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ナラティブ再生を用いたダイナミックアセスメント(Dynamic Assessment)についての検討
田中 裕美子教 授初等芸術教育学科平成25年度
【はじめに】
音声言語(oral… language)発達は子どもの発達
を示すバロメーターであり、乳幼児発達健診で
は、ことばを話すかどうかが発達評価の主要な手
がかりになる。その際、子どもが「しゃべってい
る」と言語に問題がないと捉えられがちである。
しかし、日常のコミュニケーションには支障がな
くても、思考や学習のための学習言語に問題が出
る発達障害児が少なくない。また、ことばの遅れ
た 2 歳児を Late…Talker と呼ぶが、そのほとんど
が幼児期のあいだに追いつく反面、13−15%は言
語発達障害に至るということが報告されており、
追いつく子どもと言語発達障害に至る子どもを区
別する手段の構築が急務である。
そのような状況を鑑み、近年、ナラティブを用
いた言語発達の評価や指導法が注目されつつあ
る(Petersen…et…al. ,…2011,2012)。ナラティブとは、
事実であれ空想であれ時間的に連続した出来事
を順序付けてことばで表現する営みのことであ
る。ナラティブ能力は、幼児期から発達する学習
言語のひとつとして、音声言語と書字言語をつな
ぐものとも捉えられている(Paul,… 2007;…Westby,…
1985)。特に、近年、ナラティブと子どもの反応
を見ながら評価するダイナミックアセスメント
(DA:…Dynamic…Assessment)とを融合させた評価
および指導法についての研究知見を重ねられてお
り、我々も昨年度から塚本学院教育研究補助費を
得て、年中・年長児 136 名のナラティブについて
調査結果を報告した。今年度はさらに小 1 ~ 3 年
の学童のデータを収集し、幼児期後半から小学校
低学年のコミュニケーション言語から学習言語の
習得へと移行する段階にある子どもについて調査
し、ダイナミックアセスメントの基盤となるデー
タの集積を図った。
【方法】
1.分析対象児
昨年度の調査幼児のうち標準化検査(ITPA
「ことばの類推」)の評価点が平均値±4に
ある年中・年長の35名(男児20名、女児15
名)と、新たに調査した小学1~3年の健常
児32名(男児16名、女児16名)のデータを
分析に加えた。
2.実施課題
① ナラティブ再生課題:“Frog,…where… are…
you?”(Meyer,…M,… 1969)を基礎に作成し、
PCを用いて個別に実施した。子どもが再生
したナラティブをトランスクリプトにし、
ミクロ構造(言語学的特性:キーワードの
包含数)、マクロ構造(語りとしての特性:
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起承転結の包含数)を分析して数値化した。
② 表出語彙誘発課題:名詞(30語)は絵を提示
して名前を、動詞(25語)はPC画面の動画
を見せて、「何をしているか」を答えさせる。
両課題の正解率を算出した。
③ 動詞活用検査課題:動作の絵を見せて、各動
詞の「終止形」を誘発し、正解率を算出した。
【結果】
1.ナラティブの発達的変化
① ミクロ構造:ミクロ構造は物語の核となる
単語(名詞16語、動詞14語)をいくつ含む
かで捉えたが、各子どもについて3名の評
価者が一致した包含数の割合を年齢に沿っ
て算出したところ、名詞、動詞ともに経年
齢的に増加した。また、名詞の増加が動詞
を先行した。
② マクロ構造:起承転結の変化を年齢に沿っ
て見ると、承(問題発生:カエルが逃げた)、
転(問題解決:探す・他の問題発生など)、
結(終結:見つかった・置いて帰るなど)に
ついては、年長の80%以上が言語化できた。
一方、起(場面・状況の設定)の言語化は、
小2ごろから確実になることが分かった。
2.表出語彙の発達
名詞は、年中から小3では70.3%、75.4%、
84.3%、94.4%、95.4%と順次その正解率が
あがる。動詞命名の年中から小3の正解率
は、64.8%、70.4%、79.6%、84.9%、87.6%、
動詞活用の正解率は、年中26.4%、42.4%、
56.0%、80.9%、88.0%と経年齢的に増加し、
命名が活用を先行することが分かった。
3.表出誘発項目の関係
ナラティブのミクロ構造(言語学的特性)
は、動詞活用(r=.59)、動詞命名(r=.56)、名
詞(r=.47)と、名詞より動詞の方との関係
が強い結果となった。また、マクロ構造(起
承転結:語りとしての特性)は、動詞活用
(r=.52)、名詞(r=.47)、動詞命名(r=.40)と
言語の意味より文法的側面との関係が強い
結果となった。
【考察】
年中から小 3、つまりコミュニケーション言語
から学習言語の移行期におけるナラティブの発達
を調べたところ、ミクロ構造やマクロ構造が経年
齢的に順調に習得されるという発達軌跡が明らか
になった。また、ナラティブのミクロ ・ マクロ構
造は言語表出能力、とりわけ動詞語彙の習得や文
法(活用)の獲得と関係があることが分かった。今
後、これらの課題を言語発達障害児に実施し、評
価法としての有用性を検証する。