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エラストマーの力学 ――ゴム風船とゴムチューブの力学 および血管の力学への試み―― [改訂版] 丸山 昌明 著

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  • エラストマーの力学

    ――ゴム風船とゴムチューブの力学

    および血管の力学への試み――

    [改訂版]

    丸山 昌明 著

  • 初版 はじめに

    ゴム風船を膨らませたことのある人は、膨らまし始めでは息を吹き込むのが大変である

    が、ある程度大きく膨らませてしまえば、後は容易に大きくなり、時には簡単に破裂してし

    まうことを、知っている。

    ゴム風船の内圧伸び測定実験の結果を詳しく見せていただくと、膨らみ始めて1.4倍程

    度の大きさで内圧が最大になり、それ以上に大きくなると、なんと内圧は下がりだす。さら

    に、空気を吹き込むと、内圧は下がるのに風船はどんどん大きくなる。ところが、一度下が

    った内圧が再び上昇に転じる。そして、再上昇した内圧がどこまで上昇するかは風船によっ

    て異なるだろうが、ついには破裂してしまう。

    加硫ゴムの引張試験方法がJISK6251に規定されている。ダンベル形の試験試料

    を引張試験機にかけて、伸びと張力(応力)の関係を測定する方法である。通常の加硫ゴム

    の引張試験を行うと、伸びの増加にしたがって張力も増加し、破断時に最大張力となる。通

    常の風船のゴム材料をこの引張試験方法で試験すると、常に張力は増加し続け、破断時に最

    大張力を示す。即ち、破断時の前に張力の低下現象は起こらない。

    同じゴム材料なのに、この違いは何処からくるのか。ゴム風船の場合はゴム材料が内圧に

    より同時に直角方向に引張られる二次元引張りであり、面状に伸び広げられる。しかし、J

    ISの引張試験は一次元引張試験であり、線状に伸ばされるだけである。即ち、一次元引張

    りと二次元引張りの違いからである。

    本書では、エラストマー(ゴム材料など)の一次元引張りと二次元引張りを考察し、ゴム

    風船の上記現象を理論的に説明し、さらに、ゴムチューブの内圧伸び関係についても考察し

    た。以下にその概要を述べる。

    第1章では、エラストマーの一次元引張りと二次元引張りにおける伸びの現象を考察し、

    両者間の変換式を見出した。また、エラストマーの伸びと張力の関係式についても考察し、

    一次元引張試験の結果を便利に表現でき、かつ、二次元引張りの計算に利用できるC型関係

    式を新たに提案した。さらに、一次元引張試験の結果をどのように二次元引張りの計算に利

    用するかを考察した。

    第2章では、ゴム風船1層計算法について説明した。これは、上記一次元引張りと二次元

    引張りの変換式およびC型関係式を使用して、ゴム風船の上記現象を理論的に説明したも

    のである。また、C型関係式以外の関係式の使用についても考察した。

    第3章と第4章では、風船より肉厚のゴムボールについて、内外面のゴム材料の伸びの違

    いを考慮したゴムボール2層計算法および4層計算法について説明し、肉厚が厚くなる時

    は、2層計算法あるいは4層計算法が有効なことを示した。

    i

  • 第5章では、ゴムチューブ1層計算法について説明した。チューブ(管状体)では、長さ

    方向と円周方向で作用力が異なり、伸びも異なるので、その両方向で力の釣り合いを考える

    計算法を説明した。これは細長いゴム風船にも適用できるものである。さらに、チューブで

    は長さ方向と円周方向で作用力が異なるため、伸びの初期においては長さ方向にわずかな

    収縮が起こることも計算で明らかにした。この収縮は材料の等方性とも関係している。

    第6章と第7章では、チューブの肉厚が厚くなるときの2層計算法および4層計算法に

    ついて説明した。やはり、肉厚が厚くなるときは、内外面の伸びの違いを考慮できる2層計

    算法あるいは4層計算法が有効なことを示した。また、チューブ長さ方向の上記収縮は、肉

    厚が厚くなるほど大きな収縮になることも計算で明らかにした。

    第8章では、血管の力学への試みとして、ゴムチューブの4層計算法を基に血管の内圧伸

    び計算法を示した。そこでは、血管の多層構造や血管材料の異方性も考慮できるようにして

    みた。さらに、ゴムチューブの2層計算を基に血管の張力と伸びと破裂に関する推論を行っ

    てみた。エラストマーの力学の応用として、何かのお役に立てればと思ったからである。

    従来、エラストマーについて一次元引張りと二次元引張りの違いを明確に区別し、張力伸

    び関係式を変換可能にした理論は見当たらなかった。また、C型関係式も比較的簡単な形で

    利用し易い式である。本書の様な考え方が、エラストマーの研究や開発、あるいはエラスト

    マー応用製品の製造や開発などに係わっておられる方々のお役に少しでも立てることを願

    っている。

    また、本書の理論を踏み台にして、エラストマーチューブ(風船よりは製作し易いので)

    の内圧伸び関係を測定する試験法が規格化の方向へ進むならば、二次元引張現象に関係す

    る製品の設計や評価に役立つのではないかと思う。

    [改訂版への 追加]

    初版第8章3節では、ゴムチューブ計算法の応用として血管の張力と伸びを考察した。し

    かし、実際の血管では、内圧のピーク(極大値)は無いとのことであった。初版の発行後に

    英語版を発行し、英語版では初版第8章3節に代え、内圧のピークを示さない動脈の計算に

    役立ちそうなC型関係式を紹介した。しかし、本改訂版では第8章3節を残し、4節として

    英語版の内容を追加した。また、C型関係式の係数aは英語版では冠詞との紛らわしさを避

    けるためにcに変更したので、本改訂版でもcに変更し、初版の誤植もできるだけ訂正した。

    丸山 昌明

    2013年7月

    ii

  • エラストマーの力学

    ――ゴム風船とゴムチューブの力学

    および血管の力学への試み――

    [改訂版]

    目次

    はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・i

    第1章 エラストマーの伸びと張力

    1.1 一次元引張りと二次元引張りの伸び ・・・・・・・・・・・・・1

    1.1.1 一次元引張りと伸び ・・・・・・・・・・・・・・・・・1

    1.1.2 二次元引張りと伸び ・・・・・・・・・・・・・・・・・3

    1.2 一次元張力伸び関係式 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

    1.2.1 A型関係式 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

    1.2.2 B型関係式 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

    1.2.3 C型関係式 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

    1.2.4 一次元引張試験と二次元引張試験の関係について ・・・13

    第2章 ゴム風船1層計算法

    2.1 風船1層計算法関係式の導出 ・・・・・・・・・・・・・・・14

    2.2 A型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

    2.3 B型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

    2.4 C型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

    第 3章 ゴムボール2層計算法

    3.1 ゴムボール2層計算法関係式の導出 ・・・・・・・・・・・・22

    3.2 n=2のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・24

    3.3 n=3のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・28

    第4章 ゴムボール4層計算法

    4.1 ゴムボール4層計算法関係式の導出 ・・・・・・・・・・・・30

    4.2 n=2のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・33

    iii

  • 4.3 n=3のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・37

    第5章 ゴムチューブ1層計算法

    5.1 チューブ1層計算法関係式の導出 ・・・・・・・・・・・・・39

    5.2 n=2のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・42

    5.3 n=3のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・45

    第6章 ゴムチューブ2層計算法

    6.1 チューブ2層計算法関係式の導出 ・・・・・・・・・・・・・48

    6.2 n=2のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・52

    6.3 n=3のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・59

    第7章 ゴムチューブ4層計算法

    7.1 チューブ4層計算法関係式の導出 ・・・・・・・・・・・・・63

    7.2 n=2のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・68

    7.3 n=3のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・72

    第8章 血管の力学への試み

    8.1 血管4層計算法関係式の導出 ・・・・・・・・・・・・・・・74

    8.2 n=2のC型関係式使用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・80

    8.3 チューブの計算結果から血管についての類推 ・・・・・・・・81

    8.4 動脈計算のためのC型関係式 ・・・・・・・・・・・・・・・85

    iv

  • 第1章 エラストマーの伸びと張力

    1.1 一次元引張りと二次元引張りの伸び

    エラストマーとは、弾性の顕著な高分子物質のことであり、外力をうけると迅速に数倍に

    およぶ大きな伸びを示し、外力を除くとすぐに元の長さにもどる。例えば、架橋した天然ゴ

    ムや合成ゴムが代表的なエラストマーである。また、ある種の合成樹脂やその組成物なども、

    類似の性質を持ち、エラストマーと見なされる。ここでは、まず、エラストマーの伸びにつ

    いて考察する。伸びと張力の関係については後述の1.2で考察する。

    1.1.1 一次元引張りと伸び

    エラストマーが、一方向への外力をうけてその方向へ伸ばされる状態を、一次元引張りと

    いう。図1.1に一次元引張りの状態を示す。まず、直交するx軸、y軸、z軸方向にそれ

    ぞれA0、B0、C0の初期長さを持つエラストマーの直方体を考える。x軸方向に外力FX

    を作用させ、長さA0をλX倍に引き伸ばす。FXがどれ位の大きさの力かは問題にしない。

    今は伸びについてだけ考える。λXをx軸方向の一次元伸び倍率とし、x軸方向の伸び後の

    長さをAXとすると、AXは(1-1)式で表される。添え字Xは外力FXに対応している事を

    示す。

    (1-1) AX=A0λX

    ここで、次の条件①②を仮定すると、y軸、z軸方向の長さが定まる。つまり、「①エラ

    ストマーの体積変化は無い」とすると、x軸方向にλX倍に伸ばされたのだから、x軸方向

    と直角な断面積はλX分の1にならなければならない。また、「②エラストマーの変形は方

    向による差が無い(等方性である)」とすると、y軸とz軸の両方向の長さはλX1/2分の1

    に縮まなければならないので、BXとCXは次式で表される。

    (1-2) BX=B0λX-1/2

    (1-3) CX=C0λX-1/2

    以上が、エラストマーのx軸方向の一次元引張りで生じた各方向の長さである。

  • 図1.1 一次元引張りの状態

    図1.2 二次元引張りの状態

  • 上記の(1-1)~(1-3)式と同様に、y軸およびz軸方向にそれぞれ単独に外力FY、

    FZを作用させ、一次元引張りを行う。y軸およびz軸方向の各々の一次元伸び倍率をλY

    およびλZとすると、伸びの関係は以下の(1-4)~(1-9)式で表される。添え字Yおよ

    びZは外力FYおよびFZに対応している事を示す。

    即ち、y軸方向の一次元引張りで生じた各方向の長さは、

    (1-4) AY=A0λY-1/2

    (1-5) BY=B0λY

    (1-6) CY=C0λY-1/2

    更に、z軸方向の一次元引張りで生じた各方向の長さは、

    (1-7) AZ=A0λZ-1/2

    (1-8) BZ=B0λZ-1/2

    (1-9) CZ=C0λZ

    と表される。

    1.1.2 二次元引張りと伸び

    エラストマーが、直交する二方向への外力をうけて伸ばされる状態を、二次元引張りとい

    う。二方向への外力が直交していない場合は、直交する二方向へ、力の分解合成を行ってか

    ら考察すればよい。図1.2に二次元引張りの状態を示す。

    まず、x軸、y軸、z軸方向にそれぞれA0、B0、C0の初期長さを持つエラストマーの

    直方体を考える。そのx軸方向に外力FXを作用させる。ここまでは、上記の一次元引張り

    の場合と同じである。従って、伸びの状態は上記の(1-1)~(1-3)式で表される。

    次に、外力FXを保持したまま、y軸方向に外力FYを作用させ、(1-2)式で表されたy

    軸方向の長さBX=B0λX-1/2をλY倍に引き伸ばす。FYがどれ位の大きさの力か今は問

    題にしない。今は伸びについてだけ考える。y軸方向の伸び後の長さをBXYとすると、BX

    Yは(1-10)式で表される。添え字XYは二次元引張りの外力FXとFYに対応している事

    を示す。

    (1-10) BXY=BXλY=B0λX-1/2λY

  • ここで、一次元引張りの所で述べた二つの条件「①体積変化無し」と「②等方性である」

    を仮定すると、(1-1)、(1-3)式で表されたx軸、z軸方向の長さAX、CXがそれぞれ

    λY1/2分の1に縮んでAXY、CXYとなり、次式で表される。

    (1-11) AXY=AXλY-1/2=A0λXλY-1/2

    (1-12) CXY=CXλY-1/2=C0λX-1/2λY-1/2

    以上の(1-10)~(1-12)式が、エラストマーのx軸およびy軸方向の二次元引張

    りで生じた各方向の長さを表したものである。ただし、ここで注意すべきは、二次元引張り

    で生じた各方向の長さをそれぞれの一次元伸び倍率λXとλYで表したことである。

    そこで次に、二次元引張りの状態における見掛けの伸び倍率(即ち、二次元伸び倍率)を

    考えてみる。x軸、y軸、z軸方向の二次元伸び倍率をそれぞれα、β、γとすると、(1

    -10)~(1-12)式を用いて次式で表される。

    (1-13) α=AXY/A0=λXλY-1/2

    (1-14) β=BXY/B0=λX-1/2λY

    (1-15) γ=CXY/C0=λX-1/2λY-1/2 あるいは、γ=1/αβ

    また、(1-13)と(1-14)式を用いて、一次元伸び倍率λX、λYを二次元伸び倍率α、

    βで表せば以下のようになる。

    (1-16) λX=(α2β)2/3=α4/3β2/3

    (1-17) λY=(αβ2)2/3=α2/3β4/3

    以上の(1-13)~(1-17)式が、二次元伸び倍率α、β、γと一次元伸び倍率λX、

    λY、の関係を示す式である。ただし、α、βを独立変数とするとき、γはγ=1/αβで

    示されるように独立変数ではない。

    上記(1-13)式の意味を確認すると、二次元引張りの伸び倍率αは、おなじ外力FXを作

    用させているのに、一次元引張りのときの伸び倍率λXより小さい。

    即ち、λX>α=λX/λY1/2 である。これは、y軸方向に外力FYを作用させて二次元伸

    び倍率βを発生させることで、x軸方向の伸びを縮めているからである。

  • 以上では、二次元引張りを考える方法として、先ず、x軸方向に外力FXを作用させ、そ

    の後、y軸方向の外力FYを作用させた。しかし、外力FXと外力FYを作用させる順番を逆

    にしても、また、両方を同時に作用させても同じ結果になるとする。この様なエラストマー

    を理想エラストマーと定義しても良い。

    エラストマーが上記の理想エラストマーであれば、(1-13)~(1-17)式を用いて、

    二次元伸び倍率α、βと一次元伸び倍率λX、λYの間で変換が可能になる。このことは、例

    えば、ゴム材料の一次元引張試験のデータ(一次元伸び倍率λX、λYに関する張力伸び関

    係式)をゴム風船やゴムチューブの内圧伸び計算(即ち、二次元伸び倍率α、βに関する計

    算)に応用できる可能性を示している。

    しかし、実際のエラストマーにおいては、後で考察するように、一次元引張り試験のデー

    タ(張力伸び関係式)をそのまま二次元伸び倍率α、βに関する計算に使用しても実験と合

    う結果が得られるとは限らない。分子鎖の伸び切りや分子配向などの状況が一次元引張り

    と二次元引張りで異なってくるからであろう。次の問題は、二次元引張りの計算に応用でき

    る一次元引張りの張力伸び関係式を求めることになる。

    1.2 一次元張力伸び関係式

    ここでは、エラストマーの伸び倍率と張力との関係を考える。以下に、本書で使用する幾

    つかの関係式を説明する。1.2.1のA型関係式は、フックの法則から類推されたもので

    あり、1.2.2のB型関係式は、ゴム分子の統計力学的な考察から考えられたものである。

    1.2.3のC型関係式は上記A型関係式に補正項を加えたもので著者の提案するものであ

    る。

    さらに、一次元引張試験と二次元引張試験の関係についても説明する。

    1.2.1 A型関係式

    この式はフックの法則からの類推で考えられたものである。高分子の統計力学的な裏付

    のあるものではない。しかし形が簡単で、実際の引張り試験の結果とのずれを補正係数や補

    正項などで修正できるなら、技術的には利用し易いと思われる。以下に、この式の考え方を

    説明する。

  • 図1.1に示された一次元引張りの状態は、外力FXがエラストマーの長さA0をλX倍に

    引き伸ばし、エラストマーの張力FTと釣り合っている。このエラストマーの張力について

    考える。

    先ず、外力FXに垂直な単位断面積当りの張力をfとし、fがフックの法則に従っている

    と仮定すると、次式で表わされる。

    (1-18) f=K(λ-1)

    ここで、Kは正の定数であり弾性率に相当する。λは外力の方向の伸び倍率であるから(λ

    -1)は初期長さに対する伸びの割合(歪)である。この一次元引張りは、x軸方向に限定

    するものではないので、λの下添え字Xは省略する。さらに、外力に垂直な材料の断面積を

    Sとすると、外力と釣り合っている張力FTは次式で表わされる。

    (1-19) FT=Sf=SK(λ-1)

    ただし、断面積Sはλだけ伸びた時の実際の断面積であり、Sは条件「①体積変化無し」か

    ら初期断面積S0のλ分の1になるので

    (1-20) S=S0/λ 即ち、 S/S0=λ-1

    と表される。

    ところで、エラストマーの通常の引張り試験では、材料の初期断面積S0を用いて試験の

    結果を表す。そこで、張力FTを初期断面積S0と初期単位断面積当りの張力f0の積として

    表せば、(1-19)式は(1-21)式の様に表わせる。

    (1-21) FT=S0f0=SK(λ-1)

    この(1-21)式からf0を求め、(1-20)の S/S0=λ-1 を代入すると

    (1-22) f0=K(1-λ-1)

    となる。この(1-22)式が初期単位断面積当りの張力f0と伸び倍率λの関係式である。

    これをA型関係式と呼ぶことにする。A型と呼ぶのは、他の式との区別する為の名称であ

  • 図1.3 A型関係式とB型関係式

    太実線:A型関係式:f0=K(1-1/λ) 但し K=3 の場合を示す

    細実線:B型関係式:f0=K(λ-1/λ2) 但し K=1 の場合を示す

    A型関係式はf0=K に、B型関係式はf0=Kλ に漸近する

    り、それ以上の意味は無い。ここで、単位の確認をしておくと、f0は[N/m2]、λは無

    次元、Kは[N/m2]である。

    図1.3に(1-22)式がどの様な形の曲線になるかを示す。この図では後述するB型関

    係式と曲線の形を比較し易いようにKの値を設定してあり、張力の値は相対値である。

    実際のゴムの一次元引張試験では、伸び倍率λの値が大きくなると分子鎖の伸び切りや

    分子配向による効果でゴムの張力の急激な上昇(立ち上がり現象)が起こるが、このこと

    0.0

    1.0

    2.0

    3.0

    4.0

    5.0

    6.0

    7.0

    8.0

    9.0

    10.0

    0 1 2 3 4 5 6 7 8

    f 0:初

    期単

    位断

    面積

    当り

    張力

    λ:伸び倍率

  • をA型関係式は表現できない。

    しかし、このA型関係式を使用すると、後述の第2章で示すように、ゴム風船の内圧伸び

    測定実験1)で観察された内圧が極大値を示す現象を表現することができる。この内圧が極

    大値を示す現象は伸び倍率が比較的小さいところで現れる。しかし、ゴム風船の伸び倍率が

    さらに大きくなると一度減少した内圧は再び増加に転じるが、A型関係式はこの現象を表

    現できない。

    1)安達健、松田和久,「ゴム風船の力学実験」,物理教育Vol.29 (No.1) p.26-27

    (1981)

    1.2.2 B形関係式

    理想ゴムの統計力学的な考察によると、単位体積の理想ゴムの一次元引張りによるエン

    トロピー変化⊿Sは(1-23)式で表されるという。ここで、Cは定数、λは一次元引張

    りの伸び倍率である。

    (1-23) ⊿S=-C(λ2+2/λ-3)

    単位体積について、理想ゴムの自由エネルギー:F=T⊿S をλで微分して、初期単位

    断面積当りの張力f0、 即ち(1-24)式を得る。Tは絶対温度である。

    (1-24) f0=-2CT(λ-1/λ2)

    以上の詳細については、久保亮五著「ゴム弾性〔初版復刻版〕」裳華房p.69~85

    (1996)を参照されたい。

    ここで、(1-24)の右辺に負号が付いているが、これは張力f0が伸び倍率λの増加の

    方向と逆向きであること、即ち、一次元引張りの外力Fと逆向きの力であることを示してい

    る。しかし、張力f0を外力Fと逆向きの力であると定義すれば、Kを正の定数として(1

    -24)式を書き直し、

    (1-25) f0=K(λ-λ-2)

  • となる。(1-25)式が初期単位断面積当りの張力f0と伸び倍率λの関係式である。これ

    をB型関係式と呼ぶことにする。B型と呼ぶのは、他の式との区別する為の名称であり、そ

    れ以上の意味は無い。ここで、単位の確認をしておくと、f0は[N/m2]、λは無次元、

    Kは[N/m2]である。

    図1.3にB型関係式がどの様な形の曲線になるかを示した。この図は前述のA型関係式

    と曲線の形を比較し易いようにKの値を設定してあり、張力の値は相対値である。

    図1.3をみると、B型関係式は伸び倍率λの値が大きくなるにつれて、張力の増加率が

    A型関係式に比べて大きいことがわかる。それは、λの値が大きくなるにつれて発生する分

    子鎖の伸び切りや分子配向の効果が盛り込まれているためと考えられる。一次元引張りで

    λ<4の場合について、B型関係式は実験に一致するといわれている。しかし、このB型関

    係式でもλ>4で現れる張力の立ち上がり現象を表わすことはできない。ゴムの統計力学

    的な考察を更に進めて、ゴムの一次元引張試験で起こる張力の立ち上がり現象まで表わす

    ことができる理論式も、久保亮五著「ゴム弾性〔初版復刻版〕」裳華房1996年 に紹介

    されている。

    後述の第2章で示すように、このB型関係式(1-25)式を使用してゴム風船の内圧伸

    び関係を計算したところ、ゴム風船の内圧伸び測定実験に現れる内圧の極大現象を表現す

    ることができなかった。このことは、(1-25)式をゴム風船のような二次元引張りの計算

    に使用するには、伸びに伴うゴムの張力の増加を大きく見積もり過ぎているためと予想さ

    れる。即ち、二次元引張りでは、分子鎖の伸び切りや分子配向が張力に及ぼす効果は一次元

    引張りより小さく、従って、張力の増加率も小さいためと予想される。

    以上のような訳で、二次元引張計算への応用にもっと適した一次元引張力伸び関係式が

    必要とされる。

  • 1.2.3 C型関係式

    上記のA型関係式では、伸びに伴う張力の立ち上がり現象を表現できなかった。そこで、

    A形関係式に補正項a(λ-1)nを加えた(1-26)式を提案し、これをC型関係式とよ

    ぶ。C型と呼ぶのは、前記式と区別する為の名称であり、それ以上の意味は無い。

    (1-26) f0=K{1-λ-1+c(λ-1)n}

    ここで、cは1よりかなり小さい定数、nは2以上の整数、Kは定数とする。単位の確認を

    しておくと、f0は[N/m2]、λは無次元、cは無次元、Kは[N/m2]である。

    補正項c(λ-1)nの役割は、λの小さいときには補正項c(λ-1)nの値を小さく

    し、λが大きくなると補正項c(λ-1)nの値を大きくしてA型関係式よりもf0を大き

    くすることである。即ち、そのように補正項のcとnを適当な値に設定してf0の曲線の形

    を決めることになる。勿論、c=0 では、(1-26)式は(1-22)式と同じになりA

    型関係式となる。

    また、n=1の場合には、補正項はc(λ-1)となり、これは物理的には(1-18)

    式のフックの法則と同じ意味の項であり、補正項としてA型関係式に追加するには不適当

    と思われた。更に、n=1では、大きなλの値における張力の立ち上がり現象を表現できな

    い。従って、n=1は除外した。

    本書では取り扱いの容易さから、n=2またはn=3について考察する。n=2またはn

    =3のどちらが適切かは、以後の考察を考慮しながら、今後の実験結果に合わせてみるより

    ない。

    n=4以上については、係数cの値との組み合わせで利用の可能性は十分ある。n=4以

    上では急激な張力の立ち上がり現象を表現でき、cの値をとても小さくすることで張力の

    立ち上がりの位置を遅らせることができそうである。例えば、SBSブロックポリマーはス

    チレン含量が大きくなるとλの大きな位置で張力の立ち上がりが急激になる現象(古川淳

    二著 「高分子物性」 化学同人 p.159 1985年)がみられるが、これをC型関係式

    で表現できる可能性もある。しかし、本書ではn=4以上は考察しない。

    補正項c(λ-1)nの導入が実験結果の表現に役立つのであれば、今後その物理的な意

    味を考える必要もあろう。

    10

  • ここで、n=2のC型関係式の曲線を図1.4に示す。K=3とし、細実線で下から順に

    c=0.005から 0.1までの場合を示してある。太実線でc=0の場合(A形関係式)も示し

    てある。また、点線でB型関係式の曲線も示した。

    更に、n=3のC型関係式の曲線を図1.5に示す。K=3とし、細実線で下から順にc

    =0.0002 から 0.005 までの場合を示してある。太実線でc=0の場合(A型関係式)も示

    してある。また、点線でB型関係式も示した。

    図1.4 n=2のC型関係式と他の関係式の比較

    太実線:A型関係式:f0=K(1-λ-1)、 K=3

    細実線:C型関係式:f0=K{1-λ-1+c(λ-1)2}、 K=3

    n=2、 下から順にc=0.005、0.01、0.02、0.05、0.1

    点線:B型関係式:f0=K(λ-λ-2)、 K=1

    11

    0.0

    5.0

    10.0

    15.0

    20.0

    25.0

    30.0

    35.0

    40.0

    45.0

    50.0

    0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

    f 0:初

    期単

    位断

    面積

    当り

    張力

    λ:伸び倍率

  • 図1.5 n=3のC型関係式と他の関係式の比較

    太実線:A型関係式:f0=K(1-λ-1)、 K=3

    細実線:C型関係式:f0=K{1-λ-1+c(λ-1)3}、 K=3

    n=3、下から順にc=0.0002、0.0005、0.001、0.002、0.005

    点線:B型関係式:f0=K(λ-λ-2)、 K=1

    尚、λ=25倍までを示したのは、第2章で説明するように、二次元引張りの伸び倍率α

    =5倍の張力は一次元引張りの伸び倍率λ=25倍に相当することになるからである。

    図1.4と図1.5を見ると、cとnの値を調節することで大きなλの値における張力の

    立ち上がり現象を表現できことがわかる。従って、一次元引張試験から得られた実測曲線を

    近似できるように、cとnを決定して曲線の形を決め、Kの値を調節して、張力の大きさを

    合わせて、一次元引張りのC型関係式を決めることができる。しかし、本書の目的は

    12

    0.0

    5.0

    10.0

    15.0

    20.0

    25.0

    30.0

    35.0

    40.0

    45.0

    50.0

    0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

    f 0:初

    期単

    位断

    面積

    当り

    張力

    λ:伸び倍率

  • 一次元引張りのためのC型関係式を決めることよりも、二次元引張りのためのC型関係式

    を求めることにある。

    1.2.4 一次元引張試験と二次元引張試験の関係について

    以上、3種の一次元張力伸び関係式を説明したが、本書では、一次元引張試験から得られ

    る実測曲線を表現できるような関係式を見つけることに留まらず、その実測曲線を参考に

    して、風船やチューブの力学への応用、即ち二次元引張りの計算に使用できる一次元張力伸

    び関係式を見つけることが目的である。

    何故なら、1.2.2のB型関係式のところで説明したように、一次元引張試験の実測曲

    線に一致する関係式が見つけられても、その式を使用して風船やチューブの内圧伸び測定

    実験結果をうまく表現できるとは限らないからである。

    そこで、考えられるひとつの検討方法を述べる。まず、対象となるエラストマー材料の一

    次元引張試験から得られる実測曲線の形に合わせてC型関係式を決定する。即ち、C型関係

    式の一次元引張り用係数K、c、nを決定する。(本書では、n=2とn=3について述べ

    たが、それ以外のnを否定するものではない。)

    次に、このC型関係式を使用して、同じ材料から作られている風船やチューブの内圧伸び

    計算を本書で後述する方法で行う。それを、この風船やチューブの内圧伸び実測値と比較し、

    その実測値に一致するようにK、c、nの値を調整し、この実測値に合わせたC型関係式の

    二次元引張り用係数K2、c2、n2を決定する。

    この様な一次元引張試験と風船やチューブの内圧伸び試験(二次元引張試験)の比較を多

    数行い、一次元引張り用係数K、c、nと二次元引張り用係数K2、c2、n2の関係を知

    ることができれば、一次元引張試験の実測曲線から二次元引張り計算用のC型関係式を得

    ることが期待できる。

    現在、一次元引張試験はJISなどに規格化されており、容易に実施できるが、二次元引

    張試験(例えば、風船やチューブの内圧伸び測定試験)はまだ規格化された試験方法がない

    状況である。従って、二次元引張試験が規格化されて、二次元引張り計算用の張力伸び関係

    式を知ることが今後の課題になろう。

    13

  • 第2章 ゴム風船1層計算法

    2.1 風船1層計算法関係式の導出

    ゴム風船の内圧伸び計算について、肉厚を1層として考える計算法を1層計算法と呼ぶ。

    これは風船の内面側と外面側との伸びを同じであると考える方法である。実際には、風船の

    外面側の伸びは内面側の伸びより小さいのであるが、肉厚が十分薄い場合、即ち、肉厚が風

    船の径に比べて十分小さい(普通の風船はそうである)場合には、内外面の伸びの差は無視

    でき、1層として考える事ができる。

    ゴム風船の構造を図2.1に示す。肉厚は誇張してある。まず、ゴム風船の初期状態を(2

    -1)~(2-4)式で表わす。

    (2-1) 内半径=R0

    (2-2) 外半径=R0t0 ただし、t0=外径/内径

    (2-3) 肉厚倍率=t0-1

    (2-4) 肉厚=T0=R0(t0-1)

    外径と内径の比t0を導入し、内径のt0倍が外径になるようにした。

    図2.1

    14

  • このゴム風船に内圧P(内圧Pとは、大気圧からの増加圧力である)が作用し、内半径R

    0がα倍に膨らんだとする。このとき、ゴム風船の肉厚部の内面も円周方向にα倍に引き伸

    ばされている。内外面の伸びの差は無視でき、外面もα倍に引き伸ばされているとする。ま

    た、風船は球状であり、伸びは方向に寄らない(等方性である)とし、直交するxyどちら

    の円周方向にもα倍に引き伸ばされているとする。ここで、αは見掛けの伸び倍率、即ち二

    次元伸び倍率である。以上のことを考慮して、内圧Pが風船におよぼす作用力と、風船の肉

    厚部の伸びによって生じる張力との釣り合いを考える。

    まず、内圧Pが風船におよぼす作用力FPは、風船の中心を通る風船内の断面積と内圧P

    の積であり、(2-5)式で表される。

    (2-5) FP=πR02α2P

    次に、風船の肉厚部の伸びによって生じる張力FTは初期断面積S0と風船のゴム材料の

    初期単位断面積当りの張力f0の積であり、S0=πR02(t02-1)だから、(2-6)式

    で表される。

    (2-6) FT=S0f0=πR02(t02-1)f0

    作用力FPと張力FTが釣り合うという条件 FP=FT より

    (2-7) α2P=(t02-1)f0

    となる。(2-7)式がゴム風船の肉厚を1層で考える内圧伸び関係式である。

    次に、風船のゴム材料の初期単位断面積当りの張力f0として、どの様な関係式を使用す

    れば良いかが問題になる。そこで、1.2で説明したように、A型関係式、B型関係式、C

    型関係式の順に考察してみる。

    2.2 A型関係式使用

    ここで、(2-7)式に使用する張力f0についてはA型関係式(1-22)式を選択する。

    (1-22)式を(2-7)式に代入すると

    15

  • (2-8) α2P=(t02-1)K(1-λ-1)

    となる。ここで、伸び倍率αは二次元伸び倍率であり、風船の見掛けの伸び倍率である。伸

    び倍率λは一次元伸び倍率であるから、二次元伸び倍率に変換する。αとλの関係は(1-

    13)式で表される。また、風船は球状であり、伸びは方向に寄らない(等方性である)と

    すると、 λX=λY=λ であるから(1-13)式は

    (2-9) α=AXY/A0=λXλY-1/2=λ1/2 従って、 α2=λ

    となる。α2=λ を(2-8)式に代入し、αについて整理すると

    (2-10) P=K(t02-1)(α-2-α-4)

    となる。以上が内圧Pと二次元伸び倍率αの関係式である。ここで単位を確認してみると、

    Pは[Pa]即ち[N/m2]であり、Kは[N/m2]、t0とαは無次元である。

    更に、(2-10)式をαで微分すると、次式になる。

    (2-11) P′=K(t02-1)(-2α-3+4α-5)

    この式の右辺を零にする(P′=0にする)αを求めると、α=21/2 となり、内圧Pは

    α=21/2のとき極大値をもつ(何故なら、α<21/2でP′>0、α>21/2でP′<0)

    ことがわかる。

    (2-10)式が示す内圧Pと二次元伸び倍率αの関係を計算し、α=5.5 までの計算結

    果を図2.2に示す。風船の肉厚は内半径の5%(t0=1.05)である。この図では後述す

    るB形関係式使用の場合と曲線の形を比較し易いようにKの値を設定してあり、内圧Pの

    値は相対値である。風船の内圧Pと二次元伸び倍率αの関係(曲線の形)について、αが 1.4

    程度で内圧Pが極大値をもつことは、実験結果1)ともほぼ一致している。しかし、α>4に

    おける内圧Pの増加現象を(2-10)式では表せていない。

    1)安達健、松田和久,「ゴム風船の力学実験」,物理教育Vol.29 (No.1) pp.26-27

    (1981)

    16

  • 図2.2 ゴム風船の1層計算法(1)

    太実線:A型関係式(2-10)使用:K=100、t0=1.05

    細実線:B型関係式(2-13)使用:K=33、 t0=1.05

    2.3 B型関係式使用

    B型関係式は1.2.2で説明した(1-25)式であり、理想ゴムの一次元引張りによ

    るエントロピー変化から考えられたものである。(1-25)式を(2-7)式に代入すると

    (2-12) α2P=(t02-1)K(λ-λ-2)

    となる。ここで、上記と同じく、(2-9)式の α2=λ を用いて(2-12)式のλをα

    に変換し、αについて整理すると

    17

    0.0

    1.0

    2.0

    3.0

    4.0

    0 1 2 3 4 5

    P:風

    船の

    内圧

    α:伸び倍率

  • (2-13) P=K(t02-1)(1-α-6)

    となる。これが風船の内圧Pと二次元伸び倍率αの関係式である。

    さらに、(2-13)式をαで微分してみると、次式になる。

    (2-14) P′=K(t02-1)6α-7

    この式は、右辺を零にするαを持たない。即ち、内圧Pは極大値を持たない。これは前述の

    実験結果1)と一致しない。図2.2に(2-13)式の計算結果を示す。曲線の形を比較し

    易い様にKの値を調整してある。1.2.2で説明したように、B型関係式は、λの値が大

    きくなるにつれて伸び方向への分子鎖の伸び切りや分子配向の効果を盛り込んであるので、

    張力の増加率がA形関係式より大きい。そのため、B型関係式をゴム風船のような二次元引

    張りに使用しても、ゴム風船の内圧Pの極大値を表せない。

    2.4 C型関係式使用

    C型関係式とは1.2.3で説明した(1-26)式であり、A型関係式に補正項を加え

    たものである。

    まず、n=2のC型関係式(1-26)式を(2-7)に代入すると(2-15)式になる。

    (2-15) α2P=(t02-1)K{1-λ-1+c(λ-1)2}

    ここで、(2-9)式の α2=λ を用いて(2-15)式のλをαに変換し、αについて整

    理すると

    (2-16) P=K(t02-1)α-2{1-α-2+c(α2-1)2}

    となる。これがn=2のC型関係式を使用した風船の内圧Pと二次元伸び倍率αの関係式

    である。

    (2-16)式が示す風船の内圧Pと二次元伸び倍率αの関係を計算し、α=5.5 までの

    計算結果を図2.3に示す。

    18

  • 図2.3 ゴム風船の1層計算法(2)

    太実線:A型関係式使用:K=100、 t0=1.05

    細実線:C型関係式使用:K=100、 t0=1.05、 n=2、

    下から順にc=0.005、0.01、0.02、0.03、0.05

    次に、n=3のC型関係式(1-26)式を(2-7)に代入し、α2=λ を用いてλを

    αに変換し、αについて整理すると

    (2-17) P=K(t02-1)α-2{1-α-2+c(α2-1)3}

    となる。これがn=3のC型関係式を使用した風船の内圧Pと二次元伸び倍率αの関係式

    である。

    (2-17)式が示す風船の内圧Pと二次元伸び倍率αの関係を計算し、α=5.5 までの

    計算結果を図2.4に示す。

    19

    0.0

    1.0

    2.0

    3.0

    4.0

    5.0

    6.0

    0 1 2 3 4 5

    P:風

    船の

    内圧

    α:伸び倍率

  • 図2.4 ゴム風船の1層計算法(3)

    太実線:A型関係式使用:K=100、 t0=1.05

    細実線:C型関係式使用:K=100、 t0=1.05、 n=3、

    下から順にc=0.0001、0.0002、0.0005、0.001、0.003、0.01、0.02

    細点線:C型関係式使用:K=100、 t0=1.05、 c=0.005、 n=2、

    (即ち、図2.3の細実線の最下位の曲線を比較として示した)

    図2.3と図2.4を見ると、C型関係式の使用でn=2の場合もn=3の場合も、cの

    値を適切に選ぶことで、風船の内圧Pと二次元伸び倍率αの関係(曲線の形)を調節で

    き、前記実験結果1)ともほぼ一致させることができそうである。

    そこで、前記実験結果1)と類似している曲線として、図2.3の細実線曲線の下から1番

    目、および図2.4の細実線曲線の下から2番目を選択する。そして、これ以後の計算

    20

    0.0

    1.0

    2.0

    3.0

    4.0

    5.0

    6.0

    0 1 2 3 4 5

    P:風

    船の

    内圧

    α:伸び倍率

  • では、この2曲線を基準とする。即ち、それぞれ、n=2の場合c=0.005、n=3の場合

    c=0.0002 とし、C型関係式では次の2式を使用基準とする。Kについては、実測の内圧

    に合わせて決めることになるが、本書ではK=100 として計算し比較する。

    (2-18) f0=K{1-λ-1+0.005(λ-1)2}

    (2-19) f0=K{1-λ-1+0.0002(λ-1)3}

    以上は、肉厚についてt0=1.05の場合に限って考察したが、もっと大きなt0について

    は、第3章ゴムボール2層計算法で考察する。

    当然のことであるが、もし、別の実験で得られるゴム風船の内圧伸び実測曲線と一致する

    ように、別のnとcとKが決定できると、別のC型関係式が決定できる。この決定されたC

    型関係式は、それと同じ材料からなるが内径や肉厚の異なる他の風船の圧力伸び計算に利

    用することができるだろう。

    1)安達健、松田和久,「ゴム風船の力学実験」,物理教育Vol.29 (No.1) pp.26-27

    (1981)

    21

  • 第 3章 ゴムボール2層計算法

    3.1 ゴムボール2層計算法関係式の導出

    ここでは肉厚ゴム風船というよりゴムボールというべきかも知れないのでゴムボールと

    呼ぶことにする。肉厚を2層として考える計算法を2層計算法と呼ぶ。肉厚が風船に比べて

    厚い場合、即ち、ゴムボールのような場合は、外面側の伸びは内面側より小さく、張力も小

    さいはずである。2層計算法はその伸びの違いを考慮するためである。

    ゴムボールの構造を図3.1に示す。2層に分割して考え、内側から、第1層、第2層と

    する。まず、このゴムボールの初期状態を以下の(3-1)~(3-12)式で表わす。

    図3.1

    ゴムボールの全体について

    (3-1) 内半径=R0

    (3-2) 外半径=R0t0T=R0t02 ただし、t0T=外径/内径=t02

    (3-3) 全肉厚倍率=t0T-1=t02-1

    (3-4) 全肉厚=T0T=R0(t0T-1)=R0(t02-1)

    22

  • 第1層について

    (3-5) 第1層内半径=R0

    (3-6) 第1層外半径=R0t0 ただし、t0=第1層外径/第1層内径

    (3-7) 第1層肉厚倍率=t0-1=t0T1/2-1

    (3-8) 第1層肉厚=T01=R0(t0-1)

    第2層について

    (3-9) 第2層内半径=R0t0

    (3-10) 第2層外半径=R0t02 ただし、t0=第2層外径/第2層内径

    (3-11) 第2層肉厚倍率=t0-1=t0T1/2-1

    (3-12) 第2層肉厚=T02=R0t0(t0-1)

    肉厚を2層に分割する場合、どの層でも、その層の内径のt0倍が外径になるようにした。

    従って、外側の層が内側の層より大きな肉厚になる。また、近似計算の都合上、同じ層内で

    は同じ伸び倍率の変形になり、層の境目は摩擦無しにズレが発生すると見なす。

    このゴムボールに内圧P(内圧Pとは、大気圧からの増加圧力である)が作用し、内半径

    R0がα1倍に膨らんだとする。このとき、内面(第1層内面)の伸び倍率もα1倍である。

    そして、外面(第2層外面)の伸び倍率はα2倍になるとする。「ゴム材料の体積変化無し」

    という条件から、α1とα2の関係が求められる。即ち、

    (4/3)π(R0t02)3-(4/3)πR03

    =(4/3)π(R0t02α2)3-(4/3)π(R0α1)3

    であるから、α1とα2の関係を求めると(3-13)~(3-15)式になる。

    (3-13) (α13-1)/(α23-1)=t06

    (3-14) α1={t06(α23-1)+1}1/3

    (3-15) α2={t0-6(α13-1)+1}1/3

    (3-13)式はt0>1だからα2<α1であることを示す式であり、(3-14)式はα2

    からα1を求める式である。また、(3-15)式はα1からα2を求める式である。α1と

    23

  • α2は二次元伸び倍率である。以上のことを考慮して、内圧Pがボールにおよぼす作用力と、

    ボールの肉厚部の伸びによって生じる張力との釣り合いを考える。内圧Pとは、大気圧から

    の増加圧力である。

    まず、内圧Pがボールにおよぼす作用力FPは、ボールの中心を通る平面に現れるボール

    内の断面積と内圧Pの積であり、(3-16)式で表される。

    (3-16) FP=πR02α12P

    次に、ボールの肉厚部の伸びによって生じる張力を考える。

    第1層の張力FT1はボール肉厚部の初期断面積S01とゴム材料の初期単位断面積当りの張

    力f01の積であり、S01=πR02(t02-1)だから、(3-17)式で表される。

    (3-17) FT1=S01f01=πR02(t02-1)f01

    更に、第2層の張力FT2は同様に初期断面積S02とゴム材料の初期単位断面積当りの張力

    f02の積であり、S02=πR02t02(t02-1)だから、(3-18)式で表される。

    (3-18) FT2=S02f02=πR02t02(t02-1)f02

    従って、作用力と張力が釣り合うという条件 FP=FT1+FT2 より

    (3-19) α12P=(t02-1)f01+t02(t02-1)f02

    となる。(3-19)式が肉厚を2層として考える計算法(2層計算法)の関係式である。

    3.2 n=2のC型関係式使用

    ここで、(3-19)式に使用する張力f01とf02について、第2章ゴム風船の1層計算

    法で実験結果をほぼ表現できたC型関係式(1-26)式を使用する。

    まず、n=2のC型関係式で第1層と第2層に対応する式は以下のとおりである。

    24

  • (3-20) f01=K{1-λ1-1+c(λ1-1)2}

    (3-21) f02=K{1-λ2-1+c(λ2-1)2}

    これらの式を(3-19)式に代入する。ただし、伸び倍率λを二次元伸び倍率に変換しな

    ければならない。αとλの関係は、(2-9)式より、α12=λ1、α22=λ2 であるから

    λをαに変換し、内圧Pを求めると、

    (3-22) P=K(t02-1)α1-2[ 1-α1-2+c(α12-1)2

    +t02{1-α2-2+c(α22-1)2} ]

    但し(3-15)式より α2={t0-6(α13-1)+1}1/3

    となる。(3-22)式が、n=2のC型関係式(1-26)式を使用し、肉厚を2層として

    考える内圧伸び関係式である。

    (3-22)式が示すボール内圧Pと内面の伸び倍率α1および外面の伸び倍率α2の関係

    を計算し、α1=1~7までの計算結果を図3.2に示す。C型関係式でK=100、c=0.005、

    n=2とし、肉厚条件をt0T=t02=1.10、1.20、1.50、2.00 として計算した。即ち、

    肉厚が内半径の10%、20%、50%、100%の場合に相当する。内圧Pは相対値であ

    る。内圧Pが同じ極大値を示している細実線と太実線が比較すべきα1とα2の曲線対であ

    る。

    図3.2をみると、肉厚が厚くなるほど外面の伸び倍率α2は内面の伸び倍率α1に比べ

    て小さな伸びになることが分かる。α1=7倍までの計算結果を示してある。これに対応し

    たα2は、t02=1.10(肉厚が内半径の10%)でα2=6.4 倍程度と大きな差はないが、

    t02=2.00(肉厚が内半径の100%)ではα2=3.5倍程度に小さくなってしまう。

    通常の内圧伸び測定実験では内面の伸び倍率α1を測定するのは難しいので、外面の伸び

    倍率α2を測定することになる。つまり、図3.2の太実線を測定することになる。従って、

    肉厚が厚くなる場合は、内面の伸び倍率α1を推定することが大切になろう。

    次に、2層計算法(3-22)式と1層計算法(2-16)式の比較を図3.3に示す。

    この図には、肉厚条件を同じにしてボールを2層計算法で計算した場合と1層計算法で計

    算した場合の比較を示した。勿論、他の条件K、c、nも同じにした。内圧Pは相対値であ

    る。図3.3をみると、ボールの肉厚が内半径の5%(1層計算法でt0=1.05、2層計算

    25

  • 図3.2 2層計算法の結果

    2層計算(3-22)式 K=100、c=0.005、n=2

    細実線:内圧Pと内面の伸び倍率α1の関係

    太実線:内圧Pと外面の伸び倍率α2の関係

    肉厚条件は下から t0T=t02=1.10、 1.20、 1.50、 2.00

    即ち、t0=1.0488、1.0954、1.2247、1.4142

    26

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    0 1 2 3 4 5 6 7

    P:ボ

    ール

    の内

    α1:内面伸び倍率 α2:外面伸び倍率

  • 図3.3 2層計算法と1層計算法の比較

    実線:2層計算法のα2とPの関係 K=100、c=0.005、n=2

    肉厚条件は下から t0T=t02=1.05、 1.10、 1.20、 1.50

    即ち、t0=1.0247、1.0488、1.0954、1.2247

    点線:1層計算法のαとPの関係 K=100、c=0.005、n=2

    肉厚条件は下から t0=1.05、 1.10、 1.20、 1.50

    法でt0=1.0247)では両者はほとんど一致している(図3.3の最下位の実線と点線)。し

    かし、肉厚が増すにつれて1層計算の方が大きな内圧を示し、肉厚が内半径の50%(1層

    計算法でt0=1.50、2層計算法でt0=1.2247)では、内圧の極大値で1層計算法は2層

    計算法の1.4倍程大きく計算している(図3.3の最上位の実線と点線)。これは、肉厚

    にもかかわらず、1層計算法では内外面を同じ伸び倍率で計算しているからであろう。

    27

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    0 1 2 3 4 5 6 7

    P:ボ

    ール

    の内

    α:1層計算伸び倍率, α2:2層計算外面伸び倍率

  • どの辺の肉厚から、2層計算とすべきかの判断が必要である。肉厚が内半径の5%(1層計

    算でt0=1.05、2層計算でt0=1.0247)を越える場合は、2層計算法が適していると考

    える。

    3.3 n=3のC型関係式使用

    次に、n=3のC型関係式(1-26)式を使用する場合の考察をする。

    n=3のC型関係式で第1層、第2層に対応する式は以下のとおりである。

    (3-23) f01=K{1-λ1-1+c(λ1-1)3}

    (3-24) f02=K{1-λ2-1+c(λ2-1)3}

    これらの式を(3-19)式に代入する。λは一次元伸び倍率であるから、二次元伸び倍率

    に変換しなければならない。(2-9)式より、α12=λ1、α22=λ2 であるからλをα

    に変換し、内圧Pを求めると、

    (3-25) P=K(t02-1)α1-2[ 1-α1-2+c(α12-1)3

    +t02{1-α2-2+c(α22-1)3} ]

    但し(3-15)式より α2={t0-6(α13-1)+1}1/3

    となる。(3-25)式が、n=3のC型関係式(1-26)式を使用し、肉厚を2層として

    考える内圧伸び関係式である。

    (3-25)式が示すボールの内圧Pと内面の伸び倍率α1の関係を計算し、α1=7まで

    の計算を行った。その結果を図3.4に示す。ただし、この図には内圧Pと外面の伸び倍率

    α2の関係を示した。何故なら、測定実験ではα1よりα2が測定されるだろうからである。

    α1よりα2は小さいのでα2は7まで達していない。さらに、n=2のC型関係式を使用し

    た(3-22)式の計算結果も同時に示す。この場合も内圧Pと外面の伸び倍率α2の関係を

    示す。

    図3.4を見るに、それぞれの肉厚のものについて、内圧Pの極大値まではほとんど同じ

    曲線を示すが、その後の内圧Pの値はn=3の方の減少割合がやや大きく(谷が深くな

    28

  • 図3.4 2層計算法におけるn=2とn=3のC型関係式使用の比較

    細実線:(3-22)式使用 K=100、c=0.005、n=2

    太実線:(3-25)式使用 K=100、c=0.0002、n=3

    肉厚条件は下から t0T=t02=1.05、 1.10、 1.20、 1.50、 2.00

    即ち、t0=1.0247、1.0488、1.0954、1.2247、1.4142

    り)、さらにその後の内圧Pの増加割合も大きくなって立ち上がりが早いことが分かる。こ

    れはnが大きくなり、cが小さくなっているからであろう。C形関係式でn=2とn=3の

    どちらを選択するかは、実験結果に合わせることになろう。

    29

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    50

    55

    0 1 2 3 4 5 6 7

    P:ボ

    ール

    の内

    α2:外面伸び倍率

  • 第4章 ゴムボール4層計算法

    4.1 ゴムボール4層計算法関係式の導出

    ゴムボールの肉厚を4層として考える。前章で肉厚を2層として考えたとき、肉厚が厚く

    なる場合は外面側の伸びは内面側より随分小さくなった。従って、更に計算の精度をあげる

    ため、4層計算法を検討してみる。

    ゴムボールの構造を図4.1に示す。4層に分割して考え、内側から、第1層、第2層、

    第3層、第4層とする。まず、このゴムボールの初期状態を表4.1のように表す。

    図4.1

    表4.1 ゴムボールの初期状態

    内半径 外半径 肉厚

    第1層 R0 R0t0 R0(t0-1)

    第2層 R0t0 R0t02 R0t0(t0-1)

    第3層 R0t02 R0t03 R0t02(t0-1)

    第4層 R0t03 R0t04 R0t03(t0-1)

    全層 R0 R0t0T, t0T=t04 R0(t0T-1)

    30

  • 肉厚を4層に分割する場合、どの層でも、その層の内径のt0倍が外径になるようにした。

    従って、外側の層が内側の層より大きな肉厚になる。

    このゴムボールに内圧Pが作用し、内半径R0がα1倍に膨らんだとする。このとき、第

    1層の伸び倍率はどこもα1倍であるとする。次に、第2層と第3層ではどこも同じ伸び倍

    率α2になるとする。さらに、第4層の伸び倍率はどこもα3倍になるとする。また、伸び倍

    率の異なる層の境目は摩擦無しにズレが発生すると見なす。伸び倍率から見ると、3層計算

    のようであるが、計算上4層に分けるので、4層計算と呼ぶ。

    α1が決まると、「ゴム材料の体積変化無し」という条件から、α1とα2およびα3の関係

    が求められる。この場合、α2は第2層と第3層の境目の伸び倍率、α3は第4層の外面の

    伸び倍率とする。まず、α2とα1の関係を求めると、以下のようになる。

    (4/3)π(R0t02)3-(4/3)πR03

    =(4/3)π(R0t02α2)3-(4/3)π(R0α1)3

    であるから、α1とα2の関係を求めると(4-1)~(4-3)式になる。これは3.1で求

    めた(3-13)~(3-15)式と同じである。

    (4-1) (α13-1)/(α23-1)=t06

    (4-2) α1={t06(α23-1)+1}1/3

    (4-3) α2={t0-6(α13-1)+1}1/3

    次に、α3とα1の関係を求めると、以下のようになる。

    (4/3)π(R0t04)3-(4/3)πR03

    =(4/3)π(R0t04α3)3-(4/3)π(R0α1)3

    であるから、α1とα3の関係を求めると(4-4)~(4-6)式になる。これも当然のこと

    であるがt06がt012に変わるだけで(4-1)~(4-3)とおなじ形である。

    (4-4) (α13-1)/(α33-1)=t012

    (4-5) α1={t012(α33-1)+1}1/3

    (4-6) α3={t0-12(α13-1)+1}1/3

    31

  • α1とα2とα3は二次元伸び倍率である。

    以上のことを考慮して、内圧Pがゴムボールにおよぼす作用力と、肉厚部の伸びによって

    生じる張力との釣り合いを考える。内圧Pとは、大気圧からの増加圧力である。

    まず、内圧Pによる作用力FPは、ボールの中心を通る平面に現れるボール内の断面積と内

    圧Pの積であり、(4-7)式で表される。

    (4-7) FP=πR02α12P

    次に、ボール肉厚部の伸びによって生じる張力を考える。

    第1層の張力FT1は、ボール肉厚部の初期断面積S01とゴム材料の初期単位断面積当りの

    張力f01の積であり、S01=πR02(t02-1)だから、(4-8)式で表される。

    (4-8) FT1=S01f01=πR02(t02-1)f01

    第2層と第3層を合わせた張力FT2は、同様に初期断面積S02とゴム材料の初期単位断面

    積当りの張力f02の積であり、S02=πR02t02(t04-1)だから、(4-9)式で表さ

    れる。

    (4-9) FT2=S02f02=πR02t02(t04-1)f02

    第4層の張力FT3は同様に初期断面積S03とゴム材料の初期単位断面積当りの張力f03

    の積であり、S03=πR02t06(t02-1)だから、(4-10)式で表される。

    (4-10) FT3=S03f03=πR02t06(t02-1)f03

    従って、作用力と張力が釣り合うという条件 FP=FT1+FT2+FT3 より

    (4-11)

    α12P=(t02-1)f01+t02(t04-1)f02+t06(t02-1)f03

    となる。(4-11)式がゴムボールの肉厚を4層で考える内圧伸び関係式である。

    32

  • 4.2 n=2のC型関係式使用

    ここで、(4-11)式に使用する張力f01とf02とf03について、n=2のC型関係式

    (1-26)式を使用する。

    まず、n=2のC型関係式で各層に対応する式は以下のとおりである。

    (4-12) f01=K{1-λ1-1+c(λ1-1)2}

    (4-13) f02=K{1-λ2-1+c(λ2-1)2}

    (4-14) f03=K{1-λ3-1+c(λ3-1)2}

    この式を(4-11)式に代入する。ただし、伸び倍率λは一次元伸び倍率であるから、二

    次元伸び倍率に変換しなければならない。(2-9)式より、αi2=λi、i=1,2,3で

    あるからλiをαiに変換し、内圧Pを求めると、

    (4-15) P=K(t02-1)α1-2[ 1-α1-2+c(α12-1)2

    +t02(t02+1){1-α2-2+c(α22-1)2}

    +t06{1-α3-2+c(α32-1)2} ]

    但し(4-3)式より α2={t0-6(α13-1)+1}1/3

    (4-6)式より α3={t0-12(α13-1)+1}1/3

    となる。(4-15)式がn=2のC型関係式を使用し肉厚を4層として考える内圧伸び関

    係式である。

    (4-15)式が示すボールの内圧Pの計算を行った。まず、α1を設定し、このα1を(4

    -3)式と(4-6)式に代入してα2とα3を求め、これらを(4-15)式に代入して内圧

    Pを求めた。その結果を図4.2に実線で示す。ただし、図に示したのは、α3とPの関係

    である。α3とPが測定容易だからである。計算範囲はα1=1~7とした。

    さらに、図4.2には、比較のため第3章で述べた2層計算法の結果を点線で示す。この

    2層計算法の計算範囲はα1=1~7.5とした。勿論、肉厚条件t0T、他の条件K、c、nを

    同じにした。ボールの内圧Pは相対値である。

    図4.2をみると、ボールの初期肉厚が内半径の20%(t0T=1.20)までは4層計算と

    2層計算はほとんど一致している(図4.2の下から2番目までの実線と点線)。しかし、

    33

  • 図4.2 4層計算法と2層計算法の比較(n=2のC型関係式使用)

    実線:4層計算法のα3とPの関係 K=100、c=0.005、n=2

    肉厚条件は下から t0T=t04=1.10、 1.20、 1.50、 2.00

    即ち、t0=1.0241、 1.0466、 1.1067、 1.1892

    点線:2層計算法のα2とPの関係 K=100、c=0.005、n=2

    肉厚条件は下から t0T=t02=1.10、 1.20、 1.50、 2.00

    即ち、t0=1.0488、 1.0954、 1.2247、 1.4142

    34

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    0 1 2 3 4 5 6 7

    P:ボ

    ール

    の内

    α2:2層計算外面伸び倍率 α3:4層計算外面伸び倍率

  • 初期肉厚が内半径の50%(t0T=1.50)になると、4層計算の方が極大値でわずかに大

    きな内圧を示すようになり、その後の極小値では2層計算の方が少し大きな内圧を示す。さ

    らに、初期肉厚が内半径の100%(t0T=2.00)になると、そのズレはもう少し大きくな

    る。従って、初期肉厚が内半径の50%(t0T=1.50)までは、4層計算をするまでもない

    ようである。それ以上の肉厚の場合に4層計算をすべきかどうか判断すればよいだろう。

    また、(4-15)式について、4層計算の場合の各層が内圧をどのように分配して支えて

    いるかを図4.3に示す。例として、初期肉厚が内半径の100%(t0T=2.00)の場合を

    示す。伸び倍率は、α1=1~7に統一して示した。

    図4.3をみるに、各層は内圧の極大値を示す辺りでほぼ4分の1ずつを分担して支えて

    いるようである。第2層と第3層は一緒になっているので、これでほぼ2分の1である。図

    では、すべての層について伸び倍率α1に対応させて示しているので、第2~4層の伸びは

    実際にはα1より小さい。特に、第4層の伸びは第1層の伸びより小さいが、同じ程度の内

    圧を分担しているのは、表4.1から分かるように、第4層は第1層のt03=1.18923=1.68

    倍の肉厚になっているからである。

    35

  • 図4.3 4層計算法における各層の内圧分担

    太実線:4層計算(4-15)式使用の全内圧P

    条件はK=100、c=0.005、n=2

    肉厚は t0T=t04=2.00、即ち、t0=1.1892

    細実線:第1層(内層)

    鎖線: 第2層と第3層(中間層)

    点線: 第4層(外層)

    下からの3曲線の和が太実線の全内圧Pになる

    36

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    0 1 2 3 4 5 6 7

    P:ボ

    ール

    の内

    α1:内面伸び倍率

  • 4.3 n=3のC型関係式使用

    次に、n=3のC型関係式(1-26)式を使用する場合の考察をする。

    第1層、第2層に対応したn=3のC型関係式は以下のとおりである。

    (4-16) f01=K{1-λ1-1+c(λ1-1)3}

    (4-17) f02=K{1-λ2-1+c(λ2-1)3}

    (4-18) f03=K{1-λ3-1+c(λ3-1)3}

    この式を(4-11)式に代入する。ただし、伸び倍率λは一次元伸び倍率であるから、二

    次元伸び倍率に変換しなければならない。(2-9)式より、αi2=λii=1,2,3であ

    るからλiをαiに変換し、内圧Pを求めると、

    (4-19) P=K(t02-1)α1-2[ 1-α1-2+c(α12-1)3

    +t02(t02+1){1-α2-2+c(α22-1)3}

    +t06{1-α3-2+c(α32-1)3} ]

    但し(4-3)式より α2={t0-6(α13-1)+1}1/3

    (4-6)式より α3={t0-12(α13-1)+1}1/3

    となる。(4-19)式がn=3のC型関係式を使用し肉厚を4層として考える内圧伸び関

    係式である。

    (4-19)式が示すボールの内圧Pの計算を行った。α1=1~7の範囲でα2とα3を

    求め、これらを(4-19)式に代入して内圧Pを求めた。その結果を図4.4に太実線で

    示す。ただし、図に示したのは、α3とPの関係である。α3とPが測定容易だからである。

    また、この図には、n=2のC型関係式使用(4-15)式から計算したα3とPの結果を比

    較できるように示した。即ち、図4.2の実線の曲線を図4.4には細実線で示した。

    図4.4を見ると、第3章の図3.4に示した2層計算法におけるn=2とn=3の比較

    に良く似た傾向を示しており、同様の考察が可能である。

    従って、4層計算法を使用することになった場合、C型関係式でn=2とn=3のどちら

    を選択するかは、実験結果を良く考察してから決めることになろう。

    37

  • 図4.4 4層計算法におけるn=2とn=3のC型関係式使用の比較

    細実線:(4-15)式使用 K=100、c=0.005、n=2

    太実線:(4-19)式使用 K=100、c=0.0002、n=3

    肉厚条件は下から t0T=t04=1.10、 1.20、 1.50、 2.00

    即ち、t0=1.0241、 1.0466、 1.1067、 1.1892

    38

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    0 1 2 3 4 5 6 7

    P:ボ

    ール

    の内

    α3:外面伸び倍率

  • 第5章 ゴムチューブ1層計算法

    5.1 チューブ1層計算法関係式の導出

    ゴムチューブの肉厚を1層で考える事は、チューブ肉厚部の内面側と外面側との伸びを

    同じであると考える事である。実際には、内面側の伸びは大きく、外面側の伸びはそれより

    小さいのであるが、肉厚が十分薄い場合、即ち、肉厚がチューブの径に比べて十分小さい場

    合には、内外面の伸びの差は無視でき、1層で考える事ができる。この場合は、チューブと

    いうよりも細長い風船と考える方が、違和感が無いかもしれない。細長い風船とチューブは

    同形である。

    ゴムチューブの構造を図5.1に示す。この図は管状の4分の1を切り取って示している。

    チューブの長さ方向(中心軸方向)をx軸方向、チューブの円周方向をy軸方向、肉厚方向

    をz軸方向とする。

    図5.1

    39

  • ゴムチューブの初期状態を以下の(5-1)~(5-5)式で表わす。

    (5-1) 長さ=L0 (これは単位の長さと考えても良い)

    (5-2) 内半径=R0

    (5-3) 外半径=R0t0 ただし、t0=外径/内径

    (5-4) 肉厚倍率=t0-1

    (5-5) 肉厚=T0=R0(t0-1)

    外径と内径の比t0を導入し、内径のt0倍が外径になるようにする。

    このゴムチューブに内圧Pが作用し、長さL0がα倍に伸び、内半径R0がβ倍に膨らむ

    とする。チューブの長さ方向の伸びはチューブ肉厚部の内面も外面も同じくα倍である。ま

    た、内半径R0がβ倍に膨らんだということは円周方向の伸びがβ倍になったということで

    あり、内外面の伸びの差は無視できるとしたから、内面も外面も同じβ倍に引き伸ばされて

    いる。αとβは二次元伸び倍率である。

    作用力と張力

    ここで、内圧Pがチューブにおよぼす作用力と、チューブ肉厚部が伸びによって発生させ

    る張力との釣り合いを考える。内圧Pとは、大気圧からの増加圧力である。チューブでは風

    船と違って、x軸方向とy軸方向に異なった作用力が働くので、それぞれの方向に分けて考

    える必要がある。それぞれの方向の作用力と張力は以下のようになる。

    まず、内圧Pがチューブの長さ方向(x軸方向)におよぼす作用力FPXはチューブの長

    さ方向に垂直なチューブ内断面積SPXと内圧Pの積であり、SPX=πR02β2だから、

    (5-6)式で表される。

    (5-6) x軸方向作用力:FPX=πR02β2P

    内圧Pがチューブの径方向に及ぼす作用力FPYはチューブ肉厚部を円周方向(y軸方向)

    に引っ張る作用力であり、この作用力FPYは長さL0のチューブをチューブの中心軸を含む

    平面で切断したとき現れるチューブ内断面積SPYと内圧Pの積であり、SPY=2R0βL0

    αだから、(5-7)式で表される。

    40

  • (5-7) y軸方向作用力:FPY=2R0βL0αP

    チューブの長さ方向(x軸方向)の張力FTXは、チューブ肉厚部の長さ方向に垂直な初期

    断面積S0Xと、チューブゴム材料の初期単位断面積当りの張力f0Xの積であり、S0X=π

    R02(t02-1)だから、(5-8)式で表される。

    (5-8) x軸方向張力:FTX=πR02(t02-1)f0X

    チューブの円周方向(y軸方向)の張力FTYは、長さL0のチューブを中心軸を含む平面で

    切断したとき現れるチューブ肉厚部の初期断面積S0Yと、チューブゴム材料の初期単位断

    面積当りの張力f0Yの積であり、S0Y=2R0(t0-1)L0だから、(5-9)式で表され

    る。

    (5-9) y軸方向張力:FTY=2R0(t0-1)L0f0Y

    作用力と張力の釣り合い

    上記のxy各軸方向の作用力と張力の釣り合いを考えると以下のようになる。

    x軸方向およびy軸方向の釣り合いは FPX=FTX および FPY=FTY だから、

    (5-6)~(5-9)式より

    (5-10) x軸方向の力の釣り合い:β2P=(t02-1)f0X

    (5-11) y軸方向の力の釣り合い:αβP=(t0-1)f0Y

    となる。(5-10)式、(5-11)式がx軸方向およびy軸方向におけるチューブの内圧伸

    び関係式である。

    41

  • 5.2 n=2のC型関係式使用

    ここで、(5-10)式、(5-11)式に使用する張力f0として、風船の考察で最もよく

    実験結果を表現できたC型関係式を使用する。

    最初は、n=2のC型関係式を使用する。x軸方向およびy軸方向に対応したC型関係式

    は以下のとおりである。(ただし、ここではf0Xとf0Yとは同じ関係式であるとする。実際

    のチューブではその製作法によりx軸方向とy軸方向で張力伸び関係式が異なってくる場

    合も考えられるが、今はそこまで考慮しない。)

    (5-12) f0X=K{1-λX-1+c(λX-1)2}

    (5-13) f0Y=K{1-λY-1+c(λY-1)2}

    これらの式を(5-10)式、(5-11)式に代入する。λXとλYは一次元伸び倍率である。

    そこで、1.1.2の(1-16)式、(1-17)式で示したように、λX=α4/3β2/3、λ

    Y=α2/3β4/3であるから、λX、λYを二次元伸び倍率α、βに変換して整理すると

    (5-14) x軸方向の内圧伸び関係:

    P=K(t02-1)β-2{1-α-4/3β-2/3+c(α4/3β2/3-1)2}

    (5-15) y軸方向の内圧伸び関係:

    P=K(t0-1)α-1β-1{1-α-2/3β-4/3+c(α2/3β4/3-1)2}

    となる。

    次に、上記(5-14)式と(5-15)式を満足する二次元伸び倍率α、βと内圧Pを求

    める。方程式として解くのは難しいが、Excelの数値計算で(5-14)式と(5-15)式

    を満足するα、βの組み合わせを求め