ユーザーズガイド · 2020. 4. 24. · ①...
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ユーザーズガイド
監 修 手島 恵 千葉大学大学院看護学研究科 教授
鶴若 麻理 聖路加国際大学大学院 看護学研究科(倫理学・生命倫理分野) 准教授
制作・著作 丸善出版株式会社
1.本作の意義
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「終わりのない生命(いのち)の物語2」では、現代の日本で課題となっている、いのち
と尊厳、健康、生き方にかかわる5つのテーマを取り上げました。いずれのCaseも、
私たちが、いずれ直面することになるであろう問題の本質を考える内容となっていま
す。
登場人物が直面する様々な倫理的課題に向き合うことをとおして、自分の信念や価
値観に気づくきっかけになることを願っています。そして、グループで話し合うこと
をとおし、他者の信念や価値観にも耳を傾けてみてください。他者の考えに素直に共
感できる場合もあるでしょうし、自分と異なる信念や価値観に出会い、受け入れるこ
とが難しい場合もあることでしょう。様々な価値観をもつ人々と対話し続けていくこ
とは、私たちが生きてゆく上ではもちろんのこと医療・看護・介護・社会福祉・心理
などヒューマンケアに携わる方々にとっては、特に重要な事だと考えます。
Caseの結末は、皆さんで考えてみてください。幅広い視野で自由に想像してみるこ
とが創造的な思考を育み、倫理的感受性を高める一助となることを意図しています。
このような思考を重ね続けることが、これからの皆さんの人生においても、何らかの
形で役に立つことを願ってやみません。
2.本作の活用の場について
本作は次のような授業や講習会など、主として教育現場でご活用いただけるようになっています。
医療や看護を志す学生の教育
5つのCaseは、医学系、看護系の大学、大学院、専門学校の教養・基礎科目の「生命倫理」「看護倫理」
「倫理学」の授業などで活用できるよう意図されています。
大学での生命倫理、哲学・倫理学、法学、社会学、宗教学などの授業
科目「生命倫理」をはじめとして、生命と倫理について考える様々な授業科目の中で、活用することができ
ます。医療や看護の専門職になる学生だけではなく、一般の大学生でも、十分理解できる内容になっていま
す。倫理的、社会的、法的な側面から有意義な議論ができるように構成されています。
介護・社会福祉・心理などヒューマンケアを志す学生の教育
5つのCaseすべて、医療にかかわる倫理的課題を取り上げています。質の高い医療を提供するためには、
介護、社会福祉、心理などの多職種の専門家がかかわるチームケアが重要となります。ヒューマンケアに携
わる方々にとって、それぞれの専門性を生かすための一助となると考えています。
中学の「道徳」「保健体育」「家庭科」等の授業、高校の「倫理」「現代社会」等の授業
本作では、中学生や高校生でも理解できる内容となっています。いのちや健康について考える教科のなかで
活用できます。特に、人としての権利について考える内容が含まれていますので、人権教育の視聴覚教材と
しても幅広くご活用いただけるよう構成されています。
医療従事者の継続教育
医師、看護師、介護士、医療ソーシャルワーカーなどの医療従事者の皆さんにも、患者さんやご家族との
コミュニケーションのあり方について考える効果的な内容を提供しています。院内での教育(新人教育、
倫理研修など)で幅広く活用できます。病院や施設内の教育担当者の皆さまにご活用いただきたい内容です。
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3.本作の活用の方法
1. まずは視聴しましょう
授業や講習会の中で活用する際には、見る側が先入観をもたないために、解説や問題点をあらかじめ
提示するようなことはせず、まずは視聴してもらう方法をとることが効果的です。映像は約15分程度
に編集してありますので、90分の授業形態には最適です。グループワークで話し合いをしたり、リア
クションペーパーを書いたりする時間を授業内にとることができるようになっています。見終えたあ
とには、登場人物の行動や価値観、その背景にある状況を各自で考えた後、グループでケースに含ま
れる問題について多方面から話し合うとともに、このような状況を回避するためには、いつ、誰が、
何をすることができたのかを考えてみましょう。
2. 話し合いのウォーミングアップをしましょう
『4. 各Case共通のウォーミングアップ』をしながら、視聴したひとり一人が感じたことを大切にし、
自由な考えや発想を引き出せるよう環境を整えると、豊かな話し合いにつながることでしょう。
特に、教育する側の留意点としては、視聴する側の自由な発想や創造力を妨げないようにすることが
重要です。既存の価値観を指導するのではなく、こういう見方もあるかもしれない、こういう立場か
ら考えてみたらどうなるだろうか、など多角的な視点で物事を捉えることができるような工夫をする
と、よりよい話し合いになるでしょう。
3. 話し合ってみましょう
それぞれのCaseのあらすじと論点を、『5. 各Caseのあらすじと話し合いのポイント』にまとめてあ
ります。ここにあげられている論点がすべてではありません。学生の話し合いのなかでもこのような
ポイントが自然とでてくることもありますし、他のポイントが新たに問題提起されることもあるで
しょう。学生にとってわからない言葉がでてきたら、学生に調べるよう促すのもよいでしょう。
5つケースに取り上げた内容は、私たちにとって身近な問題です。すでに視聴者が似たような経験を
している、また今似たような状況におかれている場合もあることに配慮しながら、ご活用ください。
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4.各Case共通のウォーミングアップ
Caseを視聴して、まずは以下の5つについて考えてみましょう。
① このCaseをみて、あなたはまず何を感じましたか。 感じたことを他の人と話してみましょう。他の人が感じたことにも耳を傾けてみましょう。
② このCaseの登場人物それぞれが、どのようなことを大切に思っているか(価値観)を 考えてみましょう。
④ このCaseにおいて、あなたが最も印象深いと思った登場人物は誰でしょうか。 それはなぜでしょうか。 その登場人物になったと想像し、自分だったらどうするか考えてみましょう。
③ 登場人物それぞれの価値観について、あなたはどのように感じたか考えてみましょう。 また他の人とも話し合ってみましょう。
⑤ このあとの物語の結末を自由に考えてみましょう。
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5.各Caseのあらすじと話し合いのポイント
Case1 身体拘束はケアでしょうか? 【身体拘束】
<ストーリー>
看護実習生のかおりは、胆嚢摘出手術を受ける内藤の担当となる。ある朝かおりは普段穏
やかな内藤がベッドに拘束されている姿を見て驚く。そして内藤が深夜にせん妄状態にな
り暴れたため、やむなく拘束された事を知る。身体拘束とはどのような場合に行うべき
か?身体拘束とはケアなのか?
<話し合いのポイント> ① 身体拘束というのは、どのような行為でしょうか。 ② 内藤さんの場合は、身体拘束の適応になるでしょうか。 ③ あなたが、夜勤帯でこのような状況に直面した場合、どのような行動を とるでしょうか。 ④ 身体拘束をされるということは、どういうことでしょうか。 内藤さんや家族の気持ちになって考えてみましょう。 ⑤ この状況で医師として、看護師として、実習生として何ができたか考えて みましょう。
<次の用語を調べてみましょう>
• 身体拘束の適応基準
• インシデントレポート
• センサーマット
• せん妄
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Case2 22週3日 【重症新生児医療】
<ストーリー>
22週3日。体重500g。超低出生体重児として生まれたその赤ちゃんは脳の中で出血が
起こり、重篤な「後遺症」が残る可能性が高い事が判明した。更に状況は刻一刻と悪化し
ていく中、治療法を説明し同意を得ようとする医師。これ以上無理な治療はせずに自然に
まかせようとする父親と祖母。選択の為に残された時間はもう僅かしかない。
<話し合いのポイント> ① 意思の表出ができない新生児の場合、意思の代弁は誰が行うのでしょうか。 ② 家族と医療者(医師)の治療方針が異なる場合、最善の意思決定を行うた めに、どのような方法があるでしょうか。 ③ 新生児にとって最善の利益とは何でしょうか。 ④ 新生児と家族の幸せについて考えてみましょう。
<次の用語を調べてみましょう>
• 超低出生体重児
• NICU
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Case3 虹色のカルテ 【LGBTと医療】
<ストーリー>
交通事故で搬送されてきた患者、麻梨奈はトランスジェンダー男性だった。普段は男性と
して生活しているため、入院生活には、病室、トイレ、寝間着など色々と問題がある。ま
た、脳の手術を受ける患者、真人は同性愛者だった。両親に手術による後遺症の可能性と
共にカミングアウトする真人。性の垣根が取り払われつつある現代だが医療の現場で
は・・・
<話し合いのポイント> ① 性的指向や性自認についての私たちの認識を考えてみましょう。 ② 人間にとって性的指向や性自認はどのような意味をもつか考えてみましょう。 ③ 性的マイノリティの人々から見える私たちの社会や暮らしについて考えて みましょう。 ④ 登場人物のような人々にとって、病院の受診や入院生活で生じる課題をさら に考えてみましょう。 ⑤ もしあなたが医療者であったら、登場人物にどのように向き合いかかわってい きますか。 ⑥ どのような性的指向をもとうと、どのような性自認をしようと、一人ひとりが その人らしく生きることができる社会について考えてみましょう。
<次の用語を調べてみましょう>
・LGBT
・トランスジェンダー男性
・性別適合手術
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Case4 ふたりの生き方 【在宅老老介護】
<ストーリー>
老夫婦である俊作と多恵は長らく二人で生活している。肺を患っている俊作を自宅で看病
してきた多恵だが、自身の認知症が急激に進行してしまう。健康面・安全面から今の生活
を続けてゆく事は難しいと考える訪問看護師。二人で生活していきたいという意思を尊重
したいヘルパー。住み慣れた場所で二人で暮らすのがよいと考える息子。対応に悩む在宅
ケアチーム。
<話し合いのポイント> ① 二人に起きていること、これから起きるであろうことを考えてみましょう。 ② 二人のいのちを守りつつ、二人の生き方を尊重する支援を考えてみましょう。 ③ 価値観の違う多職種でチームケアをしていくためにはどのような方法があるか 考えてみましょう。 ④ このような老老介護に対して、国や社会のサポートについて考えてみましょう。
<次の用語を調べてみましょう>
・COPD
・在宅酸素療法
・ヘルパー
・ケアマネージャー
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Case5 日常の行方 【働くことと健康】
<ストーリー>
看護師の理恵は忙しい日常の中、人一倍家族の体調管理と生活習慣に気を使っている。仕
事で帰りが遅い夫の哲也にも、つい口うるさくしてしまい最近では喧嘩が絶えない。より
多くの収入を得ること、健康に暮らしてゆくこと、健康先進国を目指す現代日本で本当に
大切な事とは何なのか?「幸福」の本質を考える。
<話し合いのポイント> ① 理恵の仕事、健康、家族についての価値観と、周りに対する影響力について 考えてみましょう。 ② 健康はだれがつくっていくものなのでしょうか。 ③ 働くことと健康、幸せについて、登場人物、それぞれの立場から考えて みましょう。 ④ あなたにとっての幸せとは何か考えてみましょう。
<次の用語を調べてみましょう>
• 労働安全衛生法に基づく健康診断
• ワークライフバランス
• OECD より良い暮らし指標 日本の幸福度
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