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アミロイドーシスの病理診断
山口大学医学部附属病院病理診断科星井嘉信
アミロイドーシスとは
• アミロイドと呼ばれる線維状の異常蛋白が細胞間に沈着する疾患の総称
• ヒトでは(2018年現在)約36種類の蛋白質がアミロイドとして沈着しうる
• 全身性アミロイドーシス:アミロイド沈着が全身のさまざまな臓器に起る。進行すると諸臓器の機能障害を来す。
• 限局性アミロイドーシス:アミロイドが、ある一つの臓器にのみ沈着する場合
• 可溶性の前駆体蛋白質に立体構造の変化がおこり、不溶化してアミロイドとして沈着するが、詳細な機序はまだわかっていない
アミロイドの形態学的特徴
1.ヘマトキシリン・エオシン染色ではエオシンに好染し均質無構造である
2.コンゴ赤染色陽性、偏光顕微鏡下で緑色の複屈折を示す
3.電顕的に幅7〜15nmの枝分かれのない細線維からなる
アミロイドーシスの診断には、組織学的なアミロイド沈着の証明が必須である
HE CR
CR偏光
コンゴ赤染色の注意点
• 染色が不良な場合,膠原線維や弾力線維が共染することがあり、こうなると正確な診断は困難である。HE染色で硝子様ではない血管壁の弾力線維や膠原線維がコンゴ赤で染まっている場合,共染の可能性があり注意が必要である。
• 症例によってはコンゴ赤の染色性が非常に弱い場合があるので,このような場合はかならず偏光顕微鏡下で緑色複屈折を確認する。
アミロイド同定のための蛍光顕微鏡の利用(要注意)
• 緑色偏光の観察に適する性能のよい偏光顕微鏡を持つ施設は多くはない
• 蛍光顕微鏡は多くの施設が有する
• 近年におけるアミロイドの蛍光顕微鏡下での観察に関する文献的報告は少数である(少数ながら存在する)
• アミロイドの蛍光観察はアミロイドの証明の定義とはなっておらず、一般的には活用されていない
BW
GW
UWBP340-390
BP460-495
・・・励起波長帯
BP530-550
・・・観察波長帯
BP470-495
BA420IF
BA510IF
BA575IF
BA510-550BNA
励起法
主な蛍光試薬の使用例UW ・・・DAPI、アニリンブルーBW・・・FITC、Cy2GW・・・ローダミン、Cy3BNA・・・FITC、EGFP
BW励起法では黄橙・橙・橙赤・赤色
を呈した場合陽性と判定、黄・黄緑・緑色を呈した場合陰性と判定した
観察不能
観察可能
観察可能
観察可能
CR染色 免疫染色(Amyloid A)
蛍光下(BW)簡易偏光下
全身性(CRが比較的よく染まる例)
橙
UW
BW GW
全身性(CRが比較的よく染まる例)
皮膚・生検 CR染色 免疫染色(サイトケラチン34βE12)
蛍光下(BW)簡易偏光下:判定不能
皮膚限局性アミロイド
黄橙
皮膚限局性アミロイド UW
BW GW
アミロイド陰性標本大腸・生検 CR UW
BW GW
陽性例よりも露出時間が明らかに長い
コンゴレッド染色標本の蛍光観察
• アミロイドーシス例コンゴレッド染色標本の蛍光顕微鏡下での観察は、アミロイド同定の補助手段として有用である
• 複数の励起法を用いることにより、単一の励起法のみの観察よりも、アミロイドの観察が容易となる
• アミロイド沈着の証明の定義とはなっていないことは念頭に置いておく必要がある(要注意)
主要な全身性アミロイドーシス
アミロイド蛋白 前駆体蛋白 病型
AL (Aκ, Aλ) ※ 免疫グロブリンL鎖(κ鎖, λ鎖)
原発性あるいは骨髄腫に伴う
AH *※ 免疫グロブリンH鎖原発性あるいは骨髄腫に伴う
AA 血性アミロイドA (SAA1および2) 続発性(反応性)
ATTR ※ トランスサイレチン変異型(家族性)/野生型(老人性全身性)
Aβ2M β2-ミクログロブリン 長期透析に伴う
※特定疾患治療研究事業対象疾患に指定…医療費公費負担
*AHアミロイドーシスはまれ
アミロイドーシスの治療
• 全身性ALアミロイドーシス– 自己末梢血幹細胞移植を併用したメルファラン大量静注療法
– プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ)
• AAアミロイドーシス– 抗サイトカイン療法(とくにヒト化抗IL-6受容体抗体トシリズマブ)
• 変異型ATTRアミロイドーシス(FAP)– 肝移植– TTR四量体安定化剤(タファミジス)
• 野生型ATTRアミロイドーシス(SSA)– TTR四量体安定化剤(タファミジス)
アミロイド蛋白の同定
• 組織学的にアミロイド沈着が証明された場合、治療のために、アミロイド蛋白のタイプを同定する必要がある。
• 可能であれば生化学的にアミロイドを抽出し,分析することが望ましい。近年ではパラフィン切片からのマイクロダイセクション・質量分析によるプロテオーム解析が有用であるが、一般施設でルーチンに行える方法ではない。
• ホルマリン固定パラフィン切片を用いた免疫染色
– 多くの病理検査施設で日常的に行われている手法である
– アミロイド線維蛋白あるいはアミロイド前駆体蛋白に対する抗体を一次抗体として用いる
– 一次抗体の選択および条件設定(臨床的にタイプの推定可能な症例を複数例ずつ陽性および陰性コントロールとし、抗体の選択、濃度設定、抗原賦活法の選択を行う)、結果の解釈に注意を要する
ギ酸処理
• ギ酸処理は一般的な免疫染色の抗原賦活には用いられないが,アミロイドの免疫組織化学的同定の際にはしばしば用いられる有用な方法である。
• 脱パラフィン後,水洗中に1分間100%ギ酸に浸漬。• 特に抗TTR抗体は,血清や膵ラ氏島とは未処理でよく反応するがATTRアミロイドはギ酸処理などの抗原賦活処理を行わないとほとんど染まらない場合があり,十分な条件設定が必要である。
• 抗Aβ抗体もギ酸処理により染色性が著しく増強する。抗β2ミクログロブリン抗体や抗L鎖抗体についても染色性がやや増強する場合がある。抗AA抗体は,抗体によっては染色性が低下することがあり,注意が必要。
TTR 未処理 TTR ギ酸処理SSA
CAAAβ未処理 Aβギ酸処理
全身性アミロイドーシスに対する主要な一次抗体
anti-λ(118-134)山口大学で作製・福井大学で再作製(ウサギ抗血清)(ギ酸処理で増強)
anti-κ(116-133)山口大学で作製・福井大学で再作製(ウサギ抗血清)
anti-κウサギクローナル, clone H16-E (ギ酸処理が必要):市販
anti-AA Dako モノクローナル, clone mc1:市販
anti-TTR(115-124)文献1)に準じて山口大学で作製・福井大学で再作製(ウサギ抗血清)(ギ酸処理で増強)
anti-TTREPITOMICS ウサギモノクローナル, clone EPR3219(ギ酸処理で増強):市販?
anti-TTR Dako ポリクローナル (ギ酸処理が必要):市販
anti-β2microglobulin Dako ポリクローナル:市販
文献1) Gustavsson Å et al. Am J Pathol 1994;144:1301-1311.
免疫染色の結果解釈における注意点
• アミロイドが1種類の抗体で広範囲,均一に陽性となり,他の抗体では陰性あるいは非常に染色性が弱い場合,アミロイドのタイプ決定が可能。
• ALアミロイドは必ずしも全体が均一に陽性となるとは限らない。陽性部位が部分的であっても,抗λ鎖あるいは抗κ鎖抗体のどちらか一方がそのほかの抗体より明らかに濃く染まっていれば,ALアミロイドと考えている。
• アミロイドが複数の抗体で陽性となった場合,アミロイドにトラップされた免疫グロブリンあるいは血清のしみこみを検出している可能性がある。(まれに複数のアミロイド蛋白の同時沈着の場合もある。)
• アミロイドの染色性が弱く,あるいは部分的(特にアミロイドの辺縁部のみそまっている)で,周囲の間質組織や血管内の血清成分がアミロイドよりも明らかに濃く染まっている場合,血清のしみこみを検出している可能性があり、注意が必要である。
ALアミロイドーシスの免疫組織化学的診断
• ALアミロイドは市販の抗L鎖抗体では染色されないあるいは染色性が弱い場合がしばしばある。
• ウサギクローナル抗体H16-Eは市販の抗体の中ではAκアミロイドの検出率が高い
• 我々の施設ではλ鎖の118から134番目およびκ鎖の116から133番目のアミノ酸配列に相当する合成ペプチドに対する抗血清を作製し,免疫組織化学的診断に用いている。(Pathol Int 2001;51:264-270)
• この抗L鎖定常領域抗体はホルマリン固定パラフィン切片上ではnativeな免疫グロブリンとの反応性が市販の抗L鎖抗体よりも弱く,アミロイドが良好に染色される特徴を有しており,高率にALアミロイドの検出が可能である。
N terminal C terminal
Variable region(VλⅥ AR)
Constant region(Sh)
FR3
anti-λ(118-134)
118-13479-90
CDR1FR2
CDR2 CDR3
FR4
CDR: comlementarity determining region
FR: framework
109 213
λ light chain
FR1
1-19
anti-VλVI(1-19):Hoshii Y, et al. Pathol Int 2006;53:324-330.
N terminal C terminal
Variable region(VκⅠ BRE)
Constant region(Ag)
FR3
anti-κ(116-133)
116-133
CDR1FR2
CDR2 CDR3
FR4
109 214
κ light chain
FR1
1-19
anti-VκⅠ(1-19):Hoshii Y, et al. Pathol Int 2006;53:324-330.
CR anti-λ(118-134)
anti-κ(116-133)
anti-λ(118-134)
CR
抗λ鎖抗体(DAKO)
CR
anti-λ(118-134)
anti-κ(116-133)
ATTRアミロイドの免疫組織化学的診断
• 市販の抗TTR抗体はNativeなTTRの検出を主な目的としているため、アミロイドの免疫組織化学的タイプ決定が困難なことがある
– 市販の抗体はギ酸処理など抗原賦活処理が必要(EPR3219以外)
– 市販の抗体では血清が強く染まる→他のタイプのアミロイドへの血清のしみこみを検出する可能性がある
• Gustavsson Å らは、TTRの115-124番目に相当するペプ
チドに対する抗血清がNativeなTTRとは反応せず、アミロイド特異的であったと報告
– Am J Pathol 1994;144:1301-1311
• これに準じて抗血清を作製したところ、ATTRアミロイドの検出に非常に有用な抗体を得ることができた
CR
anti-TTR115-124 未処理
DAKO TTRギ酸処理
anti-TTR115-124 ギ酸処理
本症例はかなり染色性が弱い通常anti-TTR115-124 ギ酸処理は右下挿入図のように陽性となる
アミロイドーシスに関する調査研究班本研究班では、中核事業としてアミロイドーシスの病型診断コンサルテーションを受け付けております。詳しくはこちらをご覧下さい。 http://amyloidosis-research-committee.jp/consultation
結語
アミロイドーシスはタイプ、進行度にもよるが、現在積極的な治療が行われるようになっている。タイプにより治療法が異なるので、早期発見、正確なタイプ分けが重要である。