サフラン色素による羊毛の染色に関する研究 - infolib...

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d e l u - -h t J f-i ;ト f f i o - - -21- 大阪市立大学生活科学部紀要・第41 巻( 1993 ) サフラン色素による羊毛の染色に関する研究 皆川 基 ・原田智子・松本宣子 DyeingofWoolFiberswiththeColorantofSaffron MOTOIMINAGAWA TOMOKO HARADA and NORIKO MATSU f¥. 10TO 1 .はじめに 黄色は赤色,青色とともに 3 原色の一つ で,純色中, 明度が最も高く,刺激的な太陽を象徴する快活な希望の 色として好まれ,また黄色は檀色,赤色との配色によ っ てさらに美しさを増す色として親しまれている。 日本では奈良時代頃から黄色は無位無冠の一般庶民の 衣服の色として広く用いられ,衣服の黄色染めには刈安, 梶子,きはだ, こぶなぐさ, うこん,はぜのき,福木, 牛のしっぺい,ねむのき,藤,せんだんなどの多くの色 素が使用されてきた。 サフラン (saffron ,番紅花, j 白夫藍)はアラビア語 の黄色が語源とされ,ギリ シャでは紀元前 1500 年頃から すでに染色に用いられ,その気品のある輝かしい黄色染 めが珍重された。 しかし,サフランは淡紫色の花の雌しべのみが利用さ れるため,大変高価で貴重な色素とされ, ミイラを包む 布や仏教僧の袈裟などの染色に用いられてきた。またサ フランは古くから通風, リューマチなどの特効薬や香辛 料を兼ねた食用色素として用いられている。 本研究では気品のある輝かしい黄色のサフラン色素に 注目し羊毛の染色を通して色素の特性を解明すること を目的としている。 -‘・ ''''-. 写真 1 サフラ ン (saffron) Crocus sativus L. 多年生草で,淡紫色の花の雌 しべの柱頭部 (30--35mm) のみを採取して乾燥した貴重な色材として古くから知ら れている 。 サフラン色素の主成分は crocin (crocetin digentio- bioseester (COOCI2f.I2 10 1O) 2 cis および trans crocetindimethylester Cls I - 12(COOCH3) β-car- otene (C4oHρ γ-carotene (C40 H56) lycopene zeaxanthin (C4ol. -I! ; I) 02) などのカロチノイド 2 .材料 繊維布材料としては羊毛モスリン布 (30 x 27 /cm 厚さ O.29mm) を使用した。 色素としてはスペイン産サフラン(写真・ 1 )を使用 f こ。 サフラン (saffron crocussativus L.) はスペイン, フランス,イタリー,日本(広島,香川,大分,岩手の 各県)などで栽培されているアヤメ科 (lridaceae) Oh CH 0gentiobiosc J gcntiobi CH i crocln ( 1)

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Page 1: サフラン色素による羊毛の染色に関する研究 - InfoLib …dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/111H...Crocus sativus L. 多年生草で,淡紫色の花の雌しべの柱頭部(30--35mm)

delu--htJ パ

f-i;トffio--

-21-

大阪市立大学生活科学部紀要・第41巻(1993 )

サフラン色素による羊毛の染色に関する研究

皆川 基 ・原田智子・松本宣子

Dyeing of Wool Fibers with the Colorant of Saffron

MOTOI MINAGAWA, TOMOKO HARADA and NORIKO MATSUf¥.10TO

1 .はじめに

黄色は赤色,青色とともに 3原色の一つで,純色中,

明度が最も高く,刺激的な太陽を象徴する快活な希望の

色として好まれ,また黄色は檀色,赤色との配色によ っ

てさらに美しさを増す色として親しまれている。

日本では奈良時代頃から黄色は無位無冠の一般庶民の

衣服の色として広く用いられ,衣服の黄色染めには刈安,

梶子,きはだ, こぶなぐさ, うこん,はぜのき,福木,

牛のしっぺい,ねむのき,藤,せんだんなどの多くの色

素が使用されてきた。

サフラン (saffron,番紅花, j白夫藍)はアラビア語

の黄色が語源とされ,ギリ シャでは紀元前1500年頃から

すでに染色に用いられ,その気品のある輝かしい黄色染

めが珍重された。

しかし,サフランは淡紫色の花の雌しべのみが利用さ

れるため,大変高価で貴重な色素とされ, ミイラを包む

布や仏教僧の袈裟などの染色に用いられてきた。またサ

フランは古くから通風, リューマチなどの特効薬や香辛

料を兼ねた食用色素として用いられている。

本研究では気品のある輝かしい黄色のサフラン色素に

注目し羊毛の染色を通して色素の特性を解明すること

を目的としている。

-‘ ・

''''-.

写真 1 サフラ ン (saffron)

Crocus sativus L.

多年生草で,淡紫色の花の雌 しべの柱頭部 (30--35mm)

のみを採取して乾燥した貴重な色材として古くから知ら

れている。

サフラン色素の主成分は crocin(crocetin digentio-

biose ester CII~}-I22 (COOCI2f.I2101O) 2, cisおよびtrans

crocetin dimethyl ester ClsI-122 (COOCH3),β-car-

otene (C4oHρ, γ-carotene (C40 H56), lycopene

(C~OH56) , zeaxanthin (C4ol.-I!;I)02)などのカロチノイド

2 .材料

繊維布材料としては羊毛モスリン布 (30x 27本/cm,

厚さO.29mm)を使用した。

色素としてはスペイン産サフラン(写真・ 1)を使用

しfこ。

サフラン (saffron,crocus sativus L.)はスペイン,

フランス,イタリー,日本(広島,香川,大分,岩手の

各県)などで栽培されているアヤメ科 (lridaceae) の

Oh CH, 0・gentiobiosc

。 。J国 gcntiobi附 CH‘ 。i,

crocln

( 1 )

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-22- 生活環境学

‘.4

UH

fし 染色時間:60分間

染浴の pH: pH3.2

なお染浴の pHはClark-Lubsの緩衝液を用い, サ

フラン抽出液と 1: 1の割合で混合して調製した。

(脱着条件) 蒸留水:1 : 100 (対繊維)

脱着温度:45+ 2 oc (または95+20C)

脱着時間:60分間

CHJ

β-carotene

、duH fし CJI ~

CHl

J C11J

CH.l

CHl

3.3 金属塩による後媒染方法

3.2と同様に, Taiyo Incubator M -300型(振彊回

数:60+ 2回/分)を用い,下記に示す条件で行った。

(媒染条件) 蒸留水:1 : 100 (対繊維)

媒染剤濃度:5 ---40g/ R

媒染温度 :40土 20C

媒染時間:30分間

γ-carotene

Clb CHJ CII‘

CH ~

lycopene

11 I~人 H

3.4 染着率ならびに脱着率の測定

島津 2波長/ダブルビーム自記分光光度計 UV-3000

型を用い,色素抽出液の紫外部吸収スペクトルの極大吸

収波長とその波長における検量線を求め,残液比色法に

より染色前・後の吸光度を測定し,次式により染着率

(または脱着率)を求めた。

染着率(%)=100x (D一D.)/D

脱着率 (%)ニ100xD2/(D-D.)

D:染色後の染液の吸光度

D, :染色後の染液の吸光度

D2 :脱着後の残液の吸光度

、.eun ドし

J-CH3 CH3

CHJ CHJ CHJ

zeaxathin

色素で, このほか picrocrocin(ClsH2607) などのテル

ペン配糖体や safranal(dehydroβ 一cyclocitralCIO

Ht40)などの香成分や essentialoilなども含まれてい

る。 crocinは糖と結合した配糖体色素であり, カロチ

ノイド色素としては数少ない水溶性色素の一つである。4.実験結果及びその考察 ー

3 .実験方法4.1 サフラン色素の性状について

まず島津 2波長/ダブルビーム自記分光光度計 UV-

3000型を用い,スペイン産サフランの色素抽出液の紫外

部ならびに可視部吸収スペクトルの特性波長曲線と,そ

の極大吸収波長における色素濃度と吸光度との関係につ

いてみると,図 ・1, 2に示すように,いずれの濃度に

3.1 サフラン色素抽出液の調製

還流冷却器をつけた三つ口 フラスコ抽出装置を用い,

細か く粉砕したサフランを蒸留水によ って下記に示す条

件で熱抽出した後,ガラスフィルターで漉過し,浮遊物

を除去した。

(抽出条件) サフラン :6 g/ R,

抽出温度:95+ 2 oC

抽出時間:60分間

おいても紫外部吸収スペクトルでは255nmおよび328

nm付近に,また可視部吸収スペクトルでは442nmお

よび:463nm付近にそれぞれ極大吸収波長を示し,色素

濃度と吸光度との間には直線的な比例関係を示すことが

認められる。

しかし,サフランの色素抽出液は染色時に酸性染浴

(pH3.2)に調製すると,図 ・3, 4に示すように,可

視部吸収スペクトルでは442nmおよひ・463nmに極大吸

収波長を示し, pHの変化による影響は認められないが,

紫外部吸収スペクトルでは230nm,277nmおよび:328nm

-e・e.、

3.2 サフラン色素による染色ならびに脱着方法 染

色(または脱着)は TaiyoIncubater M -300型(振

盗回数:60+ 2回/分)を用い,下記に示す条件でそれ

ぞれ行った。

(染色条件) 染色液:1 : 100 (対繊維)

染色温度:45+ 2 oC

(2)

td盆

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-23-

(A )

皆川他:羊毛の染色

(A)

-向日『,

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時,,内,.

1.0 25;0・

328n・/

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1/200

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度0.5

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350 300

(n・)長

( B)

200

0.6

光0.4

~O.2 苦

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( B)

1.0 吸

0.5

← 凶。

2;;n・2300・光

25;n・光

度 0.5

3:!Sn・。{ト凶。41}

3280・1150

希釈倍率の異なるサフラン染液 (pH3.2)

の紫外部吸収スペクトルの特性波長曲

線(A)ならびに色素濃度と吸光度の関

係(B)

1/5001/200 1/100

希 釈 倍 率

図3

1/100

希釈倍率の異なるサフラン色素液の紫

外部吸収スペクトルの特性波長曲線

(A)ならびに色素濃度と吸光度の関係

(B)

(A)

442n.

1/200

希釈倍率

1/1000 1/400

図 1

4630・

( A )

442n・1.0

0.5

{ト国041}

550 500 長 (0.)

( B )

400 波

1.0

0.5

ト。

550 500

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400 350

463n・

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463n.

442n・1.0

度 0.5

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1/50 1/100 11500 1/200 ¥1100 1/200 1110001/400

希釈倍率希釈倍率1

希釈倍率の異なるサフラ ン染液 (pH3.2)

の可視部吸収スペクトルの特性波長曲線

(A)ならびに色素濃度と勝慣の関係(B)

図4希釈倍率の異なるサフラン色素液の可視

部吸収スペクトルの特性波長曲線(A)な

らびに色素濃度と吸光度の関係(B)

図2

'i, rl

ムi

ti

--i ‘.

(3)

HA

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まa

学境環活

付近に極大吸収波長を示 し, pHによる大きな変化が認

められる。このように pH3.2に調製したサフラン色素

抽出液は色相に全く変化が認められないことから, cro-

cinが酸により crocetinと gentiobioseとに分解さ れ

たものと考えられる。

生-24-

' ' .

RE

--A

328nll

255nm

0.5

0.4

0.3

← 502

l吸

なお pH3.2の酸性染浴においても各極大吸収波長で,

色素濃度と吸光度との間には直線的な比例関係が認めら

れるので,以下の染色実験ではサフラン色素の染着率を

277nmで測定した。

サフラン色素の抽出について

サフラン色素の主成分 crocinはカロチノイド色素と

しては数少ない水溶性色素の一つで、あるため,従来から

冷水による技法が示されているが,色素の抽出量が低い

ため本実験では熱水抽出法について検討した。

まず抽出温度がサフラン色素抽出液中の色素濃度にお

よぼす影響についてみると,図 ・5に示すように,抽出

温度を高めると抽出液中の色素濃度は増加するが, 700C

以上では色素量の増加の割合が少なくなることが認めら

れる。

4.2

.,

0

・・

1/100倍希釈

0.1

。120

サフラン色素の抽出時間と吸光度(255nm,328nm)

の関係

90 (分)間

60 出時

30 拍

10

図6

またサフラン色素の抽出時間と抽出液中の色素濃度と

の関係についてみると,図 ・6に示すように,抽出時間

を増すと色素濃度は急激に増加するが, 60分間以上では

抽出液中の色素濃度に大きな変化が認められない。

したがって本染色実験ではサフラン色素の抽出条件と

して抽出温度950

C,抽出時間60分間をそれぞれ一定にし

fこ。

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.

9

4.3 サフラン色素による羊毛の染色について

まず規定条件下で調製されたサフラン色素の染浴 pH

が羊毛の染色性におよぼす影響についてみると,図 ・7

に示すように, pH 3付近で最も高い染着率を示し,

た羊毛ケラチンたん白質の等電点 (pH5 ---6 )付近の

pH 5 ,._ 7の領域でほぼ一定の値を示すが, さらに染浴

の pHをアルカリ性側に移行すると,染着率が著しく低

8 7 5 6 pH

4 3

20

三10

者7

95

~55nm

328n・

1/250倍希釈

80 50 60 70

出温度 (.C)他

30

0.2

:叱

nv (ト凶。ァl)

染浴のpHが羊毛繊維の染着率に及ぼす影響図 7サフラン色素の抽出温度と吸光度(255nm,328nm)

の関係

図 5

(4)

内邑

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-25-

40

媒染剤濃度が羊毛繊維の脱着率(4 5 + 2 oC, 95 +

20C)に及ぼす影響<カリウムみょうば、んによる

二浴式後媒染>

色相の変化をともなわないカリウム明ばんを媒染剤とし

たアルミニウム媒染(後媒染)を行い,媒染剤濃度がサ

フラン色素の脱着率におよぼす影響についてみると, 図 -

10に示すように,カリウム明ばんの媒染剤濃度を増すと

急激に色素の脱着率が減少し, 950Cの脱着では 5g/ R

以上の媒染剤濃度で,また450Cの脱着では10g/R以上

の媒染剤濃度であそれぞれ一定の値を示すことが認めら

れる。

以上のように,サフラン色素による羊毛の染色におい

ては色素の結合が弱く,色落ちしやすい欠点が認め られ

るが,カ リウ ム明ばんのアルミニ ウム媒染(後媒染)に

よりサフラン色素特有の美 しい色相を生かした染色が可

能になり,また色素の脱落も大幅に低減する適性条件の

解明は糸口を見出した。なお脱着温度からみると,サフ

ラン色素による羊毛の染色においては繊維基質に対する

色素の結合にまだ問題が残されており今後さらに検討が

必要と思われる。

黄色染めは古くから一般庶民の色として刈安などのイ

ネ科の草で染められていたが,黄色系色素にはサフラン

のほかくちなし, きはだ, うこん,ふくぎ,

はぜのきなど種類が多し、。

こぶなぐさ,

450C脱着試験

950C脱着試験

( If' ) 度

20

剤鴻

10

媒染

5

皆川他:羊毛の染色

20

.-. 10 %

図10

5 .

(5)

120

95

下することが認められる。なお pH3以下の強酸性の染

浴ではサフラン色素および2次成分に変化が生じ,本色

素特有の色相にも影響が認められる。

また上記と同様,サフラン色素抽出液を用い,染色温

度が羊毛の染着および脱着率におよぼす影響についてみ

ると,図・ 8に示すように,染色温度を高めると染着率

がわずかに低下する傾向も認められるが,染着に対する

染色温度の影響はほとんど認められなし、。また染色した

羊毛からの色素の脱落も一般に多くなることが認められ

る。

また染色時聞がサフラン色素による羊毛の染色におよ

ぼす影響についてみると,図・ 9に示すように,短時間

の染色で急激に染着率が増し, 20分間以上の染色ではほ

ぼ一定の値に達することが認められる。

このようにサフラン色素による羊毛の染色においては

色素特有の美しい黄色系の色相が得られる反面,色素の

脱着率が高く,繊維基質に対する色素の結合が弱いため,

染色温度が羊毛繊維の染着率に及ぼす影響

染色時間が羊毛繊維の染着率に及ぼす影響

75

(~ )

Q

(分)

60

色温

60

時色

S島

45

20 30

30

10

図8

図9

20

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4・

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-26- 生活環境学

サフラン色素はカロチノイド系の crocinを主成分と

する配糖体 (gentiobiose)色素で,カロチノイド系色

素としては数少ない水溶性色素として知られている。

サフラン色素によって染色された布はミイラを包むの

に用いられたり,仏教僧が袈裟を黄色染めするのに用い

られていたが,サフラン色素はこのほか通風, リューマ

チなどの特効薬や香辛料を兼ねた食用色素としても用い

られてきた。

本研究では化学染料で得られない美しいサフラン色素

特有の黄色色素に注目し,羊毛の染色を通して色素の特

性を解明することを目的としている。

1 )サフラン色素は255nm,328nm, 442nmおよび

463nm付近に極大吸収波長をもっ特性波長曲線を示す

が,染色時の酸性染浴 (pH3.2付近〉では紫外部吸収ス

ペクトルにのみ変化が認められ, 255nm付近の吸収帯

が消失し,新たに230nmおよび:277nm付近に 2つの極

大吸収波長が認められる。また各極大吸収波長では色素

濃度と吸光度との聞に直線的な比例関係を示すことが認

められるが,本染色研究では以下サフラン色素の染着率

を277nm(crocetin)で測定した。

2 )サフラン色素の抽出においては色素の抽出量およ

び羊毛染色物の色相などを考慮し,抽出温度を950Cに,

また抽出時間を60分間に設定した。

3)サフラン色素による羊毛染色においては染浴の

pHが羊毛ケラチンたん白質の等電点 (pH5 -., 6付近〉

以下の pH3付近で最も高い染着率を示し,また温度依

存性はほとんど認められないが, 20-.,30分間の短時間染

色で急激に染着率が増大する。

4 )サフラン色素による羊毛の染色においては色素の

結合が弱く,色落ちしやすい欠点が認められるが, pH

3付近の酸性染浴で染色した後, 5 g/ R, 濃度以上のカ

リウム明ばんによるアルミニウム媒染(後媒染)を行う

と,サフラン色素の特性を生かした美しい黄色染めが可

能になり,色落ちが大幅に改善されることが日月らかになっfこ。

6.文献

1 )吉岡常雄:天然染料の研究一理論と実際染色法(光

村推古書院)p. 77 (1974)

2 )植村六朗ほか:日本染織辞典(東京堂出版) p.94

(1979)

3)山崎青樹:草木染の事典(東京堂出版) p.82, 131

(1984)

4)中江克己編:染織事典(泰流社)p.139 (1981)

5 )刈米達夫 :和漢生薬(広川書庖)p.283, 284 (1971)

6)服部静夫ほか:生体色素(朝倉書庖)p.21, 37 (1967)

7)稲垣 勲:植物化学(医歯薬出版)p .137, 226, 227,

257 (1959)

8)神戸文子 :暮らしの色彩(保育社)p.28~31 (1968)

(平成 5年10月12日受理)

Summary

Yellow has been a popular color from old times. The yellow dyeing has been performed with true

grasses such as Miscanthus tinctorius Hack. There are varieties of yellow colorants, i.e. ,Amur cork,

gardenia, turmeric, sumach as well as saffron.

A saffron colorant is a gentiobiose colorant consisting of crocin of carotenoid as a main element,

which is known as a rare water soluble colorant as a carotenoid colorant.

The cloth dyed with a saffron has been used for wrapping of a mummy and used for yellow surplice

for Buddhistic monks. In addition, saffron colorants have been used for specific medicines for gρut

and rheumatism, used for edible material serving both as colorants and spice.

1) Under approximately pH 3 , a saffron colorant shows a specific wave length curve having a

maximum absorption wave length at 230nm, 277nm, 328nm, 442nm and 463nm. A linear proportional

relationship is recognized between a concentration of a colorant and absorbency.

2) In the dyeing of wool fibers with the saffron colorant, a highest dye uptake is recognized at

approximately pH 3 ,lower value than isoelectric point of wool keratin. Although no temperature

dependency is recognized, the dye uptake rapidly increases with a dyeing for a short time from 20 to

30 minutes.

3) In the dyeing of wool fibers with the saffron colorant, the removal of a colorant decreases by

a saddening treatment with potassium alum, and the effect of a color fixing is recognized.

(6)

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