二〇六号

 二九頁(一九九二)参照。

(43) 伊藤邦雄「インサイダー取引の実証分析〔上〕〔下〕」

商事法務一一七七号七頁以下、一一八○号九頁以下(一九

 八九)、同「インサイダー取引の経済的検証と問題点」商

事法務一二二五号四頁以下(一九九〇)参照。

(44) 竹内昭夫「インサイダー取引規制の在り方-その批判

 的再検討-」ジュリスト九六四号四八-四九頁(一九九

 O)参照。なお、証券取引所を通じて株式を購入したもの

 から売り主に対するインサイダー取引を理由とする損害賠

償請求が因果関係がないとして棄却された事例として、東

 京地判平成三・一〇・二九金商八九八・二九がある。

(45) たとえぱ、損害額の算定に関しては、アメリカにおい

 て採用されている不当利益吐き出し方式(2品昌鷺昌彗一

昌塞昌冨)1前掲注12の事件並びに一九三四年証券取引所

法二〇A条(-蜆d.oo、ρ竃o。〒-)を参照。1のように、

内部情報の存在を知らずに取引を行ったものは、取引後に

 その情報を知り又はそれが開示されてから相当の期閻経過

後に生じた価格の変動について損害賠償を請求できる(た

 だし、その額はインサイダーが得た利益の額が上限とな

 る)、というような算定法を導入することも考えられる。

しかし、この算定法に依拠すると、市場価格がインサイダ

 ー情報と無関係のことによって極端に高くなっていたり低

 くなってい洗りするような場合に、原告に対して棚ぼた式

 の利益をもたらすことが有り得ることは、容易に想定され

 るであろう。これは公平の観点から妥当な結果とはいえな

 い。やはり、市場全体に等しく影響を与える要因によって

もたらされた価格変動分は除外されるぺきものであろう。

 このような市場ないしは産業に共通の価格変動要因の除去

という場面に、イベント・スタディの手法が応用可能とな

 るのである。たとえば、①式の補正”の欄に示されている

数値(決定係数一8①∋〇一雪一〇;9雪ま畠巳o=)は、丁社

 の株式収益の内のおよそ二七%が市場に共通の要因によっ

133

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一橋論叢 第114巻第1号 平成7年(1995年)7月号 (134)

て説明されていることを表しているのである。最近の研究

によれば、単一指標モデルである市場モデルによる収益の

説明力はそれほど高くなく、経年的に低下している傾向が

あるとされている。しかしながら、市場収益に当該企業が

属する産業の産業収益を説明変数として追加した複数指標

モデルによる説明力には、相当程度のものが確認されてい

 るようである。榊膜茂樹『現代財務理論』千倉書房三四五

 -三六五頁(昭和六一)参照。

(46) ζ享oぎ=俸Zoヰ昌一望もH由目o↓o巨一算蜆oo仁.

              (平成七年四月一〇日稿)

                (一橋大学専任講師)

134