マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による...

9
マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み 誌名 誌名 茶業研究報告 ISSN ISSN 03666190 巻/号 巻/号 124 掲載ページ 掲載ページ p. 9-16 発行年月 発行年月 2017年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

Upload: others

Post on 16-Jul-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による …マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み

マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽病の被害推定の試み

誌名誌名 茶業研究報告

ISSNISSN 03666190

巻/号巻/号 124

掲載ページ掲載ページ p. 9-16

発行年月発行年月 2017年12月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による …マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み

茶業研究報告 124 : 9 -16 (2017) 短 報 ,

マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の

空撮によるチャ炭疸病の被害推定の試み

静岡県農林技術研究所茶業研究センター*

小澤朗人t. 内山 徹・大石哲也**

(2017年10月17日受理)

Estimating Anthracnose Damage by Colletotrichum theae-sinensis (Miyake)

Yamamoto in Tea Fields Using Aerial Image Data from Multirotor-type UA V (Drone)

Akihito Ozawa t, Toru Uchiyama and Tetsuya Oishi

Shizuoka Prefectural Research Institute of Agriculture

and Forestry, Tea Research Center

Summary

We estimated the densities of Anthracnose damaged

leaves by Colletotrichum theae-sinensis (Miyake)

Yamamoto using aerial image data of tea fields, taken

by a multirotor-type UAV (Drone). We used DJI

Phantom 4 for aerial photography and the commercial

photo editing software, Adobe photoshop element 13,

to analyze the image data. The aerial photographs

of the tea field where Anthracnose occurred after

autumn skiffing clearly showed the points where

the disease severely occurred. We analyzed the

correlation between the densities of diseased leaves

and the values of several arithmetic expressions

combining mean values of three primary colors (RGB),

luminescence (Y), and normalized RGB (NR, NG,

and NB) extracted from the image data. There was a

significantly high correlation (absolute value of r > 0.75)

between the eight types of calculated values, NR, (R+G) /

G, R/Y, G-R, NG-NR, (G-R)/Y, (G-R)/(G+R), and G/

R, and the densities of diseased leaves. Furthermore,

at other field points, we verified the suitability of the

eight linear regression equations obtained from the

relationship between the calculated values and the

densities of diseased leaves. Our results suggest the

potential use of drones to collect aerial image data in

tea fields for estimating the densities of Anthracnose

damaged leaves.

Key words : drone, UAV, Anthracnose, tea, remote

sensing

キーワード:ドローン,無人航空機,炭疸病,チャ,

リモートセンシング

1 緒 言

飛行体を利用した圃場上空からのリモートセンシング

技術を農作物における病害虫の発生診断と発生予察等

に活用した事例としては,古くは多波長域走究センサ

(MSS) を搭載した航空機を利用してトウモロコシごま

葉枯病の大規模な被害実態把握])や同じく航空機から撮

影したカラー写真によるイネいもち病の広域的な把握2)

を初めとして,これまで20種類以上の農作物に発生する

各種病害虫を対象にリモートセンシング技術が適用され

ている叫近年,技術発展の著しい衛星リモートセンシ

ングでは可視光以外の波長域のデータ等も利用可という

利点はあるが,利用に当たっては撮影時期や条件が限ら

れ(雲の影響など),データを面積単位で購入しなけれ

ばならない。原則として研究者など特定のユーザーを対

象とした技術であり, リアルタイムでの利用は困難であ

る。また,最新の高分解能衛星においても,画像の分解

能は lm前後であること 4)が多いので,農作物が大面積

に栽培された地域全体を対象とした土壌特性を含めたよ

うな解析5,6) には適するが,静岡県の茶産地でみられる

ような10a程度の小面積圃場を単位とし,場合によって

は単一圃場内部の詳細な分布といったきめ細かいセンシ

ングには適さない。航空機やヘリコプター利用のリモー

トセンシングの問題点についても同様である。

近年, GPS(Grobal Positioning System)の位置情報

などを利用した各種自動姿勢制御装置を搭載した高性能

の小型無人航空機(以下,本文ではドローンとする)が

開発され,各分野で注目されている 7-9)。ドローンは,

我が国の水田で広く普及している農薬散布用の大型のシ

* 〒439-0002 静岡県菊川市倉沢1706-11

**現 世界緑茶協会 〒422-8067 静岡市駿河区南町14-1水の森ビル3F

t Corresponding author : [email protected]

Page 3: マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による …マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み

10 茶業研究報告第124号

ングル・ロータ機(無人ヘリコプター) 10,11) に比べると

一般に小型かつ安価であり,また操縦も比較的簡単な

ため,様々な分野での活用が期待できる 7-9,12-21)。特に,

回転猥型の一形態であるマルチ・ロータ機22) は, DJI社

などから一般消費者向けの比較的安価な裔品として販売

されており,我が国でもこれらの機種の利用が多くなっ

ている。これらホビー用ドローンの市販が始まった当初

は,各地で墜落事故などが多発したが,我が国では2015

年に航空法が改正され,機体重量200g以上の機種は改

正航空法の規制対象とするなど安全運航のための法整備

も進められている。現在は, ドローンの空撮機能を利用

した土木や建設業の場面での測量13,14)や防災20.21)の分野

で利用が進んでいるが,今後,農業分野での利活用が進

むことも期待されている。すでに, ドローンの空撮によ

る大規模畑作での生育診断・雑草管理15,18,19)や,森林・

林業分野でのリモートセンシング12,17), あるいは農薬散

布専用のドローンの開発10)などが始まっている。

一方,茶園管理におけるドローンの利活用はこれまで

ほとんど行われていない。そこで,筆者らは,茶園にお

けるチャ樹の様々なストレス診断技術としてのドローン

の活用法の開発をすすめている。本研究では,一般には

入手が難しい高額な大型機種ではなくホビー用としても

市販されている小型ドローンと,高いスキルを要する専

門家向けの画像解析ソフトではなく一般に普及している

安価な写真編集用ソフトウェアを使って,空撮によるチ

ャ樹の病害虫被害の診断を試みた。本稿では, ドローン

の茶園の空撮によるチャ炭疸病の被害程度の定量的推定

を試みたので,その結果を報告する。

2 材料および方法

2. 1 供試機種

機体は可視光の小型デジタルカメラが搭載(取り外し

不可)されたDJI社製ファントム 4を用いた。本機種は

一般向けの市販機種ではあるが. GPSによる姿勢制御や

高度センサー.障害物検知システムなども搭載する(詳

細な性能等は別途.本機種のカタログ等を参照)。搭載

されているデジタルカメラは,光学センサーは1/2.3イ

ンチ.最大有効画素数1200万画素. レンズの焦点距離

および絞りは35mm換算で20mm, f/2.8の固定であり.

静止画では自動露出とマニュアル露出等が可能である。

なお.空撮に係わる操縦は, JUIDA(一般社団法人・

日本VAS産業振興協議会)認定の操縦士資格を有する

筆者(小澤)が行った。

2. 2 撮影場所と撮影方法

(1) 静岡県菊川市倉沢の静岡県農林技術研究所茶業研

究センター内のさやまかおり'の慣行管理圃場(樹齢

32年生)において2016年10月の秋整枝後に撮影を行った。

なお,当該圃場では,炭疸病が秋芽で多発生し,一部で

は坪状に激発して落葉も多く見られた。 2016年10月7B

午前 9~10時(天気は薄曇り,風速0.2~0.7m) に, ド

ローンを地上からの高度約14mで調査圃場の上空に飛

行させ,圃場面に対して90゚ の角度になるようにカメラ

を下向きに設定し,炭疸病の多発部位を含む数本のうね

を自動露出(絞りはf/2.8で固定)により静止画像として

撮影した。静止画像のファーマットはJPEGとした(以下,

同様)。なお,薄曇りのこの日時に撮影を実施した理由

は風速条件以外に,葉などの影が映り込んだり, 日光の

反射光による過度のコントラスト強調,あるいは飛行し

ている機体の影が映像に映り込むことを避けたためであ

る。

(2) 2016年10月7日の12~13時に(1)と同じ圃場の炭疸

病の発生程度が様々な特定の 1うねの摘採面上に25X50

cm枠計25個を適宜置き,高度約 6mの位置からカメラ

を真下(圃場面の90゚ 方向)に向けて, ドローンを同高

度でうね沿いに水平移動させながら枠を置いたうねを中

心に数枚に渡って連続して静止画を自動露出撮影した。

撮影高度については, ドローンからのダウンウォシュに

よる葉の振動の影響を考慮したできるだけ低空の位置に

なるように約 6mとした。撮影した直後に,各枠内の炭

疸病の病葉数と同病による落葉数をあわせて数えた。な

お, ‘さやまかおり'は炭疸病には極弱であるが,輪斑

病には強23,24)であるため,この時の当該圃場の観察によ

れば輪斑病などの炭疸病以外の病害や虫害に起囚すると

みられる類似病葉と落葉はほとんど認められなかった。

(3) 前述(2)の10月7日のデータ解析(後述)により,

画像の色データから実際の病葉数を推定するための直線

回帰式が得られたので,同年10月12日に回帰式による推

定値の検証を試みた。前述と同じ圃場内で, 10月7日の

調査とは別の 2うねの摘採面上11カ所に同枠を適宜置

き,高度約 6mから 1枚の画像ですべての枠が入る位置

で撮影し(午前10時頃天気は薄曇り,風速0.5~0.8m),

その後枠内の炭疸病の病葉数と落葉数を数えた。

2. 3 解析方法

(1) 10月7日に調究枠を撮影した画像の中から 1枚

につき 5~6枠が写っている画像 4枚(撮影時刻12時

55分~56分, ISO値100, シャッタースピードは1/203

Page 4: マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による …マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み

小澤ら:マルチ回転翼型無人航空機 (ドローン)の空撮によるチャ炭疸病の被害推定の試み 11

~1/252秒)を選び,写真編集ソフトAdobePhotoshop

Element 13 (アドビシステムズ社)の三原色バンド値

等のヒストグラム表示機能 (8ビット256階調: O~

255のヒストグラムが表示され,平均値や中間値なども

表示)を用いて.各調査枠範囲内における赤 (R:波長

700 nm), 緑 (G:波長546.1nm), 青 (B:波長435.8

nm) の各バンド,および合成チャンネル輝度の各平

均値を抽出した。 ここで輝度 (Y) は, Photoshopでは

RGBではなく YUVカラースペースで定義されるが, Y

= 0.299R + 0.587G + 0.114BのRGBの加重平均値と同値

である。これら画像データと,枠内の実際の炭疸病葉数

(以下.病葉数は落葉数も含む)との相関関係を検討した。

相関関係の解析に当たっては,各色バンドおよび輝度の

平均値(それぞれR.G, B, Yとする)を用いて,植生

指数であるDVI(差植生指数)25l, RVI (比植生指数)25).

NDVI (正規化植生指数)25)を元にして千脇ら26)がラジ

コンヘリによるイネいもち病等の空撮診断に使用したバ

ンド間演算式等を参考にして演算式を考案した。さらに.

日照条件の変化などの要因が分光値へ及ぽす影響の補正

を目的に考案された正規化処理27-29) したRGB値(各バ

ンド値の相加平均で除した値:それぞれNR(Normalized

R), NG, NBとする. NR=R/((R+G+B)/3)) となる)

も演算式の一部に利用した。ただし,正規化バンド値は,

除算を含む演算式では分母・分子で相加平均値を打ち消

すため使用しなかった。演算式は計25種類考案し(表2)'

それらの演算値と調査枠内の炭疸病の病葉数 (rri当たり

に換算)との相関関係を検討した。なお, DVI,RVI, 及

びNDVIは衛星を用いたリモートセンシング解析等でし

ばしば用いられる植生指数である。

(3) 前述(2)の解析により,考案したいくつかの渡算式

において,演算値と実際の病葉数との間に高い相関係数

の直線回帰式が認められた。そこで,相関係数rの絶対

値が0.75以上の演算式 8種を用い,演算値xを説明変数,

病葉数を目的変数yとする直線回帰式(表2) を10月12

日に別途撮影した画像データ(撮影時刻10時12分, ISO

値100, シャッタースピードは1/230秒)に当てはめて,

画像データから回帰式により推定した推定値と実際の病

葉数との関係を検討した。

図 1 ドローン搭載デジタルカメラで圃場直上から撮影した炭疸病の多発圃場(上図)と摘採面上に設置した調査枠と枠内の拡大画像(下図)

上写真は.2016年10月7日に高度約14mから自動露出撮影 (JPEGフォーマット).品種はさやまかおり' .黄色の〇印は炭疸病が特に多発した部位を示す.下写真は.同日に高度約 6mから自動露出撮影.調査枠サイズは25x50 cm. 枠近くの白い物体は番号を記した紙

Page 5: マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による …マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み

12 茶業研究報告第124号

3 結果および考察

炭疸病の多発圃場を高度約14mから撮影した画像を

図 l上に示す。上図は高度約14mからの撮影した元画

像(撮影時刻10月7日8時58分)で,下図は調査枠を置

いた状態での画像である(高度約 6m)。上図中の丸印

は特に炭疸病が多発していた箇所を示しており,炭疸病

の多発部位では発病葉が多く落葉し,空撮画像でも多発

部位が他よりも赤みが強くなる傾向が認められた。炭疸

病のように落葉も含め発病葉の色が赤く褐変する病害で

は,図 1に示したようにドローンによる圃場直上からの

空撮画像から発病部位を明瞭に認識できることが示唆さ

れた。

病葉数の枠調査では,発病葉の落葉が多く,枠内での

落葉と落葉していない病葉との比率は約2.7:1であっ

た。本来は,検出限界を知るために無発病の部分の画像

データも取得しておく必要があるが,今回は圃場全体に

発病がみられ完全に無発病の部分を見つけられなかっ

た。そのため,参考までに今回の調査枠における病葉

数の最大値と最小値の画像データを表 1に示す。病葉数

の最大値は3160枚/rri, 最小値は200枚/rri, 平均値は

1214.08枚/rriであり,調査場所は総じて甚発生(発生

予察基準で500枚/面以上)であった。最大値と最小値

のRGBの各平均値は,赤 (R) と緑 (G) との差が特に

大きい傾向が認められた(表 1)。

各画像データを使用した25種類のバンド間演算式の値

と枠調査による実測値との相関関係を表2に示す。各

表 1 調査枠内の炭疸病の病葉数が最大と最小であった各枠内の画像データ

鑓数/rrl枠内両素数R G B Y

平均値標準偏差中間値 平均値標準偏差中間値 平均値標準偏差中間値 平均値標準偏差中間値最大値 3160 26106 101.05 41.57 99 102.64 43.77 101 92.15 39.97 90 100.97 41.77 99 最小値 200 23712 93.34 39.17 91 114.03 39.82 113 88.18 40.53 86 104.90 39.40 104

注) R, G, Bはphotoshopelement 13で表示された各枠内画像の赤,緑,青の各三原色, Yは輝度 (Y=0.299R + 0.587 G + 0.114 B)であり,平均値,標準偏差中間値はそれぞれのヒストグラム (8ビット256階調: 0-255)から算出された値を示す.

表2 調査枠内の炭疸病の病葉数 (y) と空撮画像から得られたバンド問演算式 (x) との相関関係(直線回帰式を適用, n=25)

説明変数に用いた色データまたはバンド間の演算式1)

R

G

B

Y

NR

NG NB R+G

NR+NG

y(病葉数)=ax(説明変数)+b

a b

42.43 -2430.08 3)

44.69 -2491.79

15857.51 -13799.02

-11323.68 14096.19

r だ 有意性2)

0.54 0.29 * * -0.03 0.00 ns

0.43 0.19 * 0.26 0.07 ns

0.76 0.58 * * -0.73 0.53 * * 0.29 0.08 ns 0.33 0.11 ns -0.29 0.08 ns

R+B 22.82 -2637.69 0.50 0.25 * NR+NB 11323.68 -19874.84 0.73 0.53 * * R-B 99.60 919.10 0.51 0.26 * * NR-NB 9098.82 930.86 0.49 0.24 * RIB 7995.43 -7057.57 0.47 0.22 * (R-B)/(R+B) 16469.35 941.20 0.47 0.22 * R+B-G 38.82 -1347.66 0.66 0.44 * * NR+NB-NG 5661.84 -2889.32 0.73 0.53 * * (R+B-G)/(R+B+G) 16985.52 -2889.32 0.73 0.53 * * (R+G)/G 8982.61 -15265.13 0.79 0.62 * * R/Y 12660.53 -10152.37 0.78 0.61 * * G-R -90.41 2745.55 -0.80 0.64 * * NG-NR -7148.07 2578.48 -0.77 0.59 * * (G-R)/Y -7824.41 2621.83 -0.78 0.60 * * (G-R)/(G+R) -15134.45 2597.06 -0.77 0.60 * * G/R -6210.91 8695.32 -0.76 0.57 * * 注 1)いずれのバンド値も平均値を使用.Rは赤, Gは緑, Bは青, Yは輝度、 NR、NG、NBは正規化処理(小

野ら, 2002;小野・小野, 2013)された各RGB値を示す.注2)* * : p<0.01, * : p<0.05, nsは有意性なしを示す.注3) ーは,相関係数が有意でなかったため回帰式は求めなかった.

Page 6: マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による …マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み

小澤ら:マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疸病の被害推定の試み 13

4000

. 3000 .

"E

談\ 2000 撒縣

1000

y = -90. 41x + 2745. 55

が=0. 64 (p<O. 01) n = 25

4000

3000

0

0

0

0

0

0

2

1

℃\挙課瞑

y = 8982. 61 X - 15265. 13

R2 = 0. 62 (p<O. 01) n = 25 .

. . .

゜゚ 5

10 15 20

G-R

25 30 ゜1. 6 1. 7 1.8 1.9

(R+G)/G 2

2. 1

図2 調査枠内画像から得られた色データに基づく演算式の値と炭疸病の病葉数との相関関係の例2016年10月7日に高度約 6mから自動露出撮影.左図のX軸は表2に示したG-R値を.右図のX軸は (R+G)/G値を用いた.

演算式の中では, 15種類の演算式でp<0.01の有意な相

関関係が認められ,さらにNR,(R+G)/G, R/Y, G-R.

NG-NR, (G-R)/Y, (G-R)/(G+R), G/Rの 8種類の演

算式で相関係数rの絶対値が0.75を越えて相関がより高

く,最も相関が高かったのはG-R(r=-0.80) で次いで

(R+G) /G (r=0.79) となった。これら特に相関の高か

ったG-Rと (R+G)/Gと病葉数との関係を図 2に示す。

直線回帰式はG-Rを説明変数xとした場合がy=-90.41X

+ 2745.55, (R+G)/Gではy= 8982.61 X - 15265.13となっ

た(図 2)。これらの結果から,空撮画像のG-Rや (R+G)

IGなど相関係数の高い演算値を利用することで,その

部分の炭疸病の病葉数の密度を推定可能であることが示

唆された。ただし,約1500枚/rri以下の発生箇所では演

算式の値がかなりばらついており(図 2), この密度付

近では推定精度の点でやや1言頼性に欠ける傾向が見られ

た。これは,調査枠内において局所的に落葉が積層して

いる場合と均ーに発生している場合など,全体としては

同程度の病葉数であっても局所的に見ると発生状況が異

なることが原因として考えられる。

これら画像データを元にした推定式の再現性を別の日

(2016年10月12日)に調査した同一圃場内の別うねにお

いて検証した。表 2から相関係数rの絶対値が0.75以上

の8種類の演算式(表2) を選抜してこれらを用いた直

線回帰式により推定した推定値と,病葉数の実数(枠数

は11) との関係を表3に示す。表3には,実測値と推定

値との間の回帰分析の結果 (R2および回帰式のパラメ

ータ)とともに実測値と推定値との誤差を表すRMSE

(平均平方二乗誤差)およびMAE(平均絶対誤差)も示

した。また, RMSEおよびMAEが他よりも小さかった

GIRとNG-NRを使った推定式での実測値と推定値との

関係を図 3に示す。表 3に示したいずれの演算式を使

った推定式においても寄与率 (Rりは0.85-0.88と高く,

推定値と実測値との相関は総じて高かった。一方,直線

回帰式の傾きに関してはいずれも 1より小さく,図 3に

示すように,病葉数が特に多い場合(約2500/rri枚以上)

には推定値と実測値との誤差が大きくなり,推定値は過

小評価になる傾向が認められた。発病が極端に多い場所

で過小評価になる理由としては,落葉が積み重なってい

表 3 相関係数rの絶対値が0.75以上を示した画像バンド間演算式 8種(表 2) を用いた推定式(直線回帰式)を当てはめて推定した病葉数の推定値と実測値との相関関係 (2016年10月12日撮影データを利用, n=11)

直線 推定式に用いたバンド間演算式回婦式 NR (G-R)/(G+R) G/R (R+G)/G R/Y G-R (G-R)/Y NG-NR a I) 0.48 0.46 0.42 0.49 0.48 0.47 0.46 0.43

b 204.28 792.72 852.43 739.88 624.55 866.29 803.49 871.15

R2 0.85 0.87 0.87 0.87 0.88 0.88 0.87 0.87

RMSE 204.20 176.71 161.69 190.81 181.22 179.25 178.26 169.01

MAE 164.89 137.24 128.79 147.03 143.33 146.41 13722 131.19

注 1)a,bは実数と推定値との間の直線回帰式(y=ax+b)の傾きと切片.R2はその寄与率,RMSEは実数値と推定値との平均平方二乗誤差,MAEは同・平均絶対誤差を示す.

Page 7: マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による …マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み

14 茶業研究報告 第124号

4000

3000

0

0

0

0

0

0

2

1

(tl/0)

廻製把

y = 0.42x + 852.43

R2 = 0.87 (p<0.001)

RMSE = 161.69

MAE= 128.79

、●ヽ}‘‘‘’‘‘‘‘',‘’

',‘ ‘‘

‘‘

L'0 ゚

4000

0

0

0

0

0

0

0

0

0

3

2

1

(HN-0N)

mi叫5

y = 0.43x + 871.15

だ=0.87 (p<0.001)

RMS£= 169.01 MAE= 131.19

1000

実測値

2000 3000

(病葉数/rri)

4000

-~ °。:/ヽ,ヽ‘,ヽ‘ヽ',ヽ,'

1000 2000 3000

実測値(病葉数/而)

4000

図3 炭疸病の実測値と画像データを用いた推定値との関係の例2016年10月12日に表2とは別のうねの高度約 6mから自動露出撮影した画像を解析に用いた.推定値は,枠内画像データを

抽出した後左図はGIR.右図はNG-NRと実数値(病葉数)との間の直線回帰式(表2)をそれぞれ当てはめて計算された値.図中の破線はy=xを示す.

るため上空からは表面上に認識(撮影)できない病葉が

多かったためと考えられる。また,この検証では先に推

定式を作成した日 (10月7日)よりも時間が経過してお

り,この間に落葉が増加した影響も考えられ,検証に使

用した病葉数の範囲も712~3768枚/rrl(平均1650.91枚)

と総じて多い場所となってしまった (10月7日では200

~3160枚/rrl)。そのため,今回は,推定式の検証に用

いたサンプル選定にやや問題があったと推察される。ま

た,表3に示した 8種類の演算式の推定値と実測値との

誤差の絶対値については 8種類の間で有意差は認められ

なかった(-元配置分散分析およびTukey-kramer法に

よる多重比較検定, p>0.05)。このことから,相関係数

を基準に選抜した 8種類の演算式の再現性に差は無いと

考えられ,今回の検証だけでは特定の演算式を絞り込む

ことはできなかった。実用的な演算式の選抜に当たって

は,今後, さらに検証を童ねる必要があろう。

今回の調査は,炭疸病に極めて感受性の高いさやま

かおり• 24)の多発圃場での事例であり,発病葉数が‘や

ぶきた'などの圃場よりも非常に多い条件下での調査と

なった。今後は,発病程度の少ない場合や中程度の場

合における検証も追加する必要があり, ‘やぶきた’な

ど他品種では輪斑病など類似病害との識別も課題となろ

う。古くからチャの重要病害である炭疸病30)の発病程

度(被害)調査は,これまでは枠調壺による人による病

葉数の直接計数法に限られていた。この調査は,多発条

件では非常に多大な労力を要するが,本研究により,

ローンの空撮によって直接計数をしなくても発病程度の

推定が可能であることが示唆された。この手法によれば,

調査労力の省力化とともに,これまでは精確な把握が難

しかった圃場内での発病部位の分布特性など新たな情報

も得られる可能性がある。また,炭疸病では,一番茶の

収量は前年の三番茶葉における発病程度が影響し,三番

茶葉の発病程度は二番茶摘採残葉での発病程度に依存す

る31.32)。三番茶葉での被害許容水準は約1000枚/rri('や

ぶきた'の場合)とされ 31.32)' さらに三番茶芽生育期に

おける要防除水準は,前茶期の二番茶摘採残葉の発病葉

数で約150枚/rriであることが示唆されている31,32)。こ

れらのことから, ドローンを使った被害推定を行うこと

で翌年の減収率予測や,二番茶摘採残葉における発病葉

数の推定値に基づいて三番茶芽生育期における防除の要

否を判断することも可能と考えられる。ただし,推定に

用いる画像データの演算式 (x) と病葉数 (y) との間の

推定式(直線回帰式)のパラメータ(傾きと切片)につ

いては,イネいもち病でRGB値を用いる推定式を作成

した千脇らの研究26)においても年次や圃場でパラメー

タが異なったように,条件の違う圃場や異なる茶期にお

いても適用できるような普遍性を有する完成式を作成す

ることは難しいかもしれない。そのため,実際の利用に

当たっては,調企対象圃場において病葉数の異なる無ま

たは少~多の発生箇所数点(直線回帰式が引ける最低4

点以上)の画像データと実数をあらかじめ取得し,次に

本研究で得た演算式を使って推定式(=検量線に当たる)

を作成した上で,それを全体または調べたい部分に適用

する方法が有効と思われる。今後は,品種や茶期など条

Page 8: マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による …マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み

小澤ら:マルチ同転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疸病の被害推定の試み 15

件を変えてデータをさらに蓄積し,前述のような方法を

検証していきたい。

ドローンを利用したリモートセンシングは,操縦や撮

影の利便性,機体の入手のしやすさなど現場への普及性

の高さが衛星利用などに優っていると考える。千脇ら26)'

千脇33) および千脇・金谷34)がイネの病害虫を対象に行

ったラジコンヘリコプター(機種および性能の詳細は記

載無く不明)の空撮によるセンシングはドローン利用の

センシングを先取りしたような方法であるが,本研究で

使用した小型ドローンはGPS制御機能等がたいへん優れ

ており,シングルロータ機であるラジコンヘリコプター

に比べると操縦も容易(ただし,一定の訓練ば必要で法

令を遵守する必要はある)で飛行安定性も高い。また,

比較的高解像度 (1200万画素。なお,本機の場合,高度

約 5mの撮影では 1ピクセル=実距離約 2mmとなる)

のデジタルカメラを標準搭載しており,撮影した画像フ

ァイルをリアルタイムに近い早さで解析・診断が可能で

ある。一方,デジタルカメラを利用したフェノロジー研

究に関しては,農作物(例えば, トマト 35) ; 水稲36)) や

植生のモニタリング(例えば,高山植物37) ; カラマツ

林28.29)) など数多くの先行研究があり,その画像解析技

術についても様々な試みが行われている。しかし,デジ

タルカメラによる撮影では, ドローンの場合にも該当

するが, RGBデジタル値は天候や撮影条件によって大

きく変動しやすい28.29)。また,デジタルカメラの地上部

の固定位置からの撮影では,遠近に起因する幾何補正38)

も必要となり数値解析が複雑化する。撮影条件のデジタ

ル値への影響の抑制に関しては,本研究でも利用したバ

ンド値の正規化処理27-29)が効果的とされているが,幾何

補正に関しては, ドローンで撮影する場合には自由に水

平・垂直移動が可能なので撮影対象の直上位置から撮影

でき,茶園のように平面的な圃場を対象とした場合では

直上撮影により幾何補正はほとんど必要ないと考えられ

る。ドローン搭載のカメラを利用したリモートセンシン

グは小規模な農地を対象とした場合の利便性などこれま

での技術とは異なる様々な利点がある。今後,再現性や

侶頼性向上のための撮影条件や方法など撮影技術に関す

る問題点を解決した上で,できるだけ簡便なセンシング

手法を現場に提案することにより,研究機関や企業体だ

けではなく生産者個人やJAなど現場の指導機関でも病

害虫診断や生育診断などの茶園管理にドローンを活用す

ることが期待される。

なお,本研究で使用した機種の搭載カメラは一般的な

可視光デジタルカメラであるが,近年,小型ドローンに

搭載できるセンサー類の技術開発が著しく, ドローン用

の熱画像カメラや近赤外・赤外光なども同時計測できる

ハイパースペクトルカメラも販売されている。こうした

可視光以外の各種センサーを利用すれば,可視画像デー

タのみでは不可能な高度な画像解析も可能となろう。

4 摘 要

マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)が空撮した茶

園の画像データを用いて,チャ炭疸病の病葉数密度の推

定を試みた。空撮にはデジタルカメラを搭載したDJI社

製ファントム 4を使用し,市販の写真編集ソフトウェア

(Adobe Photoshop element13) を用いて画像データを

解析した。画像から抽出された三原色 (R, G, B) と

輝度 (Y) のデジタル値,および正規化処理した三原色

(NR, NG, NB) の各平均値を組み合わせた25種類の演

算式と,圃場における病葉密度との間の相関を直線回帰

分析した。その結果, G-R. (R+G) /Gなど 8種類の演

算式による計算値と病葉密度との間に lrl>0.75以上の有

意な高い相関関係が認められた。さらに,これら 8種の

演算による推定式の適合性を別データを用いて検証し

た。これらの結果から, ドローンによる空撮画像データ

を用いてチャ炭疸病の病葉数の推定が可能であることが

示唆された。

5 引用文献

1) MacDonald,R.B .. M.E.Bauer,R.D.Allen,J.W.Clifton,J.D.Erick-

son.and D.A.Landgrebe 0972) : Proc. 8th Int. Remote

Sensing Symp. Environ., 157-190.

2)半沢伸治・根本和俊・遠藤頼嗣・荒川市郎・橋本 晃 (1995):

北日本病虫研報, 46,12-14.

3)烏越洋一 (1996): 秋山 侃•福原道ー・斎藤元也・深山一弥·

編著 (1996)「農業リモートセンシング一環境と資源の定量的

解析ー」.養賢堂, pp.34-38.

4)伊藤恭一 (2014): 加藤正人編 (2014)「森林リモートセンシング

第4版 ー基礎から応用まで一」,日本林業調査会, pp.151-159.

5) Torigoe, Y., T. Amano, K. Ogawa and M. Fukuhara (1992) :

Jpn. J. Crop. Sci. 61(3), 527-535.

6) Torigoe, Y .. T. Inoue, T. Amano, K. Ogawa and M. Fukuhara

(1993) : Jpn. J. Crop. Sci. 62(4), 585-594.

7)冨井隆春 (2015): 映像情報インダストリアル, 47(11), 23-30.

8)野波健蔵 (2016): 「飛躍するドローン マルチ回転翼型無人

航空機の開発と応用研究,海外動向, リスク対策まで」,株式

会社エヌ・ティー・エス, pp3-20.

9)野波健蔵 (2017): 情報管理, 59,755-763.

10)森田征士 (2016): 第31匝報農会シンポジウム 植物保護ハイ

ビジョン 講要, 21-30.

11)野口 伸 (2003): 農業機械学会誌, No.65(4), 13-17.

12)古家直行 (2016): 季刊• 森林総研, No.35,4-5.

Page 9: マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮による …マルチ回転翼型無人航空機(ドローン)の空撮によるチャ炭疽 病の被害推定の試み

16 茶業研究報告第124号

13)岩上弘明 (2015): 映像情報インダストリアル, 47(11),47-52.

14) 片桐哲也・安藤和登•松本由美・森 静香・藤井弘志 (2016):

計測と制御, 55, 806-809.

15)太田智彦 (2017): 機械化農業, 2017・2,15-18.

16) 大谷仁志•福島史彦 (2015) : 映像情報インダストリアル, 47

(11) , 40-46.

17)齋藤英樹 (2016): 季刊• 森林総研, No.35,2-3.

18)渡邊修 (2015): 植調49(8), 264-269.

19)渡邊修 (2016): 植物防疫70,826-830.

20)古橋大地 (2016): 学術の動向, 21(11), pll.

21)国土交通省国土地理院 (2016):平成28年熊本地霙に関する情報.

http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H27-kumamoto-earthquake-

index.html#aa (2017年7月1日アクセス)

22)赤坂剛史 (2016): 「飛躍するドローン マルチ回転翼型無人

航空機の開発と応用研究海外動向,リスク対策まで」,株式

会社エヌ・ティー・エス, pp23-29.

23)堀川知廣 (1987): 茶研報, No.65, 46-53.

24)武田善行・長友博文 (2008): 「茶大百科 I」,農文協, pp569-

587.

25)秋山 侃 (1996):秋山 侃•福原道ー・斎藤元也・深山一弥・

編著「農業リモートセンシング一環境と資源の定量的解析ー」,

養賢堂, pp.1-12.

26)千脇健司・金谷元・田中福三郎 (1999): 関西病虫研報. 41.

3-10.

27)小野朗子・藤原 昇・小野厚夫 (2002): 日本リモートセンシ

ング学会誌. 22(3). 318-327.

28)小野朗子・小野厚夫 (2013): 日本リモートセンシング学会誌.

33(3), 200-207.

29)小野朗子・林田佐智子・小野厚夫 (2015): 写真測量とリモー

トセンシング, 54(1). 20-31.

30)原 掻祐 (1931): 「茶樹の病害」.日本菌類学会. pp87-89.

31)小澤朗人・西島卓也 (2001): 茶研報92(別). 8-9.

32) Ozawa A. and T. Nishijima (2002) : Proceedings of The

1st International Conference on 0-CHA (tea) Culture and

Science (ICOS2001). 218-220

33)千脇健司 (2001): 関西病虫研報, 43, 63-64.

34)千脇健司・金谷元 (2001): 関西病虫研報, 43, 65-66.

35)高山弘太郎・仁科弘重・山本展寛・羽藤堅治・有馬誠一 (2009):

植物環境工学21(2). 59-64.

36)千田野風生・韓 東生・渡邊肇・高橋能彦 (2015): B作紀.

84 (4) . 432-438.

37) 小熊宏之• 井出玲子 (2014): 地球環境. Vol.19 No.1, 79-86.

38)上 佳孝・小山里奈 (2014): システム農学. 30(1). 9-18.