インフラ整備における資金問題の解決―インフラファンドの活用...

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インフラ整備における資金問題の解決―インフラファンドの活用に向けて 善利圭史 榎本奈央子 内山雄介 松浦希恵 2014 10 10 日提出

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インフラ整備における資金問題の解決―インフラファンドの活用に向けて

善利圭史 榎本奈央子 内山雄介 松浦希恵

2014年 10月 10日提出

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第37回(2014年度)懸賞論文

論文要旨 提出用シート

*このシートは、表紙のすぐうしろに綴じて提出してください。 この用紙を使用しなくても構いませんが、論文要旨添付は応募の必須要件です。

この用紙以外のものを使用する際には、キーワードの記入を忘れないようにしてくださ

い。

《課題の設定、分析方法、論旨の展開、そして得られた結論などを 600字程度(40字×15行程度)を目安として、 明確にまとめてください。》 現在、日本において、高度経済成長期に集中して造られたインフラが一斉に更新・補修

時期を迎え、老朽化が深刻な問題となっている。国土交通省の試算結果によると、今後 50

年間で必要になる維持管理・更新費用は約 210 兆円と見積もられているが、財源の問題も

あり、新たな資金を確保しない限り、政府が老朽化に対応することが困難な状況になって

いる。

そこで、政府はインフラ整備における民間資金の活用(PFI)を行っている。PFI は、サー

ビス購入型、独立採算型、混合型に分類される。インフラ整備においては、特に公的負担の無

い独立採算型事業の推進が望ましい。しかし日本は、インフラ事業者に対してリスクマネ

ーを供給する本格的な市場が形成されていないことから、PFI 資金組成上の障害となり、独

立採算型の事案が進まない要因となっている。そこで、資金調達問題を解決する手法として、

インフラファンドに注目が集められている。

そこで本論文では、インフラ整備における資金問題の解決策として、日本におけるイン

フラファンドの活用に向けて執筆する。海外で活発化しているインフラファンドの活用事

例を概観し、日本に適用するうえで妨げとなる問題点を分析する。そこから浮かび上がる

課題を、人材不足、不十分な投資家意識、支援策の不足の 3点に集約し、それに対する解決策として支援機関の確立と優遇措置の導入について検討していく。 後に投資市場確立

に向けた展望を述べ、本論文を締めくくる。

論文のキーワード(PFI、インフラファンド、支援機関 )

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目次

はじめに ................................................................................................................................ 2 1章 日本のインフラの現状 ................................................................................................ 3

1.1 インフラの老朽化 ...................................................................................................... 3 1.1.1 インフラとは ...................................................................................................... 3 1.1.2 進行状況 ............................................................................................................. 3 1.1.3 増大する整備費用 ............................................................................................... 4

1.2 財政収支の悪化 ......................................................................................................... 7 1.2.1 政府 ..................................................................................................................... 7 1.2.2 地方公共団体 ...................................................................................................... 8

1.3 資金調達方法 ............................................................................................................. 9 1.3.1 公債 ..................................................................................................................... 9 1.3.2 増税 ................................................................................................................... 12 1.3.3 民間資金の活用 ................................................................................................. 12

2章 解決策としてのインフラファンド ............................................................................ 14 2.1 インフラファンドとは ............................................................................................ 14

2.1.1 定義 ................................................................................................................... 14 2.1.2 上場インフラファンドと非上場インフラファンド ........................................... 14

2.2 事例分析 .................................................................................................................. 15 2.2.1 オーストラリア ................................................................................................. 15 2.2.2 韓国 ................................................................................................................... 17

2.3 課題 ......................................................................................................................... 18 2.3.1 人材不足 ........................................................................................................... 18 2.3.2 不十分な投資家意識 ......................................................................................... 19 2.3.3 支援策の不足 .................................................................................................... 21

3章 インフラファンド活用に向けて ................................................................................ 22 3.1 総合支援機関の確立 ................................................................................................ 22 3.2 優遇措置の導入 ....................................................................................................... 22

3.2.1 法人課税の免除 ................................................................................................. 22 3.2.2政府保証制度の確立 ............................................................................................ 24

3.3 日本におけるインフラ投資市場の展望 ....................................................................... 24 3.3.1 インフラファンドの棲み分け ............................................................................... 24 3.3.2 官民連携の強化 .................................................................................................... 25

結び ..................................................................................................................................... 26

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参考文献・URL ................................................................................................................... 27 はじめに

研究背景および目的 現在、日本において、高度経済成長期に集中して造られたインフラが一斉に更新・補修

時期を迎え、老朽化が深刻な問題となっている。国土交通省の試算結果によると、今後 50 年間で必要になる維持管理・更新費用は約 210 兆円と見積もられているが、財源の問題もあり、新たな資金を確保しない限り、政府が老朽化に対応することが困難な状況になって

いる。そこで、政府は PFI 事業を行っているものの、日本ではインフラ事業者に対してリスクマネーを供給する本格的な市場が形成されていないことから、PFI 資金組成上の障害となり、独立採算型の事案が進まない要因となっている。 そこで、資金調達問題を解決する手法として、インフラファンドに注目が集められてい

る。インフラファンドとは、投資家がインフラ事業運営のための特定目的会社に出資を行

い、事業の運営から得られる収益の一部を投資家に配当する金融商品を指す。インフラ事

業は、需要の景気変動に左右されにくいため安定した配当収入を見込むことができ、長期

的に安定した利回りを志向する投資家から評価されている。 本論文の目的は、日本にインフラ投資市場を確立することである。そこで、インフラ整

備資金問題の解決策として、日本におけるインフラファンドの活用に向けて執筆する。海

外ではインフラファンドの設立や投資活動が活発化し、インフラ整備が推進されているも

のの、日本では、インフラファンドの導入事例は少なく、導入にあたり生ずる問題点も多

い。そこで、導入の妨げになっている課題を分析する。そして、その課題に対し海外の成

功事例を基に解決策を模索していく。

論文構成 第 1 章では、インフラの老朽化の状況と政府の財政に関する問題について整理する。それに対する施策を検討し、特に PFI 事業を行う必要性を述べ、推進上の障害となる問題を概観する。第 2 章では、PFI 事業の抱える問題に対する解決手法として、インフラファンドを取り上げる。まず、本論文におけるインフラファンドについて定義し、先進地域であ

る海外の事例を分析する。そこから浮かび上がる課題を、人材不足、不十分な投資家意識、

支援策の不足の 3 点に集約した。第 3 章では、前章で明確化した課題の解決策として、総合支援機関の確立と優遇措置の導入を提示し、今後の展望を述べる。

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1章 日本のインフラの現状 1.1 インフラの老朽化

1.1.1 インフラとは

インフラとは、社会的経済基盤、社会的生産基盤を形成するものの総称であり、社会資

本と同義である。日本においてインフラは、戦後復興期や高度経済成長期などの経済成長

を支える重要な役割を持ち、特に東京オリンピック期の東海道新幹線、高速道路は日本の

発展に大きく貢献した。

インフラは種類が非常に多岐に亘っており、主に経済インフラと社会インフラの二つに

分類することができる1。経済インフラとは、直接的に一国の投資・生産・サービス提供を

支えるために不可欠な施設を意味し、主に道路や橋等の輸送に関わる施設、水道や電力、

廃棄物処理等の公益事業・エネルギーに関わる施設、通信タワー等の情報・通信に関わる

施設などが挙げられる。一方、社会インフラとは、国民の日常生活を支えるために不可欠

な施設や設備を意味し、学校や図書館等の教育施設、病院や介護施設等の医療施設などが

挙げられる。

1.1.2 進行状況

日本では、高度経済成長期に集中的に整備されたインフラが、今後一斉に老朽化する事

が懸念されている。各施設によって耐用年数2は異なるが、一般的な公用施設の耐用年数は

50年とされる3。国土交通省によると、平成 45年に建設後 50年以上経過する施設の割合は、道路 65%、河川管理施設約 47%、港湾施設 51%と推定される4。 近年、老朽化により施設の損傷事故などが多発している5。平成 24年度における、管路施

設の老朽化等に起因した道路陥没の発生件数は約 3,900 箇所であった。また、地方公共団体管理の橋梁は全体の 70%を占め、通行規制等は平成 20年 977橋から 25年 2104橋と近 5 年間で 2 倍以上に増加した。通行止めにより通学路を迂回しなければならないなど社会的な影響も発生している6。平成 24年 12月の中央自動車道笹子トンネル事故では 9名の命が失われ、わが国のインフラが抱える問題を露呈させた7。

1 加賀隆一『国際インフラ事業の仕組みと資金調達』、2010年、p.1 2 耐用年数とは、減価償却資産の課税の効率性を図るために設定された法定耐用年数である。施設の物理的寿命ではなくその期間を越えれば使用不可能になるのではない。 3 総務省「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四十年三月三十一日大蔵省令第十五号)」 4 国土交通省「インフラ長寿命化計画(行動計画)」、2014年、pp.4-5 5 総務省「社会資本の維持管理及び更新に関する行政評価・監視 資料」、2012年、pp.9-10 6 国土交通省「老朽化対策の取組み」、2014年 7 国土交通省「中央自動車道笹子トンネル内で発生した崩落事故について(第4報[ 終報])」、

2012年

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1.1.3 増大する整備費用

国土交通省は 2011年度から 2060年度までに必要な更新費8は約 190兆円、そのうち更新できないストック量は約 30兆円と試算9しており、今や老朽化対策は喫緊の課題である。ま

た、中期的には 13年度に約 3.6兆円、10年後には 4.3‐5.1兆円、20年後には 4.6‐5.5兆円程度に増えると推定している10 (図 1)。

図 1 維持管理・更新費の推計(従来どおりの維持管理・更新をした場合)

(出典) 国土交通省『平成 21年度 国土交通白書』、2010年 7月より執筆者作成

一方で「インフラ長寿命化基本計画」によると、「中期的視点に立ったコスト管理」の一

つとして予防保全型維持管理の導入が掲げられている11。予防保全の導入により、早期発

見・早期回収の取り組みを強化した場合、2060 年度までに更新できないストック量は約 6兆円と大幅に減少する(図 2)。

8 国土交通省によると、老朽化等に伴い機能が低下した施設等を取り替え、同程度の機能 に再整備することなどに要する費用を指す。原則として耐震基準の改正等への対応に伴う機能向上は

含む。 9 (注)2010年現在。 10 社会資本整備審議会・交通政策審議会「今後の社会資本の維持管理・更新のあり方について

答申」、2013年、p.8 11 インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議「インフラ長寿命化基本計画」、2013年 11月

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図 2 維持管理・更新費の推計

(予防保全の取組みを先進地方公共団体並みに全国に広めた場合) (出典) 国土交通省「平成 21年度 国土交通白書」、2010年 7月より執筆者作成

しかし、予防保全では補修費が計画開始前年度のそれを上回る傾向がある点に注意しな

ければならない。自治体によって計画開始の前年度の補修費の大小はあるが、全体的に計

画開始後の補修費が増大しており、10の自治体では 5倍以上となる(表 1)。 今後各自治体が予防保全などの取組みを進めても、維持管理・更新費は投資可能額を下

回らない。そのため予防保全を進めるためにも、必要な補修費用の確保を早急に行わけれ

ばならなくなる。

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表 1 都道府県と政令市の長寿命化修繕計画の概要

(出典) 日経コンストラクション編『インフラ事故 : 笹子だけではない老朽化の災禍 』日経BP社、2013年、pp.138-139より執筆者作成 (注)各自治体で長寿命化修繕計画の期間中の年間平均補修費(A)÷計画開始前年度の補修費(B)。Aと Bで条件が異なると明記されている自治体は算出不能とする。 (注)■5倍以上 ■2倍以上 5倍未満 ■同額以上 2倍未満 ■同額未満 □無回答、算出不能

自治体名計画制定時期(年度)

計画開始時期(年度)

計画対象の橋梁数(橋)

計画期間(年)

計画期間中の計画上の補修費

(億円)

計画期間中の計画を実施しない場合の補修費(億円)

計画開始前年度の年間の補修費

(億円)

計画開始初年度の計画上の年間の補修費(億円)

計画開始初年度の実際の年間の補修費(億円)

従来と比べた修繕計画の

補修費(倍)*1

*2

北海道 2009 2012 約5100 60 9000 25000 58 100 70 2.6

青森県 2012 2012 2275 50 724 1501 9.6 41 42 1.5岩手県 2007~2011 2008 2704 50 約255 約583 約19.9 約21.3 約21.3 0.3宮城県 2009 2010 634 20 約180 約360 4.24 10 10 0.3秋田県 2007~2009 2009 1106 30 430 1678 50 35 39 2.1山形県 2007 2008 2379 100 5900 7800 7 47 43 8.4福島県 2010 2011 4501 50 1500 4700 約25 32 約32 1.2茨城県 2009 2010 836 50 約820 約3320 10栃木県 2008 2009 1046 50 305 1777 約7 約7 約7 0.9群馬県 2010 2011 約2500 50 約1200 約6400 20 15 16 1.2埼玉県 2009 2009 808 50 1189 4552 約29 約30 約29 0.8千葉県 2010 2010 776 50 1172 3026 8東京都 2008 2009 約1250 30 5000 16000 60 80 80 2.8神奈川県 2009 2010 1215 50 1000 2200 21 18 18 1山梨県 2009 2011 1798 100 1950 4940 約32 25 約33 0.6長野県 2008 2008 1029 15 318 438 12 21 17 1.8新潟県 2009 2010 3812 47 25 51富山県 2010 2011 805 50 約659 約864 約15.5 約15 約15.4 0.9石川県 2009 2009 672 100 3200 4050 7.8 12.7 18.1岐阜県 2009 2009 1610 50 530 935 8 11 12 1.3静岡県 2008 2009 517 50 約600 約1800 約3 約10 約19 4愛知県 2009 2010 1693 100 2240 5700 10 10 10 2.2三重県 2010 2010 1237 30 134 187 約3 約4.5 約4.5 1.5福井県 2011 2008 2332 50 約6 約12滋賀県 2011 2012 742 50 600 1708 5 12 8.2 2.4京都府 2009 2010 595 50 1233 1520 約4.6 約7 約6.4 5.4大阪府 2011 2011 853 20 740 3540 12 37 17 3.1兵庫県 2009 2010 約1500 74 47 43奈良県 2009 2010 726 50 450 1270 6 11 11 1.5和歌山県 2009 2010 約2400 50 455 2300 1 6 6.8 9.1鳥取県 2009 2010 700 50 580 630 約6 約12 約10 1.9島根県 2011 2012 2644 60 1339 3664 15 21 13 1.5岡山県 2010 2010 956 50 約480 約1590 6.7 6.1 6.1 1.4広島県 2011 2012 4118 60 909 1817 8.1 9.8 9 1.9山口県 2011 2013 3075徳島県 2009 2010 660 50 約470 約820 約12 約7 約7 3.5香川県 2008~2011 2010 1080 50 174 936 約1 約1 約1 0.8愛媛県 2007~2010 2008 2740 50 275 1562 0.9 2.3 2.3 6.1高知県 2011 2012 2483 50 589 2499 2.5 6.2 6.2 4.7福岡県 2010 2009 4524 13.2 16.5佐賀県 2009 2009 623 30 250 584 13 11 12 0.6長崎県 2007 2008 1963 50 320 1730 約11 13 約14 0.6熊本県 2010 2011 3803 50 744.9 1446.4 21.3 17.8 21.1 0.7大分県 2009 2010 2264 50 50 930 25 24 26 0.4宮崎県 2010 2010 2025 100 2300 7500 20 9 8.4 1.2鹿児島県 2008 2009 2400 50 511 2930 10 10.3 9.5 1沖縄県 2010 2012 672 50 746 1271 16.9 29.8 18.5 0.9札幌市 2010 2010 450 50 970 3838 3 8.7 8.7 6.5仙台市さいたま市 2009 2010 270 70 540 850 2.4 7.5 2 3.2千葉市 2010 2011 446 50 約530 約1020 約6.7 約6.2 約8.5 1.6川崎市 2010 201 121 60 591 1.8横浜市 2011 2008 1700 100 4700 5900 9.8 17 10.3 4.8相模原市 2011 2012 627 60 約450 約800 0.7 3.7 1.5 10.7新潟市 2010 2011 4093 50 750 8.4 15 11.5静岡市 2011 2010 2648 50 674 11252 3 7.5 5 4.5浜松市 2011 2013 323 100 1288 2099 1.6 1 8.1名古屋市 2009 2010 880 50 1900 3400 6 12 12 6.3京都市 2011 2012 2773 100 約2000 約3300 約5 約11 4大阪市 2008 2009 764 30 1100 2100 25 37 27 1.5堺市 2007 2008 680 20 155 210 3.2 5 3.1 2.4神戸市 2007、2008 2008 約2150 50 500 1500 約5.2 約10.7 約11.7 1.9岡山市 2008 2010 513広島市 2008 2009 690 50 約486 約928 約1.4 約5.8 約2.5 6.9北九州市 2009 2010 1933 10 約1290 約3200 15.5 13.4 13.4福岡市 2009 2010 1965 50 1000 1000 0.7 1.98 1.9 11.7熊本市 2009 2011 2023 50 100 141 0.6 0.9 0.8 3.3

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1.2 財政収支の悪化

1.2.1 政府

前節で今後のインフラの維持・管理・更新費が増大し、莫大な資金が必要となることが

示された。そこで本節では、今後その資金を政府が捻出可能であるかを概観していく。 現在、日本の会計は一般会計と特別会計からなっており、国民が納める税金の大半は一

般会計予算に経理され、使用用途が決定されている。2014年度一般会計予算歳出総額のうち 32%が社会保障関係費に充てられ、地方交付税交付金等、国債費を合わせると歳出全体の 70%を超える。公共事業関係費が歳出に占める割合は全体の約 6%と国際的にも低い水準にあり12、不足の資金は建設国債の発行によって賄われている13。 一方、歳入面では 52%が租税及び印紙収入、43%が公債によって賄われている14。国・

地方合わせた長期債務残高は 2012年度末において GDP比 197%程度となり、主要先進国中 悪の水準であることから極めて深刻な財政赤字の状況に陥っている15。 さらに、景気低迷や少子化等による税収の減少により歳入は減少した一方、高齢化等に

よる社会保障関係費の増大等によって歳出が伸び続け、国債残高は年々増加しており、2014年度末では 780兆円程度に上ると見込まれている16。

図 3 平成 26 年度一般会計予算歳出総額

(出典)財務省「日本の財政関係資料」、2014年 2月、p.1より執筆者作成

12 財務省「日本の財政関係資料」、2014年 2月、p.1 13 詳細は 1.3.1公債で述べる。 14 財務省「日本の財政関係資料」、2014年 2月、p.2 15 財務省「日本の財政関係資料」、2014年 2月、p.15 16 財務省「日本の財政関係資料」、2014年 2月、p.22

32%

17%

6% 6% 5%

10%

24%

社会保障

地方交付税交付金等

公共事業

文教及び科学振興

防衛

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図 4 公共事業関係費の推移

(出典)財務省「日本の財政関係資料」、2014年 2月、p.21,67より執筆者作成 今後、更なる少子高齢化の進展により財政負担が増えることが予想されるため、予算を

公共事業関係費に割り当てることも困難になることが懸念される。

1.2.2 地方公共団体

一方、地方公共団体も厳しい財政状況にあり、増大するインフラ整備への公的資金投入

は難しい現状にある。 内閣府が 2013 年に行った「社会インフラ維持管理・更新に関する自治体への意識調査」

17において、市区町村、都道府県ともに、社会資本の維持管理・更新需要の増大により懸念

される内容として、財政負担や住民負担への増大を挙げている(図 5)。対策としては、社会資本の維持管理・更新費用に掛かる財源の確保が も関心が高い(図 6)。しかし、都道府県・政令市・市区町村その他の総数の約 70%が、長期的維持管理・更新に必要となる費用をどの程度費用が必要となるのか、把握していないとされる。その理由として、予算不

足やデータの蓄積の不足といった回答が多く、費用の把握や推計を行う事が出来ない現状

にある(図 7)。 このことから、地方公共団体においても必要な財源を確保できず、インフラの維持管理・

更新が難しい現状にあることが分かる。

図 5 今後、社会資本の維持管理・更新需要が増大することにより懸念される内容(複 17 内閣府「平成 25年度 年次経済財政報告」、2013年 7月、pp.355-356

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9

数回答可) (出典)内閣府「平成 25年度 年次経済財政報告」、2013年 7月、p.355より執筆者作成

図 6 懸念される内容への対応方策として、関心があるもの(複数回答可) (出典)内閣府「平成 25年度 年次経済財政報告」、2013年 7月、p.355より執筆者作成

図 7 「どの程度の費用が必要となるのか、把握していない」と回答した理由 (回答数の多いもの 3 つ)

(出典)内閣府「平成 25年度 年次経済財政報告」、2013年 7月、p.356より執筆者作成

本節では、インフラ整備に関しての莫大な資金を政府が捻出可能であるか概観してきた。

しかし、財政収支は悪化の一途を辿っており、増大するインフラ整備への公的資金投入は

難しく、政府の負担を軽減していく必要がある。 1.3 資金調達方法

1.3.1 公債

公共事業費の財源の調達方法として、建設国債の発行が財政法第 4 条において認められ

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10

ている。建設国債を発行しても歳入が不足する場合には、公共偉業費以外の歳出に充てる

財源として、政府は特例国債を発行する。 両者の総額は年々上昇しており、2014年度末の公債残高は約 780兆円と見込まれている

(図 8)。これは一般会計税収の約 16 年分に相当し、国民一人当たりの負担は約 616 万円と試算される18。少子高齢化が加速する日本では、さらなる国債発行により次世代への負担

が増大するのは明らかである。 財政債務が増大すれば、国債のリスクプレミアムが高まり利回り上昇の要因となるが、

過去 10年間の国債利回りは減少傾向にあり、2014年 9月 1日時点で 0.495%と低い水準で安定している19。この一因として、国債の国内消化が挙げられる。国債保有の内訳をみると、

海外(4.1%)を除く国内保有が 95.9%であり、国内の金融機関が 72.2%を占める。(図 9)その原資は家計や企業の貯蓄、保険料である。家計の貯蓄により日本はこれまで資産・負債ス

トックのバランスで国内資金余剰を維持し、国内消化が可能であった。

図 8 公債残高の累増

(出典)財務省(http://www.mof.go.jp/index.htm)より執筆者作成

18 平成 26年度の総人口 (平成 24年 1月推計)で公債残高を除した数値。 19 日本相互証券株式会社 http://www.bb.jbts.co.jp/

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11

図 9 国債(割引短期国債を除く)の所有者別内訳 (平成 26 年 3 月末) 840 兆 7,572 億

円 (出典)日本銀行「資金循環統計」より執筆者作成

(注)「国債」は財投債を含む。

しかし、家計の貯蓄率と 60 歳人口比率は負の相関関係にあり20、さらなる少子高齢化や

人口減少により家計の資産が減少し資産・負債バランスが資産不足に転ずれば、国内消化

余力の低下が懸念される。また、近年では海外投資家の日本国債への需要も高まっている。 Tokuoka,Kiichi(2010)は、日本国債の海外保有比率の増加に伴って日本の長期金利が

上昇することを実証している21。松岡・寺田(2012)は、「国債の海外保有比率」と「国内資金余剰」の関係性を示し、「政府債務に対し国内民間金融資産が少なくなってくると海外

投資比率は上昇する傾向がある。― 米国やスウェーデンの実績から粗く見積もると国内資金余剰の 104.73%は海外保有比率の約 2 割にあたる。つまり、海外保有比率が 2 割以上になると海外投資家が金利全体に影響を及ぼし始める。」22とする。また、金利が上昇すれ

ば国債の償還に充てる歳出の割合が大きくなり、必要な公共財を提供する事が出来なくな

る恐れもある。 そのため財政や次世代への負担を増大させないためにも、国債発行によって公共事業費

の資金調達は抑制させるべきだと考えられる。

20 (出典)三菱東京 UFJ銀行「日本国債の国内消化構造はいつまで維持できるか」、2010年 4月、p.8 21 Kiichi Tokuoka ‘’The Outlook for Financing Japan’s Public Debt’’ IMF Working Paper , No. 10/19 ,January 1,2010 22 松岡秀明、寺田昇平「破綻リスク膨らめば国債金利 10%も -海外保有比率高まり 18年から28年にも-」日本経済研究センター、2012年、p.12

0% 0%

19%

38%

23%

8%

4%

4% 2% 2% 一般政府(除く公的年金)

財政融資資金

日本銀行

銀行等

生損保等

公的年金

年金基金

海外

家計

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12

1.3.2 増税

次に、財源確保のため増税行い、資金調達を行うことが考えられる。しかし、増税を行うこ

とで税収が増加するものの、それと同時に様々な問題が懸念される。図 11は国民負担率の推移を表している。

図 10 国民負担率(対国民所得比)の推移

(出典)財務省「国民負担率の推移(対国民所得比)」、2014年より執筆者作成

近年、国民負担率は上昇傾向にあり、2014年度には 41.6%と過去 高となる見通しとなっ

ている。高齢化や厚生年金等の保険料の上昇による社会保障費の増大、消費税の引き上げ等、

国民の負担は年々増加する一方で、人口減少も進行している。そのため、国民一人当たりの

負担は、今後大きくなってゆくことが予想される。従って、増税による税収をインフラ整備

の財源として活用することは、国民負担の観点から見て望ましくないと考えられる。また、

課税対象や税率の設定、受益と負担の関係を考慮しなければならないなど課題も多く、資金

の調達手法として現実的ではないと言える。

1.3.3 民間資金の活用

インフラ事業の新たな整備手法の一つとしてPFIなどの民間資金の活用がある。1999年、PFIの促進を目標にした「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」が制定され、民間企業によって公共施設等の整備や運営を行うことが可能となった。

PFI事業を行うことで期待される効果として以下の 3点が挙げられる23。1つ目は低廉かつ良質な公共サービスが提供されることである。厳しい国や地方の財政下で民間事業者の

経営ノウハウ、技術的能力や資金を活用することで事業全体のリスク管理が効率的に行わ

23 尾林芳匡、入谷貴夫『PFI神話の崩壊』、自治体研修社、2009年、pp.185-186

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13

れることや、設計・建設・維持管理・運営の全部または一部を一体的に扱うことで事業コ

ストの削減が期待できる。 2つ目は公共サービスの提供における行政の関わり合い方の改革である。国や地方公共団

体等が行ってきた事業を民間事業者に委託することになるため官民の適切な役割分担が行

われることが期待される。 そして 3つ目は民間の事業機会を創出することを通じ経済の活性化に資することである。

従来、国や地方自治体等が行ってきた事業を民間事業者に委ねることにより民間に対し新

たな事業機会をもたらし、他の収益事業との組み合わせにとっても事業機会の拡大につな

がることが期待される。 PFIにはサービス購入型、独立採算型、混合型 3つの分類型が存在する24。サービス購入

型とは民間事業者が公共施設等の設計・建設・維持管理・運営を行い、公共部門はそのサ

ービスの購入対象となる。つまり民間事業者は事業コストを公共部門から支払われるサー

ビス購入料により全額回収する類型である。 次に、独立採算型とは公共部門からの事業許可に基づき、民間事業者が公共施設等の設

計・建設・維持管理・運営を行い、事業コストを利用料金収入等の受益者からの支払いに

より回収する類型である。 また、混合型とは官民双方の資金を用いて公共施設等の設計・建設・維持管理・運営を

行うが事業の運営は民間主導である。事業コストは公共部門から支払われるサービス購入

料と利用料金収入等の受益者からの支払の双方により回収される類型である。 PFI の事業費回収方法の分類ではサービス購入型が 273 件で 79.4%、独立採算型が 28

件で 8.1%、混合型が 12件で 3.5%となっている25。 日本はサービス購入型の割合が非常に高く、政府負担のない独立採算型や混合型の割合

は低い。その理由として、PFI を行う事業者に対してリスクマネーを供給する本格的な市場

が形成されておらず、独立採算型の資金組成上の障害となっているためである26。

財政負担の軽減とインフラ整備の両立が出来る PFI は非常に有効的であると考えられる。

しかし、PFI を推進していくためには日本における資金供給市場を確立させ、独立採算型の

案件を増やしていかなければならないのである。

24 同上 pp.136-139 25 総務省「地方自治団体における PFI実施状況報告書 」、2011年 26 民間資金等活用事業推進機構(http://www.pfipcj.co.jp/index.html)

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14

2章 解決策としてのインフラファンド 2.1 インフラファンドとは

2.1.1 定義

前節で述べた通り、日本においてリスクマネーを供給する市場が確立されていないため、

インフラ事業者にとって資金調達が難しい状況下にある。そこでそれらの問題を解決すべ

く、新たな資金調達の手法として注目されているのが、インフラファンドである。

インフラファンドとは、インフラ事業に特化した投資ファンド27の総称である。1990年代にイギリスとオーストラリアで本格的に組成された。その後韓国、欧州、北米へと拡大

していった。また 2000年以降に、世界的に規模が拡大していった、比較的新しい投資ファンドである28。 インフラファンドの特徴として、長期的に安定したリターンを得られることが挙げられる。

そのため流動性は低いものの、リスクが他の投資に比べ低いため、安定志向の機関投資家

などから選好されている。

インフラ事業は、グリーンフィールドと呼ばれるインフラの設計や建設を開始する段階

と、ブラウンフィールドと呼ばれる運営段階に分類される29。一般的に、新興国はグリーン

フィールドの案件が多く、先進国はブラウンフィールドの案件が多い傾向にある。段階や

業種、国によってリスクやリターンは異なるが、グリーンフィールドの投資案件の方がリ

スクが高くリターンも高い。インフラファンドの投資案件は運用会社によって異なり、新

興国に特化したファンドや、新興国と先進国両国に投資するファンドもあるなど、非常に

多岐にわたっている。

2.1.2 投資家募集形態30

インフラファンドには上場インフラファンドと非上場インフラファンドがある。本項で

は、両者の違いやそれぞれのメリット・デメリットについて説明する。

上場インフラファンド31

上場インフラファンドは、オーストラリアやカナダを中心に多く存在しており、2000年以降順調に設立数を伸ばし、現在(2013年 1月 30日時点)は、約 50銘柄で時価総額は 10.4

27 ファンドとは広く投資家の資金を集め一定のルール・約束事のもとで投資を行いその利益を投資家に返す組織である。形態は会社組織であることもあるが法人格を持たない組合のような組

織も存在する。 28 野村総合研究所(福田隆之、谷山智彦、竹端克利)『入門インフラファンド』、東洋経済新報

社、2010年、p.1 29 同上 pp.10-11 30 同上、pp.87-109 31 東京証券取引所上場インフラ市場研究会「上場インフラ市場研究会報告―我が国における上場インフラ市場の創設に向けて―」平成 25年 5月 14日、参考資料 p.6

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15

兆円に上る。しかし、株式市場の影響を大きく受けるため、2008年の金融危機発生時には鈍化傾向にあった。 世界の上場インフラファンドの約 38%はオーストラリア証券取引所に上場したものであるが、その理由は「オーストラリアのインフラファンドが投資銀行主導で形成され、上場を

通じた手数料収入を狙うケースが多かったこと」「主たる投資の担い手であった年金基金が

制度上、他の年金基金への口座の移行や解約が可能であり、流動性のある上場市場での取

引を好んだこと」32と指摘されている。

非上場インフラファンド

現在取引されているインフラファンドはほとんどが非上場インフラファンドであり、そ

の形態は主に組合形態、特に投資事業有限責任組合33での組成が多い。 業務執行を行わない組合員による出資は有限責任であるため、幅広い投資家による投資

が見込める。メリットとして、銀行出資による株式保有が総株式の 5%以内という規則が適応されず、組合であるため法人税がかからない。一方、ファンドの運営者は一般的には無

限責任を負うが、多くの場合は特別目的会社(SPC)として設立し、それに対して投資運用業務のみを行う事で直接的に無限責任を負う事はない。 非上場インフラファンドは株式市場の影響を直接受ける事はないため、安定的な資金調

達が可能だが、投資家は持ち株を一定期間売買できないなど、流動性リスクを抱える。 2.2 事例分析

2.2.1 オーストラリア

1980年代初頭、オーストラリアの財政収支は対 GDP比マイナス 6%を超え、インフレ率・失業率は 10%超えと深刻な財政状況にあった。これを背景に、財政改革施策の一つとしてインフラ整備への民間資金の活用が打ち出され、PFI/PPP(以下、PFI)34が活用され始めた。

1996 年には財政改革が本格化し、「市場化テストや PFI 活用の必要性が訴えられ、空港や鉄道、通信などの分野で法改正が進み、インフラへの民間資金の導入や民営化が財政改革

のための政策として位置付けられること」となった35。オーストラリアの PFIが拡大してきた要因として、以下 3点が挙げられる。 第一に、機関投資家の豊富な資産残高の運用が可能であったことである。1992年にオー

ストラリアの公的年金制度であるスーパーアニュエーション制度が義務化され、給与の 9%が積み上げられる事となり、オーストラリア全体の投資可能資産は 2005年時点で 7,618億豪ドル(約 64兆円)に及んだ36。 32 前掲書、福田・谷山・竹端(2010)p.5 33 (詳細) 内閣府「投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成十年六月三日法律第九十号)」 34 日本の PFI とオーストラリアの PPP は同義であると捉える事が出来る。 35 前掲書、福田・谷山・竹端(2010)、p.18 36 瀧俊雄「アセット・クラスとして拡大するインフラストラクチャーへの投資」、2006年、p.91

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第 2 に、このような機関投資家と PFI 事業とを結ぶ役割を果たしたインフラファンドの存在である。オーストラリアのインフラファンドは 1990年代後半から設立しはじめ、積み立てられた巨額の年金の一部がインフラファンドを通して PFI 事業のエクイティ投資に当てられるようになった。2010年 6月時点で約 1.2兆豪ドル(約 118兆円)と過去 大の資産

残高となり、その 5%程度がインフラ投資に割り振られている37。 インフラ整備への民活の導入などを背景に、債券や株式発行による資金調達が発展した。

野村総合研究所(2011)38では、オーストラリアにおけるインフラ投資は、大きく二つに分

かれると考察する。まず、100億豪ドルを満たない年金基金では「運用コンサルタント等の助言を受けて行う」事となり、これを超える年金基金では「年金基金の内部にインフラ投

資の専門性を持った人材を置いて行う」傾向がある。 上記二つ以外に、相対的に運用資産が小さくインフラ投資に必要な専門的ノウハウを持

つ担当者を置けない年金基金が共同で運用会社を設立し、人材・ノウハウの蓄積をしてい

るケースがある。その一例である Industry Funds Management(IFM)は、1994年に設立され、現在の運用資産総額は約 234億豪ドル(約 2.3兆円)で、そのうち 36%の約 82億豪ドル(約 8078億円)をインフラ投資に向けている39。 そして第 3に、オーストラリア政府による諸制度や、マッコーリー銀行40をはじめとする

投資銀行やアドバイザーなどが、金融市場や投資家動向に対する判断を行う上で運用者に

助言をしてきたことである。2008年には豪州インフラ委員会(Infrastructure Australia)が設立され、連邦、自治体、投資家などに対して国家的に重要なインフラ事業の優先順位

や政策、規制の変更を通知し、プロジェクト選定に当たり厳格な評価プロセスを行われる

ようになった。さらに、「国家官民連携政策および指針」(National PPP Policy and Guidelines) が豪政府協議会(COAG)によって承認された。これにより各州の政策や指針は廃止され、すべての連邦、州、準州の政府機関が同政策及び指針を適用し、各州間や

連邦政府との間で協調的かつ協力的な連携が整っている41。 しかし、資金調達が多様化する一方、2008年の金融危機時には直接的にその影響を受け、上場会社の株の急落によってインフラファンドの時価総額が大幅に落ち込む事態となった。

37(参照)前掲書、福田・谷山・竹端(2010年)、p.159-160 38 野村総合研究所「平成 22年度アジア産業基盤強化等事業(インフラ整備のためのインフラファンドの活用促進調査)」、2011年 3月 39 同上 pp.60-61 40 インフラ投資を専門とする投資銀行であり、世界 大のインフラファンドの運用者である。 41 日本貿易振興機構海外調査部 アジア大洋州課「豪州及び日本のインフラ分野における PPP プロジェクト ~民間部門参入の促進に向けて~」2010年、p.13

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17

2.2.2 韓国

韓国は、政策的に PFIやインフラファンドの活用を進めている。1999年に、社会基盤施設投融資会社(インフラファンド)が法律で設立されたことにより、インフラ事業を専門

に投資し、その収益を株主に配分させることが出来る仕組みが構築された。

表 2 は韓国における PFI事業の規模の推移を示している。表 2 を見ると、1999年から2010年にかけて、PFI事業の契約額が年々上昇していることが分かる。また政府の公共投資に対する PFI事業の比率を見ても、1999年の 3.9%から 2010年の 16.3%と、大きく増加しており、民間資金の活用が進んできていることが分かる。それに伴いインフラファンド

も規模を拡大し、インフラ運用資産が約 700億円を超える大手ファンドも数多く存在するほどに成長した。

(単位:兆ウォン)

表 2 PFI 事業の実施ボリューム

(出典)株式会社野村総合研究所「韓国における PPP/PFI制度とインフラファンドに関する調査」、2011年 1月、p.5より執筆者作成 (注)2010年の数値は実施予定を含む。

このように、PFIの進展とともに、インフラファンドが民間事業者に対する主要な資金提供者として規模を拡大してきた要因として、以下の 3 点が挙げられる。まず第 1に、政府による優遇制度が非常に充実している。代表的なものとして、政府の 低保証制度と税制

優遇措置が挙げられる。

前者は、「個別のプロジェクトについて政府と民間企業が結んだ契約に基づいて、あら

かじめ想定していた収入を、実際の収入が一定以下まで下回った場合に、差分を補てんす

るもの」42で、これにより PFI 事業者や投資家が参入し易くなった。しかし、行き過ぎた政

府の保障により、国内から批判が相次ぎ、見直しが行われている。後者は、インフラファ

ンドの法人課税の免除や個人投資家への配当課税の軽減である。こうした、政府による支

援策により、インフラ投資主体が活動しやすい環境作りが行われている。

第 2に、韓国の公共投資管理センター(以下 PIMAC)と呼ばれる支援機関の存在がある。具体的な事業内容として、政府機関に対しての PFI事業の業務支援、事業の評価等様々である。また PIMACの特徴として、投資家への支援も行っている。その内容は、国内投資家

42 株式会社野村総合研究所「韓国における PPP/PFI制度とインフラファンドに関する調査」、2011年 1月、p.10

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010PPI契約額(A)

0.5 1 0.6 1.2 1 1.7 2.9 2.9 3.1 3.8 3.9 4.1

政府による公共投資(B)

12.7 15.2 16 16 18.4 17.4 16.3 18.4 18.4 20.5 25.4 25.1

A/B(PPI比率)

3.90% 6.60% 3.40% 7.50% 5.60% 9.80% 16.10% 15.90% 17.00% 18.40% 15.40% 16.30%

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18

に対する投資相談や、海外投資家の投資相談や民間投資事業に対する外資誘致活動などと

非常に幅広い。韓国国内の PFIの制度や情報が分からない投資家に対し、機関の持つ情報を提供することで、投資へのハードルを下げている。

第 3に、人材育成やノウハウの蓄積が行われている。先述の PIMACは、PFI事業の支援を一貫して携わることによって得たノウハウを、人材育成に活かしている。また、ファ

ンド運用会社は、銀行においてプロジェクトファイナンスの形でインフラ事業に携わって

いたり、インフラに関する技術的な知見を持つ人材を登用することや、外部の専門的な会

社と提携することで、人材やノウハウの不足といった問題を克服している。

二つの事例から抽出される共通点は以下の 3点に集約することができる。まず第 1点目に、政府による優遇措置等様々な支援制度が整っている。2点目に、支援機関によって PFI事業や投資家に対する充実したサービスを提供し機能している。3点目に、支援機関による人材育成やノウハウの蓄積が行われていることである。次節では、この分析をもとに日本

のインフラファンド活用にあたって生ずる課題について検討していく。 2.3 課題

2.3.1 人材不足

幅広い投資家からの投資を集めるためには、資金徴収をする運用者がインフラにおける

資産運用のノウハウを蓄積している事が必要となる。しかし、現時点で日本にはインフラ

事業への投資経験がある機関投資家は極めて少ない43。 図 14は、インフラファンドやインフラへの投資に当たって改善されるべき事項について、機関投資家と事業会社に行ったアンケート結果である。「インフラ労使に関する制度や、投

資対象にかかる豊富な情報開示」「インフラ事業やインフラ投資商品のリスク・リターン特

性の明確化」に対する機関投資家の割合が高い事、また「国内の投資家・事業会社による

投資経験の蓄積」に対してもニーズがある事から、運用者のノウハウの蓄積が必要だと考

えられる。

43 野村総合研究所 金融 ITナビゲーション推進部(持丸伸吾)「期待される国内インフラ事業への機関投資家の参加拡大」、2014年、p.2

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19

(単位:%)

図 11 インフラファンドやインフラへの投資にあたって改善されるべき事項

(出典)野村総合研究所「震災復興事業への民間資金の参画意向把握等調査(機関投資家・事業

会社 アンケート 分析結果)」、2012年、p.3

2.3.2 不十分な投資家意識

インフラファンドが機能するためには、投資案件にある程度投資が集まらなければならな

い。しかし、野村総合研究所が 2009年と 2010年に行った日本の投資家のインフラ投資動向に関するアンケート調査44によると、機関投資家や年金基金のインフラファンドに対する

44株式会社野村総合研究所「平成 22年度アジア産業基盤強化等事業(インフラ整備のためのインフラファンド活用促進調査)」、2011年 2月

45.3  

43.2  

38.5  

26.6  

20.3  

15.4  

13  

7.8  

3.9  

26.3  

16.9  

27.7  

21.4  

21.4  

18.9  

13.9  

9.2  

10.9  

11.3  

4.2  

46.6  

20.6  

0   5   10   15   20   25   30   35   40   45   50  

インフラ投資に関する制度や、投資対象に係る豊富な情報開示

インフラ事業やインフラ投資商品のリスク・リターン特性の明確化

日本におけるインフラ市場の隆盛

改正PFI法の運用の安定と成熟化

国内の投資家・事業会社による投資経験の蓄積

高い実績を持つインフラ事業会社の参入

高いリターンが臨める投資対象の登場

先進市場である海外で投資を行うことによる、貴社内でのインフラ投資に係る知見の蓄積

その他

上記のような改善がなされても、インフラ投資には関心がない

新しい投資対象に挑戦するための、余裕ある資金の確保

機関投資家(n=384)

事業会社(n=238)

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20

スタンスとして「詳しく知らないが、特に興味はない」と回答した機関は、2009年に比べ若干減少したものの各年共に も多く、また 2010年において「詳しくは知らないが、投資先として興味を持っている」、「既に一定の調査を行っており、投資は行っていないが、

興味は持っている」、「既に投資を行っている」と回答した投資家を合わせても 39.1%と、関心を持っている機関投資家が少ないことが明らかとなっている。

(単位:%)

図 12 インフラファンドに対するスタンスに関する 2009 年度との比較

(出典)株式会社野村総合研究所「平成 22年度アジア産業基盤強化等事業(インフラ整備のためのインフラファンド活用促進調査)」、2011年 2月、p.41

インフラファンドに投資を行っていない理由として、「流動性がない/低いから」や「投

資期間が長すぎるから」など、インフラファンド自体の特性を挙げている投資家が多い45。

一方で、インフラファンドに興味を持った理由としては、「株式市場などの主要金融商品

との連動性が低そうだから」や「リターンは高くないが、安定しているから」、「公共債

のように安全な投資対象に見えるから」といった、インフラファンドの利点を挙げた回答

が多くなっている46。このことから、まずはインフラファンドに魅力を感じる投資家を、い

かにしてインフラ分野の投資に取り込んでいくかということが今後の課題となってくる。

45同上。p.24 46同上。p.25

58.7  

23.2  

9.3  

4.5  

3.5  

0.8  

55.6  

27.6  

8  

5.3  

3.5  

0  

0   10   20   30   40   50   60   70   80   90   100  

詳しく知らないが、特に興味はない

詳しくは知らないが、投資先として興味は持っている

既に一定の調査を行っており、投資は行っていないが、興味は持っている

既に調査済み/投資済みであるが、今後の投資先としての興味はない

既に投資を行っている

無回答

2009   2010  n=375(2009)  n=514(2010)

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2.3.3 支援策の不足

前節で述べた韓国とオーストラリアにおいて、政府による支援策が充実しており、インフ

ラファンド並びに PFI事業の発展に寄与したことを述べた。日本におけるインフラファンドに関する支援としては、2013年の 10月に民間資金等活用事業推進機構(以下 PFIPCJ)と呼ばれるインフラファンドが設立されている。PFIPCJは、政府と民間の共同出資により設立された官民インフラファンドである。機構の主な目的として、独立採算型等の PFI事業のリスクマネーを拠出することによって、日本における独立採算型等の PFI事業の推進を行うことや、インフラに対するリスクマネーを供給する自律的な市場を形成していくこ

とが挙げられている47。

図 13 民間資金等活用事業推進機構スキーム図

(出典)民間資金等活用事業推進機構 http://www.pfipcj.co.jp/index.html

しかし、当機構の活動実績を見ると、わずか 1件の事業に対する出資のみに留まっており、資金融資以外の支援策は現状行われていない。 一方で、政府も PFI事業への支援は行っているものの、多くが事業に関する調査支援や

資金援助に留まっており、人材育成やノウハウ支援などが行われておらず不十分である。

そのため普及初期において、金銭面などの支援に限らず、包括的な支援策や優遇措置等の

導入も並行して行っていくことが重要だと考えられる。

47民間資金等活用事業推進機構 http://www.pfipcj.co.jp/index.html

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3章 インフラファンド活用に向けて 3.1 総合支援機関の確立

2章 2節の事例分析でみたとおり、各国においてインフラファンドを活用する上で支援機関が重要な役割を果たしていた。本節では、前章で抽出された 3 つの課題に対して求められる総合支援機関の支援方法について検討する。 前章で述べた通り、日本におけるインフラ投資の事例は少ないため、インフラファンド

運用会社にそういったインフラ投資や PFI 事業に精通した人材が不足する可能性がある。そのため、PFI事業に携わり支援を行う機関に、機関の持つ情報やノウハウを活かした人材支援や、投資家支援等の幅広い業務を行う総合的な支援機関の枠組みを確立させることが

必要である。現在の日本において支援業務を行うものとして、内閣府の PFI 推進室と官民インフラファンドである PFIPCJ が挙げられる。PFI 推進室では、PFI 事業の事業調査や資金面での援助等の支援を行い、PFIPCJでは、実際にインフラファンドとして出融資を行う。今までの支援実績によるノウハウや情報や、官民インフラファンドによる投資経験な

どを、運用会社や投資家など支援を必要とする主体に対して活かしていくことが重要であ

る。 またそれに際し、日本におけるインフラファンドの環境整備においては、インフラ投資

のノウハウを有する海外の運用者などと協力する体制が望ましいと言える。実際にオース

トラリアの IFMでは、設立当初は投資事業ではなく運用コンサルタントを活用してコンサルティングビジネスを行う事でノウハウの蓄積をしていた。そのようにノウハウを蓄積す

ることで投資家に対する安心の構築に繋がった。日本でも、民間インフラファンドを進め

る初段階においては、海外のインフラファンドなどから支援を受け、設立を進める必要性

があると考えられる48。 3.2 優遇措置の導入

前章の 2節で述べたとおり、韓国とオーストラリアの両国ともに、政府が優遇措置を導入し一定の効果を挙げたことが明らかになった。そこで本節では、日本における優遇措置の

導入について、法人課税と政府保証の 2つの観点から検討していく。

3.2.1 法人課税の免除

インフラファンドは、運用会社によって資金が調達され運用されるため、事業を行うにあ

たり法人税等の様々な税金が課税される。現在、日本でかかる法人税は以下の通りとなっ

ている(表 6)。実効税率は約 22%から 38%となっている。インフラファンドは特性上、

48 野村総合研究所「平成 22年度アジア産業基盤強化等事業(インフラ整備のためのインフラファンド活用促進調査)」、2011年 2月、p.66-67

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保有資産や運用資金の規模が大きいため、それだけ多くの税金がかかることになる。日本

の法人税は減少傾向にあるものの、諸外国の法人税と比較した場合、日本の法人税は高水

準にあることがわかる49。

表 3 法人所得課税の概要

(注)法人住民税および事業税については東京都の場合の例示。ただし下記を条件とする。 l 資本金は 1億円以下。資本金が 5億円以上の大法人の 100%子会社には該当しない。 l 法人税額が年 1千万円以下、かつ、所得金額が年 2千 5百万円以下。 l 2以下の都道府県に事務所・事業所が所在。 (出典)日本貿易復興機構 http://www.jetro.go.jp/indexj.htmlより執筆者作成

日本においても法人税の優遇措置を行っているものの、租税特別措置や中小企業に対す

る軽減税率制度、また公益法人に対する優遇措置等に留まっており、運用会社に対する優

遇措置等は行われていない。また、法人税を課税することによって、配当する際に二重課

税等の問題も懸念される。そのため、投資家に対するリターンが減少してしまうことや、

インフラファンドの普及に際しての大きな障壁となる可能性がある。 そこで、政府によってインフラファンド運用会社に対する法人課税の免除を行うことを

提言する。法人課税の免除を行うことによって参入する運用会社が増えることが期待され

る。特に、現時点で参入する運用会社が無い日本において、法人課税の免除を行うことは、

運用会社が事業を行いやすくなる環境を整備することに繋がる。また、法人税が免除され

ることによって、投資家が受け取るリターンも増加する。前章で述べたとおり、インフラ

ファンドは安定的であるものの、利回りがそれほど高くない場合が多い。そのため、投資

家に対するリターンを高めることによって、インフラファンドの弱点を小さくするととも

に、投資家のインフラ投資に対する意欲の向上が出来ると考えられる。インフラ事業に対

するリスクマネーを供給する市場の構築のためには、こうした運用会社と投資家双方が恩

恵を受ける優遇措置を行うことが重要である。

49 財務省 http://www.mof.go.jp/index.htm

課税所得金額の区分 400万円以下 400万円超800万円以下 800万円超

法人税 15.00% 15.00% 25.50%復興特別法人税 1.50% 1.50% 2.55%法人住民税

(1)都道府県民税 0.75% 0.75% 1.27%(2)区市町村民税 1.85% 1.85% 3.14%

事業税 2.70% 4.00% 5.30%地方法人特別税 2.19% 3.24% 4.29%総合税率 23.99% 26.34% 42.05%実効税率 22.86% 24.56% 38.37%

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3.2.2政府保証制度の確立

次に政府保証制度の導入について検討していく。現在、日本においても政府保証制度は存

在する。しかし、政府保証の対象となるのは民間資金等活用推進機構に対し出資や融資を

行った民間企業のみとなっており、非常に範囲が限定されている。また、政府保証がある

ものの PFIPCJが出融資を行った案件は 1件であったため、政府保証の実績は皆無である。 前章で述べた通り、日本における PFI事業は 80%がサービス購入型であり、独立採算型事業が進んでいない。その理由として、資金調達市場の不在が挙げられていたが、インフ

ラ事業者に対する支援があまり行われていないことが大きな要因だと考えられる。そこで、

政府保証の仕組みを、実施が進んでいない独立採算型事業においても適用することを提言

する。 独立採算型事業に対して政府保証を行うことにより期待される効果として、保証がある

という安心感から事業への参入を促すことができる他、投資家も保証があることにより投

資に参加し易くなるということが挙げられる。実際に、新興国のインフラを投資対象とす

るインフラファンドに投資する場合、満たされていると投資しやすいファンドの投資方針

に関するアンケート50によれば、「あらゆる損害に対して、日本政府による投資元本保証の

付保されている事業を中心に投資する」と回答した国内投資家が も多い。このことから、

政府保証の有無を重視し、政府保証があることが投資の動機となる投資家が一定数存在す

ることが分かる。従って、独立採算型事業における政府保証制度を確立することは、民間

事業者の参画と投資家のインフラ投資参入のハードルを下げる意味でも、非常に有効的だ

と思われる。 独立採算型事業の推進とインフラファンドの活用による資金調達市場の構築の双方を達

成するためには、どちらに対しても支援策を充実させていくことが必要不可欠である。こ

ういった支援策を講じていくことは、特に普及初期段階である日本において効果を示して

いくだろうと考えられる。 3.3 日本におけるインフラ投資市場の展望

3.3.1 インフラファンドの棲み分け 51

先述したとおり、インフラファンドの投資家募集形態は上場と非上場に分けられる。世

界の上場インフラファンドは約 50銘柄で、2013年 1月時点で時価総額は 10.4兆円に及ぶ。日本においても、2013年に東京証券取引所が「上場インフラ市場研究会を設置するなど、上場インフラファンド市場創設に向けた動きがみられる。また、その他インフラ事業会社

50株式会社野村総合研究所「平成 22年度アジア産業基盤強化等事業(インフラ整備のためのインフラファンド活用促進調査)」、2011年 2月 51 三好秀和『ファンドマネジメントの新しい展開:資産運用会社の経営と実務』、東京書籍、2009年、pp.182-194

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株に投資する方法もあるが、上場インフラファンドと同様、株式相場との連動性が高いと

いう特徴がある。一方、非上場インフラファンドは景気連動性が低くインフラ事業の特徴

を直接的に享受できる。 さらに、インフラファンドは投資するプロジェクトの段階によって、プロジェクトの建

設・開発段階に投資する「プライマリー型」と、稼働・運営段階の事業を投資対象とする

「セカンダリー型」に区別される。一般的に、前者はリターンが低いが低リスクであり、

安定的なインカムゲインが見込める。一方、後者は様々なリスクが存在するが、高い投資

収益(IRR15-20%程度)が期待できる。 日本におけるインフラ市場の普及に当たり、各国の先行事例や世界的な金融状況など

様々を考慮しつつ、日本のインフラ整備に適当な形を創設していくことが求められる。国

内のインフラは主にセカンダリー型に分類されるが、投資家などのニーズによっては海外

のインフラへの投資を進めることも可能になるだろう。

3.3.2 官民連携の強化

インフラ投資市場の確立のためには、官民連携が必要不可欠である。しかし現状では、

官民連携によるインフラファンドの創設や金融支援等に留まっている。そこで今後の市場

育成のためにも、行政などが持つインフラ事業や PFIに関する情報と、民間が培ったノウハウを活かした取り組みを行っていかなければならない。 また、現状投資機会が少ない日本に限らず、他国のインフラファンドと連携し海外の案

件にも積極的に投資を行い、ノウハウを蓄積する必要があると考えられる。一方、投資家

にとっても、一国のみならず複数国に分散投資をすることを期待する声も多いことから、

海外へのインフラ投資は非常に重要である。 実際に、野村證券と日本貿易保険(NEXI)が業務協力を行い、カントリーリスク等をカバーする貿易保険を活用した海外インフラ事業への投資の支援が計画されている。リスク

保証によるインフラ投資の促進効果も期待されるため、官民が連携を強化し、貿易保険等

の適用範囲を拡大していくことが望ましいと考えられる。 (単位:%)

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図 14 インフラファンドに投資する場合、ファンドに期待する投資方針(複数回答)

(出典)株式会社野村総合研究所「平成 22年度アジア産業基盤強化等事業(インフラ整備のためのインフラファンド活用促進調査)」、2011年 2月、p.44より執筆者作成

結び 本論文では、日本におけるインフラファンドの活用の可能性を検討した。日本は、財政状

況の悪化という状況下において、インフラ老朽化といった問題を抱えている。インフラは

国民や経済にとっての重要な基盤であり、一刻も早い整備が望まれる。インフラファンド

を活用することにより、抱える全ての諸問題を解決することは難しいものの、成功事例が

示すように、資金調達問題に関する有用性は証明された。それの更なる普及に向けて、総

合支援機関の確立や政府による優遇措置の導入をその手段として提示した。しかし、既存

の制度やインフラファンドの仕組みの複雑さ、インフラ投資を検討する投資家が少ないこ

となど、検討すべき課題も多い。しかし、国内におけるインフラファンド活用実績は皆無

であるため、今後の動向を注視していかなければならない。今後の課題として、国内イン

フラファンドの活用事例が出てきた際に、調査を行って日本における効果を示していくこ

とが必要である。

だが、インフラファンドを普及と PFI 事業を推進していくとしても、政府はインフラの

公共性を確保し続けなければならない。民間の資金やノウハウを活用することによって生

まれるメリットも数多く存在するものの、民間に託すことによるデメリットも存在する。

そのため、国民の便益を守る観点からも、今後官民の連携をより強めていき、効率的かつ

効果的な社会資本の維持と質の高いサービスの提供を確保しつつけることが重要である。

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2013年 � 三好秀和『ファンドマネジメントの新しい展開:資産運用会社の経営と実務』、東京書籍、2009年

� Kiichi Tokuoka ‘’The Outlook for Financing Japan’s Public Debt’’ IMF Working Paper , No. 10/19.

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� 社会資本整備審議会・交通政策審議会「今後の社会資本の維持管理・更新のあり方について 答申」、2013年

� 日本政策投資銀行「老朽インフラ大規模更新に向けた PFIの可能性と公的債務の国際比較に関する留意点-日英豪の民間資金を活用したインフラ整備に関する比較分析-」、2013年

� 日本貿易振興機構海外調査部 アジア大洋州課「豪州及び日本のインフラ分野における PPP プロジェクト ~民間部門参入の促進に向けて~」、2010年

� 野村総合研究所「オーストラリア・韓国の PPP/PFI調達からの示唆」、2010年 � 野村総合研究所「韓国における PPP/PFI制度とインフラファンドに関する調査」、2011年 1月

� 野村総合研究所「震災復興事業への民間資金の参画意向把握等調査(機関投資家・事業会社 アンケート 分析結果)」、2012年

� 野村総合研究所「平成 22年度アジア産業基盤強化等事業(インフラ整備のためのインフラファンド活用促進調査)」、2011年 2月

� 三菱東京 UFJ銀行「日本国債の国内消化構造はいつまで維持できるか」、2010年 � 瀧俊雄「アセット・クラスとして拡大するインフラストラクチャーへの投資」、2006年 � 谷口博文「交通分野における PPP/PFI の活用のあり方― オーストラリアの事例とその応用のための立法論的考察 ―」都市政策研究 第 15号、2013年

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� 総務省「地方自治団体における PFI実施状況報告書 」、2011年 12月 http://www.soumu.go.jp/main_content/000140204.pdf#seach='PFI+%E5%B0%8E%E5%85%A5%E7%8A%B6%E6%B3%81

� 財務省 http://www.mof.go.jp/index.htm � 日本相互証券株式会社 http://www.bb.jbts.co.jp/marketdata/marketdata01.html � 日本貿易復興機構(JETRO)http://www.jetro.go.jp/indexj.html � 民間資金等活用事業推進機構 http://www.pfipcj.co.jp/index.html � PFI/PPP 推進協議会 http://www.enaa.or.jp/PFI/ � 日本銀行 http://www.boj.or.jp/index.html/ � 内閣府 http://www.cao.go.jp/ � 内閣府民間資金等活用事業推進室 http://www8.cao.go.jp/pfi/index.html

( 終アクセス:2014年 10月 9日)